2008年11月10日 (月)

CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の適正なる行動と金融庁処分

先日のシャルレ社MBOにおける第三者委員会報告の内容も相当に生々しいものであり、読みごたえのあるものでしたが、11月7日付けにてSESC(証券取引等監視委員会)よりなされました投資運用法人に対する検査に基づく処分勧告の理由についても、かなり生々しいものでありまして、CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)の行動自体が当社の内部統制の大きな不備と評価されることとなる一例を示したものといえそうであります。(SESCの処分内容および理由はこちら)ちなみに、当該投資運用法人に運用委託をしている投資法人本体は、本日(10日)に上場廃止予定とのことであります。(本件に関する投資法人側からのリリースはこちらです

運用受託先の投資法人による第三者割当増資議案について、運用上の助言を当投資運用法人が行うにあたり、社外取締役のひとりが反対していた「投資委員会決議」でありますが、社内規定によりますと、議決権を有する社外取締役の全員一致が決議要件とされていたところ、その社外取締役の反対を押し切って多数決にて決議をしてしまったということで、当該決議時点においては、「全員一致要件」に関する社内規定の存在を誰も知らなかった、という点がまず一番大きなポイントだったことは間違いないと思われます。少なくとも、CCOの方がこういった社内規定の存在を当然の前提として熟知しておられれば、事前の根回しも可能だったでしょうし、根回しが奏功しなかった場合でも、別途対策を練ることが可能だったと思われます。(すくなくとも、その後の「石が転がり落ちる」ような不適切な行動に至ることはなかったものと推測されます)

その後の社外取締役への棄権勧誘、取締役会での不作為、議事録の不実記載、社外取締役への虚偽報告などの問題点は、処分理由を読んでおりまして、にっちもさっちもいかなくなってしまったCCOの様子が手に取るようにわかるものでありまして、実際、CCOの方にも諸事情があったものとは思いますが、とうてい企業の法令遵守体制を構築するために先頭に立たねばならない者としての行動とは理解できないものであります。(この程度の虚偽記載(虚偽の隠ぺい)は、企業運営にとって重要な問題ではない、とCCOにおいては認識されていた、ということもないと思いますし。)またこれを代表者が容認していた、というのもかなりショックであります。正直なところ、もし社外取締役が、こういった棄権勧誘の説得に応じて、社内で「うやむや」なまま、投資法人側が第三者増資決議を行っていたとするならば、内部管理体制の不備を理由に処分勧告を受けることもなかったと思われますし、普通の会社でもあまり笑える話ではない、と思う次第であります。こういった一連の行動は、本年4月下旬の事実でありますが、SESCが5月中旬から検査を開始していた、という点からみましても、不適切な行動が、行政処分を通じて表に出てしまうリスクというものも、改めて考えるべき問題のような気がいたします。今回は、金融商品取引法51条を通じて、金融商品取引業者への行政処分が介在することで表面化したものと思いますが、開示規制に関する金融庁の調査や、証券取引所の調査などが厳しくなるのであれば、一般の上場企業においても、たとえ法令違反が明確に認定されなくても、内部統制に欠陥があると指摘されるケースというものが増えてくるのではないでしょうか。

なお、このCCOの方はすでに辞任をされておられますが、企業人として、また弁護士として、企業法務に精通されておられる方による行動であったことも、私的にはショックであります。(そういえば、先日のシャルレの第三者委員会報告によりますと、シャルレ社の社外取締役の3名の方々は、「もし800円以下の株価に賛同するように求められるのであれば、みんなで辞任しよう、と話し合った」とありました。その「心意気」は社外役員にも、またコンプライアンス責任者にも必要な気概だと私は確信しています。)社内規定の存在に熟知されていなかった、ということよりも、むしろ進退を賭けてでも、コンプライアンスの責任者たる地位を全うしていただきたかった、といった点にこそ、残念な気持ちを抱いてしまいます。「所詮、CCOなどといっても、金融商品取引業者においてもこの程度のもの」といった諦念を抱かれないように、私自身にも本件と同様、ふりかかるリスクのひとつとして肝に銘じておきたいと思いました。

11月 10, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年9月24日 (水)

アーバンコーポレーションのコンプライアンスにみる内部統制の脆弱性

本業のほうがどうも忙しくなってまいりまして、祝日も終日事務所で書面を作成しておりましたが、ブログはできるかぎり更新いたしますので、引き続きよろしくお願いいたします。(すいません、コメントはまともにお返しできない状況が続いております)さて、ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、今回は金融商品取引法違反による損害賠償請求訴訟の噂が出ておりますアーバンコーポレーション社の件をとりあげておきたいと思います。なお、9月20日の日経新聞でも「不適切な開示への誘惑」なる記事(大機小機)が出ておりましたが、訴訟提起の噂もありますので、不適切開示が果たして違法行為となるのかどうか、といった問題については立場上、意見を差し控えさせていただきます。

パリバとのスワップ契約部分を開示しなかったことの適法性は別として、すでに東証は、アーバン社による開示が不適切であったとしておりますし、「あの資金調達さえなければ、倒産という最悪の事態は避けられたかもしれない」(9月12日日経朝刊記事による、アーバン関係者の証言)ほどの事件だったわけですから、本件はアーバン社にとりましては企業情報開示に関わるコンプライアンス問題であることには間違いありません。そこで、すこし気になりましたのは、会社法務A2Zの3月号におきまして、「アーバンコーポレーションにみる『内部通報システム』と『コンプライアンス教育』」と題する特集記事(内部統制最前線)が組まれておりまして、そこでは「21世紀を代表する不動産価値創造企業をめざす」という経営ビジョンをもとに、アーバン社がすぐれたコンプライアンス教育に注力をしてきたことが内部統制室長インタビューのもと、広報されている内容であります。リスク情報の公表や反社会的勢力からの物品購入など、企業の信用維持のために必要なリスク管理についてもコンプライアンス研修の対象になっているようです。コンプライアンス研修などは、短期間で効果があらわれるようなものではありませんが、2006年秋ころから内部統制プロジェクトも開始されているようですので、おそらく1年以上は内部統制構築の一環としてなされてきたのではないかと推測されます。

私がいつもお世話になっているコンサルティング会社も関与しておりますし、その教育過程自体には多くの企業で採用されている実績の高いものではありますが、こういったコンプライアンス研修をどれだけやってみても、今回のような不祥事(と思いますが)は、発生してしまうわけでして、コンプライアンス経営において昨今よく指摘されるところの「現場コンプライアンスと組織のコンプライアンスとの分断」があったと言わざるを得ない事態に起因するものと言えそうです。コンプライアンス研修等を積極的に取り組む姿勢は、経営トップの「コンプライアンス重視」の意思を全社員に発信する意味もあるとは思いますが、やはり不祥事体質からの脱却という全社的な取組の一環として行われなければ、どこの企業でも今回のような事態が発生してしまうでありましょうし、コンプライアンス経営のもろさを露呈することになってしまうはずであります。メリルリンチも今後資産状況がまだどうなるのかはわかりませんが、少なくとも日経新聞の後追い記事「アーバンコーポレーション破たんの実相(上-パリバとの密約障害に)」が真実だとするならば、あのスワップ契約の不開示以外に倒産の危機を脱する別の選択肢があったのではないでしょうか。

これだけ内部統制システムを充実させていたとしても、切羽詰まった状況における経営トップの行動に誰もストップをかけることができず、多くの一般投資家に迷惑をかけてしまった現実には、正直、内部統制の無力感を抱かざるをえません。私自身も非常にショックを受けているところでありますが、こういった事件を今後防止するためには、市場の萎縮的効果を承知のうえで、あえてバスケット条項を用いてでも事後制裁の厳格化をはかる方向で考えるのか、あるいは速効性は期待できませんが、地道に経営トップの関与する不正を予防できる仕組み作りを作っていく方向で考えるのか、考えるべき時期に来ているのかもしれません。それぞれの選択肢によって、コンプライアンス・プログラムの内容は180度変わってくるはずであります。(しかし、本当にコンプライアンス経営はむずかしい・・・ですね・・・)

9月 24, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (2) | トラックバック (1)

2008年8月27日 (水)

ANAの景品表示法違反と企業リスクマネジメント

(27日午後追記あります)

ANAの広告と景表法違反問題に関する昨日のエントリーにはたくさんのアクセスありがとうございました。また、ちゅうさんやある非ユーザーさんから有益なコメントをいただきました。また、消費者問題に詳しい川村先生も、ご自身のブログにおきまして、「これはやっぱり排除命令が出てもしかたない」とのご意見を述べておられます。どうも私の意見は分が悪いようです。

それでは、皆様がたのご意見にひとまず従うとしまして、では企業側からすれば、こういった排除命令の現実を見据えて、どういったリスクマネジメントをとればいいのでしょうか。もちろん排除命令が出てしまった以上は、命令内容を履行しなければ法令違反になってしまうわけですが、私がここで検討したいのは、

このポスターをそのまま使いつつ、排除命令が出ないような工夫はあるのか?

ということであります。ひとつは、このポスターが新型シートを全面に出したものであるがゆえに、全日空国内線のプレミアムクラスすべてに、同様シートを設置したうえでなければ排除命令の対象となるのか、それとも、「4月1日スタート」「順次導入」とあることから、すくなくとも4月時点において国内線のうち1機だけでも同様シートに変更していれば「順次導入」として排除命令の対象からはずれるのか?というものであります。これは「優良誤認」の基礎となる前提事実をどう考えるのか、という問題ですよね。当然に企業側のリーガルリスクの回避としては1機だけでも同様シートに変更することで、この広告をそのまま使えることが好ましいわけでして、このあたりはぜひとも皆様のご意見を伺いたいところであります。

そしてもうひとつは、コメント欄にも少し書きましたが、(法令違反という現実は受容せざるをえないとしても)プレミアムクラスを購入しようとするお客様に対して、「お客様が搭乗される国内線のプレミアムクラスにつきましては、この新型シートではございませんがよろしいでしょうか」といった説明を行うことで苦情件数を減らす努力をすれば、そもそも公正取引委員会が動くことはなかったのではないか、ということであります。報道では20件ほどの苦情があった、とのことですが、この苦情が実際に利用された方によるものなのか、問い合わせだけに来られた方によるものなのかは不明です。ただ、実際に利用された方の「消費者被害」が現実にあったがゆえに、公取委が調査に乗り出したとすれば、不当表示以外の企業活動によってリーガルリスクを低減することは可能なはずであります。このあたりはどうなんでしょうか?

景表法違反は、最近、競争規制というよりも「表示適正化」に重心を置いている、とちゅうさんがコメントでお書きになっておられますが、たしかにこういった排除命令が出るような事態となりますと、どうしても広告そのものの修正のほうに目が行くのが当然だと思われます。しかしながら、せっかく「お客様に夢を与える」ことを真剣に考えて広告を作っている以上は、いまの広告をそのまま残しつつも、どうしたら景表法違反のリスクを低減することができるのかを考えることも、大切なことではないでしょうか。このような発想で考えることにより、「お客様をだます広告」とそうでない広告を区別することにつながり、またそういった議論を踏まえることで(景表法による)広告の自由に対する萎縮的効果もできるだけ少なくする道も見えてくるように思います。

(27日午後;追記)すいません、勝手なことを気ままに書いていたのですが、とんでもなくアクセス数が多いので、ひとことだけ「おことわり」を追記いたします。私はとくに「法令違反行為」を推奨するつもりで書いたのではなく、企業に及ぶ現実のリスクを回避するための方策について思案しているものにすぎません。CSR経営の視点からすれば、そもそも情報を正確に伝えていない広告はただちに修正すべき、ということになろうかと思いますが、情報を正確に伝えていない「らしい」広告であれば、これを正確に伝える方策は、広告の修正以外にもあるのでは?といった発想も必要ではないか、ということを言いたかったものであります。

8月 27, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (6) | トラックバック (0)

2008年8月26日 (火)

ANAの景品表示法違反(これでもアカンの!?)

ひさりぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、全日空の「プレミアムクラス」の広告(テレビでも三国連太郎さん、佐藤浩市さんのCMが記憶に新しいところです)が景品表示法4条1項1号(優良誤認)違反として、公正取引委員会より排除命令を受けたそうであります。(朝日ニュース  読売ニュースなど多数。またANAの開示情報はこちら です)

公取委のリリースに、問題となった広告が添付資料として掲載されておりますが、この広告が「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと」になってしまうのでしょうか?プレミアムクラスの商品の特色が①幅広シート、②高級料亭による食事、③特別ラウンジの使用の三本立てであることは広告から読み取れますし、「4月1日スタート」なる文字よりも少し小さな文字ではありますが、「シートは順次導入」と明確に記載されていますから、プレミアムクラスに搭乗したいと思っていた方は、おそらく「いつから?」なる情報とともに、この「順次導入」にも注意が向くと思われます。広告に大きく「4月1日スタート」とあれば(不当表示かどうかは、一般消費者からみた印象をもとに判定することになりますので)写真のイメージと文字から「誤認のおそれ」もありそうですが、文字の配列などからみて、この広告はおそらくANAの社内におきましても、景表法違反にならないようにリーガルリスクに注意をしながら作成したものではないでしょうか。

それでは、かりに同じデザインの広告で、JALより先にANAがファーストクラスを導入していたらどうだったんでしょうか?今回と同様、お客様から苦情が出ていたとしても、景表法上の不当表示には該当しなかったのでは?といった疑問が浮かびます。実際にはJALがこのANAの広告の2か月ほど前に「幅広シート」を目玉商品として国内線にファーストクラスを導入しているわけです。つまり競争相手が幅広シートを目玉商品としてファーストクラスを打ち出したわけでありますが、一般の消費者には、先行するJALのサービス商品のイメージが刷り込まれているわけですから、ANAとしては「シートが目玉商品です」とは一言も口に出さなくても、おそらくこの広告を見た一般消費者は、「シートは三本立てサービスのうちのひとつ」ではなくて、「このシートがANAのプレミアムクラスの目玉商品」といったイメージを持ってしまうのでしょうね。つまり比較するものが存在しない状態であれば、この広告でセーフなのかもしれませんが、すでに比較の対象となる先行商品が現存する状態であれば、同じ広告でも、消費者の積極的な誤解を排除するだけの表示がなければ「不当表示」になってしまうということが考えられます。

上記はまったくの私見に基づく推論ではありますが、もし同じ広告でも、他社の営業戦略との時間的な後先によって法令違反が生じてしまうということになりますと、景表法違反のリスクはけっこうコワいですよね。ANAの開示情報によると、排除命令を受け入れる予定のようでありますが、競争法としての景表法違反となるのかどうか、争っていただけるとかなり関心が高まるのではないかと思いました。とりわけ景品表示法違反の事件は、公正取引委員会から消費者庁へ移管することになっておりますし、今後の運用次第では、いくらでも企業経営に萎縮的効果を及ぼす可能性のあるところであります。まさに行政処分を争うことによって、広告活動の自由と規制の「狭間」を探る必要性の高い分野だと思っておりますが、いかがでしょうか。

8月 26, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (4) | トラックバック (0)

2008年6月 2日 (月)

経営者はどこまで自社不祥事を把握できるか?

先週のエントリー「船場吉兆の廃業報道について思うこと」へのコメントにおきまして、DMORIさんが不祥事対策の要諦として「マイナス情報は一発で出し切ること」を挙げておられまして、これに対してTETUさんが、これはかなり困難ではないか?との疑問を呈しておられます。船場吉兆の福岡店で消費期限切れのプリン販売が発覚した時点、もしくは牛肉産地偽装が発覚した時点において、今回の「使い回し」事件も同時に公表していれば、船場吉兆社が廃業にまで至らずに済んだのではないか・・・といった問題が残っているわけでして、DMORIさんの提案にも一理あると思います。(ただ、「マイナス情報を一発で出し切る」というのは、経営者が把握していたマイナス情報はすべて出す、という意味と、マイナス情報が発覚したときには、危機管理として(自浄作用として)会社が調査した内容はすべて公表する、という意味がありそうでして、ここでは後者の意味で捉えることといたします。)今年3月末をもって、私は2年半ほど務めておりました某上場企業のコンプライアンス委員を辞任いたしましたが、その委員の経験からみて、社内(もしくはグループ企業内)のマイナス情報をどこまで経営者が把握できるか、ということはクライシスマネジメント上の大きな難問ではないかと思っております。マイナス情報を的確に経営者が把握できていなければ、結局のところ「一発で出し切る」ことは不可能なわけでして、「俺は聞いてない!」タイプの不祥事はけっこう多いというのが実感です。

それでは、(主として組織ぐるみではない、いわゆる従業員不祥事の事例について)一発で出し切る努力をしても仕方がないかと申しますと、有事になってからでは困難かもしれませんが、平時における有効策は存在する、と私は考えております。企業においては不祥事につながるような「ヒヤリ・ハット」事例が山ほどあるわけでして、このヒヤリ・ハット事例報告集などをきちんと分析することは、どこの企業でも真摯に実行することが可能であります。(要は社長さんが率先して、リスク管理の重要性を広報しているかどうかであります)ただ、このようなヒヤリ・ハット事例報告制度を開始してみて、「コンプライアンス経営はむずかしい」と感じた点は以下のとおりです。

1 企業に重大な影響を与える不祥事の芽となる「ヒヤリ・ハット」がそもそもわからない

企業不祥事の発生防止のために「ヒヤリ・ハット」報告が役立つことは、よくコンプライアンス教習本に書かれていますが、私の実経験からみて、何が自社にとってヒヤリ事例、ハット事例なのかがわからないケースが多いと思いますし、人によって意見が異なるケースも出てきます。小さな支店の細かいミスであったとしても、それを放置して見過ごすことが、後で大きな不正会計事件につながるケースもあるわけでして、何がヒヤリ・ハット事例となるのかは、企業内における独特な嗅覚をもった特定人の才能(また、社内できちんと指摘できるだけの度胸)に依存せざるをえないのが現実のように思っております。

2 ヒヤリ・ハットが把握できても、それを現場が報告書に記載しない(自己申告の困難性)

大阪には「患者に人気のある病院」として著名な医真会八尾総合病院という総合病院がありまして、私も何度かここの「医療事故調査会」にお世話になりました。現在は医真会オーディット」なる病院から独立した監査委員会(のようなもの)がありまして、ここが医療職員らが作成するヒヤリ・ハット報告書を分析し、医療ミス再発を防止するための提言を行っております。もうすでに10年ほど前のことだと記憶しておりますが、自ら年間のヒヤリ・ハット事例を公表(年間800件以上の「医療事故につながりかねないミスが発生したこと」について、その具体的なミス内容を公表)することを開始し、医療現場の職員のミス防止策の提言から、職場の医療執務環境の改善策の提案まで行っているそうです。もちろん、現場の職員の方が自己申告することが大前提でありますので、情報の伝達が滞らないように様々な工夫がなされております。このような取り組みは、最近やっと一般の企業においても、リスクマネジメント委員会やコンプライアンス委員会などの独立第三者機構を中心として、社内における不祥事リスクを把握したり、改善するために活用され始めているようです。

もちろん、こういった取り組みによって有事の際に100%の企業不祥事を把握できることはまずありえないでしょうが、発覚事例と同種の不祥事を速やかに調査したり、社内における事実確認を速やかに行うことを可能としますし、「一発で出し切る」努力をしていることは外部第三者にも理解してもらえますので、企業内に「不祥事体質」が存在しないことを説明するためにも有益ではないかと考えております。

6月 2, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (6) | トラックバック (0)

2008年5月12日 (月)

不正のトライアングルからみた粉飾決算リスク

5月11日の「情熱大陸」では今年のベストマザー賞を受賞された勝間和代さんの日常生活が取材されておりました。番組最後の質問・・・「勝間さんにとって『お金』とは?」

「ひとに感謝の気持ちを表現する道具ですね」 (さすがやなぁ。。。)

さて、その勝間さんが日経ITプラスにて「IT関連企業はなぜ会計偽装が多いのか」と言うテーマで、ニイウスコー社の架空取引を例に検証されておりますが、そのなかで「不正のトライアングル」について紹介されていらっしゃいます。「不正のトライアングル」といいますのは、CFE(公認不正検査士)の資格を有しておられる方はご承知のとおり、人はどのような条件が整うと会計不正をはたらくか・・・、という問いに対する回答として、一般に①動機、プレッシャー②不正の機会③不正の正当化要因の存在、が挙げられ、これら3つの条件がすべて整うと、不正リスクが非常に高まることを説明する概念であります。勝間さんが分析されているとおり、IBMと野村総研の下で生まれた「名門IT企業」であるニイウスコー社ですら、この不正のトライアングルの条件がすべてそろっていたことが理解できそうであります。(しかし短期間に多額の増資を行っているので、ニイウスコー社の場合、かなり悪質な気もしますし、条件たる「正当化要因」が認められるかどうかはちょっと微妙です)

ただ、この「不正のトライアングル」によって会計不正を説明する場合、「IT企業だから・・・」といった静的な分析だけでは若干不足しているように思います。IT企業でもしっかりしているところは多いですし、内部統制について配慮する若手経営者の方もいらっしゃいます。ぎゃくに製造業社でありましても、コンプライアンスについて全く配慮されない経営トップの方もいらっしゃいます。ということで、私はもうすこし「不正のトライアングル」については動的な視点についても重視すべきであると考えております。IT企業であれ、老舗メーカーであれ、上場審査を経ているわけですから、あの証券取引所で鐘の音を聞いて感動を覚えた時期があったはずであります。どんな経営者であれ、上場を果たしたときには、その栄誉をかみしめ、当社では絶対に粉飾決算などありえない・・・と心から確信していたに違いないでしょう。

たとえば法定監査で初めて監査法人さんに(地裁レベルではありますが)賠償責任が認められたナナボシの事件でありますが、粉飾を始めた当初は、上場前の厳しい監査法人さんのチェックが担当者の頭にこびりついておりましたので、用意周到に緻密な準備を怠らなかったのであります。ところが予想に反してあまりにもユルユルの監査だったために安心しきってしまい、2年目には約2倍、3年目には約3倍もの架空売上、架空利益を工作し、エスカレートしていくのであります。また、単独工作をもくろむも、粉飾が第三者に発覚してしまい、取引先に粉飾の協力者を得て、そこで集中的に繰り返されるという事態となるわけでありまして、「不正を行う機会の存在」というものも、監査法人の対応の変遷や手数料稼ぎに誘惑されたり、取引打ち切りをおそれてやむをえず粉飾に手を貸す外部協力者の誕生など、外部環境の変遷に起因するところのほうが影響度が大きいのではないかと考えております。また、「動機」につきましても、IT関連企業に限らず、上場後は株式時価総額の上昇へのプレッシャーについては同じだと思いますし、経営環境の変化に由来する「動機、プレッシャー」のほうが大きいのではないかと推測いたします。

勝間さんが指摘されているように、今後は内部統制報告制度の施行等により、こういった不正のトライアングルの示す条件が整いにくい経営環境となり、粉飾リスクが低減されるような状況になればいいのでありますが、企業は生き物であり、上記のような動的な変化によってどんな企業でも会計不正が生まれる要因を持っている以上は、少数株主権の確保、内部通報制度(ホットライン)の充実、社外取締役の増強、業務監査の強化などなど、コーポレートガバナンスの基本的な制度の充実によって、不正のトライアングルの条件が整った場合でも会計不正が生まれにくい体質を強化する必要があろうかと考える次第であります。

5月 12, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年4月11日 (金)

講談社、社外調査委員会報告書にみる「コンプライアンスの脆さ」

奈良母子殺害事件の少年鑑定に従事された精神鑑定医師の秘密漏示罪(刑法134条1項)被告事件の第一回公判が4月14日に開廷されますが、これに先立ち、講談社HPより「『僕はパパを殺すことに決めた』調査委員会報告書および、この報告書に対する講談社のコメントが公表されております。調査報告書は46ページにわたるものであり、また1ページの文字数が非常に多いために、相当の大作でありますが、その内容はじっくり読むに値するだけの興味深さであります。この週末、企業コンプライアンスに関心をお持ちの方には、ご一読をお勧めいたします。また、この調査報告書も、総務、法務部等におかれましては、「自社が講談社の総務、法務部であれば、この出版を止めることができたか、たとえ止めることができなかったとしても、起こりうる重大な事業リスクへの対処ができたかどうか」を検討してみてはいかがでしょうか。お読みになればおわかりのとおり、この調査報告書はいろいろな論点を含んでおります。表現の自由とプライバシー権の関係(刑事と民事)、秘密漏示罪の構成要件該当性、取材活動と少年法の関係、医師の守秘義務とは?、出版社の取材源秘匿と公権力の介入などなど、数えだしたらきりがございませんが、当ブログの性格から挙げるとすれば、講談社という企業のリスク管理が最も大きな論点であります。なお、この調査報告書は調査委員の意見もふんだんに盛り込まれておりますので、こういった論点を議論する礎にもなろうかと思われます。(しかし著者がこの報告書をお読みになったら、かなりムッとされるのではないかと・・・)

年間の発刊数が300冊以上を越える講談社の学芸局でありますが、局長(責任者)はこの「僕はパパを・・・」(以下、本書といいます)については、出版にあたってはかなり大きなリスクがあることを認識されていたようであります。他の出版物とは異なったリスク評価を行ったわけで、これをそのまま出版すべきかどうか「いちおう」法務部に相談するように指示を出しておられます。しかし法務部に相談があったのは、すでに発刊予定の1週間前であり、法務部としても顧問弁護士とともに検討を行ったのでありますが、その検討内容は「この本を世に出していいかどうか」ではなく、「世に出した後、どのようなリスクが当社に発生するか」という点からスタートした、とのこと。

さて、これを読まれて、「法務部はなんとだらしないのだろう。こんなのじゃ、法務部への問い合わせなんて、単なる責任逃れのための理由付けにすぎないじゃん」と評価するのは簡単かもしれませんが、では、実際会社の存亡をかけるような営業活動において、社内のほとんどの人たちがゴーサインを待っているような状況のなかで、「ゴーサインは出せません」とノーを突きつけられる法務部員はどれほどおられるでしょうか?講談社の局長さんの「とりあえず」「いちおう」法務部の意見を聞いておいてくれ、なる対応は、社内における法務部の位置付けがなんとなく透けて見えるような気がいたします。また、「社内の異議」なる小見出し(23頁以下)のもとで、社内で公然と本書発刊に異議を唱えたのは、「動物的カン」をもった週刊誌編集長だけであった、とされておりますが、最終的にはこの異議も無視されて出版に至ったものであります。以前、関西テレビあるある大事典捏造事件の調査報告書においても問題にされておりましたが、番組下請会社で捏造が発生していなかった時期があり、それはある特定のプロデューサーが存在していた時期だった、とのことでありました。こういった事件の真相からすれば、社内でコンプライアンス経営が根付くことは本当にむずかしく、真相は特定個人の類まれな「コンプライアンス才能」に依拠しているにすぎないのかもしれません。

とくに、この調査報告書に3回登場される、週刊誌担当の編集長の位置付けは非常に特徴的であります。けっして「コンプライアンスおたく」のような頭の固い人ではなく、「読者におもしろい、好奇心をそそるような話題にはどんどんつっこめ!だけど「ここから先はやばい」というバランス感覚は身に着けろ」といった、「動物的カン」をお持ちの方のようであります。講談社においては、こういったバランス感覚豊かな方がいたにもかかわらず、発刊に至ったわけでありますが、こういった感覚をやはり経営トップにお持ちいただくのがもっとも幸福な企業の姿なのかもしれません。(弁護士という立場からは、この報告書の内容につきまして、たくさん書きたいこともございますが、とりあえずブログの性質上、上記の点のみに限らせていただきました。また公正を期するために、調査書に対する講談社側の意見書も読まれたほうがよろしいかと思います。)

4月 11, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (12) | トラックバック (1)

2008年1月 7日 (月)

法令遵守体制を担保するものとは?

新年のご挨拶のコメントのなかで、tetuさんより「コンプライアンス」の訳語統一に関するご要望がありました(tetuさん、今年もよろしくお願いいたします)tetuさん曰く、

・・(略)それと、お願いですが、コンプライアンスの訳語統一を図っていただきたいとずっと思っています。最近というか一部にコンプライアンスの定義をどんどん広げる考えが強まっています。理念的には同意できるところもあるの