2013年3月22日 (金)

インサイダー取引規制強化と企業実務への影響(その1)

インサイダー取引規制を強化した金融商品取引法改正案が4月中旬にも国会に提出されるそうであります。エンフォースメントの強化という点も重要ではありますが、当ブログにお越しの皆様は既にご承知のとおり、情報伝達・取引推奨行為にも刑事罰・課徴金処分が新設されるそうでして、これは大きな制度改正です。

それにしても、SMBC日興証券元執行役員の方が被告とされている金商法違反事件のゴタゴタを目の当たりにしますと、改正に向けたワーキングチームのメンバーに刑法学者の方がいらっしゃったことが大きかったのではないか・・・と今回の制度改正の内容をみて感じるところがございます。市場の健全性確保に向けた事前規制対応と事後規制対応の美しいハーモニー(調和)が垣間見える改正案であります。

金商法157条(バスケット条項)と同166条、167条(インサイダー取引規制の構成要件規定)の関係、インサイダー取引の未遂不処罰、教唆犯、幇助犯と情報伝達・取引推奨行為の正犯性の関係など、事後規制による対応の必要性を意識しながら憲法13条、31条との整合性を理解するためには、やはり刑事法学者の方のご意見(事実上のご承認?)はとても重要かと思います。

情報伝達行為・取引推奨行為へのインサイダー規制強化に伴い、企業実務に過度の委縮効果を与えないよう、情報提供者には主観的要件が求められ(インサイダー取引をさせることを目的としている場合に限定)、また実際にインサイダー取引が成立していることが条件とされる(つまり結果との厳格な因果関係が必要)ことになります。単純に「企業の事業活動を委縮させてはいけない」という政策的配慮だけでなく、インサイダー取引の従犯と情報伝達行為という正犯との区別をつけること、これまでのインサイダー取引規制の条文の保護法益との整合性を維持することが理屈のうえでも説明できるので、今回のSMBC日興証券元役員被告事件のようなゴタゴタが生じる可能性はかなり低くなるのではないでしょうか。

事業投資、企業戦略の面において、金融機関のみならず一般事業会社にとっても重要な法改正でありますが、このように情報伝達・取引推奨行為の立件において、主観的要件や因果関係の立証が必要とされる、ということは、その反面において社内ルールや業界自主ルール、取引所ルールなど、事前規制の在り方(工夫)が今後問われることは間違いないと思われます。単純にインサイダー取引を未然防止するための有用性だけでなく、早期発見、自主解決のための「立証補完」としての有用性が問われるように思います。

自浄能力が発揮されれば課徴金で終わるものが、発揮できずにレピュテーションリスクを抱えてしまう事態になってしまう、というのは容易に予想がつきます。そこで今後、インサイダー取引規制の強化が、どのように企業実務に影響を及ぼすのか、これまでのインサイダー取引の未然防止体制の整備にどのような修正を施すべきなのか、現在進行中の裁判の様子なども参考にしながら、このブログでも検討していきたいと思います(とりあえず不定期ということですが・・・)

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2010年9月 6日 (月)

タカチホ社の違法配当と内部統制

本日(9月6日)は第3回の日本内部統制研究学会が開催されますので、私も市ヶ谷の近くに来ております。(今回は池永朝昭弁護士が基調講演をされる、とのことで期待しております。)内部統制報告制度も3年目を迎えまして、私自身はいままで以上に内部統制報告制度の費用対効果の検証について関心を持っております。ところで内部統制報告制度の運用と(たぶん)関連性が深いと思われる適時開示情報が先週金曜日(9月3日)に出ておりました。

一般小売・商社の株式会社タカチホさん(JDQ 8225)が、株主総会決議(剰余金配当の件)に基づいて2010年6月30日に違法配当をしてしまった(会社法上の分配可能額を超えて配当してしまった)そうであります。この事実が8月になって自社内で発見された、とのこと(つまり故意に違法配当をやった、というわけではございません)。違法配当に気づき、慌てたタカチホさんは社内調査を進めるとともに、なぜ違法配当をしてしまったのか、今後の違法配当を防止するための対策はどうすべきか、関与した役員の責任はどうすべきか、といったあたりに関する外部委員会の調査を求め、その報告書が9月3日にリリースされております。(分配可能額を超えた前期末の配当金に関する一連の経緯及び再発防止策について

分配可能額を計算するための計算書が社内で作成されておらず、取締役会、監査役会でのチェック機能が効いていなかった、決算業務担当部署において配当金算出方法について理解していなかったことなどが原因のようであります。具体的には配当効力発生日の自己株式帳簿価額を計算の上で控除していなかったことや、期末日の「その他有価証券」評価換算差額損を控除していなかったことについて、誰も気がつかないで議案を上程していたとのこと(つまり控除すべき金額の評価自体が問題となっていたのではなく、単純に評価項目自体が計算式から抜けていた、ということだと思われます)。

違法配当議案については配当に関する総会決議が無効となりますので、再度臨時株主総会で配当議案の承認決議を求めることは当然だとしましても(前提として資本準備金を取り崩して「その他資本剰余金」に振り分けるそうですが)、違法配当議案を上程した取締役、実際に配当処分に関与した業務執行取締役、配当議案に賛成した他の取締役、そして議案については適法と監査報告を提出した監査役の法的責任はどうなるのでしょうか。また、このような違法配当を行ってしまった企業の内部統制は有効といえるのでしょうか(タカチホさんは経営責任としての報酬減額の処分を公表しておられますが、当然のことながら法的責任とは無関係かと思います)。

この外部調査委員会報告書を読む限り、外部委員の弁護士の方々は、タカチホから独立した立場ではありますが、違法配当に関与した役員の民事上の法的責任については触れられておりません。触れられているのは会社として責任追及するまでもない、ということであり、違法配当について役員に任務懈怠があるのか(過失もしくは注意義務違反があるのか)ないのかは明らかにされていないのであります。この点は読まれた方に誤解を生じさせるのではないでしょうか?たとえ役員の方々に任務懈怠があるとしても、諸々の事情によって責任を追及すべきではない、という判断も十分にあるわけですから、このあたりは整理しておくべきではないかと思われます。ちなみに、違法配当が行われた場合の取締役の配当金填補責任および、違法配当を見逃した監査役の監査報告責任については、(誰が役員を訴えるかにより)立証責任が転換される場面もあるわけですから、取締役、監査役の過失は極めて認めらやすい場面ではないかと思われます。したがいまして取締役・監査役の過失は認められないとする判断の場合には、これを第三者が説得的に論証することは非常にむずかしいものだと思われます。

「単に計算方法を誤って分配可能額を算定したことは悪質とはいえない」と判断されておられますが、ここは大いに異論がございます。上場会社として内部統制が適切に構築されていることを前提とすれば、分配可能額の算定方法のミスは極めて例外的なものあり、悪質とは言えないまでも重大なミスであります。刑事責任を問えないという理由からすれば悪質とはいえないかもしれませんが、役員の民事責任を論じるにあたっては、(証明責任は基本的に役員の側にあるわけですから)極めて説得的な理由が必要ではないかと思われます。この調査報告書をご覧の方が、「違法配当を行った役員の任務懈怠とはこんなものか」といった認識を持たれるとすれば、法律家の立場として争いがない、というものではなく、調査委員の方のご意見もひとつの意見ではございますが、まったく逆の意見もありうることを申し述べておきたいと思います。私はむしろ、役員の違法配当に関する法的責任を論じるのであれば、決算や配当に関する業務執行取締役、議案提出取締役、取締役会での賛同取締役、書類監査に携わり監査意見を述べた常勤監査役、社外監査役に分けて、本件への任務懈怠の在り方を個別に詳細に論じるのが当然かと思います。会社が「注意義務を尽くしていない」とされる役員に対する責任を追及すべきか否かは、その次の問題であります。(株主や会社債権者などのステークホルダーのために独立の委員による調査報告書が提出される以上は、そのあたりは当然に整理して記載されるべきではないかと思うのでありますが)

次なる疑問は内部統制報告書の訂正報告書に関する点であります。タカチホさんの場合、22年3月期末時点における内部統制は有効とされております。しかし、今回のように有価証券報告書ではなく、会社法上の計算書類に関するものであったとしても、違法配当に関する決算財務プロセス(全社的内部統制ともいえそうですが)に重大な問題が発生していた場合、財務報告に係る内部統制には重要な欠陥があり、「有効」と評価した内部統制報告書の訂正は必要ないのでしょうか?

とくにタカチホさんの場合、昨年7月17日「当社元従業員による業務上横領についてのお知らせ」と題するリリースを公表され、過年度決算を訂正しておられます。その際、21年3月期の内部統制報告書を訂正すべきか否か、検討されたようですが、不正が発覚した部署が業務プロセスの評価範囲外(売上ベースで2%程度)だったため、結論としては訂正の必要性なしとされたそうであります。この結論は金融庁Q&Aに従ったものと思われますし、とくに問題はなさそうでありますが、本年度の内部統制の有効性評価にあたっては、(当該事件をきっかけとして)全社的内部統制を含めて慎重な検討がなされたのではないかと思われます。それにもかかわらず、今回のような違法配当が行われたということは、やはり直接的に金商法開示に関わる過程とは言えなくても、金商法上の財務報告の信頼性にも大きな影響を及ぼすところに問題を抱えている、と言えるのではないでしょうか。

もしこういった問題が発生してもなお、財務報告に係る内部統制は有効、とする経営者評価に誤りがないのであれば、すくなくともその理由について開示する必要があると思われます。こういった開示をひとつひとつ検討することで、社内でも内部統制構築の重要性が認識され、開示情報の有用性が維持されるのではないかと考えます。そのまま問題が放置され、また開示情報を利用する第三者の側が「こんなものか」と、なんら問題とすることがなければ、それこそ費用対効果の検証は進まないように思えるところであります。

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2009年5月22日 (金)

内部統制と投資家の視線(報告書は株価材料になるか)

大学の先輩・後輩という間柄で、大手証券会社の社員と会計士さんとが連絡をとりあってインサイダー取引を行っていたこと(疑惑)が発覚したようでして、22日あたりにSESC(証券取引等監視委員会)から課徴金処分の勧告が出るようですね。(刑事告発とは異なりますので、自ら利益を得ていない証券会社社員の方にはなんらの処分勧告もないようですが、証券会社側としたら大問題でしょうね。)しかし200万円程度の利益獲得事例について、しかも2007年の事例ということですから、最近のSESCのインサイダー摘発に対する執念というものを痛感しております。また、ライブドア個人株主損害賠償請求訴訟の判決が下され、今回の訴訟では会計監査を担当していた監査法人さんも損害賠償を命じられた、とのことでして、これもたいへん注目すべき判決であります。また、法と会計の狭間の問題(公正なる会計慣行とは?)の議論が再燃するのではないでしょうか。(詳しくは判決内容を読ませていただいたうえで、またエントリー化したいと思っております)

さて、昨日に引き続いての「内部統制」ネタでありますが、内部統制と企業情報の開示に関する問題につきましては、当ブログにおいても相当以前から検討しておりましたところ、日経新聞「内部統制と規律・罰則(下)~投資家の視線~」を読ませていただきまして、「企業不祥事が株価に与える影響グラフ」には、ちょっと驚きました。日経平均株価の動きとほぼ連動しているものの、会計不祥事を発生させた企業(結果として課徴金処分、刑事告発の対象とされた企業)は、ほぼ20ポイントほど低い数値で推移しているようであります。たとえば印象としましては、こんな感じです。

Cocolog_oekaki_2009_05_22_01_58 不祥事を発生させた企業について、そのすべてが内部統制の構築が不十分であることに起因するわけでもないと思いますので(経営者の姿勢自身も「内部統制の重要なポイント」として考えれば、たしかに内部統制の問題ともいえそうですが)、正確なところはわかりかねますが、それでも開示すべき財務情報の信頼性が毀損されると、大きく株価に影響し、しかも信頼性の毀損はすぐには取り戻せないということが判明いたします。こういった現実からしますと、ひょっとすると(まもなく一斉に提出される)内部統制報告書の記載(経営者評価と監査人の監査意見)が株価に与える影響というものも、ちょっと無視できないものになるのかもしれません。

ただ、記事の最後で外資系運用会社の方が指摘しておられますように、すでに会計不祥事を発生させた企業に「内部統制に重要な欠陥あり」とレッテルを貼ってみても、それはすでに株価に織り込み済みであって、それほどの影響はでないのでは・・・とも思いますし、むしろこれまでは会計不正が発覚していないような上場企業において、重要な欠陥ありとする経営者評価や、内部統制の有効性につき、監査意見を表明しないといった事態において、どのような株価変動が生じるのか、ということが重要な課題になってくるのではないでしょうか。

なお、上記記事のなかで、東証の方針として内部統制に欠陥があっても、また監査人の適正意見がもらえなくても上場廃止審査の対象とはしないとされ、また重要な欠陥がある場合でも適時開示の対象とはしない、と紹介されております。たしかに、この記事で書かれていることは正しいものでありますが、内部統制報告書において、監査人から適正意見がもらえない場合には、適時開示の対象となることにご留意ください。東証としても、経営者評価のバラツキについては、投資家の判断を損ねることを理由として開示対象とはしておりませんが、さすがに監査法人さんの意見形成については、それほどのバラツキはないだろう、との理由により適時開示対象になるものと推測されます。

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2008年10月14日 (火)

内部統制監査制度の必要性(法制度化)を考える

最近ライブドア刑事被告事件や、先日の長銀事件判決などから、「司法は本当に経済事犯を裁けるのか?」「そもそも専門性の高い会計・監査の問題について、法律家は(すでに適正と判断された会計・監査判断に対して)異議を唱えることは容認されるべきなのか」といった問題が提起されることが多くなりました。

「公正なる会計慣行」の問題は、法律と会計基準との問題だと認識しておりますが、会計監査と法律の問題というのはどうなんでしょうか。私は会計監査制度というのは、適正な会計基準(企業会計の原則)に準拠して(上場企業が)財務諸表を作成していることを担保するための「事前規制」の一つとして、あくまでも「法が認めた制度である」と理解しておりました(したがって、会計監査のミスの違法性を司法において問われるのもごく当然のこと)が、会計学の基本書を読んでおりますと、じつはそんな甘いものではなかったようです。

以前当ブログでご紹介した「会計監査論(第5版)」(著 山浦久司教授 中央経済社)第2章「監査のニーズ構造と制度化の論理」を読みますと、事業会社が会計報告を利害関係者に開示する制度があるところでは、会計監査というのは自律生成されるべきものであって、なにも「法律が監査制度を決めたから存在するものではない」ことが詳しく説明されております。会計専門職の方々はご承知のとおり、スチュワードシップ(モニタリング)仮説、情報仮説、保険(リスク分散)仮説など、いくつか説明方法が異なりますが、いずれにしましても、市場があって、会計報告を行うべき企業があれば、そこにはおのずと会計監査制度というものが生成されてくるべきものであるとのこと。なるほど、こういった考え方に立ちますと、法律と会計基準との関係と同様、法律と会計監査(法律学と会計学)との関係についても、「どっちが上」といった議論からは解放されるわけですね。ただ会計監査も現実には法制度化されているわけでありますが、「本来、自律的に生起するはずの会計監査のニーズを、あえて法規制の対象にしなければならない理由と論理過程は必ずしも明確ではない」とのことだそうで、実際のところはいまだ法と会計監査との関係についてはよくわかっていないところも多いようであります。

こういった「法律と会計監査」のファジーな部分を考えますと、たとえば財務報告に係る内部統制報告制度(いわゆる日本版SOX法)におきましても、いっそのこと内部統制監査という制度は廃止してしまってもいいのではないでしょうか。もちろん、現在は法制度化されておりますので、あくまでも立法論にすぎませんが、法制度化されずとも「自律的に生成するもの」でしたら、そのほうが開示制度になじみやすいようにも思います。「そんな制度、企業にとっては何の役にも立たない」と考えておられる上場企業でしたら、とくに監査を受ける必要もありませんし、内部統制をきちんと構築している企業でしたら、投資家への評価を受けるために任意監査制度によって内部統制監査を受けた内部統制報告書を提出すればいいわけでして、それなりの「差」が投資家にもわかる制度になりそうな気もいたします。そのかわり、企業情報の開示制度ですから、内部統制の有効性判断については企業側が責任をもてるように、監査役のひとりに「財務会計的知見」を有する人を就任させることでモニタリング制度を確保する・・・ということにすれば、かなり効率的な制度になるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

いまのままですと、来年6月以降、「国際会計基準の直接適用と公正なる会計慣行」を取り巻く論争と同じように、「法と会計監査の関係」がいろいろと取り沙汰されて、また「法と会計」に関する神学論争のようなものが増えてしまうような気がしてきました。

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2008年4月 4日 (金)

株主総会想定悶答(お気楽に)

halcome2005さんから教えていただいて、監査役協会のHPをのぞいてみましたが、「財務報告内部統制報告制度」に関するアンケート調査結果が公表されております。また月刊監査役5月号に掲載される予定とのことでありますが、このアンケート結果をちらっと読ませていただいたところ、問9で「専門の対応組織の統括責任者は誰か」との問いに対して「社長」と回答された企業が全体の25%(新興市場36%、その他22%)もあるようです。

ということは以下のような株主総会想定問答が考えられますね。

「新聞で新しい制度が始まったって聞いたけど、おたくの会社は内部統制報告制度の準備はやってはるん?」

「当社は私を責任者として、一丸となって構築してまいりました。実際の評価は今後になりますが、適正な報告を行い、皆様方に信頼されるような財務諸表を開示すべく尽力してまいりたいと考えております」

「評価は誰がするんかいな?」

「もちろん、経営責任者である私が行う予定であります」

「おたくが責任者で作ったものを、おたくが評価するって、そらあんた、そんなんでまともな評価ができるわけがないですやろ?(会場全体を見渡しながら苦笑)もし評価するんやったら、どうやって公正な評価ができるのか説明してくだはれ」

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2006年10月24日 (火)

内部統制と企業情報開示

(追記あります)

お昼にも少しコメント欄に記載したのですが、今朝(10月23日)の日経新聞第二部では広告特集として「内部統制とIT」に関する特集が組まれておりました。とくに関心を持ちましたのは、第一面の西室社長(東京証券取引所代表取締役)のインタビュー記事でして、内部統制の整備が企業の透明性を高める、といった趣旨のものでした。この「内部統制と企業情報開示」の問題点は、内部統制論のなかでも最も理解が困難なところだと認識しておりますので、どんなことが話題になっているんだろう・・・・・と読み進めていたのでありますが、ちょっと途中から落胆してしまったような次第であります。

やはり、よくあるようにコーポレート・ガバナンスの議論と、日本版SOX法の議論と、市場における企業情報開示の問題が混乱しているように思えますし、結論的には日本版SOX法への備えはIT統制によって盤石を期せ、といったところに落ち着いておりまして、どうしても「広告特集」記事であることからくる限界のようなものを感じました。これを読んでの感想としましては、「これでは今後、経営者になる人はいないんじゃないか」とか「経営者は神様ではない」といったところでしょうか。そもそも日本版SOX法(金融商品取引法)で問題となる(企業によって整備されるべき、とされる)内部統制というのは、市場における企業情報開示とどんな関係があるのでしょうか?なぜ内部統制システムの整備を進めることが「企業の透明性を高める」ことになるのでしょうか?企業情報の開示という視点で考えれば、日本版SOX法においては財務諸表の正確性だけを経営者の確認書と並列的に内部統制評価報告書が担保すれば済む話であって、評価の対象とされる内部統制の仕組みなどはそもそも開示される対象ではないのでは?

もちろん日本版SOX法を離れて、「あるべき内部統制」を語るのであれば、立派なシステムを導入することも有意義ですし、また会社法上の内部統制のように、その基本方針が事業報告やガバナンス報告書によって開示対象とされるのであれば、それは株主による評価の問題となりますから、IT統制は重要といえると思います。しかしそれらは日本版SOX法とは関係ないわけですし、文書化や「見える化」と言われるものも、それは経営者評価の客観化や、監査証明における証憑としての必要性に由来するものでありまして、株主に見せるためのものではありません。以上が私の「内部統制と企業情報開示」に関する理解ですが、それでもなお「日本版SOX法への対応が、企業情報の開示制度に影響する、つまり企業の透明性を高める」ということが真実であるならば、そういった理論的な根拠や実質的な社会的要請といったものをとても知りたいところであります。

11月24日午後追記

本件エントリーとは直接関係ありませんが、アメリカのブッシュ大統領がSOX法の見直しを示唆する発言をしたようです。(日経ニュース)このまま厳格な要件のもとで企業改革法を適用させておくと新規公開企業がロンドンに流れてしまうことへの懸念でしょうか。ただ、SOX法といいましても、内部統制評価報告書についての404条問題はごく一部ですから、どのあたりの見直しが検討されるのでしょうかね。

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