2018年11月 5日 (月)

企業統治改革が進むなかで「役員退職慰労金制度」も評価されるべきでは?

11月2日の日経夕刊「十字路」に、会社法に詳しい弁護士の方が「役員退職慰労金制度の是非」と題する小稿を書かれており、興味深く拝読いたしました。最近、同制度に関連する議案については、株主総会で最も反対票が集まるところでありまして、ご承知のとおり、役員退職慰労金制度自体を廃止する上場会社も増えています。しかし、この「役員退職慰労金制度」はそんなに悪い制度なのだろうか、使い方によっては株主にとっても有利ではないか・・・というのが上記「十字路」のご論稿の趣旨であり、私も同感です。

会社法上、取締役の退職慰労金は「役員報酬」に含まれるものと考えられていますので、株主総会決議によって金額等の決定をすべて取締役会に一任することは許されませんが、明示的もしくは黙示的にその支給基準を示し、具体的な金額・支払期日・支払方法等は基準によって定めるべきとして取締役会に一任することは許される、というのが最高裁判決の立場です。したがって、このような判例を前提として実務が運用されているとすれば、たしかに役員退職慰労金の具体的な決定プロセスの不透明性は否めないため、機関投資家から不評を買うことは理解できます。

ところで、機関投資家の方々から制度廃止の要請が強いといえば「相談役・顧問制度」も同様です。相談役・顧問制度については、(同制度にもそれなりに長所はあるので)私は一律廃止すべきではなく、指名委員会を構成する社外取締役が中心になって、実質的な支配権行使に出るような弊害をチェックすればよいという意見を何度も述べてきました。以前、当ブログのエントリー「社外取締役の活躍が期待されるトヨタの相談役廃止制度」でもご紹介しましたが、トヨタ自動車さんなども、このような制度運用を採用されているようです。

これと同様に、企業統治改革が進み、複数の社外取締役によって取締役会が構成されるようになった現在、「退職慰労金決定プロセスの不透明性」は、社外取締役の頑張りによって解消できるようになったのではないかと。上場企業を例にとりますと、今年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、社外取締役が過半数に満たない取締役会では指名・報酬に関する任意の委員会の設置が要望されています。この報酬委員会に社外取締役が積極的に関与していれば、役員退職慰労金の具体的な支給決定プロセスはかなり公正なものとして担保されるはずです。

また、上記「十字路」に書かれているご意見のように、もし支給基準等が株主総会で明確に説明されていないのであれば、議案の中で開示させることによることでも足りるのではないでしょうか。攻めのガバナンスが政府主導で推奨されるなか、中期経営計画を策定し、その遂行を通じて企業価値を向上させる仕組みが求められているのであれば、むしろ退職慰労金制度は十分なインセンティブになりうるのではないかと思われます。制度の短所を社外役員等の活用で補完することができるようになった今、むしろ役員退職慰労金制度をもう一度見直すことも検討してみてはいかがでしょうか。

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2017年1月13日 (金)

会社法改正によって日本の会社は変わらない?

先日の日経法務面でも話題になっていましたが、2017年3月ころには「会社法の一部を改正する法律」附則25条に基づいた会社法改正を検討する会社法研究会の報告書がとりまとめられるそうです。附則25条というのは、

(平成26年改正会社法が)施行後2年を経過した後、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案した上で、必要があると認める場合には、社外取締役設置の義務付け等所要の措置を講ずる

というものです。商事法務さんのHPで会社法研究会の審議状況は時々チェックしているのですが、社外取締役制度に関する法令をこうすべき、といった議論が白熱しているようには(いまのところ)思えません。この2年間、東証の独立役員制度に加えて、コーポレートガバナンス・コードの適用が開始されたこと、会社法において監査等委員会設置会社という機関設計が認められるようになったことで、ずいぶんと社外取締役が増えました。会社法で社外取締役を強制導入することが、いまから必要なのかどうかといいますと、あまりその必要性は認められないような気もします。少なくとも形式面では社外取締役が急増したのですから、今後は実質面において、「社外取締役が選任されることで業績が向上した」「不祥事の予防や発見に効果があった」といった立法事実が明らかになった時点で検討すればよいのかもしれません(あくまでも個人的な意見です)。

そういえば、以前このブログでもご紹介しました江頭憲治郎先生のご論稿「会社法改正によって日本の会社は変わらない」(法律時報2014年10月号59頁以下)が発表されて2年以上が経過しました。会社のガバナンスが上手くいっていないからといって、会社法の規制を強化してもほとんど無意味であり、会社法が乗っている基盤(いわば「下部構造」)が変わらない限り日本の会社は変わらないというスタンスのご論稿です。そしてこの「下部構造」というのは、①機関投資家、②経営者選抜システム、③会社事件にプリンシプル(原則主義)の適用を嫌う裁判所の姿勢、というものだそうです。

私も江頭先生が指摘されている②経営者選抜システムの変化がなければ、ガバナンス改革で会社が変わることはないだろうな・・・と思います。実務技能に長けた方が社内で勝ち上がり、そのまま社長に就任する制度の下では、経営技能を習得する機会がないのでCEOの人材不足をもたらしている、同じようにビジネスの世界で勝ち上がった経営者OBが社外取締役に就任しても、執行部との目線が同じなのでなんら会社は変わらないといったあたりが説得的です。

ところで、この「会社法が乗っている基盤(下部構造)」には全く変化はみられないのでしょうか。機関投資家についてはスチュワードシップ・コードの浸透があり、企業との建設的な対話を図るという意味ではやや変化が生じてきたように思えます。また②についても、法で規制できるような課題ではありませんが、「働き方改革」が推進されて、同一労働・同一賃金に関する指針案等も出てきました。大きく変わるというものではありませんが、少なくとも日本型雇用慣行が少しずつ変化する傾向は(政府の力で)出てきたように思います。

問題は③ですね。裁判所が商事事件を判断するなかで、原則的な判断基準を示すということはあまり見受けられません。ただ、ガバナンス・コードをコンプライしている会社の役員が、その運用を怠っているようなケースでは善管注意義務違反に該当する、といった判断がなされることもあるかもしれません。また、近時の最高裁判決の傾向をみていると、経営判断の内容には踏み込まず、判断過程の適正手続性審査に重点を置いているとも読み取れそうなので、その手続きの経済的合理性をチェックするなかでプリンシプルの趣旨を尊重しているのかもしれません。このような諸事情から、「下部構造」に変化はみられるように思います。

不祥事防止よりも、業績向上のためのガバナンスということも会社法改正が検討される一因のようですが、その実現のためには「会社法改正でできること、できないこと」「法改正に向けて尽力する関係者の並はずれたパワーが発揮される可能性があるかどうか」といったところをまず理解しておく必要があると思います。そうでないと、やはり「会社法改正では日本の会社は変われない」といった結論を再確認することになってしまうような気がいたします。

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2016年10月13日 (木)

ジュピターテレコム事件最高裁決定が残した課題について考える

Tanakakaishahou東京大学の田中亘教授の執筆された本が発売されましたね。予想どおり10月12日現在、アマゾンの商法、会社法部門で売れ筋ランキングトップですが、この厚さで3,800円(税別)とは驚異的です。(いきなり値段の話で恐縮ですが)。東京大学出版会さんとしても、「この本は間違いなく売れる!」とマーケットの動向を想定したうえでの価格決定なのでしょうね。

ちなみに、私が執筆した論文の意見も、(通説に対する反対説として)名前入りで本文5行にわたって引用していただいておりますが(280頁参照、田中先生の意見まで含めると9行)、今後、法学部生やロースクール生の皆様にお読みいただく基本書に、拙意見を引用いただいたことはたいへん光栄でございます(どうもありがとうございます。せめて第2版くらいまでは残しておいてください>田中先生)。司法試験受験生の基本書定番は「リークエ会社法」(リーガル・クエスト会社法第3版 有斐閣)だと思いますが、今後はこの田中会社法を活用する受験生も増えるでしょうね。

さて、その田中亘教授が、判例雑誌「金融・商事判例」1500号の巻頭において「ジュピターテレコム事件最高裁決定が残した課題」という小稿をお書きになっています。株式価格決定申立事件における裁判所の「取得価格決定方法」に大きな方向性を与える最高裁決定として、今後のM&A実務に大きな影響を及ぼす決定であり、当ブログでもすでに2度ほど取り上げました。

この最高裁決定の判断過程は、これまで田中教授が論文等で主張していた流れに沿うものですが、それでも「残された課題」があると述べておられます。それは、親子会社間の取引のような、利益相反のある取引が、「一般に公正と認められる手続き」により行われたかどうかについて、裁判所がどの程度立ち入った審査を行うべきか、という点だそうです。

裁判所は手続面を重視した審査を行うべきであるが、米国判例法で示されている手続審査は相当に立ち入ったものであり、単に第三者委員会が設置されたとか、株価算定機関の意見を得たといった外形的事実のみの審査にとどまるとすれば、それは米国法の実情とは大きく異なり、利益相反のある取引の公正さが担保されなくなるのではないか

と述べておられます。上記決定における小池最高裁判事の補足意見にも触れて、一般に公正と認められる手続きが「実質的に」行われることが求められるとのこと。まさに、親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(正確にはその子会社)がニッセンホールディングスを100%子会社化する際のスキームがそのまま「残された課題」事例かと思われます(公開買付ではなく株式交換を活用したスキームなので株主利益擁護に関する論点が多いと思われます)。ニッセンの第三者委員会は、委員会独自のリーガルアドバイザーとともにセブン&アイと直接交渉しましたが、そこでは(少数株主の利益に関わる)第三者委員会固有の論点を議論の対象にしました。しかも、ご承知のとおりセブン&アイ側には著名な有識者を含む4名の社外取締役の方々がおられることも意識して、「セブンの社外取締役がナットクするような理屈」を考えなければならないわけですから、かなり交渉内容はむずかしいものでした(すいません、中身はお話できませんが)。

代理人ではなく、自分が当事者の立場だったこともあり、田中教授の指摘されるとおり、株価算定機関の意見を得たというだけでは到底、株主の皆様に納得してもらえる話にはならないことを痛感しました。セブン&アイとの資本業務提携を締結するに至る2年半前の交渉経過、その後今日に至るまでのセブンとの協力関係、その結果としてのシナジー効果の検証、そしてニッセンの現状の財務状況における最善の選択肢といったところまで、ニッセンの取締役として相当程度経営に関与していたからこそ第三者委員会の意見をとりまとめることができました(その結果として、株価算定機関の算定したレンジの範囲内に数字が収まれば一番良いのですが・・・)。

そういった意味では、株式価格決定を伴うようなM&Aの場面では、子会社化される側の会社においても、また「選択と集中」を推進する親会社側においても、社外取締役や社外監査役の方が、意見形成に関わることの必要性を感じますね(最近はモニタリングモデル、執行と監督の分離といったことが取締役会改革として議論されていますが、状況によっては監督だけに特化することは不可能ではないかと)。一般に公正と認められる手続きが「実質的に」行われたかどうかの判断事由(判断根拠)は、個々のM&Aによって異なるものだと認識しておくべきです。

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2007年6月27日 (水)

会社法を熱く語る人との出会い(その1)

ある企業法務部の方のご紹介で、前から一度意見交換させていただきたかった葉玉匡美先生と食事をご一緒させていただき、3時間以上にわたり、会社法を熱く語っていただきました。(というよりも、私としましては総会を直前に控え、社外役員としての立場にて勉強させていただきました)いや、実にサービス精神旺盛な方でありました。ブルドックソース社の買収防衛策から始まり、会社法および金商法上の内部統制理論、会計参与制度の誕生秘話(これはとりわけおもろかった!)、MBOにおける少数株主保護のあり方、上場企業とソフトロー、そして会社法が誕生するまでの生みの苦しみなどなど。いろいろと意見交換をさせていただき、とりわけ印象的だったのは、さすがに立案担当者としての(法律を成立させるための)政治的判断と、裁判官が紛争解決のために会社法を適用する場面を見据えた妥当性判断について、絶妙なバランスをとりながら会社法を策定することに努力されていた点でしょうか。(こういうのは、やはり実際に話をお聞きしないとわからないですね)本日、いろいろとお話いただいた内容は、また今後の会社法ネタの参考にさせていただこうかと思っております。(どうも、ありがとうございました)とりいそぎ、明日は株主総会本番ですので、また「無事に」終了してホッと一息ついた頃に、(たぶんその頃にはブルドックの仮処分命令の決定が出ているのではないかと思いますので)続きをエントリーしたいと思っております。たいへんお忙しいなか、熱く語っていただいた葉玉先生に厚くお礼申し上げるとともに、こういった貴重な機会をおつくりいただいた某企業のKさんに感謝申し上げます。m(--)m

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