2011年2月24日 (木)

イマドキのMBO事情への「独立役員」としての危惧感

東証の斉藤社長さんの定例会見(22日付け)でのご意見(MBOは株主を愚弄したものだ)は様々なところで反響を呼んでおりますが、ロイターのニュースが最も正確に会見の様子を伝えているように思いました(株主への説明回避が目的のMBO、投資家を愚弄)。斉藤社長さんも、決してMBOそのものが悪いと言っておられるわけではなく、MBO決議にいたるまでの投資家への説明や、手続き上に不正がないか、MBOのプライシングに不正がないかは、当然チェックしないといけないという点を強調しておられるのではないかと思います。

大株主と仲が悪くなったうえに、米国系ファンドから同業他社が一気に10%の株を取得して業務提携を迫り、またその大株主と同業他社が今後の役員構成について協議する、といったパルコ社(東証1部)のような事例をみますと、株主を気にせずに長期的視野で経営をしたい、と考えるMBO趣向の企業の気持ちもなんとなく理解できそうな気がいたします。しかし忘れてはならないのは、あの粉飾決算で話題となりましたシニアコミュニケーション社の第三者委員会報告書の内容であります。シニア社は、粉飾決算を永久に閉じ込めるために、MBOを真剣に検討し、最終的には支援者が現れなかったために断念した、ということでありました。ちなみに、第三者委員会報告書の内容を復元すれば、

(7) MBO
平成21年1月ころ、リーマンショックに端を発した経済不況に伴い株式市場が低迷しており、特に、マザーズ市場を含む新興市場への影響は甚大で、当社(シニアコミュニケーション社)株価も大きく下落していた。M氏(同社財務担当取締役)は、このような環境下、多くの上場会社が、MBOやM&Aを検討しているということを多数の証券会社、M&Aサポート会社、経営コンサルティング会社などから聞くに及び、かつ、実際にいくつか具体的な提案を受けていた。M氏は、架空計上の隠蔽のための一つの手法としてMBOを実施すべきであると考え、Y氏(同社社長)に相談したところ、同氏もこれを了承した。そこで、M氏は、MBOを実行すべく、M&Aサポート会社と契約し、資金調達を試みたが、資金調達環境が厳しい折、MBOに必要なローンが組成できないということでその実行を断念せざるを得なかった。
(8) 長期営業債権
M氏は、ソフトウェアの架空計上による入金填補を進め、かつ、MBOの検討を進めていた。しかし・・・・・

ということでありました。私もけっしてMBO自体が悪いものばかりだとは申しませんが、ここのところ証券会社さんやVCさんがMBOを上場会社に勧めておられるケースもあり、また金融機関も投資ファンドに資金提供できる体制が整っていることから、こういったシニア社のように、企業の不正が発覚しないようにするため非上場化を図る、というケースもなかには存在するのではないか、と思います。「そんな会社に融資する金融機関なんて、あるわけがない」と考えてしまいそうですが、それは後出しジャンケン的発想であり、これまでの粉飾事案がそうであったように、事業の将来性判断には厳格な金融機関であっても、過去の粉飾発見については審査能力に乏しいわけですから、実際に経営者らが組織する組合へ融資をするところが出てきてもおかしくないと思います。

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ところで、MBOにおけるTOB価格のことで、以前から疑問に思っていることがございます。私は(何度も申し上げますが)M&Aにそれほど詳しくない法律家ですので、素人的発想かもしれませんが、MBOによって強制的に排除される一般株主は、なにゆえ一株あたり時価純資産価格よりも低いTOB価格を適正価格として、これに応じなければならないのか、ということであります。MBO手続により、当該会社の一般株主は強制的に排除されてしまうわけでありますが、その株主は、会社がその時点で清算してしまったら得られる経済的価値よりも低いTOB価格を合理的な価格とみて、これに応じなければならないのでしょうか?私のように独立役員の立場からいいますと、会社が(ファンドによって)時価純資産価格よりも低いTOB価格による買付提案を受けた場合に、どのような合理的な理由もしくは株主に説明のつく理由で、MBOを行うこと、および買付希望者の提案価格が適正であることについて賛同するのでしょうか?もちろん、一株あたり純資産額よりもTOB価格が高いものであれば、これまでのMBO事案同様に、価格の合理性判断の問題になるのでしょうが、最近のMBO事案のなかで、このように一株あたり時価純資産価格よりも低いTOB価格が出現したものですから、はたしてこれって裁判所において「公正な価格」とはみなされないのではないか、と疑問を抱いた次第であります。今の時点で「TOB価格は適正である」と主張する根拠が説明できなければ、後日、価格決定申立事件で、より高い金額が「公正価格」と判定された際に、TOB価格に賛同した役員の注意義務違反・忠実義務違反が指摘される可能性は極めて高いのではないでしょうか。

そもそも会社法では、残余財産分配請求権は、自益権の根幹をなすものであり、いわば普通株式の基本的要素であります。にもかかわらず、非支配株主から支配株主に、MBOを境にして富の変動が生じるような結果になるのは、いったいどういった理屈で適法だとされるのでしょうかね?たとえば幻冬舎さんに対するTKHDさんの公開買付届出書(添付書類-株価算定書サマリー)をみましても、純粋にDCF+プレミアムによって株価算定したことだけがサマリーとして記載されているだけでして、一株当たりの純資産価格(2月15日の日経クイックニュースや、会計士さん方のブログなどを読みますと、おそらくDCF算定価格+プレミアムよりも10万円以上高い)を考慮した節もないようであります。一般株主が「少数株主」であるがゆえに被る損害は、「このまま上場企業でいてほしいけれども、多数株主が非公開化することに合意、ということなので、その結果を甘んじて受ける」ということでありまして、富の変動まで甘んじて受けなければならないものではないと思います。また、株式買取請求権の行使の場面であれば、「残るか残らないかは自己責任」ともいえそうですが、MBOは全部取得条項付種類株式の取得によって強制的に一般株主が排除される場面ですから、株主としては「事業継続を前提とした計算」を問題とすることなく、純粋に清算価値との経済的価値の比較が許容される場面かと思われます。私が幻冬舎の独立役員だったら、このあたりをどのように一般株主に説明してよいのか、ちょっと未だに思案にくれているところであります。また、それ以前の問題として、社内の取締役からどのような説明を受ければ、独立役員として満足できるのでしょうか?

もしこのあたり、専門家的意見ではなく、一般の株主にも、また「公正価格」を判断する裁判官にも理解できるような説得的理由をご存知の方がいらっしゃいましたら、どうかご教示いただければ幸いです。

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2010年12月 3日 (金)

インボイス社のMBOと公表直前の出来高の変動(こりゃすごい・・・泣)

西友さんの社外取締役の方へのインサイダー報道(日経新聞によりますと、話を聞いちゃった親族の方だけを立件方針とのこと)といい、昨日のインボイスさんのMBOインサイダー疑惑といい、やはり今週月曜日のエントリーで書きましたように、「M&Aに絡むインサイダーは防止困難」ということを裏付けるものであります。(もちろん、あくまでも「疑惑」を前提とした話であり、断定はできないわけでありますが・・・・・しかし、一般株主からみれば、不公平感はどうしてもぬぐえませんよね・・・・)

こういったMA絡みのインサイダーのケースでは、どんなにインサイダー防止体制を構築してみても、社内の求心力が喪失されている以上は、「悪気のない情報ばらまき」は不可避であります。(これは私の不正調査等の経験から・・・ということです)動機は前回のエントリーで述べたとおりですが、情報をばらまく人たちに私利私欲がないわけでして、その情報をたまたま受領した人たちが私利私欲をもっていれば(もはや第一次情報受領者とはいえない人達による)インサイダー取引は止めることができない状況になるものと思われます。私は、社内(しかも経営の中枢に近いところ)で事業再編に反対の人たちが多ければ多いほど、インサイダー取引の顕在化という形で「事業再編に向かって一枚岩ではないこと」が示されるのではないかと考えております。

インサイダー取引規制の在り方も曲がり角にきているのではないでしょうか?しかし昨日のインボイスさんの件は、ちょっとスゴイなぁ。。。

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2010年4月19日 (月)

正面から問われる吉本興業の非公開化手続き(やっぱり気になるなぁ)

会社法が施行されて4年が経過しようとしておりますが、いまだ議論が尽きないのが「全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社手続き」であります。4月16日金曜日の朝日新聞経済面の記事によりますと、吉本興業のTOB手続(1月の株主総会で上場廃止決定、2月上場廃止)について「違法性のある手続で株主の地位を一方的に奪われた」として、2名の元株主の方々が株主総会決議の無効確認(予備的には決議取消)を求めて大阪地裁に訴えを提起した、とのこと。

つまり、本件では特に吉本興業さんが債務超過に陥っていたわけではなく、「上場を廃止する」ために「全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化の手続き」を採用した、ということであります。本来、全部取得条項付種類株式を活用して反対株主を締め出すためには、正当な事業目的がないとできない、という立場から、本件吉本興業社の完全子会社化には正当な事業目的はない、ということで手続きの違法性を根拠に決議の無効もしくは取消を主張しておられるようであります。民法709条に基づく違法行為排除請求権を根拠として、総会開催を差し止めることはちょっと苦しかったものの、このたびは既に終了している株主総会における決議の無効もしくは取消を求めておられ、株主代理人でいらっしゃる阪口徳雄先生(株主オンブズマンで有名な大先生)のブログによりますと、「今回は、最後までやりぬく方針」とのこと。おそらく全部取得条項付種類株式を上場会社のMBO手法として活用することの違法性を最高裁まで争う、ということになるのではないかと思われます。

ここまで多くのMBO事案で活用されてきた手法ですから、多くの法律実務家の方々が「適法性に問題なし」と確信し、すでに法曹の関心はTOB価格に不満を持つ一般株主の方々による価格決定申立事件の手続き(たとえば個別株主通知の対抗力)や、価格決定のあり方に移っているようにも思えます。しかし、私の拙い理解では、略式株式交換など、ほかの手法によっても完全子会社手続きは可能でありますが、税制面での有利さを考慮して全部取得条項付種類株式を用いる方法が普及したものであり、とくにこの手法が適法性が高いという理由からではないと思われます。だからこそ、未だ議論が尽きないのではないかと。

また、昨年暮れに出版されました「Q&A会社法の実務論点20講」によりますと、全部取得条項付種類株式が導入された経緯につきまして、

会社法立案過程においては、100%減資を行う際に、株主全員の同意を必要とすることは硬直的にすぎ、柔軟な任意整理の実施の妨げとなっているとして、株主の多数決による株式全部の消却を可能とする方策の実現を求める実務上の要望が強かった。

法制審議会会社法部会の審議において、①株式会社は、正当な理由がある場合には、株主総会の特別決議により、株式の全部を有償または無償で取得することができるものとし、②その場合には、取得の対象となる株式であって、当該決議に反対したものは株式買取請求権を行使することができるものとする、との規程を設ける検討が進められた

その後の法制的な検討を経た結果、上記の構成ではなく、これを種類株式として構成すべきこととされ、立法化された

と(立案担当者らにより)述べられております。(同書3頁)つまり、正当な目的のある株式全部消却手続きであっても、少数株主排除時における財産権保護は保障されていたのであります。したがいまして、現行法上、(株式買取請求権の行使に類似した)価格決定申立の道が少数株主保護制度として存在しても全てが解決するわけではなく、この「正当な目的」のある場合にだけ全部取得条項付種類株式によるスキームが適法である、との解釈が成り立ちうるものと思われます。

では、この立法の経緯におきまして「正当な目的」ということが明記されることなく立法化されたことが、行使目的の無制限化をもたらした、と言えるのでしょうか?私見を申し上げるほどのこともできませんが、株主名簿の閲覧謄写請求権の行使が問題とされた日本ハウズイング社と原弘産社との仮処分高裁決定が、ひとつの参考となるのではないでしょうか。株主は、営業時間内であればいつでも株主名簿の閲覧・謄写の請求が可能でありますが、請求する株主が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいるような場合には、会社は閲覧・謄写を拒否できるとされております(会社法125条3項3号)。原弘産社は日本ハウズイング社との委任状争奪戦に利用する目的で、日本ハウズイング社に株主名簿の閲覧を要求したところ、原弘産社は日本ハウズイング社にとって競争関係にある会社だとして、閲覧謄写要求を拒否した事例であります。たしか高裁の決定では、たとえ競争関係にある会社であっても、株主権の行使の重大性に鑑みれば無制限に拒否できるというわけではなく、株主権行使のために正当な目的があれば、これを拒否することは濫用にあたる(したがって株主名簿の閲覧・謄写権行使は認められる)とされております(おおまかな記憶なので、もし間違いがございましたらご指摘ください。また、この高裁決定につきましては、葉玉先生のブログでも解説されておられたと記憶しております)。これは、会社法125条3項3号の拒否事由について制限的解釈を行ったとみるのか、そうではなく再抗弁としての拒否権濫用の抗弁が認められたにすぎないのか、という点では争いがあるものの、ともかく125条3項3号の文言上では無制限に拒否できるような書きぶりであるため、本件でも当該高裁決定と同様の発想で判断することも可能のようにも思えます。

多数の利害関係人にとって株主総会決議が取り消されたり、無効と確認されるような事態となりますと、非常に関係者間に混乱を生じさせることになるため、結論的には原告が勝訴するためにはかなり高いハードルがあるものと推測されますが、全部取得条項付種類株式を完全子会社化手続きに活用する場合の手続き自体の適法性を裁判所がどのように判断するのか、たいへん興味があるところでして、本当にとことん争っていただきたいと個人的には考えております。

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2009年9月 8日 (火)

サンスター社のMBO高裁決定(650円➔840円)

まだ新聞等では報じられておりませんが、三尊氏のコメントによりますとサンスター社のMBO(非公開化を伴うマネージメント・バイアウト)の株式価格決定申立事件におきまして、大阪高裁は(サンスター社が賛同した)TOB価格(650円)を大幅に上回る840円が妥当、とする決定を出したようであります。(詳しくは三尊さんのブログをご参照ください)先々週、O法律事務所のパートナーの先生(モリテックス事件のIDEC社側代理人をされていた方)とお話をしていたときに、この事件は「なかなか高裁が判断しない」とつぶやいておられたのですが、ずいぶんと慎重に審理がなされていたのでしょうね。最新の旬刊商事法務でも、レックス事件を題材として新進気鋭の関西の学者の方が論文を発表しておられましたが、本当に旬のテーマであり、金融・商事判例あたりでまた決定文が紹介されるのを楽しみにしております。

しかし「関西にはこういった裁判を引き受けてくれる弁護士がいない」という三尊さんの指摘は重く受け止める必要がありますね。(適合性原則違反など、消費者保護訴訟として証券事件を扱う先生方はけっこういらっしゃるとは思うのですが、ちょっとジャンルが違いますよね)関西の場合、こういった事件だと、会社側にはたとえばO事務所かK事務所が代理人として登場することが多いようですが、少数株主側(個人やファンドなど)で代理人として活躍する若い弁護士さんが登場する土壌がなさすぎますね。ということもありまして、今年も昨年に引き続き、大阪証券取引所さんと共催により適時開示ルールに関する弁護士のための研修会(弁護士会2階ホール)を開催することにいたしました。(これも若手ではなく、「おっさん」である私が企画したものですが・・・(^^;;  )資本市場を通じたガバナンスやファイナンスの法律問題に関心を持っていただける若い弁護士の方が、関西でも増えることに少しでもお役に立てれば・・・と思います。

9月 8, 2009 MBOルールの形成過程 | | コメント (9) | トラックバック (0)

2009年2月19日 (木)

MBO(株式非公開化)と監査役の意見陳述権

江東区の事件につきまして、昨日地裁判決(無期懲役)が出ましたが、もし裁判員制度が始まったら、どういった判決になっていたでしょうか?真剣に考えこんでしまいそうです。(以下本題です)

会社と監査役との対決の匂いがすると、どうしても本能的に反応してしまう癖がありますが、昨年12月26日のエントリーでも書かせていただきましたグローウェルHの子会社である寺島薬局さん(JASDAQ 2月下旬に上場廃止予定)が、3月2日をもって株式非公開化手続きをほぼ完了し、3月3日の臨時株主総会(A種種類株主総会)に変わる書面決議(会社法319条、320条、325条)をもって新たにお二人の監査役さんを選任されるそうであります。(会社のリリースはこちら

関係者の方々にご迷惑をおかけしてはいけませんので、何度も関係リリースを読みなおしたのでありますが、どうも理解できない点がございます。まずは、会社側より辞任勧告決議が出ておりましたK常勤監査役さんは、いったいどうなったのか?という点です。Kさんは、地元新聞社の記事では「法的手続きも辞さない」とおっしゃっておられたことからしても、辞任勧告決議には応じることができなかったようで、その後の会社側リリースでは、本年1月下旬の臨時株主総会において、当該常勤監査役さんの解任決議に関する議題が上程されたようですが、その結果については会社側からは報告されておりません。(もちろん、親会社であるグローウェルさんのリリースも探したんですけど、やっぱり掲載されていないようです)そのかわりに、新たに選任された取締役さんのご紹介リリースのなかで、「現在の監査役は以下の4名です」といった紹介がなされておりますが、そこにはすでにK常勤監査役さんのお名前は消えております。会社側は、K監査役に対する辞任勧告決議を行い、その結果についてはご報告いたします、と述べておられるにもかかわらず、なぜお名前が消えているのか・・・どうにも理解できないところであります。(誰が読んでも?と思われるのではないかと)

そして、その後上記4名の監査役さんのうち、弁護士資格を保有しておられる2名の社外監査役の方々が、1月末に「業務の在り方に関して、会社側と監査役会との間に重大な考え方の相違が存在するため」との理由で辞任をされ2月3日付けリリース)、その結果法定の監査役員数を満たさなくなったために、今回2名の監査役が選任される・・・という流れになるわけであります。(ちなみに、譲渡制限株式会社化するにもかかわらず、定款一部変更によって監査役の定数を4名から5名以内に広げているところもよく理解できないところであります)ここで、親会社と子会社とのご事情などを安易に推察することは控えますが、やはり信頼関係がうまく構築されていない状況にはあるようでして、親会社の経営の在り方を十分に新生「寺島薬局」さんに浸透させるべく、監査役の刷新を図ろうとされていることは間違いないようであります。

ところで、この1月30日に辞任をされた監査役の方々は、いわゆる「権利義務監査役」(後任の監査役さんが決まるまでは、たとえ辞任をしても、まだ監査役としての権利を有し、義務を負う:会社法346条1項)たる立場にありますので、会社法上では監査役の選任についての同意権と意見陳述権(会社法343条1項、同345条1項)を有しているでしょうし(監査役会の構成員として)、またご自身方が、どうして監査役を辞任されたのか、という点についての意見陳述権を有しておられる(会社法345条4項)と思われます。ところが、この新しい監査役さん方は、寺島薬局さんが完全譲渡制限株式会社に生まれ変わった当日に、書面決議をもって選任される・・・ということになりますので、株主総会は開催されないわけでして、そうしますと、監査役固有の意見を陳述する権利を行使できなくなってしまうわけですよね。(A種種類株主総会は、選解任種類株主総会ではなく、実質的には普通株主と同じを思われますので、たとえ大株主しか存在しないとしても、監査役には意見陳述権は存在しますよね)このあたりは、実質的には大株主の単独株式保有に近い・・・ということから、とくに監査役の意見陳述権は確保されなくてもいいのでしょうか?ただ、最近は神戸に本社を持つ某会社のMBO事例でも問題となりましたが、株式非公開化手続きの公正性などにも(元株主、もしくは1株以下の端株保有株主などの少数株主的立場にある方が)関心が高まっておりますので、こういった場面における監査役さんのご意見というのも、けっして無視しうるものではないように思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか。会社と委任関係にある監査役という職務は、現に株主である方々のためだけでなく、これまで株主だった方々への事後報告まできちんとやりぬくことも含めての「委任関係」「善管注意義務」ではないかと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

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2008年11月 8日 (土)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その3)

昨日は東証、大証共催によるコンプライアンス・フォーラム(大阪国際会議場)を拝聴させていただきました。個人的には非常に関心の高い話題で「てんこもり」の4時間でした。関西を代表する大手企業においても、インサイダー取引防止体制については、各々まったく別個の体制を採用していること、1000人規模の上場企業において、防止体制を組み入れることは人的、物的にもなかなか困難であり、リスクアプローチによって費用対効果を十分に検討したうえで構築されていることなど、シンポジウムは企業の現場におけるインサイダー取引防止体制構築の様子を垣間見ることができ、たいへん勉強になりました。また、SESC(証券取引等監視委員会)の事務局の方(出向されている裁判官の方)より、最近当ブログでも採りあげておりました某企業への金融庁の処分理由の要点などもご解説いただき、これも今後のブログでの議論の参考とさせていただきたいと思います。某企業の件は、珍しく金融庁単独での処分ではないか・・・と思っておりましたが、やはりSESCとの十分な審議のうえでの処分だったのですね。(注;誤解のないように申し上げますが、事務局の方は、ご解説のなかでは、「某企業」ということで処分対象企業名は伏せておられました)

これは個人的な要望にすぎませんが、インサイダー取引防止を「内部統制」の視点から考察する場合に、サンエーインターナショナル社の件をどう捉えるか?という点を議論いただければなァと思いました。社内で「これはインサイダーに該当するのではないか?」といった疑念が生じたので日本を代表する証券会社に相談したところ、「だいじょうぶですよ」との意見をもらったので、売買を行ったところ、個人的に課徴金処分を受けてしまった・・・という事案であります。私からすれば、「これってインサイダー規制に該当するのか?」なる疑念が生じた時点で、一般事業会社の防止体制としてはほぼ満点に近いのではないか、と思いますし、内部統制構築の限界事例に該当するのではないかと考えますが、いかがでしょうか。(それとも法律専門家や、証券取引所事前相談において意見をもらわないとまずいのでしょうか。取締役の善管注意義務違反の問題と、会社のレピュテーションリスクの問題を分けて検討する必要はあるのかもしれませんが)

さて、昨日の開示情報では気づきませんでしたが、すでに2回にわたり当ブログでとりあげておりました株式会社シャルレ(旧 テン・アローズ)のMBOの話題でありますが、昨日以下のようなリリースが出されておりました。(今朝の日経新聞関西版で知りました)

当社株式に対する公開買付けに関する意見の再表明について

公開買付者からの「公開買付期間の延長及び公開買付開始公告等の記載内容の訂正に関するお知らせ」について

MBO価格決定に至る意思形成過程における透明性、公正性に問題が残り、社外取締役の行動には利益相反行為があったという合理的疑念を払拭できない、との独立第三者委員会の判断にもとづき、シャルレ社の(特別利害関係人たる創業家一族取締役を除く)取締役会はMBO価格算定の根拠となる「利益計画」の検証を再度行うことを決定したようであります。なお、検証は新たに外部第三者委員を選任したうえで、委員会が行うものとし、その委員会の結果に基づいて、新たに取締役会が意見を表明するとのこと。

なお、取締役会の本決定を踏まえて、TOBによる買付者側からも、TOB応募期間の再延長(11月28日まで)が発表されたようです。従前のエントリーには、いくつかのコメントを頂戴しましたが、私自身の意見としましては、企業再編を柔軟に、また機動的に進めることと、少数株主の利益保護をはかることとの調和を求める必要性があることは当然だと認識しておりますが、本件につきましては、事後規制的な発想で、その調和点を求めるためのひとつのモデルケースになるのではないか・・・と考えております。

なお、最近の記事より、その1とその2のエントリーはご覧いただけます。

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2008年11月 4日 (火)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップ(その2)

一昨日、ご紹介したシャルレ社(旧テン・アローズ社)のMBO(マネジメント・バイアウト)手続きに関する社外調査委員会報告書の件でありますが、これを自分の興味本位でご紹介するとなると、おそらく当ブログをお読みの皆様方には、マニアックすぎて最後まで読んでいただけないのではないか?といった不安にかられてきました。(いままでのMBO関連のエントリーについても、そんな雰囲気が漂っています・・・笑)ということで、こういった調査報告書を読んだうえでの感想だけをとどめておくことにいたします。といいますか、「MBOってなんやねん?」という方には、ほとんどご理解いただけないかもしれません。(すいません)

そもそも取締役の利益相反行為(利益相反取引ではありません)というものを、法律上どのように規制していくべきか、という点についてはこれまであまり議論されてこなかったところではないでしょうか。(いや、実は私が不勉強だったから、そのように感じているだけかもしれませんが・・・)取締役が株主のために忠実に職務を執行することが期待できないケースの典型例ということになるわけでありますが、こういった行為を規制するためには、たとえば事前規制によってルールを強制適用するとか、経済産業省のガイドラインや、コンプライアンス(レピュテーショナル・リスクの顕在化)の問題としてとらえて、いわゆるソフトローの発想で規制するといったことも選択肢の一つかもしれません。

ただ、これが一番適切なのかなぁ・・・と思いますのは、利益相反取引を事後的に規制する手法、つまり違法な利益相反取引があったとして、関与した取締役の善管注意義務違反を主張することで損害賠償請求訴訟を提起したり、TOBの結果次第では残った株主が強制排除されるであろう企業再編手続きにおいて株式買取請求権を行使(その後の価格決定申立)することで、その適正性(適法性?)を担保していくことかもしれません。たとえば、先日のレックスHD社の価格決定申立事件高裁判決におきましては、取締役の利益相反状態における行動につきまして、不当に株主の利益が侵害されたおそれがあったとして、裁判所はこの事実を適正価格算定の基準期間選定の判断に反映させています。そして、このシャルレ社の件におきましても、もし社外取締役の方々の判断に不適切な面があるとするならば、最終的には株式非公開化によって強制的に排除されてしまう少数株主の方々による価格決定申立や、取締役に対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求によって、MBO時における取締役の適正な行動をエンフォースする、ということが「規制方法としての最適解」ではないかと思います。

そのように考えますと、MBO時における対象会社の取締役の「外形的な」行為規範を定立して、認定された具体的な事実をこれにあてはめ、「とりあえず、外形的には株主の利益を忠実に守る行動がとられた可能性があったか、なかったか」を判断する、そしてかりに対象企業の取締役らに株主の利益に忠実に業務を執行していない可能性が認められた場合には、(立証責任の転換というほど厳密なものではないかもしれませんが)経営判断として忠実に職務を執行したことの主張を取締役側に展開させるだけの余地を残す・・・といった調査報告書の書き方についても納得のいくところであります。(たしか、日興コーディアル社の不正会計に関する特別調査委員会の手法も、こういったものであったと記憶しております)

本件については、「社外取締役のロードマップ」なるタイトルをつけておりますが、とくに社外取締役に限るわけではなく、MBO手続きにおいて特別に利害関係を有していない社内取締役の行動についても同様に論じることができるように思います。ただ、MBOにおいては「構造的な利益相反状況」があるといいましても、すかいらーく社のように創業者が非公開化後の運営会社のわずか3%しか株式を保有しない場合と、シャルレ社のように、ほぼ半分の株式を創業家が保有する場合とでは、TOB価格への関心という点からみても、ずいぶんと状況が変わってくるものと思いますので、そのあたりは取締役の行為規範の定立にも影響が出てこないのだろうか、という問題や、独立社外委員会が買付者の提示価格についてフェアな立場から意見を述べるケースと今回のシャルレの社外取締役による判断のケース(最終的な会社意思を社外取締役のみで表明しなければならない立場)は別途考慮する必要があるのではないか、という問題など、職務の忠実性に合理的な判断が疑われる外形的状況についても、個別具体的に検討する必要があるのではないかと思われます。とくに、今回は(結果的に)委員会設置会社の社外取締役のみで、TOBに関する対象会社側の意思表明を行わなければならなかった事案でありますので、これが一般の監査役会設置会社における社外取締役の方にも同様に要求される行為規範だとすれば、「かなり厳しいのではないかな」といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

MBOにおける少数株主保護の問題につきましては、価格算定に専門機関に委託したり、株主と取締役との情報の共有(開示)を促進させたり、独立第三者委員会を設けるなど、手続面において「公正性」を確保しようとしてきましたが、それが本当に構造的な利益相反状況を解消することにとって十分なものかどうかはわからないところであります。そこで、MBOの有用性を肯定しつつも、その適正手続の面から公正性を担保する方法をさらに進めたものとして、(いろいろとご異論も出るとは思いますが)おそらく今回の調査報告書は意義のあるものではないかと考えている次第であります。M&Aに詳しい実務家の方々が、今回の件を発展的にご議論されることを切に願っております。

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2008年11月 2日 (日)

MBOにおける「構造的利益相反状況」に挑む社外取締役のロードマップとは?

本日(11月1日)は第一土曜日ということで、毎月恒例の社外取締役ネットワークの関西勉強会に出席してまいりました。ほとんどの社外取締役の方は、「パナソニック、三洋電機買収へ」なる話題で盛り上がっておりましたが、私と、もうおひとりの方と、たったふたりだけですが、部屋の隅っこのほうで盛り上がっていたのが10月31日夜にリリースされたシャルレ(大証二部)の「当社株式に対する公開買い付けに関する賛同意見表明に至るまでの手続き経過等の調査に関する第三者委員会調査結果の報告について」であります。(それにしても長いタイトルですね)あまり新聞やニュースでも採りあげられておりませんが、いや、これ本当におもしろいですよ。月末の適時開示は、第2四半期決算の関係や不動産関連企業の倒産情報などでものすごい開示情報の数でありましたが、そんななかで、夜遅くなって開示されたものですから、あまり注目されていないのかもしれません。ちなみに、このシャルレ社は、ほんの1か月ほど前までは「テン・アローズ社」なる商号でして、昨年までは女子バレーボールの元日本代表の方が代表者に就任しておられ、創業家の動議によって解任されたことでご記憶の方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。取締役は創業家出身の2名と社外取締役3名(委員会設置会社)の合計5名であります。(したがって本件では監査役さんは登場しません)

さて、このシャルレ社でありますが、9月19日に創業家とモルガン・スタンレー系PEファンドによりまして、MBO(マネージメント・バイアウト)による非公開化を行うことが公表されまして、シャルレ社としましては、この株式買取会社(特例有限会社)によるTOBについて、賛同の意思を同日表明いたしました。(当社株式に対する公開買付けに関する賛同意思表明のお知らせ-なお、このお知らせのなかに、商号を変更した理由も記載されております)シャルレ社株式の買い付け期間は11月5日までとされ(30営業日)、平穏無事にTOBが進むものと予想されていたのでありますが、なんと10月16日ころから「本件公開買い付けの株価算定手続きに違法ないし不公正な点があった」旨の内部通報が相当数なされたということであります。そこでシャルレ社としましては、内部通報がなされた場合の社内規約に基づいて、事実関係の調査を開始することとし、社外の弁護士らによる調査委員会を開設し、その調査委員会によってまとめられた報告書が、上記のリリース内容であります。(なお、この調査開始決定により、買付者は買付期間の延長を決定しておりまして、5日→13日に変更されているようです)しかし、内部通報制度というものは、こういったMBOの場面においても、大きな力を発揮してしまうものであるというのは驚きです。

そしてこの調査書の内容は必読です。(最近、このフレーズが多いような・・・(^^; )必読といいましても、M&Aに関心のある方、とりわけ先日のレックスホールディングス価格決定申立事件の東京高裁判決(「金融・商事判例」の最新号に掲載されています)や、経済産業省のMBO指針などをお読みになった方でないと興味が湧かないのかもしれませんが、たとえMBOにはご興味をおもちでなくても、企業買収時における株式の価格算定に興味のある方にはぜひともお読みいただければ・・・と思いますし(EYやKPMGも登場)、会社法における「取締役の善管注意義務」「社外役員の独立性」等に関心のある方にも、ぜひお考えいただきたい論点が詰まっております。ともかく、シャルレ社の取締役さん方がMBOを検討する当初から、TOBへ賛同するまでの社内の経過事実について、ここまで赤裸々に綴られた「事実報告」はこれまでなかったはずですし、この公表された事実と、シャルレの適時開示情報とを読み比べますと、「ずいぶんと印象がちがうやないの??」と(何の利害関係もない私ですら)ドキドキしてまいります。報告書を作成した法律事務所も、報告書に出てくる意見書作成(予定だった)法律事務所も、みなさまおなじみの関西の名門事務所ですし、とりあえずは、こういった目の覚めるような報告書を作成された先生方には敬意を表したいと思います。(以前、当ブログで日経の三宅伸吾さんが言われたように、やっぱり弁護士は「胆力」ですよね。)

今日は序論ということで、また休み明けにでも、この報告書の内容について、若干の感想などを述べてみたいと思っております。

11月 2, 2008 MBOルールの形成過程 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2007年7月19日 (木)

経産省によるMBO指針の報告書案

今朝の日経一面にも出ておりましたが、経済産業省の企業価値研究会は、MBO(マネジメント・バイアウト)に関するTOBルールについて、できるだけ価格の不透明さを解消するための指針に関する報告案をまとめ、これを公表することになりそうであります。(とりあえず、日経ニュースはこちら です。)最近のMBO事例を企業側からみた場合、いろいろなリスクが隠れているようにも思えますが、基本的には法務、会計、税務に関する相当深い知識と経験がないと、そのスキームのリスクを低減することは困難ではなかろうか・・・というのが実感であります。ただ、MBOそのものの規制のあり方を考えておくことは、今後非公開化を検討する場合にも有益であろうかと思われます。

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 私自身は、MBOの研究家でもない単なる素人ではございますが、ここのところ、いろいろな雑誌などでMBOが内在的に持っております問題点などが採り上げられており、そういった問題点をどう克服するか・・・といった視点にかなり関心がございますので、こういった表を作成して、事前規制や事後規制の区別、法による強制力の有無による区別などを基準として、考えるきっかけとしたいと思っております。何を考えるのか、といいますと、基本的には有益なMBO、つまり少数株主の権利を保護しつつ、シナジー効果のあるMBOを完遂させることに実効性のある規制方法を模索する・・・という基準であります。表に示しております◎はある程度実効性が期待できる、×はあまり期待できない、△がよくわからない・・・という形で、私自身の意見を書いておりますが、有識者の方がご覧になれば、おそらくツッコミドコロ満載ではないかと思います。

情報開示といいますのは、TOBに応じる株主にとりまして、その価格が適正であるかどうかを判断するに足る情報という意味であります。役員の行動規範といいますのは、本来的に「取締役の利益相反行為」性を内在しているMBOの場面におきまして、対象企業の取締役がどのように振舞えば利益相反行為ではないと言えるのか、という善管注意義務違反の有無の観点からの規制であります。そもそも善管注意義務違反行為があったかどうか、ということは司法判断だけでなく、機関投資家による役員評価等ガバナンスの問題にもつながるわけでありますが、MBOの場面におきましては、上場廃止を伴うために、事後の一般株主による評価による規制という観点はなくなってしまうことになります。公正性確保の仕組み、といいますのは、企業価値判断のための独立第三者委員会の設置や、社外役員の構成など、MBO手続きに関する論点を指すものであります。そして、企業の説明義務といいますのは、MBO価格の公正性に一定の疑いが生じるおそれのある場合に、その補完として、企業が一般株主に対して、公正であることの説明義務を課すことを想定した仕組みであります。この表に基づきまして、今後経産相指針や、東証ルールなど、もしくは司法判断などが出てきた際の「あるべきMBO実現のための実効性」について考えてみたいと思っております。(なお、本来ならばもっと複雑なマトリックスになるはずでありましょうが、ブログアップ用にかなり簡素化してみました。)

7月 19, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年5月13日 (日)

株価算定評価書の開示について(2)

またまたM&A会計士ブログの澤村先生がMBO(マネジメント・バイアウト)における株式算定評価書に関するエントリーをお書きになっていらっしゃるので、早速拝読させていただきました。(すみません、私は他人様のブログの性格まで変えるほどの傲慢さは持ち合わせておりませんので、どうか「パンケーキの作り方」とか「おいしいレストラン特集」とか、そういったエントリーもお書きになってください。楽しみにしております。>澤村先生。実は私もささやかな趣味であります歴史モノ、「大和古寺巡礼の旅」とか「蘇我入鹿の遺跡のなぞ」みたいなエントリーを(当初は)織り交ぜたいと思っていたわけでありますが、おそらくどなたもそんなエントリーを平日の朝から読みたいとも思われませんでしょうし、もうここまできてしまいますと、ちょっと無理っぽいです 笑)

澤村先生のエントリーを拝読し、また私自身、MBOにおいて公開買付者(経営者の関与する会社)が少数株主を含めた対象企業側に提示する金額として、どうも気になりますのがDCF算定を基礎とした株価>純資産方式による株価の場合に、なぜDCFによる株価が優先されるんだろうか・・・ということであります。公開企業の株価というのは、本質価値と市場価値というのがあって、理想的な資本政策からしますと、この本質価値と市場価値をバランスよく高めていくこと、というのが基本的な考え方ではなかったかと思います。そして、この本質価値の重要な構成要素として、現在の企業の保有する純資産があると。(たとえば元産業再生機構代表者の富山和彦さんのご解説などは、こういったお話ではなかったでしょうか。)MBOがリリースされて、その後に競合的なTOBが現れなかったからといって、経営者の関与する企業のTOB価格が合理的な価格を提示したことの理由にならないのは、こういった本質価値と市場価値とのバランスが短時間には第三者からは判明しないからではないでしょうか。もちろん、一株あたりの純資産額よりもDCF法を算定の基礎とした株価のほうが大きい場合であれば、それなりに将来収益の価値も少数株主に配分されるのではないか・・・ということも理解しうるのでありますが、一株あたりの純資産額よりもDCF法による株価が低く、そのDCF法を基準とした株価をもとにTOB価格が提示された場合、なぜ清算を前提とした価格よりも少数株主は低い価格に甘んじなければならないのか、という点が、私にはよくわかりません。もし純資産部分の清算ということが(継続企業としての株式価値判断としては)おかしいのであれば、再調達時価純資産方式によるものでも結構かと存じます。コールオプションを放棄したわけでもない(つまり、長期保有の自由を自ら放棄したわけでない)一般株主が、なにゆえ最低限度の本質価値(再調達時価純資産)の部分を無視して、市場価値だけを基準とした算定方式に従わなければならないのか、(つまりコストアプローチは採用されずに、インカムアプローチとマーケットアプローチのみによる株価算定に左右されなければならないのか)ものすごく不思議であります。ただ、現実に昨年から今年にかけてのMBO事例のうち、いくつかは、この一株あたり純資産>TOB価格といった図式が成り立つものであります。単純に考えますと、この純資産の余剰のところは、すべて支配株主が少数株主の犠牲のもとで独り占めできることになって、明らかに不公平ではないでしょうか。

私は前も申し上げましたとおり、こういった企業価値判断の専門家でもありませんので、一般企業の監査役、という視点からの疑問を呈しているわけでありますが、もし自社のオーナー社長がMBOを決意したとして、こういったTOB価格を意見表明に関する取締役会で審議するとしたら「とんでもないですよ、社長、あんた自分ひとりで利益をもってっちゃって、どうすんですか??」と噛み付くんじゃないでしょうか。そういったバリュエーションの素人でも、監査役である以上は最終的には株主への説明責任が発生するわけですから、なぜ、一株あたりの純資産額(一株あたりの再調達時価純資産額)よりも低い株価によるTOBへの賛同が、少数株主にとっても公平といえるのか、合理的な、しかもわかりやすい説明ができないとおかしいのではないでしょうか。常勤であればまだしも、社外監査役としましては、明確な説明ができなければヤバイのではないかと思ってしまいます。(まあ、説明が不要となるように、略式事業再編の手法がとれるのであれば幸いかもしれませんが。)本日(5月12日)、テーオーシーのMBOが不成立となった旨のリリースがありましたが、まぁこのところ1000円前後の市場価格で推移しておりましたので、不成立は当然といえば当然かもしれません。しかしながら、やっぱりダヴィンチ側よりコストアプローチがなにゆえ考慮されていないのか、恣意的な株価算定と言わざるをえないのではないか、との疑問が提示されておりましたし、私自身としましても、このあたりはとても知りたいところであります。(ちなみに、オオタニファンドTO側の株価算定書によりますと、継続企業の価値算定にとっては、清算価値を基礎とする手法は適切でないことと、コントロールプレミアムが含まれていることにより妥当な算定ができないことが理由とされているようですが、それは競合するTOBが存在して、どの株主にも、できるだけ高い値段がつけられるインセンティブが存在する場合には妥当しても、支配株主と少数株主との利害が相反するMBOの場面にも妥当する理由なのでしょうか。アメリカでも長い歴史をもつMBOの実務でありますので、こういった場合でも合理的な説明方法があるのではないかとも思いますし、ぜひ今後の参考のためにも、どなたかにお聞かせ願えれば・・・と希望しております。

5月 13, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2007年5月11日 (金)

株価算定評価書の開示について

M&Aフィナンシャル・アドバイザリー・サービスの著者でもいらっしゃる公認会計士の澤村八大先生のブログにおきまして、MBO等における第三者による株式算定書の開示制度について、感想をお書きになっておられます。ほかのM&A関連のブログでも少し話題になったりしておりますが、「第三者による株価算定評価書」といったものは、実際にバリュエーションに携わる方々にとっても、たいへん興味のあるところのようですね。こういったものは、あまり「教え合いっこ」はなされないようであります。(株価算定の方法といったものは、これだけ人材が流動化した時代においても、企業秘密のようなところがあるのでしょうか?)

MBOネタにつきましては、当ブログにお越しの皆様方には、おそらく書き手の能力に問題があるようでして、あんまり人気の高い話題ではございませんけれども、もうすこしおつきあいください。(^^;;、昨年の12月13日に証券取引法の企業情報開示に関する内閣府令等(証券取引法施行令の一部を改正する政令および発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令)が改正されまして、MBO等(経営者や親会社が関与するTOBにより、株式非公開化を図る制度)において公開買付けを行おうとする者は、買付届出書の添付書類として第三者作成にかかる株価算定書が要求されることとなりました。したがいまして、MBOにおける経営者関与会社が、TOB価格を決定する際に判断資料とした株価評価書がEDINETでも閲覧できるようになったわけであります。(どういった会社のMBO手続きのものが閲覧可能であるか・・・というところは澤村先生のブログに記載されております)

ただし澤村先生も指摘されておられるように、公表される株価算定評価書は、公開買付届出書を提出した者、つまりTOBをかける立場の方だけでありまして、MBOの際にもっとも知りたいところの「意見表明者が参考とした第三者作成にかかる株価算定書」については公表されません。(おそらく、これは競合TOBの場合の株主への情報開示を念頭におかれているものと思われます。ただ昨年12月に東証もMBOの際の情報開示に関する要請書、「合併等の組織再編、公開買付け、MBO等の開示の充実に関する要請について」と題する書面をリリースしておりますが、そのなかでは、MBOの際における対象企業側の第三者算定評価書も東証への提出資料としては要請されておりますが、公衆縦覧に供されるべき資料には含まれておりません)もし、「賛同のお知らせ」のように、MBO対象会社のほうも、意見表明書に第三者による株価算定書の添付が義務付けられたら、なかなか情報開示も充実するのではないでしょうか。とりわけ、澤村先生が感想でお書きになっているように「評価書の中身は、各社さまざまで、それぞれの個性が出ている」といったものでしたら、買付側の第三者と、対象企業の第三者がまったく別個の算定基準を用いているにもかかわらず、どうして対象企業が買付け側の価格に賛同するに至ったのか、そのあたりの経緯を詳細に説明しなければならないと思われます。(また、もしほとんど同じような内容でしたら、逆に公正性が強く疑われる結果になってしまうかもしれませんよね)

たとえば、5月7日に代表者の100%出資会社による公開買付けによってMBOを行うことがリリースされましたP社の場合、Nコーディアル社が買付け者側の第三者機関として対象会社の株価算定書を作成しておられますが、N社はフィナンシャルアドバイザーたる地位にあって、この案件の成功報酬をいただく立場にあるようです。また、算定根拠はこれまでの開示資料と、対象企業の事業計画書によるものであって、特別なDDはされないそうです。つまりフェアネスオピニオンではないということですよね。そして、基本は市場株価算定法によるものとして、そこに類似会社比較法、DCF法を参考にするといった手法とのことで、直前の株価をもとに評価する、というもののようです。正直申し上げて、素人ながら、なんでこれが公正な価格算定のための資料になるのか、大いに疑問であります。公表しなければならない情報が公表されずに企業側に一方的に存在している状況があって、しかも市場株価を基準に算定する(つまり一般株主に市場株価での売却を強要する)となると、これはけっこう問題になりそうな雰囲気が漂っていませんかね?(もちろん、適時開示すべき情報で、公表していないものはない、ということであればいいわけですが。でも、MBOをリリースした後に、経営者に競合してTOBを仕掛けるファンドなどが現れないように、企業に有利な情報を公表しないインセンティブというのも働くような気もします・・・)しかも、この評価書を算定した機関が、買付け届出者の代理人として交渉したり、成功報酬を受ける、ということになりますと、交渉成立への大いなるインセンティブが働くわけですから、買付者(=対象企業)が納得できないような評価内容をそもそも記述するはずがないと思われますが、いかがでしょうか。

5月 11, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年4月24日 (火)

MBOルールの形成過程を考える

(一部訂正に関する追記あります)

レックスHDの事例を引用しながらMBO(マネージメント・バイ・アウト)と少数株主保護についていろいろと考えていた時期から、ずいぶんと時間が経過してしまいました。最近の企業会計、企業法務の専門誌を読んでおりましても、このMBOと少数株主保護(株主排除?)に関連するレベルの高い論稿が増えたように思います。学者の先生方も、大手の法律事務所を中心とした法曹実務家の方々も、(また、以前日経ビジネスオンラインの記事でご紹介しましたとおり、裁判所におきましても)来るべきMBOの適法性(MBOに関与する取締役の善管注意義務、忠実義務違反など。なお価格の公正性を含めるとすれば、株式買取請求事件もここに入るでしょう)を争う法廷闘争に備えて、さまざまな議論が展開されているようであります。商事法務に3回にわたって連載されておりました「フリーズアウトに関するデラウエア州法上の問題点」(N弁護士)や、ビジネス法務6月号に掲載されているT准教授とK弁護士との対談(前編)、同6月号の大手NT法律事務所の方々による「M&Aを有利に進める株主対応」などなど、どれをとりましてもたいへん興味深い内容でありまして、会社法的な考え方、訴訟法的な考え方、比較法的な考え方など、いろいろと実務に参考となるところが満載であります。ただ、考え方はいろいろありますが、基本的なところでは、「効率的なMBOは企業社会では有益であるが、少数株主の利益は最大限確保されなければならない。一般投資家にとって上場企業の退場場面においても安心できる制度でなければ、市場に参加する投資家の数は増えないのであって、投資家保護、市場の活性化のためにも、退場企業のルールを合理的に決めることは重要。とりわけMBOに不可避的に発生する対象企業の取締役(支配株主)の利益相反問題を規制するべき合理的なルールの形成が必要。」といったところではほぼコンセンサスは得られているのではないでしょうか。

このブログでM&A関連のエントリーをアップするときには、いつも「素人考え」というフレーズで逃げておりますが、今回も素人的発想による疑問でありますから、そのあたりを「値引き」してお読みいただければ幸いです。といいますのも、非常に優秀でいらっしゃる若手、中堅のM&A専門家の方々の雑誌の論文を拝読しておりまして、よくわからないのが「アメリカの実務や、日本の会社法制度、裁判所制度を背景としたMBOルールがどうあるべきか」といった議論は進展しているように見受けられるのでありますが、「それじゃ、誰がその合理的なMBOルールを形成するのか?」といったところは、議論されているのだろうか・・・・・、というところであります。(ホント、これまったくの素人的疑問でありますから、もしすでに議論の集積がありましたらご教示いただきたいところであります)たとえば、わかりやすい例ですと、ある上場企業がMBOの対象企業となり、某ファンドが設立するSPCによってTOBをかける。この上場企業の経営陣は、TOBに賛同する旨の意見表明を行い、ファンドとともにSPCの持分を取得する。TOBによって90%以上の株式をSPCが取得した場合には、合併比率(交換比率)を調整のうえ、略式合併(略式株式交換)によって、少数株主を排除(キャッシュアウト)する、といったスキームがあるとします。もしかりに、この上場企業の経営陣による利益相反問題が顕在化しないままに、客観的にみてTOB価格が支配株主以外の少数株主にとって低廉である場合、その違法性(不公正)を正すべき合理的なルールはどこから生まれてくるのでしょうか?一般的にみてTOBに応じることなく、事後の簡易合併手続き(簡易株式交換手続きでも同様)における株式買取請求権の行使による是正が考えられるわけでありますが、しかし株式買取請求紛争の実態を考えますと、カネボウ株主の方のブログを拝見しておりましても、鑑定費用に莫大な費用がかかるところでありますし、(私も読ませていただき、ビックリいたしました)とうてい一般の株主が予納できるようなものではありません。また、たとえ費用をかけて公正な価格算定が可能でありましても、それは個々の株主の満足とはなっても、今後のあるべきMBOの姿を形成するようなルールは生まれてこないのではないでしょうか?(ここが最大の問題点だと考えるのでありますが、もし間違っておりましたらご意見をいただきたいところであります。よく、少数株主保護といっても、いっぽうで有益なMBOを阻害してはならない、その調整機能として反対株主には株式買取請求権を行使する機会があるではないか・・・と言われておりますが、果たして本当に、この株式買取請求権の存在が、そういった調整機能として有効なのかどうかは疑問ではないでしょうか。)また、会社法上日本ではクラスアクションのような制度はありませんので、個々の株主が全体のスキームを問題としながら、TOBから始まるMBOの不公正さを議論する場面というのはかなり限定的であることが現実だと思われます。

たとえば、先日の東京鋼鐵の合併事例において、いちごアセットマネジメント社が、少数株主として登場し、委任状争奪競争で一定の効果を残したわけでありますが、MBOの場面におきましても、そういったファンドが少数株主として登場することも考えられるところであります。そういったファンドがリスクを背負いながら、TOB後の合併比率の不合理さを根拠として簡易合併等の取消、決議無効を争う、といったことも考えられるところであります。しかしながら、ファンドにおきましても、日本における法廷闘争には時間と費用がかかるところでありますし、人様から預かった資金を長期間寝かせておくことはできないのが通常であります。そう考えますと、議決権行使の場面においては活躍が期待されるファンド型少数株主でありましても、ことMBOと司法判断、といった場面となりますと有効に機能しないのではないか、とも思料され、果たしてMBOの合理的なルール(取締役の利益相反行為に関する判断)は、せっかく裁判官の方々が、てぐすね引いて待っておられたとしましても、司法の場面では形成されないのではないでしょうか。また、ダイレクトにそういった取締役の責任を追及するための第三者責任追及訴訟(会社法上もしくは民法上の不法行為責任として)を提起することも考えられるでしょうが、おそらく勝訴可能性や、費用負担の面ではなんら変わるところはないと思います。敵対的買収防衛ルールにおいては、その導入および発動の場面において司法判断が担保されるがゆえに、「パワーゲーム」の手段となりえますが、MBOの場面においては、担保となる司法判断が形成される土壌がないように思えます。また、MBOの場面における「あるべき取締役の振舞い方」つまり、善管注意義務をどう尽くせばよいのか・・・といった議論もさまざまなところで行われておりますが、これは最終的には株主代表訴訟を提起されるリスクによって担保されているわけでありまして、果たしてMBOで顕在化すべき「利益相反問題」はそういった訴訟のリスクによって担保されているといえるのでしょうか?(これは、どんなに情報開示面を強調した、司法によるプロセス判断重視を検討しても、訴訟提起へのインセンティブ問題が前提にある以上は同様ではないでしょうか)

こういったところからしますと、あるべきMBOの姿を追求できるための合理的なルールというものは、果たして司法判断のなかから形成されていくのかどうかははなはだ疑問でありまして、「やったもん勝ち」の世界ではなかろうか・・・と一抹の不安を覚える次第であります。もちろん、東証ルールのような自主規制によって「事前規制」をはかるべきなのかもしれませんが、すでにいろいろなMBO事例をみましても、取締役の利益相反問題への対処方法は、個々の事例によって様々であり、どのように事前ルールを詳細に規定しましても、情報の偏在化に由来する力の差というものは埋まらない気がします。結局のところ、取締役の善管注意義務が尽くされることを担保できるのは、事後に公正な価格と公正な手続きが審査され、また立証責任が転換されるべきルールが形成されることによって、MBO手続きがひっくり返るリスクを背負うことに期待されねばならないのではないか、と思いますし、「法の支配」をM&Aの世界にも貫徹するのであれば、どうしても司法によるルール形成の可能性を考えなければいけないのではないでしょうか。いま、少数株主のサイドから考えられることといえば、今後のファンド資本主義の更なる台頭、日本の株式市場が国際的に活性化することが予想されるなかで、こういったルールをきちんと形成することにもファンドが寄与することが、将来的な投資コストの低減につながる、といったことを認識していただくことと、裁判所に向けては、このままだと肝っ玉のすわった少数株主なら株式買取請求で満足できる余地はあるけれども、「やったもん勝ち」の世界でビビッてしまって、強圧的なTOBで満足せざるをえない株主は救済されず、ひいては市場への参加者は限定的に終わってしまうこと、それは最終的には一般国民にとって法による支配が及ばない領域を作ってしまうことにつながることの是非を問い、できるだけ鑑定費用や訴訟負担をかけずに効率的なMBOか否かを判定できる裁判手続の実現(もしくは工夫。たとえば鑑定費用をかけずに、手続きの公正さだけを争うことで、立証責任のバランスをはかり、相対的な決議無効を争えるような形として、その後は当事者間における和解的解決で決着をつけるとか。)をお願いすることが必要ではないか、と思います。なんだか最後のほうは泥臭い話になってしまいましたが、これがMBOと法律とのありのままの姿ではないでしょうか。

(追記 記述の誤り「簡易合併」→「略式合併」、「簡易株式交換」→「略式株式交換」を訂正いたしました。失礼いたしました)

4月 24, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (0) | トラックバック (0)