2017年5月30日 (火)

企業買収の成否はコーポレート・ガバナンスに依拠する(大杉論文を読んで)

東証ジャスダックのソレキア社をめぐって、上場会社オーナーのS氏と、富士通がTOBバトルを繰り広げておりましたが、すでにご承知のとおりTOB価格の引き上げ合戦、TOB期間の引き延ばし合戦の末、富士通が「これ以上の買収価格は無理・・・」としてソレキア社の100%子会社化を断念しました。マスコミでは「S氏の勝利!」と報じられておりますが、むしろ富士通の勇気ある撤退として、今後のM&A時における取締役の善管注意義務を考える上でも参考になる事象になったのではないかと思われます。

ところで、2007年の商事法務論文「監査役制度改造論」ご執筆以来、大杉謙一教授(中央大学)のご論稿はいつも楽しみにしておりますが、法律時報最新号(2017年6月号)に「法律時評-東芝問題を考える」なる同氏のご論稿が掲載されましたので、すぐに拝読いたしました。もちろん紙幅の関係上、東芝問題すべてに教授が触れているわけではございません。むしろ、論稿のターゲットが散漫にならないように、東芝事件の概要⇒東芝のガバナンスの問題点⇒M&Aの成否⇒まとめ、といった流れで構成されています。毎度ながらたいへん勉強になりますが、印象に残った点をひとつだけ書かせていただきます。

大杉教授がなぜ、上記のような流れでご論稿をお書きになったのか、単に関心テーマがガバナンスとM&Aだったのか。私だったら、東芝の会計不正問題を取り上げて、単純に「ガバナンスは形式ではなく、やはり実質だ」といった締めくくり方で終わっていたかもしれません。しかしガバナンスのお話が、東芝のM&Aのお話と「つながっている」のです。国内・海外を問わず、M&Aを成功させることはむずかしいが、なぜむずかしいのか、それは買収価格を決定するだけでなく、買収後のPMI(買収後の統合計画とその実行)こそむずかしいからである、と述べておられます(ここは本日の日経法務面でも同様の特集記事が掲載されていましたね)。

つまり、M&Aの成否を握るのは、価格決定もさることながら、PMIに従って、買収後のPDCAがきちんと回せるかという点が重要である、だからこそM&Aの成否は買収企業のガバナンスに大きく依存しているのだ、というご主張が示されています。これまでの「ガバナンスとM&A」の議論といえば(私が単純だからそうなるのかもしれませんが・・・)社外取締役がモニタリングの役割を果たして、買収対象企業の選定や買収価格をどう決めるか・・・という点が中心です。しかし、大杉論文では「撤退条件を含めて、長期間にわたる買収プロセスを、どのようにチェックしていくか」という点にガバナンスの役割を期待しています。

したがって、大杉教授は「PMIがしっかりとしている買収であれば、価格競争になったときに、高値掴みになりそうになれば買収合戦から撤退することも必要、とのこと。なるほど、つまりソレキア社の買収合戦においては、情緒的にはなんとかホワイトナイトとして貢献したい、といった富士通の意図はあったとしても、PMIがしっかりとしていたからこそ撤退ができた、ある意味では富士通のガバナンスの勝利であり、言い換えれば「勇気ある撤退」ではなく、富士通のガバナンスに起因する「当然の撤退」なのかもしれません。

もちろん、これまで述べたところは私なりの大杉論文の読み方にすぎないので、大杉教授の真意とは異なる可能性があります(ぜひ、ご興味のある方は法律時報をお読みください)。ただ、ガバナンスとM&Aの成否を関連させて、しかもPMIとの関係でガバナンスを考察するという視点は、私にとってとても新鮮であり、考えていて楽しいものでした。PDCAがしっかりできる会社、自信のある会社は、「多少のリスクがあっても早く意思決定できる」わけでして、そういった意味でも最近のガバナンスの議論にもピッタリのお話ではないかと思いました。

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2010年12月22日 (水)

ディスクロージャー制度の中での監査役監査基準改正

2010年の上場企業の定時株主総会におきまして、社外監査役の選任議案に40%以上の反対票が投じられた会社が5社以上あったそうで、監査役の外観的独立性に対して一般株主の厳しい目が向けられております。最近のガバナンス改革は、独立社外取締役導入論に注目が集まりがちでありますが、ガバナンス改革推進派の方々が、かならずしも「社外取締役導入論者」ではなく、社外取締役導入には否定的だが、その分監査役制度改革(強化)を主張される方々もいらっしゃいます。ただ、いずれの立場にも共通するのが、海外の投資家にも理解しやすいコーポレート・ガバナンス改革を目指す点にあろうかと思われます(だからこそ、法制審の議論のなかでも、監査役の代表取締役解任権の付与、といったことが検討課題に挙げられております)。本来、監査役は会社法上の機関であり、金商法(上場会社のディスクロージャー)との関係性は薄いものであります。しかし、監査役制度の運用面や外観的独立性が課題とされ、法規制とは異なる「ベストプラクティス」としての行為規範が示されることで、ディスクロージャー制度のなかの監査役監査が位置づけられるようになってきたものと理解できます。

先日(12月13日)、日本監査役協会のHPにおいて、監査役監査基準ならびに内部統制システム監査実施基準の改正案が公表され、意見募集がなされておりますが、監査役監査のベストプラクティスとして提示されている改正案を読みますと、金融商品取引法や取引所の上場規則に影響を強く受けたものとしての、ディスクロージャー制度の中での監査役の姿が模索されているような印象を受けました。独立役員としての社外監査役、第三者割当増資における監査役の意見表明、有事における第三者委員会との関係(私個人としましては、これは少し異論がございますが・・・)など、その典型的な例でありますが、その他にも、内部統制に関する議論の進化とともに、監査役が内部統制の整備面だけでなく、その運用面のチェックについても積極的な役割を果たすような動機づけがなされているところが特徴的であります。財務報告内部統制につきましても、昨今のJ-SOXの簡素化、明確化(改正案)の流れのなかで、(財務報告の信頼性確保に向けての)監査役監査への依存度が高まることとの整合性が図られているのではないかと思われます。

しかし現実問題としまして、監査役監査がいかに運用されているか?といったことはなかなか外見からは容易に把握できないものであります。本日、メディア・リンクス事件の渦中にいらっしゃった方々のお話を拝聴する機会がございました。高橋篤史さんの著書「粉飾の論理」などを読むかぎりでは、メディア社の架空循環取引による粉飾を見抜けなかった監査法人も監査役も、さっさと辞任をして逃げてしまった・・・といった印象を持っておりましたが、実際に関係者の方々のお話を聞いておりますと、決して彼らは逃げていたわけではなかったようであります。とくに公認会計士資格をお持ちだった女性の監査役の方は、経営陣の不正行為を発見した際、旧商法260条の3に基づいて、取締役の法令違反行為があるものとして、取締役会の招集を求めようとされていました。その結果、経営陣と監査役との対立が激化して、多くの迫害を受け、やむなく辞任に至った・・・というのが真相のようであります。しかし、監査役制度がいかに運用されているのか・・・といったことは、そもそも監査業務を開示したり、株主に直接説明する機会がないために、ほとんど表に出てくることはないと思われます。メディア・リンクス事件の当時、監査役が適時開示として意見を表明したり、独立役員として期待される役割を積極的に果たしたり、金商法193条の3による不正行為届出を監査法人から受理する立場にあったとすれば、メディア・リンクス事件も、少し違った展開になっていたのかもしれません。

単に外観的独立性を確保するだけでなく、監査役制度がどのように個々の企業で運用されているのか、その運用状況がわかりやすく第三者にも理解できるようになることが、今後の監査役制度にとって必要になると考えております。監査役の権限を強化したり、法的責任が認められやすくすることではなく、運用のガイドラインを「ベストプラクティス」として示したうえで、これをソフトローとして活用することが、いま最も必要な改革なのかもしれません。(なお、監査役監査基準改正案は、一読したにすぎませんので、まだ理解不足な点もございます。今後また折に触れて、監査基準をご紹介したいと思っております)。

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2010年1月21日 (木)

第三者割当増資に対する監査役「有利発行適法性意見」制度

本日(1月20日)は、日本監査役協会九州支部でセミナーの講師を務めさせていただきました。九州支部設立1周年(オバマ大統領の就任式の日に設立されたとのこと)という日に講演をさせていただき、たいへん光栄でした。

そういえば今週の月曜日(18日)の日経朝刊(法務インサイド)で第三者割当増資の規制強化に関する特集記事が掲載されておりまして、監査役の一言で新株予約権の(価格の公正性に関する)第三者評価書面を取締役会でとりつけなければならなくなった上場会社のお話で出ておりました。レックスHD事件では、会社の情報開示に関する監査役の責任が追及されておりますし、ライブドア一般投資家訴訟では、開示規制違反の民事賠償責任が監査役に認められる事態にもなっておりますので、監査役が企業の情報開示の在り方に口を出す時代になったのも、首肯しうるところであります。(アーバンコーポレーションの問題でも監査役さんは株主から訴訟を提起されているのですね・・・)

新聞記事では上場会社法制に精通されているお二人の法律家の方々が「監査役も株主から責任を問われる可能性がある」と指摘しておられるとおり、このたびの第三者割当増資に関する監査役の有利発行適法性意見制度のインパクトもまた、こういった監査役の積極的な対応に拍車をかけるものであります。証券取引所ルールに続いて、金融庁の開示府令の改正(2月1日施行)により、監査役が第三者割当の際に、その適法性に関する意見を表明する機会が増えることが予想されます。新株発行ということでしたら、まだなんとなく適法性に関する意見も出しやすいように思われますが、「有利発行の条件や価格が問題となる新株予約権の発行」ということになりますと、あまり裁判例もなく、またプレミアム価格算定の根拠にもなじみがない、ということで、はたして(金融工学について素人である)監査役さんに、このような公正な価格を算定する職責を負わせることが妥当なのかどうか、といった疑問もわいてこようかと思われます。

第三者割当増資と監査役の役割につきましては、例の有識者懇談会報告書を受けて、日本監査役協会が検討チームを設立し、鋭意とりまとめを行っておられるものとお聞きしておりますが、今回の証券取引所ルール改訂や開示府令の改正を踏まえて、監査役協会内の法規委員会の協力を得ながら、近々このあたりの指針をとりまとめられるようであります。ここで実際に、監査役として有利発行適法性意見の出し方に関するガイドラインのようなものが作成されるものと思いますが、おそらく監査役にプロの評価算定技術のようなものが求められることになるのではなく、取締役らの価格決定に至ったプロセスを開示させたり、発行価格や発行条件の妥当性について、株主が自己責任によって判断(場合によっては差止を求めるなど)できる程度の情報開示の十分性についての意見表明などが中心となるのではないでしょうか?割当の相手方たる「第三者」と取締役らとの関係次第では、価格算定の公正性を担保するために、ひょっとすると評価機関による価値算定書をとりつけるよう求める場面も出てくるかもしれませんし、その必要がない場合も出てくるかもしれません。要は既存株主の利益保護のため、監査役に一定の役割が期待されるわけでありますが、私は決して監査役の能力を超えたところで責任が加重されることにはならず、あくまでも本来の「取締役の職務執行の適法性を監視し検証する」範囲での職責が問われることになるものと考えております。

ただ金商法193条の3(財務書類の証明業務に従事する公認会計士又は監査法人による法令等違反事実届出制度)に登場する監査役と同様、監査役さんにとっての有事の場面がまたひとつ増えたことは間違いなさそうであります。

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2009年5月18日 (月)

監査役と社外取締役のコンバージェンス(税経通信6月号)

いよいよ大阪でもインフルエンザ対策が本格化してきました。娘の通う高校や大手予備校も、今日からとりあえず1週間お休みとのこと。とくに校内で感染が確認された、というわけでもなさそうですから、関西の学校はどこも同じような対応なのでしょうかね。すいません、こんなときに私は朝から東京に来ております。みなさん、ハミゴにしないでください。。。(以下本論です)

中央大学の大杉教授が「取締役兼務監査役」構想をお書きになった「監査役制度改造論」を商事法務に寄稿されて久しいのでありますが、このたびある方から「税経通信6月号の巻頭言に面白い記事が掲載されていますよ」とお教えいただきましたので、さっそく「監査役と社外取締役のコンバージェンス?」(上村達男教授)を読ませていただきました。(情報ありがとうございました。>M男さん)

この論稿の全体的な趣旨については読者の方々に委ねるとしまして、

最近「物言う株主」ならぬ「物言う監査役」が増えている、制度として監査役には強大な権限が付与されているので、おかしな監査役に居座られると始末に負えないことがある(自分もマスコミに称賛されていた某監査役を見る機会があったが、現経営者への嫌がらせとしか思えないような権限行使があった、解任の訴えの対象になるのではないか、とも思った)、しかし監査役の人達はは勉強熱心である、にもかかわらず海外からは監査役に対する評価はそれほど高くない(社外取締役とは違う)、そこでこの勉強熱心な人達に「社外取締役」になってもらって、ボードの活性化をはかるべきではないか?そもそもアメリカなどでは、訴訟の嵐のなかで「社外取締役」をうまく活用する術が培われたのであって、平和な日本においてはそもそも審議会などで「社外取締役導入」の必要性を強調しても、なかなか企業実務家の耳には届かないのが現実だ、この際説明として「日本では監査役と呼ばれているが、あれは実は社外取締役なのですよ」と言えるような改革が必要である(文章要約責任は管理人にあります)

というあたりが、「物言う著名な教授」のご発言として、たいへん歯切れがよく、楽しめました。先日の西松建設の海外裏金問題および政治献金問題に関する社内調査報告書でも、(立ち入り調査を受けて)監査役会が当時の社長に対して調査委員会の設置を強く要望して、やっとのことで委員会が立ちあげられた(しかしながら、実際には調査委員会は機能しなかったわけでありますが)ということが報告されておりましたが、私自身も「物言う監査役」さんが最近増えてきたことは事実だと認識しております。では、なぜ「物言う監査役」が増えてきたのでしょうか?

このあたり、ご異論もあるかもしれませんが、日本の三権分立と日本の会社法における株式会社のガバナンス(とりわけ上場会社)を比較するとわかりやすいかもしれません。立法(取締役会)、行政(代表取締役)、司法(監査役または監査役会)と捉えますと、監査役は違法性監査(法令定款違反の有無を判断し、違法性が認められれば是正を促し、自ら差し止める)によって、会社における「法の支配」の実現を担っているものと理解できます。「法の支配」とは、多数者の意見に反してでも、少数者保護の必要性があれば、その少数者の権利を強制権限をもって救済することを意味します。しかしながら、日本の司法制度もそうであるように、司法権が行使されるのは「何らかの紛争が発生した場合」でありまして、その紛争解決に必要なかぎりにおいてのみ司法権が行使される(司法謙抑主義)のが原則であります。これと同じく、監査役制度というものも、会社がうまく機能しているときにはとくに「物言う」必要はなく、予防監査(事前監査)に徹することも可能ではないかと思われます。しかし、いざ何か問題が発生した場合には、その問題解決のためには監査役の権限が適正に行使される必要があり(また、行使されることが株主より負託されており)、これはボードの多数者や株主の多数者の意思に反してでも「法の支配」を貫くために権限行使する必要が生じるわけであります。したがって、「始末に負えない監査役」というのは、多数者や経営者の側からみればそうかもしれませんが、それが監査役の行動としてはまともであり、当該会社の取締役の職務執行が「法令定款違反」に該当するものであることを冷徹に指摘されているのかもしれません。そもそも経営者と株主との情報の非対称性を効率的に埋めることができるのが監査役の適正な職務でありますので、株主の多数意思がどうであれ、公益目的(会社の利益をはかるために)で取締役と対峙できるのは監査役をおいて他にはいないわけであります。

このように考えてきますと、ほとんどの(上場企業の)監査役の方々は、予防監査または定例監査業務に専心しておられる場合には、経営陣との関係も良好で、誰がみても常識人と思える監査役さん方ばかりのように思えるのかもしれません。しかしながら、司法権行使における「事件性・争訟性」と呼ばれるような問題が企業内に発生した場合、それまでとは打って変わって監査役の独立性が発揮される場面が到来します。そして、この監査役の独立性が発揮される場面というのが、これまでよりも多く想定されている・・・ということが「物言う監査役」が増えている要因ではないでしょうか。内部統制報告制度における不備報告、内部通報窓口やコンプライアンス委員会からの情報提供、監査役に対する粉飾決算責任訴訟の増加、金商法193条の3による会計監査人からの不正是正申出、その他経営陣による監査妨害事例などなど、そのまま放置していては株主や会計監査人から「監査役も含む会社ぐるみでの不正」とレッテルを貼られてしまう立場に追い込まれる可能性は、これまでとは比べ物にならないほどに高まっていることは間違いないと思います。このような事態となれば、摘発監査(事後監査)を適正に行うことが株主から負託された監査役の使命であります。これは経営者との対立を生じさせるものでもあり、監査役さんにとっては苦痛かもしれませんが、法によって期待された監査役像がそこに垣間見えるのではないでしょうか。

経営者と監査役の対立は、リアルの株主さん方からみれば、みっともないものかもしれません。そのことで一時的にでも株価も下がり、リアルの株主さん達には迷惑かもしれません。しかし、監査役が職務を負託されている株主というのは、目の前のリアルな株主だけでははく、その会社の将来の株主も含むものだと理解しています。自身の利益ではなく、会社の利益を第一優先として、企業倫理を社内に浸透させ、コンプライアンス経営を重視した企業を築き上げるための行動は、継続企業にとっては代えがたいものではないでしょうか。(委員会設置会社における監査委員会を念頭に置くと少しぼやけてしまうかもしれませんが、監査役と社外取締役とでは、この株主との位置づけが若干違うようにも思います。このあたりは思いつきでありますので異論もあろうかと)たしかに私利私欲や、個人的な人間関係の私怨などから、監査役権限が行使されることは甚だ企業にとっては有害でありますが、監査役として適正に権限を行使したうえで「始末に負えない監査役」と言われることにつきましても、社内的に問題が発生した企業の監査役さんにとりましては、ごくごく普通の現象である、と認識しております。本当に監査役の方々が勉強熱心であるとすれば、この「社内的な問題」にどうやったら気づくのか(監査役としてのリスク・アプローチ)が最大のポイントではないでしょうか。

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2007年5月24日 (木)

監査役制度の活用と企業の監査コスト

ヒルトンホテルで私の所属する弁護士団体の総会がございまして、昨年度の役員でありました私は慰労対象者として、胸に大きなバラのリボンをつけまして(こんな経験は初めてですが)ご招待を受けました。二次会はちょっと失礼をしまして、総会が終わるなり、地下のタワーレコードに直行。。。いやいやありました!6年ぶりのニューアルバム、本日発売の竹内まりや「Denim」(初回限定盤) 早速事務所へ戻って、涙しながら(?)ひさしぶりの「まりや節」に酔いしれておりました。(;_;) 発売初日にCDを購入する・・・というのはチーちゃん(森高千里)の「ラッキー7」以来であります。

さて、critical-accountingさんも話題として採り上げていらっしゃいますが、5月22日日経朝刊の大機小機にて「頑張れ監査役、あなたの出番だ」と題する「問題提起」がなされております。(記事の要旨はブログ「会計、監査の話などなど。」をご覧ください)記者の方も、会社法と金融商品取引法を整理して「公開会社法」を制定すればもっとすっきりするのでは・・・とのお考えのようでありますが、とりあえず現行制度のもとにおいて、監査役の責任が重くなり、反面権限は強化されたわけでありますから、もっと監査役制度は有効に活用されるべきであると考えていらっしゃるようです。ただし、企業不祥事がマスコミで報道されましても、いつも監査法人さんや取締役さんばかりが責任の矢面に立ち、監査役は何をしていたのか?といった問題提起がほとんどなされないところをみますと、反面それほど監査役の権限行使について、あまり世間では期待されていないことを意味しているようでもありまして、それは現実問題として認めざるをえないところかもしれません。こういった現状を前にして、もっと頑張れ!と「あるべき監査役の姿」を追求するように経営者や監査役の方々に檄をとばしてみましても、これがなかなか伝わらないどころでありまして、それどころか機関設計の自由化ということで、子会社から監査役制度が消えつつある・・・というのが、また現状のようでもあります。また海外のファンドや議決権行使助言会社から上場企業に発信される「ガバナンス上の要求事項」というものも、独立社外取締役の採用への要望はありましても、監査役制度活用へのインセンティブになっている、といった話もあまり聞いたことがございません。

「公開会社法」における監査役制度の位置づけ、といったものがどのようなものを理想としているのかは、私も現在のところではよく存じ上げません。ただ、会社法と金融商品取引法が想定している内部統制システム構築の理論のなかで、監査役制度が大きな期待を寄せられていることは事実なわけでありますから、この制度を企業側、監査法人側双方から「有効活用したほうがオトク」であることがわかりやすく説明され、実践されることによって監査役制度活用のインセンティブが機能する場面というものを、どこかで設定する必要があるのではないでしょうか。

最近の企業成長率の回復基調によりましても、まだまだ管理部門へ大幅な予算が投入されるような時代とも思えません。そんななかで、各企業が内部統制システムの整備運用に多大な費用を投入している現実といいますのは、結局のところ金融商品取引法上の内部統制システムを整備しないと監査人による意見表明がもらえない、といった心理的強制力が働くなかで、外部専門家による導入提案への企業側からの反論の根拠がなにもない・・・といったことに起因するところが大きいのではないでしょうか。しかしながら、先日の関連エントリーのコメントのなかで、どなたかがおっしゃっておられましたが(私もそのとおりだと思っておりますが)、経営者による評価方法(評価範囲も含めて)については、その企業の規模や業種によって相当広範な裁量が認められるはずでありますし、そのような広範な裁量の幅のある評価方法こそ、内閣府令で「一般に公正妥当と認められる会計慣行」として認められたはずであります。そうしますと、私の理解が間違っていなければ、「攻めの内部統制」つまり、業務の有効性や効率性を高めるための内部統制システムの構築を目指す、ということ(つまり一切の心理的強制が働かない領域)を企業の目標にしているのであれば格別、監査人から適正意見を表明してもらえる範囲(つまり心理的強制力の機能する領域)においては相当大幅な経営者の裁量が認められるはずであります。(つまり公正妥当と認められる会計基準にしたがった評価である、と判断される評価方法の選択肢はかなりたくさん存在する、という意味)そうであるならば、まさに企業の監査コストを低減するためにこそ、監査役制度を有効に活用する道があるのではないでしょうか。

一番有効だと思われるのは、そもそも他社の内部統制コンサルタントなどをされている独立系の公認会計士さん、そうでなくても一般に財務会計的知見を有する公認会計士の方に社外監査役に就任いただいて、当該企業のコストや社風に見合ったシステムの整備運用の助言をいただくことだと思います。もちろん、監査人の方と協議連携していただくわけですから、話は早いですし、経営者の裁量範囲は広いわけでありますから、コストに見合った代替案の提示、といった交渉も可能かと思われます。だいいち、監査法人さんのほうでは、おそらく海外提携事務所のマニュアルを基本として、内部統制に関する組織的監査をなされるのではないかと思いますが、そもそも監査役制度は日本独特の制度でありますので、企業側が監査役制度を活用して内部統制システム整備を充実させます、と言われると、(裁量の範囲が広いだけに)かなり反論しにくいのではないでしょうか。また、日本における監査方法として、ダイレクトレポーティング採用しない理由として、実施基準が監査役制度の存在を掲げているわけでありますから、ダイレクトレポーティングを行う「監査役」の意見に従うのであれば、監査人自身の責任範囲も限定され好都合のように思いますが、いかがでしょうかね?

決して曖昧にしてはいけないと思いますのは、内部統制システムの評価、監査制度といったことを金融商品取引法といった重要な経済法に落とし込んでしまった現実であります。外部第三者は「あるべき内部統制システム」の導入を目的として業務に従事するものと思われますが、重要なことは、その「あるべき」というのは「理想」なのか「最低限」なのか、その見極めが誰の責任においてなされているか、であります。それが最終的に財務諸表の信頼性を担保(「監査の水準」において)するものかどうかは、法律と会計基準(監査基準?)の狭間の悩ましい問題に帰着するはずであります。そういった法律と会計基準(監査基準)の間における悩ましい問題、それを受け入れるにふさわしい立場といえば、監査役をおいて他には存在しないと思われます。多額の内部統制システム導入費用をかけること自体がひとつのリスクでありますが、そのリスクは監査役制度の充実で回避することにより、費用も低廉に済みますし、また内部統制監査人の立場からも、監査に付随するリスクを低減する方向において有益ではないかと思われます。また、監査役と内部統制監査人は、連携協調する必要もあるわけですから、経営者側においては監査役の意見が尊重されませんと、内部監査人による意見表明にも影響が出てくるわけですし、監査役自体の地位向上にも役立つのではないかなと思われます。内部統制報告制度に関する意見書自体が「監査基準」であること、その監査基準には(少なくとも経営者評価の方法においては)相当広範な企業側の裁量が認められること、経営者が優秀な監査役を選任することも、この監査基準適合のための選択肢のひとつであること、そしてなによりも、監査役があるべき企業の内部統制システムの妥当性まで判断できると考えることが法律上もトレンドであることから、監査役制度の活用は企業にとっても、監査人にとってもプラスの方向でインセンティブが働いてもいいお話に属するのではないでしょうか。(今週号の日経ビジネスの特集にありますように、本当に内部統制システム導入問題によって「経営がすくんでいる」のであれば、こういったことも真剣に考えてみてもいいのでは・・・という趣旨でエントリーしてみました。)

(追記)ご指摘を受けまして、会計基準→監査基準と修正いたしました。勉強不足ですいません。これからも基礎的な誤りがございましたらご指摘いただけますとありがたいです。

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2007年4月12日 (木)

監査役制度と企業環境の変化について

すでに、取締役を兼務する監査役のエントリーにてご案内のとおり、「監査役制度改造論」なる大杉謙一教授のたいへん興味深い論稿につきましては、「企業法務を社外監査役の視点から考える」という当ブログの主題とも関連するところであり、いろいろと考えながら拝読させていただきました。監査役制度をガバナンスの上で重要視したい立場からいたしますと、最初は少しとまどうところもあるかもしれませんが、よく読みますと(紀尾井町さんもご指摘のとおり)監査役制度に対する教授の思い入れが感じられ、監査役に対する一種の「檄文」として著されたのではないか、と感じます。また、精読するうちに、とうてい私のような場末の弁護士が批評できるようなものではない(やはりバックボーンが違いすぎます)と思うようになりましたので、この論稿を読ませていただいたうえでの私なりの単なる感想を述べさせていただこうかと思っております(気楽に数回に分けて・・・いつ完了するかはまだ未定でありますが。。。)

そこでまず、なぜ明治以来100年以上にわたり、日本独特の「監査役制度」というものの骨格が維持されてきたのでしょうか、そしてまたそれは変化しなければいけないような社会環境は果たしてあるのでしょうか?この点につきまして、教授は100年以上も維持されてきた制度である以上、この制度は合理的であり、すくなくとも日本企業には合致するものであったという論拠になるかもしれない、と述べておられます。ただ、商法改正に伴う諸事情も踏まえながら、「高度経済成長期の日本企業には、収益性の高いプロジェクトが豊富に存在していたので、経営者と株主の利害対立の危険は相対的に低かったこと」から監督機関には適法性監査だけが期待されていたことを指摘され、「企業の収益機会が稀少になり、経営者に求められる資質が調停能力からリーダーシップへと変化する(現代)ようになると、監督機関の役割も大きくなり、その権限も従前より強化される必要性が生じてきた」ものと論じておられます。ここに「高度経済成長の終焉から30余年が経過した今、監査役制度の根本の見直しが必要」とされる実質的な根拠を見出されておられるようです。(本文とはあまり関係ないかもしれませんが、大杉教授もすこしだけ触れておられますとおり、監査役制度の歴史のなかで、監査役に妥当性監査まで事実上認められていた時代があったんですね。その後、昭和25年改正によって、取締役会制度の法定化によって、そちらに妥当性監査への期待が高まり、昭和49年まで監査役の権限が会計監査のみに限定される時代となるわけであります。「新訂版・商法改正の変遷とその要点」2006年一橋出版 秋坂朝則著 参照)

私個人としましても、長年監査役制度が(改正を繰り返しながらも)維持されているところをみますと、日本企業にはかなり合致した制度であると思いますし、またその根本の見直しが必要ではないか・・・といったご主張にも共感する部分がとても多いです。ただ、監査役制度の根本的な見直しが必要ではないか、と考えるところの企業環境変化につきましては、私の場合には少し視点が異なります。おそらく、大杉先生は「適法性監査」→「妥当性監査」といった監査役の監督権限の拡大のための正当性を裏付ける諸事情を説明されたかったのではないか(「妥当性監査権限保有の正当性」→「取締役の任免権保有の正当性」にスポットをあてたかったのではないか)と推察いたしますが、私は(あまり深く考えず)単純に①企業法制のあり方が「事前規制」から「事後規制」へと変容されつつあること、②監査監督を担う外部機関のあり方が変わってきたこと、に求められるのではないか、と思っております。たとえば①につきましては、旧商法による大規模公開会社に対するガバナンス規制をはじめ、多方面にわたり、事前規制の要素が強かったわけでありますが、平成17年会社法改正によって「定款自治」をはじめ、公開企業に対しても経営自由度がアップした分、事後規制としての監督機能は強化する必要性が出てきたのではないか、と考えられますし、②につきましても、従前はメインバンク制度や行政監督、株式持合いなどによって、外部からの妥当性監査を含む規制に期待するところが大きかったのでありますが、ご案内のとおり、そういった外部監督機能を期待でいる制度自体が消滅(もしくは減少)しつつあるなかで、これらに変わる制度自体が現在必要とされるようになったのではないか、というところであります。まぁ100年とまでは申し上げられませんが、昭和25年改正以降の50年ほど、監査役制度が維持されてきた企業環境や、そういった企業環境が大きく変化していることについては、ある程度の説明がつくのではないか、と思っております。また、こういった根拠からですと、監査役の妥当性監査権限を認める→取締役の選定、解職権限を認めるといった流れをストレートに導くことはできないかもしれませんが、おおよそ監査体制への根本的な見直しが必要といった結論部分においては同様の意見に落ち着いていきそうな気がします。なお、見直しの視点でありますが、会社法上の内部統制システムの構築といった概念が、コーポレート・ガバナンスの議論に含まれることを前提といたしますと、こういった発想は監査役による妥当性監査に関する問題も含めまして、内部統制システムの整備運用と監査役制度の関係のなかで議論しやすいのではないか、と考えております。

つぎに取締役会設置会社における業務執行取締役と非業務執行取締役、そして監査役の職務権限にスポットをあてて、取締役兼務監査役の「自己監査」リスクへの私見を述べさせていただこうかと思っております。(不定期にてつづく・・・)

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2007年4月 9日 (月)

取締役を兼務する監査役

土曜日(4月7日)は早朝から神戸大学まで出掛けまして、京都大学准教授でいらっしゃる曳野孝先生を中心とした「企業統治+経営戦略=収益性・業績」なる研究会に参加してまいりました。計量経済学の難しい公式を使ってのコーポレートガバナンスと経営戦略に関するお話であります。(この研究会の内容はたいへんおもしろいものなので、またときどき、誤解のない範囲においてエントリーのなかでも援用させていただこうかと思っております)ところで昨日の研究会におきまして、曳野先生は、コーポレート・ガバナンスの研究について、関西は東京から大きく水をあけられている、とぼやいておられました。(もちろん関西にも、たとえば神戸大学には、ガバナンス研究で知られるK教授がいらっしゃいますが・・・)私は法律学の分野における全国勢力図、のようなものをまったく存じ上げませんので、どこの大学がどんな分野に強い、といったことに、あまり関心をもっていないのでありますが、たしかにコーポレート・ガバナンス研究といいますと、最近では「公開会社法」研究や、社外役員制度の検証や提言、そして内部統制システム構築に関する研究などなど、どれをとりましても東京主導で活発な議論が展開されているように感じております。でも、これはコーポレートガバナンスに関する議論に限って言えば「やむをえないこと」ではないかなぁ・・・と思います。といいますのも、たとえば曳野先生の精緻な計量経済学に基づくガバナンス研究成果について、ご自身はその理論的な正当性についてはたいへん自信をお持ちでいらっしゃいますし、そのこと自体を私がとやかく申し上げるだけの力量もございません。ただ、みずからの理論に正当性を補強できるような「企業実務における実証例」が不足している、と痛感されているようなのです。これは経済学の見地からでも、法律学の見地からでも、同じようなことが言えるのではないでしょうか。理論的にどのような制度が適切か(もしくは企業パフォーマンスの向上に役立つか)といったところを論じようとする場合、その理論を根拠付ける実社会における企業実務や、立法事実を基礎付ける実証例を集積しようとする場合、どうしても経済団体などの支援(といいますか協力)が不可欠です。そういった意味では、東京の場合ですと主要な経済団体をはじめ、日本取締役協会や日本監査役協会の本部、そして社外取締役ネットワークなど、ガバナンスの研究団体もありますので、そういった実社会における実証例を学者の先生方が採取するにあたっての「アドバンテージ」は関西とは比べものにはならないほど東京のほうが豊富だと思います。したがいまして、こと「コーポレート・ガバナンス研究」に関するテーマをリードできるような論文は、やはり東京から発信されるケースがこれからも多いのではないかと推察しております。

ということで、やはり東京から発信されているガバナンス分野における法律学者の先生方の論稿のうち、私が最近ドキドキしながら拝読させていただいたのは、中央大学の大杉謙一先生が商事法務1796号(4月5日号)でお書きになっている「監査役制度改造論」と、跡見学園女子大学の柿﨑環先生が月刊監査役525号(4月号)でお書きになっている米国SOX法404条運用に関するSEC新ガイダンス(案)紹介とJ-SOXへの反映への試論(すいません、自宅でこのエントリーを書いておりまして、手元に当雑誌がないために、正式な題名を失念しております)  「経営者のためのSOX法404条ガイダンスの概要」であります。いずれの論稿につきましても、拙ブログにお越しの皆様方に、たいへん関心の高い分野における斬新な意見が含まれておりまして、ぜひご一読されることをお勧めいたします。もちろん、先生方のご意見に賛同されるか、ご批判されるかは、読まれた方次第でしょうし、冒頭でも申し上げたところとも関連いたしますが、学者の先生方からすれば、そういった実務家の方々の意見がたくさん出されることを歓迎されるのではないでしょうか。とりわけ「監査役制度改造論」は「すごい」です。つい先日、「監査役協会、内部統制監査の実施基準草案公開(2)」のエントリーのなかにおきまして、私は以下のように書きました。

すでに多くの企業で「社外取締役」の方々が就任されているのが現実ですし、この実施基準(注 監査役協会作成による「内部統制監査の実施基準」のこと)も上場企業の監査役監査指針(しかも内部統制整備に関する評価)を念頭に置かれているわけでありますから、もうそろそろ「社外取締役と監査役監査」の関係についても一般的な指針を設けてもいい時期に来ているのではないでしょうか。

ストレートに、というわけではございませんが、こういった疑問にもひとつの答えを提言されているのが、この「監査役制度改造論」であります。監査役制度100年の歴史に大きな転換を迫るこの制度改造論は、おそらく今後、諸団体でいろいろな議論を巻き起こすものと予想いたしますし、またたとえば日本監査役協会さんあたりは、この論文をどのように受け止めるのか、そのあたりたいへん興味がございます。なんといいましても、「取締役兼務監査役」もしくは「監査役兼務取締役」といった役員を会社法上制度(義務化)として提言されるわけでありますから。。。たとえば、本日(4月8日)の日経ニュースにありましたように、ペンタックスの取締役会におきまして、当社役員は、HOYAとの合併撤回動議に賛成した取締役が6名、反対した取締役が2名(社長と専務)ということで撤回動議が決議されたわけでありますが、ここに「取締役会に期待される監督機能」といった問題は出てきましても、「監査役による監督機能」といったことは少しも話題にされてこないのであります。(ホント、これが現実なんですよね・・・)さて、もしここに「監査役兼務取締役」という(社外人を半数以上含む)人たちが登場していたら、いったいどういった結論になっていたでしょうか。(私の悪いクセですが、長くなりましたので、またまた本編に入ることなく続編へと続かせていただきます。なお誤解のないように申し上げておきますが、会社法335条2項との関係で、取締役兼務監査役という制度は、あくまでも立法論としてのお話です。念のため・・・)

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