2006年10月30日 (月)

買収防衛策の事業報告における開示

本当は「内部統制の限界論と開示統制(その2)」をエントリーする予定だったんですが、「三角合併のルールがなかなか決まらない」といった記事や、明星食品さんの適時開示情報の話題などもありますし、ちょっと法律雑誌「ビジネス法務」12月号(中央経済社)で興味深い論稿がありましたので、そちらのご紹介をさせていただこうかと思います。

この12月号では「買収防衛の2ndステージ」なる特集が組まれておりまして、(お!?( ̄O ̄;)このブログにコメントくださる「あの方」のお名前も・・・・)そのなかに企業法務(総務?)担当者の皆様にとってはとても気になりそうな東京の著名法律事務所の先生方による「事業報告における買収防衛策の開示」なる論稿が掲載されております。来年の上場企業の株主総会に向けて、事業報告にどういったことを書くべきか、といった話題ですね。いわゆる会社法施行規則127条の条文の解釈をもとに、株式会社の支配に関する基本方針についての開示の要否や、開示をしないことの影響、そして実務指針としても参考となりそうな記載内容の例示、企業価値向上策および支配防止策に関する記述方法などが、かなり具体的な意見とともに著されておりまして、非常に参考になります。

ちなみに会社法施行規則127条というのは以下のとおりであります。

(株式会社の支配に関する基本方針)
第百二十七条  株式会社が当該株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(以下この条において「基本方針」という。)を定めている場合には、次に掲げる事項を事業報告の内容としなければならない。
一  基本方針の内容
二  次に掲げる取組みの具体的な内容
イ 当該株式会社の財産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他の基本方針の実現に資する特別な取組み
ロ 基本方針に照らして不適切な者によって当該株式会社の財務及び事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み
三  前号の取組みの次に掲げる要件への該当性に関する当該株式会社の取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の判断及びその判断に係る理由(当該理由が社外役員の存否に関する事項のみである場合における当該事項を除く。)
イ 当該取組みが基本方針に沿うものであること。
ロ 当該取組みが当該株式会社の株主の共同の利益を損なうものではないこと。
ハ 当該取組みが当該株式会社の会社役員の地位の維持を目的とするものではないこと。

江頭先生の「株式会社法」では、この会社法施行規則127条に関しまして、

会社の支配に関する基本方針(買収に関する防衛策等)を定めている場合には、それに関する事項(買収防衛策の内容等)を記載しなければならない

とだけ、サラっと記載されておりますが(530頁)、この論稿を拝読いたしまして、よくよくこの条文の文言などを丁寧に読んでおりますと、解釈上、なかなか問題点もあるもんだなぁと、感心をいたしました。いろんな疑問点が湧いてきたのですが、2点だけ記しておこうかと思います。

まず新株予約権等を用いた敵対的買収防衛策を導入しようとしている(たとえば平時に事前警告型の買収防衛プランを導入する場合など)にもかかわらず、この規則127条による開示をしなかった場合、有事におけるその差止の裁判においては、防衛策を発動した会社は不公正な発行と認定されるリスクは高まるのかどうか、といった論点であります。どうも他の著名法律事務所のM&Aに詳しい先生のご意見(旬刊商事法務1758号40頁)や、立案担当者編著本のご意見では(論点解説・新会社法456頁)、リスクが高まるといった見解のようですが、この論稿におきましては反対意見を述べておられます。この対立は「平時導入説」に関する認識の違いや、裁判になると一体「何が」判断対象となるのかといったことへの将来予測の認識の違いによるものに起因するように思います。この論点の見解の相違が、総会準備に大きく影響するとは思えませんが(そもそも上場企業でしたら、取引所ルールとして適時開示しますよね・・・)、もし現実の差止裁判となった場合に、「127条で(防衛策があれば開示してくださいね)とルールが書いてあるのに、開示しなかった、ということは、なにか取締役にとって合理的に説明できないような目的があったんじゃないか、それはたとえば保身目的であったり、本当は有事なのに平時導入にみせかけるつもりだったり」と裁判所に推認を抱かせないでしょうかね。たしかに127条は「それが存在しない場合にまで基本方針を決定して開示せよ」とまでは言っておりませんので、ペナルティとして「不公正な発行」と認定されることにはならないと思いますが、やはりリスクとしては高まると考えてもおかしくないように思われます。

たしかに敵対的買収防衛策導入の真の目的が、買収提案者を排除する(もしくは実際に発動する)ものではなくて、純粋に株主に現経営者と買収提案者のどちらに経営を委託するかを冷静に決めてもらうための時間作りのためのものに過ぎない、といったことを突き詰めて考えて見ますと、「それだったら平時に防衛策を導入しようが、有事になって導入しようが現取締役側の導入動機の正当性には代わりがない」と思われますし、「有事・平時」で適法性を分類するための根拠となる「グリーンメイラー」なる存在につきましても、今回のスティールパートナーズが明星食品に最初にちょこっと「MBO」提案をしてみせたことからも明らかなとおり、なかなか裁判上でグリーンメイラーであることを立証することは困難なのが現実でありますから、あまり平時・有事で分類することにつきましてはその有意性がないのかもしれません。ただ取締役は会社に対して善管注意義務を負っている分、有事の行動には非常に大きな行動上の制約があり(私はこれを有事におけるコンプライアンス問題の一つだと考えています)、その行動の選択肢は限られてきます。経営判断法理の範囲が狭くなるといっても過言ではないと思います。そういった状況のなかでは、裁判所は合理的な取締役の行動原理を認定して、そのとおりに行動したのか、そのとおりに行動しなかった場合には、取締役に合理的な説明がつくのかどうか、など司法が「保身目的」を推論することが可能な領域が広くなると思われますし、もしそこに平時における防衛指針のようなものが存在するならば、その裁判所による推論可能な領域は狭くなるものと思われます。そういった意味からすると、私的にはある程度は「平時導入説」的な発想でこの「127条の開示をしなかった場合のリスク」を検討することも可能ではないかな・・・と考えますが、皆様はいかがでしょうか。

さて、もうひとつの論点ですが、これは先の論稿には出ておりませんが、日立製作所やダイキン工業が発表しているような防衛ルールについては開示の必要があるんでしょうかね?要は「防衛策は具体的に決めていないけれども、もし株式の大量保有者の存在が明らかになった場合には、うちの会社は既存の株主利益を守るために、なんらかの行動に出ますよ。それは持ち合いかもしれないし、第三者割当かもしれないし、ポイズンピルかもしれませんよ」といった内容の会社支配に関する基本方針の決定です。今後ますます防衛策導入を検討する企業は増えてくると思いますが、こういった基本方針を開示する企業も出てくるのではないでしょうか。そういったケースではこの127条はどのように機能するのでしょうか。このあたりは現実の総会実務にも影響の出る論点だと思いますし、どなたか著名な弁護士の方に解説いただければ社外役員たる地位にあります私のような者にとりましては幸いであります。

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