組織風土の違いを感じる東芝(内部告発)と日立(内部通報)の有事対応
昨日の東芝のCVCによる買収提案受領のニュースに続き、本日は日立が上場子会社である日立金属をベイン(連合)を売却先に選定したことが報じられました。国益に大きな影響を及ぼす日本企業というところでは同じですが、海外ファンドから株式非公開化を目的とした買収提案を受けた東芝と、重要子会社(日立金属)を海外ファンド連合へ売却を決めた日立では、どれくらい「組織風土」に違いがあるのでしょうか。
東芝の場合、自身の会計不正事件については金融庁への2名の社員による内部告発が事件発覚の端緒だったわけで、当時は「自浄能力の欠如」と言われました。もし、あの内部告発がなかったら、いったいどうなっていたのでしょうか?ほかにも内部告発者が現れて、遅かれ早かれ会計不正は発覚していたのか、それとも今でもうまく隠蔽し続けていたのか。とくに根拠はありませんが、私は今でも債務超過は上手に隠され続けているのではないかと思います。
一方、日立の場合は(経営の失敗をあえて出し切るかのように)2008年度決算で7800億円の損失を計上し、先日の日立金属の品質偽装事件についてもグループ内部通報によって(長年に及ぶ)不適切な品質偽装の事実を確知し、日立金属の経営トップの隠ぺい工作を認識するやいなや(調査報告書を待つまでもなく)直ちに日立金属の経営トップの交代を実践しました。←後半部分は本年1月に公表された調査報告書および昨年の新聞記事等を参照。
同じような内部通報制度を整備していたとしても、制度が機能する会社と全く機能しない会社があるわけですが、結局のところ、それは通報制度の運用を支える組織風土の違いに起因することが多い。通報することによって「犯人さがし」がされる風土であれば、社員による外部への通報(内部告発)が増えるわけですし、通報することが社内で賞賛される風土であれば、社員も安心して社内通報ができます。「見て見ぬふりなど許されない」「業務の効率性を理由にコンプライアンスを秤にかけない」といった理念を現実の業務で活かせる組織風土はこれからの経済的競争力の大きな要素です。
いま、東芝も日立も役員の皆様は「有事」に直面しているわけですが、有事対応においても組織風土の影響を受けるのではないでしょうか(それは独立社外取締役がたくさんいらっしゃるとしても同様かと)。「自浄能力の違い」といってしまえば簡単ですが、もっと具体的な物言いをするならば、独立社外取締役への報告体制の運用に違いが生じるのではないか。
日立製作所が日立金属のプロバーだった社長さんを、不祥事発覚後(少なくとも対外的にはどこに問題があったのか不明な時期に)ただちに交代させたというショッキングな出来事は、グループ内における報告体制の機能不全への警鐘だったと思います。社内におけるレポートラインが健全であることは、社外取締役からみても、経営判断に必要な情報は適宜的確に受領できる体制が保証されていることを推察させます。
しかし東芝のように(昨年のグループ会社の架空循環取引への関与もそうですが)他者から指摘を受けるまで不都合な事実は開示しない、といった事例が続きますと、たとえ独立社外取締役が多数を占める取締役会であったとしても、重要な経営判断に必要な情報が事前に(社外役員も)共有できているのだろうか・・・との疑念が生じてしまいます。このたびの海外ファンドからの買収提案についても、おそらく東芝の社外取締役の皆様には「現株主の株主価値の最大化」に向けた細心の注意を払った行動が求められますが、トップの「利益相反状況」が顕在化するなかで、必要な情報が共有されるのでしょうか。
2015年の会計不正事件を契機として、大きくガバナンスの改善が期待されている東芝ですが、今回の有事は組織風土の改革が果たされたかどうかを見極める上でも試金石となる事例になりそうです。