2008年2月28日 (木)

サッポロHD買収防衛ルールの「解釈」と「予見可能性」

27日の日経朝刊記事によりますと、サッポロHD取締役会は、スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)エル・ピー(以下、単にSPと表記します)からの買収提案について、これを拒否する旨公表したそうであります。(SPJSFによる当社株式の買付提案に対する当社取締役会の意見書2月26日付け)毎度のことでありますが、私はM&Aに詳しい専門弁護士ではございませんので、以下は大規模買付ルール終了までの経緯につきまして、「上場企業の一社外役員」という立場からの感想程度のものであります。

SPの買収提案につきましては、これまで通用していた事前警告型買収防衛ルール(サッポロHDの買収防衛旧ルール)が適用されることになっておりますが、2月20日に公表されました特別委員会の「追加意見書」などを読みましても、この買収防衛ルールの「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」についてはスティール側とサッポロHD側との間に、大きな解釈の違いがあるように思われます。理屈のうえでは、サッポロHD社特別委員会の意見も首肯しうるところだとは思うのでありますが、素直にこの対応方針(4;大規模買付行為が為された場合の対応方針(1)大規模買付者が大規模買付ルールを遵守した場合)の「例外規定」を読む限りにおきましては、この防衛策は、大規模買付者が「濫用的買収者に該当する場合」もしくは、これと同程度の「濫用的な買収であると明らかに認められるほどの買収を行う場合」しか(ルールを遵守してきた大規模買付者への例外的措置としては)発動されることはないと解釈するのが自然ではないか、と思われます。少なくとも、SP側が買収防衛ルールを、自己に有利なように曲解して強引な主張をしているようには思えません。逆に私は、特別委員会にせよ、取締役会にせよ、ここまで事前警告型のルールにつきまして、最高裁決定の趣旨を取り込みながら広く「解釈」してしまっていいのだろうか・・・と、どうしても疑問を抱かざるをえません。

先のブルドックソース最高裁決定が、事前警告型防衛策をすでに導入している企業について、どの程度の先例的意味があるのかは不明な部分が多いと思われます。しかし防衛策を導入していない企業の緊急避難的な発動と比べて、発動の適法性要件が緩和される余地があるとするならば、それは導入された防衛策のスキームが株主の総意を反映したものであることや、買付予定者にとって、発動による損害の「予見可能性」を高めることに起因するのではないかと考えております。そうであるならば、すでに導入済みの買収防衛ルールの解釈につきましては、およそ理屈でどうか・・・というよりも、一般株主がどう解釈するか、買付希望者であればどう解釈するか、といった点も重要ではないでしょうか。サッポロHD社の特別委員会や取締役会の買収防衛ルールに対する解釈を前提とした場合、果たして一般株主も、同様の意味に解して承認決議を行ったものと判断することはできるのでしょうか。もしそうでなければ、その防衛ルールは「株主の総意を反映」したものではなく、また買付希望者に対して「予見可能性」を付与しうるものとはいえないはずであります。ましてや、サッポロHD社の防衛策の発動は、取締役会限りで行うものでありますから、その発動が多数株主による判断であることの正当性と相当性が認容されるためには、「株主の総意を反映したルール」であり「予見可能性のあるルール」であるかどうかは、きわめて重要なメルクマールであり、十分留意しておくべきポイントではなかろうか・・・と考えております。

ブルドックソース最高裁決定の理由4(2)によりますと、事前の対応策は、株主、一般投資家、買収をしようとする者などの関係者の予見可能性を高めることとなり、現にそのような定めをする事例が増加している、ブルドック社は(たしかに)事前の対応策の定めがないけれども、だからといって対応策を講ずることが許容されないものではなく、企業価値の毀損を防ぎ、株主共同利益の侵害を防ぐためには、多額の支出をしてでもこれを採用する必要があると判断されて行われたものであり、緊急の事態に対処するために行われたものであること、相手方に対してはその価値に見合う対価が支払われれることを考慮すれば、対応策が事前に定められていなかったからといって防衛策の発動が不公正は方法によるものとはいえない、とされております。このような決定理由の表現から、どれだけの買収防衛ルールの効用を認めるかは、まだ明確ではないかもしれませんが、権限分配原則や衡平の理念に照らしても、対応策に何らかの法的意味を見出すためには、予見しがたい解釈によって、そのルールの内容をあいまいにすることは回避すべきではないか、と思う次第であります。

2月 28, 2008 サッポロHDとスティールP | | コメント (5) | トラックバック (0)

2007年2月16日 (金)

サッポロHDにスティールPが意向表明書提出

(2月16日午前 追記あります)

一昨日(2月13日)でありますが、私が独立第三者委員会の委員を務めさせていただいている某企業にて、ライツプランによる買収防衛策再導入に関する意見交換会(もちろん、独立第三者委員会の委員によるもの)がありました。(適時開示情報を一生懸命探しますと、某企業からの「ライツプラン再導入のお知らせ」というものが出てまいります)独立第三者委員会3名でいろいろと協議をしたところでは、「もし、大量買付希望者が現れた場合には、どういった対処法をとるべきか」ということについて、けっこう難しい判断を迫られる場面が出てくるのではないか、と思われる論点がいくつかありそう、との認識でありました。いくら発動の決議は取締役会で決定するものであり、第三者委員会はあくまでも諮問機関である、といいましても、おそらく第三者委員会の勧告につきましては、取締役会も最大限尊重するものと思われますので、やはり責任問題という観点からは、かなり慎重に考えておかなければなりません。

そういった社外の独立した有識者によって構成される第三者委員会の委員の方々が、委員会としての意見を現実に形成しなければならなくなったのが、サッポロHDであります。(「特別委員会」と称されているようです)すでにニュースでもご承知のとおり、スティールパートナーズが、大規模株式取得行為を希望する第三者が出現した場合の防衛ルールに則り、サッポロHD代表者あてに「意向表明書」(と解釈できるもの)を提出したことが報じられております。敵対的買収に発展するのではないか、とのニュースも早々と出ておりますが、世間ではあまり注目されていないところでありますが、昨年1年間に導入された上場企業の事前警告型の防衛ルールのうち、100件程度のものに、この「独立第三者委員会」が設置されているそうでありまして、就任している人数からすると、300名以上の方(もちろんいくつかの企業の第三者委員会委員を兼任されておられることとは存じますが)が、(世間での注目度とは裏腹に)このサッポロHDの事件を見守っているのではないでしょうか。

そもそも、この防衛ルールの一環としての事前交渉制度といったものが、買収防衛策を導入する企業が一方的に作ったものであって、「果たして合理性を有しているのかどうか」ということに若干疑義を抱いておりますけれども、このサッポロHDの昨年2月の「大量取得希望者出現時における対応方針」におきましては、東京地裁の決定の趣旨を援用して、合理性があることを説明されております。たしかにルールそれ自体には不合理な点はないのかもしれませんが、こういったルールにしたがった大量取得希望者側より、逆に合理的な範囲において質問がなされ、その質問への回答に対して、大量取得希望者側が「われわれの質問への回答が不十分」と判断したような場合にまで、取得希望者はTOBに踏み込むことはできないのでしょうか?今回のスティールがサッポロに宛てた意向表明書のなかにも書かれておりますが、おそらく法務・財務に関するDD(デューデリジェンス)には被買収企業側は非協力でしょうから、情報の非対称性からすれば、こういった回答につきましては誠意をもって対応する必要がある場合も出てくるように思うのですが。一方的なルール策定がある範囲において「合理的」と評価されるのであれば、大量取得希望者側においても、質問をして、その回答内容から判断して、納得できなければそのルールに従わなくてもよい、といった理屈も成り立ちうると考えるのですが、さてどうなんでしょうか。企業価値算定による比較の問題にまで踏み込むべきなのか、形式的な要件該当性だけから勧告の内容を決めていいものなのか、大量買付希望者自身は経営する能力はないけれども、その背後に同業他社の影がちらついている場合などは、ルール上、直接の相手方をどうみなせばいいのか(三角合併の場合などに問題になってくるのかもしれませんが)、など第三者委員会の委員さんとしては、いろいろと問題が出てくるところではありまして、またそのあたりの論点は続きということにさせていただき、まずは防衛ルールのあり方といったところで、素人的な疑問が湧いてくるところであります。

(2月16日午前 追記)

今朝の読売新聞では一面トップで「アサヒがサッポロに統合提案」のニュースが報道されております。2月2日のエントリーでも少し触れましたが、これは当然の流れでしょうし(ただし、昨年12月ころから非公式には打診されていた、との報道内容です)、このあたりの流れを想定内にいれてのスティールの動きということなんでしょうね。ただ、この記事で気になりましたのは関係者のお話として「スティールはビール業をやったことがないから、提案を受け入れることはできない」として、統合提案を拒否する見込み(読売新聞ニュース)とありますが、こういった内容で第三者委員会も判断をしていいのかどうか。(ダメですよね・・・・・)

なお、今後の事業再編と法律問題との関係で考えますと、サッポロ・スティールのTOB以上に、今朝の日経報道にある「東京鋼鐵・大阪製鐵・いちごアセット」の委任状争奪戦による株主総会決議の行方のほうがかなり影響度が大きいと思います。ヤフー掲示板を10日間ほど眺めてましたが、いちごが30%以上を保有するにいたったというのは存じ上げませんでした。

2月 16, 2007 サッポロHDとスティールP | | コメント (7) | トラックバック (2)

2007年2月 2日 (金)

サッポロHDに対するスティールの株主提案

何気に日経ネットニュースだけが取り上げていないスティールPのサッポロHDに対する株主提案権(買収防衛策の廃止へ向けての定款変更決議案)の行使(サッポロHDからのお知らせ)でありますが、これも3月決算の企業にとりましては非常に関心の高いニュースになりそうであります。(スティールはすでに19%を超えていませんでしたっけ?)いろいろと話題の食品業界であることや、公正取引委員会の審査基準の変更などの諸々のことを考え合わせますと、ビール業界で2番目あたりの企業にとりましては、「ココロオドル」ようなニュースではないでしょうか。それにしてもサッポロHDの買収防衛ルールによる特別第三者委員会のメンバーの方々は、めちゃ豪華ですね。(とりあえず、また週末あたりの続報に注目ということで)

2月 2, 2007 サッポロHDとスティールP | | コメント (0) | トラックバック (1)