2021年9月 1日 (水)

阪神高速子会社「おいちょかぶ」賭博と改正公益通報者保護法

みずほ銀行のシステム障害事案については、なかなか直接の原因がわからない状況が続いているようですが、8月31日に新たに判明した事実として「みずほ銀行ではシステム開発担当者を(本格稼働後に)6割削減していた」そうで、(直接ではないとしても)これが大きな要因かもしれませんね。「ガバナンスは人的資源の最適配分のためにある」と考えれば、本件システム障害事案はまさにITガバナンスの問題ではないかと思います(以下本題です)。

さて、8月31日の各メディアで報じられているように、阪神高速グループ会社(阪神高速パトロール社)の社員が休憩時間に「おいちょかぶ」賭博に興じていたことで64名が処分されたそうです(たとえば読売新聞ニュースはこちらです)。すでに同社は大阪府警にも相談をしている、とのこと(警察への連絡は当然のことですが、結構府警は厳しい対応なんですよね)。

過去に当ブログでも申し上げましたが(たとえばこちらのJR東日本社の事例など)、「賭金はたったの250円、勝っても2500円程度の賭け事になんでそんなに目くじら立てるの?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、私が過去に委員を務めた「反社会的勢力との癒着が問題となった某著名企業の第三者委員会の調査」では、反社会的勢力との接点が社員による野球賭博、それもひとり300円程度の賭金サークルでした。阪神高速グループ会社では、2年前(2019年6月)にも別の子会社で賭けゴルフが発覚して処分される事件がありましたので、「たかが250円、されど250円」ということで厳しい対応がなされたものと思われます。

ところで、今回のおいちょかぶ賭博が発覚したのは今年3月の内部通報が端緒だったそうです。社内における賭博行為(休憩時間における違法行為)は公益通報者保護法上の「公益通報事実」に該当しますので、当該通報者は同法によって厚く保護されるはずです。もちろん通報者探しなど行えば大問題になります。とりわけ来年6月から施行される改正公益通報者保護法では、通報者探しを行った企業(常用雇用者300名以上)は行政処分の対象になりますし、通報窓口担当者や調査担当者が通報者を特定できる情報を漏えいすれば刑事罰になりますので慎重な対応が求められます(公益通報対応業務についての措置義務違反)。

たとえば内部公益通報がなされた場合に、これを放置していたとすれば、今度は国交省や消費者庁、あるいはマスコミに「外部公益通報」がなされる可能性があります。改正法では行政機関への通報は真実相当性に関する立証方法を持たなくても保護の対象となりますし、通報を受け付けた行政機関には新たに「外部通報への対応体制整備義務」が定められましたので、すぐに通報に応答することになります。また、内部公益通報が無視された場合にはマスコミへの通報も保護要件が緩和されますので、内部告発(外部公益通報)の選択肢がかなり広がりました。

もちろん事業者としては内部に通報してもらいたいので、通報者が自分も賭博に参加していたとしても、通報したことで猶予処分(リニエンシー)とすることも考えられます。現に、過去の裁判例でも(大阪市の清掃担当者が河川から拾得した財物を不正に領得していた事例)通報者に何らの配慮もせずに、他の不正行為者と同等の懲戒処分とするのは違法だとして処分が取り消されたことがありました。

ということで、本件のような現場社員による通報は、阪神高速グループ会社のように内部に届くのであればかなりラッキーでして、いきなり監督官庁に届く可能性もあります。「たかが250円くらいで」とは思わずに、今後皆様の会社(グループ会社)でも同様の事態が申告された場合には、速やかに社内調査を進めて、自浄作用を発揮させなければ「身内に犯罪者を抱えてしまう」という不幸な事態になってしまいますのでご注意ください。

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2021年8月23日 (月)

みずほシステム障害事件-金融庁は監督の視点を変えるべきではないか

5月27日の拙ブログ「もはや『レピュテーションリスク』では語れなくなったコンプライアンス経営の姿勢」で予想しておりましたとおり、企業内におけるワクチン接種の強制問題が最近話題となっており、政府としても「一定の方向性を示す」ということで動き出しました(読売新聞ニュースはこちらです)。社員に一律にワクチン接種を事実上強制することはパワハラ(人権侵害)に該当しますが、かといって何らの対応もしなければ職場安全配慮義務違反で「不作為の違法行為」になってしまうというジレンマにどう企業は向き合うべきか?「ビジネスと人権」という視点から、それぞれの企業の姿勢を明確に知りたいところです(以下、本題です)。

みずほ銀行とみずほ信託銀行で8月20日に発生したシステム障害については、金融庁がみずほFGを含めて再度の報告命令を発出したことが報じられています(8月22日日経朝刊1面)。みずほ銀行では今年すでに5度目の障害が発生した、ということです。「今回は4度目の障害とはここが異なっていた。したがって前回の障害に対する再発防止策はある程度実効性があった」と評価できる点があればよいのですが、そういった報道はされていません。

私はそもそも「こうすれば障害は発生しない」といった再発防止策の目標自体が誤っていると思います。「(残念ではあるが)また障害は発生するが、こうすれば顧客に過大な迷惑はかけない」ということを目標とすべきであり、監督責任のある金融庁も目線を変えるべきだと考えます。1年に5度もシステム障害を発生させている企業が「6度目はない」という前提で対策を考えること自体無理です。困難な目標を掲げて「二度と発生させない」といった実現困難な対策を講じれば講じるほど、現場は可能な限り障害を隠し、また(4度目の障害に関する第三者委員会の評価にあるように)「目の前で起きたことを過小評価する」ことは間違いないでしょう。

過去に何度も同様の不祥事を発生させている、という点では近時の三菱電機の検査不正事件も同様ですが、ここまで同種事案が繰り返されるということは(たとえ直接の原因ではないとしても)組織風土に関する要因は存在するのではないでしょうか。ご承知のとおり、組織風土はそんな簡単に変えることはできないので、せめて「システム障害を防止すること」「障害が疑われた場合にはすぐに声を上げること」に関する社員の(職務上の)優先順位を上げるしかないのではないかと。

4度目のシステム障害の教訓から、みずほ銀行ではシステム障害発生時に緊急対応のランクを上げたそうですが、目の前で起きた事象を「たいしたことではない、監督官庁や顧客に報告しないといけないほど重大ではない、と考えたい」バイアスが働くのは当然です。しかし、そのようなバイアスが働くことを5度目の障害の教訓としたところで、組織風土が変わらない限り、今度は現場の情報を掌握した経営幹部からトップには「たいしたことはありません」といった印象操作を誘発する情報が上がってくるだけです。「重大だと思って公表したところ、実は軽微な障害で済んだことで「オオカミ少年」になってしまった。それでも顧客の資産の安全を守ることを第一に考えたうえでの結果だからやむをえない」といった価値判断を経営幹部が共有しないかぎり、現場の情報をトップが共有することはできないと思います。

たとえかっこ悪くても、世間から批判を受けるとしても、まずは「みずほ銀行は、またシステム障害を起こす可能性があります。しかし、起きた時に、今度は当社はこう動きます」といった姿勢を社内外に示すこと、これのみが組織風土を変えるための手段になりえると確信します。現時点で「もうみずほ銀行は・・・のような再発防止策で二度とシステム障害を起こさないことを誓います」といった対策は、組織風土を悪化させる要因になるように思えます。かように「コンプライアンス経営はむずかしい」のであります。

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2021年8月 3日 (火)

人権尊重、企業は本気か-DHCの不適切文書に批判

タイトルのとおりの日経朝刊(8月2日)の見出し記事はたいへん興味深いものでした。エシックスコードに則って小売り大手のイオンがDHCにとった行動、売れ筋商品を供給する事業者であるがゆえに沈黙を通した他の小売り事業者、さらに(記事では紹介されていませんが)不適切文書で標的にされた大手飲料メーカーの対応など、このDHC文書事件は「ビジネスと人権」を考えるうえでとても参考になります。

当事者企業それぞれの立場でコメントしたいことはたくさんありますが、上記記事を読んで最も印象に残ったことは、不適切文書が世間を賑わせるようになった時点以降のDHCの栄養補給食品、女性用基礎化粧品の売上に及ぼす影響です。記事に添付された分析図によれば、いずれの商品も業績になんら影響がなかったばかりか、むしろ他社よりも売り上げが若干伸びている時期もあります。よく「ビジネスと人権」を語る書籍や雑誌では「最近は企業も人権尊重への配慮が求められるようになった。たとえ法令違反がなくても、人権への配慮を欠く行動は(不買運動などによって)企業の社会的信用を失わせることになる。」と書かれています。

しかしDHCの事例では、たしかに不買運動は一部で起きたものの、実際には売れ筋商品の販売不振につながる結果には至っておりません。ではなぜ売上に影響が出なかったのか・・・。このあたりが実は「コンプライアンス経営」とりわけ「ビジネスと人権」を(経営判断として)考えるうえでのポイントになろうかと思っております。

もちろん悪意のある企業不祥事は避けなければなりませんし、ましてや「差別的表現の容認」など絶対に許されるものではありません。ただ、誠実な企業の誠実な役職員でも不祥事は起こします。不祥事が発覚した時でも、日常業務が不祥事の影響を受けずに済むためには(つまりレピュテーションリスクの顕在化によって事業が影響を受けないためには)日ごろから何をしておくべきか。ここを考えることが「不祥事に強い企業」としての「組織復元力」になります。

このあたりは専門家もメディアもほとんど注意を向けていないところです。ブログのような媒体で簡潔に書けるものではありませんので、また、講演等で詳しく解説をしたいと思います。

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2021年7月 5日 (月)

三菱電機社長会見における3つの疑問(7月3日の訂正公表も踏まえて)

三菱電機の性能偽装事件については、6月30日に公表された直後に「これは罪深い」というエントリーを書きましたが、やはり社長さんの退任という問題に発展してしまいました。私は7月2日午後4時からの社長会見を(ライブ中継で)約1時間半ほど視聴し、直後に三菱電機のHPに公開された「説明用資料」にも目を通しましたが、そのうえで三菱電機の有事対応に3点ほど疑問を抱きました。

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まずひとつめは、本件性能偽装は「不適切な行為」なのか「違法な行為」なのか。三菱電機は「本件は顧客との契約違反にとどまるものであり、法令には抵触していない」と強調しております(たとえば7月4日読売新聞1面トップ記事参照)。たしかに国の安全基準に違反するような品質不足に関する偽装とはいえず、顧客との契約に違反した行為にすぎない、ともいえそうです。

しかし、同じ三菱グループの三菱電線の性能偽装事件について、東京簡易裁判所は不正競争防止法違反を認めて法人に対しても、また社長個人に対しても刑事責任を認めています(2019年2月8日判決)。三菱電線事件では「顧客から要求された仕様を満たしていないにもかかわらず、これを満たしているかのような表示をしていたこと」が違法行為と認定されていますが、顧客から要求された出荷前試験をやっていないにもかかわらず、これをやったと表示していたこと」も(品質を優良であると見せかけて)公正な競争を阻害するという点では同様と思われます。私は「不適切な行為」ではなく「違法行為」だと考えます。

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つぎに(翌日、社長会見の発言が訂正されましたが)「なぜ6月29日の定時株主総会で本件性能偽装の事実が説明されなかったのか」という点です。会見では「総会の時点では事件の全体像が明確になっておらず、その段階で不明瞭な事実を株主に伝えると株主を混乱させることになるため」との回答でした。不祥事調査が継続している段階における事実の公表は、ステークホルダーに誤った事実を伝えてしまい、後日の事実訂正によって会社の信用が毀損されるおそれが生じます。したがって、不祥事発覚直後の会社側の姿勢としては、たしかに公表を控えることに合理性があるケースも多いと思います。

ただ、性能偽装事件の特徴として、さきに顧客に不祥事を報告している場合があります(本件でも同様)。ということは、顧客や顧客の役職員の中には三菱電機の株主もいるわけですから、早期に他の株主にも公表しなければインサイダー取引を誘発することになりますし、そもそもフェアーディスクロージャールールに違反することになります。現に7月2日の同社株価は大きく下がったわけで、おそらくインサイダー取引が実際に行われていたかどうかは、証券取引等監視委員会の開示検査課がチェックしているはずです。

社長会見では「取締役会で非公表を決めた」と説明されていましたが、そうなると著名な社外取締役の方々も内部統制構築義務違反の法的責任を問われるのではないか・・・と考えておりましたが、先に述べたように翌日、この点は「取締役会で図ったわけではない(意見を聴いただけ)」と訂正されました(そりゃそうですよね・・・)。ただ、たとえ経営執行部の判断として「非公表」と決定したとしても、やはり株主への情報提供に不公正な点があったのではないか、といった疑問は残ります。

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そして3点目が調査委員会の設置に関するものです。社長会見によれば、著名な弁護士を委員長とする特別調査委員会を設置して、今回発覚した偽装事件の原因を究明して再発防止策の提言を行う、さらに件外調査も行ったうえでほかに同様の不正が発生していなかったかどうかを調査する、とのこと。もちろん、ステークホルダーへの説明責任を尽くすために外部有識者による特別調査委員会を設置することは必要でしょうし、社外からも要求されるところと思います。ただ、社長ご自身が会見で認めておられたように、本件性能偽装事件は「組織的な不正」です。

35年前から組織的に行われていた不正の原因を解明したり、再発防止策を検討することは、組織の構造的な欠陥を解明するということなのでわずか2か月では到底困難です。また、20年も30年も不正が発覚しなかった組織風土を解明するためには、顧客側の問題(たとえば必要な検査を受けていなくても安全性に問題なければ検品について-少なくとも現場レベルでは-OKと判断していた、取引慣行として顧客も検査の省略を受諾していた等)についても調査する必要があります。さらに社外取締役や社外監査役の皆様に厳しい意見を述べるだけでなく、その社外役員の方々に積極的に汗をかいていただかないと到底組織風土は変わりません(監査委員会のメンバーを含め、社外取締役のお尻を叩いてガバナンス改革を断行させる役割をだれが担うのか・・・という問題は避けて通れません)。

会計不正を複数回発生させた上場会社のガバナンス改善に2年、3年の時間をいただいて取り組んだ「ガバナンス改善委員会」の委員長経験者としては、改善委員会が提言した再生プロジェクトにどれくらいの幹部職員が理解を示してくれて、どれくらいの成果を上げてくれるのか、その様子を長い時間をかけて「役職員とぶつかりあって」「時には恥をかいて」はじめて組織文化が理解できますし、また、その変革の道筋も見えてきます。前回エントリーでも書いたように、(事業部門の独立性が強い組織であるがゆえにお勧めしたい)社内プロベーション制度を導入することも、このような改善委員会の設置があってこそ可能になるものと理解しています。

これまでの三菱電機で発生した様々な事例をみるならば、まさに経営陣や社外役員と二人三脚で会社の中の様子を長期間にわたって監督する外部有識者による組織がどうしても必要です。もちろん当該組織のトップが社長では困るわけで、そういった「異物」を受け入れる覚悟が三菱電機にはあるのだろうか・・・といった疑問を感じました。

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なお、いろいろと会社側に厳しいことを書かせていただきましたが、最後に神戸製鋼の品質偽装事件が発覚した際にも述べたことと同じことを申し上げたいと思います。ここ数年、三菱電機の不祥事が数多く発覚しましたが、それではなぜ10年、20年、30年前から長年行われてきた不正が(さみだれ式に発覚するのではなく)近時になって一気に発覚したのでしょうか?社内の不正に真正面から立ち向かおうとする社長さんがいたからこそ、各セクション、各グループ会社に眠っていた不正が経営陣に届くようになったのではないか、社長の真剣な檄が飛んできたからこそ、内部監査部門が本気で不正を探し出すことになったのではないか?(みなさん、そう思われませんか?)

「我々は今度こそ誠実な企業になろう」と声を上げた社長さんがいたとすれば、これまで各部署で眠っていた不正が一気に明るみになる、ということはよくあることで、不正を隠し続けてきた、または不正発見に関心を持たなかった歴代の社長さんは批判をされず、「誠実な企業になろう」と勇気を出して取り組んだ社長さんが批判をされて辞任を余儀なくされる、というのも、不正調査を本業とする者として、なんだか割り切れなさを感じるところです。

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2021年1月25日 (月)

社外取締役が増えると企業の不正リスクは高まる?

1月22日のNIKKEI Financialのコラム「金融腹話術」では、「危険な『社外取締役バブル』、競争力低下のリスク」と題して、2022年4月に始まる「プライム市場」に上場する企業は、独立社外取締役を3分の1以上入れることが求められるようになることに「競争力の低下をもたらすリスク」が生じることが指摘されています。

そもそも「優れた社外取締役を評価する市場」が存在しない日本において、大手企業の重大な経営判断を任せられる人材をどのように評価、選択できるのか、といった根源的な疑問が生じ、また、たとえ選択できたとしても、経営経験豊富な元経営者であればあるほど慎重な判断姿勢となり、リスクテイクは期待できなくなるのではないか、といった懸念が示されています。今年3月にガバナンス・コードが(2018年以来)再改訂され、企業価値向上のために社外取締役が果たすべき役割が高まる時代になるからこそ、このような懸念が重大に映るようになるのでしょうね。

上記コラムは「攻めのガバナンス」という視点からのご意見ですが、私は「守りのガバナンス」という視点からも、社外取締役の数が増えることは不祥事リスク(正確には企業自身のレピュテーションリスク)を高める一面もあると考えています。一般的には社外取締役が増えることは企業不祥事の防止に資する、と言われておりますが、みなさまご承知のとおり、決して「防止」には役に立たず、ただ不祥事が発覚した場面、つまり企業が有事に直面した際には役に立つ(場合もある)、ということだと理解しております。

ではなぜ社外取締役の数が増えると不祥事リスクも高まるのか。それは、「何が不祥事なのか」、会社の役員にとって判断することはむずかしい、ということに起因します。たとえば「改ざん」「やらせ」「偽装」「不正会計」(就業規則に定められている)「〇〇会社の社員として品位を害する行為」といった解釈は人によって異なります。社外取締役は「社外の常識」を錦の御旗として「これは(社会一般からみたら)偽装ではないか」「これは品位を害する行為ではないか。皆さんは社内の常識にとらわれすぎている!」と意見を述べる。「社外の常識」といいながら、実は「その方の常識」であったりするわけです。

もちろん社内の役員・経営幹部からすれば、きちんと説明をすれば「本件は改ざんや偽装にはあたらない」と解釈する正当な理由はあるわけですが、社外取締役との意見の相違、ひいては「取締役会を全員一致ではなく、過半数決議で通すこと」はなるべく回避したいため、再発防止のための施策を(しぶしぶ)検討するということになります。

こういったことが何度か繰り返されますと、そのうち経営者も「この問題は社外役員の方たちから批判が出る可能性があるから、役員会には上げないで処理しよう」ということになります。つまり「違法行為だから一部の役員で処理しよう」ということではなく「違法の疑いが生じる、違法だと誤解を生じさせるから一部の役員で処理しよう」という結論になるわけです。

さて、これで一件落着なら問題ないのですが、時折、この「内々で処理した問題」が表面化して、世間で「改ざん」「偽装」「ヤラセ」等が問題になるケースがあります。きちんと取締役会で議論して「違法ではない(偽装や改ざんではない)」という判断になっていれば、世間にも説明できるのですが、(議論になることが面倒だから、ということで)取締役会に上程していなかったこと(正常なプロセスを経ていないこと)が世間的には「後ろめたい気持ちがあったから役員会に上程しなかった」と理解される(推定される)ことになります。

私の経験上、これはとてもマズい。本来ならば「最後のひと手間」によって違法行為ではないことを公明正大に説明できるにもかかわらず、その「ひと手間」を惜しむことで窮地に陥るケースがあることは、あまり知られていないと思います(具体的な事例に沿って解説をしたいのですが、ここでは長くなりますので、また当職の講演等でお話をいたします)。

この「最後のひと手間をおしむこと」による不祥事リスクが、役員会に独立社外取締役の数が増えることによって高まっているように感じています。上記コラムの指摘するとおり、「攻めの経営」におけるリスクが高まる面もありますが、私はこの「守りの経営」の面でも良いことばかりではなく、熱心な社外取締役さんが増えることによるリスクについても考慮しておく必要があると考えます。

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2021年1月 8日 (金)

消費者法も立派なビジネス法務だと思う-消費者相談急増の事実から考える

1月8日午前0時、昨年4月以来の緊急事態宣言が首都圏一都三県に発効いたしました。おそらく大阪ももうすぐ宣言の対象になることでしょう。当事務所としても、今後の運営をまた真剣に考えなければなりませんが、とにかく元気に過ごしてまいりたいと思います。

さて、本日(1月7日)の日経朝刊社会面では「ダイエット食品 消費者相談急増-外出自粛が背景か 健康被害の訴え多く」と題して、コロナ禍における消費生活相談センターや自治体へのダイエット食品やサプリに関する相談が急増していることが報じられていました。この記事が伝えようとしているのは「在宅勤務等で『おうち時間』が増えた人が、体重を気にしたり、健康に配慮する傾向が強くなったことから、商品の効用や表示方法の適正性に関する相談が増えた」という事実です。

上記の日経記事の主旨とはやや異なりますが、私は新型コロナウイルス感染症拡大が続く今年の法務面での課題として、企業は景表法や個人情報保護法、特定商取引法に抵触するような、消費者法関連のコンプライアンス違反には、これまで以上に注意すべきである、と考えております。近時は消費者裁判手続き特例法も充実してきたので消費者契約法や改正民法(債権法改正)の運用動向にも企業は留意する必要があります。

消費者法といえば環境法とともに市民運動的な規制法のイメージで捉えられていたかもしれません。しかし、法令遵守という意味を超えて「企業の社会的信用の維持向上こそコンプライアンス経営だ」と言われる時代となりますと、消費者法も、れっきとしたビジネス法務だと確信しております。

とくに近時の消費者は、企業行動において不審に思ったこと、違和感を抱いたことがあれば(図書館に足を運ばなくても)「検索エンジン」によって時間を要することなく調べたい事項に到達することができ、また、自身の考え方への社会の共感度を知りたければSNSやWEBシステムによる意見交換の場で確認することもできます。つまり、「時間」と「空間」を簡単に買える時代の消費者は、その連帯によって企業の社会的評価を上げることもできれば下げることもできる。

もちろん理屈からいえば「ネット情報の危うさ(フェイクニュース)」や「サイレントマジョリティー(騒がれているからといって多数意見とは限らない)の存在」により、企業としては消費者の声をあまり気にする必要はないのかもしれません。ただいったん騒ぎが起きますと、将来にわたってネット検索の対象となるわけでして、企業の社会的評価の面からみて無視するわけにもいかないはずです。したがって、企業としてはできるだけ消費者に騒がれないための対策もとる必要があります。

たとえば、監督官庁から、明確に「これは景品表示法違反です」とは言われないけれども「違反のおそれのある行為です」と指摘された場合にはどうするか。海外の人種差別問題が盛り上がる中で、米国のNPO団体から「御社はこれからも『美白効果』なる言葉を広告に使いますか」と問われて、その回答に注目が集まる中、どう対応するか。某健康食品企業のトップから(差別的表現を用いて)揶揄された日本のトップ飲料メーカーが、これにどのような反論をするか等、様々な場面で消費者から注目されるわけです。いずれにおいても、問題となった事実の真否よりも企業がどう反応するのか、という企業姿勢に消費者の関心が集まります。

ところで「できるだけ消費者から騒がれないようにしたほうがよい」というのは、いかにも消極的で「ことなかれ主義」の発想のように思われるかもしれません。しかし、炎上を放置することはとてもコワイのです。消費者を相手とするコンプライアンス問題の何がコワイのかと申しますと、私が過去に取り扱った案件でも何度か失敗しましたが「騒がれている事件の背後に潜む本当の法令違反行為があぶりだされるリスク」であります。

どこの企業でも、社内常識からすれば軽微な不正とされている問題だったり、すでに地方新聞の夕刊ベタ記事で叩かれて、社内的には「一件落着」と思われていた不祥事が、消費者による騒ぎをきっかけとして表面化したり、再度取り上げられたりします(たぶん、従業員の方々や下請先、取引先の社員の方々が、消費者による騒ぎに便乗して情報提供されることが原因だと思います)。「時間」と「空間」を安く入手できる消費者は、これらの情報を上手に活用して火に油を注ぐ。むしろ、そちらの法令違反行為のほうが監督官庁も無視できないようになり、正真正銘のコンプライアンス問題に発展する、という次第です。

公明正大に「うちの会社に不正はありません!」と自信をもって宣言できる企業であれば、堂々と消費者の意見に反論すればよいでしょう。しかし、その自信がなければ、私は消費者を敵に回しかねない企業行動については敏感に対処することが得策だと考えます。

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2019年7月23日 (火)

恥ずかしながらTVニュースの取材を受けました(吉本興業の件)

弁護士会に近いところからのご依頼ということで、本日NHK(関西ローカル)のニュース番組(ほっと関西)の取材(吉本興業HDによる一連の対応の件)を受けました。関西以外の方は御覧になれないので、すぐに消えると思いますが出演ニュースを貼り付けておきます。取材では1時間半のインタビューでしたが、番組を視ると1分半程度しか出演していませんので、言いたいことの半分もテレビでは言えてません。宮迫さんや田村さんが「記者会見はネットを使ってライブでやることを会社に要望していた」とおっしゃっていましたが、(編集のコワさを知る者として)その要望は当然に出てくるものと思います。

吉本興業の一連の企業対応について、企業コンプライアンスの視点から語るポイントはたくさんあります。ただ、主なものは①企業のリスクマネジメント、②宮迫氏、田村氏らへの会社関係者の対応の違法性(パワハラ問題)、③口頭による諾成契約という長年の慣行の是非、というところかと思います。あまりマスコミで報じられていませんが、吉本興業と芸人の方々との諾成契約の法的性質の内容はどういったものなのか、という点は重要です。一般企業の従業員と同様、吉本の芸人の方は吉本興業との間で指揮命令関係が成り立つのであれば「パワハラ」と言えそうです。ただ、いわゆるフリーランスとして取り扱うのであれば、両者間の契約は「業務委託契約」に近いものですし、脅迫めいた言動があったとすれば独禁法上の「優越的地位の濫用」として違法性を帯びると考えたほうが実態に合っているのではないかと(公正取引委員会の最近の考え方にも近いはず。記者さんにも同様の説明をしましたが、たぶん一般向けの解説としては難しいのでカットされたようです)。

本日の釈明会見では「(宮迫さんに対する)契約解消を撤回する、というのは、どういった根拠に基づくのか」と記者に質問され、岡本社長さんは答えられませんでしたね。たぶん、会社と芸人の方との契約は、上記のように長年の慣行に基づく口頭での諾成契約・・・というものなので、よくわからないのが正直なところではないでしょうか。こういった「口頭による、あいまいな内容の契約」だからこそ、芸人の方々にも都合がよかった面もあるかもしれません。しかし、吉本興業が反社会的勢力との断絶を徹底する、というのであれば、(接触を100%防げるものではないので)反社会的勢力との癒着が疑われた場合の当該芸人さんへの会社対応を明確にしておく必要があります。また、芸人さんたちが食べていけない場合に、兼業や副業(直営業?)も認めることが「芸人ファースト」だとするならば、芸人さん方の権利を守る必要もあります。そのためには、もうそろそろ第三者を交えて「契約書の標準ひな型」を作成して、数千人の芸人の方々と書面による契約を締結すべき時期に来ているのではないでしょうか(いや、書面契約にすると諸々の不都合なこともあるのは重々承知しておりますが・・・)。

本日の岡本社長さんの会見を視ていて「Q&Aのリハーサルはしたのだろうか」と疑問に感じました。宮迫さんは「会社主導の録画による引退会見」を拒絶したとおっしゃっていましたので、社長ご自身の会見は万全の準備のもとで行われるものと予想しておりました。しかし、当然に予想される質問への回答の様子などを拝見していて、どうも準備不足だったように感じられました。なお、これは私見ですが、吉本興業におけるトラブル解決の方法としては、良い悪いは別として「村の長老によるあっせん、仲裁」が、現実には最適解と考えています。社長の会見で、著名な芸人さん方の解決提案がエピソードとして語られていましたが、当該提案内容は(さすが有事に何度も直面しておられるからなのか?)まさに最適解のリスクマネジメントの知恵だと感じました。芸人として有能な人たちは、リスク管理の面でも鋭い感覚をお持ちのようです。

NHKによる取材後、クルーの皆様に「そういえばNHKから国民を守る党が一議席確保しましたよね!これからNHKの党首討論には『N国』の党首も登場するのかなぁ・・・」と(独り言のように)つぶやいたところ、聴いていないフリをしておられました。(*´Д`)

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2019年6月25日 (火)

吉本興業「闇営業」事件-コンプライアンスを前向きに考えよう

反社会勢力(特殊詐欺グループ)のパーティーに、会社を通さずタレントが出席していたとして、吉本興業さんは6月24日、パーティーに出席していた所属タレント11人を謹慎処分にした、と発表しています(詳細に報じる毎日新聞ニュースはこちらです)。「なんで芸人の世界にまでコンプライアンスがうるさくなったの?そんなの昔からあったはずでは?」「お笑いの世界にまでコンプライアンスなど言ってたら笑えなくなるよ」といったご意見が出てくるのも当然かと。しかし、時代の流れを考えますとやむをえない部分もありますし、また企業として「前向きに」考えたほうがよいと思われる部分もあります。

1 サプライチェーン・コンプライアンス

東京証券取引所が上場会社向けではありますが「企業不祥事予防のプリンシプル」を公表しており、その原則6ではサプライチェーン・コンプライアンスを推奨しています。上場会社は取引先や下請会社のコンプライアンスにまで目を配る責任がある、ということなので、たとえばテレビ局やCMスポンサーとしては、所属タレントの不正を放置している企業と取引するわけにはいかない、ということです。会計不正事件に発展したオリンパス事件が騒がれたきっかけは、海外メディアが「反社疑惑」を大々的に報じたことでした。とりわけ海外では反社会的勢力との癒着問題が大きく社会的信用を毀損することを考えますと、吉本興業さんとしては徹底して自浄作用を発揮する必要があります。

2 不正はバレる

ご承知のとおり、昨今の不正・不祥事は、スマホによる動画、録音がSNSやマスコミを通じて拡散します。「噂話」なら隠し通せるものも、友人・知人の申告による「決定的な証拠」でバレてしまう時代になりました。また、いったん疑惑が浮上すると、今度はフォレンジックスの発達によって、消したメールや画像でも容易に復元でき、不正調査の精度は格段に向上しています。

加えて「〇〇ペイ」をはじめとするフィンテックの発達で、不正調査では「お金の流れ」を容易に把握できるようにもなりました(お金は受け取っていない、と証言しても、バレる可能性は高いはず)。したがって、私的なスマホやPCを任意に提供しないとなると、それだけで自己に不利益な事実を認めたものと認定されてしまいます( へたをすると口裏合わせをしたことまで証拠物として上がってきます)。もはや不正は仲間うちで墓場まで持っていける時代ではなくなったといえます。

3 商品の品質から企業の品質の時代へ

かつて行政による事前規制主流だった時代には、消費者保護のために「新商品の品質」は個々に厳しくチェックされるのが当然でした。しかし、規制緩和政策が進み、生産者に寄り添う行政から消費者に寄り添う行政へと変わり、事後規制主流の時代になります。すると、企業はできるだけ多くの商品を消費者に提供できるようになり、品質が粗悪な商品は消費者の使用感やレピュテーションで淘汰される傾向が強まってきます(その代わりに、市場で爆発的に売れる商品が、行政や企業の過剰に保守的な判断で眠ってしまう可能性が低下します)。そして、粗悪な商品によって消費者が被害を被らないよう、「企業の品質」で商品の品質を(一定程度ではありますが)担保します。この企業の品質を維持することこそ「コンプライアンス」です。

もちろん、吉本興業さんの場合にはタレントの方々が商品ではなく、タレントさんの提供するサービスが商品ですが、消費者の目の前にできるだけ多くの若手タレントを輩出することができれば、それだけ爆発的に売れるタレントさんが生まれる可能性は高まり、将来収益への期待も上がります。そのためには吉本興業という企業の品質を向上させることで、所属タレントさんのサービス提供に(最低限度の)お墨付きを付与しなければなりません。つまり、吉本興業という会社は、コンプライアンスの向上こそが持続的成長に不可欠、ということになります。平時のコンプライアンス経営に失敗すると、今度は行政機能の一翼を担う(たとえばひとりひとりの芸人さんのチェックを警察に代わって会社が行う等)ことで信用を回復しなければならず、企業経営の効率性は低下します。

つまり「時代が変わったんだからコンプライアンス経営もしかたがない」という後ろ向きの姿勢も理解できるのですが、「コンプライアンス経営を推進すればするほど儲かる」という前向きな姿勢で経営をすることが大切であり、エンターテイメント業界以外の会社でも、同様の発想でコンプライアンス経営に臨んでいるのが現状です。

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2019年2月28日 (木)

指名委員会委員である取締役の善管注意義務について

大手スーパーのいなげやさん(東証1部)の自浄作用が半端ないです。内部通報に基づいて社内規則違反に及んだ3名の従業員の不正が発覚したのですが、当該3名に対する懲戒処分、そして監督責任として専務取締役さんに対する解職決議(→取締役辞任)だそうです。そしてこの不正を公表した理由は「公正な調査を実施するため、および関係者の隠蔽を防止するため」とのこと。うーん、なかなか厳しい・・・。(ここから本題)

昨日に引き続き、独立社外取締役に関する話題です。株式会社LIXILグループさんが2月25日に開示した「当社代表執行役の異動における一連の経緯・手続の調査・検証結果について」を読みました。すでに多くのメディアが取り上げているLIXILグループさんの経営権に関する話題なので、事例はご紹介するまでもないと思います(なお、この会社は指名委員会等設置会社です)。

機関投資家などのステイクホルダーから「CEO交代の経緯が不透明である」との指摘を受けて、監査委員会が主導して調査を行い、その結果を開示した姿勢は評価できます。おそらく社内では開示するにあたっては相当に葛藤があったと思いますが、一連の事実経過は、かなり詳細に記述されているようです。元CEOの退任の意思表示には(まちがった情報に基づく錯誤があるため)瑕疵が認められ、意思表示は無効ではないか・・・との疑問が呈されていました。しかし、この調査では、認定した事実をもとに「無効と言えるほどの瑕疵はない」と判断しています。

元CEOの方の意思表示の有効性、その意思表示を前提とした取締役会の決議の有効性といった論点は、先例などを参考とした法律的判断を伴うものなので、ここでは私的な意見を述べることは控えます。ただ、この調査結果が正しいとしますと、指名委員会を構成する5名の取締役さんが(当時)何をしなければならなかったのか・・・という点が次にクローズアップされることになると思います。この「一連の経緯・手続の調査」は、事実経過と機関決定の有効性に焦点を当てておりますが、指名委員会や取締役会に出席していた取締役が善管注意義務・忠実義務を尽くしていたかどうか・・・という点は調査範囲外のようです。

(審査の対象となる)CEOの方が、本当に自分から退任する意向を示しているのかどうか・・・、これをどうやって確かめようとしたのか、たとえば確かめるにあたっては指名委員会の誰が代表でヒアリングするつもりだったのか、取締役会当日、当のCEOは退任に反対の意思を表明しているにもかかわらず、「あれ?話が違うんじゃないの?」ということで、指名委員会による再協議を誰も申し出なかったのか(ちなみに指名委員会は執行役の選解任を拘束しないのが会社法のルールですが、LIXILさんでは事実上の慣行として執行役の選解任の決議も拘束していたそうです)、時間を巻き戻して考えてみると、いろいろと疑問が生じてきます。

CEO交代を決する取締役会の決議の前に、(やむをえない事情があったそうですが)指名委員会委員であるお二人の社外取締役さんが帰ってしまったという生々しい事情も記述されていますが(*´Д`)、もしこのような会社の有事に直面した場合に、指名委員である取締役に求められる善管注意義務とは果たしてどのような行動なのか・・・、とても考えさせられる事案だと感じました。このたびのコーポレートガバナンス・コードの改訂は、まさにこのような場面を想定して取締役会の監督機能の強化、経営トップの選解任手続の透明化を求めているはずです。見方によっては「やっぱり社外取締役なんてお飾りだよね」と言われてしまいそうで心配です。さて、このリリースを前提として、機関投資家の方々は今後どのような対応をされるのか、興味は尽きません。

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2019年2月27日 (水)

上場子会社の独立取締役は厳しい仕事ですよ!(ホンネです)

本日(2月26日)の日経朝刊に、「上場子会社に独立取締役-政府、未来投資会議で新指針、少数株主の利益保護」なるタイトルの記事が掲載されていました。政府が株式市場に親子上場している企業グループの利益相反を抑える仕組みを新たに作る、として、経産省の企業統治実務指針の整備(予定)を紹介しています。2年ほど、上場子会社の独立社外取締役(セブン&アイグループ⇒ニッセンHD 50.6%→100%)を経験した者としてひとこと。

まず、なんといっても上記記事にあるとおり「少数株主保護」という明確な目標のもとで経営戦略に参画します。とくに「100%子会社になることよりも、51%を大株主が保有している状況で上場を維持するほうがシナジー効果が高い」ということが説明できるかどうか、常に考えておりました。100%子会社化したほうが機動性、効率性の面で高いパフォーマンスを発揮できるのであれば子会社上場している意味はないわけでして、従業員の意欲や取引先との関係、親子間の業種の差異など総合的に判断して「少数株主にも株式を保有するメリットがあります」と確信してもらえるかどうか、つねに独立社外取締役としては配慮する必要があります(なお、これは業務資本提携によって子会社化された場合の話でありまして、もともと親会社の一部だった事業を諸事情によって分社化した場合には状況がやや異なりますので念のため)。

つぎに親子間の利益相反の排除ですが、これは上場している子会社だけでなく、非上場で少数株主が存在する会社でも同様の問題が生じます。当然のことながら、親会社は子会社に対して利益相反的な注文をつけてきますので、少数株主の利益が不当に阻害されないかどうか、慎重な配慮が必要です。子会社が育てたビジネスの芽が伸びてきたときに、いきなり親会社にとられてしまうようなことは典型例です。以前であれば「うーーーん、まぁ、短期的にみたら子会社に損失が出るけど、中長期的にみればグループ全体の利益向上には資するのだから、まあしかたないか」といった思考過程で経営判断を下すこともありえたかもしれません(平成24年の日産車体株主代表訴訟あたりも参考にして、そのように考えていたように思います)。

しかし、親会社が上場しているケースでは要注意です。昨今の企業統治改革の影響で「資源の最適配分が求められるなかで、いつ売却されてしまうかわからない」というのが上場子会社の置かれている状況です。親会社にも多数の社外役員が存在するわけで、最近は「親会社の攻めのガバナンス(選択と集中の推進)」という理由で(機関投資家の後押しもあって)子会社はいつグループ外に押し出されてもおかしくないのです。たしか今回の経産省実務指針でも推奨されていたと記憶しています。そうなりますと、「短期的には損だけど、中長期的には・・・」といった悠長なことは、子会社の社外取締役も言ってられない状況であり、短期的に子会社に損失が出る利益相反行為に対しては(少なくとも独立取締役は)断固たる姿勢を貫く必要があります。そうでなければ少数株主への説明責任は尽くしづらいでしょう。合理的な説明に失敗すると、利益相反行為自体が、会社法では「特定株主への利益供与」とみなされて刑事・民事責任を追及される可能性も残ります。

そしてなんといっても企業統治改革の影響で、シナジー効果が得られない場合には、常に親会社による子会社の統合(合併や株式交換)、非上場化の可能性も考えておかねばなりません。現実化しますと上場子会社の独立取締役にとってはまちがいなく「有事」です。他の仕事を放置してでも(?)少数株主保護のための様々なプロセスを主導(「関与」ではありませんよ!「主導」ですよ!)しなければ代表訴訟のリスクにさらされることになります。統合を決議する臨時株主総会が終われば「やれやれ」などという甘いものではありません。どんなに統合比率を高めるために頑張ってみたとしても、賠償責任に関する消滅時効の期間が経過するまでは(自分が退任した後の会社がD&O保険をかけ続けてくれることを祈りつつ→私の場合は、会社との間で保険をかけ続けてくれることについて契約書を作成しました・・・)「一定の覚悟」は保持しなければなりません。いや、ホント、上場子会社の独立取締役は(まじめにやればやるほど)つらい仕事であります。

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