2007年10月12日 (金)

上場企業は社外監査役に何を求めるのか?

10月4日付けで日本監査役協会さんのHPに「社外監査役の活動と監査役スタッフの役割」(関西支部監査役スタッフ研究会)」がリリースされており、以前このブログでも社外監査役と監査役スタッフとの関係について持論を述べさせていただいたこともあり、興味深く拝読させていただきました。ある方のコメントでは、社外監査役の活動「と」の意味が不明とのことでありましたが、私が読ませていただいた限りでは、やはり監査役スタッフ側からの社外監査役制度への提言もあり、単なる並列ではないものと理解いたしました。

常勤監査役の方、そして社外監査役に就任されていらっしゃる方におきましては、数少ない監査役スタッフと社外監査役との関係を協議するための題材としてふさわしいものでありますので、ぜひご一読をお勧めいたします。とりわけ社外監査役を現任されていらっしゃる方にとりましては、すでにこのブログでもご紹介しております「社外監査役(コーポレートガバナンスにおける役割)」とともに参考にされますと、理解が進むものと思われます。(アンケート結果に基づいて、理想ではなく、かなり現実的な社外監査役のあり方を模索されていらっしゃるように読めました。)

このリリースを読んでの私個人の感想でありますが、2点だけ書かせていただきます。ひとつは社外監査役の特質(特長?)にふさわしい社内での活用を考えるべき、ということであります。社外監査役に期待されるものとして「大所高所より意見を述べる」とか「社外の常識を社内に取り入れる」「専門家にふさわしい意見を求める」といったことに多数の意見が集中しているようでありますが、しかし現実には、そういった要請であれば代替できるコンサルタントや専門職の意見を求めることで足り、特別に社外監査役でなければいけない・・・というものでもないように思います。(もしこのあたり、別のご意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ご教示よろしくお願いいたします。ここは以前から、私自身かなり懐疑的に感じているところであります)社外監査役の一番の特質はといいますと、「社内の人間ではないけれども、月1回から2回程度、役員会や経営会議に出席することで、ある程度その会社の事情や、経営環境等を知っている」ことがいえそうであります。せっかく、相当の報酬を支払って、社外監査役に就任してもらっておりますので、こういった「独立性はあるけれども社内の事情に詳しい」といった社外監査役の特質に合致した役回りをもっと検討すべきでしょうし、それがもっとも効率的な選択ではないかと考えております。「法律で決まっているから、とりあえず・・・」といったあたりが現実とは思いますが、もうすこし理想に近いところで申し上げれば、常勤監査役、社外監査役相互の関係構築にも特長が生かされるような人選がよろしいかと思います。

そしてもうひとつでありますが、(ひとつめに述べたところとも関連するのでありますが)社外監査役の仕事は「ひな型には乗りにくい」ということであります。常勤監査役の方々のほうが、もうすこし「ひな型」に沿ったお仕事が連想できるところでありますが、社外監査役の業務は「かくあるべき」が具体的に提案しにくいのではないかと思われます。実際、私が複数の会社の社外監査役をやってみて、またリスク管理委員会の委員として、いくつかの企業の社外監査役の方のお仕事を身近に拝見しておりまして、「全社的なリスク管理の一環として社外監査役を活用するのがベストではないか」と思っております。つまり、中小から大きな企業に至るまで、その企業の健全性および効率性監査のポイントは千差万別でありまして、もっともウイークポイントとなるところで社外監査役が活躍できるのが有効ではないかと思います。社長の独断的采配が強い企業であれば社長と直に意思疎通ができるような社外監査役の存在が必要でしょうし、(買収のおそれなどを含めて)株主対策に問題があるような企業でしたら、株主の代弁者たるにふさわしい社外監査役が必要であります。要は、その企業固有の全社的リスクを社外監査役が早期の段階で把握したうえで、そのリスクへの対応にふさわしい形において職務の重点を置く、といった大胆な構想をとりうるのが社外監査役の役割といえるのではないでしょうか。社外監査役の実務指針に関する本を共同で著した人間としては、自己矛盾と非難されるところもあるかもしれませんが、ガバナンスの問題として、社外監査役のベストポジションというものは、年間の監査計画などにおきましても、個々の企業によって大きく異なるものであることを前提として発想したほうがいいのかもしれません。

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2007年8月25日 (土)

社外監査役と監査役スタッフとの関係(追補)

一昨日、社外監査役と監査役スタッフとの関係についてエントリーをアップしましたが、unknownさんと監査役サポーターさんよりご意見をいただきました。私なりのお返事をまた書かせていただこうかと思っておりましたところ、あまりにもタイミングよく(?)といいますか、8月24日付けにて、日本監査役協会より「監査役監査委員スタッフの現状と意識調査」なる報告書が公表されております。

社外監査役と監査役スタッフとの関係とか、効率的な監査と監査役スタッフの関係など、具体的な論点に触れているものではありませんが、上場企業における監査役制度の現状を「監査役スタッフ」に焦点をあてて検討するにあたり、有益な資料になるかもしれません。とりいそぎ、本日は備忘録程度での記述とさせていただきます。

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2007年8月23日 (木)

社外監査役と監査役スタッフ(補助者)との関係について

昨日、ある企業グループにおける監査役スタッフの方々と懇親を深める機会がございまして、いろいろと有意義な意見交換をさせていただきました。さすがに大きな企業ともなりますと、たいへん優秀なスタッフがそろっておられるようでして、私も一部執筆させていただきました「非常勤社外監査役~その理論と実務~」(2007年 商事法務)あたりも隅々まで読んでいらっしゃるようで、たいへん驚いた次第です。

その懇親会の席で、何人かの監査役スタッフの方より「いままで一度も社外監査役さんとはお話をしたことがない」という報告をお聞きし、たいへん意外に感じました。私が社外監査役を務める企業では、専任のスタッフもいらっしゃいませんので、「社外監査役(ここでは非常勤社外監査役を念頭においております)と監査役補助者(スタッフ)との関係」についてはこれまであまり考えることがなかったのでありますが、監査役スタッフの方々からすれば「なぜ、社外監査役の方は、監査役スタッフに対して、こうしてほしい、とか要望を出されないのでしょうか。社外監査役の方々は、いったい監査役会のあり方をどう考えておられるのか、また監査役としての仕事をどのようになされたいのか、見えてきません」とのご意見。

事務所に戻って上記「非常勤社外・・・」を読み直してみましたが、たしかに「監査役スタッフ」に関する記述が若干あるだけで、全体を通して「社外監査役と監査役補助者との関係」について触れたところはほとんどありません。(おそらく、ほかの監査役マニュアル本の類につきましても、同様ではないでしょうか)たしかに私の「感覚」からしましても、社外監査役は常勤監査役さんとの情報共有をはかることで、常務会や取締役会で問題となっているポイントを把握することで十分であって、わざわざ常勤監査役さんを飛び越えて監査役スタッフの方に「こういったことをしてほしい」と要求する必要はないのではないか・・・といったところがホンネではないかと思います。(必要があれば、法務スタッフや内部監査人との連携をはかるべき・・・といった意見は出てくることもありますが)

しかしながら、よく考えてみますと、会社法施行規則100条3項1号では「監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項を定める」ことが内部統制システム構築のひとつの要点とされておりますが、この「監査役」には独任制である社外監査役も当然含まれるわけですから、「当該会社には、兼任ではなく、専任の監査役補助者が数名必要である」と社外監査役から取締役会に申し出ることができるわけですね。もし、監査役制度に欠陥があって、企業不祥事を防ぎきれなかった、といった事態になれば、こういった申出をしなかった社外監査役の責任は回避されるのでしょうか?つい先日、日経新聞の一面で「監査役の権限強化」が話題となり、会計監査人の報酬決定権と選任権を監査役(監査役会)が保有するような会社法改正が検討されている、といったことをエントリーしておりましたが、単に「監査役」の権限だけを補強するだけで、監査役まわりの体制整備をないがしろにしているのでは、本来会社法や金融商品取引法、公認会計士法等が期待しているような「監査役制度の実現」はおぼつかないようにも思われます。たしかにアメリカの監査委員会制度の運用などをみますと、社外取締役たる監査委員は年に数回、報告を受けるにすぎず、「監査人を監査する」役割だと説かれているようでありますが、それは前提として、監査委員会の活動を補佐するスタッフの充実があるからこそではないでしょうか。

大和銀行事件の判決にもありますとおり、一生懸命前向きに仕事をしている社外監査役ほど、「不祥事に関する予見可能性があった」とされて、株主代表訴訟等による責任追及を受けやすい、といったことでありましたら、「わざわざなぜ(予見可能性を高めるために)社外監査役が監査役スタッフと連携しなければならないのか」といった素朴な疑問も湧いてくるところではありますが、もはやこれだけ内部統制システムの整備が叫ばれる時代となった今、そういった議論は過去の遺物になりつつあるのではないでしょうか。社内における監査環境の整備につきましては、常勤さんも社外監査役も同じように考えなければならない時代であり、内部統制システムの整備に関する取締役らの意思決定や執行行為の相当性監査にあたっては、きちんと考えますと、常勤監査役おひとり(もしくはおふたり)くらいで評価することは困難であります。(本当に監査役だけで検証できるかどうか、日本監査役協会が先日リリースされました財務報告に係る内部統制監査基準の内容をご確認いただければと思います)常勤監査役の方が、予算や人事の関係から代表取締役に対して積極的な監査環境の整備を訴えることができない場合には、むしろ社外監査役から申し出る必要があるかもしれませんし、またそもそも常勤監査役さんのほうで、「そういった必要はない」と感じておられるのであれば、その常勤監査役の方の抱いておられる「監査役スタッフは何をするのか」といったイメージと、「会社法で求められている監査役の職責は何か」といったイメージを、再度監査役会で確認すべきではないかと思います。とりわけグループ企業において子会社調査権を行使すべき立場にある監査役の場合には、今後企業社会の常識として、監査役への期待が高まるにつれて、監査役スタッフの養成が不可欠であることは間違いないでしょう。

監査役スタッフの人事評価や処遇問題についてもしかりであります。本来的には監査役スタッフ(補助使用人)制度が出来上がった場合、常勤監査役さんこそ、監査役スタッフの人事問題を整理して、その監査独立性を保持する責任があろうかと思いますが、監査役に就任された方の「会社上の立場」を現実に考えた場合、そこまでなかなか取締役会へ進言することは期待できないように思われます。そういったケースでは、社外監査役こそ、補助者の職務上の地位を確保できるような努力をすべきであり、そういった努力の積み重ねによって、本当の監査役制度が生まれてくるのではないかと考えております。とりあえずは、まずなんといいましても、社外監査役自身が、監査役スタッフの本来的業務の内容を知り、そこからどういった関係を築くべきか、真摯に検討すべきであります。したがいまして、冒頭ご紹介したような「社外監査役とはしゃべったことがない」といった事態こそ、回避すべきだと思います。

ご承知のとおり、東証も大証も規則を改正することにより、今後は上場企業全般において監査役会制度を要求する、つまり監査役は3名以上で、かつ半数以上は社外監査役で占められることが上場企業にとっては必須の条件となりますので、このあたりで「社外監査役と監査役スタッフとの関係」につきましても、監査役制度の充実のための真剣な議論があってもいいのではないでしょうか。あまり社外監査役に厳しいことを申し上げますと、「なり手」が減少するのではないか、といった懸念事項もありますが、社内の管理部門に予算を配分することができるのは、やはり社外監査役の職責であり、監査環境整備へ向けてのきちんとした意見をお持ちの方こそ、たくさんの企業にて就任していただきたいと思いますね。

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