「公正なる会計慣行」と経営判断原則(三洋電機違法配当第一審判決)
昨年9月、大阪地裁で三洋電機の減損会計ルールの適法性が争点となっていた事件の判決が出たことはお伝えしておりましたが、金融・商事判例1407号(2013年1月15日号)に判決全文が掲載されておりますので、(非常に長い判決ですが)一読いたしました。ちなみに昨年10月2日のエントリーはこちら ですので、ご参考まで。本件は、三洋電機社の関連会社株式減損ルールによる会計処理等が違法であり、違法配当がなされたとして、株主らが当時の取締役・監査役らの損害賠償を求めた株主代表訴訟事案であります。大阪地裁商事部は、当時の会計処理は金融商品会計基準の解釈として、公正なる会計慣行に基づくものであり、違法性はなく、被告らの責任は認められない、としております(現在は控訴審係属中)。
ご承知の方も多いかとは思いますが、本件では、第三者委員会(過年度決算調査委員会)が会社側、監査人側に厳しい意見を呈し、また金融庁も課徴金処分を下し、担当した会計監査人(監査法人)も行政処分を受けたものであります。課徴金処分とされたものが、裁判では「違法性なし」という結論となり、この点に関する裁判所の見解も示されています。おそらくこの見解は、今後の同種裁判にも参照されるのではないかと(本日は、この点については触れないことにします)。
本件は未だ裁判中でありますので、この大阪地裁の判決だけでの印象ではありますが、なにをもって「公正なる会計慣行」といえるのか、その判断基準は長銀、日債銀最高裁判決の考え方と、基本的にはそれほど変わるところはないものと思われます。ただ、会計処理基準の選択や選択した基準の解釈にあたっては、(一義的に判断することが困難であることから)経営者の裁量によるところが大きいものとして、いわば経営判断原則に近い考え方が採用されていることがわかります。このあたりは、昨年10月のエントリーでも予想していたところでありました。この裁判では、単純に会計処理基準の選択だけでなく、その基準の解釈も含めて「会計慣行に反するかどうか」が判断されているところは(私個人としては悩んでおりましたので)スッキリいたしました。
たとえば関係会社の株式減損に関する「回復可能性」の判断、貸倒引当金の計上に関する「取り立て不能のおそれ」の判断にあたっては、一義的な判断基準が見当たらない以上、経営者の見積り(将来予測)が決め手となるわけですが、合理的な判断によって見積りがなされた結果としての「回復可能性あり」「取り立て不能のおそれなし」とする判断であれば、これは経営者の判断を尊重しようというのが裁判所の考え方です。判決文は、この経営者の判断が合理的なものかどうか、詳細に検討した上で、極めて慎重に論じているところですが、要は①経営者が関連会社(子会社)の業績について、日頃から関係者に(まじめに)説明責任を果たし、専門家にも真実を伝えていたかどうか、という「誠実性」の点、②会計処理ルールの適用にあたっては、恣意性が疑われないような手続きをきちんと果たしていたかどうかという「公正性」の点が被告勝訴の決め手になっているものと思われます。
さて、この三洋電機損害賠償請求判決と、先日お伝えしたNOVA損害賠償請求事件に関する大阪地裁判決(こちらは民事23部 平成24年6月7日判決 1403号 金融・商事判例)とを比べますと、金融商品会計基準や収益計上基準といった会計ルールの選択・解釈の合法性を、裁判所がどのように取り扱うのか、その判断の過程がなんとなく理解できるような気もいたします。いずれの事件も高裁で審理中のようですので、また今後の控訴審判決の行方に注目しておきたいところです。控訴審判決が出た時点で、また私自身の理解についてもブログで述べてみたいと思います。
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