2018年7月13日 (金)

監査役会等の活動状況は開示できても実効性評価はむずかしい

近時の企業統治改革の流れに沿って、6月28日には金融審議会「ディスクロージャーWG報告」、そして7月5日には企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」が、相次いで公表されました。記述情報(非財務情報)を盛り込んだ有価証券報告書の深化、投資家との建設的な対話を促進するための情報の信頼性向上を図ることについては、市場の活性化、信頼性確保のためには不可欠な取組みだと思います。

ただ、これらの開示規範の中に、会社法上の機関である監査役等、監査役会等の役割と責任についてもかなり盛り込まれています。一見しますと、会社法で規制すべき監査役等の行為規範が、金商法で上乗せ規制されているのではないか・・・との疑問も湧きますが、とりあえず当局の考え方は「あくまでも会社法上の監査役等の職務権限の範囲で役割と責任を明記したものであり、監査役等に新たな法的義務を課したものではない」とのこと。私も、そのように読みたいと思います(ちなみに2021年3月期から施行予定のKAM記載は、あくまでも金商法監査に関するものであり、会社法監査については追って検討する、とのこと)。

ところで、金融審議会のWG報告書の16~17ページあたりを読みますと、監査役会等の活動の実効性を判断する観点から、監査役会等の活動状況の記載を求める・・・とあります。この(開示すべき)活動状況には、業務監査に加えて、会計監査のための会計監査人との連携や選解任に関する審議状況なども含むものと考えられます。エフオーアイ事件やセイクレスト事件の判決などを読むと、監査役に本来期待されている監査業務が誠実に履行されていなければ善管注意義務違反として監査役等の法的責任が認められておりますので、監査役等が誠実に職務を履行していることを対外的に示すためには監査役会等の活動状況を開示することにも一定の意味はあろうかと思われます。

しかし、それが果たして監査役会等の実効性評価につながるか・・・といえば疑問です(取締役会の実効性評価に立ち会うことが増える中で、最近、このような疑問を感じるようになりました)。ひごろ多くの会社の監査役(監査役会)のご相談を受けている立場からみれば、監査役会等の実効性は個々の監査役の力量(及び力量に伴う行動)に左右されるものであり、いくら会議体としての活動が開示されても個々の監査役の実効性は開示されないからです。

また、そもそも監査役が会社を救う実例に何度か遭遇しましたが、それは会社も監査役会も対外的には開示することに消極的なケースばかりであり、「当該企業の監査役、監査役会は果たして企業に問題があった場合に機能するのかどうか」という点こそ「実効性」の重要なポイントであるにもかかわらず、積極的に開示することにはなじみません。このあたりをきちんと整理をしないと、監査役会等の実行性評価は投資家をミスリーディングしてしまわないか・・・との懸念が残ります。

以前、私は(取締役会の実効性評価と同様に)監査役会も実効性評価をすべきではないか・・・と申し上げました。監査機能が充実していることを株主、投資家に示すべき、という視点からは今も考えに変わりはありませんが、世間から期待されているような「不正を暴く」といった意味で「実効性」の有無を捉えるのであれば、その評価結果を開示することは至難の業だと思います。したがって、まず監査役会等の実効性評価を行うのであれば、「実効性」とは、監査役がどのような役割を果たすことへの「実効性」を評価するのか、そこを各社で定義する必要があると考えます。

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2016年8月29日 (月)

自社監査役監査基準に注意義務のレベル表示を付する企業登場

8月25日、26日と、毎年恒例の日本監査役協会主催の夏期合宿(通称長浜合宿)に参加しました。琵琶湖畔長浜での夏期合宿は、もう30年以上続いている伝統のある行事です。「参加」といいましても、(研修を受けるほうではなく)全体講演の講師、2年目研修チームの講師として、ということですが、毎年楽しみにしているのは、夜の懇親会です。190社の監査役の皆様が一同に会しての立食パーティですが、多くの企業の監査役実務をお聴きできる「またとない機会」でして、とりわけ今年は取締役監査等委員の方、女性監査役の方の参加が急増していたのが特徴的でした。またガバナンス・コードが「トレーニング」に触れているせいか、社外監査役の方も多く参加されていましたね(頭が下がります)。

なかでも某会社では、今年から自社の監査役監査基準に1~5までのレベル感を表示しているそうです。「これは絶対にやらねばならない」「これは原則としてやらねばならない」「これはできる範囲でやるべき」「時間があればやるべき」等々。昨年、日本監査役協会が策定している監査役監査基準にレベル感が表示されるようになりまして、レベル1、レベル2と規定されている項目のみ自社監査役基準に盛り込む・・・といった会社はありましたが、すべて取り込んで、なおかつレベル表示まで(監査役協会の基準を参考にして)自社基準に付する会社さんは、あまり聞いたことがありません。

ここまで読んでピンときた監査役さんもいらっしゃるかもしれません。そうです。あのセイクレスト事件大阪高裁判決を意識した行動です。取締役に対して社長の暴走を防止すべき内部統制構築を勧告する義務、社長を解任するための臨時株主総会を開催することを取締役に勧告する義務などが認められたセイクレスト事件判決(今年2月に最高裁で不受理決定)ですが、なぜこんなキビシイ義務が監査役さんに認められたかというと、自社の監査役監査基準や内部統制システムの監査基準等に、そういった行動規範が盛り込まれていたからだ・・・という意見も出ているところでして、この判決をもとに自社の監査役監査基準を(たとえば日本監査役協会のモデル基準でレベル1と2と表示されている条項のみ自社に取り入れる等)見直している会社も多いようです。

そこで某社では、「そんな判決が出たんじゃたまらない。でも、だからといって後ろ向きの自社基準を作ったって監査役としての仕事がおもしろくない。だったら、ベストプラクティスとしての監査基準を策定する中で、自社の監査役監査基準にも、善管注意義務の判断基準の元になるレベルを自分たちで決めて、それを明記しておこうではないか」ということで、基準へのレベル感の表示に至ったようです。私個人のセイクレスト事件判決の見方としては、決して自社の監査役監査基準の規定ぶりが決め手になったのではないと解釈していますが、なかなか前向きな監査役さんもいらっしゃるなぁと感心いたしました。

また、別の監査役さんからは、三菱自動車工業さんの燃費偽装事件に関する第三者委員会報告書に対する詳細な感想をお聴きし、似たようなご経験をされたこともあり、かなり三菱自動車さんに同情的な意見を拝聴いたしました。これも「なるほど」と思わせる内容でしたので、またあらためて別のエントリーでご紹介させていただきます。いずれにしても、現役の監査役さんからナマの監査実務をお聴きすることはたいへん有益でして、今後も機会があればまた夏期合宿に参加させていただきたいと思いました(参加された監査役の皆様、どうもお疲れ様でした)。

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2014年9月17日 (水)

イオンの「監査役育成アカデミー」は企業価値を向上させるか?

9月13日の日経電子版に、コーポレート・ガバナンスに関連する少々驚きのニュースが掲載されていました。流通大手のイオンさんが、監査役候補者を社内で育成する機関「イオン監査役アカデミー」を設置する、とのことです。アカデミーを修了した幹部人材の方々は、海外を含め260社以上ある子会社の監査役に順次配置されるそうです。アカデミー受講者は、財務・経理、人事、顧客サービスなど各部署から部次長クラスの社員を毎年10人以上選抜し、外部から講師を招き、週末を利用して1年間で100時間強の授業を受けてもらうとのこと。修了後はグループ会社の常勤監査役に就任させる、と報じられています。

企業グループ全体のレピュテーションを毀損するような企業不祥事は、グループ内の子会社で発生するケースが多く、たとえば4年前に不適切な会計処理が子会社で発生した近鉄さんが、大幅に子会社の常勤監査役さんを増やすということもありましたが(朝日新聞ニュースはこちらです)、年間100時間を超える研修によって常勤監査役さんを子会社に設置する、という試みは、これまであまり聞いたことがありません。

もちろん日経の記事にあるように、「グループとして監査役の機能を強化し、子会社が自律的に法令順守や不祥事防止に取り組むよう促す」ということが主たる目的だと思いますが、やはり会社法改正の影響が、ここにも出ているように思います。企業集団内部統制が法文化され、親会社による子会社管理が強化される傾向が出てくるのでは・・・、といった流れから、即戦力となる常勤監査役さんを、幹部候補から抜粋・育成し、いわゆる「キャリアパス」の一環に位置づけようとされているのではないかと推測します。そしてもうひとつ、会社法改正によって親会社・兄弟会社の「支配人その他の使用人」は子会社(兄弟会社)の社外監査役に就任することができなくなります(会社法2条15号ハ 参照)。これまで親会社の幹部社員の方々が、グループ子会社の非常勤監査役に就任していたケースも多いわけですが、改正によって兼任に制限が生じますので、こちらの対策も必要になります。

リスク管理の視点からすると、こういった監査役育成プログラムは不正リスクを低減するものとして、グループとしての企業価値向上に貢献するものと予想されます。ただ、当ブログでも何度かご紹介した「ずる-嘘のごまかしの行動経済学」(ダン・アリエリー著)の中に登場する「カギの効用」で説明したように、いくらガバナンスの仕組みを整えたとしても、本気で不正をやろうとする者の不正行為を未然に防止することは至難の業です。むしろ、社員の98%を占める「ふだんは誠実だが、誘惑があると不誠実に走ってしまう『まじめな社員』」が、不誠実に走ってしまわないように「性弱説」に立った監査活動こそ、ここで期待されるものと言えるのではないでしょうか。

「安全」は外から見えませんが「安心」は外から判断することができます。リスク管理の巧拙は、本来は組織の品質管理に依拠するものですが、企業不祥事が発生しているのか、していないのか、その組織の現在価値を外から判断することはできません。したがって、リスク管理の巧拙は、「将来、その組織において不正が発生した場合、これを早めに止めることができるのか」といった将来価値をもって判断せざるをえません。多くの子会社に常勤監査役さんが増えれば、またグループ全体として「監査役連絡協議会」のようなものが出来て、子会社不正を親会社が早期に発見できる機能も高まるでしょう。このような監査役育成アカデミーは、まさに「将来価値」に関わるものであり、企業の自浄能力が求められている昨今、企業価値の向上に資するものになると考えています。

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2014年9月 8日 (月)

コーポレートガバナンス・コードにおける監査役制度の位置づけ

当ブログの論客のおひとりでいらっしゃる「いたさん」から、先週の日本内部統制研究学会に対する厳しいご意見をコメント欄でいただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。ご指摘のとおりで、たくさんの監査役さん(監査役OBの方も含め)にお越しいただいたにもかかわらず、またガバナンス改革というテーマであったにもかかわらず、監査役さんへの期待についてほとんど触れずじまいだったこと、たいへん反省をしております。すべて仕切り役だった私の責任です。

そのぶん(まったく関係はありませんが)、第2回の金融庁・コーポレートガバナンス有識者会議(コーポレートガバナンスコード策定のための会合です)では、コードにおける監査役の記述に関してかなり盛り上がったそうです(ロイターの記事はこちらです)。経済界や投資家から「日本の監査役の役割はわかりにくい、そもそもきちんと活用されていない」との意見が出されたそうで、序文に監査役の役割を記述したり、丁寧に説明することが要望されていた、とのこと。

監査役の職務(権利と義務)は、会社法で定められていますので、その内容を超えて「期待される役割」をコードに書き込むというのは、かなりむずかしいのでしょうね。もちろん事業戦略に意見を述べ、妥当性監査ということまで積極的に行っておられる監査役さんもいらっしゃいますが、中小の上場会社では、そこまで期待できないところも多いと思います。最近ではセイクレスト事件判決やニイウスコー事件判決のように、日本監査役協会が策定した監査基準をもとに監査役の善管注意義務違反の有無を判断する事例などもみられるので、強制力のないガバナンスコードといえども、監査役の職務について詳細に記述されてしまうことの「気持ち悪さ」みたいなものはあるかもしれません。記述にあたっては、仕組み(監査と監督の区別)と機能(どういった目的のために何をすべきか)をしっかり分けて議論しなければいけませんね。

あと、上記有識者会議では、監査役(会)設置会社と対比して(会社法改正で新た認められる)監査等委員会設置会社について話題に上っていたようです。私はあいかわらず監査等委員会設置会社への移行には懐疑的でありまして、監査等委員である取締役さんのリーガルリスクは監査役に比べてかなり高いように思っているのですが、あまりそのあたりには関心が向けられてないようです。個人的意見の詳細は、また講演等でお話しますが、上記のセイクレスト事件第一審判決(監査役の法的責任認容)、昨年の愛知高速交通事件第一審判決(いま債権法改正で話題となっている身元保証法5条に関連した監査役の過失認定)、少し古いですが平成18年の青森住宅供給公社事件(いわゆる「アニータ事件」ですね)第一審判決(監事の責任を否定)などを参考にしますと、監査等委員たる取締役の内部統制構築義務違反(構築指摘義務違反)が、そのまま「任務懈怠」と認定されやすいように思います。

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2013年9月 6日 (金)

会社法の視点による「親子会社規制」と監査役監査

昨日(9月4日)、伝統ある産業経理協会にて監査役さん向けの講演をさせていただきました。当研究会にお招きいただいたのは初めてでしたが、もう40年近くの歴史のある監査役さんの研究会(正式には監査役業務研究会)ということで、250名ほどの監査役の方々がお越しになられてビックリしました。コメンテーターも酒巻俊雄先生が務められて、伝統を感じる研修会でした(コーディネーターは、同じ大阪弁護士会の村中徹先生が務められたので、少し安心できました)。

親子会社規律と企業集団内部統制に関する講演だったのですが、講演の冒頭で申し上げましたとおり、監査役の皆様方が研究されるテーマとしては、最近話題の海外リスクと並んで、かなりハイレベルなものではないかと思っています。

まず、このテーマは論じる方の立ち位置によって、いろんな切り口があります。たまたま私は弁護士という立場なので会社法という視点から語るわけですが、コンサルタント的な立場の方からすると、取引法(企業間契約)という視点から語る方もいらっしゃいますし、また経営者の方であればマネジメント(投資-独立当事者間取引か否か)という視点から語ることになるのではないかと思います。監査役さんは、いずれのタイプの方々とも業務上で接することになるわけで、頭が混乱しないだろうか・・・と思ってしまうわけです。なので、昨日は、まず会社法に基づくお話、という視点を明確にするところからお話させていただきました。

つぎに、ミクロの視点とマクロの視点がありますよね。ミクロの視点とは、会社法上は親子会社といえども別々の法人格がありますし、それぞれに会社の機関があるわけで、これを無視して法律的なお話はできないのです。しかし、経済実態的にとらえれば、企業グループというひとつの完結した組織が存在するわけですから、その実態に沿った形で株主や債権者保護を考えないと妥当な結論が導き出せません。そこで、このバランスをとることを、親会社取締役の行為規範とどう結び付けるのか・・・というところが難問です。

そしてもうひとつは、企業経営の効率性の問題でして、これは私が社外取締役をしていて、最も配慮しなければならない点だと思っています。大きな企業として経営したほうが効率的なのか、それともリスクを分散して分社化したほうが効率的なのか、機関投資家に説明するにはとても重要な視点なのです。とりわけ海外の機関投資家には「日本の会社法ではこうなってるから」という説明は通用しないので、理屈(論理)と数と倫理で企業価値の向上に合致するガバナンスを説明しなければなりません。いわば内部組織的にみたらどうか、グループ間取引の視点からみればシナジーが発揮できるか、というあたりの問題です。

監査役さんは、取締役の職務執行を監視・検証する立場にあるので、取締役の善管注意義務の履行としてのグループ会社経営の執行に配慮するわけですが、どうしても二つ目、三つ目の視点も法解釈の中に顔を出してくるわけで、このあたりは「審議される事項ごとに親会社取締役の指揮監督権を重視する場面や、子会社取締役の裁量に任せる場面などを検討せざるをえないのではないか」とお伝えせざるをえませんでした。(答えになっているのか、なっていないのか、ちょっとわかりませんが・・・・すみません<m(__)m>)。企業集団内部統制についての関心が高まっているところですが、企業集団内部統制を考えるにあたっても、同様の配慮が必要なのが「親子会社規制」のむずかしいところではないでしょうか。

なお、酒巻先生から、平成2年の商法改正のころの、とくに企業会計審議会と法制審議会の様々なやりとりについて、たいへん興味深い話をお聴きすることができました。そのころの法と会計の融和(対立?)に関する問題を理解する参考資料などもわかりましたので、また資料にあたった後に別途エントリーでご紹介したいと思います。

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2013年5月24日 (金)

監査役の意見表明が期待される場面-ベリテ社の株主提案

昨年からガバナンス上の混乱が継続していたと思われるベリテ社ですが、5月23日のリリースにおきまして、議決権の過半数を保有する株主より①常勤監査役の解任議案、および②現常勤監査役解任決議が可決されることを条件としての新たな監査役選任議案が提出されることが明らかにされています。そして、この株主提案に対して会社側が「取締役会の意見」として、賛同意見を付記しておられます。ちなみに①の解任理由としては、

2012 年3月19 日に開始された調査委員会による調査及びその対応等により、当社に少なからず損失及び混乱が生じたところ、監査役による業務監査が日ごろから適切に遂行されていれば、かかる事態を防止することは十分に可能だったと思料されることから、当社監査役大竹章彦氏は常勤監査役として適任でないと判断し、その解任を求める。

とされております。

昨年から会社側としては「常勤監査役の交代を検討します」と述べておられたと記憶しておりますので、今回のリリースは、昨年来の騒動の終局段階ではないかと推測いたします。株主提案による解任議案、選任議案なので、法律上はとくに議案上程にあたり監査役会の同意が必要、というわけではございません。

ただ、株主提案の理由としては「監査役会が調査委員会設置を決める等の行動によって会社の信用を毀損させたが、これは日ごろの業務監査が適切になされていれば防げたものである」とのこと。つまり監査役の監査に問題があったからこそ解任する、というものですが、取締役の不祥事の疑惑について調査を決定したのは常勤監査役さん個人ではなく、「監査役会」なので(たとえばこちらのリリース)、この解任議案については他の監査役さん方がどのように考えておられるのか、これはぜひとも意見をお聴きしてみたいところです。他の監査役さん方も、会社を混乱させたのは常勤監査役個人の監査の懈怠に起因するものと考えておられるのかどうか、これは一般株主にとっては重要なポイントではないでしょうか。

あのトライアイズ社の元監査役だったF氏は「監査役としての資質を欠く」と会社側から指摘され、裁判の末(和解という形ではありますが)訂正・謝罪公告を勝ち取りました。いわば「監査役が任務を怠った」という理由で解任されることは監査役にとっては屈辱であり、名誉にかかわる問題であります。また、(記憶違いで間違っていれば訂正いたしますが)監査役会が設置した第三者委員会の報告書については、(取締役会は当初、委員会活動に全面的に協力すると発表しながら)開示することを拒否し、別の第三者委員会を設置したように記憶しています。だとすると、会社の混乱を生ぜしめたことに取締役会も寄与しているもののようにも思われますので、常勤監査役の業務監査の懈怠と会社の混乱が、どのように結びつくのか、株主提案理由だけでは全く不明です。

監査役解任には特別決議を要するとはいえ、過半数の議決権を保有している株主さんの提案ですから、可決されることはかなり濃厚ではありますが、それでも多数の個人株主さんがいらっしゃる会社なので、会社側による監査役解任議案の上程との平仄を合せるためにも、そういった配慮が求められるように思います。株主総会の招集通知には当該常勤監査役さんの意見は表明される可能性がありますが、取締役会と監査役会が対立した事例であるがゆえに、こういったリリースの段階においても、取締役会の賛成意見と合せて、監査役会(または当該常勤監査役さん以外の監査役さん)の意見表明も開示していただけたらなぁと思うところです。

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2012年12月20日 (木)

「監査役の乱」ならぬ「監査役の権限濫用」?

来年早々にも出版予定の新刊書の原稿チェックに追われておりまして、あまりブログを更新する時間もないまま過ごしております。お寄せいただいている常連の皆様のコメントにも満足にご回答できず誠に申し訳ございません<m(__)m>。年末年始も原稿チェックが続きそうなので、もうしばらくお待ちいただければ幸いです。

(さてここから本題になりますが)3年ほど前、監査役が経営執行部と対立し、会社法上の監督権限を行使する企業紛争事例が目立ちました。当ブログでも、そういった事例をご紹介するたびに「監査役の乱」といったフレーズを用いて、マスコミや法務関係者の方々にも(そこそこ)ウケていたことを記憶しています。

ところが最近は「監査役の乱」というよりも、「監査役の権限濫用」といったほうがよいのではないか・・・と考えられる問題も発生していることが報じられています。本日(12月19日)にTDNETでリリースされておりますダイヤ通商さんの「不正調査委員会の終了に関するお知らせ」を読みますと、元監査役の善管注意義務違反の有無が委員会の調査対象となっていたようです。結論としては大株主と会社側が和解的解決を図ることができたため、調査委員会を続行する意味がなくなり、当該元監査役さんの職務執行の法的責任の有無は判断されずじまいになりました。ただし、同調査委員会からは「監査役は党派的な行動を慎み、特定の株主ではなく、株主共同利益の観点から、その職務を執行しなければならない」とのコメントが出されています。

この元監査役の方は、調査委員会設置に関するお知らせを読みますと、取締役会等に何等の報告もなく営業活動を行ったり、社内ルールに従わずに自社株式を市場で売却していたことが、そもそも監査役の職務として善管注意義務違反にあたるかどうか、が問題となっていたようです。大株主からの推薦で社外監査役として選任されていましたので、おそらく大株主の利益になる行動が目立っていたものと思われます。

実は同様の監査役の行動については、私自身も「噂」として耳に入ることもありますし、また最近発売された金融法務事情1958号の巻頭でも「監査役制度への過度の期待は禁物」とのテーマで、某著名な弁護士の方が、類似の「監査役リスク」を紹介されておられます。監査役の持つ監査権限は会社法の度重なる改正によって強大なものになっています(ただ、現実にはなかなか行使されないというだけのことでして)。もし、この監査役の目が取締役にではなく、大株主に向いている、ということになりますと、時として大株主の利益を最優先するために強大な権限が行使される、ということも十分に考えられるところです。たとえ権限が行使される、というほどのことでなくても、監査役であるがゆえに優先的に入手しえたビジネス情報を、大株主側に有利に活用してしまう、ということもありえます(これは監査役の忠実義務違反?)。

このたびの会社法改正の話題のなかで、親会社監査役が子会社の社外監査役に就任できなくなる、といったことが実務上で大きな影響を及ぼすものとされています。親会社の監査役であれば独立性に問題がないのだから、子会社の社外監査役に就任してもよいのでは・・・とも思えるのですが、いくら独立性があるとしても、親会社出身の社外監査役であれば、やはり親会社の利益を優先して子会社の監査活動を行ってしまうのではないか、との危惧が残りますので、そのあたりが「親会社監査役もダメ」となった趣旨ではないかと思われます。

もちろん監査役は非業務執行役員たる立場にありますので、自ら会社の業務執行に勤しむというのは監査役の権限の枠内では収まりきれない行動です。自らの権限行使に付随した職務執行であれば問題がないのですが、そもそもすべての株主の共同利益のために行動すべきなのですから、出身母体に有利な取引を画策する、ということになると善管注意義務に反する行動に該当することも十分に考えらると思います。問題は、だれがこういった監査役の権限濫用行動に待ったをかけることができるか、ということころかと。取締役の違法行為については監査役が指摘する立場にありますが、監査役が善管注意義務に反するおそれのある行動に出ている場合、仲間である監査役からの指摘がないと口に出して問題化する、ということがむずかしいのかもしれません。

監査役の権限が強化され、また実際にモノ言う監査役さんが増えれば増えるほど、今度は当該権限を「濫用」してしまう悩ましい事案も増えてくるようです。他にも同様の事案があれば、また過去に振り返って検証してみたいと思っています。

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2012年11月20日 (火)

常勤監査役による責任限定契約の締結は普及するか?

(11月20日午後 追記あります)

監査役の皆様向けに、11月28日に開催される岩原東大教授(会社法制部会長)の会社法改正要綱解説会は、あっという間に満席となり(日本監査役協会主催 1300名定員)、代わりにライブの模様を伝える上映会が2回に分けて別途開催されることになったそうです。ガバナンス関連の論点が中心となるそうですが、それにしても会社法改正への関心の高さはスゴイですね。

ところで監査役さん向け論点になろうかと思うのですが、会社法改正要綱のなかで、あまり議論になっていないところの問題が取締役・監査役の責任の一部免除(会社法427条1項 責任限定契約)に関する改正ではないかと。ご承知のこととは存じますが、取締役・監査役の任務懈怠による対会社責任が発生するような場合において、社外性要件が業務執行要件に変わり、とくに監査役の場合には(これまで社外監査役のみ認められていたものが)すべての監査役に責任限定契約が締結できることになる、というものです(現時点の会社法改正要綱を基準としています)。旬刊商事法務の岩原教授解説を拝読し、法制審の審議会議事録を再度見直しましたが、この論点についてはほとんど議論もされることなく、すんなりと要綱案として改正が盛り込まれているようです。

ただ、公表されているパブリックコメントには、理論的に筋が通っていると思われる反対意見もあります。改正理由としては、取締役の社外性要件が(改正によって)厳格化されることに伴い、これまで責任限定契約を締結できた人たちができなくなってしまう・・・ということが挙げられます。この理由は、経済団体からの強い意見を採り入れた、という政策的判断のもとではなんとか納得できそうですが、しかし監査役すべてに責任限定契約締結を認める理由にはなりません。中間試案の補足説明にあるように「自ら業務執行に関与せず、専ら経営に対する監査・監督を行うことが期待される者については、その責任が発生するリスクを自ら十分にコントロールすることができる立場にあるとは言えない」という理屈についても、業務執行取締役についても、自らの担当業務以外の会社業務については十分にリスクをコントロールすることができる立場とは言えないのではないか、とも思えるわけでして、説得力に欠けるように思います。※

※・・・なお、かならずしも社外監査役を置かなければならない会社の場合には、親会社監査役の方が、社外監査役に就任していたものを、非常勤社内監査役に改編することが検討されるので、そういった場合には監査役全般に責任限定契約を締結させる意味がある、というご意見もあります。しかし、私的には、これもあまり積極的な理由とは言えないように思います(11月20日追記)。

そういったことから、なんとなく積極的な改正理由が見つからない「監査役すべてについて責任限定契約の締結を認める」改正ですが、ともかく監査役さん方にとっては実務上の大きな課題になりそうな予感がいたします。果たして常勤監査役さん方にとって、この改正会社法が施行された場合には、定款を変更して責任限定契約を会社と締結する、という実務は定着するのでしょうか?

素直に考えますと、監査役さんが任務懈怠責任を問われにくくなる制度ということになりますので(ただし、最近は対第三者責任追及や金商法に基づく不法行為責任追及がなされるケースも増えていることに注意)、十分な監視・監督を行うインセンティブが機能しなくなってしまうのではないか、緊張感が欠けて怠けてしまうのではないか、との不安が出てきそうです。ただ、最近日経新聞にもご登場されましたトライアイズ社の元監査役F氏の「闘争の歴史」を振り返りますと、監査役が真剣に経営執行部と対峙した際、社長から「そんなことしたら会社として損害賠償請求するぞ」と威嚇される場面が何度もありました。「そんなことは監査役のやることではない。もしやるんだったら、あなたの個人資産がすべてなくなりますよ」と怒鳴られ、それでも株主総会開催の差止めや違法行為の差止めを裁判所に求めるには、監査役さんにかなりの勇気が必要です。おそらく監査役の立場からすれば、「自分が間違っていたらどうしよう」と逡巡し、会社法上の権限行使を控えるケースも出てくるのではないかと。

私の個人的な意見からしますと、そもそも監査役さんが会社法上の権限として行使されることが期待されているものについて、たとえ結果的に取締役の行動が違法だと認定されないものであったとしても、これを違法と指摘した監査役さんについては、合理的な理由がある限り任務懈怠などにはならないと考えています。しかし一般の監査役さんにとってみれば、不安がいっぱいになるのも無理からぬところがあり、違法行為を積極的に指摘する勇気を与えるためには、こういった責任限定契約も必要とされる場面もあるのかもしれません。つまり「監査環境の整備」という視点からみれば、社内の監査役さん方も責任限定契約を締結することが、むしろ監査役の権限行使のインセンティブになりうる、との考え方です。理屈のうえで考えれば、これまでの「社外役員の導入を促進するため」という理由に代わりうる積極的な理由はないものの、監査環境整備という政策的な理由から責任限定契約の存在を肯定的に考える、というところでしょうか。

いずれにしましても、株主総会できちんと説明できる理由がなければ一般的に定着するものではないはずです。このあたりは法制度化されることを前提に、議論をしておくべきものと思います。

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2012年8月24日 (金)

退任監査役が新任監査役へプレッシャーをかける事案

東京大学の研究成果を活用した創薬事業を営むECI社(セントレックス)の8月15日付適時開示「監査役の辞任・選任に関するお知らせ」がなかなかスゴイことになっているなぁと感心しておりましたところ、8月22日付適時開示「訴訟提起に関するお知らせ」によりますと、辞任予定の監査役さんが会社を代表して社長と専務を相手に損害賠償請求訴訟を提起した、とのことであります(会計監査人との契約を解除しているような状況にある同社なので、ゴタゴタがあることは予想できるところではありますが)。

常勤監査役と社外監査役の一名(合計2名)が8月下旬の定時株主総会をもって辞任されるそうですが、その理由が「両監査役ともに、取締役の経営方針に対して同意しえない状況が続いており、監査役としての職務の遂行が困難になったため」とのこと。この時点で、私は「ひさしぶりの物言う監査役さんの登場」と思っておりましたが、それだけでは済まず、22日の適時開示のとおり、常勤監査役さんが会社を代表して社長さん、専務さんを訴えるということになったようです。あと1週間ほどで監査役を退任するにもかかわらず、なにゆえ今になって会社を代表して取締役個人の責任追及に出たのでしょうか?

上記開示情報によりますと、常勤監査役さんは、株主からの提訴請求を受けて監査役会で協議をして、その決議によって社長らに損害賠償請求訴訟を提起することになったとのことであります。監査役会は多数決で決議しますので、おそらく3名のうち、今回辞任される2名が「提訴やむなし」とのことで訴訟提起に踏み切ったものと思われます。そして「株主からの提訴請求により」とありますが、常勤監査役さんは昨年の有価証券報告書によりますと同社の株主たる地位にもありますので、自ら提訴請求をして、自ら審議を行ったのではないかと推測されます(これはあくまでも私個人の推測です、念のため)。

社長らの責任を会社が追及するわけですから、株主代表訴訟が提起されたわけではありませんが、会社と役員とで「なれあい訴訟」にならないよう、株主は会社が提起した訴訟に共同訴訟人として参加することができます。おそらくこの常勤監査役さんは、株主たる地位をもって責任追及訴訟の共同訴訟人として参加されることが予想されます。ただし、会社が役員の責任を追及する訴訟における会社と(共同訴訟人たる)株主とは、類似必要的共同訴訟の原告として取り扱われるものと考えられますので、各共同訴訟人の判断で訴訟を取り下げることが可能であります。ということは、新しい監査役が選任された場合、その監査役の判断をもって「社長らには何らの任務懈怠もない」として会社としては、社長らに対する訴訟を取下げることができます(共同訴訟人たる株主は、そのまま訴訟を遂行することができ、その判決の効力は会社にも及ぶ、ということになりますが)。

ただ、ここで問題なのは、いったん株主からの提訴請求を受けた監査役さんが、監査役会の審議を経て「社長や専務には任務懈怠責任あり」と判断した以上、これを取り下げる新任監査役さん方にも、それなりの十分な判断理由が求められることになります。とりわけ当該常勤監査役さんが、監査役会として選任した弁護士の意見に照らして提訴判断を下したような場合にはなおさらではないかと。同じような事案ですが、2010年に細谷化工社の元監査役さんが、同様の場面において、十分な理由も示さずに自分が提起した取締役責任追及訴訟を取り下げた新任監査役さんに対して「善管注意義務違反である」として、株主代表訴訟を提起しました。上記ECI社のケースでも、新任監査役の方々にとっては、自分たちも株主代表訴訟の被告になる、という覚悟をもって臨まねばならないのではないかと推測いたします。

オリンパス事件でもそうですが、第三者委員会が責任判定まで行うようなケースでは、監査役が第三者委員会の判断に沿って、会社を代表して役員の責任を追及することも増えてくると思います。株主が共同訴訟人として参加するケースも出てくるでしょうし、そういったケースにおいて、会社の取締役や監査役が訴訟遂行についてどのような判断を行うべきなのか、今後も悩ましい問題が生じるのかもしれません。もちろんECI社の件については、会社側からみたリーガルリスクという視点から検討したものであり、当該常勤監査役さんとしては、自らの任務懈怠を回避するために訴訟を提起したまでに過ぎない、ということなのかもしれません。しかしこうやって考えますと、監査役には強大な権限が付与されている以上、たった一人の監査役さんでも、一度経営執行部に反旗を翻すような事態となりますと、会社経営に重大な影響を及ぼすほどの内紛劇を演出することができることになりそうです。さて、定時株主総会で選任される予定の3名の新任監査役候補の方々は、いまどのような気持ちでこの適時開示情報を眺めておられるのでしょうか。

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2012年8月 2日 (木)

会社法改正-監査役監査の実効性確保のための整備事項復活!

(8月2日 追記あり)

本日、法制審議会会社法制部会において、会社法改正要綱案(最終案)が確定したようです。法務省HPに公表されていますが、前のエントリー「監査役の監査環境の整備に関する議論はいずこへ?」で懸念していたことが杞憂に終わったようであり、安心いたしました(注記事項として、監査環境の整備に関する条項、内部統制システムの運用の概要を事業報告に盛り込むことに関する条項が施行規則で整備されるようです)。タイトルでは「復活」と書きましたが、要綱案(第一次案)作成段階では、注記として挿入することが所与の前提だったのかもしれません。。。

社外取締役制度の義務付けについては見送られていますが、以下のような付帯決議がついたのですね。

 1 社外取締役に関する規律については,これまでの議論及び社外取締役の選任に係る現状等に照らし,現時点における対応として,本要綱案に定めるもののほか,金融商品取引所の規則において,上場会社は取締役である独立役員を一人以上確保するよう努める旨の規律を設ける必要がある。
 2 1の規律の円滑かつ迅速な制定のための金融商品取引所での手続において,関係各界の真摯な協力がされることを要望する。

最近の会社法改正手続きにおいては、取引所ルールの活用問題とも連動していますので、付帯事項2でも述べられているところですが、取引所ルールの改訂が実現する可能性は高いものと思われます。努力義務ではあるものの、取引所の企業行動規範において独立社外取締役の選任に向けた各企業の取組みが「開示規制」ではなく「行為規制」として求められることになります。この取引所ルールの改正が実現した場合、有価証券報告書提出会社においては、会社法改正における開示規制(罰則付き)-当社では社外取締役を選任することが相当でないと判断する理由の開示-とを並べますと、コメント欄でChuckさんがおっしゃるとおり、実質的には義務付けに等しい状況になってくるのではないでしょうかね?そもそも「ウチの会社は社外取締役がいないほうが企業価値が上がる(だから社外取締役は不要なのだ)」と開示することと、独立社外取締役を一人以上確保するよう努力します、といった企業の行動は、果たして矛盾せず両立するものなのでしょうか?

さて、こうなりますと、俄然「監査・監督委員会会社」に移行する会社が出てくることも現実味を帯びてくると思いますので、要綱案の中身をしばらく検討していきたいと思います。

(8月2日 午後追記)今朝の朝日新聞経済面の記事「社外取締役導入促す」は、関係者からの率直な意見が反映さえていて、内容もとてもわかりやすかったと思います。「19年ぶりの規制強化を主体とした会社法改正」「原則、社外取締役を置くべきだとの趣旨。社外取締役がいない会社はつらい制度」という法制審委員の方々のお話や、「(義務付けを)要綱に入れても国会審議で紛糾しかねない」との法務省のホンネなど、興味深いところです。

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