ヘッジファンドと企業コンプライアンス
2月16日の夕方、2時間ほどフィノウェイブ・インベストメンツ株式会社の社長でいらっしゃる若林秀樹さんと(ある方のご紹介にて)大阪でお話をさせていただきました。若林さんはご存知の方も多いかと思いますが、日経の人気証券アナリスト1位(5度)、2006年にファンドマネージャーに転身されてからは、日本株ショートロングヘッジファンドにおいて52本中1位の運用成績を上げておられ、現在も日経ビジネスオンラインにて連載記事(辛口市場主義)を寄稿されておられます。以前よりお会いするのを楽しみにしておりましたので、本当にあっという間の2時間でした。
こちらから若林さんにお聞きしたかったことは、ヘッジファンドの概要でありまして、ファンドストラクチャー、および「健全なファンドとはいかに?」といったファンドの運用実態からみた「安心しておつきあいのできるファンド」の選別方法についてでありました。しかしヘッジファンドのストラクチャーというものは、すぐに理解するのが容易ではありませんね。組織自体がどこの国のものかよくわかりません。(ちなみに、若林さんが社長であるフィノ社も投資運用会社ではなく、あくまでも投資顧問助言会社であります)といいますか、組織の基本パーツが日本やアメリカ、スイス、バージン諸島などなど、あっちこっちに分かれておりますので、「会社の形態」は全世界を見回してみないと理解できない仕組みになっております。また、この仕組みに「ファンドオブファンズ」が絡まっておりますので、もひとつややこしい状況になっております。若林さんからしますと、「あたりまえのこと」かもしれませんが、ヘッジファンドを日本法において理解しようと、へんな質問ばかりする私に、嫌な顔ひとつせず、懇切丁寧に解説をしていただき、本当に感謝で一杯であります。(ときどき、「いや、実は私にもそれはよくわからんのです」とホンネでお答えいただきました。)
ちょっと気になりましたのが、若林さんが日本の株式市場の今後の占う意味で「重要項目」としてあげておられたのが、景気、為替、政治、エネルギーを含む環境問題、そして「企業のコンプライアンス」でありました。世界の株式市場との比較において、重要な5項目のうちのひとつにコンプライアンスが挙げられるそうでして、「これはそんなに影響度が高いのでしょうか?」とお聞きしますと、若林さん曰く
「もちろんです。不祥事を起したかどうか、ということも個別の企業には大事ですけど、不祥事を起さない仕組みとか、リスク管理といったことを企業に要求する制度の有無は市場の浮沈に大きく影響しますよ」「たしかにアメリカSOX法はたいへんかもしれませんが、あれを実践できないということは、それだけで不祥事のにおいがします」「そもそも日本の市場に4000社は多すぎるかもしれません。実践できなければいったん退場して、しっかりした組織をつくってからまた上場すればいいんです」
などなど、やはり機関投資家のコンプライアンスへ向ける眼差しには、たいへん厳しいものがあることを実感いたしました。私は、普段の仕事が個々の企業からの依頼というところにあるものですから、不祥事再発防止のためにはどうしたらいいかといった観点からしか「コンプライアンス」を捉えておりません。したがいまして、大きく観点を広げても、「企業集団としてのコンプライアンスのあり方」くらいまでしか語る資格がないように思っております。しかしながら、市場規模の拡大(国策)のため、企業不正を予防ないし低減するための仕組みといったものが、これほど大きく捉えられているというのはちょっと予想外でありました。(会社法改正、金融商品取引法制定は、海外市場との比較でいえば、とても日本に有利な法制度の改変だそうであります)最近SRIの市場規模が拡大したり、自主規制機関が引受審査基準を変更したり、監査体制の環境整備が進められたりしておりますが、これらは主として一般国民に向けられたパフォーマンスの一環ではないかと思っておりましたが、そうではなく、アジアの飛躍的な株式市場の伸長から取り残された日本の株式市場の「復権、再興」をかけた外向けのパフォーマンスの意味のほうが大きいのではないか、と思い直すことにいたしました。
そういえば、2日ほど前の日経ビジネスオンラインの記事におきまして、東京地裁第8民事部(商事専門部)の裁判官の方々が、いつ提訴されてもおかしくないほどの「秒読み」状態になったMBO訴訟のために、いま必死で勉強されている、ということが書かれております。若林さんからヘッジファンドで働く人々のことをお聞きするうちに、日本の会社法における「多数株主支配からの少数株主保護」に関する判例が形成されるためには、どうもファンドが「少数株主」側として登場するようなケースが多発することが条件になるんじゃないでしょうか。(いままでは支配株主として登場することが念頭に置かれておりましたが)どうもそのあたりを、そろそろ裁判所も察知しているのかもしれませんね。
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