ダスキン控訴審判決(問題の整理)
祝日にもかかわらず、「ダスキン株主代表訴訟控訴審判決(その2)」には、貴重なコメントありがとうございます。neon98さんに代表されるとおり、企業の平時におけるリスク管理をもって、有事の免罪符にすることは無理があるのではないか・・・とのご指摘が意見としては多いようでして、ご意見拝聴し、今後再考してみたいと思います。やはり、企業不祥事の存在を全役員が知ってしまった時点における「危機管理」の問題として、その有事におけるリスク管理というものは、別途、その時点における状況から検討すべき問題と捉えるべきなのかもしれませんね。(ありがとうございました。)
ただ、そう考えますと、やはり議論のための整理もまた必要になってくるわけでありそうですね。コンプライアンス・プロフェッショナルさんがおっしゃるとおり、「平時」の企業不祥事防止のためのリスク管理という面からとらえますと、ダスキンはある程度、まじめに(当時の基準から考えて)不祥事リスク回避に取り組んでおられたようでして、問題はやはり全社的に「過去に違法添加物混入の肉まんを、事実を知りつつ販売した」「事実を隠すために口止め料を払ってしまった」ということを認識したときの対応の是非、ということになります。なお、ここで留意すべきことは、全役員が認識した時点では、すでに(消費者が全部食べてしまっていて)商品回収の必要はなく、また健康被害に関する可能性ももはや存在しない、ということであります。
1 「公表」以外に対応策は存在しないだろうか?
とーりすがりさんは、当時の食品衛生法に違反する行為があったのだから、「法令違反」が存在するので、そこから公表すべし(違法行為を公表しないという経営判断はあるのだろうか)とされております。また、経営コンサルタントさんも、公益通報者保護法を例にとって、法令違反には公表といった措置を内在するものとして捉えていらっしゃるようです。ただ、とーりすがりさんのご指摘のところは、おそらく商品回収が必要な場合に、行政庁への届出が必要、といったことを指しておられるのではないでしょうか。最近の自治体の条例などでは、食品安全基本法に基づき、食品の回収を行うときには「公表」しなければならない、と規定しているものもありますが、本件でそういった報告義務が「行為規範」として規定されていたのかどうかは少し疑問が残ります。なお、行為規範としての「報告義務」「公表義務」が存在する場合ですと、これを無視して非公表となると、現在の判例通説の立場からすると取締役の善管注意義務違反は容易に認められるところだと思われます。また、違法添加物混入を知りながら、肉まんを売り切ってしまった取締役らについては「法令違反」を問題とすることができますが、本件では「その他の取締役の責任」が論点でしょうから、ダイレクトに食品衛生法の違反行為と全役員の責任とが結びつくかどうかはひとつの問題であろうかと思われます。
それでは有事における取締役のリスク回避義務違反があった、という構成で考えてみますと、ここでは「公表すべし」以外に、その取締役の義務履行方法はありえませんかね?たとえば、法律では明確に規定されているわけではないけれども、官公庁に対する事後の報告義務ということで足りる(つまり一般消費者に対する公表義務はない)と構成することはできないでしょうか?ここでいうところの「リスク」といいますのは、会社の信用毀損のリスクということでしょうから、ともかく過去の企業不祥事を行政庁に報告をしておけば、それなりにマスコミに叩かれる度合いも少なくなるのではないかな・・・と考えられるような気がいたします。これが上場企業でしたら、適時開示、という問題も出てくるかもしれませんが、ダスキンのように非上場企業の場合でしたら、「当否は別として」公表以外の方法によっても、その法的責任を免責される対応方法は考えられるのではないでしょうか。
2 バレなければ公表しなくてもいい?
平時におけるリスク管理によっては有事における不祥事(全社的な隠蔽行為)は免責されない、といった前提に立つならば、やはりこの問題には必ずぶつかると思います。企業の有事におけるリスク回避義務として、公表もしくは報告といった外部への情報開示が法的義務として要求されるのかどうか。この控訴審判決は、結局のところ「口止め料を支払っていた相手との契約を解除した」わけですから、おそらく違法添加物入りの肉まん販売の事実は高い確率で発覚する、ということを前提条件に役員らのリスク管理方法の不適切性を論じているようです。つまり過去の不祥事が発覚する可能性について、よく検討もせずに問題を先送りしているところが、経営判断の法理を持ち出すまでもなく、その善管注意義務違反に問われたところであった、と認識しております。そうであるならば、かなり高い確率で不祥事が発覚しない、と予期されるのであれば、やはり公表義務は存在しないと考えられるような気がいたしますが、いかがでしょうか。(裁判を前提に考えるならば、発覚しないと思っていたところが、発覚してしまった場合に、発覚しないと判断したことに合理性があったといえるケースが想定できるか、ということになります)「バレなければ公表する必要はない」といった結論を採用することには躊躇を覚えますが、「倫理上の非難の対象」とはなりえても、法的責任まで認めることについては異論もあるのではないでしょうかね。ちなみに、ダスキンの役員のなかで唯一、被告になっておられない社外取締役の方が、当時社長に対して緊急提言(一日も早く公表せよ、との内容)を書面で送っておられますが、その社外取締役が公表を促した理由も、その内情を知っている外部第三者に対する「口止め料の提供禁止」という事情からみて、もはやダスキンは過去の不祥事を隠蔽しきれない、彼らが密告する前に、一日でも早く公表せよ、という趣旨からであります。
もちろん私は、コンプライアンスは「法令違反」だけではない、と考えておりますので、過去の不祥事は、たとえ商品回収の必要性や、消費者の安全維持の必要性が存在しなくなったとしても、公表はしたほうがいいとは思います。ただ、そこから役員の法的責任までストレートに導くことには、公表することが行為規範として明示されていないかぎりは若干躊躇を覚えます。もし、私が役員セミナーなどでこの問題を解説するとしましたら、やはりこの問題は危機におけるリスク管理の問題、つまり何をリスクをみるか、という問題とそのリスクの大きさはどの程度か、という問題に分けて論じると思います。前者はリスクの質が基準となります。不祥事の内容と、それに対する社会的非難の度合いを検討することになります。そして、後者についてはまさにリスクの量、つまり「発覚しやすいかどうか」という問題であります。ただし、今の世の中の動きからすれば、企業ぐるみの不祥事隠蔽への社会的非難の度合いはますます強まり、また通報制度の法制化など、そういった不祥事が発覚しやすい方向へと向かっているものと思いますから、結論的には取締役に「公表義務」を認めるのと、それほど大きな差はなくなるのかもしれません。
9月 24, 2006 ダスキン株主代表訴訟控訴事件 | Permalink | コメント (7) | トラックバック (0)

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