ブルドックにみる次世代買収防衛策(2)
ある東証一部上場企業さんの不適切な会計処理発覚の原因が、担当監査法人さんに対する内部告発によるものであった、とのことでありますが、その監査法人さんが流出させてしまった情報のなかに、この内部告発者の氏名や住所が存在していたら、いったいどうなってしまうのだろうか・・・と、他人事ながら心配してしまう今日このごろ、皆様いかがおすごしでしょうか?
さて、hiroさんのコメントで知りましたが、北畑経済産業省事務次官がブルドックソース社が新たに導入を決めた事前警告型買収防衛策についての個人的感想として、敵対的買収者に対する(割り当てられた新株予約権の行使ができないことの経済的損失補完としての)金銭的な支払いができる、と規定されている部分について難色を示しておられるようであります。(事務次官スピーチ9月3日分)「かならず支払う」とはされておりませんが、いちおう「支払うことができる」とは、たしかに明記されております。
このあたり、(実際にアメリカの企業で導入されている防衛策にも、そのような規定はないことを説明されたうえで)2年ほど前の企業価値研究会において、すでに議論がされていたようでして、平時導入型の防衛策においては、買収者に対する経済的損失補てんは必要ない、との結論が(企業価値研究会にも)あったというようなスピーチ内容になっております。(先のスピーチ内容参照)また、経済的損失を補填することを前提とする平時導入型防衛策であれば、グリーンメイラー的な人たちを誘い込む要因になってしまう、との懸念も示されております。
しかしながら、アメリカでは未だ正式に防衛策が発動されたことがないわけですから、発動時における相当性についての議論のなかではアメリカのモデルを引用することにどれだけの説得性があるかは疑問ですし、アクティビスト型の買収者だけでなく、事業者型の買収者の場合であっても、すべて経済的補填が不要かといいますと、そこまで割り切って考えていいものかどうかは不安の残るところであります。さらに、そもそも平成17年5月27日に企業価値研究会から出されております「企業価値・株主共同利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」のなかでは、(旧商法下のものではありますが)その6頁以降におきまして、差別的行使条件のある新株予約権の発行については、買収者以外の株主であることを行使条件とすることは株主平等原則に反するものではない、といった前提でのお話であります。今回のブルドック最高裁決定は、新株予約権の差別行使条件付きの無償割当てについては株主平等原則の趣旨が及ぶとしたうえで、例外的に平等原則違反とはならない「正当性と相当性」の判断根拠のなかにおいて、この「金銭的補償」の件を理由付けのひとつとして掲示しております。最高裁決定における「理由」の書きぶりからしますと、有事導入と平時導入(つまり買収者に対する予見可能性の問題)に区別して手段の相当性判断基準に差があってもいいのではないか、と考えられる根拠のひとつとして、この「金銭支払いの有無」を持ち出していいものかどうかは、かなり微妙ではないかと私は思っております。
ところで急に話は変わりますが、本日経済産業省のHPでは、1ヶ月前(8月3日)に意見募集をしておりました「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」がリリースされております。一ヶ月前の指針(案)と比較しますと、私が見たかぎりでは、若干の修正が2箇所ほどございますが、ほとんど内容的には変更はないようです。したがいまして、今回一番勉強になりましたのが、同時にリリースされております「意見募集の結果について」に記載されております意見かもしれません。
| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)