2015年7月 2日 (木)

投資家からみた内部統制報告制度の存在意義について

本日(7月1日)の日経夕刊「十字路」で、野村総研主席研究員の大崎貞和さんが「内部統制報告制度の存在意義」と題する小稿をお書きになり、とりわけ金商法上の財務報告内部統制に関する運用面における課題について指摘されています。最近の不適切会計事件、とりわけ北越紀州製紙やLIXIL、そして東芝においても、「当社の内部統制は有効」と報告しておきながら、不祥事が発覚した時点で「有効ではありませんでした」と訂正されても「開示情報を信用した投資家は浮かばれない」と厳しいご意見を述べておられます。

本日、大崎さんと、ある会合でこの内部統制報告制度の存在意義について少し意見交換をさせていただきました。会計不正事件が発生している以上、当該企業のどこかに内部統制上の欠陥があるはずであり、もし第三者委員会が設置されるのであればこの「内部統制上の欠陥」について詳細に分析・解明の上で開示すべきである、というのが大崎さんの意見でした。内部統制報告制度の運用は制度監査とも密接に関連しているので、内部統制監査を担う監査法人とは別に第三者委員会がどこまで踏み込めるかは課題がありますが、私も6月15日のエントリーで述べたように、不祥事発覚で企業が内部統制評価を「有効ではなかった」と訂正するに至った経緯を投資家に説明すべきですし、その責任が企業及び監査法人にはあるのではないかと考えています。

「存在意義」ということを真正面から考えるのであれば、(ここは多くの有識者の方と意見が異なるかもしれませんが)金商法上の内部統制報告制度の場合、「財務報告の信頼性が十分確保されている企業ですよ」ということを投資家に開示するところだと思います。たとえば会計不祥事が発生していない会社でも「信頼性にやや問題がありますよ、いまその問題点は鋭意整備して改修しているところです」といったサインを投資家に示すことも大事ですし、逆に会計不祥事が発生してしまった会社でも、「これは内部統制の限界を超えた事件なのです、だから相応の内部統制はできていたので有効と判断していました、その判断には(今も)誤りはないと考えています」といったサインを示すこともありうると思います。金商法上の内部統制はしっかりしていたとしても不祥事は起きることを認めるのか認めないのか、そのあたりは理屈のうえでどう考えるべきなのか、明確にすべきです。

つまり一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準に依拠した場合には、たとえ会計不正事件が発生したとしてもルールに従って評価した以上は内部統制は有効である、という結論もありと(私は)考えています。財務報告は会社の実体を数値で表現するわけですから過年度決算を訂正する必要がありますが、内部統制報告制度は実態を表現するのではなく、あくまでも評価の開示ですから訂正する必要はないと思います。評価結果を変えるということは、会計不祥事という事実が判明したことで変えなければならないものではなく、その不祥事発生の事実がどのような判断基準に影響するから変えた・・・という理屈がなければ容易には変えられないはずです。この点は内部統制報告制度にも金商法上の虚偽記載責任が規定されている以上は「後出しじゃんけん」が許されないと思います。

このあたりの議論がなかなか進んでいないのではないかと思いますがいかがなものでしょうか。内部統制報告制度が、事前規制という意味においては簡素化された現在、ペナルティを含めた事後規制の議論をきっちりと詰めておかないと6月15日のエントリーでご紹介した町田教授が懸念されている「モラル・ハザード」が上場会社に蔓延してしまうのではないかと危惧しています。仮に私の意見がおかしなものであり、「会計不正事件が発生した以上、それはやはりどこか内部統制に問題があったはずだ」という意見が正しいのであるならば、事後規制の一環として、なぜ間違った判断をしていたのか、なぜ間違っていた経営者の判断を(監査法人は)適正と判断していたのか、そのあたりを詳細に説明しなければペナルティの対象となる、とでもしなければ開示規制としての存在意義はほとんどなくなってしまうと思います。

たとえばLIXILさんは「全社的内部統制の整備・運用に不備があった」として内部統制の有効性を訂正していますが、ではなぜこれまでは全社的内部統制は有効と判断していたのか、判断過程のどこに問題があったのかを明確にすべきですし、監査法人もなぜ全社的内部統制を有効とする経営者評価にお墨付きを与えていたのか、どこに間違いがあったのかを明確に説明すべきです。名門企業の内部統制の不備が議論されている今、大崎さんのようなご意見がいよいよ投資家サイドからも出てきたことは、内部統制報告制度の今後の運用において大きな意義があるものと考えます。

7月 2, 2015 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年10月30日 (火)

ホンダ社の「うっかり開示ミス」と内部統制の有効性

(30日午前:追記あります)

The Power of Dreamsのホンダ社が、連結決算短信(および説明資料)を「うっかりミス」によって予定開示時刻よりも大幅に早期に開示してしまい、午後になって株価が急落、同社はこの事態について謝罪されたそうであります(ロイターニュースはこちら)。先日もグーグル社が同様の事故を起こしましたが、グーグル社の場合は、委託先のディスクロージャー専門会社のミスによるものだったそうで、ちょっとホンダ社のケースとは異なるようです。

先週金曜日の日経新聞に掲載いただいた私のコメント(投資・財務面)のとおり、「不正はどこの会社でも起こる」わけでして、ましてや「うっかりミス」は(リスク管理に投下できる資源には限りがありますので)完全に防止できないもの。財務報告に係る内部統制の重要な要素のひとつである「情報と伝達」に問題が指摘されるものの、なかなか100%ミスを予防することはむずかしいかもしれません。

ただ、気になりましたのは(日経新聞ニュースで報じられているとおり)、今回のうっかり開示が約20分間にわたって、同社のホームページ上で閲覧可能な状況にあり、しかもうっかり開示の原因は広報担当者が別の広報記事と間違って掲載してしまった、という点であります(ちなみに同社のHPを確認しましたところ、10月29日にリリースされたニュースは、すべて決算短信に関連するものばかりであり、いったいどの広報記事と間違えて掲載されたのかはわかりませんでした)。

財務報告の開示統制が、広報とは別の部署が担当しているということならまだ理解できるのですが、広報部署が担当しているのであれば、(たとえ別のニュースを掲載したつもりでいたとしても)必ずニュースを開示直後に、きちんとアップされているかどうかを確認するのではないでしょうか?広報担当部署が間違ったことに気付いたそうですが、それでも20分もの間、業績の下方修正に関するお知らせが閲覧可能の状況にあったわけですから、開示直後には何らの確認もなされていなかった可能性が高いと思料されます。個人事業者でも、自社のHPを運営しているところでは、おそらく更新手続きを終了した時点でアップ内容を確認するのが普通だと思いますので、この規模の会社としてはちょっと信じられないところです。(追記:なお、ひろさんからご指摘を受けましたように、HPへの入力はすでに予約機能によって同時刻以前に入力済みだったのかもしれません。確認作業が遅れたという点では同じだとは思いますが)

同社の開示マニュアルには、おそらく開示統制の一環として開示直後の確認作業が盛り込まれているものと思いますので、もしそういった確認手続きが履行されていなかったとすれば、重大な運用上の不備が認められます。もしマニュアルどおりに確認作業を行った末に20分も閲覧可能な状況に置かれていたとすれば、まずマニュアル自体に問題があるか、開示情報訂正のための情報伝達方法に問題があるということになります。

TDNETのような適時開示情報システム上ではなく、同社HP上で情報が早期に公表されてしまったわけですから、投資家サイドからすると「情報入手の公平性」に問題が生じる事態となりました。同社は今回の事故を契機に再発防止策を検討されるそうですが、私としましては、うっかり開示を未然に防止するシステムよりも、この「空白の20分」がなぜ発生したのか、その原因を知りたいところですし、この空白の20分を作らないための再発防止策こそ、同社の内部統制においてもっとも重要なのではないかと思う次第であります。

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2011年8月 3日 (水)

内部統制の「重要な欠陥」➔財務諸表監査「意見不表明」とされた事例

昨日に引き続き、内部統制報告制度(J-SOX)に関わる話題であります。内部統制報告制度は「法と会計の共通言語」として、かねてより興味を持ち続けているテーマでありますが、このほど、今後の内部統制報告制度の実務に影響を及ぼすのではないか・・・と思われる興味深い事例が開示されております。

札幌証券取引所上場のRHインシグノ社は、7月28日付けにて「有価証券報告書に関する監査意見不表明のお知らせ」と題するリリースを公表しておられます(リンクはTDNETより)。同社では、6月23日にコンプライアンス問題が発覚し(貸金業者であるにもかかわらず、無登録にて私募債を発行し、ノンバンク社債法に反する行為が認められた、というもの)、7月20日には第三者委員会の調査により、遵法経営姿勢の欠如が指摘されました(この調査報告書もコンプライアンス上の問題を検討するうえで興味深いのですが、本日は触れません)。

この報告書を受けて、同社は7月29日、全社的内部統制および決算財務報告プロセスに重要な欠陥があり、期末までに評価ができなかったことから、内部統制の評価結果を表明しない旨の内部統制報告書を提出し、監査法人(ハイビスカス)も意見を表明しないこととなりました。

このように「重要な欠陥」が認められたために財務報告に係る内部統制の評価結果を表明しない場合、統制リスクが大きいことを前提として監査法人による財務諸表監査が行われることとなりますが、財務報告に係る内部統制は有効とはいえないけれども、財務諸表については(監査の結果)適正意見が付されるケースが(これまでは)ほとんどではないかと思われます。しかし今回は内部統制における「重要な欠陥」の影響を考慮して実施すべき監査手続きが実施できなかったため、連結財務諸表に対する意見表明のための合理的な基礎を得ることができなかった、として財務諸表に対する意見不表明といった結論となっております。

監査人から投資有価証券の評価やのれんの減損、貸倒引当金処理等の決算財務報告プロセスに重要な誤りを指摘されたことも起因しておりますが、取締役会における遵法精神の欠如(コンプライアンス問題)→全社的内部統制に重要な欠陥あり→財務諸表監査が困難となり意見不表明、という流れは初めてのことではないかと(もし他社で既に同様の例がございましたらご教示くださいませ)。たしかに規制法の不知とモニタリング不全、そして決算処理に要する人材不足ということなので、もはや監査法人としては意見を述べうるだけの心証を形成する基礎が存在しなかった、ということだったと思われます。

ただ、今回のように内部統制に重要な欠陥(今後は「開示すべき重要な不備」)ありと判断するのは経営者でありますので、内部統制が有効とは評価できないといった報告書を提出することで、財務諸表監査の結果にも影響が出てくるとなれば、かなり内部統制報告書の影響力も大きなものになってくるのではないでしょうか。最近、内部統制報告制度が見直しの対象となり、緊張感が少し緩和されてきたようなイメージを持たれておりますが、実は全社的内部統制に重要な欠陥があるのでは?といった印象をお持ちの監査法人の方は結構いらっしゃるわけで、今回のように財務諸表監査に影響を及ぼすとなりますと、けっこう経営者を含め、真摯な対応が必要となるケースも出てくるかもしれません。

たとえば当ブログでも何度も問題としている内部統制報告書の訂正(いったん有効と評価した報告書を提出しておきながら、後日、過年度決算訂正を要するほどの不適切な会計処理が発覚した場合に、過年度の内部統制は有効ではなかったと訂正)がなされるケースでは、過年度の財務諸表監査の意見はどうなるのでしょうか?たしかに内部統制が無効→財務諸表監査意見が不適切といった論理的な帰結にはならないはずですが、内部統制が有効ではなかったにもかかわらず、財務諸表監査における意見表明のための合理的な基礎は得られたとする説明は必要になってくるのではないでしょうか。とりわけ決算財務報告プロセスや全社的内部統制に重要な欠陥があると(たとえば第三者委員会報告書などで)指摘された場合、説明の必要性があるのではないかと。

このあたり、あまり会計士の先生方のブログ等では話題になっておりませんので、本件がレアなケースとされるのか、それとも今後の実務に影響を及ぼすものとなるのか、もう少し様子をみておきたいと思っております。

8月 3, 2011 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年7月 3日 (土)

小糸工業社の内部統制報告書において「重要な欠陥」表明

金融商品取引法上の内部統制報告制度も、2年目の評価結果が出る時期となりました。企業会計審議会の議論などによりますと、今後は「重要な欠陥」なる用語を使用せず、ダイレクトに「内部統制は有効とはいえない」という報告内容だけでいいのでは?といった意見も出ているようでありますが、本日もTDNET上では多くの上場会社から「重要な欠陥表明のお知らせ」が出ております。そんななかで、6月25日に小糸工業さんが財務報告に係る内部統制報告書において重要な欠陥を表明する予定である旨のお知らせを出しておられます。

財務報告に係る内部統制の重要な欠陥に関するお知らせ

小糸工業さんといえば、以前ご紹介したとおり、航空機シートの設計・製造業務において、性能偽装(試験用データの改ざん等)により国交省から業務改善命令を受け、大きく報道されたところでありますが、これが全社的な統制環境の不備に該当するものとして、内部統制上の重要な欠陥に該当するものと評価されております。

不祥事関連で「重要な欠陥あり」と表明するのは、通常「不適切な会計処理」が発覚し、過年度決算訂正を余儀なくされる場面が想定されるのでありますが、金融庁関連ではない(ここでは国交省マター)不祥事発覚が、財務報告に係る内部統制の評価に影響を与える、という事例はちょっとめずらしいのではないでしょうか。たしか昨年は西松建設さんが「重要な欠陥あり」と評価されておりましたが、あの事例は政治献金に絡む裏金作りが問題とされ、経営者の一部によって例外的な金銭処理が社内で可能だったところに「財務報告の信頼性への重大な不備」があったと記憶しております。

今後他社でも同様の評価手法がとられる場面が出てくるのでしょうか?

7月 3, 2010 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2010年5月24日 (月)

過年度決算訂正と訂正内部統制報告書との関係

かつて当ブログでもっともアクセス数が増える人気ネタといえば「内部統制報告制度」いわゆるJ-SOXネタでありました。現在も、ときどきJ-SOXネタをエントリーしておりますが、「マニアックなネタ」として、以前と比べますと人気度が下がってきたことは事実です。ただ私自身はまさに「法と会計の狭間の問題」として未だ高い関心を抱いておりまして、アクセス数がどうのこうの、ということは気にせずに、これからもアップしていきたいと思っております。(しかし平成18年から19年ころにかけ、コメントを10個ずつまとめなおしてアップさせていただいていた時期がなつかしいですね。)

さて、5月21日に3年4カ月ぶりに金融庁の内部統制部会(企業会計審議会内部統制部会)が開催されたそうで、その資料が公開されております。いよいよ内部統制報告制度の見直しに向けての本格的な議論が開始されるようです。昨年参加させていただいた内部統制ラウンドテーブルでは「費用対効果」や「経営者評価基準のルール化、内部統制監査のレベル感の統一化」という点に多くの意見が集中しておりましたので、「簡素化と明確化」(資料3-2)という内部統制報告制度改正の検討課題はほぼ予想されたところといえます。また米国SOX法の実施状況と同じく、中小の上場会社とそれ以外の上場会社との間で、評価作業や監査のレベル感に差を設ける(というか、差があってもいいことをあらためて確認する)ことも議論されることは有意義であると思います。

本日現在、未だ資料だけが公開されており、議事録は公開されておりませんので、内容についてはまた別途検討してみたいと思います。ただ公開された資料のなかに、これまで内部統制報告書を提出した約3500社のうち、「当社の内部統制は有効であると判断した」とする報告書を提出しながら、後日「当社の内部統制には重要な欠陥があり、有効ではない」と訂正した会社が8社存在することが調査結果(資料)として掲載されております。以前も一度、当ブログで検討いたしましたが、いまだによくわからないところであり、いま一度きちんと問題点を整理しておきたいと思います。

Naibutousei004 2010年5月15日までに訂正内部統制報告書を提出した企業のうち、内部統制の有効性に問題があるとして訂正内部統制報告書を提出した企業は左の9社です。このうち、「有効→有効ではない」と訂正したのが上の8社であり、「有効でないとの結論は同じだが、その理由が変わった(追加した)」とされるのが下のミツウロコ社であります。訂正理由や不備の内容は、当該訂正報告書を私が読んだかぎりでの概ねの状況ですから、完全に正確なものではないかもしれませんので、あしからず。ちなみに「訂正理由」とあるのは、主にどの部分に重要な虚偽記載に影響を及ぼすおそれのある不備が残っていたのか、ということを示しております。

上記表をご覧のとおり、内部統制報告書の実質的な訂正(※1)を行った上場会社は、いずれも過年度の決算訂正を余議なくされた企業ばかりであります。(ただし、過年度決算訂正を行った企業のすべてが内部統制報告書の訂正を行っているわけではないことに留意すべきです)昨年あたりの訂正理由は決算財務報告プロセスに不備があり、これを重要な欠陥と判断した、というものが多かったのですが、最近訂正報告書を提出した会社は、会計不正事件が大きく新聞で報じられたことが関係しているのか、「全社的な内部統制」の整備もしくは運用状況に重要な欠陥が認められた、とするものが増えているようです。報告書提出後の四半期レビュー等により無視しえない虚偽記載が監査人等の指摘で発覚した場合、つまり会計不正事件などが問題とならないケース、もしくは会計不正が問題とされても「従業員不正」に関するものでは業務プロセス、もしくは決算財務報告プロセスに不備があったとされ、経営者の関与しているようなケース、子会社の不正が問題とされるようなケースでは全社的内部統制に不備がある、とされる傾向があるのでしょうね。

※1・・・これまで訂正内部統制報告書を提出している企業は38社ほどありますが、そのうち「内部統制は有効」とする報告書を提出しながら、後日「有効ではなかった」とする訂正を行った企業について、ここでは「実質的な訂正」を行ったものと表現しております。

1「重要な欠陥」を法律家が議論する意義

そもそも金融商品取引法24条の4の4には「重要な欠陥」なる用語は登場してこないのでありますが(ただし内部統制府令には登場)、内部統制報告書に虚偽記載をした場合には当該会社の役員には刑事責任が課せられ、また株主等に対する開示書類に関する民事賠償責任も発生することになっております。内部統制報告書の開示情報において、投資家の判断に重要な影響を及ぼすものは、おそらく「重要な欠陥」の有無に関するもの(つまり、内部統制が有効であるか無効であるかに関する経営者評価の結果開示)でしょうから、経営者が内部統制報告書の提出によって刑事責任や民事責任を負うか否かのメルクマールは、(理屈の上では)やはり「重要な欠陥」に関する司法的判断ではないかと思われます。つまり裁判所が経営者の刑事・民事責任を下すにあたって「重要な欠陥」の有無を判断するわけですから、これはやっぱり法律上の概念にあたると考えるべきなのでしょうね。(※2)ちょうど、会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行とは何か?」(会社法431条)という論点と同じように、もし内部統制報告書の提出に関する開示規制違反の問題が発生した場合には、一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準に準拠した「重要な欠陥」とは何か?ということが法律家にとって議論されることになるのではないかと考えます。また、仮に今後中小の上場会社の内部統制評価基準が緩和されたり、一般の企業の評価基準が簡素化される、ということになれば、法律的な判断の枠組みを議論しておく必要性もでてくるのではないか、と考えます。

※2・・・以前、私は「重要な欠陥」は法律上の概念ではない、と述べておりましたが、これは当時「重要な欠陥が残るということは取締役の善管注意義務違反ではないか?」といった議論がなされていたときに、これに答える意味として述べたものであります。しかし、会計慣行が何か、といった長銀事件最高裁判決の考え方などからみると、会計専門家の判断を尊重しつつも、最終的には裁判所が民事・刑事問題を解決すべき必要性は、この内部統制報告制度においても同様ではないかと考えるものでありまして、そうであるならば、やはり「重要な欠陥」の有無を最終的には裁判所が判断しなければならない、という意味においては「法律上の概念」といえるのではないか、と考えております。

このように「重要な欠陥」という概念が、法律上の概念として捉えられるのであれば、その中身については法律家としても議論する必要があるのではないかと考えますし、不備が虚偽記載に及ぼす影響度やその発生可能性というものをいつの時点で判断するべきか、という点などについても「法律的な」視点から検討する必要があろうかと思われます。また、財務諸表監査であれば、これは企業の「過去の会計事実」の情報開示への審査、ということでありますが、内部統制監査であれば、企業の「評価時点における将来リスクの判断」への審査ということであるわけで、そうであるならば決算訂正が必要な場面において、(たとえ評価範囲の中から後日、不備が発見されたとしても)内部統制の評価結果も訂正しなければならないのか、といった疑問も自然に出てくるのではないかと思われるわけであります。

少し長くなりましたので、本論であります「過年度決算訂正が必要となる場面において、内部統制報告書の訂正は本当に必要なのか?」という点には続きのなかで検討したいと思いますが、このあたりを真剣に検討するにおいては、「過年度決算訂正の法務」(弥永真生編著 森・浜田松本法律事務所や監査法人トーマツの方々の執筆による 中央経済社)、「会計不祥事対応の実務」(長島・大野・常松法律事務所 あずさ監査法人 編 商事法務)そして「内部統制評価にみる『重要な欠陥』の判断実務」(仰星監査法人 編著)といった比較的最近出された本のなかでも、相当に執筆者の方々が悩みながら検討を加えておられるようですので、そのあたりをご参考いただければ理解が進むのではないかと思います。(以下、つづく)

5月 24, 2010 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2010年3月12日 (金)

名門企業から続々と訂正内部統制報告書が提出されています。

昨年12月21日のエントリーで、「内部統制は有効である」としていた企業が、不適切な会計処理の発覚(その後過年度決算訂正)を機に「内部統制は有効とは言えない」と訂正する、いわゆる実質的な訂正内部統制報告書の提出企業が現れたことを記載いたしました。

その時点では2社でしたが、今年に入って2社増え、さらに本日(3月12日付け)近鉄社とJVC・ケンウッドHD社が「内部統制は有効とはいえない」とする訂正内部統制報告書を提出されております。(ちなみに、実質的な訂正内部統制報告書を提出されたのは、イデア・インターナショナル社、イエローハット社、モジュレ社、東理HD社、そしてご紹介した2社の合計6社)

近鉄さんは、第三者委員会報告書が目を見張るほどのものでありますが、訂正内部統制報告書は割とあっさりとしているようであります。ただ整備面よりも運用面を問題とされているところは、2年目以降の内部統制評価に向けての各社の課題を物語っているように思われます。

内部統制報告書を含め、これまでの報告書のなかで最も(私的に)理想に近いのが、今回ケンウッドHD社より提出された訂正内部統制報告書ですね。自社における内部統制システム向上に向けた取組みが、不祥事発見の原因になっていること(いわゆる自浄能力があること)を明確にしつつも、今後の課題として親会社・子会社に分けてグループとしての管理体制をわかりやすく説明している点など、取組の真剣さが伝わってきて、とても参考になるのではないでしょうか。(また、後でゆっくり読んでみたいと思います。執務中なので、このへんで。)

3月 12, 2010 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年12月21日 (月)

不適切な会計処理の判明と内部統制報告書の訂正について

上場会社にとりましては、財務報告に係る内部統制報告制度はすでに2年目の運用に入っている企業も多く、「効率化」といいつつもあまり監査報酬額は減っていないのでは?と考えていらっしゃる方も多いかもしれません。

ところで12月20日現在、「訂正内部統制報告書」を提出した会社が24社あるのを(EDINETの開示より)ご存じでしょうか?もちろん、訂正の内容は、そのほとんどが誤記、脱字の修正でありまして、報告書提出直後に訂正報告書を提出しているものであります。しかしながら、このなかの3社につきましては、報告書提出後に社内で会計不祥事が発覚し、評価結果に関する事項に実質的な変更を加えた訂正報告書を提出しておられます。事業年度末の評価においては「内部統制は有効と判断する」と報告されていたところ、評価結果を訂正して「内部統制は有効とは認められない」と訂正したのがイエローハット社(8月6日付け)とイデアインターナショナル社(11月17日)であり、内部統制は有効とは認められないとする評価結果については同様であるものの、その理由に不祥事発生の事実を追加したのがミツウロコ社であります。イエローハット社では前事業年度の繰延税金資産の取り崩しに係る処理に不備があり、決算財務報告プロセスにおけるチェック体制が不十分であることが指摘され、またイデアインターナショナル社では棚卸資産評価損の会計処理(洗い替え)について長年にわたりミスを繰り返していた、ということでこちらも決算業務におけるプロセスに重要な不備があったものと評価しなおしたもののようであります。報告書提出の翌期の第一四半期レビューの時点で監査法人さんから誤りを指摘され、その旨訂正したようなケースであればしかたないのかもしれませんが、自社の内部監査で不信点を洗い出し、その結果不適切な会計処理が判明し、過年度決算訂正に至ったような場合、(有価証券報告書の訂正は当然のこととして)はたして過年度の内部統制報告書まで訂正しなければならないのか、少し疑問に思うところであります。

また、イエローハット社は訂正内部統制報告書を提出する旨、適時開示しておられますが、イデアインターナショナル社は適時開示の対象とはしておりません。東京証券取引所の2009上場制度整備の実行計画に基づく要綱では、今後は企業が重要な欠陥を認識して内部統制が有効とはいえないと評価することの社内決定があった場合にも適時開示しなければならないところ、こういった訂正内部統制報告書を提出する場合にも適時開示の対象になるのでしょうか?(すくなくとも評価結果に関する事項に、重要な虚偽記載が認められるには適時開示の対象とすべきではないでしょうか?)このあたり、要綱案を見る限りではよくわかりませんでしたので、また金融庁の認可を得て正式に公表される適時開示ルールの中身をチェックしておきたいと思います。

また、決算財務報告プロセスに重要な欠陥が認められ、評価結果についての訂正を要するような場合であればともかく、業務プロセスに重要な欠陥が期末に残ったケースでは、その業務が評価範囲内であれば訂正を要し、評価範囲外からの判明ということであれば訂正は不要とされております。(金融庁Q&A)しかし、実際に評価範囲を決定するのは、全社的内部統制の評価を前提になされるものであります。もし評価範囲外から会計不祥事が発覚したようなケースでは、まずもって内部統制の評価範囲を決定するもとになる全社的内部統制におかしな点がなかったのかどうか、そこからいったんは検討すべきではないでしょうかね?今後とも訂正内部統制報告書が提出される機会は増えると思いますが、どのような実務が定着していくのか、関心が高まる点であります。

12月 21, 2009 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年5月 1日 (金)

日本郵船社のFSCPに重要な欠陥は認められるか?

もうすでにJ-SOXマニアの方々の間では議論になっているようでありますが、つい先日、ある大手監査法人の方よりお聞きした旬の話題であります。(すいません○○先生、ブログネタにしてしまいました!・・・・・m(__)m )日本の代表格の企業である日本郵船さんが、法人税額を計算する際にミスが生じて09年3月期の連結業績予想を大幅に訂正した、というお話。400億を超える金額の訂正は異例とのこと。(よく探してみると、毎日ニュースで報じていたのですね。まったく気づきませんでした。)

日本郵船社(3月決算)が財務報告に係る内部統制の有効性を評価する日は平成21年3月末日時点でありますが、訂正前の業績予想は3月26日、そして訂正発表は4月23日です。つまり、3月31日の時点では誤った業績予想のままであります。上の毎日ニュースにおける日本郵船社のコメントは「単純なミスです。いやいや、お恥ずかしいかぎり・・・」とのことでありますが、本当にお恥ずかしい・・・で済むのでしょうか(^^;; 日本郵船社では、決算の作業と税額の予測作業を別の部署がやっていたことが単純な計算ミスをチェックできなかった原因だったようでありますが、これって、FSCP(決算・財務プロセス)に重大な不備があったといえるのではないのでしょうかね??また、評価日時点では訂正されていなかったのですから、重大な不備がそのまま期末時点で残っているものとして、「重要な欠陥」に該当する、ということになるのでは??

さて、日本郵船社の内部統制報告書は、この業績予想訂正を踏まえてどのようなものになるのでしょうか?また監査法人さんはどのような意見を出すのでしょうか?なお、このあたりは先日金融庁からリリースされた「再追加Q&A」などが(ひょっとすると)考えるヒントになるのかもしれません・・・・

(注)話題が話題だけに、私見を書くのを控えさせていただきました。また、あまりに核心を突いたようなコメントにつきましては、管理人の勝手な判断で一部修正を加えさせていただくことがございますので(笑)、あらかじめご了承くださいませ。m(__)m 

5月 1, 2009 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (32) | トラックバック (0)

2009年4月 7日 (火)

内部統制報告制度「重要な欠陥」にも敗者復活戦はある。

先週金曜日にリリースされた「内部統制報告制度に関するQ&A(追加分)」を眺めておりまして、報告書の記載内容に関する問106(付記事項)がちょっとひっかかっておりました。問いは「付記事項については、どのように記載することが考えられるか」ということですが、評価日(期末日)時点において、当該企業の内部統制に「重要な欠陥」があり、内部統制は有効と評価することができない場合であっても、内部統制報告書提出日(たとえば3月末が評価日だとすると、6月末ころ)までの間に、この重要な欠陥を是正する措置をとった場合には、これを付記事項として記載することが可能であります。

私がちょっと勘違いしていたのでありますが、このQ&A106問においては、内部統制府令第一号様式記載上の注意(9)(←内部統制府令に添付されています)が引用されておりますが、この注意書きを読みますと、是正措置を記載することができる、とあるだけで、経営者が是正の結果、有効性の判断まで記載することができるのかどうか、ということについては記述されていないのですね。この問106には参考記載例が添付されておりまして、その記載例には、リース会計を適切に反映させるべき財務諸表を作成するについては「重要な欠陥」が残るものの、期末後の全社的対応による是正措置が施され、その結果、報告書提出日までには重要な欠陥は認められず、内部統制は有効と判断する、といった付記事項になっております。したがいまして、この問106を読んだ際、ちょっと違和感を感じたのでありますが、あとで実施基準を読みなおしてみますと、経営者は内部統制報告書提出日までの間に、重要な欠陥を解消するための是正措置をとるだけでなく、その是正措置により、内部統制が有効であることを確認できる・・・ということになっております。(提出日までに経営者が是正措置による有効性を判断した場合の、内部統制監査人の確認手続についても、よく読むと書いてありました)

つまり、内部統制報告書というのは、期末日時点では内部統制が有効とは認められない場合であっても、その後の3カ月の間の会社側努力によって、同じ報告書のなかに「有効になりました!」と復活の宣言を記すことは可能になっております。もちろん、期中から重要な欠陥と評価されるおそれのある不備を是正していたような上場企業担当者の方々からすれば、あまり関係のない話かもしれませんが、現時点におきまして、とりわけ決算財務報告プロセスに問題を抱えていらっしゃる企業の方々からすると、こういったことも知識としては知っておいたほうがいいのかもしれません。(ただ、報告書の記載要領に関するQ&Aからしますと、どんなに悪戦苦闘しても、期末日までに重要な欠陥が是正されていればサラっとした報告書で済むわけですから、期末日までに是正されることにこしたことはありませんが・・・)

しかし、今回のQ&A追加版を読んでみて、よくよく考えてみますと、「重要な欠陥」の判定基準には二律背反の思想が流れていませんでしょうかね(^^;;?  たとえば重要な欠陥の判定においては「監査人から指摘を受けた構造的な問題を自律で解決できないか、もしくは解決しようとしない場合」が重要な欠陥と判定される(つまり、そんなひどい状況だけを重要な欠陥と評価すればいいですよ、といったニュアンス)ということであれば、今度はもし重要な欠陥が認められるケースの是正については、そういった構造的な欠陥がある以上は容易に是正が認められないのが筋だと思うのでありますが、実際には、先の付記事項のように3カ月ほどの間に是正措置が行われ、その運用評価や監査人による確認手続までとられて、しかも有効性の評価までできてしまう・・・ということを認めるのは、ちょっと矛盾しているのではないでしょうかね?もちろん、できるだけ重要な欠陥の判定は(一年目ということもあり)緩めに考えましょう、といった思想のもとでの対応だとは思うのでありますが、要件を緩くすれば、そこからの脱出は厳しくなり、逆に要件を厳格にすれば、そこからの脱出も容易になる・・・というのが「重要な欠陥」判定の正しい概念でありまして、要件もユルユル、脱出もユルユルというのは、二律背反に陥っているのではないかと思うのでありますが、どうなんでしょうか。

4月 7, 2009 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年2月 3日 (火)

西松建設社の内部統制に「重要な欠陥」は認められるのか?(ビックリ編)

先日、西松建設社の内部統制に「重要な欠陥」は認められるか?といったエントリーを書かせていただきまして、そのなかで

経営トップの関与する企業不祥事すべてを採り上げて、内部統制報告制度における「有効性評価」を問題とすることはできませんが、今回の「裏金工作」は、やはり財務報告の信頼性とかなり密接な関係にたつ不祥事ではないかと思います。さてそれでは、経営トップが辞任することで、こういった全社的内部統制の不備が是正されるのでしょうか?監査人と監査役、また監査人と内部監査室との連携・協調がますます重要視されるなかで、とりわけ「不正」と重要な虚偽表示リスクとの関係に留意しなければならない企業においては、(そもそも監査人は「不正」の法的判断は一切しないわけですから)モニタリング部門にも何らかのしっかりとした対策が必要ではないかと(少なくとも私は)思います。

と意見を述べましたが、その西松建設社がコンプライアンス強化のために外部諮問委員会を設置したそうであります。また、その委員の構成がスゴイ・・・・・・これ以上の「モニタリング部門における何らかのしっかりした対策」はいまのところチョット思い浮かびません。(とりあえず)

外部諮問委員会の設置および委員の選任について

これで(期末日において)全社的内部統制に重要な欠陥あり、と評価できる監査人がいらっしゃったら「監査は胆力」と絶賛されるかも。

2月 3, 2009 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (12) | トラックバック (0)

2009年1月18日 (日)

西松建設社の内部統制に「重要な欠陥」は認められるのか?

丸山先生が「とある建設会社の裏金事件と財務報告に係る内部統制」におきまして、「とある建設会社の内部統制は有効と評価されるのか、関心があります」と書かれておられます。私も非常に関心を抱くところであります。

監査基準委員会報告第35号「財務諸表の監査における不正への対応」における「不正」(財務報告における重要な虚偽表示の原因となる不正)の概念に「裏金工作」は該当しないのかもしれませんし、また金額的重要性も認められない可能性もありますので、西松建設社の一連の不祥事は投資家への情報提供の信頼性という面からみれば「重要な虚偽表示リスク」には該当せず問題はない(有効と評価する)、との見方もありそうです。また、このような経営トップが共謀したうえでの海外送金行為、貸金庫保管など、監査人も監査役も他の役員も「待った」をかけることができないような工作であって、そもそもが内部統制の限界を超えた事案(どんな内部統制を構築しても防ぎきれない工作)なのであるから、とりあえず財務報告に係る内部統制の有効性評価には無関係である、といった抗弁も立ちそうであります。

しかし、裏金工作は全社的な資金の流れを伴う犯罪行為ですし、経営トップを巻き込んでの全社的な関与のもとで行われております。そうしますと、たとえ今回の裏金工作自体が財務報告に直接かかわる不正でなくても、「お金の流れを経営陣が自由に操ることができるような状況なのですから」今後の財務報告に係る内部統制が経営陣によって無視される可能性はきわめて高いものと思いますし、将来の重要な虚偽表示リスクを考えた場合には「重要な欠陥あり」といえるのではないでしょうか。(建設業界という事情も、現在の各会社の業績からみて固有リスクのひとつとして考慮されると思いますし。)また「重要性」という意味から考えましても、金額的重要性を検討するまでもないほどに、経営トップが指導する裏金工作は、将来の財務報告の信頼性に影響を与える「質的重要性」が高く、リスク・アプローチ(監査リスク=固有リスク×統制リスク)の視点からも、もはや正常な内部統制に依拠して財務諸表監査を行うことが困難なレベルではないかと考えます。ただし、今回の事例ではどうだったのかは不明ですが、たとえば一連の裏金工作が内部通報によって発覚した場合や、社外取締役の指摘もしくは調査によって判明したような場合であれば、「重要な欠陥」に該当するか否か、また少し考え方が変わるかもしれません。また、ガバナンスを変更することによって(たとえば社外取締役の活用など---先日の窓枠サッシの性能偽装事件では、トクヤマの社外取締役さんの対応で不祥事発覚に至ったことは記憶に新しいところであります)、全社的内部統制については是正が可能だと思いますので、安易な内部統制限界論は持ち込むべきではないと考えます。

経営トップの関与する企業不祥事すべてを採り上げて、内部統制報告制度における「有効性評価」を問題とすることはできませんが、今回の「裏金工作」は、やはり財務報告の信頼性とかなり密接な関係にたつ不祥事ではないかと思います。さてそれでは、経営トップが辞任することで、こういった全社的内部統制の不備が是正されるのでしょうか?監査人と監査役、また監査人と内部監査室との連携・協調がますます重要視されるなかで、とりわけ「不正」と重要な虚偽表示リスクとの関係に留意しなければならない企業においては、(そもそも監査人は「不正」の法的判断は一切しないわけですから)モニタリング部門にも何らかのしっかりとした対策が必要ではないかと(少なくとも私は)思います。

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2008年10月23日 (木)

架空循環取引発覚による過年度修正は「重要な欠陥」になるのか?

(23日午後追記あり)

他人様(ひとさま)にご紹介しただけで、偉そうに申し上げるつもりは毛頭ございませんが、やっぱり期待に違わぬオモシロサの「会計腐蝕列島」。 最新エントリーの「架空取引はやめようをなくそう」は、これまで私がいろんなブログや本などで読ませていただいた中身よりもかなりマニアックで興味をそそるものであります。なるほど、架空取引といっても、いろんな目的で行われるものであり、また発覚防止のためには物の流れまで仕組む(っていうか、それでも架空取引と呼ぶのでしょうか?)ものもあるんですね。数字の裏にある人間ドラマに焦点をあててみないと架空取引発覚の困難性はわからないですし、なによりも内部統制の限界に近いものとして冷静に分析されているところがリアルだと思います。しかし、「ピーナッツ6個」って・・・(^^;、私よりもかなり年配の方だったのですね。。。

さて、架空循環取引に限るわけではございませんが、不正会計が明るみに出た企業(新興市場だけでなく、大手名門企業も含む)におきまして、不正が発覚した事業年度の内部統制報告書では「重要な欠陥あり」との監査意見が付されるケースは今後どれほど出てくるのでしょうか。(リスク管理の一環として、こういったことは考えておく必要がありますよね)先日、内部統制報告書における開示内容について、一般の投資家がどういった関心を抱くのか(もしくは全く関心がないのか)といった点が少し話題になりましたが、まず理屈とは別に、おそらく一般の投資家の皆様は、「なんであんな架空取引で問題になった企業なのに『内部統制は有効』とする報告書に適正意見が付くの?」と疑問を抱かれるケースは十分予想されるところであります。今後、実際に内部統制監査の報告をすべき監査法人さん方としましては、理屈の問題としては(評価の時点においては)重要な欠陥なし、とする意見が妥当だとしても、先に述べたような一般投資家の素直な疑問を無視することもできないような気がいたします。そして、最近の(連結子会社を含めた)上場企業における不正会計事件に関する報道や、不明瞭な会計処理に基づく過年度決算の修正リリースを読みますと、こういった事例において「財務報告に係る内部統制には重要な欠陥が見当たらなかった」と公表するには、株主や投資家に対する「それなりの」説明責任が問題となるケースも出てくるのではないでしょうか。やや短絡的かもしれませんが、「重要な欠陥」に該当するかどうかは、その企業における虚偽表示リスクに関する将来指標だということは頭では理解できても、一般の方々にとってみては、直近の会計不正に関するペナルティ表示として理解されるところが大きいのであり、この乖離をどう埋めるのか、それとも埋める必要はなく「重要な欠陥あり」とする意見を出していくのか、そのあたりがとても興味のあるところです。(なお、架空取引が発覚したといっても、それが内部調査で発覚したのか、内部通報によるものか、外部への告発によるものか、監査法人による指摘によるものかなど、モニタリングや自浄作用が機能した結果かどうか、という点も問題になるのかもしれません。)

また理屈の問題としましても、架空循環取引が組織ぐるみでなされており、経営上層部も絡んでいる・・・という場合には、そもそも実施基準でいうところの「内部統制の限界」に該当するケースも多いのではないでしょうか。内部統制の限界というのは、どんなに内部統制をしっかり整備(構築、運用)していても、関係者が証憑隠滅を共謀したり、経営者が統制を無視することによって「内部統制がまったく機能しないこと」を認めるものでありまして、もし、上記のような架空循環取引が「内部統制の限界事例」とされるのであれば、たとえ新聞報道されるような大きな架空取引によって過年度決算が修正されたとしても、それは「重要な欠陥」とは評価されないのではないでしょうか。(重要な欠陥とは、是正可能な内部統制の不備を指すものであり、将来的に是正されるべき重要な課題のことであります。そもそも是正したくてもできないような『内部統制の限界事例』であるならば、そもそも不備にも該当しない、ということになりそうです)架空循環取引を、もうすこし構成要素としてはバラバラにして、どの部分をどのように統制していけば再発が防止できるか・・・ということを検証する必要があるのかもしれませんが、どうもよくわからないところであります。架空取引が発覚したケースで、よく法定監査を担当されていた監査法人さんが「財務諸表監査のために依拠すべき内部統制が認められず、意見を表明できないので辞任する」と解説されますが、そもそもそれが「内部統制の限界」を超えたものと評価される以上(つまり内部統制がしっかりと整備されていても架空取引は監査論の域を超えて発生しうるものである以上)、財務諸表監査のために依拠すべき内部統制の問題とは関係がないのではないかと思うのであります。

そこで、あくまでも理屈の問題ではありますが、「一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準」「内部統制監査の基準」と「重要な欠陥」との関係について、すこし検討してみたいと思います。たとえば全社的内部統制について一般に公正妥当と認められる内部統制の「枠組み」に準拠して内部統制が整備運用されていることと、全社的内部統制に「重要な欠陥と評価されうる不備が存在しないこと」とはいずれも「内部統制の有効性判断」という意味では同義であるかどうか、という点であります。以前もすこし問題としましたが、「重要な欠陥」の意味について、経営者と監査人と意見が食い違う・・・というのは、あくまでも一般に公正妥当と認められる経営者評価、監査の基準に(お互いが)準拠していることが前提でありますが、もし経営者が「重要な欠陥」の判断基準すら理解する能力がない場合、いったい監査人はどのように意見を述べるべきか・・・というのも、同様の問題を含むものと考えられるのではないでしょうか。(以下、長くなりましたのでつづく)

(23日午後:追記)本文とは関係ありませんが、昨日エントリーしましたプロデュース社の不正会計の件、今朝の日経新聞でも大きくとりあげられていましたね。ジャスダックでの表彰式を終えた直後の不正発覚ということだそうです。ジャスダックの表彰理由も

ネガティブな内容でも積極的に公表する姿勢に好感がもてる。資料を読むだけで状況をかなり的確に理解できる

ことだそうで、なんか皮肉な結果になってしまったようです。新聞記事では疑惑の会計士さんのお名前もはっきり出ておりますが、昨日のエントリーで書きましたとおり、今回の事件はこれまでにないほどに「市場の信頼性を喪失させる」という意味におきましてはきわめて悪質だと思いますが、いかがでしょうか。

10月 23, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年9月22日 (月)

全社的な内部統制の「重要な欠陥」の判断はむずかしい?

第一回の内部統制監査、監査人報告会、四半期レビュー立会など外部監査人との協議を通じて、各社における内部統制評価のレベル感も次第に明らかになりつつある時期ではないでしょうか。旬刊経理情報の最新号(10月1日号)では、大手監査法人に所属する会計士さん方による「内部統制実施半年前チェック」が特集されておりまして、「制度対応」「業務プロセス文書化」「整備、運用状況の評価」そして「有効性判断と内部統制報告書作成」それぞれのチェックポイントが紹介されております。どれも手際よく、比較的簡素化されてまとまっておりまして参考になります。とりわけ「不備の発見」から「重要な欠陥」を内部統制報告書で開示するまでの分類図表は、私もその思考過程においてまったく同感であります。

ただ、いずれのチェックポイントにおきましても、全社的な内部統制をどのようにチェックするのか、という点について、①42項目の評価ポイントを自社の状況に合わせて活用しなさい、②重要な欠陥の具体例が「実施基準」ではこうなっています、③全社的内部統制の評価手続きはきちんと記録しておきましょう、といったことだけが記述されているだけで、具体的な提案がなされていないのは少しだけ残念に思いました。財務諸表監査において、「重要なエラーが発見されない」という消極的な心証を「合理的保証」のレベルにまで積み上げる必要がある監査人の方々にとりましては、本来的業務に資するものとして、どうしても業務プロセス、決算財務報告プロセスへの関心が高まることはやむをえないとは思います。しかしながら、ディスクロージャーの充実によってコーポレートガバナンスの機能向上(「経営者の不正防止」と言って学会でご批判を受けましたので、このように申し上げます)を図ることが求められている金商法上での制度である以上、各社が全社的な内部統制をどのようにチェックをして、どのような判断過程をたどって「重要な虚偽表示に結びつくような不備は認められなかった」と評価したのか、この制度にとっては不可欠の作業工程であります。

この特集記事の最後のところは、「ただし、財務報告にかかる内部統制に責任をもち、かつその有効性を判断しうるだけの能力を持つ経営層に必要な情報が報告される体制は必ず必要である」と締めくくられておりますし、私も同感でありますが、皆様の会社におきましては、この「財務報告の内部統制の有効性判断をできる能力のある経営層は、どなたかおひとり頭に思い浮かびますでしょうか?もしそのような方が思い浮かぶのであれば、少なくとも私であれば、ぜひ上記のとおり、全社的な内部統制の有効性の判断過程をきちんと説明していただきたいと思います。なお、私の場合は、「重要な欠陥は是正することに意味がある」という立場から、有効な補完統制の有無、金額的重要性の範囲確定、(重大な虚偽表示の)発生可能性の有無において、全社的内部統制は重要な意味を持っていると解しておりますので、そのあたりのお話もしたいのでありますが、長くなりましたので、また別の機会にさせていただきます。

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2008年7月23日 (水)

「重要な欠陥」の判断はコストによって影響を受けるのか?(その3)

先週(その2)でご紹介しました財団法人日本証券経済研究所(金融商品取引法研究会)冊子(開示制度Ⅱ)における討議資料や、これまでの皆様方のご意見などを検討させていただきましたが、私自身としましては、まず内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)における「重要な欠陥」と会社法上の善管注意義務の関係については以下のとおり整理するのが妥当ではないかと思います。(あくまでも一部の法律家の視点によるものであります)

1 これまで議論されてきたような同質説、異質説の比較検討からは問題は解決されない。

会社法が制定された時期において、金融商品取引法上の内部統制システムなる概念はまったく予想されていなかったのでありますので、やはり会社法上の内部統制と金商法上のそれとは、まったく同一のものとして扱うことはできないと思われます。しかし、だからといって「重要な欠陥」を放置してもいいとは言えないのであり、そこには「是正しなければならない」といった規範的な意識の面において重なる部分もありそうです。ただ、会社法と金商法とでは同じように「内部統制システム構築の必要性あり」といえども、その規律の仕方が(法制度上)異なっているのでありますから、開示制度上の概念である「重要な欠陥」と行為規範(取締役の自由保障機能)上の概念である取締役の善管注意義務違反とをリンクさせることはおよそ適切ではないと考えられます。ここは、善管注意義務違反=「法令違反」行為、と捉えても、金商法上「重要な欠陥」があること自体が上場企業における法令違反行為とはならないわけですので、ほぼ異論のないところだと思います。

2 重要な欠陥を放置した場合の責任論

「重要な欠陥」があるとされ、(その結果として)内部統制が有効と評価できない場合、そのこと自体によって取締役の責任が発生するわけではありませんが、もしその評価対象となる「重要な欠陥」に対して、取締役がなんらの対応もとらないで放置した場合、そこに何らかの法的責任は発生しないのでしょうか。整備内容に重要な欠陥がある場合や、整備されたシステムの運用面において重要な欠陥がある場合など、その欠陥の中身がさまざまだと思いますが、原則としては「開示制度のもつ広い意味でのコーポレートガバナンス」によって対処されるべき問題ではないかと考えます。つまり、金商法上で「重要な欠陥」があると開示すれば、取締役はこれをなんとか是正することで株主の信頼を得るか、もしくは重要な欠陥があることを認めつつも、開示された財務情報の信用性が十分であることを「合理的に説明すること」によって株主の信頼を得ることが期待されるのでありまして、これがまさに開示制度のなかで期待されるガバナンス効果ではないでしょうか。ただ、重要な欠陥を放置することによって会社の信用が毀損されることを回避することはおそらく取締役の会社に対する善管注意義務に含まれることだと思いますので、おそらく重要な欠陥と評価された状況を放置することや、重要な欠陥があっても財務報告の信頼性に欠けていないことを説明する義務を怠ったような場合には、やはり善管注意義務違反の事態を想定することは可能になってくると思います。ただし、この善管注意義務違反の有無を判断する具体的な場面において、はじめてコストや優先順位など、経営判断による裁量の議論がなされるのではないでしょうか。

3 総括(まとめ)

このように考えますと、結局のところ「重要な欠陥」の判断には原則としてコスト(費用対効果)の議論を持ち込むべきではない、と結論付けることができるように思います。ただ、実際に善管注意義務違反が問題となる個々の場面において、その判断資料のひとつとして「コスト問題」が議論されることはありうると考えます。これが現時点におきまして、私見として到達したところでありますが、もちろん異論もございますでしょうから、今後もご批判等、いただけましたら幸いです。なお、上記「開示制度Ⅱ」冊子の討議におきまして、神田先生が会社法362条と内部統制の構築義務の関係をとりあげておられ、金商法上の内部統制についても、これを内部統制構築義務を規定したもの、とする「向き」について示唆されておられますが、このあたりは「規律の方向が違う」ということで解決してしまってもいいのではないかと思ったりしております。

何回かに分けて、「重要な欠陥」と法的責任論との関係を正面からとりあげてみましたが、高邁な議論をすることに実益があるのではなく、その意味するところは「重要な欠陥は一義的に決まるようなものではない、むしろ会社側がその判断過程に創意工夫を発揮すること自体に意義があるのであって、『重要な欠陥』に関する投資家の誤解があれば、会社側は積極的にそれを解いていってほしい」というところであります。内部統制報告制度については、これで「完成版」ではないはずですよね。今後何度も改訂されていくことが予想されますが、施行直後であるいまこそ、企業側による試行錯誤の努力がなければ、これからも改訂の主導権は握れず、いつまでたっても不平不満が残る制度になってしまうかもしれません。「一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準」の具体的な中身については、ぜひとも企業側にも積極的に検討していただきたいと思います。

平成20年度の経済財政白書が公表されたようでありますが、そこでは企業および家計がリスクマネーに投資できる環境作りが提言されており、また企業のリスクマネジメント能力の向上も提言されています。内部統制問題との関係で考えますと、企業が正確な財務情報を開示する市場整備の必要性であり、また効率的、効果的な経営管理行為の必要性であります。企業関係者の方々は概ね「会社法の内部統制と金商法の内部統制の一体的構築」ということに関心をお持ちですが、リスク管理体制の構築と財務報告の信頼性確保のための体制の構築を、どう進めていくべきか、といったあたりが今後の課題ということなんでしょうか。

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2008年7月18日 (金)

取締役経理部長(元)の不正行為と「重要な欠陥」

「重要な欠陥」の判断問題について、たいへん有益なご意見をいただき、ありがとうございました。コメント欄で少し書きましたとおり、重要な欠陥と取締役の法的責任との関係等につき、また改めて(その3)で自身の見解をまとめてみたいと思いますので、またご意見よろしくお願いいたします。

さて、ligayaさんのブログでも紹介されているスギ薬局さん(東証1部、名証)の元取締役経理部長だった方が、長年にわたる帳簿偽造等によって4億3000万円あまりを私的に流用していた、という件がリリースされております。(当社元取締役による不正行為について)また、日経ニュース(その他のニュースも含め)によりますと、内部統制システムの構築を進めていたなかで、元取締役さんは、隠しきれないと悟ったのか、この7月1日に横領の事実を自己申告されたそうです。スギ薬局さんは2月末決算の会社ですから、まだ内部統制報告制度が施行されているものではありませんが、事実上はすでにパイロットテストが行われているところでしょうし、こういった報道内容に触れますと、やはり法制化された内部統制制度への全社的対応というものが、社内不正をあぶり出すことに寄与するのかも・・・と期待をしております。なおこの報道をうけて、スギ薬局さんの株価は前日から6%も下落しており、こういった社内不正が相当に株価へ影響するのも特徴的かもしれません。

ところで、スギ薬局さんの財務報告に係る内部統制評価はまだだいぶ先のことになりそうですが、もし施行後にこのような経理担当取締役による会計不正(しかも権限の一極集中が原因と記者会見で述べている)が発覚した場合、その企業の財務報告に係る内部統制は有効と判断されるのでしょうか?ここ数年の連結での税引前利益の平均がどの程度なのか、きちんと調べてはおりませんが、4億3000万円というのはかなり大きな数字ですし、まさに財務報告内部統制の会社責任者たる地位にある方が横領し、また預金残高の数字を改ざんしていた、というのでありますから、内部統制の有効性判断にとって無視できない事例だと思います。こういった場合、内部統制に重要な欠陥があるとされるのか、されるとして期末日までにどういった是正があれば有効と判断してもいいのでしょうか?統制環境の問題もあり、また決算財務報告プロセスの問題もあり、さらに自己申告があるまで発見できなかったモニタリングの問題もあるでしょうから、是正すべき点はいろいろと指摘できそうであります。不備の影響度の算定方法や、虚偽記載の発生可能性の検討も重要でありますが、こういったベタな問題もけっこう重要ではないでしょうか。

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2008年7月16日 (水)

「重要な欠陥」の判断はコストによって影響を受けるのか?(その2)

昨日の(その1)におきまして、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)上の「重要な欠陥」の判断につき、企業コスト(IT統制のための資金とか、経理財務能力のある社員の増員など)をかけたくてもかけられない場合には、重要な欠陥あり、と評価(監査意見)されてしまうものなのかどうか・・・という問題をとり上げたわけですが、これは会社法上の内部統制と金商法上の内部統制との関係をきちんと整理したうえでなければ結論がでないのではなかろうか?というのが私の現時点での意見であります。(ここまでは昨日のエントリー通りであります)

さて、上記のような疑問を抱いておりましたところ、7月15日(おそらく)の日本証券経済研究所のHPに、金融商品取引法研究会研究記録第24号の冊子がPDFによって公開されておりまして、「開示制度(Ⅱ)-確認書、内部統制報告書、四半期報告書-」に関する研究会記録を閲覧することができました。(いつもながら、日本証券経済研究所のHPは充実しており、勉強資料の宝庫です)今回の発表者でいらっしゃる京大のT准教授が疑問を呈しておられる点は、いずれも私自身も非常に関心の深いところでありまして、とりわけ討議内容はといいますと、内部統制報告書と確認書との法的関係、会社法と金融商品取引法における内部統制の関係理解、金融庁企業開示課調整官からみた「ダイレクトレポーティング」と「文書化」、有価証券報告書の虚偽記載と内部統制報告書の虚偽記載との関係などなど、たいへん興味深い論点ばかりであり、いずれも著名な先生方で貴重な議論がなされています。内部統制について関心をお持ちの、とりわけ法律家の皆様にとっては、現時点(研究会は今年5月21日開催)における議論の水準を知るためにも、参考になろうかと思われます。

いっそのこと、「重要な欠陥」は取締役の善管注意義務違反とはなんら関係なないのだ、と言い放ってしまえば、コスト問題などまったく気にしなくてもいいように思うのでありますが(私は原則として、そっちのほうの意見に与したい立場ですが)、上記冊子の41頁から42頁あたりを読みますと、元金融庁のM東大教授や発表者のT准教授など、やはり「重要な欠陥あり」とされた場合には、取締役にはなんらかの欠陥修正義務みたいなものが認められるのではないか、といったニュアンスで発言されていらっしゃるところがうかがえますので、どのように上手に会社法、金商法の内部統制の関係を整理してみても、この問題は最後まで疑問点として残ってくるのではないでしょうかね。 (注) 私としましては、学者の先生方のような精緻な議論を積み上げるのではなく、ざっくりとしたところで理解をしたうえで、内部統制の整備運用の現場担当者や経営者の方々に、どうやってわかりやすく説明するか、というところを考えておりますが、もう少し時間をかけて、(上記研究会討議の内容などもふまえながら)関西の研究会などで議論してみようかと思っております。

(注) 重要な欠陥について、なんらかの修正義務が取締役に認められるとすると、これを素直に善管注意義務の一つとみて、コスト問題は別途「過失の有無」や「期待可能性の有無」で議論する・・・という考え方も成り立つかもしれません。しかしながら、「重要な欠陥」の判断は、そもそもプロセスチェックから検討されるものですから、たとえば取締役がなんらの行動も起こさずに放置していたとしても、会社の状況次第では「重要な欠陥」はなくなる場合もありますし(たとえば虚偽記載リスクの大きな事業部門の譲渡や規模縮小による売上の減少など)、そもそも「重要な欠陥」を、取締役の規範的な行動と結びつけて判断する、と考えることに無理があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

7月 16, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (8) | トラックバック (0)

2008年6月 5日 (木)

内部統制報告制度と4つの壁

日本内部統制研究学会の年次大会に向けて(7月5日 於 青山学院大学)、いろいろと勉強しなければならない立場でありますが、上場企業の経営者や現場責任者の方々にわかりやすく問題を提起させていただくにあたり、いくつかの「壁」を乗り越える必要を感じております。なお、「4つの壁」でありまして「4つの論点」ではございません。論点については山ほどあることは重々承知しておりますが、山ほどある論点を議論するにあたり、その議論がかみあわない前提のところで私自身は「壁」を痛感しています。以下はまったくの私見でありまして、多くの方々のご意見、ご異論を頂戴したく存じます。

1 「会計学、監査論」vs「法律学」

たとえば最近よく議論されております「重要な欠陥」(内部統制評価および監査の有効性判断にとって最もキモとなる概念です)について、これをどのように理解するか。これは意外と難問です。ここを整理しておかないと「取締役には『重要な欠陥』がある場合に、善管注意義務違反となるか?」といった質問にみられるような、会計監査と法律の世界がごちゃまぜになってしまうような混沌とした領域に踏み込んでしまうおそれがあります。私自身は、一般に公正妥当と認められた「内部統制評価の基準」と「内部統制監査の基準」は、そもそも企業会計審議会によって作られたわけですから、「重要な欠陥」なる概念は会計監査の世界のものである・・・と、ひとまず理解するところからはじめるほうがわかりやすい整理だと思っております。そもそも「重要な欠陥」は過去の出来事を評価するものではなく、将来のリスクを評価したものでありますので、ちょっと法律の世界ではなじまない概念ではないかなぁと考えています。これを法律の世界で議論するのであれば、「重要な欠陥」の中身をすこし噛み砕く作業はどうしても必要ではないかと思います。

2 「会社法」vs「金融商品取引法」

すでに当ブログで何度も議論されたところでありますが、財務計算の適正性を確保するための体制整備義務なるものは、金商法から認められるのか?それとも会社法から認められるのか?そもそも、構築義務など取締役には認められないのか?といった問題であります。有識者の方々とお話をしていて、(思いのほか)有力なのが「金商法の内部統制報告制度に関する規定から構築義務が認められる」なる意見でありますが、私自身はやはり基本的には会社法における一般的な善管注意義務を根拠とせざるをえないのではないか(ただし会社法上、取締役に認められる「法令遵守義務」のなかで、かろうじて認められる可能性があるのではないか)というものであります。なお、こういった議論の必要性があるのか、といったあたりを含め、このあたりの最新情報としましては、月刊監査役6月号の「会社法と金融商品取引法における内部統制の今後の展開」(葉玉さん、金融庁M課長さんらの討論)をお読みになるのがよろしいかと思います。(もし入手可能であれば、ということですが)

3 「ソフトロー」vs「ハードロー」

これはプリンシプルベース・ルールベース(いわゆる金融庁のベターレギュレーションに関するお話)とも関係するのかもしれませんが、法律が社会のルール作りにどのようにかかわっていくか・・・というところの議論であります。いろいろと内部統制報告制度を考えるにあたり、ここに関係者間で議論がかみあわない理由がどうも存在するように感じております。たとえば金融庁の方が「内部統制は構築しても、しなくても自由です。構築しませんよ、と正直に報告いただければ合格点。ただし、投資家、ステークホルダーに対して説明責任は負いますよ」といった解説をお聞きしますと、ある方は「何もしなくてもいいんだ」と解釈され、ある方は「とんでもない、重要な欠陥があるなどと報告したら私のクビがとんでしまう」と憤慨される。たしかに金商法のなかでは、内部統制報告制度は「開示制度」の一環として規定されておりますので、「構築しろ」(つまりハードローの世界における構築義務)とは書かれていないのであります。しかし、会社情報が投資家に晒されるわけですから、重要な欠陥があると開示した会社が投資家にどうみられるか・・・を考えると、やっぱり構築しないわけにはいかない(構築することを間接的に強制している、といいますか、いわゆるソフトローの世界)わけで、このあたりを法的にどのように評価すべきか・・・、といったところが論点かと思われます。また、初年度から「監査証明」を受ける必要があるわけでして、この内部統制監査の運用次第では、会社としては「実質的な強制」を感じることにもなるわけで、これも一種のソフトローの世界のお話ではないかと思います。

4 四半期報告書制度、確認書制度、金商法193条の3との関係

これは二極対照ではありませんが、この4月1日から施行された制度の関連性の問題です。四半期報告制度や確認書制度、会計士さんの財務諸表監査における不正発見通知制度というものは、いずれも内部統制報告制度と同じ4月1日に施行されることになりましたが、これらの関連法令が報告制度とどのように理論上、つながっているのか、これまであまり議論されてこなかったところだと思います。ビジネス法務7月号(創刊10周年記念号)におきまして、ある弁護士の方が「財務書類の監査の品質向上のための制度整備」と題して、公認会計士法等の一部改正の概要を解説されていらっしゃいますが、これを読んで「なるほど、内部統制ばかりに目を向けていたけど、こちらもけっこう重要ではないか」と気づいたような次第であります。また四半期報告制度にも「レビュー手続」という消極的な監査証明業務が付されておりますが、たしかに理屈のうえでは「監査」と「レビュー」は違うとは言っても、もし期中の粉飾事件が明るみに出た場合には、世間の人は「監査法人がきちんと監査して『適正』と判断したのなら、監査法人にも責任があるぞ」と憤るのはおそらく同じだと思います。監査基準委員会報告書第35号「財務諸表の監査における不正への対応」などの実務指針なども含め、こういった内部統制報告制度の本質を捉えるためには、その周辺の法令との関係などもひとつひとつ整理したうえで大局的に理解する必要があるのではないか、と(最近)考え出したところであります。

詳細は追ってまた述べたいと思いますが、とりあえず問題提起(問題整理)のつもりで、私なりにまとめてみました。

6月 5, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (9) | トラックバック (0)

2008年4月 6日 (日)

企業不祥事と「統制環境」評価(その2-食品Gメンの闘い)

(日曜、若干の追記あります)

4月5日(土曜)夜、NHKで「にっぽんの現場-食品表示Gメンの闘い」なるドキュメント番組がございまして、農林水産省の食品表示Gメンの方々(規格監視室)のお仕事が、実際にあった産地偽装事件の調査活動のなかで紹介されておりました。(とてもおもしろかったです)つい先日の東海澱粉株式会社の産地偽装事件について、どのような端緒によってGメンが調査を開始し、不祥事企業が行う記者会見までのわずかの期間に「組織的関与」であることをなんとか認めさせようと尽力するところまでの取材内容は詳細であり、なかなか勉強になりました。以下備忘録を兼ねて、若干ご紹介いたします。

農水省内の「食品表示Gメン」は現在9名ですが全国(おそらく農政事務所)には約2000名の食品Gメンが配置されており、このNHKの取材期間(3ヶ月間)でも約1000件の情報が寄せられた、とのことであります。ただ、そのうち実際に農水省で調査のうえ不正が発見できたのはわずか5件ということで、このあたりに任意調査としてのGメンの職務に大きな限界を感じられるようです。また、たとえ実際の調査によって「品質偽装」を暴くことができたとしましても、会社側担当者より「それは営業所が営業成績を上げたいがためにやったことで、本部では知らなかった」と言われてしまうと、それ以上の追及がなかなか困難であるのが現実のようであります

※ そういえば4月1日付けで「食品偽装特別Gメン」が20名、東京、大阪ほか地方農政事務所に配属された、というニュースがありましたが、この「特別Gメン」と、テレビで放映されていた農水省規格監視室の9名のGメンの方々との関係はどうなるのでしょうかね?(よくわかりませんでした)

さらに、品質偽装を暴くうえで、伝票と物流という、まさに財務報告の信頼性確保のための内部統制に関連する業務プロセスに重点的な調査が行われること、そのほか科学的な調査方法として産地ごとの商品のDNAデータをすでに蓄積しており、このデータによって食品産地偽装にはかなり対応できることなどが番組中で解説されておりました。もちろん調査の端緒は内部告発によるものが多いようですが、最近は他社と共謀して食品偽装を行っていた企業自身からの申告も多いようでして、このNHKの取材中にも、大阪の比較的大手の水産事業者自身より原産地偽装に関する自主申告がなされていたようであります。(偽装を隠匿していた・・・といった報道により、企業が被るダメージの大きさが認識されつつあるようです)こういった調査活動をみておりまして、やはり財務報告に係る内部統制を構築(整備、運用)するなかで、原産地偽装などの不正については、現場におけるセルフテストや内部監査人によるチェックの過程で容易に判明しうるものであり、「これは現場担当者が成績を上げるためにやったこと」なる言い訳はどうも通用しないのではないか・・・と思いました。もし、伝票を少しチェックすれば明らかに(取引業者と通謀して)原産地偽装をしているのではないかと認識できる程度でありますので、もし「知らなかった」なる言い訳が許されるのであれば、今度は内部統制のほうに重大な問題がある、と評価されざるをえないようでありました。(もちろん上場企業の場合・・でありますが)

最近の傾向としまして、原産地偽装による販売の場合、不正競争防止法違反の要件にも該当する場合が多いと思われますので、(このNHKの番組でも報じられておりましたが)東海澱粉社の場合も警察による捜査が開始されているようであります。この番組のなかで、少し残念だったのが、この東海澱粉社の原産地偽装の事実がどのような端緒をもって調査が開始されたのか番組のなかでは不明なままでしたし、(社内の社員によるものか、通謀していた取引先業者によるものなのか、それ以外の第三者によるものなのか)また、調査後、組織ぐるみでの犯行を会社側が否定していながら、記者会見の5時間前になって一転して担当取締役が原産地偽装の事実を認める発言をするようになった原因はどこにあったのか、という点についても触れずじまいでありました。ひょっとすると、告発した人と会社との番組には出てこなかったような深い事情があったのかもしれません。

なお、NHKの取材対象となってしまった東海澱粉社でありますが、農水省から立入調査に基づく追加情報が開示されたにもかかわらず、自社HPにおいては、この追加情報には触れないままに再発防止策を公表しておりますが、ちょっと信じられない対応であります。(組織的関与があったのか、なかったのか、についても触れられておりませんし、これはあまりにも不誠実な対応ではないでしょうか。)こういった対応がなされたうえで、どんなに立派な再発防止策を公表しても、不祥事体質が変更されないものとおもわれても仕方ないように思いました。かなり大きな会社ですし、ぜひとも情報開示のあり方を改善していただきたいと思います。

4月 6, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年4月 1日 (火)

企業不祥事と「統制環境」評価(その1)

いよいよ4月となりまして、このブログではやっぱり本日施行の内部統制報告制度ネタを考えてみました。(といいましても、とくに驚くような内容ではございませんが・・・)

丸山満彦会計士のブログ(まるちゃんの情報セキュリティきまぐれ日記)におきまして、「財務報告に係る統制環境だけを抜き出して評価できるか?」というエントリーが盛り上がっておりまして、やりとりを興味深く拝見しておりますが、たしかに内部統制報告制度における評価方法としてはむずかしい問題を含んでいるものと思います。たとえば、「・商品が一定の品質基準を満たしていないため、販売できない可能性が非常に高いという事実が分かったが減損しないとか、・工場跡地から有害物質が発見されその除去に多額の費用がかかることがわかったが、その事実を開示しない」場合など、といった事例があげられておりますが、そもそもそういった不祥事は財務報告に係る内部統制上の統制環境とは無関係な業務プロセス上で発生するものであり、評価対象には該当しないのではないか、という疑問が生じます。(「重要性」の観点から、評価範囲からはずれてしまうことも多いと思われます)

そもそも不祥事を発生させる企業体質全般を、内部統制報告制度における経営者評価の対象と捉えることは、「経営者による評価」は可能であったとしても、監査人による「内部統制監査」の対象とできるのかどうか、素朴な疑問が生じるところであります。そこで、品質偽装を見逃すような経営者は、財務報告に係る粉飾についても見逃すだろう・・・という推定が働くようにも思いますが、現実にその推定から「統制環境に重要な欠陥あり」と判断(評価もしくは監査)するところまではなかなか届かないケースも多いかもしれません。(判断に相当な勇気がいるようにも思います)しかし一方において、架空循環取引のリスクや粉飾リスクなどの不正会計リスクと、食品偽装や環境汚染などの不祥事リスクを切り分けて前者のみを考慮しながら「統制環境」を評価することは、少し技巧的すぎるようでなんかおかしい気もします。(これまた現実的でないようですね)

ところで、この4月から「棚卸資産の評価に関する会計基準」が施行されて、いわゆる「低価法」が強制適用されることになるそうですが、そこでは収益性が低下しているものにつきましては、棚卸資産の金額を評価減しなければならないとされています。つまり、上場企業の場合、棚卸資産の収益性については、会社も監査人も注視しなければいけなくなった、ということですよね。そこで、このあたりは会計制度にくわしい方に教えていただきたいのですが、たとえば品質偽装の問題とか、販売目的で保有している土地の土壌汚染を隠蔽して販売(もしくは保持)する問題などの場合、企業としては棚卸資産に明らかな収益低減要素が含まれているわけですから、これはまさに財務報告に係る内部統制と関連する問題と捉えることはできないでしょうかね?もしこういった点で「財務報告に係る内部統制」と企業不祥事との接点が見出せるのであれば、不祥事体質自体を「統制環境」の評価要素として含めることの説明が容易になるように思うのでありますが、いかがでしょうか。

4月 1, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年2月 2日 (土)

内部統制報告制度導入に伴う上場制度の整備について

中国産ギョーザ中毒事件のエントリーが盛り上がっているときに、誠に恐縮でありますが、少しだけ内部統制関連のお知らせをさせてください。

金商法上の内部統制報告制度導入に伴う上場制度の整備(パブコメ案公表)

すでにご承知の方も多いかとは思いますが、東証HPにて「金融商品取引法における四半期報告制度の導入等に伴う上場制度の整備について」(パブコメ案)が1月29日に公表され、2月28日まで意見募集がされております。なお、この内容は上場制度総合整備プログラム2007の具体化でありまして、すでに会社法務A2Zの2月号におきましても、柿崎環准教授が一部解説されているところであります。経営者評価において「重要な欠陥」があるとされる場合でも、直ちには上場廃止には至らないこと(すでに前記プログラムのなかでも直ちに実施すべき事項のなかで記述されておりましたが)、しかしながら、内部統制報告書において重要な欠陥もしくは評価不実施を表明した場合、または内部統制監査報告書において「不適正意見」または「意見不表明」なる記載がある場合には、発行企業はその旨を適時開示しなければならないことにご留意ください。(これは前記プログラムにおいては第二次実施事項とされていたもの)その他、前記上場整備プログラムの具体化の詳細は、前記A2Z2月号の柿崎先生の論稿をご参照ください。

管理人のセミナー、盛況御礼

管理人の特権(?)により、すでにご案内させていただいておりました2月13日の関西セミナーでありますが、受講者がほぼ定員に達しましたこと、厚くお礼申し上げます。まだ(本当にわずかですが)申し込み可能とのことでありますので、2月13日の午後、忙しい合間をぬって、天満橋までお越しいただける方がおられましたら、ぜひよろしくお願いいたします。

2月 2, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (2) | トラックバック (1)

2008年1月21日 (月)

内部統制報告制度・新春座談会記事

☆日曜日にもかかわらず、たくさんコメントを頂戴しておりまして、お返事をなかなかできずに申し訳ございません。かなり長文の熱いものが多いので、ひとつひとつ拝読させていただいております。また適宜お返事を書いたり、次のエントリー続編でご紹介させていただきますので、なにとぞご容赦ください。☆(以下、本論)

「会計・監査ジャーナル」2月号と「旬刊商事法務」新春合併号では、それぞれ内部統制報告制度に関する実務上の諸問題を中心とした座談会記事が特集とされております。会計・監査ジャーナルでは内部統制監査実務指針(確定版、監査・保証実務委員会報告第82号)の要点解説を中心として、また商事法務では「会社法と金融商品取引法の交錯と今後の課題(上)」として、財務報告に係る内部統制制度への対応なる副題が付いております。なお、「ジャーナル」2月号は「内部統制特集号」なる別冊仕立てとなっておりまして、これまでの内部統制監査実務指針(第82号)確定までの過去の座談会記事も再録されていたり、関連基準なども資料として掲示されておりますのでたいへん便利です。内容的には、どちらも内部統制報告制度に携わる方々にはたいへん参考になるところが多いと思いますが、私が弁護士という立場だからでしょうか、やはり商事法務の座談会の論点整理が、これまでこのブログでも何度か議論されてきたところを含んでおりますので、理解しやすかったように思います。とりわけ内部統制審議会の作業部会員でいらっしゃった方の発言内容は、これまであまり採り上げられなかった論点にもかなり踏み込んだものであり、企業担当者の方々にはとても参考になるのではないかと思います。また東証の執行役員の方の発言部分(少ないですが)には、内部統制報告制度における有効性評価と適時開示の関係にも言及されており、内部統制の不備(有効性判断?)と開示に関する新たな話題になりそうであります。

両座談会記事とも、あまりに関心の高い論点が「てんこもり」でありますので、また追って関連エントリーのなかで触れさせていただきます。なお、社外監査役という立場から一言感想を述べますと、いずれの座談会におきましても、監査役制度と内部統制報告制度との関係について、踏み込んだ議論がされればよかったかなと思いました。(商事法務さんの座談会では、「内部統制報告制度と監査役監査」に関する議論に及んでおられますが、読まれた方はおわかりのとおり、某教授の爆笑ツッコミで終わっているような気もいたしますが。こういったツッコミは個人的には大好きです。(^^; 紙面の都合上やむをえなかったのでしょうかね・・・)現時点で細かい理屈を議論するよりも、制度が動き出せば当然にまたいろんな問題が発生するのですから、そういった問題への対処を積み重ねるなかでまた全体の整理をしていくべきなのかもしれません。ともかく金融商品取引法の企業情報開示制度の一貫として規定されている趣旨だけは常に見失わないようにしたいものです。

また、中小の上場企業と経営者評価、監査人内部統制監査の関係について、なんらかの言及があるかな・・・と予想しておりましたが、いずれの座談会でも言及されておりませんでした。ここは平成19年2月15日意見書前文でも触れられており、また金融庁Q&Aの第20問でも金融庁回答が付せられているところでありまして、たとえ抽象的な指針でもいいので、なんらかの監査実務指針のようなものがあるといいのですが。(もし、私の見落とし等ありましたら、またお教えいただければ幸いです)米国SOXの実務(上場企業の70%の企業が免除措置を受けていること)からしましても、中小規模の上場企業には、それなりの代替基準の目安のようなものがあってもいいように思います。さらに、「重要な欠陥」の評価方法等は、いずれの座談会でも議論になっておりますが、トップダウンのリスクアプローチを基本とする経営者評価の基準など、それこそ世界ではじめてであり、経営者サイドも、監査人サイドも「いままで経験のない業務」(上記商事法務で「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の論稿を著されている持永先生のお言葉)でありますので、今後さらに突っ込んだ議論を期待したいと思うところであります。たとえば、「不備かどうか」とか「重要な欠陥かどうか」とか、「不備がいくつ併合されると重要な欠陥となるのか」など、もし監査人と経営者で意見が分かれた場合には、どうしたらいいのでしょうか。3800社の上場企業のほとんどが「有効と評価される」ような運用であればいいでしょうけど、この座談会でも話題になっておりましたように、ある程度の企業が「重要な欠陥がある」とされるのが健全な運用だとするならば、やはりこのあたりの論点を議論しておく実益はあるのではないでしょうか。(監査人が四半期報告内容の修正などの「結果」からみて「不備」を判断するのであれば、期末に近いところで「不備」や「重要な欠陥」などが問題になってくる場面も想定されるでしょうし、単に日ごろから監査人と経営者で内部統制に関する協議を重ねていればいい、という単純な問題ではないように思われます)

以前、ルールベースとプリンシプルベースによる規制の使い分けについて、別エントリーで触れましたが、金商法上の制度である以上、内部統制報告制度においても、これを検討する必要があるのでしょうね。法律家と会計専門家、経営者の間におきまして、金商法上の内部統制報告制度のあり方をどうみるべきか、金商法で内部統制評価監査制度が採用された趣旨をどう考え、それを具体的な仕組みにどう生かすべきか、それを企業の経営者やモニタリング担当者がどのようにわかりやすく運用していくのか、といったところを今後も検討していかなければいけないのかもしれません。

1月 21, 2008 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年11月26日 (月)

J-SOX「重要な欠陥」リスクを考える

私のブログで八田進二教授の著書をご紹介いたしますと、またいろいろなご意見、コメントを頂戴することになると思いますが(^^;、昨年出ました「これだけは知っておきたい 内部統制の考え方と実務」の続編(いや、続編ではなく姉妹編でしょうか?)が出たようですので、お知らせいたします。

Hatta_naibutousei 「これだけは知っておきたい 内部統制の考え方と実務(評価・監査編)」 (八田進二著 日本経済新聞社 1700円税別) 帯広告では「よくある誤解をズバリ指摘! 誤解しやすい7つのポイントを企業会計審議会・内部統制部会長が徹底解説!」とあります。260頁ほどのうち、3分の1が「実施基準」の掲載となっておりますので、実質は180頁ほどの著書だとお考えになってもよろしいかと思います。多くの上場企業にとりましては、すでに第1フェーズから第2フェーズへと走りだしているところも多いと思いますが、今一度、金商法における原点に帰って、実施基準に基づく経営者評価、監査について問題点を整理するためにも、ご参考にされてはいかがでしょうか。(ただ、私のブログを閲覧されていらっしゃる方々は、すでに金融庁Q&Aや、7つの誤解の話題を含めまして、最近の八田先生の講演等もお聞きになっておられる方が多いかもしれませんので、そういった方々には内容的には少し繰り返しになるかもしれません。なお、すでに読まれた方がいらっしゃいましたら、上手な活用法などを含めまして、ご意見などいただけましたら幸いです)

ところで、八田教授もこの著書のなかで指摘していらっしゃいますが、今後の内部統制報告制度(財務報告に係る内部統制報告制度)の論点として、経営者による内部統制評価の基準として「どこまでは不備で、どこからが重要な欠陥なのか、明確な判断基準は形成されるのか」といったところが大きな関心事になってくるのではないでしょうか。八田教授も、上記著書のなかで(89頁以下)、「日本の場合、経営者と監査人の間で意見が食い違う場合が出るかもしれない」と述べておられますし、いったいどのような事情について、どのような基準で経営者は評価すべきであり、また監査人は監査すべきであるのかは、まだまだ議論が煮詰まっていないところだと思います。

この点につきましては、八田教授も上記新刊書のなかでも参考にされておりますが、「週間経営財務」の2841号(2007年10月22日号)におきまして、町田教授が「内部統制の重要な欠陥の検討(アメリカにおける事例の分析)」といった論稿を出されておりまして、アメリカSOX法が開始された2004年、2005年の「重要な欠陥」(重大な欠陥?)とされた事例から(日米ではいろいろな導入の前提が異なることは承知のうえで)、日本における導入後の実務を分析されています。たとえば、これを(どういった内容で重大な欠陥とされたか、という)種類ごとにグラフにまとめますと、以下のとおりとなります。

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こうやってアメリカのこれまでの「重要な欠陥」(重大な欠陥)と評価された事例の集計をみておりますと、「人材」「経理手続」「会計処理」の面において「重要な欠陥あり」と判断されるケースが圧倒的であり、それ以外の統制環境や、内部統制の有効性を評価する範囲やその評価方法が適切でないこと、モニタリングや文書化が適切でないことが「重要な欠陥」とされているケースがかなり少ないことが認識できます。

この結果につきましては、米国の内部統制評価報告制度が、財務報告終了後に、その運用状況が評価、監査されることとなるので(会計処理上のミスが発見されますと、それをもとに重大な欠陥とみなされるケースが多くなり)、四半期決算における内部統制の検証によって、前倒しで評価されるであろう日本におきましては、上記の結果がそのまま妥当するわけではないと考えられております。(先の町田先生のご意見)たしかに、この当時の米国制度におきましては、トップダウン型のリスクアプローチが採用されていなかったり、ダイレクトレポーティングが採用されていたりしておりますので、このまま米国の運用結果が今後の日本の運用にそのまま参考になるわけではないと思われますが、それでもある意味、今後の日本における運用の方向性は示しているのではないかと思っております。

まずひとつめとして、「人材」「経理手続」「会計処理」といった点に関する評価の是非については、会計専門職たる監査人は自信をもって判断結果を述べることができる、といった点であります。上記グラフの他の項目と比較しますと、会計士さん方にとってみれば、内部統制が有効であるかどうか、の経営者の評価について、監査人自身の意見を述べやすいことは当然だと思われます。それと比較して、「統制環境」や「職務分掌」「モニタリング」「文書化」あたりにつきましては、それ自体を会計士さんが評価をして、経営者の考え方と食い違う場合であっても、「重要な欠陥」とまでは自信をもって判断できるだけの判断材料を持ち合わせていらっしゃらないのかもしれません。(なお、すでにこのブログでも何度か取り上げましたが、経営者が、自社の「人材」について「うちの人材では、財務報告の信頼性を確保できるほどの人間はいない」と公言されることはほとんど考えられませんので、ここは監査人によるご意見について問題となろうかと思われます)

つぎに各事例の中身を調べてみますと、整備状況と比較して、運用状況のほうが重要な欠陥と結びつきやすい・・ということであります。このことは、内部統制の整備につきましては、概ね企業に(どのようなシステムを整備するか、について)かなり広い裁量が認められているのでありまして、その裁量のもとで整備されている内部統制システムそのものへの評価はなかなか重要な不備とまでは言えないのかもしれません。ただ、運用状況となりますと、具体的に発見されたミス(四半期報告書の訂正や、決算財務報告プロセスにおける見積もり方法が適正でないことなど)との関係を明確に示すことが可能であったり、整備(構築)の改善よりも、運用の改善のほうが可視性が高かったりしますので、要するにいったん整備されたシステムの改善を放置しているような企業については、その有効性を否定しやすい、といった事情があるのかもしれません。

最後に、上記2点の結果として、「重要な欠陥」に該当するかどうかは、目に見える形での結果責任として問われる可能性が高いのではないか、ということであります。サンプリングの結果として、不備が発見されることはあるでしょうが、それが重要な欠陥であり、内部統制の有効性を否定するに至るものであるかどうかは、(実施基準による判断を行うとしても)かなりムズカシイところになるのではないでしょうか。

さて、こうやって推測してみたところと、実際に実施基準(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準)のなかで「重要な欠陥」の判断例として掲示されているところを比較いたしますと、そこに大きな乖離があることに気が付きます。おそらくリスクアプローチの手法を用いて経営者の評価、監査人の監査がなされることを前提としているころから由来する乖離だとは思いますが、さて、現実には経営者と監査人とが意見において食い違うことが予想されますのは、どちらかといいますと、先に掲げたような場面においてではないかと(私は)思っておりますので、私的には、各企業における「重要な欠陥」と評価、監査されるリスクの中身を、上記のような比較におきまして考察してみたいと考えております。

11月 26, 2007 内部統制と「重要な欠陥」 | | コメント (12) | トラックバック (1)