2008年11月19日 (水)

金融庁「インサイダー取引規制に関するQ&A」を公表(自社株取得)

3回にわたって当ブログでエントリーしてきました「シャルレ社のMBO」ですが、ついに火がついてきちゃったようでありまして、18日、大阪証券取引所より「不適切開示」として改善報告書を求められているそうであります。(シャルレ社の適時開示)この流れは「不適切開示」へのエンフォースメントのひとつとして注目されそうですし、今後の展開がありそうですので、また別エントリーにて検討してみたいと思っております。

さて、9月2日に日経法務インサイドの特集記事を受けて、「インサイダー取引のリスクマネジメント」なるエントリーをアップいたしました。そのなかでも、触れていたところでありますが、昨年の小松製作所さんや大塚家具さんの(いわゆる)「自社株取得に伴う”うっかりインサイダー”リスク」の衝撃によって、企業の自社株買付が委縮している現状が問題視されていたところであります。私は上記エントリーのなかで「自社株を信託方式で買い付ければ問題ないのでは?」と書いておりましたが、ある方からメールにて「小松製作所さんの自社株買いは信託方式によるものですよ」(こちらがリリース)と教えていただいておりましたので、実をいうとちょっと考えが甘かったわけでありますが※1、本日金融庁(および証券取引等監視委員会)よりリリースされましたQ&Aの内容を拝見しましても、やっぱり単に信託方式を採用しているだけでは十分ではなく、場合によっては、きちんとしたチャイニーズウォール体制を構築していることが条件となっているようであります。※2金融庁リリースはこちら

※1 たしかに小松製作所の件は信託方式による自社株買付ですが、ここではすでに重要事実を知ったうえで信託方式による買付を決定したように思われます。現に、小松製作所はほとんど営業活動をしていない海外子会社の解散発表までが「重要事実」に該当するのか?といったコメントを出しておりましたので、むしろここでは「重要事実」の内容が問題視されていたのでありまして、直接的に「信託方式による買付」の是非が問題になっていたわけではないと理解しております。

※2 なお、チャイニーズウォールを敷く必要がないケースとして、買付信託契約の後、会社側から信託銀行に買付の指示を行わない場合があげられておりますが、これはそもそも「重要事実を知ること」と取引行為との因果関係が切れることで、処罰対象たる内部者取引の行為態様には該当しない、とみるのでしょうね。先日のBNPパリバの社外第三者委員会の報告書でもすこし触れられていた事例だと思います。

チャイニーズウォールというのは、ここでは「同一会社内における情報障壁」程度にお考えいただければ結構かと思いますが、要するに、自社株売買を執行する部署と、重要事実を知りうる部署との情報の流れを遮断するような体制が構築される必要がある、というものであります。買付信託を採用する場合には、信託銀行へ売買の指示を行う部署と、重要事実を知りうる部署との情報障壁を未然に構築しておけばインサイダー規制には該当しない、ということがほぼ明確にされ、こういった状況のなかであれば安心して自社株取引を行うことが可能となるようであります。

ただ、これまでチャイニーズウォール体制といいますと、インサイダー取引規制や顧客との利益相反取引防止、自己勘定取引の峻別など、一般的には金融機関の厳格な自己規律のために構築されるもの・・・といった印象を持っておりますので、おそらく一般の上場企業にとっては、耳慣れないものではないでしょうか。具体的にどのような体制を構築すれば「指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っている」と認められるのでしょうか?こういったことも、今後検討を要する問題のひとつではないかと考えております。

このあたりは金融規制法分野に精通された先生方のご意見をうかがいたいところでありますが、ただ金融機関に要求されるようなものがそのまま一般の上場会社にも妥当する、とみるのもちょっと厳しすぎるのではないかと思いますし、また証券会社のように恒常的に体制を敷いておかなければならないというものでもないと思います。そこで、一般の上場会社の場合には、①インサイダー取引防止のための社内研修の一貫として情報隔絶の必要性を関係者に周知徹底させること、②チャイニーズウォールに関する社内手続きをマニュアル化(文書化)しておくこと、③執行部門と重要事実の管理部門とを組織的にも明確に分けること、④人的交流が必要な場合には交流の記録を残しておき、内部監査もしくはコンプライアンス部門が事後チェックをしておくこと、あたりが思いつくところです。(全部、あたりまえといえばあたりまえのことばかりですが・・・(^^; )こういった未然防止策をとっていれば、とりあえずインサイダー規制に引っ掛かるリスクはかなり低減されるものだと思いますが。(甘いでしょうか・・・?)

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2008年11月12日 (水)

BNPパリバの株式売買はインサイダー取引に該当するか?

(12日午前 追記あります)

昨日は裁判員制度に関するエントリーをアップしたところ、あまりにも偶然のことでありますが、最高裁判所司法研修所から「裁判員制度に関する重要な研究報告書」がリリースされたようであります。(日経ニュースはこちら)ニュースで報じられております研究報告の内容はビックリでありまして、裁判員法廷に臨む(すくなくとも私のような不埒な)弁護士の意識は、ここにおきまして改革しなければならないことになりそうであります(この件についてはまた別の機会に・・・・・)

さて、すでに多くのブログで話題になっておりますが、アーバンコーポレーションの不適切開示(違法開示)に関与したとされるBNPパリバ日本法人の件につき、11月11日付けにて、外部検討委員会による最終報告が発表されたようでして、その報告書概要を読ませていただきました。(委員のみなさまは、元検事総長の方を筆頭に、錚々たるメンバーです)アーバンコーポレーションによる不適切開示(スワップ契約部分をあえて開示しないこと)への積極的関与につきましては、すでに金融庁から(不適切→違法)認定を受けておりますので、それに追随した形で、かなり厳しい判断が下されているものと受け止めました。

問題はスワップ取引が存在するにもかかわらず、このような重要事実を秘匿して、その間にもヘッジ取引を繰り返していたBNPパリバの取引については、金融商品取引法で禁止されているインサイダー取引に該当するかどうか、という点でありますが、外部検討委員会は、

当該情報を知りながらヘッジ取引を行っていたBNPP東京支店の行動は、インサイダー取引に該当する可能性は否定できないものと考えております。しかしながら、本件ヘッジ取引は、スワップ契約に基づいて機械的に行われていたものであり、実質的にみると法が本来予定していた行為形態とは異なっている面があること、またインサイダー取引の該当性については、本委員会は判断する立場にはないことから、その点の判断については控えさせていただきます。

として、なんだかよく趣旨がつかめないような、「ん~、どっちやねん!」といいたくなるような歯切れの悪い報告内容になっております。現行のインサイダー規制は形式犯として処罰対象とされており、重要事実があって、その重要事実を知りながら、株式売買を行ってしまえば、その取引で儲けようといった目的があってもなくても(また実際に利益を獲得していなくても)インサイダー規制には該当してしまうわけであります。(軽微基準に該当するケースを除く)ただ、BNPパリバのヘッジ取引が、そもそも株価の変動(差益?)に基づく利益獲得を目的としたものではないということから、「本来予定していた行為形態とは異なっている面がある」と判断されたのかもしれませんが、インサイダー取引の可能性は否定できないけれども、可能性が高いとまでは述べられていないようであります。刑事罰を基本とするならば、インサイダー取引の構成要件該当性は認められるけれども、その違法性に乏しい、といった説明になるのでしょうか。課徴金制度を基本とするならば、課徴金算定の基礎となる利得計算の根拠がない、といった説明になるのでしょうか。もし、「富の変動」が「既存株主→BNPパリバの手数料」といった流れの場合、変動の要因が重要な事実の不開示によるものなのか、それともMSCB類似の株式価値の希薄化によるものなのか、という点においても結論が異なってくるように思いますが。

また、素朴な疑問ではありますが、そもそもインサイダー取引規制が適用されるのは、重要事実につきましては、後日「公表されること」が前提になっているものと思われます。しかしながら、スワップ取引の不開示ということが「重要事実」だとしましても、アーバンコーポレーションさえ倒産しなければ、後日このスワップ取引を公表することがBNPパリバにとっては「予想しうるもの」とは言い切れないのではないでしょうか。インサイダー取引を取締る趣旨は、重要事実が後日公表されるからこそ、そのタイムラグを利用する不公正取引を防止するところにあると思いますし、むしろBNPパリバとしては、後日になっても公表されるような事実はそもそも認識されていなかったのではないか、という疑念がぬぐい切れません。(←この点につきましては、「通りすがりさん」と大杉先生にご異論をいただきましたので、また検討してみます。理屈だけでなく、結論もおかしくなる・・・といったことになりますと、私としても十分検討する必要がありそうです。私の意見に対する「ダメ押し」でも結構ですので、またご意見がございましたらどしどしコメントいただければ幸いです。)ということで、スワップ取引の存在が「重要な事実」ではあっても、これがインサイダー取引規制における「重要事実」には該当しないか、もしくはBNPパリバ側にはインサイダー取引についての犯意(故意)がなかったとみるべきではないかと思いますが、このあたりはいかがなものでしょうか。(注:不適切開示以前の株取引との関係では、「重要事実」であることは当然だと思いますが、不適切開示以後の株取引との関係ではどうなんだろうか?といった疑問であります。脊髄反射的に書いておりますので、勘違いがあれば、またご指摘ください)

もうひとつ興味深いのは、先のシャルレの件でもそうでありますが、企業行動の「法令順守」について、最近こういった外部の第三者委員会報告の持つ役割がかなり重要になってきたのではないか、といった点であります。司法的救済による事後規制がなかなか奏功しないなかでの有力なソフトローとしての役割を担いつつあるのではないか、といった感想を持っております。(また、この点につきましては別の機会にもエントリーしたいと思います)

(12日午前;追記)

朝日新聞ニュースによりますと、金融庁がBNPパリバに対して金融商品取引法違反に基づき、「投資者保護規定」に抵触するものとして行政処分を検討している、とのことであります。(ニュースはこちら)アーバンコーポレーションの不適切開示について、積極的に働きかけた点を捉えて・・・ということのようですね。

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2008年11月 5日 (水)

インサイダー取引発覚時における企業の危機管理を考える

10月27日のエントリー「伊藤ハム社におけるクライシスマネジメントを考える」におきまして、「なぜ記者会見で社長さんが説明をされないのか?」と疑問を呈しておりましたところ、本日(11月4日)、工場地下水汚染発覚後はじめて社長さんが記者会見をされたそうであります。(「危機管理、機能しなかった」・・・・朝日新聞ニュース)「食の安全」に携わる企業が、その信頼を回復するために多額の費用を要することにつきましては、最近の日清食品社のCMなどを見ていてもわかりますが、マスコミを(おそらく)敵に回してしまった分、ブランドイメージの毀損状況については、伊藤ハム社のほうがかなり厳しいものになってしまったように感じております。

さて、企業のクライシスマネジメント(危機管理)につきまして、今回はインサイダー取引の発覚時について考えてみたいと思います。本日、東証マザーズ上場の株式会社いい生活社の社員(正確には元従業員)の方が、会社の業績予想下方修正に関する未公表事実を知り、信用取引によって1億円程度の自社株売買を繰り返したとして、証券取引等委員会は元従業員に対する約2000万円の課徴金処分についての勧告を行ったそうであります。(証券取引等監視委員会のリリースはこちら)すでに当ブログで何度も申し上げておりますとおり、たとえ会社とは無関係に役職員が内部者取引規制違反を行ったとしましても、金融庁の課徴金処分となってしまいますと、どうしても会社名も大きく報じられるところでありまして、企業の社会的な信用(レピュテーション)が毀損されてしまう可能性が高くなってしまうわけであります。

そこで「いい生活」社としても、報道後ただちに適時開示情報として、ステークホルダーの方々への謝罪、当該社員に対する社内処分、再発防止策を公表されているところでありまして、これらにつきましては、インサイダー取引発覚時における危機管理としては申し分ないところでしょうし、私自身も参考にさせていただきたいと思います。ただひとつ気になりましたのが、「内部者取引を行いました元従業員Aに対しましては、本件の悪質性と当社のダメージを考慮し、会社として損害賠償を請求する方針であり、必要に応じて訴訟を含む法的対応も検討してまいります」と述べておられる点であります。

たしかに上述のとおり、会社自身が課徴金処分を受けずとも、役職員の個人的な取引によって会社の信用に傷がつくわけですから、この従業員の方に対して(訴訟外における和解の話が進まなかった場合に)損害賠償請求訴訟を提起することも、株主から経営を託されている取締役らの行動としても頷けるところであります。しかしながら、もし会社の信用毀損を「損害」として、その賠償を請求した場合、元従業員の方からも「過失相殺」の抗弁が提出されることは考えられないのでしょうか?つまり、会社としてきちんと会社法上の内部統制の構築義務を尽くして、インサイダー取引防止体制を講じていれば、自分が課徴金処分を受けることはなかった、自分が課徴金処分を受けることで、かりに会社に損害が発生するのであれば、それは内部統制を構築していなかった現経営陣の過失にも起因するものであるから、○割の過失が会社側にも認められる・・・と「逆ギレ」されてしまうおそれはないか、ということであります。

もちろん、元従業員がインサイダー取引違反によって刑事罰を課されているのであれば、クリーンハンズの原則により過失相殺の抗弁自体がまったく認められないものと思いますが、今回はあくまでも「課徴金処分」という行政処分でありまして、そこには制裁的な意味合いも、道義的非難の意味もない、いわゆる形式犯としての処罰が存在するだけであります。(これは、本件における元従業員に対する課徴金の計算式をみても明らかであります)そうしますと、元従業員の犯行がきわめて悪質であるとか、経営者側において(社員研修や情報管理体制を含めて)インサイダー取引防止体制は万全であったとか、元従業員の行為は内部統制構築の限界を超えたものであるなどといった主張を、会社側が証拠をもって立証していかざるをえないように思われます。また、理性をもって冷静に判断するならば、(交通事故における過失相殺のように、それぞれの過失行為の向けられた方向性が対応しないのであるから)元従業員の過失相殺の抗弁は通らないのではないか、と考えるところでありますが、1円でも損害金を減らしたい・・・といった元従業員の気持からすれば、少しでも可能性のある主張であれば抗弁として提出することも十分に考えられるところですし、また過失相殺の主張を「損害発生への寄与度に応じた公平な分担」に重点を置くのであれば、会社の内部統制構築義務違反の事実が認められた場合には、その分、過失が認定される可能性もゼロとは言えないものと思われます。(「会社の信用」なるものを損害額算定の基礎に置くのであれば、そもそも全社的なリスクとして想定することが十分に可能なものでありますので、なおさらのように思われます)

もし裁判所が被告(元従業員)による過失相殺の主張を認め、会社側にも「信用毀損」に至った過失があったということが判断されたとすると、今度は経営者のほうが株主代表訴訟をもってインサイダー取引防止体制に関する内部統制システムの構築義務違反を問われるリスクが顕在化することになるわけですよね。つまり、会社としては「信用毀損」の損害額を大きく見積もれば、その分経営陣に跳ね返ってくるリスクも大きくなるということになりはしないでしょうか。この議論のポイントは、会社の信用を「損害」と捉えること、課徴金処分の法的性質、役職員個人としては(めずらしく)きわめて大きな課徴金の金額であること等でありまして、本件事案特有のリスクなのかもしれませんが、少し検討してみる価値もあるのではないかと。(そもそも、形式犯たる課徴金の性格が一般社会で理解されるようになれば、会社にとっての社会的信用の低下には結びつかない、それほど低下しない、ということになって、損害として金額算定されることもなくなるように思うのでありますが、どうでしょうか)

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2008年9月 2日 (火)

インサイダー取引のリスクマネジメント

福田総理が辞任表明ということで、消費者庁はどうなっちゃうんでしょうね?せっかく昨日のエントリーで消費者庁の情報集約能力は大いに期待できるような書き方をしましたので、なんとかこれまでの流れを今後も持続していただきたいと個人的には願っております。それともうひとつ実は法曹界にとって少しばかり話題になりそうな発表が9月初旬に予定されていたのですが、これもおそらく首相辞任劇で延期になってしまいそうです。

政治問題とはまったく関係ありませんが、1日の日経新聞朝刊の「法務インサイド」では、インサイダー摘発が相次いでいるために、企業の自社株買いも委縮している、といったお話が掲載されておりました。いわゆる「うっかりインサイダー」問題ですね。犯意がなくてもインサイダー取引が形式犯として処罰されるというものでありますが、「情報が偏在するなかで利益を獲得するのは不公平なので、利益をはく奪する制度」(課徴金の場合)というのであれば、とくに「うっかりインサイダー」の場合には倫理的に非難されるものではないはずです。企業にとって何が怖いかというと、「うっかりインサイダー」を悪意に満ちた犯罪行為のごとく社会に受け止められることによる社会的信用棄損ではないでしょうか。たしかに「うっかり」と言いましても違法行為スレスレ・・・ということではなくて、違法行為に該当すること自体を知らなかった、ということでしょうかから、上場企業の役員たる者が(たとえ悪意に満ちた行動ではなくても)軽率にインサイダー取引に該当する行動に至ったことは批難されるかもしれません。しかしこれは悪意に満ちた行動とは一線を画すものだと思いますし、そのあたりを社会から誤解されるリスク自体が本当に怖いところだと思います。

フランスではインサイダー取引を含む経済犯罪について厳罰化を促進する、ということが本日の日経ニュースで報じられておりますし、改正金融商品取引法の解説記事にもあるように、日本もおそらく市場の公正を害する行為については厳罰化(刑罰の加重だけでなく、対象行為の拡大を含めて)の方向に進むものと思われますので、企業としても真剣にインサイダー取引による法令違反リスクへの対応を検討しておくべき時期に来ているようです。なお、本日の日経新聞では全くとりあげられておりませんでしたが、インサイダー取引リスクが怖くて自社株買いが委縮してしまうのであれば、普通に信託方式による市場買付で取得すればいいのではないかと思いますが?(といいますか、すでに多くの企業がリスク回避の手段として信託方式による市場買付で自己株式を取得していますよね。株価操縦リスクからも解放されるでしょうし。)たしかに手数料を要しますが、「うっかりインサイダー」リスクによって(報道にありますように)業務提携に関する決定事実をいったん白紙撤回にするような取締役会決議を行うくらいなら、チャイニーズ・ウォールを敷いて自社株取引を行うほうがリスクマネジメントとしては適正ではないかと思うのですが、それでもなにか不都合があるのでしょうかね?(^^;

私からみると、(自社株買いリスクよりも)先日のサンエーインターナショナル社の元会長さんのように、リスクを回避した(野村證券さんからOKをもらった)にもかかわらず1000万円を超えるような課徴金処分を下されてしまうような問題のほうがよっぽど悩ましいリスクマネジメントだと思うのでありますが。軽率な人が「うっかり犯」で非難されるのならばまだ納得もできますが、法令遵守の意識を持ち、用心深い人ですら(形式的処罰犯罪であるがゆえに)処罰対象となる・・・というのは、本当に悩ましいですし、その萎縮的効果こそ問題とすべきではないでしょうか。

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2008年5月20日 (火)

サンエー社のインサイダー疑惑とベターレギュレーション

以前日経新聞でも伝えられておりましたが、また読売ニュースにてサンエー・インターナショナル社(上場会社の役職員)のインサイダー取引について証券取引等監視委員会が課徴金処分を念頭に勧告を行う予定であることが報じられております。私の手元にあります東京証券取引所発行にかかる「インサイダー取引Q&A第三版」の29ページには、「決定事実」が最高裁まで争われた事例をもとに①決定は商法上の機関によるものに限られず(つまり社長の意思決定だけでもあたる)②条件付きの決定(たとえば親会社が第三者割当てに難色を示しており、この親会社が承諾することを条件に割当てを行う、といったケース)であっても該当する、とありますし、またQ&Aのなかでも半年前くらい遡った初期段階においては、かなり微妙ではあるが、社長がトップダウンで重要事実案件実現を目指して検討が開始されているようなケースでは初期段階であっても重要事実が成立していると考えられる(16ページ)とあります。この本の副題のとおり「30分でインサイダー取引がわかる」かどうかは別としまして、こういった一般の方向けの解説を読みますと、サンエー社の件は普通に考えても「ちょっとヤバイんじゃないかな?」と考えられるところだと思います。実際のところ、サンエー社としては「ヤバイ」と思って証券会社さんに意見を求めたわけですから、どうして証券会社としては、違法性なし(だいじょうぶ)といったサインを送ったのでしょうか。下手をすると、先日の証券会社社員によるインサイダー取引を発生させてしまった内部統制上の問題点ともつながってしまうのではないかと邪推してしまいますが、このあたり、もうすこし詳しい事実関係が知りたいところであります。

インサイダー取引が刑事事件として立件されるのであれば、サンエー社役員の方に故意が認められる必要性がありますので、証券会社さんの意見にしたがって公募増資を行ったというものであれば「故意が認められない」(もしくは行為に違法性なし)とされるでしょうが、課徴金賦課につきましては「うっかりインサイダー」なるお馴染みの用語でもおわかりのとおり、明確な違法性に関する認識がなくても柔軟に課されてしまうわけですから、サンエー社の役員の方にしてみれば納得のいかないところだと思われます。

金融庁HPで「ベターレギュレーションの進捗状況について」と題する報告書が公表されておりまして、そのなかでプリンシプルベースとルールベースの最適の組み合わせが大きな柱とされ、一例として先日公表されました「内部統制報告制度に関する11の誤解」が引用され、「ルールの解釈にプリンシプルから光をあて、実務が過度に萎縮することがないよう、制度の趣旨を明確に示す取り組みを実施」した、と説明がなされております。私はこの金融庁の「11の誤解」につきましては、かなり画期的であり、評価している立場でありますが(当ブログにお越しの常連の皆様は別の意見と思いますが)、これがルールベースとプリンシプルベースの最適な組合せの適例かどうかはちょっとよくわかりません。先のサンエー・インターナショナル社の例などをみますと、この「プリンシプルベースとルールベースの組合せ」なるものは、ルールの隙間をプリンシプルで埋める、といった印象が強いのではないでしょうか。そもそも金融市場の健全化をはかる為には、厳格な司法判断やがんじがらめの事前規制では機動的な取締りが困難なために、専門性を発揮した柔軟な取締りのために、プリンシプルベースで「穴」を作らない方に目的があるのではないかと疑ってしまうところがございます。となりますと、むしろプリンシプルベースというのは使い方次第では、実務に対して過度の萎縮的効果を与えてしまうのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

そもそも、「11の誤解」につきましても、実務が過度に萎縮することがないように」とは言いますが、経営者評価と監査とは別々の「実務」があるわけですから、経営者にも監査法人にも、それぞれの業務が萎縮しないことへの効果はあったのでしょうか?私には、どっちかに効果があれば、一方は萎縮してしまう関係にあるのではないか、と疑問に思っております。いずれにしましても、いま私が期待しておりますのは、相談センターなどの問い合わせ事例を集計して、世間ではこの内部統制報告制度を施行するうえで、どんなことが問題になっているかを早期に公表していただくことであります。それと、「金融専門サービス士」構想ですが、これはまた別の機会に思うところを書かせていただきます。

5月 20, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年1月18日 (金)

インサイダー取引に対する「課徴金制度」の効用

(18日午前 追記 辰のお年ごさんより、2点ほどご指摘いただいております。また、igi先生からも適用条文に関するご意見をいただいております。貴重なご意見ですので、併せてお読みください。)

インサイダー取引に関するニュースは最近ひんぱんに飛び交っておりますが、やはり「NHK報道局の記者・ディレクターの方々による取引疑惑」となりますと、どこも一面トップで取り扱うニュースとなってしまいます。(たとえば日経ニュースなど。)以前、家族を不幸にするインサイダー取引なるエントリーをアップいたしましたが、家族だけでなく、会社も不幸にするのがインサイダー取引でありまして、先のエントリーでも申し上げましたとおり、コンプライアンス経営のために役員さんだけでなく、役職員でのセミナー受講をお勧めしたいのが、このインサイダー防止体制の整備であります。(東京や大阪の大手法律事務所は、どこも詳しい専門家の先生方がいらっしゃると思います)

磯崎さん(isologue)も、このたびのNHK記者さんの疑惑に関する要件該当性について疑問を呈しておられますし、また、葉玉先生(会社法であそぼ)も年初のエントリーにおきまして、今年の企業法務トレンドのひとつとして「金商法における課徴金制度の強化」(あとの二つは株券電子化とアクティビスト対策における敵対的買収防衛策、とのこと。)を掲げておられますので、おそらく内部者取引への対応は上場企業における喫緊の課題であることは間違いないと思われます。今回のNHK記者さん方のインサイダー取引で問題となりそうなのが、磯崎さんもご指摘のとおり「会社関係者がその職務に関して知ったとき」に該当するかどうか、といった要件該当性の問題(追記 ただしここでは重要事実に関する情報を入手した報道関係者が問題とされておりますので、正確には「情報受領者による不正な取引」として166条3項の前段もしくは後段の要件該当性が問題となりそうです。辰のお年ごさんと、igi先生のご指摘です。ただ当該情報取得者が「職務に関して知った」かどうか、という論点は166条1項の事案とほぼ同じだと思料されます。)と、もうひとつ、行政処分たる「課徴金制度」の対象事案であることと思われます。ちょっとややこしいのですが、金融商品取引法175条(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令)の第1項が、同法166条1項または3項を引用しておりますので、要するに「刑事罰たるインサイダー取引の違反行為と同じ要件によって、金融庁は課徴金納付命令を出すことができる」というものであります。

(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令
第175条  

第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において同条第1項に規定する売買等をした者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、その者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
一  第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において有価証券の売付け等(同条第一項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日前6月以内に行われたものに限る。以下この号において同じ。)をした場合 次のイに掲げる額から次のロに掲げる額を控除した額
イ 当該有価証券の売付け等について当該有価証券の売付け等をした価格にその数量を乗じて得た額
ロ 当該有価証券の売付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後における価格に当該有価証券の売付け等の数量を乗じて得た額

ちなみに、166条1項は、以下のとおりです。

(会社関係者の禁止行為)
第166条  次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
一  当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。

また、166条3項は以下のとおりであります。(辰のお年ごさん、igi先生のご意見などからみて、この3項後段が適用されるようですね。 記者は「情報受領者」ですので。ただ前段がストレートに適用されるかどうか、となりますと情報伝達の相手方をかなり広く解釈することとなり、たとえ放送局であっても、インサイダー取引とそうでない取引の境界線を引きにくくなるために妥当とはいえないように思います。たいへん勉強になりました。)

3 会社関係者(第1項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第1項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であつて、当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知つたものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。

刑事罰は「インサイダー取引は悪いことだ。悪いことをやった奴は道義的非難は当然だし、制裁を加える必要がある」というものですが、課徴金納付命令は刑事処分ではなく、行政処分ですから、行政目的達成のために課されるわけであります。つまり、「ズルをして儲けた奴のやり得は認められないから、その利益は返してもらう」という制度であります。(そのために、不当な利得をいくらと認定するのか、といった規則が定められております)したがいまして、原則として、そこには道義的非難とか、制裁という意味は基本的にはございません。(いまのところ。ただし、今年あたり「制裁的意味合い」のある課徴金制度を認めた金融商品取引法の改正案が国会で成立する予定であることは、前に述べたとおりであります。またすでに制裁的な意味合いのある課徴金制度は、金融庁管轄でも「改正公認会計士法」によって導入されております。)もちろん、インサイダー取引の刑事罰に関する構成要件(金商法166条)をそのまま課徴金制度(同法175条)でも引用しているわけですので、証券取引等監視委員会のほうで「この記者さんたちは、何度も繰り返してやっている」とか「そもそも報道機関という、もっとも規律を守るべき人たちがやっている」というこ