買収防衛策導入(継続)時に株主として是非聞いておきたいこと
金曜日(4月18日)、大阪弁護士会におきまして「平成20年度株主総会対策」なる弁護士向けの研修がございました。著名な先生が講師をされるということもあり、さっそく受講してまいりました。総会運営から、今年の議案予想、対決型株主総会対策など、手際よく解説されて、とても参考になります。
研修のなかで、やはり買収防衛策導入に関する総会対策ということにも触れておられまして、ブルドックソース事件を中心として、いわゆる「負けない防衛策」の導入についての解説がなされました。「時間をかせぐ防衛策」「濫用的買収者を近づけない防衛策」ということでしたらそれほどの疑問も湧いてこないのでありますが、「負けない防衛策」ということを前面に出しますと、やはり株主側からそれなりの質問も飛び出してくるのではないかと思います。以下、事前警告型の買収防衛策を継続する、もしくは新規に導入するための議案(導入議案もしくは定款変更議案)が上程された場合に、ぜひとも株主の立場から経営者の方にお聞きしたい点をふたつほど。
1 敵対的買収者が25%の取得を目指すこと、それ以上は買い進まないことを宣言している場合、買収防衛策は発動するのか?(つまり株主総会で発動の是非を決議するのか?)
これは「想定悶答(その2)」でも問題にしていたところでありますが、そもそも買収防衛策が株主共同利益の保護を目的とするのであれば、それは経営支配権が濫用的買収者に移転するような場合に、これを阻止することによって初めて「株主共同利益」が確保されるということに間違いないと思います。ということは、たとえTOBによって20%以上の株式取得を目指す希望者であっても、25%までしか買い進みません、と誓約している人に対してなぜ経営支配権取得後の経営計画まで表明させる必要があるのでしょうか。まさにサッポロHDやTBSが議論していた問題であります。すでに「有事」に至っている企業ではなく、平時に防衛策を導入(継続)する予定の企業だからこそ、冷静な経営者の方々のご回答をぜひお聞きしたいところであります。
このあたりのひとつの回答は、株主総会において行使される議決権は実際のところ、全議決権の70%程度となるケースもあり、そうなりますと(たとえ25%を上限とする株式保有であったとしましても)実際の総会を基準に考えますと35%を超える議決権割合を握る可能性があるわけですね。そうであれば、やはり大量買付希望者は重要な案件における会社側提案を拒絶できるだけの力を持つことになるわけでして、やはりこれを「経営権の取得」と捉えることもあながち誤りとはいえないのではないか・・・と。こういったところが回答になるのではないでしょうか。(いろいろとご批判はあろうかとは思いますが、まぁ最大公約数的な回答・・・程度にお考えいただければ、と)
2 大量買付希望者は株主総会で委任状勧誘の機会は保障されるのか?
実は2006年8月7日の当ブログのエントリー(王子製紙による北越の株主名簿閲覧請求)でも問題にしていたのでありますが、同業他社(海外を含む)が敵対的買収者として大量買付を希望している場合、最近の傾向である株主総会発動型スキームでしたら、最終判断は総会における株主の判断によって発動の可否を決するというものであります。事前に取締役会は買付希望者の経営計画などを表明させたり、資金的裏づけ等の調査をしたりするわけでありますが、本当に経営計画などによって「どっちの経営が当会社の企業価値を向上させることができるか」を真剣に問うのが目的であれば、委任状勧誘行為によって直接株主と対話する機会は大量買付希望者側にも確保される必要があると思われます。
ところが、王子製紙、北越製紙のときにも問題になりましたし、最近の委任状争奪事例でもよく問題にされるように、現会社法の規定によりますと、同業他社から株主名簿の閲覧請求がなされた場合は、対象会社は開示することを拒絶できることになっております。(会社法125条3項3号)つまり、この法理によると、買収対象会社は、大量買付希望者に対して、防衛策発動の可否を決する株主総会を前にして、その株主名簿の閲覧要求を拒絶することができることになりそうであります。しかし、これはやはりフェアーではないように私は思いますし、総会前に株主との対話の機会を確保することがなければ、「負けない防衛策」を目指して導入する以上は不安定なスキームといわれてしまうのではないでしょうか。
そもそも、相手方の義務なきことに応じさせるような「事前ルール」に一定の合理性があるのであれば(夢真・日本技術開発東京地裁判決参照)、そのルールに従った相手のために、対象会社の権利(株主名簿閲覧拒絶権)が制限されることにも一定の合理性があるのではないでしょうか。いくら議決権の要件を厳格にしてみたところで、同業他社による株主への企業価値向上の説明機会が確保されなければ、本当に特別決議による総会意思が実現されたといえるのかはかなり疑問があり、結論としても事前警告型買収防衛策の適法性を担保できないのではないか、と考えております。買収防衛策導入(継続)に関する議案審理におきまして、こういった質問に対して経営者側がどのように回答したのか、そのあたりの回答集を作成することで、「指針」に近いような取扱いも可能になるかもしれませんし、「平時の会社だからこそ」ぜひお聞きしてみたい回答であります。「ギャングを近づけない防衛策」「時間かせぎの防衛策」ということであれば、このあたりは曖昧なままでも良いと思うのですが、「負けない防衛策」ということであれば、ぜひとも、このあたりの不明瞭さを吹き飛ばしてしまうほどの論旨明解な理論をもって、こういった疑問に回答いただきたいと思うのであります。
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