(追記 辰のお年ごさんが、たいへん有益なコメントを残しておられますので、そちらも併せてご覧ください)
FX取引で大もうけをして、何億円もの脱税をしていた方々のニュースをみながら、「このまま円安が進行すれば俺もひょっとして・・・」といったひそかな期待でFX取引を始められた方々は、ちょっとブログをお読みになる余裕もないかもしれませんが。。。
さて本日のタイトルを一瞥して「ニヤッ」とされた方は、お盆休みもあまり遠方へも行かれず、勉強熱心に旬刊商事法務のお盆特別号(1807号)を熟読された方でありましょう。葉玉先生もご自身のブログで少し触れておられましたが、「会社法への実務対応に伴う問題点の検討」と題する座談会記事のなかで、買収防衛策に関する白熱した議論が交わされておりまして、(ブルドック地裁決定、高裁決定に関する有識者の方々のご意見もたいへん参考になるのでありますが)事前警告型買収防衛策を導入する際に、定款変更決議を伴うことなく、ダイレクトに株主総会の承認決議を得ること(つまり「勧告的決議」といわれるもの)にどのような意味があるのか・・・といったあたり、出席者の方々のやりとりが実に興味深いものがございます。(ところで、こういった座談会というのは、あらかじめの打ち合わせはされないのでしょうか?議論の進行方向が、司会の方の予想や期待と反してしまって、途中から修正が効かなくなってしまうような状況が読み取れますので、とてもリアルです・・・)
勧告的決議になんらかの法的意味を認めようとされる(もしくは、そういった流れになることを期待される)司会者的立場のM弁護士とパネリストのN証券執行役のN氏(いずれも、法務・財務アドバイザーとして買収防衛策導入になんらかの法的意味があることに期待されているご様子)と、かたや会社法立案に関わっておられた法務省A課長と京都大学のM教授が対峙する構図。なお、東大のI教授はこの対峙を静観されているご様子です。
M弁護士「この『勧告的決議』の方法について伺いたいと思います」
A課長「その性格はいわばアンケート調査です。単なる株主の意識調査ですね」(切って捨てたような物言い・・・・筆者 注)
M教授「そのように思います。私はこれを気休めのようなもの と説明しています」
M「・・・・もしそういうことだとすると、私も含め買収防衛策の仕事に関与している弁護士や証券会社などのアドバイザーは立場がなくなってしまうかもしれませんね。・・・」
M教授「ぎりぎりの可決なら、むしろマイナスではないですか?」
A課長「『勧告的決議』をもって、あたかも何かが決まったかのような報道がなされていますが、意味不明ですね」(昨年の大阪弁護士会でのご講演の際も、またいろいろな論稿等でも、いつも慎重なご発言が印象的なA課長。しかし今回の討論会では、なにげにこの「勧告的決議」に関する討論では他の方の意見を一切寄せ付けないほどのご発言。)
(その後、さまざまな議論がなされるが、結局、意見の集約はみられず)
M弁護士「勧告的決議に対して、こんなに批判が強いとは少し意外でした。結局、会社法に根拠のない勧告的決議などというものはけしからんということなのでしょうか?」(と、最後は半ば開きなおりに近いようなM弁護士のご発言まで飛び出す)
ただ、A課長もM教授も、勧告的決議に法的効果は一切ない、と断言されながらも、「ほとんどの株主が賛成するような場合には、一定の事実上の効果はあるかもしれません」とおっしゃっておられましたが、この「事実上の効果」とは一体何ぞや?とのツッコミも入らず、じつは私もよくわかりませんでした。(もし、「事実上の効果」といったものが、裁判において斟酌されるべき事実、ということを捉えているのであれば、これも「法的効果」に含まれるんじゃないでしょうか。それとも、たとえばすくなくとも機関投資家からの要求には応えられているという意味を指すのでしょうかね?)この買収防衛策に関する論点だけでも、たいへん多くの問題点が議論され、とても紹介することは困難なのでありますが、この座談会記事を拝読しての「野次馬的感想」は以下のとおりであります。
1こんなに、勧告的決議の法的な意味合いが問題となるのであれば、どなたか一度「勧告的決議」に関する司法判断を仰いでみたらどうでしょうかね?今年の6月総会におきましても、たくさんの上場企業で普通決議をもって、買収防衛策の承認がなされておりますが、そういった承認決議の無効確認訴訟といったものは、どなたか提訴してみたらいかがでしょうか。決議内容が法令に反するものといった主張することになりそうですから、そもそも裁判所はどういった立場で「勧告的決議」についての評価を下すのか、実に関心のあるところであります。裁判所が「導入」そのものへの差し止めを問題としないとしても、導入決議そのものの無効確認ということであれば、(決議取消の訴えとは異なり)原告に訴えの利益さえ認められれば門前払いをされることはないと思うのですが。
2ブルドック最高裁決定などを読みましても、果たして防衛策発動の場面における株主総会決議は普通決議で足りるのか、特別決議を要するのか、といった問題の立て方が出てくると思うのでありますが、発動の場面で「株主総会で株主の意思を問う」ことが重要であるとしても、そもそも別の問題の立て方もあるのではないでしょうか。つまり「どれだけの株主が、防衛策発動に賛同したか」ということよりも、たとえば「スティールという反対意見を述べる人たちが参加して、意見を述べる機会が与えられて、十分な審議がなされて、それでもなおスティールの意見に賛同して意見を翻意した人がすくなかった」という意味があるからこそ、株主総会にかけることが(プロセスとして)重要だ、といった考え方もありうるのではないでしょうか。こういった問題の立て方からしますと、とくに特別決議の要件まで満たす必要はなく、せいぜいスティールに告知聴聞の機会が十分に確保されたのであるから、過半数の賛成があれば防衛策発動は相当性が認められる、といった理屈も成り立つようにも思われます。(なおブルドックの最高裁決定におきましては、株主総会における「ほとんどの株主による承認」があったことが問題になっておりますが、これはブルドック側がスティール側へ現金供与することで、企業価値が毀損するおそれがあるとみるためであって、この事案特有の問題点に関する判断ではないかと思いますが、どうでしょうか。)そもそも会社法における「株主総会」とは、そこで会社運営にかかる方針を議論して意見形成をすべき場所であり、単に会社もしくは株主からの提案を「承認」するだけの場ではないことが原則なはずであります。これは閉鎖会社だけでなく、権限が制約されている公開会社の株主総会においても理屈は同じではないかと思います。もちろん、意見表明の機会は事前にも付与されており、また委任状獲得競争などによって多数派工作は行われるわけでありますから、現実には総会決議に至るまでの時間軸も想定してのプロセスに関する話ではありますが。そういった株主総会の基本的な機能からすれば、いくつかの問題の立て方があってもいいのではないかと思います。ダヴィンチによるTOCのMBO阻止の事例や、いちごファンドによる東京鋼鐵の合併阻止事案のように、「株主間情報提供行為」によって会社側提案が承認されない事案も出ておりますので、こういった敵対的買収防衛策のあり方につきましても、事前に会社側が「株主による情報アクセス保証や、株主間による情報提供の自由を保証」するシステムを確保することが、最終的には「株主の意思を尊重する」ことに繋がる、といえるのかもしれません。