日興CGの上場維持決定(その2)
昨日の「日興CGの上場維持決定」へのコメント、TB、そしてメールありがとうございました。こんな場末のブログにも、思いのほか大きな反響がありまして、たいそうビックリいたしました。TBや個別に頂戴しましたメールの内容など、8割程度のものが「なんで上場維持やねん!!」といった内容でありまして、東証の判断に対する怒り、落胆、他事考慮への推測、出来レースなどなど、いろんなご意見を頂戴いたしました。「東証の判断に概ね賛同」と主張したことにつきましては、今も変更はございませんが、もう少し東証(だけでなく大証さん、名証さんも)の判断について検討してみたい(言い訳をしてみたい)と思いましたので、続編とさせていただきます。(また私の勝手な意見でありますし、議論の前提条件に勝手な思い込みがあるかもしれませんから、お気楽にお読みいただければ結構であります。)
上場廃止決定の持つ意味その1(参加者への安心感の提供)
まず、「なんで上場維持やねん!!」といった意見が多数であったことにつきましては、これは東証さんも十分耳を傾けるべきですし、「上場維持」という判断に至った過程についての説明を尽くしたほうがよろしいのではないかと思います。そもそも、なぜ東証さんは監督庁でもないにもかかわらず、上場廃止といった強力な処分権能を有するのか?という問いへの答えを検討する必要があるでしょうが、それはまず市場管理者として、自主規制機能たる「罰則的処分権能」を持つからであります。日興の犯した事件につきまして、その事件が悪質であるにもかかわらず、そのまま上場を維持できるのであれば、一般投資家の方々は市場に対して失望し、市場を離れてしまい、市場の活性化の道が閉ざされてしまうことになります。(株式会社としての取引所の最悪パターン)つまり、まず株式市場という場におきましては、ルール違反をした者に対しては、即刻退場を願い、「こんな悪い会社は追い出しましたよ。さあ、もう安全な市場が形成されましたので、どうかここで安心して売買をしてください」とアピールする必要があるはずです。(安心提供機能)これはとりわけ海外の投資家向けにも必要なアピールではないでしょうか。「一社でも、悪質な行動に及んだ企業は参加させていない」という(ある意味で、理想論に近いものでありますが)タテマエは、この株式市場には必要でありまして、そのためには、事件の後でどのような情状酌量のための反省態度を示したとしても、その過去の事件内容のみから、懲罰的処分を検討する必要があります。これまでの退場となった他社事件との比較から「悪質かどうか」を判断したり、組織ぐるみの事件かどうかを判断するのは、こういった懲罰的処分としての性格から求められるものと思われます。つまり、懲罰的処分でありますから、当然の前提としまして、上記のような当該企業の責任論とも関係するわけであります。 (ここで、私の意見としましては、組織ぐるみとは認められない、つまり日興CGという法人としての「退場処分」に見合う責任までは認められない、という判断が関係してくるわけであります)ただし、一般投資家の方々が「こんなあぶなっかしい企業が上場されているのだったら、株式投資はやめとこ」といった気持ちになってしまうことは証券取引所としても防止しなければなりません。そこで、コムズカシイ議論をするよりも、今回の日興問題については一般投資家がどのように考えているか、といったところへも配慮が必要になってくるわけでありますので、もし東証さんにとって、上場維持といった判断が微妙なバランスのうえでのことであるならば、もう少し市場参加意欲を一般の投資家が失わないようにするための説明責任を果たす必要があるのではないかと思います。
なお、ここで「金融庁から5億円の課徴金納付命令をすでに受けていることと、東証の判断は矛盾するのではないか」といった意見も出てくるところであります。しかしながら、これは以下の記述とも関係するところでありますが、行政処分たる「課徴金制度」は(いまでこそ、懲罰的効果が問題となっておりますが)原則的にはそもそも懲罰ではなく、違法な利益取得を吐き出させる制度として構築されております。したがいまして、課徴金制度は責任論というよりも後述の「違法状態除去」に関する監督官庁による対応のひとつと考えられますので、懲罰論(責任論)を前提とする「悪質かどうか」「組織ぐるみかどうか」の判断に関する議論とはなんら矛盾するところはないものと考えます。
上場廃止決定の持つ意味その2(違法状態の除去)
証券取引所には金融庁という監督官庁が存在します。したがいまして、もし市場の信頼を失わせるような行動の再犯可能性が当該問題企業に認められるのであれば、市場に参加しております一般投資家は再度、不当に粉飾のリスクを背負い続けることになります。しかしながら金融庁は、投資家が危険にさらされている状況が継続しているのであれば、当該企業の責任論はどうであれ、ともかく違法状態を除去し、一般投資家を保護するために、即刻金融庁自身が退場命令を出せる仕組みを用意しておかなければいけません。(ここで改めて申し上げますが、企業に違法状態が存在するのと、その企業に責任が発生することとは区別して考える必要があります。ちょうど、刑事事件におきまして、被告人が有罪とされるためには、構成要件該当性と違法性が認められるだけでなく、そのうえで被告人に故意もしくは過失、といった責任が認められる必要があることと同様であります)金融機関の場合、最近はこの「違法状態が継続しているかどうか」といった判断基準として、内部統制(内部管理態勢)が問題とされるわけでありまして、たとえばトップが交代しているか、取締役会の体制がトップの暴走を未然に防止できる人的物的組織となっているか、牽制機能は働いているか、監査役による監査体制はどうか、連結決算の対象となる子会社との関係はどうか、などが精査されることとなるわけであります。そして金融庁自身がその調査に及ぶよりも、専門性、迅速性の面で格段の差が認められる証券取引所に(つまり自主規制機関による判断に)、その判断を委ねている、と考えるのが妥当ではないかと思います。そして、この違法状態の除去が認められるかどうか(つまり上場を維持させてもいいかどうか)、といった判断基準におきましては、当該企業の問題事件以降の再犯防止策への取組姿勢というものが「違法状態の有無」に影響を与える場合もあろうかと思われます。
昨日、私は日興CGへの上場維持決定に関するコメントのなかにおきまして、騒動直後からの反省態度のようなものが、実際には判断理由のなかでは考慮(斟酌)されていないのではないかと書いておりましたが、実際のところは上記二本立てで総合的に考慮されるのではないかと思います。このように考えますと、処分の公正さも担保され、また粉飾決算発覚後の当該企業の再犯防止へ向けてのインセンティブも相当程度、満たされるのではないでしょうか。(ちなみに、大証の米田社長さんは、「不良がいたら、その不良を追い出すだけではいい学校とは言えない。不良をきちんと育てることも学校の使命だ」と記者会見で述べておられました。しかし、「あの学校には不良がいっぱいいるから、受験は控えよう」と考える受験生がたくさん出てくることも事実でしょうし、株式会社としての証券取引所として、米田社長さんのように言い放ってしまっていいものかどうか・・・、ちょっと悩むところであります)
| 固定リンク | コメント (14) | トラックバック (1)