2019年7月23日 (火)

恥ずかしながらTVニュースの取材を受けました(吉本興業の件)

弁護士会に近いところからのご依頼ということで、本日NHK(関西ローカル)のニュース番組(ほっと関西)の取材(吉本興業HDによる一連の対応の件)を受けました。関西以外の方は御覧になれないので、すぐに消えると思いますが出演ニュースを貼り付けておきます。取材では1時間半のインタビューでしたが、番組を視ると1分半程度しか出演していませんので、言いたいことの半分もテレビでは言えてません。宮迫さんや田村さんが「記者会見はネットを使ってライブでやることを会社に要望していた」とおっしゃっていましたが、(編集のコワさを知る者として)その要望は当然に出てくるものと思います。

吉本興業の一連の企業対応について、企業コンプライアンスの視点から語るポイントはたくさんあります。ただ、主なものは①企業のリスクマネジメント、②宮迫氏、田村氏らへの会社関係者の対応の違法性(パワハラ問題)、③口頭による諾成契約という長年の慣行の是非、というところかと思います。あまりマスコミで報じられていませんが、吉本興業と芸人の方々との諾成契約の法的性質の内容はどういったものなのか、という点は重要です。一般企業の従業員と同様、吉本の芸人の方は吉本興業との間で指揮命令関係が成り立つのであれば「パワハラ」と言えそうです。ただ、いわゆるフリーランスとして取り扱うのであれば、両者間の契約は「業務委託契約」に近いものですし、脅迫めいた言動があったとすれば独禁法上の「優越的地位の濫用」として違法性を帯びると考えたほうが実態に合っているのではないかと(公正取引委員会の最近の考え方にも近いはず。記者さんにも同様の説明をしましたが、たぶん一般向けの解説としては難しいのでカットされたようです)。

本日の釈明会見では「(宮迫さんに対する)契約解消を撤回する、というのは、どういった根拠に基づくのか」と記者に質問され、岡本社長さんは答えられませんでしたね。たぶん、会社と芸人の方との契約は、上記のように長年の慣行に基づく口頭での諾成契約・・・というものなので、よくわからないのが正直なところではないでしょうか。こういった「口頭による、あいまいな内容の契約」だからこそ、芸人の方々にも都合がよかった面もあるかもしれません。しかし、吉本興業が反社会的勢力との断絶を徹底する、というのであれば、(接触を100%防げるものではないので)反社会的勢力との癒着が疑われた場合の当該芸人さんへの会社対応を明確にしておく必要があります。また、芸人さんたちが食べていけない場合に、兼業や副業(直営業?)も認めることが「芸人ファースト」だとするならば、芸人さん方の権利を守る必要もあります。そのためには、もうそろそろ第三者を交えて「契約書の標準ひな型」を作成して、数千人の芸人の方々と書面による契約を締結すべき時期に来ているのではないでしょうか(いや、書面契約にすると諸々の不都合なこともあるのは重々承知しておりますが・・・)。

本日の岡本社長さんの会見を視ていて「Q&Aのリハーサルはしたのだろうか」と疑問に感じました。宮迫さんは「会社主導の録画による引退会見」を拒絶したとおっしゃっていましたので、社長ご自身の会見は万全の準備のもとで行われるものと予想しておりました。しかし、当然に予想される質問への回答の様子などを拝見していて、どうも準備不足だったように感じられました。なお、これは私見ですが、吉本興業におけるトラブル解決の方法としては、良い悪いは別として「村の長老によるあっせん、仲裁」が、現実には最適解と考えています。社長の会見で、著名な芸人さん方の解決提案がエピソードとして語られていましたが、当該提案内容は(さすが有事に何度も直面しておられるからなのか?)まさに最適解のリスクマネジメントの知恵だと感じました。芸人として有能な人たちは、リスク管理の面でも鋭い感覚をお持ちのようです。

NHKによる取材後、クルーの皆様に「そういえばNHKから国民を守る党が一議席確保しましたよね!これからNHKの党首討論には『N国』の党首も登場するのかなぁ・・・」と(独り言のように)つぶやいたところ、聴いていないフリをしておられました。(*´Д`)

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2019年6月25日 (火)

吉本興業「闇営業」事件-コンプライアンスを前向きに考えよう

反社会勢力(特殊詐欺グループ)のパーティーに、会社を通さずタレントが出席していたとして、吉本興業さんは6月24日、パーティーに出席していた所属タレント11人を謹慎処分にした、と発表しています(詳細に報じる毎日新聞ニュースはこちらです)。「なんで芸人の世界にまでコンプライアンスがうるさくなったの?そんなの昔からあったはずでは?」「お笑いの世界にまでコンプライアンスなど言ってたら笑えなくなるよ」といったご意見が出てくるのも当然かと。しかし、時代の流れを考えますとやむをえない部分もありますし、また企業として「前向きに」考えたほうがよいと思われる部分もあります。

1 サプライチェーン・コンプライアンス

東京証券取引所が上場会社向けではありますが「企業不祥事予防のプリンシプル」を公表しており、その原則6ではサプライチェーン・コンプライアンスを推奨しています。上場会社は取引先や下請会社のコンプライアンスにまで目を配る責任がある、ということなので、たとえばテレビ局やCMスポンサーとしては、所属タレントの不正を放置している企業と取引するわけにはいかない、ということです。会計不正事件に発展したオリンパス事件が騒がれたきっかけは、海外メディアが「反社疑惑」を大々的に報じたことでした。とりわけ海外では反社会的勢力との癒着問題が大きく社会的信用を毀損することを考えますと、吉本興業さんとしては徹底して自浄作用を発揮する必要があります。

2 不正はバレる

ご承知のとおり、昨今の不正・不祥事は、スマホによる動画、録音がSNSやマスコミを通じて拡散します。「噂話」なら隠し通せるものも、友人・知人の申告による「決定的な証拠」でバレてしまう時代になりました。また、いったん疑惑が浮上すると、今度はフォレンジックスの発達によって、消したメールや画像でも容易に復元でき、不正調査の精度は格段に向上しています。

加えて「〇〇ペイ」をはじめとするフィンテックの発達で、不正調査では「お金の流れ」を容易に把握できるようにもなりました(お金は受け取っていない、と証言しても、バレる可能性は高いはず)。したがって、私的なスマホやPCを任意に提供しないとなると、それだけで自己に不利益な事実を認めたものと認定されてしまいます( へたをすると口裏合わせをしたことまで証拠物として上がってきます)。もはや不正は仲間うちで墓場まで持っていける時代ではなくなったといえます。

3 商品の品質から企業の品質の時代へ

かつて行政による事前規制主流だった時代には、消費者保護のために「新商品の品質」は個々に厳しくチェックされるのが当然でした。しかし、規制緩和政策が進み、生産者に寄り添う行政から消費者に寄り添う行政へと変わり、事後規制主流の時代になります。すると、企業はできるだけ多くの商品を消費者に提供できるようになり、品質が粗悪な商品は消費者の使用感やレピュテーションで淘汰される傾向が強まってきます(その代わりに、市場で爆発的に売れる商品が、行政や企業の過剰に保守的な判断で眠ってしまう可能性が低下します)。そして、粗悪な商品によって消費者が被害を被らないよう、「企業の品質」で商品の品質を(一定程度ではありますが)担保します。この企業の品質を維持することこそ「コンプライアンス」です。

もちろん、吉本興業さんの場合にはタレントの方々が商品ではなく、タレントさんの提供するサービスが商品ですが、消費者の目の前にできるだけ多くの若手タレントを輩出することができれば、それだけ爆発的に売れるタレントさんが生まれる可能性は高まり、将来収益への期待も上がります。そのためには吉本興業という企業の品質を向上させることで、所属タレントさんのサービス提供に(最低限度の)お墨付きを付与しなければなりません。つまり、吉本興業という会社は、コンプライアンスの向上こそが持続的成長に不可欠、ということになります。平時のコンプライアンス経営に失敗すると、今度は行政機能の一翼を担う(たとえばひとりひとりの芸人さんのチェックを警察に代わって会社が行う等)ことで信用を回復しなければならず、企業経営の効率性は低下します。

つまり「時代が変わったんだからコンプライアンス経営もしかたがない」という後ろ向きの姿勢も理解できるのですが、「コンプライアンス経営を推進すればするほど儲かる」という前向きな姿勢で経営をすることが大切であり、エンターテイメント業界以外の会社でも、同様の発想でコンプライアンス経営に臨んでいるのが現状です。

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2019年2月28日 (木)

指名委員会委員である取締役の善管注意義務について

大手スーパーのいなげやさん(東証1部)の自浄作用が半端ないです。内部通報に基づいて社内規則違反に及んだ3名の従業員の不正が発覚したのですが、当該3名に対する懲戒処分、そして監督責任として専務取締役さんに対する解職決議(→取締役辞任)だそうです。そしてこの不正を公表した理由は「公正な調査を実施するため、および関係者の隠蔽を防止するため」とのこと。うーん、なかなか厳しい・・・。(ここから本題)

昨日に引き続き、独立社外取締役に関する話題です。株式会社LIXILグループさんが2月25日に開示した「当社代表執行役の異動における一連の経緯・手続の調査・検証結果について」を読みました。すでに多くのメディアが取り上げているLIXILグループさんの経営権に関する話題なので、事例はご紹介するまでもないと思います(なお、この会社は指名委員会等設置会社です)。

機関投資家などのステイクホルダーから「CEO交代の経緯が不透明である」との指摘を受けて、監査委員会が主導して調査を行い、その結果を開示した姿勢は評価できます。おそらく社内では開示するにあたっては相当に葛藤があったと思いますが、一連の事実経過は、かなり詳細に記述されているようです。元CEOの退任の意思表示には(まちがった情報に基づく錯誤があるため)瑕疵が認められ、意思表示は無効ではないか・・・との疑問が呈されていました。しかし、この調査では、認定した事実をもとに「無効と言えるほどの瑕疵はない」と判断しています。

元CEOの方の意思表示の有効性、その意思表示を前提とした取締役会の決議の有効性といった論点は、先例などを参考とした法律的判断を伴うものなので、ここでは私的な意見を述べることは控えます。ただ、この調査結果が正しいとしますと、指名委員会を構成する5名の取締役さんが(当時)何をしなければならなかったのか・・・という点が次にクローズアップされることになると思います。この「一連の経緯・手続の調査」は、事実経過と機関決定の有効性に焦点を当てておりますが、指名委員会や取締役会に出席していた取締役が善管注意義務・忠実義務を尽くしていたかどうか・・・という点は調査範囲外のようです。

(審査の対象となる)CEOの方が、本当に自分から退任する意向を示しているのかどうか・・・、これをどうやって確かめようとしたのか、たとえば確かめるにあたっては指名委員会の誰が代表でヒアリングするつもりだったのか、取締役会当日、当のCEOは退任に反対の意思を表明しているにもかかわらず、「あれ?話が違うんじゃないの?」ということで、指名委員会による再協議を誰も申し出なかったのか(ちなみに指名委員会は執行役の選解任を拘束しないのが会社法のルールですが、LIXILさんでは事実上の慣行として執行役の選解任の決議も拘束していたそうです)、時間を巻き戻して考えてみると、いろいろと疑問が生じてきます。

CEO交代を決する取締役会の決議の前に、(やむをえない事情があったそうですが)指名委員会委員であるお二人の社外取締役さんが帰ってしまったという生々しい事情も記述されていますが(*´Д`)、もしこのような会社の有事に直面した場合に、指名委員である取締役に求められる善管注意義務とは果たしてどのような行動なのか・・・、とても考えさせられる事案だと感じました。このたびのコーポレートガバナンス・コードの改訂は、まさにこのような場面を想定して取締役会の監督機能の強化、経営トップの選解任手続の透明化を求めているはずです。見方によっては「やっぱり社外取締役なんてお飾りだよね」と言われてしまいそうで心配です。さて、このリリースを前提として、機関投資家の方々は今後どのような対応をされるのか、興味は尽きません。

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2019年2月27日 (水)

上場子会社の独立取締役は厳しい仕事ですよ!(ホンネです)

本日(2月26日)の日経朝刊に、「上場子会社に独立取締役-政府、未来投資会議で新指針、少数株主の利益保護」なるタイトルの記事が掲載されていました。政府が株式市場に親子上場している企業グループの利益相反を抑える仕組みを新たに作る、として、経産省の企業統治実務指針の整備(予定)を紹介しています。2年ほど、上場子会社の独立社外取締役(セブン&アイグループ⇒ニッセンHD 50.6%→100%)を経験した者としてひとこと。

まず、なんといっても上記記事にあるとおり「少数株主保護」という明確な目標のもとで経営戦略に参画します。とくに「100%子会社になることよりも、51%を大株主が保有している状況で上場を維持するほうがシナジー効果が高い」ということが説明できるかどうか、常に考えておりました。100%子会社化したほうが機動性、効率性の面で高いパフォーマンスを発揮できるのであれば子会社上場している意味はないわけでして、従業員の意欲や取引先との関係、親子間の業種の差異など総合的に判断して「少数株主にも株式を保有するメリットがあります」と確信してもらえるかどうか、つねに独立社外取締役としては配慮する必要があります(なお、これは業務資本提携によって子会社化された場合の話でありまして、もともと親会社の一部だった事業を諸事情によって分社化した場合には状況がやや異なりますので念のため)。

つぎに親子間の利益相反の排除ですが、これは上場している子会社だけでなく、非上場で少数株主が存在する会社でも同様の問題が生じます。当然のことながら、親会社は子会社に対して利益相反的な注文をつけてきますので、少数株主の利益が不当に阻害されないかどうか、慎重な配慮が必要です。子会社が育てたビジネスの芽が伸びてきたときに、いきなり親会社にとられてしまうようなことは典型例です。以前であれば「うーーーん、まぁ、短期的にみたら子会社に損失が出るけど、中長期的にみればグループ全体の利益向上には資するのだから、まあしかたないか」といった思考過程で経営判断を下すこともありえたかもしれません(平成24年の日産車体株主代表訴訟あたりも参考にして、そのように考えていたように思います)。

しかし、親会社が上場しているケースでは要注意です。昨今の企業統治改革の影響で「資源の最適配分が求められるなかで、いつ売却されてしまうかわからない」というのが上場子会社の置かれている状況です。親会社にも多数の社外役員が存在するわけで、最近は「親会社の攻めのガバナンス(選択と集中の推進)」という理由で(機関投資家の後押しもあって)子会社はいつグループ外に押し出されてもおかしくないのです。たしか今回の経産省実務指針でも推奨されていたと記憶しています。そうなりますと、「短期的には損だけど、中長期的には・・・」といった悠長なことは、子会社の社外取締役も言ってられない状況であり、短期的に子会社に損失が出る利益相反行為に対しては(少なくとも独立取締役は)断固たる姿勢を貫く必要があります。そうでなければ少数株主への説明責任は尽くしづらいでしょう。合理的な説明に失敗すると、利益相反行為自体が、会社法では「特定株主への利益供与」とみなされて刑事・民事責任を追及される可能性も残ります。

そしてなんといっても企業統治改革の影響で、シナジー効果が得られない場合には、常に親会社による子会社の統合(合併や株式交換)、非上場化の可能性も考えておかねばなりません。現実化しますと上場子会社の独立取締役にとってはまちがいなく「有事」です。他の仕事を放置してでも(?)少数株主保護のための様々なプロセスを主導(「関与」ではありませんよ!「主導」ですよ!)しなければ代表訴訟のリスクにさらされることになります。統合を決議する臨時株主総会が終われば「やれやれ」などという甘いものではありません。どんなに統合比率を高めるために頑張ってみたとしても、賠償責任に関する消滅時効の期間が経過するまでは(自分が退任した後の会社がD&O保険をかけ続けてくれることを祈りつつ→私の場合は、会社との間で保険をかけ続けてくれることについて契約書を作成しました・・・)「一定の覚悟」は保持しなければなりません。いや、ホント、上場子会社の独立取締役は(まじめにやればやるほど)つらい仕事であります。

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2018年10月19日 (金)

続・KYBの不祥事公表の姿勢-私は(やっぱり?)評価したい

昨日に引き続き、KYB社の免震装置偽装の件です。データが改ざんされた装置の交換には2年を要するとのことが報じられ、また株価についても東証1部最大の下落率となるなど、不祥事が経営に及ぼす影響は甚大なものとなっています。

ただ、コンプライ堂さんのコメントで初めて知りましたが、KYBさんは3年前の自動車部品カルテル事件でDOJから罰金の減額を受けていたようです。私も調べましたが(JCAジャーナル2016年6月号 51頁以下)、たしかに日本企業ではめずらしくDOJ(米国司法省)から「社長が率先して調査に協力したこと、コンプライアンス・プログラムの将来にわたる有効性が確認されたこと」を主な理由として罰金の減免を受けています(連邦量刑ガイドライン最大2億700万ドルのところ、6200万ドル)。なによりも、KYB社の経営トップの方がコンプライアンスを経営の最優先事項としたことが評価されています。

このJCAジャーナルの論稿でも解説されていますが、単に過去のコンプライアンス・プログラムに沿った対応が行われたとしても減額を受けることはできませんが、将来にわたるプログラムの内容が秀逸で、これを実行できる体制が認められた場合には減額もある、ということのようです。

「経営の最優先事項だったら、今回のような不正は撲滅されていたはずじゃないのか?」との批判もあり得るところですが、昨日のエントリーでも書きましたが、やはりKYB社の有事対応については(組織ぐるみでないかぎりにおいては)一応評価できるのではないかと思いますし、これからのステイクホルダーとの向き合い方についても誠実性が期待できるのではないでしょうか。

ただ、コンプライ堂さんやskydogさんもおっしゃるように、東洋ゴム工業さんの免震偽装事件が発覚した際、リスクの重大性を認識して「うちも大丈夫か?」とはならなかったのでしょうか?東洋ゴムさんもグループ総売上のうち、わずかな売上を占める部署で発生した不祥事でしたので、状況はKYB社と同様です。グループの小さな部署で発生した不祥事が、グループ全体の信用を毀損し、著しい損害を発生させてしまうリスクについては危惧していたところはあったのではないかと。どこの企業にも、同じようなリスクは潜んでいるような気がいたします。

グループ経営管理は、とてもゼロベースでリスク管理を考えることができない・・・ということを前提としますと、毎度申し上げておりますとおり「不祥事はかならず起きる、起きた時にどう対応するか」という点にも十分な資源を配分する必要があると思います。あの「ジャパネットたかた」さんでも法令違反に至る時代です。「有事において何を最優先で守るべきか」、平時のうちから経営陣で検討すべきです。

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2018年10月18日 (木)

KYBの不祥事公表の姿勢-私は(条件付きで)評価したい

(18日午前 更新)

すでに報じられているとおり、部品メーカー大手のKYB社(及び同子会社)が、建物用免震装置の検査データ偽装を公表し、大きな騒ぎになっております。19日には該当建物名の公表が予定されているそうですが、改ざんは20年近く続いていたこともあり、同社が大きな社会的批判を浴びることも当然のことと思料します。国交省認定基準に反するデータ偽装であったこと、大手ゼネコンをはじめ、関係先に「先に知らせなかった」こと、補償が求められる可能性が高いこと、そして公表時に全容が判明していないことからも、株価が急落して当然なほどに重大な不祥事です(国交省のリリースはこちら)。

グループ経営管理は企業統治改革の中でもホットな課題ですが、KYBグループ全体のわずか2%程度の売上にすぎない免震装置事業がグループの信用を失墜させるとなれば、今後ますますグループ・ガバナンスに関心が向けられることになりそうです。

ただ、不正を知った社員が上司に報告をしたことによって社内調査が先行したものである、つまり、同社が自浄作用を発揮して不正公表に至った当社の姿勢については(被害者の皆様からのご異論は承知のうえで)一定の評価をしたい。不正に手を染めていた人が申告をした・・・というわけではなく、不正に関する会話を聞いていた社員が上司に報告をした、ということのようなので、偶然といえば偶然に発覚したということですが、それでも経営トップは正直に国交省へ報告したわけですから有事対応としては「ステイクホルダーを重視した」と言えるようにも思えます。

(18日午前 追記)なお、18日朝にテレビニュースで紹介された「社員と上司とのやり取りを録取したデータ」を聴いたかぎりでは、会社側が「このままだと社員が内部告発に至るかもしれない」と感じたことが公表の原因かもしれません。

最近、海外の機関投資家から「この会社は不祥事が起きた時、止める力はあるのか、誠実に不祥事に向き合う姿勢はあるのか、そのように言える理由はどこにあるのか」と質問を受けることがあります。もちろん不正はないことが望ましいわけですが、そうはいっても競争している以上はかならず不正(もしくはコンプライアンス上の問題行為)は起きます。そういった意味では、起きたことへの向き合い方は大切です。

なお、評価にあたっては一つ条件があります。「組織として不正隠しを行ったものではない」という点が明らかになることです。神戸製鋼さんの事件発覚のときにも同じことを申し上げましたが(そして、残念ながら予想が当たってしまいましたが)、20年近くもデータ改ざんが続いていたということは、本当に経営陣は知らなかったのだろうか・・・という点について、合理的な理由によって疑念が払しょくされることが条件です。今後は第三者委員会による調査が進むはずですが、この「組織的関与」という点がステイクホルダーにとっても最大の関心事ではないかと。

たとえば①品質管理、品質保証部門の責任者の方が、その後に親会社役員に就任していた場合、②世間でデータ偽装が問題となり始めた2年ほど前から今回の発覚に至るまで、データ改ざんの有無に関する独自調査を行っていた場合、③親会社と子会社で同時期に同種のデータ改ざんが行われていた場合、④改ざん方法が歴代の担当者間で類似している場合などは、組織ぐるみの改ざんと評価されるような事情はなかったのかどうか、慎重な調査が必要です。リスク認識が甘かったことも問題ですが、それは内部統制の不備と評価されます。リスク管理は十分にできていて、内部統制も整備されていたにもかかわらず、なぜ内部統制を無視、無効化したのか・・・、こういったことを裏付ける事実が明らかになった場合には、「組織ぐるみ」「経営者関与」といった評価につながりますので要注意です。

追記

今朝のテレビ報道で、社員と上司とのやり取りを録音したデータが公開されていました。「もうこんな不正にかかわるのは嫌だ」と上司に訴える社員、「まあ、不正と言われれば不正かもしれない」と回答する上司のやりとりはぜひ多くの人に聴いていただきたいと感じました。

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2018年9月 8日 (土)

スルガ銀行不正事件を「他山の石」とするためのコンプライアンス上の視点

昨日(9月7日)に公表されましたスルガ銀行第三者委員会報告書をもとに、近々金融誌に論稿を発表させていただきます。特集における何名かの執筆者のひとり・・・ということなので、私はガバナンスやコンプライアンス、内部統制の視点から・・・ということになります。

ということで、第三者委員会報告書の内容について、このブログではあまり論及しませんが、本事件を謙虚な気持ちで(自戒をこめて?)「他山の石」とするためには、当該第三者委員会報告書の内容だけでなく、同行を取り巻く過去と未来にも関心を寄せる必要があると考えます。

たとえばちょうど1年前のこちらの記事などは、スルガ銀行のすばらしいガバナンスが地銀トップの収益力をけん引している、と紹介しています。私は決して揶揄するつもりではなく、本当にこの記事を読めばスルガ銀行は非の打ちどころのないコーポレートガバナンスを構築しているように思います。もちろん、昨年の時点において不動産収益ローンの問題点を指摘する方々もいらっしゃいましたが、おそらく「事業リスク」としては取締役会でも議論されていたとしても、「不正リスク」としては把握できなかったのかもしれません。

いま流行の「取締役会の実効性評価」を行えば、同行はまず間違いなく日本の上場企業の中でもトップクラスの評価ではないでしょうか。著名な美術館を建築して地元に多大な貢献をしている創業家のもとで、著名な社外取締役らが次世代のスルガ銀行の経営戦略、経営方針の決定に向けて激論を交わしているということについては、まさに他社が模範とすべきガバナンスといえます。東洋経済さんの役員報酬ランキング2018でも会長さん、社長さんらが上位に名を連ねているのも、インセンティブ報酬礼賛の折、この業績からみれば当然のように思えます。

ただ、現実のスルガ銀行さんの資金利益の内実は第三者委員会報告書のとおりなのですから、コーポレートガバナンス・コードが理想とする「執行と監督の分離」(モニタリングモデルによる取締役会改革)の問題点が浮き彫りになったのではないでしょうか。スピード経営を重視して、現場への権限委譲を進めるガバナンス形態には、なにかが足りなかったのではないかと。

そしてもうひとつが同行を取り巻く未来です。同行の不正行為が明らかになった状況において、監督官庁がどのような処分を行うか、という点は極めて重要です。不正行為が明るみになったことで、不正に関与した者への個別的なペナルティを重視するのか、それとも過去の行為への制裁は別として、なによりも再発防止に向けた「組織としての構造的欠陥」への対応を重視するのか、という点です。ここ数年、金融行政における規制手法が大きく変化している中で、監督官庁はスルガ問題をどう受け止めるのか、その受け止め方に、現状の金融政策との矛盾は生じないのか、とても関心を抱くところです。

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2018年9月 7日 (金)

企業不祥事を見抜けなかった取締役・監査役の法的責任

台風や地震の影響について、多くの上場企業から適時開示が相次いで出されておりますが、皆様の会社ではいかがでしょうか。被災された方、事業所の皆様にお見舞い申し上げます。

さて、9月5日の朝日新聞朝刊「けいざい+(プラス)」では、オリンパス社の巨額損失隠し事件に関する裁判が現在も続いていることを報じています。不正を追及した元社長マイケル・ウッドフォード氏が取締役会で「不正の疑惑」を警告したにもかかわらず、元会長をはじめ多くの取締役らはウッドフォード氏を解任(解職)しました。その後、損失隠しの事実が発覚するわけですが、この取締役会でなんらの調査もせずに安易に解任に賛同した(とされる)取締役の方々には法的責任はないのか、という点が株主代表訴訟で争われています(東京高裁)。

当ブログでも過去にこの裁判を取り上げましたので、ここでは私自身の意見を再度コメントすることは控えます。ただ、こういった企業不祥事を見抜けなかったとされる取締役さんの法的責任は、いかなる場合に認められるのか・・・という点は、おそらく多くの方も興味を抱くのではないかと推察いたします。

この株主代表訴訟の一審(東京地裁判決)は、積極的に損失隠しに加担した役員以外の取締役の皆様には「善管注意義務違反なし」、つまり法的責任は認められない、と判示しています。もしご興味がございましたら、最高裁HPのこちらの判決全文をお読みください。具体的には168頁から178頁にかけて、かなり詳細な事実認定がなされており、参考になるところが多いと思います。オリンパス社の損失飛ばし事例では、当時責任調査委員会の報告書もリリースされ、そこでも責任判定がなされておりました。当該報告書の記載と比較して検討してみてもよいかもしれませんね。

9月7日はスルガ銀行さんの第三者委員会報告書がリリースされるそうですが、さて、取締役の法的責任にはどこまで言及されているのでしょうか(なお9月7日の午後3時半から、第三者委員会の記者会見が開かれるそうですね)。また週末にでも精読したいと思っています。なんだかものすごい分量の予感がしますが・・・(*´Д`)

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2018年7月11日 (水)

三菱自動車救済の裏で日産自動車の燃費データ偽装?

2013年4月から18年6月まで、日産自動車さんが子会社を含む5つの国内工場において(燃費、排ガスの性能に関する)抜き取り検査のデータ偽装を続けていた、と報じられています。無資格検査事件の発覚以上に、これは驚きました。朝日新聞朝刊記事によると、スバルさんの同様の不正があったことをきっかけに調査してみたら、当社でも不正が起きていたことがわかった、とのこと。おそらく日産さんは国交省の調査要請を受けていたので、スバルさんの件が発覚したことを機にかなり厳格な調査をされたのではないかと推測します。

しかし、以前にもご紹介した「不正の迷宮-三菱自動車」(日経BP社)の99頁以下を読みますと、軽自動車を三菱自動車さんと共同開発する中で、日産さんは(三菱の開発担当者から技術面でバカにされたことをきっかけに)三菱の燃費偽装を暴いたということのようですし、三菱の燃費偽装事件を契機に日産さんが救済出資に動いたことも事実です。そうであるならば、日産さんは2015年の秋の時点で「うちは燃費偽装については問題ないのか?」と調査に乗り出していても不思議はないと思います。もし三菱自動車さんの偽装を暴き、自社でも同様のことが起きていた、などと後でわかったらシャレにもならないはずです。でも、ホントにシャレにもならない事態となってしまいました。

抜き取り検査のおよそ50%でデータ偽装が見つかり、これはスバルさんの2倍だそうです。つまり相当の規模で偽装が行われていたようですから、そもそもなぜ三菱自動車の燃費偽装を暴いたときに、社内でも同様のことがないのか調査をしなかったのでしょうか。社内でドキドキしていた社員の方もいらっしゃったと推測されます。今後、設置されると思われる特別調査委員会の報告書において、ぜひこのあたりは(組織ぐるみと言えるかどうか、という点も含めて)詳細に解明していただきたいと思います。

なお、朝日新聞に記者会見の一問一答が掲載されていましたが、日産さんの工場のなかでも、ほとんどデータ偽装が発見されていない工場(日産自動車九州工場)があるそうです。なぜ偽装が多発していた工場と偽装が行われなかった工場に分かれるのか、このあたりの理由は、神戸製鋼さんのアルミ・銅部門と鉄鋼部門での偽装頻発状況の差にも通じるところであり、他社にとっても参考になるところかと思われます(詳しくはまた別途エントリーで書かせていただきます)。そもそも実効性のある監査体制を本気で構築する気があるのかないのか、そのあたりが分水嶺になったようです。監査の重要性を認識することができる事例といえそうです。

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2018年4月 3日 (火)

グループ管理、サプライチェーンにこそ不祥事の「根本原因」がある

当ブログにお越しの方々はすでにご承知のことと思いますが、日本取引所は3月30日付けで「上場会社における企業不祥事予防のプリンシプル」を公表されたようです(日本取引所のリリースはこちらです)。パブコメとこれに対する取引所の考え方もリリースされており、プリンシプルを理解する際に役に立ちそうですね。さて、皆様方の会社にとって、「不祥事の芽」とはいったいどのような事情を指すのでしょうか。

ところで、この予防のプリンシプルでは、原則5では「グループ全体を貫く経営管理」、そして原則6では「サプライチェーンを展望した責任感」について言及されています。原則1から4までとは少し毛色が違うような気もしますが、(これは個人的見解ですが)、このグループ管理とサプライチェーンにおける予防責任という点にこそ、不祥事の「根本原因」に迫るヒントが隠されているように考えています。

企業不祥事発覚時に組織される社内調査委員会、第三者委員会は、不祥事の発生原因をどうしても社内事情に求めたくなります。報告書をみても、組織風土や内部統制・ガバナンスの不全について、社内の状況を中心にまとめられています。しかし、過去に性能偽装事件や労基法違反事件、薬機法違反事件、カルテル、FCPA疑惑の調査に携わる中で、私は本当に不祥事の根本原因を追究するのであれば、グループやサプライチェーンの構造的な欠陥にまで踏み込む必要があると考えています。

たとえば、①親会社で労基法違反の疑惑が生じたので、当該業務をそっくり特定の子会社に移管して「ブラック企業」の評判を回避した事例、②社外役員の顔に泥を塗ることができないので、FCPA疑惑が生じる金銭支出についての判断を海外子会社の役員会に移行した事例(もちろん実質的な意思決定は親会社の執行部です)、③談合疑惑に巻き込まれないように、取引先中堅ゼネコンに談合をさせる大手ゼネコンの事例、④大手メーカーの受注調整(在庫管理)を最適化するために、「納期を守ること、欠品を出さないこと」を最優先事項として取引先に要求し、品質偽装等の不正を「やらざるをえない」状況を取引先に作出している事例など、数え上げたらきりがありません。

これらの行為を「リスク管理」と呼ぶ方もいらっしゃるかもしれません。また「こういった知恵を出すのが法務の仕事だ」とおっしゃる社長さんもいらっしゃるかもしれません。ただ、これでは何も変わりません。短期的には収益につながるかもしれませんが、長期的な企業価値を毀損することは明らかです。

よく「企業風土」とか「コンプライアンス意識」といったことが語られますが、(社員による私利私欲のための違法行為は別として)一社だけで完結する企業不祥事は少ないと感じています。まさにいま金融庁や取引所が語る「根本原因」にまでさかのぼる勇気があるのであれば、このグループとしての風土、サプライチェーンにおける不正防止の最終責任者の特定、という点こそ指摘しなければなりません(ただ、不都合な真実という意味で、誰も語ろうとしない領域かもしれませんが・・・)。今回の「不祥事予防のプリンシプル」を語るにあたり、この原則5と6については、そういった理解のうえで読み進める必要があると考えます。

 

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