2008年4月21日 (月)

買収防衛策導入(継続)時に株主として是非聞いておきたいこと

金曜日(4月18日)、大阪弁護士会におきまして「平成20年度株主総会対策」なる弁護士向けの研修がございました。著名な先生が講師をされるということもあり、さっそく受講してまいりました。総会運営から、今年の議案予想、対決型株主総会対策など、手際よく解説されて、とても参考になります。

研修のなかで、やはり買収防衛策導入に関する総会対策ということにも触れておられまして、ブルドックソース事件を中心として、いわゆる「負けない防衛策」の導入についての解説がなされました。「時間をかせぐ防衛策」「濫用的買収者を近づけない防衛策」ということでしたらそれほどの疑問も湧いてこないのでありますが、「負けない防衛策」ということを前面に出しますと、やはり株主側からそれなりの質問も飛び出してくるのではないかと思います。以下、事前警告型の買収防衛策を継続する、もしくは新規に導入するための議案(導入議案もしくは定款変更議案)が上程された場合に、ぜひとも株主の立場から経営者の方にお聞きしたい点をふたつほど。

1 敵対的買収者が25%の取得を目指すこと、それ以上は買い進まないことを宣言している場合、買収防衛策は発動するのか?(つまり株主総会で発動の是非を決議するのか?)

これは「想定悶答(その2)」でも問題にしていたところでありますが、そもそも買収防衛策が株主共同利益の保護を目的とするのであれば、それは経営支配権が濫用的買収者に移転するような場合に、これを阻止することによって初めて「株主共同利益」が確保されるということに間違いないと思います。ということは、たとえTOBによって20%以上の株式取得を目指す希望者であっても、25%までしか買い進みません、と誓約している人に対してなぜ経営支配権取得後の経営計画まで表明させる必要があるのでしょうか。まさにサッポロHDやTBSが議論していた問題であります。すでに「有事」に至っている企業ではなく、平時に防衛策を導入(継続)する予定の企業だからこそ、冷静な経営者の方々のご回答をぜひお聞きしたいところであります。

このあたりのひとつの回答は、株主総会において行使される議決権は実際のところ、全議決権の70%程度となるケースもあり、そうなりますと(たとえ25%を上限とする株式保有であったとしましても)実際の総会を基準に考えますと35%を超える議決権割合を握る可能性があるわけですね。そうであれば、やはり大量買付希望者は重要な案件における会社側提案を拒絶できるだけの力を持つことになるわけでして、やはりこれを「経営権の取得」と捉えることもあながち誤りとはいえないのではないか・・・と。こういったところが回答になるのではないでしょうか。(いろいろとご批判はあろうかとは思いますが、まぁ最大公約数的な回答・・・程度にお考えいただければ、と)

2 大量買付希望者は株主総会で委任状勧誘の機会は保障されるのか?

実は2006年8月7日の当ブログのエントリー(王子製紙による北越の株主名簿閲覧請求)でも問題にしていたのでありますが、同業他社(海外を含む)が敵対的買収者として大量買付を希望している場合、最近の傾向である株主総会発動型スキームでしたら、最終判断は総会における株主の判断によって発動の可否を決するというものであります。事前に取締役会は買付希望者の経営計画などを表明させたり、資金的裏づけ等の調査をしたりするわけでありますが、本当に経営計画などによって「どっちの経営が当会社の企業価値を向上させることができるか」を真剣に問うのが目的であれば、委任状勧誘行為によって直接株主と対話する機会は大量買付希望者側にも確保される必要があると思われます。

ところが、王子製紙、北越製紙のときにも問題になりましたし、最近の委任状争奪事例でもよく問題にされるように、現会社法の規定によりますと、同業他社から株主名簿の閲覧請求がなされた場合は、対象会社は開示することを拒絶できることになっております。(会社法125条3項3号)つまり、この法理によると、買収対象会社は、大量買付希望者に対して、防衛策発動の可否を決する株主総会を前にして、その株主名簿の閲覧要求を拒絶することができることになりそうであります。しかし、これはやはりフェアーではないように私は思いますし、総会前に株主との対話の機会を確保することがなければ、「負けない防衛策」を目指して導入する以上は不安定なスキームといわれてしまうのではないでしょうか。

そもそも、相手方の義務なきことに応じさせるような「事前ルール」に一定の合理性があるのであれば(夢真・日本技術開発東京地裁判決参照)、そのルールに従った相手のために、対象会社の権利(株主名簿閲覧拒絶権)が制限されることにも一定の合理性があるのではないでしょうか。いくら議決権の要件を厳格にしてみたところで、同業他社による株主への企業価値向上の説明機会が確保されなければ、本当に特別決議による総会意思が実現されたといえるのかはかなり疑問があり、結論としても事前警告型買収防衛策の適法性を担保できないのではないか、と考えております。買収防衛策導入(継続)に関する議案審理におきまして、こういった質問に対して経営者側がどのように回答したのか、そのあたりの回答集を作成することで、「指針」に近いような取扱いも可能になるかもしれませんし、「平時の会社だからこそ」ぜひお聞きしてみたい回答であります。「ギャングを近づけない防衛策」「時間かせぎの防衛策」ということであれば、このあたりは曖昧なままでも良いと思うのですが、「負けない防衛策」ということであれば、ぜひとも、このあたりの不明瞭さを吹き飛ばしてしまうほどの論旨明解な理論をもって、こういった疑問に回答いただきたいと思うのであります。

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2006年9月14日 (木)

続・敵対的買収への対応策「勉強会」

まほろばさんからコメントをいただきました。

>「企業会計10月号」の野村證券の方の論稿は、私も興味深く読みましたが、要は「経営の王道」に戻りなさい、という趣旨と捉えました。証券会社の方なので、市場というものを大事にする発想で至極真っ当な考え方と思います。

いや、本当にそのとおりだと思います。「あたりまえのことを愚直に実行することが、本来の企業防衛ではないかと考える。会社は第一義的には株主のものだが、社会の共有財産という面も有している。共有財産の価値を毀損するような買収がかけられたときには、これらのステークホルダーが、きっと味方になってくれるであろう。」(企業会計10月号47ページ)と、執筆された野村證券の方もおっしゃっています。また、経済同友会の北城代表幹事は、「株主、顧客、利害関係者のどこに対して敵対的であるのか、あるいは現経営陣に対して敵対的であるのかの判断をどうつけていくのかが課題になる」と、このたびの王子・北越問題を振り返っての感想を述べておられます。(ロイターニュース)現経営陣に対して敵対的であったとしても、株主、顧客、従業員などに対して友好的(賛同的)であれば、敵対的買収は成功するのかもしれませんし、すべてに対して敵対的であればなかなか買収が成功する可能性は低くなるのかもしれません。一般的には「敵対的買収」というのは現経営陣の意に反して統合提案を仕掛ける、というものを指すのでしょうが、現実の買収の成否を考えるのであれば、誰に対して敵対的なのか、もっと詳細に検討しておく必要がありそうです。とりとめのない話になりますが、いろいろと考えていることを以下に記しておこうと思います。

このたびの王子と北越のTOB紛争におきまして、7月24日に王子製紙がリリースした「北越製紙との経営統合」と題する提案書と、この9月12日に北越、日本製紙によってリリースされた「戦略提携の共同検討開始に関する合意」と題する報告書を詳細に比較してみますと、一般の株主が、どちらのほうが「企業価値を高める」提案なのか、判断することはおそらく困難だと思います。どちらの提案も北越製紙が大手製紙会社と提携することが前提でありまして、ただ片方は完全子会社化を狙い、片方は北越の独立性を認めつつも提携による相互シナジーを狙うというものであります。それではなぜ北越の独立性を認めたほうが北越の企業価値を高めることになるのか、読み比べてみても、説得的な説明はなされていない、と判断しました。(従業員のモチベーションが下がる、ということがいちおうの理由とされていますが、それ以上のわかりやすい説明というものはありません)ということは、やはりドライな敵対的買収といいますのは、まず第一にはTOB価格で勝負しなければ到底成功する可能性は低いということだと思われます。今後のTOB実務におきまして「意見表明の機会」というものが確保されるとしましても、(開示情報としての重要性という点は理解できるのですが)それが本当のところ、どの程度株主の選択に影響を及ぼすものか、ちょっと心許ないと感じるのは私だけでしょうか。

また、いろいろと「王子・北越紛争の総括」に関する記事などから考えてみますと、「敵対的買収防衛策」というのは、実は一つではなくて二つある、と割り切ったほうがいいのかもしれませんね。ひとつは最近主流の「事前警告型敵対的買収防衛策」に代表されるような、いわゆる発動の威嚇による「時間稼ぎ」のための防衛策で、もうひとつは株主や顧客、従業員などと現経営陣との良好な関係作り。したがって普段から株主価値の実現のために努力していて、たとえTOB価格が魅力あるものであっても、株主や従業員が現経営者を支援してくれる、といった信頼関係のある企業であれば、そもそもひとつめの防衛策は不要になるのかもしれません。また、逆にそういった信頼関係に不安があるケースであれば、TOB価格次第では敵対的買収が成功する確率が高くなるわけですから、現経営陣が支援をとりつけるための時間的余裕をもらうための「防衛策」が必要になってくるということだと思われます。

ただ、ここまではこのたびの王子・北越紛争による教訓として、頭で納得できるものだとしても、なかなか納得するのがムズカシイ一般的な疑問点もありそうです。たとえばまほろばさんのおっしゃるように株主共同利益を守ることを主たる目的とするのではなく、国力を確保したり、軍事転用技術を守ることを目的としてライツプランなどの防衛策を導入するということが可能なのか、ということであります。果たして国の財産としての日本企業の技術が、外国企業に流出されるのを防止するために防衛策を導入することが取締役の会社に対する善管注意義務に反することにならないのだろうか、といった疑問点であります。昨日、金融庁が東証に対して買収防衛策導入を検討するよう要望した、との記事が掲載されておりましたが、これも日本の社会的インフラを外国に買収されるのを防止するのが最も大きな目的でして、主たる目的が株主の共同利益を確保するため、というのとは少しニュアンスが異なるようです。企業価値研究会の論点公開で出された買収防衛策の目的論とは、また違った意味での防衛策のあり方、これを模索するのも「再検討」に含まれるのでしょうか。

そしてもうひとつが、TOB価格の引き上げについてであります。先のロイター通信の報道内容によりますと、北越のフィナンシャルアドバイザーであったクレディスイスの法人本部長の方が「なぜ王子はTOB価格の引き上げをしなかったのだろう」と述べておられます。しかしTOB価格の引き上げといいますのは、そもそも最初に提案した価格はいったいなんだったんだろう、と株主が疑問に思うところではないでしょうか。そもそもMACのように、投資ファンドが戦略的にTOBを仕掛ける、という場面であればなんとなく納得もできるのですが、事業再編型の買収場面では、自社の株主の利益と買収先株主の利益とをギリギリのラインで調整したうえでのTOB価格の決定となるはずではないでしょうか。それを短期間のうちに、状況の変化に応じて価格を引き上げる、というのでは、買収提案自体の信用性に欠けることになるように思うのですが。自社の株主への影響なども検討しながら価格を算定するわけでしょうが、どうもTOB価格引き上げを正当化する根拠がよく理解できません。また、どなたかこのあたりの整理をご教示いただければ幸いです。

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2006年9月12日 (火)

敵対的買収への対応策「勉強会」

ある上場企業の「敵対的買収への対応に関する勉強会」に参加してきました。某信託銀行の株式市場部の方々が中心となって、某企業の役員セミナーのようなカタチでたいへん美しいパンフレットを参照しながら約1時間半ばかり講演をされる、といったものであります。結局のところは、これからも敵対的買収については増えることはあっても、減ることはない、したがって役員の皆様方としてはそろそろ買収防衛策を検討してみてはいかがでしょうか、という「売り込み」に近いものでした。そういえば、最近発売されました「企業会計10月号」に「敵対的買収防衛策の再検討」といった特集が組まれておりまして、そのなかに野村証券の方が「個人的意見として」たいへん興味深い論稿を発表されておられます。意見こそ若干異なるものの、勉強会のパンフレットの内容は、そこに記載されている調査内容とほぼ同様のものでした。(どこの金融機関も、ほぼ同じ内容の調査結果とその分析を出しておられるみたいですね。)約3900社ある上場企業のうち、4%程度の企業がこの7月までに敵対的買収防衛策を導入した、ということのようですが、果たして今後も買収防衛策の導入企業は増えるのでしょうか。また、たとえ増えるとしても、どういったカタチの防衛策を各企業が導入されるのでしょうか。

先の野村証券の担当者の方も(個人的意見として)述べておられるように、私自身も今後も買収防衛策を導入する企業の数は「上場企業数全体の半分くらい・・」ということまでは到底増えるものではないと思っております。さりとてこのたびの王子・北越のTOB問題での印象からみて、今後は敵対的買収を仕掛ける企業は、ドライに統合提案を仕掛けてくる可能性もありますので、検討のためにはそれなりの合理的な範囲での時間を必要とすることはたしかでありまして、すべての企業に敵対的買収策が不要となる、というわけでもないように思います。そこでこの「勉強会」を拝聴して思いましたのは、技術的な防衛策の中身をいろいろと役員にレクチャーするよりも、いったいどんな企業であれば今後も敵対的買収防衛策を導入すべきか、ということをレクチャーするほうが、役員のココロをググっと引き寄せられるのではないか、といったことであります。

役員をその気にさせる「買収防衛策」の売り込み方(その1)

まず防衛策導入にあたっては、やはり株主の反応がもっとも気になるところでありますが、先の「企業会計」の論稿によりますと、最近の機関投資家や議決権行使助言会社は、同じプランの買収防衛策であったとしても、その導入企業によって賛同したり反対したり、という風潮があるようです。(松下型プランを例にとって説明されておられます)つまり買収防衛策の導入に関する賛否の判断を行うにあたっては、その防衛プランのスキームだけで判断するのではなく、その企業が通常いかにして企業価値向上策を検討しているか、といった諸策を含めて総合的な判断をされている、というものであります。したがいまして、いくら現在主流の事前警告型防衛プランの中身を解説されたとしましても、「これで万全」ということにはならないわけでして、機関投資家の賛同を得るために、いかにして平時の企業価値向上策を積み上げていくべきか、といったこともアドバイスすべき問題となりえます。そこでまず買収防衛策の売り込みはけっしてアンチョクなものではない、といったイメージを上場企業の役員さん方に印象付ける必要があると思います。

役員をその気にさせる「買収防衛策」の売り込み方(その2)

金融機関特有の無形資産を「企業価値論」と結びつける必要があると思われます。普通、シナジー効果というものは100と100のパフォーマンスが、統合効果として200以上のパフォーマンスとなることを指すものと理解しております。しかしながら、事業再編型のM&Aというのは少し前提が異なる場合もあるのではないでしょうか。たとえば王子製紙が100として北越製紙が50のパフォーマンスを有していたとします。普通、企業価値の向上が見込める統合、という場合、王子の100というのは統合後も変わらない数値であって、統合によって170くらいになるものだと考えるのではないでしょうか。しかし、そもそも150→170のパフォーマンスを発揮するというのは、その紙業全体がまだまだ伸び盛りにある、ということが前提だと思われます。しかし業界全体の将来を検討した結果、輸入紙に押されたり、電子ペーパー化によって需要が減少するといったような「業界の先細り」が予想されるケースですと、「王子は100が80になってしまうのは間違いなく、北越も50が40になってしまうけれども、事業再編によって150のパフォーマンスを維持できる」という企業価値論も成り立つように思います。もし、こういった「やむをえない事業再編」型のM&Aに巻き込まれる可能性があるとすれば、そういった業界全体の将来像を把握できる金融機関の力を防衛策導入の前後にも生かすべきでしょうし、金融機関の情報力や判断力が大いに重宝がられることになりそうな気がします。(ということで、先日のAOKIとフタタの統合問題の際、フタタからの依頼でアドバイスを行った三井住友銀行は、紳士服業界の将来をどのように予想したのか、そのあたりがとても興味のあるところです)

自社の株主利益を毀損する強圧的な敵対的買収者から自社を守るということと、もし将来的に自社の株主にとって有利と思われる買収者が現れた場合には、株主の判断によって潔く経営権を譲り渡す、というための「防衛策」の導入が理想であるならば、そもそも平時から企業価値向上への施策を検討していることだけを宣言する「ダイキン工業型」の構えというのも、日本では正しい姿なのかもしれない、といったことを少し思いながら、次回への続きモノとさせていただきます。

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