2008年11月 8日 (土)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その3)

昨日は東証、大証共催によるコンプライアンス・フォーラム(大阪国際会議場)を拝聴させていただきました。個人的には非常に関心の高い話題で「てんこもり」の4時間でした。関西を代表する大手企業においても、インサイダー取引防止体制については、各々まったく別個の体制を採用していること、1000人規模の上場企業において、防止体制を組み入れることは人的、物的にもなかなか困難であり、リスクアプローチによって費用対効果を十分に検討したうえで構築されていることなど、シンポジウムは企業の現場におけるインサイダー取引防止体制構築の様子を垣間見ることができ、たいへん勉強になりました。また、SESC(証券取引等監視委員会)の事務局の方(出向されている裁判官の方)より、最近当ブログでも採りあげておりました某企業への金融庁の処分理由の要点などもご解説いただき、これも今後のブログでの議論の参考とさせていただきたいと思います。某企業の件は、珍しく金融庁単独での処分ではないか・・・と思っておりましたが、やはりSESCとの十分な審議のうえでの処分だったのですね。(注;誤解のないように申し上げますが、事務局の方は、ご解説のなかでは、「某企業」ということで処分対象企業名は伏せておられました)

これは個人的な要望にすぎませんが、インサイダー取引防止を「内部統制」の視点から考察する場合に、サンエーインターナショナル社の件をどう捉えるか?という点を議論いただければなァと思いました。社内で「これはインサイダーに該当するのではないか?」といった疑念が生じたので日本を代表する証券会社に相談したところ、「だいじょうぶですよ」との意見をもらったので、売買を行ったところ、個人的に課徴金処分を受けてしまった・・・という事案であります。私からすれば、「これってインサイダー規制に該当するのか?」なる疑念が生じた時点で、一般事業会社の防止体制としてはほぼ満点に近いのではないか、と思いますし、内部統制構築の限界事例に該当するのではないかと考えますが、いかがでしょうか。(それとも法律専門家や、証券取引所事前相談において意見をもらわないとまずいのでしょうか。取締役の善管注意義務違反の問題と、会社のレピュテーションリスクの問題を分けて検討する必要はあるのかもしれませんが)

さて、昨日の開示情報では気づきませんでしたが、すでに2回にわたり当ブログでとりあげておりました株式会社シャルレ(旧 テン・アローズ)のMBOの話題でありますが、昨日以下のようなリリースが出されておりました。(今朝の日経新聞関西版で知りました)

当社株式に対する公開買付けに関する意見の再表明について

公開買付者からの「公開買付期間の延長及び公開買付開始公告等の記載内容の訂正に関するお知らせ」について

MBO価格決定に至る意思形成過程における透明性、公正性に問題が残り、社外取締役の行動には利益相反行為があったという合理的疑念を払拭できない、との独立第三者委員会の判断にもとづき、シャルレ社の(特別利害関係人たる創業家一族取締役を除く)取締役会はMBO価格算定の根拠となる「利益計画」の検証を再度行うことを決定したようであります。なお、検証は新たに外部第三者委員を選任したうえで、委員会が行うものとし、その委員会の結果に基づいて、新たに取締役会が意見を表明するとのこと。

なお、取締役会の本決定を踏まえて、TOBによる買付者側からも、TOB応募期間の再延長(11月28日まで)が発表されたようです。従前のエントリーには、いくつかのコメントを頂戴しましたが、私自身の意見としましては、企業再編を柔軟に、また機動的に進めることと、少数株主の利益保護をはかることとの調和を求める必要性があることは当然だと認識しておりますが、本件につきましては、事後規制的な発想で、その調和点を求めるためのひとつのモデルケースになるのではないか・・・と考えております。

なお、最近の記事より、その1とその2のエントリーはご覧いただけます。

11月 8, 2008 MBOルールの形成過程 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年11月 4日 (火)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その2)

一昨日、ご紹介したシャルレ社(旧テン・アローズ社)のMBO(マネジメント・バイアウト)手続きに関する社外調査委員会報告書の件でありますが、これを自分の興味本位でご紹介するとなると、おそらく当ブログをお読みの皆様方には、マニアックすぎて最後まで読んでいただけないのではないか?といった不安にかられてきました。(いままでのMBO関連のエントリーについても、そんな雰囲気が漂っています・・・笑)ということで、こういった調査報告書を読んだうえでの感想だけをとどめておくことにいたします。といいますか、「MBOってなんやねん?」という方には、ほとんどご理解いただけないかもしれません。(すいません)

そもそも取締役の利益相反行為(利益相反取引ではありません)というものを、法律上どのように規制していくべきか、という点についてはこれまであまり議論されてこなかったところではないでしょうか。(いや、実は私が不勉強だったから、そのように感じているだけかもしれませんが・・・)取締役が株主のために忠実に職務を執行することが期待できないケースの典型例ということになるわけでありますが、こういった行為を規制するためには、たとえば事前規制によってルールを強制適用するとか、経済産業省のガイドラインや、コンプライアンス(レピュテーショナル・リスクの顕在化)の問題としてとらえて、いわゆるソフトローの発想で規制するといったことも選択肢の一つかもしれません。

ただ、これが一番適切なのかなぁ・・・と思いますのは、利益相反取引を事後的に規制する手法、つまり違法な利益相反取引があったとして、関与した取締役の善管注意義務違反を主張することで損害賠償請求訴訟を提起したり、TOBの結果次第では残った株主が強制排除されるであろう企業再編手続きにおいて株式買取請求権を行使(その後の価格決定申立)することで、その適正性(適法性?)を担保していくことかもしれません。たとえば、先日のレックスHD社の価格決定申立事件高裁判決におきましては、取締役の利益相反状態における行動につきまして、不当に株主の利益が侵害されたおそれがあったとして、裁判所はこの事実を適正価格算定の基準期間選定の判断に反映させています。そして、このシャルレ社の件におきましても、もし社外取締役の方々の判断に不適切な面があるとするならば、最終的には株式非公開化によって強制的に排除されてしまう少数株主の方々による価格決定申立や、取締役に対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求によって、MBO時における取締役の適正な行動をエンフォースする、ということが「規制方法としての最適解」ではないかと思います。

そのように考えますと、MBO時における対象会社の取締役の「外形的な」行為規範を定立して、認定された具体的な事実をこれにあてはめ、「とりあえず、外形的には株主の利益を忠実に守る行動がとられた可能性があったか、なかったか」を判断する、そしてかりに対象企業の取締役らに株主の利益に忠実に業務を執行していない可能性が認められた場合には、(立証責任の転換というほど厳密なものではないかもしれませんが)経営判断として忠実に職務を執行したことの主張を取締役側に展開させるだけの余地を残す・・・といった調査報告書の書き方についても納得のいくところであります。(たしか、日興コーディアル社の不正会計に関する特別調査委員会の手法も、こういったものであったと記憶しております)

本件については、「社外取締役のロードマップ」なるタイトルをつけておりますが、とくに社外取締役に限るわけではなく、MBO手続きにおいて特別に利害関係を有していない社内取締役の行動についても同様に論じることができるように思います。ただ、MBOにおいては「構造的な利益相反状況」があるといいましても、すかいらーく社のように創業者が非公開化後の運営会社のわずか3%しか株式を保有しない場合と、シャルレ社のように、ほぼ半分の株式を創業家が保有する場合とでは、TOB価格への関心という点からみても、ずいぶんと状況が変わってくるものと思いますので、そのあたりは取締役の行為規範の定立にも影響が出てこないのだろうか、という問題や、独立社外委員会が買付者の提示価格についてフェアな立場から意見を述べるケースと今回のシャルレの社外取締役による判断のケース(最終的な会社意思を社外取締役のみで表明しなければならない立場)は別途考慮する必要があるのではないか、という問題など、職務の忠実性に合理的な判断が疑われる外形的状況についても、個別具体的に検討する必要があるのではないかと思われます。とくに、今回は(結果的に)委員会設置会社の社外取締役のみで、TOBに関する対象会社側の意思表明を行わなければならなかった事案でありますので、これが一般の監査役会設置会社における社外取締役の方にも同様に要求される行為規範だとすれば、「かなり厳しいのではないかな」といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

MBOにおける少数株主保護の問題につきましては、価格算定に専門機関に委託したり、株主と取締役との情報の共有(開示)を促進させたり、独立第三者委員会を設けるなど、手続面において「公正性」を確保しようとしてきましたが、それが本当に構造的な利益相反状況を解消することにとって十分なものかどうかはわからないところであります。そこで、MBOの有用性を肯定しつつも、その適正手続の面から公正性を担保する方法をさらに進めたものとして、(いろいろとご異論も出るとは思いますが)おそらく今回の調査報告書は意義のあるものではないかと考えている次第であります。M&Aに詳しい実務家の方々が、今回の件を発展的にご議論されることを切に願っております。

11月 4, 2008 MBOルールの形成過程 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年11月 2日 (日)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップとは?

本日(11月1日)は第一土曜日ということで、毎月恒例の社外取締役ネットワークの関西勉強会に出席してまいりました。ほとんどの社外取締役の方は、「パナソニック、三洋電機買収へ」なる話題で盛り上がっておりましたが、私と、もうおひとりの方と、たったふたりだけですが、部屋の隅っこのほうで盛り上がっていたのが10月31日夜にリリースされたシャルレ(大証二部)の「当社株式に対する公開買い付けに関する賛同意見表明に至るまでの手続き経過等の調査に関する第三者委員会調査結果の報告について」であります。(それにしても長いタイトルですね)あまり新聞やニュースでも採りあげられておりませんが、いや、これ本当におもしろいですよ。月末の適時開示は、第2四半期決算の関係や不動産関連企業の倒産情報などでものすごい開示情報の数でありましたが、そんななかで、夜遅くなって開示されたものですから、あまり注目されていないのかもしれません。ちなみに、このシャルレ社は、ほんの1か月ほど前までは「テン・アローズ社」なる商号でして、昨年までは女子バレーボールの元日本代表の方が代表者に就任しておられ、創業家の動議によって解任されたことでご記憶の方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。取締役は創業家出身の2名と社外取締役3名(委員会設置会社)の合計5名であります。(したがって本件では監査役さんは登場しません)

さて、このシャルレ社でありますが、9月19日に創業家とモルガン・スタンレー系PEファンドによりまして、MBO(マネージメント・バイアウト)による非公開化を行うことが公表されまして、シャルレ社としましては、この株式買取会社(特例有限会社)によるTOBについて、賛同の意思を同日表明いたしました。(当社株式に対する公開買付けに関する賛同意思表明のお知らせ-なお、このお知らせのなかに、商号を変更した理由も記載されております)シャルレ社株式の買い付け期間は11月5日までとされ(30営業日)、平穏無事にTOBが進むものと予想されていたのでありますが、なんと10月16日ころから「本件公開買い付けの株価算定手続きに違法ないし不公正な点があった」旨の内部通報が相当数なされたということであります。そこでシャルレ社としましては、内部通報がなされた場合の社内規約に基づいて、事実関係の調査を開始することとし、社外の弁護士らによる調査委員会を開設し、その調査委員会によってまとめられた報告書が、上記のリリース内容であります。(なお、この調査開始決定により、買付者は買付期間の延長を決定しておりまして、5日→13日に変更されているようです)しかし、内部通報制度というものは、こういったMBOの場面においても、大きな力を発揮してしまうものであるというのは驚きです。

そしてこの調査書の内容は必読です。(最近、このフレーズが多いような・・・(^^; )必読といいましても、M&Aに関心のある方、とりわけ先日のレックスホールディングス価格決定申立事件の東京高裁判決(「金融・商事判例」の最新号に掲載されています)や、経済産業省のMBO指針などをお読みになった方でないと興味が湧かないのかもしれませんが、たとえMBOにはご興味をおもちでなくても、企業買収時における株式の価格算定に興味のある方にはぜひともお読みいただければ・・・と思いますし(EYやKPMGも登場)、会社法における「取締役の善管注意義務」「社外役員の独立性」等に関心のある方にも、ぜひお考えいただきたい論点が詰まっております。ともかく、シャルレ社の取締役さん方がMBOを検討する当初から、TOBへ賛同するまでの社内の経過事実について、ここまで赤裸々に綴られた「事実報告」はこれまでなかったはずですし、この公表された事実と、シャルレの適時開示情報とを読み比べますと、「ずいぶんと印象がちがうやないの??」と(何の利害関係もない私ですら)ドキドキしてまいります。報告書を作成した法律事務所も、報告書に出てくる意見書作成(予定だった)法律事務所も、みなさまおなじみの関西の名門事務所ですし、とりあえずは、こういった目の覚めるような報告書を作成された先生方には敬意を表したいと思います。(以前、当ブログで日経の三宅伸吾さんが言われたように、やっぱり弁護士は「胆力」ですよね。)

今日は序論ということで、また休み明けにでも、この報告書の内容について、若干の感想などを述べてみたいと思っております。

11月 2, 2008 MBOルールの形成過程 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2007年7月19日 (木)

経産省によるMBO指針の報告書案

今朝の日経一面にも出ておりましたが、経済産業省の企業価値研究会は、MBO(マネジメント・バイアウト)に関するTOBルールについて、できるだけ価格の不透明さを解消するための指針に関する報告案をまとめ、これを公表することになりそうであります。(とりあえず、日経ニュースはこちら です。)最近のMBO事例を企業側からみた場合、いろいろなリスクが隠れているようにも思えますが、基本的には法務、会計、税務に関する相当深い知識と経験がないと、そのスキームのリスクを低減することは困難ではなかろうか・・・というのが実感であります。ただ、MBOそのものの規制のあり方を考えておくことは、今後非公開化を検討する場合にも有益であろうかと思われます。

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 私自身は、MBOの研究家でもない単なる素人ではございますが、ここのところ、いろいろな雑誌などでMBOが内在的に持っております問題点などが採り上げられており、そういった問題点をどう克服するか・・・といった視点にかなり関心がございますので、こういった表を作成して、事前規制や事後規制の区別、法による強制力の有無による区別などを基準として、考えるきっかけとしたいと思っております。何を考えるのか、といいますと、基本的には有益なMBO、つまり少数株主の権利を保護しつつ、シナジー効果のあるMBOを完遂させることに実効性のある規制方法を模索する・・・という基準であります。表に示しております◎はある程度実効性が期待できる、×はあまり期待できない、△がよくわからない・・・という形で、私自身の意見を書いておりますが、有識者の方がご覧になれば、おそらくツッコミドコロ満載ではないかと思います。

情報開示といいますのは、TOBに応じる株主にとりまして、その価格が適正であるかどうかを判断するに足る情報という意味であります。役員の行動規範といいますのは、本来的に「取締役の利益相反行為」性を内在しているMBOの場面におきまして、対象企業の取締役がどのように振舞えば利益相反行為ではないと言えるのか、という善管注意義務違反の有無の観点からの規制であります。そもそも善管注意義務違反行為があったかどうか、ということは司法判断だけでなく、機関投資家による役員評価等ガバナンスの問題にもつながるわけでありますが、MBOの場面におきましては、上場廃止を伴うために、事後の一般株主による評価による規制という観点はなくなってしまうことになります。公正性確保の仕組み、といいますのは、企業価値判断のための独立第三者委員会の設置や、社外役員の構成など、MBO手続きに関する論点を指すものであります。そして、企業の説明義務といいますのは、MBO価格の公正性に一定の疑いが生じるおそれのある場合に、その補完として、企業が一般株主に対して、公正であることの説明義務を課すことを想定した仕組みであります。この表に基づきまして、今後経産相指針や、東証ルールなど、もしくは司法判断などが出てきた際の「あるべきMBO実現のための実効性」について考えてみたいと思っております。(なお、本来ならばもっと複雑なマトリックスになるはずでありましょうが、ブログアップ用にかなり簡素化してみました。)

7月 19, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年5月13日 (日)

株価算定評価書の開示について(2)

またまたM&A会計士ブログの澤村先生がMBO(マネジメント・バイアウト)における株式算定評価書に関するエントリーをお書きになっていらっしゃるので、早速拝読させていただきました。(すみません、私は他人様のブログの性格まで変えるほどの傲慢さは持ち合わせておりませんので、どうか「パンケーキの作り方」とか「おいしいレストラン特集」とか、そういったエントリーもお書きになってください。楽しみにしております。>澤村先生。実は私もささやかな趣味であります歴史モノ、「大和古寺巡礼の旅」とか「蘇我入鹿の遺跡のなぞ」みたいなエントリーを(当初は)織り交ぜたいと思っていたわけでありますが、おそらくどなたもそんなエントリーを平日の朝から読みたいとも思われませんでしょうし、もうここまできてしまいますと、ちょっと無理っぽいです 笑)

澤村先生のエントリーを拝読し、また私自身、MBOにおいて公開買付者(経営者の関与する会社)が少数株主を含めた対象企業側に提示する金額として、どうも気になりますのがDCF算定を基礎とした株価>純資産方式による株価の場合に、なぜDCFによる株価が優先されるんだろうか・・・ということであります。公開企業の株価というのは、本質価値と市場価値というのがあって、理想的な資本政策からしますと、この本質価値と市場価値をバランスよく高めていくこと、というのが基本的な考え方ではなかったかと思います。そして、この本質価値の重要な構成要素として、現在の企業の保有する純資産があると。(たとえば元産業再生機構代表者の富山和彦さんのご解説などは、こういったお話ではなかったでしょうか。)MBOがリリースされて、その後に競合的なTOBが現れなかったからといって、経営者の関与する企業のTOB価格が合理的な価格を提示したことの理由にならないのは、こういった本質価値と市場価値とのバランスが短時間には第三者からは判明しないからではないでしょうか。もちろん、一株あたりの純資産額よりもDCF法を算定の基礎とした株価のほうが大きい場合であれば、それなりに将来収益の価値も少数株主に配分されるのではないか・・・ということも理解しうるのでありますが、一株あたりの純資産額よりもDCF法による株価が低く、そのDCF法を基準とした株価をもとにTOB価格が提示された場合、なぜ清算を前提とした価格よりも少数株主は低い価格に甘んじなければならないのか、という点が、私にはよくわかりません。もし純資産部分の清算ということが(継続企業としての株式価値判断としては)おかしいのであれば、再調達時価純資産方式によるものでも結構かと存じます。コールオプションを放棄したわけでもない(つまり、長期保有の自由を自ら放棄したわけでない)一般株主が、なにゆえ最低限度の本質価値(再調達時価純資産)の部分を無視して、市場価値だけを基準とした算定方式に従わなければならないのか、(つまりコストアプローチは採用されずに、インカムアプローチとマーケットアプローチのみによる株価算定に左右されなければならないのか)ものすごく不思議であります。ただ、現実に昨年から今年にかけてのMBO事例のうち、いくつかは、この一株あたり純資産>TOB価格といった図式が成り立つものであります。単純に考えますと、この純資産の余剰のところは、すべて支配株主が少数株主の犠牲のもとで独り占めできることになって、明らかに不公平ではないでしょうか。

私は前も申し上げましたとおり、こういった企業価値判断の専門家でもありませんので、一般企業の監査役、という視点からの疑問を呈しているわけでありますが、もし自社のオーナー社長がMBOを決意したとして、こういったTOB価格を意見表明に関する取締役会で審議するとしたら「とんでもないですよ、社長、あんた自分ひとりで利益をもってっちゃって、どうすんですか??」と噛み付くんじゃないでしょうか。そういったバリュエーションの素人でも、監査役である以上は最終的には株主への説明責任が発生するわけですから、なぜ、一株あたりの純資産額(一株あたりの再調達時価純資産額)よりも低い株価によるTOBへの賛同が、少数株主にとっても公平といえるのか、合理的な、しかもわかりやすい説明ができないとおかしいのではないでしょうか。常勤であればまだしも、社外監査役としましては、明確な説明ができなければヤバイのではないかと思ってしまいます。(まあ、説明が不要となるように、略式事業再編の手法がとれるのであれば幸いかもしれませんが。)本日(5月12日)、テーオーシーのMBOが不成立となった旨のリリースがありましたが、まぁこのところ1000円前後の市場価格で推移しておりましたので、不成立は当然といえば当然かもしれません。しかしながら、やっぱりダヴィンチ側よりコストアプローチがなにゆえ考慮されていないのか、恣意的な株価算定と言わざるをえないのではないか、との疑問が提示されておりましたし、私自身としましても、このあたりはとても知りたいところであります。(ちなみに、オオタニファンドTO側の株価算定書によりますと、継続企業の価値算定にとっては、清算価値を基礎とする手法は適切でないことと、コントロールプレミアムが含まれていることにより妥当な算定ができないことが理由とされているようですが、それは競合するTOBが存在して、どの株主にも、できるだけ高い値段がつけられるインセンティブが存在する場合には妥当しても、支配株主と少数株主との利害が相反するMBOの場面にも妥当する理由なのでしょうか。アメリカでも長い歴史をもつMBOの実務でありますので、こういった場合でも合理的な説明方法があるのではないかとも思いますし、ぜひ今後の参考のためにも、どなたかにお聞かせ願えれば・・・と希望しております。

5月 13, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2007年5月11日 (金)

株価算定評価書の開示について

M&Aフィナンシャル・アドバイザリー・サービスの著者でもいらっしゃる公認会計士の澤村八大先生のブログにおきまして、MBO等における第三者による株式算定書の開示制度について、感想をお書きになっておられます。ほかのM&A関連のブログでも少し話題になったりしておりますが、「第三者による株価算定評価書」といったものは、実際にバリュエーションに携わる方々にとっても、たいへん興味のあるところのようですね。こういったものは、あまり「教え合いっこ」はなされないようであります。(株価算定の方法といったものは、これだけ人材が流動化した時代においても、企業秘密のようなところがあるのでしょうか?)

MBOネタにつきましては、当ブログにお越しの皆様方には、おそらく書き手の能力に問題があるようでして、あんまり人気の高い話題ではございませんけれども、もうすこしおつきあいください。(^^;;、昨年の12月13日に証券取引法の企業情報開示に関する内閣府令等(証券取引法施行令の一部を改正する政令および発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令)が改正されまして、MBO等(経営者や親会社が関与するTOBにより、株式非公開化を図る制度)において公開買付けを行おうとする者は、買付届出書の添付書類として第三者作成にかかる株価算定書が要求されることとなりました。したがいまして、MBOにおける経営者関与会社が、TOB価格を決定する際に判断資料とした株価評価書がEDINETでも閲覧できるようになったわけであります。(どういった会社のMBO手続きのものが閲覧可能であるか・・・というところは澤村先生のブログに記載されております)

ただし澤村先生も指摘されておられるように、公表される株価算定評価書は、公開買付届出書を提出した者、つまりTOBをかける立場の方だけでありまして、MBOの際にもっとも知りたいところの「意見表明者が参考とした第三者作成にかかる株価算定書」については公表されません。(おそらく、これは競合TOBの場合の株主への情報開示を念頭におかれているものと思われます。ただ昨年12月に東証もMBOの際の情報開示に関する要請書、「合併等の組織再編、公開買付け、MBO等の開示の充実に関する要請について」と題する書面をリリースしておりますが、そのなかでは、MBOの際における対象企業側の第三者算定評価書も東証への提出資料としては要請されておりますが、公衆縦覧に供されるべき資料には含まれておりません)もし、「賛同のお知らせ」のように、MBO対象会社のほうも、意見表明書に第三者による株価算定書の添付が義務付けられたら、なかなか情報開示も充実するのではないでしょうか。とりわけ、澤村先生が感想でお書きになっているように「評価書の中身は、各社さまざまで、それぞれの個性が出ている」といったものでしたら、買付側の第三者と、対象企業の第三者がまったく別個の算定基準を用いているにもかかわらず、どうして対象企業が買付け側の価格に賛同するに至ったのか、そのあたりの経緯を詳細に説明しなければならないと思われます。(また、もしほとんど同じような内容でしたら、逆に公正性が強く疑われる結果になってしまうかもしれませんよね)

たとえば、5月7日に代表者の100%出資会社による公開買付けによってMBOを行うことがリリースされましたP社の場合、Nコーディアル社が買付け者側の第三者機関として対象会社の株価算定書を作成しておられますが、N社はフィナンシャルアドバイザーたる地位にあって、この案件の成功報酬をいただく立場にあるようです。また、算定根拠はこれまでの開示資料と、対象企業の事業計画書によるものであって、特別なDDはされないそうです。つまりフェアネスオピニオンではないということですよね。そして、基本は市場株価算定法によるものとして、そこに類似会社比較法、DCF法を参考にするといった手法とのことで、直前の株価をもとに評価する、というもののようです。正直申し上げて、素人ながら、なんでこれが公正な価格算定のための資料になるのか、大いに疑問であります。公表しなければならない情報が公表されずに企業側に一方的に存在している状況があって、しかも市場株価を基準に算定する(つまり一般株主に市場株価での売却を強要する)となると、これはけっこう問題になりそうな雰囲気が漂っていませんかね?(もちろん、適時開示すべき情報で、公表していないものはない、ということであればいいわけですが。でも、MBOをリリースした後に、経営者に競合してTOBを仕掛けるファンドなどが現れないように、企業に有利な情報を公表しないインセンティブというのも働くような気もします・・・)しかも、この評価書を算定した機関が、買付け届出者の代理人として交渉したり、成功報酬を受ける、ということになりますと、交渉成立への大いなるインセンティブが働くわけですから、買付者(=対象企業)が納得できないような評価内容をそもそも記述するはずがないと思われますが、いかがでしょうか。

5月 11, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年4月24日 (火)

MBOルールの形成過程を考える

(一部訂正に関する追記あります)

レックスHDの事例を引用しながらMBO(マネージメント・バイ・アウト)と少数株主保護についていろいろと考えていた時期から、ずいぶんと時間が経過してしまいました。最近の企業会計、企業法務の専門誌を読んでおりましても、このMBOと少数株主保護(株主排除?)に関連するレベルの高い論稿が増えたように思います。学者の先生方も、大手の法律事務所を中心とした法曹実務家の方々も、(また、以前日経ビジネスオンラインの記事でご紹介しましたとおり、裁判所におきましても)来るべきMBOの適法性(MBOに関与する取締役の善管注意義務、忠実義務違反など。なお価格の公正性を含めるとすれば、株式買取請求事件もここに入るでしょう)を争う法廷闘争に備えて、さまざまな議論が展開されているようであります。商事法務に3回にわたって連載されておりました「フリーズアウトに関するデラウエア州法上の問題点」(N弁護士)や、ビジネス法務6月号に掲載されているT准教授とK弁護士との対談(前編)、同6月号の大手NT法律事務所の方々による「M&Aを有利に進める株主対応」などなど、どれをとりましてもたいへん興味深い内容でありまして、会社法的な考え方、訴訟法的な考え方、比較法的な考え方など、いろいろと実務に参考となるところが満載であります。ただ、考え方はいろいろありますが、基本的なところでは、「効率的なMBOは企業社会では有益であるが、少数株主の利益は最大限確保されなければならない。一般投資家にとって上場企業の退場場面においても安心できる制度でなければ、市場に参加する投資家の数は増えないのであって、投資家保護、市場の活性化のためにも、退場企業のルールを合理的に決めることは重要。とりわけMBOに不可避的に発生する対象企業の取締役(支配株主)の利益相反問題を規制するべき合理的なルールの形成が必要。」といったところではほぼコンセンサスは得られているのではないでしょうか。

このブログでM&A関連のエントリーをアップするときには、いつも「素人考え」というフレーズで逃げておりますが、今回も素人的発想による疑問でありますから、そのあたりを「値引き」してお読みいただければ幸いです。といいますのも、非常に優秀でいらっしゃる若手、中堅のM&A専門家の方々の雑誌の論文を拝読しておりまして、よくわからないのが「アメリカの実務や、日本の会社法制度、裁判所制度を背景としたMBOルールがどうあるべきか」といった議論は進展しているように見受けられるのでありますが、「それじゃ、誰がその合理的なMBOルールを形成するのか?」といったところは、議論されているのだろうか・・・・・、というところであります。(ホント、これまったくの素人的疑問でありますから、もしすでに議論の集積がありましたらご教示いただきたいところであります)たとえば、わかりやすい例ですと、ある上場企業がMBOの対象企業となり、某ファンドが設立するSPCによってTOBをかける。この上場企業の経営陣は、TOBに賛同する旨の意見表明を行い、ファンドとともにSPCの持分を取得する。TOBによって90%以上の株式をSPCが取得した場合には、合併比率(交換比率)を調整のうえ、略式合併(略式株式交換)によって、少数株主を排除(キャッシュアウト)する、といったスキームがあるとします。もしかりに、この上場企業の経営陣による利益相反問題が顕在化しないままに、客観的にみてTOB価格が支配株主以外の少数株主にとって低廉である場合、その違法性(不