2016年4月18日 (月)

独立社外取締役の複数選任制と経営者の交代

会長さんの処遇問題(「名誉会長」「最高顧問」として指名するか否か)で、某大手流通グループが揺れている・・・との報道が続いておりますが、任意機関としての指名・報酬委員会の委員である社外取締役2名の方々が、会社側人事案に反対されているそうです。いままで大きな影響力を持っていた会長さんが取締役を退くとしても、その後に「最高顧問」等の肩書きを残すとなると影響力がそのまま残ってしまうのではないか・・・と不安に感じるところも理解できるところです。

以下は一般論にすぎませんが、社長や会長職から退き、「顧問」や「相談役」として残るケースでは、単に肩書だけでは影響力や支配力が残っているかどうかは不明です。仮に私が一般株主として、このような人事案がガバナンスに与える影響について質問するのであれば、①専属秘書の有無、②(専属運転手は別として)社用車保有の有無、③個室の有無、④かりに個室がある場合には社長と同じフロアなのか、別の階に移動したのか⑤出勤状況(週2回以上出勤されているのか)といったことを具体的にお聴きしたいです(ほかにも「交際費の支払条件」などもありますが、これはたぶん回答されることはないと思います)。

なかでも経営権争いの事例に携わった経験からしますと、③と④は大きいかなぁ・・・と思います。顧問や相談役の方々が、今後の社内人事に深く関与できるためには、このふたつはどうしても外せないように思いますし、非定例の事件によって社長、会長さんが退任される場合に最も抵抗があるのが③と④かと。ただ、コーポレートガバナンスの理想型だけを追い求めて、会社の企業価値向上、持続的な成長を維持するために、社長、会長さんの影響力を一切排除することがベストだとは考えていません。あくまでも当該会社の株主構成や人事慣行とのバランスに配慮しながら決定すべきです。

ところで齋藤教授(慶応大学)、小川教授(早稲田大学)、宮島先生(経済産業研究所)らによる共著論文「企業統治制度の変容と経営者の交代」が独立行政法人経済産業研究所のHPにて公開されています。ガバナンスについての経済的アプローチによる実証研究の成果として、また多くの論文等に引用されることになると思いますし、ご一読をお勧めいたします。こちらも会社規模や機関投資家比率(海外機関投資家比率を含めて)との関係に配慮しなければ明確なことは言えませんが、会社の業績が悪化した場合、独立社外取締役は経営者交代に果たして機能するかどうか、という点に関する実証研究はたいへん興味深いところです。

独立社外取締役が1人または2人の場合には、業績が悪化した企業の経営者交代についてあまり影響はなく、むしろ業績悪化を覆い隠す要因になってしまう可能性があるのに対し、独立社外取締役が3人以上(もしくは取締役会の構成比率が30%以上?)の場合には、経営者交代に対して有意に機能する、とのこと。なるほど、外向けのガバナンス対応は会社の七難を隠す一方で、3人以上の独立社外取締役を選任する会社の場合には、社外取締役自身が業績向上のための施策について真剣に考える契機になる、ということでしょうか(そういえば某大手流通グループさんも独立社外は4名です)。

会社の業績が堅調なときにこそ次のビジネスモデルへの転換を模索しなければならない、業績が悪化してからでは遅すぎる・・・・・。では、その方向性は、これまで会社をけん引してこられたカリスマ経営者のひらめきに依拠すべきか(すべての取締役に反対されながらも、自らの信念を通してやってきたからこそ、今の会社の繁栄があるわけです)、それとも多様性を保持した取締役会の変革の中に見出すべきか、とても悩ましい課題です。某会長さんの会見での言葉をお借りすれば「最後は資本と経営の分離の問題、資本の信任があってこその経営」かとは思いますが、これはスチュワードシップ・コードの遵守を宣言されている機関投資家の方々からみても、かなり難問ではないでしょうか。

4月 18, 2016 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年4月14日 (木)

相次いで公表される日本再興戦略「攻めの経営」の促進プラン

日本再興戦略改訂2015において、攻めの経営の促進プランとして掲げられている具体的施策の中身が次々と公表されています。本日(4月13日)の金融庁HPでは金融審議会ディスクロージャーワーキンググループの報告(案)が開示資料として公表されており、株主と企業との対話の促進、開示制度の一元化の促進案等が示されています(統合報告書についても触れられています)。また日経ニュースでは金融庁が(攻めの経営を支える銀行の役割を明確にするために)銀行監督を強化することも報じられていますね。

コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの運用についても別の有識者会議が先日中間報告書をとりまとめていましたので、進捗度が高まってきたように思います。そういった日本再興戦略改訂2015「攻めの経営の促進」プランの中に、あまり目立ちませんが海外不正リスクへの対応策というものが盛り込まれています。経産省の海外贈賄防止指針の改訂はすでに行われてますが、(何度も当ブログでは申し上げておりますとおり)日本政府ではなく、たとえばDOJに対応したコンプライアンス・プログラムの社内体制の整備なども企業側にとっては重要です。

昨年6月当ブログの こちらのエントリーにて国広さんの新刊書をご紹介しましたが、旬刊商事法務の最新号(4月5日号)では、一昨年に出版させていただいた「国際カルテルが会社を滅ぼす」(同文館出版)の共著者である井上朗弁護士が「米国司法省が求める『実効性のある』コンプライアンスプログラムについて」と題する論稿を執筆されています。井上弁護士は、東京の渉外事務所のパートナーとして米国との司法取引を何度も経験されておられるので、実務に密着した論稿になっています(平易な文章ですし、とても参考になると思います)。

有事となれば、もちろん井上弁護士のような渉外弁護士と相談する必要があるわけですが、「コンプライアンスプログラム」とあるように平時にこそ準備すべき課題もあります。「なぜ、日本企業が狙われるのか?」といったフレーズでときどき特集が組まれることもありますが、海外当局がどのような「大義」をもってカルテルや贈賄に取り組もうとしているのか、その大義こそ平時から理解しておく必要があるのではないかと思います。

4月 14, 2016 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年8月24日 (月)

東芝の「社長信任制度」はコーポレートガバナンスを後退させる

8月19日、不適切会計処理問題で揺れる東芝さんが、新たなガバナンス体制を公表しました。攻めと守りのガバナンスを意識した内容だと思いますが、なかでも新たな制度導入として、新聞紙上では「社長信任制度」が注目されています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。

信任投票に参加するのは、取締役を兼務していない執行役、子会社社長など上級管理職約120人で、「経営トップとしての対応、法令順守の姿勢に問題がないか」などについて、社長の評価を無記名で投票するそうです。否定的な回答が多数(おおむね20%以上)の場合、追加調査を行い、投票の結果は社外取締役で構成する「指名委員会」だけが把握し、社長再任の是非を判断する際の参考にする、とのこと。

人気投票で社長が決まる、というものではなく、最高裁判事の国民審査のような「信任」のための制度、ということなのでしょうね。ただ最高裁判事の国民審査の結果は国民に開示されますが、この社長信任投票の結果は社員等には一切開示されませんので、どの程度の不信任投票が行われたかは(対内的にも、また対外的にも)全くわからない制度です。

社長と副社長の距離は、副社長と平社員の距離よりも遠い・・・とよく言われるとおり、経営トップとしての対応やコンプライアンス経営への姿勢について、120人の幹部クラスの社員の方々が、なぜ把握できるのか、よく理解できないところです。そもそも巨大な企業組織にはいくつかの派閥があるのが当然ですから、5人に1人くらいの幹部社員が社長に否定的な見解を示すくらいでなければ競争する企業としては成り立たないのではないでしょうか?5人に1人も否定的な意見が出ない投票のほうがむしろ(競争力を失ってしまった)異常な組織だといえそうな気がします。

そして、私がこの社長信任制度で一番問題だと感じるのは、この制度は社外取締役の責任を軽減することにつながりそうな点です。指名委員会等設置会社の指名委員会は社長の再任や新たな選任においてもっとも実効性を発揮しなければならない機関です。したがって社外取締役にとっては最も責任が重くのしかかる場面であり、またステークホルダーから「攻めのガバナンス」の役割について最も期待がかかる局面です。しかしながら、その重要な局面において、指名委員会の客観性担保のためとはいえ、社長信任投票が行われるとなりますと、指名委員会の責任はかなり軽減されてしまいます。「幹部社員の投票結果も参考にした」ということが言えれば、どんなに社外取締役にとっては肩の荷が下りるでしょうか。

指名委員会が役割を果たすこと、意思決定の透明化を図ることは、対外的な説明責任を果たすことで示すべきあり、指名委員会の意思決定の過程を束縛することではありません。いや、その過程を束縛することは、かえって社外取締役の責任を軽減させてしまい、経営執行部から出された「社長案」を(指名委員会が)そのまま鵜呑みにしてしまうことにつながることが危惧されます。このあたりが機関投資家からどのように評価されるのでしょうか。

8月 24, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年6月22日 (月)

注目される東洋ゴム工業社の社外調査委員会報告書(本日公表)

(訂正とおわび:当初「第三者委員会報告書」と表記しておりましたが、政府主導の委員会が正式な第三者委員会であり、東洋ゴム工業社が調査を依頼しているのは社外調査委員会なので題名及びエントリー内容を一部訂正いたしました。誤解を招く表現であったことをおわび申し上げます)

(6月22日午前 追記しました。)

東洋ゴム工業社の人事に関する6月19日の日経新聞記事には驚きました。このたびの免震ゴム性能偽装事件の責任をとって東洋ゴム工業さんの代表権を有する取締役3名が同時に辞任される方針と報じられています(おそらく19日の同社リリースから推測しますと、23日の記者会見で明らかになるのでしょうね)。しかも今回の不祥事にもかかわらず、当初は代表者は続投とされていましたが、一部の社外取締役、社外監査役の強い意向があり、全代表取締役が辞任の決断に至った、とのこと。いずれにしましても、本日(6月22日)の午後1時半、同社では一連の事件経過等に関する社外調査委員会報告書第三者委員会報告書が公表されるそうなので、その内容が注目されます。私も夜にはなんとか読める時間がとれそうなので、ぜひ拝読したいと思います。ちなみに私の関心事については4月27日付けのこちらのエントリーで述べたところと変わりがございません。

先週お伝えしたオリンパスさんの中国贈賄疑惑事件や大塚家具さんの代表取締役交代劇もそうですが、社外取締役や監査役(社外監査役を含む)の意見が経営執行部に強い影響を及ぼす事例というのは、これまであまり伝えられることはなかったのですが、最近はニュース等で報じられることが多くなってきたように感じます。攻めのガバナンスといわれて、最近では東証一部上場会社の9割以上で社外取締役が選任されることになったそうですが、攻めであろうと、守りであろうと、選任された以上、会社が有事となれば社外役員が前面に出る覚悟が必要とされます。

いま、上場会社ではガバナンス報告書の改訂が行われている最中であり、私も数社の報告書改訂のお手伝いをしていますが、各社とも「取締役会評価問題」に腐心しています。取締役会は経営執行部とどのように協力し、またこれをどのように監視するのか、さらに株主にどのように責任を負うのか、という点について、これまで以上に意識せざるをえない状況にあります。たとえば企業不祥事を起こした局面においては、(コードにコンプライした以上は)株主への説明責任という点では、情報の非対称性を解消するためにも社外役員に大きな責任が生じます。また、短期的な業績回復のためであれば現経営陣の続行ということを肯定できても、今後の5年、10年を見据えた企業の在り方を検討することを重視するのであれば、企業存立の正当性(倫理的な側面)からの大きな経営判断が取締役会に求められます。

タカタ社、LIXIL社、シャープ社等において代表者選任議案、社外役員選任議案に対してISS、グラスルイス等の議決権行使助言会社が反対を推奨していることが6月19日の日経ニュースで報じられています。いずれもROE基準の問題だけでなく、有事において取締役会が機能しないことが懸念されることに起因しています。平時においては経営執行部と取締役会がいかに協力してスピード経営を推進していくか、というところに関心が向きますが、業績の悪化、大型M&A、社内抗争、企業不祥事等、会社の有事の場面ともなると、取締役の利益相反が顕在化する状況において会社はどのように株主と向き合うのか、その取締役会としての評価について、今後は上場会社自らが意識せざるをえないものとなります。

追記:本日の日経朝刊に本日公表予定の報告書が300頁を超えるものであることが掲載されています。「要旨」が併せて公表されるのであれば、とりあえず要旨だけでも読みたいですね。

6月 22, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年6月16日 (火)

資生堂の招集通知(事業報告)にみる「成長戦略としての役員報酬のメッセージ性」

6月13日の日経新聞で「多様化する株主還元策」に関する記事が掲載されています。企業の株主配当施策の是否については、議決権行使によっても明らかになりにくいので(株主が否決票を投じることが「配当はいらない。そんな金があるなら投資案件に回せ」という意思表示なのか、「その配当は安すぎる、もっと配当率を高めろ」という意思表示なのかわからない)、企業が株主に対して「資本政策の基本的な考え方」を示すことはとても重要です。配当性向を引き上げるのか、一定期間の総還元性向を高めるのか、DOE(株主資本利益率)を採用するのか、といった資本政策は、成長戦略に合わせて変更するところもあるとのこと。いわば企業価値向上のためのストーリーを描くことが上場会社に求められているようです。

ところで資生堂さん(6月総会)の招集通知は毎年たいへん勉強になるので、総会前には同社HPで閲覧していますが、今年も興味深い事項が含まれています。事業報告の中で、新しい役員報酬制度について詳細に説明されています。近時、コーポレートガバナンス・コード原則4-2でも明らかになっていますが、役員報酬のインセンティブプランが注目され、どこの企業でも短期・中長期の業績連動報酬の設計に工夫を凝らしているところです。しかし資生堂さんは、役員報酬について従来と比べて業績変動報酬の割合を低くして、固定報酬(基本報酬)割合を高める制度に変えています。

招集通知53頁以下の「変更のねらいと新役員報酬制度の基本的な考え方」を読みますと、同社は2015年から始まる新たな3カ年計画を発表し、抜本的な変革による事業基盤の再構築に実力を発揮できる役員に報いる報酬制度を設計したそうです。事業基盤の再構築の成果が出るまでには時間を要しますが、これまでのような業績連動性の高い役員報酬体系では、このような再構築に力を発揮する役員の成果に報いることはできないので、この成果に報いることが可能となる体系に変えます、とのこと。

なるほど、一見すると時代に逆行するような報酬体系ではないか・・・と思えるのですが、そうではなく、まさに資生堂さんの中期経営計画の実現に向けて、中長期の企業価値向上のために力を発揮できる役員に報いる報酬体系を構築する、というものであり、そこには「役員が一丸となって新たな成長戦略を打ち出そうとするメッセージ」を感じさせます。もちろんこれが成功するかどうかは同社による今後の努力次第だと思いますが、株主還元策の変更と同様、報酬体系の構築が株主に対する成長ストーリーの呈示になることが理解できます。

資生堂さんは、これまで業績連動報酬を採用するにあたっても、強いメッセージを表明してきた企業だからこそ、今回もわかりやすい説明ができるのかもしれませんが、役員報酬の設計が、企業の成長戦略を合理的に説明するための大きな要素である、という点は参考にしたいところですね。

6月 16, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年4月15日 (水)

 企業の法務担当者は「コーポレートガバナンス・コード」がお嫌い?

4785722609拙ブログを愛読いただいている方々ならばよくご存じのISS(米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ 議決権行使助言会社)日本支局で議案の分析を統括していらっしゃる石田猛行氏編著による新刊書です。編著とありますが、ほとんどが石田氏ご自身による著作だと思われます。ただしISS Japanとしての団体の意見ではなく、石田氏個人の長年にわたる議決権行使助言の経験に基づく意見として述べられています。「日本企業の招集通知とガバナンス」(商事法務 石田猛行編著 3,400円税別)

ひさびさに心躍る一冊です。ひょっとすると、旬刊商事法務の座談会記事や委員をされている経産省の検討会のご意見等をきちんとトレースしていれば石田氏の意見を把握できるのかもしれませんが、普段そこまでフォローしておりませんでしたので、本書で書かれていることは新鮮でとてもおもしろい。総会準備の時期を狙って、株主総会招集通知の正しい書き方を学ぶ・・・といった「ひな型」提案の本ではなく、むしろ招集通知を分析する海外機関投資家の視点から、近時話題となっているコーポレートガバナンス上の諸課題について石田氏の見解が、かなりメリハリが効いた形で展開されています。

剰余金処分や取締役会の責務、社外取締役・監査役選任、報酬関連等、機関投資家としてどのような開示を求めているのか、そもそもの考え方にさかのぼって各企業に期待される招集通知の開示の在り方を追求しておられます。株主とのエンゲージメントの手法、社外取締役と企業のパフォーマンスとの関係、ダイバーシティ、日本企業のガバナンスの隠れた課題など、さすが長年、いろいろなところで揉まれてきた(?)方だけあって、「なるほど!」と唸る考え方が示されていて痛快な思いです。「なぜ監査役選任議案に反対票が集まりやすいのか」といったお話も、なるほど拝読してよくわかりました。買収防衛策における独立委員会というものも、法務からの視点と投資家からの視点ではこうも違うものか、と改めて痛感します。

とりわけおもしろいのが「投資家の視点と法務の視点」。招集通知(参考書類)の抽象化と通知発送の早期化問題について「法務の考え方」が取り仕切っているために投資家の「あるべき招集通知」が実現されていない、今後の法務に期待する、とのご意見です。また取締役の報酬議案の上程理由についても法務と投資家は視点が対立することが詳述されています。詳細な開示を求める投資家と「書きすぎることによる法務リスク」にこだわる法務担当者という構図は、これまであまりクローズアップされてこなかったのではないでしょうか。石田氏が直接言及しておられるわけではありませんが、6月1日から適用が開始されるコーポレートガバナンス・コードについても、「コンプライ」することを最優先に考え、エクスプレイン(説明)するとなると、いろいろと開示しなければならないので、法務担当者としてはなるべく「コンプライ」で済ませたい、という発想になってしまうのではないでしょうかね?(これは私自身の単なる推測ですが)

このたびの会社法改正における「内部統制システムの一部改正」に関しても、基本方針を具体的かつ詳細に開示しようとしますと、「仕組みや運用について、もし対応が不十分だとしたら内部統制システム構築義務違反に問われるリスクが高い」として、なるべく抽象的な書きぶりに修正されてしまうところもあるように聞いています。開示によってガバナンスの改革を図る・・・という最近のプリンシプルベースでの規制については、このように投資家と法務担当者との対立の構図が浮き彫りになってくるのかもしれません。いや、これは実に興味深い点ですし、最近のコンプライアンス経営の発想(法令に違反していなくても、社会の要請に反していれば企業価値が毀損される、といった発想)にもよく似たところがあります。

上場会社の記載例なども豊富なのですが、その記載例に関しては、石田氏が(けっして批判するというものではなく)個別に(機関投資家側からの)コメントを付しておられます。最近、スチュワードシップ・コード遵守を宣言しておられる某ファンドさんから硬軟両面からツッコミを入れられている某社(東証1部)の記載事例などにも「この開示内容ではやや具体性に欠ける」と言及されていますが、「そもそも会計帳簿閲覧請求の仮処分や本訴請求のリスクを未然に解消するためにも投資家視線が法務にも必要なのではないか・・・」と(石田氏のコメントを眺めながら)感じておりました(そういえばソフトロー違反が司法判断に及ぼす影響といったことは、これまであまり法律関係者の間でも議論されていませんよね)。法務担当者には耳の痛いお話が多いかもしれませんが、コーポレートガバナンス・コード対応が喫緊の課題とされている今こそ、投資家視線での株主総会対応を理解するために必読の一冊と思います。

4月 15, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年4月 6日 (月)

生損保業界によるスチュワードシップ・コードへ対応はホンモノ?

先週の日経新聞(4月1日朝刊一面)では、第一生命さんが投資先企業のガバナンスへの審査を厳しくすることが報じられていました。社外役員の選任基準を厳格にすることや、対話のための特別部隊を設置するとのこと。また明治安田生命さんや日生さんも議決権行使基準を(対象会社にとって)厳格化するそうです。日経新聞が報じるところでは、(第一生命さんの場合)今年6月から適用されるコーポレートガバナンス・ルールに対応するためだそうで、とくに生損保業界では同じような対応が加速しているのではないでしょうか。

しかし、これは生損保会社がコーポレートガバナンス・コードに対応している、というよりも、すでに遵守を宣言しているスチュワードシップ・コードへの対応といえるのかもしれません。日本版スチュワードシップ・コードでは、「機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである」、さらに「機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすうえで管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである」とされています。

生損保業界といえば、どうしても投資先企業の株式保有について、政策投資ではないかといわれてしまうように思います。「純投資である」と明言しても、投資先企業の保険契約の獲得という政策的目標こそ優先されるのではないかと。また、現経営陣との良好な関係を維持したいがゆえに、どうしても現経営陣に厳しい意見が出せないのではないか、という点も懸念されます。

これまでも、スチュワードシップ責任を果たしているかどうか、ということよりも、スチュワードシップ責任をどのように果たすべきか、その果たし方の説明責任が尽くされていないということで批判を受けていたように見受けられます。そこで、このような批判にこたえるためにも、生損保会社として、責任の果たし方をわかりやすく説明していこう、という意気込みこそ一連の報道された事実にあらわれているように思います。

国策としてのガバナンス改革を企業の持続的成長に活かすためには「インベストメント・バリューチェーンの構築が不可欠」と言われているだけに、企業と運用会社だけでなく、金主である機関投資家の意識改革にも注目が集まっています。年金ファンドは比較的評判が良い中で、いよいよ生損保業界も動き出した・・・といったところでしょうか。

4月 6, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月 2日 (木)

三菱重工業社の監査等委員会設置会社移行にみる「執行と監督の分離」

適時開示情報をすべてチェックしているわけではありませんが、会社法改正により新たな機関形態として認められる「監査等委員会設置会社」への移行を表明した上場会社は(本日現在)すでに50社を超えているものと思われます。大規模上場会社の中にも監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への意向を表明した会社も出てきましたが、ひときわ目を引くのが3月30日に移行を表明した三菱重工業さんです(監査等委員会設置会社への移行のお知らせ)。

別のリリースによると、同社代表取締役CFOの方が6月総会で退任され、新たに(総会で承認されることを条件に)監査等委員である取締役に就任されるとのこと(なお、現在監査役でいらっしゃる方のおひとりも監査等委員である取締役に就任予定とされています。ちなみにリリースの書きぶりからしますと、取締役会の権限の一部を執行部に委譲する定款変更も予定されているようです)。なんと(!)執行の中枢におられる方が監査等委員である取締役に就任するということでして、少々驚きました。

さて、この話題をあるところでしておりましたところ、私と某団体の代表の方とで意見の相違をみることになりました。この三菱重工業さんの体制について、私は監査等委員会設置会社の理想であり、歓迎すべきと意見しましたところ、その代表の方は「これは問題」とのことで正反対の意見を披露されました。CFOの方がこれまで執行でやってきたことをどうやって監査するのか?独立公正な立場で監査している、ということをどうやって担保するのか?監査役会設置会社とは異なり、広く経営執行部に(取締役会の)権限を委譲するということであればなおさら問題ではないか?監査等委員会設置会社に過半数の社外取締役がいたとしても、それほどの実力者が座っていればモノが言えないのではないか?とのご意見です。

これは監査役(会)設置会社でも問題とされていた「元取締役による監査役への横滑り問題」と同じようなことなのですが、監査等委員会設置会社が執行と監督の分離を徹底したモデルを目指しているところから、さらに問題視されるところがあるのかもしれません。たしかに経営の実権を握っておられた方に、果たしてモニタリングモデルとして設置される監査等委員会設置会社の監査等委員としての職務が適正に行われるのかどうか、外観的独立性を重視する立場からは異議が出される可能性もありそうです。ましてや監査等委員会設置会社の長所とされる「取締役会の権限委譲」を併せて採用するとなれば、なおさら執行と監督の分離の徹底が求められるはずです。

※・・・・「横滑り問題」は主として事業年度の途中で招集された株主総会で、それまで取締役であった者が監査役に就任するケースとされています。「自己監査」という意味においては本件以上に問題となりそうですが、法律的には「この程度のことは許容される」(江頭「株式会社法」第5版514ページ)とされています。

ただ私の場合、「監査等委員がモノを言う環境整備」という点を重視したいのです。監査等委員会は監査だけでなく監督職務、監査等職務という、経営の効率性や妥当性に及ぶ監督まで含みますので、できるだけ迅速かつ詳細に内部の事情(あるいはグループ会社の事情)を入手しなければなりません。また有事においては、経営執行部が監査等委員会の意見を聴き入れるだけの権威を持ち合わせていなければ機能しないのではないかと思います。そう考えると、過半数を占める社外取締役の役割を十分に果たせる監査等委員会を構成するためには、三菱重工業さんのように経営の中枢におられた方が、退任後に監査等委員に就任するというのも、「モノを言う環境整備」のためには有益ではないかと考えるところです。

なお、こういった意見に対しては、某団体の代表の方は「そのような社内事情が必要であれば、それは委員会に呼べばいいではないか。そういった社内の要人を委員会に呼べることが委員会の権威ではないか」とのご意見です。ひょっとすると私のほうが社外取締役就任者の倫理観や使命感への期待が薄いのかもしれませんし、外観的独立性への意識が乏しいのかもしれません。ただ、やはり「モノを言える環境」はなかなか一から整備することはむずかしいのですよね。本当に執行と監督を分離して、監督機能を重視する覚悟があるのならば、それこそ「副社長クラスが常勤監査役に就任すべき」と考えてしまうのです。今後、監査等委員会設置会社に移行する上場会社は、おそらく「権限委譲の定款変更」とセットで臨むところが多くなると思いますが、そこで「執行と監督の分離」をどのような形で表明するのか、今後とも注目されるところかと思います。

4月 2, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年3月20日 (金)

(号外)"Comply or Explain"を受け容れる日本の企業文化を考えるⅡ

本日手元に届いた旬刊商事法務(3月15日号)において、田中亘東大准教授が「取締役会の監督機能の強化~コンプライ・オア・エクスプレイン・ルールを中心に~」と題する論文を発表されておられ、その中で「社外取締役を置くことが相当でない理由」として適切な対応をご披露されています。

この3月10日から12日まで、日本監査役協会で3日連続講演をさせていただきましたが(明治記念館、東京プリンス2日)、そこで私が「相当でない理由の具体例」として述べたところが、そのまま田中先生の解説でも「具体例」として述べられておりますので、とりいそぎお知らせした次第です。いわゆる「適任者がいないという説明」の工夫ですね。

私も田中先生と全く同じ説明で大丈夫だと思っていますが、講演ではあえて「ガバナンス・コード」への取組みも説明に付加しました。ガバナンス・コード原案が確定した今では、これに対する取り組みに熱心になればなるほど、ふさわしい人でなければ社外取締役として迎えることはできないという工夫です。国策ガバナンスといわれているなかで不謹慎ですが金融庁と法務省の「縦割り」の間隙を突く・・・といったことになろうかと。

また、「探しているけどみつからない」という説明の問題点についても述べましたが、それは田中論文の注33で紹介されている藤田教授(東大)の意見だったことを知りました。たしかに理屈のうえでは藤田先生の意見が通りそうにも思えるのですが、文言解釈としてはどちらもありかな・・・ということで。

延べ1500名ほどの監査役の方々の前で申し上げたことなので、少し責任を感じておりましたが、「お墨付き」をいただいたようで、ややホッとしております(^^;ご興味がある方は最新の旬刊商事法務をご参照ください。

3月 20, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月19日 (木)

"Comply or Explain"を受け容れる日本の企業文化を考える

本日、永く中東諸国で仕事をされていた大手商社の元役員の方からお聴きした話ですが、中東諸国の方々はルール違反にも「まぁ、それくらいなら・・・」といった気風が強く、これが日本から来た現場責任者にも受け入れられていたそうです。ところが英国から来ている責任者はほんの些細なルール違反にも厳しく指摘をして、さらに人格的な批判も加えることから、どうも中東の現場社員には評判が芳しくなかったとのこと。「なぁなぁを許す文化」と「許さない文化」の対比が極めて印象的だったとのお話でした。

そういえばコーポレートガバナンス・コードの規範となる「Comply or Explain」は英国が発祥の地ということだそうですが、このような話をお聴きしますと、この「コンプライ」と「エクスプレイン」はどうも並列的に考えることは間違いかもしれませんね。「なぁなぁ」を許す文化からすれば「従わなければ説明すればいいじゃん!」といった感覚でとらえがちですが、「なぁなぁ」を許さない文化からすれば「従う(Comply)」ことが当然であり、従わないというのはそもそもルール違反であり、企業倫理にも反するものである、といった感覚から出発しなければならないと思われます。2年半ほど前に、 「日本に"Comply or Explain"の規範は根付くのだろうか」といったエントリーを書きましたが、そこで考えていたこととも整合性があるように思います。

つまり、そこでは倫理意識を持っている企業であればコードには当然に従うべきものであり、これを従わないということは、コードの目的を達成できる代替手段があることと、この代替手段をとることが高い企業倫理をもって実行されることの二つの理由開示が求められるのではないでしょうか。ガバナンス・コードが先にできて後からスチュワードシップ・コードが作られた英国と、その逆で作られた日本とを一概に同列で判断することはできないかもしれませんが、この「コンプライ」と「エクスプレイン」を同等に扱うことができるかどうかは、規範意識の違いや規範違反に関する倫理観の違いなどを十分に比較しておく必要があるように思います。

ガバナンス・コードを適用するにあたり、そのあたりはすでに議論されているのでしょうか。とりわけ東証1部、2部に上場している企業としては、日本の機関投資家が対話の相手であればまだしも、海外の機関投資家との対話において、この認識のズレが誤解を生むことにならないかどうか、検討しておきたいところですね(もし、このあたりの問題意識をお持ちの方がいらっしゃいましたらご教示いただけますと幸いです)。

3月 19, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (4) | トラックバック (0)

2015年3月11日 (水)

コーポレートガバナンス「コード」の意味を二つの比較から考える

毎年恒例の日本監査役協会における春の講演もいよいよ佳境に入りまして、東京3日連続講演の初日が終了いたしました(本日は明治記念館で、あと二日は東京プリンスです)。本日も500名を超える監査役の皆様にお越しいただきまして、どうもありがとうございました(4年前は震災後の開催ということもあり、明治記念館の閑散とした雰囲気の中で講演をさせていただいたことが想い出されます)。本日は特別にガバナンスコード原案を活用した「社外取締役を置くことが相当でない理由」の一例をご披露させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

さて、今年の春の日本監査役協会全国会議では、有識者会議の重鎮でいらっしゃる神田教授が「コーポレートガバナンス・コード」について解説をされるそうで、おそらくたくさんの監査役の皆様が聴講されると思います(楽しみですね)。私は金融庁HPに毎回アップされます議事録で内容を確認をしていただけにすぎない者ですが、東証規則に反映された後の実務対応にはとても関心を持っています。とくに日本の企業社会に「コード」が根付くのかどうか、過去2回、2007年にはJ-SOXにおいて、そして2010年にはIFRS適用において金融庁から「プリンシプルを理解するための11の誤解」といったリリースが出て世間の混乱を収束させましたが、またそういったことにならないのでしょうか。

先日アップしました「日本型人事ガバナンスと社外取締役の役割」なるエントリーにコメントしていたたいでいる「いたさん」のご意見のように、今回「コード」を理解するためには、「二つの比較」が理解を助けるように思います。一つ目の比較は、いたさんのように、どうして法務省の会社法改正パブコメ回答は懇切丁寧なのに、金融庁パブコメ回答はアバウトなのでしょう。そして二つ目の比較はガバナンス・コードへの日本人の意見と海外からの意見との比較です。(私も含めて)日本人は横並びが好きだなぁ、従うべき明確なルールが好きだなぁと感じます。それぞれの比較の中から、ルールベースとプリンシプルベースの考え方の違いのようなものが垣間見えてくるのではないでしょうか。

私もコードについて詳しく理解をしている者ではありませんが、あのJ-SOX導入時の混乱の渦中でいろいろな経験をさせていただいた一人であることは間違いありません(金融庁のラウンドテーブルにも登壇させていただき、記念のトロフィーをいただきました 笑)。今後いろんなところで「ガバナンス・コードの実務対応」といった研修や講演が開催されると思うのですが、またJ-SOXと同じ混乱に陥ることだけは避けていただきたいと祈念しております。ここが「スチュワードシップによる対話」が成功するか否かの分水嶺だと思います。もし失敗すれば、機関投資家もエンゲージメントによる「羊の対応」ではなくエージェンシー理論による「狼の対応」に戻ってしまうはずです。今回は「国策ガバナンス」ということですから、おそらくそのあたりは国を挙げてプリンシプルによる制度運営を確保するとは思いますが・・・。

3月 11, 2015 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (4) | トラックバック (0)

2014年12月 8日 (月)

「攻め」のガバナンスと「守り」のガバナンスの議論はもう古い?

昨日(12月7日)発売の日経ヴェリタスでは「眠れるマネー動かすガバナンス改革」と題する特集記事が組まれていました。金融庁・東証によるガバナンス有識者会議が(本来は予備日として確保されていた)12月12日の会議をもって終了するものと思われますので、年内にはコーポレートガバナンス・コード案も公表されるのではないでしょうか(最終的には東証のコーポレートガバナンス原則との調整作業が必要になりますね)。

これでスチュワードシップ・コード(本年2月策定)とコーポレートガバナンス・コードが揃うわけでして、いよいよ来年は企業統治改革も本格化することになりますが、やはり上記ヴェリタスの特集記事では、シンクタンクの調査結果などをもとに「社外取締役の人数とROEは相関が薄い」「政府や市場はコンプライアンスの充実といった守りのガバナンスではなく、手元資金の効率的な利用といった攻めのガバナンスを求めている」といった書きぶりが目立ちます。

ただ、こういった議論は「株主との対話」といったことがガバナンスの課題として議論される以前の状況を前提としたものであり、私は少し違和感を持っています。市場で力を持っている「機関投資家」をひと括りに捉える風潮がありますが、機関投資家の方々とお話をしているとそれぞれトーンが少し違いますよね。なぜ企業統治改革に期待を寄せているかといえば、「企業統治の優れている企業に投資したい」とする人たちもいれば「企業統治に問題を抱えている企業に投資したい(対話ができる時代になったのだから、潜在的価値がありながらそれが株価に反映していない企業のビジネス改革に関与して儲けたい)」とする人たちもおられて、それぞれ「社外取締役に期待するもの」が異なります。

企業統治の仕組みを論じることがコーポレートガバナンスの話題の中心だったころであれば「社外取締役を導入すれば企業価値にどう影響するか」といった検証にも興味がありましたが、機関投資家の受託者責任、つまり安倍政権の経済戦略の下で「株主との目的ある対話」がガバナンスの議論と不可分の関係とされる現在、ガバナンスは「いかに整備するか」だけでなく「いかに運用するか」という点も関心事とされるに至りました。

したがって「良いガバナンスとは?」という前提自体から再定義する必要があります。たとえば社外取締役がどのように機能することが「よいガバナンス」になるのか、報酬や株式持ち合い解消等、どのようなポリシーを開示していれば「よいガバナンス」になるのか、そのあたりの前提を再定義しなければ(パフォーマンスとの関連において)検証してもあまり意味がないと思いますし、まさにヴェリタスの記事にもあるように「外部の声による貢献はこれから」ではないかと。

また拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」の第1章でも書かせていただきましたが、攻めのガバナンスと守りのガバナンスは「仕組み」からみればそのような区分も可能かもしれませんが「機能」からみれば表裏一体です。そもそも社外取締役を選任したからといってコンプライアンスが充実する・・・ということ自体が幻想であることはエンロン、ワールドコム、オリンパス事件をみれば明らかです。オリンパス事件ではM&Aの財務戦略、エンロン、ワールドコム事件ではEBITDAを構成する減価償却費の解釈が問題だったわけで、いずれにせよ経営戦略を検討するなかで誰もが違和感を抱くところに声をあげなければ不正は発見できないところです。「何かおかしい」と気づくためには「攻め」も「守り」も必要なわけでして、すなわち社外取締役になられる方には、双方の能力が求められると考えるべきだと思います。

機関投資家と社外役員が直接対話をする・・・という機会がそれほど増えるとは思いませんが、ただ「社外取締役はどのような視点から重要案件に対応しているのか」といったことは説明を求められるかもしれません。実際に社外取締役を経験してみると、社内にはいたるところに「構造的な利益相反問題」が横たわっていますから、これに気づき、社外の目でどのように解釈をしているのか、そのあたりへの配慮というものは常に持ち合わせておく必要があります。私自身の意見としては、社外役員の出自がどのようなものであれ、うまく機能すれば攻めにも守りにも有用なものだと考えています。

12月 8, 2014 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (1) | トラックバック (0)

2014年12月 5日 (金)

監査等委員会設置会社のガバナンス(監査等委員会の位置づけ)

東証と金融庁が事務局とされるコーポレートガバナンス有識者会議がガバナンス・コードのたたき台を公表して以来、俄然、監査等委員会設置会社への移行を検討していらっしゃる上場会社が増えているようです。

東証1部上場会社において、すでに75%ほどが社外取締役を一人以上選任しているそうですが、「独立社外取締役」となりますとその数は半減します。ましてや「独立社外を2人以上選任すべき」ということになりますと、なかなか人材を探すのも苦労するところ。私も某上場会社から監査等委員会設置会社への移行に関するご相談を受けておりますが、会社側は現在いらっしゃる社外監査役さんお二人に「横滑り」で社外取締役さんになっていただくことを検討されています。

ただ、最近出版された会社法立案担当者の方々の解説本や旬刊商事法務の座談会記事などを読みますと、監査等委員である取締役の方々って、取締役人事や報酬といった監督機能への期待が極めて高いと思いませんか?いや「期待」で済むならいいですけど、善管注意義務の内容として、かなり厳しい説明責任が含まれるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。そもそもアドバイザリーボード型が主流の監査役設置会社の取締役会ではなく、社長の業績評価を中心としたモニタリングボード型の取締役会に移行する覚悟がないと、これって機能しないように思えてきました。

ところで前から少し疑問に思っていたのが「監査等委員会設置会社の取締役会と監査等委員会設置会社との関係」です。これまで出版された多くの「改正会社法解説本」では、監査等委員会は取締役会の内部機関(下部機関)であり、取締役会から独立したものではない、といった評価がなされています(私の「会社法改正のグレーゾーン」でも同じような説明をしています)。しかし、実際は以下のようなものではないかと。

Kansato001


左は指名委員会等設置会社の指名委員会等と取締役会との関係を示すものです。監査等委員会設置会社でも、同様の関係にあると説明されることが多いのですが、実は右図のように表現するのが適切ではないかと。最近出版された立案担当者の方々の解説も

このような監査等委員である取締役の位置付けに鑑みると、監査等委員会は、指名委員会等設置会社の指名委員会等とは異なり、取締役会の内部機関として位置づけることはできず、むしろ、取締役会から一定程度独立したものとして位置づけられ、監査役に類似した位置づけとなります」(「一問一答平成26年改正会社法」法務省大臣官房参事官坂本三郎編著 商事法務 48頁参照)。

と述べておられます。根拠としては、以下のような図式で表現できるのではないでしょうか。

Kansato002


たしかに監査等委員である取締役も、取締役会の構成員ですから、指名委員会等設置会社と同様な位置づけとも言えそうなのですが、やはり根拠条文等からしますと監査役類似の関係に立つとみてよいと思います(すいません「報告義務」のところは「取締役会だけでなく株主総会にも報告義務を負う」というのが正しいです。根拠条文も399条の5、同条の6ですね ちなみに報告義務を負うのは「監査等委員会」ではなく「監査等委員」です)。

取締役会と監査等委員会との位置づけを議論する実益としては、たとえば任意の指名委員会や報酬委員会を設置した場合、監査等委員の人事、報酬に関する意見陳述権との関係をどう整理するか、といったことに関わってくるように思います。また監査等委員ではない社外取締役にも利益相反審査機能が期待されるわけですが、監査等委員会(または選定監査等委員)の利益相反評価機能とどういった関係に立つのか、といった整理も必要になってくるのではないでしょうか。こういったことを考えてみると、監査役会設置会社の社外監査役さんが監査等委員会設置会社の監査等委員である社外取締役さんに就任されるとなると、やっぱり相当な覚悟が必要になるのではないかな、と思わずにはいられません。

12月 5, 2014 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (5) | トラックバック (0)

2014年9月22日 (月)

スチュワードシップ・コードの実践と機関投資家のリーガルリスク

日曜日(9月21日)の日経新聞朝刊の一面に、「投資先と対話へ指針-外資運用大手、成長後押し」という記事が掲載されていました。フェデリティ投信など、外資系資産運用大手が、投資先企業と積極的に対話をするための指針を、今後共同で作成するもので、年内にも「投資家フォーラム」を立ち上げるそうです。経産省が事務局を務め、東証も活動に協力するとのこと。

いわゆる日本版スチュワードシップ・コードの実効性を高めるために、各運用大手が対話の内容等で歩調を合わせることが狙いということなのでしょうね。したがって、指針の内容は、企業の中長期的な成長を後押しするためのものであり、単に株式配当を求めるようなものではない、と報じられています。企業側が作った経営計画を着実に実行するための体制作りなども促すということで、たとえば割高のM&Aなども含め、企業価値向上につながらないと判断すれば、共同で見解を示すことも検討されるようです。

先日、各保険会社も、スチュワードシップ・コードを実践し、コードに沿った対話方針等を各社打ち出していましたが、このようなコードを受け入れ、実践する機関投資家が増えるにしたがい、上場会社に対するガバナンス改革は、今後ますます議論が深化していくものと思います。ただ、機関投資家が株主との対話を積極的に行っていくにあたり、リーガルリスクも高まることが懸念されていました。会社法との関係では株主平等原則違反、利益供与禁止規定違反など、金商法との関係ではインサイダー取引規制違反(とくに平成25年改正における情報提供行為規制等)、大量保有報告規制違反(とくに報告免除の特例適用の可否)といったところと、「株主との対話」促進との関係です。

ただでさえ、運用機関にとっては「中長期的な成長」よりも「四半期ごとの成績」を重視して運用業績を残したいにもかかわらず、スチュワードシップ・コードを順守することによって、これまで以上にリーガルリスクを背負わされるわけにはいかない、というのがホンネのところかと。そこで、ソフトローを活用することによって、業界あげてリーガルリスクをできるだけ低減させることが必要です。上記記事にあるように、業界の指針を作って、そこに経産省や東証等、行政当局にも参加を求めて、「こういった運用であれば会社法違反や金商法違反に該当するおそれに乏しい」という原則ルールを自主的に策定しよう、という流れになるのは自然のように思います。「あくまでも、これはスチュワードシップ・コードの実践行動である」という外形的な行動規範が求められるということかと。

ところで新聞記事では、(運用大手は)割高なM&Aや巨額の資金調達などでは、企業に詳しい説明を求める方針、とあります。社長さんの報酬が比較的低額、また任期が比較的短期であり、内部留保の蓄積に熱心だとなると、日本企業は中長期投資には消極的だとみなされます。したがって、M&Aや多額の資金調達等、大型投資が行われるということは、機関投資家にとってはとても関心が高い問題です。たとえば中央経済社「企業会計」10月号特集記事では、中長期の成長戦略がとりやすい非上場のサントリーHD社の財務戦略について、同社財務担当執行役員の方に、グループ企業戦略のプロでいらっしゃる松田千恵子先生が詳しい質問をされていました。とりわけ1兆6000億という、かなり割高と思われるビーム社買収に関するサントリーHD社の中長期の財務戦略には、いろんな角度から質問が投げかけられています。仮に上場会社に対して中長期的の事業計画を実施するための多額の投資が行われるとしたら、おそらくこういったプロの目から見た質問がとんでくるのではないか・・・と、たいへん参考になりました。

「うちはグローバル展開していない中小上場会社だから、スチュワードシップ・コードなど関係ない」とおっしゃる経営者の方も多いかもしれません。ただ、8月に公表された「伊藤レポート」(経産省HPで公表、9月には追加版で「要旨」も公表されています)などを参考にすると、資産の有効活用による生産性向上のストーリー、売上高利益率をいかに上げるかといった戦略、(個々具体的なものではなく、方針としての)資本政策、内部留保問題などが、おそらく対話の中心になってくると予想される中、株主との対話が「短期利益を狙う投資家の排除」という意味ではもっとも有効な敵対的買収防衛策ではないでしょうか。そう考えますと、スチュワードシップ・コードの実践を機関投資家が明確に打ち出した現在、企業対応というものも、私は一部の大手上場会社だけでなく、中小規模の上場会社にもそれなりに検討しておくべき課題だと考えています。

9月 22, 2014 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年1月30日 (木)

「監査役で会社は変わる」新刊のご紹介

これは皮肉でもなんでもなく、改正を目前に控えた会社法(および会社法施行規則)に基づいて、キャノンキヤノンさんは「わが社にとって、社外取締役を導入することが相当ではない理由」をどのように開示するのか、とても楽しみにしておりました。おそらく、社外取締役を導入することに消極的な上場会社さんにとっても、消極派の旗手(と思われていた)であろうグローバル企業キャノンキヤノンさんの開示内容を手本にしたい、と期待しておられたところも多いと思います。(追記・・・・すいません、表記が誤っておりましたので訂正しております)

ところがなんと(?)、キャノンキヤノンさんが3月の株主総会で、社外取締役2名選任予定と開示されております。しかも理由が「いままで社外取締役制度にとくに反対していたわけではなく、いい人がいればと思っていた。このたびいい人に出会えたので・・・」とのこと(^^;;。。。(ええ?ホントにそうだったのですか・・・・?)とりあえず、この流れは大きいなぁと感じます。ちなみにキャノンキヤノンさんの社外取締役候補のお一人の方はトヨタ自動車の社外取締役にも就任されておられるようです。これからは「このたびめぐり会えたいい人」の争奪戦が始まるのかもしれません。

_20140129_213604このところ、会社法改正の流れもあり、社外取締役制度に注目が集まっていますが、監査役さんもがんばっておられます。京セラコミュニケーションシステムの元常勤監査役でいらっしゃる西村毅(たけし)さんが、このたび自費出版にて「監査役で会社は変わる」と題する自らの研究成果を発表されました。冒頭の西山先生(九州大学法学部教授)の推薦の言葉がひときわ目をひきます。

監査役で会社は変わる(西村毅著 日経事業出版センター 1,800円)

西村さんは、三和銀行のご出身で、ニューヨーク支店の副支店長を経て、京セラコミュニケーションシステムの常勤監査役に就任されました。日本監査役協会でも同志社大学の先生方とガバナンス研究に携わっておられましたが、さらに現役の監査役から立命館大学法学部の大学院生に転身し、ガバナンス研究の道に進まれました。実は当ブログ開設当時から、某ネームにてコメントをいただいておりまして、私の煮え切らない監査役の理解について渇を入れていただいておりました。何度がお食事をご一緒させていただきましたが、ホントに(監査役制度に対する)熱い思いをお持ちで、(失礼ながら)私も、西村さんくらいの年齢になっても熱い気持ちを忘れずに仕事ができたらなぁ・・・と思っておりました。

さて、その西村さんが、大学院で研究された成果をまとめられたのが上記の一冊です。一般の学者の方とは少し異なり、銀行マンとして、また常勤監査役として、これまで精一杯実務で経験されてきた立場から「効率性監査」「従業員主権に基づくガバナンス」を説いておられます。この本の中で、西村さんは5名の「モノ言う監査役」さんを紹介しておられ、監査役として必要な資質について語っておられます(ちなみに、あのスティールパートナーズが取締役には反対票を入れたにもかかわらず、モノ言う某監査役さんには賛成票を入れていた会社がある、という事実は知りませんでした)。ダブルチェックする立場の監査役、効率性監査のための監査役という位置づけについては私も同感です。最近いろいろなところで、私は「第二思考回路の必要性」についてお話していますが、この「第二思考回路」こそ、効率性監査への私なりの考え方です。

従業員主権に基づくガバナンス、というところは、かなり思い切った内容ですが、株主利益の最大化を図るという会社法の枠組みを考えたときに、会社法の中に組み込むことのむずかしさは感じます。従業員主権的な発想は、利害関係者の利益調整の枠組みとは別に、経済法の領域で考えるべきではないか、といった意見もあるかもしれません。ただ、アクリフーズ事件やJR北海道事件のように、「どうすれば不祥事が防止できるのか」思考停止してしまいそうな問題が後を絶たない昨今、こういった経営の一画に従業員が責任を持つという発想は、今後の取り組みを考えるうえで参考にできるのではないかと思います。

ガバナンス論というと、社外取締役導入論ばかりが注目されていますが、西山教授が(推薦の辞において)「従業員と言葉を交わすこともない社外取締役が行う会社の管理は、・・・果たしてわが国の経営風土に適合するものでしょうか」と疑問を投げかけておられます。まさにこの言葉が、本書の内容をよく表現されています。西山先生が「本書は監査役、監査役スタッフそして、同僚である取締役の皆様にお勧めいたします」と述べておられますが、私も「会社を変えることができる」元気な監査役さんが増えることを期待しつつ、本書を推薦したいと思います(たぶん、日経事業出版センターさんのほうでお買い求めいただけるものと思います)。そもそも社長さんの「監査役人選」の意識を変えること、それが「監査役で会社が変わること」につながるのでしょうね。

1月 30, 2014 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (11) | トラックバック (0)

2013年3月21日 (木)

会社の有事に前面に出る社外取締役-資生堂のガバナンス

資生堂さんの社長交代劇がいろいろな風評を呼んでおりますが、その風評をあえて断ち切るように、同社の社外取締役の上村先生が東洋経済の独占インタビューに応じておられます(資生堂-実力会長トップ復帰の真相)。今回の交代劇のシナリオは社外役員6名(社外取締役3名、社外監査役3名)の総意によるものであり、元会長は自ら敷いた経営路線を自己否定してでも次の経営トップがアクセルを踏める体制を築くことが使命である、との理由で復帰要請した、とのこと。平時は経営判断への信認を付与することで足りるが、有事には前面に出ていかざるをえない、との社外役員としての心情を語っておられるところは、このようにさまざまな風評が流れる中、ナットクするところであります。

しかし資生堂さんは、これまでもCSRやコンプライアンスに熱心に取り組んでこられた会社として有名ですが、上記インタビューにあるように、CSRにまじめに取り組んできたことが、かえってネガティブ情報の開示や減配といったマイナス行動を阻害していた(かもしれない)というのは、なんともショッキングであります。企業と社会との共生ということからすれば、マイナス情報を適時開示することは「社会契約」の履行と捉えられるわけでして、このあたりは理想と現実のかい離なのかもしれません。

ところで上記インタビュー記事において、もっとも興味を抱いたのが「社外役員6名の総意」というところであります。このような有事場面におきまして、社外取締役だけでなく、社外監査役も経営の重要な局面における判断に積極的に参加されているのですね。そういえば「議決権講師2009年版」(日本プロクシーガバナンス社発行)の中で、当時の資生堂社の専務取締役の方が「当社では社外取締役と社外監査役では、その果たしている役割にはほとんど差はない」との説明をされていました。ガバナンスにうるさい海外機関投資家向けの説明なのかな・・・と私は理解しておりましたが、上記のインタビュー記事からすると、実質的にも役割は変わらないようです。

2012年に「社外監査役が期待する社外取締役の役割とは?」とのエントリーをアップしましたが、そこで私が社外取締役に期待していた内容(利益や損失を出すプロセスを長期的な視点から検討する)を、まさに社外監査役も(自らの責任において)実行しなければならない、ということなのでしょう。この社外監査役と社外取締役との協働というのは、日本独特のガバナンス問題として残された課題だと思います。

PS ちなみに上記インタビュー記事に出てくる「経営者の自己否定」という概念ですが、これって本当にむずかしいですね。自分の職業人生を否定するくらいなら不正に走ったり、不正を隠すことのほうがマシ・・・という場面を何度も過去にみてきました。

3月 21, 2013 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年2月25日 (月)

「取締役会の乱」が企業を守る事例-明治機械社・続編

2月23日、法曹倫理国際シンポ「法曹の使命と職業倫理」の午後のセクションにおきまして、第三者委員会と弁護士倫理に関する基調講演をさせていただきました(東京大学法学部の会議室での講演というのは初めてのことでした)。当該セッションでは、法曹の職域が拡大されるなかで、弁護士倫理は確保できるか、といった主題でディスカッションが設定されておりました。カナダ・ヨーク大学のソッシン教授(ロースクール院長)とご一緒させていただいたのですが、カナダでも第三者委員会は存在する、カナダの場合は裁判官や検察官など公益代表者が就任する、日本の場合、弁護士では中立性という概念が想定できず、その実効性は確保できないのではないか、といった趣旨のご発表をされました(なるほど、海外からは第三者委員会というのは、こういった理解をされるのか、と納得いたしました)。

弁護士倫理という意味では、私はステークホルダーの利益のため、(個別の利害関係者ではなく、社会総体の利益)という概念を持ち出して、これまでの弁護士倫理の枠組みのなかで、その外観的独立性や精神的独立性はなんとか確保できるという趣旨のことを申し上げましたが、たとえ弁護士が委員として就任していても、経営者ではなく会社自身の存立にとって意義のある活動ができ、委員会の実効性が確保できるのでは・・・ということを実証できそうな事例が2月22日にリリースされております。先日こちらのエントリーでご紹介した子会社の不適切会計処理により第三者委員会を立ち上げた明治機械社の件であります(代表取締役の異動に関するお知らせ)。当ブログのタイトルでは「取締役会の乱」などと書いておりますが、そもそも取締役会には代表者に対する監督機能があるわけですから、法律的には「あたりまえ」のことが起きたにすぎないのかもしれません。ただ、実社会ではここまではっきりと取締役会が社長にノーを突きつけた例は珍しいと思いますので、あえてこのようなタイトルとさせていただきました。

わずか3枚ばかりのリリースですが、中身はたいへん濃いものになっております。第三者委員会は「子会社不正が証券取引等監視委員会による調査まで発覚できなかったということについては、社長の責任は否定できない」と指摘し、さらにコンプライアンス体制やガバナンス改革等、様々な提言をしていました。個人的には、社長さんは(長期間)問題となっている子会社の非常勤監査役たる地位にもあったわけですから、当該子会社の会計不正についての責任はかなり重いものではないかと推測いたします。

にもかかわらず、同社の社長は同社の抜本的改革には何ら着手しようとせず、そればかりか独断で監査法人を変更しようとして、独断で新旧の監査法人に変更の通知を出していたそうであります(もちろん取締役会の承認を得ていないので変更の効力はないとのこと)。また同社は更なる真相解明のために社内調査委員会を立ち上げようとしたところ、その社内調査委員会設置の趣旨が、取締役会と社長との間で差異があった(どうも社長さんは自身や第三者の責任回避を意図としていたそうであります)そうであります。会社の将来に危機感を抱いた取締役会は、直ちに社長に対する解職決議を行ったところ、その後社長が(社長職だけでなく、取締役たる地位も)辞任をしたとのこと。まさに自浄能力を発揮したといえるものかと思われます。

同社は、3Q報告書の提出期限(2月14日)の直後に第三者委員会報告書が提出されており、一か月以内に報告書を提出しないと上場廃止になってしまう、という有事に至っておりましたので、取締役会としても会社を守るための危機意識はかなり高まっていたものと思われます。そういった危機意識が背中を後押ししているところも大きいものと思われますが、第三者委員会の提言の実効性は、こういったソフトローによって担保されているのではないでしょうか。先日、明治機械社の会計不正事件に関する第三者委員会報告書については、かなりレベルが高いものとしてご紹介いたしましたが(ちなみに委員長は元東京地検特捜部部長、委員には元東京地検特捜部検事、証券取引等監視委員会特別調査課におられた会計士の方など)、本当に独立性が高い第三者委員会報告書が提出されれば、たとえ社長の反対があったとしても、このように実効性が担保される、といった好例ではないでしょうか。こういった事例が集積されることで、第三者委員会の評価も少しずつ高まるように思います。

2月 25, 2013 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年8月22日 (水)

「社外取締役確保のための努力義務」とは何をすべきなのか?

(8月22日 お昼 追記あり)

8月20日の朝日「法と経済のジャーナル」特集記事2本(会社法改正「19年ぶりとなる規制強化へ」、会社法制部会長・岩原東大教授インタビュー)は読みごたえのあるものでした(有料会員でないと最後までは読めないようですが・・・)。きちんと会社法制部会の議事録をフォローすれば内容は把握できるのかもしれませんが、なかなか読む時間のない者にとりましては、上記記事によって終盤の審議会の様子がよく理解できました。

会社法改正要綱案のなかで、個人的にもっとも法的な興味を抱いているのは(岩原先生も注目しておられるとおり)組織再編における株主による差止請求の規定です。この問題は私自身も(私の名前が恥ずかしながら判例集に登場する)MBOに関連する裁判事件の中で扱ったこともあり、実務に影響を及ぼす可能性が高いものと認識しています。ただ、ブログで取り上げるにはあまりにもマニアックな論点であり、おそらく誰にもお読みいただけなくなってしまうと思いますので、自重しておきます。

ということで、当ブログにお越しの皆様にとって最も関心が高い「社外取締役制度導入論」に関する話題になってしまうのですが、上記の記事で明らかにされたのは、やはり要綱案をまとめた方々は、社外取締役を「置かない理由」と「置くことが相当でない理由」は異なるものとして意識をしている、ということです。原則としては社外取締役を一人以上導入する、というまさに(岩原先生の言葉を借りれば)「コンプライ オア エクスプレイン(従え、さもなくば説明せよ)」が根本にある考え方だというものです。

さらに附帯決議として、証券取引所が「独立役員たる取締役を一人以上確保するための努力義務」をルール化せよ、としていますが、この社外取締役確保のための努力義務と「社外取締役を置くことが相当でない理由」との関係が今後問題となってくるのではないでしょうか。

取引所ルールの一つである「企業行動規範」として努力義務を規定する、というからには、「努力しています」と口に出すだけでは説明責任を尽くしたことにはならないでしょうから、なにか株主に説明するために「形として示す」必要があるわけです。たとえば社外取締役を選任するかどうかは、取締役会の専決事項と解されていますので、毎年一回は社外取締役を導入すべきかどうか、取締役会に上程し、そこで審議する必要が出てくるのでしょうか?候補者が存在しないにもかかわらず、何もそこまでする必要があるのか、との疑問も生じますが、そうでもしないと「うちの会社では社外取締役を置かないほうがよいと判断した理由は・・・・・だからである」との理由を開示できないのではないかと思われます。株主構成や経営環境の変化、M&Aによる事業内容の変化、買収防衛の必要性などにより、社外取締役の選任の要否も毎年変わってくると思いますので、なにか形として「努力義務」を尽くしていることは明確にするべきなのかもしれません。

「社外取締役を置かない理由」の開示であれば、ひな型に沿って事業報告に記載することでもよさそうなものですが(※)、「置くことが相当ではない理由」となりますと、上記の記事(法務省参事官の意見)にもありますように、個別企業の事情を記載すべきことになるでしょうから、「他社はどうであれ、当社にとっては社外取締役がいることが不都合なのだ」といった事情を個別に開示しなければならないのではないかと。ここまで説明をして、そのうえで株主の信認を得られるのであればOK、というのが会社法改正の趣旨ではないかと思われます。だとすると、やはり社外取締役を置かない、という決定について、何らかの経営判断が必要ではないでしょうかね(このあたりは、まだ深く考えたものではありませんが・・・・・)。

※ 今朝のtyさんのコメントにありますように、そもそも経済界は「個別企業にはそれぞれ事情があるのだから、一律に法で社外取締役の導入を義務付けるべきではない」というのが反対理由でした。そうしますと、開示規制が敷かれた場合、各企業は、その個別の事情を開示するべきであり、「ひな型」を活用することは、たしかに経済団体のこれまでの意見とは矛盾するのではないでしょうかね。ぜひ、このあたりは反対論もありそうですから、コメント欄にご意見をいただけますとありがたいです。

そしてもうひとつの悩みは、社外取締役を確保するということが会社法362条4項6号の「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」と関係があるのかないのか、という点です。経営者の暴走を阻止するため、という理由で平成17年改正前商法では、「重要財産委員会」という機関設置が認められるための要件として、少なくとも取締役会構成メンバーにおいて一人以上の社外取締役が存在することが掲げられていました。つまり、会社法(旧商法)上、社外取締役の導入は経営者の暴走阻止のためにある、ということが、少なくともひとつの重要な意義として掲げられています。「社外取締役を一人以上導入すべき、というのが会社法の原則である」ということであれば、「取締役の職務執行の適法性確保」のための制度であるといえそうな気がしています。そうしますと、社外取締役を導入するかどうか、という経営判断については、大会社に決議が義務付けられている内部統制システムの基本方針の一部として捉えるべきであり、監査役がその相当性を判断することになるのではないか、という疑問が生じてきます。この点については、また語り出すと長くなりそうなので、別のエントリーで考えてみたいと思います。

8月 22, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年8月 1日 (水)

社長さんは「社外取締役制度」が本当にお嫌い??

昨年に引き続き、今年も旬刊商事法務に論稿を掲載させていただきます。8月5日、15日の合併号でして、タイトルは「監査役の責任と有事対応のあり方-監査見逃し責任を認めた判例の検討-」というもの。私のようなフツーの実務家が書いたものなので、学術的なレベルはあまり高くはありませんが、裁判ですぐに使えそうな(実際、私は使ったことがあります)判断枠組みを提言しておりますので、裁判実務にそのまま役立つようなものとして検討いただければ幸いでございます。

さて、本日はそれほど堅苦しいお話ではございません。ただ、先週はある会社(A社)の管理部門担当の取締役さんから、そして昨日は某地域の経営者会議にお招きいただき、そこで(たくさんおみえになっていた会社さんのうちの一社である)某社(B社)常務取締役さんからそれぞれお聴きした話のなかに、とてもおもしろかった共通のご意見がありましたので、当ブログでご紹介したいと思います。

どちらの会社も、かなり以前から取締役会に複数の社外取締役さんがいらっしゃる比較的大きな上場会社さんです。私もきちんと調べたことがないので、よく存じ上げないのですが、結構社外取締役が(半数に近いほど)複数いらっしゃる上場会社というのは増えているようで、半数近い、ということだと、「ガバナンス改革に積極的な会社」だというイメージを抱いてしまいます。私などは教科書的な発想しかできないものですから、「半数近くが社外取締役」などといった話を聞きますと「すごいですね、社長さんは経営の透明性について真正面から取り組んでおられるのですね」といった感想をもらすことになります。

すると、おふたりとも興味深い回答が返ってきました。

「まぁ、表向きはそのように受け取られていますし、決して透明性について否定的だとは言いません。しかし、社長はそれほど社外取締役制度について熱心だとはいえないと思います。」

とのこと。では、なぜボードにおいて複数の社外役員に就任してもらっているのか、というと

「取締役の人数が多かった昔は、派閥抗争がひどかったのです。社長は社内力学ばかり気になってしまって、取締役会の構成員に対する政治的な配慮ばかり気にしていました。しかし、これだけ意思決定のスピードが要求されるようになって、根回しする時間などありません。社外取締役をたくさん指名するようになってからは、社内取締役は腹心だけで固めて、社外取締役も昔から気心の知れた仲間ばかり。つまり、社内役員の人数を減らして、社内における派閥抗争を抑えることが本当の理由です」

とのこと。

ええ!?ホンマですか?もちろん立ち話での会話ですから、多少は大げさな表現もあるかもしれませんが、ほぼ同じくらいの規模の全く異なる業界の方々から、同じようなお話をされますと、そういった思慮が社長に働くこともあるかも・・・と思ってしまいます(昨日のお二人目の役員さんの場合、正直に申し上げますと「こんなことってありませんか?」と私のほうから質問をしたところもありますが・・・)

外国人株主比率が高い会社であれば、外見を気にして社外取締役を複数導入する、ということは良く聞くところですが、これはなかなか人間臭いお話です。いずれにしましても、社外取締役制度を導入することに熱心な会社だからといって、必ずしも「耳の痛い意見に真摯に耳を傾ける」社長さんばかりではない、ということが少しばかり気になったような次第です。ということで、本日は軽く聞き流していただいて結構なお話かと。。。

8月 1, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年7月25日 (水)

日本に comply or explain の規定は根付くのだろうか?

おお!?ひさしぶりに「深夜の開示は蜜の味?」(これは話題になりそうな・・・・・、またそちらは別の日に・・・)←ここまでは本論と関係ありませんので、転載いただく場合には省略していただいて結構でございます<m(__)m>

※※※※※

LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の不正操作問題は、いよいよ関係者の刑事訴追が始まるような気配ですが、これまでの事件の推移をみておりますと、英国銀行協会のルールに従って自主申告する制度が、銀行関係者の極めて高い倫理観に依拠していることを改めて認識いたしました。監査も監督もない信用の世界に成り立つ制度だからこそ、これを破った者に対しては(全体の制度の信用を喪失させたことへの)厳しいペナルティが待ち受けている、ということになります。事前規制が「倫理」に依存する制度だからこそ、事後規制の「制裁」がより厳しいものになる、ということかと思います。

取引金利の公正な概観は、関係者の極めて高い倫理観によって維持される、というLIBOR不正操作関連の記事を読んだときに、ふと思い出したのが、数年前に青山学院大学の会計サミットで会計士の方からお聴きした「英国では、私が会計基準だ、と自負する会計士さんが多い」というお話です。アメリカや日本とは異なり、プリンシプルベースの会計基準が通用する英国では、自身の解釈こそ公正なる会計慣行との自負を持っている、だからこそ自身の意見については高い倫理観がなければ会計士は務まらないのだ、といったお話でした。ところで、TIBOR(東京銀行間取引金利)にも不正操作のリスクは存在するのですが、日本の場合には横並び意識による自主申告が可能となる制度運用がされているので、実際には金利が歪められるおそれは少ないそうです(昨日の日経新聞で報じられていました)。

さて、先週要綱案(第一次案)が法務省HPで公表されております会社法の改正案に、すこしおもしろい提案が出ています。社外取締役の選任義務付けを会社法に規定することは見送られたものの、社外取締役を選任しない会社については「なぜ当社では社外取締役を選任しないほうが妥当なのか、その理由を開示すること」という規定を置いてはどうか、というものです(なお、7月25日午前2時の時点で、日経新聞ニュースによると、この要綱案を経済団体が受け入れる方向とのこと)。

これは、いわゆる comply or explain (ルールに従え、さもなくば、従わない理由を説明せよ)の制度を会社法で採用する、ということではないかと思われます。ご承知のとおり、これは英国で使われている制度であり、国家が強制的に行為規範を押し付けるのではなく、法人の自由を最大限配慮しながらも、法の政策的な趣旨を緩やかに実現しようという規制手法です。しかし、今回のLIBOR問題や、英国の会計制度を支える「真実かつ公正なる概観」の考え方などからみて、comply or explain の制度は「横並び主義」の日本に根付くものなのでしょうか?

おそらく「explain」というのは、説明責任を尽くす者が、高い倫理観をもって「これが当社では正しいのだ」といった確信に満ちた説明をしなければ成り立たないのではないかと。しかし、この制度を日本で期待することが無理なのは、すでに何度も当ブログで述べたとおり、(本来プリンシプルベースであったはずの)内部統制報告制度(J-SOX)の運用に企業実務家、監査法人が細かいルールを求めてきたことからも明らかだと思います。結局は、著名企業が「社外取締役は当社では有用どころか有害すらあるのだ」とする合理的な理由を述べれば、そのまま横並びで他者も追随する、ということで終わってしまうことが予想されます。これではTIBORと同様、関係者の高い倫理観も何も必要ないのではないかと。

そしてもうひとつは、「explain」を論評する公正な市場が存在しない、ということにあります。ルールに従わない企業を市場がどう評価するのか、判断者が理由まで聞いて合理的な行動に出るだけの意見形成が期待できるのかどうか、という点に疑問を感じます。社外取締役を導入しない企業に対しては、社内取締役の選任議案に対して反対票と投じる、といったところぐらいで止まってしまうのではないでしょうか。このたび、原発事故の調査委員会報告書が、政府や国会、東電から出てきましたが、今後日本人は、果たして「どの報告書が最も優れている、それはこういった理由からである」といった議論を盛んに行うことになるのでしょうか?そういった公正な論評を行って、明日の日本のために、少なくともできる範囲での合意形成をしようといった気概のある有識者やマスコミはどれだけあるのでしょうか?結局みんな自分が責任を負うのが嫌なので、単に報告書が認定した事実をセンセーショナルに報じたり、各報告書の欠点を冷めた目で指摘することで終わってしまうおそれはないでしょうか。このような日本の現状を考えた場合、explainさせることが、どれだけ企業のガバナンス改革に影響を及ぼすことになるのか、私自身、いまだよく理解できないところです。

7月 25, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (5) | トラックバック (0)

2012年7月20日 (金)

社外取締役選任義務化見送りへの私の感想・・・

会社法改正の目玉と言われておりました社外取締役の法制化(上場会社への義務付け)が、見送られることになった、とのこと(すでに新聞各紙で報じられております)。会社法で社外取締役 の選任を義務化することについては、ご承知のとおり経済団体から強い反対意見が出ておりましたので、その反対意見に押し切られてしまった、ということのようであります。なぜ押し切られてしまったのか?・・・・・ご異論もあるでしょうが、以下は私の勝手な感想であります。

企業不祥事問題と結びつけてしまったことが、まず第一の要因ではないかと。昨年9月ころまでは、たしか社外取締役制度を導入することで、企業のパフォーマンスが上がる、という検証結果なども出され、社外取締役制度導入論者の勢いが復活しかかっていたはず。この検証結果に反対論者がどう切り込んでくるのか・・・というあたりに関心が集まっていたころに、大王製紙、オリンパス事件が発覚。ここで企業パフォーマンスの問題ではなく、コンプライアンスの問題にすり替わってしまいました。不祥事防止のために社外取締役を導入せよ、といった議論が一般的にはわかりやすい議論なのですね。結局、社外取締役を導入しても不祥事は起こる、いや起きない、といった水掛け論となり、独立性の問題も「社長のゴルフ仲間を連れてきたって独立性は確保できるではないか」といった反論にまともに答えられなくなってしまった。企業パフォーマンス論で議論が進んでいたほうが賛成論者からするとよかったのではないかと。

つぎに、そもそも社外取締役導入を法制度で強制している国はあまりないという事実。上場ルールなどで強制するということはありますが、法律で義務化する、というのは少数なのですね。そもそも法制度で義務化してしまうと、当ブログでも過去に問題にしたように、社外取締役に欠員が生じたときの取締役会決議の効力はどうなるのか、「独立性」要件が満たされないことが後日判明したときに、それまでの取締役会決議はどうなのか、といった問題がつきまといます。1人以上、ということであれば、余計めに2人は選任しておかねばならない、といった問題も生じるかもしれません。制度強制といっても、そこまでの効果は不要であり、社外取締役を選任しない会社に対してなんらかの(上場ルールによる)事後的制裁があれば足りるのではないか、とも考えられます。そのあたりの詰めが甘かったか、もしくはアピール度が弱かったのではないかと。

また、これは私の周囲の企業実務家の方とお話をしていての感想ですが、「社外取締役を本気で探さないとマズイ・・・」という機運が高まって、本気で探してみると、意外と人材がいないという点が大きいのではないかと。これも賛成論者からは「そんなことはない。人材は豊富です。」と反論されるところなのですが、いざ本気で探すとなると、やはりまったくの見ず知らずの人を社外取締役に選任する、ということはないでしょう。とくにCSRとの関係で、社外取締役制度導入にダイバーシティ対応も含めて考え出すと人材が限られてきます。それでもやはり「人となり」を知っていて、「この人ならば」と思える人に依頼するはずです。また「この人なら」と思える人も、本気で就任を考えていくと、ちょっとリスクがあってこわいなぁと感じる方も多いのではないかと。社外取締役が訴訟の被告となるケースなども報じられているところですし。この「人材不足」という問題は相当な導入消極論を盛り返すきっかけになっているのではないかと思うところであります。導入論の現実味が増したがゆえに顕在化した問題かと。

まだ「うっちゃり」(会社法では制度化しないけど、取引所の企業行動規範で強制する)の可能性はまったく無いとは申しませんが、とりあえず今後もソフトロー、または開示規制による社外取締役導入普及策がソフトランディングの方策として検討されることになるのではないでしょうか。社外取締役制度導入に賛成する立場としても、まだまだ導入のための土台作りに努力をしなければならない、ということかと思います。ただ国内機関投資家の議決権行使基準や議決権行使助言会社のポリシーの改訂などは、少しずつではありますが、ボディブローのように効いてくるでしょうね。

7月 20, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (5) | トラックバック (0)

2012年5月29日 (火)

大手運用会社によるガバナンス強化策(第三のガバナンス改革)

本日(5月28日)の日経夕刊一面に「社外役員 より独立性を重視」と題する記事が掲載されておりました。野村アセット、三井住友アセットマネジメント等の大手運用会社が、6月の定時株主総会において、これまで以上に議決権行使に関する判断を厳格に行う、とのこと。今まではスクリーニング(社会的に問題行為を起こした企業をピックアップして、そこだけ重点的に審査する)をかけるところが多かったようですが、今後は不祥事を発生させていない企業であっても厳格に議決権行使基準を適用していく、ということだと思います。

とりわけ社外役員候補者については「独立性」基準を厳しく適用し、たとえば社外役員の相互派遣、親会社出身者の選任、長期の社外役員在任に関しては反対票を投じる運用会社が増える見込みのようです。これまでは海外の機関投資家や議決権行使助言会社の独立性要件の厳しさが目立っておりました。しかし、3名の社外取締役が存在していたにもかかわらず、損失飛ばし、飛ばし解消スキームを長期間見逃してしまったオリンパス事件などを教訓に、社外取締役の人数だけでなく、その属性についても厳しく審査していこう、という国内運用会社の姿勢が注目されるところであります。

ただ、企業不祥事が目立ったことだけが、大手運用会社の議決権行使ポリシー厳格化の理由ではございません。当ブログの3月28日付けエントリー「ガバナンス改革の『第三の波』と企業周辺領域への規制拡大」でもすでに述べましたように、行政当局による上場企業に対するガバナンス改革の一環としての意味合いが強いのではないかと推測いたします。最近よく言われる「ガバナンス改革第三の波」の兆候ではないかと思われます。これは日本だけではなく、リーマンショック以降の欧米におけるガバナンス規制の手法にも合致するところです。

Gaba03


上図は3月28日付けエントリーで示した解説図に、大手運用会社を用いたガバナンス規制を加えたものです。会社法改正はもちろん法務省の管轄ですが、法務省主導によるガバナンス改革が進まない場合には、金融庁主導による改革が上場企業に改革へのプレッシャーをかける、という構想図となっております。

社外役員の独立性がいろいろと話題になりますが、独立性を知るうえで一番効果的なのは社外役員候補者の方に以下の質問をぶつけて、ご回答いだだくことだと思います。

「〇〇さん、あなたは誰の紹介で、この会社の社外役員候補になったのですか?」

5月 29, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年4月24日 (火)

富士通元社長事件判決からみた社外役員の効用

昨日(4月23日)の日経「法務インサイド」において、「富士通元社長辞任問題の教訓」と題する記事が掲載され、そこで富士通社には(当時)社外取締役3名、社外監査役3名がいったいどのような役割を演じていたのか明確ではなかった、社外役員の実効性(監督機能)が改めて問われるのではないかと報じられておりました。社外役員強化の方向性はわかるけれども、本当に実効性があるのかどうか懐疑的、といったトーンで書かれていたように思います。

先日、私は(学術的な目的のため)この判決文をある方から見せていただきましたが、地裁レベルの判断ではありますが、この富士通元社長事件の判決文を全文読みますと、少し違った印象を受けると思います。といいますのも、社外監査役のおひとりが、元社長に対して厳しく尋問を行うシーンが(録音レコーダーで記録されたまま)、そのまま判決文に引用されているからであります。ちなみに本事件では、原告(元社長)側が、脅迫や強要によって辞任を迫られ、自由意思を奪われていたと主張しておられるので、本当に脅迫や強要があったのかどうかが詳細に検討された結果、(脅迫や強要の事実はない、とする判断根拠として)判決では詳細な会話内容が引用されることになったものと思われます。

この社外監査役の方には、尋問までの綿密な準備、一回の尋問によってなんとか解決に至らしめる気迫が伺われるのでありますが、判決全文を読みますと、とても社内の取締役や監査役では同じことはできないと確信いたします。本件はまさに企業の有事対応が問題となっておりますが、なんとか企業の自浄作用によって不祥事を解決しようとする意図がひしひしと感じられます。もしこういった場面で他の取締役や監査役が社長を辞任に追い詰めることができるとすれば、すでに社内で社長と他の役員の間で支配権争いを演じており、社長の反対側に大株主がバックについているような場合くらいではないでしょうか。私はこの判決文を読ませていただき、上記の記事とは逆に社外役員の有効性が如実に現れた事案であると認識しております。

何度も申し上げるところですが、反社会的勢力と上場会社との接触は、「後から発覚」では遅いわけでして、合理的な疑いのあるところでどう対応するか、ということが最も大きな課題であります。元社長さんにとっては、判決後の記者会見で述べておられるとおり、突然の辞任要請、しかも役員が一堂に会している場ではないところで、ということから、デュープロセスの視点から疑問を感じるとのこと。たしかに会話の中でも、「なぜもっと早く警告をしてくれなかったのか」とおっしゃっているところもあります。しかしこの点についても、判決文を読みますと、会社側として手続き的にも最大限の配慮がなされているようです。なかでも「どうして警告が元社長の耳に入らなかったのか」という点については、企業組織における情報伝達のむずかしさが示されており、こちらもコンプライアンス的には勉強になるところです。

内容を相当にうまく削除(訂正)しなければ、当該判決文は公表されないかもしれませんが、企業法務的には非常に価値の高い判決文であると感じた次第です(判例情報誌などで全文掲載されるといいのですが)。また、高裁がどのような判断を下すのでしょうね。

4月 24, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年3月28日 (水)

ガバナンス改革「第三の波」と企業周辺領域への規制拡大

ジュリストをはじめ、最新の法律雑誌はどれも「会社法改正(中間試案)特集」ばかりです。著名な学者、法律実務家の方々の魅力的な論稿や座談会記事が多すぎて、いったいどれがおススメなのか、よくわかりません。かくいう私自身も、会社法改正関連ではございませんが、「社外監査役の理論と実務(第二版)」(商事法務)の編集作業が大詰めとなりまして、条文解釈や判例解説記事の最終チェックをしております。

会社法改正の着地点がどのあたりになるのか、まだまだ不明な状況でありますが、先日ご紹介しましたように、ガバナンス改革はリーマンショックを契機として世界的に「第三の波」が押し寄せているようでして、会社法の改正がどのような結果になったとしても、この第三の波が日本企業のガバナンス改革にどこまで影響を及ぼすことができるのか、今後注目されるところかと思います。会社や会社役員に対する法的な行為規制ではなく、会社に影響を及ぼす外部第三者の力をもってガバナンス改革に取り組むというものであります。ここで力を発揮しそうなのが、金融庁によるガバナンス改革への構想(?)であり、以下は勝手な私の推測による構想図であります。

1


上の「金融庁」から出ている黒い線は監督権限や組織的なつながりを示すものです。各組織から企業に向かっている矢印が企業のガバナンス改革に影響を与えるテーマです。たとえば証券取引等監視委員会は、昨年の機構改革で「課徴金・開示検査課」から「開示検査課」を独立させました。課徴金制度は事後規制の世界ですから、ここから独立した「開示検査課」は不正開示を早期に見つけて、企業に早期是正を促す、という事前規制を重視しております。証券取引所については、先のオリンパスの上場維持の理屈(事件発覚後のオリンパス社の自浄作用を考慮して、将来の投資家に迷惑をかけない体制が認められれば、今の株主保護を重視する)や、企業行動規範による上場管理(独立役員制度等)によって企業自身によるガバナンス改革を促しております。監査法人はJ-SOXにより、企業の統制環境をチェックします。金融機関は(林原社事件で明らかなとおり)、信用リスク管理態勢の強化において、企業のガバナンスをチェックします。平成21年金商法改正によって格付機関に対する行政当局の監督権限が強化され、今後はガバナンス評価が見直されるかもしれません。

これらに加えて、最近のAIJ事件やオリンパス事件を契機とした海外機関投資家へのチェックなども(法改正により)含まれてくるわけでして、企業に対する直接のガバナンス規制ではなく、周辺領域への開示規制や監督権限(品質管理)の手法を活用して、政府の事前規制を代替する「事前規制」によりガバナンス改革を実現する方向が検討されます。

では金融庁の監督権限が及ばない領域についてはどうするか?そこは既に金融庁によって布石が打たれており、たとえば弁護士は日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会の設置、という手法を奨励することで(これも事前規制の世界であります)、金融庁の味方につけることにほぼ成功しつつあるのではないでしょうか。強制加入団体である日弁連が関与する第三者委員会、しかもステークホルダーの利益を第一に考える・・・というところがミソであります。

また、各企業における監査役につきましては、平成20年の金商法改正によって新設され、このたびのオリンパス事件でも話題となりました金商法193条の3で布石が打たれてあります。会計不正事件の疑いを持った監査法人が、社内での早期是正を求めて監査役に「是正措置要求」を通知し、それでも会社がなんらの対応をしない場合には金融庁への届出義務を監査法人に課す、というもの。平時対応、有事対応、いずれにおいても、すべて事前規制の世界です。不正を起こさないガバナンス、不正を早期に発見し、これを自浄能力をもって解消するガバナンスを外圧によって企業に求めるという流れになろうかと思います。

上記の図は、本当に未熟なものにすぎませんが、ガバナンス改革は会社法改正だけの問題ではない、ということが今後次第に明らかになってくるのではないかと考えております。佐々木審議官の講演をお聴きしたり、また金融庁長官でいらっしゃった五味さんの新刊書を拝読し、1998年ころからの激動の金融行政を垣間見て、ふと、上記のような構想を思い浮かべた次第です。

3月 28, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年3月12日 (月)

金商法の改正と「第三のガバナンス改革」

来月、日本監査役協会の全国会議でご一緒させていただくパネリストの方から、金融危機以降の欧米のコーポレートガバナンス改革についてご教示いただく機会がありました。海外の動向に疎い者として、とても新鮮に聴かせていただきました。

以下は私の頭での理解でありますが、1990年代が取締役会改革や社外役員による外部統制を中心とした第1フェーズ、2000年代がエンロン事件等を契機とするSOX法など内部統制の規制を中心とした第2フェーズです。そしてリーマンショック後の(2010年代の)第3フェーズはドット・フランク法やEUグリーンペーパーに象徴されるような金融機関の経営監視、格付け機関の管理規制、会計監査人の監督強化、機関投資家の責任問題等を中心課題として、いわゆる企業を評価する外部組織の統制を通じて企業の統制を図る、というもの。健全な経営を継続している企業に(今以上の)直接的な負荷をかけないようにしながら、なおかつ企業統治の健全性を向上させる、ということへの配慮かと思われます。

3月10日の日経新聞朝刊に、金商法改正が閣議決定された、と報じられております。オリンパス問題のインパクトからだと思いますが、企業の粉飾決算に加担・協力した第三者に対して出頭命令を出したり、課徴金を課すことができるようにするとのこと。また粉飾決算だけでなく、インサイダー取引や不公正ファイナンス、相場操縦等の不正についても協力者への制裁条項を新設するそうであります。普段から不適切な会計処理を行った上場会社の第三者委員会報告書を読む者からしますと、ほとんどの事例において外部の協力者の存在が認められるわけでして(だからこそ会計監査人による発見が困難なわけで)、そのような協力者への行政処分は不正抑止へ実効性が期待できる一方、企業の資金調達の面における副作用(萎縮的効果)に若干の不安も残るのではないでしょうか。

こういった金商法の改正は、オリンパス問題を契機として「場当たり的に」行われるように一見思えるのですが、先に掲げた「第三のガバナンス改革」にある機関投資家責任の強化に通じるところがあるように思います。平成21年の金商法改正では登録信用格付業者に対する業務管理体制の整備義務が新設され、林原社問題を発端に上場会社のガバナンス強化に金融検査が活用され始め、そして会計監査人の監督を通じて「問題企業をあぶりだす」といった一連の規制手法をみますと、すでに日本でも「第三のガバナンス改革」の流れが始まっているのかもしれません。3月11日の日経新聞朝刊に、電子版読者アンケート結果が集計されており、日本の企業統治には何らかの問題がある(機能していない、機能しているが諸外国と比べて見劣りする)と回答した方が9割にも及んでいるとのこと。米国ドット・フランク法におけるプロキシー・アクセスのような委任状制度の民主化まではちょっとむずかしいとは思いますが、日本のガバナンスもグローバルスタンダードを意識することが必要なのでしょうね。

3月 12, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年2月20日 (月)

「社外監査役」が期待する「社外取締役」の姿とは?

民主党の資本市場・企業統治改革ワーキングチーム(WT)が、3月中旬にも上場会社について社外取締役制度を義務付ける提言を公表する方針であることが週末のニュースで報じられておりました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。社外取締役制度の義務付け問題は、各種団体からの反対意見も根強く、また独立性の欠如した社外取締役が関与した取締役会決議の有効性の議論なども尽きないところですので、未だ流動的かとは思います。ただ、今後の会社法制部会の予定回数もそれほど多くないように聞いておりますので、いよいよ大詰めの議論がなされる時期に差し掛かってきたのではないでしょうか。本日(20日未明)の日経ニュースでも、人材派遣会社のレイス社が、登録者の中から約400名を選抜して、いよいよ社外取締役の紹介事業を本格化することが報じられております。

上の民主党のWTもオリンパス事件や大王製紙事件を背景に、ガバナンス改革が急務として審議が重ねられたわけですが、それらの会社では特殊な事情があったために不祥事が発生したものであり、上場企業のガバナンス改革を強制する要因にはなりえない、との反論もなされるところです。この反論は一面において正しいと考えます。しかし、「巨額損失飛ばし」や「子会社資金の不正流用」といった一次不祥事はたしかに特殊事情かもしれませんが、取締役会の機能不全や監査役による監査見逃し、といった二次不祥事は「悪い意味でのサラリーマン根性」(オリンパス事件の第三者委員会報告書)といった言葉で形容されたように、どこの企業でも発生しうる問題であることは間違いないわけで、ここを区別して検討する必要があろうかと思われます(この点はまた別の機会に論じたいと思います)。

ところで最近の議論は、2011年後半に発覚した事件の影響からか、「不祥事防止」「コンプライアンス」という側面からの社外役員導入論が根強いものに感じます。しかし私のような現役の社外監査役という立場からみた場合、かりに当社に社外取締役さんが就任するということであれば、どんなところに期待をするでしょうか。ホンネで言えば、期待は単純に不祥事防止という点だけにはとどまらないものと考えています。いやむしろ、それだけの役割で社外取締役制度が強制導入されるというのは、実践面において社外監査役との役割分担も悩むところですし、ちょっと導入する会社が「後ろ向き」になるのも当然かな・・・と。

やはり社外取締役も「取締役」である以上、会社の業績に結果を出してもらわないと困るわけでして、機関投資家や一般株主を含め、投資家に対して有益な仕事をしてもらわないとマズいと思います。しかし事業とは無関係のところからお越しになるわけですから、営業や商品企画やマーケティング、マネジメントにおける良いアイデアを出してもらうことは期待しません。そうではなくて、たとえ業績が良くて「利益」が出たとしても、どういったプロセスで利益が出たのか、会社として無理をして利益を出したのか、たとえ「損失」が出たとしても、不透明な事業活動によって出たのか、それとも長期的な展望に立って健全な投資がされたのか、そのあたりをチェックしていただければ・・・・と期待をするわけであります。いわば利益、損失発生のプロセスの正当性を担保する、そして取締役会における議決権の行使をもって株主に社外取締役の意思を表明する、といったところが大きな意義をもつものと考えています。つまり事業の永続性という視点から損益を見ていただきたいのです。

監査役は取締役の職務執行の適法性をチェックするわけですが、任務として「利益」や「損失」の質まで言及するものではありませんし、その正当性を議決権行使によって担保するものでもありません。どなたかがコメント欄で述べておられるように、監査役は経営判断に疑問を抱いても、何も言わずに辞任してしまえば済んでしまうところがあるわけでして(もちろん、私はそれで良いとは思いませんが・・・)それ以上に株主・投資家へ説明責任を尽くすことも現実にはほとんどありません。しかし社外取締役さんには積極的に会社の業績向上に貢献していただきたいわけで、その貢献の仕方というのが、本当に当該会社は健全な経営によって利益を出したのか、つまり持続的な成長が見込める会社なのかどうかを見極めていただくことで貢献していただきたい、と思うのであります。また損失が出たときにも、その損失は長期的な視点からみてどうなのか、先細りの兆候なのか、次のステップへの投資なのか、そのあたりを取締役会における議決権行使によって説明責任を果たしていただくことに期待をいたします。このように考えるのであれば、社外監査役の役割と重複することもないでしょうし、また監査役と社外取締役との連係もうまくいくように思うところです。

委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会を想定したり、取締役の過半数を社外取締役で占める、といった大きなガバナンス改革を念頭に置くならば、もう少し積極的な役割も期待できるところだとは思いますが、いまの世間における社外取締役義務つけの議論を踏まえますと、このくらいの役割を期待をすることのほうが現実的ではないかと。ホント、会社の業績向上に寄与する制度導入でないと困るわけでして。。。

2月 20, 2012 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月26日 (月)

九州電力社の企業統治と「物言わねばならない」監査役

(26日正午の報道を受けての追記あります)

ガバナンス問題といえばオリンパス社、大王製紙社の話題が現在進行形でありますが、ここへきて九電やらせメール事件に関する動きが報じられております。九電経営者VS第三者委員会のバトルはとりあえず終息したようみもみえますが、九電内部では経産省に提出した最終報告書の内容を訂正するかどうか、議論があったようでして、12月22日の時点では訂正報告書は提出しない、と決定した旨報じられております(佐賀新聞ニュースはこちら)。

ところで日経新聞の22日未明の記事や共同通信ニュースによりますと、九電さんは上記決定について、定例の取締役会を中止して、一部の役員の判断においてなされたようで、監査役会は年明けにも会長らに対して定例の取締役会を中止した経緯について説明を求めるとされています。会社側は「今月はとくに議題がなかったから役員会を中止した」と説明しているそうですが、上場会社の役員会は審議事項だけでなく、様々な報告事項もあるわけですから、かなり異例の事態であります。上記共同ニュースにもあるように、役員会の混乱をおそれて異例の中止に至ったことも推測されます。あれだけ第三者委員会と対立のあった「やらせメール最終報告書再提出問題」について、役員間の意見交換もなく、一部の取締役による判断で「再提出しない旨」の決定をしても「不当」なだけでなく、会社法上の法令違反は認められないのでしょうか?

会社法362条4項には、定款によっても業務執行者に決定を委任できない事項が列記されておりますが、最後に「その他の重要な業務執行」として取締役会における専決事項が規定されています。おそらく1号から7号までに列記されている業務執行と同等程度の重要性をもった業務執行を指すものと思われますが、今回の「やらせメール事件に関する最終報告書の再提出問題」がこの「その他の重要な業務執行」に該当するのであれば、一部の役員によって独断で決定することは違法、ということになりそうです。もし上記事項が「会社事業の通常の経過から生じる事項」に該当するのであれば、代表取締役に委任されている事項として取り扱っても構わないことになります。

監査役は取締役の法令違反行為や著しく不当な事実を認めた場合には、これを取締役会に報告するために取締役会の招集を請求するか、もしくは自ら取締役会を招集する必要がありますので(会社法383条2項、3項)、やらせメール事件の報告書を訂正しない、と決定した取締役に対して説明を求めることは当然のことではないかと。12月25日に九電では6基すべての原発が停止し、来年早々にも住民に対して5%程度の節電を呼びかけること、(関連会社ではありますが)玄海4号機では配管強度偽装が判明したことなどに鑑みますと、現在は九電の原発事業の再開にとって重要な時期にあるわけでして、このような時期に「やらせメール事件の再提出の要否」を判断することは、九電さんの今後のエネルギー政策の方針決定において重要な事項であり、私個人の意見としては一役員の判断で決定できるほどの日常業務(つまり代表取締役の一存に委任できる事項)とはいえないように思えます。その業務執行が対外的取引行為等、利害関係を有する第三者が存在するようなものであれば「取引の安全への配慮」等も考慮した解釈が必要になりますが、本件はあくまでも九電内部の問題ですから、このように解するのが妥当ではないかと。

もちろん監査役が取締役会の招集を求めたり、自ら招集するのは、取締役の不正な行為を報告するためのものですから、とくに取締役会で十分な審議を尽くしてもらえる保証はございません。しかし、単に社長さんに説明を求めるだけでなく、十分に納得のいく回答が得られない場合には「物言わねばならない」監査役として、監査役として自ら取締役会を招集する等、会社法上付与された権限行使が必要となる場面ではないでしょうか。なお、取締役会の招集請求等の権限は監査役会ではなく、個々の監査役さんに認められるものなので、6名いらっしゃる監査役(うち3名が社外監査役)の方々の中でも意見が分かれるかもしれません。九電のガバナンスを考えるにあたり、今後この件がどのように進展するのか、年明けの動向に注目してみたいと思います。

(26日午後:追記)

halcomeさんもコメントされているように、本日(26日)九電では臨時取締役会が開催され、社長さんが1~2ヶ月後に辞任することになったようです。どのような組織力学が働いたのかは不明です。

私自身も驚いておりますが、決して何か事前の情報を得て本エントリーを書いたものでは決してございません。そのような守秘義務違反行為は絶対にしません。ただ、ここ一週間ほどの報道内容から、かなりガバナンス上の問題点が社内でも浮上していたのではないか・・・との推測からであります。とりあえず、そのことだけ明記させていただきます。

12月 26, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年12月 5日 (月)

企業不正の予防・発見はガバナンス+ヘルプライン

新聞報道等によりますと、いよいよ明日(12月6日)、オリンパス社の第三者委員会報告書が提出されるようで、同社を巡る諸問題もいよいよ今週から動き出すような気配であります(産経新聞ニュースはこちら)。

先週(11月28日)、私も参加しております関西CFE(公認不正検査士)研究会にて、大手監査法人の会計士の方から財務デューデリ(DD)における不正調査の実務について発表をいただく機会がありました。実際に会計士の方が取り扱った事例を参考として討議が行われましたが、非常に興味深かったのが相対取引におけるターゲット会社(買収対象企業)へのノンアクセスDDによる見込み(予測)とフルスコープDD、クロージングDDによる結果判定との関係でありました。

成約に至った事例、至らなかった事例などを参考に(もちろん会計士さんの守秘義務に反しな範囲ですが)検証をしましたが、結果からみるとノンアクセスDDの段階で予想していた問題点が、後日「予想どおり」の判定結果となるケースが多いなあと。監査法人の変更、役員の度重なる途中変更、兼業状況、役員の横のつながり、M&A仲介者の売り込み方法や仲介者自身の素性、その他勘定科目の選択などから「怪しい」と思える会社は、やはり後日ターゲット会社自身から入手した資料によるDD結果とほぼ異ならないようです。

ただ、その会計士の方もおっしゃってましたが、「あくまでも外から企業を審査するだけでは結論は出せない」とのことで、企業の不正を外から判断するのは、いくらその道の専門家でも限界がある・・・というのが実際のところであります。

ある雑誌の取材を受け、私は「経営者関与の企業不正の予防や発見はガバナンス+ヘルプラインがセットで機能しなければ困難」と述べましたが、最近のオリンパス社や大王製紙社の不正事件に関する報道に接し、そのように強く感じます。

先週、朝日新聞「法と経済のジャーナル」に、大王製紙元顧問(創業者一族の方、元会長の父)のインタビュー記事が掲載されておりましたが、すでに当ブログでも書きました通り、本社在職の「勇気ある社員」の方の活躍がさらに明確に表現されておりました。元顧問が息子である元会長を叱責するきっかけとなったのは、この社員の方が子会社担当者に対して「なんであのこと(子会社が元会長に無担保で金を工面したこと)を言わないんだ」とお尻を叩いたことがきっかけだったのですね。

ただ残念ながら、元顧問はそれ以上に元会長を追い詰めることはなかったのでありまして、その後の当該社員による「内部通報伝達ルート」を無視した行動(内部通報があったことを、ダイレクトに社長に伝える)に出て、社内調査が開始される、ということになります。

またオリンパス事件についても、こちらも前に書いたとおり、会員制経済誌に内部告発をしたオリンパス社員が存在し、これがきっかけで経済誌のスクープとなるわけですが、このスクープをとりあげた元社長が厳しく経営陣を追及したことで大きな問題になりました。

いずれの事件も、その発端は社内の一部「勇気ある」社員による情報提供行為でありますが、重要なのは決してそれだけでマスコミが報じるほどに大きな問題には発展していないことであります。どちらも社長、元社長といった役員クラスの者が、この情報に触れ、本気になって解決するために動くことがあったからこそ、マスコミが取り上げるに至ったのであります。ジャイアンツの件も、清武氏が反乱を起こしたからこそマスコミが取り上げるのでありまして、一社員が「コンプライアンス違反」と主張しても、相手がナベツネ氏である以上、記者会見の場も提供されないでしょうし、大きく報じられることもないはずです。この「不正発覚の起爆剤」がなければ企業は内部通報や告発があっても、首尾よく逃げ切れるチャンスはあるわけで、マスコミも一部社員が動いた程度では積極的に事件解明に動き出すことは少ないと思います。

このように考えますと、やはり企業統治(ガバナンス)は重要であり、その牽制機能は発見にも、また予防にも必要だと思います。

不祥事報道が続きますと、よく「一番問題なのは経営トップの倫理観」と言われますが、もちろんそのこと自体は正しいとは思いますが、ただ思考停止の原因にもなります。今年のベストセラー「人事部は見ている」の著書である楠木氏も、本書のなかで「社長は絶対服従の者をボードに置きたがる。過酷で重大な経営判断を下す場面において、もっとも信頼できるのは、自分に絶対に服従してくれる部下だ」という考え方を否定されていません。人は情実と倫理が相反する場面において、果たして情実を抑制して倫理で物事を判断できるほど高貴でしょうか?ほとんどの方が「こんなに孤独で厳しい状況のなかで、社員の生活を背負って経営判断を下すのだから、これを後押ししてくれる人たちを腹心に据えて何が悪いのか」といった正当化理由によって、倫理よりも情実を優先するのではないかと。いや、この場合の「倫理」というのは、「後日解消できる程度の悪事に手を染めることは、何千、何万の従業員およびその家族の生活を支えるために必要な事であり、むしろこれをやらないことのほうが倫理に反する」という理屈も出てくるのではないでしょうか?「正義」と同様、この「倫理」という言葉も相対的、配分的なものであり、とても危険な印象を抱きます。どんなに立派な教育を受けても、「平時の倫理と有事の倫理は違う」といった意見に流されるのではないでしょうか。

たとえば今、オリンパスの法人としての責任と損失隠しを主導した役員の責任問題を切り離し、「主導者=とんでもないワル」といったイメージで語られている気がします。しかし、この方々が、どうしてそのように立ち回れねばならなかったのか、おそらく「正当化理由」があるはずですから、そこまで遡って「果たして倫理観がなかったのかどうか?彼らには彼らなりの倫理観があったのではないか?」というところまで思考を停止せずに、異論も覚悟で検証していく必要があると思います。

法律の世界からみれば「ガバナンス改革」というと「社外役員の義務化」といった議論に結び付きやすかもしれませんが、上記のように考えますと、実は経営学や組織論、心理学の世界からみたガバナンス改革ということもありうるわけでして、法律家以外の方々のガバナンスに関する意見なども、これからたくさん出てきてほしい、と願うところです。

12月 5, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (1)

2011年12月 1日 (木)

証券市場の健全性確保のための司法の限界-東理HD元会長無罪判決

オリンパス事件を考えるうえで参考となりそうな判決が二つ出ました。ひとつはライブドア事件高裁判決であり(こちらは判決全文を読む機会がありそうなので追って検討するとしまして)、もうひとつは東理HD元会長さんに対する特別背任被告事件の無罪判決であります。東理HDの増資を巡り、架空のコンサルタント料名目で約24億円をペーパー会社に流出させたとして、東理HD社の元会長氏が旧商法の特別背任罪に問われた事件において、検察側は①コンサルタント契約は架空取引によるもの、②たとえ架空でなくても報酬額は不当に高額、といった理由で「報酬名目で会社に損害を与えた」と主張していたようであります。しかし裁判所は「架空取引というには(元会長氏以外の第三者も関与していたという点において)合理的な疑いが残るし、また報酬も不当に高額とまでは言えない」と判断し、元会長氏に無罪判決を言い渡した、とのこと(読売新聞ニュースはこちら)。

判決全文を読んだわけでもありませんので、当該判決の当否について論じるつもりはございません。ただ、当ブログで何度も申し上げているとおり、証券市場の健全性確保のための司法判断(事後規制)にはやはり限界があるのではないか・・・・・といった感想をあらためて抱くような裁判であります。かつて三越事件でも、当時の社長が愛人の経営する会社を中間に関与させてマージンを払っていた件につき、「商品の仕入れについて、当該会社が何もしていなかった、とまでは言えない」として特別背任を認めなかった例もありました。特別背任のハードルはかなり高いと思われます。

もちろん「金融庁(監視委員会)や検察庁は、このような無罪判決が出てもいいのでバシバシ立件せよ!」といった意見もあるかもしれません。しかし市場関係の犯罪を取り締まるには人的・物的資源が限られているわけで、リスク・アプローチの観点からは立件が確実と思われるものに絞って今後も対応せざるをえないでしょう。先の読売新聞の報じるところでは、裁判所は検察批判も展開しておられるようで、やはり「バシバシ」とはいかないのではないかと。

最近の状況から見て、証券市場の健全性確保のために、司法が動くことが必要と思われるにもかかわらず、どうしても限界を感じざるをえないのは以下のようなものではないでしょうか。

Sihougenkai0100


今回のオリンパス事件でも問題となりそうな「M&A報酬」は、そもそも「金額が不当」といった闘い方では専門家の意見を徴取したとしても無理があると考えます。ネステージ事件でも問題となりました不動産鑑定士による鑑定評価や、一部の会計士の方が算定される株価算定評価書などの価格につきましても、「おかしいのでは?」と感じつつも、「評価がおかしい」では裁判所を説得することは困難であります。またキャッツ最高裁判決やビックカメラ課徴金審判でも考えましたが、会計士の方々が「これは公正なる会計慣行だ」と主張される会計処理についても、裁判所が会計処理方針の妥当性について判断することはむずかしいと思います(うまく回避して判断するのが常道かと)。

結局、このような証券市場の健全性確保のための事後規制が奏功するのは、暗躍する専門家集団が、「全体構想」の時点から参画(共謀)していた事実関係を丁寧に立証するしかないわけで、そうなると立件できる事件は相当に限定されたものになるおそれがありそうです。したがって誰がみても「怪しい」と思えるような第三者割当増資が繰り返されても、立件できるのはごく一部であり、ほとんどの事例では一般株主の利益が搾取され最終被害者として残ってしまうことになります。

だからといって厳格な事前規制を導入する、というのも経営の裁量を狭めることになり、昨今の経済環境のもとでは到底受容されるものではないはずです。この事後規制の限界と必要最小限度の事前規制の受容のバランス・・・・・、このあたりをガバナンスの強化や開示規制の改訂などを活用しながらどのように実現していくべきか、今後検討していかなければ、また上記と同様の裁判例が集積されていくような気がいたします。

12月 1, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月21日 (月)

オリンパスのガバナンス不全と企業統治改革論への影響度

朝日新聞ニュース(11月20日)において、かなりオリンパス不正会計事件の進展にとって重要な事実が報じられております。(経済誌では既報ですが)オリンパス社が国内3社を買収するにあたり、価格算定に関する資料が提出される前に、すでにオリンパス社の取締役会において買収を決定していた、とのこと(朝日新聞ニュースはこちら)。公認会計士による価格算定結果が出る前、ということですから、21年5月に提出された(従前の)第三者委員会報告書よりも先に取締役会は3社の買収に関する取締役会決議がなされていた、ということであります。

オリンパス社の第三者委員会は法律家委員によって構成されていますので、「算定された買収価格が異常であり、通常の価格算定の手法からすれば到底適正なものとはいえない」という企業価値判断の適否をもって結論を出すことはせず、むしろ背景事情も含め、「全体からみると、今回の企業買収価格は『最初に結論ありき』というものであり、価格算定は目的ではなく手段にすぎない。ゆえに企業買収価格は適正なものとはいえない」という事実認定から結論を導くものといえます。これは会計処理の適否の判断を回避しながら有価証券虚偽記載等を判断する裁判所の手法に合致するものであり、また最近の(たとえば)ネステージ事件において現物出資対象物の価格算定を行った不動産鑑定士に対する立件を進める捜査当局の手法にも合致するものです。

第三者委員会が、朝日新聞ニュースのような事実を内部資料から重視した、ということは、国内3社の企業買収時の取締役、監査役の行動を評価するにあたり、いよいよ大詰めを迎えつつあるのではないか、と推測されます。私はこの事件が発覚した当初、現在の社長以下、取締役・監査役だった方々は「とりあえず(2年前の)専門家による第三者委員会報告が出ているのだから」買収価格が異常に高額であることの疑問は払しょくされたのではないか(つまり本当に3名以外の役員は「損失隠し」のスキームなど知らなかったのではないか)・・・・・と述べました。しかし上記ニュースが報じるところでは、「最初に結論ありきの役員会決議」の存在が疑われ、公認会計士による評価鑑定、監査役会が依頼した第三者委員会報告書の結果報告は、いずれも「ためにする鑑定、報告」だった可能性も否定できないように思われます。

いま、オリンパス事件、大王製紙事件をきっかけに、企業統治(ガバナンス)改革の必要性が一気に浮上しており、具体的な施策などもすでに提案されているような状況に至っております。たしかに大王製紙事件の特別調査委員会報告書では、大王製紙社の監査役、監査法人の行動について特別な悪質性を認めていないようですし、私自身も日弁連の企業コンプライアンスPTの委員として、こういった改革論議が盛んになることは歓迎する立場ではありますが(以前、当ブログでもとりあげました韓国の「遵法支援人制度」などを例として日弁連声明もだされています)、「オリンパス、大王の事例は氷山の一角か、それとも特別な企業の問題か」という点については少し冷静に判断したほうがよいのではないか、と思っております。

いま企業統治改革として議論されているのは、「なぜ他の取締役が監視できなかったのか」「なぜ監査役は機能しなかったのか」「なぜ監査法人は会計不正を見逃したのか」といったことが世間の期待ギャップとして表面化したからであり、そこで不満が一気に爆発したことによります。ただ、今回の一連の不祥事が、企業統治改革と結びつくためには、社外取締役や監査役、監査法人などが、とりあえず自らの使命に従って通常の職務を遂行しているにもかかわらず、不正を見抜けなかったことが前提となるはずです。ところで過去の不祥事事例において、モニタリング機能が発揮されなかった事例のなかには、①監査役や監査法人が経営者と共謀して積極的に犯罪を遂行した事例、②監査役等が不正を知っていながら何も言わなかった(放置していた)事例、そして③普通の監査役、監査法人ほどの業務すら行っていなかった、いわゆる「名ばかり監査役」の事例も昔から存在するのでありまして、そういった事例では昔から裁判所は(通常の業務を怠ったものとして)法的責任を認めております。したがいまして、今回のオリンパスの事例なども、たとえば損失隠しを主導していた役員以外の取締役、監査役らが、「不正を知りながら放置していた」と評価されるほどの悪質な事実が認定されるのであれば、従来から時々みかけられる特別事情が存在する企業であり、とくに(他社でもよくみられるガバナンス不全に関する)氷山の一角とまでは言えないのではないか、ともいえそうであります。

とりわけガバナンスの機能不全が「悪質」と認定されてしまうと上場維持問題にも影響を及ぼすこととなりますので、むずかしい問題ではありますが、「日本の上場企業のガバナンスすべてに問題が内包されている」という見方とは直接に結びつかない、と考えられます。先の朝日新聞ニュースによりますと「第三者委員会は買収資金の流れ以外にも、チェック機能を果たすべき取締役会が不正を防止できなかった経緯にも注目している」と報じられておりますので、今月中にも明らかになる第三者委員会の事実認定と評価結果は、今後の企業改革論議の行方にも影響を及ぼすものと考えております。

11月 21, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (11) | トラックバック (1)

2011年11月 2日 (水)

日本は不祥事が発覚しやすい社会になったのだろうか?

大王製紙社のガバナンスが論じられるときは「創業家に対する絶対服従の企業風土」という言葉が語られるわけですが、オリンパス社のガバナンスの場合には、「業績の飛躍的向上という輝かしい偉業を成し遂げたK元会長への畏敬」という言葉になるのでしょうか?つまり、K氏の目利きの良さは、過去の成功例からみたら反論の仕様がない、だからその行動(リスクテイク)は適正なものと判断できる、というところかと。よく子会社トップの不祥事が語られるとき、「彼は常に子会社の業績を向上させていたので、だれもが素晴らしい実力の持ち主だと思っていた。まさか、粉飾していたとは・・・」と親会社役員が感想を述べることがありますが、これに近いものかもしれませんね。

オリンパス事件につきましては、現時点で「過去の企業買収に問題があった」と断定することはできませんが、注目の「第三者委員会の設置」も決まりましたので、今後は不透明な買収の経過が明らかになるものと予想されます。

ところで、このようにオリンパス騒動が大きな事件となったのは、もちろん元社長であるウッドフォード氏による告発が契機であることは明らかであります。では、もし元社長による海外メディアへの内部告発がなければ、オリンパス社はいまでも安泰としていられたのでしょうか?

たしかに会員制経済誌による一連の社内事情の暴露があり、元社長も当誌の記事をもとに調査に乗り出したそうですから、たとえ元社長による内部告発がなくても、「ゆくゆくは」経済誌のスクープによってオリンパス騒動が勃発していたのではないか、ともいえそうであります。

ただ、オリンパス騒動に関する日本のマスコミの初期対応がどうも気になりました。私は過去におきまして、一般経済誌の記者の方の(日本を代表する某会社の経営陣に関する)不祥事スクープに関与したことがありました。もちろん、ネット上にも大きく報じられたのでありますが、私のドキドキワクワクした気持ちとは裏腹に、日本の大手新聞社は全く後追い記事を掲載することもなく、ただの一発記事で終わってしまいました。内部告発モノですから、会社側が反論すれば、いくらでも再反論の用意はあったのですが。。。今回の件につきましても、FACTA誌の開示した情報を、大手のマスコミがどこまで追随して報じるか・・・といいますと、なにか発端となる事件でも発生しない限り、あまり期待できなかったのではないかと思います。

あの有名なダスキン事件のときは、たしか(ダスキン社が違法添加物入りのぶたまんを売り切ってしまったことに関する)口止め料を過去に受領した某氏が、またダスキン社にやってきて、今度は会社側が口止め料支払を拒否したところ、その数日後に大手新聞社からの問い合わせがあったものと記憶しています。

ネット掲示板や動画サイトが普及し、またブログやツイッターなどが内部告発を助長する手段となりましたが、それらは企業不祥事発覚の端緒にはなりえても、起爆剤がなければ大きな不祥事ネタにはならない。やはり世間で注目されるためには大手マスコミの力が今も大きいのではないでしょうか。

今回のオリンパスの件も、告発をしたのが従業員ではなく社長であったこと、海外メディアが内部告発を真剣に取り上げて海外の行政当局も興味を示したことなどが起爆剤となって、日本のマスコミに火が点いたように思います。つまり大手のマスコミ先行型の報道であれば格別、そうでないケースでは、この「起爆剤」がなければ、現代においても企業不祥事が大きく報じられることはむずかしいのでは・・・といった印象を持っております。よく「昔と違って不祥事は隠しきれない時代になった。だから自浄能力を発揮して、自ら進んで公表しましょう」と言いますが、いざ内部告発者を支援する立場に立ってみると、(良い悪いは別としまして)いまでも企業側が「火消し」に成功する機会も結構あるような気がしています。

11月 2, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (21) | トラックバック (0)

2011年10月17日 (月)

オリンパス社社長解職騒動にみる「評価」と「事実」の説明責任

(17日午前:追記あります)

日曜日のお昼のWSJ(日本版:有料会員向け)が第一報だったと思いますが、オリンパス社の社長解職騒動のご本人である元社長さん(ウッドフォード氏)のインタビュー記事が報じられております。(ちなみに産経新聞ニュースはこちら)解任(解職)した日本の取締役会を代表して、会長さんが「どうも外国人社長の指揮は日本の組織風土に合わなかった。社長は組織の信頼を失った」と記者会見をされ、マスコミ各社も日本の会長さんへのインタビューをもとに記事を作っておられました。たとえば読売新聞では、

「独断専横的な経営判断でものごとが進み、経営陣とも組織の齟齬(そご)が発生した」。後任社長を兼務する会長(70)は、解職理由を説明した。

と報じられています。そこでは、元社長さんと他の取締役との間で、どのようなやりとりがあったのか、事実が語られているわけではなく、社長さんに対する評価に関する発言が目立ったものでした。

しかし、本日の元社長さんのフィナンシャルタイムズ社によるインタビュー記事は、会長さんの会見での内容とずいぶんと異なるトーンであります。こういったインタビュー記事が登場することは、オリンパス社でも予想はされていなかったのでしょうか?オリンパス社のM&Aにおけるコンサルタント報酬の支払いが不透明であり、何に使ったのかわからない、不適切な支出があったのではないかと問題視していたそうであります。解職される直前には、元社長は会長さんに「ガバナンスに重大な問題がある」として、辞任を迫った、ということもWSJが報じていました(有料会員向けなので、一部しか閲覧できませんが、こちらの記事です)。また元社長が個人的に調査を依頼した監査法人も問題視していたことを述べておられ、これらは紛れもなく「事実」に関する指摘であります。具体性がありますので、元社長さんの言い分の方が真実だと受け取られる可能性は高いと思われます。(深夜に報じられた毎日新聞ニュースはこちら

この騒動の構図に近いのが九電のやらせメール事件ではないでしょうか。第三者委員会は県知事と九電との具体的な事実を適示して、九電と佐賀県知事との親密な関係、またやらせメール事件の引き金になったのは県知事の指示である、という評価を下しました。いっぽうの九電側は、すべて九電のコンプライアンス意識の欠如、企業風土の問題であるとして、もっとも肝心なところでは「事実」には触れず、「評価」をもってやらせメールの原因と断定し、最終報告としました。勝手な野次馬が風説を流布しているのであれば無視するのが一番かもしれませんが、やはり九電ご自身が選任された第三者委員会が公式に確定した事実がある以上、この事実をどう受け止めるのか、もし否定されるのであれば、その根拠はどこにあるのか、これを説明しなければ、やはり説明責任を尽くしたとはいえないと思われます。九電に対するものではありませんが「佐賀県知事が指示を否定するのであれば、知事も第三者にきちんと調査をさせて、報告書を出せばよい。それをせずにただ否定するのは何も反論できない証拠である」と第三者委員会の委員長が述べておられたのも、同様の趣旨ではないかと。

先のオリンパス社の事例にしましても、たしかに一方当事者のお話ではありますが、まがりなりにもこれまでオリンパス社の代表者の方の指摘した「事実」でありますので、この事実を真実と受け止めるのか、否定されるのか、やはり根拠事実を示してオリンパス社側としても説明する必要があるのではないでしょうか。説明を回避する方法としては、第三者委員会(社内調査委員会に外部委員が関与するものも含む)を設置して詳細な事実調査を委ねるか、もしくはすでに行政当局による調査が開始されているがゆえに回答を控えるか、いずれかしか選択肢はないものと思われます。

コンプライアンス経営に関する「事実」が元社長から公表されたわけですから、オリンパス社の企業価値に関わる問題ですし、マスコミ向けというよりも、一般株主向けに真実を説明すべき責任があるように思います。一方から「事実」が出てきた以上、もう一方のオリンパス社も「事実」を指摘し、最終的に「評価」をするのは株主であり、投資家であると考えます。

17日午前 追記

今朝のブルームバーグニュースでは、もっと詳細な記事が掲載されております。元社長が解職された3日前(10月14日)に、PWC作成による報告書がオリンパス社幹部のもとへ届いていたようです。このままでは行政当局の調査対象となるおそれがある、とのこと。(ニュースはこちら

本日、オリンパス社の株価はストップ安だそうですが、これはずいぶんと大きな問題に発展するのではないでしょうか。とりあえず、日本のマスコミも今朝は一斉に報じておられるようなので、会社側の対応を見守りたいと思います。とりあえず日本企業全体のガバナンスへの信頼が毀損されることがないように願っております。

10月 17, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (6) | トラックバック (0)

2011年10月13日 (木)

どうなる?ゲオ社のガバナンス(速報版)

(13日深夜:追記あります)

すでにご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、本日のゲオ社臨時株主総会にて、株主側より提案されておりました定款変更議案(取締役の任期2年→1年)、および社外取締役5名の選任議案が、いずれも賛成多数で可決されております(可決要件を満たしているかどうかは昨日までに判明していたのでしょうね)。これでゲオ社は取締役が12名となり、うち5名が検察OBの弁護士、会計士等を含む社外取締役で構成されることになりました。(リリースはこちら

記者さんからお聞きしましたが、「紛糾必至」と言われていた臨時総会でしたが、わずか20分程度で終了、株主からの質問数も6問程度、ということで、実際に総会に出席された方々にとってはちょっと物足りなかったのかもしれません。かくいう私も、以前のエントリーで述べておりましたとおり、本日、ゲオ社における「不明朗取引」(と、一部で主張されていた事実)に関する監査役会報告が出されるのでは?と期待をしておりました。しかし、残念ながら、本日までに調査が間に合わず、後日報告します、ということになったようであります。

今後、代表者がどうなるのかは、取締役会で決まることになると思いますが、いずれにせよ、取締役の任期が1年とされたうえで、12名中5名が社外取締役・・・・というのは上場企業でもかなり珍しいですし、その顔ぶれを拝見しましても、子会社を含むゲオ社グループのコンプライアンス体制の構築という意味では十分に期待できるのではないでしょうか。とくに子会社における不適切な取引を早期に発見できる体制作りが第三者委員会によって喫緊の「再発防止策」とされておりましたので、そういった体制整備、整備された体制の運用状況については透明性の高い審査がなされるのではないかと。また、社内に未だ眠っているような過去の不明朗な問題などが存在するのであれば、そういった調査活動などもなされるかもしれません。

ゲオ社のガバナンスが今後どうなるのか、注目したいと思います。とりいそぎ、速報版で失礼します。

13日深夜:追記

ゲオの臨時株主総会に出席されたZaimaxさんのブログに詳細が報じられておりますので、ご興味のある方はそちらをご覧になることをお勧めします。企業さんにとって、Zaimaxさんのような100社以上の単位株を保有する株主様については、いろいろとご意見もあるかもしれませんが(失礼があればごめんなさいです<m(__)m>)、当日出席株主の票数が重要な場合に配られる出席票と、前日までの議決権行使によって、すでに議案の賛否が決せられている場合の出席票とでは、内容が異なることなど、会社法を学ぶ者にとりましても、株主総会運営実務の勉強になり有益かと思います(先日も申し上げましたとおり、「大物与党総会屋」さんも登場するあたりも面白い)。

10月 13, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年9月22日 (木)

大王製紙会長辞任のナゾ(ガバナンス上の問題というけれど・・・)

あらかじめ申し上げておきますが、私は大王製紙社関係者のどなたかの肩を持つもの、もしくは非難をするものではなく、上場企業のコーポレートガバナンス研究に関心のある者として、本件を取り上げるにすぎないものであることをお断りしておきます(そこまで前置きしなければならないほどのエントリーでもないかもしれませんが・・・・・笑)。

一昨日は7%も株価が下落した大王製紙さんでしたが、大王製紙社(東証1部)の創業家(元)会長さんの「消えた84億円」「エリエールより軽い1万円札」に関する週刊文春記事を読みました。そして、本日週刊誌が発売されるのと同時に、大王製紙社から「特別調査委員会設置のお知らせ」がリリースされました。リリースによりますと、これまでに判明した事実として、23年3月末時点で、連結子会社2社から元会長に対する貸付金(短期)の残高は24億円だったそうであります。その後、23年4月~9月までに60億円が新たに貸し付けられ、一部返済がなされた後、現在残高は55億円とのこと。また、特別調査委員会のメンバーから一部疑義が出て、社内の執行役員の代わりに、独立性の高い委員が選任されたようです(毎日新聞ニュースより)。

文春の記事では、元会長さんの交遊関係やカジノ好きに関する話題が中心ですが、たしかに派手な生活がお好きだったとしても、本当に一個人が短期間に84億円ものお金を「遊興費」につぎ込めるのでしょうか?私の「あまりにも庶民的な感覚」からしますと、いくらなんでも半年やそこらの間に50億も60億もの大金を遊興として使い果たせるものではないと思うのでありますが。。。私も4年前にマカオのSunsで(ごくごく僅かなお小遣いで)遊びましたが、そこから察するに「ド派手な遊び」とはいえ、そこそこ遊ぶのには時間がかかると思いますので、株取引で大損するのとはわけが違うように思います。たとえカジノの「VIPルーム」の常連さんだとしても、使えるお金には限度があるはずです(現に、この文春の記事を真実だとしても、カジノのために社内から流出した金額は20億円ということです)。今後84億円のグループ会社資金の使途が特別調査委員会の調査によって判明するのであれば、遊興費のほかに、何か特別の目的で使われた可能性が高いのではないか・・・と推測するのでありますが、いかがなものでしょうか。この点、9月7日に社長宛に内部通報があったとのことですが、この通報者に果たして調査委員会のメンバーが接触できるのかどうか、興味深いところです。

ところで、

「どうしてこんな大金が代表者個人に流れていたにもかかわらず、内部通報がなされるまで他の役員は見抜けなかったのか、それとも(うすうす他の役員も知ってはいたが)創業家社長(会長)に対して誰も物が言えなかったのではなかったのか」

との疑問が、自然と湧くところであります。いわゆる「ガバナンス上の問題」と言われるところです。

大王製紙の役員さんや監査人の方を擁護するわけではありませんが、50以上もある連結子会社の資金の流れを、親会社の役員がすべて把握していることは現実問題として困難なので、そんな簡単に子会社から元会長への資金流出を問題視することはできなかったのではないでしょうか。親会社の取締役が、子会社における不正(もしくはルール違反)にどこまで目を光らせることができるかといいますと、これはかなり難しいのではないかと。また、「創業家に物が言えない」としても、少なくとも3名の非常勤社外監査役の方々の耳に入っていたとすると、「この短期貸付金とは何ですか、会長?」と問いただされることは間違いないのでは(・・・と信じたいです。。。自己契約について、きちんと子会社の手続がなされているかどうかは、確認しないと自己の善管注意義務違反にもつながりますよね。)つまり、当初の記者発表にあるとおり、本当に親会社の取締役、監査役らにとって、この事実は「寝耳に水」であって、9月に調査をしたうえで、初めて知った可能性もあるのではないか、と思うところであります。

しかしながら、先日のエントリーへ何名かの方がコメントされていたように、23年3月末の時点で(少なくとも)23億5000万円が関連会社から元会長個人に「短期貸付金」として資金が流れていることは会社自身も(本年6月末の時点で)有価証券報告書で公表しております。ということは、開示業務の担当者はこの事実を認識していることになりますし、「そこまで読んでいなかった」という理由があるかもしれませんが、決算役員会では、この報告書(案)が、全ての取締役、監査役が事前に配布されていますので、やはり「知らなかった」では通らないような気もいたします。(この連結子会社が「重要な拠点」であるならば、監査法人さんも注目していたはずであります。)

ここでひとつ気になるのが、この6月の株主総会での役員改選の結果です。大王製紙社には、総会前は18名の取締役さんがいらっしゃったのですが、総会後は14名となり、それまで取締役だった方のうち7名が総会時に退任されています(つまり、3名は新任の取締役がいらっしゃいます)。退任された役員のなかには、人事担当の副社長さんだった方もおられます。また残った11名のなかでも、降格となった方が4名おられます。つまり、総会前の取締役18名のうち、退任・降格となった方が11名ということですから、かなり大きな組織力学が働いた結果ではないかと推認されます。23年3月期は業績が悪化したことも原因かもしれませんが、組織内部での人間関係の軋みのようなものがあったのでは、そして内部通報は、この「軋み」と無関係ではないのでは・・・と考えるのは邪推でしょうか?

こういった難しい事件の特別調査委員会の委員に就任される方々は心労が重なるだろうなあと思います。刑事責任追及の根拠になるかもしれず、かといって創業家一族に甘い結論となると、今度は現取締役・監査役の「見逃し責任」追及の根拠となってしまうかもしれず、はたまた「とんでもない使途」が発覚してしまうかもしれず、灰色認定で「シロ」を「クロ」と認定してよいかどうかもわからず、そしてなんといっても、疑惑の創業家元会長さん、内部通報者へのヒアリングができるかどうかもわからず・・・・・・・ストレスが溜まりっぱなしになってしまいそうです。

9月 22, 2011 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (11) | トラックバック (0)

2010年12月12日 (日)

サンコー社、創業家社長解任劇の行方はいかに・・・

あの和製ウォーレン・バフェットと称される竹田和平氏も今年株式をたくさん買い増ししておられる(買い支えしておられる?)長野県のデジタル家電部品メーカー「サンコー」(東証二部)さんで、社長解任劇が起きたそうであります(時事通信ニュースはこちら)。社長の独断経営をこのまま許していては、優秀な人材の社外流出を食い止められないばかりか、3期連続赤字を免れない、との(取締役らの)切実な思いから・・・だそうであります。

代表取締役の異動および役員の異動に関するお知らせ

新しく代表者に就任された方が、今年5月に「経営サポーター」として入社しておられるので、(ニュースでも若干報じられているとおり)もう半年ほど前から他の取締役らによる「退任要求」は通告されていたようです。したがいまして三越岡田社長解任劇のような「ある日突然」のドラマチックな場面が繰り広げられた・・・というわけではないようであります。

ただ素朴な疑問として、昨日の取締役会における社長解任(代表取締役の解職→取締役としては残る)によって、新社長が誕生したわけでありますが、解任された元社長さんは、このまま黙っておられるのでしょうか?この方は創業家一族であり、資産管理会社を含めると、サンコー社の(議決権ベースで)過半数の株式を保有しておられます。(50,12%)親会社の決算に関する資料を拝見すると、元社長と奥様で、資産管理会社の100%の株式を保有しておられますので、普通は「社長(大株主)の意思でなんとでもなる」上場会社、ということになりそうです。来年の定時株主総会で株主提案権を行使すれば、(定款上の取締役数の上限次第では、いろいろと手法が変わってくることにはなりますが)また自分が社長に返り咲くこともできることになります。

紳士的な対応・・・ということも考えられるかもしれませんが、それならば半年間も「辞めろ」「辞めない」を繰り返して最後は解任・・・という結末との整合性がとれないようですし、元社長による反撃、取締役らによる第三者割当増資・・・といった今後の展開なども予想されるのではないでしょうか。ひとつ気になりますのが、社長解任とともに、ナンバー2だった常務さんが新体制において降格されていることであります。このあたりの人間模様が実はポイントだったりするかもしれません。(もちろん、これは私の勝手な推測であり、投資判断に影響を及ぼすほどのお話ではございませんのでご了解ください。あくまでもガバナンスに関する興味からの推測であります)今後、ゴタゴタが続くのか、それとも既になんらかのパワーバランスが出来上がっていて、このまま新体制のもとで3期連続赤字回避のための全社挙げての取り組みが進むのか、今後の株価の変動とともに、ちょっと注目してみたいところであります。

12月 12, 2010 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (3) | トラックバック (0)

2010年11月 4日 (木)

いま、社外取締役に求められる独立性とは?(関西企業に社外取締役は必要か?)

Shagaitori002_4 いまから3年半ほど前、旬刊商事法務1796号(2007年4月5日号)に「監査役制度改造論」という論文が発表され、そこでは「監査役兼務取締役制度の創設」が立法論、政策論として提唱されました。当ブログでも「監査役を兼務する取締役」という、あまりにも唐突な提案に衝撃を受けたことをエントリーにいたしましたが、この論文はその後、多方面で議論の対象となりました。

そして今、「監査役兼務取締役制度」にかなり近い構想が、法制審議会のなかで「監査・監督委員会制度」といった名のもとに事務当局から提案され、監査役が監査役業務を行いながら取締役会で議決権を行使する「独立社外取締役」の地位を兼務することが真剣な議論の俎上に上っております(詳しくは法制審議会会社法部会第5回議事録をご覧ください)。上記論文で提示された監査役と取締役との職制の整理、現行法(監査役会設置会社と委員会設置会社からの選択)との連続性、理論としての問題点など、3年半前に指摘されていた問題点が、いま改めて社外取締役導入の是非にあたって論議されております。社外取締役制度導入論争の「ひとつの着地点」を模索するにあたって、上記論文が果たしてきた役割が大きかったことを改めて感じるところであります(もちろん、今後も活発が議論が予想されますので、その方向性は未知数でありますが)。

このような時期に誠にタイムリーではありますが、上記論文の著者でもあり、経産省企業統治研究会委員でもいらっしゃる大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)や各界の有識者・企業家の方々をお迎えし、大阪弁護士会2階ホールにおきまして、「いま、社外取締役に求められる独立性とは~関西企業に社外取締役は必要か~」という公開シンポジウムを開催することになりました(上の案内チラシをクリックしていただくとポップアップにて詳細はご覧になれます)。関西経済同友会さん、大阪証券取引所さんの後援事業となっておりますので、今週もしくは来週にはそれぞれ会員企業の皆様のところへも、メールにてお知らせが参る予定になっておりますし、またそろそろ各HPでもご覧いただけるものと思います。また共催団体である大阪弁護士会、日本公認会計士協会近畿会の会員の皆さまにも、CPE(継続研修制度)の適格認定をいただきましたので、研修制度の一環として広くご参加いただけることとなりました。

後半のシンポ(討論の部)は、パネリストとして大杉先生のほかに、ニッセンホールディングス社長の片山氏、大阪証券取引所副社長の藤倉氏、社外取締役ネットワークの田村代表を迎え、東京とは「一味違った」関西企業の視点からの「社外取締役制度導入論」「社外取締役に求められる独立性」「ホントに社外取締役って必要なのか?」「入れたいとこだけ入れたらええがな~♪」というホットな話題を(法制審の議論を横目で見ながらも)コテコテの関西のノリで語り合おう・・・という企画であります。ニッセンHD社(本社:京都市)は、すでに社外取締役が半数という役員会をすでに3年以上経験されておられます(日経ビジネス誌3月8日号の「社外取締役制度特集号」に登場されていらっしゃいます)。またご承知のとおり、大証さんは「独立役員届出制度」の運用で、いろいろとご苦労されておられます。大杉先生もひょっとするとコテコテの関西人(姫路市ご出身)の片鱗をみせていただけるかもしれません(笑)。ただ当日は投資家や経済団体の方のご意見なども踏まえ、賛否両論いろいろな角度から問題点を語りたいと思っております。東京でのシンポのようにスマートに議論をしても、おそらく関西の皆様にはウケないと思います。せめて司会者だけでも、関西企業の目線でわかりやすく討議を進めるように努力しなければなりません。ちなみにシンポの司会(モデレーター)は私です。大手の法律事務所所属ではございませんので、シャベリにシバリはございませんよ(笑)ホンネで自由に質問させていただきます♪。「悪役」はひとりで背負う覚悟ですのでご期待ください。(でも、弁護士会の会長、副会長と所属委員会の委員長の指示だけはしたがいますので・・・(^^;; )

関西人は、東京の人たちを「ええカッコしい」と表現いたします。「ほんで、なんぼマケてもらえますのん?」「それで、ナンボもうかりますのん?」と言って憚らない関西商人は、きわめて形にこだわらず、ホンネ(実利)で勝負いたします(すこし大げさな表現ですが)。社外取締役制度の導入にあたっても、東京では「立法事実が見当たらない」と表現されるかもしれませんが、「それいれて、ナンボもうかりますのん?」の世界かと思います。それにもまして、「このまえJ-SOX入れたばっかりやないの。ほんで、今度はIFRSやろ?もう堪忍してえなぁ~~(苦笑)」あたりがホンネかと。。。このたびの企画について、関西の経済界の方々にご相談するたびに(私は)ボコボコにされ、「よ~し、今日はこのくらいにしといたろ!」(吉本新喜劇の池乃めだかさん風に)。それでも気を取り直して、なんとか企画を実現できるところまで参った次第です。(ご協力いただきました皆様に感謝!)

日時は 12月8日(水)午後2時から5時までです。各種お申し込みの方法がございますが、同友会、大証参加企業以外の方で、「あの有名なおおすぎ先生の講演が聴きたい」、「いま議論されている社外取締役制度を知りたい」、もしくは「コワイもの見たさ」で(笑)、聴講をご希望の方は、NPO法人全国社外取締役ネットワークのHPからお申し込みいただけますと幸いです。(参加は無料ですが、事前のお申し込みが必要となりますので宜しくお願いいたします)一応700名まで収容できる大ホールなので大丈夫かとは思いますが、もし参加希望者が多い場合にはごめんなさいです。<m(__)m>

11月 4, 2010 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年4月27日 (火)

「独立役員」とコーポレート・ガバナンスの関係(再考)

本日(4月26日)の日経新聞「法務インサイド」の記事には少し驚きました。証券取引所の規則により、全ての上場会社が「独立役員」の選任を義務付けられ、3月31日までに選任状況を取引所に届出ることが必要となりましたが、約15%の企業が「未確保」「条件付き選任」として届出がなされた状況にある、と報じられております(なお、選任が義務付けられる、といいましても、義務違反へのペナルティは2011年の定時株主総会終了時までは猶予されております)。多くてもせいぜい5%程度かと思っておりましたので、15%とは予想外でした。

各企業の届出状況は、たとえば東証の場合、WEB上で公表されておりますので、どこの企業がどのような方を独立役員として選任したのか、条件付きか否か、また選任された方の「独立性」が客観的、合理的に理解しうる理由をもって説明されているのか、といったあたりを閲覧することができます。たしかにメインバンクや大株主出身の方を独立役員として条件付きで選任している企業が多いことが判明いたします。記事では、独立性を示す客観的な根拠がないとして、取引所から「突っ返された」ケースもあるとか。独立性に疑いがある場合に求められる理由付け、というものも、けっこう証券取引所から厳しくチェックされるのですね。取引所が厳格な対応をとることは「最新-東証の上場制度整備の解説」のなかでも示されておりますので(同書54~55頁)、ある程度は予想されていたのでありますが、上記記事で著名な弁護士の方が述べておられるように「会社法でも上場ルールでも、今後は役員の独立性への要求水準は厳しくなる一方だろう」と思われます。

Dokurituyakuin001 ところで、ここまで厳格に要求される社外役員の「独立性」要件でありますが、以前から「独立役員」に選任された社外役員の善管注意義務などに影響はないのだろうか、といった疑問を呈しておりました。当ブログにお越しの常連の皆様のご意見としては、会社法上の社外役員(社外取締役、社外監査役)に求められる法的義務への影響はない、というのが大勢のご意見だったように記憶しております(また、証券取引所による解説、たとえば平成22年3月31日付け「独立役員に期待される役割」(東証上場制度整備懇談会)でも、とくに独立役員に就任したからといって、会社法上の法的責任が重くなるわけではない、と解説されております)。

結局のところ、上図のように独立役員制度をどのようにガバナンス上で位置づけるべきか?を考えるにあたり、「期待される役割を果たす」ことへのインセンティブとしては、右側の開示規制的な発想で考えるべきなんでしょうね。独立役員の存在およびその独立性の根拠を示すことで、株主の投資行動や共益権行使の実効性を高め、(その結果として)一般株主の利益に配慮した独立役員の行動を担保する、ということだと思われます。

なお、会社法で求められる法的義務以上の権利・義務は「独立役員」には求められない、とする説明ですが、(最終的には裁判所の判断が出てみなければわかりませんが)これもいろいろと考えてみるのですが、どうもよく理解できません。たとえば社外監査役たる独立役員の場合、監査役の「任務懈怠」を判断するにあたり、まず法が求める監査役の行動については会社法および政省令の解釈によって規範的な評価をもって定立されるものであります。しかしながら、監査役は大きな会社でも3名から5名、専任スタッフは1名ないしゼロ、常勤監査役は1名ないし2名というのが通常であり、海外子会社を含め、わずか数名の監査役によって法の求める監査を遂行することは困難であります。実際に「できないことまで法は作為を要求しない」のでありますから、「できる範囲」を検討することになります。ここで作為義務(監視義務)を論じるにあたり、独立役員たる社外監査役と、そうでない社外監査役とを比較して、「社内の業務執行部門との連携体制の不備」といった事実が当該監査役の「任務懈怠」という評価に及ぼす影響度は同じなのでしょうか?

また、たとえば蛇の目ミシン株主代表訴訟では、取締役の善管注意義務違反を検討するにあたり「期待可能性」なる概念が問題となりました。会社もしくは取締役個人に対して不当な脅迫がなされた時点で、脅迫者に経済的利益を付与した行動は「脅迫を受けた取締役らにとって、適法な行動に出ることの期待可能性がなかった」とか、「それでもなお警察に届け出るなど、適法な行動に出ることは可能であった」といった法的評価が、高裁や最高裁でなされました。ここにいうところの「期待可能性」でありますが、たとえば独立役員には一般株主の利益保護のための行動が期待されているのですから、他の社外役員と比較して、独立役員たる社外役員には、適法な行動に出るべき「期待可能性」が高い、という法的判断はなされないのでしょうか?もちろん、抽象的なものではなく、具体的な事情を十分に斟酌したうえでの「期待可能性」の認定が必要ではありますが。もし期待可能性が高い、といった判断がありうるのであれば、やはり独立役員だけが特に重い法的責任を負担する余地は十分にあるように思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

4月 27, 2010 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年12月25日 (金)

東証ルール「独立役員」の独立性とその善管注意義務との関係

12月24日、東京証券取引所のWEBサイトに業務規程の一部改正及び(5年ぶりの)上場会社コーポレート・ガバナンス原則の改正がリリースされております。今回の諸改訂は、すでにエントリーのなかでもご紹介いたしましたが、「上場制度整備の実行計画2009(速やかに実施する事項」の具体的な実施ルールとして規定されたものであります。施行は本年12月30日とのこと。なかでも、「ビジネス法務」2010年2月号(中央経済社)にて東証に出向されていた弁護士の方がお書きになっているとおり、「独立役員」(独立性要件を満たした社外取締役・社外監査役)確保の要請につきましては、その違反についてペナルティが設けられておりますので(ただし1年余りの猶予期間あり)、役員候補者の確保に向けた今後の各上場会社の対応が注目されるところであります。

「一般株主との利益相反が生じるおそれのない程度の独立性」が求められておりますので、ある事実が発生した場合だけ、社内での意思決定から排除される、ということでは足りず、たとえ明確に利益相反状況が発生していなくても、発生するおそれがある以上は独立役員に求められる独立性に問題あり、ということになるのでしょうね。とりわけ東証1部の上場子会社における独立取締役などは、その8割が独立性に問題があるとされておりますので、こういった上場子会社の場合、この証券取引所ルールに対してどのように対応するのでしょうか。

もちろん、金融庁スタディグループ報告書(2009年6月17日)や経産省企業統治研究会報告書(前同日)でも問題とされたように、ガバナンス改正によるパフォーマンス向上のためには、社外役員の独立性を厳格に求める立場とは別に、業務に精通した外部の者による指揮監督の有効性を求める立場もありうる、とされておりますので、多少外観上の独立性には問題があっても、(取引所との事前相談の末)独立役員にふさわしいということであれば、就任することは可能のようであります。ただし、その場合には、独立性要件に問題があっても、なお独立役員として就任する理由をコーポレート・ガバナンス報告書に記載しなければなりません。この理由というのはどのようなものなんでしょうか?「外観上は問題がありそうだけど、○○の理由で一般株主とは利益相反のおそれが生じない」とする理由なのでしょうか、それとも「独立性には外観上問題はあるものの(つまり利益相反のおそれは認められるものの)、うちの会社の事情については精通しており、代表者でもその意見には傾聴せざるをえない立場なので、独立役員にふさわしい」といった理由なのでしょうか。取引所が独立性に問題あり、とするのは親会社の「元業務執行者」も含まれておりますし、また先に掲げた報告書の内容などからすると後者だと思われますが、いずれにしましても、利益相反が生じる可能性というのは、当該会社に対してコントロールを及ぼす立場からの問題(たとえば親会社の業務執行者が就任するケース)と、当該会社からコントロールを受ける立場からの問題(たとえば顧問法律事務所に所属する弁護士)がありますので、独立役員候補者の立場ごとに、それぞれ適切な理由が検討される必要がありそうですね。

ただ今後の課題として、独立役員の指定理由を記載しなければならないような方が独立役員に就任する場合、その方の法的責任については何らかの影響は出ないのでしょうか?たとえば社外監査役に弁護士や会計士が就任しているケースでは、その高度な法的知識や経験、財務会計的知見を有する者として、当然のことながら(もちろんある特定の事項に限られますが)一般の監査役に要求されるレベルよりも高度な注意義務が法的に課されていると思われます。(したがって、常勤監査役には過失はないが、非常勤社外監査役には過失が認められる、という事態は当然に考えられます)これと同じく、たとえば社外監査役や社外取締役に、業界事情に精通しており、経営判断に大いに資するような方、という理由で独立役員を選任する場合、一般の取締役や監査役よりもレベルの高い注意義務というのは、この独立役員の方々に課されるようなことにはならないのでしょうか?これまでも同様の理由で社外役員を選任してきた会社も多いかとは思いますが、やはり「独立性要件」が明確になり、また要件を満たさない場合の説明が求められるようになる以上は、社外役員にプロフェッショナルとしての素養が求められる人達も出てくるように思われます。一般株主との利益相反状況を排除することに多少問題があっても、「この人なら会社のことを熟知していて、なおかつその経営判断に期待できる」という理由で役員に選任した、ということであれば、ガバナンス向上のためには、原則どおりに投資家の投資判断や株主の議決権行使にゆだねるべきなのか、それとも投資判断を超えて、善管注意義務(法的責任論)で実効性を確保すべきなのか、そのあたりも検討に値する課題ではないかと考えますが、いかがなものでしょうか。

12月 25, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年5月26日 (火)

閉ざされたガバナンス論議・・・その結末は?

(26日夕方 追記あります)

昨年の10月ころから、企業統治研究会(経産省)および我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ(金融庁)における審議経過をとても楽しみにしておりましたが、ここのところ、議事録・議事要旨に関する更新が途絶えております。(とくに経産省企業統治研究会については、3月25日開催分の議事要旨が2カ月経過しても公開されておりません)たしかいずれの会合も、6月頃にとりまとめを行う予定だったはずですが、せめて審議の状況だけでも公開をしていただきたいと強く願っております。

5月26日は企業統治研究会、そして翌27日は金融庁スタディグループの会合が開催される予定でありますが、もう大方の流れは決しているのでしょうかね?結局のところ、今回は大きな変革もなく、問題点の指摘にとどめるようなとりまとめ案が作成されて終わり?ということになるのでしょうか。(当ブログへお越しの常連の皆様も、たしかこのあたりはご意見が分かれていたように記憶しておりますが)本日(5月25日)の日経夕刊一面記事でも輸出企業を中心に大幅に外国人持ち株比率が低下している、と報じられ、外国人持ち株比率の低下に伴って、(経営監視が弱まり)企業統治の改善が期待できなくなることへの懸念がニッセイ基礎研究所の研究員の方より表明されておりましたが、このあたりの影響もあるのかもしれませんね。

そういえば企業法務の剛腕弁護士の方がオバマ政権下で次期駐日大使となる予定だそうですが(5月20日の日経新聞記事によると、日本政府としては「想定外の人事」だったようであります)企業金融やガバナンスに詳しい方だそうで、「ガバナンス問題への新たな黒船」がやってくることになるのかどうか・・・・・

(26日夕方 追記)日経ニュースで(経産省は)社外取締役導入義務化への推進策が見送られることになった、と報じられております。やっぱり・・・というところでしょうか。ただ「これに代わる独自の経営監視制度」とはいったいどのようなイメージなんでしょうか?

5月 26, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年4月30日 (木)

組織ぐるみの粉飾決算(そのとき社外取締役、監査役は?)

GWに突入いたしましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。(おそらく30日は普段のアクセス数よりもかなり減っているのではないかと予想しております。)また、月曜日の代表取締役の解任動議に関するエントリーには、非常に有益なご意見を頂戴しまして、どうもありがとうございました。m(__)m さて、社外取締役や監査役などが「蚊帳の外」に置かれるのは、なにも社長解任動議の場合だけではなく、たとえば社長をはじめ、社内取締役が長年隠ぺいしてきた粉飾決算が明るみに出た場合でも同様ではないかと思いまして、以下のような疑問点を検討しているところであります。

昨今の社外取締役や監査役制度に関するガバナンス論議のなかで、(もし今後社外取締役制度導入が拡大されたり、監査役の権限強化がはかられるとするならば)会社法上、もう少し検討しておかなければならない問題があると思っております。昨年4月、ナナボシの民事再生管財人から提訴された会計監査人(だった)トーマツさんは、すでにご承知のとおり、第一審(大阪地裁)において会計監査上の見逃し責任(損害賠償責任)があると認定されたものでありますが、その際、会社自身の過失を8割として「過失相殺」の抗弁が認められております。(たとえば会計監査人の過失と因果関係のある損害額が1億円と認定された場合、過失相殺8割であれば最終的には2000万円の賠償命令が出されることになります)ところで、上場会社と会計監査人とは、いわば準委任契約上の委託者と受託者の関係にあるわけですが、社外取締役や監査役も、同様に会社との関係では委任契約たる法的地位にあります。だとするならば、会計監査人と同様、たとえば粉飾決算発生後に民事再生管財人から役員の責任を問われたり、事件後に新たに代表者に就任した者から損害賠償請求の訴えを提起された場合に、「私たちは蚊帳の外であって、騙されたほうである。したがって、たとえ他の取締役らとともに善管注意義務違反の責任があるとしても、組織ぐるみの粉飾は旧社長以下社内取締役らの関与のもとで行われたものであるから、8割の過失相殺を主張する」といった抗弁は成り立つのでしょうか?

まあ、こういった事態が想定されるからこそ、社外役員については責任限定制度が会社法上でもうけられているわけでありますが、3年ほど前に、当ブログでもとりあげさせていただきました某教授のご見解を前提とするならば、たとえ社外役員が責任限定契約によって、責任範囲が定められていても、役員の責任というのは、連帯債務たる性質を有するものであるから、たとえば高額の賠償債務を履行した取締役(監査法人でもいいですが)が、今度は(取締役間における公平な負担を目的として)求償債権を行使する場合、その支払済の取締役(もしくは監査法人)に対しては、責任限定契約による債務限定の抗弁は主張できない、ということになってしまいます。(私はいまでも、この見解には反対の意見でありますが)しかし、組織ぐるみの粉飾決算というケースでは、役員の立場からみて、①粉飾を主導していた役員、②粉飾決算が行われていることを知りつつ、これを放置していた役員、③粉飾決算が行われていることすら知らなかった役員の三つに分類されると思います。とりわけ今後社外取締役制度を拡張して導入するようになるのであれば、まさに③の粉飾決算が行われていることすら知らなかった社外取締役・・・という方々も、おそらく増えてくるんじゃないでしょうか。

たしかに会計監査人と社外取締役・監査役とでは、会社の機関性という点からみて差があるように思えますが、実際、蛇の目ミシン差戻控訴審においては、蛇の目の元役員の側から過失相殺に関する主張が提出されておりましたし(裁判所はこれを認容しておりませんが)、下級審ではありますが、過去(旧商法時代)にも、役員の過失相殺を認容した判例が4件ほど報告されております。(WEB上で閲覧できるものとして「早稲田商学第388号」で紹介されております。)それぞれの判例では、過失相殺を認容すべき事情が異なっておりますが、平成17年会社法のもとでも、昨今の社外取締役や監査役に期待されているところからすれば、少なくとも粉飾を主導していた役員や、見て見ぬふりをしていた役員と、それ以外の役員とでは、たとえ連帯債務の関係にあるとはいえ、善管注意義務と因果関係のある損害について、同様の損害額が認められるというのもちょっと違和感を感じます。ただ、いっぽうにおきまして、内部統制構築義務に着目しますと、粉飾決算を知らなかった役員とはいえ、モニタリング機能が期待されている立場にあったのだから、きちんと粉飾決算を未然防止もしくは早期発見できるような体制整備(もしくは整備への関心)を怠りながら、知らなかったということだけで損害額が限定されるのはおかしいのではないか・・・という議論もあるようですから、このあたりは安易に過失相殺の主張を認めるべきではない、といった方向性を基礎付ける理屈なのかもしれません。いずれにしましても、岩手銀行さんの役員会でのゴタゴタを拝見するにあたり、不祥事から若干距離を置いていた役員の方々がいらっしゃるようなケースにあっては、会計監査人の過失相殺の抗弁に近い扱いがあっても、あながち不合理とはいえないように思います。

4月 30, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年4月27日 (月)

代表取締役に対する解任動議(そのとき社外取締役、監査役は?)

4月23日に岩手銀行の代表取締役会長の方が、取締役会で解任動議(正確には解職動議-会社法362条2項3号参照)により、任期2か月(定時株主総会は6月21日)を残して代表取締役たる地位を解職された、とのことであります。(取締役会決議ですので、代表取締役たる地位の解職に関するものであり、取締役たる地位は残ります。なお、いろいろな新聞で報じられておりますが、こちらのニュースが詳細に報じておられるようです)取締役12名のうち、会長さんと議長さん(会長に代わって議長を務められた専務の方)を除く10名による決議において、社内取締役である6名が解職に賛成、社外取締役4名は白票(白票というのは、賛否をはっきり明示しなかった、ということでしょうね)を投じたことにより、解職が決議されたものであります。岩手銀行さんのHPでは、代表取締役異動に関する簡潔なリリースが出ているだけであり、なにゆえこの時期に代表取締役会長さんの解職決議が行われたのか、という点については、どうもいまひとつ、その真意がわからないようであります。

ちなみに代表者の解任動議ドラマといいますと、1982年9月の三越事件(岡田社長解任→非常勤取締役)が有名でありますが、三越事件では、取締役会において議決権を行使できない者として、解任動議の対象となっていた社長のみが「特別利害関係人」として議決権を行使できないとされ、社長に代わって議長を務めていた専務の方は反対の議決権を行使していたものと記憶しております。このたびの岩手銀行さんの場合も、解職動議が提出され、議長交代がなされ、専務さんが議長に就任されたわけでありますが、この議長を務められた専務の方が議決権を行使されなかったのはなぜでしょうか?岩手銀行さんの「取締役会規程」については閲覧しておりませんので具体的な規約の存在は不明でありますが、普通は議長も議決権を行使するのではないかと思いますが、議決権行使者の過半数が会議に出席していることは明らかなので、特別利害関係役員を除く11名のうち、過半数(6名)の賛成票が投じられた時点で、もはや議決権を行使する必要性がなくなったと解釈すればいいのでしょうかね?(このあたりは基本的なところで私の思い違いがあるかもしれませんので、ご指摘いただけますと幸いです)

さて、マスコミ報道を読みましても、また法律家の一般的な感覚からしても、あたりまえのように「代表者の解職動議が出された場合には、その解職対象の代表者は会社法369条2項の特別利害関係人に該当するので、議決に加わることはできないし、また議決に向けての審理にも参加することはできない」と言われております。反対有力説はあるものの、これが通説であり、また最高裁の判例も同様の考え方のようですね(最高裁判例昭和44年3月28日民集23巻3号645ページ等)。そもそも取締役は、株主総会における株主とは異なり、会社との関係で忠実義務、善管注意義務を負っていますので、自らの利益よりも会社の利益を優先的に図るべく行動しなければならないので、取締役会決議の場においては資本多数決原則は妥当せず、自らの利益よりも会社利益を優先させることが期待できないような取締役の行動(たとえば競業取引や利益相反取引に関する会社の承認決議)については、その問題(議案)に限り、議決権行使はできないこととされており、これが特別利害関係人による議決権行使を排除する条項の趣旨とされております。そして、代表取締役の選定に関する決議の場合には、その候補者も議決権を行使できるけれども、解職に関する場面においては議決権を行使できないともいわれております。

たしかに、これまでの日本企業における取締役会の在り方(ほぼすべての取締役が社内取締役であり、業務執行を兼務している)からすれば、こういった代表者解任動議のドラマが展開されるケースでは、「社長派VS専務派」とか「会長派VS社長派」といった対立となり、いわば取締役会を構成する役員間の「根回し」によってドラマが決着するものと思われます。しかしながら、今回の岩手銀行さんの件においては、社外取締役4名が(報道によりますと)「まったく聞いてないよ」「きょう決議をするのは時期尚早では」(たとえばこちらのニュース)といった声が上がったということでありまして、また休憩3回をはさみ、夕方まで長時間に及ぶ会議となったそうでありますから、これまでの解任劇とはちょっと異なる場面が展開されたようであります。(三越事件の際にも社外取締役の方がいらっしゃいましたが、この方はむしろドラマを主導されていたメインバンクの方でして、当然のことながら16対0の議決権行使結果に影響を与えておられますが、今回の4名の社外取締役の方々はどうも情報からは遠いところにいらっしゃったようですね。むしろ、反対派に近いところにいらっしゃったということなのかもしれません)

岩手銀行さんのように、役員の3分の1を社外取締役さんが占めるような取締役会の場合、こういった代表者解職動議というものは、これまでと同様に行いうるものなのでしょうか?おそらくこれからも同様の場面というのは一般の企業においても想定されると思うのでありますが、いきなり代表者解職の動議が出され、議長が交代する・・・という場面において、業務執行にも関与していないような社外の方々は「え?聞いてないよ?なんなのこれ?」といった状況になるでしょうし、示し合わせていた社内取締役の方は「いいから、みなさんは黙っていてください」ということで過半数賛成決議で押し切ってしまう、という事態・・・、これってガバナンスの実効性という意味においては正常な姿と言えるのでしょうかね?そもそも会長さんが代表権を持つということは、執行部に対する牽制機能でしょうし、また社外取締役さんが4名も就任しておられるのも(監督官庁からのご指導かもしれませんが)同様だと思いますが、そういった牽制機能は無視された形での解職動議ということが適正なのかどうか。社外取締役の方々も、会社との間においては忠実義務、善管注意義務を負うものですし、とりわけ株主共同利益の実現に向けて、株主の方々への説明義務を負っている立場にあるわけですから、まじめに考えますと、会長を共同代表者として残しておくべきか、社長ひとりを代表者として組織体制を変えるべきか十分検討する必要があろうかと思われます。これは株主や取締役には、決議に基づく措置に関する違法行為差止め請求権があるから、といった理由では済まされない問題だと思います。

社外取締役を導入した取締役会を念頭に置いた場合、はたしてこれまでの通説判例のように、代表者解職動議を受けた代表者は「特別利害関係人」として当然に排除すべきなのでしょうか。「会長さんと社長さんとどちらが代表者としてふさわしいのか」といった問題を、真剣に社外取締役が検討するにあたっては、動議が出された場においても解職動議の対象とされている代表者からも十分に意見を聞く必要があるでしょうし、また、動議を出したほうからも十分にその理由を聞く必要があるでしょう。また、審理の場に解職の対象者が立ち会って、自分が代表者としてふさわしい、と意見を述べるのであれば、その代表者自身に解職動議に関する議決権を付与することもあながちおかしいとは言えないはずであります。(そもそも、判例・通説は、代表者解職における代表者の地位は「特別利害関係人」にあたるが、候補者として選定される場合には、その候補者は「特別利害関係人」にはあたらない、としていますが、これを区別する理由が理屈のうえでどうもよくわからないところがあります。候補者として名前が挙がった時点において、すくなくとも自己の利益よりも会社の利益を優先することが期待できるかどうかは、解職動議を受けた代表者の場合とそれほど変わらないと思うのでありますが。)

こういった会長さんの代表者解職動議に至る経緯というのは、(単なる推測ではありますが)対外的な活動だけでなく、人事問題などにも微妙に会長さんの影響が及んでいることへの現経営陣らの不満のようなものもあったのではないかと思いますし、一般企業と違い、監督官庁が控える金融機関のガバナンスという特殊事情もあるかもしれませんので、それなりに解職動議の必要性についても首肯しうるところもありますが、この社外取締役4名が白票を投じた(棄権した)・・・というニュースに触れて、どうもすんなりと納得できないところがありましたので、私的な疑問として記したような次第であります。また、おそらくこの解職動議がだされた取締役会には4名の監査役さんがご出席されていたかと思いますが、監査役さん方は、今回の解職動議にあたって、どのような立場にいらっしゃったのか、たいへん興味があります。なにかご意見を言われたのかどうか、こういった解職動議が出されることについての事前情報に触れておられたのかどうか、今回の解職動議の手続きについては、適法性の面からみてどのように感じておられたのかどうか、お聞きしてみたいところであります。

4月 27, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (6) | トラックバック (0)

2009年4月20日 (月)

経団連のコーポレート・ガバナンス提言(中間整理)の立ち位置

4月初めに日本監査役協会は、有識者懇談会報告書を公表し、また4月15日の日経・読売新聞報道によりますと、もうすぐ(4月中でしょうか)東証「上場制度整備懇談会」が株式上場制度見直し案等を公表するとのこと、さらに金融庁SG(我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ)の議論も白熱してきており(3月18日の第20回議事録も公開されていますが、非常におもしろい)、経産省企業統治研究会のとりまとめも注目されるところであります。

そのような中におきまして、経団連も4月14日「提言・より良いコーポレート・ガバナンスをめざして(主要論点の中間整理)」を公表されておりますので、内容を拝見いたしました。内部統制を勉強している立場からしますと、以下のような印象を持ちました。つまり、より良いコーポレート・ガバナンスを構築するということは、企業の不正行為の防止ならびに競争力・収益力の向上という二つの視点を総合的に捉えて、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みをいかに構築するかという問題でありますが、いま多くの有識者による会議で議論されていることは、ガバナンスの構築を整備と運用に分けるとすれば「整備」(いわゆるガバナンスの仕組み)に関わる問題でありますが、そもそもこれまで整備してきたものの「運用」についての評価をしなければ、今後の実効性ある整備についても議論ができないのではないか、といった問題提起をされているように思われます。たとえば社外監査役制度の導入問題や独立性要件強化に関する問題については、監査役制度の運用に関する検討が先ではないかとか、インセンティブのねじれ問題についても、会社法の改正よりも現実の企業社会において、監査役が期待されている権利を期待どおりに行使するためにはどうすべきか、ということを考えることが先決ではないか、といった問題の捉え方であります。

要するに、こんなご時勢なのだから、ガバナンスにコストをかけることを正当化するような議論は勘弁してよ、アメリカ型ガバナンスが優れているといったことは自信をもって言えないでしょう・・・という姿勢と受け取るのが正しいのかもしれませんが、内部統制的な視点からすれば、たしかにこういったご主張も当然に出てくるところではないかなぁといった印象を持ちました。ただそうなりますと、これまでに整備されてきたガバナンスが、期待どおりに運用されるに至ったのかどうか、という点について、(つまり運用の有効性について)誰が評価をするのか、ということが議論されるはずであります。株主を含む市場関係者や多様なステークホルダーによって判断されるべきである(最終的には市場による判断にゆだねるべきである)という考え方もあるかもしれませんが、①いまガバナンスが議論されているのは、各企業におけるより良いガバナンスの構築の議論を超えて、日本の資本市場が魅力あるものとなるために、上場企業全体としての「より良いガバナンスの構築の在り方」が求められているのではないか、②不正防止や競争力強化のためのガバナンスの仕組みと現実の企業価値の向上との因果関係について、どのような情報を株主ほかステークホルダーに開示すれば評価ができるのか、という点についての合意はできるのか、といった問題を乗り越えなければ説得的な意見が生まれてこないのではないか、と思われます。

たしかに東証一部の企業と、大証ヘラクレス上場企業に同じガバナンス規制をかける、ということになりますと、最近の内部統制報告制度への負担(費用対効果)などに鑑みましても、ちょっと現実的ではないと思われるところもありますが、エンフォースメントの在り方を考慮したうえで、「全上場企業を対象として、できるところから少しずつ変えていく」ことは必要なのではないでしょうか。そういった観点から、先日の日経・読売新聞で報道されておりました「第三者割当増資への上場ルールによる規制」については、その一歩になるものと思われます。この第三者割当増資のルール規制につきましては、有識者懇談会報告書においては「株主と経営執行との利害調整」の重要問題として、新たに大規模第三者割当増資問題への対応が提言されておりますが、先の経団連中間整理には、ほとんど具体的な問題提起はなされておりません。しかし、ガバナンスに関する議論を「最終的には市場の判断にゆだねるべきである」とするのであれば、社外取締役導入や独立性要件の強化、監査役と取締役との関係や議決権行使の方法等、ガバナンスのもっとも根幹に関わる議論を行うにあたっては「うるさい株主には退場してもらう」といった恣意が経営執行において働かないシステムが保障されることが当然の前提でありますので、この「株主と経営執行との利害調整」問題は(経団連中間整理の立場であっても)回避できない論点であるはずです。「できるところから少しずつ変えていく」ことが適切であるならば、やはり買収防衛策、大規模第三者割当増資、MBO等の取締役の利益相反行為規制、会社法上の内部統制問題などについて、開示、行動規範(上場廃止)、金商法ルール、訴訟を含めた会社法ルールなど、その実効性確保の在り方も含めてガバナンスの改正を進めていくべきではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

4月 20, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (1)

2009年4月 6日 (月)

シャルレ株主損害賠償請求訴訟がガバナンス論議に与える影響

4月3日は東京の海運会館で開催された日本内部統制研究学会主催の第一回公開セミナーに参加させていただきました。400名以上の会員や上場企業の関係者の皆様がお越しになられたようですが、ちょうど前日の午後7時に金融庁から「追加Q&A」が公表されたこともありまして、(まぁ、ご異論もあるかもしれませんが)タイミングの良いセミナーだったように思います。もちろん、この追加Q&Aに関連する内容の解説が中心となりました。このセミナーの件では、何点が興味深い論点解説がございましたので、また追って感想を書かせていただきます。

さて、前回エントリーで4月3日は、某所より重要なリリースが出るかも・・・と触れておりましたが、日本監査役協会のHPから「コーポレート・ガバナンスに関する有識者懇談会報告書」が公表されました。(ちなみに、監査役協会の理事会で一括して承認されたのでしょうか、ほかにも内部統制報告制度最終アンケート調査結果報告や、会計監査人との連携に関する実務指針、内部統制報告制度下における監査報告書作成の留意点など、監査役の方々には実務上極めて重要な報告が併せてリリースされております。全部目を通すだけでもかなりの時間を要しますね。)今後とりまとめが予想されます経産省企業統治研究会や金融庁スタディグループでの議論と同様、コーポレート・ガバナンスの在り方を検討するうえでは貴重な報告内容になっておりますので、(たいへん長いものですが)週末はこれをきちんと拝読させていただきました。

さらにもうひとつ、今後のコーポレート・ガバナンス論議に影響を与えそうなニュースが4月4日の日経新聞朝刊に掲載されておりました。もうすでにネット上でも報道されているようですが、シャルレの個人株主の方々が、MBOに失敗した同社の元社長と、(おそらく)社外取締役3名を相手として、TOB賛同表明直後の株価800円(TOB価格は800円)と、TOB結果報告直後の価格300円の差額について、損害を被った責任を追及する(損害賠償請求訴訟を提起する)方針を固めた、とのことであります。一般的にはMBO事案の場合には、少数株主による裁判として、MBO手続きを差し止めるか、MBO価格の不当性を主張して価格決定申立て(株式買取請求権行使)というのが連想されますが、今回はMBOの失敗の原因については、社外取締役を含む全取締役に違法行為があったとして失敗責任を追及する、というものですから、少数株主というよりも一般株主の被害に関する事件、と認識しております。

平成20年12月2日付けシャルレ社のリリース「当社株式に対する公開買付けに関する最終的な意見について」を読みますと、社外取締役3名の方々が「TOB賛同の意見表明」から「賛同できない、との意見表明」へと転じた経緯が詳細に述べられており、社内調査の結果を(新たに)斟酌したことや、意見訂正について法律実務家による支援を受けたことなど掲載されておりますので、それなりに社外取締役の方々の言い分もあるかとは思いますが、一方におきまして、原則として撤回ができないTOB(金融商品取引法27条の11第1項 もちろん、買付け予定数に満たない買付け希望数の場合には買付けを行わない条件はついておりますが)について、会社側がTOB賛同の意思表明を行った場合には、プレミアム価格あたりまで株価が上昇することは当然のことでありますので、TOBの成否を握る会社側の意見が急変するとなりますと、TOBが不成立となり、多額の損害を被る株主が出てくるのは当然に予想されるところであります。おそらくMBOという「構造的に利益相反状況にある」なかでの社外取締役の行動の適法性について、今後の裁判で争点になるものと思われますが、価格決定について、自身の利益相反が問題となる社内取締役の行動(これはレックスホールディングス事件の高裁判断が参考となりますが)ではなく、「委員会設置会社における社外取締役」というまさに株主の利益保護を純粋に検討することが期待される立場の方々の行動の是非(善管注意義務違反、忠実義務違反)が裁判上で問題とされる、というのは、おそらく初めてではないでしょうか。

裁判の予想などは、ちょっと差し控えさせていただきますが、このシャルレ株主損害賠償事件(5月上旬提訴予定)に関する報道を読んで、さきほどの有識者懇談会報告書で期待されている監査役の職務(妥当性監査への期待)を考えますと、「はたして、監査役はシャルレ型の損害賠償請求に耐えるだけの覚悟はあるか」といった感想を抱いてしましました。案件のシャルレ社の場合は委員会設置会社(なお、今度の定時総会で機関設計については変更される予定だそうですが)ですので監査役は存在しませんが、もし監査役設定会社であったとすると、同様の事案においては監査役がどのように行動すべきであったかが、問題になっていたかもしれません。上記「有識者懇談会報告書」におきましても、大規模第三者割当増資や買収防衛策の導入や発動への意見表明、会計監査人の選任や報酬決定、内部統制評価(財務報告に限られない)に関する監査役の積極的関与など、業務執行(経営判断)に関する意思形成過程への関与が前向きに提言されておりますが、翻って考えますと、監査役の職務が「妥当性監査」にも踏み込んでいくことになりますと、さきほどのシャルレ社の社外取締役同様、公正中立な立場で株主の利益のために行動することが期待されるがゆえに、一般株主に損害が発生したような場合には、その行動の是非が裁判において問われる可能性も高くなるのではないでしょうか。これは、粉飾決算が発覚した場合に監査役に問われるような「本来型の監査責任」とは、また違った意味で重大な問題ではないかと思います。監査役の方々の意識改革だけでなく、執行側の意識も変わっていかなければ、なかなか監査役の職務権限の積極的な行使というこが浸透していくことはないかもしれませんが、監査役のリーガルリスクが高まるのであれば、シャルレ社の社外取締役さん方のように、法律事務所等、リーガルサポートを要する場面も(とりわけ有事においては)不可欠になるのではないか、といった印象を(上記有識者懇談会報告書を読んで)強く感じたような次第であります。

4月 6, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (1) | トラックバック (0)

2009年3月27日 (金)

社外役員の「独立性」は時間軸(賞味期限)も考えるべきではないか?

内部統制報告書の第2号が出ましたね。監査意見はトーマツさんが出されているようです。(詳しくはEDINETでどうぞ)

さて最近、社外取締役、社外監査役の「独立性」要件についての議論がさかんに行われていますが、議事録などを拝見していても、「当該会社と、どの程度離れているか」といったことに議論が集中しており、「何年できるのか?」といったことについてはほとんど議論されていないように思います。会計士のローテーション制度などは、会計士の独立性との関係で「何年できるか?」ということが大いに議論されたにもかかわらず、社外役員の独立性に関する議論では、そういった社外役員の賞味期限について問題にされないのはなにか理由があるのでしょうか?

全国社外取締役ネットワークの関西勉強会に出席されていらっしゃる某社外取締役の方が、いつも「社外取締役というのは、何年もやってたらあかんね。会社のことがわかってくるけど、わかってくるにしたがって情がうつるね」とおっしゃるのを聞くたびに、「あぁ、そうなんやぁ。そんなもんなんやぁ」と(私は)頷いております。では、どれくらいの期間が社外取締役としての「賞味期限」なのかは、ちょっと私もまだわかりませんが。

そもそも期間が決まっているからこそ、遠慮なく自身の見識にしたがって意見を述べることができるのではないでしょうか。また、期間が決まっているからこそ、社外役員の人材の流動化、豊富化が促進されるのではないでしょうか。さらに、社外役員の流動化が促進されることではじめて、「社外役員が何をしたか」ということが、株主をはじめとするステークホルダーにおいて、その社外役員に関する開示内容に注目するようになるのではないでしょうか。

日本プロクシーガバナンス社編著による「議決権講師~みんなの議決権~」という冊子がありますが、これを読むと、日本プロクシー社の場合、社外監査役については二期8年を超えて就任する監査役については、その選任議案に一様に「反対」の助言をされるようです。8年でもかなり長いとは思いますが、社外取締役であればもっと短期間での交代ということも十分に独立性との関係から考慮に値すると思います。「独立性」要件を検討するにあたっては、こういった時間軸も含めて考慮されるような議論も、どこかで少しはなされたらいいのになぁと思う次第です。

3月 27, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年2月23日 (月)

2009年のコーポレートガバナンス論議の行方(素人的予想)

今年はいろいろな団体(組織)でコーポレートガバナンス改正に関する議論が交わされていることは皆様もすでにご承知のことと思います。そのなかでも、議論の進展が一番はっきりと公開されているのが金融庁「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」の討議内容ではないかと思いますが、とりあえず1月19日の会合まで、その議事録が公開されております。これまでの流れから今後のガバナンス改正の行方(ゆくえ)について無責任な感想を述べてみたいと思います。(こういったモノサシを提示してみるのも、今後の改正論議を理解するにあたっては役に立つのかもしれませんので。)

金融庁の資本市場SG(スタディ・グループ)でも、やはり経済産業省「企業統治研究会」と同様、社外取締役の導入義務化、独立性強化(要件厳格化)の傾斜が一番はっきりとしてきたように思います。なぜはっきりとしてきたか、と言いますと、社外取締役制度導入に向けての前提の議論が明確になってきたからであります。つまり、社外取締役制度の導入義務化に関しては、これまで①我が国特有の「監査役制度」によって代替できるではないか、という議論と②社外取締役制度を導入することによる企業のパフォーマンス向上は、これまでなんら実証されていないではないか、という議論であります。しかし、最近の議論を聞いておりますと、(1)実証手続は決め手にならない、そもそも悪い経営者が現われたときの暴走を抑制できるシステムとしてこそガバナンス改正は意味がある、(2)監査役制度は日本独特の制度であるからこそ、海外の投資家にはよくわからない、むしろ監視する者に取締役の選任、解任権が付与されていないことについて、海外では評価されないのであって、ガバナンス向上のための安定した制度とはいえない、といったところが社外取締役制度の導入義務化を推進する方々の有力なご意見のようです。(最近は、こういった社外取締役制度導入義務化を推進する方々の意見がかなり強くなってきたのではないかと思われます。)

こういった「社外取締役制度導入論への傾斜」が進むなかで、では(かりに社外取締役制度の独立性強化、導入義務化を進めるとした場合に)上場会社にどうやって導入していくのか(その実効性を確保していくのか)という次の論点がありまして、そこでは主に①会社法改正による、②金融商品取引法改正による、③証券取引所における自主ルール(企業行動規範)改訂による、④以上の改正方法の組み合わせによる、といったあたりの方策が考えられるところであります。そして、さきほどの金融庁SGの議事録などを読んでおりますと、メンバーの方々の発言記録などからしますと、上場企業のガバナンスにかかわる問題ゆえに、証券取引所における自主ルールによる実効性確保が妥当ではないか、との意見がかなり出ているようでありますが、当の取引所の方は、自主ルールで実効性を確保するよりも会社法の改正によって確保していくべきではないか、といった消極的なご意見を述べておられるようであります。(証券取引所が自主ルールによる実効性確保にかなり慎重な意見を述べておられるのは、やはり経済団体との関係からなんでしょうね)

しかし約4000社のうちの半分程度の上場企業では、社外取締役がまったく存在しないわけでありまして、(企業統治研究会の配布資料にあるように)いくら米国在日商工会議所による圧力が強いからといっても、社外取締役の導入義務化を企業行動規範によって実行する・・・というのは、かなり衝撃的な流れでありますので、どうも早急な実現はむずかしいところだと思われます。(たしかに真剣に検討されてはいるようですが・・・)そこで、とりあえずは会社法による改正や自主ルールによる改正のような、きわめて強制的なルールの導入ではなく、金融商品取引法による改正という手法が一番穏健な対応ではないかと思います。いわゆる「開示ルール」(社外取締役の人数および独立性に関する開示事項の追加と、ガイドラインに沿わない場合の説明義務)による社外取締役制度の導入の実効性確保であります。(自主規制ルールによる「ガバナンス報告書」の記載要領によることも考えられるかもしれませんが)

ただし、開示ルールによる実効性確保・・・というのも、それだけでは有効性に疑問が生じるかもしれません。そこで議決権行使を通じたガバナンスの発揮、という論点が組み合わされる可能性というのが出てくるのではないでしょうか。先日の金融庁SCでも議論された、と報じられておりますが、たとえば(2008年度の資生堂さんのように)株主総会における各議案の議決結果について、単に可決か否決かだけでなく、賛成・反対の票数まで公表することを、取引所ルール等で求めていくといったことを組み合わせることで、先の開示ルールによる実効性を担保する、ということであれば、徐々にではあるでしょうが、社外取締役制度の効果を検証しつつ、導入する方向へと向かうのではないかと思われます。「なんでもかんでも株主意思を問う」といった極端な株主権ガバナンスの偏重志向を「社外取締役制度」によって回避しつつも、一面において社外取締役の一斉導入義務化といった急進的なガバナンス改正にもブレーキをかける必要もありそうですし、その調和ラインをどこに求めるべきか、ということが今後のコーポレートガバナンス論議の大きなポイントになるように思われます。

2月 23, 2009 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年7月18日 (水)

最良の企業統治を考える

日本取締役協会の「企業にとって最良のガバナンスのあり方を考える委員会」の対談について日経ニュースで報じられております。企業の発展段階によってガバナンスの形態も変わる、とする報告書がまとめられた、とのことで、つまりは新興企業から成長企業、大企業へと推移するなかで、企業統治のベストプラクティスも変容する、ということなのでしょうか。

いま私自身、社外役員やリスク管理委員会委員として、数社の新規株式公開を目指す企業の実態を見せていただく機会がございますが、企業が順調に運営されている状況のなかで、企業統治のあり方を変える、というのはたいへん勇気のいることではないか、と思います。とりわけカリスマオーナーや、創業家が代表を務める企業におきましては、そのトップの考え方が余程柔軟なものでなければ、リスクを抱えてまで企業統治のあり方を変えようという気持ちにはならないのではないでしょうか。また、企業不祥事が発生した場合こそ、企業統治のあり方を変える契機になるのかもしれませんが、はたしてコンプライアンスリスクの顕在化がそれまでのガバナンスに起因することが証明できるものでもないと思われますし、これも検証することが難しい場合になろうかと思われます。独立社外取締役制度を導入したり、取締役相互間におけるけん制機能を強化したり、監査役、内部監査人などのモニタリング機能を充実させることも重要かとは思いますが、先日「簡易版COSOガイダンス」でもご紹介いたしましたとおり、創業家や新興企業オーナーなどのように、その権限が社内で絶大な権勢を誇っている企業こそ、内部通報制度(ヘルプライン)などの内部統制システムの整備によって違法行為の予防(もしくは早期発見)に尽力すべきであります。

むしろ、不祥事防止という面ではなく、パフォーマンスの向上といいますか、収益性、効率性向上のためのガバナンス構築という面から考えたほうが経営者に対するガバナンスへの関心を高め、ガバナンス改良への動機付けとしては有効ではないかと思われます。ただ、こちらのガバナンスの問題につきましては、単に企業の成長過程によって変容させればよい、といったものではなくて、たとえば間接金融のあり方とか、株主構成、株式持合い制度の風潮、ステークホルダー論など、企業を取り巻く経営環境への対応として変容させるべきものと認識しておりますので、はたして企業の発展段階によって変容させるべきものとのみ、捉えられるものなのかどうか、疑問に思うところがございます。なお、上記対談内容は18日の日経産業新聞で詳しく報じられているそうです。

7月 18, 2007 最良のコーポレート・ガバナンスとは? | | コメント (0) | トラックバック (1)