サッポロHD買収防衛ルールの「解釈」と「予見可能性」
27日の日経朝刊記事によりますと、サッポロHD取締役会は、スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)エル・ピー(以下、単にSPと表記します)からの買収提案について、これを拒否する旨公表したそうであります。(SPJSFによる当社株式の買付提案に対する当社取締役会の意見書2月26日付け)毎度のことでありますが、私はM&Aに詳しい専門弁護士ではございませんので、以下は大規模買付ルール終了までの経緯につきまして、「上場企業の一社外役員」という立場からの感想程度のものであります。
SPの買収提案につきましては、これまで通用していた事前警告型買収防衛ルール(サッポロHDの買収防衛旧ルール)が適用されることになっておりますが、2月20日に公表されました特別委員会の「追加意見書」などを読みましても、この買収防衛ルールの「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」についてはスティール側とサッポロHD側との間に、大きな解釈の違いがあるように思われます。理屈のうえでは、サッポロHD社特別委員会の意見も首肯しうるところだとは思うのでありますが、素直にこの対応方針(4;大規模買付行為が為された場合の対応方針(1)大規模買付者が大規模買付ルールを遵守した場合)の「例外規定」を読む限りにおきましては、この防衛策は、大規模買付者が「濫用的買収者に該当する場合」もしくは、これと同程度の「濫用的な買収であると明らかに認められるほどの買収を行う場合」しか(ルールを遵守してきた大規模買付者への例外的措置としては)発動されることはないと解釈するのが自然ではないか、と思われます。少なくとも、SP側が買収防衛ルールを、自己に有利なように曲解して強引な主張をしているようには思えません。逆に私は、特別委員会にせよ、取締役会にせよ、ここまで事前警告型のルールにつきまして、最高裁決定の趣旨を取り込みながら広く「解釈」してしまっていいのだろうか・・・と、どうしても疑問を抱かざるをえません。
先のブルドックソース最高裁決定が、事前警告型防衛策をすでに導入している企業について、どの程度の先例的意味があるのかは不明な部分が多いと思われます。しかし防衛策を導入していない企業の緊急避難的な発動と比べて、発動の適法性要件が緩和される余地があるとするならば、それは導入された防衛策のスキームが株主の総意を反映したものであることや、買付予定者にとって、発動による損害の「予見可能性」を高めることに起因するのではないかと考えております。そうであるならば、すでに導入済みの買収防衛ルールの解釈につきましては、およそ理屈でどうか・・・というよりも、一般株主がどう解釈するか、買付希望者であればどう解釈するか、といった点も重要ではないでしょうか。サッポロHD社の特別委員会や取締役会の買収防衛ルールに対する解釈を前提とした場合、果たして一般株主も、同様の意味に解して承認決議を行ったものと判断することはできるのでしょうか。もしそうでなければ、その防衛ルールは「株主の総意を反映」したものではなく、また買付希望者に対して「予見可能性」を付与しうるものとはいえないはずであります。ましてや、サッポロHD社の防衛策の発動は、取締役会限りで行うものでありますから、その発動が多数株主による判断であることの正当性と相当性が認容されるためには、「株主の総意を反映したルール」であり「予見可能性のあるルール」であるかどうかは、きわめて重要なメルクマールであり、十分留意しておくべきポイントではなかろうか・・・と考えております。
ブルドックソース最高裁決定の理由4(2)によりますと、事前の対応策は、株主、一般投資家、買収をしようとする者などの関係者の予見可能性を高めることとなり、現にそのような定めをする事例が増加している、ブルドック社は(たしかに)事前の対応策の定めがないけれども、だからといって対応策を講ずることが許容されないものではなく、企業価値の毀損を防ぎ、株主共同利益の侵害を防ぐためには、多額の支出をしてでもこれを採用する必要があると判断されて行われたものであり、緊急の事態に対処するために行われたものであること、相手方に対してはその価値に見合う対価が支払われれることを考慮すれば、対応策が事前に定められていなかったからといって防衛策の発動が不公正は方法によるものとはいえない、とされております。このような決定理由の表現から、どれだけの買収防衛ルールの効用を認めるかは、まだ明確ではないかもしれませんが、権限分配原則や衡平の理念に照らしても、対応策に何らかの法的意味を見出すためには、予見しがたい解釈によって、そのルールの内容をあいまいにすることは回避すべきではないか、と思う次第であります。
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