昨日(3月28日)、サッポロホールティングスの定時株主総会におきまして、買収防衛策を継続する旨の会社側提案が可決(ただし3分の2の賛成票を得るには至らず)されたとのことであります。今年も新たにライツプランを導入する予定の上場企業も多いようでして、勧告型、定款変更型を問わず、株主総会に諮ることを予定しているところが大半のようですので、今年の株主総会対応のトレンドとしてはタイトルのとおり「買収防衛策の導入(継続)」と「委任状争奪戦」のようであります。ブルドック最高裁決定、モリテックス東京地裁判決など、参考となる司法判断も出ておりますので、これらの話題に関心が集まるのも当然かもしれませんね。
さて、すでに書店ではこの時期の恒例であります「総会対策本」がずらりと並んでおりますが、毎年購入しております「株主総会徹底対策」(鳥飼、菊池著)は別として、このトレンドを学ぶにあたって最も刺激的な2冊を拝読いたしました。
1冊目は「株主が勝つ 株主に勝つ」。(江頭憲治郎教授、日比谷パーク法律事務所 商事法務 2000円税別)なお副題として「プロキシファイトと総会運営」と記載されております。この本は「はしがき」にありますように、日比谷パーク法律事務所開設10周年を記念して行われた江頭憲治郎東大名誉教授の基調講演とシンポジウムをベースとして出版されたものであります。日比谷パークの著名な先生方の渾身の論文も掲載されており、読み応えのある一冊であります。しかしなんといいましても、会社法実務に多大な影響を与えていらっしゃる先生の「ブルドック最高裁判決が日本の買収防衛策に与えるインパクト」なる基調講演録と参考資料「法の支配」145号に寄稿された「事前の防衛策-発動時の問題-」におけるご意見は、いま最も注目されているところではないでしょうか。江頭教授の事前警告型買収防衛策に関するご意見は、「株式会社法」の第二版のほうでも少しだけ述べられておりますが、この基調講演のお話によって、かなり理解できたような気がいたします。江頭教授のご意見へのコメントではございませんが、一つとても感銘を受けましたのは(あたりまえのことと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが)、
ブルドック事件の最高裁決定については、批判を含めていろいろ意見があるわけですが、判例を読む場合にまず最初にやるべきことは、裁判所は何を判示したか、具体的に申しますと、どういう事実について何を判断し、何を判断しなかったのか、ということを客観的に認識することであり、判決を批判・評価するとすれば、それを終えてからということになろうかと思います。
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なる「前置き」のお話であります。(ここだけ引用、ご容赦ください)あたりまえのように思えますが、実はとても重要なことであります。民事裁判でも、一方当事者が自分に有利な過去の判例を引用する場合がございますが、ここのところがしっかりできていないと裁判官を説得することは困難であります。江頭教授は、先の基調講演におきまして、まずこの作業をされ、そのうえでご意見を述べておられますので、内容につきましては賛否両論あるとは思いますが非常に説得的であり、勉強になるところです。(なお、このあたりはモリテックス東京地裁判決の解説を商事法務に出されたN弁護士の論稿を拝読したときにも痛感したところであります)
2冊目は「敵対的買収の最前線」(西村高等法務研究所叢書 商事法務 1400円税別)。副題として「アクティビスト・ファンド対応を中心として」とあります。こちらも落合誠一教授を中心に、ご存知西村あさひ法律事務所の著名弁護士の方々の基調講演とシンポジウムの記録を中心としたものでありまして、なんと(!)敵対的買収と委任状争奪戦の「最前線」を語るにおいて、ブルドック最高裁決定やモリテックス東京地裁判決が世に出る前の講演録をそのまま公開するという「堂々たる」自信作であります。(なお、ブルドック最高裁決定につきましては、注記として参考文献等にすこしだけ触れておられます。)落合教授が買収防衛策と「公正」に関するお話をされており、そのなかで多数派株主と少数株主の関係について言及されておられますが、そもそも上場企業といっても50%近くを同族で保有しているような場合と、ブルドックソースのように、スティール以外は3%以下の保有株主であるような場合とでは「多数の賛同を得た」という意味も変わってくるのではないか・・・といった問題なども非常に新鮮であります。また、委任状勧誘ルールや会社側の勧誘に絡む法的問題点を紹介しているN弁護士(元ふぉーりん・あとにーの47thさん)の講演録は、それ自体が今後のブログの検討課題として使わせていただけそうなものばかりであります。
どちらも一気に読める程度のソフトカバーですので、年度末のお忙しい時期とは存じますが、平成20年度のトレンドを探るという意味ではオススメですので、また読了された方のご意見、ご感想などお待ちしております。