2017年9月 6日 (水)

全社的リスクマネジメント-これだけやれば及第点

Tyu998 全社的リスクマネジメント、コーポレートガバナンス、全社的内部統制の整備・運用といったことが「企業価値の向上のために」重要であることはわかっていても、では実務的にどう対応すればよいのかわからない・・・といったことはリスク管理担当部門の方々にとっても大きな悩みです。図表が多用され、概念的なことがきれいに整理された書籍には出会っても、各社の実務にどう落とし込むべきかわからないマニュアル本も多いのではないでしょうか。

本書は、東京ガスグループで内部統制の整備やリスクマネジメントに長く携わってこられた著者が、全社的リスクマネジメントの具体的な手法を解説したものです(たしか私が企業の内部統制に関心を抱き始めた時期に、著者は経産省の当該分野の審議会委員等を歴任されていたのを記憶しております)。取締役や監査役の方々にも当然参考になるのですが、やはり副題のとおりミドルマネージャーの方々に向けたものと言えます。リスクマネジメントの担当者だって、自分たちの貢献度をトップに評価してほしいですよね。リスクマネジメントを担当する者が「やる気」になることへの工夫などは、部下をたくさん育てて長年この分野に携わってこられた方だからこそ書ける内容です。

全社的リスクマネジメント-ミドルマネージャーがこれだけはやっておきたい8つの実施事項(吉野太郎著 中央経済社 2,400円税別)

本書の特徴は、なんといっても「全社的」なリスクマネジメントを取り扱っているところです。筆者はラインの第一線で働いた経験に基づいて本書を執筆されているため、理想としての全社的リスクマネジメントの姿を追い求めても、かならずしも経営者から受けいられない、といったことも経験されたと推察いたします。だからこそ、理想が受容されずとも、その代替(妥協)として、この程度の全社的リスクマネジメントの方法を検討せよ、といった提案が、具体的な事例の中で示されています(これはとても大事なことですよね。予算や人的資源の限界、そして経営者の志向によってリスクマネジメントの現実-つまり及第点-を語らなければ読者は腹落ちしないと思うのです。)

お勧めはなんといっても第5章のリスクの評価と対応でしょうか。経営者に近いところで、リスク管理を経営者に進言する(報告する)わけですから、経営者を説得できるような合理的な説明が必要です。しかも全社的リスクに関わるので、(経営者にとって関心の高い)ガバナンスや内部統制との関係でも慎重な配慮が求められます。そのあたりで、「知識」ということよりも、全社的リスクマネジメントの考え方を学ぶ、といった感覚で読まれたほうが良いのかもしれません。「これだけやれば及第点」とあるように、最低限度のリスクマネジメントを念頭に置いたものなのですが、マネジメントの具体的手法の紹介がとても示唆に富み、参考にしたい点が多いので、あえて不満を言えば、もっと多くの具体的なマネジメント手法等をご紹介いただきたかったところです。いずれにしてもお勧めの一冊です。

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2017年7月18日 (火)

「これからの内部通報システム」を考える

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今年前半は改正個人情報保護法の解説本がたくさん出版されましたが、後半は内部通報制度・公益通報者保護制度に関する解説本がいくつか出版されるようですね。公益通報者保護法の改正審議はまだまだこれからですが、11年ぶりに民間事業者向けガイドライン、(労働者通報に関する)行政機関向けガイドラインが改訂されたこともありまして、こちらもたいへんタイムリーな解説書に仕上がっています。

これからの内部通報システム(2017年7月 中原・結城・横瀬著 金融財政事情研究会 2,600円税別)

ちなみにジュンク堂さんの「おすすめ」コメントによりますと、

「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を詳細に解説。通報窓口を受託している民間事業者や先進的企業の取組も紹介し、これからの内部通報システムの在り方を提言。民間事業者必読の1冊。

だそうであります。以下はご献本いただいた私の感想です。

これまでの内部通報制度に関する解説書で何度も解説されているところは思い切って簡素化し、その分を民間事業者向けガイドラインの解説、そして関係者からのインタビュー記事に重点を置いているのが本書の第1の特徴です。この類の共著の解説書は、机上で情報を収集することに重きを置きたくなるのですが、多くの有識者、コンサルタント会社、民間事業者から直接ヒアリングをして、その結果を丁寧にまとめ上げるという、かなり「しんどい」作業が行われています(ヒアリングや録取内容のまとめ、構成は3名で分担されたものと思われます)。したがって、読者もおそらく新鮮な情報に触れることができるはずです。

不肖私も、本書では有識者(?)のひとりとしてヒアリングを受けまして、「山口利昭弁護士に聞く(74頁以下)」として私のインタビュー記事が掲載されています(民間事業者ガイドラインの解説部分に、何度かこのインタビュー記事が引用されていますので、責任重大ですね・・・(^^; )。作業の一端を垣間見ておりますので、上記のようなご苦労も推察できます。個人的にはやはり民間事業者の方々のインタビュー記事がとても参考になりました。

さてもうひとつの特徴は、タイトルどおり「これからの内部通報システム」を読者の皆様へ提案している点です。私も「いつかやっておこう」と思っていたのですが(結局、まだやらないうちに先を越されたわけですが)、改訂された民間事業者ガイドラインの各項目と、消費者庁が示したレベル感(やっておくべき⇒やったほうがいい⇒やってみてもいいかも)を上手に整理した図表を活用して、それぞれの事業者の規模に合わせて内部通報システムの適切な導入・運用を提案しておられます。これは正直フリーライドしたくなりますし(笑)、私自身の通報窓口業務にもそのまま参考になりそうですね。

「異論のあるところだが、内部通報義務を規程に明記することも検討すべき」といった積極的な提案も、その理由を含めて示されています(ちなみに、私は通報義務についてはやや懐疑的ですが・・・笑)。こういった専門家の積極的な意見による提案は企業実務家の皆様にもウケるのではないでしょうか。

諸事情ございまして(笑)、当ブログでは加計学園問題へのコメントは控えておりましたが、文部科学省の一連の文書提出により、公益通報者保護制度への国民的関心が(良い意味でも悪い意味でも)高まったのは間違いないところかと。 行政のことですから、関係各省庁の人事異動で公益通報者保護法の改正審議がどうなるのかやや未知数なところもありますが、私も様々な意見発信を通して法改正に向けた審議に何らかの形で関与していければ、と思っております。そのためにもぜひ本書を参考にさせていただきます。

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2017年4月 7日 (金)

「公益」資本主義-英米型資本主義の終焉

Img_803210ba9c4291066dc73162fbec55f本日(4月6日)の日経新聞朝刊7面に、それほど大きな記事ではありませんが、 「米経済『何かが間違い』JPモルガンCEOが株主に書簡」と題した記事が掲載されています。低い労働参加率、高額な教育費、国内のインフラ更新投資の欠如(大阪でもこのままだと水道費が1.6倍になるとか)、難解な税制等、いずれも米国の景気は上向きですが、所得格差が広がる懸念が示されており、これを大手金融機関のトップが「違和感」と捉えています。

株主資本主義、金融資本主義のアメリカでも、所得格差の現実に直面して、原丈人氏が提唱する「公益資本主義」に近い考え方を信奉する人が出始めたのではないでしょうか。日本ではAA型種類株式を導入したトヨタ自動車のCEOの方も、公益資本主義の賛同者のおひとりです。

公益資本主義(文春文庫)原丈人著

書店に並んだ日に一気に読みました。いままでは「公益資本主義」の考え方、現実の資本主義社会への問題提起に共感しておりました。たぶん原氏のご著書をこれまで読まれた多くの方も同様ではないかと。ただ、本書はそこから進んで「では、いかにして株主資本主義から公益資本主義へと転換すべきか」その実践に向けた原氏の提言(ロードマップ)が後半に出てきますので「総論賛成、各論(一部?)反対」となるかどうか、そこが本書を読まれる方とぜひとも議論したいところです。法律的に批判をすることはできますが、具体的な提言に賛同するのであれば、その実現に向けた道筋を汗をかきながら考える必要があります(でもそのほうがワクワクして楽しそうですね)

星野リゾートの星野さんが大阪の新今宮に観光型ホテルを建設する時代です。「そんなアホな」と凡人の私などは一笑に付してしまいそうが、カリスマ経営者なら「町を変える」ことも現実化させるのかもしれません。この公益資本主義が日本に浸透する日も、近い将来、現実化するような気もしますね。

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2017年2月28日 (火)

横尾宣政氏はどこで提訴リスクを抱えてしまったのか?(「野村證券第2事業法人部」を読んで)

28250833_2本日発売の週刊エコノミストでは、「オリンパス粉飾の指南役と呼ばれて」と題する横尾宣政氏のインタビュー記事が掲載されていました。 記事では、オリンパス事件によって証券取引法・金融商品取引法違反、詐欺罪等による起訴事実を否認する理由を中心に語っておられます。昨週に発売された横尾氏のご著書の宣伝効果を狙ったものかもしれませんが、本書のおもしろさは、オリンパス事件の背景を綴った赤裸々な事実告白の部分だけではありません。

野村證券第2事業法人部 横尾宣政著 講談社 1,800円税別

横尾氏が被告人とされている上記刑事事件は現在上告中ということなので、横尾氏の敗訴リスクについては必要以上にここで語ることはいたしません。ただ、横尾氏のご主張が真実だとしても、それではなぜオリンパス事件に巻き込まれてしまったのか、いわば「提訴リスク」をなぜ背負うことになったのか、という視点で読みますと、本書全体がひとつのストーリーを構成していることに気づきます。

横尾氏は当時の野村證券役員から「消防車」と揶揄されるほど、社内に問題が発生した場合にはその火消し役として活躍していました。ブラックマンデーで300億もの損失を抱えたオリンパス社の損失を、横尾氏はワラントを活用して一気に利益を出すことで取り返します。これがオリンパス社と同氏との最初の出会いでした。もう二度と財テクには手を出さないように、と横尾氏はオリンパス社にクギを指すのですが、その後、これは裏切られることになります。

また、同氏は1990年初めころから、「次の時代はITマルチメディアだ!日本を支えるIT企業に資源を集中する必要がある」と考えており、数理的処理に強いだけでなく、非常に先見の明があったことに驚かされます。ご自身も高崎支店長時代からデータベース・マーケティングに強い関心を持ち、野村證券をリタイアした後、データベース・マーケティングのノウハウを事業化することに意欲的でした。そんな折、オリンパスグループ会社のデータベース事業が素晴らしい、なんとか手に入らないかと、ファーストリテイリング(ユニクロ)のCEOから相談を持ち掛けられることになります。自身もなんとか手に入れたいと考えますが、最終的にはこれを入手することはできませんでした。

これだけ優秀な証券マンである横尾氏なので、もし本当にオリンパス粉飾事件を指南するのであれば、もっと上手なスキームを考案していただろうなぁと思います。また、そもそもオリンパス社の資金運用に強い拒絶反応を示していたのですから、オリンパス社役員にはあまり近づきたくないと考えていたと思料します。ただ、やはり野村證券を退職して、自身がやりたい事業を手掛けるにはお金が必要だったこと、ちょうどオリンパス社が優秀な人材とともにデータベース事業に精通したシステムを保有しており、これを活用したかったことから、第2事業法人部時代の担当会社であったオリンパス社に必要以上に近づきすぎたところに「スキ」があったのかもしれません。バックに「野村證券」の看板を抱えていればノーと言えたことも、リタイアして経営者となり、自身のやりたいことをやるためにはノーとばかりは言えない状況に置かれていたことが、今回の提訴リスクにつながる大きな要因だったと思います。

野村證券社員時代の横尾氏の活躍はかなり「えげつない」ように見えますが、顧客に損を出したときにも、決して逃げず、真正面から顧客と向き合っていたからこそ大けがをせずに済んでいたようです。その姿勢からみて、粉飾の指南などといった逃げの姿勢を人前で見せることの嫌疑をかけられたことの屈辱感、その裏返しとしての自身の生き方へのプライドこそ、本書で横尾氏が語りたかったことではないかと推測します。ただ、これだけ優秀な方でも、自身が組織人ではなく、経営者になったときに、どうしてここまでオリンパスにのめりこんでしまったのか、そこに疑問を感じざるをえませんでした。

「形だけのコンプライアンス」の全盛が、かつての証券会社の輝きを失わせ、日本の経済に長期低迷をもたらしたという意見は私にもグサっと刺さるものがありました。いまのままではたしかに横尾氏がいうとおり、自己責任を問えるような金融リテラシーが国民に育たず、その結果として(中長期の企業価値向上を支える)機関投資家も育たないという点には共感します。「形だけのコンプライアンス」「過度の利益相反防止」が事業の分断化、人の分断化を進め、全体を見渡せる社員が減っています。だからこそ「助けて」といえる雰囲気が組織から消えつつあることを、私も危惧しています。

最後になりますが、「第三者委員会」がどのようなプロセスで選定されたのか、本書を読み、第三者委員会の独立性がいかに大切なことであるか、考えさせられました。有事に備えて「第三者委員会選定基準」のようなものがなければ、結局は経営陣のための第三者委員会に終わってしまうのではないでしょうか。

 

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2017年2月24日 (金)

日産自動車の次期社長は現社長ではなく取締役会が決めた?

Keieironndesu大阪市交通局の経営会議終了後、書店に立ち寄り購入しました。幹部育成プログラムにおけるカルロス・ゴーン氏の経営論に関する講演(発言)録ですが、日産自動車さんのコーポレートガバナンスへの関心から、一気に読み終えました(電子書籍版もあるようですね)。

グローバル・リーダーシップ講座カルロス・ゴーンの経営論 (公益社団法人日産財団監修)

このたびの社長交代が、ゴーン氏のレジリエント・リーダーシップの一環であること、後任人事は現社長が複数名を提案して、最終的には取締役会が決めることを信念としていること、経営トップが当然に高い報酬を得なければならないと考えていることがよく理解できました。また、私なりのフィルターで「これは大事だ」と赤線を引っ張ったところも何か所がありました。

なお、本書で一番印象に残るのは第6章「カルロス・ゴーンは日産の何を変えたのか」を執筆されたCOOの志賀俊之氏の論稿です。私の感想ですが「この人がいたから外国人社長のもとで組織がひとつになれたのでは?」と。本書でゴーン氏が語っておられることを、読者に「通訳」する役割を担っておられますが、それはまさに志賀氏が日産の従業員の方々に向けててゴーン氏の経営方針を通訳して来られたことを物語っています(三菱で起きたような燃費偽装が日産では起きないと確信できるようなお話も盛り込まれています)。

孤独やリスクに立ち向かう覚悟さえあれば「決断すること」はできても、自らの決断の実行主体である役員、社員をどのようにすれば動かすことができるのか、その点への深慮やコミュニケーション手法は(違和感を抱きつつも)とても考えさせられます。なお、今回の社長退任が、果たして日産経営の全権委譲なのか、一部権限委譲なのかは、本書を読んでも(私には)わかりませんでしたので、今後の会見に期待しております。

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2017年2月22日 (水)

東芝・債務超過の悪夢-細野論稿(月刊世界3月号)

昨日の産地偽装米騒動の続報ですが、本日(2月21日)、疑惑の対象となっている米卸会社さんのHPに親会社による自主調査第4報が掲載されており、そこに週刊ダイヤモンド誌によるスクープ前とスクープ公表後の売上の推移表が掲載されています。大手マスコミによる報道により、不正疑惑を伝えられた事業者はこれほどの事業上の損失を受けるということですね。行政規制がソフトロー主流の時代となり、不正に走った企業が社会的制裁を受けるのは当然ですが、もし濡れ衣を着せられたとすれば、適正手続きなく、このような損失を受けることはやはり重大な問題ではないかと思います。ようやく、公平な視点から本騒動を伝えるニュースも出始めました(たとえば毎日放送ニュース)。

さてここから本題ですが、東芝さんの会計不正事件は、当初「工事進行基準」「PC(バイセル)取引」といったPL上の不適切な会計処理が話題となっておりました(第三者委員会報告書の影響も大きかったと思います)。しかし、月刊世界2015年9月に掲載された細野祐二氏の論稿がはじめてウエスチングハウス社(WEC社)の減損というBS上の問題を取り上げ、社会的反響を呼びました。時期を同じくして、東芝さんはCB&I社からS&W社を買収することになり、現在のような状況に至ります。

当ブログへのぶるーじぇいさんのコメントによって知りましたが、その細野祐二さんが再び月刊世界の最新号(2017年3月号)で「債務超過の悪夢-東芝ウエスティングハウス原子炉の逆襲」なる論稿を発表されました。さっそく拝読しましたが、今回も関連資料(デラウエア州仲裁裁判所のメモランダム・オピニオン)の丹念な読み込みとその事実に基づく企業会計面からの鋭い指摘にたいへん感銘を受けました。この細野論稿はおそらく1月末頃に締め切りだと思うのですが、2月に入っての一連の東芝騒動を予期していたかのように、現実に発生していることとのブレを感じさせません。

先日リリースしました私のエントリー(東芝の内部統制に関する不備と「経営者の不適切なプレッシャー」)でも疑問を呈しておりましたが、PPA(取得価格配分手続き)上の問題として、買取時正味運転資本の計算に関するWEC社とCB&I社との紛争が主たる原因であることも、細野氏の論稿を読んでよくわかりました。おそらく「内部統制の不備に関する通報事実」というのも、この点に関するものだと思われます(しかしこのような質の高い論稿が、850円+消費税で読めるというのは本当にありがたい)。

また、監査法人の交代がなければ、そもそも今回の東芝問題が債務超過の危機を表面化させることはなかったであろう、とのご意見は(推論に基づくご意見とはいえ)まことにその通りかと思います。「やり方」によってはWECの「のれん」の減損は不要といったことで、昨年時点で会計不正事件のみそぎは済み、「半導体の好調によって黒字転換」を果たして業務を継続できていたのかもしれません。PWCが普通に監査をして普通の意見を述べれば、このような結果になるということであり、監査法人の独立性がいかに市場の健全性確保にとって重要であるかがわかります。「東芝の監査人変更は、社会が一旦うやむやのうちに収めてしまった東芝粉飾決算問題の本命に、まわりまわってぐさりと命中したことになる」との細野氏の表現はとても重いものを感じます。

しかしこの細野氏の推論が正しいものだとすると、会計監査人の使命は極めて重いものですね。

 

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2016年12月28日 (水)

会社法務A2Z特集号に論稿を掲載いただきました。

Dsc_0027_400東芝さんの業績が数千億円規模の特損計上の可能性発表ということで、またまたスゴイことになってしまいました。米国原子力事業を担うウエスチングハウス社が1年前に買収した企業の「のれん」の減損に関連するものですが、社長記者会見では「12月中旬に(減損の可能性を)知った」そうです。東芝さんが特別注意市場銘柄から解除されるためには内部管理体制に不備がないことが条件ですが、(原子力事業の運営費用は想定外に膨らみやすい・・・といった事情を考慮したとしても)「12月までトップに減損が報告されなかった」という事実はどうみても内部管理体制の欠如としか言いようがないと思います。26日の社長記者会見が突如キャンセルされて翌日になった、という事態をみても異常事態ではないかと。不謹慎ですが、今後の上場維持のためには「減損の事実を知っていて、あえて公表しなかった」ほうがよっぽど内部管理体制が整備されていることの理由になるのではないでしょうか(もちろん統制環境の不備という問題が新たに生じますが・・・)。ここへきて東芝さんの経営問題が再燃するとは予想もしていませんでした。

さて、クリスマス三連休も終わり、皆様もそろそろ仕事納めの頃ではないでしょうか。当事務所も12月28日から1月4日までお休みをいただきます。そういえばブログをご覧のある方から、「エフオーアイ損害賠償請求事件の判決全文をお送りします」とのご連絡をいただきました(どうもありがとうございます)。おそらく年始になると思いますが、ご厚意に甘えてじっくり読ませていただきます(とても楽しみです!)。

本題ですが、第一法規さんの会社法務A2Zの毎年恒例特集「企業法務2017年の展望」におきまして、危機管理・不祥事対策部門の執筆を担当させていただきました(上掲写真ご参照。合計4ページです)。証券市場、公正取引法、労働法、消費者法等の分野における重大リスクの認識ということに焦点をあてておりまして、少しずつではありますが私個人の意見も述べております。全国書店にて発売されましたので、またご興味がございましたらお読みください(なお、毎度のことながら執筆陣は私以外は豪華です)。

紙幅の関係でほとんど触れることができませんでしたが、来年は内部通報制度の整備や内部告発への公益通報者保護法の適用問題など、企業不祥事を原因とした企業のリスクマネジメントが更に注目を浴びることになるのは間違いないでしょう。本日もファーストリテイリング社のパワハラ内部告発記事が話題になっていますが、企業の対応をみながら第2、第3の不祥事記事が掲載されるというパターンは、(以前にも船場吉兆事件等でもみられましたが)今後のトレンドになると思います。よく社長の記者会見で「私は知らなかった」とおっしゃいますが、ホントに知らないからこそ、第2、第3の不祥事告発が容易になされる傾向にあります。

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2016年10月18日 (火)

「住友銀行秘史」とコーポレート・ガバナンス

9784062201308_210月8日の日経朝刊に「指名委員会を設置した上場会社が600社を超えた」といった記事が掲載されていました。ほんとに社外取締役を中心として後継社長を指名することなどできるのだろうか?といった疑念を抱いていますが、この25年前に発覚したイトマン事件の内幕を読むと、さすがに「形だけでもあったほうがいいかも・・・」と思ってしまいますね。

まだ発売されたばかりの本なので(ネタバレはエチケット違反かと思いますので)内容には触れませんが、話題の「住友銀行秘史」をさっそく読了いたしました。110年の歴史を誇る中堅商社イトマンが沈みゆく1年半ほどのストーリーです。実名を出された方々の言動だけでなく、その言動に対する著者の評価(批判?)も赤裸々に綴られているので、(反論が困難という意味でも)本書の評価は分かれそうな気がします。ただ、私のように内部告発や内部通報に関心のある方にはぜひともお勧めしたいところですし、社長解任の場面なども出てきますので、組織の権力闘争に関心のある方にもおすすめです。

ところで、私の存じ上げる方々が、この25年前の事件にたくさん登場します(久保利先生も少しだけ登場します)。イトマンの会計士さんも実名で、かつ監査意見形成に関するやりとりなども詳しく書かれています。とりわけコーポレートガバナンス・ネットワークの前理事長さん(当時は日銀の営業局長)が、こんな感じでイトマン事件に登場するとは思いもしませんでした。前理事長さんが、かつて「社外取締役ネットワーク」を設立してガバナンス論を語っておられたとき、「アメリカのガバナンスの直輸入盤みたいで、ずいぶんと原理的だなあ」と感じたこともありました。しかし、住友銀行の権力闘争と、これを背景とするイトマン事件の渦中にあって、このようなドロドロとした経営権争いが演じられている中に身を置いていたら、たしかに海外のガバナンスに光をあてたくなるだろうな・・・と。そういったことを再認識できただけでも、本書を読んでよかったと思います。

しかし朝日さんや読売さんはいいとしても、この本、日経さんは書評を取り上げますでしょうかね?日経新聞とはこういった世界である、「新聞・雑誌の編集権」とはこういったものである・・・ということを理解するうえでも有益な一冊かもしれません。

 

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2016年9月24日 (土)

月刊ジュリスト10月号の特集座談会に参加させていただきました。

Dsc_0016_400有斐閣の法律雑誌「月刊ジュリスト」2016年10月号は「コンプライアンス再考-企業不祥事・対応上の新たな留意点」なる特集が組まれております。

私は「企業不祥事の現状と展望」なる特集企画の座談会に参加させていただきました。佐伯仁志先生(東大教授)が司会をされ、川出敏裕先生(東大教授)、木目田弁護士(西村あさひ法律事務所)と私が参加しております。企業不祥事への対応状況(近時の傾向)や日本版司法取引(改正刑訴法)関連事項、公益通報者保護制度の実効性検討のための課題等、刑事法の視点から大いに語るもので、参加させていただいた私自身もたいへん勉強になりました。

論稿のほうでは日本版司法取引の留意点について平尾先生が執筆されておられるのと、企画がかぶってしまった(ようにみえる?)「ビジネス・ロー・ジャーナル」で対談をされている国広先生が、こちらでも「不祥事調査の実務」なるご論稿を発表されているところが目を引きますね(平尾先生も、両方に論稿をお書きになっていますね)。私、個人的に吉村典久先生(和歌山大学教授)のお書きになったものは、経営学会のご論文を含めてほぼすべて目を通しておりまして(とりわけ吉村先生のガバナンス論には注目しております)、今回も「企業不祥事の原因分析」なる論稿がおもしろそうです。内部監査の新たな役割を書かれた澤口論文、法人処罰について書かれた川崎論文も必読です。

大規模会社、中小規模会社にかかわらず、コンプライアンス経営の潮流にご興味がございましたら、ぜひとも全国書店にて発売中ですので、よろしくお願いいたします。

9月 24, 2016 本のご紹介 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年9月18日 (日)

不正の迷宮-三菱自動車(スリーダイヤ転落の20年)

2l1989年のプロ野球日本シリーズの巨人対近鉄において、近鉄は初戦から3連勝。近鉄の勝利投手がヒーローインタビューで「シーズンのほうがしんどかった。巨人はロッテ(その年の最下位)よりも弱いんじゃないの?(笑)」と言い放ってしまいました。巨人の選手達はこの発言に怒り狂い、発奮して、その後4連勝して日本一になりました(語り草ですから、どこまで真実かはわかりませんが・・・)。

東芝事件に続き、日経グループ会社による三菱自動車燃費偽装事件に関連する本が出版されました(「不正の迷宮 三菱自動車-スリーダイヤ転落の20年」日経BP社 1,500円税別)。個人的には東芝会計不正事件を扱った「東芝の迷宮」よりも相当におもしろい内容です。

ひょっとしたら、もう日経ビジネス等で記事化されていたのかもしれませんが、三菱自動車社員から日産の社員を揶揄するような発言(日産の燃費測定能力を疑い、プライドを傷づける発言)がもとで、日産の社員達が怒り狂い、三菱の燃費偽装の事実を本気で暴いたのですね(このあたりの経緯はまったく存じ上げませんでした)。プライドを持つことは決して悪いことではありませんが、相手もプライドを持つ社員です。三菱自動車社員の挑発的発言がなければ、(日産は軽四自動車で共同事業者だったわけですから)今回の燃費偽装事件はどうなっていたのか・・・と思うと、やはりコミュニケーション能力は重要だなあと思うところです。

当ブログでも「素朴な疑問」として、昨年11月に開発担当部門の2名の部長さん方が(開発目標の達成度合いを正直に報告しなかったとして)諭旨解雇となったことと、今回の燃費偽装事件との関連性について記しましたが、この昨年11月の解雇処分に至った顛末も書かれています(うーーーん、なるほど、そういうことだったのか。。。)

非常に勉強になったのはトヨタ自動車、マツダ、三菱自動車の元開発責任者の方々の実名による対談集ですね。これを読むと、なぜ燃費不正が三菱で起こって、マツダやトヨタでは起きないのか、ナットクします。フォードからやってきたマツダの経営者が、開発部門の業績をどのように管理したのか、また、「技術的にその目標は達成できません」と上司に報告することが許されない(雰囲気の)トヨタにおいて、なぜ開発部門が偽装に走らないのか、といったあたりはとても共感するところです(これ、旭化成建材さんのデータ偽装事件において、ひとりの現場責任者がデータ偽装に走り、もうひとりの現場責任者が一切偽装に手を染めなかった背景事情にとても似ています)。

また、このブログでもコンプライアンス経営における「行政との対応」をよく話題にしますが、やはり今回の三菱自動車と国交省のやりとりは、不祥事発生企業と行政との対応の重要性を物語る好例だと思います。ここはコンプライアンス担当者にはぜひ読んでいただきたいところです。行政というのは、国民から批判の矛先が向けられるとみるや、手のひらを返すような対応をとります。国交省が「手じまい」のサインを出したのですから、そこにうまく乗れればよかったのに、先日のブログでも申し上げたように、再報告においても行政の逆鱗に触れることとなり、「常軌を逸した不祥事だ」と国交省に言わしめるところまで来てしまいました(もちろん、この「続編」のところまでは本書では触れられていません)。

ここ20年にわたる三菱自動車さんの不祥事発生直後の経営者インタビューを掲載しているところも、企業風土を時間軸で考察するには非常に参考になります。ただ、誠実な社員の方が多いこともよくわかりましたので「企業風土」という括りが正しいのかどうかはなんとも。後半部分は過去の日経ビジネス誌の抜粋が多いのですが、日経ビジネス社だけでなく、日経オートモーディブ社、日経トレンディ社も含めた取材班構成なので、それぞれの専門色が各所に出ていて秀逸なノンフィクションに仕上がっています。三菱自動車の偽装事件にご興味のある方だけでなく、「この偽装事件は他の会社でも起きる」ということを考えさせられるところから、コンプライアンス経営に関心の高い方々にもお勧めできる一冊です。

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2016年9月 5日 (月)

ACFE年次カンファレンス2016「不正と闘う世界の原則」のお知らせ

さて、今年も私が理事を務めておりますACFE(公認不正検査士協会)主催による年次カンファレンスのお知らせをさせていただきます。ACFE JAPANのカンファレンスは今年でもう7回目となりますが、今年のテーマは「不正と闘う世界の原則」ということでして、COSOが公表する不正リスク管理ガイドに焦点を当てたものです。ご承知のとおり、COSOは2013年に大幅な改訂が行われましたが、今回はこのガイドライン策定に関与されたACFEの前CEOトビー・ビショップ氏をお招きし、ガイドラインの要点を解説していただきます(詳細はこちらをご覧ください)。

以下、引用になりますが、

COSO内部統制フレームワークは、内部統制のデファクトスタンダードとして広く認識されてきました。2013年に改定したフレームワークに対応して、今年COSOは不正リスク管理ガイドを公表する予定です(たぶん9月?)。カンファレンスでは、ACFEが深く関与したこのガイドに焦点を当てます。改訂版は、"Fraud Risk Management Guide as a supplement to COSO's Internal Control Integrated Framework"として、不正リスクに重きを置き、その内容にはACFEのナレッジが大幅に取り入れられる事が予想されます。基調講演では、改定プロジェクトのタスクフォースメンバーで、2005年当時、ACFE JAPAN 創立に全面的な支援を行った、ACFE本部 前CEOトビー・ビショップ氏を招聘、会場の皆様に直接、語りかける予定です。

とのこと。そういえば昨年はエンロン社の元CFOの方をお招きしましたが、カンファレンス直前になって日本国内に入国許可が下りず、たいへん焦ったのを覚えています。今回は、そういった心配は一切なさそうですね(^^;

なお、私も(脇役にすぎませんが)対談「企業不正リスクに挑む姿勢と覚悟」と題するパネルディスカッションで登壇させていただきます。かなり本業に近いテーマなので、法律家の立場から、いろいろとホンネで語らせていただきます。まだお席に余裕がありますので、10月7日の金曜日、もしお時間がございましたら多数ご参集くださいますようお願いいたします。

 

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2016年7月11日 (月)

点検 ガバナンス大改革 年金・機関投資家が問う、ニッポンの企業価値

9784532320935参議院選挙も終わり、アベノミクスの更なる施策が打ち出されることになりそうでして、成長戦略としてのガバナンス改革もスピードアップして推進されることが予想されるところです。

果たして「攻めのガバナンス」の施策が形だけで終わってしまうのか、それとも実質を伴ったものとして各企業に浸透して企業価値向上に結び付くのか、現時点までのガバナンス改革を検証しようと試みた一冊が本書(左写真)です。先週頃から書店に並ぶようになりました(追記 7月11日の日経朝刊一面 にも広告が出ています)。

点検 ガバナンス大改革 (R&I 格付投資情報センター編集部 編 日本経済新聞出版社 2,300円税別)

年金・機関投資家が問う日本の企業価値という副題が付されていますが、R&I格付投資情報センター編集部の方々のほか、機関投資家、経済学者、企業IR・SR担当者、シンクタンク研究者、法律家等により執筆されたものでして、私も第1章を担当させていただきました。野村総研の堀江貞之さんも執筆されていますので、こちらのNRIさんのご紹介内容が参考になります。私はガバナンス改革の理想と現実ということで、かなり現状に対して厳しめの意見を書かせていただきました。ホンネで書きましたので、内容的にはかなり面白いのではないかと。

弁護士25年目のある方が「社外取締役奮闘記」の中で経営判断原則とコーポレートガバナンス・コードとの関係などにも触れている点なども私的には興味深いところです(この弁護士の方は、ちなみに私ではございません)。オムロンさんのガバナンスといえば、同社の社外取締役である冨山和彦さんの論稿等がよく紹介されますが、本書では同社のコーポレートコミュニケーション本部長さんの視点から「ガバナンスを機能させるため」の方策が記載されているのも新鮮です。

ガバナンス改革において「機関投資家」と一口にいいますが、本書を読むと、機関投資家にも様々な立場があり、株主総会の環境整備や株主との建設的な対話などの問題にも、それぞれの立場によって微妙に考え方が異なることがわかります。単純にガバナンス改革を点検するだけでなく、今後企業価値向上に結び付けるための処方箋も示されているので、私自身も今後の参考にさせていただきたいと思います。

ちなみにR&Iさんは、6年ほど前のAIJ事件で、誰よりも早く「AIJはおかしな運用をしている」と同社「年金情報」で意見を述べた「骨のある」団体です(実際には金融庁が処分を行うまでは同誌での指摘はほとんど取り上げられなかったのですが)。ガバナンス改革の方向性に異論をはさむ人がほとんどいない今日、そのR&Iさんを中心として「このままでガバナンス改革は本当に企業価値向上に役立つのだろうか」といった問題意識を世に問う(警鐘を鳴らす)ことには十分な意味があるのではないでしょうか。私自身もいろいろと問題点を指摘しておりますので、(ここのところ本のご紹介ばかりで恐縮ですが)ぜひご一読いただけますと幸いです。

 

 

 

7月 11, 2016 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月 7日 (木)

よみがえる旧商法(月刊「企業会計」の特集記事のご紹介)

Dsc_0001今朝(7月6日)の日経新聞の広告にも掲載されておりました中央経済社「月刊企業会計」8月号では、「蘇る旧商法-会社法世代のためのコーポレートガバナンスの歴史」と題する特集が組まれております。今日、ガバナンス改革の中で主たる課題とされているテーマについてはそれぞれ企業社会に浸透してきた歴史がある、この歴史を見つめ直すことを通して、ガバナンス改革における「実質を伴うガバナンス改革」の方向性を検討しよう、といった趣旨で組まれた特集です。

月刊企業会計最新号(8月号)

表紙のとおり、私も「内部統制」に関するテーマで論稿を執筆させていただきました。大和銀行株主代表訴訟、神戸製鋼所株主代表訴訟の二つの裁判を取り上げて、内部統制というテーマが(法律の世界で)議論されるに至った経緯を、当時の(経済界が苦慮していた株主代表訴訟への対応等)時代背景とともに振り返る内容です。後半は内部統制を法的責任論として語るにあたっての今後の課題について個人的な意見を記しております。当月刊誌の主たる読者層である経理実務担当者、会計専門職の方々だけでなく、法律実務関係者の方々にもお勧めする一冊です。

各テーマをご覧いただければおわかりのとおり、いずれも近時の会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの実効性審議の中で熱く語られている事項に関連しているところでありまして、(少なくとも私以外のご論稿は)ご執筆者の個人的な見解も盛り込まれていて読み応え十分です。個人的には、自分が一番「ガバナンスの歴史との関連性を知らなかった」という意味で勉強になったのが会計監査人制度とストック・オプション制度でした。

今回の原稿執筆にあたって、弁護士会の図書館等で平成10年から13年ころの新聞記事や法律雑誌等を読み漁りましたが、「内部統制システム」という言葉が裁判所の判断で初めて出てくるのは大和銀行株主代表訴訟・・・・・ではなかったのですね。そのあたりの事情は、内部統制システムという概念が、当時の株主代表訴訟制度の法改正および法解釈の紆余曲折の中で登場してきた背景事情からわかります(意見の異なる法律家や企業実務家の中で、喜びととまどいをもって議論が進められていた点はおもしろいですね)。

大和銀行事件判決の伏線となる野村證券株主代表訴訟事件判決は、大杉謙一先生が「経営判断原則」のところで詳しく紹介しておられます。また、大和銀行事件判決の後の商法特例法における委員会等設置会社(当時)の議論については(毎度のことながら興味深い論点提示で)中村直人弁護士が執筆されています。さらに神戸製鋼所事件の裁判で有名な「和解における裁判所所見」が出された背景には、牛島信弁護士が執筆されている株主総会対策への社会的な要請があったこともわかります(当時の新聞記事を読むのもたいへん有益でした)。次の会社法改正の論点として「株主代表訴訟の在り方、濫用防止のための訴訟委員会制度の見直し?」といったあたりが熱く語られようとしている昨今、かつての株主代表訴訟の在り方を巡る熱い議論がなされていた時代に焦点を当てることにも意味がありそうです。

平成18年改正会社法に慣れ親しんでいる私たちにとって、「目からうろこ」のお話がたくさん登場するところでして、現在のガバナンス改革を少し異なる視点から考えるうえでは有用な一冊ではないかと思います。ご興味がございましたら、ぜひともご一読いただければ幸いです(ちなみに「企業会計」は全国書店にて発売しております)。

7月 7, 2016 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年6月28日 (火)

監査役の覚悟-新刊書のご紹介

Kansayakukakugo_3月刊監査役の最新号(7月号)に掲載されている加護野忠男先生(神戸大学名誉教授)のご論稿「監査役制度をなくしてしまってもよいのか-東芝の失敗から何を学ぶか」を拝読しました。加護野先生のご著書「経営の精神」「経営は誰のものか」を読み、大いに共感する者として、あらためて監査役制度こそ適切に運用されることが「費用対効果」の点からみてガバナンス上とても重要だと改めて認識いたしました。

さて、写真の新刊書を執筆者の方々よりご献本いただきました(どうもありがとうございます)。業界紙でもすでに紹介され、アマゾンでも売り切れ状態となっておりますので、私などがご紹介するまでもないとは思うのですが、拙ブログにお越しの皆様方にとりましては待望の一冊であります。

監査役の覚悟 (高桑幸一、加藤裕則編著 同文館出版 税込2,051円)

監査役制度に詳しい監査役、監査役OB、新聞記者、法律家等による具体的な事例を通しての監査役制度への提言や自らの体験談等が盛りだくさんに詰まっています(個々の執筆者名は本書末尾に記載されています)。監査役の皆様方にとっては有名な事例であるT社のF監査役(元)のインタビュー記事や特別寄稿も掲載されており、監査役にとっては「あたりまえ」の会社法上の権利行使が(企業価値毀損を防ぐために)いかに大切な武器であるかが理解できます。「覚悟」という言葉がタイトルに使われていますが、これは監査役に就任した者の覚悟を示すだけでなく、本書を執筆された方々の「覚悟」も含まれているのですね(ちなみに編著者の高桑さんは電力会社の現役の常勤監査役さんです)。

また、本書を読むと決して特別な度量の持主しか「覚悟」を持てないのではなく、ごく普通のサラリーマンの方が監査役に就任した場合でも、ごく普通に「俺だって覚悟をもって仕事ができるんだ」と感じさせてくれます。本業で、ある会社の監査役会を支援しましたが、その会社の常勤監査役さんは、社長に対決姿勢を示す(株主総会当日に、後発事象に関する違法性監査の報告をする)にあたり、F氏の監査役としての行動が支えになっているとおっしゃっていました。

現実の企業社会において、監査役はあいかわらず「閑散役」的な地位にある、という現状認識のもとで、監査役が社会から期待される役割を果たすためには何が必要なのか、F氏の具体的な事例を題材にしたストーリーから考えています(なお、具体的な事例については関係者の利益に配慮して本書では少し修正されています)。 オリンパス社の損害賠償請求訴訟の顛末を取材した加藤記者の報告、子会社監査役として、日本を代表する著名企業(親会社)に一定の監査ルールを策定させた監査役OBの報告等、これから監査役や監査等委員に就任される方にとって、ぜひともお読みいただきたい内容です。いや、監査役だけでなく、新任取締役、新任の社長さんにも、監査役というのはこのような職責を負うものである、ということを知っていただくために、お勧めしたい一冊です。

私も現在、(産業競争力強化法に基づく株式会社ではありますが)社外監査役を務めておりまして、私自身はそんなに意識していないものの、執行役員の方々からは「ずいぶんと厳しいことを指摘する監査役」と言われます。なにか問題が生じるたびに「あ、そんなことをすると山口監査役に怒られるぞ」といったフレーズが経営会議でも(半分笑い話として)飛び出すそうで、私も社外監査役という立場上「嫌われ役」でもいいかなぁと覚悟しております。でも会社をよくしたい、という気持ちは社内執行部の方々と同じですから、情報だけはきちんと取得できるように、執行部との信頼関係を維持すること(執行部の苦労にも配慮すること)には留意していきたいですね。スキルとか経験ということよりも、「覚悟」や「勇気」という意味において、私自身も本書を監査業務の参考にしたいと思います。

 

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2016年5月14日 (土)

「内部告発の時代」-オリンパス現役社員いよいよ浮上!

222127_2(5月14日午前 追記あります)

さて、いよいよ待望の一冊が本日発売されました(アマゾンさんでも発売開始となりました)。拙ブログでは組織別閲覧回数解析で常にベスト10に入っているオリンパスさんですが(いつもお世話になっております<m(__)m>)、本日はあえて本書をご紹介させていただきます。

内部告発の時代(山口義正、深町隆著 平凡社新書 840円税別)

オリンパス事件の内部告発といえば、あの「高裁逆転判決」の浜田さんが有名ですが、この深町さんは、マイケル・ウッドフォード氏が主役となったオリンパス社の「損失飛ばし・飛ばし解消」による会計不正事件を最初に内部告発された方です(今も現役のオリンパス社員の方なので、もちろん仮名です)。オリンパス事件を最初に報じたマスコミはFACTA誌でしたが、同誌に記事を持ち込んだフリージャーナリスト山口義正氏に情報提供をされた方です(山口氏のご著書「サムライと愚か者」 でも告発者として登場されましたね)。本書では第Ⅰ部を「内部告発をめぐる現在」として山口義正氏が、そして第Ⅱ部を「オリンパス事件の真相」として深町隆氏が、それぞれ「書き下ろし」ています。

なんといってもオリンパス会計不正事件がどのような経緯で明るみに出てきたのか、損失とばし・隠ぺいに関与していたとされる役職員の方々は、いまどうしているのか、これまでマスコミでも明らかにされていなかった事実が満載です(正直申し上げて、大手の監査法人、法律事務所の先生方は、読むのが嫌になるかもしれません。第三者委員会や責任調査委員会設置に関する経緯なども刻銘に記されています。私に直接、オリンパス事件の会計処理を丁寧にご解説くださった会計士の先生なども登場しますので、本書をご紹介するのがやや複雑な心境ではあります。。。)

また、新事実は深町氏の執筆部分だけでなく、山口氏の執筆部分にも驚くべき内容として出てきますので、オリンパス事件の真相は両方にまたがって記されています(たとえば情報管理の最先端を行くグローバル企業でも、こんな形でいとも簡単に重要情報が漏えいしてしまうとはオソロシイ・・・)。山口氏の執筆部分では、内部告発者の現実(正義を貫くという「きれいごと」だけでは済まない告発者と支援者との現実)なども紹介されており、社内通報の危うさ、弁護士等専門家を活用することの難しさ、そして公益通報者保護法の限界等、私にとっても耳の痛い話が登場します。

深町さんご自身による執筆部分をお読みになればおわかりのとおり、深町氏の財務、経理、法務に関する知識、知見のレベルはかなり高いと思われます。つまり、このような企業の中核(?)に現役でいらっしゃる社員の方が、2005年ころから今日まで、どなたか特定されずに普通に仕事をされている、ということです。なぜそのようなことが可能なのか?それは本書をお読みになるとおわかりになるかと思いますし、そのあたりが山口義正氏の執筆部分とつながる面白さになります。企業側からみても、内部告発リスクというものを、どのように考えるべきか、非常に参考になるはずです。

どうすれば上手に内部告発ができるか、これから内部告発を考えていらっしゃる社員の方や内部告発リスクを管理したい企業実務家の方々、そして経営者や法律家、会計専門職の方々にも、多くの示唆を与えることは間違いありません。ぜひともご一読いただきたいお勧めの一冊です(なお、本書は平凡社さんからご献本いただいたことを最後に付言させていただきます)。

(5月14日午前 追記)本書は私が最初にご紹介したと思っておりましたが、朝日新聞「法と経済のジャーナル」にて、私よりも早く紹介されていたようです。こちらはプロの記者の方が紹介されています。

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2016年3月 1日 (火)

粉飾決算-問われる監査と内部統制

Funshokukessann001東芝会計不正事件に関する第三者委員会報告書によると、PC部門の赤字見込みの報告を受けて、当時のCEOが「こんな数字は恥ずかしくてとても外に出せない」と言い、これを聞いた現場が粉飾に走ったそうです(同報告書222頁)。いっぽう日立社は1985年から2010年までの間、合計6回の赤字決算を公表し、なかでも1998年には大幅な損失を計上して改革への機運が高まったそうです。東芝さんも日立さんも、同じ監査法人が担当していたわけですが、会計監査人として、東芝さんの監査を継続する上でこのような両社の業績の違いをどのように受けとめておられたのか、とても興味深いところです。

さて、当ブログにお越しの方々にとっては、まさに「ど真ん中ストライク」の一冊をご紹介します。過去「不正を許さない監査」「会計不正」(いずれも日本経済新聞出版社)など、当ブログで何度も引用させていただいた浜田康氏の新刊です。一般の方々に「法と会計の狭間の問題」を知っていただきたい、とりわけ序章でも触れられているとおり、法律専門家があまりにも会計を知らない、少し会計のことを勉強していただきたい、との思いから、最近の粉飾決算事例をもとに監査の在り方、企業の内部統制の意義について極めてわかりやすく書き下ろされたものです。

「粉飾決算-問われる監査と内部統制」(浜田康著 日本経済新聞出版社 2,400円税別)

まず驚くのは468頁に及ぶ力作であるにもかかわらず、このお値段。本書には読者の理解を進めるために多くの図表が掲載されていますが、そのほとんどが著者オリジナルということからしても、この価格は驚異的です。著者の浜田氏は、中央青山監査法人、あずさ監査法人で代表社員を務められた後、現在は青学大学院会計プレフェッション研究会で教授を務めておられます。468頁のどこを読んでも、浜田氏の粉飾決算に関するオリジナルな見解(第一次的情報)にあぶれています。長銀事件最高裁判決に対する(元金融機関の監査人としての)「公正なる会計慣行」の捉え方への疑問、三洋電機損害賠償事件判決に対して「経営判断原則」を適用することに関する疑問(これは拙著「不正リスク・有事対応」でも疑問を呈しているところですが)などもたいへん興味深いのですが、おそらく読者の関心が一番向けられるのが東芝会計不正事件に対する監査の在り方(140頁に及ぶ)ではないでしょうか。ひょっとすると、本書を一番熟読されるのはS有限責任監査法人の関係者の方々かもしれません。

東芝事件について、企業側に焦点を当てた書籍はすでに発売されていると思いますが、会計監査人として「どのように監査をすべきだったのか」という点に光を当てて書かれた本は初めてだと思います。具体的には工事進行基準の適用、PC部品取引(有償支給取引)に対する監査をとりあげておられます。先日、東芝の会計監査人に行政処分が下されたわけですが、本来ならばこのような監査をすべきだったのに、それができなかった、つまり監査上の重大な不備があったと具体的に解説をされているところが本書の醍醐味です。できることなら、本書で浜田氏が指摘している「監査上の不備」とされている諸点について、当該監査法人さんからの公式な反論を聞いてみたいところです。本書が468頁に及ぶ大部となったのは、長銀事件、三洋電機事件、東芝事件いずれにおいても、会計素人である読み手に「実はこのような問題があるのです」と理解させるための浜田氏の熱意によるものであることが(読み進めているうちに)わかります。

これからの会計処理は、ますます経営者の見積もり、将来予測、公正価値評価に依拠せざるをえません(それが会計制度に与えられた社会的使命である相対的真実主義の帰結だと思います)。しかし、粉飾決算は犯罪であり、最終的には司法による会計制度への介入は避けられないのです。だからこそ粉飾決算を防止するためには経営者の倫理観、企業の自浄作用に(まずは)委ねられるべきです(司法制度が会計制度に介入することの副作用の大きさが、本書では長銀事件最高裁判決の再検討、三洋電機事件判決の残された課題へのアプローチで示されています)。つまり会計制度の適切な運用のために、経営者には特権が付与されているのであるからこそ、その特権は誠実に行使されなければならない(誠実性に疑問が生じた場合には自浄作用を発揮しなければならない)、ということがよく理解できます。そして監査制度においても、監査法人は自らの失敗を認め、どこに原因があったのか、徹底した自浄作用をもって調査を行い、その結果を社会インフラとして公表していくべき時代が到来しつつあるのではないかと感じます。必読の一冊であります。

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2016年2月 3日 (水)

本林塾講演録・新時代を切り拓く弁護士(商事法務)

Ew448lo廃棄カツ横流し事件や情報漏えい事件等、企業の危機対応の仕事が重なっておりまして、ブログを書く時間がとれない状況ですが、本のご紹介だけさせていただきます。

本林徹弁護士(元日弁連会長)からお誘いを受け、昨年「若手の弁護士、弁護士を目指す人たちにビジネス法務のおもしろさを伝えてほしい」との趣旨に賛同し、同弁護士が主催する会合で講演をさせていただきました。このたび、様々な分野のビジネス弁護士による「本林塾」での講演録が一冊の本にまとめられ出版される運びとなりました。

本林塾講演録・新時代を切り拓く弁護士(本林徹編著 商事法務 2,300円税別)

商事法務さんのHPでの紹介文は、

編者が主宰した「本林塾」において、ビジネス法務の最前線で活躍する弁護士10名が行った講演録をまとめたもの。コンプライアンス、海外進出、危機管理・第三者委員会、企業再生、知的財産権、独禁法、M&A、社外取締役・社外監査役などビジネス法務全般を第一線の弁護士が解説。

とのこと。推薦文を書かれた方々の顔ぶれも豪華。私は社外取締役・社外監査役に関連するお話をさせていただきましたが、もう少しページがあればD&O保険の実務についても述べておきたかったところです(今年、おそらく話題になるかと)。

正直申し上げて、私以外はまちがいなくビジネス法務の最前線で活躍されている方ばかりです。ほかの方の講演録を読みましたが、法律家という職業が「職人芸」として大好きなのは皆様共通しているのですね。私はフラフラしながらいつのまにかコンプライアンスやガバナンス関連の分野で仕事をしているわけですが、「気がついたら○○の専門家になっていた」という経歴をお持ちの方が私以外にもいらっしゃるようです。

「こうなりたい」といった熱意が私になかったものですから後悔することも多いです。某社委任状争奪戦の際、海外ファンド側社外取締役候補の打診を受けましたが、語学力が不十分で「若いときに留学しておけばなぁ・・・」と思いながら断念しました。ただ、今はあつかましいので、(知り合いの通訳さんと二人三脚で)海外ファンドとコミュニケーションはとれる!なんとかなる!と前向きに考えますね。秘密特権や法律作成文書保護が問題とならない限り、経歴不足は人脈でカバーできる、と考えるようにしています。

私も含め、講演者10名全員が無償で講演録の執筆に従事しましたので、本の分厚さと比較しますと手ごろなお値段になっております。多くの方にお読みいただければ幸いです。

2月 3, 2016 本のご紹介 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2016年1月23日 (土)

コーポレート・コア・コンピテンシーで考える企業成長戦略と企業の期待価値向上

9784569828473世界陸上の銅メダリストでいらっしゃる為末大さんの著書が大好きで、対談集まですべて拝読しているのですが、為末さんの「走りながら考える」(ダイヤモンド社 2012年)の中で、ご自身が400メートル障害を選択した理由が詳細に語られています。中学生までは100メートルで負けたことがなかったそうですが、次第に後輩にも抜かれるようになって限界を感じ、自分が世界で闘える、自分の強みを発揮できる場を模索した結果として400メートル障害にたどりついたそうです。

私はこの為末さんの考え方に共感を抱くものですが、企業経営においても、弱者が強者に勝つのが戦略であり、そのためには企業として一点に集中し、そして他社(強者)と差別化することが重要、いや不可欠だと認識しています。本書の著者でいらっしゃる三鍋伊佐雄氏は、私が社外取締役を務める大東建託株式会社の前社長ですが、私が取締役に就任する前に退任され、ボードでご一緒したことは全くございません。ただ、同氏の前著「弱者が勝つ戦略」を拝読して以来感銘を受け、同社とは全く関係のない場所で多くの経営における考え方、ビジネスの発想について有益な示唆をいただいております。その三鍋氏の新著が、先日発売されました。最近のコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードに従えば企業価値が向上するのだろうか、KPIとしてROEを信奉していれば持続的成長は図られるのだろうか・・・と疑問を抱いていらっしゃる経営幹部の皆様にはぜひお勧めしたい一冊です。

コーポレート・コア・コンピタンシーで考える「企業成長戦略」と「企業の期待価値向上」(三鍋伊佐雄、竹内朗 著 PHP研究所 1,600円税別)

近時のガバナンス改革の中で「企業価値」が語られることが多いのですが、本書は上場会社、非上場会社すべてを対象として「企業価値」(=すべてのステークホルダーからみた期待価値)の向上を語っています。たしかにガバナンス・コードが示す指針は上場会社向けであり、では日本における圧倒的多数である非上場会社にとって企業価値を向上させるためにはどうすべきか?ということには何ら応えられていません。著者は、ガバナンス・コードが示すものは「企業価値向上」ではなく「(株主からみた)投資価値の向上」であり、それは企業価値の一要素にすぎないと捉えています。私も以前当ブログで「業務執行社外取締役待望論」を書かせていただきましたが、三鍋氏も(会社法では「社外取締役」とは認められない)社外取締役の有用性を高く評価しておられます。

本書は机上のお勉強の本ではなく、ビジネスに直結する実践的かつ現実的な回答を用意しています。取締役会評価の手法等にも言及されており、ガバナンス・コードを実施する取締役会の実効性評価手法としても参考になります。なんといっても、企業の持つ「固有の強み」に焦点をあてており、筆者はこれをCCC(コーポレート・コア・コンピテンシー)と指摘します。古くから言われている「コア・コンピテンシー」や「コーポレート・アイデンティティー」のような単なる「企業の存在意義」といわれるものをもう一歩進めて(表紙にも掲載されていますが)「CCCとは、わが社がわが社であり続けられる企業存立の理由」と定義付けています。本書では、この企業存立の理由をきちんと見出すための道すじも解説されています。

「なぜ我が社のいまがあるのか」「何が評価をいただいているのか(いただいてきたのか)」ということを明確に言葉として整理することこと「今日以降の企業経営を、たとえ社長が代々承継していったとしても、顧客や地域住民と共感し続け合って存続」していくことを確かなものにすると主張されています。これがまさに「CCC」の真髄とされ、三鍋氏の前著にも通じるところがあり、この点にとても共感するところです。もともと企業に存在する強み(財産)に再度照準を当て、この財産を再度有効活用することで「自社が勝てる領域、勝てる方法」を見出すことはマネジメントとして重要なものと考えます。コーポレートガバナンスの構築がいろいろと議論されていますが、著者は「長所を伸ばすためには必要だが、業績の悪い会社が弱点を補強する目的でガバナンス改革を行っても逆効果だ」と断言しています。監査等委員会設置会社への移行会社が310社を超える今、この三鍋氏の意見は私も全く同感です。

さらに、本書に厚みを持たせているのが企業法務で有名な竹内朗弁護士の共著部分です。これまで会社法や金商法の世界で語られてきたガバナンス論、いわゆる「守りのガバナンス」の視点から「三鍋ガバナンス、三鍋内部統制システムの世界」に光をあてています。なるほど、竹内先生のコメントやコラムがあるからこそ、まさに本書が本書であり続けられる存在理由が明確になっているのですね。著書は原則として「非上場会社」の方々に向けて書かれたそうですが、上場会社の経営に携わっておられる方々にも、たいへん有益な一冊だと自信をもってお勧めいたします。

1月 23, 2016 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年10月14日 (水)

お勧めの新刊書(ガバナンス・コンプライアンス関連2冊)のご紹介

4785723408ひさしぶりの新刊書のご案内でございます。本日はお勧めの2冊をご紹介いたします。まずは2年ぶりに改訂いたしました「社外取締役ガイドラインの解説(第2版)」(商事法務)をご紹介いたします。みなさまご承知のとおり、平成26年改正会社法、コーポレートガバナンス・コードの策定に伴いまして、日弁連「社外取締役ガイドライン」が今年改訂されました。今回も、改訂されたガイドラインについて、社外取締役に就任された方、また今後就任を希望している方向けにわかりやすく解説をいたしました(私もふたつの章について執筆しております)。近時のガバナンス改革対応、とりわけ(この表現も最近はやや疑問が呈されておりますが)「攻めのガバナンス」に役立つ社外取締役の姿を想定した解説なので、旧版とはかなり内容も修正されております。「肝心のガイドラインが添付されていないではないか」とお叱りを受けていましたので、第2版では参考資料として改訂ガイドラインも添付しております。

改訂の中心は、やはりなんといっても「第3 社外取締役の具体的活動の指針」でして、通読して勉強していただく、ということでも、また具体的な事象が発生した際に、ガイドラインとして参考にしていただく、という使い方でも結構かと思います。監査等委員会設置会社における取締役監査等委員の方々に向けた具体的活動指針、ガバナンス・コードへの対応指針なども参考になるものと思います。このたびのガバナンス・コード補充原則4-14①でも、社外取締役はその知見を深めるための研さんに努めるべき、とされています。まさに本書を熟読いただき、コードにコンプライしていただければ幸いでございます。どうかよろしくお願いいたします。<m(__)m>

10051246_5611f29c6367dさて、もう一冊は帯書きのとおり(ちょっと恥ずかしいのですが)、私のお勧めの一冊でございます。私の前著「国際カルテルが会社を滅ぼす」の共著者である龍義人氏と、危機管理対応で著名な西村あさひ法律事務所の平尾覚弁護士との共著「競争法グローバルコンプライアンス」(レクシスネクシス)です。米国、EUだけでなく、中国、オーストラリア、ロシア、韓国等、日本の国際カルテルリスクはますます顕在化しています。反社会的勢力リスクと同様、海外カルテルリスクは、経営者が実感しにくいものであり、顕在化して初めて「少しは対策をしておけばよかった」と反省する不祥事の代表格です。先日は東証1部上場会社の元経営者の方が禁固刑を言い渡された について司法取引を行った例もご紹介しました。

本書は、前著「国際カルテルが」の発展版としてレクシスネクシスのメールマガジンで龍氏が連載していた記事を一冊にまとめたものですが、そこにカルテル事件の最前線を知る平尾弁護士が(かなり詳細に)解説を加えておられます。法律家向けの学術書ではなく、一般の企業法務担当者や経営者向けに書かれたものでして、いま日本企業が直面している国際カルテルの概要を短時間で効率的に知るには最良の一冊です。また、単に「知る」だけでなく、平時にこそ備えるべき国際カルテル防止体制を「構築する」ためのツールとしての意義も十分に認められるものと確信いたします。ぜひとも「即戦力」として参考にしていただければ幸いです。

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2015年5月21日 (木)

会社法罰則の検証~会社法と刑事法のクロスオーバー

Crossover会社法上の規範が企業活動ルールの遵守にどれほどの効果を持つのか・・・、企業コンプライアンスに携わる実務家としてはとても関心のあるテーマです。このたび、会社法罰則の検証を主たるテーマとして、会社法と刑事法の学者の方々が中心となり、さまざまな視点から会社法罰則の在り方について論じた新刊書が出ました。

会社法罰則の検証-会社法と刑事法のクロスオーバー(日本評論社 山田泰弘・伊東研祐編 5,200円税別)

会社法秩序を取り巻く環境変化、刑事行政における経済犯罪の積極的な刑事事件化の方向性などから、①会社法の規制方法の変容と刑事法によるエンフォース、②会社法の規制対象の変容と刑事法によるエンフォース、③会社法規範のエンフォースの実際、そして④会社の規律方法の重層化と刑事法によるエンフォースという4つの視点で「会社法罰則」を検証するというものです。いずれのテーマも当ブログ開設以来、私個人としても関心の高いものでして、ブログ作成のヒントにも活用させていただいております。

実は私も、このうち「会社の規律方法の重層化と刑事法によるエンフォース」の中の1章を担当させていただいております。企業法務の実務家の視点から・・・ということで、内部統制やコンプライアンス経営が進む企業において、はたして刑事法による規律が必要なのか、必要であるとすればどのような場面か・・・ということについての問題提起をさせていただきました。

Img_0440ちなみに著者の方々は左のとおりでして、格式の高い学術書であることを申し上げておきます(私も担当している、ということでかなり柔らかめ・・・といった誤解を招くといけないと思いまして)。この本を出版するきっかけとなりましたのは、法律雑誌「法律時報」2012年10月号の特集「(会社法改正から)取り残された会社法罰則の検証」が好評だったそうで、その特集を担当された法律学者の皆様が、一冊の本に企画されることになりました。「ひとりくらいはコンプライアンス経営を扱っている実務家を入れてもいいだろう」といったことから、お声がかかった次第であります。正直申しまして、他の第一線の先生方の本格論文とはレベルが違うかと思いますが(笑)、そのあたりは「コラムがひとつ混じっている」程度に大目に見ていただければ幸いです(^^;

ソフトローの効用が本格的に議論され、またプリンシプル規制などが本格的に導入される現在、「なぜ会社法に刑事罰が必要なのか」を問うことは、今後の法改正の本格的な議論にも活かされるものと確信しております。学際を越えた検証がなされた意味は大きいと感じます。ご興味のある方に、ぜひともお読みいただきたい一冊でございます。

5月 21, 2015 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月23日 (木)

もろもろへのお礼とお知らせ

いつも拙ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

日曜日の病気完治・退院以来、多くのメールを頂戴いたしまして誠にありがとうございます。突発性難聴の経過も特に問題はなく、主治医の先生からも太鼓判を押していただきました。

Img_0286さあ、これから本の宣伝を!といった矢先の緊急入院だったもので、ブログで広報することもなかったのですが、少しだけお知らせがございます。

左は大阪高裁内ブックセンターの入口棚です。さすが地元!私の新作と旧作のフェアを開催していただいております。(間の「検証 防空法」は私のものではございませんが・・・)。店長さん、どうもありがとうございます。<m(__)m>

国際カルテル、不正リスク、会社法改正、いずれの本もおかげさまで売上好調でして、「国際カルテル」は共著者である井上先生(ベーカー&マッケンジー)が日経新聞等でコメントされたりしている関係のほうが大きな要因ではないかと思います。

あと、「不正リスク管理」のほうは、法務ブロガーとして著名なdtkさんのブログで書評が掲載されておりますので、甘辛含めてご参考にされてはいかがでしょうか。そうか・・・あの「ビジネス法務の著者」というポジションをもっと前面に出したほうがよかったですかね?そのあたりに違和感を抱かれる・・・・とは思いもよりませんでした。社外取締役の議論については、本書の主題との関連性のみにとどめ、アベノミクスとの関係での私見はなるべく控えました。今後の執筆の参考にさせていただきます。<m(__)m>

Img_0287_2ちなみに左の写真は週刊東洋経済の今週号(10月25日号)です。「国際カルテルが会社を滅ぼす」が紹介されました。一部、写真に修正を加えております。東洋経済の書評は、まったくコネが利かないので、正直、たいへんうれしいです。今頃になって掲載されていることに気が付きました。

どの本も、甘辛含めて、いろんなところで書評が掲載されたらいいなぁと。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

10月 23, 2014 本のご紹介 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2014年10月22日 (水)

虚業-小池隆一氏が語る「企業の闇と政治の呪縛」

20141008g664「こんな本、読んだら体に悪くないの?」とあきれられながらも、入院中に嫁さんに買ってきてもらい、夢中で読了した一冊です。弊職、最新の旬刊商事法務(10月1日、15日合併号)に「企業における反社会的勢力の疑惑解明に向けた内部統制の整備-近時の判例等を踏まえて-」と題する論稿を掲載いただきましたが、本書は(論稿でも触れている)企業の反社リスク管理を考える上でも参考になる話が満載です。

虚業 小池隆一が語る企業の闇と政治の呪縛(七尾和晃著 七つ森書館 1,700円税別)

拙ブログをお読みの方の中にはご記憶の方もいらっしゃると思いますが、小池隆一氏は1997年の商法違反(不正利益供与)事件で服役した「伝説の総会屋」であり、同事件では、第一勧銀、野村証券等、企業側で逮捕された者は32人にも及びました。本書は、小池氏と8年間にわたり交友してきた著者七尾和晃氏が、総会屋時代、そして総会屋から合法的なコンサルタントに転身した時代の小池氏の暗躍に焦点をあて、小池氏自身の言葉で「必要悪の数々」を語ってもらったところを綴ったものです。企業から必要とされて(バブル崩壊の後始末のために)総会屋として暗躍した前半部分もおもしろいのですが、合法的コンサルタントとして、これまで(表に出ずに)暗躍してきた後半部分の小池氏の活動のほうが私的には非常に興味深いと感じました。ここ数年の経済事件との関連で、企業名や政治家名も実名でたくさん出てきます。

上記論稿でも述べましたが、反社会的勢力との接触リスクについては、多くの本で「リスクの重大性」については周知されているところです。しかし「リスクの発生可能性(発生確率)」について語られた本はあまりありません。どうして企業は反社会的勢力とつながってしまうのか、そもそも反社会的勢力とつながってしまったことはどうすればわかるのか、という点です。我々は、どうしても頭の中で「反社会的勢力」とはこういったもの・・・という虚像を作ってしまいがちですが、本書を読み、その実像はもっと企業にとって「ありがたいもの」「役員、社員にとって個人的に身近なもの」そして語弊はありますが「親しみやすいもの」であることがわかります。

ここからは私の感想ですが、コンプライアンス経営が叫ばれる時代になればなるほど、反社会的勢力は「コンサルタント」の名を借りて暗躍するチャンスが増えるように思います。そういった実例が本書に登場します。また、小池氏は社会から「反社会的勢力」とレッテルを貼られてしまうわけですが、本書にはこの小池氏をうまく利用するフィクサーが前半、後半に一人ずつ登場します。このフィクサーの登場がまさにリアルであり、どこの企業も反社会的勢力と接触をもってしまう可能性があることを再認識させてくれます。さらに、東京オリンピック、ODA(政府開発援助)、地方分権が、今後の反社会的勢力を増幅させるきっかけ、そして御社と反社会的勢力とがつながる発生可能性を高めるきっかけになるのではないかと。

日本には国内外の政治家に圧力をかけるロビイスト、資金豊富なNPO団体が存在しないため、企業がグローバル競争に勝ち抜くためには、どうしても反社会的勢力の力を借りなければならない場面が出てくるのではないか。もちろん合法的なコンサルタントという仮面をかぶった反社会的勢力のことです。そこで足元をすくわれないために、企業は平時から何をすべきなのか・・・、役職員の個人的倫理観と社会のコンプライアンスの風潮が抵触する場面等を想定して、たとえ反社会的勢力とのつながりが生じてしまったとしても、最悪の状況だけは切り抜けられる企業の知恵を学ぶことが大切ではないでしょうか。(帯では佐高信氏も絶賛されていますが)不正リスク管理に関心の高い方々には自信をもってお勧めする一冊です。

10月 22, 2014 本のご紹介 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年9月29日 (月)

不正リスク管理・有事対応-経営戦略に活かすリスクマネジメント

L13687_2さて、秋の新作3部作の最後にご紹介しますのは、私の本業にもっとも近いところである、不正リスク、有事対応に関する経営者向けの新刊書です。いよいよ東京地区は10月2日、全国では10月3日より書店に並ぶことになりました。

不正リスク管理・有事対応-経営戦略に活かすリスクマネジメント (山口利昭著 有斐閣 2,592円)

有斐閣さんといえば、もうかれこれ30年近く前になりますが、司法試験受験生として、鈴木・竹内会社法、大塚刑法、平野刑訴法、鈴木手形法、松坂民法など、まさに多くの基本書としてお世話になりました。弁護士になって24年。まさか有斐閣さんから単著で本を出版できるなどとは夢にも思いませんでした。しかも江頭先生の「株式会社法」と同じ書籍第1部により、編集いただき、苦節2年(?)、いまここにようやく350頁の書物を世に出すに至りました。本業に近いところのテーマを扱っておりますので、本書を出すにあたっては、多くの方々のご協力のもとで成しえた一冊です。この場を借りて、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

まず、形式的な点から申し上げますと、素晴らしい紙質です!30年ほど前、あれだけ線を引き、マーカーを引き、付箋を張り直したにもかかわらず、裏写りしなかった伝統技術(?)が活きており、「これで350ページ?」と疑うほどに薄く仕上がっています(これは私も驚きました)。

次に、中身についてですが、詳しい目次はこちらの有斐閣さんの紹介ページをご覧ください。本書の特徴は、リスクマネジメントに予算をつける経営者向けに執筆した点です。管理部門にどんなに優秀な人材が揃っていても、経営者が営業や技術開発と同様、リスク管理にも予算を配分する気持ちにならなければ人材が活かされないという現実に常に直面しているわけでして、どうすれば、経営者が不正リスク管理に予算をつける気持ちになるだろうか?といったことへの解決策を提案しています。副題にある「経営戦略に活かす」というのは、やはりリスク管理が儲けにつながる・・・という点にかなり力点を置いていることを示しています。「はしがき」の冒頭部分のみご紹介いたしますと、

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経営者向けということですが、もちろん多くのビジネスマンの方々にも、「不祥事は起きることを前提に平時から考える」重要性を理解していただければと思っています。マスコミで大きく報じられる企業不祥事ばかりに目が向きますが、不祥事が発生しても、小さな芽の段階でこれを摘み、マスコミに報じられないうちに社内で解決できた事例のほうが圧倒的に多いわけでして、こういった事例をも参考にして本書を書きました(帯にある「不祥事はどこの企業でも起きる」というのは、そういった意味を込めています)。また、リスクがあるから新たな事業に進まないのではなく、リスクを承知のうえでリスクをとりにいく経営者を応援することを目的として「トライ&エラー」の手法によるリスクマネジメントをお勧めしています。

どうか多くの方々にお読みいただき、私の問題意識へのご意見をいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。<m(__)m>

9月 29, 2014 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年9月24日 (水)

ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン

Grayzoon009さて、秋の新作第2弾でございます。もうすでにアマゾンでも予約販売が開始されておりますが、会社法改正を楽しみながら学んでみよう・・・ということで、このたびレクシスネクシス社から「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」なる本を出版することになりました。私の4冊目の単著本となります。

ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン(山口利昭著 2,592円 レクシスネクシス)

タイトルのとおり、ブログの延長のような一冊でして、アマゾンの頁に詳しいテーマが掲載されておりますので、そちらをご参照ください。会社法務に関心のある企業実務家の方々に向けて書かせていただいたものなので、できるだけ平易に書いたつもりですが、テーマの中にはやや難しい議論なども含まれているので、どこからでも、ご関心のあるところからお読みいただければ幸いです(後ろの章から読んでいただいても、なんら問題ございません)。

単純に会社法改正の項目を解説したものではなく、ひとつの中心テーマを設定して、そこから各改正項目に派生する、というスタイルをとっています。その中心テーマというのが、「会社法のエンフォースメント」です。会社法はもちろんハードロー(国家権力によって実効性が担保されている法律)ですが、本当はこの会社法の中に、いろいろなソフトローが含まれているのではないか、そのソフトローが紛争の未然防止の役割を果たしているのではないか、といったことを考えてみました。会社法のグレーゾーンを知り、これを使いこなせる企業こそ、「儲けてナンボ」の競争に勝てる企業になるのではないか・・・といったことなど、さまざまな会社法改正項目を題材にして語っています。

なかには「これがなんで会社法改正と関係あるの?」と思われるテーマもありますが、そのあたりは最近の私の興味ということで、ご容赦ください(^^; また、「ジュリスト10月号の発売とどうして同じ時期に出すの?」というツッコミもあるかもしれませんが、焦点が全然違いますので、そのあたりもご理解いただければと。。。 もう少し時間があれば、最近のコーポレートガバナンス・コードの策定などにも触れたかったのですが、そこまで言及できていないところがやや残念です。現在改訂中のOECDコーポレートガバナンス原則と(旬刊商事法務の最新号で高山与志子さんが解説されておられた)取締役会評価制度との関係など、今後の議論に極めて重要なポイントなどは、また本書出版後に当ブログで補完させていただこうかと思っています。

なお、10月21日(火曜日)の午後、大阪におきまして出版記念セミナーを開催する予定でして、このセミナーでは非常にお得な参加費で本書一冊がプレゼント(!)されます。なので、関西近辺の方で、当セミナーにご参加されます方はご注意ください(笑)。書店販売開始日、セミナー開催場所等、詳しくはまた告知させていただきます。どうか宜しくお願いいたします。

さて、そして秋の新作第3弾は・・・。来週いよいよ告知させていただきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました<m(__)m>

9月 24, 2014 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年8月 4日 (月)

起業のエクイティ・ファイナンス-磯崎哲也さんの新刊

028254thumb208xauto24617本日の日経新聞ニュースによりますと、昨年の同時期と比較して未上場ベンチャー企業の資金調達額が2.4倍(リサーチ会社調べ)に達しているそうです。それもそのはず、(発表はもう少し先になりますが)こんな私でも、この秋から某社におきまして、ベンチャーキャピタリストの方々、起業経験者の方々とお仕事をさせていただくことになりました。ということで、前著「起業のファイナンス」と共に、本書でじっくり勉強させていただいております。ご存じ磯崎哲也さんの4年ぶり、まさにタイムリーな新刊書です。

起業のエクイティ・ファイナンス(磯崎哲也著 ダイヤモンド社) ←前著は日本実業出版社だったのですが、出版社が変わったのですね

江頭先生の「株式会社法(第5版)」をはじめ、今年は会社法関連の本がたくさん出版されていますが、会社法の基本書から「種類株式」を理解する、というのは極めてむずかしいのです。事業再生時のDES(デット・エクイティ・スワップ)におけるハイブリッド株式の活用、事業再編における全部取得条項付種類株式の活用、そして資金調達の場面における優先株式、取得請求権付株式の活用など、具体的な活用場面が頭に浮かんで、はじめて必要性・有用性が(少しだけ)理解できるようになります。

ただ、それは頭で理解しただけであり、使いこなすためにはやはり当事者の話を聴くことが大切です。磯崎さんの前著と本書との違いは、磯崎さんが「当事者」になってこの本を書かれたところです。だからこそ面白い。やはり人間、自分がお金を出して、リスクを背負ってはじめて見えてくるものってありますよね。本書では株主間契約、優先株式(みなし優先株式含む)、乙種普通株式(磯崎さんのネーミングですが)、サイバーダイン社の上場時に活用された議決権種類株式など、ベンチャー企業が資金調達を行うにあたり、活用できる資本政策の工夫が満載です。ベンチャー立ち上げの段階から、上場直前まで、関係者間での利害関係は千差万別ですから、本書で紹介されておられるのは、あくまでも「武器」です。種類株式は決して無機質なものではなく、いろんな人間模様の中で、ベンチャー企業への資金調達を可能にしてくれる魔法の武器です。使いこなせなければ意味がありません。武器だからこそ、「リスクを背負った当事者」として書かれた本はやはりおもしろい。コンサルタントや学者さんが書かれたものとは少し違います。

前著「起業のファイナンス」でも優先株式の紹介はされていましたが、今回はやはりベンチャー生態系が日本に根付くためには、単に優先株式を知っている人が増えるだけでなく、実際に使いこなせる人が増えることが必要ということで「ひな形」を含め、非常に熱心に解説されています。会社法の基本は「株主vs株主」「株主vs会社」「株主vs機関」における利害調整ルールを学ぶ点にあります(これは東大の神田教授の「会社法入門」にも書かれています)。株主平等原則が求められ、また「当事者間で好き勝手な内容の種類株式は作ったらあかんで」というルールが存在する中で、株主vs株主、株主vs会社の利害調整ルールを学ぶには、こういった生きた教材がおススメですし、ロースクール生なども会社法を学ぶには適材です。生きた教材になっているのは、やはり磯崎さんが当事者(ステークを持つ人)としてこの世界でリスクをとっているからだと思います。

しかし私のように会社の「病理現象」の中で仕事をしているのと違い、会社の「生理現象」に関わる仕事は活き活きしていてうらやましいです。いや、ひょっとするとそんな甘いものではなく、当事者となると、それこそベンチャーの社長解任とか、いろんな病理現象にも逃げずに直面しなければならないのかもしれませんね。

ところで、反社会的勢力排除のお仕事をしているときに、単価1億のところに登場する紳士淑女と、単価10億~100億のところに登場する紳士淑女は明らかに違いますが(笑)、ベンチャー生態系も、この先、日本でものすごく大きなパワーを持つようになると、やはり(お金の匂いを嗅いでやってくる人達による)「病理現象」も出てくるかもしれませんね(お金になるのなら、黙っていてもファイナンスに詳しい弁護士は登場します(^^; )。そんな「病理現象」も自律的に排除できるような逞しさに満ちたエクイティの世界になるといいですね。

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2014年7月 3日 (木)

企業法務関係者にお勧め!-「法務の技法」(芦原一郎氏)

9784502107214_240ここのところ終電の時間までに仕事が終わらず、深夜タクシーでの帰宅が続いておりまして、ブログの更新すらままならないのですが、この本だけはご紹介したく、「そんなヒマがあったらはよ資料提出せんかい!」と、クライアントからお叱りを受けることを覚悟で(笑)ブログを更新いたしました。

法務の技法(芦原一郎著 2014年6月初版 中央経済社 3,200円税別)

現在は組織内弁護士(社内弁護士)の数が1000名を超えたそうですが、著者の芦原先生はまだ社内弁護士の数が少なかったころからお名前は存じておりました(現在の肩書はチューリッヒ保険、チューリッヒ生命ジェネラルカウンセル)。雑誌「ビジネス法務」に連載されていたものに、大幅に項目を増やして一冊にまとめられた本でして、ほぼ「書下ろし」のご著書です。これまでの「社内弁護士」としての経験やノウハウを一冊の本にまとめられたものです。

法務担当者のノウハウを学ぶ・・・というと、優秀な弁護士による100点満点のモデル回答が満載かと思いきや、そうではありません。私が本書にたいへん共感したのは、まさに法務担当者としての合格点を具体的な事例から示そうと努力されている点です。つまり、組織における法務の位置づけを十分に認識したうえで、他の部署や取引先、相手先との信頼関係を考えながらどう対応すべきか・・・という、まさに現実論に立脚したノウハウが詰まっています。

たとえば社内不正の疑惑が生じた場合、法務担当者による社内調査が求められるわけですが、ごり押しで糾弾してしまっては調査に協力もしてくれませんし、また社内での関係も壊れてしまいます。そこで、どのように調査対象者(対象部署)と接することが、相手方の協力も得やすく、また信頼関係も破壊されずに所期の目的を達成できるか、そのノウハウなどは「なるほど」と思わず頷いてしまいます。また、相手を説得することよりもあきらめさせるクレーム処理のノウハウ、有事の記者会見等で「無罪」ではなく「執行猶予」を狙うためのノウハウ、1分間のエレベータ会話において上司を説得する話し方(三段論法の活用)など、まさに現実論に立脚した解決を志向する具体策などは、まさに共感を覚えるところであり、社内の法務担当者にとってもたいへん参考になるのではないかと思います。法務部の文書の書き方なども、これまであまり考えたことがなかったようなハッとさせるお話なども盛り込まれており、私もこのブログで実践してみようかな・・・と考えたりしています。

今週号の「アエラ」で、DeNAの南場智子さんが「夫の看病のために第一線から退き、後方支援に回った時に、はじめて法務や経理の重要性を知った。この人たちが難しい会社のリスクを管理してくれているのだと実感した」と書いておられましたが、本書からも、法務の輝きは他の部署との「すりあわせ」の中で生まれてくるものだと実感します。著者も語っているとおり、この本のとおりやれば御社の法務が輝く・・・というのではなく、法務の活かし方は個々の会社ごとに異なります。そこで、「なるほど、と思ってもらえるだけでなく、自分でも使ってみようと思える知恵」が記されていると考えたほうがよいと思います。それぞれの法務担当者が、自社における法務の位置づけを認識したうえで、本書のノウハウを参考に工夫してみる・・・、そういったことの参考書として本書は活用できるのではないでしょうか。また、私のように社外から法務担当者とお付き合いする立場の者にもたいへん参考になる一冊です。

7月 3, 2014 本のご紹介 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年5月29日 (木)

誰にも迷惑をかけない粉飾決算のどこが悪いのか?

26126674_1世間を賑わせた粉飾事件をいろんな角度から眺める、というのはたいへん有意義なものと思います。山一證券の飛ばし→破たん事件については、当ブログでも過去にご紹介したように、監査を担当されていた伊藤醇さん、調査委員会の委員でいらっしゃった国廣正さんのご著書が有名ですが、最近はまた清武英利氏が「しんがり 山一證券最後の12人」を執筆されていて、お読みになった方も多いかもしれませんが、たいへん面白い内容です。

同族の名門企業の破たんとして、数年前に話題になりました岡山の林原社の粉飾決算事件についても、昨年8月に同社専務であった林原靖さんの著書を当ブログでもご紹介いたしましたが、同社の社長であった林原健さんの新刊「林原家-同族経営への警鐘」がまた発売され話題になっています。もうすでにいろんな書店さんで「ビジネス書部門ランキング1位」になっているようで、もはや紹介するまでもないかもしれませんが。

「林原家-同族企業への警鐘」 林原健著 日経BP社 1,620円(税込)

私もさっそく拝読いたしました。林原靖氏が書かれた本をご紹介したときにも書きましたが、だれがADR(裁判外での紛争処理手続き申請)の内部資料を新聞社にリークしたのか、という点は社長さんも「今でもわからない」と書いておられますが、もう一点、なぜ林原ほどの大会社が会計監査人を選任していなかったのか、という点については、かなり本書では踏み込んで説明されています(と同時に、なぜ弟さんの書かれた本では説明がされなかったのかが、なんとなく理解できました)。

ところで、上場会社であれば、不適切な会計処理を継続することは、株主に迷惑をかけることになりますので、法的にも、また道義的にも悪いことに異論をはさむ余地はありません。しかし、林原という名門企業、20年ほど前から粉飾を繰り返したことが調査委員会報告書には記載されていますが、非上場会社の場合はどうなのでしょうか。この点、弟の靖氏も、また兄である前社長の健氏も(健氏の場合は、明らかに、というわけではありませんが)100%、ほぼ同族で株を保有している株式会社で、粉飾はしていたけれども、金融機関から借りたお金で事業も順調に推移しており、借りたお金はきちんと返していた、倒産処理で判明したように、取引先にもほぼ100%弁済できていた、同族会社ではどこでもやっている・・・・・、このような状況で、なぜ粉飾決算をすることがそんなに悪いことなのか、このような状況で経営を止めた金融機関は(破たん処理を断行したことについて)どう考えるのか?といった疑問を呈しておられます。

たしかに金融機関を裏切る粉飾決算を行っていたものの、非常貸借対照表に基づく弁済率は(土地をたくさん保有していたこともあって)93%、経営は順調であったがゆえに長瀬産業さんが、同社の事業を巨額の買収費用をもって引き継いだというところをみると、「本当に林原社は破たん処理をやらなければならなかったのか」という(後出しジャンケン的発想ではありますが)疑問は残ります。ただ私が講演や書籍等で繰り返し述べておりますように、上場、非上場会社を問わず、リスク管理の本質は、企業価値算定にあたり、もはや「存在価値」ではなく「期待価値」が重視されつつあります。「何が起きているのか」ということ以上に、「これから何が起こるのか」という点にステークホルダーは関心を持っているのであり、期待価値に資するものでないリスク管理能力しか持ち合わせていない企業は、それだけでマイナス評価を受けてしまうのは、統合報告書(非財務情報と企業価値向上との関係記載)の有用性が議論されている現在において当然のことかと思います。

これだけグローバルに競争を展開しなければ利益が出せない時代において、経営判断のスピードは至上命題です。社長に経営判断および執行の権限を委譲して、トップダウンによるマネジメントを実践していかなければ競争に勝てないわけですから、コンプライアンス経営を担保するリスク管理能力についても、前向きの経営に活かす必要があります。ガバナンスや内部統制を整備することによる不正予防、発見には限界があることを、多くの人たちもある程度は理解しているはずです(リスク管理と企業の存在価値との関係)。国内、国外において、株式会社は激しい競争を繰り返しているわけですから、大きな不祥事は当然どこでも起きるはずです。では、その重大不祥事が発生する確率がこの会社にはどのくらいあるのか?・・・、これこそステークホルダーがリスク管理能力の「期待価値」として関心を向けるところです。

社長の暴走を止める力が本当にあるのかどうか、止める力があるとしても、効きが良すぎてビジネスチャンスまでも止めてしまうようなことがないかどうか、というまさに将来予測(期待価値)のための「リスク管理の見える化」が求められています。したがって、林原社のように、何十年もの間、取締役会が一度も開催されていない、監査役は身内で固められている、会社法上の大会社であるにもかかわらず会計監査人も設置していない、といったガバナンスの欠如が外から垣間見えたり、その結果として会計不正の事実が発覚してしまうと、たとえ現在の経営が順調であったとしても(存在価値に問題がないとしても)、将来にもっと大きな債務超過が発生した場合に、これを認知できない(期待価値)ということが起こりえます。

多額の融資を行っている金融機関にとって、将来の経営に黄色信号が灯る状況ともなると、たとえ結果的には「生かしておくべきだった」と評価されるような場面であったとしても、リスク管理の脆弱性や粉飾決算から、非常手段に出ざるを得ないと思いますし、スピード経営が求められ、社長への権限移譲がますます求められる時代となれば、この傾向はさらに強まるものと思います。ステークホルダーは、外からみえるリスク管理からしか、その企業の本質を洞察することはできないのです。

本書は、ガバナンスや内部統制、コンプライアンス経営に関心のある方にはお勧めの一冊ですが、後半部分には、同族企業ゆえに経営に難しい点に言及されていて、興味をそそります。研究部門と営業部門の対立、同族ゆえにはっきりとモノが言えない組織内力学など、(良い悪いは別として)同族企業が内包する経営リスクのようなものを知るうえで最良の一冊ではないかと思います。

5月 29, 2014 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年4月11日 (金)

リスクマネジメント実務の法律相談(新刊のご紹介)

022510帝国データバンクさんが4月7日にリリースされたところによると、コンプライアンス違反を原因として倒産した企業の件数が、この1年(調査開始以来)もっとも多かったそうです。毎度申し上げますとおり、この調査結果から、そもそも経営が苦しいからコンプライアンス違反をやってしまうのか、それとも本当にコンプライアンス違反が倒産への起爆剤になってしまうのかはよくわからないのですが、いずれにせよ、企業をみつめるステークホルダーの目は、厳しくなりつつあるのは事実ではないかと。

さて、これだけスピード経営が求められる時代に、もはやリスクマネジメントは後ろ向きの作業ではなく、「走りながら考える」、つまりトライ&エラーの思想で前向きに捉えなければビジネスで負けてしまいます。ただ、こういった思想は、「リスク管理」自体の巧拙がはっきりしますから、リスクを負うわけで、どうしても後ろ向きになりがちです。

不正リスクも同じことです。不祥事は起こしてはいけない、起こさない、という発想であれば、リスクマネジメントはブレーキ役です。でも、どこの会社でも不祥事はかならず起きる、起きたときにどうすべきか、という発想であれば、予防とともに早期発見や、有事対応の知恵が必要になります。

2週間ほど前に、日経新聞の一面広告で紹介されていましたので、すぐに購入いたしましたが、これはなかなか使える本です。判例や参考書籍などの引用も豊富なので、不正調査実務や、セミナーのネタ本としても良いかもしれません。

法律相談シリーズ33・リスクマネジメント実務の法律相談(青林書院 中村信男・笹本雄司郎・竹内朗 編著 3,600円税別)

本書は、早稲田大学の中村信男先生を中心に、気鋭の実務家の方々によって執筆されたリスクマネジメントの実務書です。いずれも実際にコンサルティングや有事対応の支援をご経験されていらっしゃる方々によるもので、内容はとてもわかりやすく、応用が効くものになっています。そしてなんといっても、「積極果敢なリスクテイクとビジネスチャンスの拡大」という点を念頭に置いている点が注目です。この視点が、今までのリスクマネジメントの本ではあまり意識されてこなかったように思います。

ざっと拝読いたしましたが、私のイメージでは、上場会社本体のマネジメントもさることながら、予算も人間も限られているグループ会社管理に使えるのではないかと思います。私個人としては、リスク管理の巧拙は人の能力、つまり人材に依存するところが大きいと感じています。そして、リスク管理担当者が自由に活動できる環境と、リスク管理の効率性をどう理解するかがとても大切です。大きな会社のように、お金も人も使える会社であれば良いのですが、限られた予算の中で、合格最低点の60点のリスク管理体制の構築を目指す、では60点のためには、どこから手をつけたら良いのか、また何かあったら、どこに優先順位を置くのか、といったことの手引きになることは間違いないと思います。

リスクマネジメントの歴史からフォレンジック、サイバー攻撃対策の最先端まで、私が存じ上げている著者の方は数名なのですが、おそらく各分野にお詳しい方が分担されて、このような大作となったものと思います(第4章の事案ごとのリスク管理は、丁寧に構成されている印象です)。リスクマネジメントできちんと成績を上げたい実務担当者の方、支援する側の専門職の方、いずれにも参考になるレベル感です。

こういったリスクマネジメントに関する本を読むと、(時々ですが)予算の潤沢な会社の「アリバイ工作」的な匂いにがっかりすることがあるのですが、本書は平時にも有事にも使えそうな知恵が満載です。経営者が何かあったときに、「ほら、内部統制はこうやって構築していましたよ」というお助け本ではなく、リスクが目の前にたくさん横たわっている新規事業の荒波を乗り切るときに「嵐を避ける知恵」として活用されてはいかがでしょうか。

4月 11, 2014 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月27日 (木)

ディスクロージャー専門家による「適時開示実務入門」

44951998112これだけ経営環境が激変する時代、競争に勝つための企業の経営判断にはスピードが求められます。経営者はできるだけ組織の暗黙知と自ら長年培ってきた知見によって事業を遂行したいわけでして、その結果として企業の業績を上げることで株主からの負託に応えたいと考えます。

しかし一方で、資金調達の面においても、また投資家や株主の投資判断の機会を確保するという面においても企業情報を正確に開示する必要もあります。このあたりのバランスをどう確保するか・・・ということは、上場企業の組織運営上の能力が試される場面だと考えます。

とりわけ法で決められた(ハードローとしての)情報開示ということであれば金商法のレギュレーションの問題として実務担当者に頑張ってもらわねばならないのですが、ソフトローとしての適時開示となりますと、投資家からみれば「経営者の誠実性」「組織としての誠実性」が試される絶好の機会であり、投資家や株主にとっても関心の高いところです。そのような企業における適時開示の実務を学ぶうえで、たいへん有益な本が、このたび出版されました。

「適時開示実務入門」鈴木広樹著 同文館出版 2200円税別)

上場会社の実務担当者においては、東証の適時開示ガイドブックを参照されている方が多いと思います。もちろんバイブル的な存在であることは間違いないのですが、非常に分厚い参考書であるために、適時開示の必要がある場合に書式等を参考にすることが多いのではないでしょうか。つまり「適時開示の必要があることはわかっているが、どう開示したらいいのだろう」というときに役立ちます。しかし「これって適時開示の必要はあるの?」といった「気づき」がなければガイドブックを開くことには至りません。

本書は本文150頁ほどですが、上場会社の適時開示の重要性を理解し、「気づき」(これって開示が必要な場面ではないのか?と気づくこと)を教えてくれる実務書です。「適時開示の実務入門」といったタイトルどおり、内容はたいへんわかりやすく、実務担当者や経営者向けに適示開示ルールの原則を教えてくれます。

著者の鈴木広樹氏は、証券会社のディスクロージャー管理部長、開示審査部長などを歴任され、現在は大学の先生をされておられます。多くのマニアックな投資家やディスクロージャー実務関係者が集まる某研究会にも参加され、最近清文社より「検証-裏口上場」なる超(?)マニアックな新刊書を出されたばかりです。

今回は一転して(?)非常にわかりやすい実務家、経営者向けの新刊書をお出しになられました。たとえば常務執行役員の方が、次期代表取締役内定含みで取締役に就任する場合、どの段階でこの事実を開示すればよいのか?公募増資やM&Aに関する機関決定の前にスクープ報道がなされた場合、会社としてはどのような開示を行うべきなのか、といった問題について「なるほど、原則から考えればそうなるよな」と思わずつぶやきたくなります。ところどころに、理解を進めるための知識が得られる「コラム」も掲載されています。

そもそも企業情報開示というものは、取締役からみて事実上の利益相反行為となるケースがあります。どうしても社内の論理を優先してしまい、後日「企業としての誠実性」に疑問が呈されてしまうこともあります(ときにはコンプライアンス問題にまで発展してしまいます)。そういったときに、このような本が適時開示の必要性を気づかせてくれて、また開示の時期や開示内容を決するためのモノサシの役割をはたしてくれるとありがたいですね。

2月 27, 2014 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月 9日 (月)

メディアが問う!わが国の会計および監査の課題(シンポ登壇のお知らせ)

Aogaku090週末より、たくさんのコメントをいただいているにも関わらず、お返事が遅れておりまして申し訳ございません。非常に有益なご意見ばかりで、私自身も今後の研究の参考にさせていただきたいと思います。

さて、このたび、会計及び監査に関する経済記事の執筆に関わっておられる第一線のジャーナリストの方々が、どのような視点でわが国の会計及び監査を見ているのか、実際に執筆された最近の会計・監査の事案をもとに、会計・監査の課題について議論をするという、これまであまり試みられてこなかったシンポジウムが開催されます。

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究センター主催「第8回公開シンポジウム-メディアが問う!わが国の会計および監査の課題」でして、日時は12月21日(土曜日)午後2時より、場所は青学の青山キャンパス本多記念国際会議場です。(ご案内は青学会計プロフェッション研究センターのこちらをどうぞ)。

日経、朝日、東京、年金情報等マスコミの各記者の方々に加え、金融ジャーナリストの伊藤歩氏もパネリストとして登壇されます。それぞれ粉飾決算事件やIFRS問題、AIJ投資顧問事件、監査法人の不祥事問題等の報道に関わってこられた経験をお持ちの方々が、日本の会計・監査問題をどのように語られるのか、たいへん興味深いシンポになるものと思います(いろいろと辛口の意見も飛び出すと予想しています)。会計・監査に関するシンポのコーディネーターといえば、やはりこの人(八田進二青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授)でしょうね。

実はこのシンポ、毎年シンポに先立つ「特別講演の部」がございまして、今回は私が1時間ばかり講演をさせていただくことになりました。テーマは「わが国のメディアは本当に真実を伝えているのか?」という、かなりチャレンジングな題目です。お話する内容は、①企業不祥事報道にみるメディアの力、②ブロガーからみた情報双方向時代における国民の「真実への関心」、そして③司法、会計、監査とメディアの力、といったことです。こうやって骨子だけを掲げますと、バラバラなお話のように思えますが、実はきちんとひとつの流れになっておりまして、最後には会計や監査の話題を取り扱うメディア(主にマスコミ)に対する私の提言で締めくくる・・・というものです。決して会計のご専門の方々向けにお話するのではなく、きわめて平易な言葉で一般の方々向けにお話をするつもりです。

私個人としては、いつも不正調査などで「ひとりひとりの社員の方々はこんなに誠実でまじめな方なのに、組織の構成員となってしまうと、どうしてこんな悪事を平気でやってしまうのだろう」と疑問を抱くときがあります。マスコミの記者の方々についても、おそらく魅力的な方が多いはずだし、編集権の独立という原則があるのに、どうしてマスメディアの構成員という立場になってしまうと、自分では納得できないような記事を書かざるを得ないこともあるのでは・・・といった疑問も湧いてきます(たぶん、そんな疑問にお答えしていただけるはずもありませんが・・・)。おそらく参加者それぞれ、いろんな視点で楽しめるシンポになるのでは、と今から期待をしています。

前回、前々回の特別講演者の方々とのネームバリューの差は歴然としておりますし(東証CEO、元金融庁長官等)、コテコテの関西人にとって、クリスマスの青学・・・というのは、なんともアウェーな雰囲気で、若干不安を感じておりますが、拙著「法の世界からみた会計監査」でも述べているとおり、少しでも「開かれた会計・監査の世界」の形成についてお役に立てましたら幸いです。申込締切は12月12日までとなっておりますので、ご興味がございましたら、ぜひお上記リンク先より申込みの上、クリスマス(21日)の青学キャンパスまでお越しくださいませ。

12月 9, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月 4日 (水)

オリジナルの役員セミナー、1社決定!(引き続き募集中)

昨日、私が独立社外取締役および第三者委員会委員を務めておりますニッセンホールディングスのTOB賛同意見ならびに第三者割当増資に関するリリースが出ました(お相手はいずれも7&iネットメディア社です)。予想どおり(当然ですが)本日の値上がり率第1位でしたが、買付株数の上限が50.7%ということなので、今後の値動きがとても気になります。公開買付をされる側の社外取締役としては、ここで第1ステージは終わりですが、今後第2ステージ、第3ステージとまだまだ大切な役割が控えていますので、年末年始、体調を崩して関係者の皆様にご迷惑をかけないよう頑張っていきたいと思います。

個別案件の内容については一切お話できませんが、適時開示までマスコミからのリークは一切ありませんし、また昨日の終値がつくまで、不自然な取引もなかったようです。資本業務提携の内容を詰める段階で、次第に情報を共有する範囲が広くなりますが、それでも情報管理が徹底されていることを示すことができました。また、当社側の意思決定の内容を知るべきではない立場の当社役員、たとえば大株主出身の社外取締役や7&iホールディングス社の社外取締役を兼ねている当社の社外監査役の方などについては、本当に厳しい情報遮断が行われ、取締役会への欠席を含め、一切の経営判断過程からシャットアウトされました。一般株主の利益保護という意味においては、本当に冷徹なまでにデュープロセスが貫かれたことだけはお伝えしておきます。

さて、2週間ほど前に、こちらのエントリーでNPB統一球仕様変更問題を題材とした役員セミナーを企画しましたので、社内セミナーしませんか?と募集させていただきました。その結果、数社よりお問い合わせいただきましたが、このほどやっと第1号のセミナー開催が決定いたしました(どうもありがとうございます。<m(__)m>ちなみに開催は来年2月です)。東京に本社のある上場会社のグループ会社さん(非上場)ですが、海外駐在の取締役の方以外はお集まりいただけるようなので、私自身も楽しみにしています。まだまだ募集をさせていただいておりますので、もしご興味がございましたら当職までメールにてお尋ねくださいませ。

12月 4, 2013 本のご紹介 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2013年11月18日 (月)

大王製紙前会長が最後まで被害弁償できなかったものがある。

Isbn9784575306026大王製紙の連結子会社から106億8000万円を資金流出させ、会社法違反によって実刑判決が確定した大王製紙前会長井川意高氏による告白書(懺悔録)を読み終えました。

「熔ける-大王製紙前会長井川意高の懺悔録」(井川意高著 双葉社 1,400円税別 なお印税はすべて社会福祉事業に寄付)

意高氏の幼少のころの話から、高校・大学生時代、御曹司経営者としての交遊関係、そして事件の内容まで、かなり赤裸々に綴られています。マスコミから興味本位で報じられたところもありましたので、その報道に対する反論にも力が入っているような印象を受けました。そしてなによりも本題が「溶ける」ではなく「熔ける」とされているとおり、カジノという高熱を発する触媒によって人生が熔けていく様子を語る部分は圧巻です。家族旅行でわずか50万円を賭けて楽しんでいた経営者が、寝食を忘れてシンガポールのVIPルームで20億円をあっという間に失ってしまうギャンブラーになるまでの経過には戦慄を覚えます。

どうして100億円以上ものギャンブル資金を子会社から調達したのか、というところの意高氏の心境については、以前このブログでも推測したところが当たっていたように思います。子会社といっても、大王製紙の保有持分よりも創業家持ち分のほうが大きいわけで(会計上は実質持ち分が大王と創業家合わせての支配率計算)、まさに「自分の財布」という感覚だったそうです。そしてもうひとつは、決して「運転資金」に手をつけたのではなく、(過去の大王製紙倒産の教訓を生かして保有していた)「余裕資金」の範囲で資金調達を指示していた、とのこと。いくら子会社といえども、運転資金にまで手をつけるつもりはなかったと弁明されています。

私個人として、この意高氏の著書を読みたいと思ったのは、意高氏が子会社から多額の融資を受けていたことを取締役会、監査役会、そして監査法人が知っていたにもかかわらず、どうしてもっと早く内容を確認して止めることができなかったのか、ということへの関心からでした。この点について、事件を発生させた前会長がいろいろと意見を述べているわけではありませんが、事実として何もできなかったことが明らかになっています。不正摘発が監査法人の仕事ではありませんので、監査法人が事実を追及しなかったことについてはそれほどの疑問も生じませんが、やはり監査役会そして取締役会において、いくら創業家会長のこととはいえ何もできなかったというのは残念というほかありません。実際、事件発覚後の大王製紙特別調査委員会の事実認定と、この意高氏の告白事実とを比較しますと、重要部分において食い違う部分もあるため、大王製紙事件におけるモニタリングは果たしてどのようなものだったのかは、未だわからないところが多いように感じます。

若くして大王製紙の取締役に就任する意高氏が、年間70億円ほどの赤字に苦しむ同社家庭紙事業部門の責任者になります。そのとき、永谷園や大正製薬のトップリーダーの方々の教えを受けて同社のブランド戦略に心血を注ぐことになります。他社製品と品質に差がないにもかかわらず負け続けている現状を打破するために、宣伝広告に売り上げの10%以上をつぎ込み、同社のブランドを向上させることで、「商品と顧客ではなく、企業と顧客との信頼関係を築くこと」に挑戦します。その結果、意高氏および大王製紙社員の努力が実を結び、その後同社家庭紙部門は50億円の黒字となり、まさに大王製紙のブランドを上げることに成功しました。

意高氏が裁判を振り返るシーンにおいて、被害額のすべてを返済したことで、執行猶予の期待があったことを述懐しています(周囲からもそのような希望的な意見が出ていたようです)。私自身も「全額弁償しても執行猶予がつかない(実刑判決)となれば、高額の財産犯事件において『隠したほうが得』と加害者が考えてしまう風潮を残してしまうのではないか」とも考えました。しかし結果は懲役4年の実刑判決が確定しました。意高氏は、やはり世間を騒がせた事件になったのだから、いくら社会的制裁を十分に受けているとはいえ、裁判所も世間に迎合する判決はやむをえないとしています。

しかし私は(本書を読んだ感想として)意高氏が未だ被害弁償を済ませていないのでは、と考えてます。上述のように、意高氏は自らの努力によって大王製紙のブランドを向上させてきました。このブランドは間違いなく、大王製紙固有の無形資産です。しかしながら、経営トップがカジノで会社資産を流用したというコンプライアンス違反によって、このブランドは毀損されました。残念ながら、いくら流出金額のすべてを返済したとしても、この失われたブランドの損失は返済されていません。流出された金額の大きさということだけでなく、名門企業だからこそ失ってしまったブランドという資産の大きさが、意高氏に実刑判決が下された原因のひとつではないかと思います。

意高氏に逮捕状が執行され、最初に小菅の拘置所に差し入れに訪れたのは、それまでに面識のあった堀江貴文氏だったそうです。厚手の座布団の差し入れがたいへんうれしかったとのこと。本書を意高氏が世に出したことへの意見は賛否両論あることはわかりますが、私も堀江氏が本書の帯に記しているように、意高氏にも復活戦にチャレンジできる日が来るのではないかと、ひそかに思っています。

11月 18, 2013 本のご紹介 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2013年11月 1日 (金)

監査判断の実証分析(本のご紹介)

Judgment行動倫理学や行動経済学に少し関心が出てくると、監査人の判断や意思決定がどのようなことに影響を受けるのか、とても興味が湧いてきます。ある会計雑誌で今年の日本会計研究学会における太田・黒澤賞を、本書が獲得したと報じられていましたので、思わず衝動読みしてしまいました。

監査判断の実証分析 福川裕徳著 国元書房 3,800円税別

一橋大学の新進気鋭の福川教授が、会計監査人の監査判断について分析的手法によって研究された成果を発表されたものです。監査の世界において、監査実務の現状を実証的に分析して、監査判断を研究するといった試みは、これまであまり存在しなかったのではないでしょうか。著者も書かれているように、会計士協会や監査法人の協力がなければ実証分析という手法がとられないわけでして、監査における実務と研究との「望ましい協働」を実務界に説得された成果ではないかと思います。

私自身は監査実務に携わる者ではないので、この実証研究を実務に活かす・・・というわけではありません。しかし、監査人がどのような証拠によってどのような仮説を立て、最終的な意見形成に向けての心証を形成するのか、そのあたりの解明についてはとても関心があります。同じリスク・アプローチといっても、監査要点に対してポジティブな設定をするのか、ネガティブな設定をするのか、ということが問題になります。たとえば設定の違いが、当該監査要点に関するリスクの評価にも重要な影響を及ぼすことなどが実証研究で明らかにされています。デフォルトをどう選択するのか・・・ということで、監査人の意見形成にも影響が出る、ということは、とりわけ不正リスク対応基準や内部統制監査、ゴーイングコンサーンの審査などの思考過程を考えるにあたり、とても参考になるところです。

心理学における認知バイアス、確証バイアスが監査人の判断にどう影響するのか、という点も、以前からボヤっとは考えていたのですが、このような実証研究が示されると、ますます関心が高まります。このような研究の成果が、今後のIFRS時代を迎える監査実務に大きな貢献を果たすものになるのではないでしょうか。実務が経験値によって変化することはあったとしても、その変化が理屈の上で正しいものかどうか、このような研究成果によって検証される必要があると思います。回帰分析結果等、仮説立証の有意性を理解することが少し難しい箇所もありますが、専門家以外あまり知られていない監査人の思考プロセスを知るうえで、貴重な一冊です。

ちなみに、今気づいたのですが、アマゾンで本書を引っ張ると、「一緒に購入した本」として、拙著が登場しますね。本書に興味のある方が、拙著にもご興味を抱いていただいているというのはたいへん光栄です。<m(__)m>

11月 1, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年9月27日 (金)

「社外取締役ガイドライン」の解説本が出ました(商事法務)

4785721190最近の日経新聞による「社外取締役の義務付けは必要か?」というアンケートでも64%の方々が「社外取締役の義務付けは必要」と感じておられることが報じられています。ただ、社外取締役の義務付けが必要だと感じる方が多いことと、上場会社において社外取締役の必要性はどこにあるのか、という議論が少し違うわけでして、「個々の企業がなぜ社外取締役を必要とするのか」という議論と「なぜ制度化すべきなのか」という議論は整理しておく必要があります。

理屈の問題はさておき、すでに上場会社の約6割の会社が一人以上の社外取締役を導入しておられるわけで、会社法改正を控えて、この傾向は、今後ますます強まることは間違いありません。そこで日弁連の司法制度調査会社外取締役ガイドライン検討チームが中心となって、この3月に日弁連の社外取締役ガイドラインを策定しました。そしてこのたび、そのガイドラインの解説本が商事法務より出版される運びとなりました。本日(9月26日)の日経朝刊の第一面にも広告が出ました。

「社外取締役ガイドライン」の解説(日本弁護士連合会司法制度調査会社外取締役ガイドライン検討チーム編 商事法務 3,200円税別)

詳細の目次は、上記リンク先をご覧いただきたいのですが、本書はガイドラインを作成するにあたり、法律に必ずしも精通されていらっしゃらない一般の方々にも、ガイドラインの内容がわかりやすく理解できるよう工夫されたものです。そもそも本ガイドラインは、経営者の方、取引先の方が社外取締役に就任する際に留意すべき点を中心に執筆したものであり、決して法律家の社外取締役だけを想定したものではありません。したがいまして、実際に就任されていらっしゃる経営者、元経営者の方々にこそ、「社外取締役のベストプラクティス」としてお読みいただければ幸いです。

一応の確認のために申し上げておきますが、本書は決して上述の「社外取締役制度」の推進を主張するようなものではありません。現実問題として社外取締役の導入の必要を感じておられる会社があれば、どう受け入れ態勢を整えて、社外取締役を企業価値向上につなげていくか、そういったことを検討するにあたっても参考になるよう工夫されています。ただ、取締役会の在り方については色々な議論があることは否めません。社外取締役が経営執行部にとって経営指南を行うような「業界に精通したプロフェッショナル」を求める考え方もあろうかと思います。しかし本書は、欧米の主流であるモニタリングを重視した取締役会を念頭におき、社外取締役がモニタリンスシステムの取締役会において果たす役割を明確にしています。このあたりは、会社法改正における審議の流れとも合致しているものと考えています。

また、この本は、共栄火災さん、東京海上日動さん、AIUさんのご協力を得て、各社の現時点におけるD&O保険の基本約款を参考資料として掲載しています。これは、役員賠償責任保険の内容を就任時もしくは就任後にできるだけ知っておいていただきたい、との意向によるものです。社外取締役への就任において、それぞれ責任限定契約を締結されることが多いと思うのですが、役員賠償責任保険がどこまでをカバーするのか、どういったケースではカバーされないのか、ということをあらかじめ確認していただきたい、といった趣旨です。

ちなみに私も検討チームの一員として、かなりマニアックな部分ですが、「監査・監督委員会における監査・監督委員たる社外取締役の行為規範」について解説をしています。会社法改正によって新たな機関設計として「監査・監督委員会」(仮称、監督委員会という名称になる可能性あり)が新設されますが、この監査・監督委員会設置会社の社外取締役には、制度上の特殊な役割がありますので、あえて監査・監督委員会の構成メンバーである社外取締役にフォーカスをあてて解説を試みた次第です。

9月 27, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年9月 3日 (火)

企業法制改革論Ⅱコーポレートガバナンス編

Kigyohouseikaikaku法律が企業社会にどのような影響を及ぼしうるのか、企業法制は会社の行動を変える力をどれほど持ち合わせているのか・・・という疑問は、企業法務に携わる法律家にとっては一度は真剣に考えるテーマではないでしょうか。

こちらも先日ご紹介した「株式会社法大系」と同様に、なかなか格調の高い本ですが、中央経済社より出版されたばかりの「企業法制改革論Ⅱコーポレートガバナンス編」を拝読しました。2011年に出版されたⅠの続編として、コーポレートガバナンスに関連した5つのテーマを、専門家の皆様と武井一浩弁護士の対談で綴る一冊です。

本書の対談集は、すでに中央経済社の法律雑誌「ビジネス法務」に掲載されているので、そちらを購読されている方には新鮮味がないのでは?とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし一橋大学大学院の伊藤邦雄教授と武井先生との対談「企業価値評価・会計からみたガバナンス-今、制度作りに求められるのは『知の統合化』」というところは雑誌に掲載されていない対談であり、私的にはとても興味深い内容です。

経営学の立場からコーポレートガバナンスがどのように考えられるのか、具体例を豊富に挙げて伊藤先生が語っておられます(「有能なCFOこそガバナンスの要である」というご意見はなるほど・・・と思います)。また法と会計の知的統合の必要性を、IFRSと会社法の関係などから説得力ある語り口で解説されておられます(この分野で伊藤先生の話を引き出す武井先生の知見もなかなかのもの)。法と会計の狭間に横たわる問題に関心のある弁護士、会計士、企業実務家の方は、たいへん参考になるはずです。以前、江頭先生の記念講演を拝聴して「残された会社法改正の論点はIFRSと会社法会計との関係である」と語っておられたことを当ブログでも紹介させていただきましたが、本書の中で伊藤先生も、やはり会社法会計とIFRSとの問題整理が喫緊の課題であるということを、(これも豊富な例を挙げて)語っておられます。法律家の「IFRSと会社法会計に関する論点への対応-公正なる会計慣行の解釈」について、伊藤先生なりの印象を語っておられるのも興味深いところです。

本書の目次を読むと、すべての対談の内容がとても気になります。それぞれに題名のとおり企業法制の改革に向けた提言(らしいご発言)が盛り込まれており、ガバナンスに関連する会社法上の論点を考えるうえで有用なものばかりです。単なる知識ではなく、企業実務に応用できる「知恵」を求めている方々には必読の一冊かと思いご紹介する次第です。

9月 3, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年8月19日 (月)

金融検査の見直しと林原の破綻

9784898314098お盆休みはなかなか本を読む時間がとれなかったのですが、この一冊だけは・・・と思い、なんとか時間を作ってじっくりと読ませていただきました。

破綻-バイオ企業・林原の真実(林原靖著 WAC 1500円税別)

著者のお名前からご推察のとおり、当事者(元林原専務取締役、社長さんの実弟)の方による林原倒産に至る経緯の告白・・・というものです。岡山の世界的名門企業がなぜ弁済率93%にも関わらず倒産に至ったのか、なぜ話し合いによる処理(銀行ADR)は奏功しなかったのか、当時の会社を取り巻く関係者の動きが克明に描かれています。私はそれほど詳しい分野ではありませんが、金融法務に従事しておられる方にとっては、著者の見解への賛否は別として、ご一読をお勧めしたい一冊です。

取引先銀行の守秘義務違反・・・というところは、私も本書を読んでとても疑問を抱いたところですし、どういった理由で社内資料を複数行で突き合わせたり、ADRの協議内容をマスコミに漏らしたのか、今後もできれば真相を知りたいところです。ただ林原事件といえば、私個人の立場からしますと、どうして長年粉飾決算を放置していたのか、これほどの名門企業が、なぜ会計監査人の欠如(会社法上の違法行為)について経営トップも含めて認識されていなかったのか、というところに関心が向きますが、そのあたりは(この本の中心テーマから離れてしまうからでしょうけれども)さらっとしか触れられていなかったのが残念でした。非上場会社として、計算書類をきちんと作ることについてのコンプライアンス意識が薄かった(きちんと作る必要もなかった)・・・と、あえて言えばそういった理由からだったような気もします。

なお、債務超過が大きく報じられていましたが、清算価格による非常時のバランスシートはたしかに「たたき売り」を前提としたものであり、それ自体はやむをえないものだと思います。ただ、林原のように無体財産を多く保有する会社の資産価値というものが、どれほどバランスシートの中で考慮されるのか、IFRSの議論などとも並行して考えるきっかけになればいいなぁ・・・との印象を持ちました。

ところで一昨日(8月17日)の日経新聞朝刊の一面に「金融検査見直しへ」という記事が掲載されていました。今後は金融庁が銀行による査定を尊重し、不良債権処理の優先を転換する、ということのようです。これまでよりもベンチャー企業や中小企業への資金援助が容易になるとのこと。上記「林原・・・」の本の中でも、著者が「本当に会社を成長させたいと思うならば銀行からお金を借りないほうがよい」と断言しておられますが、私はこういった金融検査も林原倒産の遠因になっていたのではないか、と考えますがいかがでしょうか。

ただ、私の記憶では、たしか林原のメインバンクの銀行さんは、林原社に会計監査人が存在しなかったことについて、ほとんど関心を示していなかった、とのことでした(登記簿で確認できるにもかかわらず、そのような確認はしていなかったそうです)。これは銀行融資の姿勢自体が、非上場会社の貸借対照表、損益計算書という計算書類を重視していなかったことの証左かと思います。いわば物的担保と人的担保による信用リスク管理ということが中心だったわけで、今後「査定中心主義」の融資姿勢となりますと、比較的大きな非上場会社については会計監査をはじめ、会社法上のガバナンス体制にも留意しなければならないわけで、このあたりは(当然に銀行融資を受けている)一般企業にとっても影響が出てくるような気がします。

8月 19, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月 9日 (火)

「会計基準と法」-なぜ法は会計ルールのすべてを決めないのか?

9784502070808_240日本の企業会計法の第一人者といえば、やはり弥永真生氏の顔がすぐに思い浮かぶわけですが、その弥永先生の渾身の一冊が発売されました。なんと総ページ数1000ページの大作です。

会計基準と法 弥永真生著 中央経済社 10,000円税別

ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、弥永先生は東京大学在学中に司法試験と公認会計士試験のいずれも合格され、まさに「人間コンピュータYANAGAちゃん」の異名をほしいままにされている大先生です(すいません、この異名は私が勝手に付けさせていただいたものです)。昨年は大阪弁護士会のシンポでたいへんお世話になりました<m(__)m>。

弥永先生は、21世紀はじめまでは毎年1冊のペースで新刊書を出版されていたのですが、ここ10年ほどは(会社法の教科書、計算規則のコンメンタール以外は)一切ご出版はされずに、この新刊書のご執筆に注力されたそうです。つまり本書は、弥永企業会計法の10年の研究活動がすべて詰まったものです。

なにしろ帯の副題がすごい。「なぜ法は会計ルールのすべてを決めないのか?」まさに私の関心事とピッタリ一致します。第1部は日本における会計ルールの沿革と現状。なんといってもこの第1部の最大の読みどころは「企業会計基準法構想」でしょう。会計学者の方々はご承知かと思いますが、日本でも企業会計基準法を制定する動きがあったのですね。企業会計制度対策調査会が発足し、企業会計基準法要綱案、同法案まで作成されながら、最終的に会計ルールが法として定められなかったところまでの歴史をGHQ文書、国立公文書館所蔵文書を資料として解説されています。つまり会計ルールはソフトローというよりもハードローとして法律化する動きがあったということです。この話がなぜ終焉を迎えたのかは、お読みになればわかります。

※・・・ちなみに戦後の縦割り行政の中で会計士制度と税理士制度がバラバラに出来上がってしまった歴史というものは、「対談 わが国会計監査制度を牽引する会計人魂」(川北博・八田進二対談 同文館出版)の中で川北先生が解説されています。しかし「企業会計基準法制定の動き」については触れられていません。

第2部は、本書で最もページ数が割かれているところですが、海外諸国における会計基準制定の歴史と現状の会計基準の運用です。比較法的研究、といってしまうと、なんだかとても退屈なもののように感じるのですが、私はこの本が今後最も参考にされる(引用対象となる)のは、この第2部ではないかと確信しています。前にも当ブログでご紹介したように、江頭先生は、関西のご講演において、次の会社法改正のテーマは「おそらく会社法のIFRS対応ではないか」と解説されました。国際会計基準が我が国の上場会社に強制適用される場合、ルールとしての正当性をどのように説明するのか、日本の法人に強制力を持つルールを制定する権限は唯一、国会だけですが、なにゆえ海外のプライベートセクターが制定するルールが日本で強制力を持ちうるのか、そのあたりは法律家と会計学者との間で検討する機会が必要です。実はEU諸国においても、IFRSを適用するにあたっては同じような悩みを各国が持っていたのですが、各国がどのように、この難問を克服していったのか、そのあたりを知る上では貴重な研究資料となります。IFRSと商事法、IFRSと憲法、行政法との関係を整理するうえでは、この第2部における諸外国の整理はたいへん参考になるはずです。

そして第3部は私も当ブログで様々な角度から検討しております法と会計との関係についての弥永説の大系です。私自身、すべて弥永説に賛同するわけではありませんが、会社法、金商法と会計基準との関係、公正妥当な会計慣行の考え方、罪刑法定主義と会計ルールなどについて、関連する論点がほぼ網羅されており、法と会計の狭間に横たわる諸問題を検討するにあたって、たいへん参考になるところです。まさに「法はなぜ会計ルールのすべてを決めないのか」その論理的な道筋が、ここに現れています。有価証券報告書の虚偽記載、違法配当など、不適切な会計処理が刑事上も民事上も、そして課徴金処分等の行政上も問題となる場面は今後ますます増えてくるでしょう。会計監査人が矢面に立つ場面も当然増えるはずです。その際に、会計ルールは法と同等に扱われるべきなのかどうか、さまざまな角度から検証が必要になりますが、本書第3部の弥永先生の意見が現実の解決において有益なものとなるでしょう。

しかし法律を制定する、しないという経緯というのは、なんと人間臭いものだろうと、本書(企業会計基準法制定に向けての経緯)を読むと今更ながら感じます。また、時々招かれて講演をさせていただく産業経理協会というところも、スゴイ歴史があることを知りました。弥永先生ご自身、冒頭で「採算性の乏しい書籍」と謙遜されていますが、IFRSの強制適用場面における権力の正当性根拠のお話はたいへん重要だと思います。これは弥永先生だけでなく、会社法学者の先生方にとっても難問だと推測します。私もすべてを読むことは困難ですが、今後、企業会計法関連の研究や実務に携わるにあたり、常に参考にさせていただきます。

7月 9, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月12日 (水)

DeNA元社長の「不格好経営」と経営判断原則

Nanba001以前、日経新聞に南場智子さんの実話「激やせラリー」が連載されて、とても面白かったので、さっそく南場さんの新刊「不格好経営-チームDeNAの挑戦」南場智子著 日本経済新聞出版社)を拝読いたしました(ちなみに、社内の幹部職によってダイエットを競う「第1回激やせラリー」は本書にも収録されています)。

ネタバレはまずいので、あまり内容には踏み込みませんが、本当におもしろかった(いや、社長退任後の2年間の生活については「おもしろい」という表現は失礼かもしれませんので、「ためになった」と言ったほうがいいかも)。起業後、ホントにかっこ悪いことがDeNA社に次々と起きるのですが、腹を決めて、外に向かってかっこ悪いところを正直に開示されてきたのですね。最終的には、誠実だからこそ周囲も力をなんとか貸してくれますし、また自分たちも這い上がる気力が湧いてくることがよく理解できました。

夫(もしくは妻)の看病の必要性に迫られたとき、社長を退任すべきか、それとも社長として会社を支え続けるべきか決断をするとき、私なら、どうのような選択になろうとも「自分の生き方」という哲学で判断すると思います。しかし南場さんは、逡巡した挙句、自分の哲学や生き方ということよりも、「このDeNAという会社にとって、どちらの判断がよいか」というモノサシで退任を決めたそうです。いや、これはスゴイ。「社会の公器」のトップとして当然といえば当然かもしれませんが、私ならそこまでの気持ちになれないでしょう、たぶん。

法律家や社外取締役という視点では、第7章「人と組織」がたいへん考えさせられます。とくに経営者としての重要事項の意思決定の重さです。平社員と副社長の距離よりも、副社長と社長との距離のほうが断然遠い・・・ということがよく表現されています。取締役の意思決定や業務執行の法的責任(善管注意義務違反の有無)を検討するにあたり、よく「経営判断原則」ということが言われますが、(誤解をおそれずに言えば)法律家が語る経営判断原則に則って判断をしていては、とんでもない経営上の失敗をしてしまい、かえって株主に迷惑をかけるのではないか・・・、そう思えるほど重要な(法律家にも参考になる)内容が書かれています。人材こそ会社の命、ということで「人」を大切にされる南場さんだからこそかもしれませんが、リスクを背負った人間にとって経営判断の過程がどのように映るのか、企業法務に携わる法律家は必読の一冊かと。

なお、南場さんが本当に不格好なことも素直に表現する方であることは、最後の「謝辞」に書かれてあることを読めばわかります。私も南場さんとは比較になりませんが、弁護士になって20数年、同じような経験をし、同じような思いを抱いています。しかし、未だそのことを誰にも表現することはできません。そして、これからもできないような気がします。すごいなぁと思います。

6月 12, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 7日 (金)

不正リスク対応監査基準の理解のためにお勧めの一冊

Kansakijun0023企業会計審議会というところは、単に会計や監査の専門家の方だけが集まって会計インフラについて議論する場ではなく、広く国民の意見を集約して、よりより会計監査制度を構築していこうとの意図でメンバーが選出されているそうです。監査部会の議論も同様なのですが、出来上がった(改訂された)監査基準を読みますと、会計監査の素人からは、何がどう変わったのか、そもそもなんで改訂されたのか、ということを理解するのは至難の業です。そこで企業会計審議会(監査部会)における議論の経過を基に、新たな監査基準を一般の方向けに解説された本がどうしても必要になります。

ということで、私もこのシリーズは監査基準の改訂がなされるたびに買い替えておりましたが、今回はとくに監査基準の改訂だけでなく、不正リスク対応基準の新設もあり、発売と同時に読ませていただきました。(逐条解説で読み解く監査基準のポイント 八田進二・町田祥弘 著 同文館出版 3,200円税別)しかしどんどん分厚くなっていきますね(^^;

ご承知のとおり、企業会計審議会の委員でいらっしゃる八田・町田両先生の対談形式による逐条解説です。もはや私のような門外漢が紹介するまでもない本かもしれません。しかし今後、金融商品取引法監査を受けておられる会社の担当者の方々にとっては、これを「有事」になってから読み始めては遅すぎるのではないかと思い、また「平時」にこそ、本書によって(リスク対応基準の)基本的なところは押さえておかれることをお勧めしたいので、あえてご紹介する次第です。会計監査上の不正リスクなるものについて、監査法人さんと会社との相互理解を深めることが大切であり、とりわけ今回の改訂版は、不正リスク対応基準に関する総論的な解説と逐条解説に分かれており、ときどき両先生の個人的な意見も含まれていますが、審議会で議論された論点がほぼ網羅されています。

不正リスク対応監査基準や改訂監査基準として、明文化された部分の解説は、すでに会計雑誌等でも学ぶことができますが、本書のおススメは、なんといってもこのような監査基準が出来上がった背景事情に細かく触れることができる点です。「こんな議論があったけれども継続審議になった」「この議論は今回は立ち消えになった」「こういった事情から、このような文言になった」といったところの解説はとても重要です。なぜなら、今回の不正リスク対応基準はこれで完結したのではなく、これからの運用状況をチェックしながら、改良され、完成形へと向かっていく通過点にすぎないからです(これは両先生の対談の最後でも触れられています)。

私の個人的な意見でいえば、会計不正の早期発見のためには、財務諸表の利用者、会計監査人、そして当局と、それぞれが努力をしなければならないと考えています。たとえば拙著「法の世界からみた会計監査」で述べたように、投資家や株主は自己責任によって(監査制度に対する)リテラシー向上を図る必要があり、監査人はより「市場の番人」に近い立場で、職業的懐疑心をもって監査に臨む必要があり、そして当局は企業に対する開示規制を工夫して、投資家や株主がおかしな会社にはそれなりの風評が立つような(レピュテーション効果)仕組みを考える、といったところです。

著者の八田先生が、本書の中で「もっと専門家を活用すべきである」とされ、CFE(公認不正検査士)の活用なども推奨していただいておりますが、我々CFEとしても、何もないところでいきなり不正調査を始めるわけにはいきません。やはり企業や監査法人、もしくは大株主から「どうもおかしいから調べてくれ」といった活動の端緒がなければ意義のある活躍の機会もなかなか付与されないので、関係者の方々が、不正防止、不正早期発見に向けた努力を実践していただけますと、それぞれが有機的に動き出せるのではないでしょうか。

企業会計審議会の中でも議論されておりましたが、不正リスク対応基準が(基本的には)上場会社の監査のために適用されるものなので、今後は監査の種類に応じて、監査のレベル感にも差が生じてもよいのではないか・・・という方向性も、本書において触れられています。これは法律家にも興味深いところでして、監査基準が変わると(もしくは監査制度の区別に応じて適用される監査基準が異なると)、どのように会計監査人の注意義務のレベルにも影響が生じるのか、そもそも監査基準というものが出来上がった歴史的背景との関係からみても、関心を抱くところです(ただ、このあたりは拙著の中で「リスク・アプローチを法的に考える」の章が、会計専門職の方々からご批判をいただいているのと同じように、あまり法的に云々・・・という議論は会計専門職の方からみれば反感を持たれるかもしれませんが。。)。いずれにしましても、監査法人の引き継ぎや連携問題、監査法人全体としての品質管理の問題など、中には会計士さんにとっては耳の痛い内容も含まれていますが、著者の方々の不正会計事件撲滅に向けての熱い思いが伝わってくるもので、ご一読をお勧めいたします。

6月 7, 2013 本のご紹介 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2013年5月 9日 (木)

活字フェチ弁護士さんから書評をいただきました。

いつも拝読しております活字フェチ先生のブログ「企業法務のツボ★活字フェチ弁護士の臨床的視点」にて、拙著「法の世界からみた『会計監査』」の書評をいただきました。正真正銘の企業法務の最前線で日夜勤しんでおられる活字フェチ先生の冷徹な中にも温かさのある(?)視点からどう映るのだろうか・・・と、ワクワクしながら読ませていただきました(かなりの長文ですね・・・)。

会計士の方々からは、読後感想文をたくさん頂戴しているのでありますが、同業者の方々からみると本書はどのように映るのか・・・。正直、不安なところがございました。ただ、企業法務に携わっておられる方々が、ご自身のご経験にフィードバックされて「いや、これは言えてる」「うーん、ちょっとここは別の考え方もあるんじゃない」といった感じで沈思黙考していただければいいなぁといった(読まれ方の)希望はありました。活字フェチ先生のご感想は、この希望にかなり近いものでした。

ホント、内部通報制度に「魔法の杖」などないんですよね。最近はとくに海外不正案件などに通報制度を活用しましょう・・・といった空気もあるのですが(いや、私自身、某雑誌にもそういった企画モノの論稿を出していますし)、実務体験を積んでいくうちに「海外不正案件の内部通報って取扱を間違えるとヤバくない?」といった理解も進んでくるわけであります(たとえば米国の司法妨害罪や弁護士秘密特権との関係など)。しかし、その実効性は高いものがあるので、トライ&エラーで進めなければならないわけですね。

会計監査を取り巻く環境も、大きく変わろうとしているにもかかわらず、関与する専門家の意識はなかなか変わらない、というのは弁護士の世界にも通じるところがあると思います。そのあたりの職業意識を変えていかないと、社外役員制度も機能しないだろうし、「法化社会」と呼ばれる社会の流れにも乗れないような気がしています。活字フェチ先生の「妄想」の部分は、なかなか弁護士が口に出してビジネスの世界で言えない(言ってはいけない?)のかもしれませんが、そこをクリアにしていかないと弁護士や会計士というものが社会インフラにはなりえないのではないかな・・・と思っております。

ネタバレにも配慮いただきまして恐縮でございます。ご関心を寄せていただいた第9章につきましては、マスコミの方々にも注目していただいておるところでして、来週発売の週刊東洋経済(会社の数字特集)でも取り上げられております(これ、言っていいのかな?まぁ、いいことにしときましょ 笑)。そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

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2013年5月 6日 (月)

日経新聞「日曜書評」にて拙著を紹介いただきました(本のご紹介)

Nikkei002ゴールデンウィーク中も、二つの本業(不正調査関連業務、内部通報代理業務)が重なりまして、ほとんど休めなかったため、ブログの更新もお休みさせていただいておりました。明日からまた平常どおり更新しようと思っておりますが、その前に今日は少しだけ営業活動をさせていただきます。

拙著「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」(同文館出版 1890円税込)が、先日の毎日新聞に続き、5月5日の日経新聞朝刊「日曜書評」にて書評をいただきました(書評の内容はちょっと引用することは差し控えますので、左の写真を拡大いただければと)。このようなマニアックな問題をとりあげたものを、全国紙で取り上げていただき、たいへん感謝しております。同時に、読者の皆様から、これまでたくさんのご意見、ご異論を頂戴しておりますので、それなりに今後の議論への「たたき台」程度にはなりつつあるのではないか、と思っておりまして、法と会計の狭間にある諸論点にご関心のある方々には、広くお読みいただければ幸いでございます。

5月 6, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年3月18日 (月)

法の世界からみた「会計監査」-拙著のご紹介(新刊)

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連日、私事で恐縮ですが、いよいよ私の三冊目の単著本が出版されることになりました。

法の世界からみた「会計監査」-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える-(山口利昭著 同文館出版 1890円税込)

アマゾンさんでは既に予約受付中ですが、実際に店頭に並ぶのは3月26日あたりになりそうです。とくに不正リスク対応基準の施行時期に合わせて・・・というものではございません。

自分では、たいへん平易な文章を心掛けて書いたつもりですし、ちょっと難しそうな用語には、各ページ下欄で解説を付しましたので、企業実務家の方々にもお読みいただけるものと思います。法と会計の狭間に横たわった問題を中心に書き下ろしています。ぜひぜひお時間のあるときで結構ですので、お買い求めいただけますと幸いです。

以下、はしがきと目次をご紹介いたします。総ページ数は274頁です。

本書はしがき より

本書は、公認会計士の方々と仕事をご一緒する中で、弁護士のスキルと公認会計士のスキルのシナジー(相乗)効果を模索しながら執筆したものです。

弁護士といえば裁判所における弁論を中心とした仕事、公認会計士といえば上場会社における監査を中心とした仕事というイメージがあります。ただ、弁護士の中にも企業法務を中心として仕事をする方々も多いので、公認会計士・監査法人の業務上の接点も多いように思われがちです。しかし真剣に考えてみると、あまり接点というものが思い当たりません。私は企業の不正調査を主たる業務にしておりますが、公認会計士の方々と一緒に調査チームを構成することもありますので、不正調査という業務において接点がやっと見えてきた、というところでしょうか。ただ、この不正調査という仕事も、双方の専門スキルが要求される業務だからこそ、必要に迫られての協働作業ということになります。つまり1+1=2の世界のお仕事です。

もう少し創造的な協働作業、たとえば法律家のスキルを向上させるために会計士と協働する、逆に会計士の能力のレベルアップのために法律家のスキルを応用する、といった取組みは、これまであまり聞いたことがありません。世の中ではIT革命やグローバル化の流れが進み、企業における事業戦略の面でも、またリスク管理の面でも、ものすごいスピードで変わっているにもかかわらず、弁護士の世界も公認会計士の世界も時代の流れほどに変わっているようには思えません。双方の仕事の中身がそれほど変わらない中で、資格者の人数だけが急増しています。
会計や法律の知見を「所与の専門領域」だけで活用するのはわが国の成長戦略からすると非常にもったいないと思います。会計の世界で学ぶ「数字による経営管理」、法律の世界で学ぶ「理屈や倫理、説明責任」は、ビジネスの世界で広く応用できるにもかかわらず、一般的には「弁護士さんは困った時に相談できたら良い」「会計士さんには、期限どおりに適正意見を出してもらえば良い」といったイメージに捉えられています。このようなイメージで、企業社会から捉えられていることについては、弁護士や公認会計士側にも、これまで専門領域に閉じこもってきたことに責任の一端があると思います。

弁護士と公認会計士が相互理解を深める中で、どうすればスキルアップを図ることができるのか、また1+1=3になるようなシナジー効果を発揮するためにはどうすればよいか、そのような問題意識から、本書を執筆しようとしました。しかし、法と会計の世界には、なかなか分かり合えないミゾのようなものがあると考えるに至りました。そこで、その「ミゾ」はどこからくるのか、その思考の過程と解決策(らしきもの)を一冊にまとめてみたのが本書です。
本書が世に出る頃には、不正リスク対応監査基準や会社法制の見直しに関する要綱、民法改正中間試案など、上場会社の監査・開示・会計にも多大な影響を及ぼすであろう制度改革が議論されていると思います。こういった社会インフラのあり方が議論される中で、企業の成長に向けて専門職のスキルを最大限に活かしていけるだけの環境整備も必要です。
本書は会計や法律の専門職の方々だけでなく、組織内専門職および企業の経理、法務、総務に携わる実務家、そして(ガバナンス改革が進む中における)経営者の方々にもお読みいただけるよう平易な言葉を使って執筆いたしました。事業を前向きに進めていく上で、専門職の素養を経営にどのように活かすことができるのか、考えるヒントにしていただければ幸いです。まだまだ問題提起の域を超えないものでありますので、本書をお読みいただき、多くの皆さまからご意見・ご批判を頂戴したいと存じます。

なお、私自身は公認会計士の資格を有するものでもなく、ましてや会計監査の実務経験もありません。本書執筆にあたって、会計監査の現場に関する様々な実務や会計監査人としての考え方について、中堅監査法人で毎日監査実務に従事しておられる張本和志会計士に有益なご意見を頂戴いたしました。張本会計士には、あらためて御礼申し上げるとともに、ここに掲載されている内容に関する全ての責任は筆者にあることを念のため申し添えさせていただきます。
最後になりますが、私の拙いアイデアを一冊の本にまとめることをご提案いただき、会計監査業界の最新事情について逐次提供いただいた同文館出版編集部の青柳裕之氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

平成25年2月
弁護士 山口利昭

「法の世界からみた会計監査」目次

1 公認会計士を「憧れの職業NO.1!」にするために
 1 外から見た会計士のお仕事
 2 今なお根強い「期待ギャップ」論
 3 もはや「期待ギャップ」では済まされないのでは?
 4 リスクをとる会計士
 5 オリンパス事件の粉飾と監査の限界―会計士の意見
 6 かっこいい会計士を目指して

2 弁護士・会計士の「守秘義務」は七難かくす?
 1 はじめに
 2 弁護士・会計士の守秘義務とは?(守秘権利もある?)
 3 専門家倫理と守秘義務の関係を示す具体的事例
 4 弁護士と会計士の守秘義務の差について
 5 第三者委員会制度と弁護士の守秘義務
 6 専門家のミスを隠す「守秘義務」

3 他人(ひと)のせいにする弁護士と会計士
 1 はじめに
 2 弁護士の主張とセカンドオピニオン
 3 会計士の意見とセカンドオピニオン
 4 最終判断権者としての会計士の仕事
 5 辞任することでミスは隠せるか?
 6 最善を尽くす義務というけれど…
 7 重要になる監査法人の品質管理と職業倫理
 8 誠実性は外から見えなければいけない

4 事後規制社会に組み込まれる弁護士と会計士
 1 はじめに(コンプライアンス経営との関連で)
 2 会計士と弁護士の本来のフィールド
 3 事前規制から事後規制の社会へ
 4 事後規制社会と企業の自律的行動への関心
 5 ソフトロー時代とレピュテーション(評判)
 6 生活者の企業観の変遷(ブログ記事より)
 7 事前規制の代替案(弁護士、会計士を活用する)
 8 法化社会に必要な弁護士・会計士像

5 会計士から嫌われる「第三者委員会」と「金商法193条の3」
 1 不祥事発生企業における第三者委員会
 2 第三者委員会に対する社会からの評価は?
 3 会計士と第三者委員会
 4 会計士と金融商品取引法一九三条の三
 5 第三者委員会制度と金商法一九三条の三問題の共通項

6 会計監査のリスク・アプローチを法的に考える
 1 はじめに―監査法人の引継ぎ問題
 2 リスク・アプローチとは
 3 判例にみるリスク・アプローチ
 4 リスク・アプローチを法的に考える
 5 会計士の責任と粉飾との因果関係

7 会計基準は法律なのか?
―古田裁判官の補足意見はなぜ会計士にウケるのか?
(長銀・日債銀最高裁判決を振り返って)―
 1 はじめに
 2 長銀、日債銀最高裁判決とは?
 3 法廷意見と古田判事の補足意見
 4 古田裁判官の補足意見の紹介
 5 古田意見が会計士に評価される理由とは
 6 公正なる会計慣行と会計不正事件

8 会計士と監査役の連携に関する本気度
 1 はじめに
 2 会計監査人と監査役の連携は機能しているか
 3 連携の在り方を考えるうえで重要な裁判例
 4 異常兆候の補完関係
 5 会計士はどこまで監査役を信じる?
 6 中小規模上場会社こそ連携が必要
 7 「会計監査人と監査役の連携」は開示せよ

9 なぜ企業は粉飾に手を染めるのか?
 1 はじめに
 2 最初から確信犯はいない
 3 不祥事の原則1―不祥事の芽(予備的不正)
 4 不祥事の原則2―一次不祥事
 5 不祥事の原則3―二次不祥事
 6 誰も粉飾は止められない?
 7 一次不祥事への早期対応
 8 有事意識の共有(二次不祥事対応)

10「訂正」と「非開示」のコンプライアンス
 1 はじめに
 2 情報開示に関するコンプライアンスの視点とは?
 3 投資家、消費者の目からみた企業情報開示を意識する
 4 情報開示の方法自体の問題点―東京電力の原発事故情報
 5 企業情報開示のタイミングとコンプライアンス
 6 有事の情報開示遅延の重大性(トヨタとソニーの事例から)
 7 開示コンプライアンスと企業価値
 8 平時から情報開示の重要性について認識すべき

11 日本人は原則主義がお嫌い?―内部統制の議論は何処へ―
 1 内部統制研究会
 2 「内部統制」の多義性
 3 原則主義による規制手法(横並び社会に感じる違和感)
 4 内部統制報告制度の疲労感
 5 経営学の立場からの批判に応える必要性
 6 会社法上の内部統制の議論を整理する
 7 内部統制報告制度(開示制度)との融和を図る
 8 企業社会の現状にあった制度改革を目指して
 9 原則主義と倫理問題

3月 18, 2013 本のご紹介 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2013年1月15日 (火)

「ずる-嘘とごまかしの行動経済学」

UsogomakashiACFE(日本公認不正検査士協会)の某理事の方からのお勧めで本書を知りましたが、たいへんおもしろい本です。不正調査に携わる者として、調査のスキルアップのためというよりも、有効な不正の未然防止策を考える上で参考になります。

「ずる-嘘とごまかしの行動経済学」(ダン・アリエリー著 早川書房 1800円)。

人間の合理性と非合理性を真剣に見つめて、「人はなぜ不正に手を染めるのか」という点について、興味深い実証研究の成果が広く公開されています。「つじつま合わせ係数」など、読んでいて深く考えるところが多いために、最後まで通読するのに時間がかかりました。とくにCFEの資格者などを含め、不正調査に関心のある方にはお勧めの一冊です。

現在パブコメ中の(内容が若干後退した)不正リスク対応監査基準というものが、いったいどのような使われ方をすれば有益なのか(なるほど、架空循環取引については少し距離を置いてもかまわないのですね)とか、利益相反取引の規制として取引内容の開示規制は、あまり役に立たない(なぜ役に立たないのか・・・という理由はとても納得できるものでした)といったことについて自分の考え方をまとめる良い機会となりました。このあたりについては、また別途エントリーの中で紹介したいと思います。著者も、私自身も、そして社会のほとんどの人たちも「ずる」をしてしまうわけでして、「ずる」を忌避するよりも「ずる」をしてしまう自分とうまくお付き合いして生きていくほうが楽しくなってきそうな気持ちになります。著者も「利益相反行動」に関する記述のところで、利益相反的行動を一切禁止することによる費用対効果を考えるならば、利益相反行為の「ズル」を一定程度許容しておいたほうが社会的な損失は少なく済む、ということを述べています。

行動経済学者である著者は、エンロン事件を契機に企業不正への関心を強めるのですが、エンロン社のコンサルタントだった方へのインタビューにおいて、コンサルタントだった方が「希望的盲目だった」と語るところは、私が不正調査の中で感じているところともピッタリあてはまります。アメリカに多く見られるような「私利私欲による作為的不正」が少なく、和を尊ぶための不作為的不正が特徴である日本でも、この「希望的盲目」はよくあてはまるところだと思います。また市場の健全性を常に確保する努力をしていかなければインサイダー取引は頻繁に発生しますし、不公正ファイナンスという手法によって既存株主からの利益搾取がなくならない、ということも、とてもよく理解できます。さらに(使い方を工夫すれば)倫理行動規範なども(意外に?)役に立つこともわかります。

イミテーションを着飾っているときのほうが「ごまかし」に手を染めやすい、「社内の常識」「組織が黙認している」と考えるだけで不正を犯しやすい、不正に手を染める自分自身をごまかそうとする、といったこともすべて詳細な実証研究によって明らかにしていくところは(その実験の価値についての疑問も生じるかもしれませんが)とても楽しめます。日本でも、こういった実証研究が進めば企業不祥事に関する研究も進歩していくのではないでしょうかね。正直に生きていきたい自分と、ズルして得したい自分との相克は、おそらく誰の心にもあるのではないでしょうか。

1月 15, 2013 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年12月25日 (火)

企業不正の調査実務(内部統制では語れないもの)

Fuseichosa002いよいよ年末の慌ただしい季節となりました。今年は金融機関が28日まで、ということなので、クリスマス(25日)といっても、もはやそれどころではない方も多いのではないでしょうか。私の事務所も、復興特別所得税の関係で(弁護士も事務職も)顧問料や報酬請求の計算の準備に忙しくしています。関係者の皆様方には、いろいろなご案内がいくと思いますが、どうか宜しくお願いいたします。

今年も企業不正事件が発覚した際の不正調査の話題は多かったように思います。不正調査の際に調査報告書が公表されますが、今年も興味深いものがいくつかございます。一般の企業の皆様、そして不正調査に関わる弁護士、会計士の方々にとって、たいへん有益ではないかと思えるものとしては、会計不正事件としては①沖電気工業さんの第三者委員会報告書、②ニチリンさんの第三者委員会報告書(ただし内容が少しわかりにくい、とのお声がチラホラ・・・)、また業務不正事件としては③ファーストサーバさんのデータ消失事件に関する第三者委員会報告書、④SMBC日興証券さんのインサイダー事件に関する報告書が秀逸かと思います(いずれもネット上からPDFにて閲覧可能です)。その他にも有益な調査報告書が公表されていたかもしれませんが、私もすべてを把握しきれていないので、またご存じの方がいらっしゃいましたらお教えいただければ幸いです。

設立7年目にして遂に会員数が1000名を超えたACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)ですが、東京でも大阪でも危機対応等を取扱分野とされている弁護士の方々が今年も試験に合格されました。問い合わせを受ける件数も増えておりますので、協会理事のひとりとしてたいへんうれしく思います。本日ご紹介する新刊書「企業不正の調査実務」(株式会社KPMG-FASフォレンジック部門 著 中央経済社 3,800円+消費税)も、CFE(公認不正検査士)のメンバーの方々が中心となって書き下ろされたものです。(ちなみに、上記沖電気工業の第三者委員会のメンバーの方もCFEの資格保有者です)。本書を執筆された会計士の方々は、実際に日本企業の海外子会社の不正調査(たとえば現地の経営トップの不正関与事件)に従事しておりますので、まさに現場調査に精通された方による実務書となっています。

内容は会計士の方々が執筆したものなので、会計不正事件関連の実務解説が多いのですが、FCPA(海外公務員への賄賂供与)やM&Aデューデリ時における調査などにも言及されています。社内調査のノウハウを磨きたいとお考えの企業担当者の皆様、巷で最近関心の高い「フォレンジック(デジタル調査やE-ディスカバリー対応)」にご関心のある方々、そして不正調査の分野に関心をお持ちの弁護士・会計士の皆様に、ぜひともお読みいただきたい一冊です。不正の手口、不正の端緒の把握、不正への初動対応、実際の調査技法、そして調査終了後の事後処理方法などが、最新の動向も含めて(わかりやすく)解説されています。

これは個人的な好みの問題ですが、私はなんといってもKPMG-FASさんの「お家芸」ともいうべきCAAT(Computer Assisted Audit Techniques)技法に関する解説が一番の興味対象です(つい先日も、関西のCFE研究会において、あずさ監査法人さんの不正対応部門の方にCAAT技法を具体的にご解説いただいたところです)。企業のコンピュータ内に存在する文書を統計的手法によって調査を進めて、不正の端緒を見つけたり、不正の起きやすい部署を特定する手法です。企業不正と内部統制といえば、一般のイメージとして「ガチガチの現場統制によって不正を防止するのはいいけれど、その分、現場は疲弊するし、作業効率も悪くなるのでは」と思われがちです。たしかに不正が発生する確率は極めて低いにもかかわらず、職務分掌、ダブルチェック、ローテーション制度など人的にも物的にも多くのコストをかけることには、費用対効果の面において批判を受けることもあります。

しかしCAATのように、合理的な手段で不正の起きそうな場所を特定する、起きてしまったミスを不正なのか誤謬なのか早期に判定する、仮に不正が起きたのであれば早期に影響範囲を特定する、といった手法を採用するのであれば、それは現場の作業効率を最大限度認めたうえで、おかしなところがあれば対応する、というものなので、内部統制の限界や短所を補完するものとして「スグレもの」ではないかと思います。不正への対応は内部統制によるだけでなく、こういった不正の早期発見を念頭に置いた不正調査技法にも光があてられるべきだと思います。このCAAT技法は、デジタルフォレンジックの一手法ですが、単純にどこの企業にも通用するようなマニュアルがあるのではなく、各企業ごとに調整が必要な技法なので、社内調査の手法を企業担当者が学ぶ機会にもなります。また、こういった手法で不正調査が奏功しますと、「この会社は悪いことをしてもすぐバレる」といったイメージが社内に徹底しますので、不正の要因たる「機会」を喪失させることにもつながります。

海外子会社の不正について秘密裏に調査を敢行した事例なども紹介されていますが、海外諸国のプライバシー権保護の状況によっては調査自体が新たな不正やリーガルコストを生む可能性もあるため、どうしても現地の弁護士の支援を受けなければならない現実があるようです。たしかに、不正調査に100点満点はない「現実」も教えてくれます。この分野にご関心がある方には、ぜひともお読みいただきたい一冊です。

12月 25, 2012 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年9月18日 (火)

不正会計-早期発見と実務対応(お勧めの一冊)

054612_2以前、会計評論家でいらっしゃる細野祐二氏が「司法は経済犯罪を裁けるか」というご著書を出され、その中で物証なき経済犯罪は、物証を前提とする捜査によっては裁けないとする持論を展開されました。私も法と会計の狭間の問題に興味を持つ者として、そこでの問題提起には大いに刺激されたところでした。

さて、そういった細野氏の問題提起に、ひとつの答えを提示していると思われる本が出版されました。このほど公認会計士であり、またACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)の理事でもいらっしゃる宇澤亜弓氏が「不正会計-早期発見の視点と実務対応」(清文社 4,000円税別)なる新刊書を出版されました。550頁におよぶ大作でございますが、これまでに類書をみないテーマに挑戦されました。副題にありますとおり、企業担当者もしくは調査の専門家にとって、不正会計をいかに早期に発見し、市場の健全性を維持すべきか、といった視点から、最近の会計不正事件を題材に、会計不正への対応を解説したものです。予想どおり、とてもおもしろい内容であり、私も連休中にほぼ全文に目を通しました。ちなみに著者の名前から、小柄で知的な女性会計士のイメージを抱かれる方も多いかとは思いますが、大柄かつ目つきの鋭いオジサンです。

以前も別エントリーでご紹介したところですが、宇澤氏は約10年ほど大手監査法人にて会計監査を担当された後、約12年間、粉飾決算事件や不公正ファイナンス事件に、摘発する側で関与されていました。(警視庁財務捜査官5年、金融庁・証券取引等監視委員会特別調査課7年)。「不正会計は完全犯罪ではない」というのが信条であり、本書のなかにも氏の信条を解説されています。これだけ堂々と「会計不正事件は摘発できる」と宣言されているとおり、平成20年以降の著名な経済犯罪事例や課徴金事例を個別に解説され、財務諸表を読んでどこに違和感があるのか、その違和感をどのように調査すれば、どのような「納得感」が得られるのか、というのを、詳細に解説されています。

元々、宇澤氏とはACFEの関係で、意見交換をさせていただくこともありますので、私自身は宇澤氏の考え方、私個人とは意見が異なる点などを存じ上げておりますが、本書では会計不正事件を調査し摘発する側の論理がきわめて明快に整理されています。おそらくこういった形で摘発する側の会計不正事件へのアクセス手法が紹介されることは、これまでなかったのではないでしょうか。とても新鮮であります。なかでも個人的に圧巻だと感じましたのは、170ページ以下で詳細に解説されている「不正会計の兆候と事案の解明」に関する総論です。ここは不正調査にかかわる専門家、社内調査担当者には必読のところです。財務諸表から探った「違和感」をみつけた場合、次にどのように会計不正を暴いていくか、そこでは会計士的な事実認定の方法と、法律家的な事実認定の方法を分けて解説されており、会計不正事件の解明には、いずれの事実認定の方法も不可欠だとしています。これは全く私も同感です。「存在しないこと」「ないこと」を証明する(その結果として合理的保証を得る)会計士の証明方法と、「存在すること」「あること」を証明する法律家的証明方法は、深度ある不正調査にとって極めて重要です。このあたりが、いままでの経済犯罪を摘発する検察官側に欠けていたのではないかと思われます。宇澤氏は現在、最高検察庁金融証券専門委員会の参与として、いわば検察官の指導をされておられる立場なので、今後はこういった検察の立件スタイルが登場してくるのではないかと推測します。

実際、こういった手法で社内不正を発見し、見事に自浄能力を示している例もあります。たとえば2009年に三井物産社が自ら公表したインドネシアの不正会計事案(たとえばこちらのニュースを参考にしてください)が典型例です。この事案では、最初に三井物産本社が社内ルール違反の事実を定例監査によって発見し(違和感を抱く段階)、その後、社内調査チームに会計士が加わって、第二次調査を行います。そこでインドネシアのある会社との取引の実在性に疑問が生じたため(納得感が得られなかったため)、いわゆる粉飾決算の疑いが強まります。その後は、社外専門家(弁護士+会計士)を中心とした不正調査(第三次調査)が行われ、粉飾決算を証拠付ける事実を確定して公表に至った、というものでした。社内の会計不正をいかに効率的に、しかも早期に発見すべきか、というまさにお手本のような事例です。

また、金融庁では現在、世界で初めての「不正発見監査基準」の策定に向けての審議が進んでいるように漏れ聞いておりますが、そもそも現行の監査基準においても、リスクアプローチによる重要な虚偽表示の有無を判断するにあたり、現場の監査人のための不正発見に関する行為準則はある程度は存在するものと思われます。しかし、不正会計事件に「監査法人」としてどう対応すべきか、つまり不正会計発見に向けた品質管理の在り方については、それほど議論されてきたものではないと思います。たとえば、どのような違和感があれば平時監査から有事監査に切り替えなければならないのか、また有事に至った場合に、深度ある監査手続きとは、いったいどのような手続きをとればよいのか、という点については、それぞれの監査法人内部での感覚的なものに依拠していたところが大きいのではないでしょうか。たとえば私が事件処理に関与したアイ・エックス・アイ事件でも、仕掛品や在庫商品の確認方法については、平時においてですら大手監査法人の間で大きな差異が認められました。今後、新たな不正発見監査基準のようなものが世に出てくるとすれば、こういった品質管理的な監査基準も具体的に示されるのではないかと思われますが、宇澤氏の新刊書では、このあたりの「深度ある監査手続き」を示すもの、具体的には「単純に試査の範囲を広げるとか、サンプル数を増やすといった生易しいものではなく、もっと想像力と職業的懐疑心を活用した手続的なもの」を数多く紹介されており、とても勉強になるところです。できれば、会計不正事件を裁く裁判官の方々にも、お読みいただければと思います。監査責任を論じるにあたり「今日の目で、昨日の出来事を見てはいけない」ことが鉄則でありますが、昨日の出来事を昨日の目でみても当事者に法的なミスがあるのかないのか、とても考えさせられるところです。

さて、これまで「会計監査には限界がある、内部統制にも限界がある、財務諸表の作成責任は企業にある」として会計不正事件の監査見逃し責任を免れてきた監査法人さんには、本書は強烈な問題提起がなされています。本書を読まれた会計実務家、会計学者の方々が、どのような反論をされるのか(たとえば、私は山一証券の監査人でいらっしゃった伊藤醇氏の「命燃やして」を何度も読み返したりしておりますので、なんとなく監査法人側の反対意見も想像がつくところでありますが・・・)、今後の反響がまた楽しみになるところです。いずれにしましても、粉飾決算事件に関心のある方々には(ご興味のあるところから)ぜひお読みいただき、いろいろなところで本書の内容について、ご議論されることを期待する一冊です。

9月 18, 2012 本のご紹介 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年9月10日 (月)

巨額年金消失。AIJ事件の深き闇-元企画部長の告白

Fukakiyami002金融庁は、AIJ事件を教訓として、新たに投資運用業者に対する規制強化策を公表するそうであります。なにゆえ国内信託銀行によるチェックが厳格に求められなければならないのか、また外部第三者による監査報告書が求められるのか、本書を読むと、なるほど理解できるところです。

巨額年金消失。AIJ事件の深き闇 (元AIJ企画部長)九条清隆著 角川書店 1400円税別)

ライブドア事件において、監査を担当されていた公認会計士の方が書かれた「ライブドア監査人の告白」を読んだときと同じような興奮を覚えながら一気に読み終えました(たしかあのときは、著者の方は後日、日本公認会計士協会から出版に関して懲戒処分を受けましたよね)。

本書は、AIJ事件発覚の経緯について、当時の企画部長が詳細に告白したものであります。金融庁による調査の様子、業務停止命令発令前後の社内の状況、AIJ投資顧問に「藁をもすがる」想いで期待を抱いた年金基金の様子を知るうえで貴重な記録です。著者である九条清隆氏(本名は巻末に記載されています)は野村證券でデリバティブを専門に扱い、みずほ証券勤務を経てAIJで企画部長として浅川社長を支えることになります。著者自身、警察から取調べを受けている最中も本書の執筆を続けておられたようで、本書原稿をクラウド上に保存しておられたために、金融庁による押収からも免れたそうです。社会的に大きな問題を起こしたことを真摯に謝罪しつつも、消えた2000億円のナゾや、10年間も不正が発覚しなかった本当の原因など、社会に知っていただきたいとの強い想いから、本書を世に出す決意をされたとのこと。野村證券→みずほ証券の時代は運用のプロとして相当の年収を得ていたそうですが、現在は時給800円でコンビニのアルバイトに勤しんでおられるそうです。

AIJ投資顧問の事件につきましては、未だ中心人物3名の刑事訴追が続いているところでありますが、不正調査という仕事に関わる者として、本書の一番の関心は、なにゆえ浅川社長からAIJの開示書類作成を任されていたにもかかわらず、著者は浅川社長による長年の粉飾を見抜くことができなかったのか?という点であります。この会社には、著者をはじめ大手証券会社出身の投資運用のプロがゴロゴロ存在していたにもかかわらず、なぜその知見によっても「運用に関しては素人同然だった」浅川氏の粉飾を見抜けなかったのか・・・・・、そのあたりは本書をお読みいただくとおわかりになるかと思います。とくに新聞等で広く報じられていたように、雑誌「年金情報」では、かなり前から「AIJは開示に積極的ではなく、どうも運用が怪しい」と書かれ(もちろん雑誌では社名は伏せられていたものの、誰が読んでもAIJを指していることは明らか)、同社内でも当然にそういった噂の存在を社員が熟知していたにもかかわらず、なにゆえ浅川氏は堂々と年金基金に対して営業を続けていられたのか、という点に関する記述は、一般の企業のコンプライアンス経営を検討する際にも参考になるところと思われます。

また、大手の年金基金の担当者は、年金コンサルタント等の専門家を交えてAIJの報告を受けていたにも関わらず、どうして著者(企画部長)の説明に納得してしまったのか、そのあたりも同様の事件が今後も発生するリスクを考えるうえでとても参考になりました。そんな自信満々だった著者が唯一プレゼンで苦労したのが大阪の年金基金だったそうであります。なぜ大阪の年金基金だけは営業に困難が伴ったのか、という理由は、本書を読みますと納得できるのではないでしょうか(大阪には振り込め詐欺の被害者が極端に少ない、という理由にとてもよく似ているような。。。)

昨今よく世間で語られるところの「リスクと不確実性の違い」に関する著者の考え方なども垣間見え、またデリバティブ取引の基本的な仕組みなどもわかりやすく解説されておりますので、AIJ投資顧問事件の全体像を知るうえでの知識なども学ぶことができます。読者の方々の立場によって、興味を持たれる点は異なるかもしれませんが、不祥事のまっただ中におられた方の証言から学ぶものはとても多く、ご一読をお勧めする一冊であります。

9月 10, 2012 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年9月 1日 (土)

契約書の見方・つくり方(新刊のご紹介)

Keiyakusho001_2契約書の作成方法や活用法などは、弁護士が企業向けセミナーとして開催する定番のテーマであります。もちろん企業法務として最も重要な業務であるがゆえに、昔から契約書作成の手引き的な参考書はたくさん世に出ています。企業間取引の現代化とともに、改訂版が出たり、頻繁な差し換えサービスもなされるところです。

しかし、私のようにコンプライアンス経営を支援する立場の者からしますと、当事者間における力関係で合意条項が列記される契約書も重要であることは間違いないのですが、求められるものはそれだけには限りません。紛争が発生した場合に自社が有利な状況になれるよう、契約書を作成することも大切ですが、むしろ紛争が発生しないように契約書を作成することも大切であります。たとえばM&Aによる事業再編が頻繁に繰り返される状況のなかで、契約書の持つ公示機能は大切であります。契約書の当事者だけでなく、第三者がみても権利義務関係が一目でわかるようなものでなければ紛争の種になってしまいます(法務デューデリ等を想起いただければおわかりになるかと)。また、BS(資産・負債)中心の財務会計制度が進展する中で、いかなる会計事実が存在するのかを監査人に説得的に説明できるためにも、権利変動の要件・効果がわかりやすく記載されていることが求められています。企業法務を取り巻く環境変化の中で、契約書に求められる要素も少しずつ変化しているのでありまして、契約書を作成の前提となる法律行為の中身を理解しておくことはとても重要なことであります。

このような状況のなかで、とくに企業の法務担当者だけではなく、経営陣の方々にも参考になると思われるのが、TMI総合法律事務所の淵邊善彦弁護士が書かれた新刊書(契約書の見方・つくり方 淵邊善彦著 日本経済新聞出版社 1,000円税別)であります。日経弁護士ランキング「企業再生、M&A部門2011年度」でトップに選出されたこともある淵邊弁護士によるものですが、新書版にふさわしく、契約書の見方・つくり方の実務が、法律の専門家以外の方々にもわかりやすく書かれています。ビジネスの世界でトレンドと思われる契約形態を紹介され、その契約形態に合った「ひな型」に沿って法律関係を解説されるというもので、とても内容的に新鮮であります。「完全合意条項」の付記、などといった解説は、実際に契約関係がもつれて紛争に発展したような事例を取り扱ったことがなければ、なかなか理解しにくいところですが、そういった解説も非常に分かりやすい。

本来は、契約書のひな型だけをみて、チョコチョコっと書きうつして活用するのが、このての書物の特長ではありますが、本書では「どうしてこのような条項になっているのか」といったところの解説がなされていますので、企業の経営者や法務担当者ご自身が原理・原則に関する理解を進めながらご一読いただくにふさわしいものであると思われます。こういった原則的な法律関係を整理しながら学ぶ、ということにより、当事者間でいろいろな注文がつけられた契約書作成事務にあたっても、その応用が効くものになるのではと。まさに契約書の作成を学ぶことによってダイナミックは交渉の場面での対応を学ぶことができる一冊かと思われます。

9月 1, 2012 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月 3日 (火)

サムライと愚か者-暗闘・オリンパス事件

Orokamono久しぶりに「一気読み」してしまいました。オリンパス事件に関心のある方には必読の一冊であります。

サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件(山口義正著 講談社1400円税別)

著者の山口義正氏は、オリンパス事件が世に出る発端となりましたFACTA誌にて、初めてオリンパス事件の記事を書いたジャーナリストの方です(元公社債研究所アナリスト、元日経新聞記者。オリンパス社への質問状の原稿も、この方が書かれています)。この山口氏と内部告発をしたオリンパス社員(もちろん本書では仮名)の「告白」シーンから本書は始まります。ジャーナリストの山口氏さえ、告発者のつぶやきに本気になるまで1年を要しています(それほど、オリンパス社の粉飾、ということは信じがたい事件だったということなのでしょう)。

多くの新事実が本書に出てくるので、書評として書きつくすことはできないのでありますが、まず本書を読み、当ブログでも既述のとおり、オリンパス事件は多くの社員が知っていた、ということを確信いたしました。本書で明らかになるのは、複数の内部告発者が存在したこと、そしてどの内部告発もオリンパス事件発覚において重要な役割を担っていた、ということであります。また、山口氏も最後のほうで記しておられるように、重要な社内メールが「cc」でたくさんの幹部社員に届けられており、筆者の言葉を借りるならば「ミニ菊川」とも言うべき幹部社員が数十人規模で存在していた、ということ。そうでなければ複数の内部告発者が出てくる、という事態は考えられないわけでして、やはり本件は「組織ぐるみ」と考えるのが正しいと思います。

ただ、私もきちんと整理していなかったのですが、「不正なM&AやFA報酬で巨額の資金が流れている」という不正を知っていた社員が多かったようですが、それが「飛ばしによる損失隠しの解消のために行われていた」という点まで知っていた社員がどれほどいたのか・・・ということについては、いまだよくわからないところであり、本書を読んでも、そこはハッキリしませんでした。また、FACTA誌が追及しているときに、週刊朝日に「先を越される」事態となりましたが(オリンパスの不正な資金流出が、実は損失飛ばしと関係がある、という点)、「悔しかった」という山口氏の感想が述べられておりますが、なぜ週刊朝日がすっぱ抜いたのか?という点もナゾのままであります。

本書を読み、多くの示唆をいただきましたが、3点のみ感想を述べさせていただきます。ひとつは、オリンパス事件とは、多くの偶然が重なって不正発覚に至ったという点。山口氏と告発者との出会い、FACTA編集長との出会い、ウッドフォード氏が温泉旅行に出かけたときに、同行した知人がたまたまFACTA誌の記事を読んでおり、これを英訳をしてもらい、これがウッドフォード氏の目に留まったこと、更なる内部告発があったこと、アメリカ人僧侶との出会い、ウッドフォード氏と菊川氏との密約違反の事実が発生したことなど、どれかひとつが欠けても「損失飛ばし事件」は世に出なかった、ということであります。また、こう考えますと、筆者が言うとおり、オリンパスは本当は債務超過の状態にあり、これを「官製粉飾決算」として、いまだ「なあなあ」の状態に保存しているのではないか、との疑念が湧いてまいります。本日(4月2日)の日経新聞ニュースでは、金融庁が開示検査として、上場会社の「のれん」の過大計上を重点的に調査する方針であることが報じられておりますが、まさに筆者も、この事件について「のれん」の計上を最大の論点として位置づけておられます。

次に、オリンパス事件というのは、後出しジャンケン的な発想を極力回避して考えてみると、「反社会的勢力と著名企業との癒着」ということへの関心が、不正発覚への強力な後押しになったのではないか?という点です。当初問題視されたのは、国内3社の買収代金、英国ジャイラス社の買収に伴う過大なFA報酬がケイマンの得体のしれないファンドに流れたことです。この事実が「オリンパスと反社会的勢力との癒着」への妄想を駆り立てことが告発者や筆者、そしてウッドフォード氏の追及の意欲を高めたのではないでしょうか。また、ウッドフォード氏解任後に英国やアメリカで連日大きく報じられたのも、オリンパス社と反社会的勢力とのつながりが連想された事件だからではないかと。これがもし、最初から「損失飛ばしスキーム解消のための資金還流」といった構図が判明していたとすれば、ここまで海外メディアは大きく報じていたでしょうか?(こういった事件の読み方をされた方はいらっしゃらないかもしれませんが、どうでしょうかね?)

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そして最後になりますが、ウッドフォード氏は、菊川氏、森氏を追及する時点で、最初から彼らに辞任を求めるのではなく、「手打ち」を考えていたフシがあります。つまり菊川氏が形だけの取締役会のトップに収まり、自身が名実ともにCEOになることで合意したそうでありますが、その後、英文開示情報では「ウッドフォードがCEOに就任した」とオリンパス社のHPで公表したのみで、日本語ではこれを開示しなかった、とのこと。これに不信感をもったウッドフォード氏が取締役辞任を両名に求め、その後の自身の解任につながったというもの。ということは、ウッドフォード氏も、純粋な正義感だけで動いていたのではなく、オリンパス社の損害が最小限度に収まるように、不正な海外への資金流出問題を丸くおさめようと考えていたのではないかと思えてきました。けっしてウッドフォード氏を悪くいう意味ではなく、大会社の経営者であれば、そのように考えるのも自然ではないか、と。いや、これは私が本書を読んだうえでの感想ですので、このあたりはお読みいただいてから、皆様の評価にお任せしたいと思います。

本書の面白さは当ブログでは書き尽くすことは困難ですのでご一読をお勧めいたします。いずれにしましても、本書は日本のメディアへの痛烈な批判が随所に「事実を示しながら」登場してまいります。FACTAの編集長の方も、「FACTAだけでは事件が消えてしまうかもしれないから、もっと大きなメディアに売り込んでみては?」と山口氏に提言するのでありますが、残念ながら他紙では相手にしてもらえない、というのが実情。本書はおそらく売れると思いますが、さて、各新聞や雑誌が本書を取り上げるのかどうか、とても興味のあるところです。

4月 3, 2012 本のご紹介 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2012年2月 2日 (木)

内部統制を活用した反社排除体制の構築(ミドルクライシスマネジメント)

Midorukura00本日も東証さんでシステム障害があり、現在も復旧していないとか(2月2日午前11時半現在)。先日も、みずほ銀行さんがシステム統合に向けて2500億円の投資を行う旨の報道がありました。企業のシステムリスクへの対応は、本来なら経営マターの問題であるにもかかわらず、痛い目に合うまでは担当者任せ、の典型的なリスクではないかと思います。

前も申し上げましたが、こういった「直面してしまうと経営問題に発展してしまうけど、まあ、うちの会社では大丈夫」と楽観的に考えてしまって、予算措置が遅れていると思われるのがシステムリスク対応のほかに反社会勢力対応かと思います。システム対応は「私にはわからないから」といって経営陣に敬遠されるのですが、反社会勢力対応は「私はちょっと怖いし、立ち回りに失敗したら責任をとらされるし、うちには警察OBの方が総務にいるから」ということで敬遠されます。いずれもリスク評価ができる担当者が非常に少なく、また他の社員もあまり首を突っ込みたくない・・・という点では共通しているかと。

ただ、暴排条例施行後のマスコミの取り上げ方や、各企業の対応状況などをみておりますと、企業は反社会勢力へ半分、そしてこれを取り締まる当局へ半分、目を配る必要が「全社的対応」として出てきたのではないでしょうか。最近、話題の新刊ノンフィクション「さいごの色町 飛田」を読みました。再開発で賑わう天王寺にいまでも160軒もの遊郭(飛田遊郭)がございますが、あの飛田がなぜ昭和33年の売春防止法施行後もそのまま残り、反社勢力を排除しつつ、警察の規制にも負けずに事業を継続しているのか、その知恵には企業のリスク管理の視点から学ぶところも多いように感じました。料理組合を中心として全料亭が一丸となって対応し、自店の利益だけで「抜け駆け」はしない、ホンモノの「料亭」の存在を容認することが自店の防衛につながる等、まさに全社的取組であります(ちなみに料理組合の顧問法律事務所といえば・・・・なるほど、みなさんご承知のあの方のところなのですね。さすが、ピカイチのリスク管理)。

さて、このたび反社リスク等、リスクマネジメントコンサルティングを主な業務とするエスピーネットワークさんから「ミドルクライシス・マネジメント-内部統制を活用した企業危機管理-」なる本が出版されました。読み終えるまで時間がかかりましたので、少しご紹介が遅れましたが、さすが創業以来6000件以上の危機対応事案を手掛けてきた会社が社運をかけて(?)世に送り出したものだけあり、とてもリスク管理の視点から有益な内容になっております。著者の渡部洋介氏は警察OBの方で、一見「武闘派的企業対応」の指南本か?とも錯覚するわけでありますが、当社はすでに警備的対応だけでなく、知的介入対応にも力点を置き、証券会社、損保会社等の出身者も数多く在籍しております。したがいまして、この本は有事を経験している会社が、有事に至らないための予防的対応、また警察から要チェック企業としてマークされないための信用維持対応、といったあたりを中心にまとめられた本です。

一般の書店には並んでおりませんので、お買い求めは(上記PDFにより)エスピーさんに直接ご連絡いただければ、と。実は多くの出版社から発刊の検討がなされたのですが、ご推察のとおり、内容が内容だけに「尻込み」されたところも多かったそうです。たしかに「関係解消のポイント」などを拝見しますと、なるほど、ノウハウが詰まっていて参考になりますし、私も「講演で使えそう」とひそかに思っております。反社と対面する場合、あまりたくさんの社員で対応してはいけない…という理由も、なるほど・・・と。「VOL1 反社会的勢力からの隔絶」とありますが、続編があるのかないのか、そのあたりは私は存じ上げません。本当にお困りになる前に、ぜひご一読いただき、平時の内部統制、有事の危機対応、そしてどこまでやれば行政当局に理解してもらえるか、社内で考えるきっかけにしていただければと。

2月 2, 2012 本のご紹介 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年12月28日 (水)

「コンプライアンス改革」の課題と処方箋(NBL2012年新年号)

すでにお手元に届いている方も多いかと思いますが、NBL(商事法務)2012年新年号におきまして、新春座談会「『コンプライアンス改革』の課題と処方箋」の司会を務めさせていただきました。討論者である国廣正、山田秀雄、増田英次の各弁護士の積極的なご発言に助けられました。すでにコンプライアンス経営の重要性は認識されているはずなのに、どうして企業不祥事は頻発するのか、これまでの問題点をもとに今後どう対応していけばよいのか、建設的な意見を盛り込んだ座談会記事に仕上がっております。

山田弁護士の長年にわたる貴重な社外取締役としてのご経験、増田弁護士の「コーチング理論」による企業マインドの変え方、そして国廣弁護士が解説されるコンプライアンスと会社法、ソフトロー規範との関係など、私自身も話をうかがいながらたいへん勉強になりまして、すでに本業のなかでも取り入れさせていただいております。どうかご一読いただければ幸いです。

なお、本誌は「新年号」ということもあり、内田貴(法務省参与)論文「佳境に入った債権法改正」、伊藤眞(早大教授)論文「会社分割と倒産法理との交錯」、濱田邦夫(元最高裁判事)巻頭言「わが国の法の支配」などとても豪華です。とりわけ淡路剛久(早大教授)による「福島第一原子力発電所事故の法的責任について」は今後の賠償実務にも影響を及ぼすものとして、非常に参考になります(NBL2011年7月1日号の拙著論文「原発事故にみる東電の安全体制整備義務-有事の情報開示から考える」も引用いただき、ありがとうございます)。私などご紹介できる立場にもありませんが、2012年の企業法務の行方を占う各論点に参考となるものばかりです。

会社法務A2Z(第一法規)では、私のセミナー講演録が連載されているところですし、リスクマネジメント・トゥデイ(リスクマネジメント協会)にも掲載いただきまして、ずいぶんとブログ以外のところでお目にかかることが多くなりました。またお目に触れましたら、ご感想などをメールでお寄せいただけますと幸いです。

12月 28, 2011 本のご紹介 | | コメント (10) | トラックバック (0)

2011年11月27日 (日)

山一證券破たんの歴史からみるオリンパス事件

Shuraba001 企業としてのオリンパス社の命運と、不正を主導していた経営陣の命運は、どうも分けて検討される雰囲気になってきたオリンパス事件でありますが、本日(11月26日)の日経朝刊3面の記事にもあるように信頼回復の具体策が未だ見えないのが現実であります。

今年9月に国広弁護士による新刊書「修羅場の経営責任」が発売されましたが、この本が世に出るころ、まさかこんな形で本書が脚光を浴びるとは(著者・出版社も含めて)誰も予想していなかったはずであります。

ビジネス雑誌等で既に多くの書評が出ておりますので、当ブログでご紹介するまでもありませんが、オリンパス事件の動きをみていくためにも、山一證券の破たんを「内部から」みてきた著者の活動記録を精査することは非常に有益であります。とりわけ2300億円にも上る簿外債務が明らかになった後の山一経営陣の(社内調査委員会に対する)「抵抗」はすさまじいものであり、まさに現在のオリンパス経営陣の心証が察せられるのではないかと。

私などは、経験不足から来る「甘さ」でしょうが、これまで公表できなかった不祥事を世に公表した以上、経営陣らは肩の荷が下りたかのように気持ちが楽になり、誠意を持ってステークホルダーのために尽力するのでは・・・・と思うのでありますが、そんな甘いものでないことは、当時の著者の「日記」から明らかになります。不祥事が世に公表された以上、今度は「火の粉」ができるだけ自分にふりかからぬよう、上手に保身に走る姿が如実に表現されております。

損失隠しといっても、誰も私利私欲のために動いていたわけではなく、真摯に「今は悪いことをやっているけれど、これも経営環境が変わって株価が持ち直せば、後日『笑い話』になる」と信じて行っていたのでしょう。これは架空循環取引に手を染める経営者もまったく同じであります(本当に業績向上によって循環取引の損失は消せると信じて行っていたケースが多いと思われます)。あるいは不正行為に手を染める社員特有の「バイアス」が働いていたのかもしれません。

もし今回のオリンパス事件でも、「飛ばし」をそのまま継続していたらどうなっていたのでしょうか。M&Aの手法によって第三者に手数料を支払ったりして無理をしたために監査法人に疑惑の目を向けられ、さらに関与せざるをえなくなった社員の数も増えてしまったがゆえに露見したのかもしれません。そうでなければそのままもう少しの間、静かに深行していたのかもしれません。山一事件からオリンパス事件までの間、法制度や会計基準に変化はありますが組織で動く人間模様に変わりはないものであることが本書を読んで感銘を受けたところであります(著者が「売名弁護士」と批判されたこと、山一社内で非公表と決定されていたはずの報告書を誰がマスコミにリークしたか・・・というあたりも書かれております)。なお後半の「長銀事件」に関与された部分につきましては、大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会主催による来年3月のシンポ「公正なる会計慣行を考える」をご紹介する際にまた引用させていただきたいと思います。

Ino0011KPMGのアンドリュー会長は、オリンパス英国法人の監査において、2年ほど前には疑義を呈し、「決算書に疑義を述べたことによる名誉ある交代であった」と会見されておりました。「オリンパスの不正は明白であった」とのこと。しかし、 それなら本国の監査法人は、単に交代するだけでなく、金商法193条の3による行動はなぜ起こさなかったのか?と私は素直に疑問を感じるところであります。

大王製紙の件、オリンパスの件いずれにおいても、おそらく今後の監査役、監査法人への批判について、冷静に考えるきっかけとなる一冊は、(再掲となりますが)伊藤醇会計士による「命燃やして」であります。すでに1年前に当ブログでもご紹介いたしましたが、本書は最近(2011年10月)増刷が決定したそうであります(これもひょっとするとオリンパス効果かもしれません)。

「山一の損失先送りをなぜ中央青山は見逃したのか?」誰もがその損失額が大きければ大きいほど、監査すべき立場の者へ批判的な目を向けることとなります。10年間にわたり監査見逃し責任の被告となって闘った伊藤会計士は、管財人相手の訴訟で和解をした以外には、4件全ての裁判で勝訴しました。つまり山一事件において中央青山の監査に過失があった、とする裁判は一件も存在しないわけであります。伊藤氏の名誉のために申し上げますが、本書は特定の誰かを批判するためのものではなく、「なぜ監査法人にも不正が発見できなかったのか」を冷静に検討することが本旨であります。マスコミも商売である以上、報道できない事実があり、とりわけ信託銀行、大口顧客、国際的アカウンティングファームによる監査妨害行為があったということを世に公表しているところに意味があると思われます。当時と現在とでは会計基準も変わり、本書で述べられている監査手順が参考になるものではないかもしれません。しかしながら、試査を前提とした監査を行わねばならない以上、被監査対象会社の協力を前提とした監査を遂行することに限界があるのは当然であり、「どこまでやれば不注意と言われないのか」、つまり法と会計の狭間の問題を検討するためには必読の書であると確信します。

本書を読みますと、山一事件発覚時における「監査法人にも責任か」なる大きな報道、そして5年以上経過した裁判で山一監査人が勝訴しても誰も報道してくれない現実、これを私は(「期待ギャップ」に対抗して)「報道ギャップ」と名付けましたが、そういった事実もよく理解できるところであります。そのあたりも認識しながら、現在のオリンパス事件に投影してみると、また興味深いところとなりそうです。

11月 27, 2011 本のご紹介 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年10月16日 (日)

企業不正対応の実務Q&A(ACFE年次大会のご報告と共に)

Huseitaiou001 タイの洪水で被災された企業の皆様には、謹んでお見舞い申し上げます。また事業再開にむけての有事対応を余儀なくされるところが多いそうで。今年は本当に厳しい年になりました。

さて、そろそろ書店に並んでいるようですので、新刊書をご案内いたします。10月7日、青山学院大学内のアイビーホールにて、第2回のACFE JAPAN年次大会が開催されました。おかげさまで募集人数を超えて満席状態となりました(詳しい報告はこちらをご覧ください)。

東証自主規制法人理事長のお話、証券取引等監視委員会事務局総務課長等をお招きしての鼎談、各界の有識者の方々による「日本と不正」をテーマとしたシンポなど、参考になるお話をいろいろと拝聴いたしましたが、なんといっても、私的に一番感銘を受けましたのは尼崎信用金庫国際部長(10月1日までは人事部長)の上野さんの「尼信でのCFEの取組み」でした。

「阪神タイガース預金」のお話は、尼信さんの営業面では重要な商品に関するものであり、会場でもずいぶんとウケておりましたが、関西人からみればどーでもいい「ツカミ」の話でありまして、とくに申し上げることもありません。しかし不正のトライアングル(動機、機会、正当化根拠)を金融機関なりに分析してお話された内容は、具体的なものであり、非常に参考になりました。とくに融資予約に絡む不正がどのような経緯で発生し、その後、どのように大きな不正につながっていくのか・・・というあたりは、「銀行員もしょせんは人間であり、その弱みにつけこまれる隙間がある」ことを事例をもって理解できました(もちろん他社事例を参考にされてのお話だと思います)。経営陣、フロント、バックそれぞれに「不正の芽」が生じる可能性があるからこそ、尼信さんでは、各部署にCFE資格者を配置できる体制を今後目指していかれるそうです(現在は6名)。

また、世間では「カレログ」が物議を醸しておりますが、「尼信では、もうすいぶん前からGPS付きの通信端末を全営業マンは所持しています」とのこと。導入当初は、金庫内でもいろんな意見があったそうですが、経営トップが金融マンの行動倫理を率先して説いておられたこと、営業マンの安全配慮(おそらく事故に巻き込まれるとか、企業情報を紛失することを防止することがメインかと思われます)のための仕組みが具備されていることなどから、今では職員の方々にも、前向きに受け止められているそうであります。

尼信さんのお話でも認識しましたが、どんなに厳格な金融検査を受けていても、不正が発生する隙間は絶対になくならないのでありまして、これはどこの組織でも同様であります。このたび、上記年次大会開催と同時に、ACFEの理事を中心として「企業不正 対応の実務Q&A」(八田進二監修 ACFE編集 同文館出版 1800円税別)を出版いたしました。企業実務家の方々向けですので、不正対応といいましても、平易に書かれており、社内研修や不正の予防、早期発見のスキル向上に役立つように心がけております。私も16ページ分ほど、執筆させていただきました。主に不正調査を手掛ける弁護士、会計士が中心ですが、不正調査に取り組む実務家の方や学者の方にも執筆いただいておりますので、企業のご担当の方だけでなく、これからCFEの資格を取得したい、と思っておられる方のテキストにも最適かと。

Huseitaiou002 また、同時に「事例でみる企業不正の理論と対応」(八田進二監修 株式会社ディークエスト、ACFE編集 同文館出版 1800円税別)も併せて出版されました。近時の企業不正の事例紹介を中心に、不正対応の基礎理論と実務のあり方(実践編)をまとめたものです。ご執筆は、東大大学院を修了後、自衛隊で情報分析官をされ、その後リスクマネジメント会社を経て、現在ディークエストの課長でいらっしゃる高林真一郎氏によるものです。私も同じように関心を持った事例が出てきますが、専門の畑が違えば、これだけ違う視点から不正対応が考えられるのか・・・との印象を抱くと同時に、不正対応というのは、様々な専門領域を持った者による協働が不可欠であることを知らされました。こちらはまだ私自身読み終えておりませんので、また後日ご紹介させていただきますが、併せてご購入いただけますと幸いでございます<m(__)m>。

10月 16, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年9月26日 (月)

「福岡魚市場株主代表訴訟の判例解説」等、二つの拙稿のご紹介

第一法規さんの「会社法務A2Z」10月号(9月25日発売)に、「判例解説 福岡魚市場株主代表訴訟の概要(ポイント)と実務への影響」なる論稿を掲載していただきました(循環取引の解説など、図表をふんだんに活用しております)。私が今年一番注目しておりました地裁判決でありますが、親会社取締役による子会社の不正調査の限界、事実調査の不備が親会社の経営判断に及ぼす影響(経営判断原則の捉え方)、監査見逃し責任を認めるにあたり裁判官は何を「異常な兆候」とみなしたのか?といった興味ある論点が登場します。

なお、本裁判につきましては、高裁判決がもうすぐ出るようにもうかがっております。また、これはブロガーの役得かもしれませんが、本事件については関係者の方からいろいろと裏事情などもご教示いただき親子会社法制におけるガバナンスのむずかしさなども勉強させていただきました(ただし裏事情については一切、本稿では触れておりません)。ご興味のある方はどうか書店にてお買い求めいただければ幸いです。

また、月刊監査役の最新号(10月号)に「災害時における企業の危機管理と監査役の役割(下)」を掲載いただきました。これは最寄りの書店で・・・というわけにはいきませんが、今後各会社で整備・運用されるであろうBCM(ビジネス・コンティニュイティ・マネジメント)の在り方を意識しながら、監査役がどのような視点で経営判断であるBCMに関与していくべきか・・・というあたりを意識したものとなっております。内部統制報告制度(J-SOX)、ITガバナンス、反社会的勢力対応などと並び、BCMもいわば直接的には会社法の外の世界のことかもしれませんが、いずれもコンプライアンス・リスクと重大なかかわりがある以上、監査役もビジネス情報へ積極的にアクセスする必要があります。私見が多く含まれるものであり、異論反論もあろうかと思いますが議論の「たたかれ台」になればいいかなあと(こちらも、どうかよろしくお願いいたします<m(__)m>)。

9月 26, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月16日 (火)

会計ドレッシング-10episodes(東洋経済新報社)

いよいよ16日から日本監査役協会主催の恒例長浜合宿でございます。全国から新任の監査役の皆様が風光明媚な琵琶湖畔の長浜の地で1泊2日の勉強会(A日程、B日程合計4日間)に参加されます。今年は6月の定時株主総会で改選される監査役の方が多い年でしたので、やはり参加者は多いそうで、どちらもほぼ満席のようです。今年もお手伝いをさせていただくことになり、新任の監査役の方々にお会いできるのを楽しみにしております。

さて、本の御紹介ですが、すいません、多くの新刊書をご献本いただいているにもかかわらず、読む時間が限られているものでちょっとご紹介できておりません。<m(__)m>。読まずに「はしがき」だけをちらっと眺めてご紹介だけする・・・というのも、著者の方に失礼だと思いますので、とりあえずきちんと拝読してから・・・と思っておりまして、なにとぞご容赦ください。

Kaikeidore 本日、東洋経済新報社の編集部の方より「ご献本いたします」とのことで「山口弁護士にぜひ読んでいただきたい!」と推薦いただいたのが、村井会計士の「会計ドレッシング-10episodes-」(村井直志著 東洋経済新報社 1680円税込) 。知り合いの会計士の方にお聞きしたところ、「ドレッシング」というのは普通に粉飾を意味する言葉として使われているそうであります。

ご推薦いただいたのはありがたいのですが、実はこの新刊は日経新聞の広告に掲載された当日、脊髄反射的に阪急ブックファーストで購入しておりまして、もうすでに読み終えております。当ブログで今年3月にお勧めの一冊としてご紹介した「決算書の50%は思い込みでできている」の著者による第二弾ということで、今回もたいそう興味深く読ませていただきました(あのときも「会計トラップ」という言葉が新鮮でした)。

題名のとおり、近時の会計不正事件を10件取り上げ、それぞれの章末に、事件の教訓をもとに会社を強くするためのレシピが掲載されております。私は不正調査を仕事としておりますので、当然掲載されております10件の会計不正事件については承知しておりますし、当ブログでもこのうち8件についてはご紹介させていただいております。ただ、本書が素晴らしいのは(前回の「決算書の50%は・・」のときも同様のことを書きましたが)弁護士、会計士等による第三者委員会報告書などをもとに事件を紹介しておられるにもかかわらず、物語調に整理し直し、一般の方々にもわかりやすい内容で書かれていることであります。時折著者による推測も入っておりますが、会計不正事件が発覚するまでの事案の紹介は流れがあっておもしろいですよ。私自身も、紹介されている10件の報告書はすべて読んでおりますが、これを時系列にしたがってわかりやすく紹介することは、著者に事案分析力がないと書けないと思われます。とくに、なぜそういった会計処理をしたのか・・・というあたりは、監査人として会社の経理処理に普段から接しておられる会計士の方でないと自信を持って書けないのです。ここに解説されている10件の事案について、私なりに解説することは可能でありますが、本書を読んで「なるほど、経営者はこういったことに配慮してドレッシングしたのか」と(これまで気づかなかった視点に)納得するところが多々ございました。

10件の会計不正事件のほかに大阪ガスさんの会計不正事件を紹介しておられるのはスルドイ!これは産経新聞だけが記事として取り上げた、やや特徴的な事案なのですが、本件については私自身、諸事情ございまして(笑)、ブログではとりあげられませんでした。どこが特徴的かというのは、お読みになればおわかりになると思います。また、前書「決算書の50%は・・・」ではあまり著者の考える「不正発見」「不正予防」の効果的手法については触れられていませんでしたが、本書では(CFEの資格をお持ちの方には少し物足りないかもしれませんが)企業の管理部門の方々向けにかなり突っ込んだ解説が「第2部」でなされており、こちらも有益かと。とりわけ著者が紹介されているBS重視による異常点監査技法につきましては、社内のモニタリング部門に「不正発見までは求めない、ただ異常な兆候だけは気付いてほしい」とする私自身の意見にも関連するものであり、とても興味を持ちました。

最近、会計士の方が、こういった不正調査や不正事件の原因分析等に専門家的アプローチで迫る本が増えつつあるようですが、当ブログの管理人としてはたいへんうれしく思っております。「決算書の50%は思い込みでできている」と同様、今後も適宜ブログエントリー作成のうえで参考にさせていただきます。

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2011年7月29日 (金)

ZAITEN9月号「迷走する公認会計士」に執筆いたしました(お知らせ)

Zaiten09 ZAITEN(財界展望)への執筆は今回が3回目となりますが、9月号(たぶん8月1日ころ発売)の特集は「迷走する『公認会計士』」ということで、かなり刺激的な内容になっております。この本は発行部数が半端じゃないので、結構執筆には気を使うのですよね、毎回。(もちろん他の執筆でも気を抜いているわけではございませんが・・・・やはりお読みになる方の理解度がマチマチなので、けっこう誤解を受けたりするリスクが高いのですよ。。。)

ZAITEN9月号の内容はこちらをご覧ください。

私は、すでに当ブログで取り上げております「非上場大会社への監査」について、ブログよりももう少し詳しい周辺事情なども織り交ぜて「ホントに非上場大会社の監査をする人はたいへんだろうな」というあたりを書かせていただきました。「非上場大会社」ではございませんが、最近の協同組合組織などの会計不祥事を見ておりましても、社内の監査システムがまったく機能していない事例が多く、こんなところで外部監査人の設置義務を課しても怖くて監査できないのでは?と痛感いたします。こういった分野に監査証明業務の運用を拡大することは、会計士業界にとっての職域拡大に資するものであり、ぜひとも進めていただきたいとは思っておりますが、「会計不正と監査人の責任」についての議論も併せて進めていく必要があるだろう・・・・と思います。

弁解がましくて恐縮ですが、(会計士業界の外野の者ゆえに)私の論考は比較的穏健な内容だと思います。といいますのは、編集部さんから送られてきた9月号を拝見いたしましたが、執筆陣を見ていただくとおわかりのとおり、テーマも内容もかなりスゴイ(^^;。先日の会長解任請求問題の背景(細野さん)、3大監査法人の経営分析(帝国データバンクさん)、IFRS延期問題(東京財団さん)、「おバカ」な会計士論(戸村さん)などなど、なかには「冷静に読んでちょうだいね(汗)」と先に申し上げたほうがよろしい内容なども含まれております。私は本業や委員会の関係で、いろいろな監査法人の大先生方と、普段からお話をする立場なので、ここに書かれている内容はほぼ承知しているのでありますが、執筆者の「思い」も加わり、楽しく読めました(楽しく読めない方も多いかも)。

弁護士業界同様、会計士業界も、これからの組織の在り方を検討することが急務であることは間違いないところですね。弁護士業界と異なり、会計士業界においてたいへんなのは監督官庁との関係だと思うのですが、そういえば一昨日、PCAAOB(金融庁/公認会計士・監査審査会)の事務局長に「あの方」が就任されたことがリリースされていましたね。あの方と、金融庁で1時間ほどお話をさせていただいたことがありましたが、市場の健全性確保のための会計士、監査法人の果たす役割については、とても思い入れが強いことが印象的でした。検査局審議官とご兼任だそうですが、ぜひとも頑張っていただければ・・・と。(相変わらず、あの雑誌LEONに登場する「ちょいワルおやじ」っぽい感じなのでしょうか?たぶん私と同年代ですが、どうやってあの体型を維持されているのか不思議であります)

ちなみに特集記事ではありませんが、私的には日揮社の社内事情を追った経済ジャーナリストの方の記事は一番おもしろかったです。日揮社といえば、今年FCPAで米国に180億円の罰金を支払って訴追延期合意をしており、米国との和解条件に内部統制システムの構築も含まれているわけですが、こういった社内事情のなかで、ホントに再発防止のための仕組みって、どうしたら構築できるのだろうか、と。担当役員の方はたいへんだろうな・・・などと勝手に思ってしまいました。

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2011年7月22日 (金)

会社法新判例50(ジュリストブックス)-弥永真生教授

L13605弥永教授から新刊著書をいただき、早速拝読させていただいております。平成20年から22年にかけての約3年間、弥永先生がジュリストに「会社法判例速報」として連載されていたものから、50件の裁判例を厳選され、加筆のうえ出版されたものであります。

ジュリストブックス-会社法新判例50 (弥永真生著 有斐閣1500円税別)

「事実」「判例要旨」「解説」がすべての判例について4頁でまとめられておりまして、非常に読みやすく、司法試験等学習者の方々にも人気が出そうな本です。もちろんそれぞれが著名な裁判例なので、詳しく研究される方には(本書のみでは)物足りないかもしれませんが、解説部分に広く参考文献が紹介されておりますので、(帯にも記載されておりますとおり)ここ数年の会社法判例の流れを概括的に押さえておくには最適です。会社法といいましても、ガバナンスやファイナンス、組織再編など、その範囲がかなり広いために、実務家としてもすべての分野をカバーすることはなかなか困難であります。少し勉強しようにも、すでに議論が進化していたりしますと、どこから手を付けてよいのかわらからず、結局「食べず嫌い」のまま研究を怠ったりするのですが、こういった本が手元にありますと、会社法分野のなかの「食べず嫌い」の分野について、勉強しようという意欲をかきたててくれるものとなり、たいへん重宝いたします。

しかし、こうやって平成20年以降の会社法関連の判例を眺めてみますと、当ブログでご紹介したものも結構ありますし、とてもなつかしいですね。自分が重要だと考えていた裁判例が取り上げられていたりしますと、「おお!弥永さんもこれは重要と認識していたんだ」と納得してみたり。。。

当ブログでは、私個人の取扱いました具体的事件の内容については(原則として)触れないことにしておりますが、私自身が米国投資ファンドの代理人として判決をもらった事例も選択されていたのには少々驚きました(No.42)。あの事件は日本で一番大きな法律事務所の方々が相手方代理人となり、正直とても恥ずかしい判決をもらってしまい「かっこ悪いなあ」と思っておりましたが、判決後は予想に反して学者の先生方が研究材料として取り上げることが多く、金融商事判例などの法律雑誌にも、比較的早い時期に判決全文が登載されました。

こういった判例解説は、解説者の意見が記載されているほうが、読み手には面白いのでありますが、本書では弥永教授の自説が各所において紹介されており、読んでおりましても飽きるところはないようです。価格もお手頃ですし、お手元に一冊、お勧めの参考書であります。

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2011年7月11日 (月)

想定外シナリオと危機管理-東電会見の失敗と教訓

4785718916 東京の久保利英明先生からお手紙をいただきまして、「いつもブログを拝見しております。また、先生のNBLの論文を拝読し、参考になればと思い、一冊謹呈申し上げます」とのことで、久保利先生の新刊書を頂戴いたしました(どうもありがとうございます。<m(__)m>)

想定外シナリオと危機管理-東電会見の失敗と教訓(久保利英明著 1,400円税別 商事法務)

ただ、久保利先生には申し訳ないのですが、実は発刊と同時に一冊自費で購入しておりまして(当然といえば当然)、すでに読み終えたところでありました。NBLの論文を書き終えたころに、商事法務さんのメールマガジンを読み、久保利先生の新刊書が「東電問題」を扱われたものであることを知り、ドキドキしながら読み進めていたものであります。総会指導業務の合間をぬってしたためられた、とのこと。

実は私もNBL7月1日号にて「原発事故にみる東電の安全体制整備義務-有事の情報開示から考える」と題する論稿を発表させていただきました。私の論稿の次ページに、この久保利先生の新刊書が大きく広報されておりましたので、当ブログにお越しの方は、すでにお読みになった方も多いかもしれません。NBLでは、原賠法に詳しい森田章教授(同志社大学法科大学院教授)の論稿と共に掲載いただいたことをたいへん光栄に感じておりますが、私は(勝手な推測ですが)、東京の企業法務で著名な弁護士の方々は、おそらく東電もしくはメインバンク(みずほ)と何らかの関係があるため、東電を批評する論文は書きにくいのだろう、だから私のところにお鉢が回ってきたのだろう・・・と推測しておりました。

ところが、ところが。。。企業法務の第一人者でいらっしゃる久保利先生の「東電批判」はなかなかスゴイ。もちろんJA中央の代理人として、東電経営者とすでに賠償交渉をされている立場だから・・・という面もあるかもしれませんが、「ここまでハッキリ言うてええのん?」と思わせるほど、東電本体および同社役員個人の法的責任論について深く切り込んでおられます。先に本書を拝読していたら、私の論稿も、もう少し腰の引けていない(笑)論調になったかも(^^;。いや、おそらくこの違いは、やはり企業法務とりわけコンプライアンスや内部統制について実務で体得したものの違い(そこから来る自信)に起因するところが多いものと思いました。また、議員定数訴訟のスタンスと同様、国民の視点から東電を分析する、ということに力点が置かれているのが特徴的であります。

私の論稿と同様、本書でも、東電問題を扱うにあたり、リスク管理(リスクマネジメント)と危機管理(クライシスマネジメント)を分けて検討されており、原発事故発生前の安全対策、そして原発事故直後の危機回避の是非についての検討は、東電問題を超えて、危機に遭遇した企業の危機管理の在り方を再考させるものであります。私も本件を検討するにあたり、ダスキン事件判決は重要なモノサシになるものとして引用しておりますが、本書でも同様に情報開示のタイミングを含め、危機管理と役員の責任論を考える判断指針として掲げられております。リスク管理の面においては、「想定外」ではなく「想定しようとしなかったにすぎない」として、善管注意義務違反の有無についても明言されており、またクライシスマネジメントの面においては、やはり情報開示の失敗を検証され、「メキシコ湾で原油流出事故を起こした英国のBPと同様に、世界中の裁判所で世界中起こされる訴訟に対応せざるをえないだろう」とバッサリ。「マスメディアの失敗」は、昨今の「九電やらせメール」へのマスコミ対応などにも通じるところがあり、コンプライアンス問題を考えるうえでも参考になります。

本書を最後まで読み、ふと思ったことがございます。これだけ東電および東電の役員批判を痛烈に展開されているにもかかわらず、どうも「東電憎し」という印象が伝わってきません。著者は、これまでの電力会社の果たしてきた役割をご存じであるがゆえに、東電に完全に見切りをつけたわけではなく、むしろ東電の尻を叩いているのではないか?日本を支えてきた数々の経営者を輩出してきた名門企業だからこそ、荒治療を施してでも、名門復活のための体制整備が必要だと考えておられるのではないか、と思われます。マスコミでは「東電の甘い体質」「不適切な情報開示」という言葉が抽象的に使われており、その具体的な内容については語られていないことが多いのでありますが、本書においては何が体質として問題なのか、情報開示のどこが不適切なのかが(長年のご経験から)具体的に書かれており、だからこそ将来に向かっての改善策に説得力があります。

競争相手に負ければ倒産、という厳しい業界であれば、企業にとってコンプライアンス重視ということも身にしみるわけですが、これまで公企業は「不祥事が発生しても、頭を下げれば一件落着」という理解があったのではないでしょうか。おそらく電力会社にも、そのような企業風土が根強く残っているものと思われます。しかし、そうではない、ということを今回の痛ましい震災が証明したのでありまして、東電ですら、継続企業の前提について注記が付され、コンプライアンス違反によって存亡の危機に陥ること、そしていったん失った信頼を回復することは容易ではないことを東電に学んでほしい、だからこそ著者は国民の側に立って、本書を世に著したのではないでしょうか。

JR福知山線事故も、公企業にとって厳しい事件ではありましたが、解体の危機に至るものではありませんでした。しかし今回の事故については、賠償関連法の改正動向にもよりますが、本当に危機を招来しました。原発事故収束にはまだまだ気が遠くなりそうな時間を要するものではありますが、東電問題は国民の視点によるコンプライアンス経営を考えるうえで、今後も避けては通れないことを本書をもって再認識いたしました。

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2011年6月26日 (日)

提携契約の実務(シチュエーション別)

今朝(6月25日)の日経新聞によりますと、日本企業が関わるM&A金額は、昨年と比べて約80%増ということで、国内外を問わず企業買収攻勢を強めているそうであります。企業買収とまではいかなくても、事業効率化や震災後の収益源分散のため、アライアンス(企業間提携)もさかんに行われているようです。私がときどきお邪魔する会社さんも、JV事業体のガバナンスをどちらの出資会社がコントロールするのか・・・といったことで大いに悩んでいるところでして、いまになって、もっときちんとガバナンスに関する取り決めをしておけばよかったのに・・・と後悔しているところであります。

Teikeikeiyaujitumu ということで、アライアンス、企業買収における提携交渉について、ビジネス条件の面からではなく、法律的な側面からノウハウを示した本は、これまでなかったのではないかと思いますが、今回書店で目に留まりましたのが本書であります。

シチュエーション別-提携契約の実務(淵邊善彦 編著 商事法務 3,400円税別)

淵邊先生のご著書は、以前にも「企業買収の裏側-M&A入門」(新潮新書)をご紹介させていただきましたが、今回はTMI総合法律事務所に在籍していらっしゃる弁護士の方々の共著となっております。本書には、弁護士の著作にありがちな「膨大な注書き」がほとんどございません。つまり、著者の実務経験に基づく第一次情報がほとんどであります。こういった本は正直、「当たり・はずれ」がありますが、販売提携や技術提携をはじめ、提携交渉にあたって基本的に押さえておくべき筋道、また柔軟に対応すべき勘所がきちんと記述されており、「即戦力」として有用性の高い本でありまして、まさに「当たり」の一冊です。とくに各所で述べられている「交渉&落とし所」は、実際に問題が発生するリスクを念頭に、当事者が(提携交渉時点において)可能な対処レベルをつかむことができます。これは企業の法務担当者などにも大いに参考となるのではないでしょうか。

私自身はガバナンスにも配慮された「資本提携(合弁会社)」がもっとも参考になりましたが、全体を一読して感じましたのは、こういった提携契約のコツというものは、普通はコンサルティングする事業者が自社の「秘伝」として、あまり外部に伝えたくないのではないか・・・と思うところです。たとえば私も大手の監査法人さんのコンサル部門の方々と一緒に「子会社不正を防止するための内部統制構築」の作業などを、何カ月にもわたって行うわけですが、監査法人の担当者の方と「本にしたら売れるかも。でも、これって公表したらもったいないですよね」などと、かなりセコイことを語ったりしております(ホンマ、せこい 笑)。しかし、そういった秘伝を堂々と公開する、というのは、懐の深さを感じさせますね。本書で語られているところは、基本的なところであり、たとえば海外企業との提携交渉など、もっと奥が深いところもあるのでしょうね。

ただ、コノテの本は(前にも述べたことがあるかもしれませんが)、アライアンスや企業買収に反対派の人たちにも有益になる、という面がございます。事業提携はからなずしも、企業が一枚岩になって行われることではなく、組織力学上これをつぶしたい、と画策する社内一派もいらっしゃるわけで、提携話をつぶしにかかる人たち、あるいはそういった人たちを支援する専門家にも、どの段階でつぶすのが効果的なのか、「次の一手」がとてもよくわかり、参考になりそうであります(ひとつの事業提携に参画する法律事務所は、かならずしもひとつではない、ということであります)。想定すべき相手方は提携先、買収先企業だけではない・・・・ということも、けっこう配慮する必要があるのではないか、と。いずれにしましても、実務担当者の方々にはたいへんお勧めの一冊です。

6月 26, 2011 本のご紹介 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年5月27日 (金)

会社法施行5年 理論と実務の現状と課題(ジュリスト増刊号)

L11397ジュリスト(増刊号)のご紹介、というのは、おそらく当ブログでも初めてのことと思いますが、いよいよ会社法施行丸5年を記念して出版されましたのが

会社法施行5年理論と実務の現状と課題(有斐閣)

でございます。私など、別冊ジュリスト(本誌は「増刊号」)といえば「判例百選」のあの白っぽい表紙を想起するわけでありますが、ずいぶんとシャレた表紙になっております。(最近は、別冊ジュリストもこういった表紙が主流なのでしょうか?)法制審議会会社法制部会長の岩原教授と法務省に出向されておられた小松先生が編者。

以下は有斐閣さんのHPから、そのまま引用させていただきます。

今年5月に施行5年を迎える会社法について,これまでの理論展開や判例・実務の動向を分析し,解釈・運用上の到達点と課題を明らかにする。法制審議会での改正論議の根底にある問題状況を理解する上でも有益。会社法研究者,弁護士,企業実務家にとって必携の書。

こういった格調の高い本につきまして、あれこれと感想を書くのもむずかしいのですが、私的にはどうしても企業会計法の分野、公正なる会計慣行やIFRSと会社法の関係を論じた岸田解説、弥永解説に興味が惹かれます。岸田先生も弥永先生も、企業会計法のご研究は長年のものですから、そういった方々からみたこの5年の会社法施行後の流れというものが、どのように表現されるのか、とても興味がございます。

ただ客観的にみると、モノ言う株主(当ブログにもときどき登場される?)のご活躍もあって、組織再編と株式買取請求権のあたりの解説が必読のところではないか、と思われます。株券電子化の実務課題あたりも、関連論点として、当然に解説が厚くなっているようです。このあたりの話題が、やはり会社法施行5年のもっとも特徴的なところではないでしょうかね。

それにしても、商法学者の方々に加えて、これだけバランスよく実務家の協力を得られたなぁと感心いたしました。東京・大阪の企業法務で有名な法律事務所の方々が、絶妙のバランスで執筆陣に加わっておられます。おや?そんななかに、ひとりだけ個人事務所の弁護士が?(^^;

内容が内容だけに、本書は広報するまでもなく売れ筋の一冊でございますが、執筆者の一人としまして、お勧めいたします。もしよろしければ監査役の皆様もぜひ!間違いなく良本でございます。<m(__)m>

5月 27, 2011 本のご紹介 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年5月15日 (日)

民法がわかると会社法はもっと面白い!(新刊のご紹介)

Kimatakaishahou ちょうど4年まえにエントリー「楽しい会社法学習法」のなかで、「楽しく使う会社法」をご紹介した木俣由美先生(京都産業大学法学部教授)の新刊書です。2007年から2011年まで、第一法規さんの「会社法務A2Z」で連載されていたものに加筆修正をされて、一冊の本にまとめられたものでして、私はほぼ毎月連載時に拝読しておりました。

ビジネス実務に関わる法律上の論点は、我々法律家であれば「民法的発想」で考えるのが当たり前のように思うのでありますが、なかなか企業実務家の方々には難しいところであります。ビジネスの世界では、紛争が長期化したり、弁護士に解決をゆだねる、といったこと自体を回避することが重要なのでありますが、たとえば取締役を辞任した後の「権利義務取締役」の概念や、会計上の資産除去債務の引当の必要性や見積もりの合理性判断など、民法上の委任契約や双務有償契約の法的性質が理解できないと、無用な紛争を起こしかねません。そこで、ビジネス法とりわけ会社法の理解に必要な範囲で、民法をわかりやすく解説されたのがこの一冊。

「民法がわかると会社法はもっと面白い!」(木俣由美著 第一法規 2200円税別)

木俣教授については、すでに4年前のエントリーでご紹介させていただきましたので、ここでは多くを語りません。ただ、以前のエントリーをお読みになった木俣教授から、当時メールを頂戴しまして、

「あたしの若い頃について、竹内まりやさんの大学時代にソックリだったなんて、本当のことを書いてくれてありがとう♪」

一部ツイッターでも話題になっておりますとおり、内容はたいへん素晴らしいものであり、実務家向け入門書としては申し分ないものと思うのでありますが、いかんせん「日本笑い学会」理事でいらっしゃるだけあって、ギャグ連発の内容となっており、これは好き嫌いが分かれるかもしれません(^^;;。(私は関西人ですので、こういったナウでヤングな発想は大好きなのですが・・・)。ユミ先生が大学のWEBサイトの「教員紹介欄」で、毎年生年月日を後ろにずらしている、といった件(くだり)は、「実話ではないか?」と疑う読者もいらっしゃるのではないかと、ひそかに心配しております(^^;;。

なお番外編としまして、最近中間整理がリリースされました民法(債権法)改正の論点についても解説がなされております。よくよく考えてみますと、会社法と民法では、学者の先生方も「棲み分け」がハッキリしているために、双方にまたがるテキストというものもあまり存在しなかったのかもしれません。会社法を民法から掘り起こして考えるというスタイルは、とても新鮮に映ります。「これでキッチリ会社法を勉強しよう」と思って会社法テキストを購入してみても、「チョコレートパフェを注文したら、ほとんど中身がコーンフレークだった」みたいな感覚で挫折をした経験のある方にはおススメの一冊であります。

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2011年4月30日 (土)

詳説 不正調査の法律問題

本日の日経WEB「みずほ銀障害 なぜ大規模に 経営陣『勇気』欠く」は、調査報告書を読むようで、非常に興味深い記事です。きちんとした事実認定ができないと、深い原因究明に説得力が出ないと言われますが、こうやってプロセスを丹念に遡りますと、有効な再発防止策に向けて建設的な議論ができそうであります。

Huseityousahouritu さて、書店に並んだらすぐに読みたい、と思っておりました新刊書、GW初日を利用して一気に拝読させていただきました(230頁程度)。文句なし、上場会社等の総務、法務、内部監査等に携わっておられる方々へおススメの一冊であります。

「詳説 不正調査の法律問題」(小林総合法律事務所編 弘文堂 2200円税別)

NHK監査委員等を務めておられる小林英明弁護士ほか、日ごろ不正調査業務に携わっておられる小林総合法律事務所の弁護士の方々による不正調査マニュアルであります。題名は「法律問題」とありますが、とくに法律専門職が検討すべき理論とか実務、というよりも、実際に不祥事が発生した場合に、企業がどのように「自浄能力」を発揮して、降りかかっている危機から脱するか、という危機管理を指南することに重点が置かれています。もちろん、我々のように社内調査委員会を支援したり、第三者委員会の委員に就任した際の調査にも非常に参考になり、示唆に富むものであります。とくに、調査主体となる社員にとっては、調査を進めるにあたって「後押し」してくれる内容が豊富です。

どのように「後押し」してくれるかといいますと、まず不正調査に関連する判例が非常に豊富に引用されている、ということです。我々も調査のときに「こういった場面で先例となるような判例はないものか」と思案することが多いのですが、私も今まで気づかなかった多くの判例が紹介されており、これはとても参考になります。次に、不正調査の方法ですが、さすが検察官ご出身の執筆者の方がいらっしゃるので、「不正調査の謙抑主義」が貫徹されています。強制力行使の「おそろしさ」を実際に経験されておられるので、調査対象側の行動に対しての「人権配慮」が行き届いており、企業側が不正調査の失敗によって逆に負担してしまうリスクへの配慮が参考になります(つまり、この程度であれば、調査を続行しても大丈夫・・・という線引きが明確)。

また、不正調査の実務経験に基づく執筆だけあって、筆者の自信に満ち溢れた解説が印象的であります。したがって、たとえば日弁連第三者委員会ガイドラインの考え方には賛同しない、と明確に記されている個所が複数あり、また日本監査役協会「監査役監査基準」における監査役と第三者委員会との関係に関する見解とも明確に異なる意見が明示されています(たとえば不正調査における対象社員へのリーニエンシーの考え方など、なかなか説得的でおもしろい)。どこかの書籍から引用したものではなく、230頁、全編ほぼオリジナルな意見が詰まっておりますので、読んでいてまったく飽きさせないものでした。長期に亘る不正行為はどこまで遡るべきか、監査役監査と不正調査の関係は、ヒアリングの対象者から「録音させてほしい」と言われたときの対応は、社内調査は誰がヒアリングするのが望ましいか、いつ対象者を呼び出すか、調査期間中別の不正が発見されたらどうすべきか、認定した事実が後で間違っていた、とわかったらどうすべきか等、これまでのマニュアルよりも相当程度突っ込んだ解説がなされております。

私的に最も収穫だったのは、第三者委員や社内調査委員会支援において、最初に代表者に対して、「なぜ社員や他の役員に調査全面協力要請をかけてもらわないと会社が困るのか」その説明理由が理解できたところです。これまでのマニュアルでは、社長の一声が調査を円滑にする、というところまでは書かれているのですが、ではどうやって社長を説得するのか、というところまではヒントすらありませんでした。この本にはそのヒントがいくつか示されております。

ただ、良い点ばかり書いてしまいますと、「ちょうちん書評」になってしまいますので、物足りないと感じた点を少々。ひとつは、社員の不正調査については非常に分厚い内容でありますが、私が一番悩んでおります経営トップの不正調査については、すこし薄いかなぁと。内部通報窓口業務をやっておりますと、そのまま調査業務に移行する場合もあり、専務の不正問題や学校法人の理事クラスの大学教授の不正調査など、いわば経営トップへの調査を敢行しなければならない場面があります。また子会社のトップの不正問題などについても悩みが多いです。こういったケースは企業の危機でありまして、社内調査がなかなか機能しないのでありますが、監査役や代表者(理事長)を中心として危機を脱した場面もございますので、それなりにノウハウを語ることはできるのではないか、と。もうひとつは、やはり「異常な兆候」に関連する課題についても触れていただきたかったと。内部通報等、不正の端緒についての解説もありますが、受け身で対応するだけでなく、CAATの活用など、不正の端緒を積極的に見つけ出すことも「不正調査」の範疇に含まれるのではないか、と考えております。ただこれは、クライシスマネジメントというよりも、リスク管理のひとつなので、あえてはずしておられるのかもしれませんが。

「自浄能力」から出発するか、「有事のCSR」からスタートするか、不祥事に直面した企業の対応は様々であります。いずれにしましても、不正調査を中心に据えた本が伝統ある法律出版社から出された、ということの意義は大きいと思います。私自身も、これから本業におきまして、何度も精読させていただき、参考にさせていただきます。

4月 30, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月12日 (火)

「デジタルデータは消えない」(幻冬舎ルネッサンス新書)

Digital書店で思わず衝動買いしてしまった一冊。 不正調査の仕事において、デジタルフォレンジックに関する知識は必須ではないかと思いますが、私のような典型的な「文系人間」にも理解できる内容です。最近の大相撲八百長事件や厚労省データ改ざん事件などを例に、携帯メール復元の基本的なカラクリや、外部記憶装置におけるデータ復元の仕組みなどがわかりやすく解説されてており、読んでいて非常に興味が湧く内容であります。本書により、最近はセクハラ事件や労働事件でもデジタルフォレンジックが勝敗を決する場面があることを知りました。

デジタルデータは消えない(佐々木隆仁 著 幻冬舎ルネッサンス新書 171頁 836円税別)

会社内における情報漏えいリスクの管理なども、むずかしそうに思えるのですが、実際に発生している事件の90パーセント以上は「人の問題」(人災)に起因するとのこと。「不正な情報の持ち出し」に起因するケースは3パーセント程度のようで、その他は管理ミスや誤操作によるものだそうですから、これも全社的な統制によって管理可能なリスクだそうです。

また、社内の不正はこのように証拠化できる、誰が犯人なのか特定できる・・・というデジタルデータ解析の現状を知るにはおススメです。不正調査を業とする者からすると当然のことかもしれませんが、他人のパソコンから情報を抜き取る作業についての「作法」なども、ご存じない方には参考になろうかと思われます。スマートフォンの情報漏えいリスク、WEBメールの復元など、デジタルフォレンジックの現状を社員の方々に周知徹底すれば、誤操作や不正予防の効果もあるのではないかと思われます。

ただ、私が最近注目する「不正早期発見」という機能に限って言えば、デジタルフォレンジックといってもまだまだ進んでいない印象を受けました。「不正の疑いがある」と思われるときには非常に効果的に調査ができるのでありますが、そもそも「不正の疑い」をどのように察知するのだろうか?・・・・・となりますと、そのあたりはあまり触れられていないように思いました。もちろん、CAAT(デジタル技法調査)にように、全件調査においてなんらかの条件を入力することで、疑惑のある企業活動をピックアップする手法もあるのですが、これもまだまだ実用化するにあたっては課題が多いのではないかと思います。

アメリカのディスカバリー制度が日本にも採用されるかどうかはわかりませんし、今後、このようなデジタルによる証拠化手続きが必要とされる訴訟が増えるかどうかもわかりませんが(このあたりは筆者と私で意見が異なるところかもしれませんが)、掲示板、メール、ツイッター等、企業における情報伝達がデジタルに依存する傾向が強くなればなるほど、「情報の痕跡が残る」ことは本書でよく理解できるところであります。SESCではデジタルフォレンジック関連の予算が大幅に増えたようですし、また4月1日に提出されました刑法改正法案にも「ウィルス作成罪」が新設されておりますので、今後は官民そろってデジタル情報の証拠化の理論と実務が進展するものと思われます。

PS ルノーの情報漏えい事件については、事実無根だった可能性があるようで、ナンバー2の方が辞任されるようですね。

4月 12, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月 5日 (火)

企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインの解説

Daisanhakaisetu 皆様、テレビや新聞で御承知のとおり、八百長相撲に関する特別調査委員会の調査報告について、「クロ」と認定された力士や親方よりブーイングの声が上がっております。親方衆の処分見直しの要請を、最後は理事会がタンカを切って思いとどめさせたことが報じられておりますが、「到底、調査委員会の裁定には納得ができない。訴訟も辞さない」と堂々とインタビューで答えておられる力士の方もいらっしゃいます。私自身も、別件の現在進行形の調査委員の業務におきまして、認定内容を支持する方々からは評価されるものの、その内容に不満の方々からは「あの弁護士はなんだ!」「ちょっと個人的にもう一度再考するよう面談を申し込みたい」「名誉毀損ではないか」など、いろいろとプレッシャーをかけられております。プロとして公正、独立の立場をもって不正調査を行う業務をご理解いただく範囲では、丁寧にご説明を差し上げておりますが。

企業の皆様方におかれましても、大相撲特別委員会の調査結果に対する関係者のコメントなどをご覧いただければ、企業不祥事が発生した際の第三者委員会は「けっこうしんどい作業」に従事するものであることをご理解いただけるのではないでしょうか。当ブログでも時々ご紹介しております日弁連「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」でありますが、このほど商事法務さんから、本ガイドライン作成に携わった方々によるガイドラインの解説書が発売されました。企業の不祥事だけでなく、大阪弁護士会が取り組みました学校法人における不祥事調査などにも活用されるため「企業等」とされております。

企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインの解説(日弁連 弁護士業務改革委員会 編 商事法務 2400円税別)

土曜日にご紹介いたしました書籍同様、こちらも本業に関連するものゆえ、早速全てに目を通しました。こういった解説本が出る・・・ということは以前から聞いておりました。「どうせ解説といっても、ガイドラインの内容をなぞった程度だろう」と予想しておりましたが、いえいえ、本当にガイドラインの内容を深堀りした解説となっております。おそらく、本解説書の内容を公表するについても、あらためて各執筆者間での調整が必要だったものと推測されます。逐条解説の内容も詳しく、また参考判例や文献などの引用もあり、第三者委員や事実調査関与弁護士等に就任希望の方々には必読の一冊であります。さらに、各企業さんにとっても、平時の常備薬として、一社に一冊、ご購入されますことをお勧めいたします(巻末に、第三者委員会と企業との業務契約書ひな形も添付されております)。個人的にお勧めの箇所は、私自身も3月29日の社団法人企業研究会(麹町)のセミナーにて詳細に解説させていただきました「第三者委員会ガイドラインによる第三者調査を見据えた社内調査の在り方」であります。これはガイドラインではほとんど触れられていなかったところであり、この解説書では第5章で危機管理で著名な弁護士の方による解説が施されております。ここが一番、不祥事発生(発生の疑いのある)企業さんにとって知っていただきたいところかと。

少し気がかりな点は、日弁連ガイドラインと日本監査役協会さんの監査役監査基準第24条との関係ですね。この3月に改訂された監査役監査基準では、第三者委員会と監査役との関係について、新たに1条を設けております(公開草案に比べて、正式な条項では相当に変更されております)。監査役会と第三者委員会とのコミュニケーション、独立社外監査役は第三者委員会の委員に就任できるか等、実務上整理しておくべき課題が少しばかり残っているように思われます。果たしてこのガイドラインは現実企業における監査役(または監査役会)を、「理想の姿」で受け止めるのか、それとも「現実の姿」で受け止めるのか、今後の課題であります。また(これは本書に書かれているものではございませんが)、なにゆえ元高検検事長といった方々が第三者委員会の委員長として就任されるケースが多いのか、それは単に事実認定の巧拙や事件の組み立てに長けている、ということだけからなのか、といったあたりを「ぶっちゃけ」のホンネで考える良い機会にもなるのではないか・・・・などと考えたりもしておりました。

「本ガイドラインを策定するにあたっての最大の論点」(26頁)とされた、「第三者委員会は誰が依頼者なのか」という問題につきまして、ぜひ本書をお読みになって、読者ご自身の理解を深めていただければ、と思います。私自身も、本解説書を拝読し、勉強させていただきました。ただ、一抹の不安もございます。ステークホルダー、ひいては第三者委員会に期待する社会総体こそ真の依頼者である、という論調は、どこかで聞いたフレーズであります。忘れもしない2003年のRCC(整理回収機構)の詐欺告発事件。弁護士が普段手にしたことがない権力を手にしたことによって、その濫用が問題となり、明治生命さんから告発を受け、東京地検特捜部が動き、優秀な弁護士の方々が懲戒処分となり、最後は元日弁連会長さんが弁護士廃業届を出して終結した事件であります。我々弁護士は、報酬をいただく依頼者のために全力を尽くすことには慣れておりますが、社会の公器として権限を行使することには不慣れであります。たとえ「行き過ぎ」があったとしても、社会のため、国民のため、という正当化根拠によって判断が曇ってしまう現実を、当時私は(問題となった当該事件の)RCCの相手方代理人として目の当たりにしてまいりました(そういえば、あの事件はきちんと検証されないままだと思われます)。「弁護士が社会の公器として、その権力を行使するにあたっては、謙抑的でなければならない」ということは何度かこのブログでも申し上げましたが、これは当時私が体験した事件の教訓によるものであります。

広くステークホルダーのために第三者委員会が活動することは大いに賛同するところでありますが、その活動方法については、今後の委員会の実務経験を通じて、さらに検討していくべきところではないか、と考えています。

4月 5, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年4月 3日 (日)

現場マネジャーのためのパワハラ・いじめ対策ガイド

3月31日の朝日新聞ニュースによりますと、大阪市の係長が、部下の内部告発に憤りパワハラを行ったことで、告発を受理したコンプライアンス委員会が大阪市に対して再発防止策を勧告した、ということであります(ニュースはこちらです)。社内での通報だけでなく、外部への通報に対しても、このような問題が発生するとなれば、ますます匿名性が確実に確保されるような告発が増え(たとえばネット掲示板)、社内不祥事に関する企業の対応がむずかしくなっていくように思われます。そのような中でも、とりわけパワハラ問題は企業対応が非常に難しいですね。

Oaoawuo 「金商法だけでなく、こんなのもやってます!どうかご笑納ください」と、西村あさひ法律事務所の石井先生から新刊書をいただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。私自身の本業にも近い内容のため、早速拝読させていただきました。

現場マネジャーのためのパワハラいじめ対策ガイド(西村あさひ法律事務所 編著 石井輝久ほか 監修 武井一浩 日経BP社 2000円税別)

まず二つのことに驚きました。ひとつは、西村あさひの弁護士さん方の本といいますと、西村高等法務研究所叢書とか、M&A大全、金融レギュレーション、などのように、実務家向けの「かなり難しい本」のイメージがありますが、表紙のとおり、本当に「現場マネジャー」向けの読みやすいご著書であることに驚きました。事例も30ほど用意されており、関心のあるところから読み進めることができるように工夫されております。

もうひとつは、「このような分野をNAさんも取り扱う時代になったのか」という驚きであります。そういえば、昨年こちらのエントリーにてとりあげましたセクハラ事件の代理人事務所は、関西でもっとも大きな法律事務所ですし(しかも著名なパートナーが担当弁護士)、セクハラ・パワハラ対応問題は、大手企業にとっても避けて通れないコンプライアンス上の重要課題になりつつあることを象徴しているように思います。このあたりは「いまなぜパワハラ対策なのか?」という巻末のQ&Aを先にお読みになるほうがよろしいかもしれません。

さて内容でありますが、「新米監査役のつぶやきブログ」(リンクは控えさせていただきます)で、新米監査役さんが書評をお書きになっておられるとおり、社内の研修で使えるのではないか?と思われるほどに、事例が豊富かつ具体的な点であります。私など、(不謹慎にも)自分のセミナーでこっそり使っちゃおうかな・・・・・・と思ってしまうほど、事例がうまく作られております。おそらくNAさんの「労務グループ」の弁護士の方々が、日常もしくは訴訟等で経験された実話を参考にして作られているのではないかと思います。対応に関する成功、失敗の経験からフィードバックされた指摘事項が記述されているため、「なるほど」と思わせる提言もかなり多いのが特徴です。各事例解説の末尾には、参考となる裁判例なども紹介されています。

また、残念ながら紛争がこじれてしまった場合の危機対応、たとえば労務紛争の対処、グローバル企業における海外での問題発生など、大きな法律事務所だからこそ書ききれるパワハラ対応にもページが割かれているところがいいですね。いわばミクロとマクロの視点から企業のパワハラリスクを検討しているところが特徴的であります。

ただ、「現場スタッフ」はパワハラに気を付ける必要があるのですが、その「現場スタッフ」がパワハラに悩んでるケースも見受けられます。いま職場で病んでおられるのは「プレイングマネージャー」の方々ではないかと思います。プレイヤーとしては問題がなくても、部下を管理できずに思い悩む人も多く、パワハラ事件の真相を追及していくと、そこには精神的に追い詰められた中間管理職の姿が浮かび上がることも多いように思います。できれば、こういった本を読まれる際には、加害者と評されてしまう中間管理職の方々にも、思いやりをもって接してあげる必要があるのではないか、と。

あと、現場でパワハラ問題の解決を担当する方々も、結構たいへんですよね。昨日大相撲の特別調査委員会が、八百長相撲に23名の力士および親方が関与していた、と公表しました。この結果に対して「たったあれだけの調査で何がわかるのか!けしからん!」「訴訟も辞さない」と激怒した力士もいるようですが、パワハラに関する調査についても、よく似た状況となります。当事者に不満を残す結果になることもあります。そういった事態になる前に、調査はいかにあるべきか、といったところの記述は、かなり参考になるものと思われます。パワハラに該当するか否かという認定は、問題の一連の言動だけで判断するのではなく、そこに至った背景事情にまで踏み込む必要がありますので、結構「防止体制の構築」や「平時の研修」などが効果的だったりします。

いずれにしましても、パワハラ問題はセクハラ以上に企業対応が困難な課題です。セクハラについては加害者に味方をする社員はいませんが、パワハラについては、「熱心な上司」「積極的な指導」と紙一重にあるため、加害者を支援する従業員の存在なども無視できないところがあります。今後のパワハラ対策、パワハラ調査の実務上の参考資料として有用性がありますので、ご興味のある方は是非、書店にてお買い求めください。

4月 3, 2011 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年3月23日 (水)

郵便不正事件「証拠改竄-特捜検事の犯罪」を読んで

厚労省元局長村木氏の捜査にあたり、大阪地検特捜部主任検事によるフロッピーディスクの改ざんが行われたことが朝日新聞の報道によって明らかにされ、現在も検察の再起を賭けた検証が行われていることはご承知のとおりであります。そして、このほど朝日新聞出版社より、司法担当、裁判担当の3人の記者が検察最大の不祥事を世に公表するに至った経緯を克明に綴った「証拠改竄(特捜検事の犯罪)」(朝日新聞取材班 1400円税別)が発売されました。

Kaizan_p1 事件をスクープした記者の方から本書をいただき、この連休中、精読いたしました(どうもありがとうございます)。本書では、これまで報道されていなかったさまざまな内情が掲載されておりますが、これは実際に本書をお読みになっていただければ、と思います。ここでは、読後感想文として印象に残ったことだけを記しておきます。

村木裁判における裁判官の判決内容も含め、検察の在り方に大いに疑問が呈されているのはデータ改ざん事件よりも、むしろ「組織としての」検察の勝手なストーリーと自白の強要という「でっちあげ捜査」についてでありますが、やはりこのデータ改ざんという信じがたい事件が明るみに出たことが最大の引き金になっていることは間違いありません。しかし、当該記者が検察最大の不祥事をスクープできた背景には、いくつかのポイントがあったことが理解できます。

まずひとつめはなんといっても検察関係者である「その人」からの情報提供であります。「一度しか言わない」と言って、FDのデータが(元主任検事によって)改ざんされた事実が「その人」から記者に伝えられるわけでありますが、なぜ「その人」は朝日新聞社のこの記者だけに真実を伝えたのでしょうか。当該記者によれば、それは内部告発というものではなく、ひょっとすると記者の執拗な説得に根負けした結果だったのかもしれない、と述懐しておられます。

しかし私は、

「その人」はきっと当該記者なら、自分の供述だけで記事を書くような人間ではなく、きちんと供述の裏付けを入手したうえで記事を書くのではないか、といった信頼があったからではないか・・・・・

と考えました。これだけITの進んだ現代社会においてでさえ、本当に重要な情報というのは、やはりアナログ、つまり泥臭い人間の信頼関係の上でしか伝えられない、という現実をみたような気がいたします。(実際に、どこの調査機関がFDの改ざんの事実を科学的に解明したのか、その調査機関の社名も、本書には実名で掲載されております)

ふたつめは、上村被告人(係長)の弁護人との信頼関係であります。FDの原本は上村被告人のもとに存在していたのでありますが、鑑定を行うためには、これを弁護人から借り受けなければならないわけでして、当該記者の真摯な要請に応じる形で、このFDの鑑定に応じることになりました。本書を読んで、私はこの上村弁護人の(職業上当然の)疑心暗鬼が非常に理解できるところであしまして、「もし私が上村被告人の弁護人だったら、果たしてこの記者にFDを渡していただろうか・・・・・・」と本書を読みながら自問自答しておりました。もし私が弁護人だったら、この検察庁最大の不祥事は世に出ていなかったかもしれない、と少し恥じるところもあります(正直なところ)。当該弁護人が大阪弁護士会の刑事弁護委員会副委員長たる地位にあり、当該記者の真摯な姿勢に共感したところが大きかったのではないか・・・・と推測し、これは本件の大きなポイントだったのではないかと思われます。

そして三つめは、当該記者がデータ改ざんの事実を知ってから40日間、朝日新聞社という巨大な組織のなかで、たった3人の記者だけが事件報道のための裏付けを温めていったという事実に驚きました。スクープの裏には、社内でも「保秘」を貫くという厳格さが必要であり、その裏腹としての「ストレス」も本書には如実に表現されております。3名の記者のうち2名は、朝日新聞へ途中入社組でありますが、この3名の信頼関係による「保秘」を貫いた姿勢も大きなポイントだと認識いたしました。

関係者に対する真摯な姿勢によって得られる真実の証言、そしてこれを裏付ける証拠の入手、そしてなによりも上司と部下との信頼関係、こうやって書いて気が付いたのですが、本書では3人の記者の姿を通して、本来の検察庁のあるべき姿を映し出していたのではないでしょうか。これはあくまでも私の読後感想であります。ぜひ多くの方々に、本書を実際にお読みいただき、また様々な印象をお持ちいただければ、と。

3月 23, 2011 本のご紹介 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2011年3月 7日 (月)

決算書の50%は思い込みでできている(東洋経済新報社)

4492602054 さて本日はもう一冊、本のご紹介。当ブログにお越しの皆さま方にはお勧めといいますか、必読の一冊だと思います。さきほどご紹介した「架空循環取引」が書店に並んでいるのを確認に行った折、目にとまったのですが、思わず衝動買いをしてしまい、夢中になって半日で読んでしまいました。

決算書の50%は思い込みでできている(公認会計士 村井直志著 東洋経済新報社 1500円税別)

本のデザインはご覧の通り、ホンワカとしておりますが、中身は「会計トラップ(会計の罠)」をメインタイトルとしたもので、これがまた非常に会計素人にもわかりやすく「見積もりの罠」が解説されております。まさに会計は摩訶不思議な世界であります。以前に「会計士の先生方のご著書はホンネや私見があまり書かれてなくて、イマイチかも・・・」といった印象を抱いたことが何度かありましたが(もちろんそうでないご著書もありましたけど・・・)、本書では具体的な事例に対する村井先生の推論や私見がふんだんに記述されており、「摩訶不思議な部分」を堪能でき、これが非常におもしろい!著者はおそらくサービス精神旺盛な方なのではないか、と勝手に想像しております。(某事件の登場人物を存じ上げている身からしますと、よくぞここまで書いてくれた、と思えるところも出てまいります)

当ブログで過去に取り上げた事例が出てくる、出てくる!(*^_^*)TBS・楽天、りそな国有化、NOVA、IHI、アーバンコーポレーション、そして非上場子会社の株式評価が問題とされた三洋電機社の「三洋減損ルール」をテーマとした「見積もりの罠」など、なるほど会計士の方からみたらこうなるのか・・・と感嘆しきりでございます。「引当金」や「減損会計」に関する会計トラップについてもやさしく解説されており、とくに真柄建設社の合法的架空資産(という語彙が正しいのかどうかは不明ですが・・・)に関する事例などを読みますと、なるほどこういった理由でMBOに走る会社もあるのではないか・・・と想像したりしておりました。(と、考えながら読み進めておりますと、最後のほうで会計トラップから脱出するための方策として、カルチャーコンビニエンスクラブ社の事例などを挙げて、MBOが紹介されておりました-笑)

もちろん、素人が読んでもわかりやすい、ということは、会計専門家の方々には若干物足りなかったり、解説のデフォルメが気になったりするのかもしれませんが、会計はあくまでも社会科学であり、主観的判断と客観的判断が半分ずつで出来ている・・・といったご解説は、私が以前からモヤモヤっと抱いていた会計観に非常に近いものでして、当ブログ管理人としましては共感度の高い本であります。(今後のブログネタにも参考にさせていただきます)ご興味のあります方は、ぜひご一読ください。

PS 「会計トラップ」という言葉は日常的に使われているのでしょうかね?あまり関係ありませんが、つい最近、(懇親会の席上ですが)某証券取引所の女性審査官の方から「先生、ハニートラップに注意してくださいネ!」と言われたことを思い出しました(笑)。ハニートラップかぁ・・・ひさしぶりに心地よい響きの言葉を耳にしました(^^;;

3月 7, 2011 本のご紹介 | | コメント (2) | トラックバック (0)

架空循環取引-法務・会計・税務の実務対応

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(3月7日午前 追記あります)

昨年8月27日にリリースされましたメルシャン株式会社の不適切取引に関する第三者委員会報告書は、会計不正を早期に発見できなかった原因が詳述されており、今後の不正取引の未然防止のためにはたいへん有益なものだと思います。この報告書では、同社熊本工場における架空循環取引を追い詰める監査部長と常勤監査役の姿が記されておりますが、残念ながら架空取引のスキームに関する知見に乏しかったために、熊本工場責任者を追いきれなかったこと(同報告書18ページ)、そして不正行為の確証が得られなかったために取締役会で報告ができなかったこと(同42ページ)を重大な問題として指摘されております。

不正調査に携わる者の一人として、架空循環取引は、まことに発見することは困難であり、また民事・刑事責任追及のための確証を得ることも容易ではありません。したがって、一般企業の担当者や監査責任者が確証をもって架空取引を発見することもまた非常に困難を伴うものであります。しかしながら、架空取引の「異常な兆候」を知ること、またその兆候を合理的に疑わせるに足るだけの証拠にアクセスすることは可能なのでありまして、これはまさに、上で述べたとおり、他社事例などを丹念に検証し、取引の発端となった「機会」「動機・プレッシャーの存在」「正当化根拠の有無」などを推測することも有効な手段であります。また、こういった作業の結果、たとえ確証がなくても(異常な兆候を示す合理的な証拠さえあれば)担当者が「取締役会に報告する勇気」が付与されることにも大きな意義がございます(実はこれが一番大きい、と私自身は考えております)。

このような架空循環取引の未然防止、早期発見、そして事後処理の実務対応に向けて、CFE(公認不正検査士)の方々による「架空循環取引-法務・会計・税務の実務対応」(霞晴久 中西和幸 米澤勝 著 清文社 3,200円税別)が出版され、書店に並び始めました(大阪でも旭屋本店で確認しております)。それぞれ会計、法務、税務の専門家の方々による共著でありまして、皆様CFEの資格保有者であるとともに、東京の「不正早期発見研究会」の中心メンバーの方々であります。霞会計士はジーエスユアサ社の不正会計事件で第三者委員を務めた経験を有し、中西弁護士は商事法務の研修等でおなじみの企業法務を専門とする方であり、そして米澤税理士はIT関連企業ご出身、日本における不正調査業務の第一人者といっても過言ではございません。とくに後半部分は架空循環取引の原因究明や再発防止策の検討にあたり、事例検証から得られた知見が披露されており、ぜひ経理・総務・法務・内部監査等の方々にはお読みいただきたい一冊であります。

なお、僭越ながら私も巻頭で「推薦の言葉」を書かせていただいております。またお読みになった方々には忌憚のないご意見をお寄せいただければと。

追記:本日の日経朝刊法務インサイドでは偶然にも「特命会計士活躍-不祥事を調査・解明」なる記事が掲載されております。このなかでインタビュー記事に応じておられる会計士の方にもCFE資格をお持ちの方がいらっしゃいます。記事にありますように、特命会計士の活躍は「有事」になってからでないとむずかしいのが現実でありまして、「有事」になるまえの「気づき」こそ企業の「特命」ではないか、と。

3月 7, 2011 本のご紹介 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2010年12月10日 (金)

エコノミスト増刊号に「法と会計のミゾ」シリーズを寄稿いたしました。

20101206org00m020026000p_size6 すでにブログやツイッター等では、そこそこ話題になっているようですが、エコノミスト増刊号(12月20日号)「弁護士・会計士たちの憂鬱」が発売されております。そのなかで、私も拙著「弁護士と会計士との『わかりあえないミゾ』を考える」を寄稿しております。

毎日新聞社エコノミスト「弁護士・会計士たちの憂鬱」(1000円)

昨年、日本監査研究学会西日本支部におきまして、特別講演をさせていただいた題材を基礎として、一般の方向けに少しわかりやすく解説させていただいたものです。この本の全体のトーンと比較しますと、「やや固め」の内容となっておりますが、私の意見を全面に出した形での解説となっておりますので、賛否両論あるかとは思いますが、けっこう読者の方々の頭の体操にはなるのではないかと。もしこういった話題にご関心がございましたら、ご一読ください。

弁護士と比較して、会計士の方々は実名で意見表明をしにくいところが少し残念ですね。「会計士の憂鬱」は経営財務に連載されている山中君の監査実務シリーズのほうがリアルで悩ましい問題が提示されていておもしろいかもしれません。

個人的に一番おもしろかった記事は、なんといいましても「匿名座談会 法務担当者のホンネ炸裂 こんな弁護士は使えない」でした。読んでいて「なるほど・・・」とナットクさせられることが多かったですし、「ヒドイと思った弁護士」には、私も共感いたしました。ちょっと自分にもあてはまるところがあるような・・・・。

12月 10, 2010 本のご紹介 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年11月12日 (金)

株式後悔-後悔せずに株式公開する方法

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常連の皆様よりいろいろとコメントをいただいておりますが、どうも本業が忙しく、なかなかお返事が遅れておりますことお許しください<(_ _)>

ただ、「迷える会計士」さんにご紹介いただいているdancing-ufoさんの「ゲゲゲ!の監査法人」これはなかなか興味深いエントリーですね(^^; ブログの醍醐味・・・というのは、こういったものを読むと感じます。S有限責任監査法人の会計士さんとは、いろんなところで(仕事とか研究会とかで)ご一緒する機会が多いので、これ、話題にしてみようかなぁ(笑)怒られるかなぁ・・・・・・また、監査法人側もいろいろ数字については反論はあるのだろうなぁ・・・・たとえいろいろ聞けたとしても実名ブログではちょっと書けない内容かも。。。

さて、忙しいと言いつつ、気になる新刊が出ると、ついつい購入してしまうのでありますが、タイトルにつられて(おもしろそう!!)と衝動買いしましたのが

株式後悔-後悔せずに株式公開する方法(チームIPO著 株式会社無双舎 1600円税別)

早速、きちんと読ませていただきました。弁護士、会計士、証券会社審査担当者、VC(ベンチャー・キャピタル)関係者、証券取引所関係者、IPOコンサルタント等の方が集まって「チームIPO」という勉強会を開催されていらっしゃるそうですが、そのメンバーの方々が(名前も出せない方も含めて)共同執筆された400頁弱のIPO指南書であります。「指南書」といいましても、手にとってご覧になるとおわかりのとおり、たいへん読みやすい本でして、「なるほど、こういうことをしていてはIPOはむずかしいのか」といった、逆転の発想で書かれたものです。御承知のとおり、IPOには逆風が吹き荒れている昨今の状況ではございますが、こういった時期だからこそ、関係者のホンネの部分なども、じっくり聞いてみる価値があるのではないでしょうか。

「取引所のキモチ」「証券会社のキモチ」「会計士のキモチ」「VCのキモチ」などなど、それそれの立場から、IPOを目指す企業に対するホンネを語っておられ、そこに関係者がそれぞれツッコミを入れる、という構成はなかなかおもしろい。たとえば私自身IPOを目指す会社の社外監査役を辞任した経験がございますが、社長さんとの間で「アンタとはやってられまへんわ!」ということになってしまった経験を持つ身としましては、「あるある大事典」的な内容に思わず納得してしまいます。社長さんの愛人が子会社役員だったり、率先して粉飾決算を目論んだりするケースならばそれほど悩むこともないのでありますが、人間的には「いいひと」だけど会社資産と個人資産の区別がどうしてもできない社長さん・・・というケースは結構あるのではないでしょうか。所詮は「経営者」次第ということも言えそうでありますが、それでもVCさんと証券会社の審査担当者では、経営者のどこを見るのか・・・というあたりで違いがあるのもオモシロイですね。

正直申し上げて、本書のご意見については、私個人の意見とは、かならずしも合わないところもございまして、思わずツッコミを入れたくなるような部分もございますが、たぶん著者の皆様も、おそらく読者のいろんなツッコミを期待されておられるのではないでしょうか。キレイゴトでは済まない、新規株式公開の場面におけるそれぞれの立場の方の「エゴ」も垣間見えてくるようで、とても新鮮で楽しめる本です。真剣にIPOを目指す企業と、それをとりまくIPO関係者の上場実務をこういった読みやすい本で勉強するのもいいかもしれませんね。ちなみに私自身が一番興味をそそられましたのが「VCのキモチ」です。上場準備の段階で、一番コンプライアンスを意識するのがVCさんの要求事項だったりするわけで、VCさん側の事情などもすこしだけわかるような気になりました(少しですが・・・笑)

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2010年10月25日 (月)

監査役の社会的使命と法的責任(本のご紹介)

Kansayakusimei 昨年、話題となりましたトライアイズ「監査役訴訟」を支えてこられた鳥飼総合法律事務所さんが著された「監査役の社会的使命と法的責任」(清文社 鳥飼重和、吉田良夫 編著 2000円税別)を拝読いたしました。私も昨年から今年前半にかけて、監査役さん方の裁判を担当してきましたが、これまで監査役訴訟というものがほとんどなかったものですから、裁判所も代理人も「監査役の職責とは?」というあたりで、ずいぶんと議論をいたしました。裁判官に真剣に監査役制度を説明するなかで、私自身もようやく理解できるようになった点もありました。本書でも、そういった鳥飼事務所の経験がふんだんに記述されております。とくに第2編の「監査役の危機対応」では、有事に直面した監査役さん方には参考となるところが多いと思われます。(私の論稿などもご紹介いただき、ありがとうございます)監査役さんの実務的には、社内に問題が発生した場合の監査役監査報告の書き方あたりが参考となるのでは。

第1編のほうで目を引きますのが、企業不祥事を起こすと、どれだけの損失が発生するか・・・というあたりを課徴金を課された企業の損失額を算定し、健全経営のための施策が効率的経営にいかに寄与するかを示しておられるところであります。コーポレートガバナンス改革が、企業にどれだけのパフォーマンス向上に寄与するのか・・・というあたりは、現在もなかなか実証できないものとされておりますが、こういった提案も議論の対象になるとおもしろいです。私は、IFRSの時代になっても、やはり投資家は持続的成長の判断指針となる指標(たとえば純利益)の分析がこれまでどおり中心になるのではないか、と考えておりますが、(最高益を公表してすぐに倒産する企業が出てくる時代において)「資産・負債アプローチ」の時代だからこそ、持続的成長を判断するための重要な指針は、ガバナンス評価に求められるのではないでしょうか。そんな時代の監査役さんに対する社会的使命はますます強く期待されるのでありまして、その裏腹に法的責任が厳格に問われるようになると思われます。(もうすでに何件も監査役訴訟が提起されているのですね。)「監査役でいることのリスク」等についても記載されておりまして、少しドキッとさせられるところもございますが、これも時代の流れでありまして、「イマドキの監査役の姿」をしっかりと見つめなおすにはたいへん良い本であります。

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2010年10月12日 (火)

企業広報リスクと「記者会見の仕切り方」

Kishakaiken002 企業不祥事に関する危機管理(クライシス・マネジメント)の典型的な課題として、社長の謝罪会見、事故報告会見の乗り切り方を考える・・・というものがございます。リスク・コンサルタントの方々や、コンプライアンスに詳しい法律事務所などが主催して、いろいろなセミナーが開催されております。しかしよく考えてみますと、キビシイ質問を投げかける記者さん側からみた「正しい記者会見の在り方」というものは、これまであまり聞いたことがなかったような気がいたします。

この三連休、迷わず購入し、一気に読了してしまったのが、この一冊であります。「記者会見にいちばん大切なことを記者が教えます」(エフシージー総合研究所 産経新聞出版 1,600円 税別)エフシージー総合研究所はフジテレビさん、産経新聞社さんの関連企業で、20年ほど前から企業等の広報担当者の方々の指導をされていらっしゃる会社だそうです。この本では産経新聞社の編集長さんが解説をされたり、マスコミの取材責任者の方々がシミュレーション(メディアトレーニング)の講師をされているそうです。9つほどの想定事件(製品リコールや個人情報漏洩問題など)について、大手企業の社長さんや広報担当者が模擬会見を行うのでありますが、さすが新聞記者さんの監修・講義のもとで質問がされるので、臨場感があり、社長や工場長、広報担当取締役がどこでつまづくのかが、たいへんよくわかります。おそらく記者さん方と経営陣との会見の様子を読まれたら、あまりの恐ろしさにゾッとするのではないかと。。。9つのシミュレーションのなかには、監修者からみて、散々の出来のものや、かなり評価が高いものもあり、それぞれどこが良かったのか、悪かったのか、かなり詳細に解説が施されております。解説も、抽象的なことではなく、かなり具体的な指摘や提言が書かれてありますので、どこの企業でも活用できる内容になっております。なかには、私が以前会見指導を経験して大失敗した事例に酷似したものもあり、「忘れようとしていた記憶がよみがえって」しまいました。

また、取材する記者がどうして誘導尋問のように厳しいものとなるのか、なぜ記者がツッコミをいれたくなるのか、記者会見のどの場面で企業は新たな「二次不祥事」を犯してしまうのか、ということがとてもよく理解できます(ちなみに船場吉兆事件のあの「囁き」は2時間の記者会見のうちの最後の5分のところでしたね・・・)。本書はおそらく大手企業の広報担当者向けに書かれたものだと思いますが、ぜひ企業の経営者の方にお読みいただきたいですし、企業コンプライアンス問題に接する機会の多い法曹の方々にもたいへん参考になろうかと思います。といいますのは、本書は記者会見の乗りきり方・・・という、きわめて表面的で技術的なレベルの知識を教えるようなものではなく、題名のとおり、企業が不祥事を起こしてしまったときの「真正面から向き合う姿」にこそ焦点をあてているからであります。つまりは有事に記者会見を乗り切ることができる経営陣というのは、結局のところ平時からリスク管理のPDCAがしっかり理解され、実践されている、ということに尽きるのではないかと思います。有事になって高額でコンサルタントの指導を受けたとしても、平時からリスク管理がなされていなければ、結局記者の餌食になってしまう確率は高い(企業の信用を毀損する二次不祥事を発生させてしまう)、ということが理解できるところであります。時間に追われて取材をする記者さん方が、決して挑発や困惑を目的として「意地悪な質問」をしているのではなく、背景に国民が控えているために「誤報は許されない」「特オチは許されない」という緊張状態のなかで、あのような質問となることもよく理解できました。

普段「しょーもない」と思っている軽微なコンプライアンス問題が、そのまま放置されていたことで、有事に「ヒューマンエラー」の原因として結び付けられてしまう・・・というオソロシサも実感できる本であります。(この本は、たぶん売れるだろうなぁ・・・・と。)

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2010年10月 8日 (金)

ベンチャーにとって大切な本とブログ

Isozaki001_2 もはや街場の話題になっている本ですから、当ブログでご紹介するまでもないとは思いますが、磯崎さんの処女作「起業のファイナンス-ベンチャーにとって一番大切なこと-」(磯崎哲也著 日本実業出版社 2200円)を読ませていただきました。決してレンジに入れて、本をバラして、スキャンして電子書籍にしたわけではございません。きちんと一冊の本としての体裁を整えたまま通読いたしました。

最近は時々、東京でお会いすることがありますが、お食事をご一緒したときの磯崎さんのエピソードが印象的。たしか私も磯崎さんも、同時期に東京杉並の小学校に通っていた・・・といった話で盛り上がっていたとき、

「小学校のとき、『徒競争』ってありましたよね?ボク、一回ビリになったことがあるんですよ。『ヨ~イ!』の合図で下を向いたときに、地面にめずらしい虫がいたんです。その虫に夢中になっちゃって、ピストルが鳴るの気付かなかったんです」(笑)

このエピソードは磯崎さんのブログを愛読する者として、なにかすべてを象徴しているように思います。誰かの読み方を真似して、みんながライブドアの決算書をワイワイ議論しているときに、「ちょっとまてよ、こういった読み方もあるんじゃないの?」と、今まで誰も気づかなかったような核心を突いた推論を展開される。そういった人だからこそ、「ベンチャーにとって一番大切なこと」をわかりやすく解説できたりするのではないでしょうか。

たとえば「ストックオプション活用」に関するお話。IPOに携わる法律家であれば、プルータスさんあたりが書かれた「新株予約権、種類株式活用の実務」を定番として読むことになるのですが、「イケてる社長さん」でも、これを理解するのはかなりしんどいのではないかと思います。しかし、この「起業の・・・」では、ストックオプションが「社員や会社関係者に幸せになってもらうため、夢を共有してもらうため、ビンボー会社が一流企業に対抗するため」の武器であることを、法律の素人である経営者(予備軍)の方にわかりやすく解説してくれています。ホント、ストックオプションにとって一番大切なことは、人の気持ちを考えることや、将来予想される人間ドラマを連想しながら設計することであることが理解できますし、そういったことがが法律や会計スキルを理解するうえでも重要なんだなぁと感じました。会社法のファイナンスがなんとなく苦手・・・というロースクールの皆様にも、私が申し上げるのも何なんですが、法規制の趣旨や契約条項の意味まで理解できるようになる(かもしれない)、かなり「イケてる本」ですので、どうかご一読いただけたら・・・と。

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そして次はベンチャーをお考えの皆様、そして関係者の皆様にとって、非常に有益なブログをご紹介いたします。こちらも既に話題になっておりますので、ご存知の方も多いかもしれませんが

ベンチャー法務の部屋(弁護士森 理俊のブログ)

先の磯崎さんの著書にも登場する(ベンチャー支援で有名な)AZX総合法律事務所ご出身の弁護士で、今年1月、ご尊父が経営されておられる大阪の名門事務所に戻ってこられた方の「期待の」法務ブログであります。東京の法律事務所で7年間実務に従事されてこられたので、ビジネスローとしての感覚は抜群でして、我々IPO企業統治システム研究会の期待の星であります。9月1日にブログを開設されたのですが、「ひょっとして三日坊主かも」と思い、しばし静観させていただいておりましたが、日を追うごとにブロガーとしての素材が垣間見えてくるようになり、このところは本家(?)を凌駕する勢いとなりましたので(笑)、ここにご紹介する次第であります。

内容は私がどうのこうのと申し上げるよりも、ご一読いただければ、そのレベル感もおわかりになるかと。。。このままブログの更新が続くのであれば、おそらく「ベンチャーにとってとても大切なブログ」になるのではないか、とひそかに期待をしております。(昨日の私のセミナーにお金を払ってお越しいただいたから義理でご紹介した・・・というわけでは決してございませんよ(^^;;>森先生 笑)

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2010年8月 6日 (金)

企業法務-夏のオススメ新刊書3冊ご紹介

Kabukahyouka 暑中お見舞い申し上げます。最近は東京と大阪を行ったり来たりの日々ですが、今年は東京も異様に暑いように感じます。どうかお体をご自愛くださいませ。m(__)m

さて、サイドバーにも掲示しております私の新刊書でありますが本日(8月5日)の日経朝刊1面下で広告が掲載されました。(これをみて多くの書店から発注があれば良いのですが。。。)先週少しだけ本屋巡りをしておりましたところ、ほぼ同時期に平積みになっておりました新刊書2冊を発見いたしましたので、ご紹介いたします。どちらも「おお!」と思わず唸って衝動買いしてしまったものであります。ちょっと悔しいですが、おもしろいです(笑)

ジュンク堂天満橋店では「会社法」関連の棚で、私の本の隣に平積みされていたのが「企業法務からみた株式評価とM&A手続~株式買取請求を中心に~」(田辺総合法律事務所 大和証券企業提携部 編著 清文社 2,600円税別) 先日のエントリーで、ターナーさんとKazuさんの議論についていけなかったので、思わず衝動買い(笑)

皆様ご承知のとおり、いま会社法・金商法関連の話題でもっともホットなのが株式買取請求事件、価格決定申立事件ネタであります。最新の旬刊商事法務(7月25日号)の「平成21年度会社法関係重要判例の分析(上)」をご覧いただいても、そのほとんどが買取価格の「公正な価格」とはなんぞや?が争われたものばかりであります。商事法務さんのほうにも、企業法務の専門家の方々が、多くの判例解説等を出稿されておられますが、専門家向けであって、少々内容がハイレベルです。

ところで、本書は企業法務に携わるビジネスマンや少数株主となりうる個人投資家にも配慮されておりまして、ご専門家の方以外でも読みやすい内容に仕上がっております。おそらくこの本を執筆された弁護士の方々が、実際の価格決定申立事件の代理人として携わっておられるからではないかと思います。そういった立場の方々なので、豊富な判例紹介・判例解説もなされております。どうも公正な価格の決定にあたって、「適正手続とは何ぞや」のほうばかりに目が向きがちになりますが、株価算定とデューデリに関する解説もかなり詳細でありまして、企業価値判断にも目が向けられております。いままで株式買取請求権を中心として事業再編手続が解説されたものは見当たりませんので、平成17年改正会社法制定後の株式関係の重要論点を概観するには貴重な一冊ではないかと思います。私がぜひこの本を読んでいただきたいのは、これから事業再編をお考えの上場会社の取締役ならびに監査役の方々であります。事業再編の巧拙はやはりきっちりと時間をかけて取り組む姿勢によって決まるのでは・・・・ということが理解できます。いわば「M&Aのコンプライアンス」の重要性が認識できるのでは・・・と。

ただ、心配な点をひとつ申し上げるなら、ホットな判例理論やTOB手続を扱っておられる本ですので、実務の流れが早く、現在は最先端の情報が詰まっているのですが、時の経過とともに扱っている情報が古くなってしまうのではないか、ということであります。(ただし売れ筋の定番本となりますと、第2版、第3版と、ぎゃくに儲けの出る本になるかもしれませんが・・・(^^; )

Soredemokigyou そしてもう一冊は、ジュンク堂千日前店で私の本の横に平積みされておりました「それでも企業不祥事が起こる理由」(國廣正著 日本経済新聞出版社 1,600円税別)

こちらは「コンプライアンス関連」の棚でして、会社法とはずいぶんと離れたところで陳列されていました。国広先生の本は、私の本の執筆にも参考にさせていただいておりますし、すべて読んでおりますので、もちろん購入。

法令違反とコンプライアンスとの違いを感じさせる例はいろいろとございますが、事件の渦中でこれを知る機会というものはなかなかございません。「それでも不祥事が起こる」のは、「法令違反とコンプライアンス」の違いを理屈では理解していても、不祥事の原因究明や事実解明、再発防止策検討にあたって、本当につきつめて(自らの頭で考えて)いないからであろうと思われます。つきつめて考えますと、本当に再発を防止するためには、いままで誰も触れたがらないような「組織のタブー」に触れなければならないこともあるかもしれません。そういったことをしみじみと考えらせられる一冊であります。

この本のなかで国広先生は、消費者目線によるコンプライアンスの重要性を改めて力説しておられ、さすが日本を代表するコンプライアンスのご専門家、ご自身の経験された事件などをもとに、具体例を通じてわかりやすく解説しておられます。(コンプライアンス関連判例として話題の「パロマ工業元社長刑事判決」についても鋭い視点で解説されておられます。)そして最も私の興味がそそられましたのが、国広先生の第三者委員会に関する考え方が最終章においてかなり詳細に表現されているところであります。先日日弁連から公表されました「第三者委員会ガイドライン」は、国広先生が中心になってとりまとめられたものでありまして、本日(8月5日)の朝日AJにおける証券取引等監視委員会の佐渡委員長インタビューでも、この日弁連ガイドラインが高く評価されているところであります。全体として、今回の本は国広先生の個人的な見解がかなり前面に出た一冊に仕上がっており、弁護士だけでなく、コンプライアンス関連のお仕事をされている専門家の方にもおススメの一冊であります。

おススメの3冊目はといいますと・・・・・ はい、サイドバーでご紹介している拙著(笑)。こちらもどうかよろしくお願いいたします。。。

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2010年7月15日 (木)

「内部告発・内部通報-その光と影ー」まもなく発売

Web_3 ダスキン株主代表訴訟の株主側代理人の報酬はいくらが妥当か?---ということで、会社側(ダスキン社)と株主側とが争っていた訴訟において、大阪地裁は8000万円が妥当な弁護士報酬である、とする判決を出したようであります。(サンケイニュースはこちら)この事件では、たしか株主側が4億円程度、会社側が4500万円程度を「妥当な報酬額」と主張して、その溝がなかなか埋まらずに裁判に発展しておりましたが、8000万円というのは安いのか、高いのか?弁護士13名が約5年にわたって訴訟を遂行し、結果的に10名以上の旧経営陣から7億5000万円程度を実回収した成果であります。 まだ確定はしておりませんが、今後の株主代表訴訟の活発化への影響度はかなり大きいものと思われますし、今後「企業法務」の世界においても注目される判決になるものと思われます。(7月15日の読売新聞朝刊によりますと、「弁護士の労力は相当なものであったが、事案そのものはさほど複雑なものではなかった」との判決文が紹介されております。しかし、役員の不祥事不公表に関する善管注意義務違反を争った点はかなり複雑な審理ではなかったかと。。。)

このダスキン事件(ぶたまんへの違法添加物混入事件)が衆目を集めるに至ったのは、ダスキン側が裏取引を毅然と拒絶した約1週間後に某マスコミからダスキンへ質問状が届いたことがきっかけでありました。その裏にはマスコミへの告発があったことは想像に難くありません。最近の企業不祥事の多くが、このような内部通報や内部告発を発端として明るみに出るわけでして、企業がその対応を一つ間違えますと、二次不祥事に発展したり、従業員と連帯して不法行為責任を追及されることになります。

ということで、私の新刊でありますが、「内部告発・内部通報-その光と影- 守れるか企業の信用、どうなる通報者の権利」が、まもなく発売されます。(経済産業調査会 企業法務シリーズ 税別2000円、270頁程度)書店に並ぶのは、7月26日ころだそうであります。アマゾンでもまもなく登録される予定です。昨年10月の書籍版「ビジネス法務の部屋」は、取扱書店が少なく、たいへんご迷惑をおかけいたしましたが、このたびは全国取次ですので、全国300の書店でお求めになれます。今回はおそらく東京中心の販売体制になろうかと。(具体的には こちらの書店が配本予定です。私がよく立ち寄る浜松町の文教堂さんにも配本されるようで・・・)カバーはちょっと派手めかもしれません(^^;;ので、たぶん、すぐ本屋さんで見つけられると思います。発売当初は「ビジネス法務」関連のスペースに置いていただけるようにお願いしております。

ブログは「思いつき」による問題提起型の記述が多いのですが、この本で述べているところは、私の本業に近いところ(内部通報窓口業務、内部告発代理人等)の経験等による問題解決型の記述が多くを占めております。最近よく再発防止策として「内部通報制度を見直しました」とリリースする企業が多いのでありますが、その「見直し」には何が必要なのか、多くの頁を割いて解説しております。具体的には「はじめに」のところを手にとってお読みいただき、買う買わないを決めていただければ結構なのですが、主な構成は

第1章 企業社会と内部通報、内部告発

第2章 代表的な判例からみた内部通報、内部告発の実務的な課題

第3章 公益通報者保護法の概要

第4章 消費者行政と公益通報者保護制度・内部通報制度

第5章 内部通報制度の現状と実務

第6章 内部告発者に対する制裁と防止策

第7章 パワハラ・セクハラ防止に向けた企業の対応

第8章 不祥事の公表・調査義務~内部通報を発端とするケースについて~

といった章目となっております。公益通報者保護法は昨年10月に消費者庁に移管されましたし、平成21年の不正競争防止法改正や労働契約法の制定など、最近の関連法改正にも対応した内容となっております。さらに来年は、公益通報者保護法の改正が予定されておりますので、第3章では、現実の運用からみた現行法の課題についても触れております。とりわけ、内部統制の時代となり、内部通報制度と内部告発問題とをリンクさせて検討しており、かなり制度の枠組みを企業担当者向けに整理してみました。また、内部告発をしたい、社内のヘルプラインに通報をしたい、という方々にも参考になろうかと思います。こういった本が議論の「たたき台」になれば望外の幸せであります。

また、実際に書店に並んだ時点で広報させていただきますが、今回は正真正銘の「書き下ろし」でございますので、とりいそぎ、予告をさせていただきました。

7月 15, 2010 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年7月 2日 (金)

「IFRSと包括利益の考え方」(この本をご存じですか?)

Ifrskangae_3 6月30日、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」が企業会計基準委員会から公表されておりますが、公開草案の段階では連単同時適用が提案されていたところ、結局連結先行適用ということになったようであります。

会計専門家でもない者がIFRSに関連する本の「書評」などと言えるものは書けないので、会計素人による読後感想文ではありますが、この本を皆様ご存じでしょうか?

「導入前に知っておくべきIFRSと包括利益の考え方」(高田橋範充 著 2010年6月 日本実業出版社)

巷にあふれているIFRS解説書について、どれが良い、悪いなどと評価できる力量もない私でありますが、書店で立ち読みしてすぐにおもしろさに感動し、すでに2回ほど通読しております。知人の会計士の先生方にも「これ、絶対にいいよ」などと(身分もわきまえず)推奨しております。

著者は中央大学のアカウンティングスクールの先生(国際会計研究科長 教授)でいらっしゃるそうですが、私はまったく存じ上げません。しかし、この本に感化されまして(笑)、私はすでに1990年代の国際会計基準に関する研究書と、ASOBATを解説している会計基準の生成過程に関する本を購入してしまいました。(^^;;イヤ、本当にこの本を読むとそういった会計基準生成の歴史とか、EU諸国における会社法指令等による国内法化の顛末などが知りたくなるのであります。いままで雑誌を含めて、何冊かのIFRS解説書を読みましたが、基礎がわかっていないためか、どれも挫折してしまったのでありますが、この本は専門家以外の者が読んでも非常におもしろい!IFRSの理屈の世界と妥協(政治的な産物)の世界とが、きちんと区別して書かれてありまして、今後2015年ころまで(おそらく)揺れ動くIFRSを理解するには、非常に有益ではないかと思います。あまり深く考えますと、最終的には「会計学とはなんぞや?」というところまで行き着いてしまうのでしょうかね?

ちょっと前までは「イファース」なる通称(IFRSの読み方です)が流行だったのが、最近なぜか「アイファース」と読む方が増えてきたのでは?といった疑問にも、この本は説得的な理由をもって回答され、私もナットクいたしました。またこの本を読むと「国際会計基準」ではなく「国際財務報告基準」という和訳しかありえない・・・という気になってまいります。また、今後IFRSがどのような変遷を遂げようとも、「公正なる会計慣行」「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」という(これまでの)法律概念における「公正性」や「会計慣行」の解釈には収まりきれない性質を有していることも理解できます。利益のリサイクリング・・・といった論点も、会計雑誌でなんとなく拾い読みしていて理解していなかったあたりもIFRSの原初的理解との関係で問題点が把握できました。「理屈ではこうなるんだけど」といったあたりにこだわりたい方にはおススメです。

また、このたびの包括利益の表示に関する会計基準との関係では、表示する計算書として1計算書方式と2計算書方式の選択が可能、とされておりますが、IFRSの原初的な理解からすれば、2計算書方式によって「当期純利益」の計算を優先すること自体が原則主義からは矛盾を生じており(だからこそコンバージェンス?日本のこれまでの主張が政治的に認められた?)、これからのIASB、FASBの政治的な綱引き次第では、また別の方向に向かう可能性も考えられるのではないか、と思われます。

「IFRSが全面適用されると、あなたの会社の決算書はこうなる」といった話題ばかりが先行しているのでありますが、そこで解説されているのは、これまでどおりの当期純利益優先主義を基本とした決算書の読み方を基本としているのではないでしょうか。しかし、その読み方自体の発想を転換する、というのも選択肢のひとつではないかと。IFRS、そしてフレームワークを理屈で考える、というのも、なかなか楽しいわけでして、いままで出されているIFRS解説書を理解するうえでも、この本はとても参考になろうかと思われます。(くどいようですが、あくまでも会計専門家ではない者による、読後感想文としてお読みいただければ幸いです。)         

7月 2, 2010 本のご紹介 | | コメント (7) | トラックバック (1)

2010年5月 7日 (金)

エントリー削除とお詫び(セイコーHD社記事の件)

5月1日に前社長の解任に関する素朴な疑問をエントリーとして書かせていただきましたが、私の事実認識に誤りがありました。加筆修正程度では関係者の皆様、閲覧されている皆様にも誤解を招きかねないものと思いましたので、当該エントリーをすべて削除させていただきました。(ミスを「それとなく」ご指摘いただきたIKさん、ありがとうございました。)

セイコーHD社の社外取締役の方から出されていた緊急動議は「代表取締役の解任と、社長の交代」であって、「代表者の選定」ではなかったことは、私がきちんと記事を読み、公開されている資料を読めば明らかであったにもかかわらず、そこを十分に認識しておりませんでした。改めまして、関係者の皆様、コメントをお寄せいただいた皆様、そして閲覧されておられる皆様におわび申し上げます。

5月 7, 2010 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年4月26日 (月)

「命燃やして-山一監査責任を巡る10年の軌跡-」を読んで

Inochimoyashite01 「5月7日第一刷発行」とありますので、まだ発売されたばかりでありますが、あまりのおもしろさに日曜日に全部読んでしまいました(210頁ほど)。 「命燃やして~山一監査責任を巡る10年の軌跡~」(伊藤醇 著 東洋出版 1500円税込)

著者の伊藤醇氏は約35年間、山一証券の監査人として従事してこられ、山一が経営破たんした直後から10年にわたり、会計監査人としての法的責任追及訴訟の被告として、中央青山監査法人(当時の中央監査法人)とともに、計6つの民事訴訟で「法廷闘争」を経験してこられた公認会計士の方であります。ご承知のとおり、山一証券の監査人に対しては、いわゆる監査見逃し責任追及は管財人、一般株主(集団訴訟として)、株主オンブズマンによって訴訟が提起されたのでありますが、管財人訴訟については和解による解決が図られたものの、それ以外ではすべて会計監査人側が勝訴(つまり監査人には過失は認められず、原告の請求が棄却)されております。しかし、著者は単に勝訴するに至った経緯を淡々と述べるのではなく、なぜ山一の2648億円にも及ぶ損失を監査手続きのなかで把握できなかったのか、その理由や実態はどうであったのかを明らかにすることこそ、山一監査を担当した監査人の義務として、本書のなかで詳細に解説をされておられます。そこでは、山一の含み損隠しに協力する信託銀行(2行)、大口顧客、そして海外のアカウンティング・ファームの存在が極めて大きかったことを掲げ、社外の第三者が関与する会計不正の把握が極めて難しい状況が示されております。著者はすでに(失礼ながら)70歳となられ、会計監査の第一線からは退かれたようでありますが、だからこそ、山一監査に関わった事情を包み隠すことなく表現されておられ、現役会計士としての守秘義務に触れない範囲で、実態を説明されておられます。こういったお話は、守秘義務に厳しい会計士の方からは、普段あまりお聞きできないところであり、たいへん貴重なものであります。

「人生を台無しにされた」と述懐される「法廷闘争」。管財人から訴訟を提起された平成9年ころ、あれだけマスコミから叩かれたにもかかわらず、完全勝訴判決が出た同19年ころにはマスコミからほとんど記事にもされず、たとえ記事になったとしても、事実だけを「ベタ記事」で取り扱われ、「裁判に勝つとはこんなもの」と冷静に振り返っておられます。ただ、現役の公認会計士の方による司法制度へのスルドイご意見については、キャッツの監査人でいらっしゃった細野祐二氏による一連の著書や浜田康夫氏による「会計不正」などがございますが(当ブログでも何度かご紹介しております)、この伊藤氏の解説は(訴訟代理人との信頼関係が終始良好だったせいかもしれませんが)非常にレベルが高く、できれば監査に関心のある法律家の方々にご一読いただきたい一冊であります。とりわけ監査手続当時は「念のため」に行われた確認作業が、その十数年後の裁判では決定的な証拠として扱われたことなど、裁判当事者でなければ出てこないような印象的な出来事なども綴られております。また本書のなかで批判の対象となっております「月刊監査役」の論稿(2本)や、「商事法務」の論稿について、これを法律家の立場からどのように受け止めるべきか、真摯に考えることも必要ではないか、と思っております。私自身も、アイ・エックス・アイ社の3名の監査役さんの「監査見逃し責任」追及訴訟(再生債務者管財人が原告)の被告ら代理人を務めさせていただいた経験からみて、架空循環取引への疑惑に目を向けることの困難さを痛感しており、伊藤氏のご指摘にはとても共感いたします。世論の流れのなかで、裁判官から「後だしジャンケン」的な発想で結果責任を問われないだろうかと、常に不安を抱いております。伊藤氏は、会計監査人だけでなく、監査役の方々にも、「どのようにすれば監査見逃し責任を問われる裁判で『無過失』を立証できるか」を考えるにあたって本書を参考にしてほしい、と述べておられますが、私もまったく同感であります。旧来の監査実施準則の時代から、リスク・アプローチ手法の時代へと移り、またナナボシ判決や東北文化学園事件判決、ライブドア事件判決など、会計監査人に厳しい判決が出る時代へと移ってもなお、この山一事件判決の枠組みは参考になるところが大きいものと思われます。

後半部分では日本公認会計士協会に対して不信感を抱かざるをえなかったエピソードも記述されており、山一事件の根の深さも表現されております。私は現在、この著書でも紹介されている山一事件訴訟(大阪地裁)の主任代理人の弁護士の方と、本事件を検証しているところでありますが、会計監査人の責任を追及する側からみても、(耳の痛いご意見として)非常に参考になるところであります。私は素直に著者の方のご意見に納得するところが多かったですし、このご意見を真摯に受け入れたうえで、原告側としてはどこに甘さがあったのか、監査実務への認識不足があったのかを反省、検証し、そのうえで、「裁判官を説得するための監査責任追及の方法はどこに力点を置くべきなのか」さらに多くの法律家の知識を集約していく必要があると考えております。本書はリーガルリスクに直面した会計士・監査役さんだけでなく、会計監査の法的責任を追及する側においても、非常に価値のある一冊ではないかと思います。とくに伊藤氏も「今後の施策」として指摘されておられる「リスク・アプローチ手法の周知」「会社法における内部統制システム構築」「金商法における内部統制報告制度」「監査役と会計監査人との連携・協調」などが、会計監査における「期待ギャップ」を埋めるためにどのように有効に機能するのか、今後とも注視していきたいと思う次第であります。(なお、最後になりますが、著者の伊藤氏は「本書は特定の団体や個人を誹謗中傷する意図で書いたものではない」とおっしゃっておられることを念のため付記しておきます。)

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2010年4月19日 (月)

判例検索USBの使い心地(D1-Law nano 判例20000)

Image006 お手軽価格で、しかもネット環境なしで判例検索ができる、ということで1カ月間、使ってみました。→D1-Law nano 判例 20000 (第一法規出版)発売されたときから、かなり気にはなっていましたが・・・

消費者庁が設置され、消費者関連行政が大きく変わって以来、本業のほうでもコンプライアンス関連の仕事の中身が変わりつつあります。これまであまり消費者行政とか、消費者関連判例を勉強してこなかったので、せめて消費者関連の重要な判例だけでもフォローしなければ・・・ということで急きょ使い始めました。

ともかくネットにつながずに、サッと検索ができます。立ち上がりもかなり早いです。終了するときもとくにストレスは感じません。2万という判例の数は、使ってみて若干物足りないと感じますが、論文を書いたり、裁判で活用する場合にはおそらく紙媒体で確認すると思いますので、引用されている判例時報や判例タイムズで別途あたれば過不足なくフォローできるように思います。

2万円という価格(税別)と、このお手軽感というのはやはり魅力ですね。ともかく「判例検索」をめんどくさい、と感じることがなくなりました。

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2009年8月 3日 (月)

最高裁判所は変わったか(一裁判官の自己検証)

いよいよ、本日(8月3日)より、日本の司法制度が新たな一歩を踏み出すことになります。(裁判員制度による審理開始)そこで、裁判員制度を含め、これからの司法制度改革を考えるうえで、たいへん参考になる本が出版されました(7月31日)ので、ご紹介いたします。最近、株式買取価格決定申立て事件が話題になりますので、新刊の「類型別会社非訟」(東京地方裁判所商事研究会編)をご紹介する予定だったのですが、こちらのほうが当ブログにお越しの皆様方にはお勧めかと思いましたので。

Saikousaikawatta 大阪弁護士会ご出身の最高裁判事といえば、現在は田原裁判官でありますが、田原氏が任官されるまで(2002年から2006年まで)、最高裁判事を務められた滝井繁男先生(大阪弁護士会)の著書が出版されました。

最高裁判所は変わったか~一裁判官の自己検証~(滝井繁男著 岩波書店 2,800円税別)

これまであまり語られたことのなかった「最高裁判所裁判官の日常風景」から、合議の様子、事件はどうやって大法廷へ回付されるか、そして私的にはたいへん関心の高い「金融機関に対する文書提出命令認容事件」に関する議論まで、これまで類書のなかった分野を詳細かつわかりやすく紹介されているもので、貴重な一冊であります。(もちろん量刑問題など刑事事件に関連する話題も豊富であります。)

なお、当ブログでもエントリーいたしました、あの痴漢冤罪事件につきましても、滝井先生は「このような判断が示されたことは、最近の実務で広く行われていた手法への一つの警鐘ともみられ、今後の実務に少なからず影響を与えることになるのではないかと思われる」として、画期的な最高裁判決であったと評価されておられます。私のブログでも二度ほど近藤裁判官の見解には注目しましたが、滝井先生も近藤裁判官の見解を二度ほど、本のなかで紹介されておられます。やはりキャリア上がりの裁判官が、あまり保守的なスタイルではなく、斬新な発想で判決を書かれる(しかも個別意見付きで)ことに注目されるのではないでしょうか。

いまでは、最高裁が弁論期日を入れる・・・と聞くと「高裁の判断が見直される」とマスコミも我々もあたりまえのように認識いたしますが、ちょっと前までは、そんなことはなく、弁論を開いても結局結論が変わらなかった、という事件がけっこう多かったそうです。最近のような傾向になったのは、やはり最高裁へ上告される件数が増えてきたことと関係があるようです。大阪の水野先生、清水先生との対談は、滝井先生の発言に、ひときわ裁判官的なモノの見方が浮かび上がるところが興味深いのでありまして、とりわけ行政事件に関するお話は法曹の方々にとっても参考になろうかと思います。

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2009年7月23日 (木)

わかりやすいパワーハラスメント裁判例集(21世紀職業財団)

Pawaharhon 先週は、内部通報窓口からみたパワハラ事件のむずかしさ についてエントリーを書きましたが、7月16日の朝日新聞で大きく紹介されていたパワハラに関する判例集が、ようやく手元に届きましたので、さっそく興味のあるところから読み始めております。この分野に精通された弁護士の方が裁判例の整理を担当され、一般企業の社員や役員の方々にもわかりやすいように判決文をまとめてありますので、お勧めの一冊です。もうすでに改訂版も出ているのかもしれませんが、 わかりやすいパワーハラスメント裁判例集(財団法人21世紀職業財団 編2100円) 。  セクハラにつきましては法令上の定義がありますが、パワハラには定義がないために、裁判におきましても、原告側(パワハラ被害者側)主張にどのように対応すべきか、手探りの状況にあることが認識できます。(名誉毀損や人格権侵害など、既存の枠組みが活用できるのであれば、パワハラの有無に関する判断よりも、そちらで優先的に解決したい、といった裁判所の苦悩も読み取れます)また過失相殺がなされている判例がいくつか掲載されておりますが、相殺の原因となった被害者(労働者)側の過失の捉え方によっては、この過失相殺の割合認定が今後も大きな争点になるケースもあるかもしれません。

実際には却下されておりますが、裁判所がパワハラ事例におきまして、人格権侵害の妨害排除請求権(物権的排他請求)を被保全権利として、集団いじめ行為の差止仮処分命令を求めうる余地があることを述べている(東京地裁決定)ことは初めて知りました。最近のパワハラ事例につきましては、何がパワハラなのか、といった判断だけでなく、精神疾患などといじめ行為との相当因果関係の有無、企業の安全配慮義務違反の判断などが争点となるケースが多いようですが、パワハラに仮処分が認容されるようになりますと、精神疾患などの実被害が発生する前からでも裁判所の判断を仰ぐことができますので、けっこう多くの事案において活用されることになるのかもしれませんね。ただ、(たしか機野さんがコメントされていたと思いますが)「パワハラ」なる用語が独り歩きしてしまって、なんとなくアプリオリに人格権として認知されているかのような風潮があるかもしれませんが、そのあたりはこの30ほどの裁判例をみていただければおわかりのとおり、なかなか裁判所は慎重な態度を崩してはいないように思われます。

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2009年6月23日 (火)

英領バージン諸島トルトラP.O.box957

内部統制関連のエントリーには、ある監査法人の会計士さんや、とも先生、そして公取委関連のエントリーにはDMORIさんやchikaraさんなど、ご紹介したいコメントがいろいろあるにもかかわらず、お返事すらできずにたいへん申し訳ございませんm(__)m 管理人の力不足の点につきましては、ぜひぜひ有益なコメントをご参照いただきたく存じます。(とも先生のブログでは、かなり力のこもった内部統制報告書分析がなされておりますよ)また、トラックバックをいただいている公認会計士の武田先生のブログによりますと、本日新たに紀州製紙さんとダイオーズさんの内部統制報告書において、「重要な欠陥あり」とする内容が記されている、とのことであります。(さすが武田先生、よく調べているなぁ)また、大木さんに続いて、石垣食品さんも「意見不表明」とされたことを開示しています。さらに、BB太田昭和さんは、重要な欠陥があるとする内部統制報告書を提出したこと、およびその理由等を適時開示としてリリースされています。

決してブログを書く時間がない、というわけではございませんが、夜に仕事が終わりますと、ついつい例の「兜町コンフィデンシャル」を読みふけっております。私の手元にございます「魑魅魍魎マップ」(※1)を参照しながら、あちこちに線を引きながら読んでおりますので、なかなか先に進まないのであります。たとえば、何カ月か前に、SESC(証券取引等監視委員会)の佐々木氏の講演が会計士さん方のブログで話題になっておりました。そこで登場した「私書箱957に登記されているBVI法人は8割方怪しい」というお話、この本を読みますと、なぜ怪しいのか?という理由が概ね判明いたしますね。(もう読了された方はおわかりかと思いますが)また不公正なファイナンス手法に登場してくる怪しい法人の登記所在地は私書箱957だけでなく、「3○52」という、他のナンバーもあるようです。要は香港の会計事務所経由でいとも簡単にBVI法人が設立でき、さらに銀行口座開設にあたって、審査がたいへん甘い金融機関がある(つまり、その金融機関に顔のきく会計事務所を活用すれば、同じような私書箱になる・・・)ということなんでしょうね。しかし、ご自身で、香港の会計事務所に赴き、本人確認審査の甘い金融機関を通じて(いわくつきの私書箱の)法人を開設した高橋氏の執念は(やっぱり)すごい・・・(^^;;

※1・・・・・上記「兜町コンフィデンシャル」に魑魅魍魎マップが添付されているのではなく、これはあくまでも私が以前入手したものであります。最近はあちこちでこういったマップの存在が語られております。

この本には、例の海外失踪してしまった(六本木ヒルズに事務所を構える)弁護士も登場いたしますし、いたるところで「不振企業の経営者」と「裏で活躍する紳士たち」との仲介者として弁護士が登場するわけでありますが(・・・すごいですなぁ・・・・・)。  5年くらい経って、改訂版「魑魅魍魎マップ」を記者さんからもらったりして「山口利昭法律事務所」とか書かれていたらシャレにならないですよね(^^;; 高橋氏の新刊書に名前が登場しないようにこれからも気を引き締めて精進したいと思います。m(__)m・・・・

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2009年6月19日 (金)

兜町コンフィデンシャル(株式市場の裏側で何が起きているのか)

Kabutochokon 当ブログで最初に「粉飾の論理」をご紹介しましたのは、もう2年半以上前のことでありました(カネボウ事件と内部統制構築論)あれから、何度も上記書籍を引用したり、改めて読み直したりしておりますが、著者でいらっしゃる高橋篤史氏の待望の新刊!ということで、やっと読む時間がとれました。ちなみに「粉飾の論理」を出版したことで、高橋記者は出版社とともに二件の民事事件の被告となり(損害賠償請求額は合計6億円とのこと)、そのうち1件につきましては、不本意ながら裁判上の和解による決着をされた、とのことであります。(本書「あとがき」より)

「兜町コンフィデンシャル(株式市場の裏側で何が起きているのか?)」(高橋篤史著 東洋経済新報社)

まだ半分程度しか読めておりませんが、やはり期待どおり、実におもしろい。 (取材および調査の精緻さには感服いたします)高橋氏の作品の面白さは、株式市場の裏側を紹介するための事実調査の正確性、精密性にもありますが、なんといっても裏社会が点と線でつながっている様子をいくつかの事件紹介を通して表現している点であります。目次をご覧になるとおわかりのとおり、10個ほどのテーマ(実は一つのテーマのなかにも、複数の事件が紹介されておりますので、もっと多くの事件数ですが)の項目だけをツラーっと眺めますと、それぞれが別個のストーリーではないか、との印象を持つわけであります。しかしながら、読み進めていきますと、それぞれのテーマに登場する人物が、またどっかでつながってくるのでありまして、この「裏社会のつながり」というものも、この新刊書における重要なテーマのひとつではないかと思います。

しかし前半のクレイフィッシュ社(および親会社たる光通信社)の株券紛失事件の顛末は実に興味深いものであります。親子上場の「おそろしさ」を背筋が凍るほどに堪能することができます。また、こういった華々しくデビューする新興企業にトラブルが発生するなかで、監査役会(弁護士や大学の先生など5名も監査役さんがいらっしゃったのですね)が若き社長や取締役会、そして顧問弁護士との対立を深めていき、社長解任動議が僅差で否決されるや、その場で5名とも辞表を提出する場面などは、いろいろと監査役制度の実効性が言われるなかで、やはり監査役としての有事の対応が水面下では果たされていることを知らされました。(少しうれしくなりました)

春日電機社の先日のリリースでも、経営権交代に絡むグレーな世界が表現されておりましたし、金融庁スタディグループにおける報告書のなかにおきましても、悪質な第三者割当増資への対応が喫緊の課題であることが強調されておりました。この本を読み、「経営者のほんの少しのスキ」から生じるリスクの大きさを考えますと、裏社会とのつながり、というものは、ある特殊な企業だけのリスクではなく、上場企業であればどこの会社でも、「隣り合わせのリスク」であることが認識できるはずであります。高橋氏の言葉を借りれば、「以前、株式市場で暗躍していた人たちは、相場師であり投機家であった。それはまだ市場の潤滑油として許容されていた人たちだった。しかし現在暗躍している人たちは、市場参加者を食いちぎる人たちであり、企業そのものを侵蝕する人たち」であります。企業として「リスクと真正面から向き合う」姿勢は従来にもまして不可欠であることが認識されるところであります。また、6月11日のエントリーでは、金商法157条と課徴金制度との親和性について検討いたしましたが、こういった事例に触れますと、包括条項を適切に運用する必要性というものも、ちょっと前向きに検討したくなりました。(後半部分は、また明日でも読もうかと思っております)

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2009年5月29日 (金)

企業不正対策ハンドブック~防止と発見~(本とセミナーのご紹介)

Huseihandbook このたび「企業不正対策ハンドブック-防止と不正-」(ジョセフ・T・ウェルズ著 八田進ニ・藤沼亜起監訳 ACFEJAPAN訳 第一法規 6000円税別)が出版されましたのでお知らせいたします。(もうすでに東京では記念講演もあり、ご好評にて追加講演も行われました)

企業不正検査等に従事されている方にはぜひお勧めいたします。また内部監査人や監査役の方々にもお読みいただきたい内容となっております。なんといっても20年以上のCFE経験を有するジョセフ・T・ウェルズ氏の企業不正発見と、原因分析による防止策が豊富な具体的事例を通じて惜しみなく盛り込まれており、たいへん参考になるところであります。また、和訳につきましても、企業不正に関する適切な日本語を、逐一検討しながら訳されておりますので、非常に読みやすい内容になっております。(もちろん翻訳された方々も、会計学者、会計士、企業実務家の方を中心としたCFEとしてご活躍の方々ばかりであります)

ところで、この記念講演ですが、大阪でも来週6月2日(火曜日)に開催される予定でありまして、私もACFEの甘粕氏とともに、講演をさせていただく予定になっております。もちろん、ブログでは書けない本業に関わることにつきましても職業上の守秘義務に反しない範囲でいろいろと解説させていただきたいと思っております。(詳しくはこちらをご覧ください)たぶん、まだご参加できると思いますので、この本と私の講演にご興味のある方は、どうかご出席いただけましたら幸いです。(参加いただいた方には、上記ハンドブックもついているようですから、かなりお得かと思いますよ)

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2009年4月 8日 (水)

過年度決算訂正の法務(本のご紹介)

Kanendo 別に福島銀行が誤配当によって行政処分を受けたから・・・というわけではございませんが、霞が関での某団体の会議終了後、弁護士会館地下の書店で購入したのが「過年度決算訂正の法務」。(弥永真生編 中央経済社)題名と編者のお名前をみて、思わず衝動買いしてしまいました。

まだ途中までしか読んでおりませんが、実におもしろい。過年度決算訂正という、上場企業におけるクライシスマネジメントについて、まず、読み手にわかりやすいようにきちんと機能的に単元を整理しているところが素晴らしいです。(おそらく、これだけ整理されているのであれば、このテーマの流れで「過年度決算訂正について」と題する講演も可能ではないでしょうか。)つぎに、執筆者の問題解決のための自説が展開されているところが良いですね。金商法を解説する本というのは、条文や改正点などを丁寧に紹介するものはあっても、解釈上の問題点を指摘して、自説を論じるものは(著名な学者の方の基本書を除き)少ないと思います。(したがって、執筆者の見解については、おそらく賛否分かれるかとは思いますが。たとえば「内部統制と相当の注意の抗弁」あたりは、私個人としては異論のあるところですし、「公表」時期をどこに求めるか?といった解釈上の論点についても説が分かれるかもしれません。)そして、何といってもこれまで法律家の立場から「過年度決算訂正に係る法的な論点」を扱う本はほとんどなかったところでありまして、非常に新鮮です。関連するテーマを扱った論文なども紹介されており、そういった情報収集のためにも2400円は安いなぁと感じました。おそらく、当ブログに毎日お越しになられている方々なら、ご関心のあることが全編語られております。なお、第6章に盛り込まれている「過年度決算の訂正という危機に直面したときの企業の対応」につきましては、ちょっと前の旬刊経理情報や、トーマツさんの「企業リスク」にも特集が掲載されておりましたので、そちらも参考になるかと。

若干、表の説明などに首をかしげるような誤記がありますが(たとえば140頁あたり143頁の「公表 開示が価格に与える影響の仮設例 」と題する説明図)、そういったことなど気にならないほどに、目新しい論点解説に挑戦されており、会計士さんと経営者との世界だった「過年度決算訂正問題」に、法律的観点を盛り込んだところは敬意を表したいと思います。(もうすこしきちんと読んで、勉強させていただきます)

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2009年4月 2日 (木)

「内部統制の本質と法的責任」(本のご紹介)

Cimg0989_320 内部統制報告制度も評価日を迎え(3月決算会社)、「経営者評価」という、もっとも「J-SOXと法的責任」に関連する重要な時期となりました。この時期に、(社外取締役ネットワーク関西勉強会でご一緒させていただいている)著者の方から頂戴した新刊書が「内部統制の本質と法的責任~内部統制新時代における役員の責務~」(コンプライアンス研究会編著 財団法人経済産業調査会 3,200円税別)です。初版発行日である4月1日を超えても、まだネット上で販売されていないようですので、私が撮影した写メで失礼いたします。

冒頭10ページほど河本一郎先生の「推薦のことば」が掲載されておりますが、関西の弁護士を中心として、大学教授、トーマツ代表社員、元RCC執行役員、証券取引所関係者、企業実務家等の方が参加した3年にわたる研究会の成果として出版されたものであります。この本の特徴は、なんといっても企業会計審議会意見書で用いられている「内部統制」の概念の内容を明らかにして、これを中心にすえて法的責任を論じているところであります。たとえば、「第二章においては、「基準」が掲げている①業務の有効性と効率性、②財務報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等の遵守、④資産の保全それぞれについて、会社法上の制度との関連でどのように理解されるべきかを検討している」(河本一郎先生の推薦のことばより)とのことで、実際に読ませていただきましたが、たしかに今後の内部統制報告書が提出される時代における裁判で使えそうな内容になっております。また後半167ページあたりでは、「内部統制システムの不構築と経営上の裁量」など、最新の日本技術システム損害賠償事件をとりあげて解説がなされていたり、内部統制システムの構築と企業の責任(両罰規定)、「証券取引所と内部統制システム」など、きわめて企業実務的に有益な内容が豊富です。単にこれまでの学者さんや実務家による成果をまとめて整理したものではなく、研究会会員の自説を積極的に展開して、(おそらく読まれる方も賛否あろうかと思いますが)、今後の裁判実務等への問題提起を多分に含む点においてたいへん興味深く読ませていただきました。

何度かとりあげました日本システム技術損害賠償事件(この本の中では、事例の紹介と判例解説もなされています)といい、先日の貴乃花名誉棄損事件新潮社裁判の事例といい、内部統制構築義務違反が代表取締役の「重過失」を構成する(会社法429条1項)、といった事例が出てきており、これに加えてもうすぐ「内部統制報告書」が提出され、企業には内部統制の整備・運用評価を文書化したものが埋蔵されており、裁判で活用されるかもしれない、という時代が到来します。財務報告の信頼性確保のための「内部統制」を中心にすえて法的論点を考察する、という取組についてご関心のある方には、お勧めの一冊であります。

4月 2, 2009 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月24日 (火)

ビジネスマンのための法令体質改善ブック

Houreitaishthu ひさしぶりの「本のご紹介」であります。といいましても、実は昨年発売と同時に購入して、すでに読み終えている本でして、ご紹介については「どうしようかなぁ」とためらっておりました。

ビジネスマンのための法令体質改善ブック(吉田利宏著 第一法規 1000円税別)

衆議院法制局に15年ほど勤務されていた著者のビジネスマン向けの「電車でも読める」(著者のことば)法令の読み方解説、法律情報の検索指南の本であります。なぜご紹介をためらっていたのか、といいますと非常にセコイ話でありますが、「なるほど・・・、これはロースクールの授業で学生に小ネタとして紹介したら先輩風を吹かせることができるかも・・・」といった気持がありまして、私の情報源を秘匿しておこうと思っていたからであります。(笑)ところが最近、本書がいろんなブログで「おもしろい!」と紹介されているのを拝見しますと、逆にエラそうに小ネタを開陳したところで、「あっ、それって、あの本で紹介されてたやん!」みたいなツッコミを学生から入れられるリスクの方が高くなってきたようですので、素直にご紹介することにいたしました。(ホンマにセコイ)

法律の条文で使われる日本語というのは、法令用語独特の言い回しがあるわけでして、その言い回しを知らないと法令の意味を十分に認識できない場合があります。また、条文の並び方にも、きちんと意味があったり、法令と附則や整備法との関係なども、それなりの意味があるわけでして、そういった「法令のオキテ」を学ぶことによって、(たとえば)会社法の条文が身近なものに思えてきます。たとえば、ある程度会社法の勉強をしている人に対して「こういった法則がある、だからこう解釈されているんだよ」といった講釈をたれたくなるような小ネタがいっぱい詰まった本です。前半部分は平成17年会社法を題材にして法令の理解に資するようなヒント(法則)が紹介されておりまして(たとえば「その他」と「その他の」って何が違うの?「当分の間」と「さまたげない」の違いってどうよ?とか、「しなければならない」と「するものとする」の違いってあるのかなぁ?みたいな)、後半部分は法令理解のコツや法令情報へのアクセス法など、どれも(法律の素人向けということですが)法曹実務家が読んでも(4つにひとつくらいは)「あれ、政令と省令ってそんなに違うもんだったの?知らなかったよ」と感嘆するような話題がてんこ盛りです。

おそらくこういった法令の読み方(条文の並び方や法律体系も含めて)というものは、法律学者の方々にとっては「ごくあたりまえ」のことだとは思いますが、法曹実務家のなかには、私と同様、この本を拝読して初めて知る方も多いのではないかと想像いたします。ビジネスマンの方だけでなく、法律家や会計実務家の方々にもぜひお読みいただくことをお勧めする一冊です。(しかし立案担当のお役人の方にとっても、内閣法制局参事官の審査というのはトホホな気分になるほど厳格なんですねぇ・・・)

3月 24, 2009 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月26日 (月)

「まじめの崩壊」と企業コンプライアンス

Majimehoukai_2 ご存知、精神科医の和田秀樹氏による新刊書であります。

「まじめの崩壊」(ちくま新書 700円)

和田氏のブログによりますと、もうずいぶんと前から書きたかったテーマだったとのことで、日本人が確実に「ふまじめ化」していることへの警告を発しておられると同時に、その対応策についての提言が「まじめに」語られております。企業コンプライアンスに関連するテーマや、株主資本主義に関するテーマなども語られておりますが、おそらく私などが問題としている企業コンプライアンスや金商法上の内部統制報告制度について異論を唱えておられる(もしくは懐疑的な意見をお持ちの)方々は大いに賛同される内容ではないかと思います。私などは、よく「社外の常識と社内の常識の差を意識せよ」などと(コンプライアンスに関連する問題について)申し上げることが多いのですが、和田氏風にいえば「そもそも社内にだって常識が通る人もいれば通らない人もいる、また社外にだって通る人もいれば通らない人もいる。また同じ人間でも常識が理解できるときもあれば(精神状態によっては)理解できないときもある。むしろ「常識」が通る人はどんな人なのか、通らない人はどんな傾向があるのか、そこまで辿らなければ問題は解決しないでしょ」といった具合です。和田氏はこれを精神医学的分類によって「メランコ人間」と「シゾフレ人間」に分けて詳説されており、そもそも日本は「メランコ人間」が支配していた社会が、現在は「シゾフレ人間」が支配する社会に移行しつつあると考察されておられます。(いや、この分析は実におもしろい。賛同するか否かは別として、企業コンプライアンスを検討するにあたっては新しい視点であります)

最近よくプリンシプルベースとルールベースのお話を、このブログでもさせていただくことが多いのでありますが、和田氏曰く「そもそも、この国にはプリンシプル(物事の道理に沿って動くこと、筋を通すこと)は存在しないということは戦後から言われていたことであって、それでもうまく社会が動いていたのは、ルールベースと日本人のまじめさにあった。つまりルールの執行者が適正に執行してくれる、という信頼関係と、見せしめ的な執行があればその見せしめが社会に実効性を有していたからだ」とのこと。ふまじめ化が進行するなかで、これまでのルールベースの規制に実効性がなくなってしまうと、プリンシプルになじみのない国民への法執行は崩壊すると予想されております。このまま社会の「ふまじめ化」が進行すると、弁護士が儲かる社会になっていくだけである、といった批評もされておりまして、(はたして弁護士業が儲かるのかどうかはわかりませんが)ルールベースに慣れ親しんできた者が、「これからはプリンシプルベースで考えよう」といった意識でうまく法の執行が機能するかどうかは、たしかに和田氏のご指摘のとおりかもしれません。

本書の提言は広く日本社会全てのに向けられたものではありますが、企業コンプライアンスや内部統制といった問題に限っても、これまでのコンプライアンス指南書とはまったく別の観点から、食品偽装や性能偽装問題を考えたり、また最近のある建設会社の裏金工作事件について、不祥事発生の原因や再発防止策の本質はどこにあるのか等、検討する際には参考になる一冊ではないかと思います。

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2008年12月25日 (木)

「金融商品取引法読本」ついに出ましたね♪

本日も興味深い適時開示情報が満載ですね。とくに京樽社の不適切会計処理に関する調査報告につきましては、またまた親会社の監査役さんの頑張りが不正摘発に寄与したようですし、最近こういった不正の端緒を監査役の方が握っている事案が増えてきたように思います。(よく読むと活躍された監査役さんは常勤ではない方のようですね)本件では、不正検査という面でも興味深く、私自身も勉強させていただきます。また、(話は変わりますが)日経新聞ニュースによりますと、江崎グリコ社の筆頭株主だった米国スティールパートナーズが自社株買いに応じて、全株を売却したそうであります。(日経新聞記事はこちら)実は、ある方から数日前の江崎グリコ社の適時開示情報をもとに「江崎グリコがトストネット3で144億円の買い付けやってますね。ずいぶんとでかい金額だなぁと思って、計算してみると、SPとその関連会社合わせた持株価格とほぼ一緒。SP、抜けましたね」とのメールを頂戴しておりましたので、この情報は事前に認識しておりました。なお、このメールを頂戴した方の次なる関心は「某著名(ある意味で)監査法人の筆頭会計士さん方が懲戒処分になってしまったようですが、あそこの被監査企業はだいじょうぶなんでしょうかね」ということで、こっちも私は興味津津であります。(いつも情報ありがとうございます。なお、この話題はgrandeさんのブログに詳しい解説があるような・・・・・)

Dokuhon001 さて、「証券取引法読本」はいまでも愛読書のひとつでありますが、ついに待望の「金融商品取引法読本」(河本一郎・大武泰南著 有斐閣 4,200円税別 12月25日初版)が出版されましたね。ご覧のとおり、表紙カバーはいつも同じような雰囲気ですが、平成20年度金商法改正までフォローされており、ずいぶんと分厚くなっております。(お値段は3,800円→4,200円)先の江崎グリコ社のTosTNeT-3の解説なども別表で示されている等、証券取引実務と法理論と証券取引法の歴史的背景などが、私のような素人的な立場の人間にもわかるように工夫されておりますので、難解でとっつきにくい金融商品取引法の解説書としては「スグレモノ」の一冊であります。(改訂版を心待ちにしておりました。)

ちなみに本書でも内部統制報告制度に関する著者見解が記されており、たとえば会社法と金商法の内部統制システムについては同質説と異質説とがあるが、著者(おそらく河本先生)は、同質説が妥当ではないか、との見解を示しておられます。(ただ、その理由付けが端的でいいですね・・・)また、「重要な欠陥」と法令違反との関係についても、重要な欠陥のある財務報告にかかる内部統制が作られることが、すなわち法令違反になるわけではない、と解説されておられます。(また、こちらの理由付けもすっきりされていていいです)ちなみにこのあたりは、内部統制報告制度と「経営判断原則」、また内部統制報告制度と「株主に対する信任義務」との関係等から、近時さまざまな法律意見が出ているところであります。

この点に関する私見でありますが、内部統制評価実務の現状をみておりますと、たとえ評価時点(期末日)に重要な欠陥が是正されていたとしても、それまでに「重要な欠陥と評価されるおそれのある不備」があれば、そういった事実経過こそが不正会計の責任を問われる役員の善管注意義務違反の有無に影響するものと思いますので(取締役も監査役も監査人も、すべてリスク・アプローチの視点から注意義務の内容が判断されると考えますので)、あまり重要な欠陥が法令違反かどうかは、粉飾決算事例における最終的な法的責任の有無には影響してこないものと思われます。粉飾決算によって投資家や会社債権者が損害を被った場合、内部統制報告書の虚偽記載そのものよりも、有価証券報告書の虚偽記載に関する責任に議論が集中するでしょうし、その責任を検討する場面において内部統制の評価経緯が「リスク認識の有無」を判断するためのメルクマールになるのではないかと考えております。つまり「重要な欠陥がある」かどうか、ということよりも、内部統制の有効性判断に至る経過事実こそが役員の法的責任と密接に関連するのではないでしょうか。

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2008年12月10日 (水)

東大合格生のノートはなぜ美しいのか?(文芸春秋)

16370620 春日電機社に対する名誉棄損に基づく損害賠償請求訴訟が提起された、といったリリースがとても気になるところでありますが、本日はビジネス法務以外のエントリーで失礼いたします。うちの近所のプチ書店にさえ、店頭で平積みになっているのがベストセラー「東大合格生のノートは必ず美しい」(著 太田あや 税別1000円)。「ほんまかいな?」とずいぶんと前から気になっていましたので、いったいどんな本なんだろう・・・と興味本位で購入しました。司法修習生の頃、おなじクラスには「とりあえず東大に合格した経験がある人」はたくさんいらっしゃいましたけど、その方々のノートを拝見するかぎり「なんやこれ?何書いてんのか、あんたしかわからんやんか」みたいなのが多かった記憶があります。

しかしながら、この本に出てくるノートは、うーーーん、たしかに「美しい。」ちなみに、内容をあまりご存じない方は、文芸春秋社のWEB「東大合格生のノートはかならず美しい」特設サイトをご覧ください。(まず、この本がベストセラーになる必要条件としては、著者が東大卒でないことですよね。)

一読しての印象でありますが、そもそも聞いたことをきちんと頭の中で理解して、思考を整理したり、暗記すべき要点をまとめたりするための「手段として」ノートを利用(活用)する・・・ということでしょうから、ノートをとる前に勝負が決まっていたりするのではないか?「ノートをきれいに書こう」と思ってがんばる人にはできない所業であって、「気がついたらきれいなノートになっちゃってた」といった人が実際には東大合格生になっている・・・というのが真実なんじゃないでしょうかね。つまり「法則」を読んだからといって、きれいなノートが出来上がる(→東大に合格する)かというと、おそらく無理ではないかと。また、たとえ「美しいノート」が作成できたとしても、「美しさ」を表現することが目的になってしまえば、おそらく勉強の効率は下がるような気がします。

上記のような感想を抱く方は多いと思うのでありますが、私がこの本を読んで一番気になりましたのが、プリントアウトやルーズリーフではなく「ノート」であること。あとからいろんな情報を追加して立派なツールに仕上げようとしますと、どうしてもパソコンやルーズリーフを使いたくなるのでありますが、ノートだと「自分はこれで勝負」という思い切りといいますか、「もう後戻りはできない」といった不退転の覚悟が感じられます。受験にはこういった思いきりの良さ(背水の陣を敷くというほうがいいかもしれませんが)が必要だと思いますし、本当に東大合格生から学ぶべきものは「捨てる勇気」「思いきりの良さ」ではないかと考えますが、いかがでしょうか。(最近は「わが娘はこうして東大に合格した」みたいな本も出版されているみたいですし、やはり東大ブランドはあいかわらずインパクトがあるようですね。)

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2008年12月 2日 (火)

「なぜ弁護士はウラを即座に見抜けるのか?」

Nazebengosi_2 本日、東京の日弁連業務改革委員会に出席した折、重鎮の某先生が「佐伯さんが『ウソを見抜く方法』とかいう本、出しはったらしいで」とお話されていたので、早速日弁連会館地下の書籍売場で購入し、ホテルで一気に読んでしまいました。

なぜ、弁護士はウラを即座に見抜けるのか?(弁護士 佐伯照道著 株式会社経済界アステ新書 840円)

著者は関西の同業者の方ならご承知のとおり、弁護士56名を擁する北浜法律事務所のトップの方であり、元大阪弁護士会会長(日弁連副会長)を歴任された方であります。私がRCC(整理回収機構)相手に、ある住専関連の事件(詐害行為取消請求事件)で勝訴したところ、当住専の破産管財人に就任された佐伯管財人に(否認権をもって)高裁でひっくり返されてしまった苦い経験や、この本にも出てくる和歌山の「ホテルK」の売却方交渉などで仕事上でも二度ほど関係させていただきました。しかし、佐伯先生については、3年ほど前、私が主催者として開いた「旧弁護士会館の地下食堂、お別れパーティー」にひょっこりと参加していただいたことが一番記憶にあるところです。地下食堂の立ち退きの一件は、諸事情により、ちょっと弁護士会側とは気まずいものがありました。そのため正式にはお別れ会が開催されなかったのでありますが、昭和44年以来、弁護士会館の食事を長年引き受けてくださったこともありまして、私ともう一人の有志で私的な「お別れ会」を開催したのでありますが(それでも50名ほどの先生がかけつけてくれました)、そこに元弁護士会の会長である佐伯先生がパーティー開始時刻から(個人として)参加され、地下食堂の職員の方々へ感謝の意を表されたのであります。(これは本当にうれしかった。)

200ページ足らずの新書であり、ほぼ全編、佐伯弁護士が破産管財人、更生管財人として携わった実際の事件処理を中心に据え、そのなかで弁護士がどのように交渉し、どのように法と向き合っていくのか、その手法、考え方は非常に参考になるところであり、一気に最後まで読みたくなる本であります。とりわけ、倒産業務に関心のある方、反社会的勢力との交渉や、労働組合との交渉に興味のある方には必読かと思われます。私は部外者としまして、この方が所属される法律事務所のイメージから、もっとスマートな事件処理をされているのではないか、と思っておりましたが、実は結構「泥臭い」「日本流」の交渉過程を本旨とするものであり、だからこそ、人間洞察のなかで、こういった「深い交渉技術」を体得されたことに感心いたしました。管財人としての、さまざまな交渉過程において何を考え、何を優先されようとしたのか、如実に示されており(だからこそ、業務処理のまずかった弁護士に対して、容赦なく苦言を呈されております)、一般のノウハウ本とは異なるおもしろさがあります。「危な橋弁護士」を自称される著者の、現実に法律をあてはめる手法は、企業法務全般を考えるにあたっても貴重なヒントになることと思います。

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2008年10月16日 (木)

大手総合商社における架空取引を解説するブログ登場(必読)

会計士さんのブログや、「特捜検察VS公認会計士」でおなじみの細野氏の著書などを拝読して「おもしろい」と感じるのは、公表された企業情報と、会計専門家ならではの「机上によるものではなく、体得した知見」をもとに描かれる(推測される)「アートとしての会計処理」を解説していただくところであります。法律家の事実認定のスタイルとはかなり異質な思考過程をたどるところがたいへん勉強になりますね。

ということで、少し前から気にはなっておりましたが、当ブログにもときどきコメントをいただいております某公認会計士さんのブログ「会計腐食列島」がいよいよ伊藤忠商事社員によります1000億円規模(金額でかい!!)の架空取引をテーマとして、商社取引の実務からみた不正会計問題に切り込んでおられます。(次回は監査の視点から解説される予定・・・とのことで非常に楽しみであります。ちなみに、私は諸事情により、この件につきましてはコメントできません(^^;。ただ、現在大阪の裁判所に係属している某粉飾決算事例にもかなり事実関係が似ているようでもありますね。)偉そうに言うつもりは毛頭ございませんが、持論としては

ブログというものは商売の手段として書こうとするとつまらない・・・、何か世間に叫びたい衝動にかられたり、他人のためにサービス精神が旺盛だったり、自分のために本当の意味で備忘録として利用するなど、書くこと自体に明確な目的を見出しているブログこそ、おもしろい

と思っておりますが、こういったブログは以前ご紹介した活字フェチ弁護士さんの「企業法務のツボ」と同様、マニアックな匂いが漂っているものでして、私的には好きなタイプのブログであります。(あっ、もちろん「とも弁護士の備忘録」や「企業会計に関わる紛争についてのデータベース」のように、正統派のブログも大好きですよ(^^;; 右下の「お気に入り」をご参照くださいませ。。。いつもブログを御紹介するときに申し上げるところでありますが、どうか更新はときどきで結構ですので、長~くつづけていただけますようお願いいたします ちなみに TBできないようになってるみたいですね。。。)

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2008年9月29日 (月)

エンジェルからみた日本企業の内部統制

アントレプレナー(ベンチャー起業家)を多数支援しておられるビジネスエンジェルのような方は、ともかく支援先企業を上場まで持ち込んで、適当な出口さえ見つけて「儲け」を出すことに注心されるのであり、ともかく商品の開発とマーケティングだけに興味を示し、ガバナンスや内部統制などはまったく関心の対象でなないといった印象を(少なくとも私は)抱いておりました。しかしながら、八幡恵介氏の新刊「(日本初のエンジェルが教える)投資できる起業、でいない起業」(光文社 税込1000円)を読ませていた印象としましては、私の先入観は、かなり現実とは異なるもののようであります。

Toushi001_2 著者はNEC出身の技術者として、外資系日本法人の立ち上げに成功され、その後多数のベンチャー起業家を支援されておられる方でありますが、本書は基本的には起業家向けに、ビジネスエンジェルの立場からの「成功指南書」として書かれたものであるものの、自身の投資失敗事例が20社ほど紹介されておりまして、起業家のみならず、一般事業会社のCEO、CFOの方にもたいへん参考となる一冊であります。(いや、実におもしろい。このようなブログで紹介せずとも、これは相当に売れる本だと思いますが・・・・)おそらく、どんなに頑張ってみても、上場にまで至る企業は20社に1社程度、それでもエンジェルとしては20社に分散投資して、1社から元がとれればハッピー!!といった非常に現実を直視された目線で起業家へ提言されている点も、この本の説得性を物語るものであります。

私的には、起業の成長段階に応じて、企業に要求されるガバナンスのレベルを具体的に解説されているところがもっとも考えさせられる点でありましたが、なんといっても「安易な起業」や「マンパワー不足」などに分類された20の失敗事例は企業コンプライアンスとの関連性も想起させるものでして、たいへん参考になりました。また、ビジネスエンジェルの方から「成長時点においてこそ内部統制の整備が重要である(上場準備の段階において、すぐに内部統制が整備されるということはありえない)」「経営者は職業的倫理感が不可欠」とされ、さらに昨今の「日本版SOX法」施行への思いについても記述されている点につきましては、たいへん勇気付けられるところであります。(ちなみに、著者は自身が社長を務めておられた企業で米国SOX法への対応も経験されておられたようです)

IPOに向けての知識を蓄える、というよりも、知恵を養うための一冊といえるものですので、とくに専門的な予備知識が必要ということもなく、おそらくどなたでも内容は理解できるものと思われます。内容を理解したうえで、著者の考えに賛同するか、批判するかは読まれた方の自由だと思いますし、それがまた読まれた方の楽しみではないかと思われます。なお、八幡恵介氏のブログも開設されているようですので、そちらも参考にされてはいかがでしょうか。(値段はペーパーバック版のため1000円ですが、中身はしっかり244頁の充実版であります)

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2008年9月16日 (火)

実践「現場発信のJ-SOX」~失敗を乗り越えた内部統制講座~

おそらく本日の世間での話題は「本当に日本はアメリカ経済と心中する気があるのだろうか?」といったことに集中しているのではないかと推測いたしますが、せっかく日経新聞の「法務インサイド」にて内部統制報告制度に関する話題をとりあげていただいておりましたので、一言申し上げます。9月15日の日経新聞朝刊の記事にて、内部統制報告制度(いわゆる日本版SOX法)が「思わぬ副作用」をもたらしている・・・といった(私が読むかぎり)比較的ネガティブな解説が出ておしました。その「副作用」といわれるものは何かと申しますと「中堅企業を中心に株式上場を取りやめる動きが相次いでいる」ことと「中堅上場企業を中心に、株式上場を維持するために必要なコストが急速に増加する傾向にあり、収益を圧迫しており非公開化(MBO)を検討する企業が増えている」ことだそうであります。私もIPO支援ネットワークの副代表を務めておりまして、大手のVC(ベンチャー・キャピタル)さんに支えられている上場準備企業が上場予定を延ばしているのを間近にみておりますが、いずれも景気動向を見据えてのVCさんのご意向に従ってのものでありまして、とくに内部統制報告制度が要因になっているというのは(少なくとも私の周囲では)聞いたことがありません。ただMBOを検討している企業が増えている・・・というのは、私自身もある監査法人さんから概況としては聞き及んでいるところですので、そのような状況にあるというのは現実なのかもしれませんね。もし、この日経記事のように日本版SOX法の「聖域化」が市場の活性化と健全化のバランスを失してしまっているのであれば、「一定レベルをクリアするための内部統制」について、ベストモデルを目に見える形で提供する必要があるのかもしれません。

Genbahassin001_2 業務用洗剤を主力商品とする東証二部の株式会社ニイタカは、従業員規模160名程度、売上120億円規模(四季報より)の典型的な中堅上場企業であります。その中堅上場企業の内部統制プロジェクト担当者はたった一人でありまして、その担当者の方がこのたび「現場発信のJ-SOX(失敗を乗り越えた内部統制講座)」なる本を出版されました。本日(15日)大阪梅田の旭屋書店の本店では、「内部統制コーナー」にたくさん平積みになっておりましたので、おそらく東京の大型書店でも発売されたものと思います。著者である雑賀(さいが)氏は、私も在籍しております内部統制研究会(関西で毎月1回開催している現場担当者や、IT統制、システム監査に詳しい監査法人担当者の方々が集まる研究会です。もう発足して1年以上が経過しました)に参加されている方でして、某金融機関にてシステム関連の仕事をされた後、ニイタカに転職されました。監修者でいらっしゃる法政大学の石島隆先生も、また(米国SOX法による監査を経験している立場から)執筆協力をされた元バイエル薬品監査部の鈴木氏も、上記研究会にご参加いただいております。最近は大手の監査法人さんが発行されている内部統制整備、運用評価に関する実務参考書が人気を博しているようですが、1年半かけて、監査法人担当者の方と相談をしながら、作り上げた内部統制システムの実務書というのは、ほとんどなかったと思います。この本は、先に述べましたとおり、「一定のレベルをクリアするため」の内部統制を完全に意識したものでありまして、ベストモデルを目に見える形で示したところに特徴があります。また、そのようなベストモデルを構築するなかで、雑賀氏は「いろいろと問題は抱えているものの、実施基準自体はたいへんよくできている」といった結論に達しております。まさに「内部統制の副作用」に悩む中堅上場企業の方々にぜひお勧めしたい一冊であります。(もちろん、ベストモデルといいましても、内部統制評価自体がプロセスの評価ですから、次年度に向けて改良(改善)が必要であり、人材育成が欠かせないことは当然であります)

最近、広報コンプライアンスや危機管理対応の広報リスクマネジメントに関する仕事をさせていただくなかで、不祥事発生時における事実集約や原因究明、開示と非開示の区別、マスコミへの公表事実の選択などを短時間のうちに適正に行うことが非常にむずかしいことを知りましたが、唯一効率化のための方法として、全社的統制→現場統制→全社的統制といった「サイクル」で組織一体的に危機管理対応を図ることがけっこう有効であると認識いたしました。(ただし危機広報というのは、内部統制と異なり、経営トップは何も言わなくても率先して事に当たるというところでありますが。もちろんコンサルティングの方に教わった部分もあります)まさに同じような感覚を、この本でも学んだような次第であります。サンプリングにおきましても、おそらく実際の現場では「不備」がゴロゴロ出てくることが予想されますが、ではどんな手法をもって虚偽表示リスクを低減していくことが可能なのか、中堅企業ならではの、経営トップが全体に目の届きやすい環境を活用した手法の試行錯誤は示唆に富むものであります。

雑賀氏が個人的な意欲で体制の整備を行ったことから、萌芽期から成熟期までの過程を理解しやすいところは長所でありますが、ぎゃくに社内におけるモニタリングの有効性をどのように高めていくのか、といった問題は残っているのかな・・・とも思いますし、また社内に「内部統制システムの構築や改善のわかる人」が一人しかいないこと自体が「リスク」と捉えられることもあろうかと思われます。また、決算財務報告プロセスやIT統制についてもこれで十分かどうかは不明なところもありますが、ともかく現時点での「ベストモデル」を提案され、多くの読者の方々の企業の内部統制整備、運用評価に役立つことを真摯に祈念されておられるようです。中堅企業にとっての内部統制実務書として、ぜひご一読いただければ幸いです。

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2008年8月11日 (月)

司法に経済犯罪は裁けるか-細野祐二氏の新刊

Sihouha002 当ブログへお越しの方々はご存じ「公認会計士VS特捜検察」、「法廷会計学VS粉飾決算」などのベストセラー書をお書きになっておられる細野祐二氏の新刊書を拝読させていただきました。司法に経済犯罪は裁けるか(細野祐二著 講談社1600円税別)

内容的には、代表作である「特捜検察VS・・・」で著者が記述したところと若干重複する部分もあります。しかしながら、キャッツ事件で粉飾決算の被告人として係争中であり、190日間の勾留期間を経てなお一貫して無罪を主張しておられる方であることや、控訴審判決が下された直後に奥様を御病気で失くしておられることなどを含めて、経済犯罪を裁く「司法制度」の現状に対して強い憤りをおぼえ、その構造変革を強く主張している姿には、かなり大きな衝撃を受けるものであります。また、私のように前作である「法廷会計学VS粉飾決算」を、フォレンジックのための財務分析の教科書として何度も読み返す者にとりましては、細野氏の財務分析手法を学ぶためにも、この新刊書は参考書として貴重なものであります。(とくに第3章と第4章)ただ、この本を、この時期に出版することにはほんのすこしばかり疑問を抱くところであります。

そのひとつめは、つい先日、最高裁が長銀粉飾事件において被告人らに対して逆転無罪判決を言い渡しました。あの事件は、「公正なる会計慣行とは何か?」を争点として粉飾決算の有無を問う、まさに代表的な「経済犯罪」であります。以前にも書きましたが、長銀事件の5人の最高裁判事は、弁護人らによる上告理由については「理由にはあたらない」と排斥しながらも、このまま被告人らに有罪判決を確定させてしまっては、著しく正義に反するとして、逆転無罪判決を言い渡したものであります。細野氏は、この著書のなかで、検察だけでなく、裁判官に対しても「社会常識を持ちえないエリート」としてご批判をされておりますが、ではこの長銀粉飾事件に対する最高裁の判断についてはどう受け止めておられるのでしょうか?私自身も、「特捜検察VS公認会計士」を読ませていただき、地裁判決の根拠となった細野氏のアリバイが崩れ去った後にもなお、有罪判断を下した高裁判決には疑問を呈するところではありますが、「検察一体の原則」が存在する検察庁とは違い、「裁判官の独立性」は憲法で保障されているものでありますから、「とかく裁判所というものは・・・」なる批判はあまり説得力がないものと考えております。(もちろん、個々の裁判官に対する批判ということであればそれなりに説得力はあると思いますが)したがいまして、私は(どのような結論に至ろうとも)、細野氏自身の最高裁上告審の確定を待って本書をお出しになったほうがよかったのではないか・・・と感じるところであります。

そしてもうひとつは、細野氏が批判されている「司法に経済犯罪は裁けるか」というご疑問でありますが、それでは、「行政は経済犯罪を裁けるのか」という疑問であります。私は司法と同様に検討されるべきは「行政に経済犯罪が裁けるか」ということだと思っております。ご承知のとおり、インサイダー取引にせよ、有価証券虚偽記載にせよ、平成17年以降、課徴金制度が導入され、またこのたびの金融商品取引法の改正ではその課徴金の金額も上乗せされております。また、最近の証券取引等監視委員会の幹部の方の講演でも、今後ますます経済事件については個人に対しても、法人に対しても課徴金制度の活用によって臨むことが明言されております。細野氏ご自身の苦しいご体験から、経済事件の適正な処理能力が不足している司法制度を御批判される点は当然だとは思いますが、それでは「行政はどうなのか?」ということについては疑問を抱かざるをえません。たしかに強制捜査や刑罰のない「課徴金」制度と刑事訴追事件とは、その対象となった個人や法人へのインパクトの度合に違いはありますが、対象者が社会的制裁を受けるという点においては変わりはありません。司法制度を支える我々も、細野氏のご指摘を真摯に受け止める必要があることは当然でありますが、では経済事件に制裁を加える行政はどうなのか?司法と同じく会計制度や財務分析を学ぶ必要が高いのではないか?などと、私は考えるところであります。

それにしましても、第3章で記述されている検察官の会計知識が事実であるとするならば、本当に驚愕であります。少なくとも、すこしばかり会計制度に関心があるにすぎない私ですら、そこに説明されていることは「会計のイロハ」と認識しており、このような理解不足が実際のところであるとは信じがたいところであります。(たしかライブドア事件で監査人の取り調べを担当していたのは、公認会計士試験に合格している検察官だった、と記憶しておりますが、そういった検察官がキャッツ事件を担当しておられなかったのでしょうか?)なお、司法制度が会計制度を理解するための「社会的インフラ」作りが必要であるといった趣旨には私も賛同いたしますが、細野氏が提案されている具体策につきましては、私が考えるインフラとは少し異なるものがありますので、そのあたりはまた別の機会に検討してみたいと考えております。

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2008年7月 4日 (金)

金融庁ダブルスタンダードの憂鬱(やっぱりこの課長さんはスゴイなぁ・・(^^; )

NHKドラマ「監査法人」で描かれている財政監督庁は、日本の将来の金融行政を見つめながら、社会正義の実現のために邁進する公務員の姿が印象的です。2008年、現実の金融庁はベターレギュレーションとして、民間企業が法令に基づき、みずから妥当を思われる仕事をすることを推進し、内部統制報告制度Q&Aなど「対話の精神」をもって民間企業と向き合う姿勢を強めているようです。ただ、このベターレギュレーションに対して、どれだけ民間企業は対応しきれているのでしょうか。金融庁は先日の野村證券インサイダー取引事件について、法人には明らかな法令違反は認められないものの、再発を防止すべき内部管理体制を確立するよう業務改善命令を出したようであります(ニュースはこちらです)。最初の事件報道の際、「法人の活力を維持しつつ、これ以上のインサイダー防止策はあるのだろうか」と疑問を抱きましたが、こういった業務改善命令が出された現時点においても、企業の活力とコンプライアンスの調和点をどこに求めるべきなのか、正直未だ十分理解できていないところです。

さて、以前のエントリーにて、金融庁総務企画局企画課長でいらっしゃる大森泰人氏の新刊書をご紹介いたしましたが、旬刊金融法務事情の最新号(1839号)のコラム(オピニオン)におきまして、大森課長さんが、またまた民間企業(おもに金融機関)の方々を勇気づけるような小稿を執筆されておられます。期待どおり、実におもしろい。タイトルも「金融検査-ダブルスタンダードの憂鬱」(いいなぁ・・・・・、文章全体の趣旨を壊さない範囲で、少しだけ引用させていただくと)

(冒頭)金融庁の幹部が、業界との意見交換の場で、みなさんの自主性を活かしたベターレギュレーションとか、対話の促進とかいったところで、聞いているほうは醒めている。「あんたはともかく、ウチに来る検査官はそうじゃない」と思っているからだ。

(中略)・・・・・

私も歳をとり、役所では個室を与えられているが、現場感覚から乖離しないよう、しばしば喫煙所に行って職員の会話に耳を傾ける。若手検査官からは、「机叩いてでかい声出したら、ハケ(破たん懸念先)に落ちたぜ」なんて聞こえてくると、「やれやれ、猿にマシンガン持たせて野に放ってるようなもんだな」とぼやきたくもなる。

要は金融行政は時代の変化に対応して過不足ない仕事をすることが必要だが、この過不足なく、というのは並大抵ではない知識とセンスが必要ということをおっしゃており、ダブルスタンダードと受け取られる世界が形成されているのは、金融庁側の構造的な問題もある。しかし、民間企業も金融庁と真正面から対峙する姿勢がなければ、金融検査のレベルもセンスも高まらない、というものであります。

しかし、この「真正面から対峙する」という表現も、まさか「真っ向からケンカをふっかける」という意味ではないのでしょうね。一方的に金融庁の指針を期待するのではなく、法令遵守の意味を自社なりに検討する姿勢をみせる・・・といったところでしょうか。しかし金融商品取引法51条のように、明確な法令違反行為がない場合でも、公益や投資家保護のためであれば、その内部管理体制に着目して金融商品取引業者に対して業務改善命令を出せるとなりますと、企業側で検討すべき法令遵守の意味も広く解釈せざるをえないようにも思います。つまり金融庁と対話をするのも、並大抵の知識とセンスでは渡り合えないような気もします。こういった金融庁との「対話ができる人」こそ、昨今その構想が話題にあがっている「金融サービス士」の資格者だったりするのかもしれません。

(4日午後 追記)

最近すっかりファイナンスレギュラトリー(業法規制)の分野でご活躍の行方先生よりコメントをいただきました。コメントと合わせて、行方先生のブログでも関連の話題が更新されているようですので、ご一読されることをお勧めいたします。7月2日の時点で、この話題が出ていたのですね・・・・・存じ上げませんでした。

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2008年6月20日 (金)

法廷会計学vs粉飾決算(細野祐二著)

Houteikaikei ligayaさんのブログで紹介されておりました「公認会計士vs特捜検察」でおなじみ細野祐二氏(公認会計士)の新刊書「法廷会計学vs粉飾決算」(日経BP社2200円)を拝読いたしました。といいますか、「とりあえず1回通読いたしました」といったほうがいいかもしれません。おそらく多方面において、この本は企業会計法の教材として活用されるのではないかと思いますし、私も今後何度も読み返し、また当ブログでも引用させていただく予定であります。ご承知のとおり、細野氏は2004年3月のキャッツ株価操縦事件で逮捕勾留(190日)され、第一審、控訴審とも「共同正犯」として有罪となり、現在は最高裁上告中の方であります。この本に収められている細野氏の論稿はその保釈後に執筆されたものであります。なかでも、最初に収められている「疑惑の特別目的会社」は、あの日興コーディアルグループの不正会計事件(細野氏は不正会計ではなく粉飾決算事件である、とされています)の発端となった論稿であり、この論稿を目にとめた国会議員などの追及によって、日興の事件は課徴金5億円、シティグループとの三角株式交換、中央青山監査法人の解散へと波及していくこととなりました。「粉飾決算とはどんなものであるか」を保釈中の自身が、公表されている財務資料だけを頼りに分析して作成されたレポートが、どのようにして大きな社会的影響力を持つに至ったのか、その「軌跡」を辿るのは実に興味深いところです。

この本の特徴はなんといっても、「後だしジャンケン」がまったくない論稿が多く収録されていることです。報道された事実などが頭に入ってしまった後であれば、「あれはこんなタイプの粉飾だった」とか「こんな事実も発見できなくて、会計監査人は何をしていたのか」と簡単に言えそうです。しかし社会的に許容できない「粉飾決算」の判断は、強制捜査力をもたない会計士が重要な虚偽リスクの有無が皆目わからない状況のなかで、自身の専門的知識と経験によって発見していく過程を経るものであります。(これは私も同感です)細野氏は、自ら「これが粉飾決算だ」と確信するものを、日興コーディアル事件や日本航空の事例(「空飛ぶ簿外債務」ほか)などをまさに「現在進行形」でレポートして、その結果を順を追って論証していくわけであります。過去に経済レポートとして世に出されたものであるために、後だしじゃんけんは全くなく、相当の自信がなければ、こういった本は出せないのではないかと感嘆いたしました。

私個人としましては、日本航空のゴーイング・コンサーンを話題の中心とした「空飛ぶ簿外債務」、「疑惑の翼」、「ゴーイング・コンサーン」あたりが、(やはり現在進行形モノとして)楽しめるかと思います。いや「楽しめる」などと悠長なことを書きましたが、細野氏いわく、

さらに捜査当局だけでなく、司法全体はもう少し会計を勉強せよ。マスコミも同じことである。会計もわからないのに粉飾など摘発できると思っているのか?ここで学ぶべき会計は真摯に学ぶ意思さえあれば、さほど難しいものではない。過去確定した粉飾決算は、すべてきわめてわかりやすい動機と手口により、しっかりと売上や利益をごまかしている・・・・・・(「絶対絶命の監査法人」より抜粋)

など、たいへん耳の痛いご意見もてんこもりであります。法と会計の接点を探ることをテーマのひとつとしている当ブログとしましても、この細野氏の「司法の会計制度に対する理解度」に向けた忠告につきましては真摯に受け止めたいと思っております。先の細野氏の忠告どおり、社会的に許容できない粉飾決算の見極めのためには、最先端の会計基準などをキャッチアップするようなむずかしいことは必要ではなく、むしろ「企業会計原則」とか「重要な項目の他社比較の要領」とか「数年分の財務諸表の比較」など、ごく基本的な分析調査の組み合わせによるところが不可欠のように思います。ただ、対象会社がどのような会社であり、どのようなリスクを抱えているのか・・・といった企業の全体像が見えてこなければ、どの数字にフォーカスしていくべきかはよくわからず、このあたりはやはり会計監査の経験を積んだ会計専門職の方のスキルに依存するところも多いかな・・・と感じました。また、ある程度の期間、会計監査を続けるなかで、初めてその企業リスクの全体像がみえてくるために、以前当ブログでも話題にしておりました「会計士さんのセカンドオピニオン」はなかなか会計監査の世界では難しいものであることも理解できます。さらに、会計監査人による「指導機能」についても建設的な意見が述べられております。

本の題名からしますと、なにやら法曹関係者と会計士だけの研究材料のようなイメージをもたれるかもしえませんが、そんなことはまったくございません。一般向けに、平易な文章で書かれた論稿ばかりであり、内容は理解しやすいです。この題名は、司法制度のなかで会計制度がどのように扱われているか、といった視点をもって、長年監査業務に携わってこられた会計専門家の立場から「粉飾決算」の中身を明らかにしていく・・・程度のイメージでお考えになればよろしいかと思います。前著の「公認会計士vs特捜検察」を併せてお読みになりますと、このあたりの著者の思い入れの理解が進むかもしれません。法曹関係者はじめ、フォレンジック(会計不正への司法的関与)に関心をお持ちの方、財務分析に関心のある方でしたら、ぜひお読みいただきたい一冊であります。

PS しかし、こうやって読んでみての感想でありますが、粉飾決算を見抜く力というのは才能なのでしょうか?努力で養われるものなのでしょうか?「才能」であれば、たとえ粉飾を見抜けなかったとしても、それは天賦の才能がその会計士さんには備わっていなかっただけの話であり、法律上で「専門家の注意義務」を論じたり、監査法人の品質管理もそれほど重要なこととはならないように思います。もし、努力で養われるものであるならば、専門家責任の法的な議論や、監査法人内での品質管理の有効性などは議論する価値がある、ということになりそうです。このあたりはどうなんでしょうね。

6月 20, 2008 本のご紹介 | | コメント (7) | トラックバック (1)

2008年5月23日 (金)

リコール実施と開示統制システム

Husyoji021 昨日のエントリーには、たくさんのアクセスをいただき、ありがとうござした。内容的に、それほど盛り上がるようなテーマではないのでありますが、やはり粉飾決算と会計監査人の責任問題・・・というのは、けっこう注目度が高いのでしょうね。間違った内容等ありましたら、どうかご指摘いただければ幸いです。(そういえば、関連するような問題で、5月21日付けにて、日本公認会計士協会のHPに懲戒処分リリースが掲載されていますね。処分理由を読んでかなりビックリしました。)

さて、JASDAQ上場企業である日本トイザらス社が販売商品の塗料に問題があったとして、製品回収(リコール)を告知しましたが、リコール発表の時間を報道機関を通じて予告することで、その告知内容が世間に大きく知られるところとなりました。企業の社会的責任を宣言する企業として、このリコール実施の方法は、まさに企業の体質を物語るものであります。

こういった危機管理(クライシスマネジメント)の一環としてのリコール実施方法について、私がよく参考にさせていただいているのが「不祥事を防ぐ市場対応ハンドブック」(久新大四郎 著 唯学書房 2800円税別)であります。前半部分はまさに問題発生の第一報からリコール実施までの詳細な解説が記述されておりまして、現場感覚がよく把握できるもので、たいへんありがたいです。後半は、まさにいま問題となっております消費者庁へ移管が予定されている各法律を消費者問題との関係から手際よくまとめておられるものであり、私にとりましては「一粒で二度おいしい」参考書であります。著者の九新(きゅうしん)氏はソニーCSオフィサーなど、長年企業の側から消費者問題に関与されている方でありまして、法律家の執筆するコンプライアンス本よりも「明解でわかりやすい」内容であります。いざ!というときはもちろんコンサルティングが必要でありますが、平時におけるリスクマネジメントを考えるには最適であります。この前半部分を参考にしながら、今回のトイザらス社のクライシスマネジメントの手法などを検討してみると、リコールの成否が企業の情報開示統制に大きく依存していることがおわかりになるかと思います。

5月 23, 2008 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年3月31日 (月)

会計不正(会社の「常識」・監査人の「論理」)

Kaikeihusei_2 日曜日の日経新聞社説では「企業は内部統制の充実で信頼を高めよ」とあり、先週は内部統制に関する特集記事なども連載されまして、いよいよ施行時期突入の気運も高まってきました。先週のエントリーでも申し上げましたが、現場では「決算・財務報告プロセス」をどのように(監査人ウケするように)構築すべきか、またどのように有効性評価すべきか、という点が大きな問題になろうかと思いますが、監査役を含む役員の皆様方には、「不正会計リスクを低減させるべき統制環境とは何か」いま一度お考えいただきたく、とりわけ内部統制報告制度の責任者(担当取締役や担当部長さんなど)の方にぜひともお読みいただきたいのが「会計不正~会社の「常識」 監査人の「論理」~)」であります。(浜田 康著 日本経済新聞出版社2400円税別) 2002年に出版されました浜田先生の前著「不正を許さない監査」は、2005年9月に、このブログでご紹介いたしましたが、内部統制報告制度施行に向けての、浜田先生の本著の提言はまことに貴重であります。とりわけ後半の第6章「統制環境をどのように考えるべきか」、第7章「不正を許さないシステム」、第8章「監査人は会計不正にどう対応すべきか」あたりは、著者ご自身の長年にわたる監査経験から、経営者評価とはどうあるべきか、また内部統制監査はいかにあるべきか、その具体的なヒントを事例や指針にそって卓越した試論をもって展開されており、きわめて参考価値は高いものであります。またJ-SOX関連以外にも、先日、当ブログにて第一審判決をご紹介しましたアソシエント・テクノロジー社の会計不正につきましても、第1章のメディアリンクス事件の解説内容を読む中で、どこに問題があるのか、ということも理解が進んだような次第であります。(カネボウ事件やIXI社の事例などで、なんとなくわかったつもりでいた「架空循環取引」や「スルー取引」でありますが、この本を拝読しまして、やっと本筋が理解できました。)かように第1章から8章まで、どこから読んでも興味深い内容ばかりでありまして、前著「不正を許さない監査」同様、手元の本はすでに青線や赤線、囲い込みや付箋などでいっぱいになっております。

ただ浜田先生が本書で述べられているなかに、「会計に対する無知、無理解」というテーマとして、以下の記述に若干ひっかかるものがございます。(以下、若干の引用をお許しください)

会計というものは、極端にいえば、単なる約束事にすぎません。・・・(中略)会計というものは、企業等が行う経済活動を、業績把握とか、財政状態の把握とかの目的に沿って測るモノサシですが、経済活動自体が様々な見方を許容している以上、モノサシも「本来正しい」ものはないのです。・・・(中略)コンセンサスですから、有力反対説もあれば少数説もあります。しかし一度決まったら、全員がそれにしたがうのが約束事のたいへん大事なところです。このように会計基準というものは理論的にみえて結構妥協の産物のようなところもあり、また強引なところもあります。・・・(P81~P82)

会計学も社会科学であり、すみよい社会生活の実現を目的として生まれたものである以上は、「絶対正しいもの」を探求する必要はなく、妥協の産物であることについては異論はありませんし、またいったん基準が決まった以上は関係者がこれに従う必要があることも認められるところと思います。しかしながら、会計基準は単なる自主ルールではなく、立派な法規範(もしくは法規範に準ずるもの)であります。金商法と会社法では、若干制度趣旨は異なりますが、会計基準は一般に公正妥当と認められる企業会計慣行のひとつであるとされております。(会社法431条)つまり、会計基準の内容は「一般に公正妥当と認められる」ものであることが求められているわけですから、企業会計基準委員会の皆様方の多数説によって決められた内容が、つねに公正であるかどうかは吟味されるべきであります。法規範の一種である以上、当然に「法の支配」のルールに従うわけでありまして、多数説が常に正しいわけでなく、なにが「公正」であるかは、最終的には裁判所が決定する(もしくは決定しうる)ことになるはずであります。会計コンバージェンスの問題も、いくら会計基準の国際化を余儀なくされるとしましても、最終的には「公正かどうか」が吟味されることとなります。したがいまして、内容がどうであるにせよ、いったん決まったことは従わなければならない、というのはあくまでも「会計基準の内容が公正であること」といった留保付きであります。たとえば、どのような事例にどのような会計基準が適用されるか、といった問題も「公正」の中身を検討すべきでしょうし、また予定されている会計基準が「唯一のもの」かどうかを決するのも「公正」の内容次第ということになろうかと思われます。(おそらく、今後は会計士さんの法的責任論の発展とともに、この会計基準の法規範性に関する議論も進展していくものと予想しております。)本書後半部分におきまして、日本コッパーズ事件の原審判決、控訴審判決に言及されており、「これまで会計士の方が抱いているコッパーズ事件判決への認識は甘すぎるのではないか」として、浜田先生も公認会計士の方々へ警鐘を鳴らしている場面もございますが、会計士(監査法人)さん方の自己防衛の見地からも、もっとこのあたりは深く考察する必要があるものと考えております。

いずれにしましても、内部統制報告制度にご関心のある方は、第6章だけでもお読みになることをお勧めいたします。私自身も含めて、すべてをすぐに消化しきれないとは思いますが、4月1日以降じっくりと統制環境を整備し、整備状況を確認するための参考書として活用できればいいのではないでしょうか。なお、本書でも「不正のトライアングルの限界」として、「あとだしジャンケン的評価」に関する苦言のようなことが記載されております。「リスク評価にまつわるあとだしジャンケン的評価」はコンプライアンスの永遠の課題なのかもしれません。

3月 31, 2008 本のご紹介 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年2月26日 (火)

監査役の役割と監査行動

日本監査役協会主催の研修セミナーにて、関西支部2回、中部支部1回の講師を務めさせていただきました。本日名古屋での最終のセミナーも終了いたしましたが、関西、中部合わせて延べ750社ほどの監査役の方々に聴講いただき、また遠方より多数ご参集いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。(しかし東京本部では2000社を超えるらしいですね。)今回は「金融商品取引法上の内部統制報告制度と監査役制度」といった、まさに金商法と会社法の「狭間」の問題だけに、かなり私見も入りましたが、自社でのご議論、ご活用の端緒になれば幸いであります。

Kansakoudou さて、今回のセミナー講演にあたり、昨年改正されました「監査役監査基準」(日本監査役協会)の全体像を的確に捉えておきたいと思いまして、長年日本監査役協会で常任理事をされておられた鈴木進一先生の「監査役の役割と監査行動」(商事法務)を拝読いたしました。監査役の理想像を追い求めるのではなく、基本に「現実の監査役の姿」を据えて、この金商法と会社法が交錯する時代の監査役の行動指針を提案するものとして、読み応えのある一冊であります。会社法(および規則)の条文の引用等はほとんどございませんが、監査役の皆様方が、監査役監査基準の指針を基本として、どのように行動すべきか、たいへん参考になるものと思います。

この本の「監査役監査基準の逐条解説」のなかで、会社法および会社法規則への、とても興味深い問題提起(といいますか、ご感想)がございまして、会社法施行規則124条(社外役員を設けた株式会社の特則)が、現実の取締役会と監査役との関係にどのような影響を及ぼすか・・・といったあたりへの言及がとても新鮮であります。(ちなみに現在「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」が2月29日までパブコメ手続実施中であり、この124条も改正条文に含まれておりますが、今回のお話の点につきましては変更はございません)ご承知のとおり、社外役員を選任している株式会社(公開会社)の場合、事業報告の内容として、①社外役員の取締役会への出席状況、②取締役会での発言状況、③当該社外役員の意見によって会社の事業方針及び事業その他の事項に係る決定が変更された場合にはその内容(ただし重要でないものは除く)、④取締役の法令違反行為が発生した場合において、その予防のために行った行為や発生後の対応(の概要)などを記述する必要があるとされております。おそらくこういった規程の趣旨は、社外役員の活動内容を事業報告に記述することで、会社としての株主への説明責任を果たし、また間接的であるにせよ、社外役員の積極的な職務行動を促す意図があるものと理解しておりますが、この本の著者でいらっしゃる鈴木先生はこういった事項の開示について疑問を呈しておられるようであります。(なお、条文のうえでは「社外役員」とありますが、ここでは「社外監査役」に絞ってのお話であります)

1 社外監査役の取締役会への出席状況・・・・・会社と委任関係にあることとの関係でいかがなものか。社外監査役の発言状況・・・・・取締役会議事録の閲覧要件との関係で均衡を失するのではないか

私も同感であります。社外監査役の活動成績は「取締役会の出席状況」「発言状況」でははかれないものと思います。(もちろん取締役会への出席や意見陳述は会社法383条1項により法律上の義務とされているので、それをカウントする、発言を公表するというやり方もどうなんだろうか・・・とは思うのでありますが)たとえ取締役会に出席していなくても、重要な経営会議に出席していれば、監査役会を通じて監査役の意見形成に関与することは可能ですし、独任制としての監査活動にも影響はないものと思われますので、出席や発言の多少によって「委任の趣旨」に反するような事態にはならないと思われます。また、取締役会で発言することがなくても、経営会議や常務会で発言することで、そもそも取締役会への議案の上程が撤回されたり、修正案が上程される場合も頻繁にあるわけですから、取締役会での発言状況はなんら(期待するほどは)参考にはならないものと思料いたします。

2 予防のために行った行為や発生後の対応として行った行為の問題は、社外監査役の役割と捉えるよりも、まず執行役員(発生後の対応はとりわけ代表取締役)の問題として捉えるべきではないか

会社法上「執行役員」の位置付けが明確ではないので、執行役員の問題とすべきかどうかはわかりませんが、社外監査役が実際に「行動する」ということは、常勤監査役を飛び越えることにほかなりませんので、現実問題としては想定しにくいのではないかと思われます。たしかに「監査役会」の行動とは別に、社外監査役の行動というものの法的には期待されるところがあるかとは思いますが、そのような特別の機会が生じた場合には、おそらく「事業報告」を待つまでもなく、総会等において「個別の監査報告」のなかで説明されるところではないでしょうか。このあたりが現実論ではないかと。

3 取締役会での社外監査役の意見により、会社の事業方針その他の点で決議内容が変更されることはありえることだが、実際にそのようなことを開示するとなると、取締役が恥をかくような印象を持つことになるのではないか

もしこの規程を厳格に捉えて開示する、ということになりますと、ご指摘のとおりかと思われます。ただ、私見ではありますが、こういったことにならないよう、社外監査役が重要な決議内容に修正を与えるほどの意見を持っているのであれば、まず監査役会において協議をしたうえで、監査役会もしくは常勤監査役の意見として取締役会に提言することになるでしょうし、そもそも「決議変更」とはならないように、形の上では取締役会で意見形成がなされたうえで決議が行われた・・・とするのが、「大人の社外監査役」の姿ではないかな・・・・と思う次第であります。社外監査役が本気で決議修正を求める、という事態といいますのは、「あえて取締役に恥をかいてもらう」決意をもって臨むときだけである、と考えておりますが、いかがでしょうか。(以上のほか、まだまだ鈴木先生の傾聴に値するご意見が満載でありますが、とりあえずこのあたりで)

2月 26, 2008 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年1月30日 (水)

大森課長の「市場行政のいま」を読む

昨年12月20日のエントリー「課徴金制度のあり方と内部統制整備の要点」にてご紹介いたしました「金融システムを考える」の著者、大森泰人氏(金融庁企画課長)の講演録(証券レビュー第48巻第1号)が、財団法人日本証券経済研究所のHPでご覧になれます。前記「金融システムを考える」はいまでも時々参考にさせていただいている本でありますが、この講演録はまったく内容的にこの本とは重複しておらず、今後の金融行政のあり方をあらためて鳥瞰するには最適ではないかと思います。大森課長のサブプライム問題への意見につきましても最後の「金融テクノロジーと常識」のなかでしっかり楽しめますし、このブログをごひいきにしてくださる方にとりましても、「銀証ファイアーウォールの見直し」「課徴金制度の拡充」「金融専門人材の育成と交流」「ルールとプリンシプル(最近流行の議論だそうであります)」あたりはかなり興味を惹く内容であります。

関連エントリーのなかで、また折に触れて大森氏のご意見につきましては参考にさせていただくつもりでありますが、私が一番おもしろかったのが「課徴金制度の拡充と規制に関するプリンシプルベースとの関係」についてであります。たとえばインサイダー取引の規制(事後規制)について、私のなかでは「課徴金制度の拡充=うっかりインサイダーの摘発」といったことが当然のことと考えておりましたが、どうもそんな単純な図式ではなく、このあたりは金融庁の方々でも、考え方が「一枚岩」ではないようであります。ルールベースを基準とする、といいますか、ルールベースを重視するということになりますと、たとえ企業が不正目的であろうと、「うっかり」であろうと、利益を獲得しているのであれば、それを吐き出させるために課徴金命令を発出するのが当然と考えられます。したがいまして昨年も何件かうっかりインサイダー(たとえば「重要事実」の要件該当性ありとされるもの)が摘発されてしまったわけですが、プリンシプルベースを基準としますと、そこで斟酌されるのは「常識」でありますので、「形式的にはルール違反であっても、プリンシプルに照らせば摘発するほどのことはない」という見解に至るケースが生じます。そして、上記インサイダーの件につきましては、大森課長さんによれば、ついうっかりと公表前に(違法性の意識なく)売ってしまうこともあるので、そういった場合には今後気をつけなさいと注意して済ますのが常識というものである、とされております。なるほど、同じ金融商品取引法の運用としましても、金融庁のなかにはいろいろな考え方の相違があることが理解できます。

しかし、この講演のなかで、大森さんも少しだけ触れておられますが、プリンシプルベースによる規制、つまり「常識を基本として、センスある運用を行う」ためには、そのセンスといいますか、規制における「常識」というものが、官、民において共有されていなければならないわけでして、そういった常識が共有されていない時期もしくは領域においては、やはり厳格なルールベースによる運用もやむをえない(つまり、事前規制によって細かく行為規範を設けざるをえない)のかもしれません。また、その中間として、自主規制機関による自主ルールによって「常識」の隙間を埋める必要も出てくるようにも思われます。(もしお時間がございましたら、上記論稿をご一読されてはいかがでしょうか。)

1月 30, 2008 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年12月25日 (火)

(総合解説)内部統制報告制度(その2)

3年前のクリスマス・イヴの日(平成16年12月24日)、金融庁からディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応(第二弾)なるリリースが出され、内部統制報告制度なる基準作成の必要性と、そのための具体的な制度作りが開始されました。ちょうど3年前でありますが、果たしてその当時、金融庁の立案者の方々は、このような内部統制ブームが到来することは予期しておられたでしょうか?また、先日ご紹介したような「(総合解説)内部統制報告制度」なる書物を著して、誤解されないための内部統制報告制度を声を大にして解説しなければならないような事態に至ることを少しでも想像されていたでしょうか?そもそも「経営管理手法」であったり、試査範囲決定のための監査論の世界のものであった「内部統制」なる概念が、突然、証券取引法の世界で議論されることとなり、内部統制に関する様々な意見や憶測が様々な業界において飛び交うこととなりました。そしていよいよ法施行の年を迎えようとしております。すべての上場企業におきまして、文書化(業務プロセスの「見える化」作業と、プロセス評価、監査のための記録保存方法策定作業の両方を含みます)や、具体的な運用方法、検証方法などの確定に忙しい毎日かとは思います。しかし今一度、この3年前の内部統制報告制度導入の契機となりましたリリースを読み返してみて、法としての「内部統制報告制度」が何を目的としているのか(あるいは、もっと高度な目的のための手段として位置付けられているのか)を改めて検討してみることも意味があるのではないでしょうか。

12月4日のエントリーにおきまして、金融庁立案担当者の方々によります上記解説書をご紹介いたしましたが、この本を読みますと、やはり①確認書制度との関係、②四半期制度との関係、③会計基準の整備との関係、④会計監査の充実・強化との関係、⑤連結決算重視の流れ、⑥コーポレートガバナンスとの関係など、それぞれの関係を考えるなかで、経営者評価、監査人監査の基準をどのように解釈すべきか・・・といったことを考えるヒントがいろいろと詰まっているように思います。「金融商品取引法における内部統制報告制度の導入は、開示・会計・監査に加えて、ガバナンスということが、適正なディスクロージャーを支える第四の要素として確立しつつあることを如実に示しているのではないか」なるフレーズが、非常に印象的であります。

ただ、いろいろと読んでおりますと、また疑問も湧いてくるところでありまして、内部統制報告制度とともに、義務化される確認書制度(金商法24条の4の2第1項)の運用について、少しばかりわからないところがございます。この代表者(および財務最高責任者)による確認書というものは、もし内部統制に「重要な欠陥」があり、有価証券報告書提出時点において欠陥が存在する場合でも、「有価証券報告書(または四半期報告書)の記載は正しいものである」として提出することはできるのでしょうか?それとも提出できないのでしょうか?もしくは、有価証券報告書等の記載内容について十分な確認を行うことができず、確認を行った記載内容の範囲が限定されているとして、その旨及び理由を付記することで対処すべきなのでしょうか?そもそも、財務諸表を含めた、有価証券報告書のすべての開示事項について、その真正を担保するために、確認書と内部統制報告書が並列的にその実効性が期待されているものと(私は)理解しているのでありますが、やはり確認書が有価証券報告書自体の信頼性を確保するためのものである以上は、内部統制報告制度との関係につきましても、統一的な理解が必要かと思われます。たしかに「確認書」なるものは、虚偽記載であることを隠して、真正なものとして報告しているものではない・・・ということを代表者が宣誓する ところに意味があることは承知しておりますが、もし内部統制評価において、重要な欠陥が修復されないままである、ということになりますと、虚偽記載があるとまでは確定的にはいえませんが、「有価証券報告書の内容において虚偽記載が存在する可能性がある」ことまでは認識しているはずであります。そういった状況のなかで、果たして「確認書」は提出できるのでしょうか。経営者が確認書を提出するにあたりましては、財務諸表の確定作業のプロセスや内部統制評価、そして開示統制などに関する確認作業が前提となっているのではないかと思いますので、内部統制評価に関するところも重要な内容になってくるのではないかと考えられます。したがいまして「内部統制評価においては重要な欠陥はあるが、それ以外の部分から判断して有価証券報告書に虚偽はないものと認め、確認した」と果たして言えるのかどうか、このあたりの整理につきまして、ご存知の方がいらっしゃいましたら、またご教示いただけましたら幸いです。(ひょっとするとパブコメ回答集のなかに、金融庁の考え方のようなものが記載されていたかもしれませんが、私自身は記憶がありません。また、日本の制度の場合、内部統制報告書自体に対する確認書制度はありませんので、今回の確認書制度は、「確認に至った理由のひとつ」として、経営者が内部統制を有効と評価した経緯についてもとりあげざるをえないのではないかと思っております。したがいまして、これまでの任意に提出する確認書の作成過程はそれほど参考にはならず、まさに「内部統制報告制度と確認書制度との関係」をどう理解するか、にかかっているのではないかと思います)

おそらく確認書も提出をしない場合には、30万円以下の過料(四半期報告書に係る確認書の不提出については10万円以下の過料)に処せられることとなりますので、どんなことがあっても「確認書」は提出しなければならないと思います。また、一般的には、内部統制報告制度におきまして、「有効ではない」と経営者が評価した場合であっても、その欠陥が虚偽表示リスクを及ぼす項目について、試査の範囲を拡大する、サンプル数を増やす等によって、財務諸表監査では適正意見をもらうことができる、とされておりますので、ひょっとすると経営者自身が「確認した」と宣言することもできるのかもしれません。このあたり、上記(総合解説)を読みましても、よくわかりませんでしたが、けっこう重要な点ではないかと思い、ここに疑問を付した次第です。

12月 25, 2007 本のご紹介 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2007年12月 4日 (火)

(総合解説)内部統制報告制度

Photo 「法令・基準等の要点とQ&A」なる副題が付いているほどですので、こちらは、(どちらかといえば)金融商品取引法上における内部統制報告制度を「法律家」や「財務報告内部統制を監査する監査役」の視点から検討されたい方に向いている本ではないかと思います。

総合解説・内部統制報告制度~法令・基準等の要点とQ&A(池田唯一 編著 税務研究会出版局 3000円税別 平成19年12月発売)

実施基準と金商法、内閣府令の条文を、かなり有機的、体系的に整理されておりますし、内部統制報告制度の制定経緯も丁寧に解説されておりますので、現場で悪戦苦闘されておられる担当者、監査法人の方々がどのように評価されるのかはわかりませんが、少なくとも私には「好みのタイプ」の本です。また、この編著者の方々には珍しく(といっては失礼ですが)、第一章(報告制度の概要)におきましては、編著者の方々の個人的意見もかなり盛り込まれておりますので、興味深く読めるところであります。(「日本版SOX法」「J-SOX法」なる用語を使用するのであれば、それは金商法、会社法、公認会計士法にまたがる制度内容と理解する必要があるんですね。こういった仕訳は私的には大好きです。詳細は解説がございます。)

なお、この本を拝読しましても、やはり金融商品取引法上の内部統制報告制度といったものが、会社法上の内部統制システム構築義務(事業報告の対象とされる基本方針の決議内容)となるのか、未だにちょっと私には理解できないところであります。金商法上の内部統制報告制度は、経営者確認書制度、四半期開示法制化と同じく「開示」に関する制度でありまして、どこからも財務報告に係る内部統制システムの構築義務は導かれません。会社法上の取締役の善管注意義務として導かれるのは、「法令違反をしない義務」つまり経営者として一般に公正妥当と認められる評価の基準に従って「有効性を評価する義務」と、監査人によって、一般に公正妥当と認められる内部統制監査の基準にしたがって「監査を受ける義務」、そして「内部統制報告書を提出する義務」であります。それ以外に、一定水準の内部統制システムの整備運用義務といった実質的な法的義務は発生しないはずであります。もし仮に、財務報告に係る内部統制システムの構築義務が、取締役の法的責任と関連するものであり、また事業報告の内容となりうる、ということであれば、それは金商法上の内部統制報告制度とは無関係に、有価証券報告書の虚偽記載を防止する責任が本来的に取締役には認められるのであったり、もしくは経営者確認制度や四半期制度が有効に機能するためには、すくなくとも一定レベルの内部統制システムの構築義務が(そういった制度に由来することによって)取締役に認められるからである、と解釈されるべきであります。

そういった疑問とは別に、この本を読みながらふと考えましたのは、内部統制報告制度が実施された場合、内部統制監査人(つまり監査法人、会計士さん)には「重要な欠陥」についての発見義務というのは、法的責任として認められるのでしょうかね?「不備」であれば、経営者評価に関する監査の内容として、発見義務を認める必要はないと思いますが、「重要な欠陥」があったにもかかわらず、経営者による「財務報告に係る内部統制は有効」との評価に適正意見を出した場合、監査報告書の提出責任者もしくは、その監査報告書の品質管理を行う責任者に故意過失が認められると民事責任を追及されるおそれはあるのでしょうか?もちろん財務諸表監査において「不正発見義務」は一般的には認められていない、といった前提でのお話でありますが、「不正」は多分に法律的要素を含んだ概念でありますので、そもそも監査人に「不正」か否かを区別せよ、といった要求は酷でありますし、また監査人の職責が「監査」でありますので、不正発見はそこから逸脱していると捉えるのが通説的だと思われます。しかし「重要な欠陥」はそもそも監査基準、経営者評価基準によって判断可能な概念ですから、そこに評価概念を含んだものであったとしましても、専門家責任を問われる可能性があるように思うのでありますが、いかがでしょうか。財務報告に係る内部統制システムの整備運用テストの現場におきまして、企業担当者の方々に対して、監査人の方々が厳格なシステムを要求される背景には、こういった「重要な欠陥」を見落としますと、自分たちの法的責任が発生するから・・・ということだからでしょうか、それとも重要な欠陥の発見義務(つまり法的責任)とは無関係に、「内部統制監査の基準に基づいて適正意見を出せるレベル」のようなものが、監査人には客観的に認識できるからなのでしょうか。

12月 4, 2007 本のご紹介 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2007年11月11日 (日)

「定量分析実践講座」、いきなり挫折。。。

(皆様方のコメントを受けて、早々に追記あります)51c3xix0ril_ss500__2 

すでにどこの書店におきましても、ビジネス本ランキングのベストテンに入っております「定量分析実践講座~ケースで学ぶ意思決定の手法~」(福澤英弘著 ファーストプレス \2400税別)を休日に読み始めたのでありますが、いきなりケース1でつまづいてしまいました。ちなみに、いろいろなブログを巡回しておりますが、読まれた方はみなさん定量分析の手法が素人にもわかりやすく書かれている!と絶賛されておりますので、ひょっとすると私だけが合理的な定量分析の考え方さえ理解できない頭になっているのかもしれません。ひとりくらい、同じような疑問でつまづいている人がいるんじゃないかと思っていたのですが・・・(かなりショックであります)

この本で紹介されている「ケースその1」でありますが、ある人が会社に向かうのに、バス通勤をします。会社までバスで向かうのに、自宅付近の同じ場所に二つの民間バス会社のバス停がありまして、どっちで会社に行っても同じ時間に会社に到着するとします。そこで、一週間の両社のバスの運行状況を調査して、「時刻表記載の時刻からどれだけ実際のバス停到着時刻がずれているか」を集計します。調査してみると、どちらのバスも早く来たり、遅く来たりします。この「ズレ」を「平均値」で求めた場合には、ほぼ同じだったことから、つぎに平均的な「ズレ」からどれだけ「ばらつき」があるかを標準偏差によって判定します。もちろんバス停到着時刻に「ばらつき」が少ないバスのほうが安心して乗車できるということで、標準偏差が値が小さいほうのバスの通勤定期を購入する、といった意思決定プロセスが紹介されております。これが定量分析に基づく合理的意思決定の第一歩のようであります。

ホンマですかぁ~?ヘ(゜◇、゜)ノ~ 

私が基本的に疑問に思いますのは、いくら標準偏差の値が小さいとしましても、バスが早くきちゃったら意味ないのでは???と思うのですが、これはアホの考え方なんでしょうかね?たとえわずかのズレでありましても、バスが停留所に到着予定時刻よりも早く来てしまえば、そのバスには乗り遅れてしまうわけでありまして、その次のバスを待っていたら、とんでもない「ずれ」になってしまうんじゃないのでしょうか?どんなに標準偏差が小さくても、一週間のうち、(ズレの平均値が同じであると仮定して)4日間は若干早く到着して、1日だけかなり遅くやってくるバスと、標準偏差の値が大きくても、毎日3分遅れのバスとでは、どう考えても後者のバスを選択するのが合理的だと思うのですが。。。「早く来るバスのためになるべく到着時刻よりも早くバス停にいる」といった前提だと、標準偏差を計算する基礎も変わってくるんで、これはないと思いますし。

平均値からのズレが大きいといった「情報」は、たまたまこの1週間のデータからはわからない将来予測可能性(つまり、ズレが大きいとされた民間バス会社のほうが、この1週間は遅い時間に来る回数が多かったけれども、今後早く来る可能性も高いということ)を映し出している・・・・・とも考えてみたのですが、でもやっぱり、早く来ることのリスクと、遅く来ることのリスクとでは、そのリスクの大きさは異なるものであって、単純なバラツキの問題に純化させる前提そのものがおかしいように思うのですが。。。つまり、標準偏差の問題ではなく、力と方向性をもったベクトルの問題(三角関数のお話)になるのではないかと思うのですが。

ベストセラー本ですし、私のブログにお越しの方々は、こういったジャンルをお仕事であたりまえのように使っていらっしゃる方も多いと思いますので、もしよろしければ、私のどこがアホか、ご教示いただけましたら幸いです。。。

(追記)早速にたくさんのコメント、ありがとうございました。なるほど「不確実なもの」を「不確実なもの」のまま受け入れて、それでもバスの正確な運行への努力を数値化するために「標準偏差」を用いる方法、たいへんよく理解できたように思います。

ところで、そうであるならば、また次なる疑問が湧いてまいります。このケースその1では、まず1週間の調査結果というデータを用いて「正確な到着時刻と、実際の到着時刻とのズレの平均値」を比較して、それで比較困難な場合に標準偏差を用いることになっております。それではなぜ、標準偏差よりも平均値のほうを優先するのでしょうか? 「正規分布」を想定したうえで、不確実ななかでも、なんとか正確な運行努力を数値化しようとしているのですから、そっちを優先したらいいのではないでしょうか?「平均値」というものは、そもそも不確実性を数値化することをあきらめて、はじめから何の仮定も与えずに、場当たり的に平均を出しているにすぎないわけで、データの扱いとしては極端にラフな考え方ではないかと思います。(標準偏差が確率変数に属するものを扱うとしたら、平均値の算定はそうではないわけですよね。)標準偏差を用いて、統計的手法で意思決定をしようとする態度と、平均値を優先しようとする態度には矛盾があるように思えるのですが、いかがでしょうかね。

11月 11, 2007 本のご紹介 | | コメント (35) | トラックバック (0)

2007年10月22日 (月)

「市場と法」-いま何が起きているのか-

もう、かれこれ2年ほど前になりますが、三宅伸吾さん(日本経済新聞社編集委員 法務報道部)の著書「乗っ取り屋と用心棒」の書評を書かせていただきましたが、このたび、また三宅さんの新著「市場と法-いま何が起きているのか-」(三宅伸吾著 日経BP社)を拝読させていただきました。僭越ながら、この本のご紹介を兼ねて、若干の書評を書かせていただきます。(しかし2年前とはいえ、私ずいぶんと偉そうに書評書いてますね。。。いま読み返してみますと、おまえはいったい何様か?と思います。実名ブログのコワさがまだよくわかっていなかった頃だったんですね ハズカシイ・・・・笑)

Miyake 日本が市場国家として生きていくことを選択した以上は、その市場が健全に発展するためには、一般市民や投資家から信認されなければならないわけであります。そして、その信認のためのひとつの条件としては、「規律の包囲網」が適切に構築されなければならない、そのために「法とその担い手である法律家」がいかに市場と向き合うか・・・といったところへの鋭い観察と問題提起が今回の主たるテーマとなっております。

本来、こういったテーマは法律家こそ、問題提起すべきであろうかとも思いますが、三宅さんはご自身のポジションをよく心得ていらっしゃるようであります。たとえば法律にかぎらず、ある社会的なルールが制定される場合、そのルールがなぜ作られなければならないのか、を十分議論する必要があります。(もう少しムズカシイ言い方をしますと、「ルールの正当性を基礎付ける事実を検証する」といったところでしょうか。)これを「立法事実」と言い換えるならば、この立法事実は机上の学問で習得できるものでもなく、また秀才のヒラメキによって認識できるものでなく、経験に基づいた仮説の定立と、それを裏付けるために汗をかいて実証材料を集めることにあるわけでして、これは到底法律家によってなしうるものでないことは明らかであります。「あとがき」の謝辞をみるまでもなく、経産相から、著名法律家の方々に至るまで、日経記者としての職責をまっとうして集めた取材データの分析は、まさにこの「立法事実」、つまりルール定立のための正当性を基礎付ける事実を検証するにふさわしいものでありまして、私のような「三宅ファン」ならずとも、ぜひご一読されることをお勧めいたします。丁寧な取材に基づく粉飾決算・不正会計事例、刑事司法制度の背景、敵対的買収防衛事件、法律事務所の実態、そして裁判所と政治との関係など、どれもおそらく今後の市場をとりまくルール定立のあり方について、議論の前提としての「共有資産」としての価値があると思います。

個別にいくつかの感想を述べさせていただきますと、まず今回は三宅さんの意見が最終章で大きく語られていることが印象的であります。理想論ではなく、現実社会の錯綜する利害状況を冷徹に見据えながらの問題提起でありますので、かなり説得力があります。ただ、法人処罰に関する提言部分(「日本版DPA」に関する提言部分)につきましては、アメリカの制度を導入できるほど、日本の社会は甘くないことを実際の仕事のなかで実感しているところですので、私自身は三宅さんの提言に若干異論を唱えるところであります(詳細はまた別エントリーにて述べたいと思います)

つぎに「市場への背信」のなかで、村上ファンド事件、ライブドア事件、日興コーディアル事件について詳細に触れられているわけでありますが、なかでも一番多くのページが割かれているのが日興コーディアルの不正会計事件であります。ここは日経新聞の「日興コーデ上場廃止へ」といった一面記事が、当時大きな問題となったこともあり、東証が上場廃止予測から一転、上場維持決定へと変遷していった(変遷というのは東証関係者の方からすると語弊があるかもしれませんが)経過が、見事に浮き彫りにされております。(ここは日経新聞記者として、渾身の力を振り絞って書かれたように思いました)これは個人的には読み応え十分で、圧巻です。

最後に、三宅ファンとしましては、「この次はいったいどこに視点を合わせるのだろう」といった興味がまた湧いてくる本であります。私的には、この本を拝読した感想としまして、今後さらに運用状況を検討すべきは、市場が継続的な信認を得るためのキーワードとして、課徴金制度、企業の自己規律のための内部統制、そして市場関係者による自主規制ではないかと考えております。(しかし、最終章にあります企業コンプライアンスへの提言などは、いま問題になっている「赤福」にも通じるところがありまして、たいへん興味深いです。なお、公式には10月24日発売・・・とされているようであります。)

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2007年10月18日 (木)

「危機管理役員手控帖」

昨日はクライシスマネジメントという視点を若干呈示いたしましたが、企業の危機管理に関する対応を(リーガルリスクという面から)わかりやすく丁寧に解説されている本といえば、私が何度も愛読させていただいているこの一冊であります。私自身、コンプライアンス関連の講演をさせていただく際にも、かならず事前に内容をチェックさせていただいております。法曹向けではなく、一般の企業の役員、法務担当者向けに書かれたものですので、基本的にとても読みやすいものです。

「危機管理・役員手控帖」 (諸石光煕 著 社団法人日本監査役協会)

Shuppan_010s 本書は大江橋法律事務所の弁護士でいらっしゃる諸石先生が2004年10月から2006年10月まで、2年間にわたって「月刊監査役」に連載されていたものに、今年全面的に手直しをされて一冊の本として発刊されたものでして、元々は監査役を対象として連載されたものでありますが、会社役員や法務担当者向けに改訂されておりますので、監査役以外の方にもお勧めです。こういったコンプライアンスを語る書物というのは、具体的な事例をどれだけ連想させるか・・・といったところで勝負が決まるように思うのですが、企業内弁護士としての経歴も長く、また実際に法律が誕生するところ(法制審議会)にも関与されていらっしゃるので、具体的な事例が豊富であり、先生の主張内容がかなり説得的なところが特長であります。

ところで、10月16日に公正取引委員会より、独占禁止法の改正等の基本的な考え方が公表されましたが、このリリースは独占禁止法基本問題懇談会が、今年6月26日に発表しました独占禁止法基本問題懇談会報告書の内容が基本になっております。この懇談会報告書の意見につきましては、独禁法の改正問題だけでなく、金商法上の課徴金制度を改正しようと企図している金融庁の見解にも影響を与えるものとされております。(金融庁の担当者ご自身が、この12月までに公表するガイドラインのなかで、この懇談会報告書の内容を参考にする・・・とのこと)この報告書のなかにおきましても、本著者でいらっしゃる諸石先生(懇談会委員)は、その末尾に詳細な個人意見を述べておられます。最初は経済団体向けのパフォーマンスだろうか・・・などとたいへん失礼な予断で読み進めておりましたが、そうではないようでありまして、競争政策に「法の支配」を貫徹せんとされる先生のよどみなき見解が詰まっておりまして、たいへん感銘を受けました。おそらく諸石先生の見解を明快に論破できなければ、この報告書は先には進めないのではないかと思わせるほど、論理に説得性を有しております。そんな諸石先生が、むずかしい理屈ではなくて、長年の企業とのお付き合いや、ご自身のインハウスロイヤーとしてのご経験から著された「役員手控帖」は、とりわけ企業不祥事とクライシス管理あたりをお読みになるだけでも、たいへん参考となるはずです。

上場企業の役員、幹部クラスの方向けに、著名な法律家が書かれた最近の本としては「豊潤なる企業」(鳥飼重和弁護士 著)が東の横綱であれば、西の横綱は、この「危機管理役員手控帖」ではないかと思います。(所属事務所が関東か、関西か、といった違いであり、東と西にそれ以上の意味はございません)赤福社という、関西や中部の方だけにわかるようなマイナーな話題であると思っておりましたら、意外にもたくさんの方にコメントを寄せていただき、またとりわけ企業の危機管理に関する対応にも、みなさまの関心が高いようですので、あえて研究のための参考文献としてご紹介させていただいた次第であります。

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2007年9月 1日 (土)

月刊テーミスをご愛読の皆様へ

光栄にも月刊テーミス9月号にてご紹介いただきましたので、ひとことご挨拶を・・・

テーミスをご愛読の皆様へ

はじめまして。管理人の山口利昭です。まだまだ大阪は暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。このたびは当ブログへお越しいただきまして、ありがとうございます。このブログは立ち上げまして、ちょうど2年半となりました。当時流行のきざしをみせておりました「ブログ」なるものを批判したいがために、とりあえず自分で開設してみなければ説得的な批判もできないだろう・・・といった不埒な理由から当ブログを書き始めました。その後どういうわけか、ミイラ取りがミイラになってしまった経過は、みてのとおりであります。

このブログが唯一自慢できますものは、コメントやメールをいただく方々の温かさであります。温かいといいますのは、なにも管理人の意見に迎合されるような応援メッセージをいただく、というものではございません。まじめに管理人の意見に反論をしていただいたり、批判をしていただくところであります。(もちろん共感のコメントも頂戴すればウレシイですけど・・・)法律専門職の社外監査役からみた企業法務、社外役員の立場から企業価値を考える、といったかなりマニアックな視点ではございますが、テーミスをご愛読の皆様のなかで、そういったマニアックは世界をのぞいてみたい・・・といったお気持ちがございましたら、これを御縁に「お気に入り」にチョボっといれておいていただければ幸いです。そしてまた、どんなご意見でも結構ですので、コメントを頂戴できましたら望外の幸せであります。

今後とも、当ブログをご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

弁護士山口利昭 拝

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2007年6月 1日 (金)

内部統制システム構築・運用ガイドブック

昨日ケーリッヒさんより、コンプライアンスや内部統制を勉強するための適当な書籍はありませんか?とのご質問を頂戴しましたが、きょうご紹介するのは、法務担当者の方に向けてお勧めしたい一冊であります。(もうご購入されていらっしゃったらゴメンなさい)

どちらかといいますと、私のブログでは実際に内部統制構築支援をされている方や、内部統制監査に関与される方、またそういったシステム構築や支援に疑問を抱いていらっしゃる方々のご意見が多いようですが、本日ご紹介する新刊(5月25日発売)は、実際に上場企業で内部統制システムの構築に携わっていらっしゃる方々によって作成されたガイドブックであります。

1431 「内部統制システム構築・運用ガイドブック」(商事法務 経営法友会 法務ガイドブック等作成委員会編 1、800円税別)

実際に執筆されたのは、22社22名の法務、総務担当者の方々で、これまで会社法および金融商品取引法上の内部統制システムの構築運用に関与されてこられた方であります。執筆を担当された方のなかには、私も存じ上げております方もいらっしゃいまして、本当に昨年、一昨年あたりから、法務部やコンプライアンス部において真剣に悩み、勉強し、現場で動いてこられた方による珠玉の一冊であります。いまからきちんと内部統制の概要を整理しておこうとお考えの方には前半部分(基本解説編)が適しておりますし、他社はいったいどの程度のことをしているのか・・・といった実際の統制システム構築運用の現状を把握されたい方には後半部分(実務運用、対応編)がオススメです。私も後半部分のみ拝読いたしましたが、さすがに日々システム構築の現場を担当されておられる方が執筆されているだけありまして、中期的目標、中期計画の設定や予算配分、海外子会社のモニタリング、リスク分類方法、ISO27000等による情報セキュリティマネジメントなどの視点がコンパクトに記載されており、また実際に役立つ参考書籍などの紹介もありまして、たいへん貴重な一冊ではないかと思われます。内部統制システムの導入を命じられた担当者が、実際の現場でどこまでのことができるのか、その悩みも伝わってくるようであります。

ただ、本の性格からはやむをえないとは思いますが、経営陣がどれだけの熱意をもって、担当者にシステム構築を命じているのか、担当役員とはどのように接したらいいのか、外部コンサルタントはどう活用すべきなのか、経営陣にどのように導入を説明すべきなのか、監査役との対話なども含めて、人的資源の活用あたりまで紹介していただければ・・・と、少し物足りないところもございます。また、「物足りない」という問題ではございませんが、会社法における内部統制システムの構築といったあたりがメインの記述となっているような印象を受けましたので、詳細な財務報告に係る内部統制の「評価」といった視点はそれほど記載されていないようですんで、そのあたり書店で確かめてからご購入されたほうがよろしいかと思います。

なお、私がお勧めいたしますのは、この本をひとりでお読みになるのではなく、現場レベルでいろいろと議論の「たたき台」として皆様方でいろんな書き込みをしながら、「自社における内部統制システム教本」をお作りになることです。いわば、この本をまっさらな「ぬりえ」のノートとお考えいただき、ここに御社特有のいろんな色を塗りこんで、御社独自のマニュアル本を作成するといったイメージで活用されるのがよろしいかと思います。

6月 1, 2007 本のご紹介 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2007年5月 5日 (土)

非常勤社外監査役の理論と実務

連休中にCOSOっとご紹介いたします。4月下旬に、商事法務より「非常勤社外監査役の理論と実務」(大阪弁護士会、日本公認会計士協会近畿会共同執筆による)が出版されました。(おそらくもう全国の書店に並んでいると思います。)事務所の近くにあります旭屋本店3階(法律経済コーナー)に行きまして、平積みになっているところをデジカメで撮影しようかと思っていたのですが、平積みではなく、監査役コーナーのところに数冊ばかり本棚に並んでおりました(;▽;)

31882062 私も、ごく一部ではございますが、執筆者として担当しております。一冊の本を世に出すまでに、どんな苦労があるのか、たいへんよくわかりました。ブログを書くのとは大違いですよね。ここのところ、監査役の実務や理論面で、さまざまなところから提言が出されておりますし、また財務報告に係る内部統制と監査役監査のあり方など、きわめて重要な議論も各所でなされておりますので、そういった議論の整理にお役立ていただければ幸いです。また実務に役立つことを主眼としておりますが、各所で弁護士、公認会計士それぞれが議論したうえでの意見なども織り込んでおります。また、よろしければ書店でお手にとって、興味のあるテーマ等、パラパラとお読みいただければ幸いです。そのまま自宅に帰って「うーーーん、やっぱりあの本、欲しい」と思われましたら、ご購入ください。(笑)非常勤社外監査役の方にとりましては、監査実務に役立つものと思いますし、常勤監査役の方にとりましては、非常勤社外監査役の職責のようなものをご理解いただくためにも有益かと存じます。「監査役と善管注意義務」あたりの記述は、かなり思い切った意見が述べられておりますし、また内部統制システムの整備状況と監査役の対応あたりの記述もかなり精緻なものとなっております。

(執筆者全員で合宿したのはもう昨年の夏。ずいぶんと昔のように思えてきました。)

5月 5, 2007 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)