裁判例に学ぶ-不祥事発生時における調査委員会報告書の「光と影」
本日(1月16日)もSOMPOホールディングスの最終調査報告書が公表されましたが(まだ読めておりません)、ダイハツ工業事案、旧ジャニーズ事務所事案、日大事案、ビッグモーター事案など、第三者委員会(特別調査委員会)の報告書が、対象組織のレピュテーションに大きな影響を及ぼすことが増えているように感じます。以前から第三者委員会制度には様々な批判が向けられているのですが、現実の企業社会においてはこの制度に代わるものがみつからないのが現実であり、当分第三者委員会制度は社会的に価値あるものとして活動領域を広げていくはずです。
ただ、この制度には「光と影」があり、とりわけ求められる「独立性」「真実性」「迅速性」のいずれにおいてもトレードオフの関係が存在します。したがって日弁連ガイドラインによって「厳格な事実認定のルール」が要請されてはおりますが、どうしても「事実認定の甘さ」に問題を内包していることは否めません。最新の判例時報2574号(2024年1月11日号)では、外部有識者(弁護士2名、学者1名)によって構成された第三者委員会が認定したハラスメント事実をもとに、社員(パワハラ加害者)を懲戒処分とした法人に対して、厳しい判断を下した高裁判決が掲載されています(高松高裁令和4年5月25日 同誌50頁、なお原審もほぼ同様の判決)。判決理由では、第三者委員会がパワハラと評価する根拠事実についてはいずれも証拠の証明力は限定的であり、どの事実をとってもパワハラを基礎づける事実とは認められない、よって懲戒処分は無効、と示されています。
上記判決文を詳細に読むと、個々の事実認定に必要な証拠レベルが示唆されていますが、おそらく上記トレードオフの両立を図るなかで、調査委員はより慎重な判断をしなければならないとあらためて感じました(そういった意味でタカラヅカ事案において調査委員会がパワハラの事実を認定するのであれば、やはりかなり客観的な証拠をそろえることが必要ではないかと)。スルガ銀行のシェアハウス向け不正融資案件では、調査委員会の報告書をもとに懲戒解雇された元営業トップの役員が、地裁で「懲戒事由に当たる事実が存在したと認定できるだけの証拠はない」との理由で懲戒無効となりましたが(東京地裁令和4年6月23日 労経速2503号3頁)、調査委員会報告にも限界がある、という点はもっと世間にも認知されてよいと考えています。
なお、委員の人選に問題があったために報告書そのものの信用性が乏しいのではないか?といった争点が審議された裁判例もありますが(神戸地裁令和3年6月29日判例秘書登載)、人選を含めた第三者委員会の設置については法人側に広い裁量権があるため、裁判所としても法律判断はむずかしいと思われます。中立公正な立場で調査委員会が活動しなければならない以上、求められるのは証拠ルールに基づく事実認定であり、灰色認定がやむを得ないのであれば、「灰色であること」をきちんと明示すべきです。
