堺の裁判所の桜が5分咲きでしたので、弁論終了後、思わず撮影しました。この週末あたりは、大阪近辺の桜の名所はどこも花見客で大賑わいになりそうですね。
さて、「弁護士法嫌い」さんや、行方先生がご自身のブログでも紹介されていらっしゃるとおり、金融庁のHPにて「反社会的勢力による被害の防止」に係る監督指針のパブリックコメントの結果が出ております。本日は、この金融機関における反社会的勢力排除の仕組みとも深く関連するスルガコーポレーションの件(示談受託企業の弁護士法違反事件)についてのエントリーであります。立退交渉で弁護士法違反に問われた関係者らが、24日公判請求された件におきまして、スルガコーポレーション株式会社(東証二部)より一昨日(25日)、同社外部調査委員会作成に係る「調査報告書(中間報告)」が公表されております。企業不祥事にからむ外部調査委員会報告書をいろいろと読んできましたが、この報告書、まだ中間報告ではありますが、非常に価値の高いものであります。ひさしぶりにドキドキしながら最後まで拝読させていただきました。報告書の構成も巧みで、かつ文章がわかりやすい。これまで研究させていただいた報告書のなかでも、日興コーデ不正会計事件、関西テレビ取材捏造事件、三洋電機不正会計事件とならび、各企業において十分検討されるべき報告書であります。とりわけ、企業と反社会的勢力とがどのように癒着し、これを排除することがどれほど困難であるかを認識することができますし、また反社会的勢力との関係というものが、ある日突然、どこの企業にでも同様の事態が発生しうるリスクであることが、ご理解できるのではないでしょうか。とりわけ、この外部調査委員の方々が認定した事実が真実であるとしますと、これまで新聞等で報道されているところの事実はかなり歪曲(誇張)されており、何気ない日常の業務において、反社会的勢力と関係を有するリスクが潜んでいることに気づかされます。
1 弁護士による立退交渉の4分の1の時間で明渡完了!
スルガコーポも、以前は立退交渉に弁護士を活用していたのでありますが、あまりにも示談交渉に時間を要するため、融資を受けた資金の返済が滞り、資金繰りが悪化したとのこと。(なお、これはスルガコーポの「不動産専有卸業」なるビジネスモデルとも関係するわけですが)スルガコーポ社は、弁護士が示談交渉するのではとてもビジネスとしてはやっていけない、ということでT社、K社に依頼をすることになりますが、これが弁護士による交渉時間と比較して、約4分の1程度の時間で明渡を完了させることとなり、利用価値がとても高いわけであります。(まず、これには驚きました。)
しかしこの事件、今後の不動産事業にかなり大きな影響が出るのではないでしょうか?とくに以前村上ファンド関連のエントリーのなかでとりあげましたが、大阪は梅田ヤードをJRと阪神阪急グループが競って開発していくところですが、こういった事業はすべて弁護士が(すくなくとも)管理監督しながら進めていくことになるのでしょうね。もちろん弁護士が出てくれば、テナント側も弁護士を依頼するケースが増えるわけでして、訴訟案件に持ち込まれることも増えるのは間違いなさそうですし、テナントビルが一気に明け渡し完了物件になることも期待できないでしょうから、開発資金をどう調達すべきか、いろいろと難問が出てくるんじゃないでしょうか。このあたりがいわゆる「弁護士法リスク」と言われるところかもしれません。
2 スルガコーポが後戻りできる場面があったのでは?
平成15年頃といえば、すでに経団連行動規範も公表されていた時期ですし、建設業界とはいえ、スルガコーポは上場企業だったわけですから、コンプライアンス違反(反社会的勢力との関係継続)は企業にとっての命取りになることは十分承知していたはずであります。そこで、この報告書をお読みになって検討すべき点は、いくつかの時点において「後戻りするための黄金の橋」がかかっていたことにお気づきになるはずであります。もしあなたが、会社の命運を賭けた不動産ソリューション事業をひとりで抱え込んでいたこのT元取締役の立場であれば、この黄金の橋のたもとで後戻りすることができたかどうか?とりわけ比較的初期の段階で、K社の代表者が地上げで逮捕されたことがある、という事実を(テナントからの情報提供で)知ることになるわけですが、それでもK社に任せるに至った心境はどのようなものだったのか?また、この元取締役に毅然とした態度をとった法務部の社員が登場しますが、なぜこの法務担当社員は元取締役に対して毅然とした態度がとれたのか?もしお時間がありましたら、貴社におかれましても、総務部、法務部等でご議論されてはいかがでしょうか。
なお、反社会的勢力の関係ではございませんが、内部管理体制に問題ありとして、東証および大証において特別注意市場銘柄に指定されてしまいました真柄建設社の社外調査委員会報告、社内調査委員会報告(中間報告)などと比較しながら検討いたしますと、「統制環境」の重要性がかなり理解できるのではないかと思います。
3 弁護士が気づかない「弁護士法違反」
最近、弁護士の間でも「弁護士法違反」リスクが話題になっております。たとえば私が所属しております「IPO企業統治システム研究会」には他業種の方も在籍されており、支援企業への報酬請求の方法を間違えますと、弁護士以外の者が法律事務を「業として」行ったとされるリスクを抱えることになりますので細心の注意が必要であります。また、最近話題になっております「事業承継支援」につきましても、株式の集約作業、会社の代理、オーナーの代理、番頭さんの代理、後継候補者の代理など、だれの支援をするか特定しておかなければ「利益相反」として懲戒されるリスクを負うことになります。しかし弁護士は(目先のお金に目がくらむのかもしれませんが・・・)こういったリスクに意外と「無頓着」であります。スルガコーポの調査報告書に登場する「J弁護士」も、果たしてT社、K社の「地上げに伴う犯罪行為」リスクだけでなく、そもそも弁護士が関与しないところでT社らが示談行為を行うリスクに気づかなかったのでしょうか?非常に残念ですし、またここにT元取締役が後戻りできなかった大きな要因があるような気がしてなりません。
4 調査報告書(中間報告)へのわずかな疑問(単なる私見ですが)
スルガコーポ社は、地上げを委託していたT社の提案どおりに、テナントビルの所有権がT社に変わったことを仮装するための虚偽の不動産売買契約書を作成するわけでありますが、この点について外部調査委員会は「スルガコーポ社として、コンプライアンス上の問題行為だが、これ自体が犯罪行為に該当するわけではない」と結論付けております。はたして本当に「犯罪行為」にはならないのでしょうか?たしかに今回は、弁護士法違反が問題となっている事案であり、地上げ行為にからむ脅迫行為などは立件の対象とはされていない模様であります。しかし、詐欺罪(共謀共同正犯)の構成要件には該当しないのでしょうか。テナント側からすれば、上場企業であるスルガコーポが立退き交渉しているのか、それとも怖そうな企業が所有者として立退き交渉しているのか、という点は立退料の金額だけでなく、そもそも「立ち退くかどうか」という意思を決定するにあたって重要な影響を与える事情であると考えられます。その重要な事情をごまかすこと(つまり虚偽の不動産売買契約書を作成すること)にスルガコーポ社の役員が関与している以上は、かなり問題ではないかと思われます。また、詐欺罪の要件である「被害」は、被害者の全体財産の損失が認められる必要はなく、たとえ相当な立退料をもらっていても「借家権」そのものの処分行為(財産上の利益の損失)が「損害」とされるのが通説判例でありますので、事実上の告訴(もしくは被害届)が提出された場合には、一応の問題になるのではないでしょうか。(ただし、これはあくまでも私個人の意見にすぎません)
もう一点、この調査報告書を読んでおりまして、すっきりしないのがT元取締役以外の役員の方々が、いつからT社、K社が「反社会的勢力」であると認識したのか、という点であります。平成19年6月以降という点が強調されているのでありますが、それまでも実質的には取引銀行から「融資をとめる」という強制手段によって他力で反社会的勢力との断絶を要求されているわけですから、その時点において監査役を含む役員の方々が、「知らなかった」というためには、もうすこし説得的な理由付けがなければ、どうもすっきりしないのではないだろうか、と思った次第であります。(なおスルガコーポ社のHPに、25日付けにて、 「反社会的勢力への毅然とした対応に関する基本原則について」なる文書が公開されております。ご参考まで)