フィデューシャリー・デューティーと機関投資家の訴訟提起
信託銀行が東芝社に対して「異例の提訴」を検討されている、と日経新聞で報じられています(1月30日)。「異例」というのは、刑事責任(法人の場合は金融商品取引法207条)が追及されていないにもかかわらず、東芝社に対して損害賠償を求める、という点を捉えてのことだそうです。「虚偽記載」の事実については東芝さんもほぼ認めているようなので、因果関係と損害額の立証が容易となる点において、金商法21条の2に基づく不実開示責任の追及が行われる、ということでしょうか(もちろん機関投資家側が、損害賠償の範囲を裁判所に広く認めてもらうために、民法709条に基づく不法行為責任を追及することも考えられます)。
以前、当ブログでも取り上げましたが、顧客から資産を預かって運用する機関には、最近「フィデューシャリー・デューティー(信認義務)」が強く要請されるようになりましたので、顧客に対する受託者責任を尽くすためにも、このような責任追及がなされる事例は今後も増えていくように思われます。ただ、そうなりますと、取締役や監査役といった役員個人の不実開示責任の追及も問題になりそうですが(金商法24条の4)。そのあたりは記事からは明らかではないですね。
機関投資家の方々がフィデューシャリー・デューティーを尽くすために訴えを起こす、ということになりますと、その費用対効果も問題となりますので、役員の個人責任を追及する場合には「費用倒れ」の可能性があります。また、社外取締役候補者を減らすことにもつながるようなことも、政策的に(?)とりにくいのかもしれません。役員の個人責任については、会社自身による損害賠償請求訴訟もしくは一般株主による代表訴訟の帰趨を見守る、ということかと推測いたします。
ところで金商法の勉強不足で恐縮ですが、平成26年の金商法改正によって発行会社の不実開示責任は過失責任となりました(それまでは無過失責任)が、そもそも発行会社の無過失を(発行会社側で)立証する、というのはどういったことが認められれば良いのでしょうか。やはり財務報告に関する内部統制について、相当程度の整備運用がなされていた、ということになるのでしょうか。しかし会計不正事件が発覚した企業では、先に「金商法上の内部統制は有効ではなかった」と訂正報告書を提出していますので、そのあたりの訴訟上の抗弁との関係がどうなるのでしょうか。ちょっと今、長めの出張中なので、また事務所に帰ってゆっくり考えてみたいと思います。
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