2013年7月 1日 (月)

インサイダ-取引規制における重要事実の「公表」の内容について

5月28日に、エルピーダメモリの増資などを巡るインサイダー取引に関する金融商品取引法違反の事件で、東京地裁は、経済産業省元審議官の方に有罪との判決を下したそうです(なお、判決直後に被告人側は控訴されたとのこと)。

この事件では、被告人側は、2009年4~5月にエルピーダ社など2社の株を購入する前に、2社の増資や合併に関する複数の報道があったり、会社側が「増資を検討したい」と発表したりしたことから、「重要事実は既に公表されている」と主張していたのですが、裁判所はこの主張を採用しなかったようで、「検討する」という程度では、いまだ会社側が重要事実を公表したことにはならず、会社関係者と一般投資家との間における情報の格差が生じていた、として被告人側の主張を排斥したそうです。

どの程度の事実が公表されれば「公表」がなされたといえるかは、インサイダー取引規制の趣旨に照らして解釈されるべきですから、被告人側の主張を採用しなかった地裁の判断は正当だと思います。しかし、実際のところ金商法166条4項における「公表」の内容については、いったい重要事実がどの程度まで明らかにされていれば「公表」にあたるのかは明記されていません。したがって、どの程度の事実が開示されれば金商法166条の「公表」がなされた、といえるかは法律上の論点になりうるものと考えます。ちなみに金商法166条の関連条文は以下のとおりです。

第166条 次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第5号から第8号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後1年以内のものについても、同様とする。

4 第1項、第2項第1号、第3号、第5号及び第7号並びに前項の公表がされたとは、上場会社等に係る第1項に規定する業務等に関する重要事実、上場会社等の業務執行を決定する機関の決定、上場会社等の売上高等若しくは第2項第1号トに規定する配当、上場会社等の属する企業集団の売上高等、上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関の決定又は上場会社等の子会社の売上高等について、当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社(子会社については、当該子会社の第1項に規定する業務等に関する重要事実、当該子会社の業務執行を決定する機関の決定又は当該子会社の売上高等に限る。以下この項において同じ。)により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該上場会社等若しくは当該上場会社等の子会社が提出した第25条第1項に規定する書類(同項第11号に掲げる書類を除く。)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。

たとえばA社とB社が合併する、という重要(と思われる)事実についても、「A社とB社が近々合併することを決定した」との事実を開示するだけでは足りず、合併の条件等も具体的に明らかにされることが必要とされています。単に合併の事実だけが開示されたとしても、一般投資家がどのような判断を下すべきかは明らかにならないからです。とりわけ会社にとって重要と思われる事実であっても、インサイダー規制の上では「軽微基準」の対象とされる場合があります。売上高基準などが軽微基準とされている場合には、合併事実によって当社の売上高にどれだけの影響が出るのか、そこまでの情報が明らかになる必要があるのではないか、といった問題も生じます(このあたりは争いのあるところです)。

実際のところ、重要事実の「公表」がなされたと認められるためには、一般投資家の投資判断に影響を及ぼすべき事実の内容がすべて具体的に明らかにされ、一般投資家において会社関係者等と対等な立場で投資判断をおこなうことができる状態にすることが必要だと考える立場がある一方で、一般投資家において会社関係者と対等な立場で投資判断を行うことができるまでの情報開示は必要とはいえない、とする立場もあります。本事件の例ではそれほど異論が出ないかもしれませんが、「公表」の内容について真剣に考えますと、取引関係者の不公平感というものをどう考えるのか、市場の秩序維持という点からみればどちらが妥当か、といったあたりの主観的な考え方によって見解が分かれるものと思いますし、かなり難しい問題を含んでいるように感じます。

7月 1, 2013 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月 4日 (月)

インサイダー規制に関する検察のジレンマと罪刑法定主義の呪縛

私事で恐縮ですが、今月23日、24日に東京大学で開催されます「法曹倫理国際シンポジウム」にて基調講演をさせていただきます。英語が堪能ではございませんので、どなたかに私のレジメを英訳していただくことになっております(すみません・・・<m(__)m>)私が発表しますのは、(企業不祥事発生時の)第三者委員会と職業倫理に関するテーマでございます。

ところで、企業価値判断に関する第三者委員会委員の職業倫理が問題となりそうなところですが、第三者委員会委員が情報を提供したとされるインサイダー事件に関する記事が読売新聞の1月29日付け朝刊に掲載されておりました。記事だけでは真実かどうかは即断できませんが、会計専門職にある委員の方がTOB情報を昔からの知り合いに漏えいしたのではないか、との疑惑だそうであります。情報提供者、ということなので、現行のインサイダー規制の上では処罰が難しい、と報じられています。

最近は、インサイダー規制、とりわけインサイダー情報を他人に提供した者のモラルに関する話題が増えておりますが、FACTA誌でも取り上げられておりますSMBC日興証券元執行役員と知人の会社役員のインサイダー刑事裁判がスゴイことになっております。会社役員側の刑事裁判において、裁判所は予定していた判決言い渡しを延期して、訴因変更を促したそうであります。裁判所が訴因変更を促す・・・ということは実務的には生じるところでありますが、判決言渡し直前という時期においては異例のことかと思います。裁判所は「このままでは会社役員を有罪にはできない」とのことだそうですが、被告人側としてはなんとも・・・(会社役員の弁護人は東京地検特捜部出身の著名な方ですが、当然怒り心頭だったようで)。

証券会社の執行役員の方がインサイダー情報を漏えいするということなので、検察側はこの会社役員よりも証券会社の執行役員側の悪質性を強調したい、とのことだったと推測いたします。裁判では、双方をTOBの「公開買付け等関係者」によるインサイダー取引の共同正犯として起訴されていました。執行役員と会社役員がこの取引によって「ギブ&テイク」の利益状況にあるところから、共謀共同正犯が立件できると検察側は見ていたのではないかと。とりわけ真正身分犯については身分のない者も共同正犯が成立する、というのが判例・通説の立場なので、なんとかなるだろう・・・との見込みがあったものと推測いたします。

しかし裁判所は「検察の立件には無理がある」と感じたようであります。たしかに真正身分犯の共同正犯は非身分者にも成立する、というのが判例の立場ではありますが、本件は、そもそもインサイダー規制の中に別途「一次情報受領者」によるインサイダー取引規制の条文が存在します。この条文があるということは、一次情報受領者たる共犯的立場の者は、この条文に該当する場合のみ処罰の対象とされることを法が予定しているのではないか・・・とも考えられそうであります。いや、そう考えることが刑法の大原則たる罪刑法定主義の考え方に合致するのではないか、と。そう考えますと、会社役員側の刑事判決直前になって、裁判所が訴因変更を促した、というのもナットクできるような気がいたします。

検察側が、裁判所の指示に従って訴因を変更するとなると、会社役員側を第一次情報受領者によるインサイダーとして処罰を求めることになりますが、そうなると元執行役員についてもこの「ほう助犯」として処罰を求めることになりそうです。しかしこれでは「元執行役員の情報漏えいこそ悪質」と捉えた検察の立件構想は不発に終わってしまいます。それだけでなく、ほう助犯として捉えるとしても、情報提供行為は構成要件該当性の問題なので、なにをもって正犯者の犯行を容易にしたのか、そのあたりの具体的な事実が明確に主張されなければ成立しないのかもしれません(このあたりは、ちょっと私も自信がありませんが)。検察としては、控訴審の裁判官は共同正犯を認めてくれる、ということに賭けて、このまま訴因を維持するのでしょうか、それとも変更するのでしょうか。

元執行役員側も、公開買付け等関係者によるインサイダー取引の共同正犯として立件されているそうですが(ただしこちらは否認事件)、会社役員側に共同正犯が否定される以上は、防御の対象となる事実自体が変わってきますので、こちらも否定されることになるものと思われます。こういった検察のジレンマも、やはり現行のインサイダー取引に関する条文構造の「建てつけの悪さ」によるものかと。現在、インサイダー取引規制については情報提供者も正犯として立件できるように改正が検討されておりますが、身分犯、不真正身分犯の共犯に関する最高裁の考え方と矛盾しないような条文を検討しなければ、将来的に同様の問題が生じることも考えられるのではないでしょうか。

2月 4, 2013 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年12月12日 (水)

新しいインサイダー取引規制と事前規制的抑止力

きょう(12月11日)は金融審議会作業部会において、新しいインサイダー取引規制(現行法の改正)の大筋がまとまったことが報じられました。証券仲介会社や事業会社の役職員による情報伝達行為・取引推奨行為が新たに規制対象に含まれるようですが、そのかわり(情報伝達者が)インサイダー取引を行わせる目的を有すること、実際に当該情報によってインサイダー取引が行われたことなどが成立要件とされるそうなので、企業実務に過度の萎縮的効果を与えないように配慮されているようです。また繰り返し情報伝達行為等を行った悪質な証券会社の社員等については、氏名の公表もあるとのこと。ネット検索が当たり前の時代に「公表」というのはかなりツライ行政処分ですね。その他には西友インサイダー事件で行政当局側が苦労したTOBで買収される側の企業関係者も「公開買付関係者」に該当することが明確にされるようです(詳しくは金融庁の こちらのページをご参照ください)。

そもそもインサイダー取引規制は刑事罰、課徴金を課すということですから、事後規制的な色合いが強いものと思います。エンフォースメントを厳格にすることで、利得行為への抑止力が働き、市場の健全性を確保することが図られるものと考えられます。しかし情報伝達行為や取引推奨行為までインサイダー取引規制の対象となりますと(他人の利益のためにインサイダー行為を勧める、ということなので)、「情報伝達者の利得をはく奪するというよりも、制裁的な課徴金で抑止しよう」といったところが問題になってきます。今回の作業部会でも、「他人の計算によるインサイダー規制」が、憲法の禁止する二重処罰にあたらないかどうかが真剣に議論されていたようで、このあたりは著名な刑法学者、行政法学者の代表的なご意見をもってしても、インサイダー規制への適用ということについてはっきりしていません。現に経団連の意見書でも、「課徴金の引き上げは不当利得の剥奪の趣旨を逸脱しない範囲において行われることが望ましい」とされているようです。

また今年10月にはJDQのSJI株に関わるインサイダー取引について、証券取引等監視委員会の勧告にもかかわらず金融庁が処分をしないとする、インサイダー取引では初めての不処分決定も出ました。ペナルティを引き上げても、(法律家の支援の下で)とことんまで争うような事案も出てくるでしょうし、確信犯的な者に対して多少ペナルティを重くしたとしても「やる奴はやる!」と予想されます。また「俺は二次情報受領者だ」といった主張をしてくる人たちも増えるかもしれません。したがって事後規制的効果というものは、抑止力に一定の限界があるでしょうし、そもそもインサイダーによる事後規制の効果(引き上げ)については、ハコ(企業)そのものが反市場的な場合にこそ(そこそこの)実効性があるのではないでしょうか。まじめな会社の「出来心による」社員のインサイダー行為には、現行法上のペナルティでも十分抑止効果はあると考えています。

ということで、まじめな上場企業にとってインサイダー取引規制が改正された場合の問題は、やはり実務上は事前規制的効果ではないでしょうか。これまでのインサイダー防止体制の構築といえば「自己完結型」でした。ともかく身内から不幸な犯罪者を出さないために、情報管理体制を構築する、「やれば必ずバレる」という実態を社員間で周知徹底する、という自助努力が中心でした。しかし今回の情報伝達行為・取引推奨行為の規制化や「公開買付関係者」の範囲の拡大は「連携・協調型」、つまり他社との連携・協調による防止体制が求められるように思います。自社で努力していたとしても、他社関係者の行動次第では通常の業務遂行に支障を来すこともありますし、また不要なインサイダー疑惑に巻き込まれる恐れも生じます。先の経団連意見書でも「業務遂行上の必要がある場合には適用除外にすべし」と主張されているそうですが、このあたりになんとかインサイダーリスクを自社のみでコントロールしたい、との気持ちが表現されているように思います。このあたりが事前規制的効果としてはとてもやっかいかなぁと感じます。

また、オリンパス事件では行政当局が刑事罰と課徴金、いずれの適用も視野に入れていたように記憶していますが(間違っていたらごめんなさい)、今後、証券取引等監視委員会が、「多少の不処分事案は出たとしても、とことんやる!」といった政策的判断を行うことによる実務上の影響も無視できないと思います。まじめな上場会社としては、そもそも疑惑の渦中に巻き込まれること自体を避けたいわけです。インサイダー取引の可能性が疑われるような未公表重要事実の管理を徹底するためにはどうすべきか、当局の取締の動向などにも配慮したうえでどこまで未然防止を進めていくべきか、ということの検討も、一般の事業会社にとっては必要かと思われます(ただし友好的TOBの買付対象会社のように、いきなり関係者に重要情報が届く、ということもあって、万全の準備などはできないかもしれませんが)。

我々弁護士は、ときどき何か都合が悪いことがあると、つい「これは守秘義務だから」などと安易に守秘義務を持ち出すことがあります(私はそんなことはありませんが・・・)。他者からの執拗な追及を免れるには非常に便利な言葉です。今後、企業間の情報伝達において「これはインサイダーだから」などと、ときには自社にとって都合の悪い情報を開示しない理由として、またときには相手に妄想を抱かせるようなセールストークとして活用されることを懸念するのは私だけでしょうか。。。

12月 12, 2012 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年8月21日 (火)

インサイダー取引における情報提供者に共謀共同正犯は成立するか?

SMBC日興証券社の元執行役員の方がインサイダー取引(金商法違反)被疑事件で逮捕されたことはご承知のとおりかと思いますが、その元執行役員の方は、実際に株式の売買を行った金融会社社長と同様に「正犯」として起訴されたそうであります。つまり共謀共同正犯として立件された、ということであります。インサイダー取引規制は主に情報受領者が自らの利益を得るために未公表事実を用いて株取引を行うことを罰するものでありまして、情報提供者は処罰の枠外であります。もちろん、情報提供者を助けるという意味での「ほう助犯」が成立することはありうるとしましても、「正犯」として立件するということはおそらく初めてのことであり、検察側の並々ならぬ意欲が窺われます。

ただ、インサイダー取引規制(金商法違反)の実行行為としては、実際に株取引で利得を得ることが可能な地位にあることが必要かと思われます(実際に株取引で利益を得ずともインサイダー取引違反は成立しますが、少なくとも利益を得ることができる立場にあることは必要)。元執行役員の方は、自ら株取引をやるわけではないので、そもそも利得を得ることが可能な地位にはないように思われます。そうしますと、果たして元執行役員の方が、インサイダー取引規制の実行行為を遂行できない(厳密にいえば、共謀によっても、インサイダー取引の実行行為者と同等に評価できるほとの主観的な意思を持ちえない)ことになります。

この点検察側は、(元執行役員は)利益を得ることが可能な地位にあったものと捉えているようでして、それは金融会社社長が株取引でもうけることができれば、自分が金融会社社長に負っている損失補償分もまた減少するという意味において、元執行役員も利得を得る地位にあったものと評価されているようであります。しかしそもそも顧客の損失を補てんすることは禁止行為であり、損失補てんの合意が直ちに取締法規違反として無効になるわけではありませんが、おそらく公序良俗違反となり私法上も無効になる可能性が強いと思われます。そうなると、法律上の利得を元執行役員が得ることができる地位にあったわけではなく、単純に「やっかいなトラブルから逃れられる」という事実上の利益を得るにすぎないものと考えられます。

しかし、果たして「事実上の利益」を得ることが可能な地位にあれば、情報提供者もインサイダー規制違反の実行行為者になりうる、ということが妥当なのでしょうか。もし事実上の利益を得ることができるだけで正犯性が認められるのであれば、(各証券会社の報告書にも出てきますように)この元執行役員の方以外にも、各証券会社において「顧客サービスの一環として」情報を流した営業社員の方々がいるわけで、そこでも「情報提供者の事実上の利益」を認めることはできるように思われます。「元執行役員については正犯性が認められるが、その他の営業社員には認められない」という区別を説明するには、事実上の利益というだけでは説得力に乏しいのではないでしょうか。

元執行役員側は、共謀共同正犯としての起訴事実について争う方針のようでありますが、かりに裁判所が未公表事実の情報提供者について共同正犯の成立を認めるということになりますと、法律の改正を待たずともその適用範囲は相当に広がる可能性があるわけでして、少なくとも上場会社の役職員に対する影響力は高いものになろうかと思います。情報受領者が正犯となり、情報提供者はその「従犯(教唆、ほう助)」にすぎないと考えれば、検察側はまず情報受領者を捕まえて、その正犯を確定することが前提となりますが、情報提供者にも正犯が成立するとなれば、まず情報提供者から捕まえて、情報受領者のインサイダー取引は補助的に活用する、という手法もとれることになります。つまり検察側の捜査手法にバリエーションが増えるわけで、下からではなく(見せしめ的に)上から規制の網をかぶせることができることになるのではないかと。課徴金制度と刑事罰処分とをうまく組み合わせることによって、相当に弾力的な摘発が可能になるものと予想されます。

こうなりますと、インサイダー取引を規制する意味は「抜け駆け的な不届き者への処罰」というよりも「投資家に対する信任義務違反への処罰」という意味合いが強いものになっていくように思われます。このようにインサイダー取引規制の趣旨を変化させることによって、①証券会社に対する事前規制的手法(証券会社に「市場の番人」たる責任を加重させる施策)と、②一般上場会社に対する事後規制的手法(エンフォースメントを活用した企業の自主規制へのインセンティブ)とを協働させる妙味があるように思われます。インサイダー取引規制の在り方は、多くの不公正取引の温床となっている要因を取り除き、市場の健全性を確保するためにも、その実効性をどのように確保すべきか、これからも注目されるところであります。

8月 21, 2012 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年3月22日 (木)

公募増資インサイダー事件に思う「信託銀行の法令遵守態勢」

(3月22日午前 追記あります)

本日(3月21日)東証ホールにて「企業不祥事への早期対応に向けた処方箋」なる講演をさせていただきました。ご聴講、誠にありがとうございました。不祥事への早期対応にとって重要なのが「不正の兆候への気づき」と「有事意識の共有」であることを講演で申し上げましたが、本日報じられている中央三井アセット信託銀行によるINPEX(国際石油開発帝石)公募増資に絡むインサイダー事件は、まさに担当者の「気づき」が欠如したことに起因するもののようであります(日経新聞ニュースによると、中央三井の社長さんが「担当者は『重要情報』ではないと判断した」と記者会見で述べたことが報じられております)。課徴金の金額こそ数万円にすぎませんが、一昨年から噂されていた重大なインサイダー疑惑に関するものであり、信託銀行の今後の業務に重大な影響が出ることは想像に難くなく、社会的信用毀損の程度を併せ考えますと、同銀行にとっては極めて重大な不祥事に発展してしまったように思います。

私の妻も長年信託銀行に勤務しておりますので、ときどき「コンプライアンス研修」なるものを受けております。その研修内容をときどき妻から聞いておりますが、あまりにも形式的なものであることに愕然としております。いわゆるWEB研修というものが主流のようですが、基礎的な法令の知識や顧客資金の取扱い等、チェック形式によるもの。もちろん支店職員とホールセール業務を扱う職員とでは、求められるリーガルリスク対応は異なるものだとは思いますが、いわば「金融検査ありき」の法令遵守態勢の構築ではないでしょうか。社員の法令遵守態勢はこうやって確保していますよ、といった履歴を残すための対応ではないかと。いや、金融検査よりももっと手前の社内監査に耐えうるコンプライアンス研修、といったほうがよいかもしれません(支店サイドとしては、本部から臨店する内部監査部のチェックのほうがピリピリするようです)。

社長さんの記者会見でのご発言のように、本当に主幹事証券会社と接触した担当者は「プレヒアリングに関する情報提供は重要情報にはあたらない」と判断したのでしょうか?相手は著名証券会社でありますし、にわかには信じがたいところではありますが、もし本当だとするならば、当信託銀行の法令遵守態勢はどうなっているのでしょうか?このあたりは金融コンプライアンスに詳しいご専門の方のご意見もお聴きしてみたいところであります。そのご担当者の方が、普段どのようなコンプライアンス研修を受けておられたのか。本日、ある取引所関係者の方から「昔は取引所の職員は積極的に株を買ってリスク感覚を理解するよう勧められた。今ではとても考えられないですね」と述べておられましたが、銀行のコンプライアンス感覚も10年で大きく変わったと思います。以前であれば許されていたようなことも、経営環境の変化とともに「絶対に許されない」と理解されなければならないわけでして、そのあたりの環境の変化と金融機関の担当者の意識にズレが生じてしまっていて「気づく」ことができなかったのでしょうか?

もちろん行員の横領事件や説明義務違反(適合性原則)の防止も重要なコンプライアンス研修の中身ではありますが、毎度申し上げておりますとおり、事後規制手法への対応(行員や役員の行為による民事、刑事事件の防止)から事前規制手法への対応(法令遵守違反による信用毀損のリスク。つまりリスクベースで法令違反を回避する対応)へ「態勢整備」の重点をシフトさせていかなければ、今回のような重大な法令違反を早期に回避することは困難ではないかと考えます。このあたりは、金融機関といえども、また厳格な金融検査が存在するといえども、一般の企業と同じではないかと思います。

3月22日午前 追記

毎日新聞ニュースでは情報提供者側である証券会社の営業部門担当者から増資情報が伝わったとされています(毎日新聞ニュースはこちら)。ということはチャイニーズウォールが機能していなかったということなんでしょうか?たしかこの証券会社の情報遮断統制は日本でもナンバーワンとお聴きしておりますが、結局、これも「人の問題」なのでしょうか。また、そうだとすると信託銀行側としても、当然に(プロとして)情報遮断統制のことはご存じのはずですから、「重要情報とは知らなかった」という言い訳が果たして通用するのでしょうか。。。

3月 22, 2012 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2012年1月13日 (金)

家族を不幸にするインサイダー取引(その2)

もうかれこれ4年半前に書きましたエントリー「家族を不幸にするインサイダー取引」の続編であります。あれから味の素社員による日本初の否認審判事件があり、カルピス社員の妻による「聞いちゃったインサイダー」事件もあり、本当に妻名義による株取引が問題化した事案もありました。これまでは課徴金事案だったわけですが、経産省官僚の方によるインサイダー疑惑につきましては、妻名義(4口座)による取引が特捜部主導による刑事事件として取り扱われることとなったようです。

もちろん、日本で一番(インサイダー取引を)やってはいけない人がやってしまった、との疑惑があるわけですから、刑事処分、しかも否認事件とあって、身柄拘束ということになってしまうのも仕方ないかもしれません。しかし、私が一番心配するのは、ご本人が否認していることによって、どれほど親族が過酷な捜査に耐えなければいけないのか・・・・・ということであります。まぁ、ご本人については、たとえインサイダーに該当せずとも、組織内ルールに反する行動があったようですから(取扱い企業の株売買の禁止、売買時の報告義務違反等)、疑惑をもたれること自体、自己責任と言われてもやむをえないと思います。しかし家族の方々はどうなんでしょうか。

「俺はやってない。妻が自分の利益のためにやったんだ」との抗弁は、それが真実であれば奥様も耐えられるでしょうけど、夫をかばうために「私が自分の利益のために、たまたま聞いちゃった情報をもとに買っちゃいました」と虚偽の供述をされるのでしょうか?下手をすると共犯や証拠隠滅の刑事犯に該当してしまうわけで、普通は奥様をそのような窮地に陥らせてまで否認を貫く、ということはないんじゃないかと。いずれにしましても、家宅捜索を受ける奥様の境地、そして本日の経産省幹部逮捕の裏で、奥様は捜査機関に対してどのような供述をされているのか、とても関心があるところです。

ところで、以前のエントリーで、某社の資本提携に関する事案につき、株価と出来高を示して「明らかにインサイダー取引があったのでは?」といった感想を書きました。取引所も当局の方も、「絶対にインサイダーは見逃さない」といった解説をされますが、実際には摘発できないインサイダー取引も多いのではないかと(^^;;。

ただ、昨今はJ-IRISSに登録する上場会社も急増しておりますし、各企業とも内部統制の一貫としてインサイダー取引防止体制を構築され、社内ルールも整備されてきておりますので、おそらくピンポイントで審査や調査が絞られるケースも増えているのではないかと推測いたします。当局も人的資源が限られておりますので、リスクアプローチの手法により、嫌疑が濃厚なものを優先的に対象事案とされることが考えられます。やはり普段の株取引の時点において社内ルール違反の事実が認められるのであれば、重点的に調査や審査の対象になるのかもしれません。そう考えますと、社内から不幸な犯罪者を出さないためにも、インサイダー防止のための社内ルールはきちんと運用しておくことが企業のリスク管理の視点からも大切なことではないか、と思うわけであります。たとえ自身が株取引をしない方であっても、情報提供者となって周囲の者を不幸にしないことも心得ておく必要があろうかと思います。

1月 13, 2012 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年10月 7日 (金)

SMBC日興証券執行役員のインサイダー疑惑

10月6日の日経新聞ニュースによりますと、SMBC日興証券の社員(執行役員)が、今年2月、エノテカ社のMBOに関する情報を、公表前に知人金融会社役員に伝え、当該金融会社役員がエノテカ株式を購入、公表後に売却したとして、当該金融会社役員とともにインサイダー疑惑で強制捜査の対象となっているとのこと。ちなみに日興さんは公開買付代理人として関与していたものです。

SESCさんが、すべてのインサイダー事件を摘発できるかどうかは別にして、リスク・アプローチによる調査手法からすれば、賛同意見表明型のMBO事案(関係者が未公表情報を共有する範囲が広い)、しかも株主から相当に批判の出た事案(上場から廃止までの期間が非常に短い)において、疑惑の値動きが調査の対象になることはむしろ当然のことではないかと思われます(元々、取引所の審査にひっかかったのか、SESC独自の調査によるのかはわかりませんが)。

気になるのは、日興証券側のチャイニーズウォールですが、上記の日経ニュースによると、疑惑の執行役員さんは投資銀行部門を統括されておられるようですから、もともとM&A事案については情報が集約されてくる立場にあるのでしょうね。したがってneed to knowのルールが破られた、というわけではないようです。(チャイニーズウォールが機能しなかった、とすれば一大事ですね(^^; )ただ2009年ころから、当該金融会社役員の方が未公表情報によって売買を繰り返していた、と報じられているところは気になりますが。。。

他の案件の主幹事証券たる地位に影響する等、証券会社の場合は、単なる個人の犯罪では済まないと思いますので、今後のSESCさんの調査が気になるところです。そういえば、特別調査案件といえば、3が月前ころに、あの経産省幹部のインサイダー疑惑がありましたが、その後、どうなったんでしょうね。西友インサイダー事件のように、結構「落としどころ」がしんどい状況になっているのでしょうかね?

10月 7, 2011 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年7月13日 (水)

ボトムアップ型のインサイダー情報管理体制の整備とは?

月曜日は大阪証券取引所主催の「インサイダー・セミナー2011」が開催され、パネルディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。400名以上の方がお見えになり、たいへん盛況でありましたが、「企業の情報開示体制とインサイダー情報管理の巧拙」のテーマの冒頭、

「朝日新聞朝刊の一面に、『揺れる統合~東証が大証にTOBか』なる見出しが躍ったにもかかわらず(また、株価も9%も上昇したにもかかわらず)、当日の朝、大証は何の適時開示もリリースしなかったのはおかしいのでは??TOBかける側でなくても、なんか一言あってもいいのでは??」(もちろん個人的な意見です)

と私が口走ってしまい、会場で(多少)ウケした一方で、主催者(および主催者側パネリストの方)を困惑させてしまったことを反省しております。「まあ、こういったことを笑って流せるのが関西のいいところでして」とパネリストの方から後でフォローしていただきましたが(^^;;えらいすんまへんでした。その分、J-IRISSの広報は十分させていただきましたので、それで勘弁してください。。。

証券取引等監視委員会(特別調査課)の元統括審査官の宇澤さんにも、かなり踏み込んだお話をしていただけたのも関西ならでは・・・というところだったのかもしれません(もちろん、個別案件についてのお話は一切ございませんでした。ねんのため・・・)。法の理屈というよりも、摘発する側の論理を語ってもらうことは非常に有益ですね。

ただ、今回のインサイダーセミナーのモデレーターをさせていただいて、非常に貴重な勉強をさせていただいたのは、原吉宏弁護士(北浜法律事務所・外国法共同事業)のセミナーレジメの解説と、パネリストとしての回答であります。私が重要事実の管理体制については、子会社の社員にまで管理体制を整備する必要があるのか?と質問したところ、原弁護士はきっぱりと「必要です。今の時代は企業というよりも、企業グループでインサイダー防止体制を整備しなければならない」と発言されました。

そういえばここ数年、インサイダー規制は厳格さを増しており、とりわけ「バスケット条項」を用いた規制が増えております。(インサイダー取引におけるバスケット条項の適用事例と論点については、旬刊商事法務の6月25日号でも、石井輝久弁護士が解説をされていますね)リコールやPLなどの会社事故の発生、企業不祥事の発生などであり、このたびの震災直後も、多くの企業でインサイダー情報が飛び交ったものと推測いたします。また決算に絡んだ不適切な会計処理などの発覚もこれに含まれるものと思われます。原弁護士は、こういった重要情報については、従来からの情報管理、つまりトップダウン型による管理体制だけでは対処できないため、ボトムアップ型による情報管理体制を構築する必要がある、と解説をされておられました。

なるほど、たしかに企業不祥事や社内重大事故などは、経営トップが先に知るのではなく、現場の社員が知るところであり、また「投資判断に影響を及ぼすものかどうか」は、なかなか経営中枢で判断ができないところであります(ひょっとすると現場社員は隠ぺいするかもしれません)。こういった情報が適宜適切に伝達されなければ、まさに多くの社員によるインサイダー取引が行われる可能性があり、情報伝達プロセスの整備について、ボトムアップ型による体制整備が必要となるわけです。こういった発想は、おそらく実務においてインサイダー防止体制の指導をされているからでしょうね。現実には、なかなか効果的な内部統制が構築されるわけではありませんが、やはり先ほどの原弁護士の発言のとおり、企業グループあげて、インサイダー研修を行い、誘発型も含めて情報管理を徹底しなければならないものと思われます。雇用の多様化に伴い、リスク・アプローチの観点から、人事政策面にも踏み込んだ体制整備の提案にも、(最近売れ筋の本「人事部は見ている」※を読んだせいからか)納得いたしました。

※・・・この本はオモシロイですね。著者ご自身が、人事部の仕事は企業統治と密接な関係にある、といった意見をお持ちなので、法律家にも全編、興味深いお話が詰まっております。この本を読んで、電力会社ではなぜ「会長職」の力が強いのか、課長昇進が一番早い同期が、かならずしも役員昇格で優遇されるわけではない(社内政治力がすべて)等、いろいろと考えがまとまりました。

調査(審査)する側、摘発する側、会社を支援する側と、バランスよくお答えいただきましたが、もう少し時間が許されたならば証券会社の方にも参加いただければよかったなぁと、企画する側としては少々反省をしております。あと日本板硝子さんの事例(空売り規制問題)や金融審議会での改正議論なども触れたかったのですが、時間的に困難でした。また、司会進行役は進行に徹して、あまり出しゃばらないほうが良い!ということも、猛省しております(^^;;。

7月 13, 2011 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年7月 8日 (金)

なぜ経産省現役官僚はインサイダーに手を染めたのか?

エルピーダメモリ株の売買に関する経産省現役官僚の方のインサイダー疑惑でありますが、今朝(7月7日)の日経新聞一面記事を読み、本当に驚きました。産業再生法によるエルピーダ社の再生計画に関与するキャリア幹部が本当に奥さん名義で同社株式の売買をやるものなのでしょうか?10年前ならまだしも、これだけインサイダー規制が厳しくなっているご時世であります。ご本人は否定しておられるようですので、断定的な表現は差し控えますが、どうにも信じられません。自分の妻に、あの厳しい取調べが待っていると思うと、知情の有無を問わず、少なくとも私には耐えられないものであります。

金商法166条1項3号による「法令権限保有者」(主に企業に対する規制行政に関わる公務員)によるインサイダーは、すでに2005年3月、これまた経産省のキャリア係長の方がチノン社株の売買で摘発されていた例があり、おそらく今回の事例が2例目であります。前回の事件については、たくさんの経産省職員がインサイダー取引を行い、そのうちの一人だけが摘発された、といった事情でもあればまだわかりますが、こういった前例があるにもかかわらず、なぜインサイダー事件に手を染めたのか、本当に理解に苦しむところです。

インサイダー取引の調査は、取引所と監視委員会で二重の調査が行われており、また監視委員会の最近の規制傾向も、証券市場の信頼を確保すべき立場にある者の行為は決して許さない、という姿勢(たとえば証券会社、公認会計士、ディスクロージャー関連印刷会社、マスコミ等の役職員については、厳格な姿勢で臨む)で貫かれているわけですから、ましてや再生支援業務に関与している公務員のインサイダー取引については、一般の事例以上に取締りが厳しいはずであります。それでも当該現役官僚の方は、バレないと考えたのでしょうか。

ひとつ気になるのがエルピーダ社幹部の方の証言であります。エルピーダ社幹部曰く、「元審議官(疑惑の方)は、本当にうちのために猛烈に働いてくれた」とのこと。おそらく職務を全うするため全力で業務に取り組んでおられたものと思います。しかし、だからといって不正から縁遠いものと断定することはできません。我々CFE(公認不正検査士)がよく学ぶところの不正のトライアングル(動機、機会、正当化根拠)にあてはめるならば、この経産省幹部の方は「これぐらい国家のために働いているんだから、すこしぐらい利益をもらってもバチが当たることはないし、正当な報酬だろう」と考えておられたのではないでしょうか。自分に都合の良いようにインサイダー取引行為の正当性を理解しようとするわけであります。

西友の社外取締役さんが、取引監視委員会から疑惑の目を向けられて、結局最後は社外取締役の方の夫がインサイダー取引を行っていたことが立件された例がありますので、まだ今後も当該疑惑事件には事実関係の解明に変遷がみられるかもしれません。もし今回の件が立件されるのであれば、ぜひとも経産省現役官僚の方が、一生を棒に振ることを覚悟でインサイダー取引に走ってしまった理由とか、自らの行動を抑止できないほどの正当化根拠がどこにあったのかを、ぜひとも知りたいところであります。

7月 8, 2011 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (7) | トラックバック (1)

2011年3月 9日 (水)

性悪説で考える「インサイダーは蜜の味」

金融審議会が1年3か月ぶりに再開され、インサイダー取引の一部見直しが議論されているそうであります(時事通信ニュースはこちら)。純粋持株会社の資本政策が過度に規制されないよう「重要事実」の要件該当性を単体ではなく、連結ベースで判断する、といったことも対象となる、とのこと。

「インサイダー取引規制」と一口にいいますが、コンプライアンスの視点からいいますと、カテゴリーが3つに分かれるのではないでしょうか。そもそもインサイダー規制は境界線がはっきりしないものですし、刑事罰もあれば課徴金規制もある世界。そこで、ひとつめは「絶対にインサイダーに踏み込まないセーフゾーンはどこか?」を探る一群。「うっかりインサイダーはもうこりごり」ということで、従業員持株会における運用事例や先の純粋持株会社の例もそうですが、適用除外や軽微基準、ガイドラインの策定などによってあらかじめ法令順守のための線引きを専門家集団によってルール化する作業ですね。当局の方、学者、実務家など金商法に詳しい著名な方々の登場が期待される場面であります。ソフトローが活躍する場面ともいえそうです。

そしてもうひとつは「絶対にアウトになってしまうゾーンはどこか?」を探る一群。まさにインサイダーの確信犯的企業(もしくはその代表者)と規制当局とのせめぎ合いの世界。最近は規制当局も(4日ほど前に春日電機元代表者の方が再逮捕された例に代表されるように)証券市場の健全性確保のため、不公正ファイナンスや粉飾事件など、ほかの不正行為と「合わせ技」で摘発する例が増えているように思います。課徴金処分事案として摘発例が急増し、またバスケット条項(包括的規制条項)を適用する事例も出てきていることから、インサイダー規制の使い勝手がずいぶんと良くなっております。そこで「合わせ技」による規制の旨味が出てきている場面であります。村上ファンド事件など、犯則事件に発展するケースが多いので、インサイダー規制の限界がみえてくる解釈論なども展開されます。ここはハードローが活躍する場面かも。

最後に残るのが「蜜の味インサイダー」。組織ぐるみで一攫千金を狙う確信犯的なインサイダーではなく、ちょっとしたお小遣い稼ぎを目的とするインサイダー取引。圧倒的に数の上ではこれが多いことは間違いないですよね。規制当局も、すべてを捕捉することは不可能ですから、常に世間に警鐘を鳴らすべく、この手の事例の摘発を続ける必要がある、というものであります。私的には、この「蜜の味インサイダー」が一番オモシロイように感じています。

なぜオモシロイかといいますと、「インサイダー取引防止体制の構築」といいましても、このカテゴリーに登場する人たちには通用しないのではないか(笑)と思えるのであります。先日も、上場会社の元取締役の方が「うちの会社の株さあ、NTTに買われちゃうんだよね。ママ今のうちにウチの会社の株、買ってみなよ。前から欲しがってたヴィトンのバック持って海外旅行くらい行けちゃうよ」みたいなことをスナックのママさんに言ってしまったことで、当該ママさんは76万円の課徴金処分になってしまいました(注 会話の後半部分は私の創作です)。天下の証券取引等監視委員会が、まさかスナックのママのお小遣い稼ぎを調査対象としている、といったことはおそらく世間一般の人たちは予想もしていないでしょうし、「これくらいの金額で新聞ネタになるはずがない」と思っておられるのが通常の感覚ではないかと。

もちろん元取締役の方が注意すべきである、と教科書的には言えそうですが、不正調査を行う者の立場からすると、なんぼでも「正当化根拠」はみつかります。前も申し上げましたとおり、規制当局は「上場会社は一枚岩」ということを前提に「インサイダー防止体制を整備してください」と言われますが、TOBやMBO、事業提携など、M&Aに関する経営判断が行われる場面では、賛否を巡って派閥争いや労使紛争が起こります。儲け話ではなく、覇権争いのなかでインサイダー情報が駆け巡るわけでして、「俺の話で儲けるやつがいても、それどころじゃない」といったところがホンネだと思います。

また、取引先と現場担当者は「貸し借り」の世界であります。「あのね、ここだけの話だけどさ」ということで、インサイダー情報を取引先や同業他社に教えるのは、借りを返したり、貸しを作ったりするなかでの一コマであります。お金がないから、とりあえずウチの会社のおいしい情報で・・・という話はよく聞くところでありますし、「貸し借り」の世界が、一般的な内部統制の構築で防止できるか、というのはちょっと期待薄ではないかと。さらに、ある上場会社と販売代理店契約を締結している会社の社員など、上場会社の民事再生の噂を同業他社から聞きつけて、「債権回収できなくなるんだから、インサイダー情報で回収しておかないと」と思うのも不思議ではないかもしれません。ひょっとしたらこれはインサイダーかもしれないけれども、自分にはそれ以上に守るべき価値があるのだから・・・という、このあたりの勝手な正当化根拠が人間模様のなかで垣間見える。このあたりがとてもインサイダー規制の難しいところではないかと思うのであります。

さて、それでは「蜜の味インサイダー」をどのように防止すべきなのか、上場会社とは無関係な方々が摘発されても、そんなことは知ったことではない、ともいえそうでありますが、今の時代「インサイダー事案を発生させたのは情報管理がまずかったからでは」と言われるのがオチであります。ここ10日ほどの京大入試問題漏えい事件の様子をみても、これは明らかであります(同情すべき受験生だった→京大の監督責任、被害届提出への非難)。たしかに完全な防止策はむずかしいかもしれませんが、情報管理のミスを指摘されないためにはどうすべきか?そのあたりをまじめに考えてみたいと思います。(これは後日に続く・・・・)

3月 9, 2011 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年11月29日 (月)

なぜM&Aにおいてインサイダー取引は要注意なのか?

Kighobaishu001 新潮社の編集担当の方より「たぶん先生がお好きな本かな・・・と思いまして」ということで贈っていただきました(どうも、ありがとうございます)。なるほど、おっしゃるとおりでオモシロイです。土曜日、日曜日で一気に読ませていただきました。M&Aは「好き、嫌い」に関係なく、どこの企業様でも突然遭遇する可能性がありますし(分社化やTOB、不祥事に伴う完全子会社化なども含めますと)、その舞台裏を、舞台裏で活躍しておられる方によって解説される、というのはなかなか興味深いものであります。また、新書版ですので当然のことながら一般の企業人の方々がお読みになって、わかりやすいのが本書の一番の特色であります。

新潮新書「企業買収の裏側-M&A入門-」(淵邊善彦著 新潮社720円税別)

ここ数年のM&A関連の事件などを紹介されたり、クロージングに至るまでの関係者の行動など、非常にわかりやすく書かれております(クロージングは関与するプロフェッショナルの方々にとっては区切りかもしれませんが、企業にとっては「はじまり」であることはナットク!)。東京のTMI法律事務所でM&A、国際企業取引をご専門に扱っておられる淵邊先生の御著書であり、こういった一般向けにむずかしい企業再編の世界をわかりやすく解説できる、というのは、本当にこの世界に精通しておられるからだ・・・という印象を持ちました。私のような小さな法律事務所でも、税理士さん、司法書士さんと一緒にM&A関連の仕事をさせていただきますが、近所のおっちゃん、おばちゃんが代表者・・・というレベルの会社の事業承継に絡むようなものですので、エライ違い(笑)。いつまでたっても、文句や苦情相談を受けなければならず、どこがクロージングなのか判明しなかったり(笑)。

ただ私も年に1回くらいは、上場会社のM&Aに関与する機会もございますし、3年ほど前には私自身が役員としてM&Aの渦中に巻き込まれた経験もございますので、この本にも「インサイダー取引には要注意!」と書かれているように、M&A、とりわけ基本合意書締結の前後における情報管理の難しさは痛いほど身にしみております。

最近もTOBに絡む関係者のインサイダーリスクを金融庁さんが多くの法律・会計雑誌等で解説されたり、会計士や税理士さん、社外取締役さんなどのインサイダー事件(疑惑?)が報じられたりしておりますので、M&A時におけるインサイダーリスクは関係当事者間における重要課題と言っても過言ではないと思われます。

みなさま、社内に犯罪者を出さないように、M&Aの際には情報管理に留意して、インサイダー取引を防止できる体制をとりましょう・・・と、一言で注意を述べるのは簡単であります。教科書的にみれば、そもそもM&Aに絡む重要事実は、おそらく素人の方にとっても、その情報が公表されることによって株価が上がるのか、下がるのか、予想がつきやすい、ということがあろうかと思います。だから関係者の方々は、情報をできるだけ遮断してください、ということになろうかと。しかし、どうも私の経験上、なかなかM&A時におけるインサイダーを防止することは困難だと思っております。なぜ困難かと申しますと、M&A情報に遭遇した関係者にとって「公表前の株取引」は誘惑的である・・・ということだけではなく、もっと深いところにあるように感じております。インサイダー取引自体は「お金の誘惑」が引き金になることはありましても、インサイダー情報が飛び交うこと自体は、けっしてお金の誘惑だけに起因するものではない、と常々考えております。

つまりM&Aが敵対的であるにせよ、友好的であるにせよ、社内における意思統一が図られることはほぼ100%不可能、ということであります。たとえば社長さんが諸事情によって合併や子会社化を決定したとしても、その情報は役員間抗争、労働組合の反対、大株主の反対、従業員の不満などが一気に爆発する契機となるわけでして、その爆発が①誰かに聞いてもらう(話してスッキリする)、②反対行動(造反)を画策する、③自分で株式を売却(買付)してしまう、という行動を誘発するわけであります。合併、子会社化等の決定について、社内で一枚岩になれる・・・という幻想を持っておられるのは、社長さんとその取り巻きの方々くらいでして、失望感や焦燥感等、大いに不満を抱いている反対分子が企業の中にはたくさんいらっしゃるのが現実であります。このような方々に「インサイダー情報だから管理は徹底的に」と指導されたとしても、その行動を規律することはほとんど無理なわけでして、インサイダー取引をする、しないに関わらず、インサイダー情報はたちどころに広まってしまうわけであります。

この「インサイダー情報が飛び交う」状態こそ、M&A時におけるインサイダー取引リスクのもっとも大きな要因であり、M&Aは相手方企業との交渉スキルだけでなく、自社内に大きなコンプライアンスリスクも抱えていることを認識したほうがよろしいかと。企業買収の裏側で活躍する弁護士さんも知らない「裏側の、もうひとつ裏側で」暗躍している弁護士さんもいらっしゃる場合もあるわけでして(笑)。こんな状況からしますと、企業における体制整備にも限界がありますので、「一般予防効果」を狙って、何年も前のインサイダー事案をしつこくSESCさんが摘発していくことが極めて重要なのではないか・・・と考えたりしております。

また本書には、M&Aで活躍するアドバイザーや専門家の報酬のお話なども具体的に記述されておりまして、これがまた(ブログ的には)オモシロイのでありますが、これはまた別の機会にお話したいと思います。

11月 29, 2010 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年11月 9日 (火)

インサイダー取引防止体制構築義務と株主代表訴訟

すいません、最近は「インサイダー取引」関連の話題が続いておりますが、金融法務事情の最新号(1909号)の「OPINION」に、SESCに任期付き公務員として出向されておられた弁護士の方が「金融機関向け『課徴金事例集』の読み方-監視委での職務経験から」と題する文章を寄稿しておられ、そこに日経インサイダー取引株主代表訴訟のことが紹介されていることに興味を持ちました。東京地裁は日経新聞社の役員ら(当時)について、善管注意義務違反の事実は認められない、として原告株主らの請求を棄却する判決を下しております。(平成21年10月22日東京地判 判例時報2064号139頁以下)社員がインサイダー取引を行った平成17年当時の一般的な注意義務の水準からみて、日経新聞社の役員らはそれなりのインサイダー防止のための体制整備に関する注意義務を尽くしていた、というもの。筆者はこの内容から、日経新聞社の役員は、こういった体制整備義務を尽くしていたことで救われた、金融機関等の一般会社においても、インサイダー防止のための社内体制構築に配慮すべし、と締めくくっておられます。

私もこの日経インサイダー株主代表訴訟判決は、(昨年の今頃)旬刊商事法務「スクランブル」で紹介されたときに知りまして、判例時報で全文も読んだのでありますが、インサイダー取引防止体制構築義務が役職員に認められることを紹介するためのリーディングケースとみるのに適切かどうか、という点に少し疑問を持っておりました。といいますのは、この判決文を読みますと、

日本を代表する経済新聞社という会社の性質上、そこは各上場会社の未公表の情報が毎日多数集約される場であり、その情報管理は極めて重要であるために、とりわけインサイダー防止体制をきちんと構築しておく必要がある

というもので、それは経済新聞社という特殊な業種であるがゆえの「構築義務」のようにも読めるからであります。逆にいうと、一般の上場会社の場合には、果たして(抽象的にでも)そこまでの義務があるのか?むしろ個別の役員の過失問題として論じれば足りるのではないか、という考え方も成り立ちうるように思えたからであります。上場会社の取締役には、役職員のインサイダー取引防止体制の構築義務がある、と主張するときに、この判決を引用しようか逡巡するところはこのあたりにございます。

これは代表訴訟で回復されるべき「損害」についての考え方からも考察することができるものと思われます。そもそもインサイダー取引によって、企業の何を損失とみるのか?といった点は、これまであまりきちんと論じられてこなかったように思います。上の日経インサイダー取引代表訴訟事件についても、原告側は「日経新聞社のコーポレートブランド価値の少なくとも1%」というきわめて「ざっくりとした損害額」を主張しておられたようであります。たとえば企業の信用というものが従業員のインサイダー取引によって毀損された、ということであれば、その「企業の信用」というものは、インサイダー情報が集まる会社だから、その信用は毀損されたとみるのか、そもそも情報管理体制がゆるい会社であり、犯罪者が勤務していたような会社という評価を受けるから信用が毀損されたとみるのかは、どうもハッキリとはしていないように思います。もし、前者ということであれば、そもそも金銭的評価の対象となるほどに、一般の会社の信用は毀損されないのではないか、ということになり、インサイダー取引を防止することで、企業に損害が果たして発生するのかどうか、という問題にもなりそうであります。

上記OPINIONにおけるご見解や、最近の法曹実務家の方々のご意見等でも、「上場会社の役員は、もしインサイダー取引防止体制の不備を第三者から追及された場合には、法的責任を負担するケースも出てくるであろう」と述べられるのが一般的であります。ただ、裁判上で具体的な内部統制構築義務違反を問うケースでは、まず個々具体的な企業環境(実際にとられている情報管理体制や、防止のための社内研修など)などを分析したうえで、個別事情を検討することになるのでしょうね。このあたりは、もう少し勉強しておく必要がありそうです。

11月 9, 2010 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年8月 5日 (水)

インサイダー取引防止体制に向けてのCFE的発想

8月3日、東証のWEBページに第二回全国上場会社内部者取引管理アンケートの調査報告書がアップされましたので、一応すべてに目を通しました。各上場企業において、インサイダー取引に関わるリスクをどのように低減しているか、その試みなどがアンケート結果とともに記載されておりまして、他社の状況などを参考にしたい、とお考えの役職員の方々にはお勧めの報告書であります。(冒頭に「報告書要旨」が掲げられておりますが、ここはあまりおもしろくありません。むしろ報告書の本文における取引所の解説部分が知識の再確認になりますし、回答企業の個別回答の部分が情報管理や売買管理における工夫の跡がみられ、もっとも参考になります)

ところでインサイダー取引リスクも、企業のコンプライアンス・リスクのひとつである、と考えれば、「どんなに頑張ってみても組織を動かすのが生身の人間である以上、インサイダーリスクを完全に防止することはできない。社内で内部統制を構築するのであれば、発生回数を減らすとか、発生したら早期に発見するとか、発生したインサイダー事件によるレピュテーションリスクを低減するとか、具体的なリスク低減目的を掲げて、その低減のためには具体的にはどうすればよいか」というアプローチが必要ではないでしょうか。たとえば上記報告書の問21以下(48ページ以下)では、役職員への啓発活動についての具体的な方法が紹介されておりまして、各社いろいろな啓発活動を実際に行っていることがうかがわれます。しかし意外にも、インサイダー取引防止に関する社内研修というものは定期的に開催している企業は少ないようで、取引所の解説でも「少なくとも定期的に研修を行うこととするなど、研修体制の充実にも取り組むことが望まれ」る、とされております。

社内研修の内容として、そもそも社内でインサイダー取引の犯罪者を一人も出さない、といった目的で行われているはずでありますが、そこに記載された研修内容を拝見しますと、「本当に社内で犯罪者を出さないことを願っているのだろうか、どっちかといえば『いちおう会社としても、ここまで体制を構築しています』と、責任を全うしていることの証左として行われているのではないか」とも思えるのでありますが、いかがなものでしょうか。先日リリースされましたカブドットコム証券特別調査委員会報告書におきまして、インサイダー取引をやってしまった社員の方が「まさかここまで証券取引等監視委員会の調査がすごいものだとは思ってもみなかった」と証言されたそうですが、もし社員研修をされるのであれば、一般社員の方々にこの「まさかバレるとは・・・」といった感覚を十分認識していただくことが重要なのではないでしょうか。また、「感覚」の問題ですから、シートベルト着用や路上喫煙のように、何度も繰り返し定期的に周知徹底の機会を設けることも必要だと思います。

何度か当ブログでもご紹介しましたが、CFE(公認不正検査士)の「不正」研修におきまして、人が職場で計画的に不正を犯してしまう要因として「不正のトライアングル」(動機、機会、正当化根拠)を学ぶわけですが、このインサイダー取引防止体制構築のためにも、このインサイダー取引における不正のトライアングルを検討してみると、ひょとすると役職員の方々にも理解していただく役立つかもしれません。たとえば役職員がその職務に関して公表前の重要事実を入手し、この情報を利用して、第三者名義で自社株を即時購入し、あとで売却益を山分けする、といった事案を考えますと、①動機はお小遣い稼ぎとか、おもしろ半分の出来心、②機会は他人名義での自社株取得だし、金額も小さいので発覚しない③正当化根拠は、他人名義での取引なのでインサイダーにはあたらない、とか、そもそも自分程度の人間にはインサイダー取引規制は及ばない(法律の不知)ので罪にはならない(かもしれない)、といったあたりに整理できると思います。

しかし実際には(現在の課徴金処分事案がすべて2007年の事件であることからおわかりのとおり)インサイダー取引に関する捜査は長期間に及ぶものであり、家族や名義を貸した第三者にも捜査の手が及ぶのが通常であります。つまり「お小遣いかせぎ<家族の取り調べによる苦痛」ということで、発覚時の事実上のペナルティを考えますと、とうていお小遣いかせぎとは割に合わない苦痛を味わうことになりますので、現実の取調を認識した場合には、この動機自身がなくなってしまうかもしれません。また、先のカブコム証券の社員の証言のように「ここまでバレるとは・・・」といった感覚は、まさに本人たちが認識しているほど「機会」は存在しないのであって、まさに「たとえお小遣い稼ぎ程度の金額であっても、不正はすべて摘発する」といった証券取引等監視委員会の捜査状況を正確に理解することにより、この認識のギャップは埋められるのではないでしょうか。そして、社内研修によって、他人名義での自社株買付けや一般社員から情報提供を受けた者であっても構成要件該当性がある、といったことを周知することで、自分たちのやろうとしていることが実は刑事罰に該当する(つまり刑事訴追を受けるおそれのある)行為であることを認識するに至り、いわゆる「正当化根拠」が消滅してしまうことになるのではないか、と思います。

そして問題は、こういった不正のトライアングルからみて、インサイダー取引は割に合わない犯罪である、と役職員が認識するための説明方法であります。ただ漠然と解説しても、ほとんど自身には無関係であるとか、自分はそもそも情報受領者たる立場にはならないとか、あまり現実味を帯びて考えることはしないように思われます。したがいまして、ここでは最近の課徴金事例や刑事罰適用事例など、具体的な事件の解説を通じて、「実際にはあなたも、同じような立場に陥る可能性がある」ということを説得的に説明することが肝要ではないかと思われます。たとえば外部から研修講師を招へいするのであれば、こういった事例から分析をして、インサイダー取引がなぜ悪いことと一般に認識されているのか、出来心でやってしまったことが後でどれだけ後悔することになってしまうのか、といったあたりを現実の事件のなかから抽出し、解説するだけの能力をもった方に依頼されるのがよろしいのではないでしょうか。(あくまでもCFE的発想に基づくものではありますが)

8月 5, 2009 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月 8日 (月)

カブコム証券元社員によるインサイダー取引事例の衝撃

このたびのカブドットコム証券元社員の方のインサイダー取引(課徴金勧告事例)については、いろいろと考えさせられる点がありますね。事例そのものは典型的な他人名義利用による自社株取引ということでありますが、ちょっと理解に苦しむのが社長さんによる事前のメール送信(社員全員への)というものであります。これ、本当に「ついうっかり」なのでしょうか。

今回の事案が2007年3月から11月ころまでの重要事実(自社に対するTOB)に関するものであり、ほぼ2年前の出来事ではありますが、2年前といえば、すでにインサイダー規制についてのリーガルリスク(社内から犯罪者を出さないためのインサイダー防止体制の構築)は世間でも話題になっていたところですし、ましてや金融機関ということになりますと、率先して体制整備を行っていたところではないでしょうか。かくいう私も、2006年の12月には某企業の役員として「企業統合に関する重要事実」を約2週間ほど抱えていたわけでありまして、定期的に決算情報を抱えるのとは比べ物にならないほどのインサイダーの恐怖に耐えながら正月を迎えた記憶があります。一般の上場企業の役員でさえ、あれだけ恐怖におののいていたインサイダー規制であるにもかかわらず、どうして金融機関の社長さんは重要事実が公表される前にTOBに関する重要事実を全社員にメール送信してしまったのでしょうか?こうやって、後から冷静に批評するのは簡単でありますが、なにかよほどの事情があったのではないかと推測するのでありますが、どうも解せません。自社株売買管理規定によって、おそらく全役職員に対しては自社株売買に関する事前届出が義務付けられていたものと思われますので、まさかあわてて「重要事実が公表されるまでは自社株の売買はしてはいけません」と告知した・・・というわけでもないですよね。

そしてもうひとつきちんと頭で整理できないのが証券取引等監視委員会(SESC)の調査方法であります。先日の某大手証券社員と会計士さんによるインサイダー事例の場合には、社内の情報を社外に持ち出したことで、社外の会計士さんが課徴金処分の対象となったわけですから、調査の段階で社外の会計士さんが対象者として浮上してくることについてはなんら問題はありません。しかし、このたびは親戚でもない社外の知人(昔からの友人)の取引口座を用いて、この知人とともに情報提供者側も割り出された、ということでありまして、そうしますと、どうやってこの金融機関側の対象者を特定できたのでしょうか。この知人に対する事情聴取のなかで、「○○さんから情報を教えてもらった」とか「○○さんから、一緒にやらないかと誘われたからやってしまった」との事情を入手したために調査が進展した、ということなんでしょうか。それとも、インサイダー情報の漏えいが1回きりであったら調査困難だったが、2回も漏えいされたことによって、調査対象が絞られたのでしょうか。もしくは普段から二人が「共同投資家」であったがゆえに、偶然にも社内の人物が特定できた・・・というものなのでしょうか?いずれにしましても、おそらく今回のパターンにつきましては、「これならインサイダー情報を活用して儲けても、バレることはない」と一般の方が安心してインサイダー取引をやってしまうパターンの典型だと思いますので、私的には「こういった情報入手者であっても、こうやって調査することでバレてしまいますよ」といった調査の仕組みについても、公表されたほうが「一般予防的には」意義があるのではないか、と思います。

このたび、カブコム社では、著名な弁護士の方によって構成される特別調査チームを組成したそうであります。この委員会の調査目的によって公表される事実については制限されてしまうかもしれませんが、再発防止策だけではなく、発覚に至った経過などについての詳細な調査結果や、他の社員についても(発信されたメールをもとに)インサイダー取引をしていなかったのか、といったあたりの調査報告などを、厳格に開示していただけたら・・・と期待しております。

6月 8, 2009 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2009年5月14日 (木)

発行市場の健全化に向けて活用されるインサイダー規制

(5月14日追記あります)

5月8日の日経新聞(夕刊)に、「パリバ、虚偽報告の疑い アーバンコーポ増資引き受け、監視委員会が立ち入り」との見出しで、パリバのディーラーが、アーバン社とパリバ社との資金調達契約で合意された範囲外において、アーバン株を取引していたことが判明した、と報じられておりました。(一番問題視されているのは、そういった事実が社内で判明しておきながら、虚偽の報告をしたのではないか?といったあたりのようです。虚偽報告が認定されれば刑事罰適用や金商法52条による業務停止命令もありますし、もし認定されなくても業務改善命令の対象にはなるのでしょうね。)そもそもアーバン社の開示上の問題が発覚した際にも、BNPパリバ証券によるインサイダー疑惑が持ち上がっておりましたが、パリバの社外調査委員会の報告でも、このあたりは曖昧なままだった記憶があります。

最近の金融法務事情1866号(5月5日、15日合併号)では、証券取引等監視委員会の活動と題する証券取引等監視委員会の事務局次長さんの論稿が掲載されておりまして、内容的には昨年11月大阪で開催されました(東京証券取引所主催の)コンプライアンスフォーラムでお話された内容とほぼ同じような感じでありますが、やはり多くのページが「発行市場におけるインサイダー規制の活用」に関する旬のテーマに割かれています。先のBNPパリバに対する立ち入りについても、そのあたりの流れが影響しているのではないでしょうか。この事務局次長さんは、さすがエリート裁判官らしく、「会社法からみれば合法かもしれないが、金融商品取引法や民法原則からみれば違法性に疑問があるのではないか」といった法的な視点からも考察がなされており、なかなかおもしろい内容であります。(この合併号には、例のバージン諸島本籍企業の件で多くの会計士さんのブログで話題となっておりましたS総務課長さんの座談会記事などもあり、こちらも面白いですね)私など、インサイダー規制といえば、流通市場における取引監視・・・というイメージしか持っておりませんが、「市場監視」という視点からは、インサイダー規制をこれまで以上に広い範囲で活用することが今後の課題となっているようであります。

たとえば、大規模第三者割当増資の規制ということになりますと、法による規制なのか、証券取引所自主ルールによるのか、開示規制なのか、株主の関与まで要求する手続き規制なのか、といったガバナンス規制が議論されるわけですが、いっぽうで第三者割当が行われる企業が、未公表の重要事実を第三者割当先に伝達することが約束されていたり、第三者割当先の関係者が当該企業の取締役に就任して、未公表の重要事実にアクセスすることで第三者割当先が不当に情報を入手するなど、企業収益とは別のところで違法に収益を上げようとする企業行動をインサイダー規制によって取り締まる・・・というイメージだと思われます。(たぶん、このあたりが「発行市場へのインサイダー規制」の典型的な例ではないでしょうか)このあたりはご異論もあるかとは存じますが、業績不振に陥った上場企業にとって、第三者割当増資の道が閉ざされてしまうのも問題でしょうし、かといって現在のままでは、新興市場等を通じて、上場企業は好ましからぬ第三者の支配下となるため、一般株主が食い物にされる事態は防ぎたい・・というところで、事前規制と事後規制の適度な調和のもとで適正な市場規制が図られることになるのでしょうね。ということで、今後は発行市場に対するSESCの活動について注目してみたいと思っております。

(追記)本エントリーをご覧いただいた有識者の方より、以下のとおりコメントを頂戴いたしました。発行市場への「インサイダー規制の適用」というのは、インサイダー取引規制が発行市場に及ぶということではなく、上手に活用すれば発行市場の健全化につながる、という意味で用いたものでありますが、誤解を招く内容かもしれませんので、あえてコメントを掲載させていただきます。

これまでの法解釈では、発行市場(新たに発行される株式の取得勧誘・取得の申込)については、インサイダー取引規制の適用対象外となっています。法律上、新発の有価証券には「売買」や「売付け」「買付け」などの用語は使用せず、「取得」が使用されるため、文言上、新発にはインサイダーの適用はない、と考えられるからです。類型的にそのような取引パターンは対象外です。

かなり形式論ですが自己株処分は、条文の適用上はインサイダーに該当しうる(すでに発行された有価証券の売買であって、市場外での売買)のですが、情報の非対称性がない場面では、適用除外になってくると考えられます。すなわち、売主である会社は情報を知っていて、買主側である第三者も同じ情報を知っている場合に、この自己株処分の限りでは、インサイダー取引の規制を適用させるだけの悪性がない(適用除外である双方が同じ情報をしっているという要件に該当)わけです。ただ、2番目の要件である、相手方が売買後にインサイダー取引を行うと知っている場合はダメです。

SESC事務局次長がここで発行市場の問題をあげているのは、そこでの取引にインサイダーを適用するというのではなく、その取得者が流通市場などでいろいろ悪事を働くおそれが高いため、それ自体がブラックでないとしてもその後ブラックな行為が行われる蓋然性が高いことに着目してチェックしていく、すなわち通常は企業のリリースと流通市場での取引に不審なものがないか、という観点でチェックしていくわけですが、それとは別の角度から、当初から違法行為の可能性を疑って切り込んでチェックしていく、ということだと思います。

MSCBがかつてレッサーCBと呼ばれていた90年代後半、97・8年ころから、監視委員会は引受先による不穏当な市場での取引を問題視していましたが、その後、当初違法説にたっていたといわれる○○証券もこの商品に手を出し、かつその後そのチームが▽▽▽証券に移って、あたかもまともな商品であるかのように扱われる時期が一時的にありましたが、そもそも特定の者が新株発行・新株予約権付きの社債を取得する場合、その後に市場でグレーまたはブラックな取引をすることにつながる(または当初から意図している)ことが多いのは、なにも今に始まったことではないと思います。

たいへん勉強になりました。(どうもありがとうございます。なおコメントの内容につきましては、一部修正をしております)

5月 14, 2009 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年4月23日 (木)

企業不祥事(データ改ざん)の公表とインサイダー取引規制

栗本鐵工所(東証一部)の販売代理店社員が、栗本社の「型枠強度試験データ改ざん」に関する企業不祥事の公表前に、その事実を知り、自らの計算において株取引(空売り)によって利益を得たとして、SESCが課徴金勧告を行った、と報道されています。(朝日新聞ニュースが一番詳しく報じているようです。またSESCのリリースはこちら。)最近、重要事実を知った社員のインサイダー取引事例というのは、もはや珍しいニュースでなくなってきているようにも思いますが、この事例は、「企業不祥事の公表」という、かなりレアな「重要事実」を取り扱ったものであり、また取引先社員が対象となっていることで、今後も同様の取り締まりが行われる可能性も高いように思われます。

この社員の所属する会社は栗本社の販売代理店たる地位にありますが、栗本鐵工所は自社における「データ改ざん」の事実を公表すると決めた後、販売先である高速道路会社に対して、この不祥事を公表前に説明しておこうと考えていたようです。(昨年末の伊藤ハム社が、迷惑をかけたくないと思って、OEM供給先に事前説明をされたのと似ているように思われます)そこで、自社からではなく、取引先の販売担当企業から(高速道路会社へ)説明するように依頼していたところ、その依頼を受けた担当者から、この社員は「データ改ざん」の事実を聞いていたようであります。

旧金融商品取引法(平成20年法律第65号改正前の金商法)166条の条文構造からみますと、栗本鐵工所担当者から、企業不祥事(の公表予定)を聞いた担当者(当該社員の上司)が、金商法166条1項4号の「契約締結者」に該当するため(契約の締結・履行・交渉に関して上場企業等の内部情報を知りうる立場にある者として)いわゆる「会社関係者等」に含まれ、その会社関係者等から栗本社の不祥事事実を聞いた「第一次情報受領者」として(同166条3項)、対象社員は(上場企業の重要事実を)その職務に関して重要事実を知った者に該当する、ということになると思われます。

つぎに栗本社の「製品の強度試験データ改ざん」という不祥事が「上場企業の重要事実」に該当するかどうか、という点ですが、これはSESCのリリース内容からみて、いわゆるバスケット条項を用いたものですね。(同法166条2項4号)つまり法律や政令でインサイダー情報に該当する「重要事実」として列記されている事実以外で、当該上場企業の運営、業務または財産に関する重要な事実であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの、ということでありまして、この「データ改ざん」という企業不祥事には当該バスケット条項を適用できる、といった判断があったものと推測されます。企業不祥事といいましても、過去にも「上場廃止の原因となる事実」(同法166条2項2号ハ、たとえば西武鉄道有価証券虚偽記載事件)や、「災害または業務に起因する損害」(同法166条2項2号イ、たとえば日本商事事件)に該当するものはありましたが、純粋に企業の決算情報とは関連性のないところの不祥事について、これを「重要事実」と捉えたものは初めてではないでしょうか。

ところで、当該対象社員が職務上知ったのは(SESCのリリース内容からすると)「データ改ざん」の事実であり、「栗本鐵工所がデータ改ざんを公表する事実」を知ったことではありませんね。そうしますと、取引先の上場企業の不祥事といいましても、その不祥事がはたして公表しなければならないものか、それとも公表するほどのものでもないのか、そのあたりは問題にならないのでしょうか?(もし「データ改ざん」という発生事実自体が重要事実の対象となるのであれば、インサイダー取引規制に係る「軽微基準」の発想からしても、そのあたりが問題になるのではないでしょうか)このあたりは、インサイダー規制だけでなく、証券取引所規則における適時開示の対象事実になるのかどうか、という場面においても問題になるように思われます。企業不祥事も、その不祥事発生によって業績に大きな影響を与えるような損害が予想されるものと、不祥事の公表によって業績には関係なく(公表によるレピュテーションの毀損により)株価が低下するものとがあると思います。前者は「発生事実」として列記されているものを指しますが、後者は仮に公表されたとすれば投資判断に著しい影響を与えると思われるような不祥事を指すものと考えられるのでありますが、このあたりの整理はどうなんでしょうか。情報開示のルールが厳格になるにしたがって、そのルールを「ズルして」守らない人達にペナルティを課すことまでは金商法の守備範囲だとは思うのでありますが、企業経営者が不祥事を公表すべきかどうか(つまり公表に値する不祥事かどうか)、という規範的な問題を論じることは会社法の世界の問題であって、そこにバスケット条項を適用して判断するというのも、なんとなく違和感を覚えます。結局のところ、たとえば本件では「試験データの改ざん」という不祥事は、企業自身が発見した場合には、(監督官庁および一般消費者等への)公表、報告、届出の義務が別途行政法規によって課されていて、金融庁が判断するまでもなく、企業の法令遵守によって公表される蓋然性が極めて高い、ということからバスケット条項を適用すべきと判断されたのではないでしょうかね?つまり、企業不祥事が「重要事実」に該当する場合があるとしても、その不祥事の内容については、かなり限定された場合にのみ適用されるのではないかと推測いたしますが、いかがなものでしょうか。(後半部分はあくまでも私自身の推論によるものです。ひょっとすると、取引先といっても、栗本社と販売代理店企業という、重要事実からの距離が極めて近いことが、公表されることの蓋然性に影響を与えているのかもしれません。)

※1 そもそも強度試験データについて国に対する報告義務があるならば、そのデータの改ざんが発見された以上、報告義務があるのは当然かもしれませんね。

4月 23, 2009 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年4月 8日 (水)

クロスボーダー取引とインサイダー規制(Jブリッジ事件)

(9日未明 三菱UFJ証券の個人情報流出事件に関する追記あります)

三菱UFJ証券の元従業員が49,000人分の顧客情報を不正に売却したそうで、これはえらいことになってしまいましたね。かなり大きな部類に属する不祥事に発展しそうですね。とくに報道では昨年10月以降に新規に口座開設した顧客ばかり・・・のようですから、これっていわゆる「タンス株」の保管口座を開設された顧客さん(「株券電子化」に伴って、かけこみで口座を開設された方々、つまりこれ以上ない優良顧客さん)ばかり、ということですね。今後の被害拡大防止策をどのようにとられるのでしょうか。

さて、日経新聞夕刊を読みますと、東証二部上場の投資会社ジェイ・ブリッジ社の元会長さんがインサイダー取引容疑で逮捕された、と報じられています。(多くの上場会社が決算公表を控えているからか、最近またインサイダー取引の摘発に関する報道が多くなってきたような・・・)

今度はクロスボーダー取引だそうですね。日本市場で取引されたわけですから、犯罪の属地主義には問題ないと思いますが、シンガポールの銀行口座を活用しての犯行ということで、普通ならSESCもなかなか証拠がつかめないところですよね。ただ、日本とシンガポールとの間においては、平成13年12月にMOU(証券規制当局間における情報取極め)が合意されていますし、すでに平成16年には、こちらのリリースにあるように、シンガポールには「貸し」があるようですから、今回も、こういったシンガポールと日本との特殊な事情によって摘発が可能になったのではないでしょうか。(もし、間違っておりましたらどなたかご指摘いただけますと幸いです)

平成19年には金融庁「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディ・グループ」における中間報告書のなかでも、海外当局との連携の強化について今後の課題とされておりますので、今後も国際的な情報取極めが進んでいくものとは思いますが、依然として、クロスボーダー取引については(証拠収集の困難性、という意味において)インサイダー摘発が原則としては困難な状況にあることは変わりないのではないかと(勝手に)想像しております。(そんなことないですよ!というご意見、情報等ございましたら、どうかよろしくお願いいたします)

(追記)こちらの産経ニュースによると、シンガポール、インドネシア、香港等、現在6つの国・地域と覚書を締結しているようですね。

(9日未明 追記)朝日新聞ニュースの続報がたいへん詳しく報道しているようで、実際に流出したのは全顧客の個人情報だったようです。(ただし名簿業者に売却が確認されたのが49000人分とのこと)8日、三菱UFJ証券は、個人情報が流出した顧客に対して、一件ずつお詫びの電話をしているようです。また、9日にはその顧客に対して、情報漏洩に関する相談窓口の説明を含む、事件の概要について文書にて連絡をされるようですね。実際に名簿業者から、どれほどの業者にわたっていったのか不明な点が多いようですので、顧客には多大な不安が残ります。それにしても、同証券会社にわずか8名しか存在しない顧客情報に対するアクセス権者のうちのひとりが、こういったたいへんな不祥事を起こしてしまうということに、コンプライアンスの脆さを感じざるをえません。甘辛せんいち先生も、コメントで指摘されているように、再発防止策のあいまいさを関係者処分で取り繕うことだけはしてほしくないと思います。

4月 8, 2009 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年12月13日 (土)

インサイダー、さわらぬ神に祟りなし(自己株式取得決議取消)

先日のサイゼリア社のデリバティブ評価損153億円のお話は、どうなんでしょうね。最近の外食産業の業績からみて、ちょっと欲が出てしまって、「一般的な為替リスクのヘッジ」を超えたところでの事故(BNPパリバの仕組み債を購入したうえでの金融事故)のようにも思えるのでありますが、経営財務のご専門の方々の意見はどんなものなのでしょうか?

さて先日の春日電機社の深夜開示以来、「午前1時」の開示・・・といいますと、なにやら胸がざわめく今日このごろでありますが、JASDAQの富士テクニカさんが「自己株式取得事項の決議取消のお知らせ」だそうであります。

12日午前中の取締役会にて、自己株式取得事項に関する決議を行い、その旨の開示を行ったところ、取締役会に欠席されていた社外取締役さんが、決議内容を知った後、(今後、業績修正などの重要事実が発生する可能性もあり)インサイダー取引に関する社内リスクが大きいため、自己株式取得はやめたほうがいい、との意見を口頭で伝えてこられたそうで、その後取締役間での電話での議論によって、決議事項の執行中止(決議の取消)を決めたとのこと。ちなみに、電話会議による取締役会の運営につきましては、当該議題について構成員全員が自由に意見交換しうるものである場合には、これは許容される会議方法である・・・とされておりますが(「会社法入門」11版 前田庸 447頁)、監査役は取締役会への出席義務がありますので、こういった電話連絡に監査役も参加している、もしくは自由な意見交換を確認していることが必要になるものと思われます。(とりわけ、かなりイレギュラーな会議方法ですので、監査役さんによる取締役会での意思形成過程のチェックは不可欠ではないかと思われます)

社外取締役がもたらすガバナンス効果のひとつであることは間違いないものの、ずいぶんと用心深い社外取締役の方だなぁ・・・・法律専門職の方では?・・・と思って調べましたところ、なるほど・・・。昨年「うっかりインサイダー」なるフレーズが流行する発端となったこの会社の専務さんが社外取締役なんですね。信託方式による自己株買い付けについては先日、金融庁Q&Aが出ておりますし、また海外子会社の解散等の事実につきましても、政令によって軽微基準に該当するようになったものと思いますが、やはり4000万円を超える課徴金処分でインサイダー疑惑はもうこりごり↓・・・というところではないかと思われます。

12月 13, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年11月26日 (水)

金融庁「インサイダー取引規制に関するQ&A」(役職員の自社株売買)

三洋電機に対する買収方式や買収価格についてはいろいろとニュースが飛び交っておりますが、買収側と大株主側でこれだけ評価価格に差がありますと、パナソニックの取締役としてはたいへんですね。TOBが選択された場合の「大株主との事前合意」や買付方法の選択なども問題になりそうですし、今後どういった経過をたどるのか、注目されるところであります。

先週のこちらのエントリーにおきまして、インサイダー取引防止に関する金融庁Q&Aをご紹介しましたが、25日、追加Q&A(第2問)が公表されております。(追加Q&Aはこちら)第1問は自社株売買における会社自身の取引形態に関するものでしたが、第2問はインサイダー規制防止に関する社内体制(役職員による自社株取引の管理体制)に関するものであります。これも先日の日経新聞の特集記事で「過度の自社株売買禁止体制のデメリット」の実例が挙げられていたところだったと思います。先週の「週刊経営財務」(2894号)でも、東証COMLECの売買審査部調査役の方による「インサイダー取引に対する関係機関の取組と未然防止体制上の留意点」なる、かなり詳細な解説が掲載されており、この「望ましい社内管理体制の明確化」「自己株式取得時等に係るセーフ・ハーバー・ルールの導入」がインサイダー取引規制に関する今後の論点として取り上げられていたところであります。

上場企業の「インサイダー取引防止体制」に関する東証の調査によりますと、上場会社のうち74%程度が役職員の自己株売買禁止型(つまり一般的に禁止しておいて、個別申請のある場合に審査のうえ許可する、というものだと思われます)を採用しておられるようです。(平成19年5月時点)役員が自社株取引を行うことによって役員個人ではなく、会社自身に課徴金処分が下され、企業の社会的評価に影響が出るケースもあるために、こういった厳格な社内体制がとられることになっているのでしょうね。これが売買の禁止期間を設けることなく採用されるとなりますと、ずいぶんと過剰な規制のように思われますし、また、個別審査等に要する経費や人的負担なども問題になるところであります。もちろん社員の方々にも不便を強いることになります。そこで自己株式原則禁止期間を、もっともインサイダー情報が発生しやすい期間にだけ限定したうえで、なおかつ事前規制だけでなく、事後規制などの柔軟な体制を工夫するなどによって、役職員の方々の自己株式売買が過度に委縮しないように・・という趣旨で本Q&Aが作成されたものと思われます。

なお、先日のエントリーへのコメントとして、Kazuさんより、

ところで、自社株買いについてインサイダー取引を緩和して欲しいという要望があるようですが、自社株買いが禁止されていた理由の一つとして「インサイダー取引や株価操作等の不正の温床となる」ということがあって、その防止策を十分に行うから自社株買いが解禁されたのだと理解しています。インサイダー取引を緩和してよい程、インサイダー取引や株価操作のおそれが小さくなったとは思えないので、インサイダー取引規制など、自社株買いに関する金商法上の規制は緩和できないと思うのですが、山口先生はいかがお考えでしょうか。

と、ご質問を頂戴しておりました。たしかにKazuさんがおっしゃるように、自社株売買が禁止されていた旧商法(平成6年改正前の商法)の時代の基本書(教科書)には、どれも「インサイダー取引や、不正な株価操縦を誘発するために禁止されている」と説明されております。そして、そのような禁止理由があるにもかかわらず、これを解禁するに至った理由としては、インサイダー取引や相場操縦誘発のおそれについては、会社法ではなく、証券取引法によって厳格に規制することで弊害を防止できるから・・・とされていたのが一般的なところだったと思います。ただ現実にはインサイダー取引規制が開始された昭和62年以来、改正はあったものの、ほとんど骨子は変わっていないですよね。(すでに20年も改正されていないので、インサイダーの規制の現実と合致していない、といった批判もかなり出ているようです)ですから、Kazuさんのご指摘はもっともだと思います。ただ現実には上場企業の資本政策の幅を広げて国際競争力を強化したり、資本市場そのものの充実を図ったり、ストックオプションを浸透させて報酬体系を柔軟化する要請もありますし、いっぽう規制方法につきましても、法令による「事前規制」から、内部統制などの企業の自律作用、SESCによる事後規制強化へと傾斜しているところですから、現在のような運用も(いちおう)肯定的に受け止められているのではないか・・・と考えております。でもこうやって萎縮効果が問題とされておりますので、やはりもっと規制内容の明確化を図る必要はあると思いますね。

11月 26, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年11月19日 (水)

金融庁「インサイダー取引規制に関するQ&A」を公表(自社株取得)

3回にわたって当ブログでエントリーしてきました「シャルレ社のMBO」ですが、ついに火がついてきちゃったようでありまして、18日、大阪証券取引所より「不適切開示」として改善報告書を求められているそうであります。(シャルレ社の適時開示)この流れは「不適切開示」へのエンフォースメントのひとつとして注目されそうですし、今後の展開がありそうですので、また別エントリーにて検討してみたいと思っております。

さて、9月2日に日経法務インサイドの特集記事を受けて、「インサイダー取引のリスクマネジメント」なるエントリーをアップいたしました。そのなかでも、触れていたところでありますが、昨年の小松製作所さんや大塚家具さんの(いわゆる)「自社株取得に伴う”うっかりインサイダー”リスク」の衝撃によって、企業の自社株買付が委縮している現状が問題視されていたところであります。私は上記エントリーのなかで「自社株を信託方式で買い付ければ問題ないのでは?」と書いておりましたが、ある方からメールにて「小松製作所さんの自社株買いは信託方式によるものですよ」(こちらがリリース)と教えていただいておりましたので、実をいうとちょっと考えが甘かったわけでありますが※1、本日金融庁(および証券取引等監視委員会)よりリリースされましたQ&Aの内容を拝見しましても、やっぱり単に信託方式を採用しているだけでは十分ではなく、場合によっては、きちんとしたチャイニーズウォール体制を構築していることが条件となっているようであります。※2金融庁リリースはこちら

※1 たしかに小松製作所の件は信託方式による自社株買付ですが、ここではすでに重要事実を知ったうえで信託方式による買付を決定したように思われます。現に、小松製作所はほとんど営業活動をしていない海外子会社の解散発表までが「重要事実」に該当するのか?といったコメントを出しておりましたので、むしろここでは「重要事実」の内容が問題視されていたのでありまして、直接的に「信託方式による買付」の是非が問題になっていたわけではないと理解しております。

※2 なお、チャイニーズウォールを敷く必要がないケースとして、買付信託契約の後、会社側から信託銀行に買付の指示を行わない場合があげられておりますが、これはそもそも「重要事実を知ること」と取引行為との因果関係が切れることで、処罰対象たる内部者取引の行為態様には該当しない、とみるのでしょうね。先日のBNPパリバの社外第三者委員会の報告書でもすこし触れられていた事例だと思います。

チャイニーズウォールというのは、ここでは「同一会社内における情報障壁」程度にお考えいただければ結構かと思いますが、要するに、自社株売買を執行する部署と、重要事実を知りうる部署との情報の流れを遮断するような体制が構築される必要がある、というものであります。買付信託を採用する場合には、信託銀行へ売買の指示を行う部署と、重要事実を知りうる部署との情報障壁を未然に構築しておけばインサイダー規制には該当しない、ということがほぼ明確にされ、こういった状況のなかであれば安心して自社株取引を行うことが可能となるようであります。

ただ、これまでチャイニーズウォール体制といいますと、インサイダー取引規制や顧客との利益相反取引防止、自己勘定取引の峻別など、一般的には金融機関の厳格な自己規律のために構築されるもの・・・といった印象を持っておりますので、おそらく一般の上場企業にとっては、耳慣れないものではないでしょうか。具体的にどのような体制を構築すれば「指示を行う部署が重要事実から遮断され、かつ、当該部署が重要事実を知っている者から独立して指示を行っている」と認められるのでしょうか?こういったことも、今後検討を要する問題のひとつではないかと考えております。

このあたりは金融規制法分野に精通された先生方のご意見をうかがいたいところでありますが、ただ金融機関に要求されるようなものがそのまま一般の上場会社にも妥当する、とみるのもちょっと厳しすぎるのではないかと思いますし、また証券会社のように恒常的に体制を敷いておかなければならないというものでもないと思います。そこで、一般の上場会社の場合には、①インサイダー取引防止のための社内研修の一貫として情報隔絶の必要性を関係者に周知徹底させること、②チャイニーズウォールに関する社内手続きをマニュアル化(文書化)しておくこと、③執行部門と重要事実の管理部門とを組織的にも明確に分けること、④人的交流が必要な場合には交流の記録を残しておき、内部監査もしくはコンプライアンス部門が事後チェックをしておくこと、あたりが思いつくところです。(全部、あたりまえといえばあたりまえのことばかりですが・・・(^^; )こういった未然防止策をとっていれば、とりあえずインサイダー規制に引っ掛かるリスクはかなり低減されるものだと思いますが。(甘いでしょうか・・・?)

11月 19, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年11月12日 (水)

BNPパリバの株式売買はインサイダー取引に該当するか?

(12日午前 追記あります)

昨日は裁判員制度に関するエントリーをアップしたところ、あまりにも偶然のことでありますが、最高裁判所司法研修所から「裁判員制度に関する重要な研究報告書」がリリースされたようであります。(日経ニュースはこちら)ニュースで報じられております研究報告の内容はビックリでありまして、裁判員法廷に臨む(すくなくとも私のような不埒な)弁護士の意識は、ここにおきまして改革しなければならないことになりそうであります(この件についてはまた別の機会に・・・・・)

さて、すでに多くのブログで話題になっておりますが、アーバンコーポレーションの不適切開示(違法開示)に関与したとされるBNPパリバ日本法人の件につき、11月11日付けにて、外部検討委員会による最終報告が発表されたようでして、その報告書概要を読ませていただきました。(委員のみなさまは、元検事総長の方を筆頭に、錚々たるメンバーです)アーバンコーポレーションによる不適切開示(スワップ契約部分をあえて開示しないこと)への積極的関与につきましては、すでに金融庁から(不適切→違法)認定を受けておりますので、それに追随した形で、かなり厳しい判断が下されているものと受け止めました。

問題はスワップ取引が存在するにもかかわらず、このような重要事実を秘匿して、その間にもヘッジ取引を繰り返していたBNPパリバの取引については、金融商品取引法で禁止されているインサイダー取引に該当するかどうか、という点でありますが、外部検討委員会は、

当該情報を知りながらヘッジ取引を行っていたBNPP東京支店の行動は、インサイダー取引に該当する可能性は否定できないものと考えております。しかしながら、本件ヘッジ取引は、スワップ契約に基づいて機械的に行われていたものであり、実質的にみると法が本来予定していた行為形態とは異なっている面があること、またインサイダー取引の該当性については、本委員会は判断する立場にはないことから、その点の判断については控えさせていただきます。

として、なんだかよく趣旨がつかめないような、「ん~、どっちやねん!」といいたくなるような歯切れの悪い報告内容になっております。現行のインサイダー規制は形式犯として処罰対象とされており、重要事実があって、その重要事実を知りながら、株式売買を行ってしまえば、その取引で儲けようといった目的があってもなくても(また実際に利益を獲得していなくても)インサイダー規制には該当してしまうわけであります。(軽微基準に該当するケースを除く)ただ、BNPパリバのヘッジ取引が、そもそも株価の変動(差益?)に基づく利益獲得を目的としたものではないということから、「本来予定していた行為形態とは異なっている面がある」と判断されたのかもしれませんが、インサイダー取引の可能性は否定できないけれども、可能性が高いとまでは述べられていないようであります。刑事罰を基本とするならば、インサイダー取引の構成要件該当性は認められるけれども、その違法性に乏しい、といった説明になるのでしょうか。課徴金制度を基本とするならば、課徴金算定の基礎となる利得計算の根拠がない、といった説明になるのでしょうか。もし、「富の変動」が「既存株主→BNPパリバの手数料」といった流れの場合、変動の要因が重要な事実の不開示によるものなのか、それともMSCB類似の株式価値の希薄化によるものなのか、という点においても結論が異なってくるように思いますが。

また、素朴な疑問ではありますが、そもそもインサイダー取引規制が適用されるのは、重要事実につきましては、後日「公表されること」が前提になっているものと思われます。しかしながら、スワップ取引の不開示ということが「重要事実」だとしましても、アーバンコーポレーションさえ倒産しなければ、後日このスワップ取引を公表することがBNPパリバにとっては「予想しうるもの」とは言い切れないのではないでしょうか。インサイダー取引を取締る趣旨は、重要事実が後日公表されるからこそ、そのタイムラグを利用する不公正取引を防止するところにあると思いますし、むしろBNPパリバとしては、後日になっても公表されるような事実はそもそも認識されていなかったのではないか、という疑念がぬぐい切れません。(←この点につきましては、「通りすがりさん」と大杉先生にご異論をいただきましたので、また検討してみます。理屈だけでなく、結論もおかしくなる・・・といったことになりますと、私としても十分検討する必要がありそうです。私の意見に対する「ダメ押し」でも結構ですので、またご意見がございましたらどしどしコメントいただければ幸いです。)ということで、スワップ取引の存在が「重要な事実」ではあっても、これがインサイダー取引規制における「重要事実」には該当しないか、もしくはBNPパリバ側にはインサイダー取引についての犯意(故意)がなかったとみるべきではないかと思いますが、このあたりはいかがなものでしょうか。(注:不適切開示以前の株取引との関係では、「重要事実」であることは当然だと思いますが、不適切開示以後の株取引との関係ではどうなんだろうか?といった疑問であります。脊髄反射的に書いておりますので、勘違いがあれば、またご指摘ください)

もうひとつ興味深いのは、先のシャルレの件でもそうでありますが、企業行動の「法令順守」について、最近こういった外部の第三者委員会報告の持つ役割がかなり重要になってきたのではないか、といった点であります。司法的救済による事後規制がなかなか奏功しないなかでの有力なソフトローとしての役割を担いつつあるのではないか、といった感想を持っております。(また、この点につきましては別の機会にもエントリーしたいと思います)

(12日午前;追記)

朝日新聞ニュースによりますと、金融庁がBNPパリバに対して金融商品取引法違反に基づき、「投資者保護規定」に抵触するものとして行政処分を検討している、とのことであります。(ニュースはこちら)アーバンコーポレーションの不適切開示について、積極的に働きかけた点を捉えて・・・ということのようですね。

11月 12, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (14) | トラックバック (1)

2008年11月 5日 (水)

インサイダー取引発覚時における企業の危機管理を考える

10月27日のエントリー「伊藤ハム社におけるクライシスマネジメントを考える」におきまして、「なぜ記者会見で社長さんが説明をされないのか?」と疑問を呈しておりましたところ、本日(11月4日)、工場地下水汚染発覚後はじめて社長さんが記者会見をされたそうであります。(「危機管理、機能しなかった」・・・・朝日新聞ニュース)「食の安全」に携わる企業が、その信頼を回復するために多額の費用を要することにつきましては、最近の日清食品社のCMなどを見ていてもわかりますが、マスコミを(おそらく)敵に回してしまった分、ブランドイメージの毀損状況については、伊藤ハム社のほうがかなり厳しいものになってしまったように感じております。

さて、企業のクライシスマネジメント(危機管理)につきまして、今回はインサイダー取引の発覚時について考えてみたいと思います。本日、東証マザーズ上場の株式会社いい生活社の社員(正確には元従業員)の方が、会社の業績予想下方修正に関する未公表事実を知り、信用取引によって1億円程度の自社株売買を繰り返したとして、証券取引等委員会は元従業員に対する約2000万円の課徴金処分についての勧告を行ったそうであります。(証券取引等監視委員会のリリースはこちら)すでに当ブログで何度も申し上げておりますとおり、たとえ会社とは無関係に役職員が内部者取引規制違反を行ったとしましても、金融庁の課徴金処分となってしまいますと、どうしても会社名も大きく報じられるところでありまして、企業の社会的な信用(レピュテーション)が毀損されてしまう可能性が高くなってしまうわけであります。

そこで「いい生活」社としても、報道後ただちに適時開示情報として、ステークホルダーの方々への謝罪、当該社員に対する社内処分、再発防止策を公表されているところでありまして、これらにつきましては、インサイダー取引発覚時における危機管理としては申し分ないところでしょうし、私自身も参考にさせていただきたいと思います。ただひとつ気になりましたのが、「内部者取引を行いました元従業員Aに対しましては、本件の悪質性と当社のダメージを考慮し、会社として損害賠償を請求する方針であり、必要に応じて訴訟を含む法的対応も検討してまいります」と述べておられる点であります。

たしかに上述のとおり、会社自身が課徴金処分を受けずとも、役職員の個人的な取引によって会社の信用に傷がつくわけですから、この従業員の方に対して(訴訟外における和解の話が進まなかった場合に)損害賠償請求訴訟を提起することも、株主から経営を託されている取締役らの行動としても頷けるところであります。しかしながら、もし会社の信用毀損を「損害」として、その賠償を請求した場合、元従業員の方からも「過失相殺」の抗弁が提出されることは考えられないのでしょうか?つまり、会社としてきちんと会社法上の内部統制の構築義務を尽くして、インサイダー取引防止体制を講じていれば、自分が課徴金処分を受けることはなかった、自分が課徴金処分を受けることで、かりに会社に損害が発生するのであれば、それは内部統制を構築していなかった現経営陣の過失にも起因するものであるから、○割の過失が会社側にも認められる・・・と「逆ギレ」されてしまうおそれはないか、ということであります。

もちろん、元従業員がインサイダー取引違反によって刑事罰を課されているのであれば、クリーンハンズの原則により過失相殺の抗弁自体がまったく認められないものと思いますが、今回はあくまでも「課徴金処分」という行政処分でありまして、そこには制裁的な意味合いも、道義的非難の意味もない、いわゆる形式犯としての処罰が存在するだけであります。(これは、本件における元従業員に対する課徴金の計算式をみても明らかであります)そうしますと、元従業員の犯行がきわめて悪質であるとか、経営者側において(社員研修や情報管理体制を含めて)インサイダー取引防止体制は万全であったとか、元従業員の行為は内部統制構築の限界を超えたものであるなどといった主張を、会社側が証拠をもって立証していかざるをえないように思われます。また、理性をもって冷静に判断するならば、(交通事故における過失相殺のように、それぞれの過失行為の向けられた方向性が対応しないのであるから)元従業員の過失相殺の抗弁は通らないのではないか、と考えるところでありますが、1円でも損害金を減らしたい・・・といった元従業員の気持からすれば、少しでも可能性のある主張であれば抗弁として提出することも十分に考えられるところですし、また過失相殺の主張を「損害発生への寄与度に応じた公平な分担」に重点を置くのであれば、会社の内部統制構築義務違反の事実が認められた場合には、その分、過失が認定される可能性もゼロとは言えないものと思われます。(「会社の信用」なるものを損害額算定の基礎に置くのであれば、そもそも全社的なリスクとして想定することが十分に可能なものでありますので、なおさらのように思われます)

もし裁判所が被告(元従業員)による過失相殺の主張を認め、会社側にも「信用毀損」に至った過失があったということが判断されたとすると、今度は経営者のほうが株主代表訴訟をもってインサイダー取引防止体制に関する内部統制システムの構築義務違反を問われるリスクが顕在化することになるわけですよね。つまり、会社としては「信用毀損」の損害額を大きく見積もれば、その分経営陣に跳ね返ってくるリスクも大きくなるということになりはしないでしょうか。この議論のポイントは、会社の信用を「損害」と捉えること、課徴金処分の法的性質、役職員個人としては(めずらしく)きわめて大きな課徴金の金額であること等でありまして、本件事案特有のリスクなのかもしれませんが、少し検討してみる価値もあるのではないかと。(そもそも、形式犯たる課徴金の性格が一般社会で理解されるようになれば、会社にとっての社会的信用の低下には結びつかない、それほど低下しない、ということになって、損害として金額算定されることもなくなるように思うのでありますが、どうでしょうか)

11月 5, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月 2日 (火)

インサイダー取引のリスクマネジメント

福田総理が辞任表明ということで、消費者庁はどうなっちゃうんでしょうね?せっかく昨日のエントリーで消費者庁の情報集約能力は大いに期待できるような書き方をしましたので、なんとかこれまでの流れを今後も持続していただきたいと個人的には願っております。それともうひとつ実は法曹界にとって少しばかり話題になりそうな発表が9月初旬に予定されていたのですが、これもおそらく首相辞任劇で延期になってしまいそうです。

政治問題とはまったく関係ありませんが、1日の日経新聞朝刊の「法務インサイド」では、インサイダー摘発が相次いでいるために、企業の自社株買いも委縮している、といったお話が掲載されておりました。いわゆる「うっかりインサイダー」問題ですね。犯意がなくてもインサイダー取引が形式犯として処罰されるというものでありますが、「情報が偏在するなかで利益を獲得するのは不公平なので、利益をはく奪する制度」(課徴金の場合)というのであれば、とくに「うっかりインサイダー」の場合には倫理的に非難されるものではないはずです。企業にとって何が怖いかというと、「うっかりインサイダー」を悪意に満ちた犯罪行為のごとく社会に受け止められることによる社会的信用棄損ではないでしょうか。たしかに「うっかり」と言いましても違法行為スレスレ・・・ということではなくて、違法行為に該当すること自体を知らなかった、ということでしょうかから、上場企業の役員たる者が(たとえ悪意に満ちた行動ではなくても)軽率にインサイダー取引に該当する行動に至ったことは批難されるかもしれません。しかしこれは悪意に満ちた行動とは一線を画すものだと思いますし、そのあたりを社会から誤解されるリスク自体が本当に怖いところだと思います。

フランスではインサイダー取引を含む経済犯罪について厳罰化を促進する、ということが本日の日経ニュースで報じられておりますし、改正金融商品取引法の解説記事にもあるように、日本もおそらく市場の公正を害する行為については厳罰化(刑罰の加重だけでなく、対象行為の拡大を含めて)の方向に進むものと思われますので、企業としても真剣にインサイダー取引による法令違反リスクへの対応を検討しておくべき時期に来ているようです。なお、本日の日経新聞では全くとりあげられておりませんでしたが、インサイダー取引リスクが怖くて自社株買いが委縮してしまうのであれば、普通に信託方式による市場買付で取得すればいいのではないかと思いますが?(といいますか、すでに多くの企業がリスク回避の手段として信託方式による市場買付で自己株式を取得していますよね。株価操縦リスクからも解放されるでしょうし。)たしかに手数料を要しますが、「うっかりインサイダー」リスクによって(報道にありますように)業務提携に関する決定事実をいったん白紙撤回にするような取締役会決議を行うくらいなら、チャイニーズ・ウォールを敷いて自社株取引を行うほうがリスクマネジメントとしては適正ではないかと思うのですが、それでもなにか不都合があるのでしょうかね?(^^;

私からみると、(自社株買いリスクよりも)先日のサンエーインターナショナル社の元会長さんのように、リスクを回避した(野村證券さんからOKをもらった)にもかかわらず1000万円を超えるような課徴金処分を下されてしまうような問題のほうがよっぽど悩ましいリスクマネジメントだと思うのでありますが。軽率な人が「うっかり犯」で非難されるのならばまだ納得もできますが、法令遵守の意識を持ち、用心深い人ですら(形式的処罰犯罪であるがゆえに)処罰対象となる・・・というのは、本当に悩ましいですし、その萎縮的効果こそ問題とすべきではないでしょうか。

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2008年5月20日 (火)

サンエー社のインサイダー疑惑とベターレギュレーション

以前日経新聞でも伝えられておりましたが、また読売ニュースにてサンエー・インターナショナル社(上場会社の役職員)のインサイダー取引について証券取引等監視委員会が課徴金処分を念頭に勧告を行う予定であることが報じられております。私の手元にあります東京証券取引所発行にかかる「インサイダー取引Q&A第三版」の29ページには、「決定事実」が最高裁まで争われた事例をもとに①決定は商法上の機関によるものに限られず(つまり社長の意思決定だけでもあたる)②条件付きの決定(たとえば親会社が第三者割当てに難色を示しており、この親会社が承諾することを条件に割当てを行う、といったケース)であっても該当する、とありますし、またQ&Aのなかでも半年前くらい遡った初期段階においては、かなり微妙ではあるが、社長がトップダウンで重要事実案件実現を目指して検討が開始されているようなケースでは初期段階であっても重要事実が成立していると考えられる(16ページ)とあります。この本の副題のとおり「30分でインサイダー取引がわかる」かどうかは別としまして、こういった一般の方向けの解説を読みますと、サンエー社の件は普通に考えても「ちょっとヤバイんじゃないかな?」と考えられるところだと思います。実際のところ、サンエー社としては「ヤバイ」と思って証券会社さんに意見を求めたわけですから、どうして証券会社としては、違法性なし(だいじょうぶ)といったサインを送ったのでしょうか。下手をすると、先日の証券会社社員によるインサイダー取引を発生させてしまった内部統制上の問題点ともつながってしまうのではないかと邪推してしまいますが、このあたり、もうすこし詳しい事実関係が知りたいところであります。

インサイダー取引が刑事事件として立件されるのであれば、サンエー社役員の方に故意が認められる必要性がありますので、証券会社さんの意見にしたがって公募増資を行ったというものであれば「故意が認められない」(もしくは行為に違法性なし)とされるでしょうが、課徴金賦課につきましては「うっかりインサイダー」なるお馴染みの用語でもおわかりのとおり、明確な違法性に関する認識がなくても柔軟に課されてしまうわけですから、サンエー社の役員の方にしてみれば納得のいかないところだと思われます。

金融庁HPで「ベターレギュレーションの進捗状況について」と題する報告書が公表されておりまして、そのなかでプリンシプルベースとルールベースの最適の組み合わせが大きな柱とされ、一例として先日公表されました「内部統制報告制度に関する11の誤解」が引用され、「ルールの解釈にプリンシプルから光をあて、実務が過度に萎縮することがないよう、制度の趣旨を明確に示す取り組みを実施」した、と説明がなされております。私はこの金融庁の「11の誤解」につきましては、かなり画期的であり、評価している立場でありますが(当ブログにお越しの常連の皆様は別の意見と思いますが)、これがルールベースとプリンシプルベースの最適な組合せの適例かどうかはちょっとよくわかりません。先のサンエー・インターナショナル社の例などをみますと、この「プリンシプルベースとルールベースの組合せ」なるものは、ルールの隙間をプリンシプルで埋める、といった印象が強いのではないでしょうか。そもそも金融市場の健全化をはかる為には、厳格な司法判断やがんじがらめの事前規制では機動的な取締りが困難なために、専門性を発揮した柔軟な取締りのために、プリンシプルベースで「穴」を作らない方に目的があるのではないかと疑ってしまうところがございます。となりますと、むしろプリンシプルベースというのは使い方次第では、実務に対して過度の萎縮的効果を与えてしまうのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

そもそも、「11の誤解」につきましても、実務が過度に萎縮することがないように」とは言いますが、経営者評価と監査とは別々の「実務」があるわけですから、経営者にも監査法人にも、それぞれの業務が萎縮しないことへの効果はあったのでしょうか?私には、どっちかに効果があれば、一方は萎縮してしまう関係にあるのではないか、と疑問に思っております。いずれにしましても、いま私が期待しておりますのは、相談センターなどの問い合わせ事例を集計して、世間ではこの内部統制報告制度を施行するうえで、どんなことが問題になっているかを早期に公表していただくことであります。それと、「金融専門サービス士」構想ですが、これはまた別の機会に思うところを書かせていただきます。

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2008年1月18日 (金)

インサイダー取引に対する「課徴金制度」の効用

(18日午前 追記 辰のお年ごさんより、2点ほどご指摘いただいております。また、igi先生からも適用条文に関するご意見をいただいております。貴重なご意見ですので、併せてお読みください。)

インサイダー取引に関するニュースは最近ひんぱんに飛び交っておりますが、やはり「NHK報道局の記者・ディレクターの方々による取引疑惑」となりますと、どこも一面トップで取り扱うニュースとなってしまいます。(たとえば日経ニュースなど。)以前、家族を不幸にするインサイダー取引なるエントリーをアップいたしましたが、家族だけでなく、会社も不幸にするのがインサイダー取引でありまして、先のエントリーでも申し上げましたとおり、コンプライアンス経営のために役員さんだけでなく、役職員でのセミナー受講をお勧めしたいのが、このインサイダー防止体制の整備であります。(東京や大阪の大手法律事務所は、どこも詳しい専門家の先生方がいらっしゃると思います)

磯崎さん(isologue)も、このたびのNHK記者さんの疑惑に関する要件該当性について疑問を呈しておられますし、また、葉玉先生(会社法であそぼ)も年初のエントリーにおきまして、今年の企業法務トレンドのひとつとして「金商法における課徴金制度の強化」(あとの二つは株券電子化とアクティビスト対策における敵対的買収防衛策、とのこと。)を掲げておられますので、おそらく内部者取引への対応は上場企業における喫緊の課題であることは間違いないと思われます。今回のNHK記者さん方のインサイダー取引で問題となりそうなのが、磯崎さんもご指摘のとおり「会社関係者がその職務に関して知ったとき」に該当するかどうか、といった要件該当性の問題(追記 ただしここでは重要事実に関する情報を入手した報道関係者が問題とされておりますので、正確には「情報受領者による不正な取引」として166条3項の前段もしくは後段の要件該当性が問題となりそうです。辰のお年ごさんと、igi先生のご指摘です。ただ当該情報取得者が「職務に関して知った」かどうか、という論点は166条1項の事案とほぼ同じだと思料されます。)と、もうひとつ、行政処分たる「課徴金制度」の対象事案であることと思われます。ちょっとややこしいのですが、金融商品取引法175条(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令)の第1項が、同法166条1項または3項を引用しておりますので、要するに「刑事罰たるインサイダー取引の違反行為と同じ要件によって、金融庁は課徴金納付命令を出すことができる」というものであります。

(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令
第175条  

第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において同条第1項に規定する売買等をした者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、その者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
一  第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において有価証券の売付け等(同条第一項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日前6月以内に行われたものに限る。以下この号において同じ。)をした場合 次のイに掲げる額から次のロに掲げる額を控除した額
イ 当該有価証券の売付け等について当該有価証券の売付け等をした価格にその数量を乗じて得た額
ロ 当該有価証券の売付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後における価格に当該有価証券の売付け等の数量を乗じて得た額

ちなみに、166条1項は、以下のとおりです。

(会社関係者の禁止行為)
第166条  次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
一  当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。

また、166条3項は以下のとおりであります。(辰のお年ごさん、igi先生のご意見などからみて、この3項後段が適用されるようですね。 記者は「情報受領者」ですので。ただ前段がストレートに適用されるかどうか、となりますと情報伝達の相手方をかなり広く解釈することとなり、たとえ放送局であっても、インサイダー取引とそうでない取引の境界線を引きにくくなるために妥当とはいえないように思います。たいへん勉強になりました。)

3 会社関係者(第1項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第1項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であつて、当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知つたものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。

刑事罰は「インサイダー取引は悪いことだ。悪いことをやった奴は道義的非難は当然だし、制裁を加える必要がある」というものですが、課徴金納付命令は刑事処分ではなく、行政処分ですから、行政目的達成のために課されるわけであります。つまり、「ズルをして儲けた奴のやり得は認められないから、その利益は返してもらう」という制度であります。(そのために、不当な利得をいくらと認定するのか、といった規則が定められております)したがいまして、原則として、そこには道義的非難とか、制裁という意味は基本的にはございません。(いまのところ。ただし、今年あたり「制裁的意味合い」のある課徴金制度を認めた金融商品取引法の改正案が国会で成立する予定であることは、前に述べたとおりであります。またすでに制裁的な意味合いのある課徴金制度は、金融庁管轄でも「改正公認会計士法」によって導入されております。)もちろん、インサイダー取引の刑事罰に関する構成要件(金商法166条)をそのまま課徴金制度(同法175条)でも引用しているわけですので、証券取引等監視委員会のほうで「この記者さんたちは、何度も繰り返してやっている」とか「そもそも報道機関という、もっとも規律を守るべき人たちがやっている」ということを重くみて「社会的に大きな非難に値するので、制裁を加えるべきである」との判断に至った場合には、金融庁への課徴金納付の勧告を飛び越えて、「しかるべき措置」を促すことになるわけであります。(刑事罰適用のための厳格な証拠が必要となることは言うまでもありません)

いずれにしましても、この記者さん方は、ご自身が閲覧できる「ニュース原稿専用端末」から、重要事実の公表直前に、インサイダー情報を入手したわけでありますので、刑事罰であっても、課徴金納付命令であっても、この方々が適用要件たる「(重要事実を)その者の職務に関して知った会社関係者」に該当するのかどうか、といったあたりが問題となるところであります。自分たちが取材してきた未公表のニュースの内容から自己の計算において株取引を行った、ということでしたら、当然言語道断のインサイダー取引でありますが、今回はどうもそうではないようでして、いわば報道部のなかで飛び交っているニュースの原稿に触れてしまった方々が、この会社関係者が「その職務に関して知った」のかどうか、という論点であります。実はこの「その者の職務に関し知ったとき」なる条文の解釈は、「職務行為自体により知った場合のほか、職務と密接に関連する行為により知った場合を含むが、その者の職務が、当該重要事実を知りうるようなものでなければならない」と狭く捉える見解から、「その職務の実行に関して知る必要のある情報または知る立場にある情報を知った場合」と、比較的広く捉える見解まで、いくつかの諸説があるようでして、私の知るかぎりではまだリーディングケースとなるような判例はないものと思われます。したがいまして、誰かがしゃべっているのを、たまたま聞いてしまった職員の人であれば、いずれの見解でもインサイダー取引の要件には該当しないでしょうが、今回のNHK報道局の記者さん方においては、ニュース原稿を専用端末から入手できる立場にあったということですから、「職務に関して知った」というのを広く解釈する立場からすれば、かなり微妙ではないかと思われます。

そして、この「かなり微妙ではないか」というのが、課徴金制度のミソであります。課徴金は行政処分ですから、刑事罰における「罪刑法定主義」が厳密には採用されないわけで、証券取引等監視委員会も、機動的、迅速的に対応することが可能であります。不服申立制度として規定されている「課徴金納付に関する審判制度」におきましても、厳格な証拠ルールは適用されません。また、課徴金納付命令を受ける側も、両罰規定の対象となる企業とは異なり(注1)、あくまでも個人本人の不当な利得を返還するだけですから、数万円から数十万円の世界であります。(ただし有価証券虚偽記載に対する課徴金等は別です)そんな数十万円のために、弁護士を頼んで行政救済制度で争う、取消訴訟で争う、ということはおそらくされないんじゃないでしょうか。しかも課徴金納付命令に対して争うつもりでいたとすれば「あれ?争うの?だったらこっちだって刑事処分でやっちゃうかもよ?」みたいな威嚇効果もあるわけです。実際、これまでに平成17年改正の施行以来、課徴金納付命令が発出された件数は30件を超えておりますが、いままで一度も課徴金納付命令は違法だ、と争ったものはなく、違反事実を認める答弁書を提出して、頭をさげて金融庁から処分を受けているのが現状であります。。誰も課徴金納付命令を争う気配がないわけですから、証券取引等監視委員会としては、「これ幸い」と今後も「微妙な解釈問題」が存在するケースでは、とりあえず課徴金制度を活用して、前例を作っていって、きたるべき刑事事件(こちらは弁護士がつくケースで解釈問題は争われることになります)での有罪率を高める礎を築いているところではないかと推測いたします。昨年、コマツ社や大塚家具社において問題となりました「うっかりインサイダー」につきましても、本当に争う気持ちがあれば、いくつか法律上の問題点はあると思いますが、結局は違反事実を認める答弁で終了しております。

(注1)ここにいう「両罰規定」とは、刑事罰が個人に課される場合のことを述べております。課徴金制度につきましては両罰規定はありません。法人の役員が会社の計算において売買を行った場合には、その会社自身が課徴金納付命令の対象となります。(金融商品取引法第175条7項参照)

そもそも法律の趣旨では、インサイダー取引といいましても、課徴金納付命令だけであれば、制裁的意味はないということですが、それでも世間では「とんでもない悪いことをした」「会社も悪い」「インサイダー=刑務所」みたいなイメージが定着してしまっており、個人的な利得目的によるインサイダー取引が社内で発覚した場合でも、本日のNHKのように謝罪会見となってしまうわけであります。そこで、企業コンプライアンス的な発想からしますと、そもそもインサイダー取引によって社員に対して課徴金の調査が始まってしまうような事態そのものから隔絶できるシステムを社内に作るべきではないかと思います。(なお、証券取引等監視委員会による調査に対しては、証券会社も証券取引所も、みんな協力する体制であることを、認識されていたほうがよろしいかと思います)なお、今回のNHKの事例では、3人のうちおひとりが違反事実を否定されているとのことであります。まだ今回の件が課徴金調査で終わるのか、刑事問題に発展するのかは不明でありますが、とりあえず今後の対応に注目しております。

(18日午前 追記)

今朝の新聞報道によりますと、このNHKの記者(ディレクター)さん方は、全国の別々の部署から、約5000人の社員が閲覧できるニュース原稿にアクセスしていた、とのこと。このシステムの運営につきましては、正確迅速な報道のために不可欠なもののようでして、今後も運営を変更できるようなものではないようであります。ということは、社内で容易に防止システムを策定することは困難なのかもしれませんね。また、同じ会社の3人が全国から、何の意思の連絡もなくアクセスしていた、ということですから、これが事実だとすれば「まだほかにも何人も同じことをしていたのでは?」と疑われてもしかたないかもしれません。

1月 18, 2008 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (9) | トラックバック (1)

2007年11月24日 (土)

情報管理と内部者取引(インサイダー)リスク

JTと日清食品、加ト吉との事業再編は、来年のMAを予想させるようなニュースであります。11月23日、24日の日経特集記事「食・再編(加ト吉買収の衝撃)」を非常に興味深く読みました。この両日の記事を読んだ後で、22日の三社(JT、日清、加ト吉)の公式発表の前に報道されました11月20日の日経1面の記事を読み返しますと、日経新聞による憶測記事というものではなく、再編内容の骨子につきましては、ほぼ間違いのない(取材に基づく)報道が20日の時点でなされていることが理解できます。(ただ、最初は何ゆえに日清食品さんが49%なんだろうか?と疑問に思いましたが、やはり日清さんも過半数取得にはこだわっておられたことを、後の報道で知りました。)こういった報道が日経記者さん方の熱意によるものであることは当然とは思いますが、しかしこういった関係当事会社にとって「トップシークレット」に属するような情報が、なぜかくも(詳細に)事前に漏れてしまうのでしょうか?私自身、昨年末から今年初めにかけて、(社外役員として)こういったトップシークレット事項を抱えていた当事者としましては、どうも理解不能であります。

11月20日の時点でスキームの詳細や今後の日程など知りえる立場にあるのは、三社の経営トップ(おそらく取締役でも知らない方はいらっしゃるはず)、関係部署責任者、財務、法務アドバイザー、そして公正取引委員会や経済産業省など、事前相談が必要な場合には、関係官庁の担当者くらいではないでしょうか。おそらく、こういった当事者のなかで、漏れる可能性というものはほとんどないですよね(と、信じたいです)。日経の20日の報道では、公表時期は11月末ころ、とされておりましたので、三社ともこの20日の報道を受けて、慌てて前倒しで22日に合同記者会見を行うことになったのでしょうね。(あくまでも私の推測でありますが)

厳格な情報管理のもとで、ごく少数の関係者のなかで再編計画を進めていても、やはり情報は漏れる・・・・・。たとえば今回の事例で申しますと、日清の冷凍食品部門に従事されていらっしゃる社員の方々にとってみれば、まさに「青天の霹靂」であり、経営者側への不信感というものは事後説明で払拭されるのでしょうか?おそらく経営者側にとりましては、関係部門への説明の「段取り」があったと思いますので、そういった段取りが狂ったことによる信頼関係の破壊が心配されます。そして、なによりも、どんなに厳格な情報管理を行っていたとしましても、社内に犯罪者を作ってしまう可能性(インサイダーリスク)は残っている、ということを改めて認識せざるをえないように思います。

Kigyou_ikinokori りそなホールディングスの社外取締役、箭内昇(やない のぼる)氏がお書きになっている「企業生き残りの条件(りそな社外役員の現場報告)」(ビジネス社 税別1600円)のなかに、コラムとして「りそな対マスコミ」といったテーマのものが挿入されておりまして、過去の苦い経験から、厳格な情報管理体制を敷いていたにもかかわらず、「経営健全化計画」の中身が発表前に報道されてしまった事実が紹介されております。この情報の漏れによって、(嫌な意味での)社内での文書取扱い方法に変更が生じ、行内に不信感が広がってしまった様子が描かれており、情報管理の難しさは公的資金を投入したような厳格な金融機関においてさえ直面するようです。(なお、この新刊書は内部統制、コンプライアンスに関心のある方にはお勧めです。委員会設置会社ではありますが、りそなの社外取締役兼監査委員会委員長として、りそな銀行のガバナンス改革にどう立ち向かっていかれたのか、実行と思考においてたいへん参考になります。とりわけ連載されたものを時系列的にまとめた本でありますので、後に実際に発生した事実を、それ以前にどう考えていらっしゃったのか、そのあたりが非常におもしろいところです。内部統制やガバナンスに関するご見解など、また別の機会に改めてご紹介したいと思います)

三連休の谷間である本日も、三洋電機社の配当金原資不足の件につき報道がなされ、さきほど、(午後1時前)三洋電機社から適時開示情報が出ておりましたが、これもなかなか関心のある話題であります。旧商法→会社法、証券取引法→金融商品取引法、会計基準の変更など、多岐にわたる論点が問題になりそうなところであり、これもまた別の機会に改めて検討したいと思っております。

11月 24, 2007 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2007年8月24日 (金)

家族を不幸にする「インサイダー取引」

8月22日付けにて、金融庁から「証券取引法等の一部を改正する法律の施行等に伴う関係ガイドライン(案)」がリリースされており、そのなかに『「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(平成19年内閣府令第62号。以下「内部統制府令」という。)」の取扱いに関する留意事項について(内部統制府令ガイドライン)案』も含まれております。個別にまた検討してみたいと思っておりますが、当面は内部統制府令と併せてお読みいただくのがもっとも理解しやすいのではないかと思います。通常、内閣府令が出されますと、その内容を補足するための「ガイドライン」が出されるわけでありますが、注目されるべきところは、このつぎに「Q&A」が出るのかどうか、出るとして「実施基準」の内容を実例に沿ってわかりやすく解説した指針のようなものになるのかどうか、といったところでしょうか。(一時期、Q&Aのなかで実施基準が緩和されるのでは?・・・といった噂も流れましたよね・・・・・)

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よく「インサイダー情報は家族にも話してはいけない」と言われますね。本日、私がこの方からお話をお聞きするまでは、「上場企業における重要事実は、それが公表されるまでは、たとえ家族に話すことであっても、自分が情報提供行為者に該当するおそれがある。また新たな犯罪者を生む可能性もある。」ことを戒めるための言い回しだと認識しておりました。家族が共犯関係にたつほどの「共謀」がありましたら上記の認識のとおりかもしれませんが、じつはそういった意味よりも、もっと重大な意味があることが理解できました。そうです、じつは家族に漏らしてしまった途端、何の連鎖もない家族も情報提供行為者としての疑惑の渦中に巻き込まれてしまう可能性が出てしまい、刑事訴追の時効期間が明けるまでの長く苦しいインサイダー取引の被疑者として、取調べの対象になってしまうことになるわけであります。「私は株をしない」「私は何の利益も得ていない」といった抗弁が通用しないところに家族による共犯疑惑のおそろしさが潜んでおります。

たしかに少しばかりインサイダー取引が立件される過程を想像してみますと、十分考えられるところであります。内偵の対象となりますのは会社だけでなく、対象者の自宅の通信記録なども含みます。たとえば私の顧問先企業が倒産の危機に瀕しているとして、妻に「あの会社、来週会社更生法の申請を出すから、3日ほど家には帰れないよ」とうっかり告げたとしましょう。間が悪いことに信用取引を行っている私の友人が、私の不在に自宅へ電話したところ、妻が「なんだか顧問先がたいへんだということで、3日ほど帰らないようです」などと話してしまいますと、私の友人はピンときて、思わず信用売りによって儲けてしまうかもしれません。こういった事案ですと、客観的な証拠からすれば私と妻と友人がグルになってインサイダー取引を行った疑いが濃厚ですよね。実際、こういった事例は空想のものではなく、けっこう存在するわけでありまして、私も友人も、ある程度疑われても耐えられるところがあるかもしれませんが、取調べの対象となってしまう妻はパニックに陥ってしまう可能性が高いと思われます。実際に取り調べによって精神的な疲労を残してしまうケースもあるようです。家族を不幸に導いてしまうがゆえに家族にすらインサイダー情報は話してはいけない・・・、これがもっとも恐ろしいインサイダー取引規制に関する戒めではないかと思います。自分が犯罪者になったり、犯罪者を新たに生む可能性があるからではなく、犯行とはなんら関係のない家族を犯罪疑惑の真っ只中に追い込んでしまうことのおそろしさ・・・、これこそ留意しなければならないところであります。

以前、インサイダー取引規制と内部統制に関するエントリーを書かせていただき、会社情報の機密管理の重要性を申し上げましたが、「家族」とまでは言えないものの、もし重要事実へのアクセス制限が「ゆるゆる」の企業であれば、証券取引等監視委員会による犯則調査や検察庁における刑事事件捜査の対象者(つまり被疑者)は社員のなかに無限大に拡散していきます。身に覚えのない嫌疑をかけられ(そもそも故意が存在しないはず)、犯罪者扱いされる社員としましては、たまったものではありません。そういった一般の社員の方々を不幸に陥れないためにもまた、インサイダー情報の管理については厳格に対応する必要があると思われます。(たしかインサイダー取引防止へ向けての社内での取り組み等につきましては、証券取引等監視委員会などによる派遣セミナーなどを利用することも可能かと思われます)

8月 24, 2007 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2007年5月 9日 (水)

インサイダー規制と内部統制の構築

(5月9日夜 追記あり)

ジャスダック上場の大塚家具さんが、増配(一株あたり20円→25円)に関する重要事実を決定しながら、公表前に自社株買いを行ったことで、インサイダー取引(平成18年改正前証券取引法違反)に該当するとして、金融庁より課徴金納付命令を受けるようです。該当事実は2006年2月の行為ですから、もう1年以上も前の事実ですね。(日経ニュース大塚家具さんの開示情報はこちらです)インサイダー取引規制の論点はけっこうたくさんありまして、とりわけ課徴金制度が導入されてからは、企業コンプライアンスの観点からも、ずいぶんと注意の必要なジャンルになってきたのではないかと思われます。(たまたまコンプライアンス委員とか、内部通報窓口業務とかやっている関係で、そう感じるだけかもしれませんが・・・)たとえば、このたびの大塚家具さんの場合、増配に関する開示でありますが、いったん20円と公表しておきながら、その後25円に修正する決定ですから、特別5円程度の増額修正ならいいのでは・・・とも思われそうですが、軽微基準によりますと20%未満ならオッケーですが、今回は25%の増額ですので、軽微とはいえないことになります。また、自社株買いにつきましても、もともと取締役会で決められた内容で、予定どおり適宜進めているわけですから、適用除外ということでいいのではないか・・・とも思われそうですが、ここにも論点がございます。(あまりに詳細な話になりますので、ここでは省略いたしますが・・・)そして、ニュース内容や大塚家具さんの公表された情報からしますと、先日もこのブログで話題となりました「重要事実の決定時期」に関する考え方が大きな争点だったようであります。(公表事実のなかにも「法律上の見解の相違があった」とされております)

増配に関する社内の決定時期について、証券取引等監視委員会は平成18年2月上旬、そして対象会社のほうは2月23日であったと主張されたようで、その2月10日から22日までの自社株取得行為がインサイダー取引に該当する、というもの。気をつけなければならないのは、会社側としましては、取締役会で正式に決定をして、その日に適時開示として公表したんだから、なんで内部者取引なの?といった感覚かもしれませんが、この「決定」というのは、証券取引法上では実質的判断と解されておりますので、前回も申し上げましたとおり常務会や経営会議での決定や、社内の体制次第では、ひょっとすると社長の意向表明といったところでも「決定」と評価されてしまう可能性も否定できません。(ここに、適時開示の社内実務とインサイダー規制の実務との「隙間」が出てきますので、コンプライアンス上の問題点が浮かび上がってきます。この「隙間」というものは、決定時期の問題だけでなく、適時開示における「重要事実」とインサイダー規制の「重要事実」が微妙に異なるところでも発生する可能性があります。たとえば先日のコマツさんの例では、海外子会社解散に関する事実が適時開示の対象にはなっても、まさかインサイダー規制の対象にはならないだろう・・・といった感覚から発生したようであります。この「隙間」は要注意だと思われます。)

単なる私見で恐縮ですが、こういった「決定」時期の実質的判断に由来する「隙間」問題についてのコンプライアンスリスクをどう社内で低減していくべきか、というところでありますが、(万全とまでは申しませんが)内部統制構築によるアプローチと、開示統制構築によるアプローチの二つが考えられるのではないでしょうか。内部統制的アプローチとして考えられますのは、上場企業でしたら、少なくとも社長の意思表明くらいでは重要事実の決定がなされたとは評価されないような体制を(形式的にでも)整えておくべきでしょうし、実質的な決定権限が取締役会にあること、監査役会による業務監査を経ておかなければ最終決定には至らなかった経験などを積み重ねていくことに尽きるのではないでしょうか。このあたりは、まさに会社法上の内部統制システムの整備と関連があるところだと思われます。また、開示統制的アプローチとしましては、社内での適時開示に関するルールを明文化しておき、開示対象事実の決定プロセスを、きちんと規定化すること、そして最終決定がなされるまでの間、誰が責任をもって情報を管理するのか、管理規定をもって明確化することだと思われます。こういった社内慣行の明文化と、その明文化されたルールが実際に守られていることで、こういったインサイダー規制に関するコンプライアンスリスクはかなりの程度低減できると考えております。(また、皆様方で、妙案がございましたらお教えください。)しかし、この大塚家具さんの場合も、コマツさんの場合もそうですが、おそらく「故意は認定できなかった」といった証券取引等監視委員会の見解からもおわかりのとおり、悪いことをして、不当な利益を得ようといった気持ちからではなく、たまたまひっかかっちゃった、というのが現実の意識ではないでしょうか。そもそも課徴金納付命令というものが、元々行政目的で発動されるわけでして、基本的には社会にある違法状態を是正するところに主眼があり、ペナルティ(制裁)ではないわけですよね。(いま、少しずつペナルティ的色彩の強い課徴金制度を市場規制にもとりいれよう、との意識が高まってきているわけではありますが)そういった行政目的による処分が発動されたことが、一般の社会では、けっこう強い非難の対象になっているところがあるように思います。きっちり争いたいんだけど、社会の風当たりが強くなるようだったら、課徴金を納付して済まそう・・・といったような企業行動にも反映されてしまうような気がします。こういった風潮についても、これでいいのかどうか、ちょっと考えるべき論点があるのではないでしょうか。

(追記)決定の解釈さんがご指摘のとおり、証券取引法上のインサイダー取引の「故意」について若干誤解を招く記載がありましたので、削除いたしました。この「故意」について証券取引等監視委員会が触れておられるのは、刑事立件への見解を示したのか、それとも課徴金賦課に関する情状としての見解を示したのか、明らかになっておりません。そのあたりちょっと報道や開示情報からはまだ判明しないようです。また、いろいろと示唆に富むコメントありがとうございます。(しかし、インサイダー取引関連になるとまた、なにゆえかアクセス数がアップしますね。。。(^^;  )

5月 9, 2007 インサイダー規制と内部統制の構築 | | コメント (9) | トラックバック (2)