北越はパンドラの箱を開けるのか?
(8月9日夕方 追記及び訂正あります)
このブログがホリエモンや村上ファンド騒動のとき以上にアクセスが増えておりますのは、おそらくコメントをいただいております「小僧さん」の存在が大きかったと思います。小僧さんが「休養宣言」をされましたが、おそらくいろんなところで小僧さんの噂が流れてしまっているはずですし、このあたりで暫くお休みしていただいたほうがいいかもしれませんね。(いろいろと盛り上げていただいて、本当にありがとうございました。m(。-_-。)mまた他の話題のときにもコメントいただければ、と思っております)
ということで、私の当初の予想も空しくはずれそうですが(王子と北越の和解的統合)、シロガネーゼさんがコメントされているとおり、ついに北越製紙の独立第三者委員会が買収防衛策発動の勧告決議を下した模様であります。(北越の独立委員会、買収防衛策発動を勧告)しかし勧告という用語も、本件では少しニュアンスが違うような気もしますね。独立委員会のホンネのところは、朝日ニュースから抜粋しますと
北越の独立委員会は「発動を決議する際は、必要性や影響を考慮したうえ、時期について適切に判断すべきだ」として慎重さも求めた。北越の取締役会は「独立委の判断を最大限尊重し、適切に判断していく」としている。独立委の佐藤歳二委員長(北越監査役)は勧告書を提出後、「実行(発動)しなくてもいい状況になれば、なるべくしない方が好ましく、慎重に考えて下さいとクギを刺した」と述べ、あくまで条件を満たしていると判断しただけと強調した。
とありますので、独立委員会では、あくまでも「条件を満たしているから、規則にしたがって勧告しただけ。できるだけ回避策も考えてください」といったところではないでしょうか。
しかしこのまま北越製紙はパンドラの箱(事前警告型買収防衛策の発動)を開けてしまうのでしょうか?買収希望者がグリーンメーラーでないことは明らかですし、防衛策を発動することによって株式の価値を毀損するおそれもあるわけで、ここから先の北越製紙の取締役には非常に高度な善管注意義務を負う状況が予想されます。また、今後の法廷闘争次第では、松下、東芝をはじめ、たくさんの企業で導入されている事前警告型の敵対的買収防衛プランの「切れ味」も問われることになるわけですから、注目度はいままで以上のものになってしまうことは想像に難くありません。こんな重大局面ですから、もうすこし激突回避作戦を練ることはできませんかねぇ(^◇^;) 株主への双方の説明の機会をルール化したうえで、TOB期間の延長をはかるとか。この防衛策発動に関してはどっちかが圧倒的に有利な状況にあるとはいえないと思いますので、おたがいにリスク管理の精神も肝要かと。
そんな悠長なことを言ってられる状況ではない、とお叱りを受けるかもしれませんので、すこしばかり事前警告型買収防衛策発動に関する法律上の問題点を検討してみますと、まず王子側にとっての最初の悩みは、どうやって北越製紙の買収防衛策の発動を差し止めるかですよね。北越の防衛策は新会社法に基づくものですから、基準日株主に対する新株予約権の無償割当による希釈化作戦です。(差別行使条件付き)今度の会社法で認められた「新株予約権の株主無償割当」を利用したものですね。(会社法277条~279条)この無償割当は、株式分割と同様、既存株主に不利益なシステムではありませんので、そもそも発行を差し止めることを認める条文は会社法には存在しないはずです。(会社法210条、247条は適用外)そうすると、北越製紙の防衛策発動を王子製紙は差し止めることはできないようにも思われます。この問題点は、昨年の夢真ホールディングスと日本技術開発との紛争と似ているところがあるように思います。あの紛争のときは日本技術開発の株式分割に対して、夢真が新株発行の差止ができるかどうか、(株式分割について、旧商法には発行を差止めることに関する明文規定がありませんでした)というところが問題でありまして、私は上村達男教授による意見書と同様、差止規定の準用(もしくは類推適用)でいけるという説に与しておりました。ところが東京地裁第8民事部(鹿子木裁判長)の判断では、「株式分割」には不公正な新株発行の差止請求に関する条文は適用されない、といったものでした。そういった判決(決定)例からみると、この新株予約権の無償割当というのも、ちょっと差止請求がしずらいのではないか、という不安がありますね。そうしますと、ほかには6か月以上、王子製紙が北越製紙の株主であるとして、北越製紙の取締役の違法行為差止請求権(会社法360条)を被保全権利として差止を求めるということが検討されるかもしれません。しかしこれも、発動すること自体が会社に重大な損害を与える行為だといえるかどうか、要件該当性の判断にすこし疑問が残りますし、どうなんでしょうかね。もうすこし争点をしぼって、王子製紙による統合提案の直後に事前警告型防衛策を取締役会で決議した点を問題にして、そもそも防衛策を導入したこと自体が会社に著しい損害を発生させるおそれがある、と構成したらどうでしょうか。(このあたりは、王子製紙の法務アドバイザーもしくは野村のアドバイザーの優秀な先生方が検討されるところではないかと思いますが)
いずれにしましても、事前警告型防衛策には上記のほかにも、たくさんの法律上の論点があります。平時導入か有事導入か、一方的に定めたルールに買収希望企業が従う合理性はあるのか、そもそもルールに従わないことだけで発動できる、といった要件は濫用的買収者にのみ限定的に適用されるものであって、市場再編型の敵対的買収者の場合には(グリーンメーラーと推定されるものではないから)適用されないのではないか、それ以外にも株主平等原則違反(差別行使条件について)、権限分配法理の適用の可否などなど。。。これらの論点が「てんこもり」の防衛策発動が、本当に司法判断の俎上にのぼるのでしょうか?パンドラの箱を開けたがっている人たちもたくさんいらっしゃるとは思いますし、来年の外国企業による事業再編型買収時代到来へ向けて本格的に日本企業が動き出すためにはそのほうがいいのかもしれませんが、「本当の企業価値」向上のためには、どっかで和解をしたほうがいいのではないか・・・・・と、まだ情けなくも和解説を希望しているところであります。(いつから私は「買収防衛策謙抑主義者」になったんだろう・・・・・また、防衛策発動が現実化する段階まで、つづく・・・・・・・・あっそうそう、相澤参事官と先週、お話したときに話題になりました「金融商品取引法における内部統制報告実務が会社法の会計監査人制度に及ぼす影響」とか、そろそろエントリーしたいと思っておりますので、という予告だけしておきますね。)
(8月9日追記)
北越製紙は日本製紙との提携を発表しました。ますます和解の道は遠のくようで、これは王子の身の処し方にも影響が出てきますね。
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