持合い株式の減損処理と株主への説明責任
あまり新聞やニュースなどで報じられておりませんが、昨日(10月22日)スティールパートナーズ(ジャパン・ストラテジック・ファンド)が江崎グリコ社に対して、グリコ社が政策目的により保有している株式(いわゆる持合い株式)について、その損失の対処を要請したようであります。(スティールパートナーズのHPはこちら)23日の日経朝刊におきましても、3月決算の上場企業について、ここ半年ほどでリリースされた保有株式の有価証券評価損が3000億円を超えるものであった、と報じられておりましたが、私自身も、「有価証券の評価損計上が株式持合いに与える影響はどの程度なのだろうか?」と考えておりましたので、まさにこのスティールの損失対処要求につきましては、グリコ社にとっても「想定の範囲内」にあったのではないかと思われます。江崎グリコ社としては、この10月6日にて、今年度第2四半期に有価証券投資につき22億円の評価損を計上するとリリースしておりましたし、スティール自身も、以前から持ち合い解消を求めておりましたので、こういった対処要求に至ったものだと推測されます。ただ、現実の株価がこのように低迷しているところでありまして、持合い株式についての減損処理をしなければならない企業も相当数出てくるものと思われますので、一般の上場企業におきましても、すこし検討しておいたほうがよろしいのではないでしょうか。
金融商品に関する会計基準によりますと、持合い株式は「その他有価証券」に分類されるため、評価益が出る場合には貸借対照表上の「純資産の部」に計上されるわけですが(純資産直入法)、評価損が出る場合には損益計算書上で「当期の損失」として処理されることになるのですね 原則的には評価差額の合計額は純資産の部に計上することになる(例外的には「保守主義」との関係から、評価益は純資産の部に計上し、評価損が出た場合には損失として処理する場合もあるようです)ようであります。ただし、市場性のある株式の場合、時価が著しく下落した場合には、評価損については当期の損失として処理しなければならない、とされています。(金融商品会計基準20)そして、市場価格のある株式の相互持合の場合には、時価が取得価格の50%以下となる場合には「著しく下落した」場合に該当するために(金融商品実務指針90,91)、合理的な反証がないかぎり減損処理を行う必要があるわけでして、ここ2~3年に株式の持ち合いを開始したケースでは、今期あたり、この減損処理を行う必要のある上場企業が相当数出てくるものと思われます。つまり、株式の持合いも、株価の暴落がなければ大きな問題になることもないと思いますが、減損処理を行う必要が生じた場合には、評価損がまともに企業業績を圧迫することになりますし、その結果株主にとりましても、剰余金の配当や、株価の下落など大いに利害関係を有することにもなるわけですから、(もし今後も持合いを解消しない、といった判断を下すのであれば)株主に大きな不利益を課してでも、会社によって株式の持ち合いが経済的合理性のあるものとして必要であることを十分説明する責任があるのでしょうね。すくなくとも、一般の株主は大きな利害関係人ですから、「持合いを継続する合理的な理由」とか「損失を計上してでも持合いを維持すべき経済的合理性」など、明確に説明する必要があるような気がします。敵対的買収防衛に備えての持ち合いです・・・とか、「株主に対する利益供与のおそれ」が生じるような説明方法は避けるべきでしょうから、説明にも十分な配慮が必要になってくるものと思います。
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