社外取締役から見た「コンプライアンス経営とマネジメント」
本日(9月23日)の日経法務インサイドにおいて、委員会設置会社の数がわずか57社止まりであり、その原因は指名・報酬委員会に社外取締役が深く関与することを上場会社が嫌うこと、またそもそも企業経営の基本方針に関わるような重要事項を判断できるほどの社外取締役候補者が限られていることが理由として挙げられていました。
私自身、純粋持株会社や事業持株会社の独立社外取締役として(任意機関ですが)指名・報酬委員会の委員やコーポレートガバナンス委員会、投資リスク審査委員会の委員を務めさせていただいている立場からすると、少し違った意見を持っています。また、「社外取締役は一人でもそれなりに意味がある」と感じる場面もありますので、それらの持論はまた別の機会にお話することにして、本日は、社外取締役に就任して、上場会社のコンプライアンス経営についての考え方が自分の中で少し整理できてきましたので、その点についてオリジナルの図表を活用して若干指摘しておきたいと思います。なお以下のお話は、私が社外取締役を務める会社の具体的な経営判断事実とは何ら関係はございません。
まず私が社外取締役に就任して痛感しているのは「経営判断のスピードはものすごく速い」ということです。大企業であれ、中小規模の会社であれ、他者と競争するうえで、このスピード経営はもはや否定しようがないです。本業を別に持つ身として、下手をすると、なにも準備もせずに賛成のための手を上げないといけないことになる可能性があり、これは受託者責任を負う社外取締役にとっては絶対に回避しなければなりません。
このスピード経営を頂点として、リスク管理や経営の透明性(利害関係者への説明責任)を置きますと、これらはコンプライアンス経営を語るにあたり「トレードオフの関係」に立つことがわかります。そこに「トライ&エラー」「社外取締役制度」「安全思想・安心思想」とありますが、これらはトレードオフ関係に立つ二者の調和を目指すための調整弁の一例を示したものです(なので、これだけに限るわけではありません)。たとえばスピード経営を重視すれば株主の一般利益の代弁者としての社外取締役制度が重宝されることになるのですが、透明性のほうを重視するのであれば、「株主との対話」という調整弁が機能するために、「開示統制」が課題となります。
リスク管理においても、十分なリスクを検討したうえで経営判断を下していてはスピード経営の実効性が落ちます。平時のリスク管理を有事の危機対応で補う関係を構築しなければ(トライ&エラーの理屈)、競争に負けてしまうという感覚です。みんながリスクをとらないように稟議制を重視したり、社内慣行を重視したりしていては有事の知恵も生まれず、後ろ向きのリスク管理に終始してしまいます。また当ブログで何度もお話しているように、リスク管理は人の能力に左右されます。人的資源、物的資源において他社に負けてしまう企業は、これを企業の自律的行動によって(いかにして外部に安心を提供できるか?)補完しなければなりません。どのように補完するかは頭の使いよう(知恵)です。
以前はコンプライアンスといいますと、管理部門の担当者に任せておけばよかった(「法令遵守」がメインテーマであれば「知識」が幅を効かせていた時代)わけですが、事後規制社会への変遷、グローバル競争におけるCSR経営思想への転換といった中で、「持続的成長に向けた、社会的要請への対応」と言われる時代になり、もはやコンプライアンスは「法令遵守」だけに限られず、「経営者の知恵」にも支配される領域となりました。いわば現場と経営執行部との協働が求められる領域です。
また、コンプライアンスはブレーキではないと私自身は考えていますが、たとえブレーキだとしても、その「ブレーキ」はなかなか踏めない(誰が社長の戦略に「それは間違いだ、中止せよ」と言えるのか?)のが日本の企業だと痛感しています。ブレーキを踏むことも、日本においてはブレーキを踏んだ者がリスクを背負う、立派な前向きの戦略なのです。
競争の中で企業価値を上げる「コンプライアンス」は、上図のとおりトレードオフの関係に立つ問題をどのように処理していくのか・・・、その調和方法を自らの頭で考えなければ「思考停止のコンプライアンス」となります。その弊害は、効率性(費用対効果)、または有効性(社会的信用を毀損させる不祥事の発生)に問題が生じる、という形で現れます。これがマネジメントに関与する立場からコンプライアンスを眺めるようになった者の印象です。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)