「三角合併論争」について
ここのところ、金融庁の内部統制ルールに関連するエントリーが続いておりましたし、日曜日には経済産業省も内部統制関連の情報セキュリティ対処方法を検討・公表する、とのたいへん気になるニュースもありましたので、続編を書こうかとも思いましたが、企業再編に関連する「三角合併」問題につきましても、ここ1週間ほど疑問に感じているところがありますので、そちらについて触れておきたいと思います。
13日(日曜日)から日米財界人会議が開幕した、とのことでして(東京新聞ニュース)、そのなかで争点のひとつになりそうなのが、いわゆる「三角合併」問題のようです。(外国企業が、日本子会社を利用して、株式交換による日本の企業を買収するための手法、この手続規制のあり方について、現在議論されているところです。なお法律上の問題だけでなく、株式交換に関する税制上の問題も残っております)
この三角合併問題につきましては、皆様方もご承知のとおり、株主による承認条件を厳格にすべきかどうか、ということで論争がなされており、日経新聞の11月10日朝刊では経団連副会長、在日米国商工会議所(対日直接投資委員会委員長)の双方が、それぞれ賛否両論を展開されておりました。ただ、この問題につきましては、どうも議論がかみあっていないように感じたのは私だけでしょうか。まず経団連副会長さんのご意見は、(そもそも三角合併については敵対的買収では利用できない、という意見があるが・・・との質問に対して)「敵対的買収に(三角合併が)使われることが100%ないとはいえない。たとえば発行済株式の3分の2を現金で買収した後に取締役を送り込み、残りの3分の1は株式を対価とすることもありうる」とされておられますが、そんなに心配であるならば、発行済株式の3分の2を現金で買収されない方法を考えるべきでして、そこはまさに公開買付ルールと敵対的買収防衛策をどうするか、会社を支配する株主のあり方について企業はどう考えるか、という問題に帰着します。したがいまして、三角合併の要件厳格化のための理由付けとしては説得力に乏しいように思われます。
さて、要件厳格化に反対する立場の有力根拠である「三角合併はいわゆる合併契約が必要であり、法律上、友好的買収にしか使えない(株主総会に提案するには取締役会の承認が必要)ので、三角合併自体に対する外国企業による脅威というのはありえない」との主張についてはどうでしょうか。たしかに私はこれは筋が通っており、同友会の代表理事の方も要件厳格化に反対する個人的意見を述べられたことも、正当な判断かなぁと思っておりました。しかしながら、スティールパートナーズが明星食品に対してTOBを仕掛け、これに対抗して明星食品がいろいろとホワイトナイトを探して難渋している様子をみておりますと、もし三角合併の容易化が進めば、外国企業もホワイトナイトとして手を差し伸べる余地が増えてきて、結果的には海外ファンドも、事業規模拡大を狙う外国企業も美味しい思いができる可能性が高まるのではないでしょうか。あまりこんな発想はどこの新聞にも書かれていないようですので、どっか根本的な誤りがあるのかもしれませんが、もしこういった図式が本当に予測されるものであるならば、「三角合併は敵対的買収には使えない」とは一概には言えないものと思います。今年に入ってアメリカでは大型のM&Aが急増しておりますし、海外ファンドでは金余り状態。そのうえ最近の日本の上場企業では、業績見通しへの経営者の慎重姿勢を反映して「好業績でも株価が上がらない」状態が続いているとのこと(金曜日の日経朝刊)。こういった情勢のなかで、やはり三角合併の承認手続きの厳格化という要請は(特殊決議の要件とする、ということは法制度上かなり困難だとは思いますが)、すくなくとも気持としてはわかるような気がいたします。
それにしても「好業績でも株価低迷」というのはどうなんでしょうか。よく買収防衛策を導入しないと宣言する経営者の方が、記者発表の折に「うちの企業は業績を上げることが最良の防衛策と考えている」とかっこよくおっしゃっておりますが、業績を上げても株価に反映されないのであれば、それは将来収益力を持ちながらお買い得な企業、といった評価につながってしまって、むしろ格好の買収ターゲット企業になってしまうんじゃないでしょうかね。四半期開示が恒例になり、短期の下方修正をおそれるあまり慎重な業績見通しになってしまうのが仕方ないのであれば、やはり買収防衛策を導入して、ともかく株主利益の最大化のための施策を十分検討できる体制を整えておくことも、そういった時代背景であればやむをえないのかもしれませんね。
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