ホンダ子会社の不適切取引発覚と監査役全員辞任の後始末
金融庁の内部統制報告制度(意見書案)改訂版の公表、日本取締役協会「法律専門家による内部統制報告制度への提言」の公表、幻冬舎のMBO成立(立花証券の欠席)、講談社の日本相撲協会および元理事長への通告問題等々、当ブログとしましては、脊髄反射的にどうしてもコメントをしたい話題がメジロ押しでありますが、時間がほとんどございませんので、ホンダ子会社の不適切取引の件について一言だけ(といっても、少し長くなってしまいましたが・・・・)。
当ブログでもすでに「企業不祥事の発覚経緯と件外調査の重要性」でお伝えしておりましたが、ホンダ(登記名 本田技研工業)の100%子会社でありますホンダトレーディング社(以下HT社)の不適切取引に関しまして、本日、親会社による調査の結果と関係当事者の処分結果が公表されております(当社子会社における不適切な取引の調査報告及び再発防止策について-ホンダ社HPより)。預かり在庫取引、および架空循環取引の内容が図式化して解説されておりますので、担当者の不正行為がとても理解しやすくなっております。
10年間の代金水増し仕入れ等による損失額は144億円ということで、決して少ない金額ではありませんが、前にも申し上げました通り、年5800億の売上を計上する企業の、本当に小さな事業部門で発生した不正取引であります。おそらく連結子会社のノンコア事業部門ですから、内部統制の評価範囲外であろうかと思われますし、なかなか目が届かなかったところであったものと推測されます。だからこそ、10年もの間、担当者のローテーションもなく、一人の部下を道連れに不正を繰り返すことが可能だったようです。
しかし本件では、かなり監督責任が厳しく問われているように思われます。不正行為者、その部下は解雇処分が正当だとしても、上司(報告書によりますと、不正に関与していたわけではありません)も解雇処分、経理部長は降格、そして社長以下3名の取締役と、2名の監査役が引責辞任ということのようです。当社代表取締役は、2007年に親会社の執行役員から当社の社長に就任されたようですが、2001年から始まっていたノンコア事業部門の不正見逃しにより引責辞任となるのは、かなり厳しい対応だなァと(私には)うつりました。また、2名の常勤監査役さん方が、今回の責任をとって辞任というのも、この報告書だけを読むかぎりでは「厳しい世界だなァ」というのがホンネであります。
たしかに2007年に、経営陣が「水産事業部の在庫、ちょっと多すぎるのではないか。早急に削減せよ」といった指示を出していたにもかかわらず、その後2010年10月の問題発覚まで在庫削減問題を放置していたようにも思われますので、そのあたりが厳しい社内批判となったのでしょうか?また社内の役職員が、水産事業の知識が乏しかったことから、水産事業部は人事ローテーション制度の枠外においていたことへの非難が強いのかもしれません。また、預かり在庫取引は、一種の与信取引ですから、きちんと与信枠を社内規則で決めておけば、定例監査から非定例監査に移行するタイミングが図れたにもかかわらず、このあたりの整備を怠っていたことについて、監査役が辞任しなければならないほどの反省点があったのかもしれません(以前ご紹介した「三井物産 化学機能品本部における不適切取引の例」などは、まさに内規違反を管理部門が察知して、そこから非定例監査に移行し、不正を発見した好例であります)。
ただ、実際の経営の現場では、HT社の業績の内訳をみれば、ほとんど別事業のほうへ社長以下の関心が向いていたと思われますし、だとすれば、こういったノンコア事業のリスクを監査計画のなかで評価しきれなかったことが最大の反省点だったのではないでしょうか。監査役の方々にとりましては、本件のホンダ社の対応、かなりシビアではないか、との感想をお持ちの方もいらっしゃるのでは・・・。
残念なのは、部下の方が解雇処分とされていることであります。本文にもありますが、HT社では内部通報制度がほとんど機能していなかった、とのこと。もし当該部下の方が通報制度を活用していれば、おそらく早期に不適切取引を経営陣が認知し、早期に手を打つことができたものと思われます(監査役が辞任しなければならない、という事態にもならなかったのでは?)。こういった不適切取引が発覚するといつも思うのでありますが、部下としては、逮捕されたり、懲戒解雇処分になったりするまえに、ぜひ勇気をもって内部通報を活用していただければ・・・・・と思いますね。
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