2016年11月23日 (水)

GPIFの運用委託先が選ぶ「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」に選出されました。

(といっても私ではございませんが)私が社外取締役を務めております大東建託が、このたびGPIFの運用委託先が選ぶ「優れたコーポレート・ガバナンス報告書」を公表する企業(6社)に選ばれました。花王さん、オムロンさん、荏原製作所さん、ディスコさん、資生堂さんに並んで選出されたということは(私のことのように?)光栄に存じます。選出理由として、コード73項目に独特の立場から解説をしており、これまでの企業姿勢との整合性もあり、経営の透明性が感じられるとのことで、まさに評価をしていただきたい点が評価されたものと思います。どうもありがとうございます<m(__)m>。

ちなみに花王さんの選出評価の中に「これまでコンプライとしていたものを、真摯な姿勢で見直した末にエクスプレインに転じた姿勢」と記されています。これ、私もまったく同感です。アリバイ工作ではなく、本気でコードを社内に浸透させようと思って検討してみると、実はコンプライしているというものではなく、エクスプレインしなければならないということがわかった」という事態に直面するはずです。世間ではコンプライすることが重要だと言われる中で、うちの会社ではコンプライしないほうが企業価値を向上させることができるのではないか、と思ったときに堂々とエイクスプレインすればよいのではないでしょうか。また、今後コンプライする予定だと述べる場合でも、進捗状況を機関投資家に示すことは「ガバナンス改革に前向きな姿勢」が理解されるものと思います。

GPIFさんでは、「優れた統合報告書」も合わせて発表しているので、そこで示されている会社さんの統合報告書も、今後の参考としてじっくり拝読させていただきます(ちなみに9社というのはカプコンさん、オムロンさん、味の素さん、ポーラ・オルビスHDさん、丸井グループさん、三菱商事さん、大和ハウス工業さん、堀場製作所さん、三菱重工業さんとのこと。)

11月 23, 2016 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年6月 3日 (水)

東芝不適切会計事件-内部統制からみた社外取締役の役割

コーポレートガバナンス改革の中、大手法律事務所さんが「コード・監査等委員会・グループ内部統制-変わるコーポレートガバナンス」(日本経済新聞出版社 2015年5月)なる本を出版されました。タイトルのとおり、ガバナンス・コード、会社法改正に関連するタイムリーなテーマを網羅しておられ、私のような法律家にもたいへん勉強になり、また上場会社の経営者、法務担当者、IR担当者の方々にお勧めしたい一冊です。

ところで本書でたいへん興味深いのは「第3章グループ内部統制」における座談会収録記事において、先進的なグループガバナンス・内部統制を構築しておられるモデル企業として東芝さんが登場されているところです。東芝の監査委員である取締役さん(東芝さんは指名委員会等設置会社です)が自社の内部統制について図表を用いながら詳細に解説をされています。私はその解説記事を読み、(3・11の事故前の東京電力さんと同様)非常に素晴らしい内部統制システムを構築されているなぁ、これは人的・物的資源が豊富な東芝さんだからこそ構築できるのであり、なかなかここまで優秀な内部統制システムが他社で構築できるだろうか・・・と感じました。

ただ、このような名門企業でも今回のような会計不正事件が発生し、「内部統制が不十分だった」と記者会見で社長が悔しがるような事態に至っててしまうわけです。ちなみに東芝さんの場合、「不祥事は起こしてはいけない、起こさないためにはどうするか」といった視点、つまり未然防止の視点だけでなく、「不祥事は起きる、起きた時にどうすべきか」といった視点、つまり不正の早期発見のための内部統制にも配慮していたことがうかがわれます。たとえば、座談会記事によりますと、東芝グループにおいて重大な不正が発生した場合には、すみやかにクライシス情報が経営陣に届くような報告体制を整備している、とあり、その重大な不正には「虚偽報告リスク」も含まれているそうです(PDCAも重視されているようなので、おそらく報告体制の運用についてもチェックされていたものと思います)。

この「不正発生時の報告体制」の運用がどのようなものであったのかは、第三者委員会による調査結果でも出ないかぎり不明です。このたびの会計不正事件の発端は金融庁への内部告発だったそうですが、(これは私の経験からの推測ですが)社員がいきなり内部告発をする、という事態は考えられません。まず最初は上司に「おかしいのではないか」と相談し、上司に相手にされなければ内部通報制度に申告し(東芝さんはこの内部通報制度の運用にも注力されていることが上記座談会記事に記載されています)、それでも会社が動かなければ監査法人に通報し、それでも問題視されない場合に外部(マスコミや監督官庁等)に内部告発をするという過程をたどるのが通常のパターンです。したがって、本件でも不適切な会計に関する情報が全く経営陣に届いていなかったかどうかは疑わしいところですが、かりに届いていなかっとすれば、それはクライシスマネジメントとしての報告体制が機能していなかった、ということになります。

報告体制が機能しなかったと思われる要因は、まず「粉飾」の境界の曖昧さにあります。どこまでが「適切な会計基準の適用」で、どこからが「不適切な会計処理」なのか、その境界は不明瞭です。これを常に意識していれば問題を早期に解決できますが、「粉飾スレスレの会計処理を行うことがこの部署の腕の見せ所であり、経営陣から評価を受けるポイント」と上司から言われ続けていれば担当者の目も曇ります。後日、問題を第三者から指摘されて初めて「ああ、知らないうちに境界線を超えていたのか」と反省することになります。現場が不正だと認識できない状況において、そもそも不正など報告できるはずはありません。

また、社員の勝手な「今だけ理論」があります。なにかおかしい・・・と感じる行動があったとしても、「まあ、これは今だけだから。状況が変わればいつでも修正できるから。」といった理屈の立つ不正は「社内常識の範囲」になります。工事進行基準の不適切処理があったとされますが、これも後日の原価計算の修正等によって適正なものに回復できると考えますと、とりあえず業績を好調に見せる必要があれば「今だけ」ということで報告すべき対象から安易に除外してしまうことになります。

さらに危機対応としての報告体制が機能しなくなる要因として「伝達経路のバイアス」が大きな問題です。自分の責任が問われかねない情報が伝達される場合、話すほうは「たいしたことはありませんが・・・」と話し、聞くほうは「聞きたいことだけを聴く」ようになります。人間は今自分が有事に立ち至っていることを認めたくないので、「今、自分は平時である」ということに安心できる情報だけを伝えたいし、聴きたいのです(私もそうですし、皆さんもたぶんそうだと思います)。「そんな小さな子会社のことでどうして」とか「確実な証拠もないのにどうして騒ぐのか」「ああ、あいつは昔から変わった男だから・・・」といった理屈で安心しようとします。実際、私が危機対応の仕事をする中でも、金融庁に内部告発されてしまった場合に、「そんな問題を取り上げるほど当局(監視委員会)はヒマじゃないでしょ」「そんなこと監査法人にチクったって、監査法人だって自分たちのミスになるから取り上げないでしょ」といった役員さん方の(極めて楽観的な)意見を何度も耳にしました。そのような理屈が立ったところでほぼすべての役員さんが思考停止に陥ります。

有事には知識は役に立たず、知恵しか役に立ちません。その知恵とは「有事には人間の心にバイアスがかかる」ということです。バイアスのかかった人間の心に内省を促すのは事態を見つめなおす正当性の根拠しかありません。経営幹部であれば社長の命令であり、そして社長であれば(自分がお願いして来てもらった)社外取締役の指示です。人から言われて「ああ、そうですか」といったたやすいものではなく、自分の意思で有事であることを見つめ直すしか方法がないのであり、そこには「正当性の根拠」が必要となります。

私は「守りのガバナンス」ではなく「攻めのガバナンス」が求められる昨今、内部統制の視点から社外取締役に期待される行動は、一次不祥事の防止のための施策ではなく、二次不祥事の防止のための行動だと考えます。このたびの東芝さんの会計不祥事も例外ではなく、そもそも社外取締役が何人いたとしても、上場会社が競争社会の組織である以上、かならず不正は発生します。しかしその発生した不祥事をどのように発見し、早期に食い止めるか・・・、また社内で放置しようと考えている役員の「不作為による暴走」をいかに食い止めるか、という点にこそ、社外役員の重要な役割があると思います。先日、ホンダ社が全米リコールを決めたのが(元三菱UFJ銀行頭取だった)社外取締役の一言だった、と報じられましたが、あの一言こそ有事の組織に必要とされるところではないでしょうか。人の意見をすぐに聞くような社長さんはいないはずです。他人の意見をいったん自分の中で咀嚼して、内省の結果として社長自らの意思で決断するのです。その咀嚼、内省は外部のコンサルタントや弁護士の意見が誘因とはなりえず、唯一動かすことができる正当性の根拠となりうるのは、取締役会内部の社外役員の意見ではないか、と思うのです。

6月2日夕方のNHKニュースにて、藤沢市役所における情報管理体制を改善する試みが報じられていました。市の職員全員のパソコンに「抜き打ち」でウイルスメールを送りつけたところ、約4割の職員がついうっかりそのファイルを開けてしまったそうです。この結果から「職員はどうしてもファイルを開けてしまう。ならば開けてしまうことを前提にどうやって個人情報を守るかを考えなければならない」として、市は職員のパソコンと個人情報を取り扱うパソコンの接続を完全に分断し、さらにウイルスに感染したことが疑われる事態になると警告を発するシステムを導入したそうです。このようなシステムを導入することで、はじめて職員の方々が「ついうっかり」の事実をすみやかに上司に報告できる体制が整うはずです。企業のリスク管理にも、やはりこのようなシステムが必要です。このたびのガバナンス改革では「健全なリスクテイク」が求められていますが、何が健全なリスクテイクなのか、言葉の遊びのような抽象的なものではなく、各社において十分に検討する必要があると思います。

そして私は一例として、「不正はかならず当社でも起きる。起きた時に、どうすれば冷静に最善策を検討できるか」ということを(平時にこそ)社外役員とともに考えておくべきことをお勧めします。コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-5①では社外取締役が内部通報の窓口になることが推奨されていますし、補充原則4-13②、③では社外取締役が積極的に情報入手ために専門家を活用したり、内部監査部門と連携することが推奨されています。このような指針を参考にしながら、「健全なリスクテイク」の具体的な中身を検討すべきです。

昨日、ある上場会社の社内役員の方と食事をしましたが、その際「うちの社外取締役はいったん意思決定した経営判断であったとしても、『もう少し中身について検討を加えてうえで再度決議すべきだ』として、臨時取締役会を求めるのです。もちろん社長以下、忙しくて集まれないのですが、なんとかテレビ会議と電話会議を使って臨時取締役会を開催しました。うちの会社でテレビ会議とが使ったのは初めてですよ」とおっしゃっていました。これが正しいのかどうかはわかりませんが、少なくとも外からは絶対に見えない取締役会の雰囲気が変わる瞬間だと思います。社長の意思決定に影響を与える「正当性の根拠」がひとつ増えたことを意味するものであり、こういったことが積み重なれば、健全なリスクテイクが可能となり、たとえ不祥事が発生したとしても「組織ぐるみ」「経営者関与」といったマスコミからの批判は受けずに済む組織になるものと思うところです。

6月 3, 2015 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年4月14日 (火)

コーポレートガバナンス・コードの実務対応に関する素朴な疑問

(4月18日 追記・修正)

ひさしぶりの「素朴な疑問」シリーズであります。聞くは一時の恥、聞かぬは・・・と申しますので、あえて今ホットな話題のコーポレートガバナンス・コードの実務対応に関する疑問です。うーーーん、よくわかりません。ホントに素朴な疑問なので、もし前提のところで誤っておりましたらごめんなさいです(訂正させていただきます)。

疑問その1 ガバナンス報告書の提出期限について

東証規則により、ガバナンス・コードの開示事項については(原則として)コーポレートガバナンス報告書に記載することになります。6月定時総会の上場会社の場合、遅くとも今年の年末までにコーポレートガバナンス報告書への記載を済ませばよい、とのことですが、では来年3月定時総会の会社の場合はどうなるのでしょうか?来年の3月から6カ月の猶予期間あるのか、それとも3月総会の後すみやかに提出(つまり4月中に記載)をしなければならないのか?もし3月総会の会社が、総会から6カ月の猶予があるとすると、6月総会の会社が2回目の記載を済ませた後に初めて(適用後の)ガバナンス報告書を提出するということになるので、これはややおかしいのではないでしょうか。ということは来年3月とか5月総会の会社は原則どおり速やかに提出する、ということになるのでしょうかね?「適用初年度のみ猶予期間あり」とみるならば、どんなに遅くとも2016年の5月末までに報告書を提出せよ、ということでしょうか?

追記・ある取引所関係者の方からご連絡いただいたところによると、たとえば平成27年12月に定時株主総会を開催する会社であったとしても、そこから6カ月の猶予期間はあるそうです。

疑問その2 ガバナンス・コードの趣旨・精神の尊重義務について

コードへの対応実務として、コンプライ・オア・エクスプレインの「コンプライ」と「エクスプレイン」は同価値かどうかはひとつの疑問ですが、東証の有価証券上場規程では、445条の3によってガバナンス・コードの趣旨・精神の尊重義務が規定される予定です。この規定をもとに、「いくらエクスプレインでもよいといっても、コンプライすることが大切」との解説が多いようです。しかし、そもそもガバナンス・コードの趣旨・精神というのはプリンシプルベースの規制であることの趣旨を指しているのではないでしょうか。つまり「コンプライ・オア・エクスプレイン」であることが趣旨であり精神だといった理解も成り立つのでは?たとえ「努力義務」であったとしても、ここで東証ルールを持ち出すとルールベースの規制になってしまわないのでしょうか。コードでは対話のための付加価値ある開示が求められているのであれば、何も開示せずにコンプライするよりも、むしろ自社にふさわしいエクスプレインを行うほうがガバナンス・コードの趣旨・精神、つまりコードの趣旨に合致するように思います(つまりコンプライとエクスプレインは同価値とみたほうが自然だと思います)。

疑問その3 コード補充原則1-2②はプリンシプルか?

 

補充原則1-2②は株主の議決権行使に関する(早期の招集通知発送等)環境整備についてのコードですが、その内容はすでに有価証券上場規程446条および同施行規則437条で具体的にルール化されています(「望まれる事項」という、いわば上場企業の努力義務ですが)。そしてこの上場規則はこのたびの改定で変更される予定はありません。しかしいくら努力義務とはいえ、すでに上場規則でルール化されたものは、もはや従わなければならないものであり、説明責任を果たしつつも従わなくてもよいことを前提とするエクスプレインはありえないのでは?つまりルールであるにもかかわらず、プリンシプルベースのコードが併存するというのは矛盾ではないでしょうか?

修正:ここはそもそも「望まれる事項」としてコードが適用されるのですから、私の疑問の前提がどうも論理的におかしいものでありました。なので、いったん削除させていただきます。

疑問その4 第2章「ステークホルダーとの適切な協働」の実効性は担保できるか?

株主との対話によって実効性が担保されるべきガバナンス・コードについて、その第2章ではステークホルダーの利益配慮に関するコードが示されています。しかし株主がいくら中長期的な企業価値向上に向けた対話を行うといっても、株主以外のステークホルダーの利益配慮に向けた企業行動にどれだけ関心を向けるのでしょうか。第2章のコードは経営方針等の開示によって公表されることになりますが、とくに内容にまで踏み込んで東証の審査がなされるとは思えません。スチュワードシップ・コードにも指針3-3において社会、環境配慮に向けた対話ということは記載されていますが、「利益配慮」ということまでは踏み込んでいないと思われます。ではこの第2章はいったい誰がどのような方法で企業のコード遵守の実効性を担保するのでしょうか。

上場会社として、実際にガバナンス・コードに沿った取締役会改革を行おうとしますと、いろいろと疑問が湧いてきます。やはりプリンシプル・ベースであり、コンプライ・オア・エクスプレインであるといっても、たとえば20年の経験をもつ英国の実務などを詳細に調査してみないと対応がむずかしいと感じますね。私の事実誤認や誤解に基づくところがあるかもしれませんが、同様の素朴な疑問を抱いている方も多いかもしれません。もしお詳しい方がいらっしゃいましたらお教えいただければ幸いです。

4月 14, 2015 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2015年1月16日 (金)

ガバナンス改革-社外役員と非常勤役員、その差はどこに?

最近、偶然にも3名の「社外取締役」の方、もしくはその候補者の方に別々にお会いする機会がありました。その方々に共通するのは、みなさん上場会社の社長経験者ですが、いずれも「会社法上の社外取締役ではない社外取締役」、つまり独立非常勤取締役(もしくは候補者)という点です。

会社法改正によって社外役員の「社外性要件」が厳格になります(猶予期間はありますが)。そこで今後は親会社から派遣される監査役さんが「会社法上の社外監査役」にはなれなくなるので、子会社の(会社法上の)監査役会制度を解消して「非常勤監査役さん」が増えることが予想されます。しかし監査役だけでなく、取締役にも「名刺の肩書は社外取締役」であっても、会社法上は社外取締役ではない非常勤取締役さんが増えるかも・・・という印象を持ちました。ただし監査役さんと違って、企業集団内部統制の一環ではなく、「業務執行に関与できるなら非常勤取締役をやりたい」という独立非常勤取締役への就任です。単純に業務委託契約を締結したアドバイザーというだけでは、たしかに聞く耳は持っていただけても社長への牽制までは期待できませんね。取締役会での議決権を持ち、さらに利害関係が一致するからこそ社長と本気でケンカできるのではないでしょうか。

会社法では社外取締役の選任が機関設計の要件となっていたり、社外取締役が取締役会において過半数を占めることの法的効果(権限を大幅に執行者に委譲できる等)が規定されているので、社外取締役の定義もあり、その身分では業務執行ができないことになっています。しかし、本当に企業価値を向上させるためには社外取締役が執行責任を社長と一緒にとる覚悟で業務に臨んだほうが良い、という意見の方も結構いらっしゃいます。そもそも執行に責任を負わないものが、なぜモノが言えるのか?会社の行く末に責任を負わない者が、なぜ社長の交代を進言できるのか?

理屈の上では「少数株主の利益保護のため」、「社長の暴走を止めて、コンプライアンス経営を図るため」、もう少し広く「株主利益の最大化を図るため」といった目的から社外取締役の意義を見出すのであればわかりやすいと思います。また海外から投資資金を呼び戻すため、という「株主の代弁者=社外取締役」論でも理解は可能です。しかし現在のように「持続的成長をはかり、企業価値向上を図るため」「稼ぐ力を取り戻すため」の社外取締役であれば、企業によってはむしろ、いま話題の「社外取締役さん」ではない(業務執行をガンガンやってもらい、その分、経営責任も一緒にとってもらう)非常勤取締役さんのほうがガバナンスの実効性が高まるのではないか、という意見にも一理あるように思われます(ただし現役の社長さんは、会社に迷惑をかけるリスクが高いので、法的責任制限の工夫をしないと実際には無理だとは思いますが)。

もちろん有事となれば社長と株主との利益相反状況になる可能性も高いので、執行の監督者という立場は重要ですが、平時における価値向上ということであれば一緒に業務執行にまい進する非常勤取締役という立場も十分に考えられるところかと。「社長と一緒に業務執行やらないで、なんで会社の将来の戦略なんて語れるの?実態のガバナンスは銀行と社員と株主によるガバナンスでしょ。監督者になんてホンネ言うわけないじゃないの」というある社長経験者の方の言葉が印象的でした。

1月 16, 2015 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年1月 6日 (火)

業務執行役員と非業務執行役員の区別は重要

5日、イオンさんが大規模なグループ経営体制の改革を発表されました。昨年10月に、当ブログでも取り上げました「イオン監査役アカデミー」は、この経営体制の刷新に呼応したものなのでしょうね。将来の幹部候補者が事業会社の監査役に就任し、非業務執行役員としてスピード経営、効率的な経営を習得するというもののようです。アカデミーは年間100時間ほどかけて監査役業務を学ぶそうで、監査役がキャリアパスの一環として位置づけられているのは画期的だと思います。

さて、年初のネタはガバナンス関連のお話です。社外取締役や監査役、取締役会長等、非業務執行役員としての地位にある役員は、(その名のとおり)会社法上は会社の業務執行は行えないことになっています。しかしホンネで言えば、現実的には「これって業務執行ではないの?」といった経営執行に一部関与している社外役員や監査役の方々もいらっしゃるのではないでしょうか。とくに独立性が認められない社外取締役の方などは、あまり意識もせずに業務執行に関与されている方もおられるような気がします。グレーゾーンに足を踏み込むことへの悩みを抱えている役員さんもいらっしゃるのでは。

このような問題が、会社法違反としてそれほど大事になることはないのかもしれませんが、これが最近のガバナンス改革、とりわけ株主による取締役評価という場面になると結構重要ではないかと思います。業務執行役員と非業務執行役員の区別を明確にしていなければ、「この社外取締役さんは、きちんと自分の役割をわからずに就任しているのではないか、ここの社長さんと適切なコミュニケーションがとれていないのではないか」と機関投資家が疑問を抱くことにつながるそうです(本日、あるアセットマネジメント会社の方との年始挨拶の場で、私がそのような感想を持ちました)。

たしかに、OECDガバナンス原則(和訳)のまえがきには以下のような条項があります。

このようにコーポレト・ガバナンスとは、会社の取締役会が何を行い、いかに会社の価値を設定するか、に関わるものであり、常勤役員が行う日常的な経営管理とは区別されるべきものである。

もちろん理屈の上では社外取締役に求められる役割はいろいろと意見がありますが、すくなくともスチュワードシップ・コードが策定され、機関投資家も中長期における企業の成長に関心を抱くことになった以上、機関投資家が社外取締役に求める役割という点にも配慮が必要です。外部のコンサルタントに求められていることが社外取締役に求められているわけではなく、もっと根本的な会社の基本方針の決定や、経営執行者の利益相反行動の監視といったことに関与して、できるだけ日常の経営執行には関与しない、という姿勢を示す必要がありそうです。質の高い意思決定が可能になるよう、経営会議を傍聴したり、監査役会との協議を行ったり、報酬や人事に関する委員会に出席することも大切とのこと(私自身、どこまで励行できているかは別として)。

元旦の朝日新聞ではトマ・ピケティ氏の独占インタビューが掲載されていましたが、ピケティ氏も(ドイツの労働者参加型ガバナンスを例に出して)資本主義社会の健全な発展のためにコーポレート・ガバナンス改革も一案だとされていましたね。自社のビジネスモデルが、直面する社会的課題をいかに解決することになるのか・・・といった視点も社外取締役に求められているのかもしれません。今後、社外取締役に就任される方のための研修や教育の機会が増えるのでしょうね。

1月 6, 2015 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年12月24日 (水)

具体と抽象の狭間に横たわるコーポレートガバナンス・コードの妙味

12月17日に公表され、来年1月23日までパブコメに付されている「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的成長と中長期的な企業価値向上のために~」ですが、その原案の「経緯及び背景」に登場するのが「中長期保有を目的とした株主との関係」、「プリンシプルベース・アプローチ」、「コンプライ・オア・エクスプレイン」です。スチュワードシップ・コードでも同じく「経緯と背景」に登場しており、これらはまさに「ガバナンス改革の車の両輪」といわれる二つのコードを結び付けるキーワードです。

いろいろなところでこのガバナンス・コード(企業行動原則)に関する議論を拝聴する機会が増えましたが、企業経営者が「これはたいへんなことになった」と嘆いておられる(23日の日経新聞「一目均衡」ご参照)のは、ガバナンス・コードの「~すべきである」、「~することが望ましい」といった行動規範性ばかりに注目が集まっているからではないでしょうか。「~すべきである」か否かは、個々の企業の置かれている経営環境によって異なるのであり、それは「具体」の世界の話です。しかし二つのコードは「抽象」の世界の話です。コードの話をするときには、この「具体」の世界で話をするのか、「抽象」の世界で議論をするのか、あらかじめ決めておかないと(コードが「ひとり歩き」してしまって)会話がかみ合いません。

そもそも今回の企業統治改革は、これまでのような「仕組み」だけの問題ではなく、「目的ある対話」という時間軸を持った「運用」の問題も含まれています。企業と株主がいったい何を話せばいいのかわからないので、とりあえず「コード」を作って、時間軸を持った会話を成り立たせましょう、ということだと私は理解しています。また、個々の株主だけでは企業との力関係が均衡しないので、企業に対する投資家の対話力を増幅するために、株主どうしで連携する際の会話のテーマにもなりえる便利なツールです。

Cfduy889会話を上手に進めるためには、具体と抽象との往復運動が大切であることは、すでにいろんなところで語られていますが、左に紹介する本書はこの「具体」と「抽象」を巡る思考の活用について、非常にわかりやすく解説されていて、今回のガバナンス改革への企業対応にも役立つものと思います。まさに企業と株主との目的ある対話では、この具体の上に抽象があること、対話にはこの往復運動が求められることを認識しておくべきだと考えます。

本書はビジネス書ともいえますし、哲学書ともいえそうな一冊ですが、立場の異なる者のコミュニケーション能力を上げるためには、双方がこの具体と抽象の概念を理解することが求められるという主張には納得します。まさに今回のガバナンス改革を支える「目的ある対話」を考えるにはピッタリではないかと。

「具体と抽象-世界が変わって見える知性のしくみ」(細谷功著dZERO社 1.800円税別)

コードを「~しなければならない」と読んだり、「他社では~しているのがあたりまえ」といったことばかりにとらわれていると、コードに従うことが目的化してしまって、コードが策定された趣旨を見失ってしまいます。たしかに、ガバナンスコードには、独立社外取締役を2名以上選任すべきである(原則4-8)と記されていますが、とくに従わなくてもペナルティはありません。改善に向けた運用などが不十分であれば議決権行使による経営責任が問われる、ということです。むしろ独立社外取締役を導入しなくてもガバナンスがしっかりしている、という企業側の理由にこそ投資家が関心を寄せるのではないでしょうか。社外取締役の数の問題を具体の世界における「二者択一」の問題と捉えるのではなく、抽象の世界における「二項対立」の問題と捉えることが、まさにプリンシプルでありコンプライ・オア・エクスプレインの考え方ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

コードはプリンシプルですから、人事・報酬・資本政策・配当政策など、およそ株主と利益相反が生じやすい課題にモニタリングが発揮できる仕組みや工夫(これこそ具体)を示すこと大切かと。条項によっては一見ルールベース・アプローチのようにも見えますが、コードの目的は「中長期的な企業価値向上」にあるのですから、株主との対話において「努力義務に優先順位をつける」ということも行われるのではないでしょうか。要は企業側から株主の資本コストを下げることに配慮している姿勢が重要だと思いますし、コードを目的化しないで個々の企業の環境に落とし込む努力をすることがまさに企業価値の向上につながるものと思います。

12月 24, 2014 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年12月17日 (水)

王子HD社の役員人事にみる日本版スチュワードシップ・コードの課題

本日、有楽町電気ビルにおいて、実践コーポレートガバナンス研究会主催のセミナーに参加させていただき、資産運用会社ご出身の著名な方による「エンゲージメントの時代 スチュワードシップ・コードと日本における展開」という講演を拝聴してきました。機関投資家の立場で日本版スチュワードシップコードに対してどのように向き合っておられるのか、私自身も問題意識を抱いておりましたところ、歯切れの良い講演内容に、たいへん理解が深まりました。ちなみに来年2月、機関投資家の方々が集まる「投資家フォーラム」さんが東証ホールにて「模擬『株主との対話』セミナー」(正式なタイトルはわかりません・・・)を開催されるそうです。著名企業数社の方々に参加していただき、株主との目的ある対話というものはどう進めるべきなのか、ロールプレイング方式で学ぶ、というものだそうで、これはおもしろそうです。

本日の講演の中で印象に残ったのが「日本版スチュワードシップの課題」として、日米のガバナンスの在り方の相違というものでした。米国ではCEOの経営に関する支配力が絶大なので、その暴走を防ぐためには社外取締役が過半数を占める取締役会の重要性が説かれます。一方、日本では一部のワンマン経営者は存在するものの、伝統的な上場企業等では、意思決定過程が概してボトムアップであり、外からはどこで意思決定がなされているのかは非常にわかりづらい、ということでした。おもしろいのは、「日本企業では従来、組織内のステークホルダー間の相互チェックに重きを置き、内部者の関心に共鳴させることが重要」とのこと。なるほど、外からは見えづらいですが、日本企業には日本企業なりのガバナンスがあり、組織内の相互チェックということにより、企業価値向上のために管理・運営するための仕組みというものはたしかにありそうですね。

そういえば、本日(12月16日)、王子ホールディングスさんの適時開示によると、役員人事が公表されており、現経営者の方が健康上の理由により代表取締役を辞任され、今後は新しい代表取締役社長、同会長の「ふたりCEO体制」で経営に臨まれることが報じられています。また読売新聞ニュースによれば、「海外事業など、ひとりでCEOをやるのがたいへんなので二人体制にした」とのこと。「ひとりでやるのがたいへんなのでCEOを二人でやることにした」というのが外向けには納得のいく理由かどうかはわかりませんが(笑)、大型合併を繰り返してきた製紙会社の社内力学の結果とみれば、これは日本企業独特のガバナンスかもしれません。たしかに「組織内のステークホルダー間の相互チェック」が機能するはずですし、社員の関心に共鳴するものとして、今後の組織の活性化が期待できるのかもしれません。兄と弟で「ふたり代表取締役社長」という上場会社もありますので、このような体制を敷くことも意外と合理性があるように思えます。

しかし「株主との対話」が求められる昨今のコーポレートガバナンスの議論においては、結構ややこしい話ではないかな・・・と。事業の長期的なコミットメントを持つ者が組織内において誰であるかは、目的ある対話を進めたい機関投資家にとっては明確であることが必要です。この会社の事業戦略が実行されるためには、誰と対話を進めていけばよいのか、ということが外からはわかりにくいと思います。また、アドバイザリーボート型の取締役会からモニタリングボード型の取締役会への移行を目指して導入される独立社外取締役制度においても、いったい誰の業績を評価すればよいのか、とてもわかりづらいのではないでしょうか。CEO2名において、それぞれ責任分担がなされるものであったとしても、それぞれの担当分野が最終的な業績にどの程度の貢献がなされたのか、明確に区別できるものでもないように思います。

私自身は、機関投資家の受託者責任といえども、やはり短期的利益の追求によって結果を残すことこそ機関投資家の重要な業務であると考えていますので、日本版スチュワードシップコードの実効性ついては若干懐疑的ではあります。しかし、(個々の企業への対話力を強めるための)投資家集団の形成努力、アクティブファンドとパッシブファンドとの役割分担等を通じて、企業の長期的利益向上に向けて尽力している機関投資家の姿勢をお聴きして、「市場の番人」としての機関投資家の側面も重視すべきかもしれない、と認識した次第です。そうなりますと、日本企業に独特のガバナンス(社内力学に由来するガバナンス)というものが、どのように外から映るのか、今後の動向が気になってきました。

12月 17, 2014 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年9月 1日 (月)

ガバナンス改革に求められる監督機能の攻めと守り

Ftggrtd8月30日(土曜日)、第7回の日本内部統制研究学会年次大会が法政大学で開催されました。今年の統一論題は「コーポレートガバナンス変革の時代における内部統制の課題」というタイムリーなテーマです。本テーマは、会員構成が学者、実務家、実業界ほぼ3分の1ずつという、まさに当学会にふさわしいものであったようで、写真のように会場も満席となり、たいへんに盛り上がりました。私がモデレータを務めたパネルディスカッションは、ガバナンス変革の話題として、「取締役会の機能」と「株主との対話」を中心に取り上げ、監督、監査それぞれの立場から内部統制の課題について検討する、というものでした。

私個人の感想としては、経営共創基盤の冨山和彦氏の基調講演およびパネルディスカッションでのお話がとても参考になりました。冨山さんの書かれた本などを読むと、社外取締役には経営者OBがふさわしい、ということが書かれており、弁護士や会計士などの専門家は(監査役としてはふさわしいものではあるが)取締役としては、あまり有用性がないのではないか、と考えておられるものと理解していました。しかし、複数の社外取締役の選任が推進されるなかで、社外取締役の多様性ということは、冨山氏自身、否定されていないようでした。

印象的だったのは、冨山さんが、企業活動の生理現象、病理現象という言葉を講演で活用されていたことです。社外取締役が経営評価機能を果たすために、きちんと経営指標等の数字、財務三表の数字の理解は不可欠です。しかし、社外取締役が企業活動の業績をきちんと評価する(評価できる)ためには、経営環境と企業の経営方針にズレがなく、企業内に病理現象を抱えていないことが前提となります。企業が自らの経営によって解決すべき社会的課題が何か、という点を認識するためには、様々な背景を持った社外取締役が経営に参画する必要があり、また病理的現象を抱えているかどうか、という不正リスクを評価することも、社外取締役には求められるものと理解しました。

社外取締役には攻めの機能(経営者の任免権行使によって「儲ける力」を向上させる)と、守りの機能(経営者の業績を評価するための基盤の整備)のいずれもが発揮されてこそ、モニタリングモデルとしての取締役会が充実する、というなのでしょうね。たしかに考えてみると、KPIを活用して業績を評価する土壌が安定していなければ、経営者評価ということも困難になるわけで、いくらガバナンス変革といっても、変革することで企業が変わる土壌がなければ意味がない、ということかと。非常に地道な作業ではありますが、ガバナンス改革によって組織が変わるだけの内部統制がまず構築されていなければならない、という考え方もあるのかな・・・と、思ったりしていました。ただ、攻めにしても守りにしても、会社にとって社外取締役が役に立つまでには「少なくとも3年はかかる」(冨山氏)ようなので、社外取締役といっても、6年くらいの任期は務めたほうが良いのかもしれません。

ただ、日本の取締役会の現状(業務執行取締役が中心であり、社長が監査役に至るまで、絶対的な人事権を押さえている状況)を、どのようにモニタリングモデルの取締役会に変えていけるのか、そのあたりの具体的な道筋は、まだまだ遠いもののように感じます。パネルディスカッションでは、「監査等委員会設置会社への移行に期待する」との声も出ていましたが、私個人の意見としては、モニタリングモデルの取締役会への移行が先ではないかな・・・と思ったりしています。最後になりますが、論客の皆様から多くの質問を受けておりましたが、司会進行の不手際で3問程度しかご紹介(ご回答)できなかったことをお詫び申し上げます<m(__)m>

9月 1, 2014 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2013年10月10日 (木)

旧役員がオブザーバーとして出席する取締役会の功罪

経団連さんが「このたびの不祥事については看過できないものがある」として処分を検討中、と報じられているJR北海道社ですが、10月5日付けの北海道新聞WEBに、少々気になる記事がアップされています。すでに同社の取締役を退任されている元社長・会長のお二人が、退任後も取締役会に毎回オブザーバーとして出席されているとのこと(北海道新聞ニュースはこちら)。毎回、これらの旧役員の方々が取締役会に出席されていることについて、JR北海道側は「特に問題はないと考えている」と回答し、同社としては記者さんが懸念しているような事実上の影響力行使については問題なし、と認識されているようです。

取締役会は必ず取締役・監査役だけで開催しなければならない、というものでもなく、オブザーバーが出席することは珍しいものではありません。業務執行の責任者である社員さんから状況報告を受けることもありますし、ベンチャー企業の大株主のように、事実上影響力を発揮しうる立場の方が毎回出席している、というケースもあると思います。ただ、旧役員が取締役退任後も毎回取締役会に出席する、というのは、旧役員が依然として経営判断の意思決定に影響力を行使して現取締役らの議論の活性化を阻害するという点からみて、あまり好ましいものではない、という意見も出てきそうです(おそらくこの記者さんの問題意識も、そのようなところにあるように思います)。

なにが「好ましいものではない」かと言いますと、旧役員が出席している取締役会では他の取締役がモノが言えない、いつまでも旧役員の意見が通ってしまう、といった弊害を指すもののように推測されるかもしれません。しかし、現実問題として、取締役を退任後に取締役会で意見を述べる旧役員さんなど、創業家OB以外にはあまり聞いたことはありません。現場から離れて久しい旧役員さんが、何も知らずにいろいろと積極的に意見を述べて、現取締役らがモノを言えない状況になるというのは、考えてみると何も決まらない可能性が出てくるわけでして、現役の取締役が萎縮してしまうような影響力まで旧役員が行使するということは想定されにくいのではないでしょうか。むしろJR北海道社が回答しているように(必要に応じて)熟練の経験者に経営の知恵を授かる、ということは特に問題とすべきことでもないように思います。

むしろ懸念されるのは、「決められない取締役会」「監督できない取締役会」の存在です。いろいろと業務担当取締役から審議事項が上程されるのですが、個々の取締役が責任をとりたくないので、取締役会で十分な審議はしない、人の担当業務には口は出さない、しかし旧役員から何も文句が出なかったことをもって「役員会で承諾があった」と事実上擬制する、という事態は想定されます。つまり(影響力を持つ)旧役員の方々から何も意見が出ないことをもって、他の取締役らも安心して決議に賛成する、取締役会で審議をしたという形だけは残して、特定人の責任にはしない、ということです。こういった形で取締役会の運営がなされますと、監督機能を果たすべきモニタリングモデルとしての取締役会は活性化しなくなりますので、こちらのほうがガバナンス上では問題があるのではないかと思います。

特別顧問や相談役という方々は、(以前にも当ブログで書きましたように)、人事面での影響力を行使するといったことで社内力学を支配する立場にあることも多いようです。しかし会社法上の重要な業務執行機関である取締役会の運営に影響力を行使することは望ましいものではありません。私個人の意見としては、JR北海道のガバナンスの健全性を向上させるためには、取締役を退任され、業務執行から退かれた旧役員の方々は、取締役会には出席されないほうが良いと考えるところです。

10月 10, 2013 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年4月 3日 (水)

6月株主総会会社における議決権行使助言会社ポリシーへの憂鬱

日経ニュースによりますと、キヤノンさんが3月28日に開催した定時株主総会の議決権行使結果が公表され、取締役選任議案では同社代表取締役への賛成比率が72%と2012年の総会(91%)に比べて大きく低下したそうであります。他の取締役は9割以上の賛成票を得ていることから、議決権行使助言会社による反対推奨が影響を及ぼしたものと思われます。ご承知のとおり、今年からISSにおける議決権行使ポリシーにおきまして、社外取締役を一人も置かない会社の代表取締役選任議案については、機関投資家に対して反対票を投じることを推奨することになりました(ちなみに同社の外国人持ち株比率は約3割)。

このニュースを知って、すこし意外に思われた方も多いのではないでしょうか。ISSの議決権助言ポリシーが本年度から変更されることは承知していたところではありますが、たしか昨年の12月ころの情報では、議決権を行使する外国人機関投資家の間では、

「ISSは社外取締役導入に熱心ではあるものの、果たしてガバナンス改革が企業価値向上にどの程度反映されるのかは未知数。しかも社外役員にふさわしい人物を短期間のうちに見つけ出すことは困難。社外取締役の導入は、個々の企業の判断を尊重すべきであり、社外取締役がボードに一人もいないことで社長に反対票を投じるのはちょっと抵抗がある」

という意見が大勢、とのことでありました。アナリストの方々の分析でも、ISSの推奨にもかかわらず、社外監査役議案や買収防衛策議案とは異なり、社外取締役を選任しない企業の代表取締役選任議案については、機関投資家が反対票を投じる確率は低いというものだったように理解しております。

ところが最近、どうも大型公的年金基金をはじめ、機関投資家の考え方に変化が生じてきているのではないか、との風の噂が聞こえてきております。その理由としては、①最近の調査で東証一部上場会社の55%がすでに社外取締役を導入していることが判明していること、②会社法改正論議の末、東証が社外取締役たる独立役員の登録をルール化しようとしていること、そして③独立取締役の選任まではむずかしいが、まずは社外取締役を導入することを求める程度であれば(とりあえず候補者を探し出すことは可能だと思われることから)相当の理由があると思われること、といったことのようであります。

先日、当ブログでもご紹介したとおり、トヨタ自動車さんが(独立性は別として)社外取締役を導入した、ということの衝撃も影響しているのではないでしょうか。もちろん、各社外国人持ち株比率は様々でしょうから、上記キャノン社の議決権行使結果の受け止め方も様々かと思います。しかし、最近の株高の状況の中、外国人機関投資家の持株比率が高まっている企業も増えているものと思いますので、そういった企業の総会担当役員、担当者の方々は、今後の機関投資家の動向(議決権行使助言会社の推奨について機械的に処理するのか否か)に留意しておく必要がありそうです。

さて、お知らせでございます。

Bunkyodosinosaka拙著新刊「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える-」がおかげさまで発売日より1週間で増刷が決定されました。どうもありがとうございます。今後はさらにお買い求めやすくなるものと思いますので、どうか多くの方にお読みいただければと。

ちなみに左の写真は本日(4月2日)の文教堂 新大阪駅店の販売状況です。新幹線でお読みいただくにはピッタリ(?)の一冊でございます<m(__)m>。

4月 3, 2013 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年3月 7日 (木)

トヨタ自動車、社外取締役人選の妙味(さすが、というしか・・・)

「第1トヨタ」「第2トヨタ」等の新ユニットの開発もさることながら、トヨタ自動車さん初の社外取締役を導入、とのニュースにとても関心を持ちました(こちらのニュースが詳しいかと)。

トヨタクラスの企業は、(江頭教授が先日のご講演でお話されていたことからの理解ですが)大口の非安定株主からの圧力が常時ありますので、社外取締役の導入にはあまり抵抗はないはずであり、また最近では海外での大規模紛争にも巻き込まれるリスクが高まっているわけですから、「開かれた経営」は普通の政策的判断ではないかと思われます。とくに会社法改正で話題となりました「社外取締役制度導入論(強制導入)」とはあまり関係はないものと思います。もしあるとすれば、売上2000億円以上の規模の企業で一人も社外取締役がいないところへの心理的な圧力くらいでしょうか。

むしろ私が驚きましたのは、その(候補者の)人選であります。概ね、社外取締役採用の意義というのは、①経営陣に対する外部者からの有用な意見、②外部に対する経営の透明性による規律の確保、そして③一般株主の利益保護(一般株主の利益の代弁者)というところに求められるのが通説であります。今回のトヨタ自動車さんの3名の社外取締役候補者の方々は、このそれぞれの趣旨を併せ実現するにふさわしいものになっております(どなたがこのような人選をされたのでしょうか?)←ただし「独立性」については疑問があるとのコメントをいただいております(注)

不肖、私も来週の定時株主総会により、皆様もよくご存じの上場会社の社外取締役に就任する予定でありますが(もちろん株主総会でご承認いただくことが前提でありますが)、社外取締役の導入は企業価値向上のための目的ではなく、あくまでも手段にすぎないということを肝に銘じております。社外取締役が企業のパフォーマンスを上げることのために何ができるかが最大の問題であります。このトヨタ自動車の社外取締役候補者の方々も、どのような形でパフォーマンス向上に参画されていくのか、今後のトヨタのガバナンスモデルを学ぶ上でもたいへん興味がございます。

3月 7, 2013 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2011年10月31日 (月)

大王製紙のガバナンスから日本の企業統治の脆弱性は問えるのか?

もうすでに多くの方がフェイスブックやブログで取り上げておられます大王製紙元会長巨額融資事件に関する特別調査委員会報告書を週末に読みました。

まず、正直に認めなければなりませんが、これまでのエントリーで私が申し上げていたことと、すこし事実関係が違っていたことが判明いたしました。私は「勇気ある内部通報者」として、関連会社の融資担当者の方に焦点をあてておりましたが、実は勇気があったのは関連会社ではなく四国の本社関連事業第1部の担当者の方だったようであります。関連会社の方から「当社から会長個人口座へ3億円を振り込んだ」との連絡を受けたこの本社担当者は、通常の事務連絡ルートを飛び越えて直接社長本人に融資の事実を伝えた、とのこと。もし通常の事務連絡ルートに従って、この情報を伝達していたのであれば、(情報を受領するのは、事情を知悉しておられた元会長の実弟である関連事業部担当取締役ですから)いまもまだ本件は公表されないままだったようであります。情報の滞留は企業に致命的な「二次不祥事」であると、常に講演で申し上げるところでありますが、今回もまさに情報の滞留が問題となっていたようです。

次に、以前こちらのエントリーで疑問を呈しておりましたが、同社では6月の定時株主総会の時点で、18名の取締役のうち7名が退任され、3名の新任取締役とともに合計14名の取締役会が構成されましたが、この大幅な役員構成の変化と本事件との関連性については一切触れられておりません。報告書によれば多くの役員が今年3月以前から事情を知っていたようにも思えますし、今回の事件で元会長側より「これは大王製紙から創業家の支配力を奪うもの」との主張がなされていることも考え併せますと、この役員変更の意味するところ(本事件との関連性)を知りたいところであります(単に役員定年になった方が多かった、ということにすぎないのでしょうか?)。本報告書において、「他の監査役、取締役の責任」に関しましては、わずか2行しか触れられていないことも、このあたりと関連しているのではないかと。

また、特別調査委員会の皆様のご努力にもかかわらず、元会長さんの協力が得られなかったために107億円の融資金の使途は不明のままとなっております。そして本件事件の背景には「創業家に絶対に逆らえない企業風土」にあるとされています。しかし「創業家に逆らえない風土」といいましても、議決権ベースで言えば、創業家が絶対的支配権を有している上場会社は相当数ありますし、すでに監査法人の監査見逃し責任を認めたナナボシ事件判決でも、ナナボシ社の経営者の絶対的支配力を「この企業の重大なリスク」と捉えておりましたので、とくに大王製紙に限っての特徴とまではいえないと思います。むしろ、そのように断定せざるをえなかったのは、大王製紙の大株主である創業家管理会社の実態も、そして大王製紙の100%子会社とは言えない関連会社の「他の株主」の実態もわからないため、重要な点においてヒアリングができない、ということに象徴されているのではないでしょうか。つまりガバナンスの脆弱性もさることながら、第三者委員会が調査機能を発揮しようにも、十分に発揮できなかったことへの歯がゆさがあったのではないかと。

またこのように「絶対的支配者」が存在する企業であるがゆえに、本社の社員からのヒアリングもなかなか困難であったことは想像に難くありません。日弁連ガイドラインを参考にしたとしながらも、委員に同社常務取締役の方が就任された背景には、このことによって社員に安心感を与え、できるだけ真実を語ってもらおう、とする他の委員の苦心が窺われるところであります。また委員に財務会計的知見を有する者がいなかったため、財務担当取締役の力量を必要としたのかもしれません。いずれにしましても、この報告書を通して、本事件は大王製紙に特有のガバナンスの歪みによって発生したのかどうか、他の上場会社でも同様のリスクがガバナンスの脆弱性として顕在化するおそれがあるのか、そのあたりが整理されなければならないと思いました。たとえば特別調査委員会が問題としているような「人事政策は事前に顧問の了承を得なければ正規ルートへ流せないような、二重構造の指揮命令系統があった」という点を改正すれば足りるのか、それとも創業家の支配力が強い企業として、社外取締役を複数導入する必要があるのか、そのあたりの見極めが必要かと。

さて、本報告書を読ませていただき、私個人としての最大の関心事は、すでに大原町農協事件最高裁判決やナナボシ監査見逃し事件判決が出ている現時点において、「監査法人と監査役の責任問題」をどう考えるか、という点であります。本報告書の結論にも賛同できるところと疑問に思うところがございます。このあたりはまた、春日電機事件で有名になりました金商法193条の3の解説や今年10月の日本監査役協会発行「有価証券報告書の監査に関する監査役アンケート集計結果」等を参考にしながら、別途エントリーで述べたいと思います。

10月 31, 2011 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年5月23日 (月)

GC注記とコーポレート・ガバナンス

WSJニュースによりますと、東京電力は20日、2011年3月期通期決算を発表し、純損失は1兆2473億円と、金融機関を除く日本企業では史上最大の赤字、とのことであります(60年ぶりの無配 ニュースはこちら)。福島第1原発事故による巨額の費用が響き、今後賠償責任が総額何兆円にも達するとみられるため、東電は財務の「大幅な悪化」によって、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況にある」とのこと。つまり決算短信にGC注記が付されたことになります。

東電の場合は特殊な事情があるとはいえ、上場企業にとってGC(継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況にあること)の注記を付すことは非常に重いです。決算短信、計算書類の開示(招集通知の発送)、有報開示等、法定監査の差はありますが、いずれの場面でもGC注記の重みは同様であります。なぜならGC注記は会社だけのものではなく、会社と監査人との共同作業による成果物だからであります。

成果物といいますのは、①GCはいきなり付記されるものではなく、注記の必要性について1年ないし2年前からそれとなく監査人との交渉が始まる、②解消のための条件を含め、様々な葛藤が会社と監査人との間で生まれる、③将来事象等、楽観的なムードを漂わそうとする会社側に対して、不確実性を理由にこれを拒む監査人の対応、④注記の理由をぼやかしたい企業側に対して、財務制限条項違反等の正確な理由の記載を求める監査人の対応等、最後まで注記を記載するか否か、また記載するとしても、何を理由として記載すべきか、というところで会社と監査人双方の決着をつけたうえでの公表物だからであります。少し前に、GC注記に関する監査人の判断基準が国際ルールに合致するよう改訂されたそうでありますが、「不確実性」に関する監査基準としては、それほど大きく変わっていないように感じております(財務体質がある程度健全な企業への延命効果はあったとしても、業績が悪化し続けるならば、どこかでかならずGC注記が課題となってくるわけでして)。

新興企業でも、伝統ある企業でも、経営環境が悪くなり業績が悪化した場合には、どうしてもGC注記問題に直面することは避けられないわけでありますが、社内でGC注記を真剣に検討しなければならない時期こそ、ガバナンスの重要性が問われるものと思います。会社の役員の立場からすれば、中期経営計画の実行可能性や金融機関の融資実行の姿勢を含め、将来予測はかならず悪い方向には考えないものであり、自分にとって都合の悪いことは過小評価しかしません。投資家や株主保護の視点よりも、会社の将来リスクを楽観的に考えるのが当然ではないかと。

またいったん、GC注記が付いた場合、その解消によって株価が大幅に上昇する事例をたくさん見ておりますので、企業経営者としては早くGCを解消したいと考えることは当然のところであります。そこでは粉飾への誘惑が強く働き、不都合な事実は(一時的にせよ)全社挙げて隠ぺいすることに躍起となります。恐ろしいのは、組織的に悪意をもって粉飾や事実隠ぺいに手を染めるのではなく、経営陣の楽観的な将来見込みのシナリオと、これに異を唱えることができないモニタリング部門の勇気欠如に起因するものではないかと。

こういったときにこそ、監査役や社外取締役、独立役員はステークホルダーのために冷静に第三者的な観点からGC注記の必要性、その理由の正確性について検討し、経営陣はこれに冷静に耳を傾けるだけの度量があるか等、その企業のガバナンスが問われるものと思います。独立役員や監査役にとっては、監査人の意見に誤解があると思えば、経営陣の意見をわかりやすく代弁すること、監査人の意見を正当と判断すれば、勇気をもってこれを経営陣に伝え、投資家や株主の投資判断に資する形での情報開示に努めるよう促すことが必要であります。

冒頭の原発事故における東電さんの初期対応の公表姿勢が問題となっておりますが、私は「事実を隠ぺいしていた」のではなく、「公表しなければならないほど大きな事態にはならないだろう」といった楽観的な見込みが社内に蔓延していたことが問題だったのではないか、と推測いたします。これは危機に直面した企業であれば、どこも同様のリスクがあると思います。人間誰しも、目の前の現実から逃避したいわけでありますが、「不都合な真実」を事実と受け止め、これを前提に説明責任を果たすこと、これは良質なコーポレート・ガバナンスの試金石ではないか、と最近特に感じております。

PS 朝鮮日報ニュースによりますと、日本よりも一足早くIFRSを適用した韓国で、上場企業の決算開示に相当の混乱がみられるようであります。GC注記にみられるような課題が、今後は日本の多くの上場企業でも問題となってくるのではないでしょうか。

5月 23, 2011 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (5) | トラックバック (1)

2010年9月21日 (火)

投資運用会社の議決権行使ガイドラインにみる独立役員への期待

(21日午後 訂正あります)

本年1月12日のエントリー「投資運用会社による議決権行使状況の開示義務付け」でも少しご紹介しましたが、今年5月、6月の上場会社定時株主総会において、投資運用会社と信託銀行などの機関投資家がどのように議決権を行使したのか、その結果がそろそろ開示されているようでして、上記機関投資家は会社提案議案の約15%について反対票を投じたことが報じられております。(日経新聞9月17日朝刊記事より。なお、当ブログでは上記1月のエントリー以外にも、こちらの関連エントリーがございます)

大手の投資運用会社や信託銀行さんのHPでも、個別に結果が開示されておりますし、投資信託協会では全体の傾向等が公表されております。昨年の状況は会社提案に対する反対票は約10%、とのことですから、数字の上ではずいぶんと反対票の比率が増えていることがわかります。「運用会社の受託者責任」としての議決権行使の意識が高まったことや、役員への退職慰労金支給議案について、業績や株価が低迷している企業への反対票の増加あたりが原因ではないかと思われます。個人的な感想で申し上げますと、取締役・監査役の選任議案に対する反対票の比率が高いことをどのように分析するのか、という点に興味がございます。(反対比率は15%~22%程度。ただし一部反対を含みます。)役員選任議案との関係だけで申し上げますと、法律や証券取引所ルールによって、上場会社に一律に社外取締役選任を義務付けることへの抵抗が強い現状では、投資家による投票行動が当該会社のガバナンス改正への動機付けとなることが期待されるのでありまして、果たして「動機付け」となりうるような投票行動がみられたのかどうか、という点に関心が寄せられるのではないかと。

どうしてこんなに役員選任議案について反対票が多いのだろうか・・・と、投資運用会社のHPで各会社の議決権行使ガイドラインを眺めてみますと、とくに詳細なガイドラインを定めている会社は少ないようです。ただ、私がみた限り、そのなかで三井住友アセットマネジメントさんと、大和住銀投信投資顧問さんのガイドラインは結構詳細に規定されているように感じられます。とくに大和住銀投信投資顧問さんはこの8月13日にガイドラインを最終改訂されたようで、これがなかなか議決権行使基準が明確になっていてオモシロイ。

まず(既に、もしくは同時に?)独立取締役が選任されていない場合には、(独立性のある社外監査役が選任されていないことを条件として)取締役選任議案に反対票を投じる、といった要件が規定されております。つまりオーナー一族がある程度の株式を保有しているような上場会社の場合とか、買収防衛策が既に導入されている場合、剰余金処分権限が取締役会に授権されている場合など、独立取締役による監督権限が不可欠と思われる上場会社の場合と、それ以外とで反対票を投じる要件が異なるものとされております。このあたりは議論もあろうかと思いますが、これからのソフトローによるガバナンス規制の在り方として参考になるのではないでしょうか。

また、たとえば社外取締役や社外監査役の選任候補者の「独立性」については、顧問弁護士だけでなく、顧問契約を締結している法律事務所の他の弁護士もダメ、以前当該事務所に所属していた弁護士もダメ、監査契約を締結している監査法人の関係者(以前関係者だった者も含む)ダメ、とかなり明確に判断基準を示しておられます。社外監査役の出席状況なども、3分の2以下の出席率の監査役の再任については原則として反対票が投じられるとのこと。また、「企業不祥事判断基準」というものがあって、監査役在任中に当該不祥事判断基準に該当するような場合には、原則として当該監査役の再任には反対票が投じられる、とのことであります。定款変更議案については、けっこう反対票が投じられる比率が高いことが上記記事でも報じられておりますが、なぜ反対されるのか、という点も、このガイドラインを読みますと「なるほど」と頷くところであります。会社と会計監査人がケンカして、新たな会計監査人が選任される場合の基準・・・などもあって、ホント興味深いですね。

この大和住銀投信投資顧問さんの議決権行使ガイドラインを拝見いたしますと、原則反対だけど、合理的な説明があればOKという基本スタンスに気付きます。買収防衛策にしても、ガバナンスの在り方にしても、社外監査役の取締役会出席率にしても、明確な基準を示したうえで、そこからの逸脱を会社側が(株主価値を高めるために)説明責任を尽くした場合にはこれに賛同する、というスタンスのようです。会社側としても、こういった明確な判断基準があれば、説明責任を尽くすうえでも有用ではないでしょうか。会社側の経営判断を尊重しつつも、株主総会開催日が集中していたり、プラットフォーム参加企業が伸び悩んだり、開示資料の定型化が進んでいない現状での分析能力の限界(ヒアリング時間の限界?)を考慮しての姿勢ではないかと思われます。いずれにしましても、単なる開示だけの問題ではなく、「株主との対話」に積極的でない企業はけっこうしんどいかもしれませんね。

社外取締役導入制度化の議論がなかなか進まない要因のひとつとして「社外取締役に期待される役割は何か」という点に関する意見の一致が見られない、という点が挙げられます。そういった意味では、先日ご紹介した東証さんの「独立役員セミナー」などは意見の合意を形成する契機になるでしょうし、またこういった投資運用会社による議決権行使ガイドライン等によって、社外役員に期待される役割が浮かび上がってくることは、これからの議論の進展にも大いに役立つのではないかと思う次第であります。

PS

関係者の方より、ご指摘を受けまして、一部訂正をしております(赤字部分)。たいへん失礼いたしました。

9月 21, 2010 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2010年8月10日 (火)

HP(ヒューレット・パッカード)CEO辞任にみる米国企業統治の本気度

新聞やニュースでは大きくとりあげられておりますが、意外とブログでは採り上げられていないのが米国HP(ヒューレット・パッカード)社CEO(最高経営責任者)のセクハラ疑惑による辞任問題であります。私は最初、日本の新聞系のニュースを読んだ限りでは、セクハラ被害者とされる元契約社員の方が内部通報を行い、通報を受理した外部窓口の法律事務所が調査を行ったものと思っておりました。しかしブルームバーグ、ウォールストリートジャーナル、CNN、ロイターあたりのニュース(日本版)をきちんと読みますと、どうもそうではないみたいです。

実際は今年6月29日に、この元契約社員の女性が「セクハラ被害」に関する手紙をHP社の取締役会に提出し、問題を知った取締役会が、HP社の法律顧問に調査を依頼。外部の調査委員会が立ち上げられたそうで、その調査に基づく結論としては(これは当法律顧問の方の会見記事からですが)、申告のあったセクハラの事実は認められなかった、しかしCEOは約2年にわたって、この元契約社員と親密な関係を続けていた、今回の調査において、この親密な関係の内容についてCEOは証言を拒否し、また取締役会にも報告をしなかった、CEOは(日本円にして)約170万円の経費について、女性との関係を隠匿するために虚偽の経費請求を行った、HP社としては、不正請求した金額の大きさを問題としているのではなく、HP社CEOとしての清廉性、誠実性、信頼性に問題であると考え、取締役会としては全員一致でCEOの辞任勧告を決定した、とのことであります。

その後、取締役会とCEOは何度も協議を重ね、結局CEOは退職金10億円とHP社の相当額の株式をもらってHP社のCEOを辞任することが決まったとのこと。調査結果については、ご承知のとおりセクハラの事実は認められなかったものの、CEOには元契約社員との関係に絡む経費の不正請求が認められ、これはHP社のビジネス行動規範に違反するものだ、との公式な発表がなされております。なお、8月9日、この元契約社員の方が弁護士を通じて会見を開き「私は彼(CEO)を辞任に追い込むつもりなど、まったくなかった。とても残念。私と彼との間では、すでに問題は解決済み」とのコメントを述べておられます(この元契約社員の方も、けっこう著名な方だったんですね)。昨日のニュースを読んだとき、元契約社員の方は、今後HP社を相手に莫大な金額の損害賠償請求訴訟を提起するのではないか、と予想しておりましたが、この会見内容からしますと、HP社が訴訟に巻き込まれるリスクはほとんどないようです。

私はこの一連のニュースを読んで、やはり企業統治(コーポレート・ガバナンス)の本場アメリカは違うなぁと素直に実感をいたしました。(注)経営トップのセクハラ疑惑について、被害者本人からの書簡が取締役会に届き、直ちに社外に法律家を中心とした調査委員会を設置して調査を開始する、たとえセクハラの事実が認定できなくても、ビジネス行動規範違反の事実をつきとめて、たとえ社運を背負った有能なCEOに対してですら、辞任勧告を全員一致で決定してしまうということで、まず取締役会のCEOに対する姿勢に驚きます。独立社外取締役の使命は、経営に対するアドバイザーではなく、有事にクビにすることである・・・ということが、日本でも最近やっと真剣に言われるようになってきましたが、こういったことが米国ではあたりまえのように行われるということを見せつけるような事態であります。

注・・・なお、hp社は以前から取締役会がゴタゴタするので有名であるため、この事件をもって「米国の取締役会は」と一般化できるか疑問、との意見もあります。

また、もうひとつ驚いたのが、HP社の社風を守るためには、たとえ有能な経営者であろうとも、その解任はやむをえないということが取締役会の「あたりまえの常識」だということであります。元契約社員の方の記者会見の発言から、噂レベルではありますが「この取締役会の判断は断固たるものだったのか、それとも早計に過ぎた失策だったのか」議論になっているそうでありますが、これだけ有事の判断に「社風」が尊重される・・・ということは日本ではあまり考えられないところではないでしょうか。もちろん教科書的には、企業風土は守られるべきだと言えそうですが、これを地で行くのは本場アメリカの企業だからこそ、と思うのでありますが。

さて、もし日本の会社で同じようなことが発生した場合はどうでしょうか。たとえば経営トップが女性秘書と親密な関係となり、その後不仲となって、この経営トップが未練たらしく追いかけまわし、最後にセクハラ騒動となる。そして秘書からは監査役のところへ内部通報が届くようなケースであります。監査役はこれを真正面から受け止めて、有能な経営トップを糾弾することができるでしょうか(日本の場合、取締役会構成員の過半数が独立社外取締役・・・というところはほとんどありませんので、いちおう監査役さんの有事として考えます)。ここで監査役さんが動かなければ、女性秘書の方はマスコミなど社外に対して内部告発を行う可能性や、会社に対してセクハラ損害賠償請求訴訟を提起する可能性がありますので、いちおう調査を開始することはあるでしょうけれど、社長の辞任勧告・・・というところまではいかないのではないでしょうか。それは、そもそも監査役と経営トップとの関係が、米国の独立社外取締役とCEOのような関係にはないことと、やはりそこまでして「社風」を維持しようとする役員が日本にはあまりいないのではないか、と思えるからであります(もちろん、そういった社風を一番に考える企業もあろうかとは思いますが、それでもそういった企業はごく一部だと思います)。あっそうそう、当ブログを長年ご覧の方はご記憶されていらっしゃるかもしれませんが、2006年に東証一部のT誘電さんの経営トップが「温泉コンパニオン宴会」の費用100万円(ただし、8回の合計額)を社外監査役2名から役員会で追及され、辞任されたことはありましたので、まったく皆無とは申しませんが・・・・・・。

経営トップを交代させる社外取締役の力、経営トップでさえ辞任に追い込むほどの社風の力・・・、本場アメリカのコーポレート・ガバナンスの「本気度」をまざまざと見せつけられるような事件であります。本当に続報が気になるところであります。

8月 10, 2010 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (18) | トラックバック (0)

2009年5月11日 (月)

FSA・機関投資家に議決権行使状況の公表要請へ

「日本郵船社のFSCP(財務決算プロセス)に重要な欠陥は認められるか?」のエントリーは、まだまだ盛り上がっておりますが、k-soxさんが、(私的には)かなり核心をついたコメントを出されたように思いますが、皆様はどのように感じられたでしょうか?結局のところ、この内部統制報告制度の評価・監査手続きというものも、こういった財務上の問題が発生した企業におきましては、そこに「人間と人間の生々しい腹を割った話し合い」の世界が存在するのでありまして、「経営者評価の基準をもって」無機質に有効性が判断できるようなものではない、ということが改めて認識できるのではないでしょうか。そういった「経営者と監査人との腹を割った話し合い」の余地を少しずつ広げてきたのが金融庁の追加Q&Aの姿であり、hisaemonさんがコメントで述べておられるように、そういった話し合いが今後の各企業における財務報告の信頼性向上につながることが肝要だと思います。(もちろん、それが費用対効果という点からみて十分なものかどうかは、また別問題として残るわけでありますが)いずれにしましても、k-soxさんと同様、私も日本郵船さんの内部統制報告書がどのように提出されるのか、楽しみにしている一人であります。また、株主総会でもし、この内部統制の評価結果や、監査人監査、監査役監査の結果説明が求められた場合、役員の方々はどのように回答されるのか、(日本監査役協会の有識者懇談会報告書でも記載されているように、インサイダー取引規制とも関わる問題がありますので)これも関心のあるところです。

さて、5月9日の日経朝刊に、金融庁が機関投資家(信託銀行や投資信託会社等)に対して、投資先上場企業の経営監視を強化するように求める方針を固めた、との記事が掲載されております。機関投資家がどのように議決権を行使したのか、その結果を公表するといった情報開示ルールを創設する、というものだそうですが、実際に検討されているのは、①議決権行使ルールの作成、②同ルールの公表、③議決権の行使結果と賛否の公表、といった制度導入の是非のようであります。この「市場による規律の向上」に関する論点につきましては、金融庁スタディグループ第19回議事録をお読みになりますと、賛否を考えるうえでの各メンバーの方々のご意見が参考になります。

このスタディグループ(新聞報道では金融庁作業部会とあります)の議論のなかで、今回の金融庁方針について、もっとも影響を与えているのが東大のI教授のご意見ではないかと思われます。(ちょうど議事録の3分の2あたりに掲載されております)ガバナンス制度の改善に関して、いま社外取締役制度の導入その他(監査役制度の改正など)が議論されているが、会社運営機構上の制度をいくらいじくっても、結局企業ガバナンスというのは根本のところでは改善しないところがあり、やはり株主がきちんと経営者を評価し、そして監督するということが実現しないかぎり、ガバナンスは根本的にはよくなっていかないのではないか、したがって株主とりわけ機関投資家がきちんと会社の経営をみて、議決権投資等を通じて影響力を行使していくことが究極的なガバナンスの改善につながっていくのではないか、というご意見であります。また、実際には機関投資家が議決権行使を外部委託しているところが大半であるならば、「年金の受益者に対する受託者としての義務として」きちんと外部運用先機関の議決権行使を含めた「株主としての権利行使をしているかについて」きちんと見張っていく必要があるのではないか、との見解を述べておられます。

このご意見に対しては、上記議事において各メンバーより賛否両論が出されておりますが、日経解説記事でも書かれているとおり、最終的にはどこまでの市場による規律の向上策が盛り込まれるか、ということであります。はたして議決権行使結果と賛否の公表要請というところまで、業界団体に自主ルールの作成を求めることになるのかどうか、議決権行使ルールの公表までに留まり、議決権行使結果の公表は各機関投資家の自主判断に委ねる・・・というところに落ち着くのかどうか、といったあたりが今後の焦点になりそうです。また、たとえ議決権行使結果の公表ということを要請するとしても、「努力目標」として掲げ、画一的にルールを適用することよりも、むしろ個別上場企業と機関投資家との対話を重視することで柔軟に運用する、という方向性も考えられるのかもしれません。スタディグループの報告書が6月頃にとりまとめられる予定とのことで、どのような内容が盛り込まれることになるのか興味深いところであります。

5月 11, 2009 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年3月 9日 (月)

コーポレートガバナンス論議の行方(コンプライ・オア・エクスプレイン)

土曜日は朝から社外取締役ネットワーク(関西地区法務講座)に出席しておりましたが、ちょうど昨今のコーポレート・ガバナンス改正論議の話題が出ておりました。現在の経済産業省「企業統治研究会」に近い方のお話などもお聞きしまして、私も2月23日のエントリーで書かせていただいたような今後の収束方向などについて意見を述べさせていただきましたが、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(遵守せよ、さもなくば説明せよ)というのも、(我が国における制度として)そんなに簡単に適用されるものでもなさそうであります。

たとえば証券取引所の企業行動規範において社外取締役の導入を原則義務化する、独立性の要件を強化する、その開示事項を示し、もし導入しない(独立性の要件を遵守しない)といった場合には、なぜ原則的な行動に従わないのかを開示事項として説明する、といったあたりが現在の議論の妥協点ではないか、といった素人的予想を抱いているところでありますが、実際にアングロサクソン系の法体系のなかで妥当している「コンプライ・オア・エクスプレイン」とは、その適用すべき土壌が違い過ぎる、といった説明を受けました。

英国のシティあたりの実務感覚からすると、そもそも自主ルールを遵守する、ということへの感覚が日本とは大きな違いがあり、もし遵守しないということを選択する場合には「村八分」に合うことを覚悟する必要があるとのこと。公権力を補完するための自主ルールということよりも、むしろアングロサクソン系では公権力の介入を極力排除するための自主ルールであるから、参加者には自主ルールの順守が厳格に求められるのであって、よって遵守しない場合の説明責任というものも、おそらく日本人が考えている以上に厳しいものだそうであります。「社外取締役としてふさわしい人材を見つけられなかったから」とか「候補者との間で報酬面での折り合いがつかないから」または「当社の場合、監査役制度によって社外取締役導入の趣旨を実現することができるから」といった説明では到底(原則遵守に代わる)説明責任を尽くしているとは言えないだろう、といったお話でありました。(なるほど・・・・、ひょっとすると、こういった自主ルールによる規制の在り方につきまして、各委員会等でも議論されるのかもしれませんね)

3月 9, 2009 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2008年12月 2日 (火)

情報開示と日本のコーポレート・ガバナンスの行方

経済産業省の「企業統治研究会」が12月2日、第1回会合を開催したとのことで、金融庁や法務省も参画されているようであります。(日経ニュース)このニュースは11月28日の朝日新聞朝刊でも報じられていたところであります。主に上場企業における社外取締役の設置義務化および社外役員(社外監査役、社外取締役)の要件厳格化に関する検討がなされるように報じられています。いっぽう、12月1日には「有識者の会」も開催されたようで、そこでは金商法と会社法の「隙間」、つまり監査人(監査法人等)の選任権、報酬決定権に関する議論が活発に交わされた、とのこと。どちらの会合においても、経済団体の方々の意見がどのように反映されるのか、今後注目されるところだと思います。

今後のコーポレート・ガバナンスの行方につきましては、最新号の「旬刊商事法務」(1849号 「金融商品取引法と会社法の交錯~上場会社法制~)や、(これはちょっと入手しづらいでしょうが)日本取締役協会「ボートルーム・レビュー」の11月号に収録された「企業価値研究会報告書の意味するもの」(神田教授の7月28日付け特別講演)などを読みますと、おぼろげながら見えてくるようであります。日本の資本市場の浮沈問題とガバナンス論とが、これまでにないほど接近していることが感じられます。

経済・金融・経営評論家でいらっしゃる金児昭氏が経営書のなかでよく述べておられるように、 「法律専門家に経営判断を任せることはできない。法律専門家はあくまでも困ったときの指南役であって、リスクを負うような経営判断の経験のない人たちに任せることはできない」というご指摘は重要だと思っております。いまガバナンスが論じられているのは、コンプライアンス経営(不祥事防止)の大切さ・・・ということも含まれている部分もあるかとは思いますが、原則は「情報開示」、いわば国際ルールとの整合性であり、競争力の向上を念頭に置いてのことだと理解をしております。たとえば(日本独特の)子会社上場の場合における「親会社との利益相反問題」をどのように説明するかとか、(これまた日本独特の)監査役による会計監査を含めた独立性の確保をどう説明するかとか、(開示された情報が信頼されるに足りるだけの)プリンシプル・ベースによる規制や手続規制による規制手法が理解できるような能力を持つ人材の育成(ある一定レベルの理解能力がなければ、プリンシプルベースによる規制も、またデュープロセスによる規制も市場の健全性向上のためには役に立たないのではないか?)・・・・・といったところが主眼ではないでしょうか。これらのことは「法律」で一律に割り切れるような問題ではないように感じますし、(考え方はいろいろとあるにせよ)これらの問題点を共有していかなければ、経済団体の方々との意見の一致をみることはなかなか難しいのではないか・・・と考えております。(本日はココログのメンテナンスのため、急いで走り書きをしました。舌足らずのエントリーで恐縮です)

12月 2, 2008 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年3月 5日 (月)

コーポレート・ガバナンスと株主の評価基準

毎月第一土曜日は全国社外取締役ネットワークの関西地区勉強会が開催されまして、その帰りに堺筋本町の紀伊国屋書店に立ち寄ってみましたら、ずいぶんと株主総会関連の法律書が増えておりました。本格的な会社法施行後の総会は本年度からということもあるでしょうから、例年以上に雑誌、書籍では総会対策モノが売れ筋になるのでしょうね。(もうそんな時期なんですね。)

ということで、そろそろ機関投資家の方々が、今年はどのような議決権行使に関する基準をリリースするのか、といったところも気になるところでありますが、「コーポレート・ガバナンスの評価に基づいた投資のすすめ(銘柄選択の新潮流)」なる本(2006年 東洋経済新報社)の著者でいらっしゃるアレクサンダー・フラッチャー氏が3月10日号の旬刊経理情報にて、「企業統治リスクをどう見抜くか」といった、たいへん興味深い文章を書いておられます。この論稿では、昨今のいろいろな企業不祥事をとりあげて、コーポレート・ガバナンスのあり方と不祥事発生の可能性とを関連つけることで、企業評価基準として「守りのガバナンス評価」を展開されておられます。この論稿を読ませていただいた後に、先の「投資のすすめ」の書物を読みますと、なるほど、最近の代表的な不祥事を起こした企業のボードを分析されて、それを投資評価の基準として検討されるようです。(ちなみに、少し観点は異なりますが、この本では「長期保有している株主に対して、議決権上で有利な扱いを認める企業については、株主平等原則に反するものとして、断固反対する」とありますので、以前このブログでちょっと話題として取り上げさせていただいた同和鉱業さんの株主優遇策とかは、さてどうなんでしょうか・・・)

そもそもコーポレート・ガバナンスを投資評価基準として用いる、といいますのは、私の理解では「攻めのガバナンス評価」つまり、企業パフォーマンスの向上のためには、どういったガバナンスが最適か、といったアプローチで研究されているのが世界の潮流ではないかと思っておりましたので、かなり斬新なイメージを抱きました。たとえば、ときどき引用させていただいている「コーポレート・ガバナンスにおける商法の役割」(2005年 中央経済社)でも、最近は全世界において、ガバナンスのあり方と企業パフォーマンスの関係が議論されていると書かれてありますし、また最近出版されました「企業統治の多様化と展望」(2007年 金融財政事情研究会)におきましても、日本型取締役会の多元的進化とパフォーマンス効果について、ニッセイ基礎研究所の方等が研究成果を発表しておられますし、こういった評価基準に基づいてガバナンス投資を考えるのが通常ではないかと思っておりました。

たしかに、以前からコーポレート・ガバナンスを議論する目的は、(企業パフォーマンスとの関連性以上に)企業不祥事の防止(コンプライアンス経営の実現)と言われておりましたが、直接の目的が「企業不祥事防止」というのではなくて、いわゆる株主の利益を無視して(利益相反取引などによって)経営者が暴走することを止める仕組みを考えるのが一次的であり、その副次的な効果として「不祥事も防げる」といった関係で捉えるのが正確ではないかと思います。ただ、そう考えましても、具体的にどういったガバナンス体制を構築すれば企業不祥事を防止できるのか、といった観点から、果たして投資評価のモノサシにできるような定型的な解が出てくるのでしょうか?そもそも企業統治のあり方と企業パフォーマンスとの関係についての実証的研究というのも稀少なところかとは思うのですが、企業統治のあり方と不祥事発生の危険性との関係といったところは、ほぼ実証的な検討は困難な気もしますね。「何年何月から、この企業はこういった組織を構築した。そして何年ころからこういった競争力の向上があった」といった前提条件ならば、そういった企業がいくつか判明することによって、企業パフォーマンスとガバナンスの関係も(うすうすながら)推定できると思いますが、「企業不祥事は発生した。そして報道によって信用が既存され、株価が下がった」「この企業はこういった組織形態であり、ボードメンバーもこういった関係にある」ということから、「よって、こういった組織形態で、こういった人間関係にある企業は投資価値が低い」という結論に至るのはどうも短絡的に過ぎるような気もいたします。また、機関投資家や議決権行使支援会社より、おもしろい判断基準が発表されるかもしれませんし、今後何か興味深い基準が見当たりましたら続編をアップするつもりであります。

3月 5, 2007 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 | | コメント (2) | トラックバック (0)