2008年1月 5日 (土)

モリテックス社の総会決議取消判決(その2)

大発会でいきなり600円以上の下落相場となり、「本当に市場型間接金融への道は開けるのだろうか」と不安な気持ちになられた方も多かったのではないでしょうか。ともかく、金融・資本市場競争力強化プランは実行されるわけでして、今年はその具体的な施策が次々と打ち出されることは間違いなく、その結果として、少しずつでも貯蓄がリスクマネーへと動き出すことを期待しております。

金融商品取引法の世界におきましては、「株主の素人性」については「行為規制としてのプロ・アマ区分」とか「プロ向け市場の創設」「上場投資信託」など、市場の活性化と投資家保護を調和させるべき施策が現実化しつつありますが、会社法の世界ではこの「株主の素人性」をどう評価するのでしょうか。先月7日のエントリーにおきまして、「モリテックス社の総会決議取消判決」についての備忘録をアップしておりましたが、商事法務1820号(12月25日号)32ページ以下におきまして、その判決全文が掲載されており、やっと読むことができました。前のエントリーのなかで疑問に感じておりました「500円の商品券交付が利益供与禁止規定に反することと、それが決議取消という結果をもたらすこととの関係」につきましても、「利益供与に該当する」→「(利益供与によって議決権が行使されたことは)株主総会の決議にとってきわめて重大な影響」→「裁量棄却では済ますことはできない」→「決議自体が取り消される」といった流れとなるそうで、納得できた次第であります。

立派な判例評釈はまた、著名な法律学者や弁護士の方々によるもので勉強させていただくこととして、私が興味を持ちましたのは、「委任状を提出する際の株主の『合理的な意思解釈』の問題」であります。金融商品取引法の世界におきましては、「株主が素人であること」は有価証券を市場で発行する企業の「開示のあり方」や、取引の際の商品説明、そして投資ファンド自体の開示のあり方など、いわば「開示制度」を中心とした投資家保護政策のなかで意識しておりました。しかし、会社法規範のなかにおきましては、委任状獲得競争といった特殊な場面ではありますが、「素人株主がどういった意思で委任状の中身を認識し、提出するか」といったことを推察することで、総会で議決権を行使する一般株主を保護する必要性が出てくるわけですね。

(注)ただし、本判例は会社側提案の内容が未定、つまり議決権行使書面が一般株主の手元に届いていない時期に、株主側提案の委任状が集められた事例であることに留意する必要があります。議決権行使書面が招集通知とともに送付された後に委任状が集められた場合には、たとえ委任状勧誘規則どおりに賛否欄が記載されれいない場合でも、株主には議決権行使書面が手元にあるわけですから、そこから情報を入手することが可能であり、株主の合理的意思解釈においても本件とは異なる判断過程をたどることになりそうです。(参考 平成17年7月7日東京地裁判決 判例時報1915号150ページ、および江頭「株式会社法」315ページの注11。なお、この東京地裁平成17年判決と、今回の判決内容において、株主の合理的な意思を解釈するにあたり矛盾がないかどうか、検討を要するところではないかと思われます)

もちろん、500円の商品券(クオカード)を議決権行使株主に配布することが、会社法120条1項の禁止する「利益供与」に該当するかどうか、といった論点につきまして、判例が三つの判断基準を定立しているあたりも非常に興味深いのでありますが、やはり一番おもしろい論点は、この「株主提案権を行使する株主へ(株主提案に賛同する、もしくは白紙委任する旨の)委任状を提出する一般株主の合理的な意思を解釈する」という点ではないかと思います。実際に、上記判決理由のうちの多くは、この論点への判断に費やされております。そして、この判決を読めば読むほど、判決内容への疑問が湧いてくるわけでありまして、「今後同様の事案においても、同様の結論になるのだろうか」と、少し考えさせられるところであります。たとえば前回のエントリーにおきまして、定款で人数枠が制限されている取締役の選任議案につき、会社提案と株主提案が、それぞれ枠一杯に近い人数の候補者を挙げていれば、「一方に賛同することを明記した委任状は、他の一方の取締役選任を否決する、といった両立しない関係」に立つために、特別に相手方議案の賛否記載欄を設けなくても株主の意思を合理的に解釈できるのであるから、委任状としては無効とはならないと記載しましたが、(まだ取締役候補者についての会社側提案が出されないうちに集められた株主側提案賛同の委任状について)本当にそこまで一般株主の意思を合理的に解釈できるのかどうかは、少し疑問が残るのではないでしょうか。要するに、株主側提案に賛同する株主は、現経営陣による経営に不満を持っているのであって、たとえば現経営陣が一般株主の意向を代弁してくれるような社外取締役を数名候補者として挙げてくるのであれば、それにも明確に反対する意思が合理的に推察されるのでしょうか?これは現経営陣と大株主とが、プロキシーファイトにまで発展することが予想される場面でも、現経営陣が株主提案権を行使していない他の大株主(たとえば外国人機関投資家)の賛同を得やすくするためにも「ありえる話」ではないでしょうか。そういった状況のなかで、未だ会社側提案が出されていない段階での株主側へ役員選任議案賛同の委任状を提出することに、どれだけの(委任状を提出する一般株主の)合理的な意思解釈ができるか・・・というあたりは、かなり微妙な問題を含んでいるように思えます。

また、判決理由では、「たしかに委任状を提出する段階で、会社側提案内容が具体的に明らかにされていない点はあるにせよ、もし会社側が提案内容を明らかにした段階で、そちらの方に賛同するのであれば、株主はいつでも株主提案への賛同の意思を撤回することができるのであるから、一般株主に特別な不利益はない」とされています。しかし、これもすんなりと納得できる理由ではないように思われますが、いかがでしょうか。「株主の素人性」からすると、「会社側が提案をした時点で、そちらの提案に賛同したいと思ったら撤回することができる」と、理解している人はどれだけいるのでしょうか。むしろ無償で撤回することは委任契約違反になると考える人が多いのではないでしょうか。ましてや、提案権を行使する大株主からヒルトンホテルでディナーをごちそうになって、「やっぱり会社側の提案のほうがいいみたいだから撤回します」と言えば、後で委任契約違反として損害賠償を請求されるのでは?と考えるほうが「素人的発想」のような気もいたします。

会社側提案を待ってから、委任状勧誘を開始することの「不公平性」については、提案株主側の主張も当然のことだと思いますし、判決もその点について言及しておりますが、この「株主の合理的意思解釈」と「株主の素人性」をどう結びつけるのか、といった問題は、会社法の世界ではとても新鮮に映りました。たとえば「純粋な理性をもった株主像」が一般株主であると捉えれば、TOBの場面でも「純粋理性人」として振舞えることが期待できるのでありまして、だとすれば敵対的買収時においてTOBとは別に株主総会で一般株主の意思を問う必要はないはずであります。そこに「TOBによる二段階買収の心理的不安に怯える一般株主」を想定するからこそ、買収防衛策としての総会決議の意味を見出すことができるのではないでしょうか。同様に、今回の判決におきましても、委任状を提出する株主を「どのような属性をもった株主なのか」を想定するところで、判決理由も異なってくるのではないか・・・と、少し疑問を抱いた次第であります。

1月 5, 2008 株主への利益供与禁止規定の応用度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年12月 7日 (金)

モリテックス社の総会決議取消判決(東京地裁)

そういえばキリンHDによる協和発酵社へのTOBの結果はどうなったんだろうか?などと気になる週末でありますが、また企業法務関連の重要な裁判が出ましたので、社外監査役の視点からすこしだけコメントしたいと思います。

ここのところ重要な裁判が続いておりますが、本日(12月6日)東京地裁で本年6月27日に開催されましたモリテックス社の株主総会決議(の一部)を取消す旨の判決が出たそうであります。原告は、総会において委任状獲得競争を会社側と演じた大株主であるIDEC社です。日経ニュース読売ニュースなどを読んでも、なんのこっちゃ?とわからなかったのでありますが、読売新聞夕刊の一面ニュースを喫茶店で読みまして、おぼろげながら問題点がわかったような次第であります。(ということで、まだ判決文を読んでおりませんので、問題点の整理のみということで失礼します)

問題点としましては、ひとつは朝日や読売ニュースで見出しになっておりますように、会社側が議決権を行使する株主に対して「500円の商品券(クオカード)」を交付する行為が会社法120条で禁止されている「株主への利益供与」に該当する、と判断されたことであります。なお、この問題につきましては、今年8月初めに当ブログにおきましても(仮に・・・という話ではありましたが) 「株主への利益供与禁止規定の応用度(その1)」  「(その2)」において検討していたところでして、私は「500円程度の商品券だったら社会的儀礼の範囲内であって、利益供与にはあたらない」と論じておりましたが、コメント欄でkazuさんが「プロキシーファイトの場面においては500円の商品券でも問題があるのでは?」とされており、まさに鹿子木裁判官の意見と、kazuさんのご意見とは近いものがあったようです。(さすが、いいセンスされています>kazuさん。)東京地裁判決でも、「500円の商品券は、社会的儀礼の範囲ではあるけれども、こういった時期に、議決権の行使を勧誘することと合わせて交付をすることは、会社提案への賛同を株主に求めていることを疑わせるものである」とされている(あくまでも報道内容からの推測)ようで、単に何を株主に交付したか、ということだけでなく、他の事情も考慮することで適用範囲を限定しようとしているものと推測されます。ただ、株主へ利益供与の事実が、どういった理由で株主総会の決議取消の要件と結びつくのか、そのあたりの流れが報道だけではわかりません。(なお、この点につきましては、判決文を読めるようになってから、もうすこし具体的に検討してみたいと思います)しかし、会社側が500円の商品券で問題になるんでしたら、株主側のヒルトンホテルでのディナー付き株主提案説明会は(利益供与の要件には該当しないから)オッケーになるのも、なんか少しへんな感じもしますが・・・・

そしてもうひとつの問題点は、委任状の取扱いに関する論点であります。これはなかなか法律家好みの面白い論点だと思います。たとえば、委任状を勧誘する場合に、その委任状の記載に瑕疵があったら、その委任状の効力をどうみるか・・・というあたりの論点ではないかと思われます。議決権行使に関する委任状を交付する際の、当事者の合理的な意思解釈とはどういったものか、(もし瑕疵ある場合に)その委任状自体を無効とみるのか、委任状は有効だとしても、瑕疵は決議取消原因になるのか、それとも瑕疵ある委任状を利用した人(もしくは会社)自体に民事上、行政上、刑事上のペナルティを課すことによって対処すれば足りるのか等、私法、公法、会社法、金商法(上場企業の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令)あたりが交錯するなかで、もっとも妥当を思われる結論を導くことになろうかと思われます。報道では結論しかわかりませんが、おそらく株主(IDEC社)側が集めてきた委任状には株主提案にかかる議案(モリテックス社の招集通知によれば4号、5号議案)への株主の賛否記入欄だけが記載されており、会社側提案議案(同、2号、3号議案)への株主の賛否記入欄は記載されていなかったのではないかと推測されます。そもそも、上場企業の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(いわゆる委任状勧誘規則)の43条は、以下のとおり規程されております。

上場企業の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令

(委任状の用紙の様式)
第43条  令第36条の2第5項 に規定する委任状の用紙には、議案ごとに被勧誘者が賛否を記載する欄を設けなければならない。ただし、別に棄権の欄を設けることを妨げない。

ちなみに、「令第36条の2第5項」といいますのは、以下の金融商品取引法施行令であります。(ご参考まで)

金融商品取引法施行令(昭和四十年九月三十日政令第三百二十一号)

(議決権の代理行使の勧誘)
第36条の2

1 議決権の代理行使の勧誘(法第百九十四条に規定する金融商品取引 所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者にその議決権の行使を代理させることの勧誘をいう。第三十六条の四から第三十六条の六までにおいて同じ。)を行おうとする者(以下この条から第三十六条の四までにおいて「勧誘者」という。)は、当該勧誘に際し、その相手方(以下この条及び第三十六条の六において「被勧誘者」という。)に対し、委任状の用紙及び代理権の授与に関し参考となるべき事項として内閣府令で定めるものを記載した書類(以下この条から第三十六条の五までにおいて「参考書類」という。)を交付しなければならない。
2  勧誘者は、前項の規定による委任状の用紙又は参考書類の交付に代えて、当該被勧誘者の承諾を得て、当該委任状の用紙又は参考書類に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて内閣府令で定めるもの(以下この条において「電磁的方法」という。)により提供することができる。この場合において、当該勧誘者は、当該委任状の用紙又は参考書類を交付したものとみなす。
3  勧誘者は、前項前段の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、当該被勧誘者に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
4  前項の規定による承諾を得た勧誘者は、当該被勧誘者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があつたときは、当該被勧誘者に対し、第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該被勧誘者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
5  第一項の委任状の用紙の様式は、内閣府令で定める。

さて、以上の「委任状勧誘規則」43条によりますと、「取締役、監査役を選任する議案」への株主の賛否を問う場合、会社提案と株主提案のすべて、つまり2号から5号議案までについて株主は賛否を明らかにすべきではないかとも思われます。したがいまして、もし2号議案、3号議案(会社側提案)に関する賛否記入欄が、株主側作成の委任状に記載されていないとすると、(本来、選任すべき候補者をすべて知ったうえで、議決権を行使すべきであるにもかかわらず、株主側の候補者しか知らないままで委任状を提出するわけですから)株主側が提出した委任状は委任状勧誘規則43条違反となり、形式的要件が欠けていることになりそうであります。この点を重視するのであれば、IDEC社側に賛同する株主の委任状には瑕疵があることになり、出席株主数に参入しなかったモリテックス社側の対応に合理性があることになります。しかし、そもそも2号3号議案と4号5号議案とは、対立する内容であって、株主が4号、5号に賛同している場合には、その意思解釈として2号、3号議案には反対しているものである・・・とみるのが合理的であって、とくに2号、3号への賛否欄を設ける必要はないものと考えれば、なんら本件委任状には瑕疵はないという結論になります。おそらく、東京地裁の判決は、こちらの考え方ではないかと推測されます。

もし、株主側の委任状に、会社側提案議案のすべてについて賛否記入欄を掲載しなければ委任状勧誘規則43条違反になるとしますと、招集通知発送時期まで、つまり総会直前まで株主側は委任状勧誘が困難な状況におかれますので、委任状勧誘競争の実質的な公平を期すためには、委任状の作成過程における合理的な意思解釈によって、判決のような結論に至るのが妥当ではないかとも思います。ただ、そもそも金融商品取引法194条は、議決権の代理行使については原則禁止であり、政令で規定している場合にかぎり禁止を解除するというものでありますので、委任状勧誘規則の解釈にあたっても、厳格に解釈すべきであることや、反社会勢力などによるフロント企業が会社乗っ取りをはかろうとする場合において、かなりグレーな委任状勧誘が行われる恐れがあり、そういった場合に議決権行使を制限できなくなるのではないかといった政策的な理由などから、判決の結論に反対する立場もあろうかと思います。いずれにしましても、ここでは結論に影響を与えそうな諸事情をさまざま組み合わせて、いろんな議論ができそうですので、また判決内容を精査したうえで、検討してみたいと思っております。

参考(金融商品取引法194条)

(議決権の代理行使の勧誘の禁止)第194条 何人も、政令で定めるところに違反して、金融商品取引所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者に議決権の行使を代理させることを勧誘してはならない。

12月 7, 2007 株主への利益供与禁止規定の応用度 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2007年8月 3日 (金)

株主への利益供与禁止規定の応用度(その2)

さて、昨日のエントリーの続きであります。株主等の権利行使に関する利益供与禁止規定が、総会屋対策以外にも検討される場面としまして、「なおとさん」からご指摘のありましたように、親子会社における支配権濫用事例や、従業員持株会への奨励金交付、支配権維持のための第三者割当などもここに含めて検討されるべきものだと思いますが、あまりいろいろなものを持ち出しますと、ブログが終わらなくなってしまいますので、最近話題になっておりますものを優先させていただきます。

そもそも、総会屋対策(株主総会の健全化)を図るために昭和56年の商法改正で「株主等への利益供与禁止」規定ができあがったわけでありますが、昨日よりご紹介しているような事例でも問題とされているところから明らかなように、条文のうえでは、総会屋への利益供与だけに限って規定しているものではありません。したがいまして、利益供与罪(刑事規制)の本質とか保護法益は何か・・・という点につきましては、(1)会社資産の浪費防止と(2)株主の権利行使の適正化といったふたつの本質が並存しているものと考えるのが通説のようであります。そして保護法益につきましても「会社運営の健全性の保持」とされ、そこでは一次的には会社資産と株主権が保護法益と解されているようでありますが、二次的には株式会社制度に対する社会の信頼、といった社会的法益を保護する面もあるものとされております。(このあたり、よくまとまっているのが「会社法A2Z」第18号新会社法罰則の研究、における川崎友巳先生の解説であります。)

しかし、こういった利益供与罪の本質とか「保護法益」に関する解説を理解しましても、現実の事案がスッキリ整理できるかといいますと、実際のところ、よくわかりません(笑)具体的な例としましては、たとえば大株主と会社経営者とが経営方針について対立しており、その採決が注目されるような総会におきまして、会社経営者側が議決権行使書を送付した一般株主に対して500円の商品券を交付するような場合、これは会社としての利益供与行為に該当するのでしょうか?これは民対民の紛争に発展する典型的なケースですし、実際にも総会決議取消訴訟が提起されている某事案にも似ているかもしれません。こういったケースを先の利益供与罪の本質とか保護法益の議論を参照にしながら、検討してみたいと思います。なお、利益供与に関する会社法上の刑事規制、民事規制は以下のとおりであります。

株主の権利の行使に関する利益供与の罪)
第九百七十条  
第九百六十条第一項第三号から第六号までに掲げる者又はその他の株式会社の使用人が、株主の権利の行使に関し、当該株式会社又はその子会社の計算において財産上の利益を供与したときは、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2  情を知って、前項の利益の供与を受け、又は第三者にこれを供与させた者も、同項と同様とする。
3  株主の権利の行使に関し、株式会社又はその子会社の計算において第一項の利益を自己又は第三者に供与することを同項に規定する者に要求した者も、同項と同様とする。
4  前二項の罪を犯した者が、その実行について第一項に規定する者に対し威迫の行為をしたときは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
5  前三項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
6  第一項の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。

(株主の権利の行使に関する利益の供与)
第百二十条  
株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2  株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。

3  株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。
4  株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(委員会設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5  前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

こういったケースでたいへん参考になりますのが、「利益供与ガイドライン」(東京弁護士会編 商事法務研究会発行)であります。この本のなかで、(民事規制に関するものではありますが)①総会出席株主への手土産の提供、②日当の支給、③交通費の支給に分けて、これが会社による株主への「利益供与」に該当するかどうか、解説がされております。そして、日当支給については利益供与、交通費支給は該当しない、手土産につきましては「一般社交的儀礼の範囲内かどうかを検討せよ」とされております。株主が権利を行使するかどうかは自由であり、義務ではありませんので、たしかに日当支給というのはおかしいように思われます。交通費につきましては、株主が議決権を行使しやすい環境を整備することについては会社側の事務手続きの範囲内といえそうでありますので、これは利益供与には該当しないというのも理解できそうであります。こういった基準を参考にして、自宅から議決権行使書を発送した株主が500円の商品券をもらえる・・・といった制度はどう考えるべきなのでしょうか?「交通費基準」とは明らかに違うように思えます。どちらかといいますと議決権行使書送付の「対価」として考えるのが素直かもしれません。ただ、総会に出席した人だけが「手土産」をもらえるのであれば、その「手土産」に代わるものとして郵送料を安くするために議決権行使書を送付した株主には「商品券」を送付する、というのも、平等といえば平等といえそうでもありますね。その手土産が500円相当のものであって、社会常識からみても「儀礼的なもの」であれば、利益供与にはあたりまんせんので、この500円の商品券も利益供与には該当しない、といった結論になるのかもしれません。(いやいや、「手土産」というものはわざわざ会場まで足を運んでくださった株主様だからこそお渡しするものであって、自宅から議決権を郵送した人とは区別すべきものである・・・といった反論もあるかもしれません)また、この500円という金額と配当金額との割合を検討する必要もありそうですね。さらに、もし「利益供与」に該当するのであれば、議決権行使書を送付した株主はこの利益を返還する必要があるわけですが、これはたいへんな事後処理が必要となりますので(このあたりが、法律制定の際には予想されていなかった場面ではないかと思われます)、この事後処理のことを考えますと、利益供与は認められにくいのではないか・・・とも思われます。

すこし見方が変わりますが、この500円の商品券というのは、本当に「議決権行使」の対価といえるのでしょうかね?いまのご時勢、ちょっとアンケートに回答しただけでも、500円相当のカードとかもらえたりしますよね。このあたりは、利益供与禁止規定というものが、利益と対価である「株主の権利行使」との牽連関係をどこまで要求するか、によっても結論が異なるように思えます。議決権行使が500円という商品券の価値とつりあっているのかどうか、大株主に賛同するか、経営陣に賛同するか、どちらかわからない議決権行使を誘引することが、果たして利益供与罪の保護法益を侵害しているといえるのかどうか、微妙なところではないでしょうか。なお、株主の権利行使をお金で誘引すること自体もってのほかである、として、あまり牽連関係が認められなくても「利益供与」にあたる、とする立場(つまり、刑事規制としての利益供与罪について、その社会的法益保護を重視する立場)からは、金額の多寡にかかわらず問題である、との結論に達することになりますが、刑事規制が存在する利益供与問題につきまして、そこまで漠然と構成要件を広げてしまいますと、予見可能性が薄れてしまって、あぶなっかしい規定になってしまうような気がいたします。

なお、kazuさんのコメントへの回答になっているかどうかは微妙でありますが、たとえ「利益供与」に該当しないとしましても、この500円の商品券が、当該企業の販促活動、つまり損金として扱えるかどうか、といった問題が残ることになりそうです。企業は営利法人でありますので、一般の株主優待制度につきましては「販促活動費」として取り扱っているものと思われます。したがいまして、販売促進のために認められる範囲のものであればよいのですが、それを超えたもの(たとえば実質的には利益の分配)とみなされる場合には、違法配当だったり、会社資産の浪費だったりするわけですから、取締役の善管注意義務違反行為に該当するのではないか・・・といった問題が別途生じることとなります。

この問題も、著名な弁護士の方が「利益供与が問題である」と明言されていらっしゃいますので、まだまだいろんな論点があるのかもしれませんが、私個人としましては、結論的にはとりあえず会社が利益供与をしたとまでは言えないのではなかろうか・・・と思いますが、皆様はいかがでしょうか?

8月 3, 2007 株主への利益供与禁止規定の応用度 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年8月 2日 (木)

株主への利益供与禁止規定の応用度(その1)

今週はGCAの佐山展生先生の企業価値に関する講演、中央大学法科大学院の野村修也先生のM&A最前線に関する講演などを直接お聞きする機会に恵まれ、また先週は同じく中央大学の大杉先生、そしてこのブログでもおなじみの「酔狂さん」とお食事を供にする機会にも恵まれまして、とても外からのシゲキの多かった2週間でありました。野村先生とは本日はじめてお話させていただきましたが、名刺をご覧になるなり「あれ?あのブログを書いてらっしゃる方ですよね?読んでますよぉ~♪日経出てましたよね?」(やっぱり日経に採り上げていただいた効果はかなり大きかったかも・・・・・)お世辞ではなく、野村先生の企業再編に関する解説は非常にわかりやすく、有益だと思いました。法制度としての再編行為の経済的な意味を上場企業、閉鎖企業、ベンチャー企業それぞれの立場から考えて、その法制度の長所短所を解説する手法というのは、まさに全体の理解があるからこそなしえるものであり、ブルドック東京地裁決定へのご批判については異論があるものの、三角合併の位置づけを含め、たいへん勉強になりました。

さて本日午前中に、ある上場企業の役員セミナーでもお話させていただいたのですが、取締役のコンプライアンス経営の論点として、最近経済刑法関連の問題がにわかに浮上してきているような気がいたします。「経済刑法」という分野は、そもそも取締法規でありますので、企業(経営者)と行政庁(検察庁とか、証券取引等監視委員会とか、公正取引委員会など)とが対峙する事案が容易に想像できるわけでありますが、そういった場面ではなく、敵対的買収事案のように「民間対民間」といった構図のなかで、この経済刑法がどのように活用されていくのか・・・といった論点であります。先日、どなたでしたか、村上ファンドのインサイダー取引関連のエントリーのなかにおきまして、「私はこれから5%以上の株式を買うつもりです」と一般株主が買収希望者に電話で告げただけで、その後の買い進める行動はインサイダー取引に該当するので、それが最良の防衛策になるのではないか・・・との意見を述べておられましたが、この例(果たしてそれが有効なものかどうかは別として)などは、内部者取引に関する刑事罰の脅威を利用することによって、民間対民間の関係において武器として使用することを目的としたものであります。

ひとつ気になりますのは、「民間対民間」の紛争に刑法規定を活用するといいましても、その活用がどれだけ相手方に対して「刑事罰の脅威」としてプレッシャーを与えることができるかにつきましては、別個の考慮を要することであります。といいますのは、警察や検察は、ご自分たちが民事紛争の解決策として利用されることを極度に嫌う傾向がありますので、(そりゃそうですよね、一生懸命捜査した後で、「示談が成立したので、告訴は取り下げますね」などと言われる立場になれば、誰だって最初から本気で捜査したくなくなるはずであります)包括条項を使って安易に立件する傾向は回避するはずでありますし(一般人が包括条項違反で告訴もしくは告発してくるケースが増えてしまいますよね)、たとえ告訴を受理する方向で検討されたとしましても、できるかぎり民、民での解決を待って民事刑事の裁判の齟齬を回避することを考えるからであります。したがいまして、ここで問題としますのは、「ひょっとしたら、あなたの行動は違法なものかもしれませんよ。法令違反行為として取締役の責任追及を受ける可能性がありますよ。刑事訴追の可能性すら孕んでいますよ。」といった警告を発して、自らその行為を思いとどまらせて、妨害を排除することを企図することを念頭においております。

そういった意味で、以前にも少しエントリーのなかで書かせていただきましたが、経営者のコンプライアンス問題として捉えますと、インサイダー取引リスクと「株主権の行使に関する利益供与の禁止規定」違反リスクをワンセットとして、それらのコンプライアンス上のリスク管理について検討しておくことが肝要ではないか、と考えております。インサイダー取引につきましては、課徴金制度がございますので、すこし状況が異なるかもしれませんが、株主への利益供与に関する会社法上の民事規制、刑事規制をどう考えるのか、といった点はかなりリスク管理の観点から重要ではないかと思います。とりわけ最近は、①議決権行使株主に対してのみ株主優待券を配布する経営者の行動②ブルドックソースが買収防衛策の一環として敵対的買収者を排除する目的で23億円を支払った行動③そもそも議決権を相手方会社の経営者のために行使することの見返りとして、相互に利益を与え合う関係となる「相互株式持合い」制度、など、いずれも「総会屋対策」として規定されたはずの株主への利益供与禁止規定違反が疑われているケースであります。これらのケースにつきましては、かなり著名な法律実務家の先生方が、「利益供与禁止」に反するのではないか、と問題を提起されておられますので、本当に株主権行使への利益供与に該当するのかどうか(もしくは該当する可能性が高いのか低いのか)、そのあたりをきちんと検討しておくことも有意義ではないでしょうか。株主権行使に関する利益供与問題について、このような規定が刑事上もしくは民事上なぜ禁止されることとなったのか、制度趣旨はなにか、保護法益はなにか、構成要件はどう解釈すべきなのか、といった刑法分野特有の論点について検討をくわえ、その規定の応用度(どこまで民民の紛争のなかで武器として活用できるか)を考えてみたいと思っております。なお、私個人の見解をブログで述べるにすぎず、学者さんのように精緻な調査検討に基づくものではございませんので、少々ラフな物言いになることをご了解ください。(以下、続きます)

PS

grandeさんの4代目ブログをリストに追加しました。

8月 2, 2007 株主への利益供与禁止規定の応用度 | | コメント (2) | トラックバック (0)