2018年5月19日 (土)

JICPAジャーナルに「職業倫理」に関する連載記事(3回目)が掲載されました。

P_20180518_212712_400FACTA6月号(最新号)のオリンパス関連の記事ですが、本日公開のオンライン版と「合わせ技」でスゴイことになっていますね。「中国深圳のデジカメ工場を閉鎖するのはこういった理由があるから」ということで、「なるほど・・・たしかに」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

しかし、これだけの内部文書がFACTAに届く・・・というのは、相当人数による内部告発が行われている、ということでしょうか。弁護士成果物が開示されていますので、弁護士秘密特権侵害のようにも見えますが、真摯な目的による告発は公益通報者保護法によって違法性が阻却される、ということにもなりそうで・・・(たしかに今のO社の状況では内部通報者に不利益が及ぶ可能性があり、告発者が保護される要件を満たしてしまうのかもしれません)、うーーーん、本件は書きたいことがヤマほどありますが、諸事情によりこれ以上のコメントは差し控えます。

さて、第一法規「会計・監査ジャーナル」の連載論稿は、今回が3回目(最終回)となります。「精神論ではなく、実践論としての職業倫理を考える-実践に活かす職業倫理(ミクロとマクロの視点)」というテーマで、最終回は職業倫理を活かす具体的な場面を考えてみました。企業が事業戦略を遂行する場面において、心理的なバイアスや成功体験、知らず知らずのうちに公正なプロセスを欠いてしまう業務執行判断など、「性弱説」に立って不正を予防もしくは早期に発見しようという心がまえを解説しています。人間の弱さを認め直し、弱い自分をどうコントロールするか・・・というところの実践例は、日常のお仕事にも活用いただけるのではないかと考えております。ご興味がありましたらご一読くださいませ。

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2018年5月 8日 (火)

ESG投資のE(環境)は商売のタネと考えるべきでは?

41xbaqer7hl_sx353_bo1204203200_ニッセイアセット・マネジメント社の井口譲二さんから、財務・非財務情報の実効的な開示なる新刊書を献本いただきました(どうもありがとうございます)。副題にもあるように、ESG投資に対応した企業報告の例なども紹介されていて、非財務情報報告、ESG投資への企業対応の現状を知るにはたいへん参考になる一冊です。

別冊商事法務さんは、有益な資料を専門家が整理をしてコメントを加える、といったスタイルが多いように感じます。しかしこの本は、井口さんの個人的な知見・経験に基づく解説が多くて良いですね。欧米企業や団体、機関投資家の考え方なども、井口さんのわかりやすい解説を拝読して初めて理解したところもあります。

ところで、これは私の(素人考えによる)独断にすぎませんが、ESG投資がさかんになる中で、どうもE(環境)への企業の取組みが、CSR(社会的責任)と結び付けて紹介されている例が多いように思いますが、もっと商売と結びついているのではないか・・・と感じております。むしろESGの中で一番ビジネスと関連性が深いのがE(環境)ではないでしょうか。

最近のVWの排ガス規制違反への刑事、民事の厳しい制裁をみれば明らかですが、環境対応は企業のリスク管理(コンプライアンス)の重要な要素です。また環境規制を「排出権取引」の発想からみていきますと、環境対策のアドバンテージは、企業の収益とも密接な関係に立つはずです。2040年までに英国ではガソリン車は走行できなくなる、HVもダメ・・・といったニュースが出ていましたが、環境問題とはあまり縁がないような企業が持っている多様な技術について、有益な取引の材料になる可能性が高まるのではないかと。つまり、E(環境)というのは事業戦略の攻めにも守りにも大きな影響を及ぼすものであり、そこを説明できるKPIを企業が上手にプレゼン(開示)しなければならないのではないかと思うのです。

ESG投資という視点において、「環境に優しい製品を作っています」とか「廃棄物ゼロ(リサイクル)を目指しています」といった事業戦略を売りにすることも大切ではありますが、この会社は10年後も生き残ることができるような(環境を売りにする会社が欲しがるような)技術を持っています、環境規制に違反して叩かれるような要素は当社のビジネスにはありません、といった「現実の商売のアピール」こそ、E(環境)によって評価されるべきではないのかなぁと考えております。従業員の方々にも「へえ、そうなんだ。ウチの会社の商品って、社会の役に立ってるんだぁ」と、承認欲求を満たしてもらえそうな工夫が求められているのではないかと。

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2018年4月22日 (日)

最新の法務・会計雑誌に拙稿を掲載いただきました。

P_20180421_200904_400ゴールデンウイークまであと一週間となりましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。「ブログを書く時間がない」などと言いながら、しっかり(?)告知だけはさせていただこうかと思い、筆をとった次第でございます。

世間では財務次官のセクハラが大きな話題となっておりますが、本日発売の中央経済社「ビジネス法務」6月号におきまして、イビデングループ・セクハラ内部通報最高裁判決を取り上げた「最判平30.2.15にみるグループ内部通報制度見直しの視点」と題する論稿を掲載いただきました。会社法上の企業集団内部統制や内部通報制度に関する重要判決なので、著名な学者の皆様によるレベルの高い判例評釈が待たれますが、私のほうはとりあえず「速報版」ということで執筆いたしました。

セクハラの認定基準、セクハラ認定と親会社の法的責任、本最高裁判決の意義、射程距離、今後のグループ会社管理における影響などを論点として書かせていただきました。また、最後のほうで公益通報者保護法との関係についても言及しております。ご興味がございましたらご一読いただき、ご意見、ご批判を賜れればと存じます(もちろん本最高裁判決の元となる地裁、高裁判決もすべて目を通したうえで執筆しておりますが、実は高裁判決で示された認定事実のところが「読み物」としては一番おもしろかったりします)。

 

P_20180421_201116_400そしてもう一冊ですが、第一法規「会計・監査ジャーナル」5月号におきまして、連載第2回「精神論ではなく実践論としての職業倫理を考える ②職業倫理を発揮できる土壌はあるか」を掲載いただきました。

企業の有事対応を支援するなかで、いつも感じるところですが、どんなに職業倫理の大切さを説いてみても、これを発揮できる組織風土がなければ絵に描いた餅になってしまいます。とりあけ「忖度」が大好きな日本企業にとっては大きな課題かと。

そこで、どのような組織風土を形成していくべきなのか、平時からの取組に着目して「実践論」としての職業倫理を考えてみました。大きな書店でなければなかなか入手できないかもしれませんが、こちらもご興味がありましたらぜひお読みいただきたいと存じます。なお、本誌に別の弁護士さんが執筆された「近時の動向を踏まえた平成30年6月総会の留意点」はなかなか読み応えがあって勉強になりますね。

 

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2017年12月27日 (水)

企業法務2018年の展望(会社法務A2Z)

すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、本日(12月26日)より日経ビジネスオンライン記事として、「謝罪の流儀2017 残念ながら御社でも不祥事は起きます」なるタイトルで、当職へのインタビュー記事が掲載されました(取材当時は、某社の支配権争いの交渉が佳境だったので、かなり表情が疲れているように思います 笑)。近時の企業不祥事への意見だけでなく、私なりのコンプライアンス経営への見方等、語らせていただきましたので、ご興味のある方はご覧いただければ幸いです。

P_20171226_214441_400_4 さて、もうひとつお知らせでございます。会社法務A2Z(第一法規)2018年1月号の特集「企業法務(テーマ別)2018年の展望」におきまして、「危機管理・不祥事対策」を執筆いたしました。この企画は毎年A2Z誌では好評だそうですが、今年も担当させていただきました(なんとなく、同じ人が同じテーマで担当しているような気がしますが・・・)。もちろん2017年の展望とは内容はかなり異なります。2017年はかなり「展望」が当たっていたと思いますが、2018年はどうなりますか(笑)、法務に関わるご担当者の皆様にはお読みいただきたいと存じます。

今年は29日まで、まだまだ仕事が続きます。弁護士の視点から、とてもおもしろい仕事が多いので、また守秘義務に反しない範囲で(少し落ち着いたら)ブログ等で紹介できるかもしれません。

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2017年12月 8日 (金)

拙著「実効的な内部通報制度」がアマソン(ビジネス法入門)で1位になりました。

2日続けての自分ネタで恐縮ですが、12月7日の昼過ぎから現在(8日午前1時)まで、拙著「企業の価値を向上させる実効的な内部通報制度」がアマゾンの「ビジネス法入門」ランキングで1位になりました。皆様、どうもありがとうございます!皆様がご覧になる時刻にはすでに落ちていると思いますが、ともかく1時間毎に更新されるランキングで12時間ほど首位をキープできたのは素直にうれしいです。

これまでも1位になったことはありましたが、今回のようにジワジワと上昇して1位になるのは初めてです。良くも悪くも(?)、多くのビジネスパーソンの皆様に評価していただけたのかもしれません。ありがたいことに、経済雑誌でもご紹介いただけるようですが、企業不祥事がいろいろと報じられている現状と無縁ではないと思います。

本業と忘年会のために、ブログを書く時間がなかなかとれませんので、このようなご報告だけで本日は失礼いたします<(_ _)>

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2017年11月20日 (月)

企業の価値を向上させる実効的な内部通報制度(拙著のご紹介)

Jikkoutekinaibu11月17日、日産自動車さんが無資格審査問題で記者会見を開きましたが、その中で日産の代表者の方が「これからは内部通報の仕組みが機能する体質にしなければならない」と述べておられました。ただ、そこで念頭に置かれているのは昔ながらの内部通報や内部告発のように思えました。現在は、社員一同による内部通報や幹部職員による内部通報、大株主がバックに控える内部通報など、その形態はさまざまです。時代が変われば内部通報や内部告発の姿も変わります。したがって組織の体質を変えるとしても、内部通報のトレンドをまず認識しておく必要があります。

さて、週明け早々恐縮ですが、拙著のご紹介です。すでに書店に並んでいる地域もあるようですが、いよいよ今週(11月24日)私の執筆いたしました新刊書が発売されます。アマゾンさんでも取扱いが開始されました。

「企業の価値を向上させる実効的な内部通報制度」(山口利昭著 経済産業調査会 2,700円税込 発売日11月24日)

単著本としては3年ぶりとなります。経済産業調査会さんからは、2010年に「内部通報・内部告発-その光と影」を出版させていただきましたが、このたび、その全訂版としての位置づけにて、上記タイトルにて発売させていただきました。ただ、今回は一般の方々にも読みやすいような内容に仕上げております。内部通報制度や公益通報者保護法の現状を示して、企業の皆様にはコンプライアンス経営の実践に役立てていただき、また内部通報や内部告発をお考えになっている皆様には、実効性のある内部通報・内部告発の参考にしていただきたい、と願って執筆いたしました。

とりあえず「はしがき」を抜粋してご紹介いたします。

(中略)テレビCMでは、「消費者に優しい経営」を宣言しているにもかかわらず、その裏側では「消費者を裏切る不正」を告発しようとしている社員に残酷な仕打ちで対応している企業の姿をみるにつけ、「社員ひとりひとりは誠実でも、組織となればどこの企業でも冷酷なものだ」と実感します。本書で紹介している実例をみればおわかりのとおり、世間で話題となる企業不祥事の多くは、内部通報や内部告発を端緒として発覚します。同じような不祥事を発生させた企業でも、通報に上手に対応した企業では企業の信用を毀損させることはなく(むしろ信用を向上させる企業もあります)、対応が拙いために、長年にわたって社会的な信用を低下させてしまう企業もあります。ではその差はどこで生じてしまうのでしょうか。

本書は、内部通報制度や内部告発の実態に光を当てながら、経営者にとって不都合な事実、たとえばグループ会社で発生した不正事実をいかに早く経営者が認識できるか、その仕組み作りを解説したものです。また、経営者の思いとは裏腹に、社員の方々が社外に不正事実に関する情報提供(いわゆる「内部告発」)を行った場合に、企業としてどのように対応すべきか、その適切な対応方法についても言及しています。

適切な内部通報制度の構築を「企業向けに」解説する本は、すでに良書がたくさん世に出ていますので、本書の特徴について少しだけお話しておきます。私は3年ほど前から、消費者庁の公益通報者保護制度の実効性検討会委員として、公益通報者保護法制と関わってきました。公益通報者保護法の改正審議は未だ「道半ば」ですが、その方向性がかなり明らかになってきましたので、その方向性を本書で示すことにしました。また、その方向性は「法改正」に先行して消費者庁が示したガイドライン(民間事業者向けガイドライン、行政機関向けガイドライン)に示されていますので、こちらも解説を試みました。

また、2017年5月には改正個人情報保護法が全面施行され、2018年6月までには改正刑事訴訟法のいわゆる「司法取引制度」も施行されます。また、消費者裁判手続特例法や(上場企業向けですが)コーポレートガバナンス・コードなども、近年施行されました。このような社会の流れの中で、内部通報制度や内部告発への対応も変革を迫られています。本書では、これら最近の法制度の流れを紹介して、とりわけ企業の構築すべき内部通報制度にどのような影響が及ぶのか、私なりに解説を試みました。

さらに、効果的な内部通報制度を運用するためには、内部通報者や内部告発者が「なぜ通報や告発に及ぶのか」その動機や手法についても認識しておく必要があります。働き方改革が進み、ITからAIの時代へと移行する過程において、内部通報制度や公益通報者保護法を「使用者vs労働者」「企業vs社員」の固定観念で捉えるのはもはや時代遅れと言えます。企業の窓口担当者、経営者の方々が、内部通報者や内部告発者の意識を知っていただくために必要な「知恵」についても各所で触れることにしました(以下、省略)。

ぜひとも、ご一読いただければ幸いです。また、当ブログでも折に触れて内容をご紹介していきたいと思っております。どうかよろしくお願いします!<(_ _)>

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2017年10月28日 (土)

Q&Aでわかる日本版「司法取引」への企業対応

Sihotorihiki030_2 昨日(10月27日)、NHKニュースにおいて来年6月までに導入される日本版司法取引(改正刑事訴訟法上の「協議・合意制度」)に関する企業担当者向けセミナーの様子が報じられていました(画面で見る限り、セミナーは大盛況のようですね)。ニュースにおいて弁護士の方が指摘しておられるように、今後は企業自身の信用毀損を防ぐためにも内部通報制度を運用することが重要なので、私もコンプライアンスの視点から注目をしております。

ところで、日本版司法取引への企業対応については、以前平尾覚弁護士のご著書を紹介させていただきましたが、このたび大江橋法律事務所(東京事務所)の山口幹生弁護士、名取俊也弁護士による共著「Q&Aでわかる日本版『司法取引』への企業対応~新たな協議・合意制度とその対応」(同文館出版 2,300円税別)が出版されましたので、さっそく拝読いたしました。山口氏、名取氏とも長く検事として活躍され、とりわけ経済犯罪や贈収賄事件の立件に関わってこられた経歴をお持ちです。

平尾先生のご著書は、まだ誰も踏み込んでいなかった草むらに道を作るようなイメージ(改正法の条文解釈上の課題や企業対応に予想される問題点の掲示等)で、とても斬新なものでした。いっぽう、上記山口氏らの新刊書は、企業担当者をはじめ、一般の方々に、有事になった場合にどうすべきか、その解決策を平易な文章で書きおろしておられる点に特徴があります。改正刑事訴訟法や企業対応の重要ポイントをQ&Aで解説されているだけでなく、刑事訴訟という、比較的なじみの薄い手続法の実務を、企業人向けに、「メモ」や「コラム」で捜査や刑事訴訟の基本的な仕組み等への解説が付されている点はすばらしいと思います(こういったところは同業者から「あたりまえ」と言われそうで、ついつい省略したくなってしまうのですよね)。

本書において評価すべき点は、検察実務経験者としての「読み」です。「100%このようにすべきとは言えないが(条文には書いていないが)、通常は検事はこのような対応をとり、また裁判官の判断も想定できるので、企業としてはこのような対応がなされるべき」といった解説がなされています。まだ日本版司法取引の運用にあたり、検察実務がどう動くかわからない状況ですが、「これまでの経済犯罪事件の捜査・立件の実務から想定されるところでは」といった書きぶりは、読む者に安心感を与えます。申告の対象となる自己の犯罪と「他人」の関係について、社員と別会社、社員と別会社の社員、自社社員どうし、自社と自社社員といった区分によって、それぞれ自社や自社社員がどう動くべきか(動かなければならないか)が整理されており、状況次第では役員の皆様も、相当なリーガルリスクを背負うことになることがわかります。

企業法務に携わる顧問弁護士の方々にも、また企業担当者の方々にも、企業が有事になる前にお読みいただくのにピッタリの一冊です。さらに企業の内部通報制度の窓口担当者等にもお薦めの一冊といえそうです。

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2017年9月 6日 (水)

全社的リスクマネジメント-これだけやれば及第点

Tyu998 全社的リスクマネジメント、コーポレートガバナンス、全社的内部統制の整備・運用といったことが「企業価値の向上のために」重要であることはわかっていても、では実務的にどう対応すればよいのかわからない・・・といったことはリスク管理担当部門の方々にとっても大きな悩みです。図表が多用され、概念的なことがきれいに整理された書籍には出会っても、各社の実務にどう落とし込むべきかわからないマニュアル本も多いのではないでしょうか。

本書は、東京ガスグループで内部統制の整備やリスクマネジメントに長く携わってこられた著者が、全社的リスクマネジメントの具体的な手法を解説したものです(たしか私が企業の内部統制に関心を抱き始めた時期に、著者は経産省の当該分野の審議会委員等を歴任されていたのを記憶しております)。取締役や監査役の方々にも当然参考になるのですが、やはり副題のとおりミドルマネージャーの方々に向けたものと言えます。リスクマネジメントの担当者だって、自分たちの貢献度をトップに評価してほしいですよね。リスクマネジメントを担当する者が「やる気」になることへの工夫などは、部下をたくさん育てて長年この分野に携わってこられた方だからこそ書ける内容です。

全社的リスクマネジメント-ミドルマネージャーがこれだけはやっておきたい8つの実施事項(吉野太郎著 中央経済社 2,400円税別)

本書の特徴は、なんといっても「全社的」なリスクマネジメントを取り扱っているところです。筆者はラインの第一線で働いた経験に基づいて本書を執筆されているため、理想としての全社的リスクマネジメントの姿を追い求めても、かならずしも経営者から受けいられない、といったことも経験されたと推察いたします。だからこそ、理想が受容されずとも、その代替(妥協)として、この程度の全社的リスクマネジメントの方法を検討せよ、といった提案が、具体的な事例の中で示されています(これはとても大事なことですよね。予算や人的資源の限界、そして経営者の志向によってリスクマネジメントの現実-つまり及第点-を語らなければ読者は腹落ちしないと思うのです。)

お勧めはなんといっても第5章のリスクの評価と対応でしょうか。経営者に近いところで、リスク管理を経営者に進言する(報告する)わけですから、経営者を説得できるような合理的な説明が必要です。しかも全社的リスクに関わるので、(経営者にとって関心の高い)ガバナンスや内部統制との関係でも慎重な配慮が求められます。そのあたりで、「知識」ということよりも、全社的リスクマネジメントの考え方を学ぶ、といった感覚で読まれたほうが良いのかもしれません。「これだけやれば及第点」とあるように、最低限度のリスクマネジメントを念頭に置いたものなのですが、マネジメントの具体的手法の紹介がとても示唆に富み、参考にしたい点が多いので、あえて不満を言えば、もっと多くの具体的なマネジメント手法等をご紹介いただきたかったところです。いずれにしてもお勧めの一冊です。

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2017年7月18日 (火)

「これからの内部通報システム」を考える

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今年前半は改正個人情報保護法の解説本がたくさん出版されましたが、後半は内部通報制度・公益通報者保護制度に関する解説本がいくつか出版されるようですね。公益通報者保護法の改正審議はまだまだこれからですが、11年ぶりに民間事業者向けガイドライン、(労働者通報に関する)行政機関向けガイドラインが改訂されたこともありまして、こちらもたいへんタイムリーな解説書に仕上がっています。

これからの内部通報システム(2017年7月 中原・結城・横瀬著 金融財政事情研究会 2,600円税別)

ちなみにジュンク堂さんの「おすすめ」コメントによりますと、

「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を詳細に解説。通報窓口を受託している民間事業者や先進的企業の取組も紹介し、これからの内部通報システムの在り方を提言。民間事業者必読の1冊。

だそうであります。以下はご献本いただいた私の感想です。

これまでの内部通報制度に関する解説書で何度も解説されているところは思い切って簡素化し、その分を民間事業者向けガイドラインの解説、そして関係者からのインタビュー記事に重点を置いているのが本書の第1の特徴です。この類の共著の解説書は、机上で情報を収集することに重きを置きたくなるのですが、多くの有識者、コンサルタント会社、民間事業者から直接ヒアリングをして、その結果を丁寧にまとめ上げるという、かなり「しんどい」作業が行われています(ヒアリングや録取内容のまとめ、構成は3名で分担されたものと思われます)。したがって、読者もおそらく新鮮な情報に触れることができるはずです。

不肖私も、本書では有識者(?)のひとりとしてヒアリングを受けまして、「山口利昭弁護士に聞く(74頁以下)」として私のインタビュー記事が掲載されています(民間事業者ガイドラインの解説部分に、何度かこのインタビュー記事が引用されていますので、責任重大ですね・・・(^^; )。作業の一端を垣間見ておりますので、上記のようなご苦労も推察できます。個人的にはやはり民間事業者の方々のインタビュー記事がとても参考になりました。

さてもうひとつの特徴は、タイトルどおり「これからの内部通報システム」を読者の皆様へ提案している点です。私も「いつかやっておこう」と思っていたのですが(結局、まだやらないうちに先を越されたわけですが)、改訂された民間事業者ガイドラインの各項目と、消費者庁が示したレベル感(やっておくべき⇒やったほうがいい⇒やってみてもいいかも)を上手に整理した図表を活用して、それぞれの事業者の規模に合わせて内部通報システムの適切な導入・運用を提案しておられます。これは正直フリーライドしたくなりますし(笑)、私自身の通報窓口業務にもそのまま参考になりそうですね。

「異論のあるところだが、内部通報義務を規程に明記することも検討すべき」といった積極的な提案も、その理由を含めて示されています(ちなみに、私は通報義務についてはやや懐疑的ですが・・・笑)。こういった専門家の積極的な意見による提案は企業実務家の皆様にもウケるのではないでしょうか。

諸事情ございまして(笑)、当ブログでは加計学園問題へのコメントは控えておりましたが、文部科学省の一連の文書提出により、公益通報者保護制度への国民的関心が(良い意味でも悪い意味でも)高まったのは間違いないところかと。 行政のことですから、関係各省庁の人事異動で公益通報者保護法の改正審議がどうなるのかやや未知数なところもありますが、私も様々な意見発信を通して法改正に向けた審議に何らかの形で関与していければ、と思っております。そのためにもぜひ本書を参考にさせていただきます。

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2017年4月 7日 (金)

「公益」資本主義-英米型資本主義の終焉

Img_803210ba9c4291066dc73162fbec55f本日(4月6日)の日経新聞朝刊7面に、それほど大きな記事ではありませんが、 「米経済『何かが間違い』JPモルガンCEOが株主に書簡」と題した記事が掲載されています。低い労働参加率、高額な教育費、国内のインフラ更新投資の欠如(大阪でもこのままだと水道費が1.6倍になるとか)、難解な税制等、いずれも米国の景気は上向きですが、所得格差が広がる懸念が示されており、これを大手金融機関のトップが「違和感」と捉えています。

株主資本主義、金融資本主義のアメリカでも、所得格差の現実に直面して、原丈人氏が提唱する「公益資本主義」に近い考え方を信奉する人が出始めたのではないでしょうか。日本ではAA型種類株式を導入したトヨタ自動車のCEOの方も、公益資本主義の賛同者のおひとりです。

公益資本主義(文春文庫)原丈人著

書店に並んだ日に一気に読みました。いままでは「公益資本主義」の考え方、現実の資本主義社会への問題提起に共感しておりました。たぶん原氏のご著書をこれまで読まれた多くの方も同様ではないかと。ただ、本書はそこから進んで「では、いかにして株主資本主義から公益資本主義へと転換すべきか」その実践に向けた原氏の提言(ロードマップ)が後半に出てきますので「総論賛成、各論(一部?)反対」となるかどうか、そこが本書を読まれる方とぜひとも議論したいところです。法律的に批判をすることはできますが、具体的な提言に賛同するのであれば、その実現に向けた道筋を汗をかきながら考える必要があります(でもそのほうがワクワクして楽しそうですね)

星野リゾートの星野さんが大阪の新今宮に観光型ホテルを建設する時代です。「そんなアホな」と凡人の私などは一笑に付してしまいそうが、カリスマ経営者なら「町を変える」ことも現実化させるのかもしれません。この公益資本主義が日本に浸透する日も、近い将来、現実化するような気もしますね。

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