2023年8月24日 (木)

伊藤忠・ファミマTOB事案の功労?-買収提案時における社外取締役(特別委員会)の本気度が高まる

カメラ用レンズ大手の東証プライム会社において、監査役と社外取締役が中心となり、不正な経費流用の疑惑によって社長及び常務取締役を退任に追い込んだ事例が報じられています。真相解明のためには会社に一切忖度しないことで有名な(?)法律事務所を中心とした調査委員会を設置する等、絵に描いたような立派な危機対応ですね。おそらく調査報告書は公表されるでしょうから、また一連の経緯について勉強させていただきたく。

さて、企業の有事における社外取締役の対応については「高い報酬をもらっていながら一体何をしているんだ?ただのお飾りではないのか?」と揶揄されることが多いのですが、上記事案と同様、社外取締役が活躍している事例がTOBの場面でも見受けられるようになりました。

伊藤忠がこの8月に公表した上場子会社・持分法会社に対する公開買付、すなわち伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)および大建工業に対する公開買付のプロセス(特別委員会と伊藤忠の交渉過程)が大変興味深いです。いずれも特別委員会のメンバーは買収対象会社の社外取締役の方々が中心ですね。ちなみに伊藤忠→CTCのリリースはこちら、伊藤忠→大建工業のリリースはこちらです。いずれも長文なので、私もざっとしか読めておりませんが、概要は以下のとおりです(事実に誤りがありましたら訂正させていただきます)。

CTCについては、伊藤忠からの提案価格(ファミマTOBのケースと同じく特別委員会算定書のDCFレンジを下回る水準)を、特別委員会は再三にわたり拒絶。伊藤忠は「これ以上引き上げは困難」(7月31日)とした4200円から、翌日(8月1日)一転して4325円に引き上げており、これはCTCの過去最高値株価に合わせた形です。その翌日(8月2日)公開買付発表に至っています。ちなみにこちらの東洋経済の記事が伊藤忠側の価格交渉の苦悩を物語っています(記事からの引用-最高財務責任者(CFO)は「安いかどうかは別として、適正な価格で買えたと思っている」と言葉を濁した-)。

また、大建工業事案では、伊藤忠の当初提案価格2450円(プレミアム5%程度)を、大建工業の特別委員会は「当該価格では交渉開始が困難」と一蹴。その後も再三に亘って伊藤忠の提案価格を拒否し続けています。さらに伊藤忠からの協議提案をも拒絶(ファミマ裁判で直接協議での伊藤忠からの影響があったことを念頭に警戒したのではないかと思われます)の末、特別委員会は逆に「東証の要請する」PBR一倍(3200円程度)を目安に3200円を逆提案。これを拒否する伊藤忠にMoMと3000円を逆提案し、最終的には伊藤忠がそれをまるまる飲む形で合意。結局プレミアム率30%程度、PBR1倍近く、DCFのレンジにも収まるということになりました。

いやいや驚きです。いずれのケースも、社外取締役が「特別委員会が合理的な根拠なく当初交渉方針を撤回した」とされた伊藤忠・ファミマTOB価格東京地裁決定を意識し、創意工夫しながら適切なTOB価格を模索したことが各プレスリリースから推測されます。上記2例はいずれもファミマTOB事案の東京地裁決定の後に実質交渉が開始されていますので、間違いなくファミマTOBの裁判所の判断が影響しており、特別委員会の構成員である買収対象会社の社外取締役が善管注意義務を意識して行動したものと思われます。

今年4月、こちらのエントリーにて「もっとファミマTOB決定は話題になってもいいのでは?」と書きましたし、こちらのエントリーでは、ぜひ全国の社外取締役の皆様に、当決定を有事における行動規範として参考にしていただきたいとお勧めいたしました。ファミマTOBの事案は高裁にて抗告審が係属中ですが、実務はすでに(保守的かもしれませんが)地裁の判断が浸透しつつある、ということではないでしょうか。やはり伊藤忠・ファミマTOB裁判の影響力は大きかったといえるでしょう。また、特別委員会の構成員として少数株主保護のために「体を張って」尽力された社外取締役の皆様、そして特別委員会のアドバイザーを務めた法律事務所の方々に拍手を送りたい。

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2023年4月24日 (月)

社外取締役中心の特別委員会は汗をかき、自ら考えよ!

4月3日に、「もう少し話題になってもいいのでは?-ファミマTOB価格・東京地裁決定事案」なるタイトルで伊藤忠・ファミマTOB事案について触れておりましたが、ようやく日経で取り上げられましたね(先行して日経デジタル版に記事が出ていますが、おそらく4月24日の日経朝刊「法税務面」で特集記事になると思います)。いまだ地裁の決定が確定していないとはいえ、やはり実務家、商事法学者の間でも話題になっているようです。

Kansaisp_sx500_上記日経記事ではファミマの社外取締役で構成される特別委員会がきちんと役割を果たしていなかったと判断されたことへの衝撃が語られていますが、企業価値評価を行う特別委員会の衝撃といえば、関西スーパー事案における同社社外取締役で構成されていた特別委員会についても、左の書籍を読んでかなり衝撃を受けました。

以下の事実は「関西スーパー争奪 ドキュメント 混迷の200日」(日本経済新聞社編集 2022年)からのご紹介です。ご承知のとおり、関西スーパーとH2O(グループ会社)との経営統合(株式交換)は、臨時株主総会においてわずか0.2%差で可決され、オーケー社は敗北、その後の裁判でも最終的にはH2O・関西スーパー側に軍配が上がったわけですが、この薄氷を踏む関西スーパーの勝利劇には関西スーパー社外取締役で構成された特別委員会の貢献度は高かった。

臨時総会で多くの株主から関西スーパー経営陣に「なぜH2Oとの統合が関西スーパーの株主にとってメリットがあるといえるのか」といった趣旨の質問がなされるのですが、会社側からは釈然としない回答が続きます。そして質疑応答の最後に同社特別委員会委員のひとり(社外取締役)が答弁に立ちます。

その方は、H2Oとオーケーのいずれと組めば将来の関西スーパーにとって価値を上げることができるか、検討方針を委員会自ら協議し、両当事者の話を委員が直接聞き、さらに業界の人、価値算定の専門家の人達の話を真摯に聞き、結論としてH2O側と組むことが関西スーパーの企業価値向上に資すると判断したプロセスを説明しました。つまり理屈ではなく、委員会がどれだけ自分たちで考え、また直接交渉し、さらにいろんなところへ足を運んだか、という点を一般株主にわかりやすく説明をしました。答弁終了後、株主のひとりは「はじめて腹にストンと落ちた」という発言をされたそうですし、そこで議論の尽きなかった総会審議が、上記答弁を契機に終了しました(なお、著者の方々も、この特別委員会の答弁を高く評価しています)。

上記書籍によると、総会の集計結果の発表を受けて、特別委員会の方は「思わず涙した」とありますが、この委員会委員の答弁によって若干でも票が動いたとすれば、これこそ関西スーパー争奪戦におけるキモの部分であったのではないかと。社外取締役として、その企業、業界のことを十分理解したうえで、自ら汗をかき、わからないことは「助けて」と素直に第三者の意見を参考にしてこそ「株主へのわかりやすい説明」「株主に納得のいく説明」が可能になるのではないでしょうか。法律や会計上の実務理論によって頭から押さえつけよう・・・などと考えても(裁判所には伝わるかもしれませんが)株主には伝わらないということを自戒をこめて申し上げたい。

なお、冒頭の伊藤忠・ファミマの事案ですが、日経記事は(いまだ決定が確定していないためか)両当事者への配慮が行き届いている分、少し舌足らずな点がありそうです(そのあたり、「日経Think!」の私のコメントで少しにおわせておりますが)。ということで、もう少しツッコんだ内容の記事が他の経済誌で出るかもしれません。

いずれにしましても、本事案は最終的には結論がどちらに転んでも、今後M&Aに関与する方々には多くの教訓を残すものになりそうです。

 

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2019年9月 4日 (水)

新たなM&A指針-監査役に社外取締役の職務を監査する気概はあるか?

6月28日に経産省から「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されましたが、その特集論稿「M&Aに関する新たな規律」が掲載されたジュリスト9月号を拝読いたしました。先日、支配株主による従属会社の買収案件の第三者委員会委員を務めたこともあり、新たなM&A指針の草案については通読しておりましたが、指針作成に関わられた先生方のジュリスト論稿を拝読して、2007年に公表されたMBO指針とはかなり内容が異なることに今更ながら驚きました(といいますか、もっと早く気付くべきだったかと・・・)。

本指針は、構造的な利益相反と情報の非対称性の問題が存在するM&A取引に関して、目標となる原則(実務上の対応)を示したものですが、なかでも公正性を担保するための特別委員会の役割が詳細に示されています。特別委員会は、M&A取引における公正価値算定を中立・公正な立場から関与するのではなく、「一般株主の利益代弁者」として前面に出ることが望ましいとされ、前面に出る結果として「取引条件の形成過程において独立当事者間取引と同視しうる状況が確保される」とのこと。なるほど、それゆえに特別委員会のメンバーとしては(外部有識者ではなく、株主に対して法的な責任を負う)社外取締役が望ましい・・・とされています。また、こういった特別委員会委員の活動は、一般株主に詳細に開示されることも要請されています。

次の会社法改正では、社外取締役への業務委託に関する規定も盛り込まれる予定ですが、こういった指針を読むと、社外取締役の職務は結構むずかしくなりそうですね。ということで、以下は私の素朴なコメントであります。

まずなんといっても、タイトルにあるように、監査役(会)は社外取締役が善管注意義務を尽くしているかどうか、今後はしっかりと監視・検証する必要があります。これまであまり「監査役と社外取締役」との関係は議論されてこなかったと思いますが、会社の重要な局面で社外取締役が前面に出ることが想定(期待)されるとなれば、監査役は社外取締役の職務執行の適法性をきちんと判断し、その結果を株主に監査報告によって説明する必要性が高くなるはずです。社外取締役は会社の手続きが適正かどうかをサラっと眺めるだけでは不十分であり、M&Aの必要性と相当性を(株価算定評価書やフェアネス・オピニオンを参照にしながら)一般株主の利益保護のために自主的に判断しなければなりません。監査役は、その判断過程を監視・検証するのですから、監査役の役割も重大です。今後はその気概を監査役(会)がきちんと持たねばならないと思います。

つぎに、特別委員会が一般株主の代弁者として支配株主らと必死で交渉して、その結果として「独立当事者取引と同視しうる状況が確保される」のであれば、特別委員会も独自の法務アドバイザーを確保する必要が出てくるのではないでしょうか。もちろん、こういった有事には構造的な利益相反関係が生じる会社自身にも(中立・公正な)法務アドバイザーが就任するわけですが、社内取締役へのアドバイスと社外取締役へのアドバイスを同一のアドバイザーが行うことで、一般株主からは「自分たちの利益を(特別委員会は)最優先に検討してくれた」と判断してもらえるでしょうか。ちなみに私が当事者(委員長)だったニッセンHDの第三者委員会(支配株主のセブン&アイによる完全子会社化手続き)は、このあたりに十分配慮して第三者委員会独自の法務アドバイザーをニッセンのアドバイザーとは別に選任いたしました。

そして最後に、本指針は「部分買付け」のような場面でも、一定程度参考にされることが期待される点です。支配株主による第三者割当増資の引き受け、支配株主に準じた大株主による買収などにも本指針が適用されることになると思われますし、現金買収と株式買収も同等に扱う、とのことですから、次の会社法改正による「株式交付制度」(自己株による部分買付け)などにも指針が適用されることになろうかと。そうなりますと、上場会社のかなり多くの社外取締役の方々にとって、本指針に示された特別委員会委員の職務を理解しておく必要がありそうです。価格決定申立て事件等の裁判では、従前のMBO指針も参照されていましたので、このM&A指針についても、裁判規範に準じるものとして検討しておきたいと思います。

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2011年2月24日 (木)

イマドキのMBO事情への「独立役員」としての危惧感

東証の斉藤社長さんの定例会見(22日付け)でのご意見(MBOは株主を愚弄したものだ)は様々なところで反響を呼んでおりますが、ロイターのニュースが最も正確に会見の様子を伝えているように思いました(株主への説明回避が目的のMBO、投資家を愚弄)。斉藤社長さんも、決してMBOそのものが悪いと言っておられるわけではなく、MBO決議にいたるまでの投資家への説明や、手続き上に不正がないか、MBOのプライシングに不正がないかは、当然チェックしないといけないという点を強調しておられるのではないかと思います。

大株主と仲が悪くなったうえに、米国系ファンドから同業他社が一気に10%の株を取得して業務提携を迫り、またその大株主と同業他社が今後の役員構成について協議する、といったパルコ社(東証1部)のような事例をみますと、株主を気にせずに長期的視野で経営をしたい、と考えるMBO趣向の企業の気持ちもなんとなく理解できそうな気がいたします。しかし忘れてはならないのは、あの粉飾決算で話題となりましたシニアコミュニケーション社の第三者委員会報告書の内容であります。シニア社は、粉飾決算を永久に閉じ込めるために、MBOを真剣に検討し、最終的には支援者が現れなかったために断念した、ということでありました。ちなみに、第三者委員会報告書の内容を復元すれば、

(7) MBO
平成21年1月ころ、リーマンショックに端を発した経済不況に伴い株式市場が低迷しており、特に、マザーズ市場を含む新興市場への影響は甚大で、当社(シニアコミュニケーション社)株価も大きく下落していた。M氏(同社財務担当取締役)は、このような環境下、多くの上場会社が、MBOやM&Aを検討しているということを多数の証券会社、M&Aサポート会社、経営コンサルティング会社などから聞くに及び、かつ、実際にいくつか具体的な提案を受けていた。M氏は、架空計上の隠蔽のための一つの手法としてMBOを実施すべきであると考え、Y氏(同社社長)に相談したところ、同氏もこれを了承した。そこで、M氏は、MBOを実行すべく、M&Aサポート会社と契約し、資金調達を試みたが、資金調達環境が厳しい折、MBOに必要なローンが組成できないということでその実行を断念せざるを得なかった。
(8) 長期営業債権
M氏は、ソフトウェアの架空計上による入金填補を進め、かつ、MBOの検討を進めていた。しかし・・・・・

ということでありました。私もけっしてMBO自体が悪いものばかりだとは申しませんが、ここのところ証券会社さんやVCさんがMBOを上場会社に勧めておられるケースもあり、また金融機関も投資ファンドに資金提供できる体制が整っていることから、こういったシニア社のように、企業の不正が発覚しないようにするため非上場化を図る、というケースもなかには存在するのではないか、と思います。「そんな会社に融資する金融機関なんて、あるわけがない」と考えてしまいそうですが、それは後出しジャンケン的発想であり、これまでの粉飾事案がそうであったように、事業の将来性判断には厳格な金融機関であっても、過去の粉飾発見については審査能力に乏しいわけですから、実際に経営者らが組織する組合へ融資をするところが出てきてもおかしくないと思います。

※※※※※ ※※※※※

ところで、MBOにおけるTOB価格のことで、以前から疑問に思っていることがございます。私は(何度も申し上げますが)M&Aにそれほど詳しくない法律家ですので、素人的発想かもしれませんが、MBOによって強制的に排除される一般株主は、なにゆえ一株あたり時価純資産価格よりも低いTOB価格を適正価格として、これに応じなければならないのか、ということであります。MBO手続により、当該会社の一般株主は強制的に排除されてしまうわけでありますが、その株主は、会社がその時点で清算してしまったら得られる経済的価値よりも低いTOB価格を合理的な価格とみて、これに応じなければならないのでしょうか?私のように独立役員の立場からいいますと、会社が(ファンドによって)時価純資産価格よりも低いTOB価格による買付提案を受けた場合に、どのような合理的な理由もしくは株主に説明のつく理由で、MBOを行うこと、および買付希望者の提案価格が適正であることについて賛同するのでしょうか?もちろん、一株あたり純資産額よりもTOB価格が高いものであれば、これまでのMBO事案同様に、価格の合理性判断の問題になるのでしょうが、最近のMBO事案のなかで、このように一株あたり時価純資産価格よりも低いTOB価格が出現したものですから、はたしてこれって裁判所において「公正な価格」とはみなされないのではないか、と疑問を抱いた次第であります。今の時点で「TOB価格は適正である」と主張する根拠が説明できなければ、後日、価格決定申立事件で、より高い金額が「公正価格」と判定された際に、TOB価格に賛同した役員の注意義務違反・忠実義務違反が指摘される可能性は極めて高いのではないでしょうか。

そもそも会社法では、残余財産分配請求権は、自益権の根幹をなすものであり、いわば普通株式の基本的要素であります。にもかかわらず、非支配株主から支配株主に、MBOを境にして富の変動が生じるような結果になるのは、いったいどういった理屈で適法だとされるのでしょうかね?たとえば幻冬舎さんに対するTKHDさんの公開買付届出書(添付書類-株価算定書サマリー)をみましても、純粋にDCF+プレミアムによって株価算定したことだけがサマリーとして記載されているだけでして、一株当たりの純資産価格(2月15日の日経クイックニュースや、会計士さん方のブログなどを読みますと、おそらくDCF算定価格+プレミアムよりも10万円以上高い)を考慮した節もないようであります。一般株主が「少数株主」であるがゆえに被る損害は、「このまま上場企業でいてほしいけれども、多数株主が非公開化することに合意、ということなので、その結果を甘んじて受ける」ということでありまして、富の変動まで甘んじて受けなければならないものではないと思います。また、株式買取請求権の行使の場面であれば、「残るか残らないかは自己責任」ともいえそうですが、MBOは全部取得条項付種類株式の取得によって強制的に一般株主が排除される場面ですから、株主としては「事業継続を前提とした計算」を問題とすることなく、純粋に清算価値との経済的価値の比較が許容される場面かと思われます。私が幻冬舎の独立役員だったら、このあたりをどのように一般株主に説明してよいのか、ちょっと未だに思案にくれているところであります。また、それ以前の問題として、社内の取締役からどのような説明を受ければ、独立役員として満足できるのでしょうか?

もしこのあたり、専門家的意見ではなく、一般の株主にも、また「公正価格」を判断する裁判官にも理解できるような説得的理由をご存知の方がいらっしゃいましたら、どうかご教示いただければ幸いです。

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2010年12月 3日 (金)

インボイス社のMBOと公表直前の出来高の変動(こりゃすごい・・・泣)

西友さんの社外取締役の方へのインサイダー報道(日経新聞によりますと、話を聞いちゃった親族の方だけを立件方針とのこと)といい、昨日のインボイスさんのMBOインサイダー疑惑といい、やはり今週月曜日のエントリーで書きましたように、「M&Aに絡むインサイダーは防止困難」ということを裏付けるものであります。(もちろん、あくまでも「疑惑」を前提とした話であり、断定はできないわけでありますが・・・・・しかし、一般株主からみれば、不公平感はどうしてもぬぐえませんよね・・・・)

こういったMA絡みのインサイダーのケースでは、どんなにインサイダー防止体制を構築してみても、社内の求心力が喪失されている以上は、「悪気のない情報ばらまき」は不可避であります。(これは私の不正調査等の経験から・・・ということです)動機は前回のエントリーで述べたとおりですが、情報をばらまく人たちに私利私欲がないわけでして、その情報をたまたま受領した人たちが私利私欲をもっていれば(もはや第一次情報受領者とはいえない人達による)インサイダー取引は止めることができない状況になるものと思われます。私は、社内(しかも経営の中枢に近いところ)で事業再編に反対の人たちが多ければ多いほど、インサイダー取引の顕在化という形で「事業再編に向かって一枚岩ではないこと」が示されるのではないかと考えております。

インサイダー取引規制の在り方も曲がり角にきているのではないでしょうか?しかし昨日のインボイスさんの件は、ちょっとスゴイなぁ。。。

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2010年4月19日 (月)

正面から問われる吉本興業の非公開化手続き(やっぱり気になるなぁ)

会社法が施行されて4年が経過しようとしておりますが、いまだ議論が尽きないのが「全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社手続き」であります。4月16日金曜日の朝日新聞経済面の記事によりますと、吉本興業のTOB手続(1月の株主総会で上場廃止決定、2月上場廃止)について「違法性のある手続で株主の地位を一方的に奪われた」として、2名の元株主の方々が株主総会決議の無効確認(予備的には決議取消)を求めて大阪地裁に訴えを提起した、とのこと。

つまり、本件では特に吉本興業さんが債務超過に陥っていたわけではなく、「上場を廃止する」ために「全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化の手続き」を採用した、ということであります。本来、全部取得条項付種類株式を活用して反対株主を締め出すためには、正当な事業目的がないとできない、という立場から、本件吉本興業社の完全子会社化には正当な事業目的はない、ということで手続きの違法性を根拠に決議の無効もしくは取消を主張しておられるようであります。民法709条に基づく違法行為排除請求権を根拠として、総会開催を差し止めることはちょっと苦しかったものの、このたびは既に終了している株主総会における決議の無効もしくは取消を求めておられ、株主代理人でいらっしゃる阪口徳雄先生(株主オンブズマンで有名な大先生)のブログによりますと、「今回は、最後までやりぬく方針」とのこと。おそらく全部取得条項付種類株式を上場会社のMBO手法として活用することの違法性を最高裁まで争う、ということになるのではないかと思われます。

ここまで多くのMBO事案で活用されてきた手法ですから、多くの法律実務家の方々が「適法性に問題なし」と確信し、すでに法曹の関心はTOB価格に不満を持つ一般株主の方々による価格決定申立事件の手続き(たとえば個別株主通知の対抗力)や、価格決定のあり方に移っているようにも思えます。しかし、私の拙い理解では、略式株式交換など、ほかの手法によっても完全子会社手続きは可能でありますが、税制面での有利さを考慮して全部取得条項付種類株式を用いる方法が普及したものであり、とくにこの手法が適法性が高いという理由からではないと思われます。だからこそ、未だ議論が尽きないのではないかと。

また、昨年暮れに出版されました「Q&A会社法の実務論点20講」によりますと、全部取得条項付種類株式が導入された経緯につきまして、

会社法立案過程においては、100%減資を行う際に、株主全員の同意を必要とすることは硬直的にすぎ、柔軟な任意整理の実施の妨げとなっているとして、株主の多数決による株式全部の消却を可能とする方策の実現を求める実務上の要望が強かった。

法制審議会会社法部会の審議において、①株式会社は、正当な理由がある場合には、株主総会の特別決議により、株式の全部を有償または無償で取得することができるものとし、②その場合には、取得の対象となる株式であって、当該決議に反対したものは株式買取請求権を行使することができるものとする、との規程を設ける検討が進められた

その後の法制的な検討を経た結果、上記の構成ではなく、これを種類株式として構成すべきこととされ、立法化された

と(立案担当者らにより)述べられております。(同書3頁)つまり、正当な目的のある株式全部消却手続きであっても、少数株主排除時における財産権保護は保障されていたのであります。したがいまして、現行法上、(株式買取請求権の行使に類似した)価格決定申立の道が少数株主保護制度として存在しても全てが解決するわけではなく、この「正当な目的」のある場合にだけ全部取得条項付種類株式によるスキームが適法である、との解釈が成り立ちうるものと思われます。

では、この立法の経緯におきまして「正当な目的」ということが明記されることなく立法化されたことが、行使目的の無制限化をもたらした、と言えるのでしょうか?私見を申し上げるほどのこともできませんが、株主名簿の閲覧謄写請求権の行使が問題とされた日本ハウズイング社と原弘産社との仮処分高裁決定が、ひとつの参考となるのではないでしょうか。株主は、営業時間内であればいつでも株主名簿の閲覧・謄写の請求が可能でありますが、請求する株主が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいるような場合には、会社は閲覧・謄写を拒否できるとされております(会社法125条3項3号)。原弘産社は日本ハウズイング社との委任状争奪戦に利用する目的で、日本ハウズイング社に株主名簿の閲覧を要求したところ、原弘産社は日本ハウズイング社にとって競争関係にある会社だとして、閲覧謄写要求を拒否した事例であります。たしか高裁の決定では、たとえ競争関係にある会社であっても、株主権の行使の重大性に鑑みれば無制限に拒否できるというわけではなく、株主権行使のために正当な目的があれば、これを拒否することは濫用にあたる(したがって株主名簿の閲覧・謄写権行使は認められる)とされております(おおまかな記憶なので、もし間違いがございましたらご指摘ください。また、この高裁決定につきましては、葉玉先生のブログでも解説されておられたと記憶しております)。これは、会社法125条3項3号の拒否事由について制限的解釈を行ったとみるのか、そうではなく再抗弁としての拒否権濫用の抗弁が認められたにすぎないのか、という点では争いがあるものの、ともかく125条3項3号の文言上では無制限に拒否できるような書きぶりであるため、本件でも当該高裁決定と同様の発想で判断することも可能のようにも思えます。

多数の利害関係人にとって株主総会決議が取り消されたり、無効と確認されるような事態となりますと、非常に関係者間に混乱を生じさせることになるため、結論的には原告が勝訴するためにはかなり高いハードルがあるものと推測されますが、全部取得条項付種類株式を完全子会社化手続きに活用する場合の手続き自体の適法性を裁判所がどのように判断するのか、たいへん興味があるところでして、本当にとことん争っていただきたいと個人的には考えております。

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2009年9月 8日 (火)

サンスター社のMBO高裁決定(650円➔840円)

まだ新聞等では報じられておりませんが、三尊氏のコメントによりますとサンスター社のMBO(非公開化を伴うマネージメント・バイアウト)の株式価格決定申立事件におきまして、大阪高裁は(サンスター社が賛同した)TOB価格(650円)を大幅に上回る840円が妥当、とする決定を出したようであります。(詳しくは三尊さんのブログをご参照ください)先々週、O法律事務所のパートナーの先生(モリテックス事件のIDEC社側代理人をされていた方)とお話をしていたときに、この事件は「なかなか高裁が判断しない」とつぶやいておられたのですが、ずいぶんと慎重に審理がなされていたのでしょうね。最新の旬刊商事法務でも、レックス事件を題材として新進気鋭の関西の学者の方が論文を発表しておられましたが、本当に旬のテーマであり、金融・商事判例あたりでまた決定文が紹介されるのを楽しみにしております。

しかし「関西にはこういった裁判を引き受けてくれる弁護士がいない」という三尊さんの指摘は重く受け止める必要がありますね。(適合性原則違反など、消費者保護訴訟として証券事件を扱う先生方はけっこういらっしゃるとは思うのですが、ちょっとジャンルが違いますよね)関西の場合、こういった事件だと、会社側にはたとえばO事務所かK事務所が代理人として登場することが多いようですが、少数株主側(個人やファンドなど)で代理人として活躍する若い弁護士さんが登場する土壌がなさすぎますね。ということもありまして、今年も昨年に引き続き、大阪証券取引所さんと共催により適時開示ルールに関する弁護士のための研修会(弁護士会2階ホール)を開催することにいたしました。(これも若手ではなく、「おっさん」である私が企画したものですが・・・(^^;;  )資本市場を通じたガバナンスやファイナンスの法律問題に関心を持っていただける若い弁護士の方が、関西でも増えることに少しでもお役に立てれば・・・と思います。

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2009年2月19日 (木)

MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権

江東区の事件につきまして、昨日地裁判決(無期懲役)が出ましたが、もし裁判員制度が始まったら、どういった判決になっていたでしょうか?真剣に考えこんでしまいそうです。(以下本題です)

会社と監査役との対決の匂いがすると、どうしても本能的に反応してしまう癖がありますが、昨年12月26日のエントリーでも書かせていただきましたグローウェルHの子会社である寺島薬局さん(JASDAQ 2月下旬に上場廃止予定)が、3月2日をもって株式非公開化手続きをほぼ完了し、3月3日の臨時株主総会(A種種類株主総会)に変わる書面決議(会社法319条、320条、325条)をもって新たにお二人の監査役さんを選任されるそうであります。(会社のリリースはこちら

関係者の方々にご迷惑をおかけしてはいけませんので、何度も関係リリースを読みなおしたのでありますが、どうも理解できない点がございます。まずは、会社側より辞任勧告決議が出ておりましたK常勤監査役さんは、いったいどうなったのか?という点です。Kさんは、地元新聞社の記事では「法的手続きも辞さない」とおっしゃっておられたことからしても、辞任勧告決議には応じることができなかったようで、その後の会社側リリースでは、本年1月下旬の臨時株主総会において、当該常勤監査役さんの解任決議に関する議題が上程されたようですが、その結果については会社側からは報告されておりません。(もちろん、親会社であるグローウェルさんのリリースも探したんですけど、やっぱり掲載されていないようです)そのかわりに、新たに選任された取締役さんのご紹介リリースのなかで、「現在の監査役は以下の4名です」といった紹介がなされておりますが、そこにはすでにK常勤監査役さんのお名前は消えております。会社側は、K監査役に対する辞任勧告決議を行い、その結果についてはご報告いたします、と述べておられるにもかかわらず、なぜお名前が消えているのか・・・どうにも理解できないところであります。(誰が読んでも?と思われるのではないかと)

そして、その後上記4名の監査役さんのうち、弁護士資格を保有しておられる2名の社外監査役の方々が、1月末に「業務の在り方に関して、会社側と監査役会との間に重大な考え方の相違が存在するため」との理由で辞任をされ2月3日付けリリース)、その結果法定の監査役員数を満たさなくなったために、今回2名の監査役が選任される・・・という流れになるわけであります。(ちなみに、譲渡制限株式会社化するにもかかわらず、定款一部変更によって監査役の定数を4名から5名以内に広げているところもよく理解できないところであります)ここで、親会社と子会社とのご事情などを安易に推察することは控えますが、やはり信頼関係がうまく構築されていない状況にはあるようでして、親会社の経営の在り方を十分に新生「寺島薬局」さんに浸透させるべく、監査役の刷新を図ろうとされていることは間違いないようであります。

ところで、この1月30日に辞任をされた監査役の方々は、いわゆる「権利義務監査役」(後任の監査役さんが決まるまでは、たとえ辞任をしても、まだ監査役としての権利を有し、義務を負う:会社法346条1項)たる立場にありますので、会社法上では監査役の選任についての同意権と意見陳述権(会社法343条1項、同345条1項)を有しているでしょうし(監査役会の構成員として)、またご自身方が、どうして監査役を辞任されたのか、という点についての意見陳述権を有しておられる(会社法345条4項)と思われます。ところが、この新しい監査役さん方は、寺島薬局さんが完全譲渡制限株式会社に生まれ変わった当日に、書面決議をもって選任される・・・ということになりますので、株主総会は開催されないわけでして、そうしますと、監査役固有の意見を陳述する権利を行使できなくなってしまうわけですよね。(A種種類株主総会は、選解任種類株主総会ではなく、実質的には普通株主と同じを思われますので、たとえ大株主しか存在しないとしても、監査役には意見陳述権は存在しますよね)このあたりは、実質的には大株主の単独株式保有に近い・・・ということから、とくに監査役の意見陳述権は確保されなくてもいいのでしょうか?ただ、最近は神戸に本社を持つ某会社のMBO事例でも問題となりましたが、株式非公開化手続きの公正性などにも(元株主、もしくは1株以下の端株保有株主などの少数株主的立場にある方が)関心が高まっておりますので、こういった場面における監査役さんのご意見というのも、けっして無視しうるものではないように思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか。会社と委任関係にある監査役という職務は、現に株主である方々のためだけでなく、これまで株主だった方々への事後報告まできちんとやりぬくことも含めての「委任関係」「善管注意義務」ではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

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2008年11月 8日 (土)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その3)

昨日は東証、大証共催によるコンプライアンス・フォーラム(大阪国際会議場)を拝聴させていただきました。個人的には非常に関心の高い話題で「てんこもり」の4時間でした。関西を代表する大手企業においても、インサイダー取引防止体制については、各々まったく別個の体制を採用していること、1000人規模の上場企業において、防止体制を組み入れることは人的、物的にもなかなか困難であり、リスクアプローチによって費用対効果を十分に検討したうえで構築されていることなど、シンポジウムは企業の現場におけるインサイダー取引防止体制構築の様子を垣間見ることができ、たいへん勉強になりました。また、SESC(証券取引等監視委員会)の事務局の方(出向されている裁判官の方)より、最近当ブログでも採りあげておりました某企業への金融庁の処分理由の要点などもご解説いただき、これも今後のブログでの議論の参考とさせていただきたいと思います。某企業の件は、珍しく金融庁単独での処分ではないか・・・と思っておりましたが、やはりSESCとの十分な審議のうえでの処分だったのですね。(注;誤解のないように申し上げますが、事務局の方は、ご解説のなかでは、「某企業」ということで処分対象企業名は伏せておられました)

これは個人的な要望にすぎませんが、インサイダー取引防止を「内部統制」の視点から考察する場合に、サンエーインターナショナル社の件をどう捉えるか?という点を議論いただければなァと思いました。社内で「これはインサイダーに該当するのではないか?」といった疑念が生じたので日本を代表する証券会社に相談したところ、「だいじょうぶですよ」との意見をもらったので、売買を行ったところ、個人的に課徴金処分を受けてしまった・・・という事案であります。私からすれば、「これってインサイダー規制に該当するのか?」なる疑念が生じた時点で、一般事業会社の防止体制としてはほぼ満点に近いのではないか、と思いますし、内部統制構築の限界事例に該当するのではないかと考えますが、いかがでしょうか。(それとも法律専門家や、証券取引所事前相談において意見をもらわないとまずいのでしょうか。取締役の善管注意義務違反の問題と、会社のレピュテーションリスクの問題を分けて検討する必要はあるのかもしれませんが)

さて、昨日の開示情報では気づきませんでしたが、すでに2回にわたり当ブログでとりあげておりました株式会社シャルレ(旧 テン・アローズ)のMBOの話題でありますが、昨日以下のようなリリースが出されておりました。(今朝の日経新聞関西版で知りました)

当社株式に対する公開買付けに関する意見の再表明について

公開買付者からの「公開買付期間の延長及び公開買付開始公告等の記載内容の訂正に関するお知らせ」について

MBO価格決定に至る意思形成過程における透明性、公正性に問題が残り、社外取締役の行動には利益相反行為があったという合理的疑念を払拭できない、との独立第三者委員会の判断にもとづき、シャルレ社の(特別利害関係人たる創業家一族取締役を除く)取締役会はMBO価格算定の根拠となる「利益計画」の検証を再度行うことを決定したようであります。なお、検証は新たに外部第三者委員を選任したうえで、委員会が行うものとし、その委員会の結果に基づいて、新たに取締役会が意見を表明するとのこと。

なお、取締役会の本決定を踏まえて、TOBによる買付者側からも、TOB応募期間の再延長(11月28日まで)が発表されたようです。従前のエントリーには、いくつかのコメントを頂戴しましたが、私自身の意見としましては、企業再編を柔軟に、また機動的に進めることと、少数株主の利益保護をはかることとの調和を求める必要性があることは当然だと認識しておりますが、本件につきましては、事後規制的な発想で、その調和点を求めるためのひとつのモデルケースになるのではないか・・・と考えております。

なお、最近の記事より、その1とその2のエントリーはご覧いただけます。

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2008年11月 4日 (火)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その2)

一昨日、ご紹介したシャルレ社(旧テン・アローズ社)のMBO(マネジメント・バイアウト)手続きに関する社外調査委員会報告書の件でありますが、これを自分の興味本位でご紹介するとなると、おそらく当ブログをお読みの皆様方には、マニアックすぎて最後まで読んでいただけないのではないか?といった不安にかられてきました。(いままでのMBO関連のエントリーについても、そんな雰囲気が漂っています・・・笑)ということで、こういった調査報告書を読んだうえでの感想だけをとどめておくことにいたします。といいますか、「MBOってなんやねん?」という方には、ほとんどご理解いただけないかもしれません。(すいません)

そもそも取締役の利益相反行為(利益相反取引ではありません)というものを、法律上どのように規制していくべきか、という点についてはこれまであまり議論されてこなかったところではないでしょうか。(いや、実は私が不勉強だったから、そのように感じているだけかもしれませんが・・・)取締役が株主のために忠実に職務を執行することが期待できないケースの典型例ということになるわけでありますが、こういった行為を規制するためには、たとえば事前規制によってルールを強制適用するとか、経済産業省のガイドラインや、コンプライアンス(レピュテーショナル・リスクの顕在化)の問題としてとらえて、いわゆるソフトローの発想で規制するといったことも選択肢の一つかもしれません。

ただ、これが一番適切なのかなぁ・・・と思いますのは、利益相反取引を事後的に規制する手法、つまり違法な利益相反取引があったとして、関与した取締役の善管注意義務違反を主張することで損害賠償請求訴訟を提起したり、TOBの結果次第では残った株主が強制排除されるであろう企業再編手続きにおいて株式買取請求権を行使(その後の価格決定申立)することで、その適正性(適法性?)を担保していくことかもしれません。たとえば、先日のレックスHD社の価格決定申立事件高裁判決におきましては、取締役の利益相反状態における行動につきまして、不当に株主の利益が侵害されたおそれがあったとして、裁判所はこの事実を適正価格算定の基準期間選定の判断に反映させています。そして、このシャルレ社の件におきましても、もし社外取締役の方々の判断に不適切な面があるとするならば、最終的には株式非公開化によって強制的に排除されてしまう少数株主の方々による価格決定申立や、取締役に対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求によって、MBO時における取締役の適正な行動をエンフォースする、ということが「規制方法としての最適解」ではないかと思います。

そのように考えますと、MBO時における対象会社の取締役の「外形的な」行為規範を定立して、認定された具体的な事実をこれにあてはめ、「とりあえず、外形的には株主の利益を忠実に守る行動がとられた可能性があったか、なかったか」を判断する、そしてかりに対象企業の取締役らに株主の利益に忠実に業務を執行していない可能性が認められた場合には、(立証責任の転換というほど厳密なものではないかもしれませんが)経営判断として忠実に職務を執行したことの主張を取締役側に展開させるだけの余地を残す・・・といった調査報告書の書き方についても納得のいくところであります。(たしか、日興コーディアル社の不正会計に関する特別調査委員会の手法も、こういったものであったと記憶しております)

本件については、「社外取締役のロードマップ」なるタイトルをつけておりますが、とくに社外取締役に限るわけではなく、MBO手続きにおいて特別に利害関係を有していない社内取締役の行動についても同様に論じることができるように思います。ただ、MBOにおいては「構造的な利益相反状況」があるといいましても、すかいらーく社のように創業者が非公開化後の運営会社のわずか3%しか株式を保有しない場合と、シャルレ社のように、ほぼ半分の株式を創業家が保有する場合とでは、TOB価格への関心という点からみても、ずいぶんと状況が変わってくるものと思いますので、そのあたりは取締役の行為規範の定立にも影響が出てこないのだろうか、という問題や、独立社外委員会が買付者の提示価格についてフェアな立場から意見を述べるケースと今回のシャルレの社外取締役による判断のケース(最終的な会社意思を社外取締役のみで表明しなければならない立場)は別途考慮する必要があるのではないか、という問題など、職務の忠実性に合理的な判断が疑われる外形的状況についても、個別具体的に検討する必要があるのではないかと思われます。とくに、今回は(結果的に)委員会設置会社の社外取締役のみで、TOBに関する対象会社側の意思表明を行わなければならなかった事案でありますので、これが一般の監査役会設置会社における社外取締役の方にも同様に要求される行為規範だとすれば、「かなり厳しいのではないかな」といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

MBOにおける少数株主保護の問題につきましては、価格算定に専門機関に委託したり、株主と取締役との情報の共有(開示)を促進させたり、独立第三者委員会を設けるなど、手続面において「公正性」を確保しようとしてきましたが、それが本当に構造的な利益相反状況を解消することにとって十分なものかどうかはわからないところであります。そこで、MBOの有用性を肯定しつつも、その適正手続の面から公正性を担保する方法をさらに進めたものとして、(いろいろとご異論も出るとは思いますが)おそらく今回の調査報告書は意義のあるものではないかと考えている次第であります。M&Aに詳しい実務家の方々が、今回の件を発展的にご議論されることを切に願っております。

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