内部統制における退職給付債務問題
8月25日の日経情報ストラテジーニュースによりますと、(電通国際情報サービスが)日本版SOX法への対応整備を検討している上場企業300社への調査により、その32%の企業が「SOX法の求める最低限度の要件に合わせた対応」を検討しており、「業務改革や基幹システムの再構築をめざす」と答えた企業はその半分の16%しか存在しないということのようです。(50%程度の企業は対応未定とのこと)やはり内部統制システム整備への費用対効果といった面での一般企業の関心から考えますと、担当者レベルとしましては、どうしても「実施基準が示す最低限度の要件をクリアできる程度の対応でよい」との回答になってしまうのも、なんとなく理解できる気もします。しかし、これはちょっと一般企業の方々が、まだまだ内部統制報告実務の目的を十分理解されていないのではないか、との感想を抱いてしまいます。おそらく、こういった雰囲気が世間に蔓延してしまったことから、「これはマズイ」と実施基準の策定責任者の方々もお思いになったのではないでしょうか。それで、実施基準の作り直しという事態に至ってしまったのではないか、と私はひそかに推測しておりますが。(いえ、これは本当に私の単なる推測ですが・・・)私もこのあたりは講演で何度も申し上げている留意点であります。
そもそも、私の金融商品取引法上の内部統制報告実務に関する理解からしますと、こういった「最低限度の要件クリアでよい」という選択肢と「業務改革をめざす」という選択肢を二者択一に回答を求めること自体が疑問であります。すでに何度かエントリーでも述べておりますが、おそらく「統制環境」「全社的内部統制システム」といった概念は、今後の日本版SOX法の運用場面において大きな役割を演じるはずです。誤解をおそれずに申し上げますと、監査法人さんから「経営者が評価した統制内容は無限定に適切である」との証明をもらえるのは、企業が業務改革に取り組む姿勢が真摯であることが「統制環境」として評価されるためである、と考えられます。したがいまして、この「統制環境作り」といいますのは、なにも実施基準が公表されていないと対応困難、というわけではなく、現段階であっても、十分対策を練ることができますし、なによりも経営陣の方々の認識こそ「統制環境」の要件をクリアする第一歩だと思います。
きょう郵便で届きました「経営財務2784号」の24ページ以下で、会計コンサルティングファームの山口光男氏が「内部統制における退職給付債務問題(上)」のなかで、内部統制システム構築の原点についてお書きになっておられますが、これ、たいへん素晴らしい内容です。いまの日本企業がおかれている現状を認識して、内部統制報告実務がなんのために導入されるのか、その目的をまず第一に明確にされています。そして、その目的達成のために、内部統制の有効性評価方法はどうあるべきかを検討され、その評価分析としての具体的な問題のひとつに表題の「退職給付債務問題」を掲げておられ、非常に説得的であり、また応用のきく方法論を提案されておられます。ひさしぶりに内部統制に関連する論稿として、レベルの高いものを拝読した気分であります。また、私もこの山口氏の見解は大いに賛同するところであります。ちょっと会計士や税理士の先生方以外には、すぐに読める雑誌ではありませんが、もしどなたかお知り合いに「経営財務」をおとりになっていらっしゃる先生方がいらっしゃいましたら、その論稿だけでもお借りしてお読みいただくことをお勧めいたします。
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