金融商品取引法と買収防衛策の関係
いよいよ10月となり、金融商品取引法もほぼ全面施行(正確には9月30日より)となりましたが、当ブログでも、若干ではありますが金融商品取引法に関連した話題について考察してみたいと思っております。といいましても、私の素人的発想からの「会社法と金融商品取引法にまたがる論点」に関する話題でありますので、また気楽に読み流していただければ結構かと存じます。
当ブログでは、過去に何度か「買収防衛策に関する素朴な疑問」シリーズをアップしてまいりましたが、今回もその延長上でのお話であります。ブルドック最高裁決定を契機として、法曹界(企業法務実務の世界)では今後の事前警告型買収防衛策のあり方について、盛んに検討会が開催されているようでして、ひさびさにコメントを頂戴しました「とーりすがり」さんのご指摘も、私なりに正論ではないかと考えております。つまり、事前警告型買収防衛策の導入発動の場面においては、今後は(とりわけ発動の場面では)株主総会による承認手続きがなければ、裁判所は認めてくれないのではないか(適法とは判断しないのではないか)・・・との考え方もある一方で、そもそも株主としては、TOB手続きのなかで成否を決することができればいいわけですから、なぜ株主総会で承認手続きを得る必要があるのだろうか・・・との疑問であります。なお、この疑問につきまして、ひとつの回答としては、田中亘成蹊大学准教授が「ブルドックソース最高裁決定の法的検討(下)」(商事法務9月15日号)のなかで、「強圧的な二段階TOBの可能性がある場合」には、一般株主への萎縮的効果を緩和するためには(発動の是非を問う株主総会を開催することも)意味があるのではないか・・・と説明されていらっしゃるところであります。(つまり、買収希望者の意向に賛同しているわけではないが、ひょとしてTOBに応募しないていると、思いがけずに少数株主となってしまって、その後著しく不当な価格で排除されてしまうのではないか・・・と不安に思う株主にとっては、この総会決議の帰趨によって事後の対応を予測することが可能となる、というところでしょうか。)
私も、このブログで以前から述べておりますとおり、とーりすがりさんと同じ疑問を抱いているひとりでありますが、ちょっと素人考えの域を出ておらずに恐縮なのですが、はたして裁判所は、こういった金融商品取引法の法制度の現状を「所与の前提」として、買収防衛策の適法性の要件に関する解釈に用いていいものなのだろうか・・・といったところの疑問であります。つまり、発動場面に総会決議を要するとみる側も、不要だとする側も、TOBの制度があるから、とか、強圧的TOBの可能性があるからとか、そういった金融商品取引法上のルールを持ち出すことは、裁判所に対して説得的な理由たりうるのだろうか、といったあたりの疑問であります。買収防衛策の是非を裁判所が論じる場合、そこには機関における権限分配論とか、株主平等の原則とか、株式の自由譲渡性の制限など、会社法の解釈問題として判断されることは当然だと思いますが、そこに(政省令を含めて、頻繁に改正される)金融商品取引法制の解釈問題は出てきていいのだろうか、といったあたり、これまでそんなに議論されてこなかったのではないでしょうか。もちろん、買収防衛が問題となる場面、つまり買収者の相対取引の効力とか、対象会社側の株式割当て行為の効力など、個別の取引行為の効力が問題となるような場面では「行為規範としての金融商品取引法違反の相対取引や割当て行為の民事上の効果に及ぼす影響」といった問題は出てきますが、それはそういった取引行為などが独占禁止法に抵触するかどうか、といった問題と同様のレベルでありまして、防衛策の発動要件の解釈にあたり、金融商品取引法制のあり方が影響を与えるか、といった問題とは明らかに区別されるはずであります。
私の疑問は普通に考えましたら、かなりナンセンスかもしれません。そもそも上場会社の株式でなければ、買収者は企業価値の把握は困難ですし、また買収に要するコストの把握も困難でありますので、上場会社以外の大規模敵対的買収はありえないようにも思えますし、だからこそ上場企業以外には、買収防衛策の導入を検討するようなリスクはありえないのかもしれません。しかしながら、ご承知のとおり、会社法上の「公開会社」=「上場会社」ではありませんよね。市場における株式売買制度を利用していないけれども、種類株式発行会社として、発行株式の一部でも自由な株式譲渡が制限されている会社は、会社法上の「公開会社」として、当然のこととして存在するわけであります。したがいまして、裁判所としましては、上場されてはいないけれども、「会社法上の公開会社」として、株式が自由に譲渡できるような会社にも妥当する買収防衛策の是非に関する判断基準を想定しなければならないのではないでしょうか。いや、そこまでの必要性はないとしましても、買収防衛策の適法性要件を裁判所が検討する場合には、「金商法がこうなっているから」といった判断理由を書くことについては、かなり消極的になるのではないか・・・とも思われますが、いかがでしょうか。これが会社法上の公開会社=金融商品取引法適用会社であったり、「公開会社法」といった特別の会社法制が誕生すれば、金商法の制度がこうなっているから・・・といった理屈も堂々と判断理由にできるのでありますが、どうもそのあたりが私にはすっきりと整理できていないところであります。
このように考えますと、金商法上のTOBルールがあるからといっても、それだけでは裁判所が定立する防衛策の適法性に関する要件にはあまり影響はなく、むしろ最高裁の考え方というのは、金融商品取引法の制度はどうあろうと、(少なくとも、無償割当てによる事前警告型の買収防衛策の発動にあたっては)株主総会の承認手続きを必要とする方向性にあるのかな、と最近は考えたりしております。さらに言えば、今回は、たまたま「買収防衛策そのもの」の適法性要件との関係で、ブルドック最高裁決定が検証されておりますが、本当に買収防衛策と司法判断との関係を検討するためには、どういった争い方をすれば金商法マターで争点を形成することができるのか、独禁法マターで争点を形成することができるのか、などかなり広い視点を持つことが必要のように思います。
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