2007年1月12日 (金)

不二家の公表・回収義務を考える(その2)

辰のお年ごさん、監査役サポーターさんから、有益なご意見を頂戴いたしました。(いつもありがとうございます。このブログをご覧の皆様方も、いろいろとご意見がございましたら、お気軽にコメントをいただければ幸いです)それにしても、このたびのシュークリーム事件は本当に不二家にとっては厳しいレピュテーション低下をもたらしてしまったようです。ここまでマスコミに厳しく報道される、ということは、昨日のエントリーをアップした時点では予想もしておりませんでした。株価ももちろんかなりの下落を記録しているようです。

「マスコミに知られたら雪印の二の舞になるぞ」と社内管理者宛に送付された内部文書も存在した、ということですので、社内の事態は昨年11月以降は、ほぼ「有事」のレベルに突入していたのではないか、と推察されます。(4期連続で洋菓子部門の経営が赤字続きであり、ようやく回復の目途が立ってきた、という矢先の問題発生という状況も、認識を甘くさせたのかもしれません)代表者は記者会見におきまして、「我々の認識が甘かった」との釈明をされていたようですが、はたして「この程度のことであれば公表する必要はない」という意味だったのでしょうか、それとも「事態は厳しいが、マスコミに知られることはない」という意味だったのでしょうか。おそらく内部文書の存在からしますと、後者の認識が甘かったのではないかと思われます。

1 環境保護宣言、再雇用促進策が裏目?

消費期限切れの原料をそのまま廃棄することは環境破壊につながる、として、不二家では廃棄処分方法への厳しい社内規制があった、とのこと。そこで、現場では消費期限切れの原料を安易に廃棄できなかった環境にあったようです。そして、元従業員の方々を現場で再雇用していたようですが、現場の方々は昔の製造現場における「勘」に頼って、たとえ消費期限切れの原料であっても「味や匂いで新鮮度がわかる」として、自らの味覚を頼りにできるだけ利用していた、とのこと。一見、企業価値を高めるためのCSR経営(職の安全性を宣言して、他社よりも厳しい社内規則を設定することも、これに含まれるものと思います)が、皮肉にも企業不祥事の発端になってしまった、ということが真実だとすれば、これは企業にとってかなりショックな出来事だと言えそうです。

2 内部通報制度と監査役制度

「公表」や「通知」することの重要性は、規制緩和時代の企業不祥事防止策としての「生命線」になりつつあると考えます。刑罰や行政処分のエンフォースメントをもって、行政監視による事前規制が厳しい時代であればともかく、企業の自律作用(内部統制システム整備によるリスクマネジメント)に、コンプライアンス経営への大きな期待を寄せる現代におきましては、おそらくステークホルダーや株主にしても、「誠実な対応」の表れとしての「公表」「通知」への信頼感が高まっていると言えるのではないでしょうか。もちろん、企業経営者自身が誠実であり、自発的に「公表」に踏み切ることができればいいのでしょうが、現実には「雪印の二の舞になるぞ」がホンネのところであると思います。そこでやはりこの「公表」の意味を考える場合には、社内における「内部通報制度」の充実が大きな影響力をもつのではないでしょうか。つまり、コンプライアンスを重視することを社内に徹底する社長のコミットメントと行動規範の存在、そしてなによりも、具体的なリスク管理の一貫として、何が社内規則違反となるのか、全従業員にわかりやすい形で広報していたのかどうか、そのあたりが内部通報制度の充実によって「不祥事は隠蔽できない」といった経営陣、従業員の意識を高揚させる大きなカギになるのではないかと思います。

また、私自身は先に書きましたように、本当は昨年11月ころから、不二家は「有事を意識していたのではないか」と思うのでありますが、その時点で監査役の方々はどう考えていらっしゃったのでしょうか。そもそも情報は共有されていたのでしょうか?カヤの外になっておられたのでしょうか?先のダスキンの事件におきましては、社長に「一刻も早く、社会に公表しなさい。いまならダスキンにとって最悪の状況だけは免れることができるから」と書簡を送っておられた社外取締役の方がいらっしゃいましたが、そのような対応はとられたのでしょうか。私自身も社外監査役という立場におりますので、企業の有事に責任ある行動をとることの難しさを理解する必要がございますが、やはり「有事」にこそ、その職責は果たされるべきであると思いますし、この11月の時点における社外役員らの行動に非常に関心を抱くところであります。

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2007年1月11日 (木)

不二家の公表・回収義務を考える

(1月11日午後追記あります)

ダスキン株主代表訴訟控訴審判決の影響からか、こういった事例にはどうしても敏感に反応してしまいますが、マスコミもこぞって株式会社不二家(東証1部)のシュークリーム問題を批判的に採り上げているようです。(日経ニュース中国新聞ニュース)ほぼすべてのマスコミにおきまして、工場の担当者が、怒られるのを避けるために(本来廃棄すべき)消費期限切れの牛乳をそのまま使用してシュークリームを出荷した、といった事実よりも、その直後に社内で事実が判明したにもかかわらず、出荷したシュークリームを回収したり、公表しなかったことに関する「会社の姿勢に対する」非難、という趣旨の報道姿勢のようです。(人事担当責任者の話においても、公表しなかったことが悪かった、というニュアンスが感じられます)消費期限切れの牛乳を使用してシュークリームを製造販売すること自体はおそらく食品衛生法違反、JIS違反にはならない、つまり「社内規定に違反するだけであり、違法性はないために公表するまでもない」といった企業の見解だったと思われます。しかしながら、マスコミから一斉に「なぜ公表して、回収措置をとらなかったのか」と疑問を呈されますと、「軽率でした・・・・・」という社内対応になってしまったようです。(いまになって発覚した、ということは、おそらく内部通報や外部通報によるものと推測されます。社内担当者の話でも、公表すべきとは思いもよらなかった、とのことですし。)

しかし「社内規定違反の事実」だけが認められる場合にまで、企業はその事実を公表しなければいけないのでしょうか。もし公表しなければいけない、というのであれば、それはどこに根拠があるのでしょうか。それは法律上の根拠ではなく、もっと倫理的なところ、つまり企業の社会的責任といったあたりに由来するのでしょうか?私自身、このあたりはグレーゾーンのような気がしておりますが、企業コンプライアンス的な発想からすると、マスコミから騒がれることが企業の社会的評価をオトシメルことになる以上は、その時代の風潮にしたがって法的には公表する必要はなくても回収、公表することが大事だ、ということになるのでしょうか。(でも、マスコミの考え方が企業倫理的に正しい、とはかならずしも言えないはずですよね。東京新聞あたりのニュースでは、「食品衛生法違反の可能性も浮上している」と報道されていましたが。)もしこのたびの不二家のシュークリームにつきまして、回収および公表することが取締役の責務である(取締役は、いたずらに企業の社会的評価を貶めないよう細心の努力をはらわなければならない)、ということが正当な結論とした場合、おそらく日本中の食品製造販売会社の役員さんたちは「ドキ!」っとしてしまうのではないでしょうか。内規違反の状態で製造販売してしまった、という事実は現実に発生しうるものと推察されますし、わざと公表しなかった、というのも当然に問題になるでしょうが、また販売事実を知らなかったというのも、内部統制に問題あり、ということになりそうですし、いずれにしましても、公益通報制度(内部通報制度)が充実した世の中におきまして、この「公表と隠蔽」問題は今後の企業コンプライアンスの重要課題になりつつある、と思われます。

私が「グレーゾーン」と考えました理由は、この報道を知ってすこしばかり「素朴な疑問」が湧いたからであります。消費期限切れの商品を使用すること自体が食品衛生法違反にはならないとしましても、その原料を使用して加工した製品には、また消費期限が付されるわけですよね。そこで加工品であるシュークリームの消費期限というものは、何を基準に決まるのか、というものです。原料の鮮度も判断基準になるとしたら、そもそも消費期限が切れている牛乳を使用したこと自体がシュークリームの消費期限を偽ったことにならないのか、もしくは牛乳の消費期限自体を偽って延期させたことにならないのだろうか、といった点であります。(消費期限の不当表示は明らかに法律違反であります)ただ、同じ加工品といいましても、チーズの場合であればなんとなく「セーフ」のような気もしますし、このあたり乳製品の消費期限というのは、いったい何を基準に考えるんでしょうかね?こういった単なる社内規定違反ではなくて、そもそも「グレーゾーン」の問題である、ということでしたら、企業としてもコンプライアンス的な見地から公表、回収に踏み切るべき「ふんぎり」がつくものと思うのですが、ただ「社内規定違反」というだけで取締役の責任問題が発生する、というのでは、とりわけ最近では、環境問題や消費者問題が企業のCSRの根幹をなすだけに、企業としては相当な対価を投入して、その対応を検討しなければならない、ということになりそうです。

社内不祥事の開示統制問題は、今後もさらに「企業にとってやっかいなコンプライアンス問題」として、リスクマネジメントを要求されることになりそうですね。1月11日午前2時現在、不二家のHPには本件に関する何らのメッセージもございませんが、この問題を不二家社としてどう考えておられるのか、「環境および食品衛生に最大限の配慮をしている品格ある企業」として、ぜひメッセージを株主(一般投資家)および消費者に向けて伝えていただきたいと思います。(結論先にありき、という意味ではございません。もし公表すべき問題ではない、ということでしたら堂々と、その社内方針を、社内の検査体制や安全性への取組みと結びつけて、説得的に述べていただければ、それもまた企業のコンプライアンス問題への姿勢と考えるべき、ということだと私は理解しております

(1月11日午後 追記)

すでにニュースで報道されておりますとおり、不二家としての謝罪会見、5日間の洋菓子製造中止ということで、HPトップページにも所見が表明されております。それはそれで素早い対応でさすが「品格ある企業だなあ」と感じ入る次第でありますが、やはり上記のとおり、私は「消費期限切れ商品がもはや市場に出回っていないような本件において、本当にこれが公表しないといけない事案なのだろうか・・・・今後の各企業における社内規定作りに、マイナスのイメージを与えてしまうことにならないだろうか・・・・」といった疑念がぬぐいきれません。ここがコンプライアンス問題の最大の論点だと思います。なぜ今回謝罪したのか、社内のどういったことに対して謝罪をするのか、もし謝罪しなかったら会社はどうなるのか、謝罪しないといけない根拠はどこにあったのか、公表することと今後の社内の再発防止とがどのように関連付けて説明されているのか、そこを詰めて考えいかないと、今後も各企業において「社内規定違反なんてどこも同じ。運が悪ければそこで考えましょう。もし社外に情報が漏れたら謝罪して、社内調査をして、内部管理体制の改正をリリースすれば済むこと」の繰り返しになってしまうはずであります。ここをきちんと考えておかなければ、企業コンプライアンス、CSR経営など「お題目」に終ってしまうような気がします。(なお、読売ニュースの記事内容からしますと、どうも「不適切な販売」には終らない可能性もあるかもしれません)

1月 11, 2007 不二家の公表・回収義務を考える | | コメント (10) | トラックバック (2)