2024年5月30日 (木)

(5月31日追記)日経ビジネスに当職インタビュー記事が掲載されました。

私事ではございますが、5月29日の日経ビジネス(オンライン)に、当職インタビュー記事「伊藤忠、ビッグモーターの事業承継 会社分割で訴訟リスクから解放」が掲載されました(有料会員のみ。なお本誌2024年6月3日号にも掲載予定です)。ビッグモーター社(正確にはビッグモーター・グループ)の資産を伊藤忠・JWPファンドに移すにあたり、会社法上の会社分割(吸収分割)による組織再編が行われましたが、そのスキームの紹介とSMIL-UP社の資産移転スキームとの対比などについて極力わかりやすく解説したものです(おかげさまで本日読まれた記事としては3番目にランキングされました)。※5月31日追記 6月3日号には掲載されておりませんでした。失礼しましたm(__)m

もちろん、会社分割には様々な活用目的があり、事業救済目的はそのひとつにすぎませんが、不祥事企業の再生のために活用される例もありますので、とりわけスポンサー企業が存在している場合で、資産劣化を防ぐために迅速な再編が求められるケースでは活用が検討されます。実務的にはパーシャル・スピンオフ(税制適格会社分割)の検討がもっとも興味深いところですが、一読して事業救済型の会社分割の長所や短所、事業譲渡との対比などがおわかりいただければ幸いです。ネットニュースなどでは「ビッグモーターは新設分割によって伊藤忠グループに資産が移された」と報じられていますが、中古車売買に必要な古物商許可は資産移転の対象にはならないので、先に会社を作っておいて(古物商許可を取得しておいて)、その後吸収分割公告→分割契約の効力発生という流れかと思います。

旧ジャニーズ事務所のSMIL-UP社からstarto社への資産移転については、いろいろとリリースを読みましたが不明な点も多く、ある程度推測による解説とならざるをえませんでした。また創業家親族が代表取締役としてSMIL-UP社に残っておられますし、子会社株式や著作権、不動産の移転も未了のようなので旧会社と新会社との支配関係の解消の様子がわかりません。新会社と取引を開始したいスポンサー企業やビジネスパートナーとしても、もう少し本格的に取引ができない状況が続きそうですね。

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2011年7月 5日 (火)

M&Aと企業買収契約の錯誤無効

先日、orzさんからコメントをいただき、私も知りましたが、循環取引によって8割から9割の売上が架空だったとされるアイ・エックス・アイ社(東証二部-当時)をTOBによって購入したインターネット総研(IRI)社が、IXIの元親会社であるシーエーシー社を訴えていた裁判におきまして、このほど和解が成立し、CAC社は和解金として30億円をIRI社に支払うことになったようであります。

注目すべきはCAC社のリリースでありまして、裁判所から和解による解決を強く求められ、代理人からも錯誤無効が成立する可能性が高いとの意見が出たため、和解に応じたとのことであります。請求金額と和解金の比率からみて、たしかにIRI社の実質勝訴といえそうな和解にも思えますので、ひょっとするとこのまま裁判を継続していた場合には、(返還すべきIXI社株式の評価額などが問題となるものの)M&Aの世界において錯誤無効の主張が認められるという、かなり興味深い判決が下される可能性があったということになります。動機の錯誤、ということでしょうから、そのような動機が契約自体に表示されており、要素の錯誤と認められる事態というのが一体どのような事実によって認められようとしていたのか、これは極めて重要な問題かと。

ご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、IRI社がCAC社からIXI社株式を購入するにあたっては、日本を代表する著名証券会社、アドバイザー監査法人、法律事務所、などがフィナンシャルアドバイス、財務デューデリ、法務デューデリに関与しておられ、「間違いなく、IXI社はいい会社。お買い得です」との太鼓判を押されて購入したものであります。子会社を売る側としても、これだけ万全の体制で買主に株式を譲渡するわけですから、後日、当該子会社の粉飾決算が発覚して、錯誤による契約の無効を買主から主張され、それが裁判所で通ってしまいそうになる・・・ということは夢にも思っておられなかったのではないでしょうか。本件訴訟において錯誤無効の主張が通ってしまいそうな状況に至った経過を理解したいところでありますが、錚々たるメンバーが株式評価を行ったとしても、売買契約が錯誤無効となるリスクが発生する、ということは重大な出来事かと思われます(その割には、あまり世間では騒がれていないような気もします)。

IRI社は、CAC社だけでなく、売買当時IXI社の監査を担当していた新日本有限責任監査法人に対しても、おそらく監査見逃し責任を根拠に損害賠償請求訴訟を提起され、このほど1億5000万円を新日本監査法人がIRI社に支払う和解を成立させ、粉飾会社売買の責任の一端を同監査法人に負担させることとなったそうであります(リリースはこちら)。そして、いよいよ7月1日には、IXI社を東証二部に上場させて「信用」をつけさせ、粉飾決算判明後には、問答無用でIRI社を上場廃止とした(として)東京証券取引所を相手とする裁判を提起されたようです(ニュースはこちらです。債務不履行責任を追及するとか)。

IRI社の代表者としては、本件売買に関与していた数多くの利害関係人に対してIXI粉飾事件による損害を分担してほしい、との気持ちが強いと思われます。おそらく東証を訴えた事件においても同様の気持ちからではないかと。また、内容はいろいろと理解したいところでありますが、いまなおIXIの亡霊がうごめいているような気がいたしますね。IRI社による執念の裁判の結果が開示され、「ドキ!」っとされておられる関係会社の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

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2008年3月29日 (土)

株主総会対策のトレンド-敵対的買収防衛策と委任状争奪-

昨日(3月28日)、サッポロホールティングスの定時株主総会におきまして、買収防衛策を継続する旨の会社側提案が可決(ただし3分の2の賛成票を得るには至らず)されたとのことであります。今年も新たにライツプランを導入する予定の上場企業も多いようでして、勧告型、定款変更型を問わず、株主総会に諮ることを予定しているところが大半のようですので、今年の株主総会対応のトレンドとしてはタイトルのとおり「買収防衛策の導入(継続)」と「委任状争奪戦」のようであります。ブルドック最高裁決定、モリテックス東京地裁判決など、参考となる司法判断も出ておりますので、これらの話題に関心が集まるのも当然かもしれませんね。

さて、すでに書店ではこの時期の恒例であります「総会対策本」がずらりと並んでおりますが、毎年購入しております「株主総会徹底対策」(鳥飼、菊池著)は別として、このトレンドを学ぶにあたって最も刺激的な2冊を拝読いたしました。

32042926 1冊目は「株主が勝つ 株主に勝つ」。(江頭憲治郎教授、日比谷パーク法律事務所 商事法務 2000円税別)なお副題として「プロキシファイトと総会運営」と記載されております。この本は「はしがき」にありますように、日比谷パーク法律事務所開設10周年を記念して行われた江頭憲治郎東大名誉教授の基調講演とシンポジウムをベースとして出版されたものであります。日比谷パークの著名な先生方の渾身の論文も掲載されており、読み応えのある一冊であります。しかしなんといいましても、会社法実務に多大な影響を与えていらっしゃる先生の「ブルドック最高裁判決が日本の買収防衛策に与えるインパクト」なる基調講演録と参考資料「法の支配」145号に寄稿された「事前の防衛策-発動時の問題-」におけるご意見は、いま最も注目されているところではないでしょうか。江頭教授の事前警告型買収防衛策に関するご意見は、「株式会社法」の第二版のほうでも少しだけ述べられておりますが、この基調講演のお話によって、かなり理解できたような気がいたします。江頭教授のご意見へのコメントではございませんが、一つとても感銘を受けましたのは(あたりまえのことと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが)、

ブルドック事件の最高裁決定については、批判を含めていろいろ意見があるわけですが、判例を読む場合にまず最初にやるべきことは、裁判所は何を判示したか、具体的に申しますと、どういう事実について何を判断し、何を判断しなかったのか、ということを客観的に認識することであり、判決を批判・評価するとすれば、それを終えてからということになろうかと思います。

なる「前置き」のお話であります。(ここだけ引用、ご容赦ください)あたりまえのように思えますが、実はとても重要なことであります。民事裁判でも、一方当事者が自分に有利な過去の判例を引用する場合がございますが、ここのところがしっかりできていないと裁判官を説得することは困難であります。江頭教授は、先の基調講演におきまして、まずこの作業をされ、そのうえでご意見を述べておられますので、内容につきましては賛否両論あるとは思いますが非常に説得的であり、勉強になるところです。(なお、このあたりはモリテックス東京地裁判決の解説を商事法務に出されたN弁護士の論稿を拝読したときにも痛感したところであります)

Saizensennisimura 2冊目は「敵対的買収の最前線」(西村高等法務研究所叢書 商事法務 1400円税別)。副題として「アクティビスト・ファンド対応を中心として」とあります。こちらも落合誠一教授を中心に、ご存知西村あさひ法律事務所の著名弁護士の方々の基調講演とシンポジウムの記録を中心としたものでありまして、なんと(!)敵対的買収と委任状争奪戦の「最前線」を語るにおいて、ブルドック最高裁決定やモリテックス東京地裁判決が世に出る前の講演録をそのまま公開するという「堂々たる」自信作であります。(なお、ブルドック最高裁決定につきましては、注記として参考文献等にすこしだけ触れておられます。)落合教授が買収防衛策と「公正」に関するお話をされており、そのなかで多数派株主と少数株主の関係について言及されておられますが、そもそも上場企業といっても50%近くを同族で保有しているような場合と、ブルドックソースのように、スティール以外は3%以下の保有株主であるような場合とでは「多数の賛同を得た」という意味も変わってくるのではないか・・・といった問題なども非常に新鮮であります。また、委任状勧誘ルールや会社側の勧誘に絡む法的問題点を紹介しているN弁護士(元ふぉーりん・あとにーの47thさん)の講演録は、それ自体が今後のブログの検討課題として使わせていただけそうなものばかりであります。

どちらも一気に読める程度のソフトカバーですので、年度末のお忙しい時期とは存じますが、平成20年度のトレンドを探るという意味ではオススメですので、また読了された方のご意見、ご感想などお待ちしております。

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2007年4月 3日 (火)

エディオン・ビックカメラ統合計画の撤回

2月8日に、業界トップのヤマダ電機に対抗すべく、エディオンとビックカメラが経営統合することが発表されましたが、ご承知のとおりビックカメラ側からの申出により、3月30日に両社の統合計画は白紙撤回されたようです。(日経ニュースはこちら)これを受けて、日経新聞の4月2日付け朝刊記事では、両社が「重要な経営情報をあいまいな状態で(経営統合を)発表したことになり、情報開示の問題点が浮き彫りになった」とやや批判的な見方で報道されております。(統合に関する発表の後は、株価が上昇したわけですから、投資家は不正確な情報を元に投資した、ということになる、とされております)

投資家へ確定的な情報を開示できなかったことにつきましては、市場の混乱を招いたこともあり、反省点もあろうかと思いますが、従業員の方々の予想外の反応の前に「統合撤回」を決断しなければならなかったビックカメラ経営陣にも、やむをえない事情があったのではないでしょうか。本来、ビックカメラとしましては、合併(経営統合)に関する重要事実につき、当然に証券取引所の自主ルールたる適時開示をしなければならないわけでありますが、どこまでのことが決まれば適時開示の対象となるのでしょうか。一般にはおそらく「業務執行機関による統合に関する正式決定の後」ということになろうかと思われます。つまり、適切な開示がなされた、といえるためには、投資家への公正、公平な情報開示が要求されますので、同じ日に両社とも経営統合に向けての取締役会決議がなされ、両社ほぼ同時刻に、それぞれ経営統合に関する開示要求事項を公表する、といった流れになると思われます。まぁ、この取締役会決議まで、しっかり社内における情報管理ができていればよいのですが、ここで留意すべきは「インサイダー取引になる時期と適時開示を必要とする時期のズレ」に関する問題点であります。本来、適時開示とインサイダー規制は裏腹の関係にある、と言われているところでありますが、この企業再編に関する重要事実といったものは、どうも単純に裏腹の関係とはいえないところが問題であります。

経営統合に関する重要事実の公表時期が「取締役会決議」の直後、といった場合、その公表時期までは社内でインサイダー取引に関する規制は適用されないか、といいますと、通説にしたがいますと、実はそうでもないようです。実はそう簡単には言い切れないところがございます。たとえば、両社の代表者が統合に向けての話し合いを始めた後であっても、また統合に向けての協議が常務会などで確定した後などにおいても、その統合に向けての準備活動の事実が存在した時点で、すでにインサイダー取引が規制される「社内の重要事実」は存在する、という見解もございます。(一部文言を修正しました)そうであるならば そういった見解にしたがうならば、経営統合に向けた準備が進んでいる最中から、両社の社内では常にインサイダー取引が発生してしまうおそれが出てきまして、たいへん高度な情報管理が要求されます。もしそういった情報管理に漏れが発生して、運悪くインサイダー取引が発生してしまったのであれば、それこそ発覚後には大きなダメージを企業が受けることになります。自社の情報管理によほどの自信があれば格別、そうでない場合には、たとえ財務、法務DDが未了であったとしましても、経営統合に向けた準備が進んでいる時点のおきまして、一刻も早く基本合意に関する臨時取締役会を行い、その決議内容を適時開示として公表しておこう、と考えることも(ある程度は)理解できるところではないでしょうか。(いったん経営統合に関するリリースをしておいて、後で撤回することによる企業信用毀損のリスクと、合併比率の確定や従業員の反応などをほぼ調査して、統合計画が白紙に戻らないことが確実になるまで公表を控える代わりに、情報漏えいにともなうインサイダー取引によって企業信用が毀損されるリスクとを比較したうえで、後者による損害(リスク)を優先的に回避する選択肢もあるのではないか・・・とも思えますが、いかがでしょうか。)

ましてや、先日(3月20日)新聞報道されておりましたように、東証の上場制度の整備に関する懇談会がリリースした提言内容におきましては、東京証券取引所に上場している企業に適時開示義務違反が認められた場合には、課徴金を課すべき、とのことであります。こういったシステムが導入されるようになりますと、一般事業会社としましても、適時開示の適正性には十分気を使わなければならないわけでありまして、やはり早期に情報を管理して、開示すべき要請はますます強くなっていくのではないかと思われます。そんな状況におきましては、いったん統合計画をリリースしていながらも、後日「修正」や「訂正」といったものではなく事情変更による「白紙撤回」といったこともありうるなかでの「見切り発車的」な統合に関するリリースにも、少しばかり同情できる部分があるのではないか、と思ったりしております。

(注)4月3日午後 紀尾井町さんのコメントを受けまして、一部エントリー内容を修正させていただきました。なお、本日午後3時より、24時間、ココログのメンテナンスがございますので、悪しからずご了承ください。

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2006年7月 4日 (火)

買収防衛策と特別背任罪

7月3日の日経朝刊「試される司法第2部揺らぐルール」の記事に、すこしばかり目を引く記述がありました。昨年のことになりますが、ライブドアがニッポン放送側の買収防衛策を「過剰防衛」として刑事告訴してきた場合、受理すべきかどうか、について検察庁内では昨年3月ころに松尾検事総長(当時)が最高検幹部に真剣に問いかけたということでして、その結果「保身目的の買収防衛策で一般株主に損害を与えれば、役員を特別背任罪に問う可能性がある」との結論に達したそうであります。以前からこのニッポン放送の新株予約権発行による防衛策については、すこしだけ刑事責任の可否が問題になっておりましたが、買収防衛策の導入に刑事問題が真剣に検討されていた、という事実には正直ビックリしました。

「保身目的」というのは、(銀行の損失の先送りを目的としたような)不正融資などを行った取締役の刑事問題を問う場合には、会社の損害も比較的顕在化しておりますので、なんとなく理解できるのですが、買収防衛策を導入する場面でも同じような意味で「保身目的」と使用していいのかどうかはすこしばかり躊躇をおぼえます。松尾元検事総長は「株主など国民に大きな影響を与えるルール逸脱には、最後の砦としての刑事制裁が必要になってくる」と検察の姿勢を述べておられます。ニッポン放送ライブドア事件の頃は旧商法の時代でありますし、従前の商法にも刑事罰が規定されていたわけですが、新しい会社法のもとでは、こういった利害関係者間の損害発生の事態に備えて、刑事処分も検討課題になってくるんでしょうか。会社法が旧商法よりも行為規範化してしまい、またコーポレートガバナンス論との関係で、企業の国際競争力アップのための「国策法」的なものになっている、といった一般的な説明内容と、こういった刑事処分適用可能性の拡大、といったこととが、すこしばかり整合しているような気がします。

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2005年8月19日 (金)

条件決議型ワクチン・プラン

商事法務1739号(8月5日、15日合併号)に新会社法・買収防衛指針を踏まえた買収防衛策の一標準形として「条件決議型ワクチン・プラン」なる防衛策の設計書が掲載されております。「上」となっておりますので「下」まで読まないとはっきりとした感想は申し上げられないのかもしれませんが、取締役会(もしくは定時株主総会)において、敵対的買収者が現れることを「停止条件」として、差別行使条件付きの新株予約権の無償割当(新会社法277条)を行うことを決議する、という斬新なスタイルです。これまで、いろいろと不具合を指摘されてきた買収防衛策の短所を補完し、経済産業省、法務省からすでに出されております指針にも合致するものとしてかなり評価は高いものと思われます。

ただ、防衛策導入を検討する「一監査役」としての立場から、すこしばかり疑問があります。これまでの民法上で定義されてきた「停止条件」と上記防衛策の「停止条件」とは同じものなのかどうか。

まず第一に、取締役会決議や株主総会の決議の効力が「停止条件付き」ということですと、はたしてそのような団体法上の行為について、民法上の「停止条件」というものを付すことが法律的に可能かどうか、という問題です。「月刊監査役平成15年6月号」によりますと、補欠監査役の予備選問題について、法務省民事局商事課の公式見解が掲載されており、株主総会の決議に条件または期限を付すことも否定されているものではなく、決議に期限等を付さなければならないとする合理的な理由がある場合には、合理的な範囲内で条件または期限を付すことができると述べられています。そこで、本件のように敵対的な買収者が出現することを決議の効力発生条件とすることが、はたして条件を付す合理的な理由がある場合と言えるかどうか。(特別に、停止条件を付さなくても買収効果が上がるのではないか、という疑問)

そして、もうひとつは、かりに取締役会決議で「停止条件」つきで導入した買収防衛策については、たとえ取締役会決議そのものが「団体法上の行為」だとしても、それは会社・株主間の法律行為の効果を一方的に決定する性質(新株予約権の株主割当は取締役会で一方的に決めることが可能です)を有するものですし、だからこそ「撤回、廃止が取締役会で容易に決めることができる」とされていると思われますが、そうであるならば、この無償割当を決議する取締役会決議は法律上の「単独行為」としての性質を有するものですから、そもそも「停止条件」は付し得ないのではないか、という疑問。私の手元には司法試験受験時代の四宮先生の「民法総則」がありますが、そのなかで、単独行為については民法506条などからも明らかなとおり、停止条件は付し得ないものとされています。したがいまして、はたして新株予約権の株主無償割当に関する取締役決議には、そもそも停止条件を付すことができるのかどうか、ということについて合理的な説明が必要になってくるのではないでしょうか。大阪の零細法律事務所の弁護士の立場として、この日本を代表する法律事務所の先生方が設計された買収防衛策を論難するだけの能力は毛頭ございませんが、「導入したいと考える企業の役員」としての立場からみると、上記の点、法的安定性という面からみて、すこしばかり疑問が湧いてまいります。ひょっとすると、決議そのものに「停止条件」がつく、というのではなく、割当という会社と株主との当事者間における法律行為自体に「停止条件」がつく、という意味かもしれませんが、そうであっても、上記と同様に「停止条件」そのものの性質からくる疑問が湧いてくるのは同様であります。

この「商事法務」には、「スクランブル」という末尾のコラムがあり、そこにたいへん面白い記事が掲載されています。また、この記事については明日にでもエントリーしてみたいと思います。

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2005年8月 2日 (火)

M&A新時代への経営者の対応

8月1日、私が参加しております全国社外取締役ネットワークと関西経済同友会との共催によるシンポジウム「M&A新時代に経営者はどう対応すべきか」に出席してまいりました。パネリストは近藤光男教授、大楠泰治氏、田村達也氏、丸一鋼管の鈴木社長です。最近の夢真HDによるTOBやワールドのMBOに対する感想なども盛り込まれた、興味ある内容でした。とりわけ、ワールドが上場を廃止するに至った経緯など、相談を受けておられた立場からの内容などは、逆に敵対的買収というものの本質を認識するうえではたいへん貴重な情報でした。もうすこし具体的なところまで言及すると、はたして今回のワールドの非公開方針は通常のMBOといえるものか、価格との関係から取締役の利害相反取引の可能性はなかったのか、純粋にプライベートエクイティの手法をとるべきではなかったか、など非常に興味のある論点にまで話題が及びました。また、丸一鋼管が事前警告型の株式分割、およびライツプランを導入するに至った経緯なども、その事業規模等を考えると他社にも非常に参考となるものでありまして、経営者サイドからみた防衛策導入の目的、というものを考えさせられる内容でした。

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