2008年2月 5日 (火)

食品コンプライアンスと製造物責任(その1)

いまだに中国産ギョーザの食中毒事件につきまして、どういった経路で有機リン系農薬成分が混入したのかは不明でありますが、すでに多数の食中毒被害者の方々がいらっしゃるのは事実であります。ところで、あまりブログ等で輸入販売業者や加工食品を用いた外食産業の製造物責任について論じられているものがないように見受けられます。こういった時点で法律問題に触れるのもどうかとは思ったのでありますが、やはり企業コンプライアンスをまじめに議論するブログとしましては、輸入企業や販売企業、加工品を使用した外食産業など、食品コンプライアンスにかかわる企業のリスク(とりわけ有事の危機管理)はどこにあるのだろうか、といった視点で「食中毒事件に製造物責任(PL法責任)は問われるのか」といった問題について考察してみたいと思います。なお、私は消費者保護に詳しい弁護士ではなく、これはあくまでも一個人としての意見でありますので、正式なリーガルリスクのチェックはお近くの弁護士さんとご相談ください。また、今回の事例につきましては、コンプライアンスという視点からは「農薬成分入りの食品を輸入、販売してしまった」ことと、「発見してから報告、公表が遅れたことで被害が拡大してしまったこと」とは別の責任構成になるのではないかと考えますので、今回の製造物責任論は前者の問題と関連するものとご理解ください。

1 食中毒事件について製造物責任法(PL法)は適用されるのか

製造物責任法は平成6年7月1日に公布され、同7年7月1日より施行されておりますが、それに先立つ平成5年11月に、「食品に係る消費者被害防止・救済対策研究会」(農水省流通局)より「食品に係る消費者被害防止・救済対策のあり方」なる報告書が提出され、この報告内容も踏まえて法律が制定された経緯があります。内容はみなさまご承知のとおり、民法の不法行為責任の特則でありまして、加害者側に主観的な責任事由(いわゆる故意、過失)がなくても製品(商品)に「欠陥」があれば(拡大損害----購入したその「製品」が毀損したことの損害ではなく、その欠陥によって生命、身体、財産等に拡張的に損害が発生した場合---に対する)賠償責任が認められる、といった無過失責任の構造になっております。なお「製造物責任法(平成6年第85号)」はわずか6カ条からなる、たいへんコンパクトな法律ですから、全体像はすぐに把握できると思います。さて、食品に関してこのPL法が適用されるかどうか、といった問題でありますが、そもそも製造物責任法2条2項によれば、「欠陥」とは製品において通常人が正当に期待できる安全性を欠く場合をいうものとされておりますが、①食品は人の健康に直結する物資であり、その安全性につきましては、きわめて高度なものが要請されていること、②近年、加工食品は複雑な工程のもとで製造されたものが多く、製造物責任制度を考えるうえで他の工業製品と同じ側面があることは否めないこと、また③PL法制定以前の判例におきましても、食品の安全への配慮には製造業者側に高度な注意義務が課されるのが通常であったことなどを勘案しまして、消費者保護の立場を明確にするためにも、食品にも製造物責任が適用されるというのがほぼ定説となっているようであります。
ただ、食品といいましても、この製造物責任法が適用されるのは加工品に関してであり、一般の農水産物につきましては、同法2条1項の「製造又は加工された動産」には含まれないとされるのが一般的であります。このような理解からしますと、今回の農薬成分の混入したギョーザは加工食品ということで、原則としましては製造物責任法の適用範囲にあるものと思われます。

製造物責任法(平成6年法律第85号) 

(目的)
第1条 この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。

2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。(中略)

(製造物責任)

第3条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

2 製造物責任法が適用されるとして、何が問題となるのか

さて、農薬入りギョーザに製造物責任法の適用があるとの前提に立ったとしましても、今回の事例におきまして同法による賠償責任は発生するのか(食品について「欠陥」とは何か)、誰が欠陥を証明するのか、誰に対して責任が発生するのか、食品というものの特性はPL法の要件を解釈するにあたっては特別に検討される点はあるか、100%の安全を確認できないような場合にまで業者は責任を負担しなければならないのか、食品安全法などで行政が安全対策を企業に要求していることで結論が変わるか、などなど、検討すべき論点がたくさんあるようです。(これらは、仕事の合間に、事務所にありました相当古い解説書をパラパラ読みながら頭に浮かんだものにすぎませんので、本当はもっとたくさんあると思われます)これらの論点につきましては、また(その2)で検討していきたいと思います。ちなみに、わかりやすい判例をひとつご紹介しておきますと、異物混入ジュース事件(名古屋地裁平成11年6月30日 判例時報1682号106頁)が著名なものではないでしょうか。あるファーストフード店で女性がジュースを購入し、これを飲んだところ、ジュースのなかに異物が含まれており、喉を負傷した、というものでありますが、裁判所はこのファーストフード店に対して、慰謝料を含む損害賠償責任を認めております。裁判では、異物自体が何であったのか、どこから混入されたのか不明ではありましたが、このジュースを飲んだことで喉を負傷したことは事実であるために、ジュースの「欠陥」を認め、詳細な「因果関係」の認定の末、製造物責任法を適用したものであります。とくに「製造業者」の範囲は製造物責任法ではかなり広いものであることにご留意ください。(その2へ続く)

製造物責任法(平成6年法律第85号) 

第2条3項

この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。

1 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
2 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者

3 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者

(PS)今回、製造物責任法を調べているうちに、興味ある法律を見つけました。

「流通食品への毒物の混入等の防止等に関する特別措置法」 (昭和62年9月26日 法律第103号 昭和62年10月16日 施行)

こういった法律があるということは、国にも食品流通における毒物排除への責務があり、また企業もこれに協力する責務(義務?)があることが法律上で認められている、ということですね。私も存じ上げませんでした。この法律はどちらかといいますと、製造物責任というよりも、事後の報告通知義務とか、行政の連絡体制の不備など、いわゆる「二次不祥事」のほうと関係がありそうな感じがいたします。

2月 5, 2008 製造物責任(PL法)関連 | | コメント (3) | トラックバック (0)