2017年3月30日 (木)

ディスクロージャー改正-いよいよガバナンス改革の試金石

ちょうど1か月前となる3月1日、日経ビジネス(WEB版)で「中長期を見据えた構造改革を断行し、また働き方改革を先頭切って実現した素晴らしい経営者」として、三越伊勢丹HDの社長さんの対談記事が掲載されました。その社長さんが、ご存知のとおり、明後日に任期途中で退任されます。この退任劇を後出しジャンケンの説明で世間を納得させようとする記事でもう「おなかいっぱい」になりました。また、今回の退任劇をとらえて「これで構造改革の実行体制が整った」と前向きにとらえる証券会社(野村證券さん)もあれば、「改革の後退につながりかねない」と後向きにとらえる証券会社(みずほ証券さん)もあり(3月12日付け日経ヴェリタス誌より)、おなじファクトが開示されても投資家によって経営環境に関する意見が180度違うことがわかります。これはディスクロージャー制度を考えるうえでも重要ですよね。

さて、月刊誌FACTA4月号ですでに大きく報じられていましたが(40頁以下「安倍首相が葬った決算短信の『業績予想』」・・・毎度ながらかなり派手なタイトルですが・・・)、決算短信の業績予想欄、サマリー情報の自由記入化(旧様式から新様式へ)がようやく新聞各紙でも取り上げられるようになりましたね。速報性の観点から上場会社の開示義務を軽減し、自由度を高めることは方向性として望ましいといえそうです。ただ、マスコミ報道によると「これによって情報開示が萎縮してしまうのではないか」と予想されています。

何を書いてもよい、会社の裁量の幅が広がる、ということは、株主との建設的な対話を促進するためには必要なディスクロージャー改革だと思います。おそらく政府もそのあたりを大いに期待しているのでしょう。ただ「いつか来た道」のような気もします。日本で初めてプリンシプルベースの証券市場規制を採用した2008年のJ-SOX法(内部統制報告制度)と同じ道をたどるのではないでしょうか?当時、上場会社は「有効性判断は自社の立場で自由に行ってください」との説明を受けました。企業も監査人も「もっと詳しいマニュアルがほしい」と要望しましたが「プリンシプルですから」との理由で詳細マニュアルは叶わず、結局は横並びの開示になってしまい、現在まで投資家への有力な情報提供にはなりえていません。

今回も、決算短信の簡素化で情報開示の自由度が増したことは良いとしても、一方においてはフェアディスクロージャー・ルールの施行によって、企業は(インサイダー規制に怯えながら?)情報提供の公平性にも配慮しなければなりません。さらに、金融庁の企業規制にフォワードルッキング分析が採用され、「トンデモ企業」「ハコ企業」の監視から誠実な企業の不正監視へと重心を移しつつあり、これも企業の情報開示を慎重にさせることが予想されます。このたびのディスクロージャー改正も、プリンシプルベースの行為規制が基本となるので、担当者は「情報開示では、なるべく目立たないようにしておこう・・・」といった消極的な姿勢となり、J-SOX開始時と同様、ともかく横並びを意識する上場企業が増えるのではないでしょうか(それではアカンやろ!!といったお声が聞こえてきそうですが、ともかくガバナンス改革対応が担当役員マターであり、社長マターにならないかぎり「ディスクロージャー対応は横並び」になってしまうと私は断言できます・・笑)。

なお、J-SOX開始時と異なるのは、政府が(日本企業の成長戦略として)ガバナンス改革を推進しているという時代背景です。どうしても株主との建設的な対話を実現させたい。ガバナンス改革を「形だけでなく実質へ」と深化させたい政府としては、上場会社の横並び意識をどのように積極姿勢へと転換させるのか、政府主導の更なる打ち手が必要です。ところで、時価総額上位500社以外の上場会社にとって、株主との建設的な対話にどれほど熱心になれるのでしょうかね?また、業績が好調な企業、業界はよいとしても、業績が上がらない企業が情報開示に積極的になれるのかどうか、とても不安を感じるところです。(実際のところ、海外の機関投資家は、「業績が悪くなったら『間に合わない』といいながら情報開示に消極的になるのではないか」とかなり批判的です)

本当に上場会社全社において株主との建設的な対話を促進させ、また機関投資家による議決権行使の個別開示の実効性を上げたいのであれば、同業他社比較、過年度業績比較をわかりやすくするために、むしろガチガチに決算短信の内容を固定化したほうが良い、という意見もありうると思います。ただ、簡素化という道を選んだのですから、結論的には情報開示の姿勢で各社大きく実力の差が出ることが望ましいのでしょうね。ディスクロージャー制度の改正は、その効果がはっきりと目に見える形で出ますので、このたびのガバナンス改革が深化するのか、それとも「やらされ感による形式的遵守」で終わるのか、これを判断するための大きな試金石になるものと考えます。

 

3月 30, 2017 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年5月25日 (水)

上場会社は「株主との対話」の前に「監査法人との対話」が必要ではないか?

拙ブログはアドレスをたどってお越しいただく方よりも、BLOGOSで読まれている方が圧倒的に多いのが現状です。なので、コメント欄はあまりご覧にならない方が多いと思うのですが、最近は「流星さん」ほか、多くの方の有益なコメントが付いておりますので、ときどきはアドレスから拙ブログに入っていただき、参考にしていただければ幸いです。

ところで、東芝さんが減資発表と同時に2016年3月期の連結決算を訂正することを発表しましたが(たとえばYAHOOニュースはこちら)、「ひろさん」より、先日の新日本監査法人さんの改革に関するエントリーに対して、以下のようなコメントをいただきました。全文引用させていただきます。

時事通信にこんな記事がありました(注:東芝の決算修正の件)。
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016052300538&g=eco
日経でも同様に東芝が決算修正をしたと(報じられています)。5月12日にいったん決算短信を出したものの、23日に誤りと監査法人との見解の違いがあって、修正を出しました。こういう訂正がもっとなければいけなかったんだと思います。今まで、おそらくは「いまさら言うな」と言われて受け付けてもらえていなかったことなのではないかと。一般の人や監査の在り方に関する懇談会のメンバーでさえ、株主総会まで3カ月、その招集通知の発送までに監査報告書なのだから、60日くらいは監査の日数があるんだろうくらいに思っていたと思います。しかし、実際は決算短信を出したらもう数字は動かせないという形で企業側に縛られていたのが実態なのではないかと。短信を出しても誤りがあれば直す、この当たり前のことが日本のエクセレントな大企業で行えるようにならない限り、監査での発見漏れは今度も起きるのだと思うわけです。今回、東芝は、自分が事故を起こしたこともあり、そして、来期は新日本監査法人から交代されることになり、直し漏れを残すわけにはいかないという事情があって、こういうことになったのではないかと思いますが、これが多くの企業で毎期何社も生じるようになってほしいと考える次第です。(注及び下線は管理人による)

私も会計監査人サイドから上場会社の会計不正対応に従事する機会が増えましたが、この「ひろさん」の指摘は共感を覚えます。「決算短信を出したらもう動かせない、いまさら言うな」と監査法人は会社側から恫喝される一方で、行政当局から(会社側が)不正の疑惑を指摘されるやいなや、今度は「いやいや、私たちは監査法人からお墨付きをもらっています。一点の曇りもなく、やましい会計処理はありません」と回答されてしまいます。会計監査人側によるビジネスモデルの理解不足が原因の場合もあるでしょうから、会社側の気持ちもわからないわけではありません。しかし、会計監査人は不正を見つけるのではなく、自分たちの会計処理にお墨付き(適正意見)を述べることが仕事(そのために高い報酬を払っているのだ)という意識が、上場会社サイドにかなり強いことは間違いないと思います。

昨日、東洋経済オンラインに伊藤歩さんの記事「1年後、決算短信からBSとPLが消える?」と題する記事が掲載されました。金融審議会の「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告書をもとに作成されたものです。もちろん審議会の提言は、2019年までに開示の簡素化を図り、投資家のためにわかりやすい投資情報を開示しようとの日本再興戦略2016(素案)の趣旨を実現するための第一弾だと思います。しかし、上記「ひろさん」の意見などを拝読しますと、企業と会計監査人との信頼関係を構築すべし、とするコーポレートガバナンス・コードの趣旨を実現するために、会計監査人と企業との対話を促進させる意味も含まれているのかもしれません(これは私の勝手な推測ですが)。

基準日をずらして株主総会の日程をずらしたり、株主総会関連手続きの電子化を図ることで決算監査の日数を増やすことも「適切な情報開示」にとっては重要ですが、なによりも意見表明に至るまでの会社と会計監査人との実のある対話を促進することが、最終的には株主と会社との対話の促進につながるものと思います。統制環境が財務報告に及ぼす影響や重要性の判断については、監査人どうしのコミュニケーションが円滑でなければ会社側に説得力ある説明ができないと思いますが、そういった監査人どうしの円滑なコミュニケーションも、やはり会社と会計監査人との対話が前提になるはずです。

ディスクロージャーが、会社の株主に対する説明責任を尽くす手段である以上、会社と会計監査人とは二人三脚で情報開示に努めるべきであり、だからこそ会社と会計監査人との信頼関係が維持できない場合には「監査人の変更」ということも堂々と議論されることになり、会計不正が発覚した場合には、会計監査人の責任を問えることになると考えます。

5月 25, 2016 ディスクロージャー | | コメント (8) | トラックバック (0)

2016年1月25日 (月)

取引所プリンシプルで第三者委員会制度(企業不祥事対応)は変わるか?

日本証券取引所は1月22日、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の原案を公表しました。パブリックコメントの募集期間は、本プリンシプルの早期実施を目指して、異例の短期間(意見募集は2月12日まで)となっています。取引所としては一昨年のエクイティファイナンスのプリンシプルに続き、二つ目のプリンシプルの策定・公表ということになります。

まず「不祥事やその疑惑が発生した場合の自浄能力」に光があてられているわけですから、経営陣に不正の疑惑がある場合、組織ぐるみと評価される可能性のある場合には、やはり社内調査委員会では対応できず、独立性が認められる第三者委員会の設置が強く求められるものと考えられます。従業員不正を早期に発見した場合等、社内調査委員会の設置で済むケースもありますが、経営者不正の疑惑がある場合や経営者による(従業員不正の)長期放置が問題とされる場合等では第三者委員会への社外役員の委員就任等も含めて、「どのような調査体制をとれば自浄能力を発揮していると評価されるのか」、企業側できちんと検討しなければならないと思います。

次に、上場会社において企業不祥事が発覚した場合、ご承知のとおり昨年の東芝事件をはじめ、多くの事件において「第三者委員会」が設置されるケースも多いと思います。昨年は東芝会計不正事件ばかりが注目されましたが、第三者委員会を3度にわたって設置し直し、その後に当局の立入調査が入って真相が究明されたケース、第三者委員会報告書の原因究明が甘いため、取引所からガバナンス問題が指摘された末、特設市場銘柄からの指定解除が大幅に遅れたケース、日弁連ガイドラインに準拠しているといいながら、報告書の全文が開示されなかったり、その独立性や客観性に多くの疑問が呈されたケースなどが散見されています。

やはり第三者委員会のベストプラクティスを議論しなければならない時期に来ているように感じます。不祥事が企業価値を毀損するものであるならば、早期の信用回復をめざすためにも第三者委員会の在り方を議論する必要があります。第三者委員会の設置方法だけが問題ではありませんが、有事の情報開示はそれ自体が取締役にとっては構造的な利益相反行動になるわけですから、上場会社の自浄作用全般にわたり見直しが求められます。

本プリンシプルが確定した後に、当ブログでも本プリンシプルの内容についてコメントしたいと思いますが、私が青山学院大学の八田進二先生とご一緒させていただく日本証券取引所の上場会社セミナー2016「形だけに終わらないコーポレートガバナンス」 (東京は2月25日、大阪は3月3日)においても、このプリンシプルの内容とともに、(私の経験に基づく)第三者委員会制度の課題、問題点や、「上場会社の自浄能力が発揮された」と評価される第三者委員会の活用手法について意見を述べる予定にしております(もちろん個人的な見解です)。どうか多数のご来場をお待ちしております。

原案の「趣旨」にも記載されているとおり、本プリンシプルへの充足度が低い場合であっても、取引所が根拠なく上場会社に対する措置を発動するわけではありません。しかし、このプリンシプルが策定されるに至った背景事情、会計不正事件によって過年度決算訂正に至った上場会社に対する取引所の膨大な質問が提出される状況等からみて、本プリンシプルへの充足度が低い場合には、上場企業には諸々の企業リスクが想定されます。不祥事に直面していない平時の上場会社こそ、有事における不祥事対応プリンシプルの理解が必要だと思います。

1月 25, 2016 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月21日 (木)

東証、企業統治指針への対応状況を開示-いよいよ正念場?

東証さんが本日(1月20日)、上場企業のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況を開示されました(昨年の12月末現在の状況)。本則市場の1858社のうち、73項目すべてを実施(オールコンプライ)する会社が11,6%、9割以上の項目を実施する企業と合わせると78%に上るそうで、(制度対応としては)本コードの影響力はかなり大きいことがわかります。

ただ(予想どおりといいますか)、73項目の中で、ぶっちぎりに「うちは今のところ実施しません」と開示する企業が多い項目が「取締役会の実効性の分析、評価とその概要の開示」ですね(説明率63%)。取締役会の実効性の分析・評価すらやらない企業と、分析・評価をやっているが、その開示はしない企業が含まれますが、いずれにしても、コード対応の中では各企業が腐心している項目だと思います。私が社外取締役を務める会社でも、いま取締役会の実効性評価作業の真っ最中でして、いざやってみると、プロセスからしてかなり難易度が高いと思います。

いずれまた個社の作業内容については開示の時期に合わせてご説明したいと思いますが、作業プロセスを考えるにあたり、注意すべき点があると考えます。ひとつは上で述べたように、取締役会の実効性の分析、評価だけでなく「概要の開示」が求められているという点です。「エンゲージメント」を「株主との対話」と訳すわけですが、そもそもエンゲージメントは「分かり合うための対話」という意味だそうですから、会社と株主とが永続性ある企業成長のために分かり合える対話に資する内容を開示しなければ意味がないと思います。

つぎに(これは法律家的な課題ですが)ガバナンス・コードは「ソフトロー」と言われていますが、そもそも実施する(コンプライする)ことと、説明する(エクスプレインする)ことに軽重はあるか?という点です。ソフトローであることの意味を重視すればやはりコンプライするのが原則であり、たとえエクスプレインしたとしても、将来的にはコンプライすべき、との意味が含まれていると考えるのが筋でしょう。しかし、コードの趣旨尊重義務が東証規則で明記されていて、その趣旨さえ尊重していればエクスプレインすることも全く構わない(つまりソフトローであることの意味は趣旨尊重義務を尽くすことである)という考え方も成り立ちそうです。最終的には「対話や開示を通じて株主がどのように判断するか」ということでコードの社会的な影響力が担保されていればよいのではないか(あまり神経質にならないでよいのでは)と。

そしてもうひとつが「エクスプレインの内容」です。今回、取締役会の実効性評価を実施しない(つまりエクスプレインする)と決めた企業も、その理由を読むと「2年後までには実施します」とか「実施するかどうか検討中です」といった理由になっていない理由が圧倒的に多いですよね(そもそもこれらの回答が「エクスプレイン」といえるのでしょうか?会社法の「社外取締役を置くことが相当でない理由」と同じ現象が生じているような気もします)こういった制度対応が「あたりまえ」になって、「これで良いのであれば横並びが一番!」と考える上場会社さんが増えれば、これはもう「J-SOXの二の舞現象到来」といったところでしょうか。

弁護士的には、北越製紙さんが大王製紙さんの取締役の方々を相手に年末に提起した損害賠償請求訴訟のように、ガバナンス・コードを取締役の善管注意義務と関連付けて援用するような事例が増えてくるのであれば、各企業のコード対応の真剣度も高まるような気もいたしますが(たとえばこちらや こちらを参考)。さあ、企業統治指針もここからが正念場ではないかと。。。

1月 21, 2016 ディスクロージャー | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年11月18日 (水)

適時開示義務違反は東芝だけの問題ではない

会計不正事件に揺れる東芝さんが、原子力事業子会社の米国ウェスチングハウス社の過年度決算の減損損失について内訳を明らかにした、と報じられています。東芝さんも、東証さんからの「適時開示義務違反」を指摘されたことで開示に至ったことをHPで明らかにしています。

子会社等における「発生事実」については、有価証券上場規程403条および同上場規程施行規則402条(軽微基準)において、上場会社による適示開示が求められています。とりわけ子会社が保有する重要資産の減損損失については「災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」(規定403条2号a)に該当し、連結純資産額の100分の3に相当する額以上の損害と認められる場合には「軽微基準」が適用されませんので、開示すべき損害にあたります(同規則402条1号)。東芝さんは、この上場ルールに抵触するものと東証さんから指摘を受けて、しぶしぶ(?)内訳を開示したものと思われます。

東芝さんの理屈としては、「ついうっかり開示義務違反をしてしまった」というものではなく、一応の理由がありそうです。この適時開示義務が発生する減損損失は、ウェスチングハウス社のグループ全体もしくは原子力事業部門全体からみて(つまりグルーピングの上で)判断すべきであり、そこで損失は出ていない。したがってウェスチングハウス単体の公正価値判定による減損を開示しなくても投資家に重大な影響を及ぼすものではない、つまり適時開示に関する上場ルールには抵触しない、といった判断があったようです。これはこれで東芝さんの理屈としては、(文言解釈はさておき)ルールの趣旨からすれば合理性がありそうです。

しかし東芝さんの理屈は、原子力施設の販売は不振であったとしても、既存施設の保守管理によって儲けが出ているのだから順調ではないか、というものですが、売るべき「ハコ」が売れない中で、保守管理で儲けを出したとしても先細りの懸念は払しょくできないのではないでしょうか。投資家が関心を寄せるのは、ウェスチングハウスの将来的な企業価値であり、そこで求められる情報は、どの単体事業が順調で、どの事業が不振かという内訳です(そうでなければ投資家が将来予測を立てることが困難です)。そう考えますと、やはり上場規程の文言に忠実に、適時開示すべきは単体事業を中心に軽微基準の該当性を認識することが当然のようにも思えます。

こういったことは何も東芝さんに限られるものではなく、そもそも適時開示という制度は経営者と会社との利益相反問題の一つだと言えそうです。どうしても経営者は自分たちにとって都合のよいルール解釈をしてしまいます。昨年出版しました「不正リスク管理、危機対応-経営戦略に活かすリスクマネジメント」(有斐閣)でも述べた通り、会計処理が絡む適時開示の判断については経営判断類似の原則が適用されるものではなく、できるだけ保守的な対応が求められるのではないかと。東芝さんとしては、とくに悪気があってやったわけではないのかもしれませんが、それでも明確な法令違反行為があったこと、徹底して「開示に消極的」だったことが、今後の裁判等において不利益な事情のひとつとして根拠つけられることは十分にありうるものと考えます。

11月 18, 2015 ディスクロージャー | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年11月 6日 (金)

会計監査人と上場会社との関係-新たなる時代の幕開け

詳細なコメントは控えますが(笑)、公認会計士・監査法人と上場企業との在り方を考えるにあたり、この事案は新たな時代の幕開けを予感させます。不適切な会計処理事件に関する第三者委員会の在り方についても「しかり」です。

https://www.release.tdnet.info/inbs/140120151106439491.pdf

これまでも春日電機さん、セラーテムさんの例がありましたが、正式に適時開示されたものは日本初です。このような気骨のある公認会計士(監査法人)の存在にもっと光が当たればいいですね。たとえば会計監査人監査に十分な時間があてられるような会社法改正を行うなど、法の世界もこのような監査法人の姿勢をバックアップすべきです。省庁の壁を乗り越えて証券市場の健全性を真剣に検討すべきではないでしょうか。

幕開けは終わりましたが、第2幕の展開を期待しております。

11月 6, 2015 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年9月16日 (水)

東証改正ルールによる特設注意市場銘柄指定の「アメとムチ」

本日(9月15日)、東芝さんは有価証券報告書等に虚偽記載を行ない、内部管理体制改善の必要性が高いとのことで、特設注意市場銘柄の指定を受けました(ちなみに上場契約違約金については東芝さんの場合、市場一部上場で時価総額5000億以上なので一律9,120万円となります)。これから1年の間に内部管理体制等の改善がなされないかぎり、(半年間の延長措置はあるとしても)上場廃止になる可能性があります。

ところで平成19年から施行されている「特設注意市場銘柄制度」ですが、注目されるようになったのは、やはり平成23年のオリンパス事件あたりからだと思います。当時、東証さんからお招きいただいたにもかかわらず、私は「日興コーディアルの上場維持、ライブドアの上場廃止の判断理由からみて、オリンパスへの東証さんの判断はおかしいのではないか」と東証ホールの講演で述べました。結局のところ同制度は、オリンパスほどの会社を上場廃止にすることができないので、特設注意市場銘柄と指定して、ほとぼりがさめた頃に解除しましょう、といった「国策的なややグレーゾーン的制度」といった印象を(私だけでなく、世間からも)持たれることとなりました。今回も、東芝さんが特設注意市場銘柄に指定されたことで、「ほれみろ、やっぱり上場廃止なんてできっこないでしょ。(組織ぐるみかつ本業の架空売上ということで)オリンパスよりも情状が悪いにもかかわらず、結局日本証券取引所っていうところは腰が引けてるってことなんだよ」といった冷めた意見も聞こえてきそうです。

しかし現在の特設注意市場銘柄制度は、平成25年8月の東証のルール改正によってガラリと内容が変わっています。つまりオリンパス事件のころとは制度の中身がかなり違うのです。そのあたりがあまりマスコミ等では報じられていないように思われます。今回の東芝事件との関係でいえば、東証さんによる特設注意市場銘柄指定は、いわば「東芝に対するアメとムチ」だと理解してもよさそうです。

「アメ」というのは、上場規則の改正によって上場廃止基準が明確化されたこと、いや「明確化」というのは教科書的な表現ですが、要するに東芝さんのような老舗上場会社にとっては「虚偽記載」による廃止基準に該当する要件が厳しくなったために粉飾決算等によって上場廃止にはなりにくくなった、ということです。たとえば東証さんが平成25年6月に公表した「改正ルールの制度要綱」では、虚偽記載による上場廃止の対象となるのは、上場前から債務超過であったことを隠ぺいするために虚偽記載を行った場合とか、売上高の大半が虚偽であった場合が例示されており、かなり特殊な事例でなければ「虚偽記載」による一発上場廃止の基準には該当しないと思われます。この制度改正によって、東芝さんは「なんでオリンパスよりも情状が悪いのに」といった批判を受けずに済むようになりました。これは明らかに東芝さんにとっては「アメ」です。

いっぽう、一昨年の上場規則の改正には「ムチ」もあります。いや、企業の内部統制に関心を持つ私にとりましては、今回、この特設注意市場銘柄制度の「ムチ」の部分にこそ注目しています。ルール改正前は、上場会社の虚偽記載が認められた場合、その虚偽記載が投資家に与える影響の大きさによって上場廃止とするかどうかが決められていました。その影響が重大でないと東証が判断した場合には、とりあえず特設注意市場銘柄指定をして、内部管理体制の改善の様子をみながら、改善が認められる場合には指定を解除するという仕組みでした。この仕組みですと、東証が「重大ではない」と判断したことが間違っていなかったことを追認するために最大3年の猶予を与える制度のように世間的には受け取られていました(現に、後日東証さんが指定銘柄を上場廃止にした会社はありませんでした)。

しかし現行制度では、市場の秩序維持に問題を生じさせる行為(たとえば虚偽記載)が認められる上場会社については、虚偽記載の大きさが上場廃止にあたるかどうかとは関係なく、とりあえず内部管理体制等に高い改善の必要性が認められる場合には(ペナルティとして)特設注意市場銘柄に指定する、という仕組みになりました。したがって、上場廃止とは関係のない「適時開示違反」や「企業行動規範違反」に及んだ上場会社に対しても特設注意市場銘柄指定が(ペナルティとして)行われることもあります。つまり、今回の東芝さんが特設注意市場銘柄に指定されたのは、「虚偽記載」をしたからではなく、そのような虚偽記載に及ぶほどの市場秩序侵害行為(内部管理体制の欠如)が認められたから(そのペナルティである)、ということになります(東証さんのリリースの根拠条文をご覧いただければわかると思います)。

したがって、いったん特設注意市場銘柄に指定された上場会社には、「虚偽記載」とは別の独立した上場廃止基準が待ち構えている、ということになります(ということで、現行ルールのもとでは「特設注意市場銘柄指定か、上場廃止か」といったオリンパス事件のころの「虚偽記載」を基準とした問題提起は理屈上ではおかしい、ということになります)。また東証さんとしても、「自分たちの上場廃止に関する判断が正しかった」ということを追認するための審査ではなく、内部管理体制等の改善が明らかに認められた、ということを金融庁監視のもとで明確に判断しなければならないわけで、これはたいへん厳しい審査になると予想されます(現に、新たな審査基準のもとで、京王ズHDさんは上場廃止となりました)。

近時においても、特設注意市場銘柄指定中のリソー教育さんについて、「銘柄指定継続」の判断が出ましたが、その判断理由を読めばおわかりのとおり、「内部管理体制等の改善」といいつつも、その実はリソー教育さんのコーポレートガバナンス改善(具体的には取締役会メンバーの見直し?社長の交代?)にまで審査が及んでおり、東証さんの審査の真剣度が伝わってきます。東芝さんのケースでは、わずか1年の間に内部監査や監査委員会制度、会計監査人との連携状況などを見直し、おそらくもう一度、第三者委員会を設置して、監査の実効性についての検証を受ける必要があると思います。そのような状況のなかで、ある程度の業績の建て直しも進める必要があるので、東芝さんの今後1年間はたいへん厳しい試練が待ち構えているのではないでしょうか。

オリンパスさんの内部管理体制確認書提出の際、いくつかのマスコミで取り上げられたように「確認書改ざん疑惑」が生じました。そのような疑惑もあったとなりますと、東芝さんのケースにおいても、「結論ありき」の甘い銘柄指定ではないものと考えています。

9月 16, 2015 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年2月26日 (木)

東証はガバナンス・コードにおける説明理由の実質的判断権を有するのか?

2月24日、東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」と題するパブコメ案を公表しました。マスコミでは「独立社外取締役」を2人以上選任することなどを促す新しい上場規則を発表した、と報じられているものです(たとえば詳しく報じるものとしては毎日新聞ニュースなど)。

有価証券上場規程第4章第4節「企業行動規範」のうち「遵守すべき事項」とされるものは、各上場会社が「コード」を実施しない場合の理由の開示、および実施にあたってとくに説明が求められる事項の開示に関するもの、とされています。また、「遵守が望まれる事項」とされるものは、コードの精神、趣旨の尊重ということで、これまでの有価証券上場規程445条の3が改正される模様です。つまりコーポレートガバナンス・コード自体は遵守するかどうかは各上場会社に任されますが(ただし遵守が望ましい)、もし遵守しない場合にはその理由を説明しなければならない、遵守する場合でも特に定められた事項については説明しなければならない、といったコンプライ・オア・エクスプレインの規定ぶりになっています。

留意すべきは、各上場会社があえて「コードを遵守しない」ことを選択した場合ですね。理由の説明は「遵守すべき事項」として上場規則に規定されていますので、もしコードを実施しない理由が説明されていないと東証が認めた場合には、上場規程に基づいて公表や特設注意市場銘柄への指定、改善報告書の提出、上場契約違約金処分などの措置がとられる可能性があります。

しかし、東証1部、2部上場会社に適用されるところのコード(12月の考え方案)原則4-8を例にとりますと、社外取締役を2名選任しない理由を全く記載していないケースであれば明らかですが、記載内容が不十分であったり、虚偽記載と認められる場合、またはコードの趣旨・精神から逸脱した理由であるなど、理由に客観的な合理性がない場合も「遵守すべき事項に反した」として東証は措置発動に踏み切るのでしょうか?そこまで東証さんが審査をすることになれば、これは東証さんにとってたいへんな負担ではないかと。

また、そもそもコードはプリンシプルベースで策定されていますので、会社法とは異なり、状況に応じて迅速に変更されてしかるべきものです。そのような原則規定について、ある一時点における開示内容だけに焦点を当てて東証さんの措置発動に及ぶというのはプリンシプルの趣旨に反するものであり、それこそ措置発動のためには時間軸をもって「コードの趣旨、精神を理解するための東証さんとの対話」が必要になるのではないでしょうか。

さらに、東証さんの発動する措置というのは市場の健全性確保のため、ということであれば「守りのガバナンス」の実効性を確保することとは親和性がありますが、今回のように「攻めのガバナンス」の実効性を確保するために必要なものなのでしょうか?(どうも私はこのあたりに違和感をおぼえます)このあたりはどなたかがコメントとして東証さんに疑問を呈されるものと予想されますので、今後「東証の考え方」が公表されることを期待しております。

東証さんは、昨年10月に(不公正ファイナンス対策として)「エクイティファイナンスのプリンシプル」を公表し、時間軸をもった対話を前提として市場の健全性確保を図るための施策を打ち出しました。不公正ファイナンスに限定するのであれば「あるべきエクイティファイナンスの在り方」を個々の上場会社と対話をしながら検討することもできそうですが、上場会社すべてに適用されるガバナンス・コードの実効性確保のために、各企業と対話を継続することは至難の業ではないでしょうか。そうだとすれば、「コードを実施しない場合の理由」の適正性についても、原則としては株主による評価や判断にゆだねるものとして、まさに市場の健全性を害するおそれの高い開示がなされたような場合に限定して「実効性を確保するための措置」が発動されるのではないかと予想しております(あくまでも私個人の予想です)。

個々の上場会社が尊重すべき「コーポレートガバナンスコード」の本案は、おそらく3月に公表されることになると思いますが、このように上場規則案が公表されてみると、ガバナンス報告書の提出猶予期間が認められたものの、各上場会社にとって結構シビアな準備が必要になるのだなぁと感じます。また、「コード遵守に関する会社の姿勢は株主との対話に委ねられる」とはいうものの、最近の旬刊商事法務の連載論文やプロキシーアクセスに関する こちらの産経新聞の記事などを読みますと、「株主との対話」というものも、そんなに悠長に構えていられるものでもないなぁ、と懸念するところです。

2月 26, 2015 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年10月27日 (月)

スチュワードシップ・コード施行下におけるISS議決権助言方針の改定

今年も例年通り、2015年のISS議決権行使助言方針(ポリシー)が11月に公表される予定ですが、これに先立ち、 「ISS議決権行使助言方針改定に関する日本語のオープンコメント募集」が行われています(28日に意見募集が締め切られます)。ISSの2015年の改定案では、すでにマスコミ等で報じられているとおり、日本の取締役選任のポリシーを中心に下記の3点の変更が予定されています。

1. 資本生産性 (ROE)基準の導入

2. 取締役会構成基準の厳格化(複数の独立社外取締役選任の推奨)

3. 監査等委員会設置会社への対応

9月3日現在、スチュワードシップコードの受け入れを表明した機関投資家は160社を超えました。そこで、受託者責任を尽くすことを開示しなければならない機関投資家が増えることから、今年のISS議決権行使助言方針の改定は、上場会社にとって極めて重要なものになります(日本の機関投資家といえども、同コード第5原則との関係で無視できないところかと)。おそらく、多くのコメントが寄せられているのではないでしょうか。ISSから反対意見を述べられる場合に備えて、自社における反論を用意する企業も増えることが予想されます。

ところで、多くの上場会社からROE5パーセント(5年間)基準、複数独立社外取締役選任について、強い関心が向けられることは当然かと思われます(ROE基準よりも配当率のほうが重要と考える方もおられるでしょうし、持続的な企業価値向上のために別のKPIを重視している企業もあると思います)。しかし、私は1と2に関するISSの方針改定には基本的には賛成なのですが、3の監査等委員会設置会社への対応に関するISSの意見には、やや違和感を持っています。

ちなみに、ISSが監査等委員会設置会社への移行(定款変更議案)に原則賛成する理由は以下のとおりだそうです。

監査委員会のみを設置し、指名委員会や報酬委員会を設置しない委員会型の企業統治機構は新興国を中心に普及しています。監査役設置会社と異なり、監査委員会のみを設置するスタイルは、日本特有の制度ではないのです。よって、監査等委員会設置会社の取締役会を、例えば" board with an audit committee"のように実態面に着目して翻訳し、説明すれば、海外で普及した制度と類似の制度であることが明確となり、海外の投資家の混乱を避けることが期待できます。

しかし、上記理由には納得できません。それは以下の理由からです。

ISSは「監査委員会のみを設置し、指名委員会や報酬委員会を設置しない委員会型の企業統治機構は普及している」とされていますが、それらの諸国の内部監査体制と日本の内部監査体制を比較してみたらいかがでしょうか。内部監査の独立性が確保されており、独立社外取締役が指揮監督できる内部統制システムが前提とされていればともかく、おそらく日本ではそのような体制はほとんど見受けられません。委員会設置会社(指名委員会等設置会社)でさえ、約8割が常勤の監査委員たる取締役を置いているのが現状です。このような日本の現状を前提として監査等委員会設置会社に移行することは、かえって諸外国の機関投資家に誤解を与えることになるものと考えます。

また、そもそも監査等委員会設置会社における監査等委員である社外取締役には、会社法上、指名委員会や報酬委員会に準じる役割を担っており、機関投資家から説明を求められれば、人事や報酬に関する意見を陳述する義務があるはずです。つまり(会社法では)監査等委員会には社長の指名・報酬に関する機関決定を行う権限はありませんが、機関投資家への説明責任という意味においては指名委員会や報酬委員会の委員と同様に説明義務を尽くす必要があると考えられます。したがって、この点においても機関投資家に混乱を招くおそれがあります。

したがって、仮に監査等委員会設置会社への移行に関する定款変更議案が上程されたとしても、これに賛同すべきは委員会設置会社→監査等委員会設置会社の場合か、内部統制システムに基づく監査体制が十分に確保される程度の極めて規模の大きな上場会社に限定されるべきではないかと考えます。

10月 27, 2014 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年9月26日 (金)

顧客の安心を取り戻すためにベネッセ社に必要なこと

株式会社ベネッセホールディングスさんが、「個人情報漏えい事故調査委員会による調査結果のお知らせ」というリリースを本日出されています。司法警察による調査が並行している関係で、調査報告の概要のみ開示されていますが、原因を含めた調査結果、再発防止策の内容等が手際よくまとめられています(報告概要のリリースはこちらです)。

私個人の見解は、当ブログ7月22日付「遅まきながらベネッセHD個人情報漏えい事件への雑感」で述べたとおりですし、この調査報告概要も、ほぼ私が明らかになればいいなぁ・・と考えていた点に触れておられるので、特に申し上げることはございません。情報漏えい事故は絶対に起こさない、という発想ではなく、「再び今回のような大規模な情報漏えい事故が起きることはないと顧客その他の関係者が確信するに足るだけの措置を講じなければならない」とのことで、まさに不祥事は起きる、起きることを前提に早期に発見するという思想があり、また安全の「見える化」、つまり安心理論に基づく対応を目指そうとされている点は、私自身も共感いたします。

ただ、本当に「役職員の意識改革に努める」のであれば、そして本当に「顧客の安心を第一に考える」のであれば、もし些細な情報漏えいが発生した場合でも、ベネッセさんは進んで不祥事を公表しなければなりません。今回の事故も、顧客から「情報が漏えいしているのではないか」との連絡が複数届くまで、自ら発見することはできませんでした。ここが顧客にとって最も不安を感じるところではないでしょうか。

痛ましいジェットコースター事故を起こしたエキスポランドさんは、事故後の再開で、これまでであれば事故報告をしなくてもよいような(別の遊戯機の)故障を公表(報告)しなかったことで、市民から批判され閉園に追い込まれました。JR福知山線事故後に、ほぼ同じ地点でATS(自動運転停止装置)が作動したことを公表しなかったJR西日本さんは、「作動することはよくあることで、とくに報告の必要はなかった」と記者会見で述べ、大きな批判を受け、翌日社長さんが謝罪するに至りました。

情報漏えい事故を一度起こした代償は大きいものです。これまでであれば、大規模な情報漏えい事故でなければ公表しないでもよい、と考えられていたとしても、もはや顧客がベネッセさんを視る目が変わっています。また、社員の中にも「これは公表することが正しいのではないか」との意識が芽生えます。もし本当に役職員の意識改革を行い、顧客の安心を第一に考えるのであれば、(たしかにカッコ悪いことかもしれませんが)今後は些細な情報漏えい事故が発生した場合でも、真っ先に公表しなければなりません。そのことが、顧客の安心を勝ち取るために不可欠な企業対応だと考えています。

あと、これは個人的な意見にすぎませんが、情報漏えい防止対策は、あまりにもガチガチにしてしまうと現場の「使い勝手」が悪くなるので、「例外の許容条件」に関する指針のようなものがあればよいのではないかと。そして、顧客への謝罪として、500円の図書カード、電子マネー提供、基金への寄付という選択肢の提供は、やや世間で疑問視されていますが、私も少し首をかしげるところでして、また別の議論が必要かもしれません(意地悪くみると、わざと500円の図書カードを選択させて、損害賠償の和解をとりつける意図があるのではないか、とも感じてしまいます)。

9月 26, 2014 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年4月 7日 (月)

東証の開示規則改訂-開示注意銘柄制度の柔軟化

昨年、川崎重工業さんの社長解任劇を契機に、不明確な情報開示問題が盛り上がったことは記憶に新しいことと思います。2013年4月22日、川崎重工業さんは、三井造船さんとの経営統合に関するスクープ記事が報じられた際、「そのような事実はありません」と否定しておられました。ところが、件の解任劇によって経営統合が白紙に戻った時点で、「統合の可能性を検討しておりましたが、決定に至りませんでした」と開示されました。東証のCEOの方は「一般株主は、2カ月間、まちがった情報の下に置かれていた」と、この開示姿勢に強く懸念を示しておられました。

その後、シャープさんの公募増資の件について、これも機関決定前にスクープ報道がなされましたが、これに対してシャープさんは「未だ決定したものはありませんが、本日午後の取締役会で審議する予定となっており、具体的に何かきまりましたら明らかにします」との開示をされました。これに対しては、投資家やIR担当者の間で話題となり、「俺だったら、こんなに親切な開示はしないぞ」といった声も聞こえていましたが、当時のロイターさんの記事では、金融庁や東証が、このシャープさんの情報開示は模範開示例だと称賛されていたとのことでした。今年3月27日のベネッセHDさんの適時開示(経済界で著名な方が代表取締役に就任することがスクープされていました)などを読んでも、シャープさんと同じような記載内容です。

おそらく、このような流れの中で、ということかと思いますが、4月5日の朝日新聞朝刊記事でも紹介されていたように、東証さんは、企業情報開示について、不明確な情報への機動的な注意喚起を行うため、開示注意銘柄制度の柔軟な運用に関する規則変更に踏み切るようです(現在は意見公募中ですが、概要はこちらです)。おそらく企業統合や増資など、投資家の投資判断に重大な影響を及ぼす情報の開示に不明確なところがあれば、これに対して開示注意銘柄指定を含む、機動的な注意喚起を促すようにする、というもの。やはりロイターさんの当時のニュースは正しかった、ということですね。

不明確な情報開示は速やかに修正せよ、とのことですが、企業にとっては正確な情報を出したくても出せないこともありますね。川崎重工業さんのように、支配権争いがあるケース、不祥事が発生した企業のように、社内調査が十分でないケースなど、典型例かと思います。M&Aや資本政策に関する情報は、インサイダー情報に該当する可能性があり、そもそも社内でも正確な情報を把握している人数が限られているので、開示統制もむずかしいですね。ともかく、スクープ報道が出ないように情報管理を徹底することができれば良いわけですが。

といいましても、スクープ報道は(なぜか?)出てしまうわけでして、そのような重要情報を抱えていらっしゃる企業のご担当者の方は、旬刊商事法務2014号(2013年11月15日号)の池田祐久弁護士(ニューヨーク州弁護士、たしか日経の弁護士ランキングにも掲載されていた方ですね)の「スクープ報道対応のグローバル実務」の論稿をご参考にしてはいかがでしょうか。実務としてのベストプラクティス、ノーコメントアクションが使えない場面など、参考になります。ひとことで言えば、社内から情報が漏れてしまった以上は、これに対してきちんと対応しなければならない、ということかと。ちなみに「日本のユニクロが、米国の大手衣料Jクルー買収か?」とWSJが報じた際、ファーストリテイリングさんは、「憶測の記事については一切のコメントを控えます」と開示されていましたね。

いずれにしましても、上場会社だけをとりあげて、行為規制で(会社法で)縛れない分、開示規制が「実質的な行為規制」としても活用されつつある今日、開示に熱心な会社とそうでない会社の選別が、一般投資家の利益保護のためにも、これからますます明確になされていくものと思います。

4月 7, 2014 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月12日 (水)

法務部必読!!タマホーム第三者委員会報告書

月曜日(2月10日)の日経朝刊法務インサイドで「最近の不祥事発生時の第三者委員会報告書ってどうよ?」といった特集記事が組まれていましたが、いやいやどうして、核心に迫っている第三者報告書が二本、10日にリリースされています。

なかでもタマホームさんの連結子会社の不適切事実に関する第三者委員会報告書は読みごたえあり!です。ちなみにタマホーム社子会社の不適切事実については、こちらあたりがご参考になるかと。

最初に委員会が会社側とどんな交渉をしたのか、どのように独立性を維持したのかを、事実を適示して説明を加えているところから「おお!」と思わせます。フォレンジックの内容も参考になりますし、会社側が不穏な動きをしたのではないか・・・といった疑惑についても記載があります。また事実の認定の段階から、かなり委員の自由心証に基づく判断が記載されており、これは説得力が感じられます。全体を読むと、2009年のフタバ産業事件のときの第三者委員会報告書にどこか似ているような気が(上場会社取締役・監査役必読!!フタバ産業第三者委員会報告書)・・・。

法律実務家としての興味からすると、親会社取締役・監査役の責任を、子会社取締役・監査役と区別して、丁寧に論証されているところは参考になります。親会社役員の子会社管理について、日本システム技術事件最高裁判決、アパマンショップ事件最高裁判決の(取締役の責任を論じるにあたっての)射程距離を意識しながら、最近の福岡魚市場代表訴訟判決、平成13年の野村證券孫会社代表訴訟事件判決なども参考にして検証しておられる点はとても勉強になります。コンプライアンスの視点からは、社長案件の利益相反取引に見え隠れする「触れられないブラックボックス」の存在・・・、これはどこの企業にもある病巣ですが、ここによく光があてられています。

また、上場会社の法務部の与信審査なども詳しく論じられていて新鮮です。ホームページのソースコードから反社情報が飛び出してきた・・・なんて、なかなかおもしろいですね。雑誌FACTAの記事などが企業に及ぼす影響なども「なるほど」と思います。たいへん長い報告書ですが、最後まで法務部員の方々にはお読みいただき、どのような感想を持たれるか、お聴きしたいところです。法的責任に関する判断において、親会社の取締役、監査役の法的責任を厳しく認定している(表現としては「善管注意義務違反が認められる可能性が高い」等)点をみても、この報告書の「核心への切りこみ」がわかります。社長が知らぬ、存ぜぬを押し通してしまうと、「法的責任の判断は下せなかった」で逃げてしまう最近の第三者委員会報告書とは一味違います。

個人的には「疑わしきは会社の不利益に」という前提で書かれたもうひとつのリソー教育さんの第三者委員会報告書にもぜひ言及したいのですが、また別の機会にということで(さっそく朝日新聞「法と経済のジャーナル」で奥山記者が本件第三者委員会報告書を取り上げていらっしゃいますが、マスコミ的にはリソー教育さんの第三者委員会報告書のほうが関心が高いかもしれません)。とりいそぎ、速報版としてご紹介させていただきました。

2月 12, 2014 ディスクロージャー | | コメント (3) | トラックバック (0)

2014年1月 7日 (火)

マルハニチロHD役員の説明責任は重大だと思う。

昨年末から連日報じられているマルハニチロホールディングス子会社(アクリフーズ社)の食品事故の件ですが、本日(1月6日)午後9時現在、冷凍食品農薬(マラチオン)混入事件による「異臭商品」が23件に及んでいる、とマルハニチロ社のHPにてリリースされています。また読売や朝日のニュースによれば、被害相談が持ち込まれている都道府県はすでに35に上り、被害を訴えている方も300名近くに上るとのこと。予想以上にたいへんな事態になっています。

商品回収率が未だ17%程度ということなので、まだどれだけ事件の規模が広がるかは不透明な状況のようです。グループ挙げて被害回復に努めておられるようなので、これは今のところ「不祥事」とは一概には言えないですね。マスコミも、昨年末はアクリフーズ社の公表遅延などを批判する報道が目立ちましたが、被害拡大のおそれが強い中での報道の公共性から、現在は、混入の犯罪性や被害状況、異臭商品の判明状況の発表にウエイトが置かれているようです。

ところで、今年4月にマルハニチロホールディングス社は、連結子会社5社と合併して、事業持株会社制度に移行するようです(テクニカル上場により、ホールディングスの株主は、合併対価として上場予定の事業持株会社の株主になり、株式売買にも影響はありません)。ホールディングスは子会社に吸収合併される(つまり消滅する)ことになりますが、そのホールディングスの合併承認株主総会が1月下旬だそうです。

このたび食品事故が発生しているアクリフーズ社も合併当事会社ということですが、親会社(最終完全親会社)であるマルハニチロホールディングスとしても、この時期にアクリフーズ社を合併する、ということも厳しい局面ではないかと推察します。もちろん合併がなくても、基幹子会社ですから支援することは間違いないと思いますが、短期的にはホールディングスの一般株主の利益に影響が及ぶでしょうし、グループ会社経営という立場からみても、マネジメントの面において、資源の最適配分の計画が大きく狂ってくることになるのではないでしょうか。

それでも合併を進めることが長期的な企業価値の向上につながるものである・・・ということは親会社の取締役として(総会で)十分に説明責任を尽くす必要があるでしょうし、今後どこまで拡大するか不透明なアクリフーズ社の損失についても、グループ全体においては軽微であることを説得的に説明することが求められるものと思われます。

しかし新体制に関するリリースをみても、アクリフーズの役員の方々は、全く要職には就かれないようです。やはり雪印乳業グループだったということが影響しているのでしょうか。アクリフーズの社長さんは平成20年ころまではマルハニチロの取締役だった方ですが、親会社と子会社との情報共有体制などはどのようになっていたのか、気になるところです。

1月 7, 2014 ディスクロージャー | | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年9月26日 (木)

シャープの増資決定開示にみる「上場会社に求められる開示統制」

シャープ社の9月18日早朝の適時開示が一部関係者の間で話題になっています(話題の対象とされているシャープ社のリリースはこちらです)。企業の重要な決定事実については、当該企業が正式な公表する前に、マスコミがリークすることが時々見受けられます。そういった場合、通常は「一部報道されている事実につきまして、会社として決定した事実はありません」「当社が発表した事実ではございません」という紋切り型のフレーズで各企業が対応しています。しかし、このたびの「シャープ、最大で1600億円の増資決定」というビッグニュースが新聞朝刊で公表されたのを受けて、シャープ社は当日の午前7時45分の時点で「一部報道されている事実につきましては、当社が発表した事実ではありませんが、本日の取締役会で上程する予定であり、決まり次第公表します」との誠に懇切丁寧な開示を行いました。

このシャープ社のリリースについて、9月24日のロイターニュースは詳細に伝えており、市場関係者からは高い評価を得ている一方で、企業の開示関係者からは「機関決定の前に不用意な開示はできない」との声も出ている、ただ金融庁幹部はこのリリースを今後のモデルケースとしたいと評価し、また取引所もこういったリリースをガイドライン化する方向にある、と報じています。金融庁や取引所の対応が、昨年大きな問題となった増資インサイダー事件や、2カ月前の川崎重工社の適時開示に多くの批判が集まったことに起因することは容易に推測できます。ただ、この話題について、私はちょっと別の観点から考察してみたいと思います。

Keieikanri004一昨日のエントリーで、私が作成した図面を再度ご紹介します。これは経営判断にコンプライアンスの考え方をどう落とし込むか・・・ということを検討するためのものです。ディスクロージャーは企業の透明性、株主への説明責任に関わる課題なので、右下に示しています。企業の重要な経営判断は、スピード経営との関係では根回しリスクがあります。根回しが十分でなければリリースの正確性が欠けてしまい、企業の信用毀損につながりかねない状況に陥ります。またリスク管理との関係ではインサイダーリスクが生じます。ここでも正確性を期したいのですが、もたもたしていると社内に不幸な犯罪者を増幅させてしまい、レピュテーションリスクを高める結果となります。結局のところ、迅速な開示と正確な開示はトレードオフの関係となり、スピード経営やリスク管理からみて、この二つの開示の要請をどうバランスをとるか・・・というところが重要です。ここで失敗しますと、とんでもないコンプライアンス違反という問題を引き起こすことになります。

私は企業がインサイダーリスクを低減させるだけの情報管理能力を有しているのであれば、多少開示情報が曖昧であり詳細ではなくてもリリースとして問題はないと思います。なぜなら根回しに失敗したり、機関決定の前提となる事情に変化が生じた場合に、あいまいな情報しか出さないことで被るレピュテーション上のデメリットよりも、何度もコロコロと開示情報を修正させる企業の信用毀損のデメリットのほうが大きくなるからです。最悪のデメリットは、そういった状況の変化にも関わらず、信用毀損をおそれて開示情報を修正せず、結果的に虚偽情報を放置してしまう「二次不祥事」です。上場会社の情報開示のポイントは、決定事実や発生事実の内容、企業の情報管理体制の整備状況、経営陣の意思決定過程などを総合考慮したうえで、個別具体的な状況に沿ってリリースを簡略化するか、詳細化するかを判断をすべき、ということだと思います。もし開示情報の曖昧さに市場関係者から疑問を呈された場合には、この図表に並べて書いていますように、事後の説明責任を尽くすことで透明性を代替(補完)することも考えられます。つまり、ここで最も大切なのことは、有事になってから慌ててリリース内容を判断するのではなく、平時から開示統制システムをきちんと整備して有事に柔軟に対応する、ということです。

先のロイターニュースでも、シャープ社は機関決定が近づいた時期に、有事を想定して取引所や金融庁に相談していたとされています。案の定、機関決定の直前に重要事実が新聞でリリースされてしまったわけですが、自社の情報管理能力、インサイダーリスクなども考慮したうえでのリリース内容の決定だったはずです。つまり金融庁幹部が「モデルケースのひとつとしたい」と感想を述べたのは、どこの上場会社も同様の開示をすべき、という意味でのモデルケースではなく、平時から開示統制システムを整備運用して有事のリリースに備える、という意味でのモデルケース、という意味かと推測します。また取引所のガイダンス作成についても、こういった平時からの有事のリリースへの取り組み(開示統制室テムの構築)が中心課題になろうかと思われます。

株主との対話が求められる時代、経営者は中期経営計画に基づいて将来のビジネスの進展を株主に説明しなければならないわけですが、その信用性を高めるには、まずは過去の営業成績を正直に開示することから始めなければなりません。最近の海外機関投資家が、しきりに「ガバナンス、内部統制の充実」を企業に求めることも「株主との対話の時代」であれば当然だと思います。開示の迅速性、正確性の両立は、スピード経営が求められる時代、コンプライアンスリスクが重要視される時代になるにつれ、悩ましいジレンマです。その舵取りの巧拙は、平時からの開示統制への取組次第だと考えています。

9月 26, 2013 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月24日 (水)

有事の企業に求められる開示統制システム-紋切り型はダメ?

昨日(7月22日)のブルームバーグニュースにおいて、企業のディスクロージャーに関する気になるニュースが掲載されています。企業の重大な決定事実、発生事実が未発表の状況において、マスコミのスクープ記事が出た際の紋切り型のコメント「当社が発表した事実ではありません」「未だ決定した事実はありません」は、投資家にとってわかりづらいリリースです。そこで「東証ではこうしたコメントが投資家により有益な情報となるように、上場企業に対して表現を工夫するよう求めるガイドラインを年内にもまとめる方向で調整中」とのこと(ブルームバーグニュースはこちら)。おそらく、先日の川崎重工業社の社長解任劇における開示のドタバタが契機になっていると思われます。

アベノミクスを象徴する6月の成長戦略案でも「日本版スチュワードシップ原則」を年内にもまとめ上げる、とありますので、今後ますます機関投資家と上場会社との対話促進の流れが強まりそうです。経営を監視する機関投資家の選択肢は議決権行使と株式売買(短期的利益の獲得)だけではなく、今後は株主と会社との対話(長期的かつ持続的成長の確保)が要請されます。したがって、有効な対話実現の前提として、株主・投資家に対する正直な情報開示が必須となります。証券取引所としても、企業の情報開示の在り方に、これまで以上に関心を高めるのは政治の流れからみて当然のところであり、このようなガイドラインが検討されることになります。

企業の品質は目に見えるものではないので、投資家や消費者は、開示された情報をもって企業の品質を推測する必要があります。したがって、こういった流れについては私も基本的に賛成です。ただ川崎重工業社の例をみても、企業はそう簡単にマスコミのスクープに対して明確な事実を適時に公表できるものではないと思います。川崎重工業社は、三井造船との経営統合に向けて交渉している事実はない、と(4月の時点で)公表したものの、社長解任劇(代表取締役の解職)が発生して社長が交代した後に、統合に向けて準備をしていた事実はあるが、白紙撤回されたと(6月に)発表し、世間から強い批判を受けています。

しかし、社長解任の本当の理由として、先日当ブログでも述べたところですが、経営統合については、以前から社内が一枚岩ではないのです。賛成派もいれば反対派もいます。そういった中でマスコミのスクープが発生した場合、会社の中ではどう公表するかで揉めることは容易に推測できます。会社の中のゴタゴタは絶対に外に漏らしたくないのですが、かといってリリースは早く出さなければならない。そこで賛成派と反対派はぎりぎりの妥協ラインを探って公表事実の内容を検討することになります。つまり社内力学の妥協の産物として、あのような曖昧なリリースになってしまうわけです。これは、いくらガイドラインが策定されたとしても、会社として速やかに公表しなければならないというディスクロージャーの原則と組織のゴタゴタは表に出してはいけない、というリスク管理の視点が交錯する中で、明確なリリースは到底出てこない場合もある、ということです。

少し事案は異なりますが、元社長辞任要求で揉めた富士通社の事例でも、会社としては元社長の名誉を守り、社内のゴタゴタを表面化させないために、虚偽の辞任理由をリリースしました。「反社会的勢力との密接交際があったから」と素直にリリースすべきだったのかもしれませんが、では、本当にそのとおり辞任理由を書くことができる会社はどれほどあるでしょうか?現に、後日訂正のリリースをアップした富士通社には、「私たちはなんで反社会的勢力なのだ」と名誉毀損の損害賠償請求事件が提訴され、最高裁まで争われることになりました。

紋切り型リリースを禁じるガイドラインが策定されますと、開示しないことや曖昧な開示をすること(不作為)が重要な事実を開示しないという「虚偽記載」に該当するのではないか、という不安も生じます(もちろんただちに金商法21条の2に該当するようなものではありませんが、取締役の善管注意義務が問題となるケースは出てくるかもしれません)。そこで、企業としては①社内のゴタゴタの最中でも適時リリースが出せるような開示統制ルールを決めておく、②公正な開示は企業行動原則に立ち返り、経営陣の倫理意識をもって行う、③不適切な開示となるおそれのある場合には、取締役による説明責任を尽くすことで代替する、といったことを平時から検討しておくべきではないかと思います。

7月 24, 2013 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年4月26日 (金)

ダイバーシティ問題だけではない東証のガバナンス報告書改正

朝日新聞の朝刊で4月24日から連載されている「けいざい深話・東芝サプライズ人事」はとても興味深い内容であります。日本を代表する企業における異例の人事問題をとりあげたものです。東芝社は委員会設置会社ですから、社外取締役が複数存在するのですが、法定機関たる指名委員会は過半数の社外取締役で構成されています。私は今朝の新聞を読み、果たして指名委員会がどこまでの実権(真の人事権)を握っていたのかはわかりませんが、少なくとも伝統のある日本企業が裸の権力闘争によって企業価値を低減させてしまうことを回避できたのは、まぎれもなく指名委員会の存在ではないか、と感じました。

上記記事は「社長は、次期社長候補として複数名を掲げ、会長が含まれる委員会が合議でこの候補者から一名を選出した」と報じています。このような対応となったのも、委員会設置会社というガバナンスの厳格な制度を採用し、またこれを(形の上なのかどうかは不明ですが)尊重せざるをえないことに由来するものではないでしょうか。しかしこれによって平穏に人事問題が解決されることになるのであり、もし指名委員会が存在していなければ、「サプライズ人事」どころの話では済まないのではないでしょうか。委員会設置会社であるがゆえの流れではないかと思います。

さて、昨日に引き続きガバナンスに関連するディスクロージャーのお話でありますが、私が社外取締役に就任しておりますニッセンホールディングス社が「女性の活躍状況の開示に係る『コーポレート・ガバナンスに関する報告書』」の開示第1号として内閣府のfacebookで紹介されました(内閣府男女共同参画局のページはこちら)。女性の活躍状況の資本市場における『見える化』の推進が図られ、コーポレートガバナンス報告書の記載要領も4月18日に改訂されたことによるものであります。ちなみにニッセンHDのリリース(会社における女性の活躍状況に係る開示のお知らせ~安倍首相による「成長戦略スピーチ」を受けて~)はこちらです。実際に23日に更新されたニッセンHDのガバナンス報告書の中では、ダイバーシティ方針の部分が注目部分かと。

ところで、今回の報告書記載要領の改訂では、女性の上場会社における活躍状況の開示ばかりが話題になっておりますが、よく読むとそれだけではないようにも思われます。現状のコーポレートガバナンスの概要を示すところにおいて、概要だけでなく「業務執行、監督機能等の充実に向けた追加的な施策の内容等を具体的に記載してください」とあります。具体例として

取締役会や監査役会など(委員会設置会社の場合は、法定の各種委員会、執行役会を含みます。)の法定の組織のほか、経営諮問委員会、アドバイザリーボードなどの名称により設置された各種の諮問委員会や、経営会議、執行役員会、常務会等について、それぞれの概要(業務執行や監督のプロセスにおける役割、構成メンバー、男女別の構成など)や開催状況等を記載することが考えられます

とあります。男女別の構成などを記載することからみると、ここでも女性の活躍状況の開示と無関係ではありませんが、ガバナンスの充実に向けた各企業の追加的施策の内容を示す、任意で設置した委員会等の開催状況等を記載する、といったことから、コーポレートガバナンスの充実に向けた各施策の見直し状況や運用状況についてまで示すことが望ましいとされているようです

経営トップが企業の持続的成長のためにガバナンス改革をやろうとしているのか、それとも世間の風潮に合わせて改革の形だけ整えようとしているのか、強制するものではなく、任意ということでしょうが、(どっちが企業価値向上に資するものなのかは、ここでは問いませんので)せめてESG(環境・社会・ガバナンス)投資がさかんになってきた昨今、ESGに関わる事項については外から見えるようにしなければならない、ということがより鮮明に表現されているように思えます。真剣にガバナンス改革をやる、ということであれば、冒頭の東芝社の事例のように社外取締役制度、各種諮問機関を設置した趣旨等が活かされるでしょうし、そうでないということであれば社内の力学にすべての施策も流されてしまう、ということになると思われます。

4月 26, 2013 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年4月25日 (木)

機関投資家における議決権行使の個別開示とガバナンス問題

本日(4月24日)の日経新聞朝刊に、機関投資家が株式を実質保有する企業の株主総会において、各議案にどのような賛否を示したのか、個別に開示する制度の導入について報じられております。政府の成長競争力会議でも、すでに英国スチュワードシップ・コードを我が国でも導入せよ、と民間委員の方々から意見が出ておりましたので、これが実現される見込みのようです。

そもそも機関投資家にとっては保有株式について受託者責任を負う立場にありますので、投資先企業のガバナンスが気に入らず、パフォーマンスに納得がいかなければ(当該企業の株式を)売却してしまえばよい話です。ところがリスクを嫌う投資手法をとる場合には(パッシブ投資)、一気に保有株式を売却するわけにもいかないところから、議決権行使を通じてパフォーマンスを上げることによって受託者責任を履行する、とされることも多いようです。機関投資家がきちんと受託者責任を尽くしているかどうか、外から見える形にすれば、企業経営者との馴れ合いによる議決権行使も回避できるのでは、と期待されます。

ただ実際には、機関投資家と言いましても、保険会社のように企業とのビジネス上のお付き合いのために株式を保有していることも多く、個別開示を制度として義務付けることには相当の抵抗が予想されます。したがって上記記事にもありますが、義務化されるのではなく、あくまでも努力義務として規定されるのかもしれません。このあたりは今後詰めていくところだと思われます。

いずれにしましても、機関投資家による議決権行使の個別開示が進むことにより、当該企業の社外取締役の導入問題をはじめ、ガバナンスの改革が促進されることが予想されます。会社法の改正議論の中では、社外取締役を一人以上導入することの義務付けが検討されましたが、その趣旨を金融庁が所管する開示規制の手法で実現していくものと思われます。ちなみに、このあたりの機関投資家の株主総会における議決権行使の問題は、(前にも一度ご紹介しましたが)5月発刊予定の「株式会社法大系」に掲載される江頭先生の論稿でも語られており、とても参考になるところであります。

4月 25, 2013 ディスクロージャー | | コメント (7) | トラックバック (0)

2013年4月16日 (火)

ランド社は想定外だったのか?-第三者委員会の乱

4月3日、日本公認会計士協会主催の「企業統治と独立社外役員の役割」と題するシンポに登壇させていただきましたが、その際、昨今の第三者委員会の活動については多くの会計士の方々より疑問が呈されておりました。最近では会計士協会さんご自身でも、会計不正事件に関わる第三者委員会の在り方等を研究されている、と聞き及んでおります(拙著でも「なぜ第三者委員会は会計士に嫌われるのか」ということを詳論しております)。

実際、昨年の会計不正事件に関する第三者委員会の活動をみましても、監査役会と取締役会が別々に設置して別途報告書が出されたもの、第三者委員会が設置されたものの、途中で活動が中止されたもの、開示すると言いながら結局は開示されずに「うやむや」になってしまったもの等が目立ちました。今年も、会計不正事件ではありませんが、合理的な理由もなく委員の構成すら開示されない第三者委員会が設置されています。こういった事例が増えますと、本当に第三者委員会というのはステークホルダーの利益保護のために活動しているのだろうか、単純に現経営者の急場しのぎの道具にしかすぎないのではないか・・・と疑心暗鬼になってしまう方も多いかもしれません。

しかし本日(4月15日)、ランド社から公表されております社外調査委員会要旨はなかなかスゴイものがあります。ランド社が第三者委員会に対して、重要事項の記載のあるページが削除された参考資料(不動産鑑定評価書)を提出していたと指摘し、実際にも財務諸表作成のための根拠資料としてもこのページ数が欠落した評価書が参考にされていたようです。この事実をきちんと調査しない限りは、投資家のためにもこのまま決算短信を開示すべきではない、との勧告を行ったとのことであります。そして、この勧告を受けて、同社もなぜこのようなことになったのか、勧告に従って調査を行う旨リリースで表明されています。なお同社は昨年12月初めに、粉飾決算の被疑事実によって強制捜査を受けております。

自社使用の目的で第三者が作成した不動産価格評価書を財務諸表作成に使用したり、第三者委員会に虚偽の資料をそのまま提出すること自体言語道断でありますが、このような第三者委員会の厳しい指摘はそもそも同社では想定されていなかったのでしょうか?単純に会社側から提出された資料をそのまま鵜呑みにして報告書を作成するものであり、資料の作成者たる外部第三者から確認をとるようなことまではしないだろうと予想していたのでしょうか?ちなみに年末の第三者委員会による中間報告書では、外部関係者からのヒアリングが未了であるとの報告がなされていましたが、この不動産鑑定士の方へのヒアリングを想定していたのでしょうか?

会社サイドと第三者委員会との間では表に出ていない諸事情あるかとは思いますが、まず、なんといっても、こういった場面において第三者委員会は解散するのではなく、同社の不都合な事実を断固として開示する方向で頑張った点は評価できるものと思います(ここで第三者委員会が、不都合な真実を目の当たりにして単純に辞任したり解散したり、といった対応に出なかったことは、あたりまえに見えるかもしれませんが、委員会がまさにステークホルダーのために活動していることを示していると思います)。会社側と第三者委員会とにおいて、この勧告の開示に至るまでどのような葛藤があったのか、たいへん興味のあるところです。

昨年も、どことは申しませんが、企業側にとって有利な第三者委員会報告書が提出されると思いきや、社長の意に反して厳しい指摘がなされ、結局開示されることなく、また第三者委員に報酬も支払われることなく委員会の活動が終わってしまった例があったようです。これはまさに投資家や会社債権者のために委員が活動していることの証左であり、第三者委員会につきまとうリスクであります。ただ、それでも投資家のほうを向いて委員会としての活動を行わねばならないのであり、本件を含めて、たとえ社長の意に反してでも厳しい報告書を開示する(開示させる)ことが第三者委員会の信頼性を高めることに資するものと思います。

4月 16, 2013 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年10月25日 (木)

社長の一言が企業価値を毀損してしまう可能性

すでにご承知のとおり、10月20日、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ社の社長さんが、twitter上で暴言(らしき)言葉を思わず吐いてしまった、として話題になっております。1000円の商品に750円もの商品配送手数料がかかるのは法外ではないか?詐欺ではないか?との利用者のつぶやきに

詐欺??ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ。お前ん家まで汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれてんだよ。お前みたいな感謝のない奴は二度と注文しなくていいわ。

と反論した、というもの。そもそも会社にも顧客を選ぶ権利はあるわけですから、合理性のない要望を行う顧客に対して丁寧かつ明確に「もうご注文はなされないでください」とお願いすることはできるはず。しかし、SNSという公的な空間で、しかもかなり辛辣な言葉で反論をした、となりますと、やはり世間が上場会社の社長のつぶやきを批判をすることも当然かと思います。社長の辛辣な言葉に幻滅したのか、それとも社長の言葉からビジネスモデルの将来に悲観したのかはわかりませんが、業績予想の下方修正と相まって、株価が一日で5%下落する、というのも頷けるところかと(ちなみに、その後、同社長はこのつぶやきについて謝罪をされた、とのことだそうです)。

ここまで急成長してきた会社ですし、上場の前後にわたり、海千山千の胡散臭い輩が社長に近づいてきたことは想像できるところであり、その中をかいくぐってここまで来られたわけですから、同社長のリスク管理能力はかなり高いものかと思います。そのような方が、誰かのつぶやきに、これほどまでに反応してしまった、というのはどうも解せないところではあります。そもそも社長さんは「暴言」だと思っていればつぶやかなかったのではないでしょうか。暴言にはあたらない、全うな正論だと考えたためにつぶやいたのかもしれません。ともかく、こういった社長の一言にマーケットが反応したとしても、その後の社長の反省の姿勢によって信用が回復され、再び株価が上がることで一件落着すれば、それでよいと思います。

しかし問題は、対外的なことではなく、社内的なところにあると私は考えます。社内的にはかなりマズイかな・・・と。こういった新興企業のオーナー社長は社員のあこがれの的です。社員は(良いところも、悪いところも)真似しやすいところから社長の真似をします。普段から社内的には辛辣な言葉で叱咤激励していた社長さんであったとしても、対外的にもこういった態度をとってしまいますと、「お!さすが社長!俺がふだん言いたかったことをはっきり言ってくれたぞ。これでいいんだ」と今後の社員らの顧客対応にも影響が出てしまうのではないでしょうか。また、これまで顧客からクレームを出されても、「苦情は宝の山」と思って会社のためにがまんをして対応し、企業のブランドイメージを維持・向上させてきた社員たちにとっては、この社長の「顧客へのホンネ」が公開されたことで、いままでの努力が水の泡になってしまう気分になってしまいそうであります。この一件が、同社の平時の営業努力にどれほどの影響を及ぼすものなのか、とても不安であります。

こういった社長の一言で、対外的な企業価値の低下は回復できたとしても、社内的な企業価値の毀損はなかなか回復が困難ではないかと思います。有事に至った企業の経営トップが、顧客や消費者、監督官庁などのステークホルダーに対して、あえて反論のパフォーマンスを展開して従業員の士気を高める・・・という手法は過去に何度かみたことがありますが、社長自ら平時を有事に変えてしまうような発言は、これまであまり聞いたことがないパターンでありまして、今回のことで真っ先に謝罪をすべきなのは、むしろ社員に向かって、というのが正しいのかもしれません。よく「社長の暴走を止めるためのガバナンス」といわれますが、こういった暴走はちょっと止めようがないところが一番の問題であります。

10月 25, 2012 ディスクロージャー | | コメント (6) | トラックバック (0)

2012年8月11日 (土)

テルモ社によるオリンパス社統合提案とディスクロージャーの巧拙

自己資本比率問題や、FCPA(海外腐敗行為防止法)疑惑、内部告発者への正式謝罪など、相変わらず話題が豊富なオリンパス社でありますが、オリンパス社への統合提案を行っているテルモ社の社長さんの会見記事が本日(8月11日)の日経朝刊に掲載されております。先日、当ブログにおいて「テルモ社 オリンパス社への損害賠償提訴とガバナンス上の理由」と題するエントリーを書きましたが、昨日の記者会見の発表内容によると、やはり(予想しておりましたとおり)「ガバナンス上の理由」とは「損害賠償請求訴訟の提訴期限を考慮していた」「取締役としての義務上、避けられなかった」といったことを表現していたものでして、オリンパス社への損害賠償提訴は決して戦略的なものではない、とのことだそうであります。

とくにテルモ社へ味方をする意図はございませんが、統合提案をしている会社に対して裁判を起こす、というのは普通に考えても納得できないわけでして、やはりテルモ社側にやむをえない事情があったための行動とみるほうが自然ではないかと思われます。東日本大震災の直後である2011年3月22日、テルモ社は有事において投資家が一番知りたい「被災の有無、被害額、被害状況」等の定性的情報を開示したうえで、3月締めの決算において業績予想を速やかに下方修正しています。大方のファンドマネージャーの方々は「このテルモ社の速やかな情報開示は、有事になってから頑張っても実現は不可能であり、テルモ本社が平時から各拠点の状況をしっかり把握していたからこそできたのだ」と非常に高い評価をしていました(2011年4月24日付け日経ヴェリタス記事より)。

上記テルモ社の社長さんの会見記事にあるように、損害賠償請求訴訟を提起した後で、統合提案を開示したのであれば、おそらく「脅迫的言動による戦略的訴訟」と世間から受け取られ、提携競争に敗れること以上にテルモ社の社会的信用を毀損することにもなりかねません。したがって、どうしても訴訟提起よりも先に統合提案を公表する必要があったと思われます。このことで、なんとか戦略的訴訟などと言われる可能性を低減させることが可能になり、訴訟と統合提案は全く別、といったテルモ社の主張も、世間から信用されることになるのかもしれません(もちろん、上記社長さんの会見での説明を信用するかしないかは、投資家の判断に任されるところではありますが)。有事におけるディスクロージャーの巧拙は、日頃からどれだけ投資家のことを考えながら業務に取り組んでいるか、という平時の取り組みの姿勢によって決まるものと思われます。本件は、平時の取り組みが取締役の有事対応に活かされる典型的な例ではないかと。

8月 11, 2012 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年12月22日 (木)

独立役員の独立性担保と開示規制(上場ルールの改定)

今年もクリスマスの季節となりました。おそらく22日が忘年会のピークで、明日からの3連休はクリスマスモード一色となるのでしょうね。

昨日(12月20日)の東証社長さんの定例記者会見(会見要旨はこちら)によりますと、巨額損失隠しが発覚したオリンパスや大王製紙の事件を背景に、上場会社のガバナンス(企業統治)に対する国内外の投資家の不信が高まっていると判断したため、社外取締役や社外監査役といった独立役員の開示情報を拡大する方針を決めたそうであります(サンケイビズニュースはこちら)。ニュースには出ておりませんが、上記会見要旨によると内部統制システムに関する開示規制も検討されるようです。

独立役員の出身会社と当社の取引関係や、役員の相互派遣関係等、本来独立役員に求められる行動が期待できるかどうか、という点を投資家が判断する材料を提供する、ということかと思います(すでに任意に情報開示している企業もありますが)。おそらく「独立役員」として届出のある役員の方のみを対象としたものだと思いますが、どうも中途半端な制度改革のような気がいたします

たとえばオリンパス社の場合、社外取締役と社外監査役を含めて5名の社外役員がいらっしゃいますが、実際に東証に独立役員として届け出られているのは社外監査役の方1名だけです(ルールだと1名以上の届出を義務付ける、となっていますので)。その方だけを開示したとしても、あとの4名の社外役員の方々は「どういった経緯で役員に就任されたのか」ほとんど不明なままであり、結局のところ一番利害関係がなさそうな方だけを独立役員として届け出れば済む問題かと(実際、東証社長さんの会見によると、オリンパスの他の社外役員の方々は、利害関係の深い会社や組織のご出身のようです)。本当に開示制度を拡充するのであれば、「独立役員制度」とは別に、会社法上の社外役員として就任している方すべての情報開示を求めるようなものでないと投資家の判断材料にはならないのではないでしょうか。

こういったことを申し上げると、またお叱りを受けるかもしれませんが、そもそも社外役員に独立性を担保する開示制度を作ったとしても、あまり高い期待は持たないほうがよいわけでして、あくまでも「社外役員の倫理観」を横からサポートする程度・・・・・と考えたほうが妥当だと思います。「独立役員」といっても、日本には「社外役員バンク」なるものが整備されているとは思えません。もちろん全国社外取締役ネットワーク(もうすぐ名前が変わりますが)や日本監査役協会の紹介制度がありますが、やはり知り合いの「紹介者」を通じて役員に就任するケースがほとんどではないでしょうか。

「俺の顔をつぶすなよ」

といった形で、お世話になった方から紹介を受けた会社において、どれだけの社外役員の方々が会社もしくは経営陣にモノが言えるのか。社長と喧嘩して、後ぐされなく辞任することは特に問題がないとしても、自分を役員として紹介してくれた人と、その会社との関係を考えると、どうしても「株主の最大利益のため」という気持ちが萎えてしまうのが「サラリーマン根性の集大成」ではないでしょうか。最近の60歳前後の方々は、まだまだお若いです。これからの人生のために、これまで築いてきた人間関係を御破算にするにはまだ早いのが現実であり、「ここはグッとこらえて」と考える方も実際には多いように思います。

実際、社内取締役だけで固めた役員会でも、社長にモノが言える人が多ければガバナンスはしっかりするわけでして、結局のところは、その社長さんの器量によるところが大きいのではないかと。そう考えますと、社外役員の独立性を開示する、ということは、社外役員の発言権への期待というよりも、「そのようなモノが言えそうな役員さんでウチは固めました」ということを世間に公表して、社長の度量を知ってもらう・・・・・というところに意味があると考えた方がよいのではないでしょうか。独立役員さんの属性を云々するよりも、むしろ広く社外役員さんの属性を開示して「社長の度量」を評価いただく制度運用が妥当だと考える所以であります。

12月 22, 2011 ディスクロージャー | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年10月19日 (水)

東京製鐵解職事例-開示情報の十分性

今年の後半になりまして、ゲオさん、九電さん、大王製紙さん、オリンパスさんと、上場会社のコーポレートガバナンスと企業価値に関わる事例が目立ち、コンプライアンス関連の騒動が「てんこもり」の状況になっておりますが、またまた東京製鐵さんにおける「開示の十分性」に疑問符がつきそうな事例が報じられております。社内でナンバー2でいらっしゃった常務取締役営業本部長の方が、社内ルール違反によって取締役会で解任(業務執行取締役なので解職でしょうか?営業本部長だから解任でしょうか?)され、非業務執行取締役に降格されたようであります。取締役会にはご本人は出席されず、後に解任された旨を通告されたとか(ロイター通信はこちら)。

後任の営業本部長さんの会見によると「本人の名誉のために、不適切な行為の中身はいえない」とのことで、さらに「社内ルール違反」が法令違反にあたるかどうかも「今は言えない」とのこと(上記ロイターニュースより)。オリンパスさんの事例ではありませんが、それこそ「日本的風土における取締役会」からすれば、ご本人の名誉のために言えないような「社内ルール違反」であれば、まず経営トップから元常務さんに辞任を促すはずです。おそらく本件でも辞任を促したのではないかと推測されますから、これを元常務取締役さんが拒否したのであれば、やはり企業価値に影響を及ぼすような重大な問題が潜んでいるのではないかと・・・・。

また、私が経営トップであれば、「本人の名誉のため」というのは、すでに何らかの行政当局からの調査等が進められており、調査に支障を来すことなく、企業の自浄作用を内外に示す必要がある場合に用いることが検討されます(その場合、後日、当局の調査結果を踏まえて、法令違反があったのかどうかも含めて正式に開示する、という流れになるかと)。ただ、この場合でも、社内ルール違反➔法令違反ということになりますので、やはり投資家、株主にとっては説明責任を尽くしてほしいところではないかと思います。

この程度の開示で十分(つまり、解任理由はとくに株主の利益に影響を及ぼさない)ということであれば、解任されたご本人には申し訳ないですが、法令違反とは言えない「社内ルール違反」ということですから、「社内の人間関係のもつれ」に由来する出来事だったのではないか、と推測されます。まさかそういった人間関係のもつれが(ナンバー2、ということですから)社内抗争で活用されたり・・・・という、よくありがちな内紛劇ではないですよね(^^;「法令違反ではない社内ルール違反の不適切行為」とか「ご本人の名誉のためにこれ以上は言えない」となりますと、余計にいろいろと詮索してしまいますね。私自身、勉強不足ではありますが、取引所としては、こういった場合、開示の十分性についてどのように判断されるのか(もともと社内ルール違反程度であれば開示は不要なのか)、知りたいところです。元常務さんの社内ルール違反とともに、会社側の開示が適切かどうかという点も、やはり同じくコンプライアンスの問題になるように思われます。

10月 19, 2011 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年6月11日 (金)

これも「監査役の乱」?(社外監査役解任される・・・の続編)

昨日のエントリーの続きのようでありますが、先日ご紹介したシルバー精工社(東証一部)の社外監査役さんの解任議案の件、ここへ来て、ドンデン返しの展開となっております。あれだけ「うちの社外監査役は監査役として適格性がない」と提案理由を説明しておられたにもかかわらず、今度は社外監査役さんに謝ったうえで解任議案を取り下げるとのこと。Kazuさんが、先にコメント欄で指摘しておられるとおり、「いったい、何があったのでしょうか」。これはナゾです。弁護士資格をお持ちの社外監査役さんとしては相当の覚悟で会社と対峙されたのではないかと思うのでありますが、経営陣としては、これに敗北したのか?それとも他の要因があったのか?

6月9日付けシルバー精工社総会議案取り下げのリリース

会社側は、取締役選任議案や商号変更に関する定款変更議案とともに、同社の社外監査役が「監査役としての適格性がない」として解任議案を上程しておりましたが、「しかしながら、その後、様々な反響があったこともあり」再度慎重に検討を重ねた結果、当社の利益につながらないことから、議案を撤回することに決めたそうであります。しかし「様々な反響」って一体何が発端だったんでしょうか???(まさか、このブログも含まれているわけじゃないでしょうね・・・・(^^;;  )

「W監査役解任の件につきましては、取締役会と監査役会で慎重に検討を重ねた結果、その適格性には問題がないと判断し、W監査役に謝罪のうえ、解任議案を撤回することに」されたそうであります。「W監査役に謝罪のうえ」って、あんまり開示情報では出てこないフレーズですよね(^^; よほどW監査役が「謝罪したことを書いてもらわないと気がすまないわよ!」っと、おっしゃったんでしょうか。(一度お聞きしてみたいものです)あと、就任予定者を含め、社外監査役2名が弁護士というのも、けっこう珍しいのではないでしょうか。

いずれにしても、これまでの同社のリリースは非常に混乱しており、おそらく東証さんからは、かなり厳しく説明を求められておられるものと推察されます。説明するのもたいへんでしょうね。(昨日に引き続き、多忙及び体調不良のため備忘録程度にて失礼いたします。。。)

6月 11, 2010 ディスクロージャー | | コメント (2) | トラックバック (0)

2010年6月10日 (木)

監査法人からの反論ですね(TLホールディングス)

この時期、本業でかなり忙しく、ブログの更新もままなりません。といいますか、ブログネタはあっても、ネタのフリ方を「ボーーー」っと考える時間的な余裕がございません。ネタのフリ方が当ブログの「生命線」なので(笑)、いまひとつ更新に乗り気ではないのですが、せめて下記の話題にだけは触れておかねば・・・・・と思いましたので、少しだけ。

ということで、すでにコメント欄のほうでエントリーよりも先にご議論いただいているようですが、監査役の有事対応(監査法人を解任するの巻)におきまして、「これだけボロカスに言われて、監査法人さんはなんで反論しないのだろうか?他のクライアントの手前、何も言わないのはまずいのではないか?」と書いておりましたところ、

TLHD社の6月8日付けリリース 出ましたね。

監査法人側からのコメントが掲載されております。前回のリリースの後、両法人とも、関東財務局から説明を求められたようですね。しかしながら、監査法人さんからの反論は全文ではなく、概要(要旨)のみのようであります。たしかにコメント欄でJFKさんが指摘しておられるような問題点もありますが、とりあえずキチンと反論することは、投資家や株主への問題喚起という意味ではよかったのではないでしょうか?むしろ、こういった反論があることをあらかじめ予想しての「監査役の有事対応」だと思います。

しかし以前から当ブログでは「深夜の開示は蜜の味」といっておりますが、同じ日の23時33分の細谷火工さん(私は内部統制報告書の件で、同社のお名前を存じ上げたのですが)、またまた「監査役の有事対応」を地で行くようなリリースでありますね。元取締役さんだけ・・・ということでしたら、単に監査役が代表して訴訟を提起する、ということでしょうが、現代表者や現取締役相手、ということですから、(同族内での揉め事かも?)取締役会の判断ではなく、監査役独自の判断で提訴に踏み切った、ということなのでしょうね。

本当に、最近は「監査役の有事対応」の実例が増えているように感じます。

6月 10, 2010 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年6月 7日 (月)

役員報酬を開示する本当の意味はどこにあるか?

6月5日(土曜日)、社外取締役ネットワーク関西研究会にて、「役員報酬の個別開示について」と題する発表を担当いたしましたので、①役員報酬の個別開示に関するルールの概要、②コーポレート・ガバナンス上での「役員報酬開示問題」の位置づけ、③資生堂さんの開示をとりあげての具体的なケースの検討などをご紹介し、企業実務家の方々の意見を頂戴いたしました。

ルールの概要につきましては、最新の旬刊商事法務(1899号)の座談会記事でも討論されているとおり、「重複開示の取扱い」や子会社からの報酬、使用人兼務取締役の使用人給与問題などが中心となりますが、どちらかといえば担当者向けのお話になってしまいます。そこで本研究会のおきましては、ガバナンス上での役員報酬開示問題や資生堂さんの事前開示に関する話題のほうが中心課題でありました。

私の発表の要旨はといいますと、世間では役員さんの現金による個別報酬開示の是非、またその下限が1億円と規定されていることの是非ばかりが話題になっておりますが、それは違うのではないか、むしろ①誰が役員報酬を実質的に決めているのか、②役員報酬決定方針は明文上で規定されているのか、たとえば基本報酬以外に、中長期の業績と連動するような報酬、株価連動報酬等はどのように組み込まれているのか、③著しく短期の利益志向となる報酬制度に関する情報は役員間で共有され、モニタリング体制が図られているか、といったことを株主が監視できるシステムの開示ほうが重要ではないか、といった内容であります。もちろん、「1億円うんぬん」というお話は、③の部分にも関連するところではありますが、①および②が重要であるならば、たとえ1億円以上の報酬を誰ももらっていない会社の役員さんであっても、開示情報としては留意しておかなければならないのではないか、というものであります。

たとえばプライスウォーターハウスクーパース社による2009年度の「日本企業における報酬ポリシー(役員報酬に対する基本方針)の策定および開示状況」に関する調査結果(上場会社向け)によりますと、役員報酬に対する基本方針を策定している会社は46%にすぎず、さらにそのうち、WEBサイトや株主総会などにより、投資家や株主に基本方針を開示しているのは、わずか21%にすぎない、ということでありまして、金融庁による開示ルール改正のもとになりました金融庁スタディグループによる役員報酬開示の趣旨は、このあたりのもあるのではないか、という問題意識からであります。

そのような問題意識から、先日株主総会招集通知の参考書類のなかで1億円以上の報酬を得ておられる役員さんの個別開示を行った資生堂さんの例をとりあげ(ルールでは有価証券報告書で開示することになっておりますが、資生堂さんの場合は事前開示の意味も含めて招集通知で開示しておられます)、「これは素晴らしい!」と絶賛したのでありますが、その後のメンバーの社外取締役さん方のご意見は以下のとおり。

メンバーのAさん「あれ?本当にこれだけ?資生堂さんにしては、えらい少ないなあという実感ですなぁ。もっともらってもええんじゃないの、という感じ。社外役員さん方が報酬決定に関与している、とありますけど、実際には事務方が作って、確認する、という感じでしょうなぁ。給与コンサルタントでもなかったら報酬の妥当性はわからんのとちがいます?」

メンバーのBさん「役員報酬の基本方針って、ほんまに役員みんな知ってますかね?あっても、知らんのとちがいますか?そもそも社長の報酬なんて平の取締役にはわかりまへん。自分と同じ平の取締役やったらなんとなくわかりますけど、役付きがナンボやとか、副社長がナンボというのはわからんし、執行役員兼務の人達もわからん。聞くに聞けんし(笑)」(そうそう、「なんでそんなん聞くねん」と言われまっせ、との声)

メンバーのCさん「先生が業績連動性の比率を開示することの重要性を言われるのは、わかる気もするのですが、そもそも業績というのは、私らがどんなに立派なことをやっても、やめたころにわかることなんで(笑)、ちょっとピンときませんなぁ(そやそや、それにどうやって個人の業績と会社の業績を結び付けるんやろか・・・との声も・・・)

メンバーのDさん「金融庁SGでは、もともと全部の役員の報酬を開示したかった当局が、経済団体からの猛反対を受けて、妥協の産物として『1億円』とう数字が出てきただけですよ。あまり意味がないのでは・・・・・」

たしか昨年6月に出された金融庁SG報告書では、「株主と企業との対話の促進」として、役員報酬開示問題が提起されたと記憶しております。しかしながら、実際に皆様のご意見をお聞きしておりますと、これがガバナンス向上に結び付くためには、多くの山を越える必要がある、と実感した次第でありました(^^;;企業のディスクロージャー担当の方々の苦労ばかりが増えて、株主のための施策としての理想と現実にはかなりのギャップがあるのかもしれません・・・・・。

6月 7, 2010 ディスクロージャー | | コメント (8) | トラックバック (0)

2010年5月19日 (水)

東証「独立役員」は社外監査役でも務まるのだろうか?

本日(5月18日)の日経新聞によりますと、東証が上場会社に届出を義務付けた「独立役員」について、約1割の上場会社が未だ独立役員を確保していないということであります。日経ヴェリタス5月9日号(58頁)でも、届出られた独立役員の75パーセントが社外監査役であり、社外取締役については、(本来46%程度の東証上場会社に社外取締役が存在するものの)25%程度しか就任されていない、と報じられておりました。そもそも上場会社の場合、大株主やメインバンク出身者から社外取締役が選任されているケースが多いために、東証の「独立役員」の要件を満たさない役員さんが多いことが予想され、この結果についてはとくに不自然ではないように思います。しかしながら、「独立役員」のイメージが社外取締役のイメージにかなり近いからでしょうか、これだけ社外監査役が多いことについて、マスコミで報じられる際には「ちょっと意外」な集計結果といった論調が見受けられます。

現実問題として、今回の東証のルール改正を各上場会社に浸透させるためには、社外監査役まで含めなければ実現困難であります。したがいまして、社外取締役・社外監査役の中から独立役員を選任して届け出る・・・ということもやむをえないのかもしれません。しかし、最新号の旬刊商事法務に資料として掲載されている「独立役員に期待される役割」(平成22年3月31日東京証券取引所上場制度整備懇談会)を読んでおりまして、そこで期待されている独立役員としての役割を、果たして社外監査役たる独立役員が果たすことが可能なのかどうか、若干の疑問があります。

東証が公表した「期待される役割」のなかでは、「一般株主」が定義されておりまして「株式の流通市場を通じた売買によって変動しうる多数の株主であり、個々の株主としては持分割合が少ないために単独では会社の経営に対する有意な影響力を持ち得ない株主」とされております。これら一般株主の利益に十分に配慮することが独立役員に期待される役割でありますが、この一般株主の利益が「上場会社の価値向上」の名のもとで、毀損されかねない場合として、3つの場面が具体例として掲示されております。ご承知のとおり、MBO、買収防衛ルール、第三者割当増資、という典型的な場面であります。上記「期待される役割」では、これら3つの場面において共通している内容として、一般株主を保護するためには、意思決定プロセスの中に独立した立場の者の客観的な判断を取り込むことが必要であるとされており、一般株主の利益に配慮した公平で公正な決定のために独立役員の存在は有効かつ必要である、とされています。

ここで解説されている内容につきましては、いわゆる「独立社外取締役」の必要性を論じるにあたっては極めて妥当なものであり、「独立役員」を「社外取締役」と同様のイメージで捉えるのであればとくに疑問の余地もないものと思います。しかし、(私も社外監査役たる独立役員でありますが)社外監査役としての立場となりますと、すこしイメージが違うのではないでしょうか。ここで述べられているのは「意思決定のプロセスの中に独立した立場の者の客観的な判断が必要」とされておりますが、監査役は意思決定のプロセスの中で判断する立場にはありません。あくまでも会社における重要な意思決定のプロセスをチェックするだけであり、経営判断には関与しないのであります。たしかに「期待される役割」のなかで紹介されているとおり、買収防衛ルールにおいて、社外監査役が一定の役割を担うこともありますが、それは「企業価値委員会」や「社外調査委員会」などにおける組織の構成員として意思決定に関わるものであり、会社の最終的な「企業価値」に関する意思決定に参加するわけではありません。そうしますと、この「期待される役割」の文章は、社外監査役を含めて「独立役員」として就任できる制度とは矛盾していることにはならないでしょうか。

さらに、上記「期待される役割」を最後まで読み進めていきますと、「留意点」として

なお、独立役員が監査役である場合には、会社法上の権限との関係で、取締役とは異なる面がありうる。

と説明されております。しかし、上記のとおり「異なる面がありうる」どころか、会社の重要な局面において会社の意思決定への関わり方には大きな違いがありまして、私の理解では、重要な局面における社外監査役たる独立役員には、重要な役割は期待できないのではないか、と考えます。むしろ、これをディスクロージャー制度のひとつとして捉えるのであれば、東証の定めた独立性の要件を満たした「社外取締役」が存在する企業と、独立役員に「社外監査役」を選任している企業とでは、上場会社のガバナンス評価としては差がある、と認識してもよいのではないでしょうか。(もちろん、個々の企業の事情がありますので、これはあくまでも「有事」を前提とした一般論としての評価でありますが)

では社外監査役が「独立役員」に選任されることが無意味であるか?と問われれば、そうではないと考えております。社長交代の決議などの場面も含め、上記で掲示されているのは会社の重大な局面におけるものであり、いわば有事対応であります。しかし平時であっても、つまり企業価値向上のためのガバナンス改革、企業不祥事の予防・早期発見のため(企業価値毀損防止のため)のガバナンス改革のためにも、そこで定義されている一般株主の利益保護のために独立役員が機能する余地は十分にあると考えております。それは会社法が本来の取締役や監査役に期待している権限行使や義務履行の「あるべき運用状況」を確保することであります。たとえば業務執行取締役や使用人兼務取締役が企業全体の利益確保のために取締役会で発言しているかどうか、自らの責任領域を超えて他の取締役の職務について監視義務を尽くしているかどうか、戦略会議や執行役員会議、専務会などで実質的な意思決定がなされ、取締役会が形がい化していないかどうか、監査役会が全社的な内部統制を有効にチェックしているかどうか、といった、本来会社法で要求されている権限行使・義務履行を独立役員が運用面からチェックするべきであり、このチェックを通じて各取締役・監査役が一般株主の利益保護について配慮する姿勢を向上させることが求められるのではないかと思います。独立役員自身に積極的な権限行使を求めるのではなくて、一般の社内取締役、監査役の「あるべき姿」を社内に機能させるための後方支援を行うことに期待すべきであります。

このように考えるのであれば、経営判断への関与、妥当性監査、といった問題をそれほど考慮しなくても、つまり社外監査役でも独立役員は務まるのであり、株主や一般投資家への説明責任も尽くせるのではないでしょうか。また、独立役員だからといって、特に高度な注意義務が課せられるものではない、という見解とも合致するように思います。「独立役員には情報が適時適切に届けられることが重要」とされておりますが、これも自ら経営判断に関与するためだけでなく、現に存在するガバナンスが有効に機能しているのかどうかをチェックする立場にあるからこそ、と考えるべきではないかと。最初から「独立役員制度」にあまり高邁な理想を掲げるのではなく、本来会社法が期待しているガバナンスの制度の運用面に光を当てることから始めるのが至極現実的な発想ではないかと思います。

この独立役員の制度も、「制度ができたからこれに合わせて終わり」というルールベースの考え方だけでは形骸化するのではないかという不安が出てきます。せっかく作った制度なのですから、「使いやすさ」つまり運用面での使い勝手まで含めて検討すべきではないでしょうか。(ただし、これはあくまでも平時における企業価値向上に向けての運用であり、有事における重大な局面における独立役員の務めとしては、やはり社外監査役では一抹の不安を覚える次第であります。)

5月 19, 2010 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年4月16日 (金)

紛糾する富士通社の情報開示に関する素朴な疑問

昨日(4月14日)は、関西テレビさんの本社で放送倫理・コンプライアンス研修の講師をさせていただきました。「あるある大事典」問題からちょうど丸3年・・・ということで、もう一度原点にもどって内部統制を見直そう、という企画でありまして、質疑応答も含めて2時間ほど私の思うところをお話させていただきました。講演終了後の懇親会でも、夜遅くまで幹部の方々から「あるある」の件について話を伺いました。調査委員会委員や職員の悪戦苦闘、番組制作にあたっての構造的な問題、その後の社員の意識など、当事者の方からでないと把握できないムズカシイ事情をかなり理解でき、こちらもたいへん勉強になりました。同時に、「これは他の放送局でも抱えている問題であり、またどこの局で発生してもおかしくないリスク」だと認識した次第であります。

講演と同じ時刻に富士通さんの記者会見が行われたそうでありますが、TDNETでも元社長の辞任の経緯と当社の見解なるリリースが出ておりましたので、本日その開示情報を読みました。このリリースに登場しておられる富士通の監査役さんは、私の司法修習生時代の恩師でありますので(汗・・・・・)またまたツッコミ不足になるところもご容赦いただかねばならないのでありますが、「地位保全の仮処分申立の取下げ」となりますと、ムム?と興味をそそられるところもありまして、本当に素朴な疑問点だけ述べてみたいと思います。

最初に疑問を抱きますのが元社長さん側の地位保全の仮処分申立事件への初期対応であります。この富士通社のリリース内容が正しいものであることを仮定してのことでありますが、元社長さん側は、当初この仮処分事件を債権者審尋だけで決定を出してほしいと裁判所に要請した、ということであります。

つまり「自分達の言い分と証拠だけをみて、裁判所は判断してほしい」と要望したとあります。たしかに仮処分事件でありますので、審理の迅速が要請されることは間違いないのでありますが、たとえば無効な取締役会決議によって代表取締役を解職された方の「仮の地位を定める仮処分命令」などは口頭弁論や審尋など、債務者(ここでは富士通社です)が立ち会うことができる期日を経なければ、これを発することはできない、とされております(民事保全法23条2項、同4項)。例外要件も置かれておりますが、一般的に労働者の解雇処分などへの適用が想定されている仮処分命令申立ですら、ほとんど例外なく審尋が必要とされているのですから、ましてや大会社の経営トップが暫定的にでも経営者に返り咲くことを認めるような仮処分に例外など認められるはずもないわけでして、なにゆえに元社長さん側が、このような要請を裁判所に行ったのかはちょっと理解できないところであります。ひょっとすると、最初から「申立をしたけど裁判所はノーと言った」という既成事実を作りたかったのではないか?といった推測すら浮かんでくるわけでして、どうも解せないところであります。そもそも、経営トップの地位保全の仮処分という場合、裁判官との事前面談ということも考えられますから、そこで審尋を経なければ決定は出せない、というお話になるかとは思いますが。

また元社長さん側は結局、この仮処分を取り下げるに至るわけでありますが、その取り下げの理由として「出された証拠を十分に精査する必要があるため」と回答されておられるようであります(読売新聞ニュースより)。しかし私が現在担当している仮処分事件でもそうでありますが、仮の地位を定める仮処分などの債権者側において、とくに急ぐ必要性がないのであれば、相手方の反論をじっくりと時間をかけて再反論するために審尋期日を続行させればよいだけであり、本気で「保全の必要性」を裁判所に理解してもらうためには、むしろ期日を続行させるべきではないか?と考えます。相手方提出証拠を十分に精査する、ということがなぜ取り下げとつながるのか、私は素朴な疑問を抱きます。このあたりがクリアにならないと、富士通社側によります「記者会見で言ってることと、申立てを取り下げたこととは矛盾している」との主張のほうに説得力があるように思えてきます。

さて、一方の富士通社側の主張にも素朴な疑問が湧いてまいります。この経過説明書の4ページでは、元社長さんを数名で説得して辞任に至らしめた場面が語られておりますが、このなかで元社長さんに辞任届を書かせた後、定例取締役会で、元社長さんの取締役辞任を「決議した」とあります。これはどういう意味でしょうか?そもそも取締役の辞任というのは取締役会の決議事項ではありませんし、勧告決議でもないようです。辞任届をすでにとりつけているのであれば、単に報告で済ませばよいだけの話では?(代表取締役さんの辞任の意思が取締役会で了承され、この時点で「受理」された、ということであれば理解できるのですが・・・)「当社の見解」のところに「取締役の多数の合意のうえで」辞任を要請した、とありますから、そのことを強調したかったのかもしれませんが、どうもよく理解できません。ひょっとすると、反社会的勢力と評されるファンド側からの損害賠償請求訴訟を念頭におきながらの表現なのでしょうか?

そしてもうひとつ、富士通社側が「当社の見解」として「裁判所は、客観性・公正さが担保された究極の外部調査委員会である」とされています。これはまったく違うと思います。裁判所は当然のことながら当事者主義ですが、調査委員会は職権探知主義です。裁判所は当事者の主張に依存しますが、調査委員会は必要があると思えば自分の判断で証拠を探しにいきます。また裁判所は当事者の勝敗を決しなければいけませんから、立証責任の原則があります。裁判官が事実の存否について「最後までわからない」という心証の場合、その結果をどちらに負担させるのか、という問題であります。たとえば、この仮処分事件の場合、詐欺・強迫の事実を立証しなければならないのは元社長さん側であります。そこでは当該ファンドが反社会的勢力でないにもかかわらず、さも反社会的勢力であるかのように説明され、これを誤信してしまって辞任届にサインをした、という一連の事実を立証しなければなりません。しかし、もし裁判官が「当該ファンドが反社会的勢力と言えるかどうかわからない」という心証の場合、結局裁判では元社長さん側が負けるという結論となります。そうしますと、出てきた裁判所の決定から一般に認識されるところは、富士通社側が勝訴した、つまり当該ファンドは反社会的勢力ということが証明された、となるわけであります。しかし、これは誤りであり、「裁判所はどっちかわからなかった」という結論も十分にありうるわけです。しかし裁判所には「どっちかわからなかったから、引き分け」という結論はありません。調査委員会であれば、わからないことは「わからない」と書きますから、到底裁判所の判断とは異なります。

そもそも「究極の外部調査委員会である」と富士通社側が考えているのであれば、なぜ申立てがなされた時点で公表されなかったのでしょうか?適時開示ルール上では公表する必要はなかったからでしょうか?しかし密室で行われる「外部調査委員会」など私はこれまで聞いたこともなく、これは極めて素朴な疑問であります。外部調査委員会の報告は自社に都合の良い時だけ公表する・・・ということは絶対にあってはならないのであります。

PS

警察OBの方々が、この「個人情報保護」のうるさい時代でも、反社会的勢力に関する情報に強い理由というのが最近ようやくわかりました。。。警察時代の上下関係からのコネ??そんな甘いものではなかったんですね・・・・笑

4月 16, 2010 ディスクロージャー | | コメント (3) | トラックバック (0)

2010年3月24日 (水)

「役員報酬の個別開示」反対論の説得力

金融庁のWEBサイトで3月31日公布予定の改正開示府令が公表されております。連日報道されております上場会社役員報酬の個別開示問題ですが、従来パブリックコメントに付されておりました案と同様、有価証券報告書への各役員の報酬について個別開示が義務付けられたようであります。(ただし賞与やストック・オプション等含め総額1億円以上の報酬を受け取る役員のみに限ることができます)個別開示を支持するコメントも10件あったそうですが、報道されるのは多くの経済団体からのコメントであり、私も会員にさせていただいております日本取締役協会もWEBサイトにて反対の意見書を提出したことが発表されています。なお、パブコメの内容やこれに対する金融庁の考え方については3月31日に公表する、とのこと。(これが一番読みたかったのに・・・・残念)

役員報酬の個別開示問題につきましては、個人的にどちらかの意見に賛同するつもりはございませんが、どうも経済団体の反対説をお聞きしていて「ちょっと議論がかみ合っていないのではないか」と素朴に感じているところであり、効果的な反対論が展開できていないように思えますが、皆様はどう思われるでしょうか?

まず「役員報酬は総額が開示されており、総会で承認されているのだから、それ以上の規制は二重規制ではないか?規制する意味がわからない」との反論が展開されております。しかし総額規制はいわゆる会社法による規制であります。「お手盛り防止」のために、株主の総会承認による議決権行使にかからせるものであり、金融商品取引法による開示規制とは趣旨が異なります。金商法の場合はガバナンス改革の一環としての個別報酬開示ですから、こっちは取締役の選解任のコントロールと株式売却によるコントロールであります。会社法上では株主は直接「その報酬はダメ」と言える権利ですが、金商法は「説明」が介在することで株主の意思が決まるわけで、とくにダメと言える権利ではありません。ですから、制度趣旨が異なる以上、二重規制にはならないと思いますので、ちょっと適切な反論とはいえないようであります。

つぎに「個人情報保護の趣旨に反する」「プライバシー権の侵害である」との反論が展開されております。たしかにこれはもっともな話であります。「上場会社の役員は報酬を開示すべき社会的責任がある」との賛成論者の意見もあります。しかし法人とは別に、「個人としての社会的責任」という概念が「1億円」という明確な開示基準と融合すべき合理的な根拠がないために、あまり説得力があるようには思われません。しかし、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど欧米の主要国ではいずれも役員報酬の個別開示が認められているなかで、なにゆえ日本だけがプライバシー権侵害という理由での開示拒否がまかり通るのか、そのあたりは反対論者の方々はどのように説明されるのでしょうか?セキュリティ問題も反対論者の根拠とされておりますが、我が国よりも高額の報酬が個別開示されている欧米諸国と比較しても、なおセキュリティが問題とされなければならないような合理的な理由は日本には存在するのでしょうか?私はこのあたりを一生懸命考えておりますが、どうもこの合理的な理由が思い浮かびません。(どなたか有力は反論をお持ちの方はどうかご教示いただきたいのですが)

「欧米は欧米、日本は日本」と割り切ってしまえばよいのではないか・・・とも思えるのでありますが、個別開示に反対される方々は、「そもそも日本は欧米と比較しても報酬は低水準である。批判されるような高額報酬をもらっているわけではない。」と主張され、都合のよいところだけは結局欧米との比較問題を有利に援用しておられるわけでして、このあたりがまた説得力を喪失させてしまっているように思われます。このあたりは要は欧米と比較しても、役員報酬はかなり低額なのだから、短期利益獲得に向けてのインセンティブは働かない、と主張されておられるのかもしれません。しかし、短期利益獲得に向けたインセンティブを日本と欧米諸国における報酬額の高低で比較することはナンセンスであり、そもそも我が国のなかでの「他人との比較」のほうがはるかに説得力があるはずであります。(同年代の年収を比べて、香港のビジネスマンとの3億円の年収の差よりも、隣の課の同期との10万円の年収の差のほうがはるかに嫉妬心が湧くように思いますが)

「日本の経営に過度の透明性は求めるな」という反論も、当っているようで実は論点がずれているように思われます。そもそも1億円以上の報酬をもらっている役員についての個別開示は、議論の端緒にすぎません。株主のなかには、多額の報酬をもらっている意味を知りたい人がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。たとえば全役員の報酬のうち、ひとりが3分の2の報酬をもらっていることに賛成する人もいれば反対する人もいますし、短期の利益獲得を目的とする株主ならばインセンティブとして高額報酬をもらうことを推進するかもしれませんし、ストックオプション付与の条件にも賛同するかもしれません。つまり、報酬の個別開示は、各役員の活動を「ガラス張り」にするものではなく、むしろ役員の報酬のとり方が気になった株主が質問をしてその理由を聞き出すための「端緒」なのであります。そこには株主の積極的な行動がなければガラス張りにはならないのであります。(だからこそ、金融庁の幹部の方々は「株主への説明責任」なる言葉を使いたがるのではないでしょうか)つまり役員と株主との対話の距離を縮めたにすぎず、その「端緒」としてちょうどいい金額が(日本の場合には)1億円という数字にすぎないのではないか・・・と考えております。ですから、この個別開示に反論をすべきなのは、そもそもガバナンス改革の手法として、役員と株主との距離感を縮めること自体が必要なのか不要なのか、というところであり、そこに焦点を絞らないと議論がかみ合わず、結局のところ行政当局の思うつぼ・・ということになってしまっているのではないか、と思われるのでありますが、いかがなものでしょうか?「なぜ役員報酬1億円以上」で区切ったのか・・・・・、そのあたりをもう一度、昨年6月17日に公表されました金融庁スタディグループ報告書の該当箇所を読み込んで検討しなおすことが必要なのではないかな・・・・と考えている次第であります。

3月 24, 2010 ディスクロージャー | | コメント (12) | トラックバック (0)

2010年3月15日 (月)

東証・大証「独立役員」制度に挑戦する上場企業の対応

(3月15日午前;追記あり)

このところ、監査役の方々や、取締役の方そして証券市場に近い弁護士の方など、けっこう多くの方より情報をいただいているのが「うちの会社の独立役員の選任は取引所の独立役員制度の趣旨に反しているように思えるのだが、本当に大丈夫か?」といったお話であります。私自身も、先日独立役員に選任されましたので、この問題にはたいへん関心を持っております。どうも著名な法律実務家の方が「証券取引所のルールを厳格に考える必要はないし、自社の判断で株主と利益相反にはないことを説明できればOK」とおっしゃっておられるようですので、大手の上場会社でも、メインバンク(当該会社の主要取引先)から来られている社外取締役の方を独立役員として届け出る(事前相談のうえ)ことを決めておられるところもあるようです。選任状況の届出をしないことについては(来年からですが)上場契約違約金など、実効性を確保する制度が施行されることになりますが、この制度の実効性担保は、結局のところ「独立役員」の開示(説明責任の履行)によって、株主(選任の議決権行使)や、投資家からのガバナンスに関する判断に依拠するところであります。したがいまして、外観的な独立性の高い役員が社内で選任されることを期待している取引所の立場とは裏腹に、株主や投資家から了解を得られれば、外観的な独立性には若干問題があっても、上場会社の経営陣と一般株主との間に利益相反状況が生じうる局面でも自信を持って公正独立の立場で行動できる、というにふさわしい方に、「独立役員」として就任していただく、という上場会社の対応も出てくるわけであります。

開示実務として、今後どのように定着していくのかは私にもわかりませんが、「独立役員」に選任された方々が、今後企業の重要な局面における「身の処し方」によって、独立役員であるがゆえに生じるリスクの有無については、こういったブログなどを通じて検討しておくことも有益かもしれません。わかりやすいのは、「投資家や株主からみて、選解任のコントロールや株式売却などの開示制度に伴うガバナンス」による実効性担保の問題と、独立役員であるがゆえに、その法的責任が発生する事後規制による実効性担保の問題に分けて検討するべきではないかと思います。たしかに後者につきましては、取引所の説明によりますと、たとえ独立役員に就任したとしても、基本的には社外取締役や社外監査役と、その法的な地位や責任の範囲に変わるところはなく、その職務内容や権限、選任方法、任期等については、会社法の範囲で上場会社の任意で定めることができる、とされております。このように説明しなければ、誰も独立役員なんかに就任する人がいなくなりますので(笑)、基本的には取引所(たとえば東証)の説明のとおりだと思います。しかし取引所ルールが説明できるのは、あくまでも会社法上での一般的な職責に関わるところであり、独立役員たる地位が任務懈怠の問題とどのように関係するのかは、最終的には裁判所が決定することであって、具体的な事情をみないと何とも言えないところがあるのではないでしょうか。たとえば、同じ社外監査役といっても、弁護士や会計士の社外監査役だけが任務懈怠を問われることは十分ありうる話ですし、(一般的な注意義務は同じでも、ある局面においてだけは高度な注意義務が課される、ということ)、有名な大和銀行株主代表訴訟では、ニューヨークに往査に出かけた社外監査役だけが(会計監査人の監査の相当性を確認できる立場にあったとして)任務懈怠に問われております。したがいまして、ある局面、たとえば高度に経営陣と一般株主との利益が相反するような場面において、独立役員であるがゆえに、他の社外役員とは異なる行為規範が求められたり、異なる注意義務が認定されることは考えられるのではないでしょうか。

また、前者の「株主や投資家から独立役員の行動がどう評価されるのか」という問題を検討することも重要かと思われます。たとえば、このたび、富士通社の前社長さんが辞任を撤回した、ということが報道されましたが、辞任に関する交渉は、取締役会ではなく、直前の密室での交渉だったと言われております。この交渉には、いまでも実権を有しておられる会長さんと、別にもうひとり社外取締役の方も同伴されておられた、とのことであります。そこでのお話が「不適切な企業と前社長との関係」だったようですので、取締役会では堂々と審議できなかったこともやむをえないところかもしれません。しかし、たとえば同伴されていた方が、もし「独立役員」たる立場であれば、密室で実質的な審議を行うことの当否はどうだったのでしょうか。(ここでは裁判所による事後規制は問題としませんので、あくまでも株主や投資家の立場からみて、適切な行動だったのか、ということであります)取締役会で重大な事項を審議しなかったことの評価と、情報開示として、「病気療養」としてそれ以上のことを示さなかったことについての評価をどう考えるべきなのでしょうか。「独立役員」としての心構えを持った方がとった行動として、それがふさわしいものなのかどうか。これはいろいろなご意見があっていいと思うのでありますが、少なくとも株主や投資家の方々が、開示情報を通じてその当否を自由に判断できる程度の問題の整理は必要であります。今後、独立役員制度の見直しが行われ、さらに詳細な行動に関するガイドラインが示されることも予定されているようでありますが、その行動が株主や投資家にとってどのように評価されるべきなのか、そのモノサシの当て方にも慣れていかなければならないように思います。

(3月15日午前;追記)本件「独立役員」に関する届出制度は、日本の取引所すべてにおいて重要な課題となっているだけに、「東証ルール」というのはいかがなものか・・・というメールを頂戴いたしました。たしかに、最近のルール改訂は、東証だけでなく大証はじめ、すべての国内市場に上場している会社にも重要な問題であり、誤解を招くおそれがありました。(失礼いたしました)御詫びとともに、関係の記述を訂正いたしました。

また、さっそく本エントリーにつきましてはJFKさんより参考意見をいただいております。そちらもご参考ください。

3月 15, 2010 ディスクロージャー | | コメント (2) | トラックバック (1)

2010年3月10日 (水)

スティール・パートナーズの委任状勧誘ブログ

月曜、火曜と日本監査役協会にて講演をさせていただきました。先週分を合わせて合計3回、東京での講演でしたが、延べ2200名以上の監査役の方(全国の支部の分も合わせますと3600名ほど)にお越しいただき、本当にありがとうございました。アンケート結果をすこしばかり事務局の方からお聞きしましたが、海外子会社に対する調査権の問題など、若干違和感があった、とご指摘を受けたところもございましたが、概ね好意的に受け止めていただけたようで安心いたしました。とりあえず、全国を回る合計7回の講演をなんとか無事終了し、少しホッとしております。辛口のご意見でも結構ですので、またコメントやメールでお寄せいただきますと幸いです。

ところで、スティール・パートナーズ・ジャパンとサッポロHD社の間で、新聞報道のとおり委任状勧誘競争が開始されたようでありますが、磯崎さんも数日前にご紹介されていたように、私のところにも、スティール社の広報担当の方よりメールが届きまして、早速スティール社の株主向けブログ(WEBサイト?)を閲覧してみました。私はサッポロHDの株主でもありませんし、どちらかを応援する資格もございませんが、「議決権行使のしくみ」ということを広く広報されておられるので、これはなかなか一般の株主にも参考になるなぁと思いました。監査役解任議案が上程される臨時株主総会を前に、対象とされる監査役さんが自身の思いをWEB上で綴る・・・ということが先日ございましたし、私自身は監査役の対外的意見表明もありかも・・・と考える立場の人間ですので、こういった形で少数株主が意見表明することも、(委任状勧誘規則に反しないかぎり-株主側なので、あまり想定されることもないとは思いますが)スティールさん以外でも検討されていいのではないか、と考える次第であります。(またサッポロHD社としては、こういったWEB上の株主意見について、適時開示のなかで反論をされるのでしょうか?)

3月 10, 2010 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年3月 8日 (月)

富士通の情報開示はどこまでFujitsu(不実)なのか?(その1)

週末の企業事件として、富士通社の前社長さんが社長辞任の取消を富士通側に求めたことが連日報じられております。「8人抜きの社長就任」(山本氏)で株価が市場平均よりも4ポイント強も上回り、社長交代が「好感度アップ」だった富士通社にとりましては、まさに「寝耳に水」の出来事が起こったのではないかと。

富士通社は、昨年9月25日付適時開示情報の「代表者異動の理由」について、(東証からの問い合わせに対して)異動理由の記載を訂正すると同時に、このたびのことで前社長さんとの信頼関係が失われたとして、その相談役たる地位をも解任したことを、週末に併せてリリースしております。はっきりとは記載されておりませんが「前社長が、不適切な企業と関係していた」ということですから、いわゆる反社会的勢力との関連性が問題とされているそうであります。(ちなみに、同じ適時開示でも法定開示たる臨時報告書では異動理由の記載は不要ですから、今回は証券取引所ルール上の適時開示との関係での不実記載の有無が今後問題になってくるのでしょうね)

反社会的勢力排除と上場会社の関係といえば、ご承知のとおりスルガコーポレーションの弁護士法違反事件がありました。最近でも2009年10月30日には東証一部の鶴見製作所さんが「不適切な取引に関する結果報告について」において、反社会的勢力と思われる企業との取引をなんとか解消するまでのご苦労を詳細に開示し、また同年11月27日には、東証マザーズのアドバックスさんがある特定の取締役が反社会的勢力に関与している疑いがあったため、弁護士4名によるコンプライアンス委員会を構成して、「コンプライアンス委員会による調査結果のお知らせ」をリリースしておりました。(調査結果は、関係は認められない・・・というものでありました。ただ、この報告書につきましては、いろいろと賛否の議論があったようですが・・・)いずれにしても、反社会的勢力との関係は上場会社にとって命取りになるような事件ですから、その関係が発覚した以上は必死になって、その解消もしくは無関係であることを説明しなければなりません。

本件の富士通社の件につきましては、いまのところダイヤモンドオンラインの特集記事が最も詳細に報じているようであります。ただ新聞記事や、経済雑誌の記事を読んでも論点が非常に多岐にわたるため、なかなかブログでは扱いにくい話題であります。ところで新聞や会社側リリース等を読んでも、ちょっとよくわからない点がいくつかございます。とりあえず、今日は前社長さんが内容証明で富士通側に送付した、とされる内容証明による辞任取消通知に関する疑問であります。

1役員らが迫った辞任とは「代表者」の辞任?「取締役」の辞任?

富士通社側が3月6日(土曜)にリリースした「一部報道について」では、代表取締役の「解職」とか「選定」という言葉が用いられておりますし、文章の後半部分では「代表取締役社長という立場の者の対応」について問題とされておりますので、富士通側の役員(取締役や監査役)の方々は、前社長さんに対して「取締役として残ってもらっていいので、代表者たる地位だけは退いてくれ。そうすれば解職しない。」と要求されたものと思われます。(解任するとしても、役員会では取締役たる地位までは解任できませんので、あくまでも代表取締役たる地位を解任することになるのでしょうね)にもかかわらず、EDNETの臨時報告書をみるかぎり、前社長さんは、取締役たる地位も辞任されております。なぜ、前社長さんはとりあえず代表権は返上して、取締役たる地位に留まらなかったのでしょうか?それとも会社側は「取締役たる地位まで辞任せよ」と迫ったのでしょうか?もし、富士通側の役員の方々が「取締役たる地位も辞任しなさい」と要求したのであれば、3月6日のリリース内容は実態と食い違っているのではないでしょうか?かりに富士通社側が「代表者としては、不適切企業との関係維持はまずいけれども、取締役としてならOK」と考えておられたのであれば、その理由はなぜなのか?という疑問も湧いてきます。

2「辞任」の取消ってできるの?

今回、前社長さんは、「辞任取消通知」を会社側に発したそうであります。ダイヤモンドオンラインの記事では、ある法律家の方が前社長さんの主張する内容が事実であるとすれば、富士通側は前社長さんに対して虚偽の害悪告知を行ったことになるため、詐欺または強迫による意思表示であり、これは取消しうるもの、と回答されております。おそらく前社長さん側の代理人弁護士の方のご意見も同様かと思われます。つまり、辞任の意思表示にも民法上の瑕疵ある意思表示に関する規定が適用される、とのことであります。でも、これって本当にそうなんでしょうか?

取締役はいつでも辞任はできますし、(会社に表示意思が到達すれば)一方的な意思表示で取締役たる地位から解放される、という法律効果を伴うもので、いわゆる「単独行為」であります。この単独行為にも、普通は契約関係で適用されるところの、錯誤や詐欺、強迫といった「後で取消うる意思表示の瑕疵」に関する規定が適用される、とするのが一般的な見解であります。

ただ、取締役の辞任というのは会社関係者にとって多大な影響を与えるものであり、民法上の契約関係から離脱するのとは状況がずいぶんと違います。もちろん、取締役の辞任は登記事項でもあります。また、取締役の選任・解任は株主総会における最も重要な専権事項でありますが、辞任が自由に認められるのはその責務の重大性からであります。ただ、辞任が自由に認められるといっても、辞任の撤回や辞任の取消まで広く認められるとなりますと、株主による経営へのコントロールが及ばなくなるおそれが生じて(会社にとって都合の悪いときに辞任をして、また善管注意義務違反を問われるおそれがなくなれば辞任を撤回するなど)、弊害が生じる可能性が高くなるのではないでしょうか。

ということで、そもそも取締役の辞任については、錯誤や詐欺、強迫による意思表示に関する民法上の規定は適用されないのではないか、もし一部の役員からの強迫があったとされるのであれば、それは辞任の撤回(取消)ではなく、その役員らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することで対処すべきではないのか、と思うのでありますが、このあたり、いかがなものでしょうか。(また、かりに辞任の取消が認められるとしても、「会社による強迫」なのか「第三者による強迫」なのか、そのあたりも検討される問題ではないかと思います)

反社会的勢力との関係について、富士通社が代表者異動時において適時開示していない点について、いろいろと「虚偽記載ではないか」との議論がありますが、この点についてはまた別の機会にエントリーで自説を述べてみたいと思っております。

3月 8, 2010 ディスクロージャー | | コメント (6) | トラックバック (1)

2009年12月22日 (火)

「ふしぎな開示」研究会に参加してきました。

(今日のエントリーはBLOGOSに転載していただかなくても結構です 笑)本日は終日東京でして、お昼は日弁連のコンプライアンスPTの会合に出席して、夜は東京の某所におきまして「ふしぎな開示」研究会の第1回会合に参加してまいりました。不適切な会計処理に伴う会計不祥事発覚の事例などを題材として、企業の開示情報から、「おかしな兆候」とか「ふしぎな開示」などを探ってみよう・・・・・、という企画のもとで始まった研究会でして、メンバーも不思議(笑)。 東京の弁護士さんとか、会計士さんとか、トレーダーの方とか、アナリストの方とか、証券会社の方とか、著名な個人投資家の方とか、ディスクロージャー関連会社の方とか、某マスコミの記者さんとか、その他本当に「ふしぎの国」からやってきている人たちとか(笑) いや、ほんとにふしぎな研究会です。私が更新のたびにチェックさせていただいているIF○S関連に精通されている某ブロガーの方もいらっしゃいましたし、いつも拝読しているディスロージャー関連の基本書の著者の方もいらっしゃいますし、なんか感動モノでした。

私なんかは、新聞である会社の不祥事が報道されたり、適時開示情報でリリースされるのを読んだりすると、そこからワクワクドキドキ(?)したりするのでありますが、さすがに投資家の方々は「いやもうそこまでくると、とくに関心はありませんね」「不正を起こしたことに関心があるのではなく、問題企業であることにいつ気がつくか、ということのほうが大事です」といったあたりのご発言には、なるほど納得がいきました。何が「ふしぎな開示」なのか、何をもって「おかしな兆候」とみるのか・・・、こういった感覚は企業の内部の問題(たとえば内部監査室)として捉えることはよく議論されるところでありますが、企業の外部から「開示情報」をもって問題性を察知するノウハウのようなものは、実はあまりこれまで議論されてこなかったのかもしれません。(外部情報を分析するのはあくまでも企業の業績予想・・・という認識しかもっていなかったのかもしれませんね)

あっという間の2時間半でありましたが、「なんぞある?」といった感覚を養うにはたいへん貴重な研究会ですので、不定期ではありますが、また開催されるときにはぜひ参加させていただこうかと思っております。(幹事の○○さんには、感謝、感謝であります)

なお、お昼のコンプライアンスPTでありますが、こちらもいよいよ佳境に入ってまいりまして、日弁連としての提言をまとめて、企業におけるコンプライアンス経営実現に向けて、関係各所に発信する予定になっております。

12月 22, 2009 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年3月 7日 (土)

ジャルコ社のMSCB(深夜の適時開示は蜜の味・・・・)

3月6日は、不肖私がプロデュースいたしました「インサイダー取引防止体制構築と弁護士の役割」なる大阪弁護士会研修が開催されまして、ご登壇いただきました大阪証券取引所調査役、同自主規制本部の方、そして大和証券SMBCの某部長さま、どうもお疲れさまでした!研修義務化対象講座にも指定されていた関係で、多くの弁護士の方に聴講いただきまして、慰労会までしていただきまして感謝感激でありました。

さて、話はガラっと変わりますが、日付も変わった3月7日午前1時48分、なにげに開示情報を覗きましたところ、(うわ!出ました!出ました!)またジャルコ社の深夜の適時開示情報です。監査役全員辞任→JASDAQぶっちぎりのMSCB→そして今度は新株予約権行使等差止め仮処分命令申立て、ということであります。この差止めの対象がまたスゴイ・・・。そして、この仮処分をいったい誰が申し立てたのか?大株主か?・・・・・ん?英心会有限会社・・・・?ネットで調べたところ、愛知県のハンコ屋さん(開運印鑑→特定商取引法上の表示により確認)のようでありますね。(申立人には失礼な物言いかもしれませんが)謎が謎を呼ぶような一連の事件でありますが、ジャルコ社のMSCB発行事件、今後の展開がさらに興味深くなってきました。(完全に野次馬モードのエントリーで申し訳ございません・・・)

3月 7, 2009 ディスクロージャー | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年10月11日 (土)

アーバンコーポレイション社の情報開示につき、金融庁が違法と判断

私の監査役全国会議での司会ぶりは、とても納得のいくものではございませんでしたが、報告者でいらっしゃった株式会社ジャムコ、共和電業、中外製薬の常勤監査役の皆様方に助けていただき、なんとか無事終えることができました。(8月の第一回の打ち合わせ以来、本当にお世話になりました。)あのような異様な雰囲気(とても「関西人のノリ」で乗りきれるような甘いもんやおまへん・・・笑)のなかでアドリブをまぜて平然とお話できる葉玉先生や武井一浩先生は、やっぱり能力もあるし、「場慣れ」もされているんでしょうね。ホント反省しきりです。orz

1 課徴金納付命令(異例の金融庁自身による単独判断)

アーバンコーポレイション社(民事再生中)とBNPパリバ証券との第三者割当方式によるCB発行に関する「不適切開示」について、これまでいろいろな報道がなされてきましたが、10月10日付にて金融庁はアーバン社の臨時報告書の記載内容に「法令違反」の事実が認められるとして課徴金納付命令に関する審判手続きの開始決定を発出したようであります。(リリースはこちら)つまり、金融庁は今回のアーバン社がBNPパリバ証券とのスワップ契約の内容を一切明らかにしないままCB発行の事実を開示したことを「不適切」ではなく「違法開示」と判断したことになります。ちなみに課徴金の金額(150万円)は、金融商品取引法172条の2、第2項にしたがい、アーバン社が発行する算定基準有価証券の市場価格総額に10万分の3を乗じた金額(本件では788億円余×10万分の3)と、300万円のいずれか多いほうに、(対象となる継続開示書類が臨時報告書なので)2分の1を乗じた金額ということで算定されたものであります。

継続開示書類(有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書等)の虚偽記載に関する課徴金納付命令につきましては、ご承知のとおり金融庁設置法20条に基づき、証券取引等監視委員会の調査により、行政処分その他の措置について金融庁(内閣総理大臣)に勧告がなされ、その勧告をもとに金融庁による課徴金納付命令が発出するのが定例であります。しかしながら、今回は監視委員会による勧告抜きで、金融庁が独自の判断をもって課徴金納付命令を発出することになりますので、きわめて異例な状況であります。今朝(10月11日)の日経新聞の記事によりますと、金融庁が単独で判断した初の事例である本件については、「早急な対応が必要だった」とのことであり、今回のアーバン社の臨時報告書の記載を違法としたうえで、今後は金融庁、証券取引等監視員会が共同でBNPパリバ証券の責任に関する調査に乗り出す・・・とのことであります。

2 アーバン社の情報開示の違法性に関する疑問

当ブログでも、BNPパリバとのスワップ契約の内容が開示された日に「これは後日大きな問題になるのでは?」なるエントリーを書きましたので、アーバン社の情報開示に不適切な面があることは当然だと思っております。また、アーバン社の不適切開示の直後に同社の株式を購入された一般株主の皆様による損害賠償請求訴訟(役員に対する)についても、今回の金融庁の判断は追い風になるであろうことは間違いないところと推察いたします。ただ、今回のアーバン社の臨時報告書の記述がはたして「違法」と断定できるものかどうか・・・ということにつきましては、少しだけ疑問を抱いているところであります。

金融商品取引法が継続開示書類の虚偽記載により開示企業に課徴金納付を命じることができる根拠条文は172条の2であります。その条文によると、「重要な事項につき虚偽の記載がある(臨時報告書を提出したこと)」が要件となります。そして先のアーバン社に対する審判手続き開始決定の要旨を読みますと、臨時報告書の「新規発行による手取金の額およびその使途」の記載方法を問題としたうえで、当時の事実関係からすれば、スワップ契約の内容を引用しながら手取金全額をいったんパリバへ交付することや、最終的に財務安定のための債務返済に用いることが可能な金額は不確定であることを記載しなければならなかったにもかかわらず、これを記載しなかったこと自体を問題としております。(なお訂正報告書自身の虚偽記載は問題としていないので、アーバン社が実際に臨時報告書に積極的に記述している内容自体が虚偽とまでは判断されていないものと思われます)つまり、金融庁は、投資家保護のために、アーバン社は投資家が誤解されぬよう、本来記載しなければいけない記載内容をあえて記載しなかった点をとらえて「重要な事項につき虚偽の記載がある」と判断したものと思われます。

しかしながら、現行の金融商品取引法においては、継続開示書類に「重要な事項につき虚偽の記載がある」場合が課徴金の対象とされているにすぎず、重要な記載が欠けている場合は課徴金の対象とはされておりません。(旬刊商事法務1840号32頁。立案担当者のご解説参照)今年の金融商品取引法の改正(平成20年改正)で、この点が問題となったために、平成20年改正の金融商品取引法(金融商品取引法の一部を改正する法律:平成20年法律第65号)においては、この172条の2の条文に関して、「重要な事項につき虚偽の記載がある」という文言が「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」に変更されることになっております。(条文の変更はこちらを参照。ただし、同改正法は未だ施行されておりません)つまり、今回の法改正の趣旨からすれば、アーバン社の臨時報告書提出時点においては、未だ「記載すべき重要な事項の記載が欠けている」ケースは課徴金の対象とはならないはずであります。したがいまして、金融庁はなぜ、今回のアーバン社のケースを「違法開示」と捉えて、課徴金処分の対象となしえたのか疑問を抱くところであります。

実際にEDINETで公開されているアーバン社の6月26日付け臨時報告書と、8月13日付け「訂正臨時報告書」を読み比べてみましても、「手取金の使途」として記載されているところにつきまして、「手取金はいったんスワップ契約の条件としてパリバに返却することが記載されていない」ことが、全体としての「使途に関する重要事実に関する虚偽記載があった」とみなすこともできそうでありますが、しかしそういった実質的な解釈をとるのであれば、そもそも記載すべき重要な事実が欠けている場合も、最初から「重要な事実につき虚偽の記載がある」に含めればいいわけでして、今回法律の改正をしてまで金融商品取引法の文言を変更する必要はないはずであります。また先の金融庁リリースでは、「受領金の金額がそもそも不確定であり、いつどれだけの受領金を活用できるかわからないことについても記載すべきであるのに記載していなかった」点も問題とされておりますので、なおさら今回のアーバン社の件では「投資家保護のために記載すべき重要事項が欠けていた」点を問題としていることは明らかだと思われます。

私自身は、できればBNPパリバの関与についても事実関係を明らかにしていただきたい、という気持ちをもっておりますので、アーバン社の臨時報告書の開示が「不適切」→「違法」となることには歓迎するものであります。しかしながら、「違法認定」において、どうしてもひっかかるところがありましたので、エントリーさせていただきました。こういった金融庁の迅速な対応というものも「金融危機における市場健全化対策の一環」・・・ということかもしれませんが、たとえそうであったとしても、理屈がすっきりと通っていることは必要だと思いますし、とりわけプリンシプルベースによる金融行政を原則とするならば、なおさらのことと思っております。(ひょっとするとどこか基本的なところで誤りもあるかもしれませんので、修正の可能性もあります。)

10月 11, 2008 ディスクロージャー | | コメント (11) | トラックバック (1)

2008年10月 9日 (木)

上場会社コンプライアンス・フォーラムのお知らせ(大阪編)

(9日午前;追記あり)

8月に東証自主規制法人(COMLEC)、JASDAQ共催による上場会社コンプライアンスフォーラムをご紹介いたしましたが、予想どおり大盛況だったようですね(当日の模様は週刊経営財務の2887号に掲載されております)「こういった催事が東京では頻繁にあっていいですね。大証さんと共催で大阪でもやってくれたらいいですね。」と書いておりましたところ、「想ひ」が通じたのか(^^;、東京証券取引所自主規制法人主催、大阪証券取引所共催による「上場会社コンプライアンス・フォーラム in OSAKA」が開催されるようであります。日時は11月7日(金)、場所は中之島の国際会議場だそうです。東京は「渋谷公会堂」でしたよね。。。

旬刊経理情報(10月10日号)の巻頭言(論談)でも、東証COMLEC理事長さんがお書きになっているように、主たるテーマは「上場企業におけるインサイダー取引の未然防止策と今後の課題」ということでして、「市場の信頼を守る」とともに「市場の信頼を創る」ことを念頭に企業コンプライアンス啓蒙活動の一環として開催されるそうであります。前回の東京でのフォーラムでは(会場の関係などから)参加条件なども厳しかったようですが、今回の大阪フォーラムでは一般の事業会社も弁護士も会計士も、広く市場関係者のご参加についてWelcomeのようですので、私も早速申し込みました。証券取引等監視委員会の事務局の方のお話もお聞きしたいですし、先日のNHKインサイダー事件において第三者委員会の委員をされている國廣正弁護士の「インサイダー取引防止と内部統制」に関する講演もたいへん興味がございます。課徴金事例なども集積されてきましたし、形式的処罰規制としての「うっかりインサイダー」(これは証券取引等監視委員会の方々は「不適切な表現」とおっしゃっておられますが)にも話題が集中しているところですので、金曜日のお昼に国際会議場まで行く値打ちはあると思います。私も、裁判所(刑事事件)、行政庁(課徴金)、取引所(自主規制)それぞれが、どういった視点でインサイダー事件と向き合っているのか、少し予習をして臨みたいと思っております。

先の理事長さんの巻頭言でも「法令遵守体制」と「情報管理体制」に分けて論じておられるようで、重要情報が集まりやすい場所での管理のほかに、「重要情報が発生しうる場所」における情報管理にも配慮しなければならない、というのは「なるほど」と思います。たしかにインサイダー取引規定に該当する「重要な事実」は、常に社長さんや取締役会だけが情報の発信地ではないですよね。職務に関して重要な事実にアクセスしうる立場の従業員さんが発信地に近いということも考えられるところであります。東証、大証共催のコンプライアンス・セミナーなど、あまり関西では頻繁に行われないものかもしれませんので、ご興味のある方はぜひご参加いただければ、と思います。

(9日午前;追記)

読売新聞の朝刊を読んでおりましたらある会社のIR責任者の方のインサイダー疑惑に関する記事が掲載されておりました。今後はコノテのインサイダーが増えるのでは?ということで、9月25日に日本経営協会にて「広報・情報開示に関するコンプライアンス」という講演をさせていただきましたが、「知人」の名前を借りて自社株売買をする、というのは、本当にリスクが高いです。以前も「家族を不幸にするインサイダー」でも書きましたが、親族まで取り調べの対象に巻き込んでしまうリスク(しかも任意なので、期間が相当に長くなります)がありますので、くれぐれもご注意を。

10月 9, 2008 ディスクロージャー | | コメント (4) | トラックバック (0)

2008年10月 6日 (月)

不適切な開示と証券訴訟による事後規制の有効性

NERA証券さんでは、金融プラクティスセミナーの一環として「証券訴訟と損害賠償」に関する講演を10月30日に開催されるそうであります。(NERA金融プラクティスセミナーのお知らせ)ここのところ、西武鉄道事件、ライブドア事件に関する株主損害賠償請求事件の判決が出ており、最近はアーバンコーポレイション社、IHI社などの不適切開示事例についても株主集団訴訟が提起(もしくは準備)されております。また発行企業や発行企業の役員を相手方とする民事責任につき、原告側に有利となるような金融商品取引法の規定も活用されるようになりましたので、こういった集団株主訴訟が提起された場合における損害賠償額がどの程度になるのか、賠償額の立証をどのようにすればいいのか、賠償額と違法行為との因果関係はどのように立証すればいいのかなど、株主側も、また企業側も関心が高まるのは当然の流れのように思います。アーバンコーポレイションの不適切開示に関する2ちゃんねる掲示板の議論などにもあるように、たしかに発行企業ではなく、役員を相手方として損害賠償請求訴訟を提起したとしても、その個人的資力からみて、「勝訴判決は絵にかいた餅」(執行しても何もとれない)に終わってしまう可能性は否めないところだと思います。ただ、株主の皆様方としましても、「不適切」であることと「違法」であることとの差は明確にされたいでしょうし、少しでも被害填補がはかられる可能性があれば訴訟を提起したいとの意欲はお持ちでしょうから、積極的な訴訟提起の姿勢につきましては、私は賛同するものであります。また、たとえ副次的な効果でありましても、そういった勝訴判決が出ることで、グレーゾーンをなかなか取り締ることができない事前規制を補完する機能が発揮されることには十分な意義が認められるように感じます。

ところで、アーバンコーポレイション社の株主の方々による集団訴訟のケースでは、私が聞き及んでいるところですと、CB発行のリリースがなされた本年6月27日以降に、そのリリースを知ってアーバン社の株式を購入された方々を原告として募集するものであり、それまでアーバン社の株式を買い支えてこられた一般株主の方々は対象外ということのようであります(もし間違っておりましたらご連絡ください。訂正いたします)たしかに金融商品取引法を活用して役員の損害賠償責任を追及するということになりますと、情報開示規制違反によって損害を被った株主が救済の対象となりますので、リリース後に購入された株主の方のみが対象とされることになるのかもしれません。(本件では臨時報告書に記載すべきスワップ取引に関する事項が記載されていなかったことを法令違反と主張することになるものと思われます)しかしながら、リリース以前からアーバンコーポレイションの株式を保有している方々にとりましても、役員の責任追及を通じて訴訟における救済の道というものがあっても不思議ではないような気もします。たとえば、不公正なCB発行としての差止請求については、その権利行使の是非を判断するための情報開示がなされていなかったということであれば、役員に対する善管注意義務違反を問いうるのではないか、CB発行とスワップ契約が一体であれば、アーバンコーポレイション社のファイナンスに関する実質的な経済的効果は(すでに証券取引所によって規制対象となっている)MSCBもしくはMSSO(行使価額修正条項付き新株予約権)と同視すべきものでありますので、規制の潜脱行為ではないか、といったあたりの主張は検討されないのでしょうか。金融商品取引法による請求であれば形式面が重視されるでしょうが、会社法もしくは民法による責任追及ということであれば、実質的な取締役の行為について問題にすることが可能のように思います。(ただし、損害額、因果関係についてはやはり立証が困難な点は否めないかもしれませんが)いずれにしましても、投資家の事後救済といっても、その救済の範囲はごく一部にしか過ぎないのが現状ではないかと思われます。

なお、民事再生事件の関係者でもないかぎり、BNPパリバとアーバンのスワップ契約の真意についてはなかなかわからないところです。(これだけ巨額の損失リスクがあってもアーバン社が資金調達をしなければならなかった理由とか、下限価格175円の経済的合理性など)そこで、せっかく2008年4月より財務報告に係る内部統制報告制度が施行されたのですから、発行企業を被告とする訴訟ではありませんが、発行企業における内部文書の開示を訴訟のなかで求める方法など検討されるかもしれませんね。たとえば監査役が取締役会で決議された内容もしくは手続きについて、これを適法と判断した根拠資料など、最近の金融機関に対する文書提出命令に関する最高裁決定の流れからしますと、開示の対象になるかもしれません。(単なる内部資料ではなく、内部統制報告制度という法律に基づいて作成され、外部監査人に閲覧されることを予定して保存される文書であるため)今回は民事再生企業の役員個人が被告であるために、ちょっと苦しいかもしれませんが、一般の上場企業の不正会計や不適切開示が問題となるケースにおきましては、今後は内部統制報告制度によって作成、保存されている文書はどんどん開示命令の対象となり、こういったファイナンスの仕組みの是非についても外部の第三者に判明しやすくなる可能性は十分にあるものと考えております。またそういった文書開示命令申立にもかかわらず、文書を作成していないとか保存していないといった抗弁が出された場合には、主張立正責任が転換されるとか、内部統制構築義務違反など、企業やその役員の責任が認められやすくなる効果も発生するかもしれません。(あくまでも私見でありますが)

10月 6, 2008 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (2)

2008年8月28日 (木)

アーバンコーポレイションの情報開示の問題点(その2)

ロイター通信のアクセス1位になってますね、この記事。

破たんアーバン増資に市場から批判、金融庁もパリバをヒアリング

さすがに内容はおもしろいです。有識者のコメントも豊富です。記者さん方の取材意欲が伝わってくるような内容ですね。やっぱり問題化してきましたね。仕事中なので、とりいそぎ備忘録としてアップしておきます。

8月 28, 2008 ディスクロージャー | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年8月20日 (水)

アーバンコーポレーションによる情報開示の問題点(まだ思案中)

数日前に備忘録として若干触れましたアーバンコーポレーションの民事再生申立の件ですが、昨日あたりのニュースによると、東京証券取引所も調査を開始するようですし、また監督委員の弁護士さんもスワップ取引の経過について関心を寄せておられるようであります。ただ、本件はコメントでKazuさんやろじゃあさんがご指摘のとおり、いくつかの問題に整理して検討するほうが適切だと思います。噂としてはいろいろと出ているところのBNPパリバとアーバン社との5月以降の経過とか、スワップの仕組みの問題点というのは、純粋な倒産法上の法律問題ですから監督委員の先生にがんばっていただくことになるでしょうし、タイムディスクロージャー(適時開示)として適切であったかどうかは、証券取引所の方に検討していただくことになるでしょうし、そして「臨時報告書」および「訂正臨時報告書」に関する点につきましては、まさに金融商品取引法上の民刑事問題として検討されるべき問題かと思われます。

実は、ここ数週間に開示されたアーバン社以外の適時開示情報のなかにも、はっきり言ってヤバい(明らかに問題になる)開示情報がいくつかありますよね。重要事実に関する解釈を曲解したり、重要事実の発生時期を開示による影響を恐れて周到に操作したり、といったことが明らかに行われています。ただ、世間で情報開示が問題になるのは、今回のアーバン社のように、その情報の裏側まで世間に周知されることが前提であって、「あの会社は怪しい」といった議論がなかなかできないところに特徴があります。開示ルール違反ではないか?と、首をかしげたくなるような「グレーゾーン」は頻繁に指摘されるところですが、結局のところ一般投資家に大きな損害が発生して初めて事後救済の段階でやっとルール違反の有無が問われることになるということなんでしょうね。開示ルールの事前規制ということでいえば、結局のところ内部管理体制を厳格に要求するか、改正金商法によって創設されるプロ向け市場のNomad(上場企業後見人制度)的な制度を一般上場企業にも採り入れるか、といったことが必要になってくるのではないでしょうか。

さてEDINETでアーバンの開示情報を検索しますと、Kazuさんがご指摘のとおり、訂正臨時報告書が8月13日に出ていますね。内容的には適時開示情報と同一のものと思いますが、スワップ契約に基づいて割当先にいったん社債金額300億円を全額支払って、スワップ契約に基づく受領金を適宜受領する・・・という内容が「訂正」された資金使途ですが、これは本当に訂正で済むのでしょうか?ご承知のとおり、金融商品取引法197条の2第6項では、臨時報告書の重要な事項につき虚偽記載のあるものを提出した場合には刑罰の対象となるわけでありますが、たしかに開示府令第19条の内容を検討してみましても、新株予約権付転換社債発行時に臨時報告書へ記載すべき内容のなかには、そういった条件を記載することまでは要求されていないようであります。しかし(形式的にせよ)300億円という資産が(信用リスク回避のために)アーバン社からBNP社に対して移動しているわけですし、これは投資家の判断に著しく影響を与える事実ではないでしょうか。少なくとも、スワップ契約の内容が事前に開示されていなければ、一般投資家の自己責任を問えないと思いますが、このあたりはいかがでしょうか。また臨時報告書虚偽記載の問題ではないとしても、金商法157条のバスケット条項の適用が問題となりそうな気もします。一般投資家の判断を基にすれば、BNPパリバによる300億円の資金支援の事実はアーバン社にとっては起死回生の事実と受け取るのが一般だと思うのですが、こういったスワップ取引の存在を同時に知っていた場合には別の考え方が成り立つはずですし、いずれにしましても、本件の開示ルール違反疑惑につきましては、どのような問題に発展していくのか、非常に関心の高いところであります。(ただ、アーバン社の場合、最近まで元検事総長の方が社外取締役に就任されていらっしゃったので、そのあたりも影響があるかもしれませんが・・・)

8月 20, 2008 ディスクロージャー | | コメント (13) | トラックバック (2)

2007年11月17日 (土)

「適時開示」は誰のためにあるのか?

一昨日のエントリーの最後にチョロっとだけ触れておりましたが、11月14日の夜、オートバックスセブン社が無担保転換社債型新株予約権付社債(以下、「当該CB」といいます)の発行を中止する旨、情報を開示しております。オートバックスセブン社による当該CB発行とその中止に至る経緯としましては、以下のとおりであります。(ほんの概略にすぎませんが・・・)

Auto001 このような流れのなかで、オートバックスセブン社が当該CBの発行を中止したことは、「不適切な開示」ではないか、として東証が調査を検討している、といったニュースがリリースされております。(毎日新聞ニュースはこちら)また、ロイター通信によれば、当該CB発行を中止した経緯について、会社側に説明を求めたところ、発言した部署によって理由がくいちがっていたそうであります。(ロイター通信はこちら)なお、オートバックスセブン社が資金調達に走る一連の経緯につきましては、katsuさんのブログで詳細に解説されておりますので、ご参照ください。

こういった一連の適時開示をみておりまして、「当該CB発行のお話は架空のものではなかったのか」といった推測までは至りませんが、下記のようなこの一週間の株価と出来高の推移をみると、当該CB発行を投資家がどのように見ているかは別として、株価形成には大きな影響が出ていることは明らかであります。

Autobackspng

当該CB発行中止に至った経緯については非常に関心のあるところですが、おそらくオートバックス社側において、エスクロー口座への入金の確認にトラブルがあったのではないかと思いますが、どうなんでしょうか(でも、オートバックス社の説明ではファンド2社とともに協議をして中止した、とありますので、単純な金銭処理上のトラブルでもなさそうですし、私自身も未だよくわからないところであります。)ただ、東証や大証に提出すべき改善報告書のなかには、(改善案策定の前提として)なぜ、このように当該CBを発行決議をして、払込確認をした旨開示しておきながら、払込が未了であると訂正し、そして最後には当該CB発行を(ファンド2社とオートバックスセブン社の3名で協議をして)中止するに至ったのかを十分説明しなければなりません。したがいまして、11月末までには明らかになるとは思いますが、こういった適時開示情報というものが、いったい誰のためにリリースされるのか、あたりまえのようでありますが、今後問題となるケースも出てくるように思います。

ひとつは短期売買のための情報提供ということでありますが、その場合には、たとえば当該CBの中身がどうであるのか、社債買受人はいったいどのような法人(個人)なのか、どの程度の株式の希薄化が生じるのか、など、情報内容を理解する能力が必要になろうかと思われます。しかし、たとえばMSCBとか、当該CB発行のように、普通の投資家には、新株の内容が既存株主にどのような影響を与えるのか、その情報内容から理解できる人はごく限られてくることになります。(私自身も、この観点からみるファイナンスは勉強中であります)しかし、長期保有を目的とした一般投資家にとりましても、こういった適時開示情報というものは結構役に立つものだと思うようになりました。「性格の良い企業」「投資家に優しい企業」というのが、どういった企業であるかを知るためのひとつの材料が、この適時開示をきちんと行う企業である、といっても過言ではないと思います。こういった観点からみれば、(たとえMSCBや当該CBのように、発行要領の細かいところまで理解できなくても)開示が遅延したり、すぐに修正、訂正が入ったり、その遅延や訂正になんらの説明もなかったり、といった対応そのものが判断材料になるからであります。(以下、つづく)

11月 17, 2007 ディスクロージャー | | コメント (2) | トラックバック (0)