2016年9月22日 (木)

不正対応に向けた内部統制の機能(日本内部統制研究学会年次大会のお知らせ)

(本日はBLOGOSさん等、転載いただかなくても結構な話題でございます)従業員の長時間労働による過労死問題について、会社役員の責任を追及する株主代表訴訟が、我が国で初めて提起されたそうです。被害者のご遺族に対する(会社の)損害賠償義務が確定したため、従業員としての持株を相続されたご遺族が、今度は株主として会社役員を提訴されたようで、いわゆる職場環境配慮義務違反が根拠となるようです。これだけ世の中で「働き方改革」が叫ばれているわけですから、当然のこととして役員の内部統制構築義務違反を問う裁判は、労働法の世界にも波及することになります(ちなみに原告代理人はミスター株主オンブズマンで知られる手強いM先生ですね)。

さて、私が理事を務めております日本内部統制研究学会の年次大会も、今年で9年目となりまして、来週10月1日(土)に第9回大会が開催されます。隔年で東京開催となりますが、今年は御茶ノ水の明治大学駿河台キャンパスで行われます(詳細は日本内部統制研究学会のお知らせをご覧ください)。今回は企業不正に焦点をあてたテーマが統一論題となっておりまして、「不正対応に向けた内部統制の機能-内部統制の構成要素からみた評価と課題」を研究、報告する内容です。「ごあいさつ文」にもあるとおり、ついに!「統制環境」に光を当てます!いや、ホントに昨今の企業不祥事をみるかぎりは「統制環境」こそ内部統制の最重要課題ですよね。この学会の趣旨は企業実務に役立つ研究ということなので、もちろん企業の方々にも多数ご参加いただける内容になっております。

学会による上記告知のとおり、私は午前中の自由論題報告の司会を務めます。私が司会を務める第1会場は、企業不祥事発覚時の第三者委員会報告書について取り上げます。最初に報告をされる東ソー株式会社の齋藤氏は、自社の内部統制構築に、どのように第三者委員会報告書を活用されているか・・・という点を、長年自社の内部統制推進に携わっておられる実務家の視点から発表いただきます。また、会社法、金商法問題に詳しい遠藤元一弁護士は「第三者委員会制度を再考する」というテーマで、第三者委員会制度の理想と現実に鋭く切り込むことが期待されます。日弁連ガイドライン「なんちゃって」準拠報告の現状などにも触れられるかも?うーーん、こちらも楽しみであります(そういえばこの学会の会長は例の「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員ではなかったかなぁ・・・と 笑)。

また、第1会場と同時刻に開催される第2会場の自由論題報告では、青学の町田先生が司会を務められるようで、そちらでは内部統制コンサルタントの方による「企業における内部統制対応の現状」、生命保険会社の方による(COSOフレームワークを取り上げながら)内部統制の原点を探るといった報告内容だそうです。すいません、第2会場分の報告要旨は拝見しておりませんが、時間が重なっていなければ、こっちもぜひ聴講したかったなぁと(いつも思いますが、自由論題といってもジャンルが狭い学会なので、どっちも聴講したい人がかなりおられるのではないかと。なにか工夫できないものでしょうかね?)

その後の研究部会報告では、おなじみの神林先生司会、石島先生部会長による「ITを活用した内部統制のモニタリングの有効性向上策研究」が1年間の研究成果として報告されまして、おそらく会計専門職の方々を中心に聴講される方も多いかと思われます。

午後からは金融庁の古澤審議官による「不正事案等を踏まえた三様監査の進化」に関する記念講演だそうで、古澤審議官としては、あまり講演で扱ったことのないテーマではないでしょうかね?「不正事案等」の「等」は何を意味するのかよくわかりませんが。。。(「不正」と「不適切」は違うということでしょうかね?ともかく監督する立場の人たちが監査部門に何を求めているか・・・という点は、理解しておくと相当に役に立ちます。これは聴かねば・・・)。そして最後は統一論題によるディスカッションとなりまして、おそらく最近の企業不祥事の原因分析や再発防止に関する論点を、内部統制の視点から議論することが予想されます。まちがいなく「統制環境」に切り込む内容ですが、これこそまさに内部統制の本領ですね。細かな統制ルール違反ではなく、「取締役会自体の実効性がない」と評価することへの勇気が求められるところであり、これも興味あるテーマです。

さきほど事務局の方に問い合わせましたところ、まだ参加申込には余裕があるとのことで、都心のキャンパスでの土曜開催ということもあり、ぜひとも内部統制に関する理論、実務両面での企業対応状況にご関心のある方々には多数ご参集いただければ幸いでございます。なお、数年前に日大商学部キャンパスにて開催される年次大会直前、当ブログでご紹介しましたところ、多数の方がお越しになられて当日の配布資料が大幅に不足してしまいました。参加ご希望の方は、事前に出席通知を事務局あてお出しになられて参加いただけますと事務局側としてもありがたいです。どうかよろしくお願いいたします。

9月 22, 2016 内部通報の実質を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2014年11月25日 (火)

タカタ社のエアバックリコールと内部告発奨励法の活用

自動車部品大手のタカタ社がリコール問題で厳しい状況に置かれています。11月20日の朝日新聞ニュースによると、アメリカの上院議員2名が、自動車部品の欠陥に関する内部告発について高額の報奨金を付与するための法案を提出した、とのこと。当局が把握していなかった事実について内部告発を行った者に対して、企業に課された罰金の最大30%にあたる報奨金を付与する、というものだそうです。

「当局が把握していなかった事実」とは、自動車の欠陥はもちろん、法律違反や報告義務違反などの債務不履行の事実も含む、ということなので、これは重大事故を発生させた「製品の不具合」のような一次不祥事だけでなく、そのような事故の調査を怠った、調査結果を報告しなかった、不都合な証拠を廃棄した、といったような二次不祥事もあぶりだそう・・・という意図があります。「手続的正義」に厳しいアメリカらしい法案ともいえるかもしれません。

11月6日のニューヨークタイムズの記事によると、このたびのタカタ社のエアバックリコール事件について、同社の匿名社員2名からの内部告発があり、2004年の時点でエアバック事故の調査結果が出ていたが、不都合な調査結果を同社が報告せず、調査部品も黙って廃棄した、と報じられていました(なお、先日の公聴会ではタカタ社の幹部の方は否定していました)。アメリカではGM(ゼネラル・モータース)の点火スイッチの欠陥問題も発生しましたが、おそらく、このタカタ社のような事例において、当局側に有利な証言が得られるよう、報奨金を付与して告発を奨励しようとしたものと思われます。

以前、拙ブログでも「内部告発奨励制度」について取り上げたことがありまして(たとえばこちらのエントリー)、2011年に前橋市が内部通報奨励制度を採用しようとしましたが、「通報者に税金から報奨を出すというのは違和感がある」との市民の声が強かったため、結局採用されぬままに立ち消えになった、ということがありました。またフランスのように、個人のプライバシーが厳格に尊重され、内部告発の奨励には否定的な国も存在します。そこで、こういった内部告発奨励制度は日本の社会では受け容れられるのか・・・といった疑問も湧きますが、しかしこれ以上の国民への被害拡大を防止するためには、徹底的な原因究明が必要、という場面では、こういった内部告発奨励制度が必要な場面もあるかもしれません。「高額の報奨金がもらえるのならば、実名を出し、当局側の証人になってもかまわない。それが多くの国民の安全を守ることにも寄与するのだから・・・」といったインセンティブが働く余地はありそうです。

一般的に考えても、「製品の不具合」について、これを公表することにより「補償可能な程度の事業リスク」と把握できれば、コンプライアンス経営の時代、企業は躊躇なく製品の不具合を公表するでしょう。しかし、自社の事業リスクがどれほどになるのか把握できないほどのリスクとなると、いくら「コンプライアンス経営は重要」と唱えている人でも、「間違っていたら社会に重大な影響を及ぼすから、もう少し詳しく調査してみよう」などと理由をつけて、公表を遅らせたり、不都合な真実は隠したうえで報告したりするのではないでしょうか。ましてや品質保証部門や製造部門の責任者となると、たとえ製品の不具合の原因が自分の責任ではないとしても、他人の不正について「見て見ぬふり」をすることが組織としての在り方として正しいと考えるところではないかと(もちろん、これは平時の認識からではなく、有事に至った心境を前提として、ということです)。

これを「組織の構造的欠陥」というのであれば、そのような欠陥を事後的に責めることよりも、むしろ「おかしい」と感じる人が声を出すためのインセンティブを付与することのほうが、国民の生命、身体、人格、そして財産の安全を未然に防止するためには効果的ではないでしょうか。独禁法の世界だけでなく、景表法の世界でもリニエンシー(自主申告制度)が採用されるようになった日本でも、不正をあぶり出すために報奨制度を活用するという思想も決して間違いとはいえないと思われます。

ただ、内部告発奨励制度は、このように国民に迫った喫緊の危険を回避するためには効果的かもしれませんが、内部通報制度の趣旨とは抵触する場面もありうることには注意が必要です。なんといっても第三者への情報提供を国が奨励する、ということになりますので、企業への情報提供を第一に求める内部通報が軽視されるおそれがありますし、企業秘密等の第三者提供の違法性を阻却する理由にもなりえます。現在の公益通報者保護法の制度にも変更が必要となります。事故情報の共有に関する消費者安全法の運用、消費者教育に関する制度の検討などを通じて、自己責任を負える国民、負えない社会的弱者それぞれの危険を、誰がどのように回避する責任があるのか、議論を重ねる中で「内部告発奨励法」の仕組みを考えるべきだと思います。

11月 25, 2014 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年3月10日 (月)

公益通報者保護法制は「漢方薬」である(松本先生の名言)

内閣府の調査によると、偽装表示や悪徳商法への対応など、消費者行政に不満を持つ国民は6割に上るとのこと(3月8日の日経新聞記事より)。とりわけ消費者に関心が高い規制項目は「食品の安全性」や「商品・サービスの偽装表示」だそうです。課徴金制度の導入など、消費者庁において景表法改正への取り組みが急ピッチで進んでいるのも、こういった消費者行政への不満に応えるための当局による姿勢の表れかと思います。

以前、当ブログでもお知らせしておりましたが、先週金曜日(3月7日)、福岡市で開催されました消費者庁主催シンポ「お客様と社員の声が企業を救う」に登壇させていただきました。九州まで遠征した甲斐がありまして、シンポでご一緒させていただいた独立行政法人国民生活センター理事長の松本恒雄先生(元一橋大学大学院法学研究科教授)の基調講演を拝聴する機会に恵まれました。消費者政策の歴史と手法から始まり、CSRとコンプライアンス、消費者相談問題、公益通報者保護制度(社員の声)まで、松本先生の消費者政策や企業コンプライアンスに関する意見、思想の一端に触れることができ、たいへん勉強になりました。

1960年代(行政規制によるハードローの時代)→1990年代(裁判所等での権利行使を通じた民事ルールの時代)→2000年代(市場を利用した消費者保護、ソフトローの時代)、規制緩和と標準化(仕様規格から性能規格へ→プリンシプルベースが規制の主流となる中で、企業は自分の頭でルールへの適合性を考えなければならない)、そして「気がついたら企業はステークホルダーから監視される時代になっていた」とのお話は、私がふだん漠然と考えてきたことが間違っていなかったことを確認するきっかけになりました。

なかでも法制度の「生みの親」でいらっしゃる松本先生の公益通報者保護法に関する解説は、なかなか他では聞くことのできない内容でした。以下、松本先生が解説されたなかで、とても印象的だった点のみご紹介したいと思います。ご紹介にあたり正確を期しているつもりですが、もし間違っているところがございましたら、これは当職の責任です。

1 偽装表示問題の頻発と中国ギョーザ事件の発覚が契機となり、当時の福田康夫首相の音頭で消費者庁が作られた。公益通報者保護法は、けっして内部告発を奨励するものではないが、国が「内部告発は決して悪いことではない」と宣言したことに、もっとも大きな意味があった。

2 公益通報者保護法は即効性が期待されるような「抗生物質」ではなく、企業社会の改革のためにジワジワと効いてくる「漢方薬」のようなものである。ソフトロー時代に活用される政策であるから、誠実な企業には効果があるが、そもそも不誠実な企業には効果は限定的である(不誠実な企業への消費者政策のためには別の規制が必要である)。

3 公益通報者保護法は通報先ごとに保護要件が異なり、とくに外部通報の場合には加重要件が存在するが、これは逆にみると、「社員が外部通報しても保護されないほどに企業自身が内部通報制度を作る」ことへのインセンティブとなりうる。加重要件は、このような企業の自浄能力発揮を目的に作ったものである。

4 通報イメージと告発イメージは異なる。通報イメージは内部への不正事実の申告を、そして告発イメージは、不正事実の外部への申告を念頭に置いたものである。

経産省や厚労省、金融庁あたりの規制手法とも重なるところだとは思いますが、消費者行政においても(誠実な企業に対する)企業の自立的行動を促すための施策と、(不届き者企業に対する)罰金、課徴金、民事における損害賠償制度の拡充等、不当な企業利益を吐き出させる施策とのバランスをどうとっていくのか・・・・・、このあたりが今後の行政によるコンプライアンス施策の要点ではないかと感じました(松本先生、どうもありがとうございました!<m(__)m>)。

3月 10, 2014 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月21日 (木)

組織の不正を許さない30代社員(内部通報・内部告発アンケート)

もうすでにいくつかのブログでも紹介されておりますが、共同ピーアール社(JDQ)の内部告発アンケート結果が公表されております(アンケート結果はこちら)。10年ぶりの調査だそうでありますが、やはり不正を見つけたら告発すべきだ、告発してもよい、と回答された方が、どの年代でも増えているそうです(ちなみに、このアンケートでは内部通報と内部告発を含めて「内部告発」と表現されているようです)。公益通報者保護法に関する期待感が、残念ながら、ずいぶんと薄れてしまっていることもリアルに認識できて参考になります。

マスコミ等でも紹介されておりますので、当ブログでご紹介する必要もないとは思うのですが、ひとつだけ興味深いのは今回のアンケートでも、10年前のアンケートでも、ダントツで内部告発意識の高い年代が30代なのですね。今回の調査結果でも、30代社員の半数以上は不正を見つけたら内部告発する、とのこと。しかし(10年前は30代だった)40代の方々が、他の年代層とあまり変わらない率に落ち着いています。これはどうしてなんでしょうか?やはり30代くらいの会社員の方々は、間違ったことは許さない、不正は見逃さないという熱い想いをお持ちなのでしょうか?それが40代くらいになると、ご自身を取り巻く生活環境の変化や将来への期待感の喪失などによって急速にしぼんでしまうと。。。

そういえば、私がいつも愛読している富山和彦さんのご著書のなかにも、 「30代が覇権を握る日本経済」というオモシロイ本がございまして、この年代でなければ、これからの日本は変えられない!40代、50代はもう変える力はない、経営者は30代の若きエリートに注目せよ、というもので、こういったアンケート結果をみますと、あながち間違いではないのかもしれません。このあたりのことを理解する感覚が、サラリーマンの経験のない私には乏しいように思います。

ところで、この内部告発アンケートを公表された共同ピーアールさん、ん?どこかで聞いたことがあるような・・・と思っておりましたところ、当ブログでも以前ご紹介した事件がございました(組織ぐるみの会計不正に立ち向かう社外監査役の事例)。そうそう、社員から内部告発を受けた社外監査役さんが、経営者関与の会計不正を暴き、社長と他の取締役2名に対して辞任勧告を突き付けた・・・というまさに「ガバナンス+ヘルプライン」の典型的な事例でありました(40年間君臨された社長さんが辞任をされたのですよね)。まさに内部告発の脅威を身をもって体験された会社さんなので、このアンケート調査結果への思い入れもかなり強いものかもしれません。

2月 21, 2013 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年1月28日 (月)

グループ企業ヘルプライン(内部通報制度)活用のススメ

企業集団における業務執行の適法性を確保するための体制の一環として、最近はグループ企業ヘルプライン(内部通報制度)を策定している親会社も増えつつあるように思います。子会社で発生している不正を知った社員が、子会社だけでなく、親会社の内部通報窓口に情報を提供できるシステムです。子会社としては、自身の社内で発生した不正事実を自ら調査したい、という気持ちはわかるのですが、親会社が子会社で発生している不正を覚知することは非常に困難ですし、ましてや子会社トップの不正となりますと、親会社への不正報告も期待できないため、かなり実効性は高いものと考えております。

これまでグループ企業ヘルプラインが有効に機能した例というのも、あまり世間に公表されてこなかったのですが、1月24日、医薬品販売大手の富士薬品社の子会社トップが業務上横領の件で(経理課長と共に)逮捕されたことを受け、本件に関する富士薬品のリリースが出ております。当社100%子会社の元社員逮捕のお知らせ(お詫び) (ちなみに毎日新聞ニュースはこちら)いわゆる子会社不正が親会社への内部通報(内部告発?)によって社内調査に至った事例だと思われます。

この富士薬品社のリリースや新聞で報じられているニュース記事を総合しますと、子会社の代表者および経理課長から領収書の偽造を命じられた社員が、この事実を親会社に通報し、社内調査を進めたうえで警察署へ相談、刑事告訴に及んだとのことであります。富士薬品社のリリースからしますと、社内にグループ企業ヘルプラインが設置されていたかどうかまでは不明でありますが、ともかく自社に通報がなされたことで自浄能力を発揮できた事例だといえそうです。また、不正への加担を命じられた子会社社員にとって、親会社への内部通報が唯一の救いだったものと言えますので、(すでに被害額は1億円以上に上るようではありますが)不正拡大を防止するのに、本件通報が役立ったものといえそうです。

ちなみに、こういった事件の社内調査を支援した経験からしますと、1億円以上の被害が生じているにもかかわらず、どうして告訴金額が300万円なのか・・・という疑問も生じるかもしれませんが、横領事件の告訴には有力な証拠が必要となります。警察、検察側からは、「確実に立件できる範囲で被害額を限定してほしい、そうすれば告訴を受理し、強制捜査に踏み切れる」といった要望が出されるからです。決して親会社から出向している子会社代表者ということで、身内に対して甘い処理を行っているわけではありません。また、調査の相手が子会社トップや経理課長、ということですから、調査準備の密行性をどのように確保すべきなのか、とても難しいところがあります。したがいまして、アクセスできる資料にも限界がありますので、300万円程度の被害申告に至ったものと推測されます。

しかし経理課長が預金口座のすべての管理を任されていた、ということですから、経理課長と代表者がグルになってしまえば内部統制は全く機能せず、親会社としては子会社不正を認識することは困難であります。内部統制が無効化された状況において、不正を早期に発見することが可能となるのは、やはり本件のように社員による内部通報が効果的であることを痛感いたします。

1月 28, 2013 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年9月 3日 (月)

自浄能力を発揮した大阪ガス社の危機管理(社内賭博事件)

さて、先週に引き続き内部通報・内部告発モノのネタであります。先週金曜日、大阪ガス社の野球部の部員36名(現役28名、OB8名)が、少なくとも3年ほど前から高校野球賭博、競馬賭博に打ち興じていた、ということを同社が公表、直前に迫った日本選手権予選への出場も辞退、ということが報じられておりました(新聞やニュースでもかなり大きくとりあげられておりました)。同社では、人事部長さんらが謝罪会見を開き、関係者の社内処分も今後行われるようです。

当ブログで過去に何度も申し上げておりますとおり、社内における遊興賭博が大問題とされる理由は、①反社会的勢力と企業との癒着の発端となりやすい不正であること、②「これくらいなら・・・・」と、不正を黙認してしまう社内風土を醸成させてしまうこと、そして③社内に(たとえ軽微なものであったとしても)形式的違法状態を存在させることによって、警察権力が自由に社内捜査に立ち入る口実を作ってしまうこと(たとえば別件の重大な法令違反の捜査のために、賭博容疑を活用する等)といったところにあります。大阪ガス社のごく一部の社員による賭け事が、社を挙げての徹底調査の末、警察の捜査が開始されてしまうほどの大きな問題として捉えられてしまう、ということに一番驚いているのは、おそらく賭博に関わった野球部員の人たちではないでしょうか(賭博参加への勧誘が社内メールや張り紙で行われていたそうですから、おそらくリスクに関する認識が当事者にはなかったのではないかと)。

掛け金の多少にかかわらず、社内で賭博が行われることは問題であり、もちろん非難されるべき問題ではありますが、不正が発覚した以上、企業の危機対応の巧拙が次の企業コンプライアンス上の課題となります。今回の一連のマスコミ報道からしますと、大阪ガス社の対応としては、企業の自浄能力がはっきりと示された典型的事案ではないかと思われます。まず、マスコミでは「内部告発があった」と報じられていますが、実際には匿名による文書が社内の窓口に届いているわけですから、これは内部告発ではなく「内部通報」だと思われます。内部告発であれば、関係書類(証拠)を添付して、マスコミへ通報がなされるのが一般的であります。つまり匿名の通報者は、社内で徹底的な調査が行われ、自浄作用が発揮されることを期待していたものと推測されます。

次に、自浄能力が発揮された、といえるためには、社内調査や第三者委員会調査の際に、特に要求される「真実性」「迅速性」「客観性」のトレードオフの関係について、バランスよく配慮された調査がなされていることが必須の要件であります。今回の大阪ガス社の社内調査に関するマスコミ報道からしますと、まず8月13日に通報が届き、それからわずか2週間ほどで36名もの社員の不正行為を認定しているため「迅速性」についてはまったく問題ありません。10年前からやっていた、という社員の証言もありますので、なぜ過去3年間の不正に限定するのか?といった「迅速性優先のために真実性を犠牲にしたのではないか?」との疑問も湧いてくるところでありますが、これは賭博罪の公訴時効の関係や、時間の経過による証拠収集の限界があったため、と認められますので、これも「真実性」との関係では合理的な説明がつくものであります。さらに、社内調査で認定した事実が、果たして公正なものであるか、という点につきましては、同社は大阪府警に調査結果を報告し、引き継ぎを済ませたというものですから、できる範囲での「客観性」は担保されているものと思われます。そして不正事実に関する経緯を自ら公表し、社内処分も今後行われるというものなので、自浄能力を発揮したクライシスマネジメントとしては、相当にレベルの高いものであり、他社にも参考になる事例ではないでしょうか。

商品の提供にあたり、一般事業会社以上に消費者からの信頼を確保しなければならないガス事業者ということで、大阪ガス社としても万全の態勢で今回の不正問題に対処したものと思われます(幸い日本野球連盟から処分は課さない方針のようであります)。社外第三者に対して自浄能力のあるところを示す必要性も高い事例かとは思いますが、こういった不正に対して経営陣が断固許さないという大阪ガス本社および同社数百に及ぶグループ会社の役職員へのメッセージとしての意味も強いものがあると推測いたします。

9月 3, 2012 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年6月12日 (火)

内部通報を外部窓口担当者が留めておくことは是か非か?

ひさしぶりの「内部通報」ネタでございます。毎度申し上げておりますとおり、私は複数の上場会社や学校法人のヘルプライン(内部通報制度)の外部窓口を担当しておりますが、通報制度がうまく機能すればするほど、いわゆる「不誠実な通報」が増えてまいります。上司を左遷させるために虚偽の事実を申告するもの、ヘルプラインの対象とはなりえないような不平不満を長々と語るものなど、その内容は様々です。「うちの会社はホントに通報制度が使えるんだ」と社員の方々に周知されるほどに、まじめに対応するのがしんどくなってくるような案件が増えてきます。先日も、私の担当する外部窓口に、取扱いが難しい通報が参りました。ただし決して「いいかげん」な通報ではございません。

通報者は実名で上司のパワハラに悩んでいることを私に語りだし、私も(通報としては典型的な事例でしたので)手際よく記録票を作成しておりました。約30分ほどの事情聴取が終了。私は「あなたの通報については社内の担当者に記録を渡します。事案の内容からみると、おそらく上司に対する会社からのヒアリングが行われるであろう。そのとき、あなたの通報が上司に判明することになるが、それでもよいか」と確認をいたしました。そのとき、通報者は以下のように私に要望してこられました。

「通報事実を私の実名で会社に伝えてくださっても構いませんし、もちろん上司に私が通報したことが知れることについてもまったく問題ありません。ただ、今日の通報を会社に伝えることは少しだけ待ってもらえますか?私は外部窓口にパワハラの件を通報したことを上司に伝えて、自分自身で交渉したいと思います」

こういったヘルプラインの活用をされる社員の事例は私としては初めてであります。なるほど、外部窓口にセクハラ・パワハラに関する事実を通報したことで、これをネタにして上司と何らかの和解を図ろうという意図が通報者にある、ということです。たしかに上司としても、すこし後ろめたいところがあれば、ここで通報者と何らかの私的な取り決めをして、会社側からのヒアリングを避けたいという動機も働くかもしれません。もし部下の要求を上司が呑まなければ、部下はそのまま外部窓口を通じて通報を受理してもらう、という手段に出ることを画策するわけです。さて、こういった通報者の要望に対して、外部窓口担当者はどのように対応すべきでしょうか。

パワハラ・セクハラ案件については、通報者と対象者との微妙な人間関係に関わる問題があり、通報によって会社が速やかに対応することで、さらに通報者が窮地に陥ってしまう可能性があることは否定できません。したがって、会社側としても通報を受理した場合に、どのように対応すべきかは悩ましいケースも出てきます。しかし、これはあくまでも会社側が不正な事実を確知した後の対応であり、窓口担当者がヘルプライン規則に反してまで通報者の意図に沿って聴取した記録を留めておくこと(つまり通報があったことを会社に伝えないこと)は問題があると考えます。公益通報者保護法では、会社側が通報を受理したことに法的な効果が発生しますので、どの時点で通報が受理されたのか、会社側が知っておく必要があります。また、任意の制度である内部通報制度においても、たとえば昨年8月のオリンパス配転命令無効等請求事件の高裁判決では、会社側が「決められた社内ルール」に沿って内部通報を受理していなかったことが、会社側が敗訴する重要な原因になりました。いったんヘルプライン規則を定めた以上、例外を許容せずに運用することが会社側に強く要請されています。このような理由から、私は外部窓口を担当する者として、いったん通報を受理した以上は、通報者の都合によって窓口限りで留め置くことはできない旨を本人に説明し、もし納得がいかないのであれば、いったん通報を取り下げてほしいと告げました。

同じようなことは、会社が従業員による横領被害を受けた場合などに、横領した従業員の刑事告訴をしながら被害弁償を迫る、というケースがあります。最近は警察のほうも、民民の示談交渉に利用されることを前提に告訴を受けることを嫌いますので、けっこう慎重に対応されることが多いと思います。内部通報制度も、会社が不正を速やかに受理して、これに対応することが目的なので、社員どうしの問題解決のためにルールに例外を作ってまで活用されることなってしまっては、かえって会社側が別のリスクを背負い込むことになります。こういった事例も、内部通報制度が実効性を持つようになればなるほど、新たに発生する問題として検討しておく必要があります。

なお、この説明は窓口で通報事実をすべて聴取した場合について述べたものですので、未だ通報事実の聴取を終了していない時点において、窓口で通報を留めておくことは何ら問題はございません(むしろ私の経験上、一回のやりとりで通報事実をすべて聴取し、記録票作成を完了したことの方が少ないように思います)。

6月 12, 2012 内部通報の実質を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年10月 3日 (月)

ドッド・フランク法922条と企業のコンプライアンス・プログラム

先日のオリンパス事件高裁判決あたりから、マスコミ等でもドッド・フランク法に関する話題などが取り上げられておりますが、あの922条の「内部告発奨励条項」は、多くの金融規制の条文のうちのごくごく一部でありまして、金融規制に詳しい方々は、また「ドッド・フランク法」といいましても、別の話題を取り上げることが多いのではないかと思います。

100万ドル以上の制裁金賦課となる証券諸法違反事件(ただしFCPAなども含みますので、日本の企業も要注意)等を告発した人に、その制裁金の10~30%の報奨金が付与される、いわゆる内部告発奨励制度も、今年5月に規則が公表され、8月12日より施行されております(ホームページも出来上がったようです)。もうすでに報奨金請求がなされているように聞いておりますが、どうもWSJの記事によりますと、このドッド・フランク法の施行規則制定手続きに不備があると連邦控訴裁で指摘されたそうであります。不備を訴えていたのは米国商工会議所だそうで、いわゆる行政手続きに瑕疵がある、ということなんでしょうね。

内部告発奨励制度の運用によって企業の費用が膨らむわけですが、その負担によって消費者、投資家の保護が適切に図れるのか、市場の健全性確保が実現するのか、その「費用対効果」の分析がSECによって恣意的になされた、ということのようです。「費用対効果の分析」で思い出されるのがSOX法404条C項を中小の上場会社に適用させるかどうか、の議論であります。高額の内部統制監査証明制度を中小の上場会社に負担させることで、本当に投資家の保護、市場の健全性確保に多大な効果が得られるのか、その費用対効果が立証できないとして、何年も適用が延期になり、ついに昨年9月には内部統制監査制度を中小の米国上場会社には永久に適用しないことが決まりました(適用済の大会社でも簡素化が図られました)。今回の件でも、今後はSECがさらに分析を検討しなければいけないのでしょうね。したがいまして、内部告発奨励制度自体が裁判所によって疑問視されている、というわけではないようです

ただ、DF法922条の規則制定の段階で、いきなりSECに告発するのではなく、できるだけ社内への通報をさせるためのインセンティブが設けられるようになったものの、やはり直接告発の道は選択できるわけでして、この告発奨励条項が、企業のコンプライアンス構築の意欲を減退させることになるのでは・・・との疑問がそのまま残ることは間違いないと思います(SECは強く否定しておられますが・・・)。企業自身が不正を早期に発見して、自ら不正を公表し、再発防止策を構築する・・・という一連の「自浄作用」こそ投資家保護、市場の健全性向上に資するように思うのでありますが、そういった理想と現実のギャップは大きく、やはり内部告発という即効性のあるコンプライアンス手法に(消費者保護、リーマンショックを二度と繰り返さない、との視点からは)大きな魅力がある、ということなのでしょうか。

前橋市の報奨金制度の頓挫(市民の批判によって市長が一日で撤回)・・・というあたりをみますと、こういった内部告発報奨制度が直ちに日本でも適用されるとは思いませんが、ひょっとすると、日本でも「不正防止は内部統制から内部告発へ」といったことが真面目に検討される時期が到来するのかもしれません。

10月 3, 2011 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年4月12日 (月)

試験データ改ざん事件にみる「情報伝達経路」の曖昧さ

朝日新聞だけが報じているものですが、田辺三菱製薬の子会社の元社長さんが、製剤データの改ざん(差し替え)をして厚労省への承認申請をしていたことが社外調査委員会の報告書で判明した、とのことであります。(朝日新聞ニュースはこちら)厚労省への承認申請取り下げ、および自主回収などのリリースは昨年3月末に田辺三菱製薬社によりなされていたものでありますが(リリースはこちら)、具体的な事実経過については今回の報告書で明らかになる模様であります。(不適切な会計処理発覚に関する調査報告書とは異なり、このての社外調査委員会報告はなぜ時間がかかるのか?という疑問もあるかもしれませんが、監督官庁との関係から「それなりの理由」があるわけでして、これはまた別途エントリーしたいと思います)

報道された事実のなかで、2005年に就任した2代目社長さんが、社内の意識調査で不正をうかがわせる内容の回答があったが、これを取り合わなかったとされ、その理由については「親会社からの出向者との待遇面での格差などに不満を持つ現地採用者が、過激な表現や針小棒大な回答をしていると考えた」とのことであります。ここでは「社内の意識調査」とありますが、これは内部通報の場合でも同様でありまして、この社長さんの発言はまことに「よくある」ケースかと思われます。だいたい私の通報窓口業務の経験からしますと、原因はふたつ考えられます。

ひとつはよくブログや講演で申し上げるところの「先入観」や「偏見」に基づくものであります。先日の近鉄さんや、アーム電子さんの連結子会社における不適切な会計処理事件も子会社役員の方々の問題事例(積極的関与や黙認)でありましたが、役員さん方が不祥事に関する情報を耳にすると、悪い方向へは考えない傾向がございます。「たいしたことではない」「マスコミが興味を抱くことでもない」「監査法人に連絡するほど重要な誤差ではない」といった具合であります。そして、これは問題だ、と認識するに至った場合でも、今度は「これは前任者もやっていたこと」「職場ではみんな知っている」「この業界では『必要悪』であって、他社もみんなやっている」というあたりで正当化する傾向にあります。おそらく当該子会社社長さんも、たしかな根拠もなく、先入観をもって「たいしたことではない」と考えておられた可能性があります。「社内の常識と社外の常識に食い違いがあった」などといわれる場合もあります。

そしてもうひとつは、情報伝達のあいまいさに起因するパターンであります。実は内部通報制度を運用していて、これが最もやっかいだなぁと感じております。たとえば内部通報で10の情報が伝えられ、しかるべき部署に情報が集約されますと、その部署にとって都合が悪い情報は捨象され、残る5つの情報だけが担当取締役さんに届きます。その取締役さんは、ご自身がまだ出世の道が残っていたりしますと、これまた自身の責任にならないように都合よく経営トップに報告したり、派閥争いがあったりしますと、別の役員さんが責任をとらねばならないようなニュアンスで事実を歪曲して報告するケースもあります。最終的に経営トップの方のところへ情報が届いてみると、通報窓口に届いた10のうち、2とか3くらいの情報、しかも正確性を欠くものが届いたりするもので、そこから社長さんも「公表するほどのことはない」とか「コンプライアンス委員会に任せておけばよい」といった感じで不正リスクを把握できない状況に陥るわけであります。

今回の件も、ひょっとすると誰かが「これは出向者と現地採用者との待遇面での差に不満をもっている者の批難にすぎない」といった情報を混ぜ合わせて届けている可能性もあり、そうなりますと、元社長さんだけを責めるわけにはいかず、もっと構造的な組織の欠陥にメスを入れていかないと、このような不祥事の再発は防止できないものと考えます。記者会見で「私は知らなかった」とおっしゃる社長さんが多いのも、実はこういった情報伝達のあいまいさ、とか人間組織における思惑の産物に起因しているケースではないかと思われます。(もちろん、だからこそ内部統制の構築が必要になってくるわけでありますが)

PS

ところで4月9日に金融庁WEBにて企業内容等開示ガイドラインの改正留意事項がリリースされており、これがなかなか興味深いのでありますが、フォローされている方、いらっしゃいますでしょうか?

4月 12, 2010 内部通報の実質を考える | | コメント (3) | トラックバック (1)

2009年12月 3日 (木)

学校法人のヘルプライン(外部窓口)とアカデミック・ハラスメント

12月1日より関西のある学校法人のヘルプライン(内部通報)外部窓口を担当することになり、先日理事長や学長、事務長さん等のところへご挨拶に伺いました。教職員用のヘルプラインですから、生徒からの通報を受け付けるものではありませんが、事務長さんのお話によると外部窓口に期待しておられるのはいわゆる「アカハラ(アカデミック・ハラスメント)への対応」だそうであります。最近文科省からもアカハラ対策については(自助努力により)十分な対応をされたし、と要望されているそうであります。

一般の教職員の問題については、ほとんどが学校内の相談窓口で対応可能だそうです。しかし教授と准教授の関係、大学院生との関係などは、事件が発生してからでないとハラスメントの実態はわからないとか。本当に密室の中で発生するものであり、相手の人生に関わるような人事権を一方が握っているために、被害者からの通報が上がれば即、通報者が特定され、制裁・報復が待ち構えている状況にあるのかもしれません。実際に精神的な疾患にまで至ってしまうケースも多いように聞いております。

そういえば昨年はこのブログでも採り上げましたが、横浜市大医学部事件というのが発生しましたね。学位取得に伴う教授への謝礼金の交付慣例が問題になりましたが、教授に近い方々が、その内部告発をした学生に対する措置要求を大学側に行う、といった事件に発展したように記憶しております。あまりこれまで経験はございませんが、こういった相手の人事権を掌握している人から受けるハラスメントというのも、けっこう怖い気がします。そういった立場になってみないと本当のところはわからないかもしれませんね。

ちなみにパワハラの判例の傾向として(といっても裁判のうえでパワハラが定義付けされたのはごくごく最近のことですが)、人格権侵害に該当する不法行為となるかどうかは、行為者と被害者との関係を眺めてみて、行為者が被害者の職場における地位に影響をどれだけ与えられるかによって、露骨な行為だけを採り上げるか、それとも些細な言動までを採り上げるか、相関的に判断する、といったところが主流になりつつあると思われます。そうしますと、被害者側の将来的な人事権を全権的に握っている教授側としては、とくに露骨なものでなくても、かなり緩やかにアカハラの言動を認定されるようになるのかもしれません。(もちろん立証のために要する証拠は不可欠ではありますが)単に法律問題だけでなく、その後の対応まで含めて検討しなければならない問題でありますので、かなりの難問が窓口に届くのかもしれません(事務長さんは、すぐにでも届きますよ・・・と自信たっぷりにおっしゃってましたが)。対応を間違えますと、学校側の不法行為責任も問われかねませんし、かなり深刻な問題を抱える仕事かもしれませんね。

12月 3, 2009 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年8月17日 (月)

企業における内部通報制度への取組み(活性化に向けて)

内部通報に関する研究というものは、事の性質上なかなか事例集積が難しいために困難な部類に属する作業だと思います。このたびリスクマネジメント会社であるSPNさんが「企業における内部通報制度の取り組み編(要約版)」なるレポートをリリースされておられます。SPNさんでは、ずいぶんと以前から外部通報窓口業務(リスクホットライン)を各企業に提供しておられ、このたび扱った内部通報案件が1000件を超えたことで、これらの分析を行ったそうであります。要約版ですので、A4で6枚程度の報告ではありますが、分析結果はなかなか興味深いものです。とくに、導入した内部通報制度が有効に機能しているのかどうかを評価する「通報比率曲線モデル」につきましては、実際に私自身の体験にも通じるところがあり、企業の自浄作用(といいますか、内部通報制度活用に対する企業の本気度)を理解するためにはおもしろい分析だと感じました。これが正しいかどうかはこれからの更なる分析を必要とするでしょうが、いろいろな意見も出てきそうですし、新たな試みとして、評価されるべきものではないでしょうか。

外部窓口であるために、社内窓口よりも通報がなされやすいことや、通報というよりも不満や悩みの窓口として通報がなされるケースもありますが、対象従業員の増減にかかわらず、従業員100人あたり1件の割合で内部通報案件が生起し得る、との調査結果につきましては、現状では内部通報制度がまだまだ社内で活用されていないとみるべきか、それとも不祥事が少ないことを適切に示しているものと理解すべきか、意見は分かれるところだと思います。(また、先日ご紹介した第一法規さんとスパイアさん共催アンケートの結果から、不祥事を知っても実際に通報する社員はわずか26%程度にすぎない、という点も考慮すべきだと思います)ただ、更なる活用のための工夫はこれからも必要だと思います。とくに今後の課題としましては、重複する内部通報の取扱いに関する点です。ある特定の社員から通報がなされた場合、その事実調査や調査による対応、そして通報者に対する処分結果の説明などによって完結することがイメージされるわけですが、今後もっと通報制度が活用されるようになりますと、同様の不祥事に対して複数の社員から通報がなされる、という事態が想定されます。(現に私自身も経験をしております)いろいろな動機で内部通報がなされることが避けられない現実でありますので、同一の問題について別々の社員から別々に内部通報がなされますと、通報事実に関する客観性が大きくアップします。事実調査の信用性も高まることになりますので、不祥事の早期発見や早期対応に対する寄与度は大きくなります。たとえ通報内容は「会社の存亡の危機に陥れるような事実」ではなくても、小さな相談事例をいくつか集積するなかから、そういった不祥事の予兆を感じ取ることが可能となりますので、やはり通報対象事実は広く、かつ通報案件ができるだけ多く、というのが理想の「内部通報窓口」の在り方ではないでしょうか。

内部通報制度も、スタート時には通報が集まるものの、その後はさっぱり活用されなくなり形骸化している、といった話を耳にしますが、そういった企業の方々も、本レポート(要約版)を参考とされてみてはいかがでしょうか。

8月 17, 2009 内部通報の実質を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年10月20日 (月)

製品偽装事件における「自主申告」のインセンティブを考える

最近は会計士さんの「期待ギャップ」問題のなかで「不正発見義務」「不正報告義務」などが話題となるところでありますが、みなさまご承知のとおり、会計監査人として「不正を発見する」端緒の8割程度は内部告発、内部通報によるものである、ということだそうでして、内部統制の整備だとか、リスクアプローチによる監査体制といいましても、やはりそれだけで不正を発見できるほど現実は甘くはないようであります。そして会計不正問題と同様、産地偽装問題をはじめ、最近の企業不祥事の多くが「内部告発」を発端として世間の耳目を集めるようになる、というケースが急増しているようでありますが、その要因は、①公益通報者保護法など法的環境の変化、②企業コンプライアンスの重視③社会の内部告発者をみる意識の変化など、と一般には理解されているようです。

Ruponaibukokuhatsu 最近発売された朝日新書「ルポ 内部告発~なぜ組織は間違うのか~」(村山治 奥村俊宏 横山蔵利 共著 760円)は、朝日新聞記者の方々による企業不正発覚に至るまでの経緯、とりわけ「内部通報」や「内部告発」に焦点をあてた現実の人間ドラマをほぼ実名にて描写したものであります。(おそらく、今年3月より朝日新聞に連載されていた特集記事をもとに執筆されたものと思われます。)当新書において非常に興味深いのは内部告発をする人をフォーカスするのと同程度に内部告発情報を最初に受けとめた人(たとえば農水省や保健所担当官、自社窓口担当者、社内担当役員、弁護士そして新聞記者など)の「初動対応」にもフォーカスをあてている点であります。(私はむしろこの後者のほうがおもしろかったです)内部告発が企業コンプライアンスの推進に機能するかどうかは、一般には告発者の勇気ある行動に依拠しているように理解されておりますが(もちろん、それがもっとも重要であることは間違いないところですが)、それと同じ程度に内部告発情報の受け手側の初動対応の重要性にも依存するところが大きいと思われます。この情報の受け手側の初動対応に誤りがあると、その受け手側企業に大きな「二次不祥事リスク」が発生することが認識できるところです。大阪トヨタ自動車の件につきましても、告発者と外部窓口担当弁護士との初動対応から弁護士会の綱紀委員会議決書が発出されるまでの経過についてはゾッとするものでありまして、窓口業務を担当する私自身も深く自戒するところであります。

また本書は昨年から今年にかけて、広く報道された不祥事に関する取材記事だけではなく、内部告発を行った人を取り巻く環境や、内部通報制度を支える人たちなどにも焦点を当てて、おそらく今後も増えていくであろう「内部告発」や「内部通報制度」を企業や従業員がどう受け止めていくべきか、ということにも十分配慮されており、企業経営に関わる人たちにぜひお読みいただきたい一冊であります。私はちょうど一か月ほど前に「食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その2)」のエントリーにおきまして、裏の世界にも内部通報窓口があり、裏取引を持ちかけられたことによって観念して農水省に自主申告をされた企業のことをとりあげました。そして本書を読んで驚いたのですが、国土交通省の試験をパスするために、性能偽装に及んだニチアス社の事例については、(裏社会との取引とまでは記述されておりませんが)けっして公益通報者保護法では保護されないような通報(及びその後の交渉)が発端となって(経営トップが性能偽装の事実をすでに知っており、「社内かぎりでの対応」と決めていたにもかかわらず)やむをえず自主公表に至ったという事実であります。一般消費者に被害が出ていないとか、すでに問題の製品が世に出回っていないなどといった安心感から、「この程度の不祥事であればとくに公表する必要がないのではないか」といった判断に傾きがちなのが「社内の常識」であります。この「社内の常識」に基づく判断がやむをえないものであるにしても、その判断が十分な「非公表のもたらすリスク」を斟酌したうえでのものであるかどうかは、おそらく自信をもって回答できる企業は少ないのではないでしょうか。(このニチアスの事実経過につきましては、本書を読むまでまったく存じ上げませんでした)内部告発に踏み切る社員の気持ちは「正義感」であっても、その正義感をくみ取る窓口は、その告発情報の「経済的価値感」で動くケースもあるわけでして、偽装問題が大きくマスコミでとりあげられるほど、その価値は高まるのであります。「正義感」による内部告発を企業がどう受け止めるか、その初動対応の適切性こそ、こういった「やむをえない自主申告」に至る可能性を低減する大きな要因になろうかと思われます。

10月 20, 2008 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年1月27日 (土)

内部通報制度の実質を考える

昨日仕事の関係で、大阪に本社を置く内部通報コンサルタント会社の社長さんといろんな話をする機会がございました。資本金5億円以上の企業(上場、非上場問わず)に対するホットライン(ヘルプライン)の管理や、整備に関する相談業務などをやっておられるのですが、やはり内部通報に関する現場で毎日悩んでいらっしゃる方のお話は机上の理論とはかなり違いまして、我々の業務にもかなり参考になりました。あたりまえのことかもしれませんが、やはり「公益通報者保護法」や「内部統制システム整備」などが話題になる前から社内ホットラインを整備されておられる会社は有効に機能しているケースが多く、「法律で決まったから」「内部統制が問題になってきたから」ということで導入されている企業では、ほとんど有効に機能していない、という実態がはっきりと認識できました。先行しているから進歩している、ということではなく、やはり法律以前の問題として、内部通報のメリットを十分認識している企業では、自社特有のシステム(有効に機能しているかどうかを検証するシステムにいたるまで)というものを工夫しておられるようで、それが不祥事の早期発見、社内処理による早期対処を実現しているようであります。

不二家事件に関するエントリーは、このブログでは2つほどしかアップしておらず、その続報もフォローしておりませんでしたが、埼玉工場においては食品衛生法違反まで疑われる状況になっており、本当に「いもづる式」に不祥事が発覚しているようで、ついに事業再編の話まで現実化してきたようであります。言葉は適切でないかもしれませんが「たった一日遅れの消費期限切れの牛乳プリン販売」という事実が、より大きな不祥事発覚の誘因となり、企業の存続問題に発展するという、まさに企業にとりましては、背筋の凍るような話であります。これが内部通報を発端としたものである、とまでは断言できませんが、こういった不二家の事件経過をみていきますと、素人疑問として、ふたつのことがまず頭に浮かんできます。ひとつはなぜ不二家はここまで不祥事が話題となり、TDL(東京ディズニーランド、オリエンタルランド社)は、2年3ヶ月も消費期限が過ぎたチョコレートを販売したのに叩かれないのか、ということであり、もうひとつは、不二家でここまで食品衛生面で大きな問題となるような過去の不祥事が発覚したにもかかわらず、なぜその「過去の時点」において内部通報とか社外告発といったことが発生しなかったのか、というものです。ひとつめの疑問につきましては、また別の機会に考えるとしまして、ふたつめの疑問について、「内部通報制度の実質的な効果」を考えてみたいと思います。

上記の事実から推測されることは、①内部通報制度が社内において整備されていないか、もしくは整備されていても事業所、支店に至るまで広く周知されていなかったのではないか、②整備され周知徹底されていたとしても、従業員は内部通報制度を利用する気持ちはなかったのではないか、というものであります。企業コンプライアンスのお手本からすれば、①の方向に力点を置いて、今後の対策を検討したいところでありますが、じつは②のほうが本当の意味で改善策を検討しなければいけないところのようであります。なぜ、内部通報制度を整備して、これを社員に広く周知して、なおかつ社長が訓示として「なにかあれば社内通報制度を利用してください」と広報しても、内部通報制度は機能しないのでしょうか?

1 「内部通報システム」に対する従業員のイメージは?

企業がヘルプラインを広報すればするほど、その窓口は、どうも従業員には「特別の窓口」というイメージを抱く場合が多いのだそうです。窓口が監査役だったり外部の弁護士だったりすると、もうそれだけで「違法行為」を頭に描き、告発をためらうケースが実に多いとのこと。たしかに、よく考えてみると、なにが食品衛生法違反で、なにが違法でないか、など一般の従業員にはあまり理解できないところでありますから、躊躇するのも当然のような気がいたします。そこで、内部通報制度が有効に機能している企業では、内部通報制度とは別にかならず「よろず相談窓口」のようなものを設置して、そこに心理カウンセラーや産業カウンセラーのような方を置き、「直接ヘルプラインへの申告はためらわれるけれども、よろずお悩みコーナーだったら・・・」という気持ちで、そちらへ違法行為の告発をされるケースが多いのだそうです。また、内部通報を発信する従業員だけではなく、従業員から相談を持ちかけられる上司のための「お悩み窓口」というのも有効だそうであります。上司のストレスの一番の原因が「部下の悩みに長時間付き合わなければいけない」ということでありまして、この上司のよろずお悩み相談は、企業活動の効率性を向上させるだけでなく、そこから違法行為発生の端緒を把握することもよくある、とのことのようです。(この発想も、昔からヘルプラインを設置している企業のアイデアのひとつだそうであります)

2 社員から「経営陣」の顔は見えるか?

これは、その内部通報コンサルの社長さんが、社外告発をしようと悩んでおられる従業員の方々との相談業務から感じることだそうですが、社外告発は、本社従業員よりも支社、事業所の社員さんのほうが圧倒的に多く、また上司の対応におおいに不満を抱いているが、社長や監査役などが「尊敬できる人」であるがゆえに、告発をためらっている、ということが多いそうであります。つまり、従業員から経営トップの顔が見えないとか、従業員にとって経営陣が尊敬に値しない、といったところが、内部通報の利用ではなく、社外告発に影響を与えるというものであります。直接の社外告発も有効な場合がありますので、いちがいには申し上げられませんが、やはり社員から「顔がみえる経営者」であるかどうか、というところは内部通報制度の有効性に影響を与えることは間違いないようです。経営者が内部通報制度の普及をはかる段階におきまして、「ぜひこの制度を利用して、あなたがこの企業を変えてほしい」といった趣旨の表現を誠実に表明しなければいけないのかもしれません。

内部統制システムの構築の一貫として「内部通報」をとりあげますと、どうも先の①のほうばかりに注意がいきますが、これは経営者サイドにたって、経営者がどうすれば自分の責任を免れるか、といった視点に偏って物事を考えているからかもしれません。今回の不二家の事件の経過を追ってみて、もし事件の端緒が内部通報によるものだとすれば、どうしていままで有効に機能しなかったのか、もし機能していたら、経営者の積極的な不祥事公表の必要性まで含めて検討できたわけでありまして、そうだとすれば事業再編の話まで持ち上がるような事態にはならなかったのではないか、とも思います。いずれにせよ、いつも申し上げますとおり、事前規制から事後規制へと社会のサンクションのあり方が変容するなかで、企業不祥事の公表のあり方や、内部通報制度のあり方、企業内における事実認定のあり方など、その企業価値に大きな影響を与える管理行為について、もっと議論を深めていくべき時期にきているのではないでしょうか。(なお、内部通報制度と監査役との関係につきましても、昨日はいろいろと興味深いお話をお聞きしましたが、その内容はまた別の機会にエントリーさせていただきます)

1月 27, 2007 内部通報の実質を考える | | コメント (0) | トラックバック (0)