2006年9月26日 (火)

飲酒運転に病的酩酊はあるのか?

ダスキン株主代表訴訟控訴審判決(問題整理編)に、またまたコメントをいただき、誠にありがとうございます。いつもコメントをお寄せいただいております常連の方々のご意見からしますと、どうも私の意見は分が悪いようでして、このブログを訪れる法律専門家の方は、企業コンプライアンス的にみて会社役員に厳しい立場(いや、それは期待の裏返しというものなのかもしれませんね)のようであります。問題の整理編でこのシリーズを終わらせようかとも思っておりましたが、とーりすがりさんや濡れ衣と戦う会社員さん、そしてMEさんのご意見などをもう一度検討したうえで、再度続編をエントリーすることにいたします。(いつも個別のお返事が遅れましてすいません・・・・・・)

さて、「飲酒運転と企業コンプライアンス」シリーズも、すでにいくつかのエントリーを立てておりましたが、これも以前より、飲酒運転による刑事処分(罰金を含めて)を民間企業の懲戒免職処分と結びつけようといった私の意見が厳格に過ぎるのではないか、との疑問を何名かの方々より呈されておりました。どうして厳格に過ぎるのか、いろいろと考えているのですが、ひとつの可能性として、お酒を飲んでいるときの規範意識の低下というものにぶつかるのかもしれません。私自身が、飲酒時のハイな状態というものを理解していない可能性もありそうです。いくら厳罰でのぞむ、といいましても、お酒を飲んだ状態のときに、平常の規範意識が存在しなければ、なんら飲酒運転という犯罪への抑止力が働かないわけでして、そのあたりは私自身があまりお酒に強いほうではないので飲酒時における規範意識の低下については理解できないところなのかもしれません。たとえば、最近よく報道されるところの「痴漢事件」につきましても、現役の警察官の方が痴漢で現行犯逮捕されたり、某著名な経済学者の先生が逮捕されたときには、即座に「なんと破廉恥なことだろう」と思いますが、逮捕された当時に「酒に酔っていて、触ったかどうかも覚えていない」と言われますと、やったことは厳しく処罰されねばなりませんが、なんかどことなく、その人に対する破廉恥さの評価については減少されてしまうような、そんな気分になってしまいます。こういったことと同様に、この飲酒酩酊といった状態は、人の普段の規範意識を鈍麻させてしまうほどのものであると理解してよろしいのでしょうか。

私は過去に刑事事件で3回、無罪判決をもらった経験がございますが、そのうちの1回が「病的酩酊による責任能力なし。よって無罪」というものでありました。病的酩酊は単純酩酊と比較したものでありまして、飲酒酩酊によって脳波に影響を受け、別人格の人間に変わってしまう、というものであります。私が担当した強盗致傷事件の被告人の場合は、この病的酩酊に該当するという奈良県立医科大学の教授(裁判所が選任した正式な鑑定人であります)の意見書(詳細な実験と検査に基づく意見)がそのまま裁判所でも採用され、完全無罪を得た事例であります。(検察側も控訴せず確定)この事例のように、飲酒事故を引き起こしたようなケースにおいても、ひょっとすると、その飲酒によって被告人が別人格となって、なんの規範意識もないままに、そのまま飲酒運転をしてしまうような場合もあるのかもしれません。

(追記)昨日の夜は、ほとんど睡魔に襲われながらエントリーを書いてしまったため、不適切な内容が散見され、修正をいたしました。司法書士をめざす会社員さんから、問題点のご指摘を受けておりますので、そちらのコメントもあわせてご覧いただくと幸いです。また、誤解のないように申し上げますと、「病的酩酊」=責任能力なし ではございません。責任能力は法律上の判断ですので、たとえ医学的に「病的酩酊」であるとしても、裁判官の判断として責任能力あり、とされる可能性もありますし、限定責任能力ありとされる可能性もあります。

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2006年9月11日 (月)

飲酒運転と企業コンプライアンス(補足)

昨日は休日にもかかわらず「飲酒運転と企業コンプライアンス」のエントリーにたくさんのアクセス、ありがとうございました。m(_ _)m 社会的な関心事でありますし、今後の各企業の対応はいったいどうなるのか、かなり興味深いところではありますね。ただ、あれからいろいろと考えてみたんですが、飲酒運転で刑事処分→→解雇処分といった具合に直ちに結論付けていいものかどうか、ちょっと悩ましい問題もありそうなので、補足として記しておきます。最近の世論の傾向としてはそういった結論に導くほうが非難を受けずにすむような気もいたしますが、もう少し「企業のコンプライアンス」といった見地から検討を加えたほうがよさそうな感じがいたします。

社会的制裁と刑事的制裁との関連性

たとえばある企業の社員が飲酒運転で人身事故を起こし、未だ刑事処分は確定していないものの本人は飲酒運転であったこと、過失行為が存在していたことは認めている、といったケースを考えてみましょう。(おそらくほとんどの飲酒による交通事故はこのケースにあてはまると思われます)このようなケース、企業としては刑事処分以前においても解雇処分を下すこともできると思われますが、この解雇処分は事故を起こした社員にとってみると立派な「社会的制裁」にあたります。ここから先は、一般の方はご存知ないかもしれませんが、「勤め先から解雇処分を受けた」という社会的制裁は、社員の刑事裁判におきましては社員に有利な情状事由に該当いたします。たとえば実刑となるのか、執行猶予がつくのか「極めて微妙」な場合ですと、この「すでに解雇処分を受けた」という事由は、裁判官が執行猶予を付ける方向に限りなく近づける材料となります。事故に至らない単なる飲酒運転だけ、というケースの場合ですと、もし解雇処分が先行した場合には検察官による正式起訴→略式起訴(罰金のみ)、もしくは起訴猶予といった方向にまで刑事処分が甘くなることも考えられます。つまり、刑事司法の世界では、おそらく「会社を辞めさせられた」という事実は、かなり被疑者、被告人への社会的な制裁の度合いは強いものと認識されておりますので、刑事処分の寛大化へ大きな影響力を有していることだけはご理解いただいたほうがよろしいかと思います。

やはり刑事処分が確定した後に会社の対応も検討しよう、という選択が無難かもしれませんが、これもすこし問題はあります。交通事犯ですから、通常は在宅事件でありまして、事故を起こした人が起訴されるのは(正式起訴の場合)、事故発生から1年後、というのも珍しくありません。飲酒事故を起こしておきながら、企業はなんらの対応もせずにそのまま雇用している、といった印象で周囲から企業の対応を評価されるリスクは残りますね。

いずれにしましても、飲酒運転と企業コンプライアンスの問題も、いろいろと考えてみますと各企業がいったいどんな社訓をもち、どんな行動倫理をもって経営活動を日々継続しているのか十分検討したうえで、諸問題をクリアしながら最終判断を下していかなければいけないと思われます。単なる社会的な風潮や、周囲の会社の反応を参考にするだけで自社の対応を決めるべき問題ではなさそうですし、私自身もいろいろと思い悩むところであります。ただし、企業は「飲酒運転に関する社会的風潮を真剣に検討することなく、自社利益を優先して単に社員をかばっているだけ」と決して思われないように、きちんと説明責任が果たせるような対応をとる必要があります。

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2006年9月10日 (日)

飲酒運転と企業コンプライアンス

きょうは最近相談を受けましたコンプライアンス関連の話題をひとつ。

きょうも飲酒運転による痛ましい事故のニュースが掲載されておりますし、(姫路市職員による飲酒運転事故)また、最近の悪質な飲酒運転への社会的関心を背景に、警察も悪質な飲酒運転事例について公表基準を変更するようです。(千葉県警の方針)2001年に、飲酒運転に関する刑罰が厳格化しまして、飲酒運転による事故件数はかなり減っていたようですが、今年はついに減少傾向に歯止めがかかってしまいました。(今年7月末までの集計結果、日本損害保険協会の調査による)酒酔いおよび酒気帯び運転による交通事故は繰り返され、飲酒運転による交通事故は単なる過失行為というよりも「限りなく未必の故意に近い認識ある過失」と社会的に評価される時代になってきたのではないでしょうか。(ちなみに、認識ある過失とは、酒を飲んでいるために、普段よりは注意力が散漫になって、事故を起す可能性が高くなるかもしれないけど、自分にはそんなことはない、と確信している状態を指します)

さて、社員が業務時間外に飲酒運転をして、検問にひっかかり、酒気帯び(呼気検査で一定以上のアルコールが検出された場合)もしくは酒酔い運転(検知値に関係なく、その言動から明らかに酔っていると判断される場合)で刑事罰(罰金を含む)で処分された、ということが会社に発覚した場合、はたして会社としてその社員を懲戒処分に付することは可能でしょうか。就業規則や服務基本規程などに明確な定めがない限り、これまでの裁判例をみますと、社員の私的な時間における飲酒運転につきましては、原則として会社の秩序維持にとって重大な悪影響を与えるものではなく、過失的行為によるものであることを理由に懲戒処分に付すことはできない、つまり懲戒権の濫用に該当する、というのが基本のようであります。こういった事例は昭和48年(住友セメント事件)、49年、52年ころにみられます。 しかしリベラルな気風の強かった判例の時代から30年が経過した今、同じように社員は飲酒運転の末、たとえ業務上過失致死傷の結果を招来しなかった場合においても、過去の判例と同様、会社からの懲戒権行使を否定することはできるのでしょうか。また、一緒に酒を飲んでいた同僚達は、懲戒の対象となるのでしょうか。飲酒運転をして人身事故でも起さないかぎり、罰金くらいならだいじょうぶ・・・と安易に考えてもいられない情勢になってきたのではないかな・・・というのが私の印象です。

たしかに最近の風潮として、飲酒運転の社会悪としての評価が強まり、人的な部分での非難の度合いが強まった、ということも理由として挙げられるかもしれませんが、それだけでは会社による処分との結びつきは薄いもののように思います。(けしからん!やめさせろ!では、法律的根拠とはなりえません)会社が社員の私生活の非行を懲戒のための評価基準とすることは過度の私生活への干渉となるおそれがあるからです。しかしながら企業コンプライアンスという面からみますと、飲酒運転事故が減少するなかで、かえって飲酒運転の「破廉恥性」が高まり、「○○の社員、飲酒運転で物損事故」といった報道がなされる可能性が高まりつつあることや、飲酒運転の常習性の高さからみて、交通事故の再犯による企業の使用者責任(運行供用者責任)を問われる可能性が高まること、重大な犯罪行為を未然に予防するために、厳格な刑罰に代えて社会的制裁によって補完することは、事前規制から事後規制へ(大きな政府から小さな政府へ)といった現代の要請とも合致しており、企業による合理的な範囲での私生活への干渉と言えるのではないか、といったことから、むしろ企業活動の正当な行為として懲戒権を行使できると解釈する余地もあるような気がします。このあたりは、最近のセクハラ事件や社内での不倫事件によって企業が社員を懲戒処分に付する、という事例において、解雇処分を有効とする判例が多くみられるところと合致してくるのではないでしょうか。

ちなみに、昭和59年6月20日の東京高裁判例ですが、これは酒酔い運転で物損事故を起こし、罰金5万円に処せられた一般会社の社員につきまして、会社の解雇処分を無効(懲戒権の濫用)としております。その理由としては
Ⅰ 事件が報道されず、被害も軽微であって、会社の社会的評価は毀損されていない
Ⅱ 過去に同種の前科前歴はない
Ⅲ ほかの従業員も解雇は重すぎるといっている
Ⅳ 労働基準局が解雇予告除外認定をしていない
Ⅴ 同業他社ではもっと軽く処分されている
Ⅵ 会社はこれまでほかの社員にももっと軽微な処分をしている
Ⅶ 公務員も停職以下の処分となっている
などとされております。さて、約20年前のこの判例の判断理由、いまの世の中でも、そのまま通用するものでしょうか。懲戒処分といっても解雇は重いけど、降格処分は妥当、など、いろいろな判断もありうるかもしれません。このあたりの感覚、これがまさにコンプライアンスを支えるところだと思います。

さて、私が相談を受けた会社につきましては、このほど飲酒運転によって刑罰を課されるに至ったケースではかなり厳しい懲戒処分の対象とすることにいたしました。(とりあえず自転車による酒酔い運転は除外しますが、警察が自転車にも酒酔い運転の摘発を強める模様ですので、今後の検討課題)そもそもその企業はお客様に深夜までお酒をサービスする会社であります。飲酒運転を助長しないよう細心の注意を払って酒食を楽しんでいただく企業でありながら、その従業員が平然と飲酒運転をし、これに寛容でいること自体、企業の行動指針に反するものであります。ただし、従業員に対する広報をしっかりとして、就業規則の変更を行い、いつからの行為について適用するのかを明示することになります。広報文のなかには「たとえその社員がどんなに有能で、企業に貢献していたとしても、企業行動倫理に反する行為は断じて許しがたい」との社長の宣言が含まれております。また、当然のことながら運転行為に及ぶことを知りつつ、酒席に同席していた社員も懲戒の対象となります。また、社員の飲酒運転については内部通報制度による報告義務を課すこととしました。さらにこういった就業規則変更を広く一般の方向けに広報することとなります。
さて、このような企業の対応、皆様がたは厳しすぎると考えますでしょうか、当然だとお考えになりますでしょうか。

 

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