ガバナンス変革期における内部統制の課題(年次大会のお知らせ)
(本日のエントリーは転載不要でございます。)
当ブログで昨年来申し上げておりますとおり、企業(組織)の内部統制に再び光が当てられる時代が到来しました(と自分では感じております。)。厚労省(社会福祉法人の内部統制整備義務違反へのペナルティ)、文科省(研究機関に対する内部統制構築要請およびその違反行為へのペナルティ)、消費者庁(景表法に基づく企業に対する商品表示の適正化のための内部統制構築義務)、経産省(個人情報管理のための内部統制ガイダンスの作成)、金融庁(モニタリング基本方針の実施要請)、警察庁(オリコ第三者委員会報告書を契機とした反社会的勢力排除のための体制整備指針の見直し-ただしこれは予想の段階です)等、各省庁で企業の自律的行動に依拠する規制手法を採用する流れが加速化しています。10年ほど前は、会社法や金商法上での話題であった内部統制システムの構築問題も、いまや多くの分野で議論、活用されるようになっています。
こういった内部統制に依拠した企業規制が新設されるときに、常に問題となるのが原則主義と細則主義とのせめぎ合いです。行政は企業の自律的行動に期待して、プリンシプルベース(原則主義)による規制手法としての内部統制システムの整備を要求するのですが、企業側は「どうしたらよいのかわからないから、ガイダンスを作ってほしい」「経済団体でひな型を作ってほしい」との要望が出てきます。そして企業側の要望を一部採用して、ルールベース(細則主義)に基づいてガイダンスやひな型が出来ると、今度は「現場をガチガチのルールで縛る内部統制」「費用に見合う効果のない内部統制」「やらされ感の漂う内部統制」と揶揄され、批判の対象になります。
もうそろそろこの流れは断ち切って、各企業がそれぞれの企業の実態に合った内部統制の構築を検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。なぜこのように申し上げるかといえば、2008年のJ-SOX施行以降、毎年「仮説、検証」をまじめに繰り返している企業と、単に制度対応のためだけにルーチンワークを繰り返している企業とでは、内部統制システム構築の実力差が明確に出てきたように思われるからです(この話は話し出すと長くなりますので、また講演等でお話させていただきます)。
例えばベネッセ事件を契機に、企業に個人情報管理を行うための体制作りが要請されるようですが、御社は高いお金をかけて物理的な防止体制を構築するのでしょうか、それとも物理的な防止体制(予防型)よりも「不正は絶対に見つける」という姿勢を社内外に示すことで防止体制を構築するのでしょうか(発見型)。それぞれ長所短所があると思いますが、なぜその防止体制を御社はとるのか、自身の企業の状況から合理的な説明が必要かと思います。
企業の儲けにつなげるリスク管理の発想は、すでに金融機関ではリスクアペタイト・フレームワークとして実践されているところですが、まさに内部統制は「あえてリスクをとりに行くためのシステム」(トライ&エラーの思想)として検討される時代になりつつあります。「どれだけのリスクなら、顕在化することを承知の上でゴーサインを出すか」、リスクをとりにいくためのシステムであるがゆえに、自社のリスクの見直しだけでなく、「機会」の把握、つまり社会の変化と内部統制との整合性を各企業において精査することが求められます。
ということで(かなり前フリが長くなってしまい恐縮ですが・・・)、今年の日本内部統制研究学会のテーマは「ガバナンス変革期における内部統制の課題」として、とりわけガバナンス改革の議論がさかんな時期に、内部統制の課題を検討します(日本内部統制研究学会の広報はこちらです)。今年は東京開催ということで市ヶ谷の法政大学キャンパスです。
最近は会社法の世界でも、内部統制システムというのは、単に経営管理の手法ではなく、経営者自身をも縛る統制環境全般を指すものと捉えられています。社外取締役を一人以上選任する、といった外形的なことに注目するのではなく、当社において、社外取締役には何を求めるのか、またその目的達成のためには、具体的に社外取締役は何をすればよいのか、本当はそのあたりの議論が「(長期的成長を視野に入れた)株主との対話」で求められるのではないでしょうか。
また監査役と会計監査人の連携と言われますが、その連携の手法は各企業によって異なるはずです。監査費用も監査人の報酬も、決して潤沢だとは言えない状況であるならば、リスクアプローチによって「やれるだけのことをやった」と言えなければ善管注意義務を尽くしたことにはなりません。効率性と有効性をどう折り合いをつけるために連携したのか、各企業ごとに合理的な説明が求められるはずです。
統一論題報告では、このあたりをメインに据えて、議論をしていきます。日銀の碓井茂樹氏(金融機関のガバナンス問題等)、仰星監査法人の南成人会計士(経営者に求められる不正リスク要因のコントロール等)、甲南大学の伊豫田隆俊教授(ガバナンス変革期における内部統制の課題と不正リスク対応基準等)を中心に、ご報告いただきます。
個別のテーマとしても、興味深いものが満載です。遠藤元一弁護士のFCPA(海外腐敗行防止法)リスクと内部統制態勢、清水惠子会計士の「日本の企業文化と内部統制」、森本親治会計士の「社外役員の実効性向上における内部統制の重要性」、雑賀努氏の「中堅上場企業における内部監査の有効性と効率性の両立への取り組み」といったところが自由論題です(どれも楽しみです。なお、公表されているパンフレットと一部内容が異なりまして、津崎会計士のご発表は中止となりましたのでご了承ください)。また研究部会報告では、「新COSOにおけるERMの位置づけと活用に関する研究」の成果を、部会長の神林氏(プロティビティLLC代表)にご報告いただきます。
そしてなんといっても、日本内部統制研究学会に初登場の冨山和彦氏の基調講演「ガバナンス変革期における取締役会と独立取締役の役割」は楽しみです。冨山氏の最新刊「ビッグチャンス」でもガバナンス問題について熱く語っておられますが、冨山氏が日本企業の内部統制についてどう感じておられるのか・・・(おそらく・・・な意見かもしれませんが)、あまりご著書などでも語られたことがありませんので、たいへん興味があります。なお冨山氏には、私が司会をさせていただくシンポにも登壇いただく予定です。
8月30日(土)、法政大学市ヶ谷キャンパスにて開催いたします。学会員の方も、そうでない方も、これからの日本企業の内部統制にご興味がございます方は、ぜひともご参加くださいますようお願いいたします。(お申し込みはリンク先の日本内部統制研究学会のHPからお願いいたします)。
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