2013年9月24日 (火)

社外取締役から見た「コンプライアンス経営とマネジメント」

本日(9月23日)の日経法務インサイドにおいて、委員会設置会社の数がわずか57社止まりであり、その原因は指名・報酬委員会に社外取締役が深く関与することを上場会社が嫌うこと、またそもそも企業経営の基本方針に関わるような重要事項を判断できるほどの社外取締役候補者が限られていることが理由として挙げられていました。

私自身、純粋持株会社や事業持株会社の独立社外取締役として(任意機関ですが)指名・報酬委員会の委員やコーポレートガバナンス委員会、投資リスク審査委員会の委員を務めさせていただいている立場からすると、少し違った意見を持っています。また、「社外取締役は一人でもそれなりに意味がある」と感じる場面もありますので、それらの持論はまた別の機会にお話することにして、本日は、社外取締役に就任して、上場会社のコンプライアンス経営についての考え方が自分の中で少し整理できてきましたので、その点についてオリジナルの図表を活用して若干指摘しておきたいと思います。なお以下のお話は、私が社外取締役を務める会社の具体的な経営判断事実とは何ら関係はございません。

Keieikanri004まず私が社外取締役に就任して痛感しているのは「経営判断のスピードはものすごく速い」ということです。大企業であれ、中小規模の会社であれ、他者と競争するうえで、このスピード経営はもはや否定しようがないです。本業を別に持つ身として、下手をすると、なにも準備もせずに賛成のための手を上げないといけないことになる可能性があり、これは受託者責任を負う社外取締役にとっては絶対に回避しなければなりません。

このスピード経営を頂点として、リスク管理や経営の透明性(利害関係者への説明責任)を置きますと、これらはコンプライアンス経営を語るにあたり「トレードオフの関係」に立つことがわかります。そこに「トライ&エラー」「社外取締役制度」「安全思想・安心思想」とありますが、これらはトレードオフ関係に立つ二者の調和を目指すための調整弁の一例を示したものです(なので、これだけに限るわけではありません)。たとえばスピード経営を重視すれば株主の一般利益の代弁者としての社外取締役制度が重宝されることになるのですが、透明性のほうを重視するのであれば、「株主との対話」という調整弁が機能するために、「開示統制」が課題となります。

リスク管理においても、十分なリスクを検討したうえで経営判断を下していてはスピード経営の実効性が落ちます。平時のリスク管理を有事の危機対応で補う関係を構築しなければ(トライ&エラーの理屈)、競争に負けてしまうという感覚です。みんながリスクをとらないように稟議制を重視したり、社内慣行を重視したりしていては有事の知恵も生まれず、後ろ向きのリスク管理に終始してしまいます。また当ブログで何度もお話しているように、リスク管理は人の能力に左右されます。人的資源、物的資源において他社に負けてしまう企業は、これを企業の自律的行動によって(いかにして外部に安心を提供できるか?)補完しなければなりません。どのように補完するかは頭の使いよう(知恵)です。

以前はコンプライアンスといいますと、管理部門の担当者に任せておけばよかった(「法令遵守」がメインテーマであれば「知識」が幅を効かせていた時代)わけですが、事後規制社会への変遷、グローバル競争におけるCSR経営思想への転換といった中で、「持続的成長に向けた、社会的要請への対応」と言われる時代になり、もはやコンプライアンスは「法令遵守」だけに限られず、「経営者の知恵」にも支配される領域となりました。いわば現場と経営執行部との協働が求められる領域です。

また、コンプライアンスはブレーキではないと私自身は考えていますが、たとえブレーキだとしても、その「ブレーキ」はなかなか踏めない(誰が社長の戦略に「それは間違いだ、中止せよ」と言えるのか?)のが日本の企業だと痛感しています。ブレーキを踏むことも、日本においてはブレーキを踏んだ者がリスクを背負う、立派な前向きの戦略なのです。

競争の中で企業価値を上げる「コンプライアンス」は、上図のとおりトレードオフの関係に立つ問題をどのように処理していくのか・・・、その調和方法を自らの頭で考えなければ「思考停止のコンプライアンス」となります。その弊害は、効率性(費用対効果)、または有効性(社会的信用を毀損させる不祥事の発生)に問題が生じる、という形で現れます。これがマネジメントに関与する立場からコンプライアンスを眺めるようになった者の印象です。

9月 24, 2013 コンプライアンス体制の構築と社外監査役の役割 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月26日 (火)

韓国の上場企業にコンプライアンス・オフィサーの制度化決定

昨年10月の「街場のコーポレート・ガバナンス改正素案」なるエントリーにて若干ご紹介いたしましたが、お隣韓国の会社法改正におきまして、一定規模の上場会社に対して遵法支援人(遵法監視人-いわゆるコンプライアンス・オフィサー)制度が導入されることが決定したそうであります。すでに国会で可決され、制度施行は来年(2012年4月)だそうであります。これまでも金融機関においては義務付けられていたのですが、今回の法改正により、大規模な上場会社にも制度が義務付けられました。改正会社法では、一定規模以上の上場会社に対して、遵法支援人を1名以上置くようになります(常設だそうです)。遵法支援人の資格要件としては、弁護士、法科大学院教授等の法律専門家となっています。

遵法支援人制度の詳細はまだわかりませんが、これまでの金融機関における遵法監査人制度は、2000年に銀行法23条の3第2項、資本市場と金融投資業に関する法律第28条2項に基づいて制度化され、金融機関の取締役会によって任免されます。資格要件としては、実務経験を5年以上有する弁護士、会計士、研究員として5年以上の経験を有する大学の教授等となっており、職務の独立性を維持するため、金融機関における業務上の地位の独立性が確保されていることを要するものとされております。遵法監視人は、当該金融機関が内部統制基準を遵守しているか否かを調査し、内部統制基準に反するものと認める場合には、これを監査委員会または監査役に報告する義務を負っています。

従来、金融機関の持株会社には遵法監視人の設置は義務付けられていませんでしたが、2010年2月より、同持株会社にも設置が義務付けられるようになりました。(金融持株会社法第41条の5第2項)持株会社の遵法監視人の要請があれば、同会社および子会社の役員は、資料や情報を同人に提供する義務を負います。なお、サムソン電子など、一部の一般事業会社においては、すでに任意に遵法監視人を設置しています。

ただ、東亜日報など韓国マスコミのニュースを読みますと、弁護士資格を持つ国会議員の強い圧力によって制度化されたようで、「弁護士の雇用を1000以上増やすことは確実で、弁護士の食いぶちを確保するための制度ではないか」といった評価も強いようです。おそらく制度の詳細は今後国民の意見なども参考にして決定されるのではないでしょうか。わが国においても、「会計参与」に近い形で、監査役もしくは社外取締役を補佐して、内部統制システムの相当性に関する意見形成に寄与する、という形でのコンプライアンス・オフィサーもありうるかもしれません。とりわけ、この4月の日本監査役協会「監査役監査基準」の改訂にあたって、ひとつの目玉として「弁護士への意見聴取」(同基準第3条5項)が新設されております。ここでは外部の専門家ということですから、韓国の遵法支援人とは異なりますが、独立公正な立場でコンプライアンス支援に寄与するという点では共通するところがあります。

当ブログでも「この資格はとる意味がどこにあるのか?」と強く疑問視しておりました「企業財務会計士」制度の導入が見送られることになったようですが、おそらく日本でも、コンプライアンス・オフィサー制度は「弁護士の職域拡大的なもの」として、いろいろと批判の的になるかもしれません。ただ、たとえば上場ルールにおきまして、内部管理体制に問題ありとして、特設注意市場銘柄に指定された上場会社において、同銘柄指定期間中にはコンプライアンス・オフィサーの設置を義務付ける、といったあたりから導入することは検討に値するかもしれません。いずれにせよ「制度化」は、ある程度実効性のあるものとして、立法事実を積み上げる必要がありますし、またはたして「こんなコワイ立場は引き受けたくない」として、就任を希望する法律専門家がどれだけいるか(需要を満たすだけの供給はあるのか)は未知数だと思われます。今後の韓国での同制度の施行状況を楽しみにしております。

4月 26, 2011 コンプライアンス体制の構築と社外監査役の役割 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2006年8月31日 (木)

コンプライアンス体制構築と社外監査役の役割

日本監査役協会関西支部の定例講演会(全日空ホテル)で、表記の演題で1時間半、講演をさせていただきました。(正確には「コンプライアンス体制構築と社外監査役・社外取締役」)今年5月に大阪弁護士会の研修で講演させていただいたときもたいそう緊張いたしましたが、650名の先輩監査役の方々の前で講演をさせていただくということで、今年一番の「緊張状態」となってしましました。それにしましても、「コンプライアンス」という表題は集客力がありますね。お越しいただいた監査役の皆様や日本監査役協会の方々のお蔭をもちまして、私もほぼお話させていただきたかったことの90%程度はご理解いただけだのではないか・・・・・と、思っておりまして、ここに厚くお礼申し上げます。

なお、演題の内容につきましては、コンプライアンス経営と内部統制との関係(全社的リスク管理の一貫としてのコンプライアンス経営と監査役の関与)というものが中心でありましたが、私がもっとも申し上げたかったことは「コンプライアンス」の意味の理解につきましては、語る人によってマチマチかとは思いますが、せめてそれぞれの企業で「うちの会社では、なにかコンプライアンス問題になるのか」共通認識をもってもらいたい、といったことでございました。お話のなかでは、平時と有事に分けてコンプライアンス対処法などを紹介いたしましたが、コンプライアンス経営がリスク管理の一貫である以上は、何をもって「リスク」と考えるのか、企業内における「共通認識」は不可欠であります。現代社会においては、法律違反によるペナルティ以外にも、会社の信用を毀損してしまうおそれのある「社会的制裁」といったものはそこらじゅうにゴロゴロしております。うちの企業は、それらの制裁をすべて気にしながら対処して会社の信用を守ろうとするのか、それとも法令違反には慎重に対応するけれども、それ以外の社会的なペナルティに対しては「断固、うちの企業のほうが正しい」と毅然として、株主以下利害関係者には自社行動の正当性につき説明責任を尽くす方針をとるのか、このあたりの企業としての対応方針を十分検討していただきたい、というのが私がもっとも申し上げたいところでありました。

コンプライアンスを曖昧に議論することの弊害→→萎縮的効果

私の講演をお聞きいただいた方はお話申し上げた内容と重複いたしますが、8月31日の日経新聞の朝刊には 証券会社の経営、厳格監視へ(金融庁) や 通信・放送の法体系見直しへ(総務省) といった記事が掲載されていると思われます。いずれもこの「コンプライアンス」を曖昧に理解することによって、企業に萎縮的効果が発生してしまい、企業経営の競争力を阻害することに関係しております。たとえば金融庁の証券会社に対する監視が厳しくなりますと、それに引きづられて証券会社の証券発行企業に対する審査基準も厳しくなるはずでありましょう。もし証券会社から指導を受けたことに反する行動に出たとした場合、発行企業としてはどんな制裁が待ち受けているのでしょうか。その制裁は異議申し立てによって取り消されるものなのでしょうか。抵抗することだけで社会的信用を毀損してしまうものなのでしょうか。「相手の行動に応じて対応する」、これがまさにコンプライアンスの真の意味でしょうし、リスクごとにその評価とその回避策を全社的に検討をしておくことは、いわゆる「コンプライアンス問題」に直面した企業が、必要以上に相手の行動に屈してしまったり、萎縮的になってしまうことを防止するためには不可欠な企業行動だと私は考えております。(なお、本日はこの6月に提訴されました住友金属の株主代表訴訟につきまして、「コンプライアンスと内部統制論との関係」を解説する具体例として掲げさせていただきましたが、株主オンブズマンのHPにその訴状が公開されております。おそらく経営判断の法理との関係や、内部統制構築義務の具体的内容の釈明の関係などから、もっと詳細な主張が追って出されることとなるものと予想されますが、勉強熱心な方は、いちおうご参考にされてはいかがでしょうか)

8月 31, 2006 コンプライアンス体制の構築と社外監査役の役割 | | コメント (5) | トラックバック (1)