スコーピオン・キャピタルの不正会計疑惑への指摘は教訓とすべきである
9月18日、大手生保会社が機関投資家としての行動規範であるスチュワードシップ活動報告書(2024年)を公表されたそうで、その中で、性加害問題のあった旧ジャニーズ事務所と取引のあった投資先企業62社に対し、人権問題への対応状況を確認中であることを明らかにしたそうです(ブルームバーグニュースはこちらです)。旧ジャニーズ事務所創業家の方が、最近すべての関連会社の役員を退任されたことが報じられていますが、こういった経緯を取引先もモニタリングされているのでしょうね(以下本題です)。
さて、7月16日に「空売りファンドの戦略-監査役員こそ見習うべきでは?」なるエントリーでスコーピオン・キャピタルによってレーザーテック社が不正会計疑惑を指摘された事例をご紹介しました。その後、9月17日の日経ニュース記事「レーザーテック、空売りファンド『サソリの毒』広げた甘さ」で会社側の対応が紹介されているように、会社側の危機対応にややタイミングが悪かった問題もありましたが、調査委員会を設置して「不正は認められなかった」との調査結果を公表し、ほぼ一件落着となったようです。
上記日経記事では、レーザーテック社の平時からの脇の甘さを指摘していますが、同社CFO退任にまで至った経緯は決してレーザーテック社固有の事情とも言えず、他社も教訓とすべきと表現しています。これまでも不正会計疑惑をファンドによって指摘される事例はありましたが、スコーピオンのレポートはかなり精緻な指摘もあり、風説の流布(金商法上の不適切行為)とも言えないところがありますので、こういった事案も株主との対話が重視される時代には留意が必要ですね。
といいますか、(私の勝手な意見ですが)そもそも今回のスコーピオンの不正会計疑惑の指摘は政府(とりわけ金融庁)も(表だっては言わないものの)ウエルカムなのではないか、と考えるところもあります。すでに何度も申し上げているように、2013年から始まった企業統治改革がそれなりに実効性を発揮するに至ったのは、昨年3月の東証「PBR1倍割れ改善要請」から金融庁・アクションプログラムの公表、経産省企業買収行動指針の公表に連なる一連のハイリスク・アプローチ(民間の力を借りた行政施策の推進)によるところが間違いなく大きいわけです。今回の一件も、このハイリスクアプローチによる施策の具体化とみることができるのではないかと。
企業情報開示の健全化は金融庁も推進しているところであり、これをいちいち行政処分の発動によって対処することは金融庁のもつ資源からみて困難です。当然、民間の力を活用して健全化を図るという方向性は十分に考えられるわけでして、スコーピオンのレーザーテック社へのポジティブなアクションはまさにその方向性にありそうです。ということで(?)、ファンドによる同様のアクションは制度会計への関心が薄い上場会社にとっては要注意ではないかと思うところです。