子会社の独立性と内部統制システム
IPO企業の支援業務をやっておりますと、本当に厳しい場面に出くわします。上場をめざす企業として、利害関係人と企業との取引をどう解消していくべきか、というところで経営者のエゴ(わがまま、というわけでもなく、企業に対する長年の愛着から・・・といったほうが適切でありますが)と、上場企業としての透明性、公正性を確保していくべき要請との衝突場面など、けっこう頻繁に発生しますね。とりわけ「特別利害関係者・関連当事者との取引(その解消方法)」といったあたりは、経営者の方々のご認識と、支援する方とではかなりズレが生じているようですから、「上場するということはこんなものなのか・・・、ここまでまじめにやってきた俺を信用しないのか・・・」といったショックをはじめて経営者の方々が味わう場面かもしれません。証券会社さんや、監査法人さんは、これまでの経験から保守的な意見を述べる傾向にありますが、それが経営者にとってはナットクがいかないことも多いようで、ときには代替案を提示したり、ときには監査法人さんの見解を法律的な面から解釈して経営者の方へナットクしてもらったりと、最近はけっこう弁護士を中心としたIPO支援業務にも、それなりの役割があるように思えてきました。
ところで、IPOにも既上場企業にも関係するテーマでありますが(このあたりの話題はkatsuさんや、辰のお年ごさんの関心分野だと思いますが)NECの子会社(70%保有)であるNECエレクトロニクス社の一般株主(ペリー・キャピタル)が、NECエレの業績不振が長引いているのは親会社による支配に一因があるとして、親会社であるNEC社からの独立を要求しているそうであります。(朝日新聞ニュースはこちら)NECエレの業績不振(2年連続赤字)の原因は、親会社であるNECの意向により、思い切った戦略に踏み込めないとして、具体的にはこの株主が、NECエレの25%の株式に、65%程度のプレミアムを付して約1500億円で買い取る旨意思表示をされているとのこと。これに対して、NEC側は一般株主側に対して、まだ何の明確な意思表示はされていないようであります。なお、これまでの経緯につきましては、katsuさんのエントリー(アクティビスト活動が本格化? NECエレクトロニクスの続き)あたりが詳しくて参考になります。(といいますか、katsuさんの9月18日の英国年金運用会社ハーミーズの話題、ホンマおもろいです。・・・笑)
現在、東証に上場している会社のうち13.5%程度が親会社を有するものだそうでありますが、親会社(支配株主)とその他の一般株主との間においては、親会社の意向にはなかなか子会社の取締役は異を唱えることができず、親会社の戦略に拘束されてしまうおそれを内包している、とのことで利害対立することが考えられます。東証では「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」と題するニュース(今年6月)におきまして、証券取引所としての考え方を公表しておりますし(「上場制度総合整備プログラム2007」参照)、また東大の神田先生を座長とする上場制度整備懇談会の中間報告書(本年3月リリース 15ページから17ページ)におきましても、少数株主と親会社との利益相反の関係があるために、かならずしも市場関係者にとって望ましい資本政策とはいえない、とされています。
問題はあるけれども、子会社上場にもそれなりの効用はあるので禁止されるものではなく、ただ「望ましい資本政策とはいえない」ということですから、これを「グレー」と表現することも適切ではないのかもしれません。そこで子会社上場を認めつつも、その弊害を防止するための措置といったものをどう考えるかがポイントになろうかと思われます。証券取引所にも上場審査基準としての「独立性要求基準」や、その後の独立性確保のための情報開示などの弊害防止措置があるようですが、それらは主に説明責任(アカウンタビリティ)を尽くすことに重点が置かれているようで、実際の防止措置の仕組み作りといったことは、上記中間報告書においても「今後の検討課題」とされているようであります。
ただ、ひとつ疑問に思いますのは、実際の防止措置の設置というのは「将来への課題」ということで済ませておいていいのかどうか、といったあたりであります。会社法362条4項6号、同施行規則100条1項5号によりますと、大企業の場合、内部統制システムに関する基本的な整備に関する決議を必要とするわけですが、そのなかに企業集団における業務の適正を確保するための体制確保に関する決議も必要になるはずであります。たとえばある上場企業がある企業の子会社となった場合には、その子会社側はガバナンス報告書のなかで基本方針をリリースするべきでしょうし、親会社が上場企業であれば、同じく親会社にも企業集団の業務適正確保のための整備に関する決議が必要なのではないでしょうか?もちろん、自分の会社は新たに体制を整備する必要はない、という決議も可能かもしれませんが、それではどういった体制が存在するので不要と判断したのか等、その「仕組みが存在すること」を説明する必要もあるのではないでしょうか?そういったことからしますと、たとえば先の例で一般株主から子会社の独立性に関する疑義が呈されたような場合においては、まずなによりもこの会社法上の内部統制システムの整備義務に関する法令上の根拠から、なんらかの法令遵守に関するリリースがあっても当然のように思えますが、いかがでしょうか。
ちなみに、「論点解説 新会社法(千問の道標)」(相澤・葉玉・郡谷編)では、その338ページにおきまして、親会社や子会社において、「企業集団の業務の適正を確保するための体制として」どのような事項について決定すべきか、といった例示がかなり豊富に記載されております。このあたりは、いままであまり議論されてこなかったところかもしれませんが、単に「将来的な課題」では済ませられない場面というものも、株主側からのアクションによって顕在化するものだと私自身は理解しているのですが。(また、どなたかお詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示ください)
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