2007年7月 5日 (木)

JICPA「企業価値評価ガイドライン」

7月3日付けにて、日本公認会計士協会のHPに経営研究調査会研究報告として「企業価値評価ガイドライン」が公表されております。(リンクによる引用は控えさせていただきますので、ご自身でHPにアクセスしてみてください。)このガイドラインは、公認会計士さん方の株式価値評価の際の実施、報告についてまとめたものであります。(ただし「基準」に該当するものではなく、また当然のことながら法的拘束力もありません。なお、公認会計士以外の専門家が利用することを妨げるものではない、とのこと)最初、なにげなくWEB上で読み流そうと思っていたのでありますが、たいへんおもしろい内容だったんで、全部プリントアウトして一冊の本にしてしまいました。

これ、どうなんでしょうか。私が読むかぎり、かなり実務で使えそうな内容ですよね。実に優しく書かれていますよね。評価アプローチと評価法に関する記述もわかりやすいですし、私のような法曹からみると、後半部分の「裁判目的の価値評価業務」と「今後の企業価値評価業務と検討課題」のところがたいへんツッコミドコロも多いですし(まさにブログネタの宝庫!)、非常に参考になる記述が多いと思います。163ページの大部でありますが、今日だけでも約3分の1くらいは、普段参考書として利用しております「MBAバリュエーション」(日経BP社 森生明著)と読み比べながら精読いたしました。こういった実務マニュアルを読んでおりますと、鑑定人(もしくは評価人)が企業価値評価方法として折衷説を採用したとしましても、どういった仮定事実を重視して、その評価方法の比率を高めたのかとか、採用した仮定事実間に矛盾はなかったのかとか、結論に至る過程を逆から辿っていくためのモノサシを提供してくれますし、前提事実を提供する企業側の主観部分と、評価算定する算定人自身の主観による部分などを仕分けすることの根拠にもなりえますので、(これが唯一の基準というわけではないでしょうが)企業価値判断を吟味するにあたってのたいへん貴重な情報が満載ではないかと思われます。

具体的な例であげますと、たとえば上場企業の非公開化手続き、いわゆるMBO(マネジメント・バイアウト)の場面におきまして、公開買付側企業の株価算定書については証券取引法上のルールとしてEDINET上に公開されております。あれはいわゆる「株価算定業務」の一貫としての第三者機関による意見表明報告書の部類に属することになるのでしょうが、それでは対象企業が参考とすべき公正中立な第三者機関の株価算定書はどうなんでしょうか?(この算定書は現状では公開がルール化されておりません)このブログでも何度か話題となりましたが、対象企業の取締役らとしましては、できるだけ一般株主から安い値段で買い取りたいといったインセンティブがはたらくわけでありますが、しかしながら一方で株主利益の最大化を図る必要があるわけでして、この二律背反的な要請が、取締役らの行動として適法であるためには、どうしてもこの第三者機関における公正な株価算定に依拠するところは必要だと思われます。そうしますと、このガイドラインで説明されているところの「フェアネスオピニオン業務」を取締役らとしては、算定人に求める必要があるのではないか、と考えますが、実際のところは公開買付者側の第三者算定書の内容と、自社が依頼した算定人の意見に基づいて、TOBに賛同すべきかどうかの意思決定を行うわけですから、投資意思決定等の参考としての評価額を算定すること、つまり「算定業務」のみを依頼しているものと思われます。このガイドラインの説明によりますと、たとえフェアネスオピニオン業務だとしても、「対象取引価格が公正であることを表明する」にとどまり、その表明が特別な責任を負担するものではない、とのことでありますので、MBOの場面における取締役らの行為規範としましては、一般株主のためには、そこまでの説明義務が要求されてもおかしくないと思うのですが、どうなんでしょうか。(たしか以前に、取締役らが提供する前提事実の信憑性や、将来計画に対する見込みの正確性への調査など、真剣に検討するとなると膨大な費用がかかる・・・といったコメントを頂戴したことはございますが、だからといって何も疑わない、というのもまったくナンセンスのように思います)

また、このガイドラインによりますと、株価算定書といったものが、一般株主の目に留まる可能性があり、企業の無形資産等が社外に流出するおそれがあるために、できるだけ簡潔な算定書を作成することがのぞましい・・・といった記述になっておりますが、これも取締役らの説明義務といった観点からは異論のあるところではないでしょうか。たしかに、一般株主の目に留まる範囲においては、算定要旨のみの記述書として、企業秘密等の流出を避けることが望ましいかもしれませんが、裁判等の文書提出場面においては秘密保持命令やイン・カメラ手続きによって企業価値の流出を防ぎながら、株価算定手続きを争うことは可能でしょうし、そもそも詳細な算定書が記述されること自体が、中立公正な株価算定書作成の信頼性を担保するものでありますので、要旨書とは別途正式な算定書を依頼者側企業に提出すべきではないでしょうか。(鑑定人と裁判所との理想的な対応方法なども記述されておりまして、おそらくこのガイドラインは秀逸なものではないでしょうか。これまで私が単に、こういった研究報告を知らなかっただけなのかもしれませんが・・・)

7月 5, 2007 JICPA「企業価値評価ガイドライン」 | | コメント (2) | トラックバック (1)