同和鉱業の株主安定化策と平等原則
日本郵政も、新しい会社において敵対的買収防衛策の導入(ライツプランだそうですが)を検討している、とのトップの発言がありました。最近はあちこちの上場企業で事前警告型買収防衛プラン導入のお知らせが開示されておりますので、買収提案を受けるような事態にでもならない限りはあまり報道されることもなくなってきましたね。(ちなみに、私の名前も8月29日、ある企業の開示情報(防衛プラン導入のお知らせ)に出ております。いわゆる独立第三者委員会委員でありますが・・・・・( ̄▽ ̄;) 大阪じゃないので、なんかありましたら、けっこうタイヘンですけど・・・)
ところで、8月30日の開示情報によりますと、製錬、環境事業で著名な同和鉱業(株)が、3年間継続して株式を保有した株主に行使を認める条件付きの新株予約権(保有株式1株につき0.05株)を11月に無償割当されるそうです。(同和鉱業・長期株主に新株予約権 読売ニュース こちらは日経ニュース)「株主還元策」ということですが、実質的には「株主安定策による敵対的買収防衛策」といった意味合いが強いのかもしれません。いろいろなブログを拝見しましても、また株価動向を見ましても、株主還元策としては画期的であり注目に値する、とのこと。持株会社制への移行の時期とも合わせた公表タイミングもあって、比較的評判がいいみたいです。
あまり法律上の論点などに触れていらっしゃるブログもなさそうですので、私の理解不足なのかもしれませんが、そもそも「3年間保有した株主だけに行使を認める」という行使条件付きの新株予約権の無償割当というのは、株主平等原則に反することにはならないのでしょうか。会社法では109条で平等原則が規定されておりますが、最近は敵対的買収防衛策(とりわけライツプラン)との関係や、株主優待制度との関係などで、すこしだけ問題になったりするわけですが、企業の資金調達の多様性を重視する立場から、あまり平等原則を厳格に考えることはせずに、合理的な範囲での取り扱い上の差別化は許容範囲にある、とみる見解が通説的だと思われます。ただ、なにが不合理な取扱に該当するか、といいますと、たとえば支配株主が多数決原理を濫用して、少数株主に不利益を与えるような取扱などは、許容されない平等原則(つまり平等原則違反としての不公正発行)に該当する可能性があるようですね。このあたりは昨日発売されました江頭憲治郎教授の「株式会社法」124頁から126頁あたりでも、「株主平等の原則とその限界」「株主の義務-誠実義務」あたりで少し論じられているところであります。そもそも会社法は法定保有期間要件(差止請求権を行使できる株主の保有期間要件など)を個別に規定して、その平等原則の例外を定めているのでありますから、法定されていない場合の持株数に比例しない株主の権利の差別化は認められない、といった理屈も成り立つのかもしれません。
もう少し実質的に考えてみますと、保有期間3年で新株予約権を行使できる、という条件で毎年一回、同じ比率で割当を続行するとして、全株式の半分に該当する株式は流動性があり、半分は支配株主がそのまま保有した場合には、10年後には支配株主は約58%の株式を支配できることになり、20年後には約68%を保有できることになります。たしかに、どの株主でも3年間保有すれば新株予約権を行使することができるわけですから、経済的な利益という面では平等に取り扱われている気もしますが、会社を支配しうる株主とそうでない少数株主とでは支配利益という意味でいえば長期保有へのインセンティブには大きな違いがあるわけでして(そもそも1億円ほどの株式を保有している場合でも、3年度に同じ株価であっても500万円分ですから、これが短期売買を目的とした人たちに長期保有を勧めるだけの動機付けになるのでしょうか。やはり会社支配の意欲が上乗せされていなければそうそう長期保有を決定付ける理由にはならないようにも思えますが)、そうであるならば(これが一回かぎりのお祭り行事ということでしたら別でありますが)この無償割当は少なくとも支配株主による資本多数決濫用のおそれのある制度ではないかな・・・・・とも思ったりします。株主優待制度というものは、あくまでも株主への経済的利益の平等配分の是非が問題となっている点で、また同じく株主還元策といわれている「自社株買い」というのは、あくまでも法令で認められている制度を利用したものである点で、こういった長期保有株主だけに株式を付与する制度とは異なるもののように思いますが、いかがでしょうかね。
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