消費者法も立派なビジネス法務だと思う-消費者相談急増の事実から考える
1月8日午前0時、昨年4月以来の緊急事態宣言が首都圏一都三県に発効いたしました。おそらく大阪ももうすぐ宣言の対象になることでしょう。当事務所としても、今後の運営をまた真剣に考えなければなりませんが、とにかく元気に過ごしてまいりたいと思います。
さて、本日(1月7日)の日経朝刊社会面では「ダイエット食品 消費者相談急増-外出自粛が背景か 健康被害の訴え多く」と題して、コロナ禍における消費生活相談センターや自治体へのダイエット食品やサプリに関する相談が急増していることが報じられていました。この記事が伝えようとしているのは「在宅勤務等で『おうち時間』が増えた人が、体重を気にしたり、健康に配慮する傾向が強くなったことから、商品の効用や表示方法の適正性に関する相談が増えた」という事実です。
上記の日経記事の主旨とはやや異なりますが、私は新型コロナウイルス感染症拡大が続く今年の法務面での課題として、企業は景表法や個人情報保護法、特定商取引法に抵触するような、消費者法関連のコンプライアンス違反には、これまで以上に注意すべきである、と考えております。近時は消費者裁判手続き特例法も充実してきたので消費者契約法や改正民法(債権法改正)の運用動向にも企業は留意する必要があります。
消費者法といえば環境法とともに市民運動的な規制法のイメージで捉えられていたかもしれません。しかし、法令遵守という意味を超えて「企業の社会的信用の維持向上こそコンプライアンス経営だ」と言われる時代となりますと、消費者法も、れっきとしたビジネス法務だと確信しております。
とくに近時の消費者は、企業行動において不審に思ったこと、違和感を抱いたことがあれば(図書館に足を運ばなくても)「検索エンジン」によって時間を要することなく調べたい事項に到達することができ、また、自身の考え方への社会の共感度を知りたければSNSやWEBシステムによる意見交換の場で確認することもできます。つまり、「時間」と「空間」を簡単に買える時代の消費者は、その連帯によって企業の社会的評価を上げることもできれば下げることもできる。
もちろん理屈からいえば「ネット情報の危うさ(フェイクニュース)」や「サイレントマジョリティー(騒がれているからといって多数意見とは限らない)の存在」により、企業としては消費者の声をあまり気にする必要はないのかもしれません。ただいったん騒ぎが起きますと、将来にわたってネット検索の対象となるわけでして、企業の社会的評価の面からみて無視するわけにもいかないはずです。したがって、企業としてはできるだけ消費者に騒がれないための対策もとる必要があります。
たとえば、監督官庁から、明確に「これは景品表示法違反です」とは言われないけれども「違反のおそれのある行為です」と指摘された場合にはどうするか。海外の人種差別問題が盛り上がる中で、米国のNPO団体から「御社はこれからも『美白効果』なる言葉を広告に使いますか」と問われて、その回答に注目が集まる中、どう対応するか。某健康食品企業のトップから(差別的表現を用いて)揶揄された日本のトップ飲料メーカーが、これにどのような反論をするか等、様々な場面で消費者から注目されるわけです。いずれにおいても、問題となった事実の真否よりも企業がどう反応するのか、という企業姿勢に消費者の関心が集まります。
ところで「できるだけ消費者から騒がれないようにしたほうがよい」というのは、いかにも消極的で「ことなかれ主義」の発想のように思われるかもしれません。しかし、炎上を放置することはとてもコワイのです。消費者を相手とするコンプライアンス問題の何がコワイのかと申しますと、私が過去に取り扱った案件でも何度か失敗しましたが「騒がれている事件の背後に潜む本当の法令違反行為があぶりだされるリスク」であります。
どこの企業でも、社内常識からすれば軽微な不正とされている問題だったり、すでに地方新聞の夕刊ベタ記事で叩かれて、社内的には「一件落着」と思われていた不祥事が、消費者による騒ぎをきっかけとして表面化したり、再度取り上げられたりします(たぶん、従業員の方々や下請先、取引先の社員の方々が、消費者による騒ぎに便乗して情報提供されることが原因だと思います)。「時間」と「空間」を安く入手できる消費者は、これらの情報を上手に活用して火に油を注ぐ。むしろ、そちらの法令違反行為のほうが監督官庁も無視できないようになり、正真正銘のコンプライアンス問題に発展する、という次第です。
公明正大に「うちの会社に不正はありません!」と自信をもって宣言できる企業であれば、堂々と消費者の意見に反論すればよいでしょう。しかし、その自信がなければ、私は消費者を敵に回しかねない企業行動については敏感に対処することが得策だと考えます。