2016年5月20日 (金)

三菱自動車燃費偽装事件-人事政策と不祥事を生む企業風土

三菱自動車さんは「迅速な経営」、そしてスズキ自動車さんは「効率経営」を徹底的に標榜したことで、燃費不正を発生させてしまいました。スピード経営、効率経営は攻めのガバナンス(企業の競争力向上を後押しするガバナンス)が推進するところですが、攻めのガバナンスを徹底すると、こういった守りのガバナンスを無効化する現象を生みやすくなる、ということが露呈されたように思います。

昨日(5月18日)、人事部長を経験された某役員の方と夕食をご一緒したのですが、人事部長さんだったころのお話はなかなか興味深いものでした。経営トップと人事部長で異動を含めた人事政策を検討するのは部長級及びグループ会社のトップまでで(人事担当役員という方はいらっしゃったのですが、あまり権限はなかったそうです)、その下は部長級クラスの方々の意見が最も尊重されるのであり、全体の組織のパワー発揮を重視して、バランスをとる程度しか人事部は関与しなかった、とのこと。これは楠木新さんの最近のご著書「左遷論」の中で、同じようなことを楠木氏もおっしゃっています(「左遷論-組織の論理、個人の心理」中公新書58頁以下)。

本日(5月19日)の日経夕刊社会面に、三菱自動車燃費偽装事件に関する取材記事が掲載されていまして、本社部長クラスの方が、部下に「なんとしてでも燃費目標を達成しろ」「やり方はおまえが考えろ」と高圧的な発言をしていたことがわかった、と報じられていました。直接指示をしていた事実もあったようですが、おそらくこういった経営幹部のプレッシャーによって部下が燃費偽装に手を染めてしまったものと思われます。これは東芝会計不正事件における「チャレンジ」「工夫しろ」「社長月例」と同じ構図であり、経営トップ(もしくはトップに近い方々)が不正に関与しているわけではないが、不正を許してしまった企業風土に問題があった、と会社側が説明する際の常とう文句です。

このような原因分析があたりまえになると、とりあえず経営トップは辞任ということで責任をとりますが、「企業風土に問題があった」ということで、三菱自動車さんの場合には部長級の方々、東芝さんの場合にはカンパニーのトップの方々は社内処分だけで済み、ほとぼりが冷めたころには経営トップに近いところで要職に就かれるはずです。そのような方々は社内でも顔が広く、結果もきちんと残しているので、おそらく人事権も握ることになるのでしょう。歴代の経営トップの方々の「不正関与疑惑」についても、墓場まで持っていく気概(私の胸にしまっておくのでトップは汚さない)なので、そのことが上司からの信頼をさらに増す要因にもなります。厳しい不祥事の矢面を一回経験して「学習機能」が発達しているので、次回はさらに隠ぺいが上手になりますし、リスク管理の専門家を活用するノウハウにも長けてきます。

ということで、日本企業の典型的な人事制度を前提とするかぎり、不祥事を生む企業風土が簡単に変わるわけがなく、売上目標や開発スピード、製造原価の低減だけを目標とした経営に加担していた方々による「悪しき企業風土」は長く組織に根付くことになります。住宅ローンや教育費、そして親の介護にお金が必要な世代であれば、組織力学を優先して行動することも当然かと思われます。

しかし、楠木さんが上記「左遷論」でも述べておられるように、「一億総活躍」しなければならない時代、もはやこれまでの(人の能力よりも組織パワーを重視した)人事政策はもたなくなってきます。「悪しき企業風土」が残る組織はかならず国民から「自分たちの幸福追求にとって不要な会社」と選別され、淘汰されてしまうことになります。そうならないためには、やはり「企業風土」をどうすれば変えていけるか模索する以外に持続的成長はのぞめないように考えます。よく「コンプライアンスは経営トップ次第」と言われますが、実際に高圧的な発言をした社員、その高圧的発言で不正行為に及んだ社員が会社にいらっしゃるかぎり、それでは思考停止に陥ってしまいます。ではどうすべきか?私はすでにセミナー等で持論をお話しておりますが、私なんかよりもっと「根回し」とか「貸し借り」とか「汚れ役」など、人間を冷徹に洞察して組織力学を実践された方々に検討していただきたい課題です。

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2016年4月27日 (水)

三菱自動車の対応に関する素朴な懸念(かなりピンチでは?)

今日(4月26日)も、午後4時半からの三菱自動車さんのトップ会見をニコニコ動画で拝見しておりました(最近は生中継で最後まで視聴できるので勉強になります)。これはあくまでもコンプライアンスに関心をもつ弁護士としての個人的意見にすぎませんが、三菱自動車さんの燃費性能偽装事件はかなりマズイ方向に進んでいるように感じました。

燃費偽装の不正を構成する高速惰行法による抵抗値測定は1991年から始まっていたことが明らかになりましたが、その一方で先日の会見では明らかにされていた特定社員の偽装指示の事実は撤回されました。つまり組織としての構造的な欠陥があったけれども、誰が主犯なのかは不明といった説明です。設置された特別調査委員会による調査結果を待つ、とのこと。不正発見の段階において自浄作用を発揮できませんでしたが、さらに危機対応としての不正調査や原因究明の段階でもまったく自浄機能を発揮することなく、むしろ放棄してしまったということになります。

また、高速惰行法による抵抗値測定を行った車種、机上計算によって抵抗値を算出した車種、いわゆる法令違反状況において製作された車種を特定できるにもかかわらず、記者会見ではその特定車両の開示を拒否しておられます。いまだ調査未了なので全貌は明らかにならないとしても、全国に多くの三菱自動車のオーナーがいるわけで、「自分の車はだいじょうぶか?」と心配する人たちに何らの情報提供もしないというのは、企業の社会的責任という視点からいかがなものでしょうか。ましてや、法令違反行為によって作られたクルマを、これからも売り続けることについて、どう経営トップは考えておられるのでしょうか。たしかに法令違反が=燃費偽装(不正)や安全性能の欠如につながるわけではありませんが、燃費偽装は法令違反行為と密接に関連していることは明らかなので、せめてどのクルマの性能試験に法令違反があるのか、すみやかに明らかにすべきです。

さらに、1991年から違法な試験方法が長年続いていたとなると、いくら開発部門だけしか知らなかった問題だとしても、すでに25年も経過しているのですから、不正に関与していた(もしくは不正を知っていながら黙認していた)社員がいまごろは経営幹部になっているはずです。ということは、もはや組織ぐるみで不正を隠ぺいしているといわれてもしかたないのでは、と素朴な疑問が湧いてきます。

結局のところ、国民の財産の安全を守るためには、国交省としては(全自動車メーカーに対して)性悪説に基づく事前規制の強化に乗り出すか、もしくは事前規制強化が他の自動車メーカーの国際的な競争力を低下させることになってマズイのであれば、三菱自動車さんだけに対して(見せしめとして)厳格な事後規制をかけるしか方法はないと考えます。たしかに三菱自動車さんは検察ご出身の方々による調査委員会を新たに設置していますが、元最高検検事の方が企業倫理委員会の委員長として、長年同社のコンプライアンス経営をチェックされてきても不正を発見できなかったわけですし、1991年から今日まで、このような不正の温床が継続していたとなりますと、(その間に何度もリコール隠し等の不正が発生していたのですから)どのような調査結果が出たとしても、もはや調査内容の信用性には疑問符が付くのではないでしょうか。

これは本当に私見にすぎませんが、三菱自動車さんの今回の件につきましては、たとえ国民ひとりひとりの損害はそれほど大きくないとしても、刑事事件に発展する可能性もあるように思えますし、今後の同社の危機管理能力が問われるはずです。私には、三菱自動車さんを支援する企業に対しても「なぜ、あのような会社を支援するのか、その合理的な理由を説明してほしい」と多くのステークホルダーから詰め寄られることまで想起されます。

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2015年7月31日 (金)

改正景品表示法のグレーゾーン-不正競争防止法との境界線(その2)

昨年11月のエントリー「改正景品表示法のグレーゾーン-不正競争防止法との境界線」の続編でございます。すでにご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、外食の木曽路さんが、北新地店など3店舗で松阪牛と偽り別の和牛を使用していた産地偽装問題で、大阪区検は不正競争防止法違反(誤認惹(じゃっ)起(き))罪で、同店元料理長2人と、法人としての同社を大阪簡裁に略式起訴したそうです(産経新聞ニュースはこちらです)。たしか三重県の弁護士の方が「景表法では甘い!松阪牛のブランドを守るためにも厳罰を!」といったことで刑事告発をしていた事件です。

昨年10月、木曽路さんは消費者庁から景表法違反で行政処分を受けていましたが、今度は不正競争防止法で刑事処分を受ける可能性が高まりました。昨年のエントリーでも述べましたが、BtoBではなく、BtoCの取引に不正競争防止法を適用して刑事処分を行う、というのは注目すべき点あり、先日のABCマートさんの労基法違反事件とも併せて、「刑事罰リスク」が偽装事件でも高まっていることに注意が必要かと思われます。とりわけ他社が商品ブランドを上げるために汗を流しているところへ勝手に踏み込むような優良誤認行為については、不正競争防止法による刑事罰リスクのほかに、改正景表法による(改正法施行後の)課徴金処分のリスクも存在するように思われます。不正リスクマネジメントにおいて、重大な信用毀損を招くことの意識を転換することが求められます。

また、労基法違反や景表法違反などが端緒ということになりますと、内部告発リスクも高いと考えられます。労基署や消費者庁、消費者センター等、社員が比較的安心して情報提供できる先が管轄となると、「不正はいずればれる」と思っておいたほうが良いですね。

行政処分では済まされず、法人が刑事処分を科せられるというのは、もはや法人自身による自浄能力の発揮が期待されないからでして、国民に同様の被害を与える法人が出てこないように「みせしめ」制裁による不正予防効果にしか期待がもてないからです。法人に対する規制緩和が進み事後規制社会に移行する中で、行政が国民から「不作為の違法」を問われないためには、この法人に対する刑事処分を活用する以外に良い方法はないわけで、今後も同様の対応が増えるものと予想します。したがって(毎度同じことばかり申し上げて恐縮ですが・・・)企業のリスクマネジメントとしては、平時においては内部統制システムの構築を、そして有事においては自浄能力の発揮を心がける必要があります。なお、今国会で成立した改正不正競争防止法については、こちらのエントリーで述べたような事件もあり、コンプライアンス・プログラムの策定等、内部統制システムの構築は必須でしょうね。

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2007年11月20日 (火)

赤福、ついに正念場(組織ぐるみ認定)

三重県の食品衛生法違反による調査で、大阪地域での売れ残り全品が再利用されていたことが認定されてしまったようです。これまで、このブログでは「組織ぐるみ」とはいえない、としてきましたが、ここまできますと、私の主張を撤回せざるをえないようです。(県も、赤福は組織ぐるみだった、と発表したようですね。)

組織ぐるみであると三重県が判断した理由は、過去2年間の商品廃棄率が2%から3%ときわめて低く(これはハイテク企業が環境ビジネスプランを導入している場合の廃棄物廃棄とほぼ同じレベルですね・・・・(^^;; )、これは企業として再利用する体制がなければ達成できない割合だから、とのことです。なお、これに対して赤福社は12月14日までに報告書を提出する必要があるそうで、いよいよ赤福社にとっての正念場となりそうであります。

さて、「組織ぐるみ」と認定された今、赤福はどうやって現経営陣が立て直していけるのでしょうか。「地域の雇用」「三重県発展のための事業会社の継続」「赤福そろそろ食べたい症候群」「300年の歴史」「百五銀行(メインバンク)の支援条件」などなど・・・

業務中にて、とりいそぎ備忘録程度で失礼します。

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2007年11月19日 (月)

公取委の不当表示警告への疑問

11月16日、公正取引委員会はNTTドコモとKDDI(AU)に対しまして、「料金割引サービスに関するチラシの表示方法が、景品表示法4条1項2号(有利誤認)に違反する」ものとして、厳重注意処分を下したそうであります。(公取委の公表内容はこちら。)本日(11月18日)、自宅近くのAUショップに出かけまして、現在通用中である「フルサポート割引チラシ」の現物を眺めてきましたが、やはり公取委の処分対象となっております「誰でも割」と同様、チラシの一番下のところに細かい文字で解約料の発生する場合に関する条件の記載がありました。(現実にこうやってチラシを見たところ、たしかにこれは説明を受けなければ誰も読む気にはなりませんね・・・)NTTもKDDIも、公取委に対して当初反論をされたようですが、最終的には厳重注意を真摯に受け止める、ということになり、おそらく業界の自主ルールも改訂されることになるんじゃないでしょうか。

今回の公取委の処分につきましては、一般消費者にとっては意味のあるところだとは思いますが、すこし気になりましたのが、そもそも公取委は上記2社に対して広告の訂正を求める排除勧告でのぞむはずでありましたが、(1)判読しづらいとはいえ、いちおう解約料発生条件に関する記述があること、(2)契約時において、口頭での条件説明がなされていることから、(排除勧告までは出さずに)厳重なる注意、という処分ということにした ようであります。(これは公取委の公式意見ではありませんが、こちらの西日本新聞ニュースの記事や、11月17日土曜日の日経新聞3面解説記事にも掲載されているところなので、ある程度たしかなものと思われます)

以前、金融機関における「金利表示」について、公取委が不当表示を問題にしたときにも疑問に感じたところでありますが、なぜチラシの表示自体の違法性(景表法違反)を問題としているにもかかわらず、「店頭における口頭説明の良し悪し」を持ち出すのでしょうか?そもそも景表法違反はチラシの表示自体から悪性判断をすべきであり、説明義務を尽くしたかどうかは、なんら公取委が問題とすべき判断基準にはなりえないはずだと思われます。こういった他事考慮(チラシの違法性を判断するにあたり、販売方法の是非を考慮すること)につきましては、行政処分の恣意性を高めることになってしまって、業界の自主ルールを改訂したり、社内における行動基準を定めるにあたって、違反行為の予測可能性を低減させることになるのではないかと思います。また、説明義務を尽くしたかどうかは、契約法の法理に関わる問題であって(たとえば金融商品の場合であれば、金融商品販売法の問題)、これに公取委が軽々に踏み込むことにつきましては民々の紛争解決にも影響を与えてしまうおそれがあり、妥当な対応とはいえないものと思われます。逆にいえば、公取委が不当表示について排除勧告を出そうとしているときに、対象企業側としては、各店舗において有利誤認を防止するための説明義務を尽くしていることや、別のチラシ等において、誤認防止のための表示をしていることなどを持ち出して、排除勧告を免れることは検討されてもいいのでしょうかね?こうなりますと、もはや「不当表示」と「説明義務違反」との区別が曖昧になってしまうような気がいたします。

商品表示の適正を求めるといいましても、スーパー等の小売店で販売している商品のように、表示そのものしか問題にできない場合と、金融商品や携帯電話、不動産のように、商品表示はあくまでも購入のための誘引にすぎず、その先の商品説明によって購入されるような場合とでは、その意味が少し異なるのかもしれませんが、ただいずれにしましても、「表示」そのものが一般の人からどのように受け止められるか、といった観点から適正性は判断されるべきであり、商品販売方法の是非につきましては、これと峻別して検討すべきではないでしょうか。

(参考 不当景品類及び不当表示防止法 関連条文)

(目的)第1条 この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)の特例を定めることにより、公正な競争を確保し、もつて一般消費者の利益を保護することを目的とする。

(定義)第2条 2 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行なう広告その他の表示であつて、公正取引委員会が指定するものをいう。

(不当な表示の禁止)第4条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号に掲げる表示をしてはならない。 2.商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示

(お知らせ)ところで「アルファブロガー2007ノミネート」の件ですが、たくさんの応援メッセージを頂戴しております。(こちらでご覧になれます)また、初めて知りましたが、ノミネートされております60ブログのなかで、中間集計ではありますが、当ブログがベスト20に含まれている、とのこと。驚きです・・・・・・。これもひとえに皆様方のご支援の賜物以外にありません。本当にどうもありがとうございます。これを励みに、これからもマニアックなブログとして頑張ってまいります。

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2007年11月15日 (木)

「うっかり表示」と「悪意の表示」

定量分析実践講座につきましては、続々とコメントをいただき、またそのコメントがけっこう「熱いもの」なんで、ぜひ続編を書かせていただきます。私も、もうすこし先まで読み進めてみたいと思います。(リスク、という言葉ひとつとりましても、この本を読んでいろいろな発見があって、ホントおもしろいですよね。)そして、もうひとつの話題であります「赤福再生」につきましても話題が尽きまないところですが、監査役サポーターさんがおっしゃるように、あまりにも「船場吉兆」さんの対応がフォローできないほどに支離滅裂なため、マスコミの矛先がそっちに向いてしまいましたね。不当表示発覚当初、一緒に謝罪会見を行っていた岩田屋さんにまで「もう、あんたとはやってられまへんわ」とそっぽを向かれてしまったようで、どうにもフォローできない状況になってまいりました。(しかし、資本関係にない、別の吉兆グループの会社も相当のダメージを受けているんではないでしょうか)船場吉兆さんの「沈み具合」を見ておりまして、ますます「組織ぐるみ」であることの印象が強くなるのでありますが、それに引き換え、いろいろと不当表示の事例が明るみになるわりには赤福さんの「組織ぐるみ」といった印象を強くする報道は出てこなくなりましたよね。これ、皆様は、どこに違いがある・・・とお思いになるでしょうか?

不二家に始まる今年一年の偽装(不当)表示問題でありますが、赤福再生プログラムに関するエントリーを書き、また皆様方からのコメントを拝見しておりまして、インサイダー取引と同様、不当表示問題にも「うっかり不当表示」と「悪意に満ちた不当表示(偽装表示)」があるように思いますし、区別して考えることに、それなりの意義がありそうです。「うっかり不当表示」というのは、たとえば現場担当者のミスもしくは現場担当者の故意による不当表示事案であり、偽装表示といいますのは、ミートホープ社に代表されるような、いわゆる「組織ぐるみ」の不当表示と区別するものであります。現時点では違法とは評価されませんが、消費期限切れの加工原材料を(それと知らずに)使用して食品を製造した場合も、この「うっかり不当表示」に含まれるかもしれません。悪意の不当表示ということであれば、まさに経営トップが積極的に関与しているようなケースであり、その修正はガバナンスの問題に発展するであろうと容易に想像がつきます。皆様ご指摘のとおり、ここまでくると、もはや内部監査あたりでは有効に機能しないのかもしれません。しかし、うっかり不当表示というものが(もし一般的に)区別できるものであるならば、やはりガバナンスの問題というよりも、内部統制の問題として検討されてしかるべきではないでしょうか。

最近の読売ニュースによりますと、競争法分野(景表法)におきましても、不当表示(他社製品よりも性能、品質等において優っていると誤信させるような)には課徴金が課されることになるようでして、売上の3~5%(!)という高額なものとなるそうであります。これは経営トップの関与には関係なく当該企業に課されることになるでしょうから、現場担当者の判断に基づくような場面でも大きな損失を企業が負担することになりそうであります。こういったことから考えられることは、今後は「表示」だけでなく、企業情報の開示などの全てを含めて「不当表示防止」のプログラムを社内で検討すべき時期に来ていると思いますね。景表法、不正競争防止法、JAS法、その他諸々の行政取締法規など、企業が開示する情報の正確性を担保することが、企業の社会的信用を維持するために重要な施策になってきたことは否めないところであります。ひとつの基準としましては、社内における事実認定→情報管理→開示、非開示判定作業→開示手続き、といった一連の開示統制システムの整備が、コンプライアンス経営のきわめて有力な手法であると考えております。

ひとつの考え方としては、不当表示を防止するために、食品の安全を保証する民間機関を設けまして、「JASマーク」の付いていない食品はスーパーには置かない・・・といった手法も考えられるところではあります。しかし昨今の改正建築基準法に由来するところの建築業界の不況問題のように、消費者の安全に大きく重心が置かれますと、過度の経済萎縮効果を生み出すことにもなりかねませんので、消費者の安全を確保しつつ、消費者の選択の期待に沿うように、機動的に経済活動が活性化していくこととの間での調和を求めるためには、やはり現状のように企業自身による表示の適正確保に期待をかけるしか方法がないと思います。そして、企業自身における「品質表示システム」のようなものを企業自身がPRすることで、はじめて消費者の自己責任に頼ることができるのではないかな・・・と思います。ということで、赤福再生プログラムではありますが、私は元従業員や取引先の証言のように、赤福社が「組織ぐるみ」「トップ関与」といった明らかな認定材料でも飛び出してこない限り、たとえ長年にわたる「まき直し」「先付け」が存在しましても、なんとか内部統制問題で検討してみたいと思っているところであります。(こんなこと言っているうちに、「経営トップ関与」が判明するような証言が飛び出してきたりして・・・(^^;  )

※ 今日は(今年の株主総会のなかで一番盛り上がったと思えます)パトライト社の創業者TOBや、夜になってオートバックスセブン社の新株予約権発行の中止など、きわめて興味深い開示情報が出ておりまして、そっちの話題にも触れたかったのでありますが、時間切れとなってしまいました。。。しかしこういった興味ある情報が開示されるのは、早朝か深夜が多いですね。

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