2020年1月20日 (月)

ガバナンス向上のためには監査法人のローテーション制度は不要?

海外逃亡した日産前会長ゴーン氏の刑事弁護費用が日産の保険(会社役員賠償責任保険=D&O保険)から賄われている・・・というニュースはきわめて興味深いですね(yahooニュースはこちら)。昨年12月3日に成立した改正会社法では、D&O保険の法制化が図られていて、誰にどれだけの保険金が支払われたのか、それを誰が了承したのか等、(正確には政省令改正後に判明しますが)事業報告で開示されることになりますから、会社としては、このようなことも株主総会で説明責任を果たす必要が生じます。刑事手続き費用が保険から捻出されるのは当然といえば当然ですが、世間的にD&O保険の内容について知ってもらうことが最優先の課題だと考えています(ここから本題)

さて、1月19日の日経朝刊2面に「監査法人、10年超継続7割」との見出しで、(会計監査を担当する)監査法人を長期間にわたって変更していない上場会社が7割に及ぶ、と報じる記事が掲載されています(監査法人の在任期間を開示する新たなルールを早期適用している上場会社の調査)。老舗企業の中には(会計監査人として)同じ監査法人を50年以上も選任し続けているところもあるのですね。たしか東芝も50年近く変更していなかったと思います。

監査法人を変更しない理由として「パートナーローテーション(同じ監査法人だが、責任者が5年で交代する制度)を実施しているから『なれあい』は防止できる」といった理由と「会社のことをよくわかっている会計監査人のほうがガバナンス向上に資する」といった理由があるようです。たしかに、上記日経記事の問題意識は「どうすれば会社と監査法人との『なれあい』を防ぐか」というものなので、監査を受ける会社側の上記理由も「もっとも」のように聞こえます。

しかし、会社と会計監査人との関係が長期化することの問題は、単に「なれあい」だけではありません。「なれあい」から想像できることは、なにか問題に気づいても「問題を指摘しない」「不正の疑惑を見逃す」といったイメージです。「なれあい」と聞くと「不誠実な関係」を思い浮かべますが、誠実な会社と会計監査人の関係にも長期化が及ぼす弊害があるように思えます。

たとえば、関係長期化の問題は「社内の常識は社外の非常識、ということに気づかない」というところにもあると考えています。以前、会計士の職業倫理に関するエントリーでも触れましたが、毎年少しずつ不適切な会計処理が行われて5年経過した場合、最初の1年目と5年目を比較すれば誰だって「おかしい」と感じます。しかし1年ごとに判断がリセットされてしまえば「茹でカエル状態」になって「不正に気付かない」ということもあるのでは。

また、同じ会計事実をみていても、東芝事件の新日本とPWCの意見の相違、ライザップの「債権取り立て益」計上への新旧監査法人の判断、少し古いですが三洋電機の「(子会社株式評価に関する)三洋減損ルール」に対する第三者委員(会計士)と会計監査人との意見の相違など、同じモノをみても意見が分かれるのですから、投資家にとっても会計監査人の交代にメリットはありそうです。

私は「なれあい」よりも、この「会計士が同じものをみても、意見は分かれる」ということを知る機会が投資家に与えられない・・・というところに関係長期化の問題点があるように思います。昨年6月に「KAM相当事項」を三菱ケミカルホールディングスグループが開示しましたが、そのほとんどが「無形資産の評価」に関するものであり、プロの会計監査人ですら他の専門家に評価をゆだねざるを得ない、という現実を知りました。今後、制度会計に無形資産の評価が当たり前の時代となれば、いくつかの監査法人から資産評価を受けることも、企業のリスク管理のひとつではないでしょうか。

もちろん、欧州がローテーション制度を採用したからといって、会計不正を防止する、という意味では、決して同制度だけが方策とは限らないと思います。ただし「見送る」のであれば、ローテーション制度を採用していない米国のように、監査法人に厳しい責任(たとえば最近でも会計不正を見逃したPWCに630億円の民事賠償命令が認められたそうですが)を認める制度を採用することも検討する余地があると思います。

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2019年4月22日 (月)

監査品質の向上と業種特化型の監査法人

今月号のFACTA(2019年5月号)では、DLE社の不適切会計を早期に警告できなかった監査法人を厳しく批判する解説記事が掲載されていました。先日の(当ブログでもご紹介した)SVHD社の第三者委員会報告書でも、大手監査法人の監査品質に疑問が投げかけられていました。相変わらず、会計不正事件が頻発しますと、監査の品質をいかに向上させるか、その方策が話題になりますね。

4月15日の日経WEBニュースでは「新興企業の株式上場に監査難民の危機、解決策は?」といった見出し記事が掲載され、(監査難民となる新興企業を出さないために)大手監査法人以外の監査法人にもIPO監査の受け皿になることが課題とされているそうですが、たとえば課題解決策のひとつとして「業種特化型」の監査法人など登場しないものでしょうか?大手以外の監査法人が「この監査法人はこの業界の監査に強い」といった信用を構築することでIPOでも監査を担当できる道は開けないでしょうかね(素人の素朴な疑問で恐縮ですが)。ちなみに、大手監査法人の中でも、業種部門別のチームを構築しているのはPwCあらた監査法人さんくらいだとお聞きしております。

会社の経理部門にITが導入されたり、アウトソーシングされたり、さらにはグループで集約される中で、昔のように会計処理の全体を理解できる社員がとても少なくなったと思いますが、だからこそ監査法人が業種ごとのビジネスの流れを認識して「不自然さ」に気づく必要性があるのではないかと。また、統合報告書に代表されるように、機関投資家が財務情報と非財務情報との関連性に関心を持つ時代になったことから、世間的にも「業種特化型監査法人」への期待が高まっているのではないでしょうか。減損処理や税効果会計、収益の認識基準の変更など、ときどき会社側と監査法人側との見解の相違が見受けられますが、「市場の番人」としての監査法人の強い立場を維持するためにも、専門性の高い監査法人が要請されているように思います。

ただ、こういった議論が会計監査業界から出てこないところをみますと、業種特化型監査法人にも、それなりの短所といいますかデメリットもあるのかもしれませんね。

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2017年7月 3日 (月)

どっちが日本で主流になるの?-KAM(カム)とCAMs(キャム)

7月1日(土曜日)、日本監査研究学会西日本部会にお招きいただき、「財務報告の適正性判断への司法の関与」なるテーマで講演をさせていただきました(私の講演がやや短かったので、30分ほど質疑応答もさせていただきました)。学会関係者の皆様、どうもお世話になりました<m(__)m>。

講演の前に統一論題に関する討論&会場との質疑応答が開催されておりましたので、(専門外の私にはかなり難しい議論でしたが)一生懸命拝聴しておりました。そして監査報告書の透明化に関する質疑を拝聴しておりましたところ、学者の皆様が「重要な監査上の課題」のことを「きゃむ」と発音されていることに気づきました。ほぼ全ての大学の先生が『きゃむ』と発音されていました。

「え?『きゃむ』?、『かむ』じゃないの?」(私の素朴な疑問)

日本監査研究学会は8年ぶりにお招きいただいたのですが、8年前も「あぐりあぽん」という言葉が統一論題の質疑応答で飛び交っているのを聴いていて「『あぐりあぽん』って何?」と近くにおられた大学の先生にお尋ねしたことがありました(笑)。⇒合意された手続(Agreed upon procedures)「なんや、そんなことも知らんのかいな?」と思われても「知ったかぶり」だけは自分で許せない性格なのです。

討論の司会をされていた学会の先生に、(討論終了後)尋ねたところ、「うーーーん、学者の世界では『きゃむ』ですかねぇ・・・アメリカでは『きゃむ』だから・・・、欧州だと『かむ』なんだけどねぇ・・・」とのお答え。私の周囲の会計士さん方は、普通に『かむ』と発言しています。たしか金融庁のHPでもKAM(監査上の主要な事項:Key Audit Matters)となっていました。米国PCAOBの提言に登場する重要な監査上の課題(CAMs:critical audit matters)と「監査報告書の透明化・長文化」を議論する中では同じ意味ですよね?(それとも若干意味が違うのでしょうか?)

いずれにしても、①東芝さんの監査意見未受領問題、②ガバナンス改革における企業と機関投資家との建設的な対話の促進、③監査の品質向上への社会的要請といった時代背景において、監査報告書の透明化は(監査という専門領域を超えて)世間の関心を集めることは間違いありません。たしかIFRSのときもいろんな読み方がありましたけど、会計監査における「期待ギャップ」を埋めるためにも、対外的な読み方をどっちかに統一したほうが良いのではないかと、老婆心ながら思った次第であります。

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2017年5月25日 (木)

上場会社は監査法人の「監査の品質」を見極めよ

本日のタイトルは私の意見ではなく、旬刊商事法務最新号(2133号)のコラム(スクランブル)「企業からみた監査法人ガバナンス・コード」での論者のご主張です。監査法人版ガバナンス・コードが策定され、すでに4大監査法人および準大手の8つの監査法人がコードを実施することを表明しているそうです。各監査法人のWEBサイトでは、いわゆる透明性報告書も開示されていて、「高品質の監査」「深度ある監査」が謳われているとのこと。

このような状況において、上場企業側がぜひとも検討しておきたい点として、①監査法人の選任・評価への取り組み強化(「透明性報告書は監査法人の評価・選別のための新たな判断材料なので活用されたい)、②監査法人の「監査の品質」を見極める努力を怠らないことだ、と上記コラム論者の方が指摘しておられます。監査品質の向上のために努力する監査法人を前に、企業としての対応(心がまえ?)としてはまことに正論かと思います。

ただ、これは私の意見ですが、「監査の品質」を見極める目的はどこにあるのか?ということも議論すべきです。最高品質の監査法人さんに会計監査人をお願いする、ということが目的なのでしょうか、それともとんでもない欠陥品質かどうかを見極めて、「少なくとも並」の監査であることを選択材料にすることが目的なのでしょうか。

もし前者とした場合、一般の上場企業が監査法人の品質を見極めるだけのスキルを持っているのでしょうか?長年お世話になっている監査法人がありながら、どうやって比較対照のうえで別の監査法人さんと相対順位をつけることができるのでしょうか?また、一般常識で考えれば、品質の高い監査を行う監査法人さんであればあるほど報酬は高くなると思うのですが、厳しい意見を持ち、かつ高額報酬であっても監査の品質の高さを求める動機を上場会社は持ち合わせているのでしょうか?

また仮に後者とした場合、監査の品質を理解できる能力については前者と同じ問題がありますが、そもそも「とんでもない品質の欠陥」が問題となるのであれば、それは会社法340条(会計監査人の解任事由)の問題とされるべき客観的な事由ではないか(わざわざガバナンス・コードを持ち出すまでもないのでは?)、とも考えられます。「少なくとも並」の監査の品質を評価する、というのも、せっかく監査法人版ガバナンス・コードに取組む監査法人を前にして、なんだかあまり前向きな目的とはいえませんね。

結局のところ、上場会社が「高品質の監査法人を評価して、選定する」ためのインセンティブがなければなにも変わらないように思います。たとえば「高品質な監査」とは、相対評価であって、企業との相性で評価されるのではないでしょうか?日立と向き合う●●監査法人は高品質だけれども、東芝と向き合ったときにはそうではない、といったことです。会社側の協力なしに高品質の監査は生まれない・・・という考え方を市場関係者が共有することが大切ではないかと思います。

「いやいや、ガバナンス・コードは監査法人としての客観的なレベルの向上を目指すものであって、選別する企業にとっては絶対評価が必要なのだ」といった考えが正しいのであれば、たとえばこのたびのPwCさんのような意見や結論を表明しない監査法人の姿勢、昨年の某監査法人さんのような金商法193条の3の通知を積極的に発信する姿勢、会計不正は認められないが、内部統制の不備を指摘して社会に警告を発する姿勢、厳しい意見は持ちつつも、できるだけ内内に処理して適正意見を出す姿勢等をみて、上場企業はどう評価するのか、あらかじめ社会的な評価基準を最低限度そろえる(すり合わせをしておく)必要があります。また●●監査法人さんが会計監査人なんだから、この会社の株価は高いとか、借入金利の優遇を得られるとか、一般入札の条件をクリアできるといったことが一般的に認識されることも必要かと。東洋経済さんあたりで毎年「品質の高い監査法人ランキング」を公表することも検討すべきではないでしょうか。

わざわざ高い報酬を払い、厳しい監査意見を承知のうえで、それでも優良企業が優良監査法人を評価し選択する、ということは、これくらい市場の変革がなければ実現困難ではないかと思う次第です。

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2016年10月14日 (金)

会計・監査制度改革(不正会計防止)に向けられる金融庁の視線は眩しい・・・

P_20161013_204317ネット上ではあまり話題に上っていないようですが、 「粉飾決算-問われる監査と内部統制」の著者でもいらっしゃる浜田康先生(公認会計士、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授)が、このたび証券取引等監視委員会の委員に就任される予定だそうです(10月6日付けの日経人事ニュースで知りました。もちろん正式には国会の同意が必要となります)。近時の東芝不正会計事件について、浜田先生は会社側にも、監査法人側にもたいへん厳しい指摘をされていますし、また「司法は会計についてあまりにも無知ではないか」との持論を展開していらっしゃる浜田先生の委員就任は、金融庁の会計・監査制度改革に向けた本気度を如実に示している・・・というのが私の率直な感想です。

その浜田先生も教授を務めておられる青山学院大学大学院会計プロフェッション科では「青山アカウンティング・レビュー」の第6号を発刊し、10月10日に書店に並びました。早速拝読しておりますが、会計・監査制度に関与しておられる金融当局の方々は、本書をまちがいなく読んでおられるものと推測いたしました。なぜなら、これからの上場会社や監査法人に対する当局の規制の在り方がとてもよく理解できるからです。今号のメインテーマは「これからの会計監査のあり方を考える」、いや、実に精読する価値がありますね(2,100円税別)。

まずなんといってもメインタイトルを冠した金融庁総務企画局長の池田氏と青学の八田進二教授との対談です(聞き手は同学院の町田教授)。今年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言17項目を、金融庁はどのように整理しているか(どれを重要とみているか)といった視点が述べられています。おそらく「監査法人向けガバナンス・コードの策定」と「ローテーション制度」が重要であることは予想されるところですが、実はもうひとつあるのですね(これは中身をお読みいただくと、なるほど、その論点をそこと結びつけて考えるのか!と、とても新鮮に受け止められるものと思います)。また池田局長が「10年前と今とを比較して、なぜ会計・監査制度の重要性が増していると理解するのか」、(「あくまでも個人的な意見ですが」とのことですが)その根拠が書かれていて、これもどこかで使わせていただきます(笑)。

つぎに、第14回青学会計サミットでの天谷知子氏(公認会計士・監査審査会事務局長)のご発言が盛り込まれている討論会議事録ですね。私、お写真で初めて天谷氏のご尊顔を拝見いたしました(それはどうでもいいことですが・・・)。天谷氏も「あくまでも個人の見解」として発言されていますが、東芝事件に関するご意見や、監査法人のどこに問題があったか、といった分析は、ぜひとも理解しておきたいところです。しかし読んでいるうちに、上場会社向けのガバナンス・コードと、監査法人向けのガバナンス・コードとでは、おそらく「コンプライオアエクスプレイン」の意味合いが相当に異なるだろうな・・・と思いました。

さらに、「金融庁のLEON風チョイ●るオ●ジ」こと佐々木清隆氏(証券取引等監視委員会事務局長)による「監督機関からみた会計監査への期待」に関する論稿です。三様監査全体に共通する課題でもあるが、とりわけ会計監査においては事後チェック中心であり、現在起きている事象、将来のリスクを見据えたフォワードルッキング的な視点が強化される必要があると説かれています(これって、やっぱり「優秀なオオカミ少年になれ」という私の提言と根本のところでは同じではないかと)。私もこれは「三様監査」すべてに言える大きな課題だと認識していますし、不正の長期化の根本原因ではないかと考えます。しかし読んでいて気がついたのですが、上記3名の当局の方々が、いずれも「これは個人的見解だが」と前置きしつつも、内容的にはほぼ同様の意見をお持ちだというのがスゴイ!笑。

もちろん「監査なくして会計なし」と説かれる浜田康教授の論稿も必読ですし、目次をご覧いただければおわかりのとおり、会計、監査の世界で著名な方々による論稿がてんこ盛りです。ちなみに私個人の好みとしては、新日鉄住金の財務担当執行役員の方の論稿がとても刺激になりました(これもどっかで使わせてもらおうかと・・・)。ところで、本書の最大の難点は入手がなかなか困難ではないか・・・ということです。話題の「住友銀行秘史」は無尽蔵に置かれているのに、こちらは(せっかくの良書にもかかわらず)一般の書店では、大きなところでも1~2冊程度しか並んでいません。私は大学関係者でもなんでもありませんからよくわかりませんが、大学側にでも注文しないと大量に入手することは困難ではないかと思います。本書と皆様とのアクセスルートがもっとも心配ですが(一応、上記リンク先にも問い合わせ先が記載されているようですね)、ぜひともお読みいただきたい一冊です。

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2016年9月13日 (火)

「優秀なオオカミ少年」となる監査法人に期待します

3月にマザーズ上場した会社の会計監査人が、「不適切会計処理」の疑惑を指摘したことについて、金融庁怖さの「過剰防衛」ではなかったのか、と疑義を呈する記事を読みました。会計原則のひとつである「重要性の原則」からみれば、私は過剰といわれるほどの監査ではないと感じましたが、近時、会計監査人が監査に厳しい(とりわけ法人内の品質審査部門)という面は実際にあると思います。

会計士の方々をみていて気の毒に思うのは、監査上のミスや会社との癒着体質に疑問が呈されるような事態となるとマスコミで「ここぞとばかり」叩かれるのですが、覚悟を決めて「オオカミ少年」になり、見立て通りに不適切な会計処理が判明しても誰も褒めてくれないことです(まぁ「そういう仕事だから」と言われてしまえばそれまでですが・・・、ただ本当に監査人の活躍した事例をマスコミは取り上げてくれません)。最近の監査法人を冷静に眺めてみると、私からは「ひょっとすると会計不正ではないかもしれないが、また、会社との信頼関係を破たんさせて契約解消に至るかもしれないが、それでも疑義は会社に伝えなければならない」といった強い意思で実行に移す会計士の方は増えているように感じます。

もちろん正義感というよりも、金融庁の監督の目があるから・・・ということもあるかもしれません。また、第三者委員会調査の結果に依拠する、といった風潮が「企業不祥事対応のプリンシプル」によって確立されてきたことも大きいかもしれません。しかし、たとえば9月8日に取引所が公表措置としてテクノメディカさんの例などをみても、おそらく会計不正の疑義を監査法人側から会社へ呈した直後あたりは相当なストレスがあったのではないかと推測します。ちなみにテクノメディカさんの会計不正事件は、会社のトップが第三者委員会調査に虚偽説明を行ったとされており、これが取引所から厳しい措置を発動された大きな要因だったのではないでしょうか。今年2月に経営陣がすべて交代したJFLA(ジャパンフード・リカーアライアンス)さんも公表措置がとられましたが、やはり監査法人が「会計処理に疑義がある」と会社側に通告する直後はたいへん厳しい状況のように見受けられました。

ミスしたときだけボコボコに叩かれて、契約解消リスクを負いながらも勇気をもってオオカミ少年として社会的に有意義な仕事をしても「誰からも褒められない」となると、いったい誰が社会のために良い仕事をしよう、といった気概を持てるでしょうか。いま、監査法人への内部通報や内部告発は非常に増えているようで、とりわけ経理担当者や内部監査室の社員からの資料持参による情報提供が増えていることを実感します(私もいくつかの案件に告発者側、監査法人側で現在携わっています)。ようやく「会計不正は許さないのがあたりまえ」といった雰囲気が醸成されつつありますが、それでもいざ開示となると「頑張ってもいいことないし。なんとかウチウチで処理して済ますことができないか」と、監査人も消極的になりがちです。

ただ、ひとつ冷静にお考えいただきたいのは、「会計不正事件は『会計不正』だけで完結しない」ということです。ご承知のとおり、海外贈賄やカルテル事件は、会社にとって重大な損失を被らせる可能性があるにもかかわらず、最終的な海外当局の結論が出るまで開示されません。しかし会計不正事件として端緒が明らかになります。反社会的勢力との癒着問題も同様です。また医療機器を取り扱う会社や自動車部品会社であれば、人の命に関わるような品質問題にも発展しています。これは、独自のペナルティが法律上規定されているにもかかわらず、「内部統制の不備」(内部統制報告制度における開示違反)だけでは当局が動かない・・・という規制手法に大きな原因があります。会計監査人が「良質なオオカミ少年」になることは、会計不正防止を超えて、多くの人の命を救う結果にもなるのです(これは最近、ある会社の事件を取り扱って認識した次第です)。

最近、大きな会計不正事件を起こした上場会社の社外取締役さん(複数)と意見交換をしましたが、そういった会社であることを承知のうえで就任されているので、会計監査人との綿密な協議を毎月されていました。たとえ不発に終わった「オオカミ少年」でも、会社との信頼関係を破たんさせないスキルはあると思います。よりよい監査環境の整備に向けて、いろいろな知恵を働かせていただきたいと思います。

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2016年5月11日 (水)

新日本監査法人さんの改革-堂々とした姿勢を期待します

中央公論の最新号(2016年6月号)に「東芝の不適切会計-監査法人は何を見落としたのか」と題して、新日本監査法人(新)理事長さんの独占インタビューが6頁にわたって掲載されています。インタビュー内容については触れませんが、(中央公論さんには申し訳ないのですが)タイトルから期待されるほどに突っ込んだ(踏み込んだ)インタビュー記事とまでは言えないように思いました(もちろん個人的な意見なので、ご興味のある方はご自身でご判断ください)。

ただ、これから株主総会を迎える上場会社のうち、新日本監査法人さんを再任する予定の会社さんは必読かと思います。金融庁による処分理由とされている「法人としての品質管理」についてどのような改革を行っているか、また現場の監査担当者のスキル向上のために、もしくは職業的懐疑心を発揮するために、どのように取り組んでいるか、といったことが解説されていますので、株主から質問を受ける可能性のある総会議長さんや常勤監査役さんにはとても参考になるかと。

新理事長さんは、インタビューの最後のほうで、今後の新日本監査法人をどのような監査法人にしたいのか抱負を述べておられ、その内容については私も共感するところです(内容は中央公論をお読みください)。しかしながら、記者さんからの個別の質問に対しては、(私の個人的な感覚かもしれませんが)監査見逃し責任を追及される訴訟を想定したうえでの回答や、監査人に期待されている不正発見機能を発揮するための独立性を確保する、そのために今後は会社との緊張関係を維持して監査にあたる、といった趣旨の回答が目立ちました。

たしかに不正発見のために職業的懐疑心を発揮したり、監査人の独立性確保のために会社と緊張関係を維持することは大切です。しかし、「東芝事件では不正を見抜けなかったから、これからは見抜ける具体策の実行に尽力します」という回答だけでは、どうも受け身に感じられます。新日本さんは日本を代表する監査法人なのですから、もっと堂々としてほしいですし、制度監査の存在価値を国民に理解してもらうためのリーディングカンパニーとしての役割を果たしていただくことを強く希望します。上場会社には株主、投資家に対する財務報告の責任があります。監査法人の適正意見をもらわないと上場会社はこの説明責任を果たすことはできないのです(このことはコーポレートガバナンス・コードにおいても確認されているはずです)。

監査は証券市場のインフラです。上場会社は財務に関する説明責任を尽くすという重責を、会計監査人に「お墨付き」をもらうことによって解除される(免責される)ことになるのです。つまり会社と監査人は二人三脚で株主、投資家もしくは会社債権者に対して説明責任を果たす必要があり、そのための信頼関係を維持することが大切だということです。100社のうち1~2社くらいは不正会計に手を染める会社も出てくるわけでして、不正発見(もしくは不正の疑惑発見)のための「オオカミ少年監査」の勇気が必要になります。しかしあとの99社くらいは、いつも粉飾の誘惑に負けそうになりながらも、監査人との信頼関係の中で誠実に財務報告を作成しているわけで、この現実を前提として会計監査が社会的インフラとして必要なものであることを、どうか国民に示してほしいと思います。

以前、ダン・アリエリー氏の著書「ずる-ウソとごまかしの行動経済学」をご紹介しましたが、同書に出てくるエピソードとして「カギの効用」があります。鍵屋さん曰く

「カギはなぜ家についているのか、わかるかい?泥棒から財産を守るため?いやいや、プロの泥棒はどんなカギがかかっていてもその気になれば盗みはできるんだ。カギは100人中99人の誠実な人たちが、『その気』にならないためについているんだよ」

監査の効用も、実はこの「カギの効用」に似たところがあるのではないでしょうか。

新理事長さんもインタビューの中で「市場の番人」という言葉を使っていますが、なぜ市場の番人たりうるかといえば、不正を発見することもあるでしょうが、会社と監査人とのコミュニケーションを通じて、批判、指導を尽くし「これならお墨付きを与えてもよい」と一般株主の代理人たる立場で会社と向き合うからではないでしょうか。米国では2000年はじめのエンロン事件以来、大きな会計不正事件は発生していません。SOX法によって会計規制が厳しくなり、それとともに監査法人の会社への対峙姿勢にも変化がみられるということです。「なれ合い」や「プレッシャー」というと後ろ向きですが、「信頼関係の構築」といえば前向きです。東芝事件で真の改革を実行するのであれば、私は堂々と会社側と向き合う姿勢を一般国民に示してほしいと思います。

会社側から「監査報酬によるプレッシャー」を受けることを防ぐには、私は一刻も早く(監査法人が)国民を味方に付けることが必要だと思います。米国でのSOX法による上場会社規制の厳格化が(会計不正事件撲滅に)成功したとみられる中で、日本でも再び東芝事件レベルの会計不正事件が再発した場合、今度こそ日本の上場会社にも、また監査法人にも厳しいハードローによる規制が待ち構えていると覚悟すべきです。

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2008年12月30日 (火)

監査役と会計監査人との連携に関する研究報告改正(公開草案)

12月26日にJICPAと日本監査役協会の各HPにおきまして「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正について、と題する公開草案が公表されております。(とりあえず、リンクは監査役協会さんのほうへ貼らせていただきました。意見募集は1月26日まで)なお、ここにいうところの「監査人」とは会社法上の会計監査人と財務諸表監査における外部監査人のいずれも含むものとして使われております。平成20年4月1日施行にかかる金融商品取引法(内部統制報告制度、四半期報告制度、経営者確認書)と同法改正193条の3、平成19年公認会計士法改正、そして会社法の実務上の運用状況などから、これまでの報告内容とは、相当程度大幅な改正になっておりますので、ご留意ください。

全体をざっと読ませていただいた印象だけでありますが、上場企業の監査役さんにとって、かなり厳しい内容になっているものと認識いたしました。しかし、そもそも公認会計士法の改正が不正会計事件をきっかけとして、課徴金制度や品質管理、被監査企業開示、異動時開示、業務執行社員のローテーションなど、その独立性や地位の強化が図られ、監督官庁の締め付けも厳しくなり、おまけに粉飾決算見逃しに関する法的責任まで問われる時代となったわけで、監査人サイドとしては監査役との連携強化を図る(監査役にモニタリングの責任の一端を担ってもらう)必要性が高いのも自然なところかと思います。(内部統制報告制度や四半期報告制度の導入自体は、おそらく双方にとっての「連携協調の必要性」を高める要因になっていると思います)今後、日本監査役協会としては、監査役さんのための「連携に関する実務指針」の改訂作業に入るものと思いますが、監査役の「任務懈怠」(善管注意義務違反)と直接関わる論点だけに、監査人との意見交換に関する用意周到な準備が必要になろうかと推測いたします。(おそらく受け身の姿勢ではマズイのではないかと・・・・・)

また、この研究報告改正草案では、あまり触れられておりませんが、先日の春日電機社の事例のように、金商法193条の3に基づく財務諸表監査人からの措置要求通知がなされた場合、これに監査役がどのように対応するのか、そのあたりも実務指針において、明確にしていただきたいところであります。おそらく会計監査人としては、自らの法的責任が発生しないようにするため、「法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性を確保に影響を及ぼすおそれがある事実」の中身については、「どっちかわからないけども、とりあえず監査役に通知しておこう」といった運用になることは間違いないところだと思います。また、監査役が放置していた場合にも、金融庁に報告すべき要件は「重大な影響を及ぼすおそれのある事実」ということですから、監査人には、あとで再度判断する余地が残されているわけでして(先日ご紹介したJICPAの「不正報告に関するQ&A」をご参照ください)、こうなりますと、監査人から「とりあえず通知」された不正事実について、これを監査役としてどのように処理すべきなのか、非常に悩ましい問題が発生することになるわけであります。財務書類の適正性に影響を与えるような不正ではない、と判断して監査人と対立するのか、影響を与えるような不正に該当するおそれあり、として会社に対策を明確に要請するのか、その後会社と意見が食い違うケースにおいて、これを放置するのか、それとも先日の春日電機社の監査役さんのように、違法行為差止請求権を行使するのか、いろいろと監査役さんはご自身で悩まなければならない事態が発生するわけであります。つまりこれまで以上に、不正会計事件が発覚した場合において、取締役らとの連帯責任を追及されるリスクが監査役さんには大きくなる、と考えられるところであります。

こういった共同研究報告改正案を読んでおりますと、監査役さんが、(最近のコーポレート・ガバナンス改正への潮流のなかにおいて)その職責に期待される時代が本当に到来するのであれば、その裏腹として厳しい法的責任が問われる時代が待っている、ということでもあるのだなぁ・・・としみじみと感じます。

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2007年5月 8日 (火)

中小監査法人の登録辞退について

GW明けの5月7日の適時開示情報をみておりましたら、MBO(マネジメント・バイアウト)に関する意見表明報告書が2つも出ておりました。いま話題の株式会社テーオーシーのMBOに関する開示情報を含めますと3つです。このブログでMBOに関するエントリーをアップいたしますと、コメントもあまりつけていただけませんし、閲覧数も減ってしまうので、あまり皆様ご興味がないのかもしれませんが、(個人的には)会社法や金融商品取引法上の大問題だと思っております。おそらく、MBOは今後もどんどん増えてくると思いますが、企業価値向上が実現する陰で、情報不足や多数株主の恣意的な利益独占の状況に泣き寝入りするしかない一般株主(少数株主)は何も手が打てない・・・・・というのはどうなんでしょうか。このたびのダヴィンチ・アドバイザーズ(大証二部)によるテーオーシーへの「株主価値を守るための公開買付けのご提案」(TOB価格800円に対して1100円の提案)は、いろいろな意味で注目されるところだと思われますが、その提案内容からの感想でありますが、やはり買付届出書に添付されている株価評価書を少数株主側が閲覧して、そこからTOB価格の妥当性に関する意見を述べておられますが、こういった手続きはとても貴重だと思います。もし、5月11日が期限となっております有限会社オオタニファンドTOによるTOBが不成立となった場合、800円と1100円の金額の差もさることながら、少数株主側が開示資料をもとに企業価値向上策を公表して賛同を得た、という点も評価されるかもしれませんね。(もちろん、私はどちらにも特別の思い入れはございませんのであしからず。)

さて、昨日のエントリーのなかで、中小の監査法人さんが監査法人登録を辞退されるところが多いのはなぜか??といった疑問を少し書かせていただきましたが、さっそくligayaさんのブログにて、たいへん詳細にご解説いただきました。(いつも、どうもありがとうございます。)こういったところは、なにゆえか新聞報道などでもつっこんだ解説がなされないところですし、監査法人さんのリスク回避というのが、どのあたりに由来するのか・・・といったところがとても気になるところでしたので、(あくまでもligayaさんの私見、ということではございますが)たいへん勉強になります。実は今日(7日)、私が社外監査役を務めております会社で、監査役会と監査法人さんとの監査実施説明を含め、いろいろな協議がなされたのでありますが、その席上でちょっとこの話題について指定社員の方にお聞きしましたところ、ligayaさんとほぼ同じようなお話をされてました。学校法人の監査や任意監査で食べていくことを選択するところ、税務コンサル業務で食べていくことを選択するところ、どこかと統合することを考えているところ、いずれにしましても、監督官庁による組織的監査への厳格な立ち入り調査や(だいたい6ヶ月に一回くらいとか?ホンマかいな・・・)、報酬と、今後予想される負うべきリスクとの兼ね合い等で考えますと、中小の監査法人さんでは、法定監査のお仕事というのは、かなり厳しいものなのですね。。。とりわけ、私のほうから、監査法人の内部統制についていろいろとご質問させていただこうかと思いましたが、「監査報告の品質管理」ということで、きちんと書面および図面にてご報告がありました。あまり詳細なことを書くのも信頼関係違背になるといけませんので控えさせていただきますが、マネージャー以上の肩書きの方については、監査法人の顧問弁護士さんも巻き込んで、かなりシビアな品質管理をされていますね。また独立審査担当社員の方の業務評価とか、レビューの方法とか、一般の継続研修以外のプログラムを受講しなければいけないとか、中途採用における新たな問題とか・・・、私が予想していたのよりもはるかに厳しいことがわかりました。

こういった監査役と監査法人との意見交換の場はとても有益であります。私のような財務会計的知見をもたない監査役の素人的疑問が(わずかながらも)解消されることも有益なのでありますが、なんといっても内部統制、とりわけ統制環境上の問題点の把握だと思われます。減損会計や税効果会計、リース会計の適用など、会社の会計上、税務上の成績に大きな影響を与える評価見積もりへの考え方の相違のようなものを目の当たりにしますと、「こんなことだったら、ちょっと粉飾したほうがいいかも。なんぼでも、バレへん方法あるんとちゃうかな・・・・・」といったような気になりますよね。ホント、業績が悪かったらそう思います。でも、そこで役員クラス、グループ企業の社長さんなど、みんながまじめに、変な気をおこすことなく、変な数字をいじることはしない環境、それがあたりまえと思える環境、悔しかったら本業で見返す環境(笑)・・・・・、そういった環境があるとないとでは、やっぱり大違いのような気がいたします。日本を代表するような超大手企業と監査法人さんとの関係はまた別なのかもしれませんが、売上高100億とか200億くらいの規模の上場企業の場合ですと、会社と監査法人との信頼関係はまさに「企業の統制環境」にあるように思います。以前、ローテーションのお話をさせていただきましたが、そういった統制環境を監査法人の担当者の方が認識するまでに、やっぱり少しは時間を必要するのかもしれませんね。(文書化しろといわれても、これはなかなか文書化になじまないところではないでしょうか)

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2007年3月 2日 (金)

監査法人の粉飾決算加担への罰則ルール

2月27日の新聞報道では、監査法人改革案のうち、監査法人への刑事罰導入は見送られた、とありました(日経ニュースはこちら)。その一方で、3月1日夕方のニュースによりますと、監査法人が粉飾決算に加担した場合には課徴金制度が導入され、その加担した会計士が在籍している監査法人には、当該法人から報酬として受領した金額の1.5倍の課徴金納付が命じられることになる模様であります。「刑事罰を課される」ということに関連して、監査法人にはさまざまな不利益(事実上の解散など)が生じることになりそうですから、その社会的影響力(上場企業が被る不利益の回避)を勘案しますと課徴金制度に落ち着くことも妥当なところではないか、とも思われます。ただ、受け取る報酬の1.5倍の金額の課徴金といえば、これはほとんど制裁的意味しか持たない(つまり、不当に得た利益を返還する、といった意味合いではない)わけでして、実質的には「刑事罰」を課すに等しいものではないでしょうか。私は監督官庁のない資格者ですから、有事におきまして、金融庁や証券取引等監視委員会と対峙しなければいけない公認会計士さん方のお気持ちは十分にはわかりかねますが、本当にそれでいいのでしょうか?

たしかに、平成17年の証券取引法改正によりまして、継続開示義務違反行為に及んだ発行体企業につきまして、ある程度の制裁的な意味合いでの課徴金が課されるようになりましたので、これと平仄を合わせる形で制裁的課徴金を導入することにも一理あるようにも思えます。しかしながら、私の理解では、平成16年に証券取引法に課徴金制度が導入された当時は、伝統的な憲法の二重処罰禁止ルールにしたがって、不当利得剥奪的な課徴金制度として導入されたはずでありまして、それが平成17年に、継続開示義務違反行為に制裁的課徴金制度が導入されるに至ったところでの理論的整合性につきましては、ほとんど説明はされていないように思います。(刑事罰として罰金が科される可能性があるにもかかわらず、どうして刑事手続きによらずに、制裁的な罰則金を科されるのでしょうか、といった問題。もちろん両方が科される場合の金額に関する調整規定といったものは存在するわけでありますが・・・)結局のところ、あまり理論的に詰めることもなく、社会政策的な目的(資本市場を舞台とする企業不祥事を抑止したい、といった目的)から、監査法人による粉飾加担を防止するための制裁措置として、場当たり的に課徴金制度を導入するのではないか、と推測されます。

そもそも監査法人に対しましては、刑事罰の導入が見送られ、課徴金制度だけが導入されるわけですから、「ともかく払っておいたほうが監査法人の将来にとって好ましいのであれば払ってしまおう」といったインセンティブが働くようになるかもしれませんね。でも、実際に問題の企業における監査担当者には刑事罰が適用されるわけですから、行為者が否認をして、最終的に刑事的に「無罪」となった場合、監査法人はすでに課徴金を払ってしまっていた、という事態にもなりかねません。(課徴金賦課の条件として、行為者の刑事事件が確定したこと、とすることも理論上はありえますが、これでは法人に対する両罰規定、つまり刑事罰と同じになってしまいますから、やはり行為者の刑事事件とは別個の手続きになるのでしょうね)監査法人が得た報酬といいましても、これはほとんどが会計士さん方の労働の対価でしょうし、虚偽記載の報告書によって「濡れ手に粟」の利益を監査法人が得たものではありませんので、報酬の1.5倍の課徴金といいますのは、たいへんな制裁金と言えそうであります。粉飾への加担ということを刑事的な発想で考えますと、「会計基準の解釈」や「担当会計士の故意過失」「事業会社の役員との共謀」「監査法人の担当会計士に対する注意義務の有無」などなど、刑事法的には有罪と無罪を分ける論点がかなりたくさんあると思われますし、そういったところを十分反論することもなく「刑事罰よりもまし」ということで払ってしまうことになってしまうのでしょうか?

独占禁止法や証券取引法など、それぞれの法目的が異なりますので、課徴金の持つ意味もそれぞれの法によって異なることには異論はありませんが、監査法人には刑事罰を導入しないからといって、実質的な刑事罰と評価しうる課徴金制度をそのまま受け入れていいものかどうか、(刑事法学者の方はもちろんのこと)監査法人さんのほうでも、今後の具体的な立法過程に十分ご留意いただいたほうがよろしいのではないか・・・と思った次第であります。

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