内部統制(実施基準)パブコメへの感想(その5)
本日は上京して日本取締役協会の内部統制研究会に参加してまいりました。(たいへん有益なコメントをいただいておりますが、ちょっと明日の用意がございますので、帰りの新幹線のなかでとりまとめた下記のエントリーをアップするだけで、また明日にでもコメントにはお返しをさせていただこうかと思っております>七條権米さん、胡桃さん、監査役サポーターさん)
これまでは規模の大きな企業のご担当者の方をお招きして、米国SOX法やJ-SOX法に基づく内部統制システムの構築運用状況をお聞きする機会が多かったのですが、きょうは企業会計審議会内部統制部会作業部会の専門委員でもいらっしゃるA監査法人のH先生の「J-SOXにおける実施基準」の解説を2時間拝聴させていただきました。(実際には解説の途中でも、いろいろとご意見をください・・・とのことでしたので、私も4回ほど質問させていただきましたが)なかなかユニークだったのは、本日の解説のために仮想の「公開草案に対する意見書(とりわけ監査基準に関する意見)」といったものをお作りになってこられまして、その意見書のなかに「私見」として今後の実施基準を読み解くヒントとなる考え方も表明されていたところであります。また、実際に監査法人においてかなりの数の企業について「内部統制システムの整備運用」を支援されてきただけに、正直にJ-SOXの「よくわからないところ」への悩みも吐露されておられまして、東京まで寄せていただいた甲斐はございました。
J-SOXの実施基準の確定版は、本来ならば1月20日前後に公表される予定とのことでしたが、なんと190本もの意見書が届いているとのことで、最終確定版がリリースされるのは2月10日以降にずれこむとのこと。(しかし190となると、いちいちコメントを公表するだけでもたいへんですね。いや、全部吟味されていたら、もっと時間がかかるんじゃないでしょうか)また、これを受けて、3月には公認会計士協会による内部統制監査の実施基準への実務指針が出される見込みのようでありますが、これはまだ流動的とか。エントリーのテーマは「パブコメへの感想」ということにしておりますが、本日の解説をお聞きしての意見をすこしばかり述べてみたいと思います。(以前の多賀谷教授のご解説のときと同様、以下はあくまでも私の個人的見解でありまして、ご趣旨を取り違えている場合もありますので、すべての責任は私にあります。その点のみご了解ください)
1 アメリカの統合監査とは異なるものである(内部統制監査の位置づけ)
財務諸表監査と内部統制監査とは、それぞれが投資家に対して企業情報の正確性を担保するための有力な資料となり、双方が統合されて監査が完了するというのが統合監査のようでありますが、日本はあくまでも「内部統制監査は財務諸表監査のための付随的な監査である」ということが確認されました。このあたりは部会の最初の段階で委員の合意をみたところのようであります。ところで、実施基準の監査に関する解説のなかで、内部統制に重要な欠陥がある場合には、そもそも財務諸表監査はできない、といった説明があったと思うのですが、それはこの「財務諸表監査の付随的なもの」といった前提とは矛盾しないのでしょうか。(付随的なものであれば、重要な欠陥に目をつぶって、財務諸表監査に進むことができそうな気もするのですが、いや、これはあくまでも私個人の単なる理屈のうえでの疑問でありますが)
2 ダイレクトレポーティングとインダイレクトレポーティングは「程度問題」である
(この表題は、私の理解でございまして、H先生がこのように述べたわけではございません。念のため・・・・・)理屈のうえでは、この両者は意見表明への監査なのか、独立した監査なのかというところではっきりと理論上は分かれるところだと思うのですが、このあたりはH先生も悩まれておられたようでして、結局のところインダイレクトレポーティングを採用したといってみても、監査人が「直接証拠」による監査意見形成が認められる以上は、「程度問題」と考えざるをえないと思います。このあたりは、昨年12月の米国SOX法の改定に関するSEC、PCAOBの規則(公開草案)をみてもおわかりのとおり、企業が多大な費用負担を余儀なくされた部分として大きな論点となっておりますので、ダイレクトレポーティングを採用しなかったことの妥当性は理解できるところではありますが、ただ理屈をきちんと詰めて考えますと、やはりCIAフォーラムの眞田先生の意見書にあるようなご批判が正当性を増すのではないか、と私は考えております。
なお、ここでひとつ疑問が出てきますのは、経営者と監査人との「協力関係」のあり方ではないでしょうか。実施基準では非監査業務の提供は原則どおりに監査人が経営者にサービスしてはいけないということを前提としつつも、できるだけ期中からあるべき内部統制システムの構築へ向けて、経営者と監査人が協力していくことを推奨されております。私はこれがダイレクトレポーティングを採用しないことと親和性があるからこそ、このような説明が可能ではないかと思っておりますが、もしダイレクトレポーティングを採用すべき、と言い切ってしまうと、このあたりはどうなんでしょうか?基本的には監査人の監査は財務諸表監査と同様の構造になってしまいますから、実施基準のなかで特別に「協力関係」を持ち出すことについては違和感が出てくるように思えますがいかがでしょうか。
3 内部監査人の評価結果の利用について
内部監査人のJ-SOXにおけるウエイトの高さは、このブログでも何度も申し上げてまいりましたが、やはりH先生も同様のことを強調されておられました。なんといいましても、たとえば有効性評価のためのサンプリング25件のうち、たとえば内部監査人が10件ほどのサンプリングを適正に行っている場合には、監査人はこの内部監査人の評価結果を利用できる、とのことでありまして、経営者(企業)にとりましては、費用負担の点で十分検討しておくべきところであります。ただし、ここにも理屈のうえでは問題が発生しているようであります。内部監査制度自体も、経営者に関する評価の一貫として、監査人の監査対象(全社的な内部統制)になっております。その監査対象である内部監査人による評価結果というものを、そもそもサンプリングの一部として利用できる、というのはちょっと矛盾が生じているのではないでしょうか。理屈はすこし違いますが、これは監査役を内部統制監査のなかでどう扱うか、という問題にも共通するところの「矛盾」でありまして、どうもキッチリとこのあたりを説明できるような理屈というのも、いまのところはよくわからないところです。高い理想は維持しつつも、できるかぎり企業や監査法人の負担を軽くしたい、といった内部統制報告制度全般に流れる課題を実行しようとすれば、こういったところにも疑問点が出てくるのはやむをえないことなのかもしれません。(うーーん、なんだか「産みの苦しみ」のようなものを感じるのは私だけでしょうか・・・・(^^;) )
その他、経理の状況以外の評価対象について、企業はどのような基準をもってその有効性評価を行うのか、持分法適用会社の内部統制というものをどうやって考えたらいいのか、業務プロセス監査と評価項目の選択などなど、非常に大きく、かつ重要な論点についても議論がなされたのでありますが、ちょっと長くなりましたので、また続きとさせていただきます。
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